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「教学IR」は万能か? 困難を極める大学教育の評価 「IR」は大学改革の切り札になるか(3) 
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投稿者 うまき 日時 2019 年 3 月 04 日 17:23:10: ufjzQf6660gRM gqSC3IKr
 

「教学IR」は万能か? 困難を極める大学教育の評価
「IR」は大学改革の切り札になるか(3)
2019.3.4(月) 児美川 孝一郎
学習の効果はどのようにすれば測定できるのか。
(児美川 孝一郎:教育学者、法政大学キャリアデザイン学部教授)
 前回の記事(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/55300)では、近年の大学において取り組まれつつある「教学IR (Institutional Research)」の最大の強みが、大学教育のプロセスと結果を「見える化」(数値化)することにより、従来はカンやコツといった経験則に頼ってきた感もある教育改善に関わる施策を、根拠(エビデンス)に基づいて進めることが可能となる点にあることを見た。
 ただし、そうした教学IRを積極的に推進するためには、さまざま条件整備や学内合意の形成が必須となることについても、併せて指摘しておいた。
IRは大学改革の切り札になるのか
 では、そうした条件整備や学内の合意形成さえ整えば、あとはIRに任せておけば、大学教育の改革は盤石に進むのだろうか。
 改革に弾みを付け、教育改善の施策が大いに進んでいくという側面も当然あるだろうが、残念ながら、そうした側面だけではあるまい。
 教学IRは、あくまで教育改善のためのツールである。ツールである以上、当たり前のことではあるが、それには強みもあれば弱点もある。強みだけに目をとらわれて、弱点には目を向けずに教育改善の施策を展開してしまうと、結果として、思ってもみなかったような「副作用」に襲われたり、「予期せぬ結果」の後始末に追われたりするといったことも十分に起こりうるのである。
 以前の記事で指摘したように、現在は、文科省の高等教育政策が、財政誘導を含めて「前のめり」になって、大学におけるIRの推進を図ろうとしている時期である。そうであればこそ余計に、大学側としては、IRの強みだけではなく、弱点(限界)についても十分に自覚したうえで、その活用を模索していくべきであろう。
 今回の記事では、こうした意味でのIRの留意点について論じてみたい。
学習成果をどう測るか
 大きく2つほどの(実際には、2つは地続きの問題でもあるのだが)論点を提示してみたい。
 1つめは、教学IRの場合、財政分析や経営戦略の策定のためのIRなどと比較して、そもそも目標をどう設定するのかが単純ではないということである。
 教学IRの目的は、大学教育の改善であり、質的向上である。では、それは、何によって測られるのか。学業成績(GPA)、就職率、資格や検定の合格率、学生の満足度などを指標とすることが可能かもしれないが、しかし、それらの数値が上昇すれば、それが「良い大学教育」であると、直ちに言えるだろうか。
 おそらく、最もオーソドックスな教学IRの手法としては、各大学のディプロマポリシー(学位授与の方針)にも照らして、4年間を通じた学生の学習成果を把握し、それを指標とすることが穏当ということになるのではないか。
 では、その際の学生の学習成果は、どのように測られるのか。
 下図は、これまでの研究を参考にしつつ、学生の学習成果を測る評価手法の代表的なものを、縦軸を数値化の可能性、横軸を直接評価/間接評価に分けて、整理してみたものである。

http://jbpress.ismedia.jp/mwimgs/d/7/540/img_d7f64f33ca327d71aedaacf569d1f05355880.png

