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政府が打ち出す「生涯現役社会」の破壊度 働き方の未来「日本型雇用制度」は終焉へ 老農林族は女子高生をどう激励したか
http://www.asyura2.com/18/hasan128/msg/770.html
投稿者 うまき 日時 2018 年 10 月 12 日 07:19:02: ufjzQf6660gRM gqSC3IKr
 

(回答先: 米中、通商対立の中で各国の支持取り付け目指す−IMF・世銀総会 中国を操作国に認定なら世界の市場さらに混乱へ、為替報告 投稿者 うまき 日時 2018 年 10 月 11 日 23:30:44)

政府が打ち出す「生涯現役社会」の破壊度
働き方の未来
「日本型雇用制度」は終焉へ

2018年10月12日(金)
磯山 友幸


「生涯現役社会」に向けて、シニア層に対する期待は高まる一方(写真:PIXTA)
労働人口の確保が経済成長の焦点
 安倍晋三首相の自民党総裁としての3期目がスタートし、内閣改造を経て第4次安倍改造内閣が発足した。2012年末に政権を奪還して第2次安倍内閣が発足して6年。アベノミクスは一定の効果を収め、就業者数も雇用者数も過去最高を更新している。果たして安倍首相はアベノミクスの次のステップとして何を行おうとしているのか。

 首相就任後の2013年に打ち出したアベノミクスの第1弾は「3本の矢」だった。(1)大胆な金融緩和、(2)機動的な財政出動、(3)民間需要を喚起する成長戦略――を掲げ、日銀による「異次元緩和」などが行われた。円高だった為替水準が是正された結果、輸出産業を中心に企業業績が大幅に改善、過去最高の利益を上げるに至っている。また、震災復興や国土強靭化を旗印に公共投資も積極化し、建設需要を底上げした。3本目の矢である「成長戦略」については、「遅々として進まない」「期待外れ」といった厳しい評価が聞こえるものの、農業や医療など「岩盤規制」と呼ばれた分野で、曲がりなりにも改革が動き出している。

 2016年に自民党総裁2期目に入ると、アベノミクスの第2弾を打ち出した。「一億総活躍社会」を旗印に、女性活躍促進や高齢者雇用の拡大などを目指した。「働き方改革」が内閣の最大のチャレンジと位置付けられた。

 65歳以上で働いている高齢者が800万人を突破、女性15歳から65歳未満の「就業率」も遂に70%に乗せた。働き方改革の議論では、電通の新入社員の自殺が労災認定された時期と重なったこともあり、「長時間労働の是正」「同一労働同一賃金」に議論の中心が置かれた。

 労働基準法などの改正で、繁忙期の特例でも残業時間を最長で「月100時間未満」とすることが罰則付きで決まるなど、労働者側にとっても画期的な法改正が実現した。これまでは残業時間の上限は労使交渉で合意(サブロク協定)すれば実質的に青天井だった。

 働き方改革の本来の目的は「生産性」の向上にあったが、結果的には女性や高齢者など労働力を増やすことで経済成長につながる構図になった。今後、人手不足が深刻化していく中で、どうやって労働人口を確保していくのかが焦点になっている。

 そんな中で、安倍総裁の3期目がスタートした。さっそく首相が議長を務める「未来投資会議」が10月5日に開かれ、2019年から3年間の「成長戦略」について議論された。

今後の論点は「全世代型社会保障」
 会議に資料として提出された内閣官房日本経済再生総合事務局の「成長戦略の方向性(案)」では、こうした問題意識がつづられている。資料にはこうある。

 「潜在成長率は、労働力人口の高まり等により改善し、また、労働生産性は過去最高を記録しているものの、労働生産性の引上げが持続的な経済成長の実現に向けた最重要」であるとし、(1)AI(人工知能)やロボットの活用による一人ひとりが生み出す付加価値の引き上げ、(2)新陳代謝を含め資源の柔軟な移動を促し、労働生産性を引き上げる、(3)地域に生活基盤産業を残すための地方支援――に力を入れるとした。そのうえで、「アベノミクスの原点に立ち返り、第3の柱である成長戦略の重点分野における具体化を図る」としている。

 こうした方向性を確認したうえで、今後の論点として、「全世代型社会保障への改革」というキャッチフレーズを打ち出した。安倍首相も会見で、「安倍内閣の最大のチャレンジである全世代型社会保障への改革」という言い方をしており、「3本の矢」「1億総活躍社会」「働き方改革」に続く、表看板になりそうだ。

 もっとも、全世代型社会保障という言葉は分かりにくい。いったい何をやろうとしているのか。

 同会議に世耕弘成経済産業相が出した「生涯現役社会の実現に向けた雇用・社会保障の一体改革」という資料が分かりやすい。現在、安倍官邸の経済政策は経産省からの出向者などが中心となってまとめており、世耕氏のペーパーももちろん連動している。

 「生涯現役時代に対応した社会保障制度改革」と「生涯現役時代に対応した雇用制度改革」を並列に並べて、同時に実現していくとしている。

 社会保障改革の柱は「年金改革」と「予防・健康づくり支援」、一方の雇用制度改革は「高齢者雇用の促進」と「中途採用の拡大」だ。つまり、高齢者にいつまでも働いてもらえる雇用制度を整備することで、社会保障制度が抱える年金や健康保険の財政問題を解消していこうというわけだ。

 高齢者雇用の促進では何を考えているのか。経産相の資料には、4つが列記されている。

65歳以上への継続雇用年齢の引上げに向けた検討
高齢者未採用企業への雇用拡大策
AI・ロボット等も用いた職場環境整備
介護助手制度の利用拡大
 最も大きいのが継続雇用年齢の引き上げであることは言うまでもない。現在、高年齢者雇用安定法で、定年を迎えても希望すれば65歳まで働ける制度の導入が企業に義務付けられている。定年を65歳まで引き上げたり、定年自体を廃止する選択肢もあるが、多くの企業が定年になった段階で雇用条件を見直して嘱託などとして再雇用する「継続雇用制度」を利用している。希望者全員を継続雇用する義務があるが、条件が合わずに本人が希望しなければ雇用しなくてもよい。

 安倍内閣は来年以降の「成長戦略」の一環として、この65歳という年齢を引き上げようと考えているのだ。政府内には65歳定年引き上げを義務付けたうえで、70歳までの継続雇用とすべきだという意見がある一方で、単純に継続雇用の年齢を65歳までから70歳までにすべきという意見もある。

 世耕氏の資料ではこれと対をなす「年金改革」として、次の2つを掲げている。

年金受給開始年齢の柔軟化
繰下げの選択による年金充実メリットの見える化
 つまり、年金受給開始を選択制にして、65歳になったらすぐにもらうのではなく、働けなくなってからもらうようにする。一方で受給する年齢を先延ばしすれば、その分メリットがあることを分かりやすく見せる、というわけだ。

「新卒で企業に入れば一生安泰」は幻想
 現在、年金の支給開始年齢は徐々に65歳に引き上げられている。継続雇用制度が65歳まで義務付けられたのは、定年退職しても年金が受け取れず「無収入」になる人を無くそうとしたからだ。将来、政府は年金支給開始を70歳にしたいと考えれば、当然、継続雇用制度の年齢を引き上げなければ「無収入」者が生まれる。

 もうひとつは、生涯現役で働くことによって、健康を維持し、社会保障のもう一つの頭痛の種である医療費の増加に歯止めをかけることを狙っている。世耕ペーパーにはこうある。

がん検診等の通知に個々人の健康リスクを見える化し、健診受診率を向上
健康スコアリングレポートにより従業員の健康状態を見える化し、経営者の予防・健康づくりを促進
投資家による健康経営へのシグナル(健康経営銘柄への投資を促進)
保険者による生活習慣病や認知症予防のインセンティブ強化
保険者によるヘルスケアポイント導入を促進し、ウェアラブル端末等を活用した個人の予防・健康づくりを支援
 厚生労働省の施策のようだが、経産相の資料である。年間42兆円を突破した医療費を抑制しなければ、財政はますますひっ迫する。

