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積年の防衛費減が招く日米同盟の危機 「トランプ時代」を生き抜くための防衛政策 サイバー空間で発生する新たなグレーゾーンに
http://www.asyura2.com/18/warb22/msg/328.html
投稿者 うまき 日時 2018 年 9 月 19 日 04:59:19: ufjzQf6660gRM gqSC3IKr
 

積年の防衛費減が招く日米同盟の危機
「トランプ時代」を生き抜くための防衛政策
サイバー空間で発生する新たなグレーゾーンに対処せよ!

2018年9月19日(水)
森 永輔

 政府は今年末をめどに「防衛計画の大綱」と「中期防衛力整備計画」を改訂する。前回の改訂から5年。この間に北朝鮮は核・ミサイルの開発を大幅に前進させた。トランプ政権が誕生し、米国の安全保障政策は内向きの度合いを強める。

 改訂に当たって我々は何を考えるべきなのか。海上自衛隊で自衛艦隊司令官を務めた香田洋二氏に聞いた。同氏は、安全保障に費やす予算とヒトが足りない現状を懸念する。今回は後編だ。

(聞き手 森 永輔)

前回はこちら


(写真=ZUMA Press/アフロ)
重視している2つ目は何ですか。

香田:予算と人員の問題です。これは自衛隊が抱える慢性病のようなものです。予算と人員には相場観があります。安全保障と防衛はあまり票になることはないので、政治家は発言しない、といわれています。また、自衛隊も長年の予算などの固定された相場観と一部を除く政治家の消極的な姿勢のため、現状変更をあきらめ、自らの立場を強く主張しなくなっています。


香田洋二(こうだ・ようじ)
海上自衛隊で自衛艦隊司令官(海将)を務めた。1949年生まれ。72年に防衛大学校を卒業し、海自に入隊。92年に米海軍大学指揮課程を修了。統合幕僚会議事務局長や佐世保地方総監などを歴任。著書に『賛成・反対を言う前の集団的自衛権入門』など(写真:大槻純一 以下同)
 防衛費は1998年を起点に、安倍政権が成立する2012年まで毎年0.5〜1%ずつ減少してきました。これを防衛力整備の氷河期と呼ぶ人もいます。ボクシングでいえば、これがボディーブローのように効いています。安倍政権になって毎年200億円程度増えています。それはそれでありがたいことですが、今の状況はボティブローで消耗しきった選手が、一時的にコーナーで休んでいるようなものです。

 この間にも装備は劣化します。防衛力整備が最盛期に達した冷戦時代後期にそろえた“遺産”で食べているのが自衛隊の現状です。例えば陸上自衛隊が保有する戦闘ヘリですが、かつては当時の最新機種であるAH-1を80機保有していましたが、それらの除籍は進むものの、その穴を埋める新型装備はアパッチ(AH-64D)が13機のみです。戦車の数も600両を300両に減らす計画が進んでいます。

 航空自衛隊の戦闘機F-15は1981年の運用開始以後35年超が経過しています。親子でF-15のパイロットを務めた隊員もいるほどです。80年代は毎年10機以上のペースで増やしていましたが、計画数213機の整備を終わった途端に新規生産はピタっと止っています。もちろん200機を擁する規模は米空軍に次ぐと共にアジアでは第一級です。この間、各種の改修をして能力の維持も図っています。けれども十分とは言えない。戦闘機はF-4に代えて今年からF -35が入りますが、当面の計画はわずか42機です*1。

*1:米ロッキード・マーチンが開発したステルス戦闘機。自衛隊は42機を導入する計画。最初の4機を除く、38機が日本の工場で組み立てられる

 海上自衛隊の護衛艦も同様です。80〜90年代は10年間に20隻のペースで建造することができました。最近は20年間で18隻です。1年あたり1隻にもなりません。固定翼哨戒機(P-3)は70〜80年代は毎年10機程度生産しましたが、今のP-1は7年かけて23機で、毎年、約3機です。

 各自衛隊の防衛力整備は90年代の初頭で止まってしまったようなものです。日本が防衛費を14年間にわたって減らす中、中国は年2けた増で増やし続けてきたのです。相対的に見れば、日本の防衛力は著しく落ちていると言わざるを得ません。

 ドナルド・トランプ米大統領がNATO加盟国に対して、防衛費をGDP(国内総生産)比2%に増やすよう求めています。日本にとっても他人事ではありません。しかし、未だにGNP(国民総生産)1%枠という亡霊に縛られて真剣な議論がなされていないように思われます。今日では何の意味もないその殻を破る論議こそ、今必要なことと考えます。

 これでよいのでしょうか。安倍政権になって以降、防衛予算は増加に転じていますが、防衛力整備氷河期に失ったものはあまりにも大きいといえます。抜本的な防衛予算の増加がない限り、自衛隊の態勢はジリ貧にならざるを得ないのです。我が国を守り、米軍の来援を支援するという使命を果たすに当たって、今のままでは確実に自衛隊の能力に欠損が生じます。精神論でいえば、予算は1円でも増やす必要があることは当然ですが、かつて10年間にわたり海上自衛隊の防衛力整備にかかわった経験から言えば、精神論ではない現実論で言えば数千億円規模の増額が必要でしょう。

GNP比1%の枠は現実的ではないわけですね。

香田:国防費の額をGDPとの比率で決めるのは、そもそも健全な考え方とは言えないかもしれません。

経済が成長しなければ、外国の脅威が増しても、対処できないことになりますね。

香田:その通りです。この先、大胆な予算投入が必要になるでしょう。そうでないと、米国と米軍からの信頼が崩れることになります。日米安全保障体制が危機に直面する。自衛隊と米軍は日米同盟の両輪です。自衛隊が小さくなれば、このクルマは半径の小さくなった自衛隊という内側車輪を軸にして、その場で回転するだけで、前に進めなくなってしまうのです。

お金でヒトは集まらない
予算とともに、人員を懸念されています。

香田:はい。自衛隊の充足率とは別の、実際の新隊員の募集状況は陸上自衛隊と航空自衛隊が約90%、海上自衛隊が60%程度という状態と聞いています。これはまさに危機的状態であり、防衛省と自衛隊だけで解決できる問題ではありません。国を挙げて取り組む必要があります。

 任務は増えているのに、人は増えていません。海上自衛隊は潜水艦を16隻から22隻に増やす計画です。しかし、この増える分の要員増は手配されていません。陸上自衛隊もぎりぎりの人数しかいないにもかかわらず、災害対応がのべつまくなしの状態にあります。本業である戦闘部隊としての錬成訓練をしている時間さえ取れないのが実情でしょう。任務が増えた分に対応して定員を増やそうとすると、まず、防衛省の内局、次いで総務省や財務省との厳しい折衝が必要で、結果として認められることは「まず」ありません。

定員を増やしても、それを満たす募集が難しい。

香田:そうなのです。

募集を増やすには、給料を上げるのが効果的でしょうか。

香田:今の時代は、お金ではだめです。

 若者は皆が休んでいるときに一緒に休みたい。海上自衛隊の場合、1カ月の海上勤務があると、土曜・日曜が8日間つぶれます。これが嫌なのです。海上では携帯電話も通じず、インターネットもつながりません。

 もちろん代休制度はあります。しかし、そうすると、艦が港にいるあいだは代休だらけになりかねません。港にいる間もメンテナンスや訓練が必要です。これらの作業のスケジュールが極めて窮屈な状態になり、結果的に海上自衛隊の任務達成能力(練度)が低下するのです。

 また、女性自衛官を増やすという施策があります。これは重要なことであり、必要なことでもあります。しかし現実にはいろいろ問題が生じます。例えば、規模の小さな駐屯地で、厚生労働省が求める基準を満たす託児所を作るのは容易ではない。これも、防衛省と自衛隊だけの自己完結型の努力による解決には限界があり、関係省庁横断的な政府を挙げた対策が必要です。

 募集も、自衛隊だけでやるのは限界に達しています。経団連の中西宏明会長が9月3日、大卒者の採用に関する指針を廃止すべきとの考えを示しました。自衛隊にも大卒の人が入隊します。また、高校生の就職活動も同様で、何らかの措置が必要です。このような自衛官の募集環境改善についての議論はなかなかしてもらえないのです。ここを何とかしないと、防衛大綱でいくら「きれいなこと」を言っても、自衛隊の能力向上は人の面で実効が上がりません。

 別の例ですが、自衛隊は、テレビに広告を出して隊員を募集することもできません。米国に行って見てみてください。テレビでこんな映像の広告が流れています。「輸送機C130から空挺団がパラシュートで降りていく。しばらくすると、隊員がコーヒーを飲んでくつろいでいる」。日が昇る前に訓練を済ませ、朝のうまいコーヒーを飲んでいるのです。−−そこで米軍コマーシャルの「We are ready. We are proud of my service. We serve for the United States of America.」(我々は何時、いかなる時にも任務に就けます。我々は軍務に誇りを持っています。我々はアメリカ合衆国に奉仕するのです)というテロップが出るという具合です。

 加えて、若い男子が必要なのが実情です。いま、自衛官候補生の年齢上限を27歳から32歳に引き上げる予定になっています。女性自衛官の登用も進んでいます。

しかし、大砲を担いで山道を登る若い男性隊員が集まらない。

香田:そういうことです。人員の問題への取り組みが、中央の辻褄合わせで終わってしまっているのです。実効性のあるアイデアは自衛隊が出すとしても、政府としての自衛官募集への取り組みが必要です。

米軍では託児学修士が部隊の託児所長
女性自衛官の登用はどんな状況ですか。

香田:戦闘職種を含めて、女性の登用を進めている、というか、それはやらなければいけないことです。この時に大事なのは、やはり子育てができる環境を整えることです。そうでないと、せっかく教育と訓練を施し磨き上げた女性自衛官が職種転換を求めるようになってしまいます。その時に自衛隊は「家庭を犠牲にしろ」とは決して言えませんし、言ってはなりません。不十分な勤務環境による家庭や育児の負担増を理由に仕事を忌避する人を出してはいけないのです。

女性が働き続けるのは一般企業でも必ずしも容易ではありません。何か良い手はありますか。

香田:例えば、母親が急な任務で長期間自宅を空けるような場合に、専属のベビーシッターを長期で利用できる補助制度など、知恵を出す必要があります。子供が成長したら、全寮制の高校に入学できるよう奨学金制度を創設する――などでしょうか。

 米海軍では、制服*2の現役が30万人なのに対して非制服*3が20万人います。非制服組の中には、部隊に併設している託児所の所長などがいます。私の息子が通った、ある基地の保育所の園長先生は託児学の修士号を持っている女性でした。

