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“ジャイアン”トランプに対して 日本は“スネ夫”であるべきか トランプも止められない米国「雇用の喪失と富の二極化」の未来
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投稿者 軽毛 日時 2017 年 2 月 17 日 01:27:23: pa/Xvdnb8K3Zc jHmW0Q
 

 

2017年2月16日 加藤 出 [東短リサーチ代表取締役社長]
“ジャイアン”トランプに対して
日本は“スネ夫”であるべきか

ドラえもんがいない現実世界において、ジャイアンとそっくりな態度を示すトランプ米大統領と、日本はどう付き合うべきか Photo:アフロ
 ドナルド・トランプ米大統領は2月6日、彼の政策への支持率が低いという世論調査を基にした報道記事は、全て「偽ニュースだ」とツイッターでわめいた。相変わらず「俺さまに従わないやつはぶっ飛ばす」という態度をまき散らしている。

 こうしたガキ大将のような幼児的権威主義は、テレビアニメ「ドラえもん」に出てくるジャイアンとそっくりだ。普通は大人になるとそうした傾向は弱まるものだが、彼はそのまま70代に到達した。

 この“ジャイアン”と日本は付き合っていかなければならない。ドラえもんがそばにいれば、のび太でもジャイアンと対峙できるが、現実にはいない。となると、われわれは身を守るためにスネ夫のようにジャイアンへ貢ぎ続けなければならないのだろうか。

 外交はいつも正論で済むものではないから、戦略的に“スネ夫”になることも確かに時には必要だ。とはいえ、最近の日本の論調は、いかにしてトランプさまの逆鱗に触れないようにやっていくか、あるいはいかにしてご機嫌を取っていくか、という視点に過度に傾斜しているように思われる。

 特に1月31日にトランプ氏が、中国、日本、ドイツは為替レートを減価させて好き勝手にやっていると発言してからは、日本はスネ夫的に擦り寄っていくしか選択の道がないかのような空気が流れている。しかし、トランプ氏のあの発言は米国ではさほど大きな扱いになっていない。米ワシントン駐在の知人は、「日本の新聞を見たら、1面トップの扱いだったのでびっくりした」と話していた。

 問題の発言があったのは、トランプ氏と大手製薬会社トップとの面談の中だったが、会合の主眼は製薬業界に対する薬価の引き下げと国内生産回帰の要求であって、海外当局の為替政策の話題はついでに出てきた話である。

 トランプ氏が、海外当局はマネーサプライと通貨減価を利用していると話した部分は、日本では日本銀行の金融緩和策が攻撃されたと解釈されて大騒ぎとなった。だが、米紙の「ウォール・ストリート・ジャーナル」や「ニューヨーク・タイムズ」「ワシントン・ポスト」はその部分を報じていない。

 もちろん、国内生産を重視する政策は必ずドル高抑制のスタンスを招く。日銀の緩和策をトランプ氏が正面から批判し始める可能性は十分ある。しかし、1月31日の軽いジャブ程度のコメントに日本側がここまで大騒ぎしているのを知れば、「日本はくみしやすい相手だ」と、彼はほくそ笑むだろう。

 対照的な対応を見せているのが欧州だ。ドイツは米政権幹部から、より明確に通貨安誘導を非難されたが、アンゲラ・メルケル独首相は歯牙にもかけず、一蹴した。

 2月3日、マルタで開催された欧州連合(EU)サミットでは、先日トランプ氏と面談したテリーザ・メイ英首相が米国との橋渡し役を申し出たが、他のEU幹部はあっさり拒絶。リトアニアの大統領は「橋渡しは必要ない。米国とはツイッターで連絡が取れる」と、米国との特別な関係をアピールするメイ氏に強烈な皮肉を放った。

 EUの首脳たちは、トランプ氏は欧州の基本的価値観を攻撃しており、米国はもはやロシアや過激派組織「イスラム国」(IS)と並ぶ脅威だと見なし始めている。

 日本はそこまで敵意を見せる必要はないと思うが、東アジアの安定にとって日本は極めて大事な同盟国であることなどを主張しつつ、環太平洋の国々と連携を深めて米国と接していくことが重要だろう。

