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米FRB利上げ決定、トランプ氏の帝王化に備え 移民政策は公約比で満点 嫌われヒラリーはハーマイオニ 経済学でふるさと納税
http://www.asyura2.com/17/hasan120/msg/260.html
投稿者 軽毛 日時 2017 年 3 月 17 日 00:50:41: pa/Xvdnb8K3Zc jHmW0Q
 

米FRB利上げ決定、トランプ氏の帝王化に備え

ニュースを斬る

トランプ大統領の「本気」の議会演説で警戒感漂う
2017年3月17日(金)
武田 紀久子

 米連邦準備制度理事会(FRB)は3月15日、今の正常化局面で3度目となる利上げを決定した。今回の利上げを巡る最大のサプライズは、米連邦公開市場委員会(FOMC)での決定そのものにはなく、FRBが3月利上げに向けてやや唐突に思えるコミュニケーションを2月末以降の数日間で集中的に行った点にある。

 2月末には地区連銀総裁などによる利上げ支持発言が相次ぎ、続いてハト派筆頭格のブレイナード理事などがこれに加わった。更に3月3日にはフィッシャー副議長とイエレン議長という2人の重鎮がダメ押し的に利上げを示唆する、という念の入ったコミュニケーションで、難なく市場に3月利上げを織り込ませた。

 1月のFOMC議事録が発表された2月22日の時点では、「今年の初回利上げは6月」がコンセンサスであったことを思うと、この間に一体何があったのか、改めて気になるところである。

利上げ決定は「トランプ演説」がきっかけか

 もっとも、FRBにしてみれば、方針の急変更をしたつもりは全くなく、あくまで市場が早期利上げのシグナルを読み誤っていただけ、ということになるのだろう。後付けだが、完全雇用に近い現在の米国において、最近の株高や消費者・企業センチメントの急上昇、そして、融資の高い伸び等は確かに要警戒域にあると言えるし、今回声明では物価に対する上方修正が目立ち、ほぼ目標を達成しつつあると宣言してもいる。

 ただ、FRBがこうしたコミュニケーションを開始した時期に重なる2月28日には、トランプ大統領による初の上下両院での議会演説が行われている。以前からトランプ政権による財政拡張路線に警戒的な立場を取ってきたイエレンFRBにとって、これが利上げ実施の背中を押すきっかけの一つになった可能性をどうしても連想してしまう。

 この演説は、特に政策の詳細が示されたわけではないものの、就任演説などと全く異なり伝統的な大統領らしさを意識したいわば「本気度が伝わる」内容であった。本気度が高まったトランプ政権が打ち出すであろう財政刺激策は、景気過熱、インフレ上振れ、そして財政赤字拡散などが懸念され、警戒は怠れない。牽制的な意味を込めて、FRBが3月利上げに動く決意を一気に固めたと考えるのは、見当外れであろうか。

「チェック・アンド・バランス」が機能?

 話は急に変わるが、周知の通り、トランプ大統領の就任直後に大量の大統領令が矢継ぎ早に交付された。しかし、例えば「イスラム系国民の入国禁止」に対しては「最高裁判所=司法府」が、「閣僚任命」については「議会=立法府」が、それぞれ施行や承認に待ったをかけている。

 これを見る限り、当然とはいえ、米国憲法に書き込まれた「チェック・アンド・バランス=三権分立による抑制と均衡」の理念が機能していること、及び、制度としての米国政治そのものが麻痺したわけではないことがうかがわれる。

 米FRBはこの三権分立の理念に必ずしも位置付けられるものではないが、それでも、大統領府=行政府の動きをチェックしている様子は、心強いものに思われる。財政政策の先行き不透明感が極めて強い中、中央銀行が政権方針と一線を画し、毅然と超緩和政策の正常化を進めることは健全なことと言えよう。

 日本語では適切な訳語がなく耳慣れないが、米国政治用語には「帝王的大統領=Imperial Presidency」という表現があり、「憲法で規定された以上の権力を振るう大統領」といった意味合いで使われる。先に触れた通り、米国憲法には、政治権力の集中と暴走を回避するためのチェック・アンド・バランスの精神が盛り込まれ、大統領権限の発動などに対しては、憲法で幾重にも歯止めがかけられる仕組みになっている。

 にもかかわらず、「帝王的大統領」の概念が浮上したのは、20世紀になってからのこと。大恐慌から第2次世界大戦まで大統領を務めたルーズベルトが、これら国難に向かう中で、大統領権限の集中と強化を進めたことが最初の事例となった。大統領補佐官や国家安全保障会議(NSC)の原型が設置されたのもルーズベルト政権下でのこととされる。

 その後、帝王的状況が極まったのがニクソン大統領時代。ニクソン大統領は少数の限定スタッフによって構成されるNSCを事実上の外交政策決定機関に格上げしており、これを機に米国の外交権は完全に議会=立法府から、大統領府=行政府へ移るなどしている。その後も冷戦が続く中で、最後に帝王的大統領と呼ばれたのはレーガン大統領であった。

トランプ大統領の「帝王化」への備え

 ちなみに、この3人の大統領時代にはそれぞれ、金融政策の歴史上節目となる極めて重要な政策が打ち出されている。大恐慌の下、ルーズベルト時代にはケインズによってFRBが国債市場へ介入し長期金利を低下させる提言などがなされた。これはその後、戦費調達対応の形で1942年に実現する。ニクソン時代にはマネタリズムが影響力を高め、FRBは1970年にマネーストックや銀行信用を重視するマネタリー・ターゲティング的な方針を明らかにした。そして、レーガン時代には、マネタリー・ターゲティングから改めて金利コントロールへ移行。1987年にはM1(マネーサプライの統計の1つ)の目標値設定が中止されている。

