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2023年9月18日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/278002
ロシアによるウクライナ侵攻は終結への道筋が見えない。被爆地で開かれた先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)では核の抑止力を容認し、日本を含め各国が軍事力を増強している。こうした世界の情勢について、「戦争論」などの著作がある哲学者の西谷修東京外国語大名誉教授(73)に聞いた。(小椋由紀子)
―長年、戦争について研究してきた。
「戦争論で有名な(プロイセンの軍事学者)クラウゼビッツは、戦争を『政治の延長』と指摘した。戦争は政治の目的を達成する形で終結すると考えられていた。しかし、2度の大戦は総力戦になり、国家が崩壊するまで戦争するようになった。政治の目的に従属せず、お互いの破壊力を究極までせり上げる『純粋戦争』が基本形態になった。抑止力論はこのせり上げで勝ったら相手は断念するはずだという理論で、核兵器を正当化する」
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抑止力 相手が武力攻撃すれば、報復して大きな損害を与えられる軍事力を持ったり、同盟関係を築いたりすることにより、侵略を思いとどまらせる力。米国の核兵器による「核の傘」も日本の抑止力の一つ。相手の抑止力を上回ろうと、互いに軍拡を競い合う「安全保障のジレンマ」に陥る恐れもある。
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―ウクライナでの戦闘は泥沼化し、エスカレートするばかりだ。
「紛争を解決させない力学が働いているからだ。この戦争は、核時代のいわゆる代理戦争になり、当事国がともに終結可能な目的を設定できない。ロシアの目的は北大西洋条約機構(NATO)諸国にくじかれ、ウクライナも米国やNATOから送られた武器で戦い続けなければならない状況に追い込まれている」
◆核にお墨付き与えた広島ビジョンは恥知らず
―広島サミットの核軍縮文書「広島ビジョン」は核抑止を正当化し、被爆者から失望の声が相次いだ。
「あれだけ悲惨なことが起きた広島でわざわざ、核による脅しにお墨付きを与えるような恥知らずなことをやったと言わざるを得ない」
―台湾有事など脅威が叫ばれ、岸田文雄首相は防衛費の大幅増を決めた。
「ウクライナと同じく、領土的野心を持つ覇権主義国の周辺の民主的な小国が危ないという話だが、抑止力を振りかざす米国の世界戦略にも結びつく。中国が台湾に野心を持つから、日本は戦争に備えなければならないというのは短絡だ。日本には自ら中国と交渉する外交努力が全くない」
◆『非戦』現代に生きる人間の基本姿勢に
―日本では戦争の記憶も薄れつつある。
「被爆者らが『自分たちを最後に』と言うのは、自分たちの死を賭して戦争を止める、戦争を拒否するという強い意志だ。これが『非戦』ということ。だが、戦後78年で戦争体験者が少なくなり、その声が届きにくくなっている。歴史をなかったことにしようとする最近の傾向と並行しているが、人類が世界戦争の破局を経験したことを忘れてしまったかのような段階に入っているようだ」
―戦禍を繰り返さないために何が求められるか。
「戦争は当事国によって必ず正当化される。第2次世界大戦後の国連体制で戦争は原則禁止とされたが、世界の秩序を守るためとして『自衛のための戦争』は例外とされた。あらゆる戦争は自衛の名の下に起こってきた。どんな戦争も正当化させてはいけない。戦争をとにかく止める『非戦』が現代に生きる人間の基本姿勢でなくてはいけない」
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西谷修(にしたに・おさむ) 1950年生まれ。愛知県豊田市(旧稲武町)出身。東京大法学部卒、東京都立大フランス文学科修士課程修了。明治学院大や東京外国語大大学院で教授を務めた。20世紀フランス文学・思想をベースに戦争、世界史を幅広く論じる。著書に「戦争とは何だろうか」(ちくまプリマー新書)など。
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