*2:戦闘員のこと *3:非戦闘員のこと
人員の層の厚さが日米でこれほど異なるのですね。

 特効薬はありません。しかし、議論し、その結果を現実の施策として実現していかなければなりません。

日本の「盾」と米軍の「矛」をきちんとかみ合わせる
香田:考えるべき3つめの問題は、自衛隊と米軍の間で戦略を整合させることです。中国が米軍の来援を阻止すべくA2AD戦略*4を進めています。これに対して、日米でどのように対応するのか、に関する戦略の整合です。

*4:Anti Access, Area Denial(接近阻止・領域拒否)の略。中国にとって「聖域」である第2列島線内の海域に空母を中心とする米軍をアクセスさせないようにする戦略。これを実現すべく、弾道ミサイルや巡航ミサイル、潜水艦、爆撃機の能力を向上させている。第1列島線は東シナ海から台湾を経て南シナ海にかかるライン。第2列島線は、伊豆諸島からグアムを経てパプアニューギニアに至るラインを指す
 これは「言うは易く行うは難し」の取り組みです。日本は盾を考え、米国は「たたくこと」を考えている。これは、軍事作戦上はまるで別物です。現状は、盾と矛を組み合わせて真に機能する日米同盟の軍事力運用体制になっているでしょうか。

 2015年4月にまとめられた「日米防衛協力のための指針」(いわゆるガイドライン)で同盟調整メカニズム(ACM)を設置することになりました。これは本当に機能しているでしょうか。担当者に聞けば「やっています」「できています」と答えるでしょう。しかし、米軍の友人の話では実態のほどはあやしい。

例えば、「盾と矛」の関係において日本は敵基地攻撃を米国に委ねています。「いつ、どこを攻撃してほしい」と誰が誰に伝えるのでしょう。安倍首相がトランプ大統領にいうのでしょうか。それとも、河野太郎外相がマイク・ポンペオ国務長官に伝えるのか。あるいは、河野克俊・統合幕僚長がジョセフ・ダンフォード統合参謀本部議長に、でしょうか。

NATOはそういった調整が十分にできているのでしょうか。

香田:できています。日米の関係とは異なり、一人の総司令の下で、集団的自衛権を行使する、多国籍ではあるものの単一のNATO部隊として切りあいに臨むのです。日本は、憲法のしばりがあり、今次の平和安保法制の下でも集団的自衛権は限定的にしか行使ができないので、同一司令官の下で米軍とともに一体化した戦闘を行うことはありません。

東日本大震災の時に設置した統合任務部隊(JTF)*5を常設にすると、少なくとも自衛隊と米軍の間で有効な調整・協力ができるようになりますか(関連記事「『日本は北東アジア防衛の最前線に立たされる』」)。

*5:陸上自衛隊(以下、陸自)の君塚栄治・東北方面総監(当時)がJTF東北の司令官となり、その下に海上自衛隊の横須賀地方総監と航空自衛隊の航空総隊司令官が加わる形をとった
香田:あったほうがよいでしょう。しかし、「統合」とはいかなるものかをよく考える必要があります。国軍司令官を設置して、陸・海・空の自衛隊を束ねる常設の統合部隊を作っても、常に、それぞれが同じ場所にいて、同じ任務を協力して進めるわけでありません。

 例えば、我が国の有事において陸上自衛隊は、航空自衛隊のエアーカバーの下で、島嶼の防衛・奪還に取り組む。先ほどお話ししたように、これに米軍を巻き込むようなことがあってはなりません。この間、海上自衛隊は太平洋の海上優勢を保つよう働き、米軍の来援を支援する。そして、到着した米軍の打撃力をみせつけることで戦争を終結に導く。航空自衛隊は、我が国周辺の航空優勢を維持すると共に主として島嶼防衛にかかわる航空作戦をいろいろな形で実施するケースが多いでしょう。

 統合部隊についていうと、任務を島嶼防衛にしぼった統合任務部隊の核(司令部と主要部隊)を常設しておき、必要に応じて兵力を増強できるようにしておく、ことも考えられます。部隊は日ごろの訓練が重要だからです。要するに、日ごろやっていないことは、突然の有事には、当然やれないということです。現在、任務を限定した統合任務部隊として、ミサイル防衛を担当するBMD統合任務部隊が設置されています。常設ではないものの、北朝鮮の脅威に長期間連続して備えたという観点からは準常設であり一つの事例にはなるでしょう。

日本列島と東シナ海をくくり出した小さな地図ではなく、太平洋はもちろん、ハワイやその先にある米本土までを含めた大きな地図を見る必要があるのですね。

香田:そういうことです。

サイバー空間で生じる新たなグレーゾーン
サイバー空間や宇宙での防衛をどうするかが、注目を集めています。

香田:これもやっていかなければならないことですね。サイバー空間の防衛に関していうと、自衛隊と警察との協力が必要になってくると考えます。

 サイバー攻撃による被害が国内で生じた場合、まず疑うべきは犯罪でしょう。犯罪への対応は法執行機関である警察の役割です。しかし、サイバー攻撃が、外国が外地から組織的に行った国家行為あるいは軍事作戦であった場合は、日本の法が及ばず警察が対応できる範囲を超えることになります。

 こうした全体像を考えると、警察と自衛隊が協力する国家規模のマルチドメイン対応が求められるのではないでしょうか。

 要員の確保・教育の観点からも、国家規模の対応が求められます。今は、ただでさえ少ないサイバー要員が自衛隊や警察、さらには民間に分散しています。これは効率が悪い。自衛隊がサイバー攻撃に備えて配備している200人ほどの要員は自衛隊の資産・施設に対するサイバー攻撃への対応に役割が限られています。少なくとも、自衛隊と警察で情報共有できる仕組みを作る必要があることは明白です。

 またサイバー空間における攻撃力について議論し、整理する必要があります。相手の設備を物理的にたたかないと、いつまでもサイバー攻撃を受け続けることになります。ならば、自衛隊が反撃することは、憲法9条が禁止する戦争や武力行使に当たるのかどうかという論議も必要です。物理的な破壊を伴わない反撃も武力行使なのかどうかという点に関する整理も求められます。 

 ちなみに米国は、オバマ政権の時に「サイバー攻撃は戦争と見做し得る」と整理しています。具体的には「オバマ政権は、海外からサイバー攻撃が行われるとの確証を得た場合には、大統領が(軍事力による)先制攻撃を命令できる」という方針を定めたことで、2013年2月3日のThe New York Timesで報道されました。


このコラムについて
「トランプ時代」を生き抜くための防衛政策
今年末をめどに防衛大綱と中期防衛力整備計画(中期防)が改訂される。
前回の改定から5年。この間に北朝鮮は核・ミサイルの開発を大幅に前進させた。2017年11月には、大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星15」を打ち上げ、「米本土まで届く」と主張した。 トランプ政権が誕生し、米国の安全保障政策も変化した。トランプ大統領は北朝鮮の金正恩委員長と史上初の首脳会談を実現し、完全な非核化で合意した。しかし、その進展度合いには疑問がつきまとう。 米国と覇を競う中国に、防衛費の拡大ペースをゆるめる気配はない。
防衛大綱と中期防の改訂に当たって我々は何を考えるべきなのか。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/082800235/091800005/?ST=editor  

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コメント
1. 2018年9月19日 19:31:22 : OO6Zlan35k : ScYwLWGZkzE[1500] 報告
2018年9月19日 / 18:38 / 44分前更新
〔焦点〕厳しい自衛隊員募集、年齢引き上げ・女性活用でも「静かな危機」
4 分で読む
[東京 19日 ロイター] - 若年人口の減少と国内景気の拡大を受け日本企業は深刻な人手不足に直面しているが、国の安全保障の中心的存在である自衛隊員の募集活動は、さらに困難となっている。自衛官の採用数は2017年度に4年連続で計画を下回り、防衛省は今年10月から、募集対象者の年齢上限を26歳から32歳に引き上げる。 女性の活用も推進し若い男性自衛官の不足を補おうとしているが、このまま採用難が続けば、今後の自衛隊の海外活動や海上の安全保障を守る活動にも制約要因となり得る。「静かなる危機」とも言われる現状について、元防衛副大臣や防衛省幹部、元自衛官などへのインタビューからリポートする。

8月の暑い日曜日。東京・立川市の祭り会場で、屋台から少し離れた場所に自衛隊立川出張所のブースがあった。

自衛隊の活動を紹介しつつ、募集活動も行っている。制服姿の自衛官が数人、机に待機しているが、話を聞きに来る人はほとんどいない。

野澤博司所長によると、前日は約20人がブースに立ち寄ったが、真剣に入隊を考えていた人は「なかなかいない」。所長は「今は、非常に厳しい状況。今後とも募集者獲得のために頑張りたい」と話した。 ブースの横には子ども用の迷彩服が展示され、着用して記念撮影をすることができる。祭りのついでに展示物をみていたという、子どもを連れた近所に住む若い夫婦は、災害救助活動など自衛隊の活動には感謝しているという。子どもが将来自衛隊に入りたいと言ったらどうするかとの質問には「反対はしないが、危険な仕事なので心配」と答えた。

元防衛副大臣の長島昭久衆院議員は、自衛隊の人材不足に危機感を示す。同氏はロイターに「本当に深刻だと思う。20年後、人からロボットに相当置き換えていかない限り、募集の強化で今の戦力機能を保っていくことは難しい」と語った。「日本を取り巻く情勢を考えると、だんだん平和になっていくわけではないから、非常に深刻だ」。 自民党国防部会長で元防衛副大臣の若宮健嗣衆院議員は、業務や機械の省人化、無人化、ドローン、人口知能(AI)などの活用に向けた努力が必要だと説く。

ただ、年末に発表される防衛大綱の見直しに向けて自民党がまとめた提言の中にも、人材確保の決め手となる策は見当たらない。

自衛隊の採用対象人口(18歳から26歳)は、ピークだった1994年の1743万人から、2018年には1105万人まで減少。今から10年後には1002万人まで減る見込みで、その後も同様のペースで減少していくことになる。

自衛官候補生試験の応募者数も、2013年の3万3534人から2017年には2万7510人に減少した。

<自衛隊業務の制約要因>

このトレンドが続くと、自衛隊の現場の活動にとって制約となる可能性がある。元防衛審議官で政策研究大学院大学シニア・フェローの徳地秀士氏は「地域の安全保障上の課題に対応するため、日本は中国の海洋進出や朝鮮半島など、近隣の問題に焦点を当てる必要がある」とした上で、人員不足がこうした業務に影響すると指摘。「悩みの種だ。より少ない人数で、今まで以上の業務をこなす必要がある。簡単な解決策はない」と言う。 長島衆院議員も「もうPKO(国連平和維持活動)などは出せないと思う。そういう選択になる。日本周辺の安全、安定を守っていくために、そこに資源を集中させるしかない」と語った。 自衛隊の定員24万7154人(2017年3月31日現在)に対し現員は22万4422人で、充足率は90.8%。内訳では幹部自衛官の方が充足率が高く、「士」と呼ばれる一番下の階級では73.7%にとどまっている。

