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意識は嘘を見抜けない 五感の価値を見直す時 理想のCEOを描いた“真実”の物語 日本では議論する前から結論が決まっている
http://www.asyura2.com/18/hasan129/msg/847.html
投稿者 うまき 日時 2018 年 12 月 10 日 21:31:41: ufjzQf6660gRM gqSC3IKr
 

(回答先: 米株に現れた「デッドクロス」一段安を示唆か 世界的な「ファーウェイ排除」の高い代償 英国民投票やり直し愚策 リスク回避  投稿者 うまき 日時 2018 年 12 月 10 日 21:28:46)

意識は嘘を見抜けない
五感の価値を見直す時
養老 孟司:解剖学者
2018年12月10日
フェイクニュースやデマなど、嘘の情報が広く速く拡散し、政治を左右したり、企業の業績に影響を与えたりすることが、近年問題になっている。『バカの壁』『遺言。』などの著作で知られる養老孟司氏は、ニュースはそもそも記号にすぎず、受け手が存在して初めて「情報」へと変化すると述べ、嘘は「記号化する段階」「受け取る・発信する段階」「無意識の段階」の3つの段階で発生すると説く。嘘の情報の正体を知ることで、はたして我々はそれらにうまく向き合い、対処できるのかを伺った。
『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2019年1月号より、1週間の期間限定で抜粋版をお届けする。
「情報」とは何か
編集部(以下色文字):フェイクニュースやデマなど、嘘の情報が広く速く拡散し、政治を左右したり、企業の業績に影響を与えたりすることが、近年問題になっています。
養老(以下略):これはけっこう、やっかいな問題なんです。まず、「情報」をどう定義するかを考えなくてはいけない。
 我々が日常的に見ているものは、ほとんど記号化されています。目の前に雑誌があっても、それは記号にすぎず、読まれなければ情報になりません。コンピュータやスマートフォンのディスプレーに表示されるニュースや写真も、すべてゼロか1というデジタルで記号化されたものです。
 記号はそれ単体では、記号でしかありえない。記号化されたものを人が受け取った時に情報化されて情報と呼ばれます。つまり、情報は必ず受け手が必要です。
 ニュースも単にネット上に存在するだけでは単なる記号であって、情報とは呼べないということですか。
 そうです。記号が情報化するのは、人が受け取った時で、さらに詳しく言えば人間の「意識」の働きによるものです。いくら記号を与えても、受け取り手が生きていて、意識を持たなければ情報にならない。
 意識を失っている人に、大きな声で呼びかけたり、体を揺すったりするなど、記号ではないものを与えると意識が戻ります。意識が戻った途端に、与えたものが情報化するんです。逆に言うと、意識が扱えるものを記号と呼ぶということです。このことに皆、案外、気づいていません。
 加えて、意識にどのような特徴があるかというと、扱えるのは時間的に変化しないものだけだということです。記号の大きな特徴は、時間が経っても変わらないという性質を持つことです。そのため、情報も一度情報化されると変わらないという性質を持っています。
嘘が発生する3つの段階
 では、フェイクニュースに見られるように、「嘘」はどのような過程で生まれるのでしょうか。
 嘘が生まれるのは3つの段階があります。まず、記号化する段階で嘘をついている場合です。たとえば、いまのデジタル写真は修整が容易で、記号化する段階で嘘が生じやすくなった。他にも、政治家の暴言や失言も、その場では問題にならず、後から記録された発言を見て問題になることが多い。言葉という記号にすると、具体的な状況が落ちてしまい、残ったもののほうが真実と見なされます。
 2つ目の段階はその記号を受け取る・発信する段階です。記号はそこで初めて情報化されますが、当然、受け取る機械である人の脳にバイアスがあります。そこで嘘が生まれる。特に政治の世界で、そのバイアスは顕著です。たとえばクリントン支持、トランプ支持で固まっている人は、自分の好きな情報しか受け取らない。だから堅固な支持者にどんな情報を与えても、それが真実であっても嘘であっても、意見を変えさせることはできません。
 また、情報の発信側の、情報そのものを流すか流さないか、自分に有利に働くか不利になるのかという判断も、受け手に影響を与えています。それがメタメッセージです。
 メタメッセージの典型的な例として、僕が生まれた日の新聞があります。僕が生まれたのは1937(昭和12)年11月11日です。その年の7月に盧溝橋事件が起こり、日本は中国本土で戦争を始めた。11月というとそれから4か月経っていますが、ペラ1枚の新聞は隅から隅まで、どこそこの中隊がこんな戦闘をしたという、中国本土での戦闘記事で埋められています。そこには、日本国内の火事も殺人も載っていない。限りある紙面を中国での戦闘記事だけにすることによって、いまこれ以上に重要な事件はありませんという意味を持たせているわけです。それがメタメッセージです。
 後世、それを軍国主義と呼びました。けれども、そもそも「マルクス主義」のように、当時「軍国主義」なんて理論があったわけではない。何かを主張したわけでもない。メタメッセージを生み出して、世論を操作していただけです。これは情報の加工ではなく、メッセージを発するかどうかと、受け手との関係の話です。だから嘘が発生する二段階目の問題になります。
 フェイクニュースやメタメッセージも、受け手がいなければ生じない。情報の真偽よりも、受け手のバイアスに委ねられる部分が大きいと。
 そもそもメタメッセージの場合は真っ赤な嘘というのは、ほとんどありません。もちろん、後でバレても知ったこっちゃないという、真っ赤な嘘が使われることもありますけどね。
 それよりも、いまの状況でこの情報を流すかどうかという判断が、一番大きいんです。流すことによって、得になるか損になるか。それを判断してメッセージを取捨選択しています。
 米国の大統領選挙でトランプは、どちらの支持者でもない浮動層を取り込むために、情報を流すタイミングを見事に使いこなしました。ただし、クリントンの熱烈な支持者には、トランプが発する情報は何であっても通じない。なぜなら、受け取り手にバイアスがあるからです。それが「壁」なんです。
 厳密に言うと、世の中にフェイクニュースという記号があるわけではありません。情報化するのは人が受け取ってからです。つまり、その受け取り方次第ということです。どちらにせよ根本は受け取り側にあります。結局、自分の脳に入ることしか理解できない「バカの壁」が存在するのです。
 嘘が生まれるのは、情報を記号化する段階、情報を受け取る・発信する段階と来ました。最後の第三段階はどのような構造なのでしょうか。
 ここから先はもっと根本的な問題になります。最初に申し上げたように、意識が扱えるものが記号化される。情報化するかどうかには、意識が深く関わっています。つまり、無意識のレベルでもう1つの「バカの壁」が生じていて、自身がそれに気がつけないのです。だからそこで嘘が生じたりもする。この段階は非常にやっかいなことがわかるでしょう。
