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EU離脱、一触即発の危険を捨てきれない北アイルランド(ニューズウィーク)
http://www.asyura2.com/19/kokusai25/msg/355.html
投稿者 赤かぶ 日時 2019 年 1 月 30 日 03:53:55: igsppGRN/E9PQ kNSCqYLU
 

EU離脱、一触即発の危険を捨てきれない北アイルランド

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/01/post-11610.php
2019年1月29日(火)20時00分 小林恭子(在英ジャーナリスト) ニューズウィーク


1月19日、北アイルランドで起きた自動車爆弾によるとみられる爆発。対英テロを行ってきたアイルランド共和軍(IRA)の犯行とみられている Clodagh Kilcoyne-REUTERS


<ブレグジット問題が危機的にこじれる原因の北アイルランド問題の核心がよくわかる>

英国が欧州連合(EU)から離脱するブレグジットまであと約2か月となったが、今月15日、EU側とメイ政権がすでに合意済みの離脱協定案が議会で否決された後、離脱自体が中止となる可能性も取り沙汰されるほどの迷走状態となっている。

議会の支持を取り付けるために大きな障害となったのが、英領北アイルランドとアイルランド共和国との間に物理的な国境(「ハード・ボーダー」)を置かないための「安全策」(通称「バックストップ」)の取決めだ。

北アイルランドでは、1960年代から英国からの分離独立とアイルランドへの帰属を求めるカトリック系住民と英国への帰属継続を求めるプロテスタント系住民との対立が激化し、互いの民兵組織によるテロや武力抗争が始まった。これは「ザ・トラブルズ」(北アイルランド紛争)と呼ばれ、3000人以上が命を落とした。

1998年、北アイルランドの帰属を住民の意思に委ねる包括和平合意「ベルファスト合意(聖金曜日協定)」が調印され、かつては敵同士だったプロテスタント、カトリックの有権者を代表する政治家がともに自治政府を構成するまでに至った。

民兵組織による攻撃の対象になりがちだった国境検問所は1990年代に次第に機能停止状態となり、現在、北アイルランドとアイルランドの間で国境検査は行われていない。

■苦肉の「バックストップ(安全策)」

ブレグジット後もハード・ボーダーを置かないことを確実なものにするため、EU側と英政府が離脱協定案に入れたのが、先の安全策であった。

離脱協定案によれば、2020年12月までEUと英国は「移行期間」を置く。この間に両者は包括的な通商協定を結ぶ予定で、その際には北アイルランドとアイルランドの間にハードボーダーを置かないようにする。

しかし、もし期間内に合意がなかった場合、移行期間をさらに1年延ばすことができるが、それでも合意ができなかった場合、何としても国境検査をしないようにするために安全策が編み出された。

そのためには、まず英国全体をEUとの一種の関税同盟に入れる。同時に、アイルランドと地続きになる北アイルランドは本来はヒト・モノ・資本・サービスの自由な行き来を可能にする「EUの単一市場」にも一部参加する。北アイルランドは英国のほかの地域より、よりEUとのきずなが強くなる。
 
英国とEU、北アイルランドとアイルランド、全ての境界の関税を撤廃し、物の移動を自由にすることで、将来どのような通商関係を英国とEUが結ぼうとも、ハード・ボーダーができないようにする対策だ。

この安全策の設定から抜け出るには、EUと英国の両方の合意が必要と規定され、適用期限は特定されない。英国のブレグジット支持者や政治家は、「半永久的にEUの関税同盟や単一市場に入り続けることになる」といって、安全策に猛烈に反対した。

北アイルランドが英国本土と同様に扱われることを望むプロテスタント系地方政党「北アイルランド統一党(DUP)」も、「絶対に受け入れられない」と突っぱねた。

かくして、政府の離脱協定案は1月15日、下院で賛成202、反対423票という大差で否決された。
 
■検問所は格好の攻撃対象

アイルランド島は過去何世紀にもわたり英国の支配下にあったが、カトリック教徒が大部分の南部が1922年に自治領となり、37年に英連邦内の自治領として独立し、49年にアイルランド共和国となっている。プロテスタント系が多い北部6州は英国の一部として残ることを選択した。

