ドイツのイリュミナティ

 
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投稿者 SP' 日時 1999 年 11 月 03 日 09:28:10:

回答先: メーソンの魔術的起源(Eliphas Levi) 投稿者 SP' 日時 1999 年 11 月 03 日 09:22:54:

 ドイツは形而上的な神秘主義と亡霊の生まれ故郷である。かつてのローマ帝国の亡霊そのものであるこの国は、ヘルマンにウァルスの囚われの鷲の幻を捧げて、彼の大いなる影をつねに呼び起こしているように思われる。ドイツの青年の愛国心はつねに古代のゲルマン人の愛国心と同じである。彼らはイタリアの晴れやかな国土を侵略することなど夢見てはおらぬし、たとえそうするとしてもせいぜい復讐の意味でしかない。しかし、自分たちの家庭を守るためなら、千回でも命を投げ出すであろう。彼らは祖国の古城、ラインの河縁の古い伝説を愛している。彼らは独自の哲学のこのうえなく難解な理論書を我慢強く読み、祖国の空に漂う霧と彼らのパイプからたなびく紫煙のなかに、自分たちを別世界の驚異へと導く多くの曰く言いがたいことどもを見ているのである。
 アメリカとフランスで《霊媒》と降霊術のことが話題になるずっと以前から、プロシアには死者と定期的に会談するイリュミナティや見者がいた。ある大物の領主がベルリンに降霊会のための家を建てた。フリードリヒ・ヴィルヘルム王はこうした神秘的出来事にいたく興味を示し、しばしばこの家に《シュタイナート》という名の秘儀精通者とともに籠った。そこで受けた印象は彼の内面に強烈な衝撃を与え、その結果、彼は気を失い、カリオストロの霊薬に似た魔法薬を数滴含まされてやっと正気づいたのであった。リュシェ侯爵がその『イリュミナティに対する誹謗書』の中に引用している、この王の治世の初期に属する秘密書簡には、降霊会が開かれていた暗室の描写が見られる。その部屋は四角形をしており、透明なカーテンで二つに仕切られ、そのカーテンの前には魔法の竈あるいは香を焚く祭壇が設えられていた。カーテンの後ろには、霊が現れる台座が置かれていた。エッカルツハウゼンはドイツ語で書いた魔術に関する著作の中で、この幻影装置の全体を描写している。それは、想像力が望む通りに幻影を創り出すことを手助けし、霊に伺いを立てる者を阿片もしくはハシシュによる神経の過剰興奮に似た、意識の覚醒したある種の夢遊状態に投ずるための機械仕掛の装置であった。いま引用した著者の説明で満足できる者は、霊の出現に幻灯の効果だけしか認めぬであろう。しかし、それには別の要素が確かにあるのだ。幻灯はこの件においては、現象を産み出すのに便利ではあるが決して必要不可欠な道具ではない。色硝子の反射から、旧知のいまも思い出に残る顔を現出させるわけにはいかぬ。幻灯に描かれた像を喋らせることもできぬし、その像が良心上の質問に答えにくることもない。この家の持主であるプロシア王は、この家がいかなる仕組みになっているのか驚くほど知っており、秘密書簡の書き手が言うように、ペテンに引っかかるようなことはなかった。自然な方法は驚異を準備するが成就させるまでには至らぬ。そこには現実に、いかに疑り深い者でも驚かせ、どんなに大胆不敵な者でも狼狽させる何かが起こったのである。それに、《シュレプファー》は幻灯もカーテンも使わなかった。彼は訪問者に用意したパンチを飲ませただけである。彼が出現させた幻像はアメリカ人の霊媒《ホーム》と同じく半ば肉体を持ち、それに触れようとした者たちに不思議な感触を与えた。それは表皮を震わせる電撃に似たものであったが、幻影に触れる前に、用心して手を濡らしておくと何も感じなかった。シュレプファーはアメリカ人ホームと同様に誠実であった。彼は呼び出した霊の実在を信じており、それに疑いを持つようになって自殺したのである。