軍事組織とジェンダーに関する著書のある佐藤文香・一橋大学大学院教授は、自衛隊の募集対象年齢引き上げは「危機感の表れと受け止めて間違いない」とした上で、階級の低い、若い自衛官の充足率が低いことが問題だと指摘する。 自衛隊は一定期間で若い隊員が入れ替わるよう任期制を導入したものの、数年で終わる制度では若い人にとっては魅力がなく、採用がうまくいかなかったと佐藤氏は指摘する。

そこで今回、対象年齢を引き上げて「たくさんの人に来てもらおうという戦略」を打ち出したと分析する。 これに対し、防衛省人事教育局の廣瀬律子人事計画・補任課長は「若ければ若いほど強いという考えをとった時もあったが、海外でのオペレーションもあり、最先端の装備も入ってきているので、どちらかというと、経験、技能の方がより、今の自衛隊には必要なのではないか」という考えから、「間口を広げよう」としたものだと説明している。

<女性の活用>

もう一つの隊員増強策が、女性隊員の活用だ。防衛省は昨年4月に「女性自衛官活躍推進イニシアティブ」を発表。女性に対する配置制限を撤廃し「あらゆる分野で活躍する機会が開かれる」こととした。

2017年度に6.5%だった女性自衛官の比率を、2030年までに9%以上とする目標も公表した。これらを受け、8月には航空自衛隊で初の女性戦闘機操縦士が誕生した。 また、陸上自衛隊幕僚監部によると、女性自衛官の増員に向けた居住施設などの整備を進めるとともに、家庭と仕事の両立ができるよう、育児休暇後に復職しやすい制度や、緊急呼び出しの際の託児所の設置にも取り組んでいるとしている。

ただ、目標とされる9%はまだまだ低いとの見方もある。米国の女性兵士の割合は15%程度。一橋大学の佐藤教授は、配置制限が撤廃されたといっても「いわゆる『女性らしい』配置につける傾向は変わっていない」と分析する。

<ネットやアニメで募集活動>

自衛隊の募集業務に関わる人員は地方協力本部を中心に約5000人程度で、この10年間ほとんど変わっていない。 募集活動は、地元のイベントに参加して広報活動を行うほか、大学や高校を訪問し説明会を行う。若者にアピールするため、アニメやアイドルを使いソフトなイメージを打ち出すポスター等も多く使用されている。 陸上幕僚監部・募集広報担当の林田賢明3等陸佐によると、2017年度からは、テレビコマーシャルから、完全にインターネットを通じた広報にシフトした。同氏によると、これにより「自衛官募集ホームページのアクセスは格段に伸びている。(17年度は)16年度比で3倍くらい。今年度もまた伸びている」という。 ただ、アクセス数の増加が応募者の増加に直接結びつくわけではない。就職が売り手市場と言われる中、古い体質の組織できつい仕事のイメージがある自衛隊を希望する若者は少ない。

橋本大季氏(24)は、陸上自衛隊の人材養成のための高等工科学校を卒業し防衛大学校に進んで2016年に卒業したが、自衛隊には入隊せず、卒業と同時にファイナンシャルプランナーになろうと起業した。

北海道出身の橋本氏が工科学校に入学したのは家が裕福でなかったためで、「国を守るという意識はなかった」という。防衛大学在学中に、尊敬する先輩が自殺したことがきっかけで自分の人生について考え始め、「おカネの勉強をしっかりしようと思った」と話す。

がっしりとした体格だが、笑顔が優しい印象の橋本氏は言う。「自衛隊に入ってくる人たちは、貧しい、家の事情で入ってくる人が多いというのが事実」。

一橋大学の佐藤教授は、日本にはずっとポバティードラフト(貧困徴兵)というものがあったと指摘する。そして「おカネをもらって教育を受けながら安定した職に就くことに魅力を感じるような層が、これからもっともっと顕在化してくる」と予想する。

宮崎亜巳、Linda Sieg 編集:田巻一彦、田中志保
https://jp.reuters.com/article/jp-stock-idJPKCN1LZ12M?il=0

2. 2018年9月20日 10:55:58 : OO6Zlan35k : ScYwLWGZkzE[1512] 報告
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54145
台湾に迫る危機、日本よどうする!台湾統一を理由に終身国家主席となった習近平氏
2018.9.20(木) 樋口 譲次

中国空母が台湾海峡を通過、中台の緊張高まる中。写真は香港に到着した中国の空母「遼寧」(2017年7月7日撮影、資料写真)。(c)AFP/Anthony WALLACE 〔AFPBB News〕
 台湾は、国際社会では「地域」として扱われることが多いが、正真正銘の「国家」である。
 国家とは、明確な領土領域、永久的住民および統治機関が備わっている有機的な組織体をいい、近代国家の統治機関は一般的に、立法、行政および司法の三機関から成り立っている。
 すなわち、民主主義国においては、領土領域の住民である国民が、主権者として法律を制定し、法律に基づいて住民に対する行政が行われ、法律違反の疑いがあれば司法機関によって有無罪の判断が下される仕組みを整えた組織体が国家であり、国際法上の人格をもつ主権国家は外交能力を備えている。
 いずれに照らしても、台湾は十二分に条件を満たしており、国家と定義することに全く疑問の余地がないからである。
 しかしながら中国は、「台湾は中国の一部であって、台湾問題は中国の国内問題である」との基本原則を主張して曲げず、「一つの中国」の原則は中台間の議論の前提であり、基礎であるとしている。
 中国の全国人民代表大会は2018年3月、中国共産党の指導的役割を明記し、国家主席の任期を2期(10年)までとしていた規定をなくす憲法改正案を圧倒的賛成多数で可決した。
 習近平国家主席は、任期制限がない中国共産党トップの総書記、人民解放軍トップの中央軍事委員会主席を兼務しており、このたびの憲法改正で終身国家主席の地位を手に入れたことによって、いわば「中国皇帝」として長期君臨の体制を確立したことになる。
 中国には、習国家主席が地盤とする「浙江閥」「太子党」のほかに、前々国家主席であった江沢民が率いる「上海閥」、前国家主席を務めた胡錦濤の「中国共産主義青年団(共青団)」派の3大派閥による権謀術数の権力闘争が繰り広げられてきた。
 しかしそのような中で、なぜ、習国家主席の独走・独裁を許すに至ったのかについては、様々な議論があるが、台湾問題の解決が大きなウエイトを占めていると見られている。
 中国の憲法は、その前文で「台湾は、中華人民共和国の神聖な領土の一部である。祖国統一の大業を成し遂げることは、台湾の同胞を含む全中国人民の神聖な責務である」と定めている。
 そして、中国は、平和的な統一を目指す努力は放棄しないと表明しつつも、台湾を「核心的利益」と呼び、中台統一に対する外国の干渉や台湾独立運動に対して反対する立場から、武力行使も辞さないことを定めた「反国家分裂法」を制定している。
 それを盾に、習近平主席は、香港返還(1997年)そしてマカオ返還(1999年)を成し遂げた今、最も困難な台湾問題を解決して祖国統一の大業を完成し「中華民族の偉大な復興」の夢を実現するには、強力な指導者に率いられた長期安定の政治体制が必要であると主張した。
 反論の余地のないその主張に対しては、共産党内の反対派であっても口を閉さざるを得なかった、というのが終身国家主席へ至った見立てだ。
 それは取りも直さず、1953年6月生まれの習近平(65歳)時代に台湾統一を成し遂げることを意味する。
 もし、その間に平和的統一が達成できなければ、武力統一も辞さない構えであり、台湾はもとより、日米などの周辺国・関係国に向けて、台湾危機が現実のものとして切迫しつつあることを示す重大な警告と見なければならない。
ロシアのクリミア半島併合を
研究させた習近平の台湾統一工作
 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領をロール・モデルとする習近平主席にとって、「あいまいハイブリッド戦」と呼ばれるプーチンのクリミア半島併合は格好の教材である。
 習近平主席は、中国のシンクタンクにその研究を命じ、それによって、中国の台湾統一研究が劇的に変化したと言われている。
 中国は、すでに、台湾に対して、いわゆる「グレーゾーンの戦い」を仕かけており、外交工作、軍事工作、そして対国内工作などを複雑に絡ませながら、熟柿が膿んで自然に落ちるのを待つ「熟柿作戦」を展開している。
 それが功を奏さないと見れば、最終手段としての武力統一に打って出る手筈であることは、前述のとおりだ。
外交工作:台湾の国際空間からの締め出し
 中国は、台湾を国際機関から締め出し、また、その圧力で台湾と外交関係のある国々を断交に追いやっている。
 この背景には、中国が主張する「一つの中国」原則の受け入れを台湾に強要し、国際社会に認めさせようとしていることにある。
 1949年に中華人民共和国(中国)が成立し、国連では「中国代表権」問題が生起したが、当時の中華民国(台湾)政府の蒋介石総統は「漢賊並び立たず」と述べ、台湾政府が「唯一の中国正統政府」であるとの主張を崩さなかった。
 日米両国は「二重代表方式」を模索し説得に努めたが、蒋介石がこれを拒否したため、1971年に代表権は中国に移転し、台湾は国連から排除された。
 それが国際社会における中台確執の始まりであり、以来、台湾は中国との関係から国際的な活動が制限されてきた。
 2003年に中国を発端とする重症急性呼吸器症候群(SARS)が近隣各国や北米にも伝播するという事件が起き、台湾でもSARSの流行が深刻な社会的混乱を招いた。
 これを契機として、台湾を世界保健機関(WHO) から排除することが、台湾だけではなく他国への脅威になり得ることを国際社会に認識させた。
 紆余曲折はあったが、台湾は、ようやく2009年からWHO総会へのオブザーバー参加が認められるようになった。
 しかし、中国は、「一つの中国」原則の受け入れを拒んでいる、民主進歩党(民進党)の蔡英文政権が発足した2016年5月前後から、国際社会に圧力をかけたため、2017年5月のWHO総会へのオブザーバー参加が認められなかった。
 そればかりではない。
 経済協力開発機構(OECD)の鉄鋼委員会(2016年4月)、国連食糧農業機関(FAO)漁業委員会(同年7月)、国際民間航空機関(ICAO)総会(同年8月)、国際刑事警察機構(ICPO)総会(同年11月)、国際放送協会からの台湾国際放送の排除(2017年6月、失敗)、東アジア・ユース・ゲームズ(2018年7月)など、台湾の国際空間を閉塞させるべく、ありとあらゆる国際組織や会議への台湾不招待やボイコットを執拗に働きかけている。
 最近では、中国が外国の民間航空会社に台湾を中国の一部として表記するよう強制したことも記憶に新しい。
 一方では、中国の圧力によって、台湾と外交関係のある国々が次々と断交に追いやられる「断交ドミノ」が急速に進んでいる。
 蔡政権下で台湾と国交を断絶し中国と国交を樹立した国は、時期的順に、西アフリカの島国サントメ・プリンシペ(2016年12月)、中米パナマ(2017年6月)、同ドミニカ共和国(2018年5月)、西アフリカのブルキナファソ(同年5月)、中米エルサルバドル(同年8月)であり、すでに5か国との断交に追い込また。
 今後、南米パラグアイや大洋州パラオなどの断交の動きも取り沙汰されている。
 現在、台湾が外交関係を維持しているのは、中南米や大洋州などの17か国となった。いずれも大国の利害に大きな影響を及ぼさない小国であり、台湾の国際的悲哀を象徴している。
 このままでは、台湾は「中国による台湾の国際的空間を圧縮する行為」が「やがて外交関係をゼロにする」との危機感を強めざるを得ない。
 また、現在、辛くも世界貿易機関(WTO)加盟(2002年)とWHO総会オブザーバー参加の地位を維持しているものの、今後中国による国際機関などからの締め出し圧力が一段と強まって、台湾の孤立・弱体化が進み、再び国民党政権時代のように中国の影響下に組み込まれる恐れが大いに懸念されるのである。
軍事工作:台湾周辺海空域からの軍事的圧力
 尖閣諸島周辺をはじめ、わが国の周辺海空域で中国軍の活発な活動が常態化していると同じように、中国軍は台湾周辺海空域での活動を活発化させ、軍事力を背景とした威嚇を強めている。
 中国は、2018年1月、台湾との事前協議を行わないまま、台湾海峡の中台中間線の中国側に新たな民間航空路を設定し運用を開始した。
 同中間線の台湾側には、台湾軍の3つの訓練空域が設定されているが、そこでの活動を妨害する狙いが込められていると見られている。
 また、2017年12月、蔡総統は記者会見で、中国軍機が台湾周辺で活動を活発化させているとして、中国への警戒感を示した。
 そのように、中国軍の戦闘機(H-6、Su-35など)や艦艇(空母遼寧を含む)が常態的に台湾本島を周回している。
 これまでの台湾は、極力中国を刺激しないよう、中国軍の活動に対する表立った非難を抑制してきたが、2017年の「国防報告」では、台湾周辺海空域における中国軍の活動の実態を次の図をもって公表した。

