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EU離脱で英国の魂である医療制度が崩壊も 離脱派が唱えた「医療制度が改善する」はウソだった  メルケル体制崩壊への序曲
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投稿者 うまき 日時 2018 年 10 月 17 日 09:26:16: ufjzQf6660gRM gqSC3IKr
 

EU離脱で英国の魂である医療制度が崩壊も

離脱派が唱えた「医療制度が改善する」はウソだった

ロンドン発 世界の鼓動・胎動
2018年10月17日(水)
伏見 香名子

 来年3月29日に定められた、英国の欧州連合(EU)離脱まで半年を切った。離脱による影響は、EU各国間との関税や、アイルランドとの国境問題など多岐に渡り、今なお政治の現場はもちろん、人々の間でも激しい議論が絶えることはない。しかし、全ての英市民が離脱によって影響を被るのは、何より医療面ではないだろうか。

 英国の医療は、NHSと呼ばれる「国営医療制度」が主体だ。財源は税金であり、英国に居住していれば外国人であっても、患者は基本的に無料で医療が受けられる。(歯科治療は除く)しかし、NHSは慢性的な資金不足に苦しみ、近年の緊縮財政で、更に予算は削られる一方だ。資金難から人件費も削られ、手術を必要とする患者が長期間待たされるなど、深刻な事態に陥っている。

 2年前、EU離脱を問う国民投票の際、離脱派はこうした待ち時間の長さなど、NHSにまつわる問題の多くが、増えすぎた移民のせいだとの主張を連日展開した。真っ赤なキャンペーンバスに「毎週EUに支払う拠出金、3億5千万ポンドをNHSへ」との公約を掲げ、離脱こそがNHSを改善する、と声高に訴えた。

 この主張は、離脱決定直後、離脱派の急先鋒であった、当時の独立党党首によりいともあっさり「確約はできない」と覆されている。だまされた、と感じる英市民は、現在でも少なくはない。

 離脱派の思惑が何であれ、英市民の命を預かるNHS関係者の間には、離脱による深刻な打撃を懸念する声が噴出している。先月15日、離脱に反対するNHS関係者で組織された団体、NHS Against Brexitのイベントが、ロンドン市内で開かれた。


 最前列で熱心に講演者の話に聞き入っていたのは「不安を感じる一市民」としてイベントに参加したマイク・ジョージさん(74歳)だ。ジョージさんは、「NHSは、市民として私たちが得られる唯一の医療サポートです。私たちの面倒を見てくれるものですし、年齢を重ねるごとに、人々にはケアが必要です」と話した。

移民の多くは、NHSで働く医師や看護師たち
 ジョージさんには前立腺関係の疾患があり、現在も経過観察中だ。深刻な状態ではないものの、年齢的に今後健康に何か問題が生じないとは言えない。「離脱は大きな影響をもたらすでしょう。今もすでに、待ち時間や、予約のキャンセルなどで困っています。すでに長い、手術などの待ち時間はより長くなり、離脱後に、状況は悪化するでしょう」と語った。


前立腺関連の疾患があるジョージさん。英国のEU離脱による医療への悪影響を懸念する
 講演者の一人、ロンドンの家庭医(GP)、クレア・ジェラーダさんは、「今日は、市民や専門家に、離脱は私たちの健康に甚大なリスクを及ぼすことを伝えにきました」と話した。

 ジェラーダさんの亡き父は、マルタから医療に従事するため、英国に渡った移民だった。実際、離脱派が敵視した移民の多くは、NHSで働く医師や看護師たちでもあった。

 今はまだ、患者の生死に関わるほどでも、日々の業務に支障を来しているわけでもないとジェラーダさんは語る。しかし、離脱決定による先行きの不透明さや、社会的な分断で居心地の悪さを感じた同僚など、多くの移民が、すでに英国を去る決断をし、英国で医療を学ぶ意思のある学生も、減ってしまったと言う。

 「大きな問題は労働力、研究開発、薬、そして、欧州間での医療情報伝達における協定。大きくはこの4つのリスクでしょう。離脱は私たちの健康と保健サービスに甚大なリスクを伴う、全ての人にとっての惨事です。市民はようやく、離脱によって私たちの医療サービスが被るリスクに、気付き始めていると思います」と話した。