「無意識」に初めて気がついたのが、ジークムント・フロイトです。フロイトは、人間の行動は無意識に支配されていると考えた。無意識とはふだんは意識されない「抑圧された意識」なんです。
 もっと簡単に言えば、抑圧された意識は、嫌なことを考えないようにして、なかったことにしてしまっている。当人はふだん意識していないが、無意識にそれを避けたり、影響されたりしているんです。
 そもそも意識は、外の世界を把握するためのものです。たとえば、自分の体の内側のこと、内面については何もわかりません。だから医者がいて、CTなどを使って体の内部を調べるわけです。
 意識は内面に気がつけないことを抱えていても、自分が一番偉いと思っている。このことがやっかいで、意識はそれくらいバカなんです。
情報化社会の正体
「意識できることだけが、記号化できる」ということは、記号化できずに無意識のうちに避けてしまっているものが、数多くあることに気がつけていないのですね。
 意識についてもう少し詳しくお話ししましょう。意識が扱えるものは記号と言いました。記号を人が受け取った時に、情報化される。記号の大きな特徴は、時間が経っても変わらないという性質です。
 たとえば、部屋の中の照明を考えてみてください。明るさはいつも同じです。戸外だったら夕方になれば、どんどん暗くなっていく。温度も変わってくるし、風の強さも違ってきます。
 感覚はこのように、ひたすら変わっていきますから、意識は扱うことができません。だから扱いやすいように記号化して、外の世界を同じにするわけです。そのためにエアコンがつくられ、地面は同じ固さで平らになるよう全部舗装する。それが情報化社会です。
 感覚は自分の中にあるものですが、外の世界と嫌でも結び付いています。けれども、記号化が進むと、現代人は感覚を無視することを覚えていくのです。
 情報化社会とは、要するにすべてが意識化された社会のことです。
 情報化社会へと変貌するのは、近代のことなのでしょうか。
 もっと前です。平安時代には、詠み人知らずの歌がたくさんありますよね。情報は残っているけど、それを発した人なんて知らないよということです。そこには人間はいない。情報化社会を先取りしている。
 その平安時代の情報化とまったく同じようなことが、現代で起こっている。いまであればそれをどう言うか。人間がいらないコンピュータの時代になると言っています。
 現代も詠み人知らずの時代で、情報はあふれているが、そこにはもう人間は不要だという点では、平安時代と同じです。
 情報はあるが、そこに人間が不要だという状況を、もう少し詳しく教えてください。
 それについて、僕がよく話すことがあります。数年前に近所の銀行に行って、ちょっとした手続きをしました。すると「先生、本人確認の書類はお持ちですか」と言われた。僕は運転免許証を持っていないからそう言ったところ、「健康保険証でもいいんですけどね」と返される。「ここは病院じゃないから保険証なんて持ってこないよ」と言うと、「困りましたね、養老先生であることはわかっているんですけどね」と(笑)。
 要するに、本人確認の書類は必要だけど、本人は必要ないということです。つまり、「情報としての私」しか、求められていない。僕はそうしたことがあると必ず引っ掛かって、本人とは何だろう、世間ではいったい何が起こっているんだと考えるんです。
 数年経って、そのことがまた頭に引っかかった時、会社勤めをしている人から「近頃の若い社員は、同じ部屋にいてもメールで報告してくる」と愚痴を聞いたんですよ。その時に、この問題が解けました。
 たとえば、上司の席に報告に行きます。すると、今朝の課長は2日酔いで機嫌悪いとか、余計な情報がいっぱい入ってくる。それは仕事上いらない情報、つまりノイズです。部下はそんな余計なものを頭に入れたくないからメールで報告するのです。銀行が手続きの時に必要なのは本人確認の書類であって、本人ではないというのも、同じ理屈です。
 現代人はノイズのない情報を求めるということですか。
 そうです。それに気がついた時、僕が現役だった25年前の東大病院を思い出しました。わざわざ病院に行ったのに、医者は患者の顔を見ずに検査の結果だけ見ていると、お年寄りからよく文句が出ていた。医者は検査の結果が平均からずれていたら、平均まで戻すための治療をします。患者は痛いだの苦しいだの、うるさくてしょうがないから、いないほうがいい。必要なのは検査結果という情報で本人はいらないわけです。
 これからコンピュータが人に置き換わる時代が来ると言っていますね。しかし、そんなのはいまに始まったことではない。もうとっくに置き換わっていますよ。情報化する、システム化するというのは、そういうことなんです。
 ノイズがないことを好むのは、人間本来の性質なのでしょうか。
 そうです。意識がそれを扱えないからです。逆に言うと、意識が扱えないからノイズになる。意識が扱えるものだけを残そうとするのが情報化社会であり、均質化が進む都市社会です。
 コンビニでたばこを買う時は、80歳を超えた僕も「20歳未満ではありません」のところをタッチしなければいけない。お店にとって私はノイズだからです。コンビニは、本当は人に買いに来てほしくない。通信販売のほうが、ノイズなしで効率的に売れますからね。だから通信販売が流行る。
 いまは人間なんていらないという社会がつくられつつあります。コンピュータが人間に置き換わるのではなくて、人間の意識が人間を追い出しているのです。
 意識が扱えるものだけが残っていくことに、どのような弊害があるのでしょうか。
 そんな世の中から、どんな人間が出てくるか。典型的なのが2016年に神奈川県相模原市で起きた障害者施設での事件です。障害があって働けず、人の世話になるだけの人に意味があるのかと犯人は言った。彼に一番欠けていたのは、人間としての謙虚さです。
 山や川に行けば石ころがゴロゴロしていますが、そこにどういう意味があるのか考えたことがありますか。それは意味がないのではなく、自分には意味がわからないだけです。そのことがわかっていることを謙虚といいます。そうでないと傲慢の極致になる。
 意味がないもの、つまり意識の中にないものをすべて排除してしまおうという考え方は非常に恐ろしい結果をもたらします。
◆嘘といかに対峙するかなど、養老猛司氏によるフェイクニュースへの洞察が語られた本稿全文は、『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2019年1月号に掲載されています。
◆最新号 好評発売中◆
『フェイクニュース』
テクノロジーの発達やSNSの浸透により、虚偽のニュースが瞬く間に広がる時代になった。しかも、合成動画技術は真贋の見分けがつかないほどに進化している。それに伴うダメージは、企業にも急激に広がっている。専門家や学者たちも腰を上げ、いかに対応していくべきかを考え始めた。本特集では“フェイクニュース”を多面的に分析する。