 こうしてみると、FRBは目下、トランプが強権的に経済運営を行う「帝王的大統領」になる事態に備えているようにも見える。トランプ政権が異色の政策運営で議会と衝突し政治空白が経済を失速させるのか、あるいは、財政拡張路線が行き渡りインフレリスクが高まるのか、その見極めは未だ難しいが、それは、従前のチェック・アンド・バランスの中に留まるか、帝王的大統領になるか、の選択に重なるようにも思われる。後者の場合、歴史上の教訓は「金融政策に非連続が起きること」と言えるが、この点は別稿でもう少し検討したい。

 日経ビジネスはトランプ政権の動きを日々追いながら、関連記事を特集サイト「トランプ ウオッチ(Trump Watch)」に集約していきます。トランプ大統領の注目発言や政策などに、各分野の専門家がタイムリーにコメントするほか、日経ビジネスの関連記事を紹介します。米国、日本、そして世界の歴史的転換点を、あらゆる角度から記録していきます。

このコラムについて

ニュースを斬る
日々、生み出される膨大なニュース。その本質と意味するところは何か。そこから何を学び取るべきなのか――。本コラムでは、日経ビジネス編集部が選んだ注目のニュースを、その道のプロフェッショナルである執筆陣が独自の視点で鋭く解説。ニュースの裏側に潜む意外な事実、一歩踏み込んだ読み筋を引き出します。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/110879/031600628


 


「移民政策は公約比で満点が付けられます」

トランプのアメリカ〜超大国はどこへ行く

米専門家がトランプ政権を採点
2017年3月17日(金)
篠原 匡、長野 光
 トランプ政権が発足して早2カ月。最初の100日間で成果を出そうとスタートダッシュをかけたが、現状では混乱の方が目立つ。

 2月28日の施政方針演説は「大統領らしい」と高評価だったが、その直後にジェフ・セッションズ司法長官が大統領選中に駐米ロシア大使と接触していた事実が判明、その後もトランプ大統領が「オバマ大統領に盗聴された」と爆弾ツイートを投下したため、再びホワイトハウスは喧噪に包まれている。

 それでは専門家はここまでのトランプ政権をどう見ているのか。政治リスク分析に定評がある米ユーラシア・グループのジョナサン・リーバー米国政治担当ディレクターに話を聞いた(取材は3月9日)。

(ニューヨーク支局 篠原 匡、長野 光)
ここまでのトランプ政権をどう評価しますか。

ジョナサン・リーバー氏(以下、リーバー):トランプ政権はいわゆる移行期間、ハネムーン期間にあり、政権を評価するのはまだ早すぎると思います。実際のところ、現在はハネムーン期間というよりはむしろ婚約期間のようなものだと思います。トランプ大統領は強力な政策チームが不在の状態でホワイトハウスに来ましたので、結婚自体が始まっていないように感じます。それが現在の遅さにつながっています。

 そのため、新政権の立法面や行政面を評価するにしても、現時点ではかなり限定的になります。トランプ大統領は新しくホワイトハウスに入ったリーダーであり、彼自身、同じように政権に入ったばかりのアドバイザーに囲まれています。また、彼はワシントンDCのエスタブリッシュメントから多くの抵抗を受けています。そういう事情を考えれば、移行期間は大目に見てもいいのではないでしょうか。


ジョナサン・リーバー 米ユーラシア・グループ米国政治担当ディレクター。ミッチ・マコーネル上院議員の主席経済政策アドバイザーを務めるなど、連邦議会での豊富な経験を有する。(写真:Mayumi Nashida 以下同)
 あと1カ月、2カ月もたてばトランプ大統領は立法上の“勝利”を手に入れると思います。例えば、オバマケアの撤廃法案であり、暫定予算案の期限切れに伴って4月末に出される歳出法案です。確かに、行政という面では移民関連の大統領令もあってスタートは不安定でしたが、トランプ政権は大統領令を修正しました。これまでに、間違いから学んでいる面もあります。よって、選挙公約や期待されていることをベースにここまでの成績をつけるとすれば、現時点では「保留」という評価になります。

「やる」と言ったことをすべて実行している

オバマケアの撤廃や大規模減税などの個別公約はどうでしょうか。

リーバー:オバマケアも現時点では「保留」という評価ですが、いい方向に進んでいると思います。税制改正も大した修正がなければ、2017年末、あるいは2018年初に関連する法案が議会を通過すると見ていますが、大きな変更がある場合は現時点では分かりません。ゆえに、これも「保留」です。移民に関しては、彼らは「やる」と言ったことをすべて実行しており10点満点だと思います。

満点?

リーバー:そう思います。トランプ大統領は不法移民に断固たる措置を執ると述べていました。あくまでも選挙公約との比較という意味ですが、満点だと考えています。

 貿易については、まだ政策を実行するための人事が承認されていません。とりわけ、米通商代表部(USTR)の代表に指名されているロバート・ライトハイザー氏が承認されていません(※編注:取材時点)。商務長官のウィルバー・ロス氏も承認されたばかりです。彼らが仕事を始めるにはもう少し時間がかかるため、貿易の評価も「保留」とします。

 インフラ投資も同様です。インフラ投資という公約を実現するために動き始めているようですが、今後、トランプ政権は議会の抵抗に遭うと思います。そのため、ここも評価は「保留」ですが、インフラ投資はオバマケアと違って、間違った方向に向かっていると感じています。

外交政策はどうでしょうか。

リーバー:日本については10点満点がつけられるのではないでしょうか。トランプ政権は日本を米中関係の中心に置き、アジア太平洋地域のキープレイヤーに位置づけました。予断ですが、トランプ大統領に対する安倍首相の扱いは極めて上手い。ここは最高得点でいいと思います。