約500キロにわたるアイルランドとの国境で検問所の機能が復活すると、北アイルランド紛争の再来にもつながるような暴力事件が起きる可能性がある、と言われている。

なぜそうなるのかというと、ベルファスト合意から21年になるが、いまだに北アイルランドは一触即発状態にあるからだ。

筆者の隣人で北アイルランドの主都ベルファスト出身のクリス・ケネディ氏は、「宗派同士の争いには飽き飽きした。だからロンドンに来た」という。今はエンジニアとして働いている。

母と兄が今もベルファストにいるが、「2度と戻りたくない」。

常にカトリックかプロテスタントかを判断され、うっかりと別の宗派の酒場には行けばトラブルに出会う。通りで「ガンをつけた・つけられた」と言っては、すぐに暴力沙汰になり、「普通の生活ができなかった」という。

ケネディ氏が心配しているのは、国境が復活すること。ベルファスト合意でそれぞれの宗派の民兵組織は武器を廃棄したことになっている。しかし、「まだまだ備蓄があったというのが地元では定説」で、「必ずまた暴力事件が頻発するから」だ。

筆者自身、何度も北アイルランドを訪れたことがあるが、最初にベルファストに足を運んだ時の衝撃が忘れられない。ロンドンや英国のほかの主要都市と変わらない繁華街、ビジネス街の賑わいがある一方で、プロテスタント系あるいはカトリック系民兵組織を称賛するようなテーマを描いた壁画があちこちで目に付く。例えば、覆面をかぶり、銃を手に持つ男性の姿が描かれている。

旗が連なる光景もよく目につく。プロテスタント系住民は、英国とのつながりを強調するため、イングランドの旗をいくつもつなぎ、自宅やその近隣を囲む。カトリック系住民のほうは統一を望むアイルランドの旗を同様に飾る。自分たちの陣地をそれぞれ主張している。

小学校から中等教育まで、それぞれの宗派によって進学する学校が異なり、カトリックの家庭で育った子供がプロテスタントの子供と初めて言葉をまともに交わしたのは、大学に入ったときか、就職したときというケースは珍しくない。

カトリックの子供もプロテスタントの子供も一緒に学ぶ「インテグレーテッド・スクール」と呼ばれる学校は、全体の数パーセントにとどまっている。

国境検査を再来させるかもしれないブレグジットは、カトリック系民兵組織からすれば、北アイルランドとアイルランドを分断させる動きだ。抗議や怒りの表明として、誰かが検査所を攻撃することを期待する機運が生まれてしまう。

今月19日、北アイルランド第2の都市ロンドンデリー(カトリック系住民は「デリー」と呼ぶ)の市街地で、自動車爆弾による爆発が発生した。地元の警察は、カトリック系過激派民兵組織「アイルランド共和軍(IRA)」から分離した組織の犯行によるものとみている。

メイ首相やアイルランドのレオ・バラッカー首相、そしてEUさえも「北アイルランドとアイルランドの間の国境検査を復活させない」と誓うのは、本当に暴力再来の可能性があるからだった。


英首相官邸でアイルランドのレオ・バラッカー首相(左)と握手するテリーザ・メイ英首相。2人とも、北アイルランドでの暴力再燃を強く警戒している。EUも同じだ  Flickrより

■自治政府も空中分解

2012年以来、北アイルランド自治政府が崩壊したままであることも暴力の発生を防ぎきれない要素だ。

ベルファスト合意後の北アイルランド自治政府は、プロテスタント、カトリックの有権者を代表する政治家が首相、副首相を担う形で続いてきたが、互いへの不信感が根強く、これまでも数回政権崩壊の危機を経験してきた。

2012年、プロテスタント系政党DUPが主導していた再生エネルギー導入計画が巨額の損失を出し、カトリック系のシン・フェイン党がDUPの党首で自治政府首相のアイリーン・フォスター氏の辞任を求めたが、同氏がこれに応じなかったため副首相だったマーティン・マッギネス氏が辞職。自治政府は空中分解した。

7年後の現在、自治政府はまだ再開しておらず、国境問題の安全策についての決定は中央政府の手にゆだねる状態となっている。

北アイルランド議会ではプロテスタント系の第1党はDUP(全90議席中、28議席)、カトリック系の第一政党がシン・フェイン党(27議席)で、ほんの1議席の差しかない。これにカトリック系の社会民主労働党(SDLP、12議席)、プロテスタント系のアルスター統一党(UUP,10議席)、中立の北アイルランド同盟党(8議席)、緑の党(2議席)、無所属他3議席となる。