【特集】フェイクニュース
◇“フェイクニュース”といかに戦うか(シナン・アラル)
◇理想のCEOを描いた“真実”の物語(ルードビック・フランソワほか)
◇フェイクニュースの3つの問題(デニース=マリエ・オードウェイ)
◇悪意なき誤情報に立ち向かう(クレール・ワードル)
◇ディープフェイク:恐るべき合成動画技術(サム・グレゴリーほか)
◇フェイクニュースの正体と情報社会の未来(山口真一)
◇意識は嘘を見抜けない(養老孟司)

http://www.dhbr.net/articles/-/5637


 

理想のCEOを描いた“真実”の物語
実証実験が示す伝播力の脅威
ルードビック・フランソワ,ドミニク・ラウズィズ:HEC経営大学院准教授
2018年12月10日
虚偽のニュースは、あっと言う間に広まり、個人や企業に多大な悪影響を及ぼす。その被害を助長する1つの仕組みが、検索アルゴリズムである。2人の大学教員が学生とともに10年間続けた、ある企業についての実証実験をもとに、そのメカニズムと伝播力の大きさを紹介する。
『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2019年1月号より、1週間の期間限定で全文をお届けする。
ある創業企業の成功と苦境、
そして再興の物語
 ベルデン研究所は大成功を収めていた。1996年にエリック・ドゥモンピエールが設立してCEOを務めた同社は、肥満治療薬「ムトレックス」の商用化に成功した。ドゥモンピエールは瞬く間にスター経営者となり、企業の社会的責任に関する賞をいくつか獲得した。フルハイブリッド車(低公害車)には、これが人気化するずっと以前に投資していた。森林破壊を止めるためにパリとその周辺に植林をした。従業員に「連帯休暇」(人道的な活動をしている間は給与が完全に支払われる)を付与し、週32時間労働を始めたのも彼である。ドゥモンピエールは従業員に愛され、業界の各種会議や政治フォーラムで称賛され、メディアに取り上げられた。
 ところが2000年代の半ばになると、ドゥモンピエールに関する非の打ち所のない評判が非難を受け始める。ベルデンが一部の業務を海外に移し、フランスでレイオフをすることになるのではないかとの不安がささやかれた。次に、ドゥモンピエールの人道主義的なベンチャー企業は、アジアの工場で児童労働者を採用した組織のフロント企業だと暴露された。ムトレックスの深刻な副作用に関する噂が表面化し、役員の1人が自殺したが、その理由や背景はいまだ明らかでない。
 それでも、2009年までに、ベルデン研究所とドゥモンピエールはその台風を克服し、利益は爆発的に伸びた。
 しかし、ベルデンとドゥモンピエールに関して最も驚くべき事実は、その成功でも、彼らの評判がスキャンダルからどのように回復したかでもない。それは、この会社もCEOも、そもそも存在していないということである。2005年に始まり、その後10年にわたって生き続けた情報は、何から何まで大学生たちによるねつ造だったのである。本稿では、HEC経営大学院の教室で、筆者2人がどのようにして、誰も気づかないようにしてこの虚偽のニュースをつくり上げたか──そして虚偽のニュースを広げ、定着させるための技術について何を学んだかを紹介する。
レピュテーション(評判)・ゲーム
 ベルデン研究所物語の創作は、インターネット時代における企業の評判と危機管理という、HEC経営大学院で筆者らが教えている授業から生まれた。この講座で筆者らが学生たちに課した課題は単純なものだった。会社とCEOを創造し、オンライン上で増益を実現して、企業に関連する一般用語の検索ランキングでトップに入ることである。
 今回のケースでは、「CSR(企業の社会的責任)CEO」といった言葉が主なターゲットとなった。2005年、つまりこの試みを始めた初年度には、学生たちは「ベルデン」と「ドゥモンピエール」、そして「ジョン・ファンド・エクイティ」という投資パートナーとそのCEOである「エルビス・ブラウニー」、さらにベルデンの開発途上国での事業を支持するNGOといった関係者をつくり上げた。正式な報道機関と直接連絡を取り合ってはいけない、というのがこのゲームの唯一の制約だった。そこで学生たちは、ニュースリリースを配信するウェブサイトやソーシャルメディア・アカウントといったインターネットのエコシステムを立ち上げて大きくすることも、会社やその歴史、活動に関するその他の情報を広げることも、すべて自力でやらなければならなかった。
 迂回路、すなわち、1つのグループが、つくり話に基づいて会社とCEOを創造した一方で、別のグループはスキャンダルや不正行為に関するリポートでその評判をおとしめる課題を与えられた。もちろん同じツールを使い、同じルールに従った。
 そして、毎年、新しい学生の集団が仲間に加わることになっていた。どのクラスも新たな名声(ドゥモンピエールは一度「CEOオブ・ザ・イヤー」を勝ち取った)と、新たな悪評(別の都市には川が汚染されてベルデンの評判に傷がついた)をつくり出す課題を与えられた。ドゥモンピエールへのQ&Aやビデオインタビューが発表された。同社の投資パートナー、ジョン・ファンド・エクイティのウェブサイトは、ムトレックスをかつてないほどの画期的な治療法と持ち上げた。学生たちがでっち上げたNGOは、アジアでの児童労働のスキャンダルを暴露した。
 筆者らは、どちらの戦術のほうが検索ランキングのトップにたどり着きやすく、評判の上げ下げに影響を及ぼすかを知るために、悪材料と好材料について、虚偽のニュースによる綱引きを仕組んだ。2チームの学生たちはインターネット上での注目度を高めるべく競争した。というのも、企業社会では売上高モメンタムを維持するのは注目度だからだ。筆者らは自分たちのつくった情報を検索エンジンで検索する。そこで見つけた情報を筆者らが下す判断に組み入れる。人または企業の評判は、最初の検索結果ページに何が載るかで決まる。虚偽のニュースが持続すると、企業には深刻な結果をもたらす。
大成功を果たす
 最近は、嘘は事実よりも広がりやすいという研究結果が示されているが、ベルデン研究所とエリック・ドゥモンピエールの評判に関する筆者らの10年の経験は、それを裏付けている。
 経営資源は限られ、学生たちがつくったアカウントとウェブサイトは非常に幼稚なものだった。にもかかわらず、この虚偽のニュースは、何と初年度から急速に広がった。2005年には、「CSR CEO」といった一般的な用語を検索すると、エリック・ドゥモンピエールに関する情報を得ることができた。本物のジャーナリストがベルデン研究所とムトレックスに関する話題を取り上げた。
 2010年、「CSRマネジャー」で検索した時の最初の検索結果は、「ル・ポスト」というフランスのニュースサイトに載った記事だった(この記事は、2012年にハフィントンポストがこのサイトを買収した時に、ル・ポストの他のコンテンツとともにすべて削除された。この記事に関するリンクはオンライン上で見ることができるものの、そこを訪問すると、ハフィントンポストのフランス語版のホームページにリダイレクトされる)。ベルデン研究所とドゥモンピエールに関する話題は、ソーシャルメディアのスレッドや掲示板にも広がっている。
 学生たちの試みが成功した兆候はほかにもある。ベルデン研究所に履歴書を送った就職希望者が複数いたし、さらに、ムトレックスが無認可で販売されていることはけしからん、という抗議を、実在する医薬品会社から受けさえした。
 この講座は2014年に終了したが、その後数年経った現在でさえ、ウェブ検索をすると、ベルデン研究所やドゥモンピエール、その他架空の組織に関する2万件を超える検索結果を得ることができる。虚偽のニュースは、中国のネット検閲システム「グレートファイアウォール」さえくぐり抜けた。筆者らの同僚の1人が中国で検索したところ、ベルデン研究所関連の検索結果が4000件ほどヒットしたのだ。
なぜ成功したのか
 虚偽のニュースの拡散に関する調査を見ると、学生たちは、学会がそれ以前の数十年間にこうした現象の牽引力と見なしていた意思疎通の技術を使っていた。現在の読者は、淡々と語られた物語よりも、たとえば恐怖(汚染された河川)、嫌悪感(児童労働)、驚きまたは喜び(週32時間労働)といった情に訴える活きいきとした記事ほど、多く広めようとするだろう。さらに、「ベルデンが化学物質の流出を報告した」という言い方よりも、「ベルデンは、私たちの都市公園に接する川に非常に有害な、発がん性の化学薬品を投棄した」のほうがずっと効果的だ。学生たちはこうした理解に基づいて、自分たちのつくったニュースの拡散に努めた。
 さらに、自分たちがつくったサイトとアカウントの仕組み全体で再投稿、再リンクを繰り返し行って信憑性を高めた。その結果、しまいには、アルゴリズムがベルデン関連のニュースを検索結果リストのトップに引き上げるに至ったのだ。研究者たちは、何度も繰り返されると、虚偽のニュースが正確であるとの認識が高まると指摘している。親近感が信憑性を高めるというわけだ。
 さらに、新しい記事をつくるとともに、古い記事をリサイクルすることで、虚偽のニュースの粘着性を高めた。各講座に参加した学生たちは、単に新しい好材料と悪材料をつくっただけではなかった──過去に創作したニュースを何度も引用し、お気軽なウェブユーザーやジャーナリスト、活動家、ブロガーに取り上げられ、何度も投稿されるような、長い物語に貢献する一連の記事を仕立て上げた。この粘着性によって、1つの物語は単に記憶に残る以上の存在となった──そこで語られている情報が事実でないことがわかった後も、読者の意思決定を積極的に刺激しているのである。
現在はどうなっているか
 虚偽のニュースが注目されているのは、今日の政治に一定の影響を及ぼしているからだが、より陰湿と思われるのは、それがビジネスや経済の場で利用されているからだ。たとえば、2013年に始まった地中海クラブの買収合戦の最中、金融アナリストたちは、イタリア人実業家アンドレア・ボノミよりも中国企業「復星集団」(最終的な買い手となった)を支持する記事をいっせいに書いていた。
 スノープスやエマージャントといったファクトチェック(事実検証)サイトは、企業の評判を傷つけるような虚偽のニュースの絶え間ない流れを詳細に記録している。たとえば、次のような根も葉もない噂である。ペプシコのCEOがドナルド・トランプの支持者に「他社と取引すればいい」と言った、マクドナルドはすべてのレジ係をロボットに置き換えてビッグマックの販売を停止する、そして(あらゆる企業の中で!)フェイスブックは26人の「友達」だけからのニュースフィードしか示さないアルゴリズムを新たに始めた、などである。
 KFC(ケンタッキーフライドチキン)の一部店舗でマリファナが発売されるという、かなり流布したニュースは、当然のことながら偽であることが判明した。スターバックスの「感受性訓練デー」は、今年(2018年)初めに話題になったが、CEOのケビン・ジョンソンが「有色人種のお客様は(中略)列の前に移動することが許されます」と言ったという虚偽のニュースも、その一例だ。
 投資家とトレーダーは、短期的な急落を狙って株価を刺激しようするサイトが発する虚偽のニュースと格闘している。株を意図的に操作する試みは昔から行われているが、現在は、急速に利用頻度が高まっているアルゴリズムを使う株価操作スキームが横行している。
 筆者らの講座に参加した学生たちは大集団だったわけではなく、2ヵ月で18時間という短期間の取り組みが引き継がれていったにすぎない。にもかかわらず彼らがつくり出した完全なつくり話は、数千にも及ぶインターネット上の反応を生み出した。虚偽のニュース、コメント、分析を融合させてウェブの世界に浸透させることが成功したという事実は、この種の長期的な影響戦略の危険性を示唆している。
 十分な資金力に支えられた、専門的な「フェイク・ジャーナリスト」が、筆者らの評判ゲームよりもはるかに大きく、ずっと高度な方法で虚偽報道を仕組んでつくり上げる様子を思い浮かべるのに、想像力は大していらないだろう。欺瞞の規模が、検索アルゴリズムによって増幅されてこれほどになっているということはつまり、企業の評判が、かつてないほどそうしたものに左右されやすくなっていることを意味する。
 嘘の横行に対処するために、専門スキルとソーシャルスキルを使い、意識を高めることはどの国でも最優先事項となるべきだ。さもないと虚偽のニュースは急速に広まり、世の中に定着し、社会の基盤を侵食してしまう。個人の評判と企業の評判は価値創造と強く結び付いているため、これを維持することは、どの企業にとっても何より重視する仕事になるかもしれない。

鈴木立哉/訳
(HBR.org 2018年7月18日より、DHBR 2019年1月号より)
“The Real Story of the Fake Story of One of Europe’s Most Charismatic CEOs,” HBR.org, July 18, 2018.
(C)2018 Harvard Business School Publishing Corporation.