 中国とロシアについては、やはり「保留」です。米中は貿易や安全保障で懸念材料があります。北朝鮮問題など心配すべき案件もありますが、まだ何も始まっていません。ロシアも同様で、マイケル・フリン前安全保障担当補佐官が辞任するなど、トランプ大統領の周辺とロシアを巡って様々な話が渦巻いています。ただ、その真相はまだ何も分かっていません。「保留」だと思います。

政権運営という面ではどうでしょう。だいぶ混乱しているように見えます。

リーバー:確かに、政権運営にはコミュニケーション不足や調整不足など明確な不安定さがあります。さらに安全保障担当補佐官が辞任したり、国務省が脇に追いやられたり、といった状況を見ると、そこから何が出てくるのかを語るのは難しい。政権運営のところは5点といったところでしょうか。

 付け加えれば、ホワイトハウスの報道官には改善の余地があると思う。トランプ大統領はツイートで自身のメッセージを発しており、政権として組織的なコミュニケーション戦略を持っていないように見えます。ただ、改善の兆候も見えるため3点はつけられるのではないかと思います。

閣僚は合格点、次官級以下に課題残す

閣僚の顔ぶれはどう評価しますか。

リーバー:これは本当に上手くやったと思っています。指名候補で一人辞退者が出ましたが、上院で拒否された人はいません。トランプ政権は保守派が心地よく感じる真の保守内閣を作りました。民主党は反対していますが、それは問題ではありません。国務省や国防総省をはじめ、トランプ政権が仕事を遂行する上で、クオリティーの高い人材を見出したと思います。ここは8点。

 もちろん、次官級以下のレベルでは問題を抱えています。ティラーソン国務長官やムニューシン財務長官を支える人々はまだ埋まっていません。今の状態が続けば、2カ月後には問題になるでしょう。内閣のキャパシティ不足は政権に打撃を与え始めていると思いますが、切り抜けられるのではないかと現時点では思っています。それについてはものすごく心配しているわけではありません。

就任当初、イスラム圏の人々の入国禁止など物議を醸すような大統領令を連発しました。ここについてはどう思いますか。

リーバー:全体的に、トランプ大統領は「やる」と言ったことを実行していると思います。まさに選挙期間中に見た姿そのままと言えます。大統領令にしても、話題を提供しているだけでしょう。

リーバー:トランプ大統領が何を成し遂げられるかということを考えるときに重要なのは議会との関係です。議会との関係がよく、コンセンサスが得られれば、トランプ大統領は多くのことができる。一方で、彼のしたいことに議会が協力しなければ、トランプ大統領は何もできなくなる。この政権の成功や失敗を考える時に重要なのは、議会との関係で何が起きるかということです。

 彼は議会のコンセンサスを得ることができるのか、彼は議会共和党をまとめあげることができるのか。政権の不安定さとコミュニケ―ションにおける問題、政策の選択に関してはっきりとしたガイダンスを提示する人がいないという事実は、共和党が多数派を占める議会が彼らの政策目標を成し遂げられないということを意味するのか、などなど。こういった疑問はこれから明らかになっていくと思いますが、政権全体としては現時点で7点はつけられるのではないでしょうか。

個別の政策についてもう少し詳しく教えてください。足元を見ると、オバマケアの撤廃と置き換えに時間がかかっているように見えます。

リーバー:オバマケアはコンセンサスがまだないため、大きな試練に直面しています。ただ、厄介な状況にはありますが、代替案がコンセンサスを得られる可能性もあり、私としては外部から見るほど悪い状況ではないと思っています。次の2〜3週間で撤廃・置き換え法案は下院を通過すると思います。上院は下院とは選挙区などで事情が異なりますので、もう少し時間がかかるでしょう。

国境調整は通せないが、法人税25%減は可能

トランプ大統領が公約している大規模減税はどうでしょう。トランプ大統領は法人税15%、ライアン下院議長は20%の実現を目指しています。


リーバー:両者の数字は大きすぎると思います。今の35%という法人税を考えた時に、1%の法人税が下がるごとに10年間で1200億ドルの税収を失います。仮に法人税20%とすれば1.8兆ドルですよ。これは大きすぎる。ただ25%程度であれば十分に達成可能な数字だと思います。共和党には財政赤字を心配しているメンバーもいますが、この辺であれば達成可能でしょう。それでもトランプ大統領の政治的勝利になると思います。

ライアン下院議長など下院共和党の執行部が提唱している国境調整なしでも大規模減税は実現するでしょうか。

リーバー:まず国境調整が議会を通る可能性は低いと思います。共和党の議員は国境調整をガソリン税、つまり消費者に対する新たな課税、あるいは彼らが最も嫌忌する新たな関税と見なし始めていますので、本当に難しい作業になると思います。確かに、国境調整が導入されれば大幅な減税が可能になりますが、25%でも十分に勝利だと言えますので、それ以上税率を引き下げる必要はないと思います。

 国境調整がなくても、トランプ政権は政府債務の拡大を通して減税を実現させると思います。確かに共和党には、とりわけ下院には財政赤字の拡大に制限をかけたいと考える財政タカ派がいます。一方で、減税をまず実行して、その後に財政支出の削減を実行するという順序でもいいと考えている共和党議員もたくさんいますので。

インフラ投資はどうでしょう。トランプ大統領は熱心ですが、議会共和党は前向きとは言えないようです。

リーバー:トランプ政権が掲げている政策の中で、インフラ投資の優先順位はかなり後ろの方だと思います。とりわけ議会はインフラ投資に関心がありません。

 トランプ大統領は国境の壁、国防費の増額、インフラ投資という大規模な支出を伴う3つの政策を訴えています。私は物理的な壁ではなく、国境警備のための支出は可能だと思っています。10%の増額は無理だと思いますが、国防費の増額も可能でしょう。ただ、インフラ投資は難しいと思います。仮に実現するとすれば、連邦政府の巨額支出ではなく、税制上のインセンティブを民間企業に与えるというものだと思います。