 《ラーヴァター》もまた変死を遂げたが、彼も完全に降霊にのめり込んでいた。彼は配下に二つの霊を従えていた。彼はあるサークルに属していたが、そこでは、一同グラスハーモニカを使って恍惚状態になり、それから数珠繋ぎになって、知恵遅れ気味の者が霊との交信者役を務め、そのお告げを無意識のうちに書き取った。この霊は自らをイエス・キリストの生誕前に死んだユダヤのカバラ学者だと称し、《カアニェ》の書に出てくる夢遊症者に匹敵することどもを霊媒に書き取らせた。(中略)
 神秘主義よりも危険なものはない。なぜなら、それは、人知のあらゆる目論見を挫折させる狂気を産むからだ。世界を顛覆させるのはいつでも狂人である。偉大な政治家でも予測できぬこと、それは常軌を逸した者の軽率な行動と奇襲である。エフェソスのディアナの神殿の建設者は不滅の栄光を期待したが、エロストラートのことは計算に入れていなかった。
 ジロンド派は《マラー》を予測していなかった。世界の均衡を変えるには何が必要か。パスカルはクロムウェルについて言っている。それは、一人の男の内臓に偶然できた一粒の砂であると。なんと多くの大事が、取るに足りぬ理由によって成就していることか。文明の神殿が崩壊するとき、その柱を揺さぶったのはいつもサムソンのような盲目の者である。ある最下層民のくずが不眠に陥り、自分は反キリストからこの世を解放する使命を帯びているのだと信じ込んだ。この男はアンリ四世を刺殺し、茫然自失しているフランスに《ラヴァヤック》という名を知らしめた。ドイツの魔術師たちは《ナポレオン》に『黙示録』のアポリオンを認めた。当時その両肩に無秩序の混沌から引き上げた世界を担っていたこの軍人アトラスを殺すために、《シュタープス》という名の子供、啓示を受けた若者が存在した。しかし、皇帝が自分の《星》と呼んでいたあの磁気の影響力は、このとき、ドイツのサークルの狂信的な活動よりも強力であった。シュタープスは一撃を加えることができなかった、あるいはあえてそんな冒険に出なかった。ナポレオンは自らその若者を尋問し、彼の決意と大胆さを称讃した。とはいえ、彼は自分がどれほど偉大であるか知っていたので、この第二のシェボラに情けをかけることによってこの者を貶めたくはなかった。そこで、皇帝は彼を充分評価しその行いを真摯なものとして受け取って、彼を銃殺刑に処したのである。
 《コッツェブー》を殺した《カルル・ザント》もまた、短剣に復讐を誓う秘密結社によって道を誤った、神秘主義の不幸な迷い子であった。コッツェブーはおそらく平手打ちを受けるにはふさわしかったろうが、ザントの短剣が彼を復権させ、殉教者に仕立てあげた。確かに、待ち伏せし暗殺することにより復讐を遂げる者たちの敵としてその犠牲となって死ぬことは美しかろう。ドイツの秘密結社は、古代の魔術に多かれ少なかれ関連する儀式祭礼を行っていた。たとえば、モプスの結社では、サバトの秘儀とテンプル騎士団の秘密の入会式を、和らげほとんど滑稽にしたかたちで新たに執り行っていた。バフォメットの雄山羊は犬に取って代えられ、パンのかわりにヘルマヌビスが崇められた。自然の占める地位には学問が置かれていたが、これは同等な代替物と言えた。というのも、学問を通してしか自然を知ることができぬからだ。サバトにおけるように、モプスのもとでは男も女も受け入れられていた。入会式は咆哮と顰み面とともに行われた。テンプル騎士団と同じく、新入会員には、悪魔の尻か、大首長の尻か、モプスの尻かいずれかを選んで接吻することが申し渡された。モプスとは、先ほど言ったように、ドイツ語 で《モプス》〔狆の一種〕と呼ばれる犬を表した、煤を塗りたくったボール紙の小さな像のことであった。実際、この結社に迎え入れられるには、サバトの秘儀参入式で雄山羊メンデスの尻に接吻したように、モプスの尻に接吻せねばならなかった。モプスの団員は互いに誓約を交わしあうようなことはせず、単に誓いの言葉を言うだけであった。それが誠実な者にとっての最も神聖なる誓約であった。彼らの集会はサバトと同じくダンスと宴のうちに進んだ。ただし、女性は服を着たままで、サバトのように生きた猫を腰帯にぶら下げることはせず、幼子を喰いもしなかった。それは文明化されたサバトであった。