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【特集】フェイクニュース
◇“フェイクニュース”といかに戦うか(シナン・アラル)
◇理想のCEOを描いた“真実”の物語(ルードビック・フランソワほか)
◇フェイクニュースの3つの問題(デニース=マリエ・オードウェイ)
◇悪意なき誤情報に立ち向かう(クレール・ワードル)
◇ディープフェイク:恐るべき合成動画技術(サム・グレゴリーほか)
◇フェイクニュースの正体と情報社会の未来(山口真一)
◇意識は嘘を見抜けない(養老孟司)

http://www.dhbr.net/articles/-/5638

 


【第3回】 2018年12月10日 鈴木博毅 :ビジネス戦略コンサルタント・MPS Consulting代表

日本では、なぜ議論する前から結論が決まっているのか?

 日本社会では、判断基準が状況によってコロコロ変わることがある。それは今も昔も変わらない。戦時中の戦艦大和は失敗するとわかっていながら、なぜ特攻したのか。企業のプロジェクトは、成功率が低くてもなぜ強行されるのか。日本の議論にダブルスタンダードが出現する謎を探る。15万部のベストセラー『「超」入門 失敗の本質』の著者・鈴木博毅氏が、40年読み継がれる日本人論の決定版、山本七平氏の『「空気」の研究』をわかりやすく読み解く新刊『「超」入門 空気の研究』から、内容の一部を特別公開する。

日本で理不尽な「二重基準」が頻発する理由
 ニュースや議論では、「ダブルスタンダード」という言葉が時々出てきます。二重基準などとも呼ばれ、似た状況なのに違う規範が適用されることを意味します。
 われわれは常に、論理的判断の基準と、空気的判断の基準という、一種の二重基準(ダブルスタンダード)のもとに生きているわけである(*1)。
 山本七平氏は、自身が経験した戦場でも、日本軍は同じことを繰り返したと指摘します。
「これこれは絶対にしてはならん」と言いつづけ教えつづけたその人が、いざとなると、その「ならん」と言ったことを「やる」と言い、あるいは「やれ」と命じた例を、戦場で、直接に間接に、いくつも体験している(*2)。
 山本氏が戦後に理由を問いかけたとき、返ってくる答えはいつも同じでした。
 その返事は必ず「あのときの空気では、ああせざるを得なかった」である(*3)。
 ダブルスタンダードは今も頻出して、不公平や理不尽の象徴となっています。空気が判断基準をゆがませていることに、山本氏は気付いていたのです。
なぜ、沖縄戦で戦艦大和は特攻したのか?
『「空気」の研究』では、二重基準の事例として戦艦大和の特攻が挙げられています。特攻は、サイパン島が米軍によって陥落したときと、その翌年の沖縄戦で2回検討されました。
 1回目のサイパン島への特攻は、成功確率が極端に低いことを理由に却下されました。しかし、2回目の沖縄への特攻では、作戦が成功する可能性はサイパン島より低いにもかかわらず、出撃の議論は加速し続け、結局戦艦大和は出撃したのです。
 理屈から言えば、沖縄の場合、サイパンの場合とちがって「無傷で到達できる」という判断、その判断の基礎となりうる客観情勢の変化、それを裏づけるデータがない限り、大和出撃は論理的にはありえない。だがそういう変化はあったとは思えない(*4)。
 なぜ、サイパン島への特攻は拒否できたのに、沖縄では拒否できなかったのでしょうか。
「空気」=ある種の前提
 私は、空気をこのように定義しています。集団を縛る空気は、集団内である種の前提を基に考えたり、議論したりすることを強要します。
 戦艦大和の特攻は、サイパン陥落時には合理性を基準に作戦を否定できました。しかし沖縄戦のときは、議論の前に「大和は特攻すべき」という強固な前提が、すでに軍内部ででき上がっていたと考えると辻褄が合うことになります。
日本の敗戦が「確実」になって出現した前提
 では、沖縄戦に伴って出現した前提とは一体なんだったのでしょうか。サイパン(グアム島)陥落は1944年の7月。一方の沖縄戦は、翌1945年の3月から開始されています。
 二つの戦闘の最大の違いは、沖縄戦のときは「日本の敗戦はもはや確実」だったことです。そのため最強戦艦大和の処遇について、議論が紛糾していました。
 無傷で敗戦を迎えると、当然米軍側に拿捕され、無抵抗で撃沈されてしまうからです。
● 戦艦大和の処遇に最適な案がない(しかし米軍に拿捕されるのは避けたい)
● 一億玉砕が叫ばれる時期に、最強戦艦が何もしないでいられない意識
 こうした不都合な事実を一挙に解消するための案ですから、作戦の成功可能性が計画立案の根本ではありません。この点は極めて重要なポイントです。
 敗戦が避けられない当時、大和が戦闘で錦を飾り勝利する場面をつくることはもはや不可能と結論されたはずです。このような議論を重ねていた海軍上層部は「戦艦大和による沖縄特攻」を不可避とする空気(前提)に包まれていったのです。
(注)
*1 山本七平『「空気」の研究』(文春文庫) P.22
*2 『「空気」の研究』 P.16〜17
*3 『「空気」の研究』 P.17
*4『「空気」の研究』 P.17
成功率ほぼゼロでも、「特攻せよ!」と叫ばれた理由
 では一体、戦艦大和の空気による出撃は何が最大の問題なのでしょうか? 最大の問題は、「作戦の成功確率」をいくら議論してもこの空気は消えないことです。
 なぜなら、「戦艦大和が戦って撃沈される」ことが沖縄特攻の目的だからです。
 サイパンへの特攻計画を退けることができた理由は簡単で、日本の敗戦で大和がどうなるかという議論がなかったからです。だからこそ、軍事的な成功確率を基に合理性で却下できました。しかし、不都合な事実を解消するための沖縄特攻では、作戦の勝算は決行の判断とは完全に無関係なテーマとなったのです。
 日本的組織の意思決定がダブルスタンダードに陥る秘密が、ここにあります。つまり、沖縄特攻の議論はサイパン特攻と違い、最初から「結論ありき」だったのです。
 山本氏は『ある異常体験者の偏見』で、この点に触れています。
 大和出撃の動機の一つが「国民に多大の犠牲を強いて造った戦艦を戦わずして敵の
手にわたすことは出来ない」ということだったそうである(*5)。
 では、沖縄特攻の作戦が否決されたらどうなったか。海軍上層部にとって戦艦大和を巡る不都合な事実は未解消のため、すぐに新たな(別の)特攻作戦が立案されたでしょう。
 山本氏が、「空気を打ち消しても、すぐに新たな空気が出現する(*6)」と書いたのは、このような構造があるからなのです。

表面的に掲げられた目標は、大衆をだますダミー(偽物)
 掲げた目的達成がほぼ不可能なのに、なぜプロジェクトが強行されるのか。理由は簡単で、表面に目的として掲げられたことの達成が真の動機ではないからです。この構造は、現代日本の空気が関わる企業プロジェクトや社会問題でも同じです。
 表面的に掲げられた目標の達成が、実は単にダミー(偽物)にすぎない。これが空気を巡る議論を混乱させる要因の一つです。
 目標(ダミー)の達成ができそうもないのに、高い地位で頭脳明晰なはずの人々がなぜ必死に実施の強行を叫び続けるのか。真の目標がまったく別にあるからです。
 隠しておきたい前提(空気)を達成するためならば、表面に掲げられたダミー目標の成否は一切関係ないし、もともと関心もないことです。
 戦艦大和の出撃への空気が時間の経過で消え、「なぜあのような無謀な作戦を実施したのか」、後世に合理的な説明ができない理由もわかります。沖縄特攻の議論における前提(空気)=「戦艦大和を巡る不都合な事実」がすでに消失しているからです。
 したがって、ダミーの目標である沖縄特攻の合理性や成功確率を敗戦以降に論じても、わけがわからないのは当然なのです。
(注)
*5 山本七平『ある異常体験者の偏見』(文春文庫) P.210
*6 小室直樹/山本七平『日本教の社会学』(ビジネス社) P.151
それ以外に道がないという「悪意ある誘導」で、空気をつくる
 議論の前から「隠れた結論ありき」、別の都合で特定の前提がすでに決まっている。この構造こそが、日本の議論にダブルスタンダードが出現する最大の理由です。
「意志決定はすべて空気に委ねる」が、「それが何らかのデータに基づいているように見せる」のが実情であっても不思議ではない(*7)。
 自動車の排気ガス規制である日本版マスキー法では、「国民の抵抗感が少ない税収アップの方法」として、新しい環境基準値を守れない自動車をターゲットにすることが、すでに決まった状態から議論が始まっていたのでしょう。
 タテマエとしては日本における基準の決定はあくまでも「科学的根拠」によるのであって「空気」によるのではないことになっているから、外国からその科学的根拠を問われると、だれも返答できないことになってしまう(*8)。
 山本氏が“タテマエ”と書いているのは、実際はNoxと自動車を悪とする議論が、科学とはまったく関係ない別の基準で行われたという意味でしょう。自動車を悪と設定して、増税の空気(前提)を押し切ることが目的だからです。
 科学的根拠など当時はなく、税収アップのための新たな基準値だったと仮定すれば、科学的データ以外のあらゆる奇妙な論法を持ち出して、「自動車は悪」という空気(前提)を醸成したのも頷けます。
(注)
*7 『「空気」の研究』 P.53
*8 『「空気」の研究』 P.53
(この原稿は書籍『「超」入門 空気の研究』から一部を抜粋・加筆して掲載しています)

