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ケインズは間違っている _ 何故公共事業が長期的には失業を生むか
http://www.asyura2.com/20/reki4/msg/1453.html
投稿者 中川隆 日時 2021 年 1 月 25 日 10:58:24: 3bF/xW6Ehzs4I koaQ7Jey
 

(回答先: ハイエク、フリードマンのマネタリズムの世界 投稿者 中川隆 日時 2020 年 5 月 28 日 08:22:41)

ケインズは間違っている _ 何故公共事業が長期的には失業を生むか


ハイエク: インフレ主義は非科学的迷信
2021年1月24日 GLOBALMACRORESEARCH
https://www.globalmacroresearch.org/jp/archives/11992


前回の記事ではジョン・メイナード・ケインズと論陣を張り合った経済学者のフリードリヒ・フォン・ハイエク氏の主張が現在のコロナ禍における経済にぴったりと当てはまることを紹介した。

・インフレが制御不能になれば政府は価格統制を始める
https://www.globalmacroresearch.org/jp/archives/11964


莫大な量的緩和と現金給付によりアメリカでは既に物価上昇が始まっているからである。

経済学者によるインフレ至上主義

それを遠い昔に諌めていたのがハイエク氏だった。しかし現代の経済学者はインフレを善とし、インフレターゲットなる言葉まで作られた。

繰り返すがインフレとは需要に対して供給が不足していることであり、物が足りないことである。

物が足りないことの何が善なのだろうか? これについて筆者を説得できた経済学者はいまだ存在しないが、インフレは現代の経済学では善とされており、結果としてのインフレではなくインフレ自体をターゲットとした政策が平然と行われている。

何故インフレが政治家や経済学者の間で好まれたのだろうか? それは政治家が支出を好むという事実と関係している。政府が財政出動により人々を失業から救わなければならないというのは現代の経済学ではケインズからの伝統である。

ケインズはその著書のなかで、無意味に穴を掘るだけの事業であっても公共事業として効果がありうると主張している。政治家は自分の票田に金を配ることを主な仕事としているので、ケインズのこうした主張が彼らに受けたことは自然な帰結である。

公共事業は失業を救うか

しかしそれが経済学的に正しいかどうかは別の問題である。ハイエク氏は次のように述べている。

現在の通貨の問題の主な原因は、当然ながらケインズとその弟子が、支出の総額増やせば繁栄と完全雇用を長期的に約束できるという古い迷信に科学的権威を与えたと思い込んでいることにある。

公共事業自体はケインズ以前から存在する古い迷信である。しかしそれが戦後の世界秩序の決定に大きな役割を果たした著名人ケインズによって流布されたことで神格化され、世界中の政府と中央銀行の不文律のようになってしまった。

しかしトランプ政権によるインフラ投資は実際に経済を押し上げたではないか? それは勿論そうである。ハイエク氏は次のように述べる。

通貨の量が増加することによって雇用が急速に増大し、最短経路で完全雇用に達することは勿論否定されていない。

しかし問題はそこではない。それが長期的に見ても本当にプラスに働いているのかということである。ハイエク氏はこう続ける。

インフレが加速を止めたとき、失業は過去の誤った政策の結果として、そして非常に残念ながら避けられない結果として出現する。

そして問題はこの部分が経済学的に理解が難しいということである。


公共事業がいかに失業を生むか

何故公共事業が長期的には失業を生むか。ハイエク氏は次のように説明している。

すべての職種に対して画一的に同じ給与を決めることができないように、総需要を操作してすべての労働に対する需要と供給を均衡させることはできない。

雇用の量は経済の各部門の需要と供給が一致することで決まる。つまりは経済のどの部門にどのような需要があり、どういう賃金が割り振られているかによって決まるということである。

これはやや難解な箇所である。そしてここが難解であるためにインフレ主義は何十年も何百年も生き延びてきたのである。

問題は紙幣印刷や公共事業などのインフレ政策が局所的には多大な不均衡を生むということである。GDPで全体の大きさだけを気にすることが常習化した現代においてはこの重要な点が容易に無視されてしまう。

紙幣印刷は経済のどの部分にどれだけの需要が本当に必要かを考えずに経済全体の貨幣量を増やす。公共事業は政府が恣意的に選んだ受益者にだけ大量の資金を投下する。

どちらの方法でも本当に必要な場所に資金が行くことはない。現代の量的緩和バブルでも株式市場がまず上がって実体経済にはなかなか反映されないのと同じである。結果としてインフレは起こるわけだが、オーストリア出身のハイエク氏は1920年代に起こったインフレにおいて街の様子がどうなったかを描写している。

ウィーンの中心街では多くの有名なカフェが街角の一等地から追い出され、銀行の新しい事務所が取って代わった。

こうした政府による資金投下バブルで一番に利益を得るのはいつも金融業である。金融など一部の分野がバブルで先に得をし、他の業種を追い出してゆく。先進国政府が何年も紙幣を刷り続けた結果、富の不均衡が起こり、アメリカでは暴動に発展している。

しかしインフレになったことで銀行業が飲食店より経済的に重要になったという事実はない。それでも紙幣印刷によって膨張した貨幣量は経済に一様には注ぎ込まれず、一部の業種にバブルを引き起こしてゆく。

しかし例えばハイエク氏の例では不必要に増やされた銀行の職員は長期的には必要ではなくなってゆく。ハイエク氏はそのインフレの時代の顛末をこう語っている。

銀行が事業を縮小するか倒産しなければならなくなり、何千人もの銀行員が失業者の行列を作った時代を過ぎ去るとカフェは戻ってきた。

しかし本来はカフェの従業員は一等地から追い出されて失業する必要はなかったし、大量の新しい銀行員がその後失業者の列となる必要もなかった。これがインフレ政策による長期的失業の増加である。

結論

不均衡は必ず長期的にはネガティブな結果を引き起こす。しかしそれでも主流派の経済学者はいまだに完全雇用とインフレを神のように崇めている。

政府が借金を積み上げて無理に作り出した雇用はリーマンショックやコロナ禍などでインフレが止まった瞬間に、それまでは留保されていた分の失業を大量に吐き出す。それは本来存在しなかったはずの、インフレ政策が故意に生み出した失業なのである。

・新型コロナで借金が実体経済に影響を与える仕組みを分かりやすく説明する
https://www.globalmacroresearch.org/jp/archives/10248


