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「駅から徒歩20分」築35年、老朽アパート“自主管理”事始め『にわか大家はつらいよ。限界アパート物語』第1回 
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投稿者 うまき 日時 2019 年 4 月 15 日 13:28:08: ufjzQf6660gRM gqSC3IKr
 

WEDGE REPORT

「駅から徒歩20分」築35年、老朽アパート“自主管理”事始め『にわか大家はつらいよ。限界アパート物語』第1回
2019/04/14

高野凌 (定年バックパッカー)

突然の退去通知
 人生には何の予兆もなく厄災がやってくる。数年前、インドを放浪していた春のある日。ゲストハウスで目を覚ますと、滅多に連絡がない長兄から携帯に着信メールがあった。咄嗟に悪い予感。

 メールと開くと、

実家のアパートのコーポ○○の借主S氏が数か月後に退去するので敷金30万円を至急返却するよう不動産屋から連絡あり。至急帰国乞う

 長兄は引退した公務員であるが世事に疎く、お金がらみの話になると頼りにならない。

兄上殿。敷金は借主が退去した後、修繕費用などを差し引いて清算するべきもの。不動産屋の即時返金請求は一旦断り、小生が帰国後に借主と直談判すると返答乞う

 と返信。


(TkKurikawa/Gettyimages)
コーポ○○とは?
 コーポ○○は名前だけは洒落ているが、亡父が35年前に建てた小さな老朽木造アパートである。地元の不動産屋に管理を任せており、父の死後二十数年間は老母が大家となっていた。それまで私はコーポ○○には全く関与していなかった。

 このアパートは実家や私の住居から遠く、車で小一時間もかかる。それゆえ家族の誰も過去25年以上コーポ○○の現況は見ていない。“不在大家”である。

老母からは「不動産屋さんがキチンと管理してくれているので、今まで何の問題もなく毎月家賃が振り込まれている」と聞いていた。

 コーポ○○の家賃収入で老母の老人ホームの入居費用をまかなっているので、私は“大家代行”としてコーポ○○を運営してゆかざるを得ないと覚悟を決めた。

不動産屋も老母もボケている
 インドから帰国後直ちに菓子折りを携えて不動産屋を訪問。出て来た親爺は御年90歳。話しぶりは元気であるが、実務的会話はまるで噛み合わない。

 「敷金の金額を確認するために賃貸借契約書の写しを見せてもらえますか」と切り出すと、「昔のアパートだから契約書なんて大仰なものはないですよ」とにべもない。

 退去後に居室を原状回復する費用を相殺して敷金を清算するのが常識ではないかと指摘すると、「借主さんが敷金30万円を返還するよう要求しているんですから、穏便に返済しないと警察沙汰になりますよ」と訳の分からないことを饒舌にしゃべる。

 老母は認知症の初期であるが、不動産屋の親爺は完全に痴呆症であった。不動産屋は営業している様子がなく休業状態であった。

 今後は私が“自主管理”(不動産屋を介さず大家が直接管理する業界用語)する旨を親爺に通告して、その足でコーポ○○に向かった。

コーポ○○は実年齢よりも見栄えがいい
 コーポ○○は築35年とは思えない概観でペンキも剥げていなかった。周囲は静かな住宅街で、なによりも陽当たりが良い。商店街にも徒歩数分だ。

 S氏は出勤して不在であったが、隣室のKさんが在宅していた。Kさんは御年75歳のお元気婆さん。Kさんは既に20年もコーポ○○に住んでいる。おしゃべり好きなKさんは隣近所の住民の動静に詳しく、初対面の私にコーポ○○の不動産価値を判断するための貴重な近隣情報を聞かせてくれた。

未払いの契約更新料で敷金は相殺できる!
 翌日老人ホームに老母を尋ねて賃貸借契約書の所在を聞いたが「そんなものは見たことがないよ。不動産屋さんの言うとおりにすればいいんだよ」と予想通りのトンチンカンな反応。