 一方で、高齢者を雇用し続けることを企業に義務付けると、企業自身の生産性が落ちることになりかねない。高齢者が企業に居座ることで、若年者の活躍の場が奪われることになりかねないからだ。

 それを防ぐには、日本型の終身雇用年功序列を抜本的に見直さざるをえなくなる。「中途採用の拡大」の中にも、「職務の明確化とそれに基づく公正な評価・報酬制度の導入拡大」あるいは、「40歳でのセカンドキャリア構築支援」といった施策が並ぶ。

 会議で安倍首相もこう述べている。

 「あわせて新卒一括採用の見直しや中途採用の拡大、労働移動の円滑化といった雇用制度の改革について検討を開始します」

 中西宏明・経団連会長が「就職活動指針」の廃止を打ち出したが、新卒で企業に入れば一生安泰、という制度を維持することはもはや難しくなっている。厳しいようだが、生産性の上がらない社員を抱え続ける余力が企業になくなり、優秀な社員には国際水準並みの高給を払わないと逃げられてしまう時代に突入しつつある。

 安倍首相は早くから規制を阻害している「岩盤」として、農業、医療、雇用制度を挙げて批判してきたが、いよいよ3期目で最大の岩盤ともいえる「日本型雇用制度」に手を付けることになるのだろう。人々の生活に結びついており、既得権を持つ層も少なくないだけに、議論が本格化してくれば、批判の声が上がるに違いない。2019年6月にも閣議決定する成長戦略「未来投資戦略」の中にどれだけ具体的な指針として盛り込み、3年間の行動計画として描けるかが焦点になる。


このコラムについて
働き方の未来
人口減少社会の中で、新しい働き方の模索が続いている。政官民の識者やジャーナリストが、2035年を見据えた「働き方改革」を提言する。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/021900010/101100078


 

老農林族は女子高生をどう激励したか

思いは今も「世界に通用する農業」

ニッポン農業生き残りのヒント

2018年10月12日(金)
吉田 忠則

 数年前、ある研究機関のチームから「農業問題で相談したいことがある」という連絡があった。「コメの関税を撤廃すべきだというリポートを書きたい」。そのために知恵を貸して欲しいというのが相談の趣旨だった。

 今のように高関税でコメを守ることの是非については、議論の余地が十分あるだろう。手厚い保護は、えてして産業をかえって弱体化する。農業はその象徴かもしれない。だが、いきなり「ゼロ」にすることにどんなリアリティーがあるのか。多くの国は、何らかの形で農産物を守っている。

 「自ら進んで自国の弱い産業を国際競争にさらす国があるだろうか」。そんな疑問を口にすると、「この問題は経済学的にはとっくに決着がついている」と強い口調で否定された。おそらくは英国の経済学者、リカードの「比較優位論」が念頭にあったのだろう。各国がそれぞれ優位にある産品を作り、自由貿易を推進することで経済的な厚生が高まる――。

 そして、トランプ米大統領が登場した。アメリカが仕掛けた貿易戦争に正面から対抗し、中国は米国産の大豆に報復的な高関税をかけた。あおりを受け、値段が下がった米国の大豆が欧州に流れ込み、中国が輸入先としてシフトしたブラジル産が値上がりした。世界の穀物事情は比較優位論とは別の論理で、予想もしなかった変動に直面している。経済学的には決着したのかもしれないが、現実の経済の世界では出口の見えない混迷に突入している。

 ではその傍らで、日本の農業に何が起きているか。「農業は衰退の危機にある」という警鐘は、いかにも「オオカミ少年の寓話」的に響くフレーズだ。日本はコンビニやスーパー、レストランに農産物があふれ、しかもまだ食べられるものを捨てている「飽食の国」。食料に不安を感じることはまずない。だがその背後で、国内の農地の荒廃が年々確実に進んでいる。

 オオカミが本当にやって来る日はないと、誰が保証できるだろう。経済学的には「それでも自由貿易が理想」と主張すればすむのかもしれない。だが、食料の潜在的な供給力が日々減り続けるこの国の現実を考えると、いたずらに危機をあおることは戒めつつも、何らかの対処策を考えるべきだと思わざるを得ない。

 日本の農業はこれからどんな針路を選べばいいのか。それを考えるためのヒントは、過去の農政の中にある。高齢農家のリタイアに応じ、担い手への農地の集約がうまく進めばいいが、実際に起きているのは、産地の弱体化に伴う「生き残り組」の競争力の向上だ。その狭間で、耕作放棄が増え続ける。農政のどこがうまくいき、何に失敗してこうなったのか。

 今回は、自民党で長く農政に関わってきた谷津義男元農相のインタビューを紹介したい。谷津氏は1986年の衆院選で初当選し、当時の竹下登幹事長の指示で「農林族」の道を歩み続けた。竹下氏から「役人に負けちゃダメだ」と諭され、欧米各国の農村を回り、知見を広めた。すでに議員の立場は退いているが、今も国内外の農業現場を回りながら発言し続けている。

 過去の農政をふり返る文脈の中で、自民党の農林族は迷走の責を最も負うべき存在と思われるかもしれない。実際、谷津氏は、環太平洋経済連携協定(TPP)がまだ米国主導で動いていたころ、自民党の会合で「一番いけないのは、私を含め農林族だ。二の舞いをやってはいけない」と発言した。無駄な補助金の大盤振る舞いが起きるのを防ぐためだ。このとき谷津氏が問題視したのは、ガット・ウルグアイ・ラウンドの市場開放に伴う巨額の対策費だ。

 今回のインタビューでは、農林水産省が2005年に発表した「食料・農業・農村基本計画」を焦点にした。この計画は「担い手の明確化と支援の集中化・重点化」をうたい、宣言通り2年後に大規模農家に支援を集中する施策を実行した。計画の策定を主導したのは農水省と食料・農業・農村政策審議会、そして農林関係議員たちだ。

「バラマキ」との批判が多かった農政史上で、支援する農家を明確に選別する政策の導入は画期的だった。規模で切ることの是非はともかく、専業と兼業と主業と副業が混在する日本の農業の実情を整理し、不連続な未来をリスクを負って実現しようとした。だがこの施策は、すべてのコメ農家を対象にする補助金を掲げた民主党に参院選で敗北し、瓦解した。

 元農相の立場で自民党農政の中心にいた谷津氏は当時、何を考え、どんなことを主張したのだろうか。群馬県館林市の自宅を訪ねた。


往時の農政論議の激しさを強調する谷津義男元農相(群馬県館林市)
自民党内でも大議論に
2005年に基本計画を作ったとき、支援する農家を規模で選別することに対して自民党内に異論はなかったのですか。

谷津:大議論になったよ。問題の根底には、世界貿易機関(WTO)の協議を背景にした自由化論議があった。WTOの協議は決裂したが、農業問題が決着する可能性があったので、そういう議論が始まった。自民党内にも、国際派と言われる議員の中には推進派がいた。
 自分たちは「面積で切るのは問題だ」と言った。支援の線引きとされたのは4ヘクタールだが、当時は群馬県内にもそんな農家は何人もいなかったからだ。農家が農地を細かく相続していて、農地を貸し借りして大きくまとめようとしても、なかなかうまくいっていなかった。

2007年の参院選で民主党に負け、面積で切るやり方を変えたわけですが、事前に政治的に心配する声はあったのでしょうか。

谷津:あったよ。(農地の売買や貸借を仕切る)農業委員会からも「こんなことできるのか」という声が出ていた。いまなら5ヘクタールや10ヘクタールを借りてやっている人もいるが、当時はまだそこまで行っていなかった。いるにはいたが、まだ点。線にはなっていなかった。