 20年以上、NHSの心療内科医として働いていたリンダ・アンダーソンさん (72歳)は、「当時の同僚たちには移民が多く、地域の診療に非常に貢献してきました。チームにはインドやスペインの医師などがおり、多民族で構成されていました。患者にも移民がおり、自分の状況と共感してくれたり、言語の分かる医療従事者に診てもらいたがっていました」と話した。

 離脱派は、移民が英国社会に対する弊害だと主張したが、アンダーソンさんは否定する。むしろ移民スタッフの全てがNHSに忠実であり、よく働く人たちだったと振り返った。「専門的な技術もNHSに提供してくれました。私たちの国が『外国人恐怖症』と化してしまったこと、そして、欧州の一員ではなくなってしまったことが、とても悲しいです」と肩を落とした。

ガンの検査や治療に必要な放射性物質に供給遅れの懸念
 更に、最近の主要紙がNHS関連で指摘している深刻な問題は、ガンの検査や治療に必要な放射性物質の供給の遅れである。2017年11月、上院の委員会で証言したガン専門医や放射線科医らは現状、100万人近くの患者が利用する放射線療法などが、EUの製造業者に依存すると話した。

 治療に必要な放射性同位体は少しづつ劣化するため、英国が離脱によって欧州原子力共同体・EURATOMからも脱退すれば、輸入に遅れが生じる可能性もあり、発注した物質が治療に使えなくなってしまう危険性も指摘した。

 ジェラーダ医師も懸念を示した。「がん治療において必要な薬を治療に間に合い、効果が出せるよう、税関通過させられるのでしょうか。がん治療薬は、薬によっては移動の早さが決め手となります」

 人・モノ・カネの、自由な移動がもたらした医療への恩恵を奪われる危機感を訴えたのは、ルイーズ・ジェームズさん(40歳)だ。英国西部の港湾都市・ブリストル在住のジェームズさんには3人の子供がおり、8歳のスコット君には、遺伝性の疾患がある。英国では希少疾病であり、当初は診断さえも困難だったと言う。

 てんかんの発作が毎週起きるスコット君だが、X染色体の突然変異が原因であることを突き止めたのは、英国の医療機関ではなく、イタリア・シエナの病院である。このことを可能としたのは、欧州間の医療協力ネットワークだ。

 ヨーロピアン・レファレンス・ネットワーク(ERN)は、EU内において一国では難しい希少疾病専門の診断や治療を、共同で行うことを可能にした組織だ。24のネットワークで小児がんや遺伝性肝臓疾患、心臓疾患など特定のカテゴリーを担当する。今年7月のテレグラフ紙によれば、ERNで指導的立場にあった6人の英国人専門家が、英国のEU離脱を理由にその役割を解かれたという。

 スコット君はNHSの病院で長期間治療を受け、先駆的な研究にも参加したという。母親のルイーズさんは「こうしたプロジェクトによって採取されたスコットのデータや、欧州全土の子供たちから集められたデータは、とても重要なものです。こうしたデータが、スコットの発作を止める薬を探す鍵であったとしたら、と考えます」として、離脱が英国のみならず、欧州各国の子供たちに及ぼす打撃に思いを寄せた。

「亡くなるべきでない人たちが、早期に亡くなるリスクはある」
 このイベントの主催者で、NHS Against Brexitの代表、マイク・ガルスワージーさんは、「こうした混乱に市民は耐えきれず、誤った方向へ向かう離脱ならば、いっそ離脱そのものを止める選択肢を要求して行きます。政府はすでに時間切れ状態にあり、アイデアを出すことができない。こんな状態ではいけません。社会に起こしている様々な現象、特にNHSへの影響を鑑み、今は一旦立ち止まるべきです」と述べた。

 英国民の命を預かるNHSが混乱のただ中にいることで、人々が生命の危機にさらされていると感じるかと問うと、「それはとても劇的な表現ですが、医療に関係することは全て命に関わることです。それまで存在した人員を補充できなければ、看護師(1人)に対する患者数の比率が上がり、亡くなるべきでない人たちが、早期に亡くなるリスクはあります」と答えた。

 ガルスワージーさんは「NHSは英国人にとって、第2次世界大戦後から互いを助け合って来た、英国人の精神そのものです。今後民営化され、離脱後の米国との貿易協定などによって、海外の民間医療企業が進出してくるならば、自分たちのNHSは破壊され、国の精神や、魂が奪われてしまう」と、抵抗感を語った。