 さらに、2018年4月には台湾海峡で実弾演習を行うとともに、海空作戦や着上陸作戦のための軍事演習・訓練を増加させており、台湾に対して一段と軍事的圧力を強めている。
 このような中国の軍事的圧力は、台湾初の総統直接選挙の直前の1996年3月、台湾海峡で弾道ミサイル発射と3軍統合演習を行った軍事恫喝を想起させるものである。
 前述のとおり、中国の軍事展開能力は、当時と比較して格段に強化されており、台湾国民に「四面楚歌」の心理を植え付けるには十分であり、今後、その恐怖は強まることはあっても弱まることはないであろう。
対国内工作:台湾国内の混乱助長と抵抗意志の弱体化
 近年、台湾では、中国のスパイ活動が政治、経済、国防や情報、文化、イデオロギーなどあらゆる分野に浸透し、特に民進党政権となって以降、その活動が一段と強化されている。
 台湾で暗躍する中国のスパイの数は、5000人以上と見られ、台湾メディアの調べによると、中国のスパイ容疑で逮捕された事件は2002年以降だけでも60件(2017年3月現在)に上っているが、これは氷山の一角だと言われている。
 政府関係者によると、このうちの9割が軍事機関に集中しており、例えば、中国人民解放軍を退役した鎮小江・元中将が、台湾の政界および軍の関係者を買収して台湾の戦闘機に関するデータを入手した罪で、2016年に4年間の禁固刑を言い渡された。
 台湾史上最大の中国共産党スパイ事件となった。
 また、台湾国防部の陳中吉報道官が、「我が軍の退役軍人が中国に行った後、買収されました。弱みを握る、高額な報酬を持ちかける、ハニートラップにかける、などです」と公表したような事件も起きている。
 中国人民解放軍が国境に迫ってくる前に、台湾軍は敗れてしまう恐れがあるとの警戒心も高まっている。
 一方、政界では、中国との統一を主張する政治団体「中華統一促進党」が中国当局から資金を得て、反「台湾独立」運動や民進党の蔡英文政権への抗議活動に人を動員していた疑いが持たれている。
 同党は、八田與一の銅像を破壊した反日団体としても知られおり、中国は台湾を併合するために、政界をターゲットとして政治工作にも力を入れている。
 また、2期8年にわたった民進党・陳水扁政権の後、国民党の馬英九が総統に就任した頃から、台湾のマスメディアの報道・言論空間のなかに中国の影響力が浸透するようになっている。
 日本台湾学会の川上桃子氏の論考『台湾マスメディアにおける中国の影響力の浸透メカニズム』によると、中国の浸透メカニズムのうち、その浸透経路は下記の4つに代表される。
(1)中国で事業を展開ないしは展開を計画している台湾の事業家たちによる、中国政府からの庇護や支持を取り付けるための台湾マスメディアの買収と報道・言論内容への介入
(2)中国の各級政府による台湾での「報道の買い付け」
(3)台湾テレビ局の番組の売買や番組制作面における中国の省・市傘下のテレビ局との提携等の強化→中国側の政治的意図の浸透
(4)中国政府と台湾メディア企業の直接的なコミュニケーションの日常化→メディアによるニュース処理プロセスのなかでの中国の影響力の侵入
 このようにして、新聞やテレビにおいて、「中国を褒めたたえる報道」が増える一方、中国政府にマイナスとなるニュースを意図的に小さく扱ったり、無視したりする傾向が現れている。
 また、中国とドラマ番組の商談を進めていた台湾のテレビ局が、中国側からの示唆を受けて中国に批判的なトークショー番組を打ち切るといった事案が起きている。
 台湾統一を国家目標として掲げる中国の情報戦・世論工作が、マスメディアを通じて日々台湾国民の中に浸透し、ボディ―ブローのように効いていくことになろう。
 これと関連して、台湾の交通部(交通省)は2016年5月、立法院で、「中国からのサイバー攻撃が『戦争に準じる程度』まで深刻化している」と報告したように、中国の台湾に対するサイバー攻撃も常態化している。
 また中国は、硬軟両様の工作を展開しているが、最近、台湾の若者を中国に取り込もうと躍起になっている。
 それは、馬英九政権末期、中台間で調印された「海峡両岸サービス貿易協定」の阻止を目的に、学生を中心とした若者たちが立ち上がった「ひまわり運動」が台湾人意識を一段と高めたからである。
 また、近年、台湾では「天然独」と呼ばれる、「生まれつき自分たちは台湾人であり、中国人ではない」との台湾アイデンティティーをもつ若者たちが増えていることにもよる。
 中国は、このような若者に対して、中国大陸におけるビジネス展開、就業、起業、税制など、すべての面において台湾人は中国人と同等の待遇を受け、台湾の学生が中国の学校に入学するにあたっても特段の差別を受けることはない、との懐柔策を提案している。
 「甘い蜜の罠」であることは明白であるが、台湾での給料より、中国の特定の地域での給料が2〜3倍高いということになれば、中国に機会を求めようとする若者たちがでてきても、不思議ではない。
 このように、様々な懐柔策を駆使して、台湾アイデンティティーを弱めようとする中国の浸透工作は、台湾に新たな課題を投げかけている。
 以上述べたように、中国は、外交工作、軍事工作、そして対国内工作などを複雑に絡ませながら、台湾国内を混乱させ、「台湾独立」の動きを封じ、中国に対する抵抗意志を弱め、戦わずして台湾統一を成し遂げようと目論む「グレーゾーンの戦い」を執拗に展開している。
 そして、和戦両様を常套手段とする中国は、次の手段として武力統一を着々と準備しているのである。
武力統一:最終手段としての軍事侵攻
 中国は、台湾への軍事進攻を念頭に、継続的に高い水準で国防費を増加させ、軍改革、統合作戦、武器開発、軍事演習・訓練などを通じて大幅に軍事力を増強している。
 一方、台湾の国防費は約20年間でほぼ横ばいであり、2017年時点の中国の公表国防費は台湾の約15倍となっている。
 明らかに、中台間の軍事バランスは中国有利に傾いており、台湾の「国防報告2017」は、「台湾にとって軍事的脅威が増大している」との認識を示している。
 日本の平成30年版「防衛白書」は、中台の軍事力の一般的な特徴について、次のように分析している。
(1)陸軍力については、中国が圧倒的な兵力を有しているものの、台湾本島への着上陸侵攻能力は、現時点では限定的である。しかし、近年、中国は大型揚陸艦の建造など着上陸侵攻能力を着実に向上させている。
(2)海・空軍力については、中国が量的に圧倒するのみならず、台湾が優位であった質的な面においても、近年、中国の海・空軍力が急速に強化されている。
(3)ミサイル攻撃力については、台湾は、「PAC-2」の「PAC-3」への改修およびPAC-3の新規導入を進めるなど、弾道ミサイル防衛を強化中である。しかし、中国は台湾を射程に収める短距離弾道ミサイルなどを多数保有しており、台湾には有効な対処手段が乏しいとみられる。
 そのうえで、防衛白書は、軍事能力の比較は、兵力、装備の性能や量だけではなく、想定される軍事作戦の目的や様相、運用態勢、要員の練度、後方支援体制など様々な要素から判断されるべきものであるが、中台の軍事バランスは全体として中国側に有利な方向に変化し、その差は年々拡大する傾向が見られる、としている。
 そして、台湾国防部は2018年8月、「2020年までに中国が全面的な侵攻作戦能力の完備を目指している」とし、両岸関係が重大な局面に移りつつあるとの見解を示している。
迫る台湾危機は日本の危機
日本はどうすればよいのか
 米国は、ドナルド・トランプ政権になって、「台湾関係法」を根拠に、バラク・オバマ政権が凍結していた14.2億ドル(約1562億円)の台湾への武器売却を承認した。
 台湾が目指す潜水艦の自主建造(国産化)についても、米政府は2018年4月、米企業に対し台湾側との商談を許可するなど、台湾への軍事協力を強化している。
 また米国は、中国の反対によって台湾との交流を自粛してきた結果、両国の交流不足を来したとして、「台湾旅行法」(2018年3月6発効)を制定し、米台政府関係者の交流をあらゆるレベルで促すこととした。
 米議会も、2018年8月に「国防授権法」を成立させ、台湾の要求に基づく防衛装備品や役務の提供、台湾軍の軍事演習への参加招請、台湾政府高官・軍高級幹部との交流プログラムの実施、西太平洋における台湾海軍との二国間海上訓練、米国海軍と台湾海軍の相互寄港の実行可能性の検討などを求めている。
 このように米国は、台湾の安全保障・防衛強化のための措置を講じつつあるが、米国は台湾カードを利用し、この地域、特に南シナ海での中国の軍事的支配を牽制・抑制し始めたとの見方もある。
 では、台湾を「運命共同体」と位置づけ、死活的利益を共有する日本は、どうすればよいのか。
 安倍晋三政権になって、日台関係は少しずつ強化されつつあると言ってよかろう。
 日本と台湾は、昭和47(1972)年の断交後、双方が窓口機関を設置して実務的な交流を行ってきた。
 日本の対台湾窓口機関の名称は「交流協会」であったが、平成29(2017)年1月に「日本台湾交流協会」に変更された。台湾側もこれに呼応した形で、対日窓口機関の名称を「亜東関係協会」から「台湾日本関係協会」に変更した。
 両機関の旧名称はともに「一つの中国」原則を主張する中国への配慮から名づけられものであり、日台関係の困難を示す象徴であった。
 その困難を克服し歴史的な一歩を踏み出したのは安倍首相のイニシアティブによることが、陳水扁元総統のインタビュー(産経新聞、2018年9月5日付)で明らかにされている。
 わが国には、米国と同様に「台湾関係法」や「台湾旅行法」のような法律を作り、法的整備の面でも台湾を支援しなければならないとの意見が存在し、大きな課題である。
 その面で、両国間に意義ある進展をもたらしたのは、いわゆる平和安全法制の制定である。
 武力攻撃事態対処法の改正では、これまでの武力攻撃事態等に加え、存立危機事態」(わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態)への対処が追加された。
 また、重要影響事態安全確保法は、重要影響事態を「我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態(そのまま放置すればわが国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等)」とし、支援対象となる重要影響事態に対処する軍隊等を、「日米安保条約の目的の達成に寄与する活動を行う米軍」、「国連憲章の目的の達成に寄与する活動を行う外国の軍隊」及び「その他これに類する組織」と規定した。
 その際の対応措置として、
@後方支援活動
A捜索救助活動
B船舶検査活動
Cその他の重要影響事態に対応するための必要な措置
 とし、外国領域での対応措置も、当該外国等の同意がある場合に限り、実施できることとしている。
 他方、日米防衛協力のための指針(ガイドライン、平成27年4月)では、そのW項「日本の平和及び安全の切れ目のない確保」B項「日本の平和及び安全に対して発生する脅威への対処」において、「同盟は、日本の平和及び安全に重要な影響を与える事態に対処する。当該事態については地理的に定めることはできない」と記述されている。
 以上のことから、平和安全法制は、明らかに台湾有事をカバーしていると解釈され、また、そのような事態に日米が共同して対処することを、ガイドラインは裏づけている。
 しかし、このように法的整備ができても、日米台の3か国による平時からの協議、政策面および運用面の調整、そして共同演習・訓練などが行わなければ、有事における有効な機能発揮を期待することはできない。
 一方、いきなり有事演習・訓練を始めれば、中国の激しい非難や抵抗を受けることは容易に想像がつく。
 そこで、米国の「国防授権法」が求める台湾政府高官・軍高級幹部との交流プログラムの実施、台湾軍の軍事演習への参加招請、西太平洋における台湾海軍との二国間海上訓練などの動向を見極めつつ、
 中国も容認せざるを得ない平和目的の活動や措置、例えば、国際人道支援・災害派遣、非戦闘員を退避させるための活動、サイバー空間に関する協力、捜索・救難、海洋安全保障、空域管理のための調整、海空連絡メカニズム(ホットライン)の構築など、実行可能なことから始めたらどうか。
 それらが有事体制の基礎を作り、最も現実的に日米台の安全保障・防衛協力を前進させる大きな一歩となるのではないだろうか。