しかし因果関係という概念を理解しない主流派経済学者はそのようなことは気にしない。ハイエク氏は次のように続ける。

完全雇用政策の支柱となっている理論はすべてここ数年の経験によって完全に否定されるに至っている。経済学者はその理論の致命的な知的欠陥を発見したが、それはそもそも以前から分かりきっていた。

しかしこの理論は今後も多くの問題を生むだろう。何故ならば、インフレ理論の他に何も学ばなかった失われた世代の経済学者が残されたからである。

果たしてそのようになった。政治家にとっては状況はより簡単である。票田に資金を注入することをケインズという偶像が肯定してくれるのだから、それほど有難いことはない。

新型コロナによって政治家のそういう傾向は極まったように思える。GO TOトラベルを無事成功させた日本政府はいまだに東京オリンピックを強行しようとしている。

・GO TOトラベルで安全な旅行を楽しむコロナウィルス
https://www.globalmacroresearch.org/jp/archives/11550


Bridgewaterのレイ・ダリオ氏は政府を信用してはならないと警告した。

・世界最大のヘッジファンド: 政府が金融危機から守ってくれると思うな
https://www.globalmacroresearch.org/jp/archives/10473


ハイエク氏はどう言うだろうか。彼はコロナ禍における政府の行動を予想したかのようなコメントを残している。

政府が自分の頭で考えて行動しようとすれば、その被害は増大するように思われる。

大変残念である。
https://www.globalmacroresearch.org/jp/archives/11992


▲△▽▼


インフレが制御不能になれば政府は価格統制を始める
2021年1月22日 GLOBALMACRORESEARCH
https://www.globalmacroresearch.org/jp/archives/11964


これまでの記事で論じてきたとおり、アメリカで物価の高騰が始まっている。
新型コロナ対策として日本やアメリカで政府による未曾有の資金注入が行われた。アベノミクスにおける量的緩和など、これまではどれほど紙幣を印刷してもインフレにはならないように思われていたが、コロナ禍における現金給付でアメリカではついに許容量を超えたようである。物価指数の上がり具合をもう一度引用しておこう。

・コロナ不況でデフレになる日本、インフレになるアメリカ
https://www.globalmacroresearch.org/jp/archives/11939

https://www.globalmacroresearch.org/jp/wp-content/uploads/2021/01/2020-dec-us-consumer-price-index-chart-1.png


新型コロナ不況による先進国政府の未曾有の紙幣印刷に警鐘を鳴らしてきた著名投資家は多いが、特にレイ・ダリオ氏はこの危険性を早くから的確に指摘し続けてきたと言える。

・世界最大のヘッジファンド: 政府が金融危機から守ってくれると思うな (2020/4/29)
https://www.globalmacroresearch.org/jp/archives/10473


ダリオ氏の先見の明にはいつも驚かされるが、ではインフレの後にはどうなるのだろうか。今回はダリオ氏よりも更に先を見据えている別の人物の見解を引用してみたい。

政府は紙幣印刷を止められない

この人物の名はあとで挙げるが、この人物は現在のような不況において紙幣印刷は状況を長期的に悪化させるにもかかわらず、政府が紙幣印刷という手段に頼り続けることは避けられないと主張する。彼はこのように述べている。

あらゆる世代の経済学者は政府が貨幣の量を素早く増加させることによって短期的には政府は失業のような経済的害悪から人々を救済する力を持っていると主張し続けてきた。残念ながらこれは短期的に正しいに過ぎない。

貨幣の量を増やすことは短期的には有効に見えるかもしれないが、長期的にはさらに大きな失業を引き起こす原因となる。これが事実である。しかし短期的に支持を獲得することが出来るならば、長期的な効果を気にかける政治家が果たして存在するだろうか。

今の日本政府や米国政府に対する痛烈な皮肉ではないか。紙幣印刷は不況の直接的な原因である。ここの読者であればそれがどのように不況の原因であるのかはお分かりだろうが、分かりやすく解説した以下の記事をもう一度挙げておこう。

・新型コロナで借金が実体経済に影響を与える仕組みを分かりやすく説明する
https://www.globalmacroresearch.org/jp/archives/10248


コロナでGDPが大幅に下落した原因は過去の紙幣印刷による債務の拡大なのである。それがなければここまでの不況にはならなかった。しかし麻薬中毒者が麻薬を止められないように、すべての政府と短期的な視野しかない有権者は紙幣印刷を選好し続ける。

それはいずれ不可避的な物価高騰に繋がってゆく。インフレは緩やかにしか起こらないので人々は安心して何十年も紙幣を刷り続けるが、起こった時にはもう止めることができない。それがインフレである。

アメリカでは遂にそれが起こりつつあるということである。では止められない物価高騰が起こったとき、政府はそれをどのようにしてお茶を濁すだろうか。彼は次のように説明している。

周知の通り、インフレは経済や市場の秩序が破壊されるまで続く。しかしわたしにはより悪い可能性のほうがありうるように思われる。

政府は物価高騰を止めることができない。しかしこれまでもそうだったように、物価高騰の目に見える効果だけは抑えたいと考える。物価高騰が続き、価格のコントロールが行われるようになり、それは究極的には経済制度全体を管理するところにまでいたる。

インフレが市場と経済を破壊するところまではもうその兆候が観測されている。金融市場で取引される種類の日用品の価格高騰は去年から始まっており、あとはその価格上昇がスーパーに並ぶ品物の価格にまで及ぶのを待つだけである。

・金融市場にインフレの兆し: 金、原油、穀物価格が高騰
https://www.globalmacroresearch.org/jp/archives/11801


経済の混乱は既に始まっている。そして彼は追い詰められた政府が行うのは価格統制だと主張している。正規の店舗に並ぶ品物の価格は見た目上抑えられ、ブラックマーケットでは品物が高値で取引させる世界が来るのである。

それでも正規の店舗では安値で日用品が買えるなら良いのではないか? しかし現実はそう甘くない。誰も安値で売りたがらないので、すべての品物はブラックマーケットに流れて高値で売られ、単に正規の店舗でものが買えなくなるだけである。それが経済である。ダリオ氏も言っていた。

われわれが消費をできるかどうかはわれわれが生産できるかどうかに掛かっているのであり、政府から送られてくる紙幣の量に掛かっているではない。

紙幣は食べられない。

しかし誰も彼の警鐘を聞かなかった。

そして価格統制が上手くいかなくなると、政府は経済全体を管理しようとするだろう。それがこの人物の主張である。

結論

このような世界が来るとコロナ前には誰が予想していただろうか? しかしインフレ率や金融市場などの現実はダリオ氏やこの人物の予想通りに推移している。そして興味深いのはダリオ氏も彼もともに政府のこうした近視的行動が共産主義的な計画経済にいたるリスクを指摘していることである。