農政は、地域の農家が集まって作る「集落営農組織」も、規模拡大を担うべき対象として後押ししてきました。

谷津:集団化はうまくいっていない。高齢化が進んでいるから、これからは悲劇的だよ。組織を作ったときの中心メンバーが60〜65歳だから、いまは85〜90歳。農村を守ろうということで始めたが、農家の多くは勤めに出て、健康維持のために土日に農業をやっている「父ちゃん、母ちゃん農業」。そんな人たちが農地を貸すはずがない。だから、「(規模で選別することに対して)むちゃなこと言うんじゃない」と大議論になった。

当時何が必要だったのでしょう。

谷津:あの時分、「細かい政策をからっぽにして、基本から作り直そう」と言った。農家が補助金を受けるやり方がちょこちょこたくさんあって、農家自身もよくわからなくなっていた。「だったら一回きれいに白紙にしたらどうか」ということを言ったが、農水省から「それは無理です」と言われた。

 農家が(植えるだけで補助金が出る作物があるので)収穫さえしないという問題が以前からあった。その点に関しても、「駄農を作るだけで、生産性はまったく向上しない」という議論があった。ただし、オーストラリアやアメリカには生産性ではかなわないから、「品質のいいものを作れ」と言った。

 農家は自分の頭で考え、例えばおいしいコメを一生懸命作る。手間がかかるから、そこにお金を出してもいいと思った。「父ちゃん、母ちゃん農業」を政策で応援することはやぶさかではないが、自分で考えて農業をやる人でないとダメだ。ただ口を開けてお金(補助金)が来るのを待っているような人はダメ。それが不得意なら、自分で考える人たちを支援する側に回ってほしい。

規模で選別することへの批判の関連で、大規模化が難しい中山間地は有機農法で野菜を作ることなどを提案していますね。

谷津:条件不利地は面積を広げることができないんだから、野菜などでおいしいものを作ったほうがいい。でも当時の議論で農協がそれに反対した。なぜかと言えば、農家はふつうにコメを作るのが一番楽だからなんだよ。野菜は手間がかかるから、なかなか作る気にならない。

 「品質のいいものを作って輸出したらいい。そっちにお金を出すべきだ」という話もした。今でも思っているが、面積は狭くてもいい。1ヘクタールしかなくてもいい。農協はすぐ「野菜は2割増産されると、半値になってしまう」といったことを言う。だったら輸出すればいいんだ。できるよ。輸出できるように、農協も(食品衛生管理の国際基準)の「HACCP(ハサップ)」の認証などを取ったらいいんだよ。

新しいものにも挑戦しないとダメ
2020年の東京五輪・パラリンピックを控え、農業も国際的な基準の認証を取ったほうがいいという機運が高まってきました。

谷津:一昨年、群馬県立の勢多農林高校(前橋市)に呼ばれ、講演した。「何でもかんでも覚えなくていい。これだけは人に負けないというものを持って欲しい」という話をして、その流れの中でハサップに触れた。

 そうしたら今年、勢多農林は安全基準の「アジアGAP(農業生産工程管理)」の認証を取得した。一昨年はまだGAPが今ほど注目を集めていなかったからハサップと言ったが、今はGAPだね。関係者から「おかげさまで取れました」っていう連絡が入った。うれしいことだねえ。

 勢多農林に行ってみて驚いたのは、女子生徒が大勢いるんだよ。衛生管理の話をしたのは、そういう面もあった。農業や畜産も大事だが、新しいものにも挑戦しないとダメだ。もし輸出を考えるなら、ハサップやGAPを取るしかない。そういう勉強をした生徒たちは、就職もしやすいだろう。

 農業高校を出て農業関係の仕事に就く人はほとんどいやしない。それではダメなんだ。「作るノウハウ」はみんな持ってる。これからの農業を担う人には専門的な知識をたたき込み、どう世界の舞台で活かしていくかを考えなければならない。そうでないと、これ以上農業所得を増やすのは限界だ。

これからの農政に何を望みますか。

谷津:ガラガラポンでもう一回やり直したほうがいい。農家や土地所有のあり方などを見渡して、その中から農政を立ち上げて欲しい。付け足し、付け足しではもうダメだ。今の農業の姿を中心に考えれば、これまでのくり返しになってしまう。ガラガラポンで考えを基本から変えたほうがいい。

2005年の議論でとくに誰を思い出しますか。

谷津:審議会のメンバーだった生源寺真一先生(現福島大学教授)とは大議論になった。規模で選別することに対してはとくに中山間地を例に挙げ、「無理だ。先生それは理想論だよ」って散々やった。当時先生が勤務していた東大にも乗り込んで行って議論したし、ホテルでみんなの前でも議論した。生源寺さんは人の話を聞く耳を持っていたし、農政には一番貢献した。生源寺先生に会いてえなあ。


谷津義男元農相と議論を戦わせた生源寺真一氏
応援すべきは品質のいい農産物の作る農家
谷津氏は2005年の基本計画をふり返りながら、農家を規模で選別することには反対した。ただし、すべての農家に補助金をばらまくべきだったと主張しているわけではない。「口を開けて補助金を待っている農家」を否定し、品質のいい農産物を作る農家を応援すべきだと強調した。

 10数年のときを経て、経営環境は劇的に変化した。当時、「選別」の基準にした4ヘクタールどころか、数10ヘクタールから100ヘクタール超の経営が続々と誕生している。だが、そうした経営で農地を覆い尽くし、食料の生産基盤を守るのは難しい。いま必要なのは、そこから先の議論だ。

 谷津氏は取材で「大議論があった」とくり返した。農業の現状に照らして、当時の議論の成果に疑問を持つ読者がいるかもしれない。だが、最近の農政は、立場を異にする当事者同士がガチンコで議論することがあまりにも少なすぎるように思う。生源寺氏もこの連載のインタビューで同じことを強調した(8月10日「本当につかみ合って喧嘩していた、経済界と農協」)。

 失われてしまった議論の焦点ははっきりしている。主要国はほぼ例外なく、自国の農業を政策で支援している。ならば、誰をどうやって応援し、日本の食料生産を担ってもらうのか。それでも守り切れない農地を、どう次代につなぐのか。「大議論」が必要なときではないだろうか。


自宅の応接間に飾ってある農相の「証し」(群馬県館林市)
【新刊紹介】
『農業崩壊 誰が日本の食を救うのか』
砂上の飽食ニッポン、「三人に一人が餓死」の明日
三つのキーワードから読み解く「異端の農業再興論」

これは「誰かの課題」ではない。
今、日本に生きる「私たちの課題」だ。

【小泉進次郎】「負けて勝つ」農政改革の真相
【植物工場3.0】「赤字六割の悪夢」越え、大躍進へ
【異企業参入】「お試し」の苦い教訓と成功の要件

2018年9月25日 日経BP社刊
吉田忠則(著) 定価:本体1800円+税


このコラムについて
ニッポン農業生き残りのヒント
TPP(環太平洋経済連携協定)交渉への参加が決まり、日本の農業の将来をめぐる論議がにわかに騒がしくなってきた。高齢化と放棄地の増大でバケツの底が抜けるような崩壊の危機に直面する一方、次代を担う新しい経営者が登場し、企業も参入の機会をうかがっている。農業はこのまま衰退してしまうのか。それとも再生できるのか。リスクとチャンスをともに抱える現場を取材し、生き残りのヒントをさぐる。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/252376/100900170/?  

