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30代半ばの女性社員に訪れる見えない定年――「35歳標準労働者・男性」の呪縛(wezzy)
http://www.asyura2.com/17/hasan122/msg/794.html
投稿者 赤かぶ 日時 2017 年 8 月 01 日 03:07:40: igsppGRN/E9PQ kNSCqYLU
 

          Photo by National Eye Institute from Flickr


30代半ばの女性社員に訪れる見えない定年――「35歳標準労働者・男性」の呪縛
http://wezz-y.com/archives/49533
2017.07.31 wezzy


 自己都合退職を迫られた女性エンジニアが、ツイッターで話題となっている。勤務先は伏せられているが、「誰もが知っている大企業」ということだ。ツイート主は、そのエンジニアを「妹」と呼んでいる。ツイート内容がすべて事実であると仮定しての話だが、ツイートから感じられるジェンダーへの鋭敏さを見る限り、ツイート主は姉である可能性が高そうだ。

ある大企業に勤める女性エンジニアが上司から『希望退職』を迫られた…その理由が酷すぎる「女にこれ以上給料は出せない」「先例がない」

 人員削減の際、あるいは退職させたい社員がいる際に自己都合退職を迫ることは、特に大企業で広く見られる。退職する本人にとって自己都合退職はデメリットが多く、逆に会社都合退職となることによるデメリットは全くない。会社都合退職の場合、待機期間はなく退職直後から失業給付を受けることができ、期間も長い。35歳・勤続13年とすれば210日となる(自己都合の場合は120日)。しかし大企業であればあるほど、会社都合退職とすることは困難になる。雇用者の義務を果たしていたかどうかが厳しく問われるからだ。

 そこで採られるのが、退職願を提出するしかない状況に追い込む作戦だ。孤立させ、イジメの対象とし、出社しても仕事をさせず(ただし全く仕事をさせないと違法となるので適法といえる範囲で)、業務上横領などの濡れ衣を着せて「退職願を出してくれたら懲戒解雇だけはしなくて済む」と泣き落し、血縁者や交友範囲も使って勤務継続断念に追い込み……。あの手この手で「心を折る」のだ。

 その視点から見ると、女性エンジニアに勤務先の上司らからぶつけられたという「女性にはこれ以上の給料は出せない(=昇給がない)」「女がエンジニアなんかするからだ。さっさと家に入ってしまえ」といった言葉の背景には、もちろん、社風やその上司たちのホンネという背景が考えられる。しかし同時に、自己都合退職させる作戦のために選び抜かれた武器、言い換えれば「最も効率的に心を折ることができそう」という見込みのもとに発せられた言葉でもあるだろう。

35歳で男女の賃金格差はあからさまになる

 女性エンジニアの経歴や、それまでの処遇は、ほとんど分からない。Togetterにまとめられたツイートに含まれている情報は非常に少ない。しかし、おそらくは大学を卒業して就職し、エンジニアとして成長しつづけてきたのだろう。年齢は何歳なのだろうか?

 Togetterまとめには、女性エンジニアの年齢のヒントとなる文言のいくつかを見出すことができる。まず「結婚も諦めた」とある。結婚しない選択が「諦めた」という過去形となりうる年齢は、早くとも30歳程度以上だろう。また「妹の給料<<後輩の男性の給料とも聞いて、さら腹立たしい。ボーナスも」(原文ママ)とある。日本的大企業の場合、毎年の昇給にあたっての微妙な差・ボーナス査定での上司の胸先三寸・結婚している男性を主対象とした家族手当といったものが積み重なり、同一条件の正社員の年収の男女差は拡大しつづけるのだが、この他ならぬ経済的性差別が明白になりやすい年齢がある。「35歳」だ。

 おそらく女性エンジニアは、35歳前後の年齢であろうと思われる。もしかすると35歳より少し若いのかもしれない。企業には「女性には35歳より前に退職してもらわなければ」というプレッシャーが働く場面がある。35歳まで勤務されると、賃金の男女差があからさまになってしまうからだ。

 多くの日本的大企業の労働組合は、「35歳標準労働者賃金」「30歳標準労働者賃金」を定めている。1990年代までは「35歳男性・高卒・4人世帯(妻・子ども2人)」のみに対して定められていたが、現在は学歴別に定められる場合もある。最終学歴となる学校を卒業してすぐに就職し、そのまま同一企業に勤続し、標準的な昇給・昇進をし、35歳または30歳になった場合の賃金だ。「所定内」と記載されていれば給与本体とボーナスのみであるが、「所定内」と明記されていない場合には、家族手当・残業手当を含め、男性が「大黒柱」であることに関連する上乗せが含まれることになる。すると、男女の年収差が性差別によるものなのか手当によるものなのかを明らかにすることは困難になる。