(東短リサーチ代表取締役社長 加藤 出)
http://diamond.jp/articles/-/117586

 


 

トランプ大統領にも止められない、
アメリカの「雇用の喪失」と「富の二極化」の先にある未来

[橘玲の世界投資見聞録]

 このコラムでも何度か紹介したが、クリントン政権で労働長官を務めたリベラル派の経済学者ロバート・ライシュは、1991年に世界的ベストセラーとなった『ザ・ワーク・オブ・ネーションズ』で、21世紀のアメリカ人の仕事はクリエイティブクラスとマックジョブに二極化すると予言した。それから25年後、ドナルド・トランプが大統領に選出される前年に出版された『最後の資本主義』は、ライシュの勝利宣言であると同時に、敗北宣言でもある。

 勝利したのは経済学者としてのライシュで、敗北したのはリベラリストとしてのライシュだ。原著のタイトルは『Saving Capitalism』となっているが、そのうえでライシュは、「資本主義を救い出さなくてはならない」と述べる。これはどういう意味なのか、その主張を検討してみよう。

ブルーワーカーの仕事がなくなり、サービス業の賃金が下がった

『ザ・ワーク・オブ・ネーションズ』でライシュは、より正確には、将来のアメリカ人の仕事は(1)ルーティン・プロダクション(定型的生産)サービス、(2)インパースン(対人)サービス、(3)シンボリック・アナリティック(シンボル分析的)サービスに分かれると述べた。『最後の資本主義』では、四半世紀を過ぎた時点で自らの予言と現実が比較されている。

 ルーティン・プロダクション・サービスは工場労働などの「繰り返しの単純作業」で伝統的なブルーカラーの仕事だが、部下の仕事を繰り返し監視する仕事や、標準的な業務手順を遵守させる管理業務、定期的なデータ入力やデータ検索などのバックオフィスの仕事も含まれる。

 1990年当時、こうした仕事に従事するアメリカ人は被雇用者全体の25%程度だったが、テクノロジーの進歩とグローバル化(新興国の低賃金労働者への置き換え)によってその割合は着実に減少していくとライシュは予測した。

 2014年時点で当時と同じ方法で調べたところ、ルーティン・プロダクション・サービスに従事するアメリカ人の割合は20%以下まで減っているばかりか、物価調整後の賃金の中央値は15%も減少していた。

 インパースン・サービスは小売店の販売員、ホテルやレストランの従業員、介護施設の職員、不動産仲介業者、保育園のスタッフ、在宅医療従事者、フライトアテンダント、理学療法士、警備員など、「人間的な接触が欠かせないために人の手によってなされる仕事」だ。

 1990年時点でこうした仕事に就いているアメリカ人は約30%で、ライシュはその数が増加する一方、賃金は下がると予想した。かつてルーティン・プロダクション・サービスで働いていたひとたち(主にブルーワーカー)がインパースン・サービスでしか仕事を得られなくなり労働力の供給が増えることに加え、ATMやコンピュータ制御のレジ、自動洗車機、自動販売機、自動給油機など省力化のテクノロジーとも競争することになるからだ。

 2014年時点で「対人サービス」の仕事は米国全体の半分ちかくを占め、新たに創出された雇用の大半がこの職業区分に属していたが、その賃金の中央値は物価調整後の数字で1990年の水準を下回っていた。ライシュが予想できなかったのはテクノロジーの急速な進歩で、Amazonはドローンによる配達を計画し、Googleの自動運転車は450万人にのぼるタクシーやバス、トラックの運転手、清掃業従業員の雇用に深刻な脅威を与えている。