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コメント
1. 2018年10月12日 20:31:04 : OO6Zlan35k : ScYwLWGZkzE[1552] 報告
2018年10月12日 塚崎公義 :久留米大学商学部教授
就活ルール撤廃、「誰も得しない」を災い転じて福となす方法
「就活ルール」の撤廃により 1年生から始める可能性も
Photo:PIXTA
経団連の中西宏明会長が10月9日、経団連が主導して就職活動の時期を決める「就活ルール」を廃止すると正式に発表し話題になっている。当面は、経団連に代わって政府と経済界、大学がスケジュールを維持するとされているが、もしも全面自由化になったら、何が起きるのか、久留米大学商学部で就職支援責任者を務める筆者なりの予想を示しておきたい。(久留米大学商学部教授 塚崎公義)

「就活ルール」の撤廃により
1年生から始める可能性も
 就活ルールが廃止されると、真面目な学生は、1年生のときから毎年、夏休みと春休みに就職活動をすることになるだろう。となると、4年間で数十社から百社以上を受ける学生も出るだろう。

 早期の就職活動は、一般的に「学業に支障が出る」との批判があるが、そうとは限らない。今は、「4年生の前半は講義より就職活動」という学生が多いが、就職活動が長期化すれば「学期中は講義、休暇中は就活」といったメリハリが可能になるからだ。

 しかしこれは、学生にとって大変な負担になる。最も準備が大変なのは「志望動機」だ。多数の企業で「御社が第1志望です。なぜならば…」と述べなければならないからだ。

 どういう業界なのか、なぜその業界を志望するのかということも重要だが、業界に多数の企業がある中で、なぜその企業を志望するのかという理由を理路整然と説明するのは至難の業だ。

企業にとっても学生にとっても
手間がかかるだけでいいことなし
 面接や筆記試験も、もちろん大変である。だが、本当に学生を一番苦しめているのは「お祈りメール」。「当社はあなたのご希望に添えませんでしたが、あなたのご活躍をお祈り申し上げます」という不採用通知のことだ。

 学生が多数の企業を受けるようになれば、当然ながら倍率が高くなるので、受け取るお祈りメールの数も増える。心が折れそうになることも多くなるはずだ。落ちても落ちても落ち込まず、受け続けなければいけないのは、精神力のいる作業だ。

 客観的に言えば、それを乗り越えることで人間として一段成長できると思えばいい訓練の機会なのだが、本当に心が折れて「就職活動恐怖症」に陥ってしまう学生も少なくないので、頭の痛いところだ。

 余談だが、筆者は大学の就職支援責任者として、学生には「受かると思って受けるから、お祈りメールに失望するのだ。宝くじのようなものだから、50社受ければ1社くらい合格するだろうと思って受ければいい。そうすれば、10社や20社落ちても失望しなくて済むはずだ」と言っている。

 一方、企業側からすると、募集人数の何十倍かの学生が受けにくることになる。これは、企業にとっても極めて大きなコストだ。しかも、早めに内定を出せば、他社に引き抜かれる可能性が生じ、遅めに内定を出せば他社に優秀な学生を囲い込まれる可能性が生じる。つまり、内定を出した学生を囲い込むための手間もコストも必要となるのだ。

 このように考えていくと、手間がかかるだけで企業にとっても学生にとってもいいことはなさそうだ。

 今でさえ、学生も企業も疲弊している現状が、「就活ルール」の撤廃によってさらに悪化すると懸念されるとすれば由々しき事態だ。

 それを防ぐ手段としては、1人の学生が在学中に受けられる就職試験の数を制限することだ。例えば、大学連盟と経済界が協定を結び、「大学は各学生に5枚の推薦状を渡す。これを持参しない学生とは、企業は採用関係の接触をしない」と決めるのだ。

 もちろん、ルールを破る行為はいくらでも考えつくが、それは現在の就活ルールでも同じこと。破る学生や企業がいたとしても、決まりがあることでそれなりの抑止力となる。

1年生に内定を出して支援する
企業が登場すれば解決する
 では、発想を転換して考えてみよう。

 筆者が期待するのは、1年生に内定を出して支援する企業の登場だ。そもそも企業が高卒より大卒を採用したがる(高い給料を支払う)理由は2つ。1つは大学に合格するだけの能力があり、努力をしたということ。そしてもう1つは大学時代に成長したということだ。

 第1の理由に着目するならば、大学入試の直後に採用試験を行なっても問題はない。究極の青田刈りである。1年生に内定を出し、企業から学生への希望を伝える。「わが社としては、学生時代にこういうことを学んで、こういう経験をしてほしい。諸君が学生時代に何をしたかで、初任給が変わってくるので、ぜひ充実した学生生活を送ってくれたまえ」というわけだ。

 そして、それが第2の理由も補強するという点が筆者案の“ミソ”だ。

 努力させる内容は、大学の成績、英語の勉強、サークル活動、ボランティア活動、資格の取得など何でもいい。「何もせずに遊んでばかりいたら初任給が下がる」ということだけは各社共通だろうから、それだけで学生の遊ぶ時間は格段に減るはずだ。

 筆者自身、入社後に企業派遣で留学したときの方が、学生時代よりもはるかに勉強した。人事考課の対象だからだ。それと同じ効果を大学生に期待するのだ。

ルールの撤廃には反対だが
「災い転じて福となす」を期待
 上記のように1年生に内定を出す企業を、仮にA社としよう。A社に内定をもらった学生は、充実した学生生活を送るに違いない。そうなると、他社が「わが社にぜひ!」と誘ってくるに違いない。それをA社としては、いかに防げばいいのか。

 1つの選択肢は、「充分な奨学金を貸与する。卒業後に入社すれば返済は免除するが、入社しなければ返済してもらう」という手だ。これは、内定辞退の大きな抑止力となる。

 極めて優秀な学生であれば、ライバル会社から「A社に借りた奨学金は代わりに返済してあげるから、わが社においで」と言われるかもしれないが、そこまでの事例は稀だろう。

 もう1つの選択肢は、夏休みと春休みは社員並みの待遇で仕事をさせるというものだ。それにより、学生と企業がお互いをよりよく理解するようになる。A社が合わないと感じた学生は、内定を辞退すればいい。そうなれば、企業にとっても新入社員に退職されるリスクが減るメリットとなる。

 A社を気に入った学生は入社を決意し、それと同時に会社で必要とされる物が何であるかを理解しようと努めるはずだ。英語なのか簿記の資格なのか、コミュニケーション能力なのか、物事を論理的に考える力なのか。A社から伝えられた希望と、自分で感じ取った事柄を総合的に考えながら、学生生活をいかに過ごすかを自分で決めればいいのだ。

 収入の面でも、夏休みと冬休みに新入社員並みの給料が受け取れるのであれば、アルバイトよりいい収入になるだろう。必要とあらば、加えて奨学金を貸与するという選択肢もある。

 A社のような企業が優秀な学生を早期に囲い込むようになれば、他社も追随するようになり、「日本の大学生も勉強するようになった」と言われるようになる可能性も高い。

 上記のように、筆者は今回の「就活ルール」の撤廃には反対だが、仮に撤廃された場合には、「災い転じて福となす」ことを期待したいと思う。

 なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の勤務先などの見解ではないことを付け加えておく。
https://diamond.jp/articles/-/181968


 


2018年10月12日 岡田兵吾 :マイクロソフト シンガポール アジア太平洋地区ライセンスコンプライアンス本部長
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シンガポールのセントーサ島に建つ巨大マーライオン前にて。日本の社内イベントの縮小ぶりに驚きを禁じ得ない筆者
 先日、「楽天の幹部があえて大変な登山をする」という内容の記事を読んだ。

 その記事を読んだときは、「日本でも面白いモラルイベントをしているな」と思っただけだったが、後日こうした「会社による半強制イベント」が、日本の大手企業のなかで異質となってしまったらしいと聞き、驚いた。

 ちなみに「モラルイベント」とは、海外で仕事へのモチベーションを上げるために行われているイベントであり、クリスマスや年度初めに行なわれるイベントのような、全社員が参加するものとは一線を画す。シンガポールのマイクロソフトでは、モチベーション向上以外に「チームワーク向上」も目的にして、年に何度か行われている。

 筆者の部署で行われているモラルイベントを例に挙げると、「ペイント弾を使用したシューティングゲーム」「アスレチック」「クッキングクラス」などの皆で遊べるイベントの場合もあれば、普通に「ランチ会」の場合もある。いずれにしても、チームワークの向上を目的としたイベントが選ばれる傾向にある。

 話を戻そう。筆者が驚いたのは、日本では時折「中小企業の運動会・社員旅行の復活」に関するニュースがある一方で、大企業では忘年会以外のイベントがほぼ皆無になってしまったと耳にすることだ。