「NHSは英国人にとって、大きな意味があります。EUやNATOなど、国際的な条約ができる以前から存続するものです。全ての人が資金を投じ、一人一人が病に倒れたなら、病院で即治療を受けることができる。民営化せずに、質の高い医療システムが提供される。このことに、私たちは誇りを持っています」

 筆者は英国に暮らし始めて13年が経つ。フリーとなり、駐在員用の保険が使えなくなったことで、NHSを利用し始めたこの5年は率直に言って、医療機関との悶着の絶えない日々でもある。

 プライベート保険で病院に通っていた頃ポリープが見つかり、摘出手術後に再発の可能性があるとのことで、医師により定期的な検査を勧められた。その間フリーになり、NHSで検査を依頼したのは2014年の秋であったが、手術にこぎつけたのは、実に去年(2017年)5月のことである。

 その間、3度の超音波検査を経て、ポリープの存在を確認したとのことで内視鏡検査に挑んだところ、「何も見当たらない」との診断を受けた。納得が行かず、しばらく時間を置いてから再検査に行ったところ、やはり超音波検査でポリープありとの診断であった。

 やっとこぎつけた手術当日、手術着に着替えて待っていると、医師の一人がカルテを片手に不思議そうな表情で「今日は、何の処置で来院したのか教えて欲しい。こちらのデータに見当たらない」と問いかけてきた。そんなはずはないので、調べてくれと頼むと、しばらくの後「今日はポリープの処置ですね」と確認された。

 手術後、全身麻酔から覚めると、今度は別の医師から「やはり何も見つからなかった」と通告された。しかし、奇妙なことに、その後GP(家庭医)に届いた病院からの手紙には「摘出手術は成功した」と明記されていた。そう明言されてしまっては確認のしようもなく、真偽の程は、未だ不明である。

 またある時は、異常な高血圧で救急隊から「即座に救急車で病院へ」と勧められて病院に行ったところ、着いた頃には血圧が下がっていたとして、救急医から「なんでもないことで救急車を使うな」と、いきなり罵られたこともある。

 さらに、激痛を伴う原因不明の頭痛で医師にかかった際は、GPが「至急」と依頼したにも関わらず、受診から3週間後に書面で「あなたのMRI検査は今から3ヶ月後」と通達された。即日、日本への帰国便を予約し、実費で脳ドックを受診した。

 現状、この5年間NHSにかかって治癒された病気は、ほぼ全くない。自分の生命力の強さと、日本から持ち帰った薬にのみ頼る日々である。

 英国在住の日本人の知人らの間では「英国で人口爆発が起こらないのは、このいい加減な医療のおかげで、適当に人口が淘汰されるからではないか」と言う、笑えない冗談が飛び交ったこともある。

 こうした実体験から、筆者は現在、老後を英国で暮らすことは一切考えていない。お世辞にも先進国レベルの医療サービスとは言えないシステムに、老後の健康を委ねることは、恐ろしくてできないからである。

 しかし、先に述べた、超音波検査や内視鏡検査、手術までも、医療サービスの全てが無料であったことは、特筆すべきことであろう。医療費を払えない低所得層の人たちや、移民、難民の人たちでも利用できる制度は、いかなる社会的弱者をも取り残さないという、英国の人たちにとっての誇りであり、「魂」なのだろう。

 また、NHSの存続云々はもとより、英国のみならず、欧州全土で幼いスコット君のような子供たちが、大人の勝手な政治的意図によって、治癒の機会を奪われてしまうことには、許しがたい思いが募る。

 EU離脱後も、英国の人たちの健康と魂が、人々の納得の行く形で守られることを祈るばかりである。


このコラムについて
ロンドン発 世界の鼓動・胎動
人種や宗教など、極めて多様性に富む都市、ロンドン。現地のフリーTVディレクター、伏見香名子氏が、ロンドンから世界の「鼓動」を聞き、これから生まれそうな「胎動」をキャッチする。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/100500021/101100025/


 


メルケル体制崩壊への序曲

バイエルン州議会選挙でCSU大敗


熊谷徹のヨーロッパ通信
2018年10月17日(水)
熊谷 徹

 10月14日にドイツ南部バイエルン州で行われた州議会選挙で、与党キリスト教社会同盟(CSU)が予想通り大敗した。CSUはアンゲラ・メルケル首相が率いるキリスト教民主同盟(CDU)の姉妹政党として大連立政権の一翼を担っている。それだけにCSUの敗北はメルケル首相の政権運営を一段と困難にする。ドイツの政界では「メルケル首相の時代は終わった」という言葉が囁かれている。

