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小泉改革の真の目的はいったい何なのか? 〜2002年の経済展望 〔プライオール投資顧問〕 投稿者 PBS 日時 2002 年 5 月 15 日 22:37:51:

2002年の経済展望


小泉改革の本質は、構造改革に名を借りた財政再建であることが明白となった。これは、橋
本政権を遠隔操作した大蔵(財務)官僚が、大蔵省スキャンダルから完全復活し、小泉政権に
おいてますますその影響力を拡大して、小泉政権をコントロールしているためだ。

そして、その財務省が最大の目標としているのが、財政の再建である。なぜ財務省が財政再
建を第一とするかは、財政が破綻すると財務官僚の利益となるような政府支出ができなくなる
ばかりか、予算配分で財務官僚が他省庁に色を付けることもできなくなるからだ。そうなると、
財務省の影響力が低下するので、そうした事態を避けて影響力を維持・拡大することが、財務
省の利益になるためなのである。「嫌われ者の財務省だけが国家国民のことを考えている」とい
うようなナイーブなものでは決してない。自分たちの利害が掛かっているからこそ、財務省は
財政再建に必死なのだ。


1、国債暴落の阻止が政府の最重要目標

それでは、財務省が財政再建を成すために、今最も重要だと考えていることは何であろうか。
最終的には政府収入の増大、すなわち増税や社会保険料の値上げだが、それらは当面は難しい。
政府支出の削減も他省庁や族議員の抵抗で大規模にはできない。だとすると、財政再建には長
い時間がかかるので、それまでは財政を破綻させないこと、すなわち日本国債を暴落させない
ことが現下の最重要目標となるのである。

それは、国債が暴落すると、日本がどういった状況に陥るかを想像してみれば一目瞭然だ。
国債が暴落すると、国債の利払い負担の急増と資金調達難で財政は直ぐにも破綻するだろう。
1992 年頃まではごく一般的であった金利水準で、国債先物の表面金利でもある6%にまで国債
の利率が上昇した時を考えてみよう。2002 年度末の政府の長期債務残高は693 兆円であるか
ら、国債の利率が6%とすると年間の利払い負担は約42 兆円(単純化するため全債務が6%に
なったと仮定)にもなり、年間の税収(約49 兆円)の9 割に達する。国債の利率が7%になる
と、国債利息の支払いだけで税収の全てを使ってしまうことになる。一般の予算はおろか公務
員の給与さえも払えなくなるのである。もちろん、景気対策を打つことも、株価のPKO もで
きなくなる。

加えて、国債を大量に保有する大手銀行の破綻が続出し、ゼロ金利だからこそ生き長らえて
いる債務過大企業も倒産続出となろう。更には、同じように国債を大量保有する日銀も信用不
安に陥らざるを得ない。

要するに、国債が暴落すると、倒産の続出や失業者の急増ばかりでなく、国家財政も破綻し
て株価と円の暴落も避けられないのである。ゼロ金利で辛うじて支えられている地価も暴落す
るなど、文字通り日本は恐慌に突入することになる。だからこそ、財務省の現下の最重要事項
は、国債の暴落阻止なのだ。

小泉政権が与党内の大きな抵抗にも関わらず、曲がりなりにも新発国債を30 兆円以下に抑
え、政府支出を削減するために特殊法人改革を推し進めようとしているのも、まさしく財政再
建のため、引いては国債を暴落させないための最低限のことなのである。

「日銀は自殺した」(木村剛氏)という昨年3 月19 日の日銀の量的緩和策への移行も、冷静
に見れば国債の暴落阻止以外の何物でもない。ゼロ金利ゆえに、金利の引き下げ余地がないと
はいえ、日銀当座預金残高を増加させるという量的緩和策に何の効果があるのか。一般企業や
国民に金が回らないのが分かっていても日銀当座預金残高を増やすのは、銀行に国債を買わせ
るためでしかない。ましてや、もう一つの量的緩和策である日銀による国債買い切りの増額は、
日銀自身による国債PKO そのものである。
現在の小泉政権が進めている経済政策は、その全てが財務省の最重要目標とする国債の暴落
を阻止するためのものなのである。