・世界最大のヘッジファンド: 共産主義の悪夢が資本主義にのしかかる
https://www.globalmacroresearch.org/jp/archives/10831

コロナ後の経済についてダリオ氏よりも更に先を読むこの人物は誰か? 経済学に明るいここの読者ならば分かる人もいるだろうか。今回の記事で引用した主張を述べた人物はフリードリヒ・フォン・ハイエク(1899-1992)である。19世紀に生まれ、ジョン・メイナード・ケインズと論陣を張り合い、コロナよりもはるか昔に亡くなったオーストリアの経済学者である。

引用した文章も何十年も前に書かれたものだ。しかしその主張はまるで今の経済状況と政府の対応を批評するために誂えたような文章ではないか。

今回の文章は日本語版では彼の『貨幣論集』などに収録されているが、ハイエク氏の著作にはコロナ禍に適用できる更に面白い知見が含まれているので続けて紹介したいと思っている。ダリオ氏の記事も再読しながら楽しみにしてもらいたい。

・世界最大のヘッジファンド: 紙幣印刷で経済成長率は救える
https://www.globalmacroresearch.org/jp/archives/11736

https://www.globalmacroresearch.org/jp/archives/11964  

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コメント
1. 中川隆[-7772] koaQ7Jey 2021年1月25日 23:43:22 : 2ydmNr8Rvw : SDJnQ0RJbmZzTkk=[23] 報告

【ゆっくり解説】経済成長ってなに?【政府支出が増えると経済成長する?】






今、ネットで話題になっているのが「政府支出が増えると経済成長する」というもの。
本当にそうなのでしょうか? 解説しました。
2. 中川隆[-7771] koaQ7Jey 2021年1月25日 23:46:39 : 2ydmNr8Rvw : SDJnQ0RJbmZzTkk=[24] 報告
【ゆっくり解説】ハイエクvsケインズ〜経済学を変えた世紀の対決







経済学に限らずその後の歴史を変えた二人の経済学者の世紀の対決、その後編です。
果たして市場に必要なのは「自由」なのか「介入」なのか?




【ゆっくり解説】ハイエクvsケインズ・完結編〜経済学を変えた世紀の対決〜ケインズの遺したスタグフレーション


3. 中川隆[-6994] koaQ7Jey 2021年3月01日 00:39:26 : 1vS4Oaq6as : UVJJTWxKQ3EwUUU=[39] 報告
ビル・ミッチェル 「主流経済学者は本当に大赤字と国債買入を受け入れたのか?」(2021年2月23日)
https://econ101.jp/%e3%83%93%e3%83%ab%e3%83%bb%e3%83%9f%e3%83%83%e3%83%81%e3%82%a7%e3%83%ab%e3%80%80%e3%80%8c%e4%b8%bb%e6%b5%81%e7%b5%8c%e6%b8%88%e5%ad%a6%e8%80%85%e3%81%af%e6%9c%ac%e5%bd%93%e3%81%ab%e5%a4%a7%e8%b5%a4/

 ジョン・メイナード・ケインズは1930年に「孫のための経済的可能性」という小文を書いた。彼は向こう100年のうちに技術的なシフトが起こり、労働者は週に15時間しか働けなくなるだろうと考えていた。この予言はそうした生産性の向上が起こったという意味では正しかったが、労働者がそこから利益を得るという意味では間違っていた。ケインズは生産性が均等に分配されると考えていたのだ。彼が過小評価したのは資本が利潤から利潤を吸い上げる能力、そして、そのために国家を掌握して立法や規制の力を利用して賃金の伸びを抑制することを確実にする能力だった。 主流経済学者たちは資本の代理人として、不平等の拡大と国家の再構成に手を貸してきた。このことは、財政赤字及び中央銀行の債務購入について、主流派経済学者の見解が明らかに変化してきていることをどう捉えるかに関係してくる。昨日は悪いことばかりだと言ったことを今日は良いことばかりだと言う。意見の変化を評価する際には慎重であれというのは歴史が警告するところだ。一貫性を保つためにはそのまえに言っておかなければならないことがあるはずだ。

ケインズの予想は正しく、正しくなかった
 ケインズは資本主義の根本的な改革を求めてはいなかった。
 同エッセイではこう書いている。

…世界で騒がれている二つの対立する悲観論はどちらも間違っていることは私たち自身の時代のうちに証明されるでしょう。事態は悪すぎるので暴力的な変化以外に私たちを救う道はない考える革命家の悲観論と、私たちの経済的生活と社会的生活のバランスはとても不安定なのだから実験は危険だとする反動主義者の悲観論のことです。

 所得をより均等に分散させたり、職場内のパワーバランスを変えたりするような社会的経済的な変化を止めようとする保守派にも嫌気がさしていたことは見ての通り伝わってくる。

 「欲望に満ちた世界での失業の巨大な異常性」という表現もある。

 このエッセイは100年後の2030年つまり「孫たち」が中年期(または少し年上)になる頃の予測だったとみると彼はこう「予言」していた。

… 100年後の先進国の生活水準は、現在の4倍から8倍になるだろう。
 4〜8倍とはなんとも広い範囲だ。

 この予測は当たっただろうか。

 1930年の英国の1人当たりの実質GDPは5,042ポンドだった。

 そして2014年には26,394ポンドだった(イングランド銀行のデータベースを使用)。

 2017年は、29,670ポンドだった(ONSによる)。

 だからケインズの予測は当たっている – 約5.9倍の増加。

 米国のデータにあてはめても、彼の予測はやはり正しかった。

 1947年の1人当たりの実質国内総生産は14,118ドルだったのが、2019年には58,113ドルであった。

 4.1倍の拡大だったことになる(出典):

 その一方でケインズは同エッセイで「8倍よくなったとしてみよう」と続けている。彼の予測の不正確だった側面はここに現れていると言えるだろう。

 彼はより多くの富を求めて努力し続ける人々が常にいることを受け入れている。ルイス・キャロルの小説シルヴィーとブルーノの教授の話を引用しているのは、そう考えた証拠だ。

 彼はその上で、私たち人類は物質的な欲求を満たした上で「それでもなお残る労働はできるだけ広く共有するようにするため」に週に15時間しか働かないようになるだろうと考えていたのだった。

 テクノロジーによって労働の必要性を減らしつつ労働者にも巨額の富がもたらされることによって豊かさが増大すれば、短時間労働が現実のものになるだろうと。

 重要なのは、ケインズは将来の生産性の上昇を広く予測したが、資本主義を理解していなかったことだ。

 どういうことか?