「会社主催のイベントは勤務時間外における束縛ではないか?」「参加しなければ査定に響くかもしれないと心配させること自体がパワハラなのでは?」といった社員の声も最近は多く、会社のイベントが場合によってはパワハラに繋がり、コンプライアンス違反に当たるかららしい。

 シンガポールでは、年に数度部署ごとに行なわれる「モラルイベント」の他に、会社全体で行われる「ダンス&ディナー」(年末に行われる忘年会のような会。ダンスと冠しているが踊らないことも多々ある)や会計年度初めの決起集会にあたる「キックオフ」、さらに会社の社会貢献の一環として企画されるボランティア活動など、とにかくイベントが多い。日本では忘年会以外のイベントがないという事実に、筆者は驚きを隠しえない。

パワハラの要因は世代間格差?
海外では「みんな違う」のが当たり前
 社内イベントがパワハラに繋がるコンプラ違反になり得ることを述べたが、職場にはこれ以外にも、「仕事で注意したらパワハラ」「褒めないとパワハラ」「飲み会でビールをつがせたらパワハラ」といった様々なパワハラの芽が潜んでいる。特に「若手と関わると気が休まることがない」と嘆くマネジャーは少なくないだろう。

 ただし、こうした傾向は、逆に「ズケズケと自分の言いたいことを言って、他人を傷つけている人」を封じ込めるという、メリットにもなり得る。

 今まで社内で問題視されてきた「言葉がキツイ人」は、自由に、本能のままに「暴言を吐き出し放題」であったが、コンプライアンスの強化によって彼らを規制する名目をつくれる。「言葉がキツイ人」は自分が毒を吐いていることにさえ気づかないので、規制がない限り、態度を改めさせることは難しい。そしてコンプラ強化は、その「言葉がキツイ人」に自分自身も知らないうちになってしまわないよう、我が身を律するための目安になるから、ネガティブなことばかりではない。

 ところで、そもそも昨今のパワハラ基準の厳しさに驚いてしまうのは、世代の違いにも一因があると思う。日本は縦社会であるせいか、それほど年の差がなくても、流行っている言葉や価値観の違いを少しでも感じると、「若い世代は違う」「理解できない、信じられない」と言って、相手をはねつけてしまう傾向があるように思える。

 どんどん厳しくなっていくパワハラ基準に、上司と部下、先輩と後輩などの世代間における「お互いを理解できない不安」を埋めるための予防線の意味合いがあることは、おそらく間違いなかろう。

 そこで筆者が提言したいことは、お互いの「違い」を認め合うことが、職場でのパワハラの減少や撲滅、ひいてはパワハラへの過敏な気遣いの是正に、少なからず繋がるのではないかということだ。「違い」は世代だけではなく、性別、国籍、言語、さらには生活様式に至るまで多岐に渡る。そうした「違い」の全てがパワハラに繋がるリスクはある。

 では、「違い」を認め合うことがいかに大切かを、筆者が働くマイクロソフト・シンガポールのオフィスを例にとって説明しよう。60ヵ国以上の人が同じ会社で働いているので、筆者の職場では習慣や価値観の「違い」を感じることが多々ある。いや多いどころか、「何もかもが違う」という言い方のほうが近いかもしれない。

 たとえば、インド人は勤務中にしょっちゅう家族と電話しているし(会話はインドの言葉なのでわからないが、家族間の問題のことを話しているようだ)、フィリピン人はたくさん食べ過ぎたときはしきりに立ち上がる(座っていると体が折れ曲がっているから、食べたものが下っていかないという理由だそうだ)。

 より深く人と関わるほど「違い」を感じてしまう職場なのだが、グローバル環境で働く人たちはお互いの「違いを拒絶・線引き」するようなことはしない。ただ「understand」(理解)しているように思える。

 もっと言うと、いちいち理解するのもパワーを使うので、「違い」に対して「Agree」(同意・賛成)をする必要はない。ただ、「そういう価値観もあるんだな」と拒絶することなく、相手の「存在を認める」だけでいいのだ。

 それぞれに違うバックボーンを持つ個々が混じり合うダイバーシティ環境のニューヨークは、「人種のサラダボウル」と言われる。トマトはトマト、レタスはレタスの姿のままで1つの“サラダ”をつくり出しているように、そこで暮らす人々は、バラバラな「違い」をキープしたままで、交じり合って街を形づくっているのだ。

ドラッカーも唱える
対人関係のポイントは「聞く力」
 日本についても同じことが言える。近年何かと「若者の理解不能な行動」が取り上げられたりするが、ただ「理解できん」と一刀両断するのではなく、理解不能なところは「ただの違い」と「理解」して、上手く「サラダ」をつくり出すことができるはずだ。

 日本は2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、あらゆる業界・企業で外国人との関わりが増えている。外国人同士で交じり合ったダイバーシティ・マネジメントは、より複雑さを増していくだろう。「“違い”を“理解”して仕事を回す」という、ダイバーシティ・マネジメントのコアは変わることはない。

 経営の神様と呼ばれたピーター・ドラッカー博士は、他者との関わりについて、このうように語っている。

 多くの人が、話上手だから人との関係は得意だと思っている。対人関係のポイントが聞く力にあることを知らない――。

 他者とは常に「違い」があり「溝」がある。しかし「違い」の中には、その人の想いと人生も潜んでいる。その想いが理解不能で「Agree」(同調)できなくても、よくよく想いを聞き出し「understand」(理解)することで、お互いの溝に簡易橋くらいは架けられるのではないだろうか。

良いチームは「サラダ」と同じ
社内イベントも時には必要

「すべての仕事を3分で終わらせる〜外資系リーゼントマネジャーの仕事圧縮術」
岡田兵吾著
定価:本体1400円+税
発売:ダイヤモンド社
 そもそも他人を理解することは面倒臭い。さらに年齢の差が大きく価値観が違ったりすると、「これだけ年が離れているから理解できなくても仕方がない」と言うありがちな言葉で、歩み寄ることを放棄してしまいがちだ。しかし筆者は「良い会社・部署の条件の1つは、個人技よりチーム力が高いこと」と考えている。

 個人技も必要だが、それだけでは会社は回らない。しかし逆に、個人技が苦手でもチーム力が高いと、仕事はどんどん回っていく。特に決められた期間で仕事を回すときは、個人にフォーカスせず、チームとしての能力を最大化させることで、最も高いレベルで成果をあげることができる。そしてその成功が、巡り巡って個人力のアップにも繋がっていくのだ。
 
 良い仕事、良いチームづくりには、他者との関わりが不可欠。ビジネスパーソン諸氏には、仲良しこよしにならなくても、敵対することなく、上手く「サラダ」をつくり上げていただきたいと思う。

 そうした過程で、パワハラを警戒し、お互いに遠慮し合い、本来結束を深めるためのイベントを敬遠してしまう、といった不自然な空気は、徐々に職場から消えていくだろう。もちろん、強制参加は褒められたものではないが、自発的に社員が集まるような有意義なモラルイベントが、日本の職場にも増えていくことを願ってやまない。

 STAY GOLD!

