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小池都知事の「国際金融都市No.1」構想に3つの課題  「働いたら損をする」仕組みが生活保護制度を歪めている
http://www.asyura2.com/16/senkyo216/msg/241.html
投稿者 軽毛 日時 2016 年 11 月 18 日 14:47:46: pa/Xvdnb8K3Zc jHmW0Q
 

安東泰志の真・金融立国論
【第75回】 2016年11月18日 安東泰志 [ニューホライズン キャピタル 取締役会長兼社長]
小池都知事の「国際金融都市No.1」構想に3つの課題
11月11日、小池都知事は、定例記者会見において、「国際金融都市・東京の実現に向けた検討体制について」と題して、かねてからの公約であった、「東京をアジアナンバー1の国際金融都市としての地位を取り戻す」構想について、その概要を開示した。筆者は東京都顧問として小池知事を支え、本構想の下準備をしてきた立場にある。そこで本稿では、既に東京都として開示している資料の範囲内で、筆者なりの問題意識を述べることとする。ただし、本稿は、あくまでも筆者の個人的見解であり、東京都としての公式見解ではないことをあらかじめお断りしておく。

小池知事が会見で述べた
重要なメッセージ


小池都知事は、かねてからの公約であった、「東京をアジアナンバー1の国際金融都市としての地位を取り戻す」構想について、その概要を開示した
 本論に入る前に、11日の小池都知事の記者会見内容についておさらいしておきたい。詳細に報じたメディアは少ないが、極めて重要なメッセージが含まれているからだ。

 小池知事は、冒頭で、「東京がアジア・ナンバーワンの国際金融都市の地位を取り戻すことは、私が目指す<スマートシティ>の最重要パーツ。このための取り組みに、いよいよ着手する」と、公約の実現に向けて強い意欲を示した。その上で、以下のように続けた。

「金融産業の振興は、ロンドン・ニューヨークの例を待つまでもなく、都市の魅力や競争力を維持する上でも、また、2020年までにGDP600兆円を目指すとしている政府の成長戦略を実現する上でも避けて通れない課題であると思う」

 そして、日本の金融業のGDP比はわずか5%程度であり、12%(出所:TheCityUK)となっている英国に大きく見劣りすること、そして、その比率を5%から10%に引き上げることができるならば、単純計算でGDPを約30兆円内外押し上げることになると述べた。実際、自民党は2012年の総合政策集で、「金融業のGDP比率を10%台に押し上げる」としており、小池都知事の主張は、安倍政権のGDP600兆円構想を後押しするものになろう。

 小池知事は、さらに、「金融の活性化については、これまで何度も手がけられてきたが、必ずしも十分な効果が上がっているとは言い難いと考えている」とした。

 英国の独立系シンクタンク、Z/Yenグループのグローバル金融センター指数でみると、東京は、ロンドン・ニューヨークは言うに及ばず、香港・シンガポールにも大きく水をあけられて総合順位は5位に甘んじているのが現状だ。

既成事実や既得権益を
乗り越える方が大事

 小池都知事はその理由について、「東京市場には『見えない参入障壁』が山のようにあるからだと思う。もちろん、英語の問題もあるが、それ以上に、世界標準とかけ離れた、いわば『ガラパゴス化』した業界慣行・規制・税制がたくさん残っていることが、世界の金融機関を遠ざけているのではないか」と述べ、

 それに対する方針として、「東京を国際金融市場にするためには、何よりも既成事実や既得権益を乗り越えることが重要だ。例えば、利益相反の防止やコーポレートガバナンスの改善等により、投資家本位の市場を実現したい」と述べた上で、次のような核心を突くメッセージを発した。

「小池都政は、豊洲問題やオリパラ問題の時と同様、既成事実や既得権益に囚われることなく、都民ファーストで合理的に判断していく。国際金融都市は、税金を投入してビルを建てることに限ったものではなく、既成事実や既得権益を乗り越えることの方が、はるかに大事なことだと思っている」