 現実の生産性の伸びは労働者に均等に分散されていない。

 ケインズがナイーブなのはこの点だった。資本家が所有する職場から労働者を解放しうる生産性の大幅な向上が、現実に社会全体で共有されるだろうと考えたのだ。

 第二次世界大戦後の社会民主主義時代には完全雇用のコンセンサスが共有されていたものだ。

 オーストラリアにおいても毎年、司法賃金設定当局が「生産性」のヒアリングを行っていた。このことを知らない人が多いのにはよく驚かされるのだが、単位時間あたりの生産量が前年比で平均どれだけ増加したかを見積もり、それに基づいて労働者の昇給を決めていた。

 つまり、最低賃金の労働者たちが生産性が低い労働集約的の職場で苦労したとしても、物質的な生活水準の恩恵が回っていた。

 ところがこのシステムは雇用主たちから激しい反対され、その結果、1980年代以降の新自由主義に忠誠を誓う労働党政府によって放棄されることになった。

 それ以降資本は、労働者を犠牲にすることで実質賃金の伸びと生産性の間のギャップを拡大させ続け利益シェアは約10ポイント増加した。

 労働者は、新自由主義政府によって規制が緩和された金融市場からの借り入れを増やさなければ消費水準を維持できないことになった。実質賃金の伸びが鈍化し家計の負債が増加したことで、労働者層の多くは生活を維持するために労働時間を短縮するどころか、より多くの労働時間を捻出しなければならなくなった。

 アイデンティティを研究している人たちは女性の解放と労働市場への参入を称賛するが、その傾向には暗い面があり、賃金が抑制される環境の中で生きるためには共働きせざるを得なくなるという圧力が働いていたわけだ。

 毎日2〜3回の単純な掃除の仕事をしなければならなくなった女性たちが家父長制社会からのジェンダー解放を享受できたとは言い難い。

 一人当たりの所得を長い歴史的スパンでの比較しようとするときの誤りの元凶はこうしたことにある。

 ケインズは、テクノロジーがすべての職業分野の労働の必要性を減らし、高給取りも低給取りも同じだけ失業させていくと見ていたが、資本主義の現実は大きく異なっていた。

 失業の負担は、相変わらず最も不利な立場にある労働者にのしかかっている。

 いわゆる「ギグ・エコノミー」の発展も、新自由主義で加速した不平等を定着させるための近代資本主義が適応した姿なのであり、不利な労働者集団の存在と連動している。

 馬鹿げたほどの低賃金雇用のために労働者が競争させられているこの状態は、単に在職期間が不安定であることだけの問題なのではなく、そもそも始まってはいけない危険な状況だ(最近オーストラリアでは、小銭を求めて急いで走り回るスクーターの配達ドライバーが数人事故で死亡している)。

 今やこうした労働者層が普通の住民たちの一角を占めるようになった。彼らは富を蓄積することができず、家を購入することができず、病気になっても安心できず、有給休暇を取ることができず、安全な年金を得る老後を楽しみにすることができない。

 明るい未来が見えない彼らは近視眼的にならざるを得ない。ケインズが想定した通りには、また社会民主主義時代にベビーブーム世代が期待できたようにはなっていないのだ。

昨今の経済学の思考の変化との関係
 主流派経済学者たちは今、自分たちが財政政策の優位性についての議論を先導していると見せかけようと必死になっている。

 ほんの数年前まで(失業率や不完全雇用率が高かった時でさえ)彼らは財政赤字の危険性を説いていたのだが、今は政府による大規模支出や中央銀行による債務の買い取りを唱えている。

 中央銀行の債務購入は禁じ手だったはずなのだが、そうではなくなったようである。むしろそれを軽視する経済学の専門家はほとんどいなくなった。

 今週、主流派の経済学者ロス・ガルナートは「オーストラリア政府(連邦政府、州政府、準州政府)は完全雇用に達するまで財政赤字を拡大し、オーストラリア準備銀行(RBA)はこれに合わせてが発行した債務をすべて買い取るべきだ」と発言した。

 彼は、RBAは金利をマイナス領域に押し下げる必要があると考えているとのことだ。

 また、ミルトン・フリードマン流の「負の所得税」型ベーシック・インカムを提言した。

 こうしたことで豪ドル高を食い止めることができると考えている。

 思い出すのは私がキャリアの初期にキャンベラの国会議事堂でMMTのワークショップを行ったとき、聴衆の一人にガルナートがいた。Q&Aの時間に彼は大声で私のことを、狂っている、財政赤字の増加は国家を破産させるだろうと言い放ったものだ。

 あれは連邦政府に財政黒字マニアが解き放たれた瞬間だった。

 不快なやりとりだったが、当時はよくあることだった。

 暴徒に立ち向かえば報復が起こる。それがグループシンクの働きなのである。

 そうしたグループの一人であるガルナートの特徴は記憶が短いことだ。過去を上書きする彼らの能力はすごい。

 2016年の彼はRBAの金融政策スタンス(金利が高すぎる)を正当化するために「オーストラリアは弱すぎる」と警告していた(ソース)。

 我が国は財政を引き締める必要があるが、徐々に進めなければならない。経済が弱体化しているので、急激な増税や歳出の削減は経済にショックを与えてしまうからだ。必要なのは、適度で目標を持った増税、適度で目標を持った歳出の削減である …

 オーストラリア人が、この深刻な財政問題に対処できないという自然の法則は存在しない。

 と言うが、当時オーストラリアには約14.9%の労働力不足があったのである。

 この人物は、われわれには「深刻な財政問題」があるから財政緊縮を目指すべきとしていた。本来あるべき姿には何十億も足りない財政赤字のことをそう言っていたのだ。

 彼は一貫して財政赤字を問題にしていた。

 2004年12月3日、彼は当時経済学の教授を務めていたオーストラリア国立大学で、講演を催している。

 当時インフレ率は低く、また労働力の未利用率(失業と不完全雇用)は12%程度あったのだが、彼は財政政策について次のように主張した。

 1980年代の好況の絶頂期の財政黒字がもっと大きければ、それがカウンター・サイクル的な働きをしただろう。1980年代後半がそうだったのであれば、それは今の財政政策にもまったく当てはまることなのだ。

