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児童養護施設長を刺殺した青年は、なぜ「大人」になり切れなかったか
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投稿者 うまき 日時 2019 年 3 月 01 日 15:00:59: ufjzQf6660gRM gqSC3IKr
 

2019年3月1日 みわよしこ :フリーランス・ライター
児童養護施設長を刺殺した青年は、なぜ「大人」になり切れなかったか

渋谷区にある児童養護施設で、元入所者の青年が施設長を刺殺した。社会的養護のもとで育った青年の心は、なぜ満たされていなかったのか(写真はイメージです) Photo:PIXTA
なぜ元入所者は施設を憎んだのか
「社会的養護」の特殊性とは
 2月25日午後、渋谷区にある児童養護施設で、46歳の施設長が刺殺された。逮捕された容疑者はその施設の元入所者で、「施設に恨みがあった」ということだ。容疑者は、15歳から18歳までの3年間を過ごした施設で、「手がかからない、おとなしい子」という印象を持たれていた(読売新聞記事)。いずれにしても、事件の詳細は、現在ほぼ何もわかっていない。

 私自身は、事件の発生には大きな衝撃を受けたが、事件の内容や容疑者に対してはあまり驚かなかった。報道されている容疑者の過去の経歴や言動はすべて、想像力を働かせずに理解できる範囲にあるからだ。

 少年期から青年期にかけての不安定さ、大人社会への期待と「わかってくれない」「期待に応えてくれない」という失望、そして「逆恨み」に見える抵抗や爆発――。すべて、大人全員が乗り越えてきた道だ。時に乗り越えられず不幸な結末となる実例は、1995年の「地下鉄サリン事件」をはじめ、過去に数多く存在する。今回の事件に特殊性があるとすれば、舞台が児童養護施設であったことだろう。

 では、児童養護施設を経て大人になることは、本人にとってどのような経験なのだろうか。最初に、実例を1つ紹介したい。

 児童養護施設を経て成人した30代男性が、幼児期から高校生までを過ごした施設について、目を輝かせて楽しそうに話してくれたことがある。まるで、毎日が楽しい修学旅行のようだった。親に捨てられての施設入所ではあったけれども、楽しい施設生活に支えられ、伸び伸びと学校生活を送っていたそうだ。

 スポーツの才能に恵まれ、学業成績も悪くなかった男性は、その種目では名門とされる公立高校に進学し、競技で成果を残し、好条件で就職した。しかし、就労を継続することはできず、不安定就労の繰り返しとなった。

ありふれた課題の1つ1つは
どのように「こじれる」のか
 約20年後にあたる2010年頃、私の目の前にいた彼は、明るく如才なく振る舞っていた。そのときの彼は、生活保護で暮らすギャンブル依存症者だった。彼の生存戦略は、障害を持つ女性と結婚して生活保護を申請し、強い就労指導の対象となることを避けるというものだった。

 保護費のうち生活費分の大半は、彼のギャンブルによって消費されていた。もちろん、それでは食材を買うこともできない。そこで彼は、ありとあらゆる「生活の悪知恵」を駆使していた。高校卒業から20年間で何が起こったのか、詳しくは知らない。けれども、同じような経歴を持つ人々との付き合いから推測することはできる。

 児童養護施設などの社会的養護を経てきた若者たち、虐待を経験してきた若者たちの中には、非常にしっかりしているように見える人々がいる。同年齢の若者よりも「きちんとした」日本語を話し、人当たりが良く、「気配り」を欠かさない頑張り屋だ。

 しかし1対1での付き合いが始まると、その言動や振る舞いや努力そのものが、自分を守るための盾であることがわかる。その盾はあまりにも薄く脆く、周囲の人のちょっとした一言や表情や口調が決定的な「穴」を開けてしまう場合がある。周囲の人は驚き、大いに反省するが、こうなると関係を修復することは難しい。

 彼ら彼女らにとっては、失望や反省を伴うとしても一瞬で、「ああ、やっぱり」だ。幼少の頃から、自分を守れるものは自分だけだった。施設を頼ることができるのは、就職する前までだ。その後は「自己責任」で、自分を支えて守る何かを築き続けなくてはならない。目の前に新しく現れた大人が「やはり、自分を傷つけそうだ」と気づいたら、盾に開けられた穴を塞ぎ、自分を守り続けるだけだ。しかし、悪気なく傷つけてくる人々は、次から次へと現れる。

 職場の雑談や声がけが、勤務を継続できなくなる引き金になることは少なくない。昼休みに悪気なく「ご家族は?」と尋ねられたとき、正直に事情を答えたら、場の雰囲気が悪くなり、話題を変えられ、その後はなんとなく距離を置かれたりする。お盆や正月に社員寮にいることを不審に思われ、「たまには親に顔を見せてあげなさいよ」と言われることもある。しかし、帰れる実家はない。

 そのように、小さな「地雷」を踏まれ続けることが重なれば、職場に耐えられなくなるのは自然な成り行きだ。それが繰り返されると、履歴書の経歴は「どの職場も長続きしなかった人」のものとなる。

 渋谷の殺人事件の容疑者は、高校を卒業した後、就職してアパート生活を始めたという。しかし、施設職員たちの継続的なバックアップがあったにもかかわらず、安定した就労を続けることは出来ず、昨年9月には住居を喪失した。以後はネットカフェ生活を続けたが、継続できなくなり、事件へと至った(産経新聞記事)。