 さらに、前日米国の大統領選挙に勝利したトランプ氏の政策を引き合いに出し、同氏が連邦法人税を大幅に引き下げること、相続税を見直すこと、金融規制を見直すことなどを示唆していることから、東京もそれを意識して政策立案をする必要があると訴えた上で、成長戦略の核としてこれがラストチャンスという危機感を持ち、構造的・本質的な課題にまで踏み込んで議論を深め、政府の協力も得て進めていく決意を表明した。

 そして、具体的には、2つの会議体を立ち上げるとした。

 1つめは「国際金融都市・東京のあり方懇談会」。この懇談会では、金融の活性化や海外の金融系企業が日本に進出するに当たって障害となる課題を洗い出した上で、その解決に向けた税制やインセンティブ、市場活性化等の抜本的対策について、知事と金融の専門家や企業経営者等の間で1年程度をかけて忌憚のない議論を行う。日本人だけでなく、海外の方々にも意見を伺っていく。懇談会は公開で実施する。この懇談会の議論を踏まえて最終的には東京都が政策を立案することになる。

 2つめは、「海外金融系企業の誘致促進等に関する検討会」。検討会では、海外の資産運用業やフィンテックなどの企業誘致、手続ワンストップ支援、特区を活用した生活環境支援などについて、都、金融庁及び民間事業者等の実務担当者の間で、年内に結論を出し、来年度から着手が可能な当面の対応を検討する。

東京を国際金融都市から遠ざけていた
原因と解決策を見出す

「東京をアジアナンバー1の国際金融都市にする」という政策は、実は、今までこれを主導する担当省庁がはっきりしなかった。金融庁は主に規制や監督を担当するが、東京を国際金融都市にするという政策に直接関与する立場にあるかと言えば微妙なところだ。経済産業省は、産業振興を担当するものの、金融産業は担当外という意識が強い。したがって、東京都が都の産業振興の一環として政策立案をし、政府や関係省庁の助力を要請する、というのが今考えられる最善の策なのではないだろうか。

 今回発足する2つの会議体のうち、「国際金融都市・東京のあり方懇談会」は、まさに、その観点から組成された諮問機関であり、東京を国際金融都市の地位から遠ざけていた根本的原因を東京都が主体となって探り、解決策を見出そうとするものだ。

 この懇談会が取り組むべき課題は多岐にわたるが、海外の業者や新規参入業者から一般的に言われている論点を筆者なりに整理すると、大きく分けて次の3点である。

 第1に、国際金融都市としての国際標準から外れている業界慣行・規制・税制を見直すことが必要だ。

 例えば、資産運用業者の「計理基準」は日本独特の計算方式で、そのバックオフィスのシステムは日本語しか使えないのが現状であり、外資系・独立系の運用会社や信託業者などにとっては、大きな参入障壁になっている。

 また、世界的な金融機関が世界3極を連続的に結ぶ、業務単位の「グローバル体制」を敷く中、東京市場だけが当局から拠点単位の、しかも日本語対応を求められるとすれば、外資にとっては大きな負担になることは明らかだ。早急な対応を求めたい。

 更に、競合する都市との間の法人税や所得税・相続税等の格差を是正しなければならない。香港とシンガポールの法人実効税率は16.5〜17%程度。ロンドンは20%。これに対して東京は31%だ。高度人材に関する所得税に至ってはもっと差がつくし、香港やシンガポールの相続税はゼロである。トランプ次期大統領は連邦法人税を15%にまで下げ、相続税をも見直すとしている。内外の金融機関・運用機関や高度人材を東京に集積させる上で、税が大きな障害になっていることは火を見るより明らかだ。

 こうした問題は、もちろん東京都だけで解決できるものではなく、業界単位の努力が必要なものや、国の協力が必要なものもある。特に税の問題は、東京都が法人事業税や法人都民税を減免するだけでは不十分なのだが、これには財務省が抵抗を示すかもしれない。しかし、東京の市場参加者がこのまま減少し、その地位が低下し続けていることは誰にとっても良いことではないし、結果的に国全体としての税収減を招くことは明らかなのだから、関係者の協力は必ず得られると信じている。小池都知事も、極めてハイレベルな国家戦略として、政府と協議していく用意があるだろう。

