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※紙面抜粋
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高市「安全宣言」にいくつもの疑問符…石油は足りているのか、いくらになるのか、どう備えればいいのか
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/386379
2026/04/11 日刊ゲンダイ ※後段文字お越し

就任以来「憂い」だらけ(C)日刊ゲンダイ
首相がいくら力んでも、疑心暗鬼の市場、実際手に入らない現場。「足りている」根拠も怪しいことだらけだ。ガソリン補助をバラまく一方で、医療、輸送への優先策など、その場しのぎの「口先」に、庶民はどう備えればいいのか。
◇ ◇ ◇
米国とイランの停戦合意後もなお、要衝ホルムズ海峡は不安定だ。原油の9割超を中東に依存する日本にとって封鎖の長期化は死活問題。いつ船舶の往来は元に戻るのか。ペルシャ湾内にとどまる日本関連のタンカーは脱出できるのか。好転の兆しが見えない中、高まる供給不安の火消しに躍起なのが、高市首相だ。
2026年度予算が成立した7日夜、高市は記者団にこう豪語した。
「年を越えて石油の供給を確保できるメドがついた」
米国などからの代替調達の増加を理由に挙げたが、舌の根も乾かぬうちに10日の中東情勢に関する関係閣僚会議で「石油の国家備蓄を5月上旬以降に追加放出する」と表明した。放出量は国内消費量の約20日分。代替ルートだけでは、前年5月の消費量の半分程度しか確保できない見通しで、流通の目詰まりを防ぐため、追加の放出に追い込まれた形だ。
はたして石油の供給は足りているのか。高市の言い分はちんぷんかんぷん。そもそも高市が「約8カ月分ある」と言い張る石油備蓄自体、ファクトチェックが必要である。というのも、政府は昨年末時点で国家備蓄(146日分)、民間備蓄(101日分)、産油国共同備蓄(7日分)を合わせ、計254日分の石油を確保していると説明。ところが、3月9日の英経済紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は「日本の戦略国家備蓄は約95日分」と報じていた。
政府の説明とは3倍近い開きがある。このギャップは一体、何なのか?
石油備蓄の奇妙な二重基準
まず何をもって「戦略国家備蓄」とみなすかだ。テラ・ネクサスCEOの田代秀敏氏は本紙7日付で〈民間備蓄は民間企業の在庫だし、中身も原油とは限らない。産油国共同備蓄は日本の場合、サウジとUAEで現地のタンクの中にある。いずれもホルムズ海峡を通らなければ、持って来られない〉と解説していた。確かに、真の備蓄と言い切れるかは微妙だ。
残るは国家備蓄だ。その量は資源エネルギー庁の資料によると約2.6億バレル。FTが報じた2.85億バレルと大差ない。違いは「1日分の消費量」でFTの300万バレルに対し、経産省は約180万バレルで計算している。
ちなみに、英ロンドンに本拠を置く国際エネルギー産業団体「エネルギーインスティテュート」(EI)の統計集を見ると、24年の日本の石油消費量は日量約325万バレルとあり、FTとほぼ変わらない。
EIの統計に基づけば、日本の国家備蓄は80日分となり、政府説明から64日=約2カ月分も減る。不可解なギャップについてエネ庁はこう答えた。
「ご指摘の統計の『石油消費量』には、ナフサやLPガスなど石油関連製品の消費量も含んでいるようです。一方、国家備蓄は純粋に石油単体の消費量に基づいています」(長官官房総務課・調査広報室)
奇妙な二重基準だが、裏を返せばナフサなど関連製品の消費量は、石油換算で1日145万バレルもあるということ。石油は確保しても、ナフサなどの供給は心もとないのではないか。この懸念に高市は「少なくとも国内需要4カ月分を確保している」と繰り返すが、根拠はアヤフヤだ。
「高市首相の言う『4カ月分の在庫』とは、輸入及び国内で精製したナフサ2カ月分と、ナフサ由来のポリエチレンなど川中在庫2カ月分の計4カ月分は抱えているということ。決してナフサが『4カ月分ある』わけではない」(経済評論家・斎藤満氏)
