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日本の没落を予言した2人の天才 森嶋通夫と小室直樹=田代秀敏
1人当たりGDP(国内総生産)で台湾や韓国に抜かれた経済の零落。京王線での凶行と政治・経済の退廃との根元は同一である。
毎日新聞エコノミスト 2021年12月13日
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20211221/se1/00m/020/028000c
衆議院選挙の投開票日であった今年10月31日は、日本の宿痾(しゅくあ)を凝縮した一日となった。午後8時、放送各局が選挙特番になだれ込んで1時間もたたないうちに、京王線の車両内で殺傷事件が起きたニュースが飛び込んできた。逮捕された容疑者の青年は、「死刑になるために犯行を計画した」と供述したという。総選挙の投票率は戦後3番目に低い55.9%だった。
今から42年前、社会学者の小室直樹(1932〜2010年)は、主宰していた「小室ゼミナール」で、「将来、生後数カ月の自分の赤子を殺す母親が日本に現れます」と話した。「なぜですか」と筆者が問うと、小室は「天皇の人間宣言そして高度経済成長によって戦後日本社会にアノミー(無連帯)が生じたからです」と答えた。
フランスの社会学者デュルケームが1893年に『社会分業論』で述べた通り「アノミーはあらゆる道徳を否定する」。上司が平然と部下を自殺に追い込み、親が平然と子供を殺し、殺人を抑止するための死刑制度が殺人を助長するようになる。
小室が予言した通り、アノミーはこの国を土台から腐らせている。
政治家、経営者、官僚などエリートの無能と腐敗、それを咎(とが)めない民衆。四半世紀にわたり成長がほぼ止まり、1人当たりGDP(国内総生産)で台湾や韓国に抜かれた経済の零落。京王線での凶行と政治・経済の退廃との根元は同一である。
小室と小室の師であった経済学者、森嶋通夫(1923〜2004年)は、日本の没落を予見していた。森嶋はノーベル経済学賞に最も近づいた日本人とされる。
1999年に著した『なぜ日本は没落するか』(岩波書店)において、2050年に日本は没落すると予言した。
森嶋と小室は、日本社会について本質的に同じ直観を持っていた。筆者はそれを「森嶋・小室仮説」と呼ぶ。戦後日本の経済も政治も構造が根本的に矛盾しているということだ。
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