利益相反取引については
世界標準で規制を行うべき

 第2に、世界の投資家に優しい市場を構築することだ。

 特に、日本の金融機関や運用業者が、世界の投資家に対する受託者責任(fiduciary duty)を十全に果たすよう、金融庁と連携していくことが大事だ。

 特に利益相反取引については世界標準で規制を行うべきだろう。

 利益相反取引にも様々なものがあるが、例えば日本独特の典型的・構造的な利益相反としては、信託銀行を舞台にしたものがある。信託銀行が年金基金等機関投資家から受託をしながら、系列の運用子会社に指図をして双方から報酬を得つつ、ファンド・アドミニストレーションやカストディ業務などバックオフィス業務も実質的に運用子会社と同一のシステムを使っている、などというのが日本の現状だ。

 これは委託者の利益に沿っていないばかりでなく、それがゆえに、BNY Mellon、State Streetなど世界的な信託業者が排除されているのではないだろうか。機関投資家が運用機関を選定し、バックオフィス業務を信託機能が担う仕組みにすることで、利益相反の排除と運用業務の国際化が進められる。ARFP(Asian Regional Funds Passport)により投資信託を内外無差別で販売するためにも当該利益相反構造の見直しは必要なのではないだろうか。

 また、銀行が影響力を行使するPEやVCの存在も問題だ。日本では、一定の条件下で銀行ないし銀行の運営するPE・VCが一般事業会社の株式保有制限を超えて株式を取得することが許容されているほか、実質的に銀行が影響力を持つPE・VCが一般事業会社の株式を保有することなどにより、当該PE・VCにおいて債権保全を旨とする銀行の都合と、投資家に対する忠実義務が相反し、深刻な利益相反状況を引き起こしていると考えられ、当該市場の健全な発展を妨げている可能性がある。加えて、いわゆる「官民ファンド」と称する政府系のPEが市場機能を乱していることも日本独特の問題であろう。

 さらに、次期米国大統領のトランプ氏と共和党は、銀行のトレーディング業務等に制限をかけるドッド・フランク法の緩和を主張する反面、銀証分離(銀行と証券の兼営の禁止)を定めていたグラス・スティーガル法の復活には賛成の立場とされている。英国でも商業銀行業務と投資銀行業務の間にリングフェンス(業務隔壁)を設ける動きがあり、日本の商業銀行が証券業務や資産運用業務を実質的に兼営していることをどう考えるかという論点も、商業銀行の健全性確保や消費者との利益相反の排除という観点から、海外からの参加者等から改めて提起される可能は否定できない。

 金融機関を離れて言えば、日本の事業会社にはコーポレートガバナンス・コードの遵守を求めなければならない。東証上場企業が世界の投資家の方を向いていない経営をしていると東京市場の地位が低下することは明らかだ。東証は、上場企業がコーポレートガバナンス・コードを遵守しないようなケースに対しては、厳しく対応しなければならない。

 その結果として、多様な運用業者やその関連業者が東京市場に参入し、多様な商品が投資家本位で提供される市場でなければ東京市場の発展はないと考える。

フィンテックと多様な資産運用業者を
東京に集積させたい

 第3に、市場に新しい参加者を迎え入れる努力を加速することだ。

 まず、フィンテックを東京に集積させたい。そのためには、フィンテック企業によるイノベーションの妨げになっている事項を洗い出す必要がある。

 例えば、Sony+NTTドコモのFeliCaチップが参入障壁となっている。世界的に電子マネーでFeliCaを使用しているのは日本とOctopusカードのみだ。衆知のように、Apple Payも日本進出に際して、FeliCa対応を余儀なくされた。東京オリンピックに向けてType A&Bに切り替えるべきだろう。小池都知事の公約であった日本版グラミン金融(小口無担保融資)も、今や、フィンテックのP2Pレンディング事業の拡大で解決できる可能性がある。すなわち、いわゆるunbanked(銀行取引ができない)の人々に対して資金調達手段を提供することは東京都の政策としても重要だ。同様に、高止まりしている郷里送金の手数料をフィンテックの活用で低廉化できれば、東京の人材多様化にも繋がるのではないか。