ことほどさようなまでに、高市の「安心宣言」には、いくつもの疑問符がつくのである。
「切り詰めて×5」に庶民はもう限界

いきなり220円台に(C)日刊ゲンダイ
石油を精製して得られるナフサは、エチレン、ベンゼン、トルエンなど石油由来の化学品となり、ペットボトルや卵のパック、塗料、接着剤、医療器具、自動車部品……と暮らしや企業活動を支える製品に姿を変える。
高市がいくら「確保した」と力んでも、市場は疑心暗鬼だ。すでに石油化学大手はエチレンなどの減産や出荷制限を開始。関連製品の値上げも相次ぎ、医療現場にも混乱が広がっている。
「医療用グローブの出荷制限など、汎用品の供給に綻びが生じています。グローブは3〜5割も値上がりし、発注から1〜2日でモノが届く大都市圏ですら2週間を要する場合があると聞きます。まもなく学校の歯科検診シーズン。無事に乗り切れるのか心配です」(ある歯科医師)
この先、注射器やカテーテル、点滴や透析用のチューブなどナフサ由来の医療用資材が不足すれば患者の治療・手術も滞ってしまう。命に直結する事態すら危惧されているのに、高市は「直ちに供給途絶が生じることはない」と連呼するのみ。
石油元売り大手に病院や公共交通機関など重要施設向けに卸売りを通さず、重油や軽油を直接販売する優遇策を打ち出したが、その場しのぎの「口先」の域を出ない。根本「治癒」にはならないのだ。前出の斎藤満氏が言う。
「ガソリン価格を1リットル=170円に抑える補助金の額も過去最高水準の約50円に拡大。この水準が続けば月5000億円の予算を要し、確保した約1兆円の財源も5月に底をつく。いきなり補助金を打ち切れば220円台に跳ね上がり、国民はパニックとなる。だからこそ段階的に縮小し、省エネを呼びかけるべきなのに、高市首相は『普段通り』の給油を促し、『経済活動にブレーキをかけるような形で、今すぐ節約してくださいと申し上げる用意はない』と現状認識を疑う発言を続けています。愚の骨頂です」
原発の燃料もまた輸入頼み
石油化学製品の高騰・減産は、弁当容器や包装資材の値上げ・品薄につながり、スーパーやコンビニといった流通全体にコストプッシュ圧力がかかる。原油高は化学肥料や飼料の価格上昇も促し、農・畜産業のコストも押し上げる。あらゆる日用品の値段が跳ね上がり、令和の狂乱物価は「待ったナシ」の状況だ。
「よしんば原油やナフサの供給を確保できたとしても、イコール安くはならない。今後も価格が元の水準に戻るとは考えにくい」と言うのは、経済ジャーナリストの荻原博子氏だ。ホルムズ海峡の通航料が上乗せされたり、船舶保険料の高騰リスクもある。中東以外の代替ルート確保も航行距離が延びれば即、コスト高要因となってしまう。
「庶民は長期戦覚悟です。しかし、その『備え』は切り詰めて切り詰めての節約しかなく、ここ数年の物価高で多くの庶民は実践済み。もはや限界に近いのは、消費減退の形で総務省の家計調査に表れています。今夏も猛暑が予想され、光熱費の上昇から冷房を我慢すれば、熱中症の死者を増やすだけです。国の税収額は5年連続で過去最高を更新。今こそ庶民に還元すべきですが、高市政権が衆院選公約に掲げた消費税減税も『やるやる詐欺』の気配です。今年度中の実施から『早くて27年秋ごろ』にトーンダウンし、踏んだり蹴ったりです」(荻原博子氏=前出)
かつて高市は「サナエあれば、憂いなし。」を自身のキャッチコピーに掲げたが、首相就任以来、この国は「憂い」だらけではないか。高千穂大教授の五野井郁夫氏(国際政治学)はこう言った。
「政府に今、求められているのは過度にホルムズ海峡に依存した原油調達の見直しはもちろん、エネルギー自給力の向上です。そのために必要なのは、原発回帰ではない。なぜなら原発のウラン燃料は、全量を海外輸入に頼っています。今回の供給不安を機にエネルギーの地産地消を目指すなら、再生可能エネルギーの普及に取り組むしかありません。高市首相が強く主張する経済安全保障の観点からも最善の策です」
この国の「備え」に努めるべきは庶民ではない。高市の方だ。
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