市場のインフラ投資への期待は過大だ

インフラ投資に対する市場の期待は大きいと思いますが…。

リーバー:市場は過大評価していると思います。小さなインフラ投資、そして穏当なサイズの減税になる可能性が高いのではないでしょうか。

最後に、貿易についてはどうでしょう。「国境調整は難しい」という話ですが、NAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉など企業にとって懸念材料はいろいろとあります。

リーバー:議会の共和党議員はNAFTAを支持していると思いますよ。彼らは自身の州にとってNAFTAは効果的だと思っていますし、北米の統合されたサプライチェーンの価値を認めています。実際、NAFTAに依存した仕事はかなりありますし。そういった現実がトランプ政権の動きを縛ると思っています。

 既に、ウィルバー・ロス商務長官はNAFTAの改善点についてビジョンを述べています。電子商取引に関わる項目を入れたり、原産地規則を見直したり、恐らく為替操作に関する拘束力のある文言も入れたいと思っているでしょう。また、トランプ政権はメキシコに対して労働法や環境法の改善を求めています。そのあたりがネゴシエーションのベースになると考えています。

 メキシコは米国の要望に対応しようとすると思います。輸出の8割が米国向けと、彼らは米国に大きく依存しています。もちろん、国境の壁の費用は払わないでしょう。関税の引き上げも米国が主張すれば容認するとは思いますが、米議会もそれを望んでいませんので、そこまではしないと思います。ただ、メキシコは米国の要求をほとんど容認する可能性が高いとみています。


このコラムについて

トランプのアメリカ〜超大国はどこへ行く
1月20日に第45代米大統領に就任したドナルド・トランプ氏。通商政策や安全保障政策など戦後、米国が進めてきた路線と大きく異なる主張をしているトランプ大統領に対する不安は根強い。トランプ氏は具体的に何を実施し、何を目指しているのか。新大統領が率いるアメリカがどこに向かうのか。それをひもといていこうというコラム。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/012700108/031600015/


 


 

「嫌われヒラリー」は、ハーマイオニーだった

著者に聞く

対談:渡辺由佳里×小田嶋隆(後)
2017年3月17日(金)
日経ビジネス編集部
アメリカでも日本でも、「正論」を語り、ポリコレ(ポリティカル・コレクトネス)を意識した発言をする人は「インテリぶっている」「嘘つき」「隠し事がある」と嫌われる――今回の米国大統領選挙戦を現場で追いかけ、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』を著した渡辺由佳里さんが、「ア・ピース・オブ・警句」でお馴染みの日経ビジネスオンラインの人気コラムニスト、小田嶋隆さんと語り合います。(文中敬称略)

小田嶋隆(以下小田嶋):渡辺さんの『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』を読ませていただいて印象的だったのが、トランプの「インテリっぽさを極限まで減らした選挙活動」の威力と、ヒラリーのものすごい嫌われっぷりです。


『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』
渡辺由佳里(以下渡辺):トランプのような、ある意味やんちゃな“ガキ大将”とは反対に、“優等生”って、「いい子ぶりっこ」として、からかわれたり嫌われたりするじゃないですか。ファーストレディになった1990年代から、メディアが「ヒラリー嫌い」を娯楽化してきたんですが、今回は、腐敗しているとか、嘘つきだとかの反発が加わりました。

小田嶋:サンダースの支持者が、彼が引っ込んだ後に、同じ民主党のヒラリーに行かないでトランプに行っちゃったという話もありましたね。


渡辺 由佳里(わたなべ・ゆかり)エッセイスト、洋書レビュアー、翻訳家。助産師、日本語学校のコーディネーター、外資系企業のプロダクトマネージャーなどを経て、 1995年よりアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』で小説新潮長篇新人賞受賞。翌年『神たちの誤算』(共に新潮社刊)を発表。他の著書に『ゆるく、自由に、そして有意義に』(朝日出版社)、 『ジャンル別 洋書ベスト500』(コスモピア)、『どうせなら、楽しく生きよう』(飛鳥新社)、『暴言王トランプがハイジャックした大統領選、やじうま観戦記』(ピースオブケイク/Kindle版)など。翻訳には、糸井重里氏監修の『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社)、『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)など。
渡辺:私が取材していたときにも、「トランプにするかサンダースにするか迷っている」という人がいて。政策からは正反対の候補者なんですけどね。

 なぜかといえば、「トランプもサンダースも、言葉を飾らない、正直だ」と。それは、「思っていることを口にするから」というだけなんですけど。ヒラリーは、発言が優等生過ぎて、「本当にそう思っているのか信用できない」と怪しまれる。「ヒラリーは、何か隠していることがあるんじゃないか」、そんな発言をよく耳にしました。

小田嶋:つまり、「正論を言うエスタブリッシュメント」に対する反発があるという。

渡辺:そうなんです。左も右もそういう様子がすごくよく似ていました。でも、今回こうまでヒラリーが嫌われたのは偽ニュースの影響が大きいです。右も左も、「ヒラリーは犯罪者ですごい金まみれだ」と思いこんだ人がすごく多かった。トランプもとんでもないが、ヒラリーなんかに票は投じられない。という。

小田嶋:俺もその部分の噂はちょっと信じてたかもしれない。

おばかペイリンのほうが愛される

渡辺:ベンガジ事件への関与、メール疑惑、嘘つき、腐敗、とかですね。すべて、綿密な調査の末、懲罰の対象になるような違法な行動をした証拠がないという結論が出ています。でも、結果的に、「はっきりした証拠はないけれど、きっと隠していることがある」、「嫌な女だ」というイメージが定着してしまった。直接本人に会うと、「嫌な女」とか「お高くとまっている」というイメージは全然ないんですけれどね。それを出せなかったのは、マーケティングが下手くそということです。