2、円安が景気を回復させるための唯一の経済政策

国債暴落の阻止は守りの政策であり、財政再建も景気には悪影響を与えることは、小泉首相
にも分かっている。国民に「痛みに耐えよ」とは言っても、景気回復のために何らかの政策を
打つ必要がある。しかし、金利の引き下げ余地はなく、財政出動も国債暴落阻止という大目標
があるために使うことができない。そこで、小泉政権の誕生とともに円安政策が戦後初めて日
本の国家政策として登場することになったのだ。すなわち、円安により日本の輸出企業の収益
を改善し、輸出を増やし景気回復に結びつけようというものである。

従来の日本の為替政策は、海外との貿易摩擦を解消するための手段であった。日本の貿易黒
字が膨らみ海外との間で貿易摩擦が激化すると、相手国は日本に内需拡大と市場開放を要求し
てきたが、日本は常に、「貿易黒字を減らせばいいんだろう」と円高によって日本企業の輸出採
算を悪化させ、日本からの輸出を減らすことで対応してきたのだ。
それは、内需拡大や市場開放をするには、多くの経済的規制を撤廃しなければならないから
だ。政治家や霞ヶ関の官僚は、そうした経済的規制があるからこそ経済界に対する影響力を持
つことができ、それらにまつわる利権から美味い汁を吸うことができたので、規制の撤廃など
とんでもない事だったのだ。

ところが、現在では、さしたる貿易摩擦もない。それなら、円安の方がいい、となってきた
のである。円安で輸出企業を儲けさせれば、景気回復につながるという目論見だ。だが、実態
は、財政を使って景気を刺激することも、金融を緩和することもできなくなったので、もはや
円安をテコに日本の輸出企業に頑張ってもらうしか日本の景気を支える手がなくなってしまっ
たということだ。現政府が採り得る残された唯一の経済政策が、円安政策だったのである。

しかし、自分たちの利権を守ることだけに汲々としてきた結果、日本経済の競争力そのもの
が衰退してきた。現在では、日立や東芝のような政府と一体で動く「日本株式会社」は競争力
を失い、競争力を維持している優良な輸出企業は海外に生産を移転している。日本の賃金は、
中国の10〜20 倍以上。中国との輸出競争力の差は歴然としている。日本国内のコスト高など
を背景に海外に製造設備を移管する企業は後を断たず、産業の空洞化は加速する一方なのだ。
もはや日本は輸出では稼げないのに、残された最後の景気刺激策も、いまだに輸出主導の景気
回復策しか打ち出すことができない、というのが小泉政権の実態といえよう。

要するに、小泉政権の経済政策とは、国債の暴落を避けることを第一にしつつ、円安によっ
て景気テコ入れを行い、その間に不良債権処理問題に目処を付けること、というものである。


3、国債の暴落は回避できるのか

国債の暴落を回避できるかどうかは、国債が暴落する前に不良債権の処理に一定の目処を付
けられるかどうかが最大のポイントとなろう。

民間の不良債権残高は、少なく見積もってもいまだに100 兆円を超えている。民間銀行は、
過去営々と蓄えてきた剰余金(内部留保)を使い果たし、今期には法定準備金にまで手を付け
る。株式も含み益どころか大きな含み損を抱えている。預金金利を引き下げることにより預金
者から取り上げてきた預金利息も、これ以上は預金金利を下げられないから、銀行の収益が良
くなることもない。従って、2 年から3 年で不良債権を償却することなど、もはや自力では到
底できない。

これに加えて、政府や特殊法人が抱えている公的部分の不良債権問題が今後注目を浴びてく
る。一説には、その額は150 兆円とも推測されており、公的不良債権の処理はダイレクトに税
金投入と結びつき、国債増発に直結するから、民間銀行の不良債権問題よりも更に深刻なので
ある。

ゆえに、どうすれば、或いはどうなれば、不良債権を処理できるようになるのかは、常識的
には想像を絶している。唯一の可能性としては、地価と株価の二つの資産価格が今後大幅に上
昇していくことだけだ。すなわち、「バブルよもう一度」と期待することだけなのである。