 なお現在の20代・30代では、高卒で入社した正社員があまりにも少数で、「標準」として参照することが不可能な場合もある。また歴史の浅い企業では、中途採用者が多く、「新卒入社で勤務を継続して35歳(30歳)」という社員が極めて少ない場合もある。

 いずれにしても労働組合があれば、同業労組の「35歳(30歳)標準労働者賃金」を参照して、その企業の「35歳(30歳)標準労働者賃金」を定めることになる。この賃金は、少なくとも男性社員が35歳(30歳)になる時には守られることが多い。標準労働者賃金が存在する場合、たいていは労働組合が機関紙等で公表する。自分の給料が標準労働者賃金と比べて高いか低いかは、誰もにとって一目瞭然。であるから、「納得されないほどの不公平感は発生しないように」という配慮がなされる。なお35歳ならば、昇進が早ければ課長以上の管理職となっている場合もあるが、この場合は組合員ではなくなり、従って「標準労働者賃金」の制約も受けなくなる。

 ここで暗黙の了解として考慮されているのは、「35歳の男性なら結婚していて子どももいるだろう」という予想、あるいは「35歳の男性は、結婚できて妻子を養える給料を稼いでいなくては」という期待だ。女性が、結婚して夫と子どもを支える大黒柱になることは期待されない。

 実際に結婚して配偶者を扶養するようになれば(配偶者が扶養控除の範囲内で就労していたとしても)、大企業であれば、家族手当などの名目で、給料の上乗せが行われる。ボーナスの査定に当たって、妻子を養っている40代の管理職は、妻子のいる35歳の男性部下・独身の35歳の女性部下の成果が同程度であれば、自分と同じ家庭のプレッシャーを背負っている男性部下に、より好ましい査定を行う可能性がある。単身の女性部下に対しては「結婚していないから家庭の苦労がない分だけ成果が上げやすい」という視点から厳しい査定を行う可能性もある。

 言い換えれば、よほどの好待遇を受けていない限り、女性は35歳時点で(もし勤続できていれば)、自らが受けている性差別を源泉徴収票と「35歳標準労働者賃金」によって思い知ることになってしまうのだ。「所定内」と明記されていない場合でも、家族手当の有無では説明できない、年収で100万円以上の大差であることが多いであろう。

更新されない大企業の価値観

 これらは私の妄想ではなく、私が電機大手の正社員であった1990年代の10年間の実経験であり、社内で耳にした会話であり、自分にぶつけられた言葉であり、さらに地域社会や血縁社会の中で聞いてきた言葉そのものでもある。思い返して、絶望的な気持ちになる。いかに男性社会は強固で変わりがたいものなのか。

 私が小学生・中学生だった1970年代、親にあたる世代には、同じ企業で働き続ける独身の女性同僚に対して「家庭の苦労がない分だけ不当にラクをして仕事で成果を上げられる」という憤懣の陰口を吐き散らす男性もいた。その男性は戦争で父親を失い、辛酸を舐めつつ大学を卒業して就職した。残された母親を養いつづけることは、男性にとっては疑いの余地もない必然だったが、結婚すると家庭は深刻な嫁姑の対立の場となり、男性が安らげる場とはならなかった。しかし、その独身の女性同僚も、戦争で父親を失っており、母親を養うために仕事を手放せない立場にあった。男性との違いは、仕事を失わないためには結婚せずにいるしかないという点であった。

 焼け跡闇市世代にあたるこの人々は、現在80歳代である。彼ら彼女ら、主に彼ら――高度成長期の男性会社員であった人々――の職業観・家庭観は、ほとんど疑われないまま、現在70歳代に突入しようとする団塊世代へと受け継がれた。現在の50歳代は、1985年の「男女雇用機会均等法」成立の影響を若干は受けているが、既存の企業に就職して定年までの会社員生活を全うしたいと望むならば、焼け跡闇市世代・団塊世代の職業観・家庭観に適応せざるを得ないことが多かっただろう。

 かくして、大企業の中の人々の職業観・家庭観は、ほとんど揺るがず、戦前同様に維持されることとなった。そして、今回話題となったツイートを通じて、「まだそんな会社が残っているのか」と驚かれることになる。私から見れば、驚くべきことではない。必然だ。

すでに聞こえる「自己責任」の声

 冒頭の女性エンジニアの詳細は分からない。しかし30代と思われる彼女は、おそらく事実上の「定年」に達してしまったのだ。その前の数年間は、事実上のシニア期にあったのだろう。男性会社員には、概ね45歳以上で、業務と責任だけが増えて報酬は増えなくなり身分の不安定性の高まるシニア期が訪れる。男性社員との激しい賃金差が語られているところを見ると、彼女は20代でシニア期の男性社員と同じ処遇を受けていたのかもしれない。

