http://www.asyura2.com/25/holocaust8/msg/140.html
Tweet |

「先住民の物語」を取り戻す 国際通年企画「橋を渡す」第22回(オーストラリア)
2025年09月28日 12時00分 共同通信
https://www.47news.jp/13197285.html
乾いた大地が広がる「マンゴ国立公園」は、かつて巨大な湖だった。先住民でレンジャーのタニア・チャールズは、湖岸に暮らしていた先祖に思いをはせる=2025年3月、オーストラリア・ニューサウスウェールズ州(撮影・アマンダ・スミス、共同)
大地に戻ったマンゴマン 砂丘が教えてくれる
「ここには何万年も前に巨大な湖があった。私たちの先祖の『マンゴマン』が、とらえた魚を抱えて岸辺を歩いていく姿が目に浮かぶ」
乾いた大地が地平線まで続くオーストラリア東部ニューサウスウェールズ州の内陸。「マンゴ国立公園」のレンジャーを務めるタニア・チャールズ(60)が遠い目で語る。低木が茂る地面に強い日差しが照りつけ、カンガルーやエミューの群れが通り過ぎる。オナガイヌワシが空に緩やかな弧を描く。
かつて湖岸だった砂丘で4万2千年前の現生人類の骨が見つかったのは1960年代から1970年代にかけて。骨は研究のため大学に持ち出されたが、先住民グループの求めで返還され、2022年にこの地に埋葬された。「先祖の魂がようやく大地に戻ることができた」。自らも先住民のタニアが話す。
▽異なる世界観
科学者が語るストーリーはこうだ。30万年ほど前にアフリカに誕生した現生人類は、散発的な旅立ちを経て、6万年前に一気に世界に拡散した。ネアンデルタールなど他の人類と混血しながら一部は東南アジアに達し、さらに海や陸伝いにオーストラリアに広がった。
「アボリジナル・ピープルズ」と「北部トレス海峡島しょ民」からなる現在のオーストラリア先住民は、最も古い時期に拡散した人類の子孫だ。
だが彼ら自身の物語は異なる。州国立公園局に勤める先住民のリエン・ミッチェル(43)は「先住民には多くのグループがあるが、私たちはこの大地から生まれたという世界観を共有している。アフリカから来たのではない」と語る。
さらに「埋葬されていた骨を掘り返すと新たな命が生まれるのを妨げる。そのせいで今も先住民の多くが貧困や病に苦しんでいる」と強調する。
苦しみの多くは18世紀末期の英国人の植民によって始まった。自然資源を管理しながら持続的に利用していた先住民を、農耕も定住もしない人間以下の存在と決めつけ、土地を奪って居留地に追い込んだ。子どもを「文明化」し白人社会に同化させるため親から引き離した。
自分たちが優れた「人種」だという幻想に取りつかれ、それを証明するために先住民の骨を集めて脳の大きさなどを計測した。時に墓を掘り返してまで収集が続いた。
先住民はオーストラリアでは新参者だと信じていた。最も古い文化を相手にしているとは思いもせずに。
世界遺産の「マンゴ国立公園」には全長30`に及ぶ三日月形の砂丘がある。特徴的な地形は雨や風によって絶えず姿を変える=2−25年3月、オーストラリア・ニューサウスウェールズ州(撮影・アマンダ・スミス、共同)
▽抗議の手紙
そんな常識がひっくり返ったのは1968年。太古の湖岸だった全長30キロに及ぶ三日月形の砂丘の一角で、地質学者が人骨の一部を見つけた。
後に4万2千年前の女性のものと分かり「マンゴレディー」と名付けられた。さらに1974年には赤い顔料で彩られた同時代の「マンゴマン」の全身骨格も見つかった。
考古学上の重要性から国立公園に指定され、1981年に一帯が世界遺産に登録された。湖岸を歩いた人々の2万年前の足跡も後に発見された。
だが先住民からは発掘に抗議する声が上がった。大地から生まれた人間は死んだら大地に帰す必要がある。骨を盗んで研究室に持ち帰ることは許されない。「最初に政府に手紙を書いて発掘をやめるよう求めたのは私の祖母だった」。タニアが誇らしげに語る。
貴重な資料を手放したくない研究者の抵抗は強かった。だが先住民に対する植民支配の歴史を反省する機運も高まっていた。発掘がストップし、1992年にマンゴレディーの遺骨が先住民グループに返還された。公園の運営に先住民が決定権を持つ仕組みもできた。
▽再埋葬
マンゴマンが返還されて故郷に帰ってきたのは2017年のことだ。マンゴレディーと一緒に公園内の施設に保管されていたが、2022年に少数の先住民グループ代表が立ち会って砂丘の一角に遺骨が再埋葬された。
盗掘などを防ぐため正確な場所は明らかにされていない。「あの辺に眠っている」とタニアは砂丘の向こうをあいまいに手で示す。
歩きながら地面に注意を向ける。表面を覆う砂の間から赤茶けた地層が露出し、かすかに黒ずんだ場所が見える。「たき火をした跡だ。焦げた貝殻もある。石器のかけらも見える。はるか昔に湖のほとりで食事をしたんだろう」
砂丘の地形は風と雨にさらされて常に変化する。マンゴマンが見つかったのも大雨で表土が流れ去った後だった。「骨を持ち去らなくても、大地と対話しながら歩けば新しい発見がある。教科書の新たなページがめくられるように」とタニア。
科学者は骨を調べることによってアボリジナルに長い歴史があることを証明できると言う。それが何かの罪滅ぼしになるかのように。「だけどそんなことを教えてもらう必要はない。ずっと永遠に、ここに住んできたことを私たちは知っているのだから」
【取材メモ/貪欲な男たち】
「鳥の巣に卵が1個だけなら取ってはいけない。2個あったら1個だけ取っていい」。先住民アボリジナルの伝承は、資源を保ちながら賢く暮らす方法を教えてくれる。
タニア・チャールズが砂丘に絵を描きながら小話を披露した。ある所に欲張りな男がいた。木に登って一番上まで実を食べ尽くしてしまう。横にあった岩を伝っていくと、岩が消えて下に降りられなくなった。貪欲な男は今も月に取り残されているのだという。「マスクやトランプも月に行って帰ってこなければいい」と笑う。
(敬称略、文は共同通信編集委員・吉村敬介、写真は共同通信契約カメラマン・アマンダ・スミス=年齢や肩書は2025年6月4日に新聞用に出稿した当時のものです)
最新投稿・コメント全文リスト コメント投稿はメルマガで即時配信 スレ建て依頼スレ

すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。