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※紙面抜粋

※2026年4月10日 日刊ゲンダイ2面
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言葉だけ「停戦合意」のバカバカしさ トランプの大罪は「ペルシャ湾の海底の栓を抜いた」こと
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/386334
2026/04/10 日刊ゲンダイ ※後段文字お越し

口先だけの「停戦合意」、また威嚇。こんな合意を歓迎している高市政権の何とおめでたい政権か(C)日刊ゲンダイ
形だけ「停戦合意」の綻びがもう、イスラエルのレバノン攻撃で露呈しているが、こんな合意を歓迎している高市政権のオメデタさ。
それよりも千葉大特任教授の酒井啓子氏が指摘するようにトランプ米国の大罪を糾弾することが大切だ。この戦争がもたらした傷痕と混乱は凄まじいものになるだろう。
◇ ◇ ◇
イランとの2週間の停戦合意をめぐり、米国のトランプ大統領は「完全な勝利だ」と誇っていたが、明らかに薄氷だ。ほんの数時間で綻びが露呈した。停戦を仲介するパキスタンとイランはレバノンを含む地域全体の停戦を主張しているが、イスラエルは無視。対イラン軍事作戦開始後、最大規模のレバノン攻撃を8日(現地時間)に実施した。親イランのヒズボラの拠点が集中する首都ベイルートや南レバノンで100カ所以上を空爆したという。ホワイトハウスのレビット報道官らは「レバノンは停戦合意の一部ではない」とイスラエルを擁護。国際法違反の先制攻撃を食らったイランが黙っているはずがない。
トランプが原油輸送の要衝ホルムズ海峡の開放を停戦条件としたことから、イランのアラグチ外相は当初、〈2週間の間、ホルムズ海峡の安全な運航が可能になる〉とSNSに投稿したものの、〈停戦合意の条件は明確かつ明白だ。停戦かイスラエルを通じた戦争継続か、米国は選ばなければならない〉と一変。態度を硬化させた。
精鋭軍事組織の革命防衛隊も「レバノンへの侵略を直ちに止めないならば、約束を破る米国とそのパートナーに対して痛恨の応酬を与える」と警告。革命防衛隊に近いファルス通信はホルムズ海峡が完全に封鎖され、石油タンカーは引き返すことを余儀なくされると報じた。
戦闘終結に向けた米イラン交渉がパキスタンの首都イスラマバードで11日から始まるとアナウンスされているが、どうなるか。双方が予定通りにテーブルにつくのだろうか。米代表団を率いるのはバンス副大統領で、ウィトコフ和平交渉担当特使とトランプ大統領の娘婿クシュナー氏も加わる。イラン側については、反米・保守強硬派ながら現実路線で知られるガリバフ国会議長が代表団を率いると報じられている。「ラストベルト」と呼ばれるオハイオ州の白人貧困家庭に生まれたバンスは、学費を稼ぐために海兵隊に入り、イラク戦争に従軍した経験がある。過度な外国への介入を嫌い、当初から対イラン作戦に懐疑的だったとされる。それもそのはずで、米紙ニューヨーク・タイムズ(=NYT、8日付)が報じた交戦に至る内幕はひどいものだった。
ネタニヤフが押し売り
NYTによると、対イラン作戦開始から2週間ほど前にあたる2月11日、イスラエルのネタニヤフ首相がホワイトハウスを訪問。トランプからシチュエーションルーム(戦況報告室)に招き入れられ、イラン攻撃に関するシナリオを提示したという。数週間以内にイランのミサイル開発計画を完全に破壊し、ホルムズ海峡の航行の自由を確保した上で、民衆蜂起による体制転換を実現するとの内容だった。トランプは「いい考えだ」と応じたが、ブリーフィングに同席した側近の反応は散々。その後の協議では、新体制移行についてラトクリフCIA長官が「荒唐無稽」と一蹴し、ルビオ国務長官は「たわ言だ」と同調。米軍制服組トップのケイン統合参謀本部議長も「イスラエルはいつも誇張する」とはねつけたという。
ネタニヤフ訪問時に外遊中だったバンスはトランプに対し、「戦争はしないという公約を信じていた有権者が裏切りと受け止めるだろう」と訴えたものの、26日の協議では「悪いアイデアだが、決断する場合は支持する」と軟化。もとより前のめりのヘグセス国防長官は、「いずれはイランに対処しなければならない。いま実行すべきだ」と賛意を示し、ルビオは圧力強化は支持したが、翻意を迫ることはなかったという。NYTは〈ほぼ全員が大統領の直感に従った〉と指摘した。その日はイランの核問題をめぐる両国の3回目の高官協議がスイス・ジュネーブで開かれていた。
ちなみに、ネタニヤフがやたらに好戦的なのは、汚職追及の目くらましと求心力の回復に戦争がもってこいだと見ているからだ。エプスタイン文書をめぐって大汗をかいているトランプといい、2人は似たもの同士。同じ穴のムジナなのである。
今すぐ見直せ うっふん外交