 


中ロの急接近が脅威に、米国が本格的に対策を検討
米国を敵視し、軍事面、経済面で連帯を強化する中国とロシア
2018.9.19(水) 古森 義久
ロシア「史上最大」の軍事演習、中国・モンゴル軍とパレード
ロシア東部シベリア地方のチュゴル軍事演習場で行われた軍事演習「ボストーク2018」で開かれたロシア・中国・モンゴル軍による軍事パレード(2018年9月13日撮影)。(c)MLADEN ANTONOV / AFP〔AFPBB News〕

 9月中旬、中国とロシアがこれまででは最大規模の合同軍事演習を実行した。この演習が象徴する中ロ両国の軍事的な連帯強化は、米国に対抗する意図が明確だといえる。

 では、米国は中国とロシアの連帯強化にどう対応すべきなのか。米国でこの課題を究明した大規模な官民合同の研究結果が公表された。この研究はその総括において、米国がこれまでどおり米国主導の国際秩序を守るため軍事、経済、政治などでの力をさらに強め、中ロ両国に対決していくことをトランプ政権に提案していた。

連邦議会で強まる中ロ連帯への懸念
 中国とロシアがここ数年、米国を共通の競合相手とみて連帯を強めてきたことは、米側でも重大な懸念の対象と受け止められてきた。その懸念はオバマ前政権から存在したが、ここに来て連邦議会の超党派議員多数の間で特に懸念が強まり、トランプ政権の確固した対応を求めるようになった。

 懸念の対象は主に中国とロシアが最近、軍事面での協力を強めてきたことである。トランプ政権も昨年(2017年)12月に公表した「国家安全保障戦略」のなかで、両国を「米国の利益や価値観を崩そうとする修正主義勢力で戦略上の競合相手」と定義づけた。

 こうした背景の中、米国のアジア研究の学者や研究所多数から成る民間研究組織「全米アジア研究部会(NBR)」は9月中旬、「中国・ロシア関係=その戦略的意味と米国の政策選択肢」と題する報告書を公表した。

 この調査研究はトランプ政権誕生直前の2016年12月に開始され、米国の民間の学者、研究者80人ほどに、中国やロシアなどの専門家約30人を加えたスタッフによって行われた。米国政府の国家安全保障会議、国防総省、国防総省などの関係部門の代表たちも多数、非公式な形でこの研究に加わった。米国でこれまで行われた中ロ連帯問題についての官民合同の研究としては最大規模といえる。

なぜいま連帯を強めているのか
 同報告書の総括は、プロジェクトの中核となっていたジョージ・ワシントン大学教授のロバート・サター氏が執筆した。その骨子を紹介しよう。

 まず注目されるのは、全体の傾向として今後も中ロの連帯は強まり、米国の国家安全保障や対外戦略全体への大きな脅威やチャレンジになっていくという懸念を表明している点である。報告書の総括には次のように記されていた。

・習近平政権、プーチン政権ともに今後少なくとも5年は連帯をさらに強めていく意図が明白である。習主席の任期が無期限になったことがプーチン政権の独裁傾向とさらに合致するようになり、米国に共同で抵抗する動機を強めた。

 そのうえで同報告書は、中国とロシアがなぜいま連帯を強めているのか、その基本的な理由として以下の要因を指摘していた。

・中国とロシアの対外戦略と価値観の共通性
(米国主導の民主主義に反対し、南シナ海やクリミアでの軍事膨張行動を進めることがその実例)

・共に民主主義陣営から非難されている状況
(中ロ両国が米国主導の民主主義陣営から「侵略」や「弾圧」を非難されることを共通の弱みのように受け取っている)

・「米国の衰退」という共通認識
(米国が主体となる民主主義陣営の力が米国自体も含めて衰退してきたとする認識)

経済面でも連帯を強化
 さらに同報告書は、中ロ両国を接近や連帯へと動かしてきた具体的な動因として以下の諸点を挙げていた。

・中ロ両国はともに米国のグローバルな影響力に対抗し、国際秩序の改変を意図している。両国は南シナ海、クリミアなど、ともに自国に近い地域で米国の主導権に反発するようになった。

・中ロ両国はともに米国主導の民主主義と人権尊重の動きに反発する。両政権は米国側から民主主義や人権の弾圧に関して非難を受け、ともに弱みと反撃の必要を感じている。

・米国の軍事力と軍事態勢への反発が中ロ両国の連帯をもたらした。特に中ロがそれぞれ自国の安全保障にとって極めて重要とみなす地域で米側がミサイル防衛や長距離ミサイル、軍事偵察の能力を増強していることを、自国への脅威と感じている。

・中ロ両国はともに「反米」と呼べる米国へのネガティブな認識を抱き、その認識が自国への自己認識と重複している。米国とその同盟諸国の意図への強い不信と反発が共通する。

・中ロ両国は、貿易や投資の面でも連帯することによる利益が増えてきた。ロシアはクリミア侵略への米国や西欧の経済制裁の結果、貿易面で中国への依存を増してきた。中国もエネルギー資源の調達先としてのロシアの重要性を高めてきた。

 報告書は以上のような諸点を挙げ、中ロ両国の連帯が米国とその同盟諸国にもたらす影響はきわめてネガティブであり、その結果、米側にとっての国際情勢展望は暗い、とも述べていた。

正規の軍事同盟を結ぶ可能性は低い
 しかし、報告書は以下のようにも記し、中ロ連帯には抑制の要因や限界もあることを指摘する。なかでも、中ロ両国はいくら軍事協力を進めても公式の同盟パートナーにはならないという見通しは重要だろう。

・中ロ両国の経済力の差が軍事や政治での連帯を抑える可能性がある。ロシアの経済力は中国よりもはるかに劣り、対中経済依存を高めている。モンゴルや中央アジアではロシアは経済覇権を中国に譲った。この不均衡がプーチン大統領のロシア復活の野望とぶつかる見通しもある。だから、中ロ両国が正規の軍事同盟を結ぶ可能性はきわめて低い。

・ロシアの軍事面での立場も変化してきた。ロシアの軍事力は中国よりずっと強力で優位な立場から援助する構図だったが、それが変わってきた。ロシアの国家資産は核戦力、軍事技術、秘密作戦能力、諜報能力などに限られ、国際的なソフトパワーは皆無といえる。その軍事優位も最近は中国に追いつかれ、指導的な立場が崩れてきた。