https://diamond.jp/articles/-/186938

 
トップ・マネジメントの経営指南に人生を賭ける
ラム・チャラン
森本博行:首都大学東京 名誉教授
2018年12月10日
『Harvard Business Review』を支える豪華執筆陣の中で、特に注目すべき著者を毎月1人ずつ、首都大学東京名誉教授である森本博行氏と編集部が厳選して、ご紹介します。彼らはいかにして現在の思考にたどり着いたのか。それを体系的に学ぶ機会としてご活用ください。2018年12月の注目著者は、GEのジャック・ウェルチをはじめ、世界的大企業のトップ・マネジメントたちとともに歩んできた、経営コンサルタントのラム・チャラン氏です。

インドに生まれ、騒乱の時代を生き抜く
 ラム・チャラン(Ram Charan)は1939年生まれ、現在80歳である。グローバル企業のトップ・マネジメントを対象とする著名な経営コンサルタントであり、その専門分野は、組織文化を変革するためのリーダーシップと人的資源管理である。
 チャランはハーバード・ビジネス・スクール(HBS)でMBAとDBAを修得し、HBSで助教授を務めた経歴もある。ただし、チャランのそれまでの人生は、必ずしも順風満帆ではなかった。
 チャランは7人兄弟の6人目として、インドのニューデリー近郊にあるウッタル・プラデーシュ州ハープルで生まれた。一家は叔父の家族と一緒に、一つ屋根の下で17人が暮らしていた。父と叔父はもともと布地を販売する商店を営んでいたが、1947年、チャランが7歳のとき、インドの独立にともなうヒンドゥ教徒とイスラム教徒の争いに巻き込まれて焼かれてしまい、復興後は靴屋を営んでいた。
 子どもたちは学校に通わせてもらっていたものの、学校が始まる前の朝、そして学校を終えて帰宅してから夜まで家業を手伝った。のちに世界的大企業の経営コンサルタントとなるチャランは当時を振り返り、自分が初めてビジネスに関係したのは、10代の頃に家業の靴屋を手伝ったことである、と述べている。
 年長の兄弟や従兄弟は、14歳で義務教育を終えると家業に従事したが、チャランだけは例外であった。それは、ある日、学校の先生が店を訪ねてきて、チャランを上級の学校へ行かせるように説得したからだ。
「ラム・チャラン」として新たな人生を歩み始める
 チャランは15歳のとき、他の入学者より2歳も若く、インドで著名なバナーラス・ヒンドゥー大学の機械工学科に進学した。1959年、20歳で同大学を卒業すると、カルカッタのジェイ・エンジニアリングに就職したが、わずか5ヵ月で辞めてしまった。働きながら大学教育を受けることができる、オーストラリアのワーキング・プログラムに応募したからだ。オーストラリア・シドニーまでの旅費は、祖母が大事にしていた宝石を売って工面してくれた。
 チャランは留学先のニューサウスウェールズ大学で、経営工学を専攻した。昼間は大学の紹介で見つけた配電会社の製図工として働き、夜は大学で学ぶという生活を送っていた。
 オーストラリアに行くにあたり、チャランの人生を左右する、ある革新的な出来事があった。インドでは民族や地域によって、あるいはかつての日本のように階層に応じて、苗字を持たずに個人名だけの場合が多い。チャランの家族にも苗字はなく、チャランの個人名は「ラムチャラン」であったのだが、オーストラリアへ行く際のパスポートを取得する際に名前が2つに分けられて、現在の「ラム・チャラン」となったのである。
 チャランは、1963年に同大学を卒業すると米国に渡り、オーストラリア滞在時から志願していたHBSに入学した。当時のHBSは週に6日間講義があり、1日で3ケースについてクラス・ディスカッションがあった。学生たちはディスカッションで発言するために、前日までにケースを要約し、問題点を抽出し、解決策を検討する必要があったが、学生同士が分担してそれぞれのケースを検討し、お互いのノートをシェアするのが毎晩のように行われるのが通例であった。
 だが、チャランはそこに加わることなく、独自に発言の準備をした。HBSの夏休みには、暖かいハワイに行き、ホノルルのガス会社に勤めて生活資金を稼いだという。
 HBSでは、2年間の講義を通じてカテゴリーTの成績が7割以上、上位5%以内の成績優秀者に対してベーカー・スカラー(Baker Scholar)が授与されるが、チャランには上位3%以内の成績優秀者に贈られる“Baker Scholar with High Distinction”が授与され、1965年にMBAを修得した。2年次には博士課程への進学を薦められた。博士課程では今日の経営戦略論に相当する“Business policy”を専攻した。
インド出身者初のHBS専任教員に就任
 チャランは博士課程を2年間という短期間で修了し、1967年にDBAを授与され、同年HBSの助教授として採用された。HBSには、現在学長を務めるニティン・ノーリア、同校最年少で教授昇任を認められたパンカジュ・ゲマワットなど、インド出身者でファカルティメンバーになった者が今日多数存在するが、チャランはインド出身者の専任教員の嚆矢となった。
 チャランはHBSに助教授として5年間在籍したが、1973年にイリノイ州エバンストンに移り、ノースウエスタン大学ケロッグ・スクール・オブ・マネジメント(以下ケロッグ)の准教授となった。
 HBSでは、助教授就任から5、6年で准教授に昇任するのが通例であったが、准教授となり、さらにテニュア(終身雇用資格)を得るためには、ケースの執筆に加えて、調査研究に基づく多数の論文を執筆し、ジャーナル誌に投稿・掲載されることが必須であった。そういったことを好まなかったのが異動の動機である。
 チャランはケロッグに3年間在籍したが、やはりテニュアを認められるために研究業績を求められると、1976年にボストン大学からテニュアの教授として招聘されたのを機に、ボストンに戻った。だが、同大学でも教授としての研究業績を求められた結果、1978年、39歳でボストン大学を辞めて、経営コンサルタントとして独立することを決意した。
トップ・マネジメントの経営コンサルタントを目指して
 チャランは1981年、ボストンからはるか南方に位置し、インドの気候に似ているテキサス州ダラスに部屋を借りて、チャラン・アソシエイト(Charan Associates Inc.)を設立した。ただ、ダラスにいることはほとんどなく、オフィスでスケジュールの対応や資料をまとめるアシスタントと連絡をとりながら、全米の各都市や世界各地の顧客企業を訪ねた。主な顧客は、ゼネラル・エレクトリック(GE)、KLM、バンク・オブ・アメリカ、デュポン、ユニバーサル・スタジオ、ノバルティス、メルク、EMC、3M、ベライゾン、タタなど、世界的な大企業であった。
 経営コンサルタントといっても、著名なコンサルティング・ファームに在籍したわけではないため、グローバル大企業のトップ・マネジメントとすぐに会えるわけではなかった。彼らと交流を持つ契機となったのは、『Harvard Business Review(ハーバード・ビジネス・レビュー)』(以下HBR)誌に掲載された、ジャック・ウェルチへのインタビュー論文、“Speed, Simplicity. Self-Confidence: An Interview with Jack Welch,” with Noel M. Tichy, HBR, September-October 1989.(邦訳「ジャック・ウェルチが語る自己革新型ミドルの創造」DHBR1994年11月号)であった。
 同論文共著者のミシガン大学ビジネス・スクール教授のノール M. ティシーは、1982年からGEのコンサルタントを担当しており、1985年から1987年まで一時的に大学を離れて、GEクロトンビル経営開発研究所(Management Development Institute at Crotonville、以下クロトンビル)[注1]に在籍し、エクゼクティブ教育プログラムの開発担当マネジャーを務めた経験があった。のちに、ウェルチ経営を分析した名著といわれる、Control Your Destiny or Someone Else Will, with Stratford Sherman, 1993.(邦訳『ジャック・ウェルチのGE革命』東洋経済新報社、1994年)を著している。
 1981年、GEのCEOに就任したウェルチは、第一段階として「グローバルでナンバー・ワンかナンバーツー」「スリー・サークル・コンセプト」などを打ち出して事業の再編成を終えたのち、1985年以降、第二段階である「ディレイヤリング」と呼ばれる組織階層や本社スタッフの削減を断行するとともに、RCAの買収や金融・保険事業への参入を行った。
 ウェルチは、従来とは異なる、問題解決型のミドルマネジメントの必要性を強く感じていた。そんなウェルチの命を受け、クロトンビルでは、1986年からチームによるアクションラーニングを基本とするEDC(Executive Development Course)とBMC(Business Management Course)の2つの教育プログラムが開始された。
 チャランがクロトンビルに関わるようになったのは、GEが1987年に買収したRCAのマネジメントに対する再教育を目的とした、BMCの講師を務める機会を得たことが契機であった。BMCの目的は、GEの組織文化のコアとなる価値観を認識させ、問題解決型の経営手法を研修させることであった。なお、チャランはクロトンビルのベスト・ティーチャーとして“Bell Ringer Award”を受賞している。
 ウェルチは、時間ができるとニューヨークから1時間ほどに位置するクロトンビルを訪れ、受講生に講話を行うことを日課としており、チャランもウェルチと親しくなる機会に恵まれた。ウェルチはチャランについて、“Ram has the rare ability to distill meaningful from meaningless and transfer it in a quiet, effective way without destroying confidences.”(ラムは、信頼を壊すことなく誠実で効果的な方法で、無意味なものから意味を引き出し、それを転換する稀な能力を持っている)と評価している[注2]。
ジャック・ウェルチが語る自己革新型ミドルの創造敏捷な巨人──GEの企業変革プロセスノール・ティシー ミシガン大学ビジネススクール 教授
ラム・チャラン 経営コンサルタントこの論文を読む