レバノン南部、イスラエルの空爆で立ち上る黒煙(C)ロイター
国際政治学者の酒井啓子氏(千葉大特任教授)は、毎日新聞(9日付朝刊)のリレー連載「激動の世界を読む」にこんな寄稿をしていた。
〈米トランプ政権が、あまりにも過去の例に学んでいないことに愕然とする。ホルムズ海峡の事実上の封鎖や機雷敷設の可能性、タンカーや原油取引の拠点・カーグ島攻撃対象化などは、イラン・イラク戦争(1980〜88年)で経験済みである。イランの安全が脅かされれば、ホルムズ海峡の航行が危険にさらされることは想定できたはずだ。国民に反体制活動や分離運動を促しても、体制による抑圧を強めるだけで政権転覆に至らないことは、湾岸戦争(91年)直後に国内暴動が激しく鎮圧された事例から容易にわかる〉
トランプが青写真もなくイラン戦争に突っ込んだことにより、湾岸諸国全体に「国家・民族存亡の危機」が波及したとし、こう続けている。
〈イラン戦争は、ペルシャ湾の海底の栓を抜いたかのようだ。熟慮ない戦争で「熱戦」化してしまった「中東新冷戦」の業火は、どこまで中東を焼き尽くすか。石油経済への影響にとどまらず、長期的な中東域内政治の動乱と国際政治におけるパワーバランスの変化は、必至である〉
トランプは取り返しのつかない大罪を犯したと言っても過言ではないのだ。にもかかわらず、形にならない言葉だけの「停戦合意」を歓迎する高市首相のオメデタさといったらない。トランプは性懲りもなく関税をチラつかせている。イランに兵器を供給する国からの全ての輸入品に〈直ちに50%の関税を課す〉とSNSに投稿したのだが、いわゆるトランプ関税については米連邦最高裁が違法と判断している。デタラメの果てに打つ手なしなのがアリアリだ。この戦争が生じさせた傷痕と混乱は計り知れない。ただでさえ怪しい高市の看板政策「強い経済の実現」はトランプのせいでますます遠のいている。何の成果も生まないうっふん外交は今すぐ見直した方がいい。
日本経済は「全治2年」
法大大学院教授の白鳥浩氏(現代政治分析)はこう言った。
「高市首相は対米追従が過ぎる。G7メンバーは対イラン軍事作戦を国際法違反だと批判しているのに、高市政権だけが法的評価を避け続けています。日本の国益を一体何だと考えているのか。アジア勢でG7入りしているのは日本だけ。アジアの少なくない国が原油不足に苦しみ、日本に融通を求めている。高市政権はアジアを代表するG7の一員として独自外交を展開し、それこそシタタカに振る舞って、国益の源となる日本の国際的地位上昇を図るべきなのです。日本はイランと伝統的な友好国で、中東諸国とも関係良好。イスラエルとも悪くないですし、言うまでもなく米国の同盟国です。レガシーはしっかり積み上がっている。それなのに、どこまでもトランプ大統領の顔色をうかがい、主体的に動こうとしない。高市首相の言う『世界の真ん中で咲き誇る日本外交を取り戻す』とは、米国にベッタリと寄り添うことなのか」
軍事的優位に立つ米国とイスラエルを向こうに回すイランは非対称戦であらがい、周辺国のエネルギー関連施設に深刻なダメージを与えた。停戦が戦闘終結に進んだとしても、復旧には年単位の時間を要するとされる。みずほ証券チーフエコノミストの小林俊介氏によると、原油価格の高止まりなどで日本経済は「全治2年」の状態だという。企業業績の悪化で1年後も賃金が伸び悩むリスクが潜んでいるからだ。
経済ジャーナリストの荻原博子氏はこう言う。
「総務省が7日に2月の家計調査を発表しましたが、消費は明らかに落ち込んでいます。1世帯(2人以上)当たりの消費支出は28万9391円。物価変動の影響を除いた実質では前年同月と比べて1.8%減り、マイナスは3カ月連続です。インフレにもかかわらず、食料が0.5%減でしたから、可処分所得の減少に伴う買い控えが広がっているのでしょう。もっとも、このデータにはイラン戦争の影響は加味されておらず、家計への打撃が鮮明になるのはこれからです。高市首相は年明け以降の石油調達もメドがついたと言っていましたが、世界的な奪い合いで価格上昇は避けられず、日用品の値上がりは必至。この4月で電気・ガス代の補助は終了し、防衛増税の財源として加熱式たばこが値上がりした。8月からは高額療養費の自己負担限度額が引き上げられる。大変なのはこれからです」
米イラン交渉が予定通り開かれ、進展することしか好材料はない。
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