CSUが単独過半数を失う
 選挙管理委員会が10月14日に発表した開票結果によると、CSUの得票率は前回の選挙に比べて10.4ポイント減って37.2%となった。また社会民主党(SPD)も得票率を10.9ポイント減らし9.7%となった。逆に右翼政党「ドイツのための選択肢(AfD)」は10.2%の得票率を記録して、バイエルン州議会に初めて議席を持つことになった。また緑の党は前回に比べて8.9ポイント多い17.5%の得票率を記録し、CSUに次ぐ第2党となった。


ミュンヘン市内で見かけたAfDのポスターには、何者かが傷をつけていた。(撮影=熊谷 徹)
 CSUは単独で議席の過半数を占めることができなくなったため、緑の党もしくは第3党の地域政党「自由な有権者(フライエ・ヴェーラー=FW)」と連立政権を組まなくてはならない。


単独過半数を失ったCSUは緑の党などと連立交渉を開始しなくてはならない。写真はバイエルン州政府庁舎。(撮影=熊谷 徹)
 CSUの大敗は予想されていた。公共放送局ARDが10月4日に発表した支持率調査で、CSUの支持率は33%と史上最低の水準に落ち込んでいたからである。また昨年9月に行われた連邦議会選挙でも、CSUのバイエルン州での得票率は前回に比べて約11ポイントも下がって38.8%になっていた。

難民政策に対する不満の高まり
 CSUが大敗した原因は何か。その責任の大半は、バイエルン州政府のマルクス・ゼーダー首相ではなく、メルケル政権で連邦内務大臣を務めるホルスト・ゼーホーファーCSU党首にある。つまり連邦レベルの政治への有権者の不満が、CSUを直撃した。

 一言でいえば、ゼーホーファー氏はAfDに奪われた保守層の票を取り戻すために、右派ポピュリストの路線を真似ようとしたが、結局ポピュリストになり切れなかったのだ。その結果、多数のCSU支持者の票がAfDに流れた。世論調査機関インフラテスト・ディマップの調査によると、CSUからAfDに鞍替えした有権者の数は約18万人にのぼる。

 保守の牙城バイエルン州では、2015年9月にメルケル政権が約100万人のシリア難民を受け入れたことについて、市民の不満が強かった。バイエルン州はドイツで最も南に位置するため、ハンガリーやオーストリア経由で欧州を目指す難民が最初に到着する。メルケル首相がブダペストで立ち往生していたシリア難民にドイツでの亡命申請を許すという超法規的措置を発表すると、ミュンヘン中央駅には毎日2万人もの難民が列車で到着した。

 バイエルン州の多くの地方自治体は、州政府から難民たちを配分されて、短時間のうちに体育館などに収容施設を作らなければならなかった。多くの首長が州政府に対して「もはや難民を受け入れるのは不可能だ。なぜ国境を開放したのだ」と詰め寄った。

 農村部では「難民の数が増えて以来、暴行されるドイツ人女性の数が増えた」という噂が広がった。ティーンエージャーの娘を持つ私の知人は筆者に、「娘が学校に行くために、アフリカからの難民たちがたむろしている仮設住宅の前を通り過ぎるのは心配でたまらない」と語った。

 メルケル首相が取った難民政策は、右翼政党AfDにとってまたとない追い風となった。同党は2013年に経済学者らが反ユーロ政党として創設した。その後、年々、ネオナチに近い人種差別主義者たちが主導権を握るようになった。メルケル首相が2015年9月に決断した難民受け入れは、この党に共感する市民の数を爆発的に増やした。

 AfDはツイッターやフェイスブックを駆使して、難民に対する不安を煽るメッセージを流し続けた。さらに「ナイフの移民(Messermigration)」という新語を作り、難民がナイフでドイツ人を殺傷するという不安を煽り立てた。CSU保守層の目には、メルケル首相の政策は緑の党並みに「左傾化」しており、ドイツ固有の文化を侵食する路線と映った。

