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それでは何故に、「天子」と皇族と政府の輩とが、相集うて国を亡ぼそうとしているといえるのか。彼等こそは兵力と小銃大砲と弾薬と、軍資と糧食と運輸機関と、軍艦と通信電線との力によって、この国を西洋に変えようとしている者たちである。黒船を撃ち攘い、国を守ることこそ、維新回天の大業の目的だったではないか。しかるに今や、「天子」と皇族と政府の「姦謀」は、自らの手でこの日本の津々浦々に黒船を導き入れ、国土を売り渡そうとしているではないか。西郷はそれが赦せない、しかるが故に立ったのだと。
熊本の春日神社境内に設けられていた薩軍の本営で、この「別紙」の稿を認めていたときの西郷の心境が、このようなものであったことを私は疑わない。その西郷の心眼が、昭和20年八月末に、相模湾を埋め尽くした米国太平洋艦隊の姿を遠く透視していたことについても、私はほとんどこれを疑わない。今国を守らなければ、遠からず必ず国は滅びる。それなのに熊本県は、「庁下を焼払」い、川尻駅まで鎮台兵を「押出」して、砲撃に及んで来た。何故西郷の心情がわからないのか。
「ただ一蹴して過ぎんのみ。別に方略なし」というよりほかにないではないか。
―――以上引用
江藤淳「南洲残影」より
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