ところが、日本の地価は欧米先進国と比較しても、今でも2 倍から3 倍も高いので、地価は
更に下落せざるを得ない状況である。それは、これまでの政府も、過去10 年超にわたって、「バ
ブルよもう一度」とミニバブルを起こすために、必死で財政と金融の両面から資産価格PKO
を続けてきたためである。しかし、今までの政策では不十分ということのようだ。世界のどの
中央銀行も行ったことのない量的緩和策を日銀は打ち出し、日銀が土地を買い入れることなど
も議論されるようになってきているのである。


これまで出来なかったことが今後できるとは考えられないが、何らかの奇跡が起こって地価
が上昇し始めたとしよう。だとすると、その時には、当然のことながら金利も上昇し始める。
今のゼロ金利のままで地価が上昇するとしたら、誰もが借金をして土地買いに殺到するからだ。
ところが、金利が上昇すると、土地の収益還元利回りも上昇するから、今度は地価が下落する。
1990 年までのバブル期には、土地の評価に収益還元法を使うことはなく、近隣比較法(取引
事例価格)などという日本独自の評価法がまかり通っていたから、地価は金利を無視すること
ができた。しかし、1997 年以降は日本の土地評価も激変し、いまやその土地が産み出す収益か
ら地価を逆算する収益還元法が最大の評価基準になっている。

それを要約すると、購入した土地が産み出す収益(通常は賃貸収入)が、その土地の価格の
何パーセントかを表す「収益還元利回り」が、土地購入のための資金借入れコストと不動産の
維持・管理コスト、ならびにリスク・プレミアム、そして利益を合計した率を上回る必要があ
る、というものである。

話は少しそれるが、簡単な事例で考えてみよう。今、ある土地の価格が1億円として、年500
万円の収益(賃貸収入)を得ているとすると、その土地の収益還元利回りは5%である。とこ
ろが、資金の借入れコストが2%上昇したので、収益還元利回りも7%に上昇したとする。収
益(賃料)が上がらないとすると同じ500 万の収益を得るためには、地価が7143 万円(500
万円÷7%)にまで下がらなければならない。金が2%上昇しただけで、地価は28.6%も下落
するのだ。金利が3%上昇すると地価は37.5%も下落するのである。


*因みに、現在の日本の収益還元利回りは、8%から10%以上と推定されている。
収益還元利回り> 資金借入れコスト(3〜5%)+維持・管理コスト(2〜3%)
+リスク・プレミアム(2〜3%)+利益(1〜3%)=8〜14%

*収益還元法(DCF)について詳しくお知りになりたい方は、下記のHP をご参照下さい。

「不動産収益価格の理論と実際―定着したDCF法― 」
http://www.reinet.or.jp/study/jp/2-rondan/2B-syueki.htm

「不動産鑑定評価における収益還元法利用の史的概観」
http://www.reinet.or.jp/study/jp/2-rondan/2A-rondan.htm


話を元に戻すと、地価が上がれば金利が上昇し、そして金利が上昇すると今度は地価が下落
するという関係にあるから、これ以上金利が下がらないという現状では、地価が上昇するとい
うシナリオの実現性は小さい。しかし、それでも強引に地価を上昇させるとすれば、金利も急
騰せざるをえなくなるのだ。

金利の急騰は、国債の暴落そのものだから、不良債権を処理する前に国家財政が破綻してし
まう。これでは、元の木阿弥だ。国債が暴落する前に不良債権の処理に一定の目処を付けると
いうのは、やはり至難の業といえよう。

4、内外価格差の実態

現在の日本が危機的な状況にあるのは、バブルが崩壊して12 年が経過した現在においても、
地価、株価、賃金などが欧米先進国と比べてもいまだに2倍から3倍も高いという事実に集約
されている。10 年以上の年月をかけて価格の調整をしてきたにも関わらず、収益性を度外視し
てきたために、収益との対比で日本の高コスト体質は何ら改善されていないのである。これが、
日本がかかえる最大の構造問題だ。

更には、これまでの百数十兆円にも及ぶ景気対策や金融緩和策は、景気対策自体を利権と考
える政治家や官僚によって、金を使うことが目的とされたから、その殆どが無駄玉となった。
ゆえに、不良債権は減少せず、国家財政も破綻の淵、金利の引き下げ余地もなくなってしまっ
たのである。

日本の構造問題を解決するということは、日本の資産価格や賃金を欧米先進国の水準と調和
させるということだ。従って、そのためには地価、株価、そして賃金を現状の2分の1から3
分の1に下げなければならないが、現実的には不可能である。それこそ恐慌に突入し、社会暴
動も起こるであろう。