 したがってAfDにとって、メルケル政権に疎外感を抱く保守層の票を切り崩すのは容易なことだった。

経済ではなくアイデンティティーの危機
 保守層がAfDになびくのは、経済問題のためではない。バイエルン州はドイツで最も裕福な州の一つだ。2018年9月の失業率は2.8%と全国で最も低い。多くの企業が人手不足に苦しんでいる。大卒でスキルを持つ人材は、ほぼ完全雇用状態である。ケルンのドイツ経済研究所(IW)によると、2015年のバイエルン州の勤労者の平均月収は全国16州の中で2番目に高かった。ドイツ株価指数市場(DAX)に上場している大企業30社のうち、7社がバイエルン州に本社を置く。バイエルン州の国内総生産は、約6000億ユーロ(約78兆円)に達する。

 好景気にもかかわらずドイツ人の有権者は、この国の政治について漠然とした不安を抱いている。ドイツのアレンスバッハ人口動態研究所が発表した世論調査によると、「難民をめぐる状況に不安を抱いている」と答えた回答者の比率は47%。1年前に比べて15ポイントも増加した。

 また「政治は何一つ前進していない」と答えた回答者の比率は64%、「不法な移民の流入に対して、国境を効果的に守る手立てはない」と答えた市民は54%にのぼっている。回答者の80%が、「国境での入国検査をもっと効果的に行うべきだ」と訴える。つまり多くの市民は、政府が厳密なコントロールを行わないまま難民がドイツに入国することによって、この国の秩序やドイツのアイデンティティーが侵されることに危惧を抱いているのだ。

 1978年から10年間にわたりバイエルン州の首相を務めたフランツ・ヨーゼフ・シュトラウス氏は、「ドイツではCSUよりも右に位置する政党を作らせてはならない」と述べたことがある。AfDの躍進はシュトラウス氏の危惧が現実化したことを物語っている。

CDUと同じ穴の狢と見られたCSU
 バイエルン州の地元政党CSUの悲劇は、CDUの姉妹政党としてしか中央政界で活躍できないことだ。CDU・CSUは連邦議会で共同会派を作っている。CDUはバイエルン州の連邦議会選挙区に候補者を立てない代わりに、CSUはバイエルン州以外の地域では連邦議会選挙の候補者を立てない。したがってCSUはCDUと共同歩調を組むことによってしか、中央政界で権力の座につくことができない。

 このためメルケル首相が進める政策に批判的な保守層は、「CSUもCDUと同じ穴の狢(むじな)」と考えてきた。いわばCSUはメルケル首相が進める難民政策のとばっちりを受けたのだ。AfDは2017年9月の総選挙前に「ゼーホーファーに票を投じる者は、メルケルをも選ぶ」と書いたポスターをバイエルン州で掲げていた。そこには、ゼーホーファー氏とメルケル氏が恋人のように熱烈に抱擁し合うイラストが描かれていた。

CSUのメルケル批判
 もちろんCSUは、「メルケル体制」から距離を置こうと努めてきた。たとえばCSUは大連立政権の中でメルケル首相が取り組む難民政策に最も批判的な立場を貫いてきた。ゼーホーファー氏は2015年9月にメルケル首相が難民受け入れを発表すると、「これは大きな過ちだ」として公に批判。同首相に対し1年間の難民受け入れ数を20万人に制限するように要求した。(メルケル首相は上限という言葉を使わなかったが、20万人前後を目安とするという表現で、ゼーホーファー氏の要求を受け入れた)。

 今日ではメルケル首相とゼーホーファー氏の関係は、「仇敵」の間柄と言っても過言ではない。

 メルケル首相とゼーホーファー氏の関係が決定的に悪化したのは、2015年11月20日のCSU党大会だった。当時ドイツでは、同年9月にドイツに押し寄せた多数のシリア難民の受け入れについて激しい議論が戦わされていた。

 この党大会でゼーホーファー氏はビデオカメラが回っている中、メルケル首相を15分間にわたり壇上で自分の隣に立たせたまま、彼女の難民政策を批判した。その模様は、教師が素行の悪い生徒を自分の前に立たせて説教をしているシーンを連想させた。州政府の首相が、連邦政府首相を叱りつける様子は、テレビによって全国に流された。

 メルケル首相は壇上でゼーホーファー氏に反論しなかった。しかし彼女は表情を石のようにこわばらせ、時折口をへの字に折り曲げていた。同首相が心の中で怒りを煮えたぎらせていたことは明らかだ。