小田嶋:サラ・ペイリンでしたっけ、スピーチで「米国は北朝鮮と共同せねばならない…え、韓国?」とやっちゃった女性。アフリカが国名だと思っていた、とか。「アラスカからロシアが見える」とか。ちょうど彼女と対照的な感じですよね。

渡辺:ええ。2008年、彼女を副大統領候補にしたマケインは敗北しました。でも、オバカなキャラの彼女にはファンがまだ大勢いますよ。

 今回の大統領選挙で言えば、具体的で綿密な政策を持っていたのは、ヒラリーただ1人でした。外交、雇用、環境、医療、彼女のサイトに行けばなんでも事細かに書いてあった。でも、それはトランプの「言って欲しいことを代弁してくれる」能力に全然敵わなかった。

小田嶋:トランプのあれ、場末のスナックでオヤジが管(くだ)まいているみたいだな、と思ったんだけど。

渡辺:家でテレビを見ながら、ニュースにぐちゃぐちゃ毒づいている親父さんがいるでしょう、そういうの人の言葉を拾ってきた感じです。ソーシャルメディアで発散される、恨み辛みやグチを集めてきた。

小田嶋:ソーシャルメディアは、場末のスナックの会話が全世界にばらまかれる場所ですからね。

渡辺:その場末のスナックが、アメリカでは、お金持ちの集まる「カントリークラブ」だったりします。トランプのファンは、低学歴、低所得の人だけじゃないんです。ハーバード大ビジネススクールで学んだ私の舅(米国人)は、トランプが大統領になる前に亡くなったのですが、生きていたら、きっと彼に投票していたと思います。

渡辺:毎日Foxニュースを観て、お金持ちの白人男性が集まるカントリークラブで、自分と似た境遇の人とだけ話をするタイプでした。一緒にいるとき耳にするその内容が「メキシコ人が悪い」「イスラム教徒は危険だからアメリカに入れないほうがいい」と、トランプが今言っているようなことなんです。トランプも、実生活でそういう場面が多かったんじゃないでしょうか。そこで、「そうか、みんなこういう不満を持っているんだ」と、肌感覚のマーケティングリサーチをしたんだと。

小田嶋:本当は「メキシコ人を壁を造って締め出してしまえ」と、内心で思っていたり、スナックやクラブで言っていたやつはたくさんいたんだけど。

渡辺:それは仲間うちだけで、外では口にしなかったわけです。

小田嶋:「ポリコレ」、ポリティカル・コレクトネスがあっておおっぴらには言えないと。

渡辺:そう。トランプの暴言として伝えられたことは、プライベートな場所で白人がこっそり言っていたこととほとんど変わらない。でも、王様の耳はロバの耳という感じで言ってのけたことで「この人は嘘をつかない」という印象が生まれた。

小田嶋:それは日本でも今、書店の一番いい場所に並んでいるヘイト本と同じロジックだな。憂国の思いから真実を語る、みたいな。

渡辺:やり方がヒラリーのまったく逆だったんです。「ストロンガー・トゥギャザー」というヒラリーの選挙スローガンは、「異なる背景の国民が敵対するよりも、手をつなぐほうが強くなれる」という、多様性を謳歌するものでした。つまり、誰にとっても均等に正しいことを言っている。だから、かえって情熱的なファンを作れず、多くの有権者がわざわざラリー(遊説)に行く行動を起こさなかったのかもしれません。

小田嶋:そうですね。ぼんやりと正しいことを言っているよりは、間違っているかもしれないけど心に響くことを言っている人の方が支持できる、みたいなことはあるんですね。

渡辺:そうなんですよ。身もふたもない話ですが。

魔法のお勉強をして主人公を助けて、嫌われる…

渡辺:私、こうしてヒラリーの擁護発言をするたびに叩かれるんですよ。「ばばあ」とか、「ブサヨ」とか、お決まりの(笑)。女性を攻撃するにはこういった言葉が有効だと思っている男性、ネットには多いですよね。そういう方々には理解できないと思いますが、私がヒラリーを推したのは、大統領候補の中では彼女が最も適任だったからです。ごくシンプルな理由。

 これは私の説なんですが、ヒラリーは「ハーマイオニー」なんですよ。

小田嶋:『ハリー・ポッター』の。

渡辺:そう。主人公を支えるものすごく優秀な、ガリ勉の女の子。ハーマイオニーがいなかったらハリーはヴォルデモートに勝てなかった。なんせ、主要キャラ3人の中で、真面目に魔法のお勉強をしたのは彼女だけなんですから。

 打倒ヴォルデモートのためには重要な人物なのに、好かれない。ストレートにガリ勉の女って魅力的じゃないですからね。でも、大統領って、そんな愛されキャラ、ラブリーなキャラクターである必要はないよね。

小田嶋:それは全くその通りですね。

渡辺:ヒラリーは、くそまじめで、勤勉な公務員なわけです。「大統領に勤勉な公務員がなることのどこが悪い?」と私なんかは思うんですよね。仕事してくれればいいわけで。愛嬌もカリスマ性もなくていい。

小田嶋:でもアメリカ人は大統領にカリスマだったり、愛嬌だったり、親近感だったりを求める。ブッシュ(息子)が、頭は悪いけど愛嬌のあるおじさんだったり、とかね。渡辺さんの本を読むと、歴代大統領がどんな「愛され方」「嫌われ方」をしたかがよく分かります。

渡辺:私も大統領としてのジョージ・W・ブッシュは尊敬していません。でも、彼が大統領じゃなくて普通のおじさんだったら、きっといいお友達になれたと思います(笑)。

小田嶋:大統領に求めるものというのが、例えばドイツの、それこそメルケルさんなんかは、くそまじめな方の人でしょう。素晴らしくまじめで頭がよくて勤勉で、誠実に政治をやる人じゃないですか。ドイツ人というのは、取りあえずそっちを選ぶ。だけどアメリカ人はメルケルみたいな人はちょっとつまらないというか、「インテリが、気取りやがって」と。

渡辺:そうなんです。

小田嶋:先ほど、ヒラリーを支持するとすごく嫌われると言っていましたけど、あれはアメリカでですか、それとも日本ですか?