そこで、日本の資産価格や賃金を欧米先進国の水準と調和させるには、円を切り下げるしか
方法がない。ただし、2割や3割程度の円安では到底間に合わない。円を1ドル200 円から300
円へと暴落させ、日本の賃金や資産価格を外貨(ドル)に換算して2分の1から3分の1にす
るしかないのだが、そうなると一般消費財の物価が高騰することになる。

というのは、日本の諸物価の内外価格差が極めていびつだからである。すなわち、資産と賃
金以外の物価は、公共料金を例外として、内外価格差は大きく縮小してきており、今ではせい
ぜい2割から3割程度になっているからである。

従って、円相場を1ドル200 円から300 円へと暴落させると、一般消費財の物価高騰、ハイ
パー・インフレとなるのである。すなわち、日本人の賃金が上昇すると期待できない以上、生
活水準が大幅に下落するという事態が、容易に予想されることになるのである。

しかし、資産価格の下落を止めるには円安しかなく、小泉政権が円安政策を最後の頼みの綱
にしている実態がここにも浮き彫りとなってくる。一般の消費財も含めて日本の物価は海外よ
りまだまだ高いわけだから、物価に下落圧力がかかってくるのは当然だが、それを「デフレ」
と称して「デフレ解消のための調整インフレ策」を強力に推し進めているのが小泉政権の姿勢
である。

すなわち、「デフレ解消」の名の下「ハイパー・インフレ」のマグマを膨張させ続けているわ
けだ。適度なインフレを起こして、景気刺激と同時に国債返済の負担も実質的に少なくしよう
というのが政府の希望的シナリオなのだろうが、蓄積したマグマを適度にコントロールするこ
とは至難の技だ。マグマはいまだ地表には現れていないが、少しでも亀裂が生じれば、いつ何
時噴出してもおかしくない状況になってきているのである。

−−− まさに購買力平価や貯蓄投資バランス論を無視した、プラザ合意による人為的な為替操作
の影響というところでしょう。日本経済は今なお、あの時の亡霊に付き纏われているということで
す −−−


5、円相場の見通し:円は下落するしかない

以上のことから、今後の円相場の見通しは、「円は下落するしかない」と結論づけざるを得な
い。テクニカル(チャート的)にも昨年末の127 円割れで過去20 年の円高トレンドが終了し
た。変動相場制に移行した後の過去30 年の円高トレンドが終了するには、140 円を下回るこ
とが必要だが、過去20 年の円高トレンドが終了したことの意義は、現在の経済状況や政府の
円安転換などと考え合わせると極めて大きい。(別紙チャート参照)

財務省や日銀の人たちの話を聞いていると、130 円台までの円安は彼らにとって「都合の良
い円安」と分析できる。しかし他方で、140 円を超えてくると「都合の悪い円安」に転化する
ことの懸念を示している。そこで、円安が130 円台の後半に入る時点で、それ以上の円安を防
止するための議論が喧しくなってくる可能性が高いと予想する。

「都合の悪い円安」とは、円が更に下落することを心配せざるを得なくなるような円安のこ
とで、円の下落を防ぐために円資金の金利を引き上げる必要が生じること、更には、それらに
より日本国債の暴落につながりかねなくなることである。日本国債が暴落したら一巻の終わり
だから、円安が「都合の悪い円安」に転化しそうになると、金融当局は円安阻止に必死になる
に違いない。

ただ、円高の阻止は日銀が「円」を印刷してドルを買えばいいわけだから無限にできるが、
円安の阻止は円を買うためにドルを売らなければならないから、無限にはできない。為替介入
のために売ることができるドルの総額は、一義的には日本が保有する外貨準備の残高(約4000
億ドル=約50 兆円)の範囲内、そして最終的には日本が海外から借り入れることができるド
ル(外貨)資金の範囲内に限定されてしまう。すなわち、円安阻止のための為替介入には限界
があるわけで、日本の金融当局もいずれは円安を阻止できなくなると予想する。