 もしもメルケル首相がこの時ゼーホーファー氏に反論していたら、メディアが「難民問題をめぐって連立政権内で深刻な対立」と書き立て、政局運営に悪影響が及んだに違いない。メルケル氏は感情を表に出さないポーカーフェイスが得意な政治家として知られる。その能力をフルに発揮してゼーホーファー氏からの侮辱に耐えた。だが両者の間の亀裂は、この時修復不能の状態に陥った。

 昨年9月の連邦議会選挙でCSUの得票率が激減して以降、ゼーホーファー党首はAfDに似た発言を繰り返すようになった。右派ポピュリスト的な路線を打ち出すことによって、AfDに奪われた有権者を取り戻すためである。たとえば彼は今年3月15日に大衆紙「ビルト」とのインタビューで「ドイツはキリスト教の伝統を持つ国であり、イスラム教はドイツには属さない。もちろんドイツに住むイスラム教徒はこの国に属しているが、彼らに配慮してドイツの慣習や伝統を放棄するべきではない」と語った。

 これは、「イスラム教はドイツの憲法や文化と相容れない」というAfDの主張に酷似している。さらに、メルケル首相が総選挙前に行ったインタビューの中で打ち出した「イスラム教はドイツの一部だ」というコメントを真っ向から否定するものだった。

 また連邦内務相でもあるゼーホーファー氏は、今年7月に69歳の誕生日を迎えた時に、記者団の前で「今日ドイツから69人の難民を外国へ強制送還した。もちろん私の誕生日に合わせて命令したものではない」という、趣味の悪い軽口を叩いてメディアから批判された。この時送還された1人であるアフガニスタン人は、現地に到着した後自殺している。

 また、連邦内務大臣でもあるゼーホーファー氏は今年6月に「EUの他の国で登録された難民がドイツに入国しようとした場合、国境で入国を拒否する」と一方的に発表し、メルケル首相と全面的に対立した。通常CDUとCSUの議員たちは、連邦議会で合同で打ち合わせを行うが、この時には別々の会議室で打ち合わせを行うほど、両党の間の亀裂は深まった。ゼーホーファー氏はCSU内部の会議で「もうこの女と一緒に働くことはできない」と語った。別のCSU幹部は「メルケルはやめるべきだ」と言った。

 これに対しメルケル首相が「内務大臣が私の指示に従わない場合には、首相の指導権限を行使する」として罷免の可能性をちらつかせるなど両者の対立はエスカレートし、大連立政権は空中分解の瀬戸際に追い詰められた。

右派ポピュリストになり切れなかったゼーホーファー
 ゼーホーファー氏は、メルケル首相と一線を画し「ドイツのアイデンティティーを守る」と有権者に約束した。だが彼にはメルケル首相と袂を分かち、大連立政権を崩壊させるまでの胆力はなかった。たとえば今年6月、難民の入国拒否をめぐってメルケル首相と対立した時、「私の要求が受け入れられない場合には、内務大臣を辞任する」とまで啖呵を切ったものの、結局はメルケル首相の妥協案を受け入れて、内相の座に留まった。結局CSUはCDUの袖にすがらなければ、中央政界で発言力を持つことはできないのだ。

 つまり多くのCSU支持者は、「ゼーホーファー氏はメルケル首相を口では批判するが、CDUとCSUの関係を割るだけの度胸はない。実行が伴わない」と判断したのだ。ゼーホーファー氏はメルケル首相から距離を置くことに失敗した。さらにCSU内部の中道勢力は、ゼーホーファー氏があからさまにAfDに似た発言を繰り返すことに、反発した。前回の選挙でCSUに投票した有権者のうち、今回、緑の党に鞍替えした人々の数は18万人にのぼる。つまりCSUは保守派からも中道勢力からもそっぽを向かれた。そのことが10月14日の大敗につながった。


CSUの選挙ポスターにはゼーダ―州首相の写真だけが使われ、不評だったゼーホーファー党首の写真は使われなかった。(撮影=熊谷 徹)
腹心カウダー院内総務を失ったメルケル
 メルケル政権は今年3月に発足して以来、失点が続いている。とりわけ「メルケル時代の終焉」を国民に強く印象づけたのが、連邦議会でCDU・CSUの会派を13年間にわたって率いたフォルカー・カウダー院内総務の失脚だ。