 一目瞭然であるが、教学IRにとって最も適合的なのは、実は第1象限(右上)の評価方法だけなのである。しかも、個別の科目における学習成果を測るための客観テストならともかく、大学の教育課程の全体を通じた学習成果を測るような客観的なアセスメントテストは、現時点では実際には存在していない。複数の民間教育事業者が、それに類するものを提供しているが、それらは、学生が身につけた「汎用的能力」(generic skills)を測るものであって、大学教育の本体とも言うべき学問分野別の専門的能力を測ることはできない。
 第2象限(左上)の評価方法も、数値化した処理ができるため、教学IRに利用可能であり、実際に利用されている。しかし、これらのアンケート結果は、「〜の能力が身に付いた」といった設問についての、あくまで学生の主観に基づく回答であることに注意が必要である。筆者の経験でも、実際には高い能力を身に付けたと思われる学生ほど、この手の設問には控えめに回答し、逆に、そうでない学生ほど堂々と「〜の能力が身に付いた」と回答するという傾向は、十分にありうる。
 そして、第3象限(左下)、第4象限(右下)の評価方法は、教学IRには適したものではないが、しかし、それらは、大学教育における学生の学習成果を把握しないのかと問えば、そんなことはない。むしろ、そうした質的な方法でしか把握できない側面があることについても自覚的である必要があるだろう。
IR分析が示すもの
 2つめは、いま述べた目標設定に関わる問題は、何らかの「代理」指標を立てる、あるいは複数の指標を組み合わせるといった仕方でクリアできたとしよう。しかし、今度は、目標達成に至るプロセスについての「分析」も、そう簡単には行かないという点がある。
 これは、統計分析の手法が著しく高度になる、あるいは複雑になるといった意味ではない。原理的な問題として、そもそも何を分析対象とするのか、つまり目標の実現を促す要因を分析するにあたって、いったい何を「変数」として採用するのかという点が、実は大問題なのである。
 教学IRの分析対象は、多様性に満ちあふれた大学における教育活動であり、生身の人間である学生である。どのような教育が、どんな学生に対して、どのような効果を及ぼすのかを分析しようとする際、分析者が「変数」として意識できる要素に関しては、例えば、特定の変数が、それ以外の変数をコントロールしたとしても、特定の効果を及ぼすことにつながるといった関係性を割り出すことは可能である。
 しかし、分析者がそもそも「変数」として意識していなかったような要素が、実際には特定の効果に影響を及ぼしていたとしても、そのことは自然に見過ごされてしまう。しかも、IR分析の結果に基づいて実施された教育改善策が、実際には効果を及ぼしていたはずの要素を弱めるようなものであった場合には、せっかくの教育改善の施策にもかかわらず、期待される効果は生み出されないことになる。それどころか、以前と比べても、効果が減退してしまうといったことも起こりうるのである。
 教学IRの「分析」は、確かに数値を通して大学教育を「見える化」する。しかし、そこに見えているのは、大学教育の完璧にトータルな姿であったりはしない。どんなに精緻な分析をしても、そこに現れているのは、やはり特定の(精緻さは増したかもしれない)角度や視点を採用した結果としての「見え方」なのである。
 そのことを忘れて、IR分析の結果を「万能」であるかのように見てしまうと、痛いしっぺ返しを食らったり、思わぬ落とし穴に嵌ってしまうことにもなりかねない。
教学IRを等身大に使いこなす
 以上に述べたのは、だから教学IRなどには取り組んでも意味がないとか、取り組まないほうがよいといったことを言いたいがためではない。データ(数値)に基づく教学IRの結果は、大学教育の当事者たちにとっては、それ自体としてインパクトを持つものである。中には、「衝撃」を与えるものもある。
 しかし、だからこそ、教学IRの結果を鵜呑みにしたり、金科玉条のごとくに扱ったりすることには慎重であるべきであり、IR分析の強みと同時に弱点についても、十分に意識しておくべきなのである。
 大学教育やその効果は、さまざまな「要素」から成り立っている。そうした多様な要素に着目し、要素間の関係性をつかむことは、教学IRが最も得意とするものである。
 しかし、大学教育の全体像は、そうした要素主義的なアプローチだけでつかみきれるわけではない。よりホリスティックなアプローチを必要とする側面もある。各大学や学部が育成しようとする「人材像」などは、「幅広い教養」にしても「市民」にしても、その最たるものであろう。
 要は、教学IRに等身大に向きあい、IRという「道具」に使われてしまうのではなく、上手に使いこなす――。IRの専門部署の設置や専任スタッフの配置にばかり腐心する高等教育政策は、決して言わないことではあるが、大学教育にとって肝となるのはまさにこの点であろう。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/55605
 

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