 ドイツにはサバトを描いた大詩人がおり、魔術を描いた叙事詩があった。この叙事詩とはファウストの壮大なドラマ、人類の天才が完成させたあのバベルの塔のことである。《ゲーテ》は哲学的魔術のあらゆる秘儀に通じており、若い頃には儀礼魔術を実践しさえした。彼にとってその大胆な試みの結果は、初めは人生に対する深い嫌悪の情と強烈な死の欲求であった。実際、彼は自殺を敢行したが、それは行動においてではなく、書物の中でであった。彼は、死を説いてあれほど賛同者を得た危険な作品、『ヴェルテル』の小説を書いたのである。それから、意気阻喪と嫌悪の情に打ち勝ち真理と平安の清澄な次元に到達した彼は、『ファウスト』を書き上げたのであった。ファウストは、福音書中最も美しい箇所の一つである放蕩息子の寓話の見事な註釈となっている。これは反抗的な学問を経て罪へ、罪を経て苦痛へ、そして苦痛を経て贖罪と調和的な学問へと参入する物語である。ファウストによって代表される人類の天才は、従僕に悪魔を採用し、この悪魔が主人に取って代わろうと躍起になる。ファウストは、想像力が思い描く道ならぬ恋の悦びをすべて早々に汲み尽し、狂気の宴を通り抜け、至高の美の魅力に惹きつけられて、幻滅の底から抜け出し、抽象と不滅の理想の高みへと昇っていく。そこでは、メフィストフェレスはもはや自由気儘に振舞うことができず、仮借なき冷笑家は悲しみに沈み、ヴォルテールはシャトーブリアンに席を譲る。光が射すにつれ、暗黒の天使は身をよじり苦しみ悶える。天使たちが彼を鎖に繋ぐ。彼は心ならずも天使たちを崇め、愛し、泣き、屈服するのである。
 劇の前半で、ファウストが無理やりマルガレーテから引き離される場面があった。そのとき天の声は、彼女は救われた、と叫んだが、実は、彼女は刑場に引き立てられていたのである。しかし、ファウストはそれで駄目になるのであろうか。相変わらずマルガレーテの愛を受けているのだから、彼の心はすでに天と永遠の誓いを交わしていることにならぬか。連帯による贖罪の大作業はここに成就する。受刑者は刑の執行人を改心させねば、拷問の傷を癒せぬのではないか。許すことが天の子の復讐ではないか。先に天に達した愛は、親和力によって学問を己のもとに引き寄せる。ここに、キリスト教がその見事な総合としての姿を露にするのである。新たなエヴァはアベルの血でカインの額の汚れを洗った。彼女は、しつかりと抱き合った二人のわが子の上に嬉し涙を流すのである。
 爾来不用となった地獄は、天の拡大によって閉ざされる。悪の問題は最終的解決を見、唯一必要な勝利者の善が、これから永遠に支配するのである。
 以上が、全詩人中最も偉大な者の美しき夢である。しかし、あいにく、ここでは哲学者としての彼が均衡の全法則を忘れ、光を陰なき輝きのなかに、運動を生の停止である絶対的休息のなかに吸収しようとしている。目に見える光があるかぎり、その光に比例して陰がある。休息は同等の反対方向の運動により釣合がとれていなければ、決して幸福とはならぬであろう。自由な祝福があるかぎり、涜聖もありえよう。天があるかぎり、地獄もあろう。これが自然の動かぬ法則である。これが神という正義の永遠に変わらぬ意志である。(p444-450)



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