 チャランが次にHBR誌に寄稿した、“Citicorp Faces the World: An Interview with John Reed,” with Noel M. Tichy, HBR, November-December 1990.(邦訳「ビジネス・モデル再構築への軌跡」DHBR1991年5月号初出、DHBR1997年11月号再掲)は、前回同様にティシーと行った、シティコープ会長兼CEOのジョン S. リードへのインタビューである。インタビューでは、1984年に同社会長に就任したリードが取り組んだ、金融機関として世界的規模の陣取り戦略を実践したシティコープと、それに対する組織改革の姿勢、会長としての役割などを引き出している。
ビジネス・モデル再構築への軌跡変革を可能にしたトップの決断と実行ジョン S. リード   シティコープ会長兼CEO
ノール・ ティシー   ミシガン大学ビジネススクール 教授
ラム・ チャラン  経営コンサルタントこの論文を読む
GEとの比較から経営を学ぶ
 GEの副会長を務め、ウェルチの片腕ともいわれたラリー・ボシディは、1991年、55歳のときにアライド・シグナルのCEOに指名された。チャランは、“The CEO as Coach: An Interview with Allied Signal’s Lawrence A. Bossidy.” with Noel M. Tichy, HBR, March-April 1995.(未訳)を通して、同社で組織文化の改革を行ったボシディの取り組みを紹介している。
 GEのように、社員がコミットメントし、戦略や業務が確実に実行される組織文化で育ったボシディにとって、アライド・シグナルの組織には驚かされたという。同社にもGEと同様、人材プロセス、戦略プロセス、予算・業務プロセスがあったが、それらのプロセスは管理されず、事業の現実からかけ離れており、確実な実行が保証されていない優柔不断な組織風土であった。
 ボシディは、CEO就任直後の60日間に全米各地で5000人の社員と対話集会を実施し、現状把握を行ったうえで、決断・実行する組織への変革を推進した。アライド・シグナルは、1999年にハネウェルを買収し、ハネウェル・インターナショナルとして発展するが、ボシディの退任前年の2001年には、同社の営業利益率は3倍の15%を実現し、ボシディは名経営者という評価を得た。
 チャランはさらに、“Conquering a Culture of Indecision,” HBR, April 2001.(邦訳「対話が組織の実行力を高める」DHBR2002年1月号)をHBR誌に寄稿した。同論文のタイトルを直訳すれば「優柔不断の組織文化を打破する」であり、これはまさしくボシディの示唆から生まれた論文であった。組織において、対話は業務の基本要素である。チャランは、優柔不断な組織風土には信頼関係が必要であり、そのためには対話を通して、経営プロセスに適切なフォローとフィードバックを与えることで、実行ある組織を可能にすると主張した。
 その後、チャランはボシディと共著で、実行する組織への変革をテーマに、Execution, 2002.(邦訳『経営は「実行」』日本経済新聞社、2003年)や、Confronting Reality, 2004.(邦訳『いま、現実をつかまえろ!』日本経済新聞社、2005年)を上梓している。
対話が組織の実行力を高める意思決定をアクションにつなげるメカニズムラム・チャラン 経営コンサルタントこの論文を読む
 GE副社長として電力部門を率いたロバート・ナデリーは、2000年、ホーム・デポのCEOに就任した。ホーム・デポは、自由奔放で仲間意識を重んじる組織文化を持ち、成長によって生じた在庫回転率などの財務や業務オペレーションには、問題が放置されたままであった。チャランは、“Home Depot’s Blueprint for Culture,” HBR, April 2004.(邦訳「ホーム・デポ:自由奔放な組織文化の改革」DHBR2006年10月号)において、ナデリーが取り組んだ組織文化の変革を事例に挙げ、いわばGEのように、問題解決型の実行する組織文化へ変革するためのツールやプロセスを紹介している。
ホーム・デポ:自由奔放な組織文化の改革「売上高10兆円の小売業」にGEの流儀を持ち込むラム・チャラン   経営コンサルタントこの論文を読む
 チャランは、ジャック・ウェルチ、ジョン・リード、ラリー・ボシディ、ロバート・ナデリーによる組織文化の変革の取り組みについて、独自の分析を交えてHBR誌で紹介してきた。
“You Can’t Be a Wimp―Make the Tough Calls.” HBR, November 2013.(邦訳「意思決定は実行である」DHBR2014年3月号)では、不確実性の高い事業環境にあって、CEOは数限りない意思決定に直面するが、プロクター・アンド・ギャンブルのアラン G. ラフリー、GEのジェフリー・イメルト、ベライゾンのイワン・サイデンバーグなど、当時の優れたCEOに共通する適切な情報の確保や意思決定、さらに実行を導くプロセスについて、HBR編集部のインタビューに答える形で論じている。CEOの資質としては、第一に大きな賭けに臨む勇気と不測の事態に対処する不屈の精神、第二に鋭い洞察を導く察知能力、第三に信頼を醸成する能力を挙げている。
意思決定は実行である【インタビュー】大いなる決断に必要な3つの資質ラム・チャラン   経営コンサルタントこの論文を読む
人事改革こそ企業の最優先課題である
 全米267社の大企業を対象にした調査によれば、トップ・マネジメントの指名プロセスに満足している人事担当役員は20%にすぎず、CEOの在任期間を見ると、5社のうち2社は就任後1年で退任しているという。
 企業にとってCEOの選任は最優先課題である。チャランは、“Ending the CEO Succession Crisis,” HBR, February 2005.(邦訳「CEOの『発掘・育成・選抜』のプロセス」DHBR2005年11月号)で、リーダー候補者の資質をアクティブラーニングで見極めるGEの「セッションC」を紹介しながら、後継者育成プログラムの問題点を指摘し、また生え抜きと外様CEOの問題点を比較検討した。
CEOの「発掘・育成・選抜」のプロセス企業目標と候補者の能力をフィットさせるラム・チャラン   経営コンサルタントこの論文を読む
 また、“People Before Strategy: A New Role for the CHRO,” HBR, July-August 2015.(邦訳「CHROは経営者たれ」DHBR2015年12月号)では、人事担当役員であるCHRO(最高人事責任者)の役割を再認識すべきだと主張した。
 CHROは、社員の満足度、仕事への熱意、福利厚生と報酬制度、組織の多様性の管理といった通常の人事関連業務のほか、人事制度の結果の予測、組織の問題の原因究明、企業価値の向上につながる施策の検討なども本来果たすべき責務である。だが現実には、それほど実践されていない。CFO(最高財務責任者)が、資金を調達し、結果を予測して適切に配分し、経営を効率的に管理するように、CHROは、人材を採用・育成し、組織の活力を引き出す人的資源を管理することによって、CEOを補佐すべきだと主張した。
CHROは経営者たれ戦略は人に始まるラム・チャラン 経営コンサルタント
ドミニク・バートン マッキンゼー・アンド・カンパニー グローバル・マネージング・ディレクター
デニス・ケアリー コーン・フェリー 副会長この論文を読む
 チャランは最近、人事の役割に留まらず、社会の変化に対応して組織が変化すべき点にも言及している。たとえば、個人向け金融サービスでは、顧客はアプリを介して、いつでもどこでも利用できるサービスを期待している。企業には、そうした顧客の要求に迅速に応える、アジャイル組織に変わる必要があり、そのための組織運営が求められる。
“One Bank’s Agile Team Experiment,” with Dominic Barton and Dennis Carey, HBR, March-April 2018.(邦訳「世界的金融グループはアジャイル手法で組織を変えた」DHBR2018年6月号)では、金融サービスのINGが、IT企業から人材配置と業績管理のためのアジャイル手法を学び、従来型組織を変革した事例を紹介している。
世界的金融グループはアジャイル手法で組織を変えたフィンテック時代のING全社戦略ドミニク・バートン マッキンゼー・アンド・カンパニー グローバル・マネージング・パートナー
デニス・ケアリー   コーンフェリー 副会長
ラム・チャラン   経営コンサルタントこの論文を読む
 チャランには多数の著作がある。その特徴は、学究的な理論研究や、コンサルタントによるフレームワークの提示することではなく、著名な経営者が取り組んだ事例の研究から導き出した鉄則や経営指南が多いことが挙げられる。
 チャランは、20歳のときにインドを離れてから、結婚して家庭を持つこともなく、67歳でダラスにマンションを購入して落ち着くまで、世界各地のホテルを転々としてきた。名門大学のテニュアの地位に甘んじずに独立し、ウェルチなど世界のトップ・マネジメントを顧客に持つ経営コンサルタントであることを誇りに、激動の人生とたえず格闘してきた人物である。
 そんなラム・チャランの信念の裏側には、インドの兄弟や従兄弟たちの家族と異なり、自由な人生を歩んだ責任への重い意識がある。チャランの最近の著作であるTalent Wins, 2018.(未訳)の巻頭に、こんな一文が載っている。
“Dedicated to the hearts and souls of the joint family of twelve siblings and cousins living under one roof for fifty years, whose personal sacrifices made my formal education possible.”(50年間、ひとつ屋根の下でともに暮らす12人の兄弟と従兄弟たちの家族に心と魂を捧げる。兄弟と従兄弟たち一人ひとりの犠牲のおかげで、私は人並みの教育を受けることできたのだから)
[注1]クロトンビル経営開発研究所は、1956年に当時のCEOであるラルフ・コーディナーの指示により、クロトンビルにリーダーシップ研究所として設立された。現在は「ジョン F. ウェルチ・リーダーシップ開発研究所」と改名されている。
[注2]Fortune, April 30, 2007.より引用。