テクニカルには、先ほどの1ドル=140 円が当面の最大の抵抗線と考えているが、そこを下
回ると、160 円、180 円、200 円、と約20 円毎に比較的大きな抵抗線がある。私の予想は、ま
だしばらくは「都合の良い円安」が続くものの、時間の問題で「都合の悪い円安」が始まり、
最終的には「円は暴落していく」というものでる。

タイミングとしては、今年の3 月末までは140 円を下回る可能性は小さいと予想している。
そして、4 月以降はいつ円の下落に弾みがついてもおかしくないと考えているが、財務省の「都
合の悪い円安」に対する危機感が極めて強いことと、日本の外貨準備高がまだ豊富にあるため、
その後もしばらくは円安阻止のための為替介入は強力なものが予想される。従って、年内は、
150 円を切るような円安の可能性は高くないと予想する。

個人投資家(機関投資家もだが)も、前回の円安が加速した1998 年に、140 円を超えてか
ら外貨に投資して大火傷を負ったために、その時の痛い記憶が生々しく、今回は140 円を越え
ても、そして150 円や160 円程度にまで円が下落しても、なかなか外貨投資には踏み切れない
のではないだろうか。

しかし、国民(預金者)も遠からず、「日本は世界で最も金利が低いのに、リスクは非常に高
い国であること、そして、政府は円安政策を国策(最後の頼みの綱)にしていること」、を認識
するだろう。そして、円安傾向が1年、2年と続いていって、そこで初めて「この円安は今後
も続きそうだ」と、日本から海外への資本逃避(キャピタル・フライト)が本格化していくも
のと予想する。

従って、大半の預金者や投資家は、円が大幅に下落した後に大規模に動き始めるのではない
だろうか。その時点では、円相場の水準も1ドルが200 円程度にまで下落しているのかも知れ
ない。すなわち、一定の時間が経過し、円相場の水準も大幅に下落した後に、円の暴落が加速
するものと予想する。

ユーロ相場については、対米ドルで上昇する可能性が高いとみている。ユーロは、1999 年1
月1日に1 ユーロ=1.18 米ドルでスタートしたが、スタート時の相場が高過ぎたにせよ現在の
1 ユーロ=0.9 ドルを下回る水準は安過ぎると思われる。今年の年初のユーロ現金流通開始で、
通貨の切り替えに混乱が生じることが懸念されていたが、歴史的なことであるだけに欧州各
国・国民が断固とした決意を示す形で、切り替え作業も無事にスタートした。

通貨の切り替えは今年の2月末で終了するが、切り替えが無事に完了すれば、ユーロに対す
る信認も一段と上昇し、ユーロ現金に対する需要も増えてくるだろう。また、欧州以外の各国
中央銀行は、ユーロ経済圏の大きさに見合って外貨準備へのユーロ組入れ比率を高め、米ドル
偏重を修正する意向を示しているので、そうした観点からも今後はユーロが米ドルに対して上
昇するものと予想する。

ユーロ相場は、ヨーロッパの英知を集めて決めただけに絶妙の水準、すなわち1 ユーロ=1
ドルを想定したものではないかと思われる。そして、長期的な南北アメリカと欧州の1 対1 で
の経済統合、といったことも視野に入っているのかも知れないとすら思わせるのである。ユー
ロにとって今後の最大イベントは、英ポンドのユーロ参加問題だが、南北アメリカと欧州の経
済統合の可能性まで考えると、英ポンドもいずれユーロに参加せざるを得ないと予想する。

ゆえに、ユーロ相場は、1 ユーロ=1 米ドルに収斂していくのではないかと見ている。従っ
て、1ユーロが1米ドルに達するまでは、ユーロが最も強く、次に米ドル、最も弱いのは円と
予想する。

相場は予想を口にすると外れるのであまり書きたくはないのだが、私が予想しているイメー
ジとして為替相場のレンジをまとめてみる。


2002 年前半   2002 年後半   2003 年   2004 年以降

円相場安値140 円150 円180 円暴落も
円相場安値125 円140 円170 円
(対米ドル) 高値127 円135 円140 円
ユーロ相場安値0.88 j0.90 j0.95 j1 対1 に
(対米ドル) 高値0.92 j0.95 j1.00 j収斂
(対ユーロ) 高値112 円120 円130 円