 また、日本に多様な資産運用業者を集積させるためには、欧米で一般的になっている「新興運用者育成プログラム」(EMP)を迅速に導入する必要がある。現在は、先に述べたような日本独特の利益相反構造の中で、大手金融機関の影響下にある資産運用業者が目立つ市場になっているが、世界から多種多様な資産運用業者を誘致すると同時に、日本でも独立系の資産運用業者を育成する努力をすることによってこそ、バランスのよい国際化が可能になるのだ。

 こうした抜本的な対策に加え、東京都としては、海外の金融機関や資産運用業者等がワンストップで開業相談を受けられる拠点を充実させるほか、都市戦略として国際会議の招致などにも取り組んでいく必要がある。

 もちろん、こうした金融機関に勤める人々の生活のしやすさも大事だ。高度人材に対するビザ発給要件の緩和、インターナショナルスクールの開設など生活面での環境整備は、迅速に進めて行くことになる。


「東京版金融ビッグバン」を
宣言できるかどうか

 以上に述べた論点は、冒頭に述べたように、あくまでも筆者の個人的見解に過ぎない。また、筆者は、上記で潜在的な問題点を指摘した日本の多くの金融機関とは、業務上、これまで極めて良好な関係を保ってきており、今後ともそれを継続したいと願っている。

 しかし、今回の懇談会のメンバー(表1)は、全銀協・日証協・日本投資顧問業協会などの伝統的な業界団体の長のみならず、多くの独立系運用業者や、外国人も加わる形で構成されており、まさに異次元の議論になる可能性を秘めているため、本稿では、あえて今後論点になり得る点に触れたものだ。


http://diamond.jp/articles/-/108451
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 ただ、すべての物事には、当然賛否両論があるのだから、なるべく多くの、かつ、立場が異なる市場参加者、それもトップの方々から平等かつ謙虚に意見を拝聴することが大事だと考える。また、各論点については、業者の意見だけでなく、投資家の立場から、日本が世界に誇る巨大投資家であるGPIFやゆうちょ銀行の運用責任者等の意見も聞きながら議論を進めることが重要なポイントになるだろう。

 したがって、懇談会での議論は、結論を出すというよりは、「東京を国際金融都市にするのを阻んでいる要因とその解決策」という共通テーマについて、各々の参加者の立場の違いを尊重し、場合によっては両論を併記する形で纏めて行くことになると考える。現在予定されているスケジュールは、来年5月に懇談会としての中間答申をまとめ、それを基に小池知事が東京都としての独自の政策試案を作成・公表し、その試案について更に懇談会及び関係各省庁と議論した上で、東京都として来年11月までに最終的な政策立案をし、必要となる予算措置を取りたいと考えている。

 その時、政府と東京都が手を携えて、いわば「東京版金融ビッグバン」を宣言できるかどうか。道は険しいが、東京都のみならず日本の将来のためにも、今回はやり遂げなければならないだろう。
http://diamond.jp/articles/-/108451


 

生活保護のリアル〜私たちの明日は? みわよしこ
【第71回】 2016年11月18日 みわよしこ [フリーランス・ライター]
「働いたら損をする」仕組みが生活保護制度を歪めている
生活保護の原則は「本人が持てる能力その他は活用することを要件として、最低生活に足りない費用は穴埋めする」ということだ。働ける状態ならば働くことを求められる。では翻って、生活保護は受給者の就労をより容易にしていると言えるのだろうか。

生活保護制度が抱える
「働いたら損」の仕組み


生活保護の原則は、働ける状態ならば働くこと。では、生活保護の仕組みは本当に受給者に就労を促しているだろうか。そこには大きな制度的欠落が見える
 今回は、生活保護と「働くこと」の関係について、そもそも制度が働きやすいものになっているかどうかからチェックしてみよう。

 生活保護法の第4条には「保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる」とある。「生活保護は怠け者にまでお金をあげる制度」「生活保護があるから甘えて働かなくなる」という意見は根強いし、そう見られても仕方のない実態は一部・少数といえども存在する。しかし最初から、「働ける人は働く」が前提とされている上、就労に向けての助言・指導も行われる。「税金で安心して怠けていられる制度」というわけではない。

 では、生活保護で暮らしている人々が就労し始めたら、暮らし向きはどうなるのだろうか。生活保護で暮らしている人が就労収入を得た場合、そのとき手元に残る収入を比べてみよう。なお就労収入からは、予め社会保険料・所得税・労働組合費・通勤費の実費交通費が差し引かれる。