渡辺:日本人からの罵倒のほうが多いですね。トランプのファンだけじゃなく、熱心なサンダース支持者からも(笑)。


小田嶋:俺も、ヒラリーだとかそれを応援してるメリル・ストリープだとかについて肯定的な文脈で言及すると、反発が返ってくる感じはありましたよね。まあ、私がヒラリーそのものを好きか嫌いかはどうでもいいんだけど、そのときにどうして俺が「気取りやがって」と言われるのが分からなかったんです。で、相手が俺を気取っていると思うのはなぜかというと、本当は支持なんかしてないくせに、ヒラリーを支持した方が利口に見えるとお前は思っているんだろう、という、そういう心理が働いているんですね。どうやら。

正論を言うヤツは嘘つきだ!

渡辺:すごく屈折していますね(笑)。

小田嶋:そういう言い方だと思うんです。気取っているという言い方は。つまり、「お前は建前しか言ってないだろう」「いい人ぶっているだろう」「利口ぶっているだろう」という非難の仕方なんです。

渡辺:多様性を肯定すると、「ポリコレ信奉者」とレッテル貼られて、攻撃されるみたいな感じですね。

小田嶋:そうそう。ポリコレについても、「お前、本当は韓国人を差別したい気持ちが満々なのに、それを口にしないということは、気持ちを無理に押さえ付けて嘘をついているだろう」と見ている人がいるんです。何というんだろうな、「ポリコレ的に悪いことこそが、本音である」と。

渡辺:そうそう、それ、あります。

小田嶋:その本音を隠しているお前はうそつきだ、仲間はずれにするぞ、という。

 昔話で、サラリーマン社会の一番下っ端にぶらさがっていた時代の話ですが、男だけが集まってワイワイやるような機会があると、「本当はみんなスケベなんだ」というポーズを強要される場面がある。たとえば猥談が始まるんです。と、誰もが何かえげつのないスケベな話をしないといけない。俺、それにまったく付いていけなかったんですね。大嫌いで。そうすると「気取りやがって」ってなことになる。ぶっちゃけて、「俺も本当はこういうバカな男なのさ」というところを見せないと、分かり合えないという。

渡辺:まさに、「ピアプレッシャー」というやつですよね。

小田嶋:正しいっぽいことを言うと、気取っていると思われちゃう。正しいから正しいと言っているだけなのに、「何、お前、“正しい”ことを言っているの」と。

 担当編集者ですが、横から失礼します。小田嶋さん、昔はそういう、ポリコレ的に「言ってはいけないこと」を好んで言う人だったんですよね。だから余計に「いい子ぶりやがって」と思われるんじゃないですか。

小田嶋:もちろん今でも「言いたいこと」を言っているわけだけど、当時は「人は学歴で差別される」とか、そういう本当のことを書く人があまりいなかった。世の中に出てない「面白い」ことだと思うから書いたわけで、言ってしまえば、そのほうが本だって売れる。

 今は、当時の小田嶋さんみたいなことを言う人が増えてしまって、“正しい”ことを言うと、よってたかって攻撃されるような気がします。

小田嶋:そう、ポリコレ的なことが、むしろ言いにくくなっている。じゃあ、今だったら、そういうことを書くほうが面白いじゃないかと。そもそも政治家と、無責任な物書きの発言を同レベルであれこれ言うもんじゃないです。

 冷静に考えて、総理大臣が小田嶋さんになったら日本はおしまいですよね。

小田嶋:うん、おしまいだと思う。そんな国に住みたくない(笑)。でも、大統領や総理大臣が「本音」で発言することを評価するって、冷静に考えてどうなのだろうか。

渡辺:それなんですよね。今回、あれだけトランプがうそを言っても、みんな彼は信用できると言っていましたでしょう。「彼は正直だ」と。データで見れば、彼の言っていることって7割以上はウソだともう分かっているんだけど、「心に浮かぶ差別的なことを、プロの政治家はポリコレで隠す。それを気にせずにどんどん口にしちゃうのは、トランプが正直な人だから」という解釈になる。

小田嶋:本音を言う人はいい人で正直で信用できる。普通の社会人なら別にかまわないけれど、仮にもアメリカの大統領で、それってアリなのか。

渡辺:本当は、自分が言いたいけど、言うと叩かれるから言わないできたこと。それをずけずけ言ってしまうトランプに好感を覚えているみたいです。相手の心を考えずにどんどん傷つくようなことを言う人が、かえっていい人みたいに思われているのは奇妙な現象ですけれど……。

小田嶋:心を開いてくれているように見えちゃうんだろうね。

建前ってすごく大事

渡辺:だけど、特に、多様性があるアメリカの社会では、ポリティカル・コレクトネス、つまり「建前」って、すごく大切なんです。建前って、別に悪いことじゃないんですよ。敢えて言えば必要悪です。


 建前を除いちゃって、本当に差別心とかがどんどん出てきたら、社会は危険になります。そう思わないのは、「自分が差別する側にいる」という安心感がある人たちです。自分が集団リンチに合う危険を少しでも想像できたら、建前としてのポリコレの重要性がわかるはず。なのに、今のアメリカでは、国のトップにいる「国民のお手本」の大統領が率先してポリコレを批判しているわけです。ですから、全米の学校で「差別してはいけません」と子どもたちに教えなければならない先生たちが頭を抱えてますよ。