http://www.dhbr.net/articles/-/5631

2018年12月10日 flier
AI時代「100人に1人の人材」になるために必要な7つの条件
『藤原和博の必ず食える1%の人になる方法』
グローバルビジネス・エリートになるには?
写真はイメージです Photo:PIXTA
レビュー

『藤原和博の必ず食える1%の人になる方法』 藤原和博著 東洋経済新報社刊 1512円(税込)
 AIが高度に発達すれば、レアな人材にならなければ食べていけない時代がやってくる。しかし価値観が多様化するなか、誰も彼も同じ条件をクリアすればいいわけではない。いったい私たちはどうすればいいのか――この問いに明快な答えをくれるのが、本書『藤原和博の必ず食える1%の人になる方法』である。

 本書ではまず、ビジネスパーソンを「価値観」と「志向」の2軸で4つのタイプに分類する。「価値観」では、経済的価値と経済以外の価値、どちらを重視するか。「志向」では、「権力(サラリーマン)志向」か「プロ(独立)志向」かである。それぞれどちらを選ぶかによって「社長」「自営業」「公務員」「研究者」の4つのタイプに分けられ、タイプごとに満たすべき7つの条件と、それらをクリアするためのヒントが提示されるというわけだ。

 本書で提示される条件は、著者・藤原氏の実体験や知見に基づいており、強い納得感がある。一つひとつ条件をクリアしていくことでステップアップしている実感を得られ、モチベーションを保てることも、このメソッドのメリットだろう。特に若い人にとっては、藤原氏という「採用する側」に立っている人の視点から「一緒に働きたい人の人物像」「高く評価する人の人物像」を知ることができるだけでも、大きな価値があるはずだ。激動の時代を生き抜く力を蓄えるために必読の一冊だといえるだろう。

本書の要点
(1)ビジネスパーソンとしてこれからの時代を生き抜くためには、100人に1人(=1%)のレアな人になる必要がある。
(2)本書では、ビジネスパーソンをその人の「価値観×志向」によって4つの領域に分類したうえで、100人に1人になるために必要な7つの条件を紹介している。
(3)どの領域に属している人であっても最低限満たすべき条件は3つで、「パチンコをしないこと」「ケータイゲームを電車の中で日常的にしないこと」「本を月1冊以上読むこと」である。

要約本文
【必読ポイント!】
◆3条件をクリアして「8分の1」の人になれ!
◇二極化するビジネスパーソン

 ビジネスパーソンは今後、ほんのひと握りのグローバル・スーパーエリートとそれ以外の大多数の人々へと二極化していく。グローバル・スーパーエリート以外の人たちが生き抜くためには、1%の人、つまり100人に1人のレアな人にならなければならない。1%の人になるには、本書で紹介される7つの条件さえクリアできればよい。

 旧来の日本社会においても、成功の条件は7つあった。「男性であること」「都市に住んでいること」「正社員であること」「若いこと」「容姿がいいこと」「英語ができること」「年収が数百万円以上あること」だ。ところがバブル崩壊後においては、人々の生き方や価値観が多様化し、成功の定義が一人ひとり異なるようになっている。だからみんなが同じ7条件をクリアすればよいという状況ではない。

 本書では、この時代に人々がめざす領域を2軸で総括している。横軸が「経済的価値(給料、年収、お金)を重視する」か「経済以外の価値(家族、友達、個人的な活動、社会貢献)を重視する」か。縦軸が「権力(サラリーマン)志向」か「プロ(独立)志向」かだ。このマトリックスで4つのタイプに分類し、タイプごとに7つの条件を紹介する。自分の価値観と志向に合った領域で必要な条件をクリアし、1%の人をめざそう。

◇3つの条件

 4つの領域で1%の人をめざすわけだが、最初の3つの条件はどの領域にも共通する、最低限の条件である。まずはこの3つをクリアしよう。そうすれば、2×2×2で8分の1の人になることができる。

 1つ目が、パチンコをしないことだ。ギャンブルといっても競馬や麻雀なら頭を使うが、パチンコには知的な側面がない。パチンコのような非生産的な時間を過ごすことはやめ、時間を主体的にマネジメントする感覚を身につけよう。

 2つ目が、ケータイゲームを電車の中で日常的にしないことだ。ケータイゲーム依存症の人は、現実逃避のために仕事や睡眠の時間を削るという、危険な時間の使い方をしている。携帯会社やゲーム会社の術中にはまるのはやめ、メディアを主体的に使いこなすことを覚えよう。

 3つ目が、本を月1冊以上読むことだ。パチンコとケータイゲームをやめて得た時間を読書に投資しよう。成熟社会においては、教養の差が競争の差別化要因になる。さらに読書によって得た情報を編集する力がつけば、豊かな教養が身につき、多様な価値観をもつ相手と深い人間関係を築くことができる。これはいい仕事をするうえで強力な武器になりえるものだ。

