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ドラッグカルチャー _ 薬物を使用したシャーマニズム
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投稿者 中川隆 日時 2020 年 12 月 08 日 09:09:27: 3bF/xW6Ehzs4I koaQ7Jey
 

(回答先: 強烈な幻覚作用を持つ究極のドラッグ DMT 投稿者 中川隆 日時 2020 年 10 月 20 日 09:38:27)

ドラッグカルチャー _ 薬物を使用したシャーマニズム

厳格すぎる薬物規制、このままでいいの?
文化人類学者と考えるサイケデリックス
2020/12/8 ©株式会社全国新聞ネット
https://this.kiji.is/707161932420907008?c=39546741839462401

医療儀礼で幻覚物質DMT入りの飲料アヤワスカを注ぐ、ペルーの先住民「シピボ族」のシャーマン=2001年(蛭川氏提供)

 幻覚物質ジメチルトリプタミン(DMT)入りのお茶を販売した男性が逮捕された事件(※前編参照)の取材を続けていると、そもそも「麻薬とは何か」という素朴な疑問が浮んだ。メキシコ留学の経験から先住民のドラッグカルチャーに関心があった筆者だが、京都地裁で事件の傍聴を続けている明治大の蛭川立准教授(文化人類学)と知り合い意気投合。世界各地でのフィールドワークを通じて薬物を使用したシャーマニズムに出会い、研究している蛭川氏は「人類の民族文化と密接な幻覚物質(サイケデリックス)を、十把ひとからげに『麻薬』と犯罪視して捉えるべきでない。心的外傷後ストレス障害(PTSD)の改善など医学的価値も高く、厳格すぎる法的規制を見直すべきだ」と訴えた。(共同通信=武田惇志)


【前編】麻薬かお茶か、法廷論争に “究極のドラッグ”DMT、その作用とは https://www.47news.jp/47reporters/5394298.html

 ▽薬物は3系統に分類

 「薬理作用からみて、精神に作用する薬物は大きく分けて3系統に分類されます。気をつけるべきは、国内の合法・非合法の分類とは対応していないことです」

 蛭川氏によると、薬物には大きく分けて(1)カフェイン、ニコチン、コカイン、覚醒剤など脳の働きを活発にする「興奮剤」(2)アルコール、睡眠薬、オピオイド(アヘン、モルヒネ、ヘロインといったケシ系薬物の総称で、医療用鎮痛剤も含まれる)など脳の働きを抑える「抑制剤」の二つのグループがあるという。

リモート取材に応じる蛭川氏
 「最後に、今回問題となったDMTに加え、LSDやMDMA、メスカリン、シロシビン、大麻の一部成分を含む第3のグループがあります。医学的には『幻覚剤』と呼ばれることもありますが、脳の働きを外の世界に向ける興奮剤と異なって、脳の働きを心の内側に向かわせ、無意識下のイメージが展開してくるという意味で、英語では『サイケデリックス(精神展開薬)』と呼ばれます」

 事件の発端となった京都府内の男子学生は昨年7月、アカシア茶の粉末を煮出した茶を飲み、意識がもうろうとなって病院に搬送された。尿検査でDMTが検出され、京都府警などは今年3月、学生の麻薬摂取をほう助した疑いがあるとして、学生にアカシア茶を販売した青井硝子=本名・藤田拓朗=被告(34)を麻薬及び向精神薬取締法違反容疑で逮捕した。

 しかし世界に目を向けると、DMTを含有する茶の代表とも言うべき幻覚性の飲料「アヤワスカ」は、ペルーやコロンビアの先住民が伝統的に使用。また、メスカリンを成分に含むサボテンの「ペヨーテ」は北米やメキシコの先住民が宗教儀礼や治療に用い、シロシビンを含む「マジックマッシュルーム」は中米を支配したアステカ帝国で神聖なキノコとしてあがめられてきた。このように各地の民族文化とサイケデリックスには密接なつながりがあり、幻覚体験で得たイメージは絵画や装飾にも広く用いられている。

ペルーのシピボ族によるサイケデリックな模様の壺=2001年(蛭川氏提供)
 「幻覚というと怖いもののようですが、誰でも毎晩、夢という幻覚を見ています。夢を見ているときも、起きているときと同じぐらい脳は興奮しているのですが、意識は内側に向いています。無意識のイメージが意識に上ってきて、眼前に展開してくるという点では、夢もサイケデリック体験も同じです」

 ▽戦争や労働に利用

 一方、興奮剤や抑制剤にはどんな特徴があるのだろうか。

 「興奮剤は資本主義と相性がいいので、あえて国家が流行させたこともありました。脳を興奮させることで、国民に長時間労働や過酷な戦争を強いることができるわけです」

 いち早く産業革命を迎えて飛躍的な経済成長に取りかかった英国では、カフェインを含む紅茶が労働者にとって不可欠な飲料となった。コカインの原料であるコカの葉はボリビアの鉱山労働者に用いられ、戦前の日本で生まれた覚醒剤(ヒロポン)は軍需工場の労働者や特攻隊に配られた。