・中ロ両国の間には相互不信や敵対の長い歴史がある。民族性の差異にまでさかのぼる闘争の歴史は完全に消えることはないという見方がなお存在する。米国への対処でも、中ロ両国は自国の利益のために相手を利用し、欺くという言動を最近まで続けてきた。せいぜい10年ほどにしかならない最近の米国に対する足並みの一致が果たしてどれほど堅牢なのか疑問である。

・米国側の中国とロシアへの政策は異なる場合がある。トランプ政権はプーチン政権との融和を模索しながら、習政権に対しては強硬な態度を崩さないというような「使いわけ」政策をとることも珍しくない。この米側による差別が中ロ連帯を阻む可能性がある。

・中ロ両国の日本や西欧などに対する姿勢はときに大きく異なる。米国のアジアでの主要同盟相手である日本への態度は、中国よりもロシアの方が友好的である。西欧諸国や中東、さらにはアジアでのベトナム、インドなど重要な相手への政策をみても、両国には違いが目立つ。この差異が中ロ連帯のさらなる進展を難しくしうる。

米国がとるべき政策は?
 同報告書は以上のように中ロ連帯に多角的な光をあてながら、米国のトランプ政権がどのような政策で臨むべきかを記していた。この大規模な調査研究に加わった専門家たちの間では、米国のとるべき政策として大きく分けて以下の4つが挙げられたという。

(1)中ロ両国がこのまま連帯を続けることを想定し、米国は軍事、経済、外交の各面で国内外の力を着実に強化し、両国に正面から対決し、抑止する。

(2)中国との関係を改善して対決要素を薄める。ロシアに対してはさらに強硬な措置をとり、中ロの離反を図る。

(3)米国への長期の最大脅威は中国とみなして強固な抑止策をとり、ロシアに対しては融和政策を導入して、中ロの離反を図る。

(4)米国は長年の国際的な覇権や主導権を後退させ、中国とロシアという新興の大国の国際的役割拡大を受け入れる形で協調を図る。

 以上のような政策選択のなかで、この調査研究に参加した米国側の専門家たちの圧倒的多数が、(1)の対決と抑止の政策への賛同を表明したという。その結果、同報告書は米国政府や議会に対して、実質的に強固な政策を勧告していると言えるのである。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54140

 


ウラジオ柔道外交はプーチン大統領の「一本勝ち」
北方領土は「我慢する」か「長期戦を覚悟する」かの問題に
2018.9.20(木) 新潮社フォーサイト
新潮社の会員制国際情報サイト「新潮社フォーサイト」から選りすぐりの記事をお届けします。
プーチン大統領、日ロ平和条約締結を提案 年末までに「前提条件なし」で
ロシア東部ウラジオストクで開催中の「東方経済フォーラム」に臨む、同国のウラジーミル・プーチン大統領(中央)、中国の習近平国家主席(右)、安倍晋三首相(2018年9月12日撮影)。(c)AFP/Kirill KUDRYAVTSEV〔AFPBB News〕

(文:名越健郎)

 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が9月12日にウラジオストクで、「(領土などの)前提条件なしで日露平和条約を年内に締結しよう」と突然提案したことは、日本側に困惑を招いた。前々日の日露首脳会談でそのような発言はなく、唐突かつ意表を突く発言だったからだ。

 難航する北方領土問題の棚上げを意図したことは明らかだが、日本側が拒否すれば、ロシアが反発し、交渉はさらに難航しよう。プーチン大統領と22回の会談を重ねた安倍晋三首相の対露外交が、曲がり角に直面していることを示した。

「1島返還」の恐れも
 プーチン発言は、日中露韓とモンゴル首脳が登壇した東方経済フォーラムのパネル・ディスカッションで飛び出したが、引き金は安倍発言だった。首相は「プーチン大統領と今後も会談を重ねていきたい。聴衆の皆さんにも、平和条約締結に向けたわれわれの歩みを、支持してもらいたい」と拍手を催促すると、大統領は「シンゾーは『アプローチを変えよう』と言ったが、是非そうしたい。たった今思いついたアイデアだが、平和条約を今とは言わないが、年末までに無条件に結ぼう。その後ならば、平和条約を基礎に、すべての係争問題の解決ができるはずだ」と提案すると、安倍首相を上回る拍手が起きた。

◎新潮社フォーサイトの関連記事
・北朝鮮「建国70年」の実相(4・了)金正恩「態度」と「言葉」の意味
・「クリントン図書館」が公開したエリツィン独白「プーチンは狂信主義者」
・米露首脳会談が「不調」に終わったこれだけの理由

 4島の帰属問題を解決して平和条約を結ぶ――が国是の日本にとって、プーチン提案は到底受け入れられない。最大の問題は、平和条約を締結すれば、国際法上、戦後処理の完了を意味することだ。火事場泥棒のような終戦直後の旧ソ連による「4島不法占拠」が一瞬にして「合法支配」と化すことになる。

 1956年の日ソ共同宣言は、「平和条約締結後に、善意のあかしとして歯舞、色丹の2島を引き渡す」と明記しており、全面積の7%の2島引き渡しで決着する可能性が強まる。国後、択捉について、プーチン政権は「大戦の結果ソ連領となった」としており、返還は考えられない。プーチン大統領自身、国後、択捉の帰属協議に応じたことは一度もない。

本コラムは新潮社の会員制国際情報サイト「新潮社フォーサイト」の提供記事です。フォーサイトの会員登録はこちら
 しかも大統領は「2島を引き渡すといっても、主権を移管するのか、レンタルするのか、具体的には何も書かれていない」と公言している。無条件で平和条約を締結した後の交渉は、56年宣言の解釈をめぐって難航しそうだ。大統領は「共同宣言に沿って日本が2島を領有することは、日本の“一本勝ち”だ」と述べたこともある。「引き分け」を唱える大統領の方針からすれば、2島を折半し、日本が得るのは無人島の歯舞諸島だけにとどまりかねない。歯舞なら4島の全面積の2%で、日本側の外交完敗となってしまう。

中韓も棚上げを支持?
 今回のプーチン提案はサプライズ効果があり、普段日露関係には無関心な欧米のメディアも、「プーチン大統領、長く待たれた平和条約を日本に提案」(『ワシントン・ポスト』)、「プーチンが年末までの日露平和条約を希望」(『NBCテレビ』)などと大きく報道した。「日本がプーチンの平和条約提案を拒否」(『ブルームバーグ』)などと、日本に問題があるかのような報道もあった。

◎新潮社フォーサイトの関連記事
・北朝鮮「建国70年」の実相(4・了)金正恩「態度」と「言葉」の意味
・「クリントン図書館」が公開したエリツィン独白「プーチンは狂信主義者」
・米露首脳会談が「不調」に終わったこれだけの理由

 これは、壇上で「平和条約締結」だけを訴え、領土問題解決に触れなかった安倍首相の対応にも問題があろう。首相はプーチン発言を笑顔で聞き、その後も4、5回発言の機会があったのに、北朝鮮問題やシベリア鉄道の輸送問題などに触れただけで、プーチン提案に反論しなかった。菅義偉官房長官が「4島の帰属問題を解決して平和条約を締結する基本方針に変わりはない」と強調したが、首相がその場で日本の立場を説明し、反論すべきだった。

「反論も何もせずに薄ら笑いを浮かべていた。外交上の大きな失態」(国民民主党の玉木雄一郎代表)、「(無条件の平和条約締結は)領土要求を放棄し、国を切り売りすることになる。それを目の前で言われて反論も異論も言わないのは外交的大失態」(共産党の志位和夫委員長)といった野党指導者の批判は的を射ていた。

 パネル・ディスカッションではその後、日露の領土問題が話題になり、司会者から振られた中国の習近平国家主席は「領土をめぐる係争が存在するのは問題だ。解決できないなら、それをうまく管理することが重要だ。歴史の教訓から学んでほしい」と述べた。韓国の李洛淵(イ・ナギョン)首相は「国際的な文書を基に、英知で解決すべきだ。中国のケ小平は『現世代が問題を解決する英知を持たないなら、次の世代に委ねるべきだ』と述べたことがある」と語った。日本と領土問題を抱える中韓首脳はいずれも、ロシアの領土棚上げ論を暗に支持した。

 プーチン大統領が得意とする柔道は、相手の力を利用して逆襲に転じるのが極意だが、今回は大統領が首相の前のめり姿勢を利用して技をかけ、「一本勝ち」を収める形となった。

安倍首相の「外交失敗」
 プーチン提案の直後、イーゴリ・モルグロフ外務次官が日本側に年内の平和条約締結で交渉開始を求めており、提案を事前に用意していた可能性もある。旧ソ連は1970年代、領土問題を棚上げした中間条約の締結を日本に提案したことがあり、領土先送り論は目新しくない。

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・米露首脳会談が「不調」に終わったこれだけの理由

 ロシア科学アカデミー極東研究所のワレリー・キスタノフ日本研究センター長は『独立新聞』(9月12日)で、「センセーショナルに見えても、現実性はあまりない。年内または近い将来の平和条約締結はないだろう。ロシアが4島への日本の主権を認め、次に2島を返還し、国後、択捉はかなり後に返すというのが日本の立場だ。しかし、ロシア政府は4島が合法的にソ連領になったことをまず日本が認め、それから平和条約交渉を行うとの立場だ」とコメントした。

『タス通信』東京支局のワシリー・ゴロブニン支局長はラジオ局『モスクワのこだま』のブログで、「これまで、ロシア外務省は無条件の平和条約締結案を日本側に伝えていなかった」とし、「安倍首相は重大な外交的失敗を喫した。ロシアは島で1センチも譲歩せずに、自らの立場を強化できたからだ」と書いた。モスクワ国際関係大学のドミトリー・ストレリツォフ教授は「思いがけない発言だったが、平和条約問題は日露政治対話の中心であり、ロシアもある程度イニシアチブを取って、日本に熱意を示す意味での発言だったかもしれない」と好意的に評価した。

 日本側も「両国関係を発展、加速したいという強い気持ちの表れだろう」(菅官房長官)、「なるべく早く平和条約を締結したいという思いがよく分かった」(河野太郎外相)と前向きに受け止めつつある。しかし、4島での共同経済活動がまとまらない中、新たに無条件の平和条約締結案を協議するなら、交渉が複雑化し、混乱するのは確実だ。

プーチン政権が続く限り日本の国内問題に
 日本のメディアでは報じられなかったが、プーチン大統領はパネル・ディスカッションの最後に再度北方領土問題に触れ、「ロシア連邦の地図を見てほしい。巨大な国だ。面積は世界最大であり、ここに問題の島々がある。そこには道徳的、政治的な性格と特徴があり、わが国にとって極めて先鋭で敏感な問題だ。従って、その点を考慮して正しく解決に当たらねばならない」と述べ、4島の問題は政治的、心理的問題であることを強調した。一方で、「われわれは中国との40年来の領土問題を、相互に受け入れ可能な妥協案によって解決した」とも強調した。