 そして今、見えていなかった「定年」がやってきた。どこにも書かれておらず、知ることも備えることもできず、労使交渉によって延長することもできない「定年」が。

 かつての日本企業に存在した男女別定年は、1966年の日産自動車女子若年定年制事件最高裁判決以後(女性の定年を男性より5年若く定めていた)、明文化された規定としては存在しえなくなっている。しかし現在も、「実体として、さまざまな形で生き残っている」としか言いようがない。むしろ、堂々と明文化されていた時期よりも対処が困難になっているのかもしれない。

 女性エンジニア自身は、培ってきた職務経験とスキルを最大限に活かして、まずは自分自身のキャリア継続へと全力を尽くすしかないだろう。将来に、順風満帆ばかりが待ち受けているわけはなく、困難に直面する時も失意の時もあるだろう。そのたびに、現在の勤務先である有名大企業を退職したこと・その企業に就職したこと・そういう職業コースを志向したこと・大学や学部を選択したこと……など過去のすべてを「自己責任」と責める声に苦しめられる可能性がある。高齢期には、会社に迫られて30代で退職したことに関連する貧困を「自己責任」と嘲笑されるかもしれない。

 私には、その可能性が見える。というより、私自身が直面しつづけてきている問題だ。そして私には、その可能性を減らすこともなくすこともできそうにない。

 ただ、日本労働組合総連合会(連合)の「連合・賃金レポート2016−賃金水準の持続的な上昇へ−」を見れば、日本の女性全体・日本の就労している女性全体・日本の女性個々人が、希望と無縁なこの状況をもたらしているわけではないことが分かる。たとえば6節「標準労働者賃金の推移」で男性労働者の賃金のみが20ページにわたって語られているのに比べ、8節「男女間賃金格差」は10ページしかない。そして、19節「短時間労働者の人員と労働条件」は全12ページにわたって女性がほぼ主役なのだ。

 むろん連合は、この状況を「しかたないじゃないか、これが現実だ」と手放しで肯定しているわけではない。日本は、一人の働き手が一家の大黒柱として家族を支えることが、そもそも収入面で不可能な社会になりつつある。一方で、大黒柱の夫・内助の功の妻モデルの家庭も存在する。現在求められているのは、どのような家庭にも新たなリスクをもたらさず、特に子どもの成長や教育にリスクをもたらさずに、「大黒柱」を前提とした制度を変革することだ。しかし、長年の蓄積を持つ賃金制度を急激に変革することは、極めて難しい。どうすれば実現できるのだろうか? 何から始めればよいのだろうか?

 まず目先の問題としては、男性も女性も、個人レベルで現実の制約を乗り越える努力と工夫を重ねるしかない。もちろん、社会の問題である以上は社会で解決すべきなのだが、社会に影響と変化を及ぼす機会は多くはない。個人レベルでの自己救済と社会変革の二刀流で、しぶとく生き延びる道を探るしかなさそうだ。

 本稿の締めくくりとして、冒頭のツイート主の妹さんである女性エンジニアに、私の経験と今後へのメッセージを伝えたい。

 53歳の私はたぶん、彼女と似たような職場環境を経験し、36歳で同じように追い出された。文字通り、心身とも生き死にが問題になるレベルまで追い詰められながら、私は「35歳標準労働者賃金」と自分の年収の差を縮めようとした。職場にタテマエ上は性差別がないことになっているのなら、自分の年収にも性差別はあってはならないはずだ。

 結局のところ、その努力によって私は自己都合退職を事実上強制されることになったが、「せめて、源泉徴収票に明示された性差別を、我が目で見よう」と考えた。そして、35歳を過ぎる時点までの勤続にこだわり、36歳で退職した。

 彼女には「本当に、よく頑張られましたね」としか言えない。とにかくお互いに、これからの人生を生き延び、生き抜くことが課題だろう。

 彼女が高齢になるころ、日本では「年金暮らし」が死語になっている可能性が高いだろう。高齢女性エンジニアとなっているかどうかは分からないが、職業人として活躍しつづける彼女の活躍を、さらに高齢のババアジャーナリストとして眩しく眺めていたいなあ、と私は思う。

 女性エンジニアである彼女に、この記事を読んでいるすべての方々に、そして私に、心楽しく充分な長生きのできる高齢期があり、自分の人生を振り返って「よく生きたよね、まあまあの人生だったかな」と満足してこの世を去る幸せな最期があることを夢見ながら、本稿を結ぶ。
(みわよしこ)

みわよしこ(三輪佳子)
1963年福岡市生まれ。東京理科大学大学院理学研究科修士課程(物理学)を修了後、1990より電機メーカの企業内研究者として10年間勤務。在職中より著述活動を開始。2000年の退職以後は著述活動に専念、科学・技術全般に関する著述活動を行う。2005年、運動障害が発生して中途障害者に(2007年に障害者手帳を取得)。その経験を踏まえ、2011年より社会保障・社会福祉についても執筆を開始。著書は「生活保護リアル」(2013年・日本評論社)、「おしゃべりなコンピュータ 音声合成技術の現在と未来(2015年・共著・丸善出版)など。


 

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