 シンボリック・アナリティック・サービスは「問題解決や問題発見、データ、言語、音声、映像表現などのシンボルを操作する戦略的媒体」にかかわる仕事で、エンジニア、投資銀行家、法律家、経営コンサルタント、システムアナリスト、広告・マーケティングの専門家、ジャーナリストや映画製作者、大学教授などが属する。これらの仕事の本質は、「数学的アルゴリズム、法的論議、金融技法、科学の法則、強力な言葉やフレーズ、視覚パターン、心理学的洞察をはじめ、思考パズルを解くためのテクニックなどのさまざまな分析ツールや創造のためのツールを用いて抽象的なシンボルを再構築」することだとライシュはいう。これを要約すれば、「知的でクリエイティブな仕事」のことだ。

 1990年、ライシュはシンボル分析の専門家が米国の被雇用者の20%を占めており、その割合も彼らの賃金も増えつづけると予想した。

 現実に起きたのは、ライシュの予想をはるかに上回る富の集中と格差の拡大だった。いまやアメリカでは、最富裕の上位400人が所有する富が下位50%の富の合計を上回り、上位1%が米国の個人資産の42%を所有している。

 下位50%の家計が所有する富の割合は1989年時点では3%だったが、2014年時点では1%まで下落した。1978年、上位0.01%の家計は総じて平均的家庭の220倍裕福だったが、それが2012年には1120倍に達している。物価調整後の数字で比較すると、フルタイムで働くひとびとの週当たり賃金の中央値は2000年以降下落しており、時給の平均も40年前より低くなった。

 このように、ライシュの予言はすべて的中した。これが「経済学者としての勝利宣言」だ。

アメリカでは高級住宅地と貧困地区で公教育格差がある

 待ち構える暗鬱な未来をそのまま放置することはできないものの、リベラリストであるライシュは「メキシコとの国境に壁をつくれ」とか「不法移民を追い返せ」とはいわない。――ただしライシュは、NAFTA=北米自由貿易協定やTPP=環太平洋戦略的経済連携協定には批判的だ。自由貿易は比較優位を交換するWIN-WINの関係ではなく、グローバル企業だけが得をし、貧しいひとたちが一方的に損をする理不尽な取引だからだという。

『ザ・ワーク・オブ・ネーションズ』でライシュが提示した処方箋は、大企業や高所得者から税を徴収し、それを原資に公教育を立て直すことだ。グローバル化とテクノロジーの進歩でブルーワーカーの仕事がなくなり、サービス業の賃金が下がるのるなら、先進国の労働者に残された道は「シンボリック・アナリティック・サービス」すなわちクリエイティブクラスの仲間入りをすることだけだからだ。

 だがライシュの期待に反して、アメリカでは低所得の子どもと高所得の子どもの学力差は拡大している。

 1985年当時、家計資産上位10%の家庭の子どもと下位10%の子どものSAT(大学進学適性試験)の平均点の差は800満点中90点だったが、2014年にはその差は125点に広がった。先進国の生徒の学習到達度調査(PISA)でも、参加63カ国中、所得別の数学力の差は米国がもっとも大きく、読解力では高所得世帯の子どもが低所得世帯の子どもを平均で110点上回った。

 世帯所得による子どもの学力差は、人種によるちがいよりも、裕福な地域と貧困地区の学校の財政状況の影響が大きい。これはアメリカの公教育に特殊な事情で、公立学校に投入される「公費」の割合は連邦予算が10%、州政府が平均して45%で、残りは学区の自治体が調達することになっている。その財源の多くは地方固定資産税、すなわち不動産資産への課税だ。

 これは日本など他の国とは大きく異なる制度だが、その結果、どういうことが起きるのだろうか。

 もう10年以上前のことだが、ハワイの住む知人が、小学校の学力比較表と不動産物件情報を真剣な表情で見比べていて不思議に思ったことがある。彼の話では、よい学校のある住宅地ほど物件価格が高く、安い物件のある地区は教育事情が悪い。そこでどの親も、マイホームの予算の範囲内でもっともいい学区に家を買おうと必死になるのだという。