6、日本株の株価見通し:危ないのは4 月以降

今後の株価見通しも、株価が上昇するような状況を想像することは極めて難しい。ところが、
年初恒例のエコノミストや企業経営者らによる今年の株価予想は、またも年初に安値を付け、
年末に向けて株価が上昇していくというものだ。1990 年を境に年間の相場つきも180 度変わ
っているにもかかわらず、彼らの発想はバブル時代のままなのである。(別紙参照)

私の株価見通しは、3 月期末までは株価の底割れが回避されるものの、4 月以降は暴落もあ
りえるというものである。

そのように予想する第一は、大手銀行が今期の決算を取り繕うために、過去の蓄積ばかりか
株主資本にまで手を付けて、不良債権を償却するための原資が何にもなくなってしまうことで
ある。銀行の本業の収益である業務純益は過去最高の水準にあるが、これはゼロ金利政策のお
陰である。しかし、預金金利を引き下げて預金者から利息を取り上げることがもうできない以
上、業務純益が増えることはない。むしろ、今後の金利は上昇せざるを得ないので、業務純益
も今後は減少していくことが予想される。

ところが、その過去最高の業務純益をベースに株価評価を行っても、日本の銀行株は欧米の
銀行株よりいまだに2 倍から3倍も高い。日本の銀行株自体が、ここから半値あるいは3分の
1にならないと、海外の銀行株と整合性がとれないのだ。更には、銀行が保有する持合い株に
おいても、大きな含み損をかかえ込む状況になっている。従って、「今年3月期の決算はともか
く、2003 年3月期の決算をどうするのか」ということが、今3 月期の決算が終了してから危
機として意識されるようになると予想する。

第二は、ペイオフの問題だ。今年4月からペイオフ凍結が解除されると騒いでいるが、解除
されるのは定期性の預金だけだ。普通預金や当座預金など決済性預金のペイオフ凍結解除は、
来年の4月以降である。定期預金の金利も普通預金の金利も大差がない現状では、定期預金か
ら普通預金に預け替えるだけで、今年4 月以降もペイオフを心配する必要がないのである。
従って、信用不安が噂される銀行でも、今年の部分的ペイオフ解禁では、預金が大量に流出す
ることはないと予想される。

ところが、ペイオフ解禁の本番となる来年の4 月が迫ってくると、預金全体に占める決済性
預金の比率が高まっているだけに、いつ何時預金が大量流出するか分からない。ある日突然に、
信用不安が拡大するという事態も今後は予想される。金融当局は、今年4月からの部分的ペイ
オフ解禁をあたかも「本番」であるかのように演出するために、昨年秋頃より40 行に迫る中
小金融機関を破綻整理して、公的資金を投入してきた。しかし、来年4 月からの本当の本番に
備えて、どれほどの公的資金が残っているか、その余力が懸念される可能性が高い。

第三は、3 月期末を過ぎてから、財政再建のための増税や社会保険料の値上げなどが、相次
いで打ち出される可能性が高いことだ。小泉政権の動きからは、今年の3月までは株価に悪影
響を与えるわけにはいかないので静かにしておくという姿勢が見え見えだ。従って、年金や健
保などの保険料も、4 月以降は財政危機と少子高齢化を理由とする値上げ議論が活発化しよう。
法人税の増税は担税力の問題と「金の卵」を殺すことにもなりかねないから手を付けないにし
ても、所得税は課税最低限を引き下げるような形で増税する方向がでるのではなかろうか。

そして、増税の目玉として、金銭的余裕があり我が世の春を謳歌している高齢者から税を取
ることを主眼に、消費税の増税を打ち出す可能性もある。小泉首相の演技・演出が上手くいけ
ば、遊び回っている高齢者に反感を持つ現役世代が、賛成に回ることも予想されるからだ。

第四は、国債の再々格下げ問題である。前回は昨年の11 月から12 月にかけて再格下げされ
たが、ムーディーズ、S&P とも今後の見通し(アウトルック)はネガティブ(引き下げる方向)
である。国債格付けの変更は、1 年程度の期間を開けて行われるのが通常であるので、次回の
変更は今年の後半以降と予想される。ただし、格付け機関は随時見直し方向などを発表するの
で、それよりも数ヶ月早い夏頃から再々格下げ問題が懸念されるようになる可能性が高い。