(マイクロソフト シンガポール アジア太平洋地区ライセンスコンプライアンス本部長 岡田兵吾)
https://diamond.jp/articles/-/181964

 

2018年10月12日 岸 博幸 :慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授
高齢者の働き方改革を「昭和の価値観」で進める安倍改造内閣への不安

内閣改造により閣僚の顔ぶれが一新されたが、安倍首相が早速打ち出した高齢者雇用の延長に関する指示は、不安を募らせるものだった 写真:首相官邸HPより
改造内閣の政策に募る不安
高齢者雇用の延長に見る課題
 内閣改造により閣僚の顔ぶれが一新されました。日本経済の生産性と潜在成長率を高めるには改革(規制改革、地方分権)が不可欠ですが、安倍政権の過去6年間であまり改革が進まなかったことを考えると、安倍首相が最後の3年でどれだけ改革を進められるかが、日本経済の将来にとって非常に重要な課題となります。果たして内閣改造後の安倍政権で、改革は進むのでしょうか。

 まだ改造内閣は動き始めたばかりですが、改革という面では早速その先行きを不安視せざるを得なくなったように思えます。その理由は、安倍首相が10月5日の未来投資会議で高齢者雇用の延長に関して出した指示です。

 現在、高年齢者雇用安定法は、企業で働く人の定年は60歳を下回ることができないとした上で、定年延長や継続雇用(再雇用)などにより希望者全員を65歳まで雇用するよう、企業に義務付けています。その年齢を70歳に引き上げる方向を明確にしたのです。70歳を過ぎてからでも年金受給を開始できるようにする年金制度の改正とセットで進める方針のようです。

 年金制度の持続性を高める観点からは、実は受給者の選択で70歳からの受給を可能にするだけでは不十分で、将来的には年金支給開始年齢を70歳まで引き上げることが不可欠です。そうした現実を踏まえると、その前提として高齢者が長く働ける環境を整備するという政策の方向性自体は、非常に正しいと評価できます。

 しかし、その実現のための手段として、企業に定年や再雇用の年齢引き上げを強いることは、本当に正しい政策対応と言えるでしょうか。

 そもそも中小企業は慢性的に人手不足に喘いでおり、実際に政府に言われなくても70歳を超えた高齢の社員に継続して働き続けてもらっているところが多いと聞きます。つまり、高年齢者雇用安定法で70歳までの定年延長や再雇用を求める対象は、主に大企業ということになります。

 それは表現を変えて言えば、大企業の雇用慣行である終身雇用を70歳まで延長しようとしていることに他なりません。それは、もちろん高齢者の雇用促進という観点からはプラス面もありますが、経済全体を考えればマイナス面も大きいのではないでしょうか。

70歳までの定年延長・再雇用が
それほどハッピーではない理由
 というのは、当の大企業の観点から考えると、いくら再雇用の形で給料を下げても、高齢者を70歳まで雇用したら人件費が圧迫されるので、若い社員の雇用や賃金水準をある程度は抑制せざるを得なくなるからです。

 そうなったら、組織内の新陳代謝が進まない、若い優秀な社員を採用しにくくなる、若い社員のモチベーションが下がる、といった様々な悪影響が生じ、結果としてイノベーションの創出など、その企業の生産性向上の観点からはマイナスになりかねないのではないでしょうか。生産性の向上という政権の経済政策の目標とは相反するのです。

 また、高齢者の観点から考えると、高齢労働者の市場の流動化を逆に妨げることになることが予想できます。人間の行動には常に現状維持バイアスがあるので、給料が大きく下がるとしても長年働いてきた企業に70歳まで居られるとなれば、ほとんどの人はそれを選ぶはずだからです。

 その結果、常に人手不足と人材不足に悩んでいる中小企業には、大企業での豊富な職務経験を持つ高齢者を採用したいところが多いはずなのに、そうした人材が労働市場に出てこなかったら、中小企業の生産性を高めるという観点からもマイナスになるはずです。

 ついでに言えば、大企業での再雇用を70歳まで延長することは、当の高齢者にとっても必ずしもハッピーではないかもしれないことにも、留意すべきではないかと思います。

 その理由は、大企業での再雇用の大半は非正規雇用だからです。したがって、収入が大きく減ることに加え、スキルアップの機会も企業からはほとんど与えられないでしょう。つまり、高齢者が働く環境としてはベストとは言い難いのです。それよりも、必要としてくれる中小企業に移って正社員として働いた方が、働く環境としては幸せなのではないでしょうか。

 このように考えると、高齢者の雇用促進のためには、大企業にさらなる定年延長や継続雇用を強いるよりも、高齢者のスキルアップの機会を抜本的に増やすとともに、ハローワークの民営化などを通じて、中小企業の高齢者雇用ニーズを掘り起こし、就労を希望する高齢者とのジョブマッチングを手厚く行ない、高齢者の労働市場の流動化を促進する方が、望ましいのではないでしょうか。

昭和の雇用ルールを延長するのが
「改革」と言えるのか
 ちなみに言えば、ちょっと前に経団連が就活ルール廃止という英断を打ち出しました。これは、グローバル化などの構造変化を踏まえ、いわば“社会人の入口”のあり方を改革しようとしたと評価できます。

 それなのに、どうやら今度は政府が主導して、新たな就活ルールをつくる方向へと向いているようです。それに加えて、政府はいわば“社会人の出口”である高齢者の雇用についても、70歳ルールを強制しようとしています。

 言葉を変えて言えば、政府の労働行政は「新卒一括採用・終身雇用」という昭和の時代の雇用ルールを延長・継続しようとしているだけに他なりません。しかし、グローバル化とデジタル化という世界的な構造変化に加え、人口減少や高齢化が進む今の日本では、もうそうしたルールは有効であるどころか、むしろ生産性向上の弊害となるのが確実だと思います。

 つまり、安倍首相が打ち出した高齢者の継続雇用の延長という方向性は、残円ながら、改革というよりもむしろ改革逆行となりかねないのです。

 とはいえ、今回の内閣改造の布陣を見ると、改革遂行よりも憲法改正と来年の地方統一選・参院選での勝利に重点が置かれているのは明らかですから、これからの3年で大きな改革の動きを期待すること自体、そもそも無理があるのかもしれません。

 それでも、何とか少しでも改革が進んでほしいと願う立場からは、改造後の新内閣が打ち出した政策の第一弾が終身雇用の70歳までの継続というのは、ちょっと厳しいと思わざるを得ません。

 もちろん、具体策の検討はこれからなので、その過程で政策の具体的な中身がどうなっていくかを、しっかり注視していく必要があると思います。

(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授 岸 博幸)
https://diamond.jp/articles/-/181961


 




[18初期非表示理由]:担当:要点がまとまってない長文orスレ違いの長文多数により全部処理

2. 2018年10月12日 20:52:33 : ZzavsvoOaU : Pa801KbHuOM[23] 報告
ドライバーの生体データを収集しAIで交通事故をゼロに
オープンイノベーションで誕生した日立物流の「SSCV」システム
2018.10.12(金) 西村 智宏
トラック輸送のさまざまな課題を、AIやIoTが解決しようとしている(写真はイメージ)
 各運送業者が乗務前点呼や安全指導によって予防保全に努めるも、トラックの交通事故は後を絶たない。ドライバーの高齢化や人手不足などの背景もあり、重大な社会問題になっている。AIやIoTなど、テクノロジーでこの現状を打破し、「事故ゼロ社会」を実現する取り組みが始まっている。
事故ゼロを目指し予防保全から予知保全へ
「ITが浸透しAIが進化を遂げてきたことで、ようやくわれわれが目指す『事故ゼロ社会』の実現が近づいてきました」と語るのは、物流業界大手の日立物流 経営戦略本部長の佐藤清輝氏だ。同社のオープンイノベーションによる協創プロジェクトを指揮する人物である。

日立物流 執行役常務 経営戦略本部長 佐藤清輝 氏
 同社は2019年4月に「スマート安全運行管理システム(SSCV:Smart & Safety Connected Vehicle)」を外販する。交通事故の予防保全は今、AIとテクノロジーによって予知保全へと姿を変えようとしている。
「SSCV」は、疲労科学に着目し、事故リスク低減を目指す安全運行支援技術である。運行するトラックに、ドライバーの生体情報、自律神経、脳波、目の瞳孔、車の挙動などのセンシング機器を設置し、そこから吸い上げたデータをAIが分析し、危険運転の予兆(疲労、眠気、注意散漫など)が出た段階でリアルタイムにドライバーや運行管理者にアラートを発し、事故を未然に防ぐ仕組みだ。