 このようにアメリカでは、不動産価格と地域の学校の教育レベルが強い相関関係にある。これは、学校の評判がよくなれば不動産価格が上がり、評判が悪くなれば不動産価格も下がるということだ。そうなると高級住宅地に住む裕福なひとたちは、子どもによりよい教育環境を与えたいという親心とマイホームの価値を上げたいという経済的理由の、ふたつの強力なモチベーションによって地域の学校のために協力を惜しまなくなくなる。これが、たんに高い固定資産税を納めるだけでなく、バザーなどを積極的に開いて地域の学校の財源に充てようとする理由だ。

 この好循環は、子どもが学校を卒業しても終わらない。地域の教育環境をよくすることが不動産資産の価値を守るもっとも効果的な方法なのだから、富裕層は漫然と国や州に所得税を払うのではなく、税控除のできる寄付で地域の学校に立派な講堂や図書館、音楽ホールなどをつくったほうがいいと考えるだろう。このようにして、全米でもっとも地価の高いシリコンバレー周辺では、「公立」でありながら上流階級向けのどんな私立にもひけをとらない豪華な学校ができあがることになる。

 その一方で、地価の安い貧困地域ではこれと同じメカニズムが逆に働いて、教育環境はますます悪くなる。満足に固定資産税を徴収できない自治体は公教育に予算を割り振れないし、住民たちも、荒れ果てた学校のために努力するのは穴の開いたバケツに水を注ぐようなものだと考えるだろう。

 このようにアメリカにおいて、高級住宅地と貧困地区で子どもの学力差が拡大するのは制度的必然なのだ。

 公教育の歪んだ構造はライシュをはじめ多くの論者が指摘しているが、改善はきわめて困難だ。

 誰もが真っ先に考えるのは、固定資産税で自治体の教育予算を賄うのを止め、連邦政府や州政府が一括して税を徴収して公立学校に平等に分配することだろう。これによって地域の学力差は縮まるだろうが、それはすなわち、高所得者の子どもが通う学校の教育レベルが低下する=住宅価格が下落する、ということだ。いくら社会全体のためだと説得しても、このような改革(改悪)を強い政治的影響力を持つ富裕層・高所得者層が受け入れるはずはない。同様の理由で彼らは、貧困地区の子どもたちが学区を超えて入学することにも頑強に反対するだろう。

 左側通行を右側通行に変えられないのと同様に、特殊な制度やルールにもとづいていったん既得権層ができあがると、彼らが損失を被るような変更はほとんど不可能になる。こうした例は社会に溢れているが、アメリカの公教育の二極化もその典型なのだ。


 
ライシュの「リベラリストとしての敗北宣言」

 何年か前、ライシュはある発電所で働く従業員向けに講演を頼まれた。当時、この発電所では従業員たちが労働組合をつくるかどうかを検討しているところだったが、組合結成に反対票を投じようとしていた一人の若者が、自分はいまもらっている14ドルの時給が妥当で、それ以上もらえるような仕事はしていないといいだした。

「何百万ドルも稼いでいる人たちは、本当に素晴らしいと言いたいです。自分も学校に通って、お金を稼げる頭脳があれば、そのぐらい稼げたのではないかと思うけど、自分は学校にも行かなかったし、頭も良くないので、肉体労働をやってるんです」

 この場面はライシュがカリフォルニア大学で行った授業をもとに制作されたドキュメンタリー映画『みんなのための資本論』(ジェイコブ・コーンブルース監督/サンダンス映画祭審査員特別賞)にも収録されているが、「働く若者にこんなことをいわせる社会は間違っている」という怒りが伝わってくる。こうしてライシュは、「公教育を立て直すだけではダメだ」と考えるようになった。

 ライシュ自身ははっきりとは書いていないが、その理由は明快だ。国をあげて抜本的な公教育改革を行なえば貧困層からクリエイティブクラスの仕事に就く若者が増えるだろうし、もちろんこれは素晴らしいことだが、同時に「能力主義」の神話を強化することになるからだ。