 単身者の場合、1万5999円までは「就労収入−必要経費=手元に残る収入」となるのだが、それ以上の収入を得ると「収入認定」が行われ、4000円多く稼ぐごとに400円だけ手取りが増える計算となっている。稼げば稼ぐほど、就労によって得た収入のうち自分のものにならない分(収入認定される分)は大きくなってゆき、たとえば10万円の就労収入を得た場合には7万6400円、15万円の就労収入を得た場合には12万1600円にも達する。

 一見、「それだけ稼げるなら生活保護から脱却すればいいじゃないか。簡単に脱却できそうじゃないか」ということになりそうだが、高額の医療費を必要とする家族がいるケースなど、これだけの就労収入があっても生活保護から脱却できない場合はある。

 では、家族が同居し、力を合わせて働けば、働ける人数が増えた分だけ、暮らし向きは楽になるのだろうか。「2人で働いても1人分しか収入が増えない」ということはないものの、働ける世帯員が増えて稼げば稼ぐほど、その世帯は「稼いだら損」になっていく。

 これで「就労促進」と言っても……というのが私の正直な感慨だが、読者の皆さんはどうだろうか。なお、この「手元に残る収入」は、生活保護用語では「基礎控除」と呼ばれ、就労したことに対するインセンティブではない。「就労に伴って増える費用の分くらいは穴埋めします」という趣旨だ。

働いても最低生活しか送れない
生活保護基準は「ガラスの天井」

 このように、就労意欲を阻害するかのような仕組みとなっている理由の1つは、生活保護が保障するのは、あくまでも「健康で文化的な最低限度の生活」、すなわち最低生活であるからだ。生活保護のもとで就労して収入を得ることで、最低生活以上の生活が可能になることは、原則的に「まずい」とされているのである。このため、生活保護基準を超える収入は収入認定され、1万5000円を超えると、ほとんどが自分のものにならない。

 収入認定の場面で手元に残るいくばくかの金額も、働いたことに対するインセンティブというわけではない。この金額(基礎控除)は、勤労に伴う必要経費として認められているだけなのだ。

 むろん、生活保護で「1億円のタワーマンションが買えた」「新品の高級外車が買えた」となると、「何のための生活保護?」ということにもなるだろう。しかし、「働いたら損」という状況を放置したまま「就労促進を」と言っている現状は、あまりにも問題がありすぎるのではないだろうか。しかも、現状の生活保護基準は、もはや「健康で文化的な最低限度の生活」を保障できているわけではない。

 とにもかくにも、現状の生活保護制度が、収入面で就労促進的になっていないことは間違いない。この状況を変えるためには、何が必要だろうか。

 まずは、「生活保護なんだから、働いても『最低限度の生活』でいてくれないと許せない」、言いかえれば「生活保護を受ける以上は、生活保護なりの生活しか許さない」、もっと端的に言えば「差別させてくれなきゃ困る」という思いを、世間が捨てること。

 さらに、「生活保護で普通の基本的な生活ができる、働いたらもっと可能性が増える」という制度が良いと考え、そのことを制度の形に表わしていくこと。これらが、私には、難しいけれども最も確実な解決方法に見える。

「就労モチベーション下がりまくり」
働きたい若者がボヤく矛盾

 生活保護の収入認定の現状、「働いても生活保護以上の生活は許さない」という仕組み、結果として「働いたら損」となっている状況は、実際に就労の意味を疑わせ、あるいは必要なのに生活保護から無理に脱却する状況をつくっている。

 シングルマザーである病気の母親のケアをしながら定時制高校に通い、アルバイトで1ヵ月あたり8万円の収入を得ている10代女性は、「就労意欲下がりまくりですよ」とボヤく。彼女が8万円稼いでも、一家が使える現金は2万1600円しか増えない。

 また連載第23回で紹介したアサコさん一家は、夫妻と高校生〜就学前の5児を合わせた一家7名が生活保護で暮らしていたが、高校生となった長女がアルバイト収入を得るようになり、収入認定され、ほとんどが我がものにならないことに激しい不満を抱いたため、一家で生活保護を辞退することとなった。