職場で長続きしないことは
自己選択の結果なのか
 社会的養護や虐待を経験した人々の中には、自助努力によって職業キャリアを重ね、円満な家庭を営んでいる人々も多い。「仕事に就いても長続きしない」「不安定な生活を送っている」といったことは、本人の自己責任と自己選択の結果なのかもしれない。渋谷区の事件の容疑者も、前述のギャンブル依存男性も、「自己責任」で片付けてしまって良いのかもしれない。とはいえ、その人から見た外界を理解する努力は、必要なのではないだろうか。

 渋谷区の事件の容疑者は、15歳で施設に入所した。背景には、母親とのトラブルがあったという。トラブルの内容は不明だが、15歳までの生育環境が良好でなかった可能性は考えておく必要があるだろう。もちろん、母親ともども貧困状態にあった可能性もある。

 施設を出てアパート暮らしを始めた途端、母親が追いかけてきた可能性もある。高校を卒業した容疑者の社会人としての最初の数歩は、母親がアパートや職場に現れるだけで、場合によっては電話やメールだけで、台無しになる可能性もある。

 もちろん、そうしたケースばかりではないのだが、生活保護や貧困の周辺には、「暴言のはけ口が欲しいから同居したい」「お金をせびりたい」といった理由で、子どもが何とか獲得した自立を台無しにする親が、「多くはないけれど、珍しくない」という頻度で実在する。私もこれまでの取材経験から、そうしたケースを把握している。

 母親が生活保護の場合、就職した途端に福祉事務所が子どもに対して同居や仕送りを求める場合もある。むろん、本人が断れば済む話なのだが、本人が受けるプレッシャーや打撃の大きさは、「扶養義務があるから」の一言で片付けられる問題ではないだろう。

生育環境によって背負う欠落は
数年間の施設生活で払拭できない
 10代後半から20代前半の時期は、円満な家庭環境や親のバックアップがあったとしても、不安定になりやすい。渋谷区の事件の容疑者についても、昨年9月、アパートを退去して住居喪失した経緯に関して、精神面の不安定さを示す報道がある。

 15歳だった容疑者は、原家族と生育環境によって背負わせられた欠落を抱えて、施設にやってきた。そして、一息つける3年間を経て、欠落を抱えさせられたまま社会に出ると、学校にも児童福祉にも守られなくなった。自分を守るものがない状況で「自立」を模索した末に、不安定な状態になったとしても、不自然ではない。

 0歳から15歳までの15年間、必要なのに与えられなかったものを、15歳から18歳までの3年間で埋め合わせることは不可能だ。だからこそ、施設スタッフは退所後も継続してサポートしたのだろう。しかし、容疑者は恨みを抱き、施設長を殺害した。

 私自身、この重すぎる事件に対して、「受け止め切れない」という思いがある。しかし、「警備を厳重に」「危機的な状況にある退所者には注意を」といったことは、おそらく対策にならない。また、「施設ではなく里親なら起こらなかった事件」というわけでもないだろう。

「足りないこと」が問題
対策は「増やすこと」

本連載の著者・みわよしこさんの書籍『生活保護リアル』(日本評論社)好評発売中
 根本的な対策は、まず、子どもの育ちと暮らしを無条件に支えることだ。親が貧困状態にあるのなら、せめて生活保護で解消する必要がある。車なしには買い物も病院通いもできない地域で、「生活保護か車か」の二者択一を迫るようなことは止める必要もある。

 親の養育能力が欠けているのなら、責めるのではなくサポートする必要がある。親を責めると、子どもに「自分のせいで親が責められる」という罪悪感を与える場合があるからだ。「学籍がなくなったら児童養護施設の対象外」「18歳になったら児童福祉の対象外」といった取り扱いも、変える必要がある。

 結局のところ、最も根本的な対策は、誰もが生きやすい社会をつくることだろう。言い換えれば、誰でもいつでも、必要なら安心して使える分厚いセーフティネットがある社会だ。せめて生活保護制度を、恥や怖れを伴わずに安心して使えるものにすれば、そこに近づくことはできる。

 もちろん児童福祉は、最優先で充実させ柔軟にする必要がある。並行して、「住」が無条件に保障されれば、状況は一変するだろう。「児童」でなくなる18歳以後、住居喪失のリスクさえなければ、防げる悲劇は数多くあるはずだ。

 私たちの社会は、22年前に生まれた1人の男の子に、幸せな暮らしと育ちと学びを保障できなかった。高校を卒業した彼は、ほぼ丸裸で世間に放り出された。社会は今、殺人事件によって彼の存在に気づき、自己責任の余地や「ツッコミどころ」を懸命に探し、全力で叩こうとしている。最初にすべきことは、この不条理を認めることかもしれない。

(フリーランス・ライター みわよしこ)
https://diamond.jp/articles/-/195553  

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コメント
1. 2019年3月04日 09:43:17 : bmPp7Yj7NA : N3E0bkUuQnJ0bjY=[14] 報告
個々人にあまり関心が払われない職場というものも今日では少なくない。人にあった職場を見つけるのに、現在の職務紹介や面談等のあり方では、充分に職場の特性を紹介できていないのだろう。もっといろいろな職務職場の紹介案内の仕方を工夫することが必要なのではなかろうか。

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