 アメリカに蔓延する「能力主義」をライシュは、「人間の価値は労働市場の評価によって決まる」という価値観だという。10億ドルのボーナスを受け取る投資銀行のCEOはそれだけの価値があり、時給14ドルの若者にはそれだけの価値しかないのだ。

 このような価値観の社会で高所得者への課税を強化し教育にさらなる公費を投入できたとしても(これ自体がほとんど実現不可能だが)、すべての若者がクリエイティブクラスになれるわけはなく、現実には成功者はごく一部にちがいない。だとすれば、それでも落ちこぼれた多くの若者たちの自己評価はどうなるのか……。

 こうしてライシュは、「自助努力」「自己責任」と訣別して、アメリカ社会の制度を批判する。『最後の資本主義』の9割(あるいは95%)は、「アメリカはなぜこんな不道徳な社会になったのか」の詳細なデータに基づく告発だ。

 だがライシュは、富裕層やグローバル企業を「悪」、貧困層を「被害者」として単純に断罪するわけではない。そこにはアメリカの公教育と同じく、「こうなるほかはない」制度的な必然がある。

 アメリカ憲法修正一条は「市民が政府に対して請願する権利」を保障しており、これが政府や政治家に対するロビー活動の根拠になっている。さらに最高裁判所は2010年、右派市民団体「シティズン・ユナイテッド」が連邦選挙管理委員会に対して起こした裁判で、企業(法人)にも人格権を認め、憲法に定められた「言論の自由」が保障されているとの判決を下した。これによって政治広告に対する企業支出を制限した2002年の超党派選挙改革法(マケイン=ファインゴールド法)は憲法違反となり、企業の政治活動が無制限に解禁された。

 そうなれば企業は、自社のビジネスにすこしでも有利になるようさまざまなロビー活動を行なうようになるだろう。株主は企業収益の拡大を望んでいるのだから、そのような努力をしない経営者はさっさと解雇されてしまうにちがいない。

 だが話はこれだけでは終わらない。高徳の株主と経営者のいる企業があって、不道徳なロビー活動はいっさいしないと宣言したとしよう。これは美談かもしれないが、その企業のビジネスモデルや諸権利はたちまちライバル企業のロビー活動によってむしりとられ、事業を継続できなくなってしまうだろう。そうなれば株主が大損するばかりか、従業員も仕事を失って路頭に迷ってしまう。企業による「請願」が広く認められた制度のもとでは、道徳的であろうがなかろうが否応なくライバル企業と同等の、あるいはそれ以上のロビー活動をするしかないのだ。

 アメリカの高級住宅地に暮らす親たちは、子どもによりよい教育環境を与え、自分たちの不動産の価値を守ろうと努力している。そこになんら不正なところはないが、それが間接的に貧困地区の公教育を荒廃させている。

 同様に大企業も、株主の期待にこたえ従業員の生活を守るために、政治に関与してすこしでも有利な条件を引き出そうと努力している。そうしたロビー活動の一つひとつには不正なところがないとしても、それが積み重なると市場のルールは大きく歪められ、富める者がよりゆたかになり、貧しいものがより貧しくなる不道徳な社会ができあがるのだ。――これがライシュの「リベラリストとしての敗北宣言」だが、だったらどうすればいいのか?

アメリカにベーシックインカムが導入される日が来るのか

 じつは『最後の資本主義』のなかで、超格差社会アメリカをどのように立て直すのか、というライシュの提言はものすごくあっさりしている。要は、「このまま政治不信が強まればいずれ理性的な拮抗勢力が現われ、社会のあらゆる不正を改革するだろう」というだけなのだ。この「拮抗勢力」がどのようなもので、なにを政治的基盤とし、どこから登場するのかという具体的なことはいっさい書かれていない。これでは「いずれ印籠を掲げた水戸黄門が登場する」といっているのと同じで、まったくリアリティがない。