ヒロポン密造業者を摘発する警察官=1954年11月、東京・上野の親善マーケット
 「反対に、抑制剤は労働意欲を減退させるため、国家はその広がりを防ぐ必要に迫られました」

 英国が輸出したアヘンによって国内に中毒者があふれた清国は、事態を重く見て全面禁輸を断行、アヘン戦争につながった史実は有名だ。「抑制剤の多くは、服用を停止すると体に変調の生じる強い身体依存性がある上、量を増やさないと効かなくなってくる耐性があります」と蛭川氏は言う。

 事実、アルコールを例に取れば、厚生労働省によると日本国内のアルコール依存症患者は80万人以上、予備軍も含めると約440万人にもなると推定されている。世界保健機関(WHO)によると、2016年に薬物関連で死亡者が最も多かったのがアルコール(約14万5000人)。次いでオピオイド(約12万人)、コカイン(約9500人)、覚醒剤(約7000人)、大麻(0人)だった。

 「日本ではアルコールによる失敗や迷惑行為について『酒の席だから許せ』とする風潮がありますが、実はこれも抑制剤という薬物乱用の一種なんですね」と蛭川氏は苦笑する。

 他方、サイケデリックスは意識を内面世界へ向かわせる点で、戦争や労働とは相性が悪いという。1960年代、大麻やLSDを使用した米国の若者たちがヒッピーとなって会社や学校をドロップアウトし、徴兵を拒否してベトナム反戦運動を繰り広げた。DMTが欧米で広く知られるようになったのは1950年代ごろ。作家のウィリアム・バロウズや詩人のアレン・ギンズバーグらヒッピーのルーツとなるカウンターカルチャーの旗手が「LSDよりさらにすごいものがある」と注目したのが最初だったという。

 ▽精神医療分野で注目

 「実は近年、サイケデリックスは精神医療の分野で注目を浴びています」

 蛭川氏によると、さまざまな依存症の治療やうつ病治療への効果が期待され、欧米や南米を中心に臨床研究が進んでいる。

 DMTを例に挙げると、2013年にはさまざまな医療効果をまとめた「The Therapeutic Use of Ayahuasca(アヤワスカの治療利用)」と題した論文集がドイツのシュプリンガー社から出版されており、米国、英国、カナダ、スペイン、メキシコ、ブラジル、コロンビアなど世界各地の研究者の論文を読むことができる。

 論文によると、「記憶をつかさどる脳の海馬をアヤワスカが活性化させることで、以前トラウマ的な出来事によって破壊された潜在記憶の形成を可能にする」としている。具体的には、PTSD患者がDMTを使用すると、あえてトラウマに直面させる「暴露療法」などと似て、記憶に対する反応の仕方を変える機会を持つのだという。

LSDの錠剤とカプセル=1970年2月
 「米国ではアルコール依存症の薬としてLSDが使われた記録もあります。アルコール依存症はメンタルヘルスの問題の一つですが、サイケデリックスには逃避したい現実を直視させる効果があるのではと言われています。夢で、忘れていた子どものころの出来事が出てくることはよくありますね。サイケデリック体験でも、過去の体験がありありと思い出されてきて、戦争や虐待などのトラウマがある人はとても苦しむそうです。しかし、眠っているときと違って意識は保たれていますし、会話もできますから、そのつらい体験をセラピストに話して、共感を持って聞いてもらうと、それでトラウマが消えてしまうことがあり、これを実用化できないかという研究が進んでいます」

 関係者によると、青井氏逮捕のきっかけとなった、DMTを摂取した大学生も捜査機関の取り調べに対し「飲んで人生観が変わった。前までは自殺したいとばかり考えていたが、今は考えなくなった」と供述している。

 ▽現実逃避や「バッドトリップ」の恐れも

 一方、厚労省は「アカシア茶」同様DMTを含む「ダイミ茶」については、吐き気・気分の悪化、幻覚を含む知覚の障害等の症状があり、海外では過剰摂取による死亡例も報告されているとして、飲用を避けるよう促している。

 大麻に関しては、カナダをはじめとして合法化の流れがあるほか、日本でもがん患者の痛みの緩和など医療用の解禁を望む声もある。同省の担当者は「そういった動きは把握しているが、合法化している国は少数で、それぞれ情勢も違う。海外でいいから日本でも、というわけではない」とくぎを刺す。

 こうした警告について、蛭川氏も一定の理解を寄せる。

ペルーのシピボ族の村でフィールドワークする蛭川氏=2001年(蛭川氏提供)
 「うつ病の治療に使われる抗うつ薬は、セロトニン系の神経を活性化させる作用があり、1カ月ぐらい飲み続けていると、だんだん元気が出てきます。DMTなどのサイケデリックスは、セロトニン系をもっと強力に活性化させるため、数時間で症状が消えてしまうことも多く、なぜそんなに急速に改善するのかメカニズムの研究が進められています」

 「例えば、ほんの数時間で急に宇宙空間に放り出されたような体験をして、それで一気に悩み事から解放されてしまうこともあるのですが、知識のない個人が自己判断で服用すると、逆にパニック状態に陥ってしまうこともあります」