下院(定員650)ではDUPは10議席を持つが、シン・フェイン党は7議席。しかし、シン・フェイン党は北アイルランドとアイルランドとの統一を望み、「英国の女王に忠誠は誓えない」という理由から登院していない。

       
       北アイルランド議会への入り口  Flickrより

2016年の国民投票で、北アイルランドの住民の多くが「EU残留」を支持した。一方、DUPは北アイルランドの政党の中で、唯一「離脱」を選択している。残留を選んだ北アイルランド住民の声は下院には届かない。聞こえてくるのは、「北アイルランドを英国本土から切り離すような安全策には絶対反対」というDUPの主張のみだ。

では現在、北アイルランドの住民はブレグジットに対してどのように考えているのだろうか。

■北アイルランドの住民が望む将来とは

EUと英政府が協定案に合意した昨年11月以降、DUPは安全策に反対の意を表明してきたが、「DUPの姿勢は正しかったと思うか?」と、北アイルランドの住民に聞いた世論調査がある。

スコットランド・ストラスクライド大学の教授ジョン・カーティス氏が昨年11月20日〜12月3日に実施された調査の結果として明らかにしたところでは、「正しくない」と答えた人は57%、「正しい」と答えた人は37%となったという(1月21日、ロンドンのセミナーで)。DUPの選択を支持しない人が半分以上となった。

英国への帰属を重視する人々の間では、66%が「正しい」、16%が「正しくない」と答えたのに対し、アイルランドとより強い関係を結ぶことを望む人々の間では、91%が「正しくない」と答えていた。

2年前の国民投票で北アイランドでは残留派が勝利したことも考え合わせると、北アイルランドの住民の間では、「アイルランドとより近い関係を持つこと」に前向きの見方をしている人が少なからずいると言えそうだ。

エコノミストのマック・ウィリアムス氏は、フィナンシャル・タイムズ紙の記事の中で、アイルランド統一の機運が生まれていることを指摘している(昨年11月30日付)。

記事の中に紹介された世論調査によると、ブレグジットによって、アイルランド統一の可能性が高くなったと思うかと聞かれ、英国(北アイルランドを除く)でインタビューされた人の中で30%が「より可能性が高くなった」と答える一方で、ほかの大部分は「変わらない」と答えた(アッシュクロフト卿による世論調査、昨年5月24日から6月5日)。

アイルランドの国民に聞いたところ、「可能性が高くなる」とした人は40%に増え、「変わらない」と答えた人とほぼ同じぐらいとなった。ところが、北アイルランドでは60%近くが「可能性が高くなった」と答えている。

ウィリアムズ氏は、2011年の国勢調査を元にして北アイルランドの宗派別の人口を年齢層によって区分けした。これによると、35歳以上の人口層ではプロテスタント系住民の割合がカトリック系住民の割合を上回ったが、これ以下の若い年齢層ではカトリック系住民の人口の方が多い。

同氏は、カトリック系住民が多数派になったとき、統一に向かう動きが将来出てくるだろうと指摘している。

2年前の国民投票で離脱が決まった時点で、アイルランドと北アイルランドとの間の人や物の行き来をどうするかが大きな課題となったわけだが、何も対処されないままに時が過ぎた。離脱交渉が進展する中で、決定を先送りにし、いつかは解決するだろうと思いながら今日まで来てしまったというわけだ。

北アイルランドの住民以外の英国人の無関心もその要因だろう。カーティス教授によれば、北アイルランドはロンドンの政界やほかの地域に住む人からすれば、遠い存在で「離脱派の明らかな過半数は、北アイルランドの和平が崩れてもブレグジットできるならいいと考えている」という。

メイ首相は29日に代替案を下院に提出する予定だが、この問題を打開できる目処はついていない。

 (在英ジャーナリスト、小林恭子)

[執筆者]
小林恭子(在英ジャーナリスト)
英国、欧州のメディア状況、社会・経済・政治事情を各種媒体に寄稿中。新刊『英国公文書の世界史』(中公新書ラクレ)、『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス(新書)』(共著、洋泉社)











 

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