 現状の財政は大幅に引き締めたほうがいい。もっと早い方が良かったが、後回しにするよりは今やった方が良い。そうすれば、ちょうど金融引き締めするのと同じように為替レートを上昇させることなく民需の恩恵を受けることができることになる。

 当時の財政黒字と「好況」は、家計の負債が大幅に増加したことで消費が伸び続け、政府の歳入が急増したことが記録された結果だ。

 捨てられた労働力は高い水準のままだった。

 それは余りにも無責任な黒字だったのだが、ガルナートのような連中はそれをもっとやれと言うのだ。

 つまり彼は失業と不完全雇用を増やしたがっていた。

 ところが2021年の彼は – 完全雇用の達成がむつかしいことを懸念していると主張している。

 この、彼の財政赤字などに対する突然の態度の変化は、現在世界中で起こりまくっている現象だ。

 主流の経済学者たちは、自分たちの無力さを恐れ、立場を変えて、そんなことはずっと前から知っていたと主張している。あるいは、事実の方が変わったと主張する。

 素材は何も変わっていない。

 財政政策の働きはいつも変わらない。

 金融システムは、1970年代初頭と同じように動いている。

 為替レートも、変わらず常に変動している。

 変わったのは、船から逃げ出そうとする列に並ぶネズミの数だ。

それは喜ばしいことだろうか?
 この頃は毎日のようにジャーナリストから電話があって一つ二つ質問される。

 私がキャリアを通じて提唱してきたアイデアについて、ついに経済学者も意見を言うようになっており、現代貨幣理論(MMT)が今やホットな話題になっていると彼らは言う。

 だが、まだまだだ。

 そのように見えるとしても、別のアジェンダが働いていると疑っている。 

 一年前の英ガーディアン紙の社説(2020年2月17日)–ケインズの復活に関するガーディアンの見解:革命的な道–は、経済学者たちの「逆サイド」への行進が表れていた。

 それは第二次世界大戦後から1970年代までの期間のケインズ経済学の覇権を「打倒」した、保守側の議論の写し鏡なのだ。

… 福祉への手厚い支出は、資本主義を弱体化させただけでなく、インフレを引き起こし、不安定化させる結果となり、民主的なガバナンスを脅かすものとなった。

 これこそ、まさに、労働者の利益についてのケインズの1930年の予測の背後にあった政策論であり、その方向性だ。

 貨幣主義者が主導権を握ったその後の数十年で、ケインズの予測は外れていくことになる。

 貨幣主義の教義を説いていた主流経済学者が、その同じ口で財政政策の優越性を説いている。

 広く受け入れられた貨幣主義とその変種である主流の理論は、ケインズ派の正統性を経験的に否定することで生まれたものではなかった。それは、高度に抽象的で先験的な論法に立脚するだけの議論に過ぎず、リベラルな思考を捨てた保守的イデオロギーの甦りなのだ。

 アラン・ブラインダーは1988年の著書–『ハードヘッドソフトハート』–で、ケインズ派の考えの拒絶について次のように書いている(p.278)。

…と言うよりも、それはアプリオリな理論化が経験主義を制圧したということであり、観察に対する知的美学の覇権であり、言わば自由主義に対する保守的なイデオロギーの勝利だった。要するにクーン的な科学革命ではなかったのだ。

 ”要するにクーン的な科学革命ではなかった。”

 失業を減らそうとするケインズ的な救済策は、自然失業率仮説とその政策的含意を受け入れた専門家の大部分からの嘲笑に見舞われることになった。

 主流派経済学は支配階級の利益に貢献するものであり、労働者階級を弱体化させる政策を提唱し続けてきたことを忘れてはいけない。

 英ガーディアンの(英国に関する)社説から:

貨幣主義、覇権を握った経済理論は失敗に終わった。2008年以降の英国の一人当たりGDPの伸びはほぼゼロだった。

 この記事は次のように続く:

 金持ちの支配を固定するためセンセイたちは今度は国家の力を使おうとしている。イアン・ダンカン・スミスはBBCで「貨幣主義を回復するには適量のケインズ主義が必要だ」と語っていたが、これはそうした意味だ。低インフレ状態における緊縮財政とは、経済が需要に飢えているということだ。だからその処方箋は政府が支出することである。しかしダンカン・スミスは、国が労働の側に介入せよとか、富を再分配し投資を社会化せよとは言わない。氏が提案しているのはケインズを欠いたケインズ主義なのだ。

結語
 というわけで、ネズミどもが船から逃げ出しているのが良いことかどうかを私に尋ねる前によく考えてほしい。ネズミたちは本当に船を離れているのか。それともGFCとパンデミックという10年に二度のショックを経てもなお、利潤の搾取システムを再構成しようと、今だけレーダーを避けようとしているだけなのか。

 危機に陥ると、資本は常に国の財政能力に救済を求める。経済学者たちこそがその先導役だったのかもしれない。

 本当に船を離れたなら、そうではなかった(おそらく)ことになる。
https://econ101.jp/%e3%83%93%e3%83%ab%e3%83%bb%e3%83%9f%e3%83%83%e3%83%81%e3%82%a7%e3%83%ab%e3%80%80%e3%80%8c%e4%b8%bb%e6%b5%81%e7%b5%8c%e6%b8%88%e5%ad%a6%e8%80%85%e3%81%af%e6%9c%ac%e5%bd%93%e3%81%ab%e5%a4%a7%e8%b5%a4/

4. 中川隆[-6957] koaQ7Jey 2021年3月02日 21:57:51 : YhdtoSsgwM : UkpyU0lQcDVnTG8=[7] 報告
プラザ合意からブラックマンデーまでを振り返る
2015年3月21日 GLOBALMACRORESEARCH
https://www.globalmacroresearch.org/jp/archives/933
・2015年、金融市場は米国の量的緩和終了を織り込んでいない
http://www.globalmacroresearch.org/jp/archives/669

2015年の金融市場はブラックマンデー当時の相場と似ているとの指摘が各所から出ている。チャートの類似を指摘する声もあれば、ボラティリティの上昇を指摘する声もあるが、ファンダメンタルズにおいてどう類似しているのかを詳細に観察するレポートが出回っていないと感じているので、先ずは1987年に起こったブラックマンデーのマクロ経済学的背景を説明しておきたい。

