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第一生命、モラル崩壊…全国で営業職員が顧客から金銭詐取、被害総額「20億円」
https://biz-journal.jp/2021/04/post_223290.html
2021.04.29 06:05 文=編集部 Business Journal
第一生命本社(「Wikipedia」より)
第一生命保険の元女性社員(89)が在職中に顧客24人から19億5100万円をだまし取った事件で、顧客のうち3人が同社に被害弁済などを求めていた調停が、4月9日までに東京地裁で成立した。弁護団によると、同社が解決金として被害額(未払い分)に当たる計1億9200万円を支払う。
第一生命は3月末、被害者に対して被害額を全額補償すると発表した。当初は「被害額の3割を立て替える形で弁済する」としたうえで、被害者と個別に補償を協議してきた。被害額は被害者が支払った総額から元社員が返済した額や第一生命が立て替えて弁済した額など、はっきりしている分を差し引き、被害額が確定している案件を対象にする。
第一生命は2020年10月、西日本マーケット統括部徳山分室(山口県周南市)に勤務していた「特別調査役」が、客に架空の金融取引を持ちかけ、不正に資金を集めていたと公表。同社は特別調査役を7月3日に懲戒解雇し、山口県警周南署に詐欺容疑で刑事告発していた。金融庁は保険業法に基づく報告徴求命令を出した。
第一生命の金融詐取事件は山口県にとどまらない。和歌山県では50代の元営業職員による金銭詐取が発覚。24人の5992万円の保険を無断で解約した後、契約を元に戻す名目で、偽造した領収書を渡し、全額だまし取っていた。
福岡県では30代の元営業職員が3人の顧客から865万円、神奈川県の60代の元営業職員は4人の顧客から503万円を詐取していたことも明らかになった。福岡のケースでは「金銭的な優遇制度がある」と持ちかけ、神奈川では契約者の遺族に架空の貸付金の返金を求めていた。事務部門でも50代の元職員が5人の顧客から5230万円を詐取していた。山口県の事案と合わせると被害者は60人、被害総額は20億7690万円に達した。
第一生命保険の稲垣精二社長は20年12月22日、記者会見し謝罪した。山口の事件が10月に表面化して以降、社長が公式の席上、謝罪するのは初めてだった。詐取が起きた原因として「社員と顧客間の現金授受を禁止していなかった」ことを挙げた。89歳の元女性社員が「特別調査役」という地位にあったため、社内の関係部署に「穏便に収めたい」「あまり関わりたくない」との意識があったとも指摘した。
第一生命は成績優秀者に付与する「上席特別参与」などの名称を廃止する。役員11人が報酬を3カ月間一部返上する。稲垣社長、渡邉光一郎会長のほか、営業・法令順守を所管する役員が対象で減額幅は10〜50%。再発防止策として営業職員の採用の厳格化や教育制度の見直しに言及した。2021年度の営業職員の採用計画を、前年度比2000人少ない5000人程度とする。採用人員を減らし、教育に力を入れる。
生保各社では契約実績に応じて営業職員の給与は変動する。「契約が取れない」などの理由で新規に採用した人員の半分が2年間のうちに離職する。歩合給であることが今回のような巨額詐取が横行する土壌となっていた。
生保各社は対策に乗り出した。明治安田生命保険は22年度から営業職員の給与を固定給に切り替える制度改革を予定している。第一生命はどうするのか。歩合制を廃止したら契約件数が落ちるのは目に見えている。これが歩合給廃止に踏み切れない理由だ。
■山口フィナンシャルグループに飛び火
第一生命保険の“89歳生保レディ”による19億円詐取事件は、山口銀行を傘下に置く山口フィナンシャルグループ(FG)に飛び火した。
被害者の弁護団は「金融詐取の過程で山口銀行の行員が同席していた」と告発した。山口FGは「確認する」としたが、調査結果を公表していない。弁護団によると、「保険の契約と融資の紹介などがペアで実行され、元営業職員と山口銀行との関係は深かった」という。
生保レディの名前は正下文子。第一生命で知らぬ人がいない人物だった。トップクラスの成績をあげ、「上席特別参与」という特別な肩書を与えられていた。全国約4万4000人(20年10月時点)の営業職員の中で、この肩書を持つ人は十数人だけだ。
優遇ぶりも際立っていた。営業職員は65歳定年。80歳まで1年ごとに契約を更新するという勤務規定になっている。89歳の元職員は特別調査役の地位を与えられ、20年7月まで勤務していた。特別調査役は、この職員1人だけだったという。
正下氏が抜群の成績を挙げたのは、山口銀行の頭取を務めた最高実力者である田中耕三氏(94)の後ろ盾があったからだとされている。田中氏の威光は絶大だった。山口銀行の行内の契約を大量に獲得したほか、同行の紹介で取引先との契約も取っていた。山口銀行の取締役だった浜崎裕治氏が書いた小説『実録 頭取交代』(講談社+α文庫)に2人の関係が描写されている。正下氏は山口銀行の“女帝”と呼ばれていたという。
山口銀行の「影のドン」として長らく君臨してきた田中氏は、正下氏との密接な関係を糾弾され、20年11月末、特別社友を辞任した。山口FGは、この人事で事件の幕引きを図った。
■元営業職員2人も顧客から詐取
第一生命保険は4月20日、北海道と長野県で勤務していた60〜70代の元女性社員2人が在職中、顧客計11人から総額5490万円をだまし取っていたと発表した。全契約の調査を進める中で新たに判明したという。第一生命は2人を懲戒解雇した。営業現場での不祥事が一段と拡大したことになり、コンプライアンス(法令順守)の体制が揺らいでいる。
長野県松本支社に勤務していた70代の元営業職員は、顧客8人に「優遇制度がある」と架空の資産運用を持ち掛け、現金4836万円を不正に取得したという。北海道旭川市の旭川支社で働いていた60代の元営業職員は保険契約の初回保険料や貸付金の返済として顧客3人から計654万円を集めていた。保険の加入手続きを行わず、保険証券の偽造もやっていた。
被害者に弁済を進める一方、刑事告発を視野に入れている。第一生命では全顧客約800万人の契約について不正がないかどうか調査を進めており、12月までに完了する。同社は「不適切な事案の撲滅に向け取り組む」としている。
(文=編集部)
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