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日本のGDPが世界4位に転落へ 事態は想像以上に深刻 …さらに落ちぶれる前に「主婦年金」「配偶者控除」を廃止すべき理由
ダイヤモンドオンライン 2023.11.3
https://diamond.jp/articles/-/331728
IMF(国際通貨基金)は、日本のGDP(国内総生産)がドイツに抜かれて世界4位に後退する見込みだと発表しました。
もはや世界3位の経済大国ではなくなるということですが、問題はそれ以上に深刻です。
なにしろドイツは日本の3分の2しか人口がない国です。国民当たりの豊かさでいえばドイツと1.5倍の経済格差がついたというのが、このニュースの本質です。
ちょうどわたしの会社の今月号の経済レポートでも書いたことなのですが、国の経済力を1人当たりGDPで計ると(31位)、日本はいまや、世界の第3集団に順位を落としてしまっています。
それで何が深刻かというと、第2集団と違って第3集団の国では輸入物価が上がるタイプのインフレが起きてしまうと、庶民の生活が貧しくなるのです。
どういうことなのか、詳しく見ていきましょう。
日本は「斜陽化」によってイタリア、スペイン、韓国、台湾と同レベル
以下、IMFの2023年版の数字で世界の情勢を整理します。
第1集団は1人当たりGDPで8万ドル(約1200万円)を超える国々でアメリカはここに入りますし、アジア太平洋地域ではシンガポールとカタールがここに入ります。ひとことで言えば、第1集団は世界から投資が集まる国々です。
それに次ぐ第2集団が、1人当たりGDPが5万ドル(約750万円)前後の国々で、ドイツ、イギリス、フランス、カナダなどG7の国々はほぼこのグループに入ります。アジア太平洋地域ではオーストラリアがこの集団の上位に、ドイツとほぼ同じ位置には香港がきます。第2集団はひとことで言えば、経済が順調な国々や地域です。
そして第3集団は、1人当たりGDPが一段低い3万ドル台前半(約500万円前後)の国々です。日本は約3.4万ドル(約510万円)で、この集団の目立つ位置を走っています。近隣諸国・地域では韓国が3.3万ドル、台湾が3.2万ドルとほぼ日本とは団子状態です。G7に所属するイタリアは3.7万ドルとこの第3集団の先頭を走り、同じくEUに所属するスペインが3.3万ドルと、日本のすぐ後ろにつけています。
この第3集団はイタリア、スペイン、日本のようにかつては世界のトップだった国が斜陽化したものと、韓国、台湾のように経済が発展して追いついてきた国や地域が混在します。
日本経済がここまで転落してしまうと、「円安が悪い。ここまでの円安になってしまったのは日銀が悪い」と思いがちですが、その考えは間違いです。
経済発展の責任は日銀ではなく「政府」が負うもの
そもそも中央銀行には、経済を発展させる機能はありません。
ここがアベノミクスの最大の勘違いです。
ここを間違えたまま、なぜか今の日銀総裁は賃上げを伴う物価上昇、これは言い換えると経済成長を意味するのですが、それを自分の責任だと思い込んでいます。
中央銀行は金利を下げることで需要を作り出すことはできるのですが、金融政策でできるのはここまで。本来、経済を発展させる責任は経済政策が負うものです。
経済が発展するためには、生産性を上げるしか方法がありません。同じ数の国民が、もっとたくさん生産することで、定義により1人当たりGDPが上がるのです。
第3集団への転落が起きた原因は金融政策ではなく経済政策にあるのです。
さて、日本を経済で再成長させることを考える際には、先を走る第1集団と第2集団と日本経済との違いが手がかりになります。その観点で、これらの先進国が日本とどこが違うのか、先行集団との3つの違いを指摘させていただきます。
まず、ものすごく当たり前のことから指摘させていただきます。「同じ数の国民がもっとたくさん生産する」ということが目標なら、一番簡単な方法はフルタイムで働いていない労働力がもっと働けるようにすることです。
【違いその1:106万円の壁、130万円の壁】
週20時間以上働くとペナルティーが科せられる
「同じ数の国民がもっとたくさん生産する」ことを目標に掲げ、フルタイムで働いていない労働力がもっと働けるようにする――。政府が、子育て支援やシニア層のリスキリングに力を入れるのはこの視点での経済政策です。
ただ、先進国が90年代に実行済みでかつ、日本経済にとっても圧倒的な即効性があるのはそこではありません。106万円の壁と130万円の壁の撤廃です。
今、パートで年間106万円働いている人がうっかり、あと1時間多く働いて106万円を超えてしまうと、社会保険料が16万円かかるようになり、年収が90万円まで減ってしまいます。
これは最低賃金近辺の時給1000円の人であれば、160時間をただ働きしたのと同じ話に見えます。そう考えるとがっかりしますよね。ですから、一定数のパート・アルバイトの人たちは働く時間をコントロールして106万円を超えないように注意します。
106万円の壁を超えると年金保険料が増えますが、さらに130万円の壁を超えると扶養家族から外れてしまい所得税が増えてしまいます。このように、日本の制度は週20時間以上働くとペナルティーが科せられる制度になっています。
第2集団の先進国ではこのような制度はずいぶん前に撤廃されています。イギリスを例に取ると、配偶者と世帯主を合算にして税申告させるのは男女差別だとして、90年代にはすでに、それぞれがそれぞれの申告をする制度に変更されています。
これは、実は日本政府がやろうとしている年収の壁対策と方向性はまったく逆です。
つまり日本に置き換えると、所得税の配偶者控除を撤廃し年金の第3号制度を撤廃するというのが、先進国がやってきたことです。これまでの年収が106万円だった人が、これからは90万円になることを意味します。そういう国民にとっては苦い政策を断行したのです。