ブラックマンデーについては、一般的には解明されていない点が多いとされているが、一部の優れた投資家は事前に予測していた事案であり、ファンダメンタルズと投資家の心理の観点から説明が可能である。暴落の背景には1981年に米国の大統領に就任したレーガン大統領のレーガノミクスがあるので、先ずはここから始めたい。

ドル高を促進したレーガノミクス

元々の始まりはレーガノミクスである。1981年に就任したレーガン大統領は、前政権から受け継いだスタグフレーションに対処しなければならなかった。高い失業率にもかかわらずインフレ率は上昇し、米国の家計は低い賃金と高い物価の両方に苦しんでいた。

レーガン大統領は失業率を抑えるために財政出動を行い、減税によって消費を刺激しようとした。軍事支出を大幅に増加させ、また外交的にも共産主義国への強硬姿勢を見せることで、いわゆる「強いアメリカ」を演出した。

一方で、上昇していたインフレ率を抑えるためには金融引き締めが必要とされていた。金融政策ではそもそもレーガン大統領の就任以前より利上げがピークに達しており、レーガン大統領自身もマネーサプライの増加を抑える意思を引き続き表明した。財政支出の規模が大きかったこともあり、長期金利は上昇し、高い金利を求めた資金は為替市場をドル高へ導くことになる。ここまでの経緯を纏めると以下の通りである。

高失業率 -> 財政出動 -> 金利上昇 -> ドル高
高インフレ -> 利上げ -> ドル高
当時、アメリカ経済の問題は巨額となった財政赤字だけではなかった。日本やドイツなどの貿易相手国がドル高の恩恵を受けて輸出を続けたことで、米国の貿易赤字も容認できないレベルに達していた。

しかし高金利に惹かれた資金は、ドルのもとに集まり続け、「双子の赤字」と呼ばれた米国の財政・貿易赤字にもかかわらず、ドルは高値を更新し続けた。ドルはドイツマルクに対し、レーガノミクス以前のレートから50%以上も上昇した結果、通貨高に耐えられなくなったアメリカ政府は遂にドル高是正に腰を上げることになる。

プラザ合意

1985年9月22日、G5の財務相と中銀総裁たちがニューヨークのプラザホテルに集まり、ドル高の是正のために協調介入することで合意した。ドル高は双子の赤字というファンダメンタルズを反映していないとされ、米国政府は為替レートの是正が必要だと主張した。ジョージ・ソロス氏はこの出来事を以下のように書いている。

われわれは興奮の渦中にある。G5の財務相と中銀総裁がプラザホテルで緊急会議を開いた。これは歴史的な出来事である。会議は自由な変動相場制から管理された変動相場制への移行を決定した。

わたしは紙一重でポジションを手放さずに済み、一世一代の大儲けを果たした。円を翌週の香港市場で買い増し、上昇する相場のなかでホールドした。儲けは過去4年の為替市場での損失を補って余りあるほどである。というわけで非常にいい気分だ。(『ソロスの錬金術』)

この時、円やマルクはドル高の行き過ぎから既に底値を超えて上昇基調にあったが、この合意はその新たなトレンドを決定的なものにした。ドルはここからブラックマンデーの起きる1987年まで、急激な下落トレンドを開始することになる。

バブルを造成した利下げとドル安

一方で、ドル高が米国のインフレ率を徐々に低下させていたことから、高止まりした政策金利は役目を終え、Fed(連邦準備制度)は利下げを開始していた。レーガン政権の序盤には19%まで上昇していた政策金利は、この頃には8%程度まで下落していた。

1982年に始まったこの利下げを好感し、株式市場は上昇を始めていたが、ドル高を是正するプラザ合意がこの傾向に拍車をかけた。したがって、1982年からブラックマンデーの起こる1987年までの株価上昇は、利下げとドル安によって作り上げられた強力なトレンドであり、投資家たちはこの2つの要素を前提として米国株を買い続けてきた。したがって、この上昇相場の終焉も、この2つの要因が崩れたときであったのである。

ルーブル合意

プラザ合意以来、ドルはドイツマルクや円に対して急速なスピードで下落していた。1987年2月22日、ドル安が行き過ぎであると判断した米国政府は、G7を主導し、パリのルーブル宮殿でドル安の行き過ぎを是正する合意を取り付けた。これは、下がり続けていた米国の政策金利をFedが上げる一方で、円高、マルク高となっていた日本とドイツに対し、利下げを求める合意であったが、国内のインフレ率上昇を懸念していたドイツが同年9月にこれを破り、利上げを決行する。

ドル安を懸念していた米国にとって、更なるドル安・マルク高を引き起こすドイツの利上げは容認できないものであった。また、5年間に渡る利下げによって支えられてきた米国の株式市場の参加者は、ドイツの利上げによって米国も利上げのペースを上げなければならなくなるだろうと推測した。利下げとドル安によって支えられてきた上昇相場が、ドイツの協調拒否によってその両方を失ったのである。

ドルの自由落下か、株式の自由落下か

「双子の赤字」を抱えながら成長してきた米国株の上昇相場は、遂に八方塞がりの状況に陥る。米国の巨額の財政・貿易赤字はいずれ修正されなければならないと誰もが思っていた。

ジョージ・ソロス氏は早くから双子の赤字に悲観的だったが、各国の協調と管理された変動相場制が状況を軟着陸させる可能性を見て取ると、これを「資本主義の黄金時代」と呼んだ。しかしその要であった協調は、ドイツの離反で失われた。ドル安の行き過ぎを段階的に是正し、株式市場に大きな悪影響を及ぼすことなく利上げ・ドル高へと導くためには、為替水準に対する各国の協調が必要不可欠だったのである。

株式投資家には最悪の状況である。ドイツの利上げにつられてFedが急激な利上げに向かえば、真っ先に下落をするのは株式市場である。しかし逆にFedが利上げを躊躇えば、今度はドルが何処まで落ちてゆくか分からない。事実、米国のベーカー財務長官は、10月16日の記者会見で協調を破ったドイツを非難し、「ドイツが協調に協力しないのであれば米国は一層のドル安を容認する」と主張した。

これで株式市場かドルか、どちらかの下落は決定付けられてしまった。特に当時の株式市場では、ほとんどの投資家は為替ヘッジを付けていなかったこともあり、米国株の保有者はどう転んでも自分の資産が毀損される状況に追い込まれた。では彼らの唯一の選択肢は何だっただろうか? 米国株の投げ売りである。