小田嶋:それこそメリル・ストリープがスピーチで話していたことですね(こちら)。

渡辺:そうなんです。アメリカの小学校は大統領の写真を掲げているんです。大統領や候補の演説やディベートも聞くように躾けられます。アメリカの子どもはそうやって育つものなのですが、下品で聞かせられないんですよ、トランプの演説は。

小田嶋:「気取りやがって」と言うんだけど、人間どこか気取ってないと、どこまでも落ちていくよという。

渡辺:たとえたどり着けなくても、高みを目指さなきゃいけませんよね。

小田嶋:実際どう思っているかということはともかく、少し気取って、本来の自分よりは少し高い位置に立ったぐらいのところを目指していこうじゃないでしょうか、と。

渡辺:それが教育というものじゃないですか。外交でもそうですよね。本音で「お前なんか信用するか」とか言っちゃったら、本当におしまいです。

小田嶋:そんな「本音」を装うトランプの演説や物言いって、言葉もロジックも単純な分、変化に乏しくないですか。

渡辺:中身もしゃべり方も、わりと一本調子です。抑揚があって、バラエティーがあって、というものではありません。

小田嶋:就任からもう2カ月か。我々はそろそろ飽きてきているというか、「またかよ」という感じがしてきましたけど、アメリカの人たちは食傷しないのかな。

渡辺:いや、そろそろ飽きてくると思います。彼は見事なマーケティング感覚でラリーやツイッターを活用して勝ったわけですが、その過程で「聴衆に受ける言葉」を選んで残していきました。それらを繰り返すのが選挙では有効でした。


 彼は基本的に愛されたい、皆にちやほやされたい人なので、「こういう言葉をこう言えば、みんなから愛が戻ってくる」という成功体験から、抜けられなくなってしまった。私は、そう見ています。大統領になってもあまりモードが切り替わらないのは、この成功体験のせいですね。でも、中身がないのに表層的に大統領らしくなろうとしたら、物言いに冴えがなくなります。すると、愛が戻ってこなくなる。それは、彼には耐えがたいはずです。

「助さん格さん、逃げますよ!」

小田嶋:ある種の講演芸人に時々いるパターンですね。受けるフレーズを初めにどーんとやってばっと受けて、それがだんだん練れていって見事な講演をするんだけど、こっちから見ていると、「ああ、またやっている」という。

渡辺:それについてですが、私は、トランプが勝つための発言を繰り返しているうちに、自分で自分をオルタナ右翼に洗脳しちゃったんじゃないかと思うんです。もともとトランプは、右寄りの人ではなかった。ところが、大統領選では右よりの発言をしたほうが聴衆から愛されたし、オルタナ右翼の側近が活躍してくれたおかげで大統領選に勝ちました。その効果に自分自身が説得されてしまったんでしょう。

 鏡を見て、「あなたは美しい、あなたは素晴らしいと言い続けていたらそうなれますよ」といった自己催眠をうまくやり過ぎてしまったとも言えます。

 ですが、そろそろ、見ている方は飽きてくると思います。記者会見を見ていると、トランプは冷静さを失いつつありますし。

小田嶋:昨日、俺、ABCで見ていたけど、ひどかったです。記者に向かって「黙れ」「座っていろ」みたいな感じで、返事もせずに去っていったでしょう。

渡辺:彼が名を売った「アプレンティス」は、最後に本人が放つ「ユー・アー・ファイアード(お前はクビだ)」が決め言葉でした。水戸黄門的に、ばばーんと。そこに威厳があったわけですよ。けれども、質問から逃げる姿はかっこ悪いですよね。

小田嶋:水戸黄門の最後で印籠を出せなくて、「助さん格さん、もう引き上げますよ」と逃げちゃうみたいな。

渡辺:それだと水戸黄門の魅力台なしですよね(笑)そういう、かっこ悪いところが見えてくると、有権者も変わるんじゃないでしょうか。ロシア問題もありますし。

 もっとも、たとえトランプが弾劾・罷免されるようなことになっても、今の共和党は泥沼状態です。民主党のほうも打倒トランプでまとまるどころか急進派が党を分断しかけていて、まったく油断はできません。その辺は本を読んでいただければ(笑)。

このコラムについて

著者に聞く
「著者に聞く」の全記事
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/book/15/101989/031500021


 

経済学で考える「ふるさと納税」

「日経ビジネスベーシック」から

今回のキーワード:機会費用
2017年3月17日(金)
飯田 泰之
この記事は、「日経ビジネス」Digital版に掲載している「日経ビジネスベーシック」からの転載です。連載コラムは「飯田泰之の『キーワードから学ぶエコノミクス』」。記事一覧はこちらをご覧ください。詳しい説明はこちら 。

 経済学の基本原理は、「人々はインセンティブに基づいて行動している」というものです。

 インセンティブ、というと偉そうですが、要は損得感情に基づいて動いているというわけです(「インセンティブ」そのものについては、日経ビジネスベーシックの連載から、こちらをご参照ください)。

 このように書くと、「ああ、やっぱり経済学は金銭的な損得だけを考える、非人間的な学問なんだね」と思われてしまうかもしれませんが、それは誤解です。損得勘定は、お金だけの話ではありません。

 経済学においては、「損」も「得」も、個々の人が持っている“主観的な評価”で決まると考えます。当然そこには心理的、社会的な損得も含まれることになるのです。そのなかで、今回は「損」について考えてみましょう。

 経済学において判断の基準となると考える費用・コストについて、経済学用語と日常用語の間にはちょっとした違いがあります。例えば、3000円の飲み会に出席するコストはいくらでしょう?