 CDU・CSUの議員たちは9月25日の投票でそれまで副院内総務だったラルフ・ブリンクハウス氏を会派のトップに選び、カウダー氏を落選させた。院内総務の役職は、CDU・CSUでは党首つまり首相に次いで重要なポストだ。院内総務は、政府が法案を議会でスムーズに可決できるように議員たちを統率する。

 カウダー氏はメルケル首相の右腕とされ、時には強引なやり方で首相の意向を連邦議会の会派に徹底させていた。彼はしばしば議員の90%の票を集めて、院内総務に選ばれていた。メルケル首相やゼーホーファー氏も、カウダー氏を推していた。ベルリンで政局を観察しているドイツの政治記者たちの中にも、カウダー落選を予想する者はほとんどいなかった。

 だがCDU・CSUの議員たちの間では支持率の低下とAfDの躍進について危機感が強まっていた。

 ドイツの公共放送局ARDは9月21日、政党支持率に関する世論調査結果を発表し、「初めてAfDへの支持率(18%)が社会民主党(SPD)への支持率(17%)を上回り、AfDはCDU・CSU(キリスト教社会同盟)に次ぐ第2党になった。もし今総選挙が行われたら、政権与党は過半数を取れない」と報じた。

 CDU・CSUの議員たちは地元に帰るたびに、草の根の党員たちの間に政権に対する不満が募っているのを感じていた。特に若手議員たちは「CDU・CSUから会派を変えなくてはならない」という機運が強まった。

 その中でブリンクハウス氏は、院内総務選挙に立候補した後「これまでCDU・CSU会派は首相の意向を忠実に実行するだけの道具になり下がっていた。今後は会派も独自の意見を持ち、時には首相の路線にノーというべきだ」と述べて議員たちの心をつかんだ。ブリンクハウス氏は経済問題に精通した政治家で、2016年に欧州中央銀行の金融緩和政策を批判したことがある。だがこれまでほとんど注目されたことがない。つまりほぼ無名だった議員によって、メルケル政権を支える影の黒幕が政治の表舞台から追い落とされたのだ。

 カウダー氏落選は、メルケル首相にとって手痛い敗北だった。今後はCDU・CSU会派の意見の調整がこれまでよりも難しくなるからだ。

連邦憲法擁護庁の人事をめぐる不祥事
 大連立政権の「金属疲労」を象徴する出来事はカウダー落選だけではない。今年8月下旬には旧東独のケムニッツで、難民による殺人に抗議するデモが行われ、ネオナチなど一部の参加者が暴徒化して外国人を追いかけたり、ユダヤ・レストランに投石したりした。メルケル首相は外国人がドイツ人に追いかけられる映像について、「ドイツでこのような事態は絶対に起きてはならない」と強く批判した。

 だが連邦憲法擁護庁の長官だったハンス・ゲオルク・マーセン氏は、この映像について「捜査を撹乱するために偽造された可能性がある」と信憑性に疑問を投げかける発言をし、極右勢力を擁護しているかのような印象を与えた。マーセン氏はメルケル首相の難民政策に批判的な意見を持っていた。

 ゼーホーファー内相はマーセン氏を憲法擁護庁長官のポストから外して内務次官の役職を与えることを提案。メルケル首相も提案を承認した。だが内務次官の給与は憲法擁護庁長官よりも高いために、これは事実上の「昇進」だった。ネオナチを擁護するような発言をした官僚が給料を増額してもらえるというわけだ。ゼーホーファー内相のこの提案に、メディア、社会民主党や国民から激しい抗議の声が上がった。メルケル氏もやむなく承認を取り消して、マーセン氏を給与が同額の内務省顧問のポストに付けることを決めた。

 この後メルケル首相は、「市民の常識に反する決定をしてしまった」と述べ判断を誤ったことについて謝罪した。首相が自分の判断ミスについて、公に謝罪するのは珍しい。

焦点は12月のCDU党大会
 10月28日には、ヘッセン州で州議会選挙が行われる。ここでCDUが大敗した場合、メルケル首相の党首辞任を求める声が上がる可能性が高い。CDUの党員たちは今年12月に行われるCDUの党大会でどのような判断を下すだろうか。

 ヨーロッパで最も経験が豊富な首相に、黄昏の時が迫りつつある。イタリア発のユーロ危機再燃の兆しが強まる中、ドイツのベテラン政治家が失脚することは、EU全体にとっても都合が悪いタイミングである。


このコラムについて
熊谷徹のヨーロッパ通信
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/219486/101500048


 

 

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