1987年10月19日、ブラックマンデー

9月のドイツの非協調的利上げによって最後の支えを失った米国の株式市場は、その後ふらふらと方向感を失い、10月に入ると下落トレンド入りした。下落幅は日増しに大きくなり、10月19日、前日比で22.6%の下げを記録したのである。

ブラックマンデーについては、当時の稚拙であった自動売買システム(ポートフォリオ保険)などが下落を加速させたなどの見方があるが、その真相は利上げによる典型的な流動性縮小と、止まらないドル安が株式投資家を追い込んだ結果というわけである。

未来の相場への教訓

金融市場の暴落では、それまで何とか市場に保たれていた資金が行き場を失うというパターンが多い。債務危機では通貨と国債、どちらかの暴落は不可避であり、2015年現在の状況では、株式市場か債券市場、両方の上げ相場が永遠に続くということは不可能である。

ちなみに、レーガノミクスからプラザ合意に至り、止まらないドル安が問題となるまでの経緯は、上記で引用した「ソロスの錬金術」によく書かれている。この本は、ソロス氏の再帰性の理論とともに1985年から1986年までのクォンタム・ファンドの日々のトレードを記録したもので、ソロス氏がドルを売ってドイツマルクと円に投資する様子や、米国の「双子の赤字」の危険性を指摘しながらも、上がってゆく株式市場に資金を投資し、上げ相場の天井を探ってゆく様子が詳細に描かれている。

金融関係者にはよく知られた本であるが、一般の投資家には、これほど有用な本であるにもかかわらず、余り広まっていないと感じている。また、金融関係者でもこの本の有用性を本当に理解している人物は驚くほどに少ない。市場であれ何処であれ、優れた投資家はいつも少数派なのである。
https://www.globalmacroresearch.org/jp/archives/933


▲△▽▼

2015年、金融市場は米国の量的緩和終了を織り込んでいない
2015年1月26日 GLOBALMACRORESEARCH
http://www.globalmacroresearch.org/jp/archives/669

これについては一度しっかりと書いておく必要がある。

2008年のサブプライム・ローン危機の後、Fed(連邦準備制度)は3度にわたり債券の買い入れを行い、量的緩和を行ってきたが、この政策は2014年10月をもって終了し、現在の米国は2015年中に行われるとされる利上げを待っている状況にある。

2013年5月にバーナンキ前議長がテーパリング(緩和縮小)に初めて言及したとき、米国債は売られ、米国株も急落したものだったが、その後も株式市場は上昇し、ECB(欧州中央銀行)が量的緩和を開始した今では、米国の金利までもが低位で安定した動きを見せている。

市場は量的緩和の終了と利上げを景気回復のサインと見なし、量的緩和の終了どころか利上げまでも問題なく織り込んだかのような見方が通説となりつつあるが、それは誤りである。本来これは、中銀の支えがあるからと積極的に押し目を買ってきた市場参加者自身が一番よく知っているはずであるのだが、今後の金融市場の動きも含め、以下に説明したい。

量的緩和と株高

先ず、そもそも何故量的緩和で米国株が上がったのかを思い出してもらいたい。量的緩和には一般的に以下のような効用がある。

国債買い入れによる金利の低下
住宅ローン金利の低下による不動産市場の活性化
債券から株式へのポートフォリオ・リバランスによる金融資産価格の上昇
ここで一番重要なのはポートフォリオ・リバランスである。ポートフォリオ・リバランスとは、中銀の買い入れにより国債の価格が上昇するにつれ、利回りの低くなった長期国債の相対的魅力が低下し、銀行や保険会社、家計などの投資家がよりリスクの高い証券(社債や株式など)を購入するようになる現象のことを指す。

Fedの公開している論文(原文英語)によれば、Fedが量的緩和を行うにつれ、米国の家計は国債を売り、社債や公債などよりリスクの高い証券を保有するようになった。このように国債から社債、社債から最終的には株式市場へと資金が溢れてくることで、米国株は史上最高値を更新してきたのである。

ポートフォリオ・リバランスの逆流

しかしながら、そのような資金は永遠に株式市場に保たれることはない。もともと投機家ではない彼らは、国債の利回りが低いから社債を買ったのであり、社債の利回りが低いから株式を買ったのである。では国債の利回りが元の水準に戻るとき、彼らはどうするだろうか? 彼らに株式をそれ以上保有しておくインセンティブはなく、資金は逆流してゆくしかないだろう。

逆流はいつ起こるのか

2013年、バーナンキ前議長が緩和縮小に言及したとき、株式市場はその可能性を想定して一度急落した。しかしその時資金の逆流は起きなかった。株式市場は、緩和が縮小のプロセスを経るにつれ、資金の逆流を恐れてその後も何度か急落したが、逆流は結局起きなかった。そして株式市場は緩和終了が織り込まれたと考え、当初の懸念を忘れてしまったのである。

しかし、投資家は資金流入の起こったプロセスをもう一度よく考えなければならない。家計や保険会社は利回りが低いために国債を売ったのであり、従って彼らが再び国債を買うインセンティブが生まれるのは、中銀が緩和を止めるときではなく、実際に利回りが上昇するときである。つまり、日欧の量的緩和もあり、米国の長期金利がいまだ低位安定している状態で、資金の逆流が起きていないのは順当だと考えられる。

逆流開始の条件

では、逆流が始まるための条件は何だろうか? およそ考えられるものは以下の通りである。

Fedの量的緩和の終了(2014年10月に通過済み)
米国の利上げ(2015年中旬の予定)
米国の長期金利の上昇(2015年中旬から2016年辺りか)
米国株が20-30%の下落を正当化できる程度に割高であること
米国株が先進国唯一の魅力ある株式市場ではないこと
量的緩和はすでに終了し、Fedは緩和再開の姿勢を見せていない。利上げについてもドル高に拘わらず行うと主張している。ただ、長期金利の上昇は、とりわけ欧州の金利が低いことにより抑えられている。スペインの国債が米国債よりも信頼されている状況は不自然だからである。この状況は最長でECBの緩和が終わるまで続く可能性がある。

また、米国の株式市場から資金が流出するためには、米国株が割高でなければならない。しかし資産バブルが生じている必要はなく、適正値より数十パーセント程度(すなわち下落分)割高であればよい。この条件は現在クリアされている。ブラックマンデーが起きた年の米国株のP/Eが現在とほぼ同程度であったことを思い出されたい。