その結果何が起きたかというと、これまで少ない時間しか働かなかった人たちがもっと働かなければいけなくなりました。つまり同じ数の国民が産出する財が増えることになります。
実はこの1人当たりGDPの増加はむしろ副次的な効果で、より重要な効果は女性の地位が上がったことです。年間106万円だから最低賃金のパートの仕事でいいだろうではなく、家族の生活を支えるためには200万円、300万円稼がなければいけなくなる制度です。そうなると、男性が子育てにもっと時間を使わなければ家族がまわらなくなります。
男性が家族を顧みて家事の半分を負担し、女性が社会進出して女性管理職の比率が高くなる。そういった先進国で実現している「結果」は男女平等の税制度、社会保障制度が出発地点なのかもしれません。
【違いその2:自動車政策】
政治や行政がストップをかけている
ちょうど今、東京でモビリティショーが行われています。話題になっているのは日本の自動車メーカーがその地位を下げていることです。
日本はEV(電気自動車)で出遅れているけれども、やる気を出せば挽回できる。これが定説なのですが、第2集団を引っ張るドイツから見れば、この構図は違ったものに見えています。日本は国全体で、モビリティビジネスの構造変革に失敗しているように見えるのです。
先進国と発展しない国の差は、イノベーションの量の違いで生まれます。その象徴が自動車だという話です。ジャパンモビリティショーで話題になっているのはEVではなく、もっと個別のイノベーションです。たとえば海外のEVはSDVといってソフトウエアをダウンロードすることで車の性能が上がる車が主流です。
アメリカのテスラがその先頭を走っていて、2017年発売のモデル3ですでにそのコンセプトを実装していました。中国のEVメーカーにSDVの機能を提供しているのもアメリカのNVIDIAです。このSDV技術が日本車は遅れに遅れていて、トヨタのEVは今から3年後でないとSDV対応の車を発売できない状態です。
これは一見、トヨタがダメ会社だからに見えるのですが、ドイツの視点で見るとそうではなく、日本が国を挙げてイノベーションをサボタージュしている方が問題です。
自動車のイノベーションは、世界的に広い分野で進んでいます。たとえば、自動運転の無人タクシーはアメリカと中国ですでに営業を開始しています。日本は実は公道実験はかなり早い段階から始めていました。しかしなぜか規制緩和は行われずに、実験に参加したベンチャー企業は事業撤退してしまいます。
EVに必要な充電ステーションのインフラも、数は日本の方が先に増えていったのに、便利さや性能ではテスラの方が上で、実際、日本では数が少ないテスラのステーションの方がずっとユーザーに使われています。
ライドシェアは10年以上前に多くの先進国で実現していますが、日本はつい先日、「検討」を始めた段階です。「個々の自治体の状況に合わせて議論する」などと言っているということは、上から「やれ」と言う気はないわけで、実現するかどうかわかりません。
ドイツの視点で見ればEVシフトはGX(グリーントランスフォーメーション)と一体なのですが、日本ではそちらの分野でもイノベーションが進まない。風力発電を入札するために1000万円政治家に献金してルールを変えてもらった事例が事件化されましたが、金で行政が動くというのは、ドイツから見れば途上国レベルの恥ずかしい話です。
日本が一番イノベーションを起こせるはずのモビリティ分野で起きているサボタージュは、日本全体の縮図です。ベンチャーがアクセルを踏もうとしても、既存勢力がストップをかけられるから、国全体でイノベーションが足りずユニコーン企業も育たない。政治や行政がストップをかけるところが、第2集団の先進国と第3集団の日本の違いです。
【違い3:エネルギー不足】
人口減少と並ぶ生産性の最大のマイナス要因
政府によれば、今年の冬は政府が民間に節電要請をすることはないそうです。これは良いニュースなのですが、実はエネルギー不足こそが日本の生産性の足を引っ張る最大の不安要因です。
今、この記事で問題にしているのは「この先、日本の生産性を上げて1人当たりGDPを押し上げるためにはどうすればいいのか?」という話なのですが、節電要請はその視点で見れば、日本人の活動が止まりますから人口減少と並ぶ生産性の最大のマイナス要因です。
問題は日本の電力は今、老朽化しているうえに発電能力が限界に近いということです。ですから、冬になってみんなが一斉に電力を使おうとするとパンクするおそれが出てしまいます。今年、節電要請がないのはエルニーニョのおかげの暖冬だからであって、たまたま今年は大丈夫だという話でしかないのです。
そしてこの先、日本はCO2の排出量を大幅に下げなければならないという課題を抱えています。10年後には今のようにLNGガスをたくさん燃やして電気を作ることができなくなります。一方でガソリン車も段階的に廃止されていきますから、10年後、20年後には発電能力は今の1.2倍以上必要になります。
このエネルギー不足による経済縮小危機を乗り越えるには、発電能力を増やすか、技術に投資して水素の形で海外のグリーンエネルギーを輸入できるようにするしか解決策はありません。
その観点で見れば、日本は第2集団の先進国と比較して、あまりにエネルギー政策が脆弱(ぜいじゃく)です。検討しかしておらず、投資が進んでいないのです。このまま放置すれば、やがて日本は第4集団に転落するでしょう。
このように捉えると、日本のGDPが世界第4位に転落したというニュースは、日本経済にとってそれなりに重大なニュースです。あらためて確認してみると、日本は第3集団の中心グループを形成しています。その地位に落ちたのは構造的な課題がありました。女性が活躍できず、イノベーションが止められ、エネルギーが不足する国へと転落しているのです。
ただ、課題が分かれば対策も立てられます。日本を第2集団に戻すことを目標にして、もう一度国のあり方を考え直す時期に来ているのではないでしょうか。
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