◆「力」を求める社長タイプ
◇「作業」でなく「仕事」をする人になれ

 ここからは、2つの軸で分けられる4つのタイプを紹介していく。まずは、「経済的価値」を重視し「権力志向」の「社長タイプ」だ。このタイプは、組織における役割としての仕事が人生の中心になっており、会社組織で出世することをめざしている。「力」を求める人たちだといえよう。この領域で1%の人になる条件のうち、要約では「会社で作業をする人でなく、仕事をする人になること」を紹介する。

 社長タイプを極めるには、会社選びが重要である。とくに重要なのは、会社の規模だ。会社の規模によってどういう仕事をどの程度まかせられるかが異なり、仕事のまかせられ方によって成長スピードが大きく異なる。つまり大きな仕事やある得意先の仕事を丸ごとひとりに任せるような会社に入社すれば、ビジネスパーソンとして飛躍的に成長することができるというわけだ。

 そのためには、中小企業の段階を少し抜けた程度の、システムが完成しようとしている会社を選ぶとよい。大企業では、仕事の分業化が進み、業務が固定化してしまう。若いうちから大きな仕事をまかされることは難しいといえよう。

 この領域でレアな人材になるためには、仕事に取り組むマインドを根本から変える必要がある。つまり人から与えられる「作業」をする人ではなく、自ら主体的に取り組む「仕事」をする人になるというマインドが必要だ。人から与えられてばかりでは、能力も希少性も高まらない。あなたに与えられた「作業」をプロジェクトの全体像から捉え、自分なりに「仕事」に変えていこう。

◆「技」を求める自営業タイプ
◇1万時間で技術を身につけろ

「自営業タイプ」は、「経済的価値」を重視し「プロ志向」のタイプだ。組織に属していてもいなくても、自分の能力を磨いて独立することをめざしている、「技」を求める人たちだ。ここでは、この領域で1%の人になる条件を1つ紹介する。

 その条件とは、自分がプロになる分野をひとつ決め、その分野に1万時間を投じてスキルや技術を磨くことだ。1万時間あれば、好き・嫌いも得意・不得意も関係なく、必ずプロレベルに達することができる。

 1万時間を捻出するには、「何をやるか」だけでなく「何をやらないか」も重要になってくる。だが会社で偉くなればなるほど、自分の仕事が非生産的な仕事に侵食されていってしまう。この非生産的な仕事を著者はSSK(接待・査定・会議)と呼ぶ。SSKは会社にいることの“税金”として、管理職であれば会社にいる時間の6〜7割、多い人では9割もの時間を奪われてしまうものだ。だがプロをめざすなら、SSKを減らして自分が本来やるべき仕事に時間を投じることが必要だといえよう。会社がらみの飲み会を減らしたり、会議の時間を短縮したりする工夫をすることだ。

 その他、著者が時間確保のために行っているのは、時間にルーズな人とは付き合わないこと、ゴルフを一切やらないこと、飲み会は夜10時には退席すること、結婚式に出ないこと、葬式は本人を知らなければ出ないこと、テレビはニュースとドキュメンタリーしか見ないこと、スケジュールとダイアリーはすべて手帳1冊で管理することだ。

◆「つながり」を求める公務員タイプ
◇他者からのクレジットを蓄積せよ

「経済以外の価値」を重視し「権力志向」なのは「公務員タイプ」だ。組織でも仕事をしているが、それ以外のコミュニティーで人と関わって自分を活かしていくことをめざす、「つながり」を求める人たちだといえよう。この領域で紹介する条件は、「他者からのクレジット(信任)を蓄積すること」だ。

 公務員タイプの生命線になるのが、今いる組織の内外における人とのつながりである。その極意は、自分を安売りすることだ。計算高く動くのではなく、自分が「やりたい!」「学びたい!」「人を助けたい!」と思ったら、たとえそれが無報酬であってもどんどん引き受けるようにしよう。それがコミュニティーの裾野を広げるチャンスになり、そのコミュニティーに受け入れてもらうための切り札にもなる。小欲にこだわることはやめよう。

 この領域の人は、本業で十分食べていくことができるはずだ。加えて、夫婦共働きであれば、生活に余裕がある。そうしてできた余裕を地方自治体、NPO、NGOなどのコミュニティーに投資するというわけだ。本業での稼ぎと「やりたい仕事」「やるべき仕事」を分けて考えるのがポイントであるといえよう。

 自分の時間を投じてタダ働きすることができる人は、信頼と共感を集めることができる。この信頼と共感の総量を、著者は「クレジット(信任)」と呼ぶ。このクレジットが人間関係を築く礎となり、クレジットをどれだけ多く蓄積していけるかがこの領域の鍵となるのだ。

 クレジットを積み上げていくと、人はあなたのために知恵や技術を貸したいと思うようになるだろう。コミュニティーで活躍できるようになるし、自由度が増すだけでなく、みんなに応援されて上に立つこともできる。要するに、この領域の人が求める「経済以外の価値」と「権力」を手にすることができるというわけだ。

◆「好き」を求める研究者タイプ
◇好きなものをとことん極めろ

「研究者タイプ」は、「経済以外の価値」を重視する「プロ志向」のタイプだ。組織に属していてもいなくても、自分の趣味や興味を追求することをめざしている、「好き」を求めるタイプだといえよう。この領域で紹介する条件は「好きなものをとことん極めること」である。

 この領域を突き詰めるための大前提として、自分がオタクになれるほど好きなものがなければならない。夢中になれるほど好きなものには、知らず知らずのうちに1万時間以上を費やしているので、ほかの人を圧倒するほどの知識や技術が自然と身につく。そしてそれがいつかビジネスに発展する可能性もあるだろう。自分が好きな分野を極めて、その分野でレアな人になることをめざそう。小さなことでも構わない。むしろ小さくて狭い分野を極めたほうが、レア度が高い人になれる。

 好きなことで食べていけるのかと不安に思うだろう。しかし著者は思いきってチャレンジすることをすすめている。なぜならこれからの時代、自分で職業をつくりだすことができるからだ。たとえば「アロマセラピスト」や「ドッグセラピスト」は20年前までは存在しなかった、「アロマのオタク」「犬のオタク」が就いている職業だ。多様化する成熟社会では、今後、さらに多くの「○○セラピスト」が生まれることだろう。

 同様に増えていくことが予想される職業として、「○○カウンセラー」「○○アーティスト」「○○コンサルタント」「○○アドバイザー」などが挙げられる。この「○○」に自分の好きなものをつけ、名乗ってしまおう。それだけで食べていけるか不安であれば、複数の分野を掛け合わせればよい。「水セラピスト」兼「つけまアーティスト」、「水セラピスト」兼「終活カウンセラー」などと掛け合わせれば、究極のレアな人になることができるはずだ。

一読のすすめ
 本書は4つのタイプ別に、1%の人材になるための7つの条件を指南したものだ。要約で紹介できた条件は、その中の4つにすぎない。1%の人材になってこれからの時代を生き抜くため、自分に必要な残り3つの条件とそれを満たす方法を本書から学んでいただければと思う。

評点(5点満点)
総合4.0点(革新性4.0点、明瞭性4.0点、応用性4.0点)


*評点基準について
著者情報
 藤原和博(ふじはら かずひろ)

 教育改革実践家。杉並区立和田中学校・元校長。元リクルート社フェロー。
 1955年東京生まれ。1978年東京大学経済学部卒業後、株式会社リクルート入社。東京営業統括部長、新規事業担当部長などを歴任後、1993年よりヨーロッパ駐在、1996年同社フェローとなる。
 2003年より5年間、都内では義務教育初の民間校長として杉並区立和田中学校校長を務める。2008〜11年、橋下大阪府知事特別顧問に。
 著書に、ベストセラーになった『人生の教科書〔よのなかのルール〕』『人生の教科書〔人間関係〕』(以上、ちくま文庫)など「人生の教科書」シリーズのほか、ビジネス系では『リクルートという奇跡』(文春文庫)、教育系では『校長先生になろう!』(ちくま文庫)、共著では40万部を超えるベストセラーとなった『16歳の教科書』(ドラゴン桜公式副読本/講談社)などがある。
 人生後半戦の生き方の教科書『坂の上の坂 55歳までにやっておきたい55のこと』(ポプラ社)は12万部を超えるベストセラーに。近著は『今、話したい「学校」のこと 15歳からの複眼思考(クリティカル・シンキング)』(ポプラ社)。
 詳しくは「よのなかnet」に。
 ツイッターは@kazu_fujihara

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https://diamond.jp/articles/-/187781  

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