 「そんなの3000円に決まっているじゃないか」と思われるかもしれません。しかし、本当にそうでしょうか?


飯田泰之(いいだ・やすゆき)
明治大学政治経済学部准教授
1975年東京生まれ。マクロ経済学を専門とするエコノミスト。シノドスマネージング・ ディレクター、規制改革推進会議委員、財務省財務総合政策研究所上席客員研究員。東京大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。著書は『経済は損得で理解しろ!』(エンターブレイン)、『ゼミナール 経済政策入門』(共著、日本経済新聞社)、『歴史が教えるマネーの理論』(ダイヤモンド社)、『ダメな議論』(ちくま新書)、『ゼロから学ぶ経済政策』(角川Oneテーマ21)、『脱貧困の経済学』(共著、ちくま文庫)など多数。
 飲み会に参加するコストは参加費だけではありません。飲み会に参加せずに残業していたならば得られたであろう残業代、その時間を使って他のこと(デートなり、勉強なり)をしていたら得られたであろう便益……これらの全てを犠牲にした上、さらに3000円を支払ってあなたは飲み会に参加することになるのです。このように、ある選択の裏で犠牲になるモノ・コト・カネを含めた費用が「機会費用」です。

 ちなみに、経済学の入門編では、教師は必ず機会費用の話をすることになっています。

 それはなぜか。もちろん重要だからなのですが、それ以上に経済学者はこの機会費用の説明が大好きなのです。

 経済学の父、というとアダム=スミス(英1723−1790、主著『国富論』)と相場が決まっている…ような気がしますが、スミスの議論と現代の経済学にはかなりの距離があります。その著作も道徳や倫理に関する話題や、今日ではむしろ経営学に分類されそうな話も多く、いわゆる「経済学」という感じはうけません。数学的なモデルを立てて、そこから政策提言を導くという意味での経済学はリカード(英1772−1823)に始まるといった方がしっくりきます。

 リカードの主要業績である「比較優位説」で発見されたのがこの機会費用の概念です。現代の経済学が生まれたきっかけが機会費用の発見というわけですから、なぜ経済学者がこの機会費用の概念を大切にするか、ご理解いただけるのではないでしょうか(学生たちの思い込みの意表を突けるので、話していて楽しいこともあるかもしれませんが…)。

 それはさておき、日常用語の費用は単に金銭的な負担だけを指し、経済学における費用はその裏側で犠牲になるものまで含めて考えているわけですから、むしろ「金銭以外にまで注意を払っているのは、むしろ経済学の方だ」と言ってよいかもしれません。そして、この機会費用に注目すると、ビジネスや政策に関する見方も大いに変わってくるのです。

 例えば、ごく身近で機会費用の意識が役立つのは「会議のコスト」でしょう。

 スタッフをあつめて長々と近況報告をし、参加者のほとんどが発言しない会議。そのコストは日常用語で言うならば「0円」ですね。会議の開催で、直接お金はかかっていませんから。しかし、この会議の存在によって後回しになる業務、誰も真剣には読まない会議資料を作る時間、そういった機会費用を考えると、「(ムダな)会議ほどコストの大きい行事はない」というケースは大いにありそうです。

 見落としてしまいがちな会議の機会費用を忘れないために、会議参加者たちの時給換算した給料総額を、会議の最初に示すというのはどうでしょう。「今回の会議は1時間あたり10万円かかっています」と宣言してから始まる会議ならば、実のある議論をしないと損だという意識を明確化できるのではないでしょうか。そして、それ以上に会議そのものが減少するでしょう。

 政策についても、機会費用の意識によって見えてくる風景が変わることがあります。ここでは、近年拡大著しいふるさと納税を例に考えてみましょう。

 ふるさと納税は、地方部の財政収入にとって重要な役割を果たしていると思われている人が多いようですが、本当にそうでしょうか。

 ふるさと納税で財政収入を集める際のコストは、返礼品の代金だけではありません。ふるさと納税の担当者をおいて、寄付者からの連絡に答え、時に返礼品の確保に奔走する……ふるさと納税は市役所等の職員の時間という機会費用を大きく消費します。寄付件数がさして大きくない多くの自治体は落ち着いて計算してみる必要があるでしょう。よくよく考えてみたら、「担当者に外でめいっぱいアルバイトをしてもらってその時給を役所に納めてもらった方がマシ」という自治体さえあるのではないでしょうか。

[3分で読める]ビジネスキーワード&重要ニュース50

(日経ビジネスベーシック編)
 今さら聞けないけど、今、知っておきたい――。ネットや新聞、テレビなどで日々流れている経済ニュースを読みこなすための「ビジネスパーソンのための入門編コンテンツ」がムックになりました。

 新進気鋭のエコノミスト、明治大学政治経済学部准教授・飯田泰之氏による「2017年の経済ニュースに先回り」のほか、「ビジネスワード、3ポイントで速攻理解」「注目ニュースの『そもそも』をすっきり解説」「日経会社情報を徹底活用、注目企業分析」「壇蜜の知りたがりビジネス最前線」などで構成されています。

 営業トークに、社内コミュニケーションに、知識として身につけておきたい内容が、この一冊に凝縮されています。


このコラムについて

「日経ビジネスベーシック」から
このコラムでは、「日経ビジネスBasic」に掲載した記事の一部をご紹介します。日経ビジネスBasicは、経済ニュースを十分に読み解くための用語解説や、背景やいきさつの説明、関連する話題、若手ビジネスパーソンの仕事や生活に役立つ情報などを掲載しています。すべての記事は、日経ビジネスの電子版である「日経ビジネスDigital」を定期購読すれば無料でお読みいただけます。詳しくはこちらをごらんください。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/041300033/031500020/?  

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