「事故を防ぎ、人を守ることは輸送事業者だけにとどまらない社会的使命です。乗務前点呼や安全指導に努め、当社グループの国内の車両事故発生率は全国平均を下回っていますが、自己申告や運行管理者によるチェックなどの予防保全では限界がありました。また、出発前は問題なかったとしても運転中に変調することもあります。そこで、AIやIoTを活用し、ドライバー任せにしない仕組みが必要だと痛感しました。そのため、関西福祉科学大学、理化学研究所、日立製作所、日立キャピタルオートリースを中心に、産官学連携のオープンイノベーションとしてこのプロジェクトを展開しました。仕組みをプラットフォーム化することで『安全・環境に配慮した社会』『事故ゼロ社会』の実現を目指しています」
事後対策では事故はなくならない
 事故1件のインパクトはとてつもなく大きい。「2016年、私が東日本営業本部の本部長時代に輸送事故が連鎖しました。なんとかして事故をなくしたい、と心底思いました。輸送事故が起こると人も傷つき、車両の稼働率が下がり、荷物の賠償もある。運転者の安全はもちろんですが、被害者をつくらないことはもっと大事です。事故が起こる度に、状況を把握して原因を究明し、再発防止に努めてきましたが、『事後対策』では事故はなくなりません」 この焦燥感が開発の背景にある。
 日立物流は当初は市販のデバイスを購入して事故を未然に防ぐ対策を始めた。例えば、眠気を察知すると音声でアラートを発するスリープバスター、車線をはみ出すと発報する装置などを用い、社内で安全運行プロジェクトを立ち上げた。しかし、なかなか糸口は見つからなかった。
「どういう時にどんな状況で事故が起こるのか、これらのデバイスを使えば原因が見えてくるだろうと考え、データを取り続けました。ところが、異常値とドライバーの変化をひも付けする作業は手作業で行わなければなりません。その作業が大変な上、車のコンディションやデバイスの性能の差などで明確な関連性が特定できず苦労しました」
 しかし、思わぬところから活路が開ける。営業所の乗務前点呼で自律神経を計測して疲労度を推し量る機器を使うことになり、その機器に関連のある日本疲労学会の存在を知った。さらにそこから、学会のメンバーである関西福祉科学大学教授・倉恒弘彦氏や、学会理事長を務める理化学研究所・渡辺恭良氏につながる。情報交換を経て、意義深い「事故ゼロ社会」の実現の思いが通じ、産官学を巻き込んだビッグプロジェクトが動き始める。
ハブとなり産官学と共に実現を目指す
「今までメーカーのデバイス単体でアラートを発するものは存在しましたが、それらをつなぎ合わせてトータルのシステムとして因果関係を解明し、事故を未然に防ぐ仕組みはありませんでした。SSCVは初めての試みとも言えます。当社がハブとなって、その実現に向けて産官学が次々につながり始めています」

 ドライバーの疲労計測や客観的評価手法の検討は関西福祉科学大学が担い、疲労メカニズムに基づく事故リスク評価や予測手法の検討は理化学研究所が担当。日立製作所は運行情報と疲労測定のAIを用いた解析、疲労科学に基づく事故リスク評価技術の開発を行い、日立キャピタルオートリースは事故リスクの定義検討および安全対策手法を検討する。ドライバーの疲労因子や生体情報測定の精度を高めるIoT機器やデバイスの開発については、多くの企業と協業・協創が続いている。
「現在は、さまざまなメーカーとセンシング機器を使った研究や、ハンドル型センサーから生体データが取れるような機器を開発中です。また『ヒヤリハットボタン』といって、ドライバーが“危ない”と感じた瞬間にボタンを押してもらい、その状況と生体情報をひも付ける研究にも取り組んでいます。加えて、脳波を測定する試みや、瞳孔の状態を画像で判別する機器について、さまざまなパートナーと連携をとって進めています」
 各デバイスの性能向上に磨きをかけながら、現在は40台強の車両にシステムを取り付け、データを収集し続けている。今後データは、理科学研究所と関西福祉科学大学を通じて論文にまとめられるという。
「疲労度合い、疲労因子、人間の挙動、映像全てがデータとしてクラウドに集約され、それらがどのように危険運転につながるのか、また予兆はどのように現れるのかを解析しています。今年(2018年)12月まで実証実験を実施し、実験結果は論文発表される予定です」

SSCVの紹介動画(※日立物流のWebサイトへリンクします)
 描く未来は、トラックドライバーの安全のみならず、全てのドライバーの事故をなくすこと。効果が見込めれば、バスやタクシー、一般車両にも適用し、自動車社会全体で事故を減らせる。そんな理想の実現に向け、実際に動きは加速している。
「今は実証実験として、来年3月までにグループ内の車両1000台前後にデバイスを設置していく計画ですが、その成果をフィードバックして、2019年4月からは外販を予定しています。今後も、この安全・安心の願いを載せたプラットフォームに、新たなビジネスパートナーが加わってくれることを期待しています」と佐藤氏は呼び掛ける。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54247

 

日ロのガスパイプライン構想、ボールは日本に

ガスプロムのメドベージェフ副社長に聞く

解析ロシア

2018年10月12日(金)
池田 元博

 日ロ経済協力の大きな柱のひとつがエネルギーだ。特に天然ガスをめぐっては様々な共同事業構想も浮上しているが、ロシアは日本市場を含めたアジア戦略をどのように描いているのか。国営天然ガス会社「ガスプロム」のアレクサンドル・メドベージェフ副社長にサンクトペテルブルクで話を聞いた。


アレクサンドル・メドベージェフ氏
ロシア最大の国営天然ガス会社「ガスプロム」副社長。モスクワ物理工科大学卒。2002年から同社経営陣に参画し、主に輸出部門を担当。1955年8月生まれ、極東サハリン州出身。63歳。
北東アジアでは韓国と北朝鮮の融和が急速に進み、南北とロシアの鉄道連結構想とともに、朝鮮半島を縦断する天然ガスパイプライン敷設構想が再び取り沙汰されるようになってきた。具体的な進展はあるのか。

アレクサンドル・メドベージェフ氏(ガスプロム副社長):南北関係が良くなっていることは当然、世界政治のプラス要因だ。エネルギーを含めた様々な国際協力を進める条件整備にもつながる。ロシアから朝鮮半島を縦断して韓国に至るガスパイプラインを敷設する案はかなり以前からあった。南北関係が良くなるとこの構想がにわかに浮上し、逆に関係が悪くなると立ち消えになった。

 ここにきて南北関係が好転しているので、ガスプロムも再びこの計画の検討を開始することを決めた。第1段階として技術的な問題や採算性の調査から始める必要がある。当社だけでなく、北朝鮮や韓国も交えた投資計画も練らなければならない。ようやく実現の可能性が芽生えてきたが、今は第1段階に入るための準備の段階だ。まずは韓国と北朝鮮が主体的に動かなければ始まらない。

 朝鮮半島縦断パイプラインは事前の大まかな分析では、他のパイプライン計画と比べ、経済的にかなり利益の見込まれるプロジェクトだ。ただし、北朝鮮にどれだけの量のガスをどういう価格で供給するのかといった多くの問題がある。北朝鮮は韓国と比較して圧倒的にガスの使用量が少ないし、支払い能力の問題もある。まずは技術的な問題とともに、経済性や採算の問題を詰めなければならない。それが可能になる政治環境が芽生えるよう期待している。

南北とロシアの間で準備段階の協議は始まっているのか。

メドベージェフ氏:まだ2国間の接触があるだけだ。北朝鮮か韓国かは言えない。本格的な交渉が始まれば明らかになるだろう。パイプライン構想が実現すればアジア太平洋地域の安定に大きく寄与する。まずは北朝鮮の非核化が政治的に進展し、日本や韓国にとっての脅威が取り除かれるよう願っている。

日ロ間ではサハリンと日本を結ぶ天然ガスパイプライン構想があるが、その進捗状況はどうか。

メドベージェフ氏:パイプラインの敷設がどの程度現実的か、日本にどの程度ガス需要があるのかを探るべく、日本側との話し合いを何度か行った。日本側の交渉窓口となっている(独立行政法人の)石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)とは相互協力のための対話も続けている。ただ、まだ本格的な事業化調査に着手する段階には至っていない。