 事実、関係者によると、今回「アカシア茶」を飲んで救急搬送された大学生は「二度と元の世界に戻れないんじゃないか」「僕は死んでいるんじゃないか」と感じて非常な恐怖を覚えたと捜査機関に供述したという。

 さらに厚労省は「(幻覚剤の)効果は薬剤を利用するときの精神状態により左右されます」とも注意喚起している。利用時に不安を感じていたり抑うつ状態にあったりすると、「バッドトリップ」と呼ばれる不安発作に陥る恐れがあるという。また依存性に関しては、幻覚剤には使用を中止した際に離脱症状が起こる「身体的な依存」が確認されていないとした上で、使用量や個人差次第では薬物への欲求が生じる「精神依存」に陥る可能性があるとしている。

 厚労省はまた、長期間繰り返して使用すると薬物をやめた後にも「フラッシュバック」と呼ばれる幻覚の再体験をすることがあるとも警告している。

 ▽時代に逆行

 「アカシア茶」を販売し、麻薬取締法違反で逮捕、起訴された青井氏。DMTを巡る初の逮捕案件とみられ、日本の捜査当局のDMTを許容しない強い姿勢を示すものとなった。しかし約4カ月に渡る勾留の末、青井氏は法廷で無罪を主張し、全面的に検察側と争っている。蛭川氏は今回の摘発に違和感を覚え、公判の経過を見守ってきた。

 「日本はいつまでこんなことを続けるのでしょうか。すでに述べたように、サイケデリックスに利用価値や研究価値があるのは明らかです。このままいたずらに厳格な法規制を続ける限り、研究が進む多くの国から取り残されてしまうのではないでしょうか」

 もちろん、他国でもすんなりと研究が進んできたわけではない。

 スイス人化学者のアルバート・ホフマンが1940年代にLSDの合成に成功してから、50年代にかけてサイケデリックスを精神医療に利用しようとする研究が各国で進んだ。蛭川氏によると、日本でも京都大医学部の加藤清医師や藤縄昭医師らにより、ホフマンから提供されたLSDを使って臨床研究が行われていたという。

米カリフォルニア州ロサンゼルスのエリジアン公園で開かれたヒッピーたちのラブ・イン集会=1968年9月(UPI=共同)
 しかし60年代、米国の心理学者ティモシー・リアリーがハーバード大で学生に対して大々的にLSD投与実験を繰り広げたことがきっかけとなり、内外から批判が沸騰。結果的にリアリーは大学を追われた。西側諸国ではサイケデリックスがカウンターカルチャーと結び付いて流行したことから国際的な規制の機運が高まり、71年にはウィーンで「向精神薬に関する条約」が採択。その後は鎮静剤や覚醒剤だけでなく、LSDやMDMAなどのサイケデリックスも軒並み規制下に置かれることになった。こうした時代の変化から、日本を含む多くの研究者がサイケデリックス研究を断念。日本は同条約を90年に批准し、国内法として「麻薬及び向精神薬取締法」を整備している。

 一方で90年代ごろから米国、ドイツ、スイスなどを中心に少しずつ、サイケデリックス研究を再開する研究者が出始めるようになり、21世紀に入るとうつ病やPTSDに関連した研究や臨床試験が急速に進行。「サイケデリック・ルネサンス」と呼ばれるほどになる。蛭川氏によると、カウンターカルチャーの時代に若者だった人々が成長し、社会的に影響力のある立場に立つようになったことも背景にあるという。

 近年では、イラク戦争でPTSDを発症した元兵士たちが、症状改善に役立ったとしてMDMAなどのサイケデリックスを合法とするよう求める動きも出てきている。2016年には、米食品医薬品局(FDA)がPTSD患者に対するMDMAの大規模な臨床試験を承認。成功すれば、近く医薬品として認められる可能性があるという。

 起訴された青井氏も取材に「アカシア茶は他人に被害を与えず、依存性がないということで、精神の不調に苦しむ利用者が情報交換をしながら少しずつ文化が成長していっている過程だったのですが、その成長が司法によって止められてしまいました。法律ではなく、文化的に規制する方法を考えるべきではないでしょうか」と訴えていた。

保釈翌日、取材に応じる青井硝子氏=7月1日、大阪市内
 蛭川氏も事件に強い危機意識を持つ。「青井氏の起訴は時代に逆行しているように思います。この裁判を機に、サイケデリックスを厳しく取り締まる必要が本当にあるのか、国民にとってのメリットを奪ってやしないか、真剣に考えてほしいのです」

  ×   ×   ×

 蛭川立(ひるかわ・たつ)氏 1967年生まれ。91年に京都大農学部農林生物学科卒業、96年に東京大大学院理学系研究科人類学専攻博士課程単位取得退学後、主にアジア、中南米などでフィールドワークを行う。2004年から明治大情報コミュニケーション学部准教授。大阪市出身。

https://this.kiji.is/707161932420907008?c=39546741839462401  

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