 強欲資本主義の改革案としては、株主だけでなく従業員や地域社会、環境への影響も含めたステークホルダー全体の利益を考慮する「ベネフィット・コーポレーション」が紹介されているが、その説明もあっさりしたもので、2014年までに27の州で設立を認める法律が制定され、「121の業種で1165社以上がベネフィット・コーポレーションとして認証を受けている」事実が記されているだけだ。

 ここにライシュのリベラリストとしての限界を指摘するのはたやすいが、じつはライシュ自身がそんな拮抗勢力(第三党)になんの期待もしていないのではないだろうか。

『最後の資本主義』でもっとも興味深いのは、「ロボットが取って代わるとき」と「市民の遺産」と題された巻末の短い章だ。

 ここでライシュは、テクノロジーの発達によって顧客数に対する従業員の割合がきわめて低くなっていることを指摘する。

 2012年に写真共有サイト、インスタグラムが約10億ドルでフェイスブックに売却されたとき、ユーザー数3000万人に対して従業員は13人だった。その数カ月前にフィルムメーカーのコダックが破産申請したが、コダックは最盛期に14万5000人の従業員を抱えていた。

 2014年はじめにフェイスブックがリアルタイムメッセージサービスのワッツアップを190億ドルで買収したが、ワッツアップは4億5000万人の顧客に対して従業員は55人しかいなかった。

 このように、デジタル化が進むと企業は多数の労働者を必要としなくなる。1964年、米国で企業価値上位4社の時価総額の平均は1800億ドル(2001年米ドル換算)で雇用者数は平均45万人だった。47年後の2011年には時価総額は1964年のトップ4社の約2倍になったが、そこで働く従業員は4分の1にも満たないのだ。

 ライシュは、いずれ大量生産と大量消費の時代は終わり「少数による無制限の生産と、それを買える人だけによる消費」になるという。だが当然のことながら、そのようなビジネスモデルは持続不可能だ。商品やサービスを買うことはもちろん、家族を養うことも、自分自身が生きていくことすらできない膨大な貧困層が社会に溢れているのだから。

 こうしてライシュは、富の二極化がこのまま拡大していけば、ベーシックインカムを導入するほかに社会問題を解決する方法はなくなるだろうと予想する。ライシュのいうベーシックインカムは、「受給者とその家族が最低限のまともな暮らしをするのにぎりぎりの金額」を、必要とするひと全員に無条件で支給することだ。

 テクノロジーが究極まで発達すれば、ほとんどの仕事はAIとロボットにやらせればいい。それを発明したごく少数のひとたちは莫大な富を手にすることになるだろうが、功利主義的に考えれば、彼らはそれを独占して社会を大混乱させるより、貧困層にベーシックインカムを支給して安定した社会を維持した方が好ましいことに気づくはずだ、というわけだ。こうして、「人々はそれぞれがあらゆる種類の芸術や趣味の追求に意義を見出すことができ、社会は芸術活動やボランティア活動による成果を享受できる」ようになるのだと、ライシュはいう。

『ザ・ワーク・オブ・ネーションズ』で四半世紀後の未来を的中させたように、自助努力と自己責任の国アメリカにベーシックインカムが導入される日がくるのだろうか。

 私は、その可能性は思いのほか高いのではないかと考えている。

 トランプは右派ポピュリズムで大統領の座を手にし、不法移民を追い出し自由貿易を否定する「ブードゥー経済学」でアメリカ経済を復活させようとしている。それが失敗したときは(間違いなくそうなるだろうが)、アメリカの怒れる有権者に残された選択肢は左派ポピュリズムしかないのだから。――もっともそれで、すべてのひとが「自己実現」できるユートピアが訪れるとは思えないが。

橘 玲(たちばな あきら)

作家。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ヒット。著書に『日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル』(ダイヤモンド社)など。中国人の考え方、反日、歴史問題、不動産バブルなど「中国という大問題」に切り込んだ『橘玲の中国私論』が絶賛発売中。近刊『「言ってはいけない 残酷すぎる真実』(新潮新書)が30万部のベストセラーに。

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