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 中露の国境問題は2004年、係争中の3つの川中島を面積折半にするとの妥協案で解決したが、これは技術的な領土問題であり、第2次世界大戦の結果が絡む北方領土問題とは異なるとの認識である。広大な面積のロシアにとって、4島が技術的問題なら面積折半でも惜しくないが、膨大な犠牲を出した大戦の「戦利品」である以上、譲れないという発想だ。同じく大戦の結果が絡むバルト3国との領土問題でもロシアは一切譲歩しなかった。プーチン大統領自ら高揚させた戦勝意識と愛国主義が譲歩を妨げる構図だ。

 こう見てくると、プーチン政権が続く限り、ロシア側が最大限譲歩しても2島止まりであり、国後、択捉の返還はもはや考えられない。北方領土問題は次第に、2島(または1島)で我慢するか、それとも4島を目指してプーチン後へ長期戦を覚悟するか、憂鬱な国内問題になりそうだ。


名越健郎
1953年岡山県生れ。東京外国語大学ロシア語科卒業。時事通信社に入社、外信部、バンコク支局、モスクワ支局、ワシントン支局、外信部長を歴任。2011年、同社退社。現在、拓殖大学海外事情研究所教授。国際教養大学東アジア調査研究センター特任教授。著書に『クレムリン秘密文書は語る―闇の日ソ関係史』(中公新書)、『独裁者たちへ!!―ひと口レジスタンス459』(講談社)、『ジョークで読む国際政治』(新潮新書)、『独裁者プーチン』(文春新書)など。

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http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54136


 

中ロの急接近が脅威に、米国が本格的に対策を検討
米国を敵視し、軍事面、経済面で連帯を強化する中国とロシア
2018.9.19(水) 古森 義久
ロシア「史上最大」の軍事演習、中国・モンゴル軍とパレード
ロシア東部シベリア地方のチュゴル軍事演習場で行われた軍事演習「ボストーク2018」で開かれたロシア・中国・モンゴル軍による軍事パレード(2018年9月13日撮影)。(c)MLADEN ANTONOV / AFP〔AFPBB News〕

 9月中旬、中国とロシアがこれまででは最大規模の合同軍事演習を実行した。この演習が象徴する中ロ両国の軍事的な連帯強化は、米国に対抗する意図が明確だといえる。

 では、米国は中国とロシアの連帯強化にどう対応すべきなのか。米国でこの課題を究明した大規模な官民合同の研究結果が公表された。この研究はその総括において、米国がこれまでどおり米国主導の国際秩序を守るため軍事、経済、政治などでの力をさらに強め、中ロ両国に対決していくことをトランプ政権に提案していた。

連邦議会で強まる中ロ連帯への懸念
 中国とロシアがここ数年、米国を共通の競合相手とみて連帯を強めてきたことは、米側でも重大な懸念の対象と受け止められてきた。その懸念はオバマ前政権から存在したが、ここに来て連邦議会の超党派議員多数の間で特に懸念が強まり、トランプ政権の確固した対応を求めるようになった。

 懸念の対象は主に中国とロシアが最近、軍事面での協力を強めてきたことである。トランプ政権も昨年(2017年)12月に公表した「国家安全保障戦略」のなかで、両国を「米国の利益や価値観を崩そうとする修正主義勢力で戦略上の競合相手」と定義づけた。

 こうした背景の中、米国のアジア研究の学者や研究所多数から成る民間研究組織「全米アジア研究部会(NBR)」は9月中旬、「中国・ロシア関係=その戦略的意味と米国の政策選択肢」と題する報告書を公表した。

 この調査研究はトランプ政権誕生直前の2016年12月に開始され、米国の民間の学者、研究者80人ほどに、中国やロシアなどの専門家約30人を加えたスタッフによって行われた。米国政府の国家安全保障会議、国防総省、国防総省などの関係部門の代表たちも多数、非公式な形でこの研究に加わった。米国でこれまで行われた中ロ連帯問題についての官民合同の研究としては最大規模といえる。

なぜいま連帯を強めているのか
 同報告書の総括は、プロジェクトの中核となっていたジョージ・ワシントン大学教授のロバート・サター氏が執筆した。その骨子を紹介しよう。

 まず注目されるのは、全体の傾向として今後も中ロの連帯は強まり、米国の国家安全保障や対外戦略全体への大きな脅威やチャレンジになっていくという懸念を表明している点である。報告書の総括には次のように記されていた。

・習近平政権、プーチン政権ともに今後少なくとも5年は連帯をさらに強めていく意図が明白である。習主席の任期が無期限になったことがプーチン政権の独裁傾向とさらに合致するようになり、米国に共同で抵抗する動機を強めた。

 そのうえで同報告書は、中国とロシアがなぜいま連帯を強めているのか、その基本的な理由として以下の要因を指摘していた。

・中国とロシアの対外戦略と価値観の共通性
(米国主導の民主主義に反対し、南シナ海やクリミアでの軍事膨張行動を進めることがその実例)

・共に民主主義陣営から非難されている状況
(中ロ両国が米国主導の民主主義陣営から「侵略」や「弾圧」を非難されることを共通の弱みのように受け取っている)

・「米国の衰退」という共通認識
(米国が主体となる民主主義陣営の力が米国自体も含めて衰退してきたとする認識)

経済面でも連帯を強化
 さらに同報告書は、中ロ両国を接近や連帯へと動かしてきた具体的な動因として以下の諸点を挙げていた。

・中ロ両国はともに米国のグローバルな影響力に対抗し、国際秩序の改変を意図している。両国は南シナ海、クリミアなど、ともに自国に近い地域で米国の主導権に反発するようになった。

・中ロ両国はともに米国主導の民主主義と人権尊重の動きに反発する。両政権は米国側から民主主義や人権の弾圧に関して非難を受け、ともに弱みと反撃の必要を感じている。

・米国の軍事力と軍事態勢への反発が中ロ両国の連帯をもたらした。特に中ロがそれぞれ自国の安全保障にとって極めて重要とみなす地域で米側がミサイル防衛や長距離ミサイル、軍事偵察の能力を増強していることを、自国への脅威と感じている。

・中ロ両国はともに「反米」と呼べる米国へのネガティブな認識を抱き、その認識が自国への自己認識と重複している。米国とその同盟諸国の意図への強い不信と反発が共通する。

・中ロ両国は、貿易や投資の面でも連帯することによる利益が増えてきた。ロシアはクリミア侵略への米国や西欧の経済制裁の結果、貿易面で中国への依存を増してきた。中国もエネルギー資源の調達先としてのロシアの重要性を高めてきた。

 報告書は以上のような諸点を挙げ、中ロ両国の連帯が米国とその同盟諸国にもたらす影響はきわめてネガティブであり、その結果、米側にとっての国際情勢展望は暗い、とも述べていた。

正規の軍事同盟を結ぶ可能性は低い
 しかし、報告書は以下のようにも記し、中ロ連帯には抑制の要因や限界もあることを指摘する。なかでも、中ロ両国はいくら軍事協力を進めても公式の同盟パートナーにはならないという見通しは重要だろう。

・中ロ両国の経済力の差が軍事や政治での連帯を抑える可能性がある。ロシアの経済力は中国よりもはるかに劣り、対中経済依存を高めている。モンゴルや中央アジアではロシアは経済覇権を中国に譲った。この不均衡がプーチン大統領のロシア復活の野望とぶつかる見通しもある。だから、中ロ両国が正規の軍事同盟を結ぶ可能性はきわめて低い。

・ロシアの軍事面での立場も変化してきた。ロシアの軍事力は中国よりずっと強力で優位な立場から援助する構図だったが、それが変わってきた。ロシアの国家資産は核戦力、軍事技術、秘密作戦能力、諜報能力などに限られ、国際的なソフトパワーは皆無といえる。その軍事優位も最近は中国に追いつかれ、指導的な立場が崩れてきた。

・中ロ両国の間には相互不信や敵対の長い歴史がある。民族性の差異にまでさかのぼる闘争の歴史は完全に消えることはないという見方がなお存在する。米国への対処でも、中ロ両国は自国の利益のために相手を利用し、欺くという言動を最近まで続けてきた。せいぜい10年ほどにしかならない最近の米国に対する足並みの一致が果たしてどれほど堅牢なのか疑問である。

・米国側の中国とロシアへの政策は異なる場合がある。トランプ政権はプーチン政権との融和を模索しながら、習政権に対しては強硬な態度を崩さないというような「使いわけ」政策をとることも珍しくない。この米側による差別が中ロ連帯を阻む可能性がある。

・中ロ両国の日本や西欧などに対する姿勢はときに大きく異なる。米国のアジアでの主要同盟相手である日本への態度は、中国よりもロシアの方が友好的である。西欧諸国や中東、さらにはアジアでのベトナム、インドなど重要な相手への政策をみても、両国には違いが目立つ。この差異が中ロ連帯のさらなる進展を難しくしうる。

米国がとるべき政策は?
 同報告書は以上のように中ロ連帯に多角的な光をあてながら、米国のトランプ政権がどのような政策で臨むべきかを記していた。この大規模な調査研究に加わった専門家たちの間では、米国のとるべき政策として大きく分けて以下の4つが挙げられたという。

(1)中ロ両国がこのまま連帯を続けることを想定し、米国は軍事、経済、外交の各面で国内外の力を着実に強化し、両国に正面から対決し、抑止する。

(2)中国との関係を改善して対決要素を薄める。ロシアに対してはさらに強硬な措置をとり、中ロの離反を図る。

(3)米国への長期の最大脅威は中国とみなして強固な抑止策をとり、ロシアに対しては融和政策を導入して、中ロの離反を図る。

(4)米国は長年の国際的な覇権や主導権を後退させ、中国とロシアという新興の大国の国際的役割拡大を受け入れる形で協調を図る。

 以上のような政策選択のなかで、この調査研究に参加した米国側の専門家たちの圧倒的多数が、(1)の対決と抑止の政策への賛同を表明したという。その結果、同報告書は米国政府や議会に対して、実質的に強固な政策を勧告していると言えるのである。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54140

 