 その足で留守宅となっている実家に行き、半日家探しのすえ押入れから古文書のような賃貸借契約書の束を発見。S氏の賃貸借契約は最後の契約書が8年前に締結されている。その後は不動産屋が更新手続きを怠ったらしく契約書がない。

 賃貸借契約は2年契約であり2年毎に契約更新する規定となっている。契約更新時に家賃1ヵ月分を契約更新料として大家に支払うと原契約に明記されている。

 家賃は1カ月10万円であるから、三回分の契約更新料は累計30万円となる。預かっている敷金と同額だ。民法上では債権債務の時効も成立していないこともネットで確認した。

頼りになる金融機関の口座記録
 数日後。家賃、契約更新料の振込先である老母名義の口座のある銀行の支店長氏に長々と事情説明して半ば強引に過去18年分の入出金記録の分厚いコピーを出してもらった。

 案の定、契約更新料に関しては過去三回分の入金記録がなかった。さらに家賃の入金記録を眺めていたら振込日が遅れているケースが散見された。念のために数えてみると15年間の入居期間中の家賃入金総額が10万円不足していた。

 家賃と契約更新料の合計40万円が未払いとなっており敷金30万円と相殺しても更に10万円大家に請求権があることが判明。

 契約書に記載されていたS氏の携帯電話に電話したところ、転勤のため早々に引っ越すとのこと。勤務先は大手企業でありS氏は技術者であった。電話での応対も的確であり信用できる交渉相手と直感した。

 未払い金には触れずに、「原状回復費用が確定したら敷金から差し引いて清算しますのでメルアドを教えてください」と丁重に依頼した。

アパート管理は手間暇かければコスト削減できる
 S氏は梅雨明け前にコーポ○○から退去した。さっそく居室を現況確認。契約上の規定と照らし合わせて、S氏に負担してもらう原状回復費用は以下の通りとした:

室内クリーニング費用
畳の表替え費用
鍵の交換
ひびの入った窓ガラスの交換
 現況確認後に商店街に出て畳屋、鍵屋、ガラス屋を探したが、現代日本を象徴するように半分シャッター商店街と化していた。隣町まで走り回って畳屋、鍵屋、ガラス屋から数軒づつ見積もりを取りベストと判断した業者に発注。

 室内クリーニングはネットで数社から見積もりを取って、さらに面接したところ隣町の業者が価格・サービス・人柄ともにベストであった。この業界では見積もりの値幅が滅茶苦茶大きく不動産管理会社に任せれば20万円は下らないようだ。ちなみに選定した業者は5万円でピカピカにしてくれた。

 自分で直接業者に発注した結果、原状回復費用は上記@〜C合計が9万円以内で収まった。不動産管理会社に任せればおそらく35万円以上になったであろう。

理詰めの交渉で円満解決
 S氏が技術系の真面目な勤め人であることから、敷金精算問題は数字とロジックを整理して丁寧に説明して理解を得てゆく必要があると考えた。

 ビジネスレターを作成する要領で、契約更新料30万円と家賃一ヵ月分10万円が未払いとなっていることを説明。次に原状回復費用項目が@〜Cあることを説明。最安値の見積もり合計が9万円弱であることを通知して了承を求めた。以上をメールで送付。

 数日後S氏よりの回答を受信:家賃10万円の未払いは認める。契約更新料は不動産屋及び大家から催告がなかったので貸主側にも手続き上の瑕疵があるので、30万円全額請求は過大。原状回復費用9万円は相場価格から判断して妥当と認める。

 熟慮の末、以下趣旨でS氏へ返信:契約更新料については判例上催告の有無に関わらず債権債務は存在する。しかしS氏が長年誠実な借主であったことを多として請求額を減額することを検討したい。

 数日後S氏に電話して契約更新料を20万円に減額して未払い家賃10万円と敷金30万円を相殺することで合意。そして原状回復費用9万円だけを清算することを確認。

 こうして敷金精算問題は一見落着。インドから帰国して2カ月が経過していた。しかし、これは老朽アパート大家業に降りかかるトラブルの序章に過ぎなかった。

⇒第2回に続く
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/15911  

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