 この構想実現の是非を占う決定的な要因は日本のエネルギー政策だ。日本が将来、エネルギー源としてどの程度のガス需要を見込むのか次第だ。経済産業省は現時点では相当量を石炭で賄おうとしている。しかし、日本は石炭の生産国でもないのに、なぜ石炭火力発電の比率が高いのか。環境問題を含めて十分に理解できる説明を聞いたことがない。欧州では石炭の比率を大幅に減らしている。日本の石炭火力発電の比率がせめて15%に低下するようなら、構想実現の道が開けるだろう。ただし、あくまでも日本の問題だ。ボールは日本側にある。

パイプライン敷設はもう少し様子見
日本側の強い要請があれば、ガスプロムも前向きに対応するのか。

メドベージェフ氏:様々な方面から分析し、かつ詳細な事業化調査をしてみないと何とも言えない。事業化するにせよ、事前に技術的側面や採算性、経済的な調査、投資分析などすべての分野の詳細な調査や分析を進めなければならない。現段階では本格的な分析も調査も始まっていない。今はいわば、ビジネスプランの段階にあるというべきだろう。しかも、採算性などの経済的要因だけでなく、政治的要因によっても大きく左右される。

 日本企業とのエネルギー協力は非常によい前例がある。ガスプロムが三井物産、三菱商事などと共同で展開しているサハリン2(=注1)プロジェクトは、世界で最も良い液化天然ガス(LNG)開発事業のひとつだ。(パイプライン構想については)もう少し事態の行方を見守っていこう。

(注1)サハリン2=ガスプロムと英蘭ロイヤル・ダッチ・シェル、三井物産、三菱商事が参画するサハリン沖石油・天然ガス開発事業。パイプラインとLNGプラント(2系列)を建設し、2009年からLNG出荷(年産約960万トン)を開始。6〜7割が日本市場向け。
サハリン2ではかねてLNG生産基地の増設計画が浮上しているが、具体化のメドは立っているのか。

メドベージェフ氏:最終的な投資判断をすべき段階に来ている。ただし、最終決定の前に、増設するLNG基地向けにどこのガスを使うかを確定しなければならない。我々は、日本企業が同様に参画しているサハリン1(注2)のガスを使う計画だ。サハリン1で産出されるガスをサハリン2の基地増設用に利用するのが互いの事業者にとってもっとも効率的だ。ロシア政府も最も有望だと考えており、エネルギー省が調整中だ。

(注2)サハリン1=米エクソンモービル、日本の官民のサハリン石油ガス開発(SODECO)、インド国営石油会社と、ロシアの国営石油大手ロスネフチの子会社が参画するサハリン沖石油・天然ガス開発事業。ガスプロムは出資していない。天然ガスは2005年からロシア国内向けの供給を始めているが、輸出先はいまだ決まっていない。
 サハリン2はLNG基地を増設すれば第3ラインとなるが、すでに稼働中の第1、第2ライン向けのガス供給も考えなければならない。サハリン2は鉱区のガス埋蔵量を踏まえると、2025年から生産量を減少せざるを得なくなる。つまり既存のLNG生産基地向けのガスをどう安定的に供給していくかという課題に直面しつつあるわけだ。

 サハリン2のLNG生産は2009年から始まった。2025年には16年もの年月が経過することになる。このためサハリン1や、ガスプロムが権益を持つサハリン3のガス田を含めてガスの調達元を複合的に検討していく必要がある。まずはサハリン1のガスを増設用に利用できるかどうかを確定するのが先決だ。

サハリン3のガス埋蔵量が想定していたより少ないということか。

メドベージェフ氏:サハリン3のガス埋蔵量は想定より逆に多い。ただし、開発の時期の問題に加えて、ロシア国内と、特に中国を含めた海外のガス需要を考慮する必要がある。アジア地域のガス需要は非常に多い。韓国も中国も天然ガスやLNG需要が急増している。最もエネルギッシュに(供給を)要請してくる国や企業が交渉で有利になるのは世の常だ。供給先も複合的に検討していかなければならない。

 サハリン2のLNG生産ラインを増設しても、既存の第1、第2ライン向けのガス供給が枯渇してしまえば元も子もない。増設の是非を含めた最終的な判断は来年の第1四半期末までに下す予定だ。

日本企業とは良好な関係にある
中ロ間では世紀のディールと呼ばれ、東シベリアの巨大ガス田であるチャヤンダ鉱区のガスを中国に大量供給する事業も進んでいる。

メドベージェフ氏:事業は計画通りに進んでいる。新たに(チャヤンダから中国国境に至る)パイプライン「シベリアの力」を建設中で、これによる中国への最初のガス供給は2019年12月に始まる予定だ。ロシア側でも中国側でもパイプライン建設は順調で、契約通りに供給を開始できると確信している。

東シベリアにはチャヤンダ、コビクタという2つの巨大ガス田があるが、いずれも中国向けを想定しているのか。

メドベージェフ氏:契約と実際のガスの調達元が一致しないことはしばしばある。ただし、仮にサハリンと日本を結ぶガスパイプライン構想が実現する場合、日本向けに供給するのはもちろんサハリンのガスだ。チャヤンダやコビクタから供給することはない。ロシアは国内のガス消費も大きいし、加工品にしてアジア市場供給することも想定している。

 さらに、ウラジオストクでのLNG基地新設計画もある。この計画はまだ準備段階で、具体的にいつ着工するかは決定していない。建設する場合はサハリンのほか、コビクタ、チャヤンダのガスを使う可能性がある。

日本企業は最近、ロシアではガスプロムよりも、北極圏のヤマルLNGプロジェクトなどを手掛ける民間大手ガス会社ノバテクとの関係を発展させているようにみえるが、競合しないのか。

メドベージェフ氏:ガスプロムはまず、ノバテク社の株主のひとつだ。次に(昨年末に生産を開始した)ヤマルLNGからは相当な量を購入してガスプロムのポートフォリオに組み入れている。

 世界的にみて天然ガスを巡る環境は好転している。きれいなエネルギー源としての価値が上昇しているからだ。ガス需要は世界的に急増しており、5〜10年後にはガスが不足する懸念すらある。生産増に向けた投資を今から実施しなければならない。25〜30年先のビジネスを見据えて計画を立てる必要がある。

 ガスプロムは日本企業とは良好な関係にある。三井物産とはバルト海LNGプロジェクトの協力で覚書を交わしたばかりだ。この事業には三菱商事や伊藤忠商事なども関心を示している。来年には参加企業を決めたいと考えているが、日本企業がコンソーシアムを組む可能性もある。バルト海LNGは欧州のみならず、南米市場などへの供給も想定している。日本向けも例外ではない。

欧州向けガス輸出をめぐっては、バルト海の海底経由でドイツとパイプラインで結ぶ「ノルドストリーム2」計画に米国のトランプ大統領が反対している。

メドベージェフ氏:ノルドストリーム2は国際競争力のある良いプロジェクトで、エネルギー安全保障にとっても重要だ。残念ながら、政治が邪魔をすることはある。米国とロシアはエネルギー分野で相当協力できる潜在性があるのに、政治が制裁を使って妨げているのは残念なことだ。逆にビジネスが政治に前向きな影響を与えられるようにしたい。


このコラムについて
解析ロシア
世界で今、もっとも影響力のある政治家は誰か。米フォーブス誌の評価もさることながら、真っ先に浮かぶのはやはりプーチン大統領だろう。2000年に大統領に就任して以降、「プーチンのロシア」は大きな存在感を内外に示している。だが、その権威主義的な体制ゆえに、ロシアの実態は逆に見えにくくなったとの指摘もある。日本経済新聞の編集委員がロシアにまつわる様々な出来事を大胆に深読みし、解析していく。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/040400028/101000063/

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