 生活保護制度は、生活保護基準という「最低限度」を保障する仕組みである。保護が必要かどうか、どれだけ必要であるかは、収入と生活保護基準の比較によって判断される(資産はないことが前提)。しかし、生活保護基準は、生活保護のもとでの生活の「最高限度」ともなってしまう。どうしてもこのような制度設計でなくてはならないのか、このことが弊害を生み出していないかどうかは、「自分がもしも生活保護で暮らすことになったら」という前提で、「我がこと」として考えるべきではないだろうか。

 一方で解消しなくてはならないのは、生活保護基準が現在あまりにも低すぎることだ。そもそも生活保護基準が低すぎるため、就労によるメリットに若干の手当をしたところで「働いたら損」となる状況は変わらない。また、連動して定められる最低賃金も低く抑えられ、「生活保護の方がマシ」という低賃金・不安定雇用労働者の悲鳴を生み出している。

 生活保護のもとでは、就労による本人のメリットがあまりにも少ない。このことは、不正受給の背景にもなっている。

 やや古いが、総務省が2014年に公表した『生活保護に関する実態調査 結果報告書』に、2008年年度〜2012年度の不正受給に関する詳細な分析がある。

「働いたら損」の気持ちが
不正受給の温床の1つに

 総務省の『生活保護に関する実態調査 結果報告書』のPDFファイルで63ページの表「不正の内容別不正受給件数の推移」を見ると、件数での第1位と第2位は「稼働収入の無申告」「稼働収入の過少申告」で、いずれの年も全体の50〜65%を占めている。なお「パチンコで勝ったのに収入申告していない」は、「その他」に含まれているものと考えられるが、表にある6種類の区分のいずれにも当てはまらない「その他」は、全部合わせて10〜15%程度である。

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「制度に問題があるから不正受給は仕方がない」と言う気はない。しかし、就労意欲がある人もない人も、良心的な人もそうでない人も、ありとあらゆる個人の違いを「生活保護だから」に押し込めて制度を設計すること・運用することの非人間性が、不正受給も含めて様々な問題を生んでいる。そのように考えるべきではないだろうか。

 では、何らかの事情で生活保護を必要とするようになり、働ける範囲で働こうと決意した人々には、どのような就労が可能なのだろうか。

 まず、生活保護を必要とする状況に陥る人は、小学校中途からの不登校・経済的理由による進学の困難・障害・病気・高齢など、様々なハンディキャップを背負っていることが多い。このため、生活保護を一気に脱却できるほどの就労は、特に子どものいる世帯では困難なことが多い。単身者で「可能な場合がある」という感じだ。

 それでも本人が努力し、周囲の支援もあり、就労が可能になったとしよう。就労収入に対して「収入認定」があり、ひとことで言えば「生活保護よりマシな暮らしは許さない」「働いたら損」となっていることは冒頭で述べた。

 この上に、就労することそのものに対しても、様々なハンデが設けられている。もちろん、当初は「就労阻害」という意図で設けられたものではなかったのだろう。しかし現在の運用を『生活保護手帳別冊問答集 2016』で見てみると、「これで……就労促進?」という記述が並ぶ。

 たとえば、「問8-18 収入を得るための必要経費の判断」という項目には、外交員の手土産・商店の歳暮・保育児送迎のための交通費の3つが挙げられており、これらを必要経費と認めてよいかどうかに関する解説がある。

 外交員の手土産・商店の歳暮については、「成績をあげ、収入の増加をもたらす手段として」の必要性も考えられるが、限度や効果の測定が困難なため、必要経費として「一般的には認められない」となっている。

 生命保険外交員の卓上カレンダーについては、「必要と認められるものであり、他の外交員との均衡を失しないものである」場合に限り、必要最低限度の実費を認めてよい、ということだ。ここでいう「均衡」とは、いったい何なのだろうか。

 保育児の送迎については、「必要」「真にやむを得ない事情」があれば、最小限度の実費を認めてよいということだ。「残業で遅くなったのでタクシーで」は認められない、ということである。