ウラジオ柔道外交はプーチン大統領の「一本勝ち」
北方領土は「我慢する」か「長期戦を覚悟する」かの問題に
2018.9.20(木) 新潮社フォーサイト
新潮社の会員制国際情報サイト「新潮社フォーサイト」から選りすぐりの記事をお届けします。
プーチン大統領、日ロ平和条約締結を提案 年末までに「前提条件なし」で
ロシア東部ウラジオストクで開催中の「東方経済フォーラム」に臨む、同国のウラジーミル・プーチン大統領(中央)、中国の習近平国家主席(右)、安倍晋三首相(2018年9月12日撮影)。(c)AFP/Kirill KUDRYAVTSEV〔AFPBB News〕

(文:名越健郎)

 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が9月12日にウラジオストクで、「(領土などの)前提条件なしで日露平和条約を年内に締結しよう」と突然提案したことは、日本側に困惑を招いた。前々日の日露首脳会談でそのような発言はなく、唐突かつ意表を突く発言だったからだ。

 難航する北方領土問題の棚上げを意図したことは明らかだが、日本側が拒否すれば、ロシアが反発し、交渉はさらに難航しよう。プーチン大統領と22回の会談を重ねた安倍晋三首相の対露外交が、曲がり角に直面していることを示した。

「1島返還」の恐れも
 プーチン発言は、日中露韓とモンゴル首脳が登壇した東方経済フォーラムのパネル・ディスカッションで飛び出したが、引き金は安倍発言だった。首相は「プーチン大統領と今後も会談を重ねていきたい。聴衆の皆さんにも、平和条約締結に向けたわれわれの歩みを、支持してもらいたい」と拍手を催促すると、大統領は「シンゾーは『アプローチを変えよう』と言ったが、是非そうしたい。たった今思いついたアイデアだが、平和条約を今とは言わないが、年末までに無条件に結ぼう。その後ならば、平和条約を基礎に、すべての係争問題の解決ができるはずだ」と提案すると、安倍首相を上回る拍手が起きた。

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 4島の帰属問題を解決して平和条約を結ぶ――が国是の日本にとって、プーチン提案は到底受け入れられない。最大の問題は、平和条約を締結すれば、国際法上、戦後処理の完了を意味することだ。火事場泥棒のような終戦直後の旧ソ連による「4島不法占拠」が一瞬にして「合法支配」と化すことになる。

 1956年の日ソ共同宣言は、「平和条約締結後に、善意のあかしとして歯舞、色丹の2島を引き渡す」と明記しており、全面積の7%の2島引き渡しで決着する可能性が強まる。国後、択捉について、プーチン政権は「大戦の結果ソ連領となった」としており、返還は考えられない。プーチン大統領自身、国後、択捉の帰属協議に応じたことは一度もない。

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 しかも大統領は「2島を引き渡すといっても、主権を移管するのか、レンタルするのか、具体的には何も書かれていない」と公言している。無条件で平和条約を締結した後の交渉は、56年宣言の解釈をめぐって難航しそうだ。大統領は「共同宣言に沿って日本が2島を領有することは、日本の“一本勝ち”だ」と述べたこともある。「引き分け」を唱える大統領の方針からすれば、2島を折半し、日本が得るのは無人島の歯舞諸島だけにとどまりかねない。歯舞なら4島の全面積の2%で、日本側の外交完敗となってしまう。

中韓も棚上げを支持?
 今回のプーチン提案はサプライズ効果があり、普段日露関係には無関心な欧米のメディアも、「プーチン大統領、長く待たれた平和条約を日本に提案」(『ワシントン・ポスト』)、「プーチンが年末までの日露平和条約を希望」(『NBCテレビ』)などと大きく報道した。「日本がプーチンの平和条約提案を拒否」(『ブルームバーグ』)などと、日本に問題があるかのような報道もあった。

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 これは、壇上で「平和条約締結」だけを訴え、領土問題解決に触れなかった安倍首相の対応にも問題があろう。首相はプーチン発言を笑顔で聞き、その後も4、5回発言の機会があったのに、北朝鮮問題やシベリア鉄道の輸送問題などに触れただけで、プーチン提案に反論しなかった。菅義偉官房長官が「4島の帰属問題を解決して平和条約を締結する基本方針に変わりはない」と強調したが、首相がその場で日本の立場を説明し、反論すべきだった。

「反論も何もせずに薄ら笑いを浮かべていた。外交上の大きな失態」(国民民主党の玉木雄一郎代表)、「(無条件の平和条約締結は)領土要求を放棄し、国を切り売りすることになる。それを目の前で言われて反論も異論も言わないのは外交的大失態」(共産党の志位和夫委員長)といった野党指導者の批判は的を射ていた。

 パネル・ディスカッションではその後、日露の領土問題が話題になり、司会者から振られた中国の習近平国家主席は「領土をめぐる係争が存在するのは問題だ。解決できないなら、それをうまく管理することが重要だ。歴史の教訓から学んでほしい」と述べた。韓国の李洛淵(イ・ナギョン)首相は「国際的な文書を基に、英知で解決すべきだ。中国のケ小平は『現世代が問題を解決する英知を持たないなら、次の世代に委ねるべきだ』と述べたことがある」と語った。日本と領土問題を抱える中韓首脳はいずれも、ロシアの領土棚上げ論を暗に支持した。

 プーチン大統領が得意とする柔道は、相手の力を利用して逆襲に転じるのが極意だが、今回は大統領が首相の前のめり姿勢を利用して技をかけ、「一本勝ち」を収める形となった。

安倍首相の「外交失敗」
 プーチン提案の直後、イーゴリ・モルグロフ外務次官が日本側に年内の平和条約締結で交渉開始を求めており、提案を事前に用意していた可能性もある。旧ソ連は1970年代、領土問題を棚上げした中間条約の締結を日本に提案したことがあり、領土先送り論は目新しくない。

◎新潮社フォーサイトの関連記事
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 ロシア科学アカデミー極東研究所のワレリー・キスタノフ日本研究センター長は『独立新聞』(9月12日)で、「センセーショナルに見えても、現実性はあまりない。年内または近い将来の平和条約締結はないだろう。ロシアが4島への日本の主権を認め、次に2島を返還し、国後、択捉はかなり後に返すというのが日本の立場だ。しかし、ロシア政府は4島が合法的にソ連領になったことをまず日本が認め、それから平和条約交渉を行うとの立場だ」とコメントした。

『タス通信』東京支局のワシリー・ゴロブニン支局長はラジオ局『モスクワのこだま』のブログで、「これまで、ロシア外務省は無条件の平和条約締結案を日本側に伝えていなかった」とし、「安倍首相は重大な外交的失敗を喫した。ロシアは島で1センチも譲歩せずに、自らの立場を強化できたからだ」と書いた。モスクワ国際関係大学のドミトリー・ストレリツォフ教授は「思いがけない発言だったが、平和条約問題は日露政治対話の中心であり、ロシアもある程度イニシアチブを取って、日本に熱意を示す意味での発言だったかもしれない」と好意的に評価した。

 日本側も「両国関係を発展、加速したいという強い気持ちの表れだろう」(菅官房長官)、「なるべく早く平和条約を締結したいという思いがよく分かった」(河野太郎外相)と前向きに受け止めつつある。しかし、4島での共同経済活動がまとまらない中、新たに無条件の平和条約締結案を協議するなら、交渉が複雑化し、混乱するのは確実だ。

プーチン政権が続く限り日本の国内問題に
 日本のメディアでは報じられなかったが、プーチン大統領はパネル・ディスカッションの最後に再度北方領土問題に触れ、「ロシア連邦の地図を見てほしい。巨大な国だ。面積は世界最大であり、ここに問題の島々がある。そこには道徳的、政治的な性格と特徴があり、わが国にとって極めて先鋭で敏感な問題だ。従って、その点を考慮して正しく解決に当たらねばならない」と述べ、4島の問題は政治的、心理的問題であることを強調した。一方で、「われわれは中国との40年来の領土問題を、相互に受け入れ可能な妥協案によって解決した」とも強調した。

◎新潮社フォーサイトの関連記事
・北朝鮮「建国70年」の実相(4・了)金正恩「態度」と「言葉」の意味
・「クリントン図書館」が公開したエリツィン独白「プーチンは狂信主義者」
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 中露の国境問題は2004年、係争中の3つの川中島を面積折半にするとの妥協案で解決したが、これは技術的な領土問題であり、第2次世界大戦の結果が絡む北方領土問題とは異なるとの認識である。広大な面積のロシアにとって、4島が技術的問題なら面積折半でも惜しくないが、膨大な犠牲を出した大戦の「戦利品」である以上、譲れないという発想だ。同じく大戦の結果が絡むバルト3国との領土問題でもロシアは一切譲歩しなかった。プーチン大統領自ら高揚させた戦勝意識と愛国主義が譲歩を妨げる構図だ。

 こう見てくると、プーチン政権が続く限り、ロシア側が最大限譲歩しても2島止まりであり、国後、択捉の返還はもはや考えられない。北方領土問題は次第に、2島(または1島)で我慢するか、それとも4島を目指してプーチン後へ長期戦を覚悟するか、憂鬱な国内問題になりそうだ。


名越健郎
1953年岡山県生れ。東京外国語大学ロシア語科卒業。時事通信社に入社、外信部、バンコク支局、モスクワ支局、ワシントン支局、外信部長を歴任。2011年、同社退社。現在、拓殖大学海外事情研究所教授。国際教養大学東アジア調査研究センター特任教授。著書に『クレムリン秘密文書は語る―闇の日ソ関係史』(中公新書)、『独裁者たちへ!!―ひと口レジスタンス459』(講談社)、『ジョークで読む国際政治』(新潮新書)、『独裁者プーチン』(文春新書)など。

◎新潮社フォーサイトの関連記事
・北朝鮮「建国70年」の実相(4・了)金正恩「態度」と「言葉」の意味
・「クリントン図書館」が公開したエリツィン独白「プーチンは狂信主義者」
・米露首脳会談が「不調」に終わったこれだけの理由
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54136


 

3. 2018年9月21日 01:52:37 : Eey18V1Rbk : uud7@Kzd7eo[20] 報告
反中宣伝でメシを食う人が何か書いている。
4. 2018年9月24日 09:01:35 : Eey18V1Rbk : uud7@Kzd7eo[82] 報告
>>2

今やゴミ出版社であることがばれた新潮社の記事、加えて書いているのは産経のウヨ札付き爺さん 小森義久。

中身は対立を煽りアメリカの戦争屋を応援する内容であることは簡単にわかる。

5. 2018年9月26日 02:16:46 : FowVxq9peM : DXBOTi4xAAE[142] 報告
プーチン・ロシアはアメリカに変わり覇権国家になるだろう。

安倍は、腰砕け、、、

アメリカに対しても腰砕け、、、

安倍は、存在自体が国難である。存在価値がない。まだわからんか!

嘘つき野郎とかかわる時間は、日本にはない。

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