更に、現在の株式市場では、日本や欧州の経済回復が弱い中、経済の強い米国の通貨と株式に資金が集中してきた経緯があり、米国で資金の逆流が起こるためにはこの傾向が取り除かれなければならない。

ECBが量的緩和を始め、この状況は変わったのではないかと思う。経済は強いが量的緩和が終了し、利上げを待つ米国株と、経済は弱いが量的緩和が始まったばかりの欧州株、どちらが投資家の買いを集めるかは面白い実験である。2015年前半の米欧の株式の動きは、金融市場において、流動性とファンダメンタルズのどちらが勝利するのかを推し量る試金石となるだろう。

投資家はあと数年はリスクを制限した投資を

投資家の不合理な行動という不確実性により、債券から株式へと流入した資金の逆流は、上記の予測よりも前後する可能性がある。個人的には後に遅れる可能性のほうが高いのではないかと思っている。こういう相場の天井は、投資家が皆、過去に流動性が相場を支えていたことを忘れ去った時であることが多いからである。米国株は更なる上昇を見せるかもしれない。しかし、このような大きなリスクを孕んだ相場に全力で資金を傾けないことは、ブラックマンデーやサブプライム危機などの暴落で損を出さない賢明な投資家の条件なのである。

相場には様々な機会が存在する。市場は不合理であり、リスクが低くリターンの大きい投資もあれば、リスクが高くリターンの少ない投資もある。両者をしっかりと見極めて、どれだけ上げ相場が眼の前を通過しようとも、後者を無視し前者だけを見る勇気を持ち続けたいものである。
http://www.globalmacroresearch.org/jp/archives/669

5. 中川隆[-10934] koaQ7Jey 2024年4月11日 21:37:52 : VplZEXoBSA : QjdzRFljdGNhVTI=[22] 報告
<■67行くらい→右の▽クリックで次のコメントにジャンプ可>
賃上げできないゾンビ企業は淘汰される時代
2024.04.10
https://www.thutmosev.com/archives/34468.html

ゾンビ企業にはゾンビが大勢いる


賃金マイナスはインフレではなく企業のせい

厚労省発表の24年2月実質賃金は前年同月から1.3%減少し23カ月連続マイナスで過去最長にならぶ最悪の状況に成っている

これがどのくらい長いかというと前回の過去最長はリーマンショックの2007年9月からの23か月間だったので、現在は世界経済危機と同じ状況といえる

賃金そのものは増えていて2月の現金給与の総額は28万2265円、前年同月比から1.8%増え26か月連続の上昇になった

総務省発表の24年2月消費者物価は前年比2.8%だったので、物価が2.8%上がって賃金は1.8%上がったので単純計算でもマイナス1.0%実質賃金が減ったのは分かる

政府は賃金も物価も前年比で調査するので一度大きな増減があるとそのマイナスやプラスは「前年」が過ぎる12カ月間続くことが多い

実質賃金減少が始まったのは22年4月からで、このころ日本の物価上昇率が1%を超えてインフレが始まり22年末には4%を超えていました

日銀は物価目標を2%に設定し最近も2.8%だったので、賃上げ率が1%台である限り実質賃金が減少し続けます

日銀によるとインフレ率が2%未満はデフレ状態で、日本以外の(中国を除く)国はどこでも物価2%以上で賃金も2%以上は上昇しています

物価上昇が2%なら過度のインフレとは言えず問題は賃金上昇率が低すぎる事にあり、原因として挙げられるのがゾンビ企業の延命です

日本は1990年のバブル崩壊以降経営不振に陥った企業がバタバタと倒産したが、政府は不況を防ぐため経営不振の大企業が倒産しないように救済してきた

2000年代後半のリーマンショックと続く東日本大震災、続く超円高不況、安倍首相の2度の消費増税不況、2020年からの新型コロナ不況でも政府は経営不振企業の救済を余儀なくされた

90年代後半から2000年代初めは救済せず大企業がバタバタ倒産して数万人のホームレスが発生したので、対策として必要だったと思われる

ゾンビ企業の淘汰や更新が必要
だが日本政府が30年以上も経営不振企業を救済し続けた結果、従業員を人間扱いせず「しぬまで働けるのに感謝しろ」と社長が公言するような会社がはびこる事になった

経営や会社に問題があるからサービス残業やブラック労働をさせるのだが、本来そうした企業は改革を迫られるか優れた企業に倒されて消える運命です

だが30年の不況で新たな優れた企業は出て来ず、市場原理で倒産する筈の会社政府の救済で生き延びて無数のゾンビ企業として低賃金で社員や派遣を働かせています

自動車産業だけを例に挙げても日産による下請けへの不当な値下げ圧力やダイハツ、日野、三菱などの不祥事、毎年起きる欠陥車騒動やEVへの対応遅れなどはゾンビ企業の症状でした

たまたまEV勢は今自爆テロで自滅しているが、だからといって日本企業が旧態依然のままだったらチャンスを生かすことが出来ずハイブリッドや次世代EVでもサムスンやBYDあたりに抜かれてしまうでしょう

非効率なゾンビ企業が多数存続しているせいで給料が上がらず、人々はお金がないので消費せず、消費が減るので経営悪化し財務省は増税を繰り返しますます景気を悪化させてきた

自動車産業はマシなほうで社員や期間工に高収入を払っているが、サービス業や飲食業は特に酷く非効率を「サービス」として売りにしている場合がある

安倍政権の外国人観光客誘致で不愉快だったのが「おもてなし」という宣伝で、おもてなしとは要するに従業員にブラック労働をさせて客へのサービスを増やす事にすぎない

例えば飲食店でセルフサービスで客が取りに来て食べた後で決まった場所に置くのは「おもてなし」ではないが、店員がテーブルに配膳して丁寧に説明したりし、食べ終わったら全員で客にお辞儀するのが「おもてなし精神」らしいです

両者の客1人当たり人件費は2倍以上差が出る筈ですが、それを同じ給料でブラック労働でやれというのが典型的なゾンビ企業です

このようにゾンビ企業はお客様重視で一見すすると外面が良いのだが内情は最悪、例えば不祥事続出のなんとかモーターなんかは中古車業界1位でした

今では世界企業になった×××ロは裁判所も認めたブラック労働だったし、××家のワンオペ騒動ではバイトに「病気で休むなら賠償金払え」と言ったとされています

××ミの騒動では「働けることに感謝しなさい」と社長が仏のような事を言っていたし、電通や三菱電機の過労死は社内風土に問題があったとされている
https://www.thutmosev.com/archives/34468.html

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