 この他、単身赴任や出稼ぎの場合の帰省に対しては、「就労に伴う必要経費」とは認められるものの、「真に必要な最小限度の回数にとどめるべきである」とされている。子どもに対して親であること、親に対して子であることを、生活保護が制約しているかのようだ。

 なお、11月も後半に差しかかろうとする現在は忘年会シーズンの直前だが、忘年会の費用は基礎控除に含まれるとされているため、必要経費とは認められない。生活保護のもとで働いている場合、15万円の収入があっても2万8000円しか認められない「基礎控除」からのやりくりで、最低でも5000円程度の忘年会費を捻出せざるを得ない。就労すればしたで、最低限度の「おつきあい」に苦労することになる。

これでは生活保護から抜け出せない
あまりにも「最低限度」が多すぎる


本連載の著者・みわよしこさんの書籍「生活保護リアル」(日本評論社)が好評発売中
 以上、生活保護のもとで就労した場合、どのような就労が可能か、どのような生活が可能になるかを、急ぎ足で紹介した。

 最低限度以下の生活から、就労へとジャンプするために必要な何かを用意することは、どのような生活保護世帯にとっても容易なことではないだろう。それでも就労へのハードルを越え、就労を開始したら、就労に関しても「最低限度」であることを求められる。

 これでは、就労による生活保護からの脱却を、わざわざ困難にしているようなものではないだろうか。もしかすると、2013年以降の生活保護制度に関する動きは、「働いても、どういう努力をしても、生活保護のままでいるしかない」という人々と、生涯にわたって生活保護と無縁な人々と、その中間で「生活保護の世界に一生押し込まれていたくなかったら、せいぜいあがけ」と言われているも同然の人々をつくるために、あったのかもしれないが。

 次回は引き続き、生活保護と就労自立に関する問題を、20歳前後の若者に対する支援を例に出し、紹介する予定だ。
http://diamond.jp/articles/-/108452
 

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コメント
 
1. 新共産主義クラブ[2554] kFaLpI5ZjuWLYINOg4mDdQ 2016年11月18日 14:55:24 : NJuSIz9XAo : xYaD09yJ@IA[4]
 
 先進国が先進国に投資して利益を出せる、金融の時代は終わっている。
 
 先進国に投資する金融は、私企業として成り立たない。
 
 先進国でも金融は必要であり重要であり続けるが、警察や消防のように、公共部門に移行するしかない。
 

2. 2016年11月18日 15:01:48 : nJF6kGWndY : n7GottskVWw[3281]

>2013年以降の生活保護制度に関する動きは、「働いても、どういう努力をしても、生活保護のままでいるしかない」という人々と、生涯にわたって生活保護と無縁な人々と、その中間で「生活保護の世界に一生押し込まれていたくなかったら、せいぜいあがけ」と言われているも同然の人々をつくるために、あった

底辺にいると思考が歪んでくるという好例だな


現実の一般大衆は、底辺の人間に対して、基本的に関心はない

たまに報道されると気の毒だと思ったり、甘えていると思ったりする程度で

少し考えているヒトでも、餓死や犯罪が増えると困るし、

自分が底辺になる可能性も0ではないから

憲法で生存権が保障されているから救済は賛成だが

苦労して税金を払って助けてやっている自分より、楽で良い生活をされるのは不愉快だというくらいだろう

経済成長して、皆が豊かになれば自然に解決するが、

そうでない間は、どう制度を変えようと

不満を持つ人間は消えず、緊張関係が続くのは避けられないということだ


3. 2016年11月18日 15:32:32 : Q82AFi3rQM : Taieh4XiAN4[557]
そんなことより、豊洲に移転だとサ。

東京都の魚は食わない(菜食だし)ま、足踏み入れないけどナ。
(あんな異常に人間ウジャウジャで忙しい地震危険地帯行くか)。l


4. 2016年11月18日 20:20:25 : 2LiKY8ftgY : PTfAaIrqs6s[118]
No.1 あくまで見掛け 飾るため

5. 2016年11月18日 21:32:44 : XYOQrIlviY : XcGYRph1Mjw[26]
世界は金融資本主義から脱却しようとしている、3周位遅れて金融立国か。
日本は首相も馬鹿なら首都の知事も世界の動向に疎いということを世界に知らしめようとしているのか。

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