特に、次回の格下げではムーディーズが日本国債をシングルA 格に下げる可能性が高く、そ
うなると日本はハンガリーと同じになってしまう。海外のファンドや中央銀行はシングルA 格
の債券保有を制限しているので、今までの格下げとは異質の世界に入っていくことも予想され
る。更には、2005 年から導入される国際決済銀行(BIS)の新自己資本規制では、国債でもシ
ングルA 格は、リスク・ウェートが20%になる。(別紙参照)

従って、例え、ワン・ノッチ(1段階)の格下げでも、ダブルA からダブルA マイナスに下がる
ワン・ノッチの格下げと、ダブルA マイナスからシングルA プラスへのワン・ノッチの格下げでは、
天と地ほどの開きがあるのである。

そして最後は、今後も景気が一段と悪化していく可能性が高いことだ。小泉首相が、景気悪
化は折り込み済みとばかりに、財政再建に奔走するであろうことも、景気悪化に拍車をかけそ
うである。自らは、オペラや演劇を鑑賞したり、連日のように高級レストランでの食事を楽し
むなど上流趣味を隠さないので、「小泉首相には改革を率先する覚悟はないのではないか」と失
望する人が増えてきているが、国民に対するパフォーマンスが上手く細川元首相のような嫌味
がないため、人気は長続きする可能性が高い。そこで、今後も国民に「痛みに耐えよ」と求め
ても、取り敢えずは国民からの反発は限定的なのではないかと予想される。

ただし、本物の構造改革は進展せず、財政再建だけであることが一般国民にも鮮明になって
くるにつれ、そして景気が悪化するにつれて、小泉人気も下降せざるを得ないと予想する。と
ころが、国民は小泉首相の後の首相として誰を支持してよいかが分からない。民主党などの野
党に期待することもできない。そこで、小泉人気が低下してきたら、政治の世界も混沌として
こざるを得ない。小渕元首相のようなバラマキ型の首相をもう一度選んでしまうと、国債は即
座に暴落するだろうし、本物の改革をやってくれそうな人は野党にもいない。「進むも地獄、引
くも地獄」のような状態で、景気がずるずると悪化していく可能性が高いと見ている。

以上のことから、日本の株価も4 月以降に危機の本番を向かえると予想する。日本株の主役
である、銀行、通信、自動車といった時価総額の大きな銘柄の株価が、海外の同業者の株価と
比べていまだ2 倍から3 倍も高いので、株価が現在の水準から半値以下になっても何ら不思議
ではない。特には、時価総額の大きな銘柄の影響が大きいTOPIX(東証株価指数)には、日経
平均株価以上の下落圧力がかかるものと予想する。


7、今後を展望する上でのポイント

最大のポイントは、日本の貿易黒字の動向である。日本総研では、早ければ2004 年にも貿
易収支、経常収支とも赤字に転落すると予想している。日本の構造問題がいつまで経っても改
善しないので、製造業の海外移転や逆輸入などは加速しており、国際一次産品価格や為替相場
の動向次第ではもっと早まるかも知れない。

貿易黒字が消滅してしまえば、海外への支払いの方が多くなるわけだから、日本の外貨準備
高も減少し始める。そして、貿易黒字は円安に向かうことを阻止してきた最大の根拠でもある
ので、円下落の歯止めもなくなることになる。従って、貿易黒字の消滅は、金利の上昇と円安
に直結しているのである。

その他の注目ポイントを列挙すると、
・不良債権処理に大規模な公的資金の投入がなされるか、金融危機宣言発表の可能性
・日銀の量的緩和の行方、CP の買い切りや外債投資に踏み出すか
・2003 年4月からのペイオフ本番の行方
・格付け機関(ムーディーズ、S&P など)の見通し変更
・小泉人気の持続性
・米国経済の動向
・納税者番号の導入や国民総背番号制の議論が本格化するか
・デノミ(通貨呼称単位の変更)のシナリオが登場するか
・バンク・ホリデェー(銀行休業=預金封鎖)のシナリオが登場するか

といったものが、今後の日本の株式、為替、金利に影響を与える大きな要素であろう。


8、最後に

そもそも戦後の日本の奇跡的経済発展は、資産と負債を両建てで膨らまし続けてきたことの
上に築き上げられたものである。土地や株価(資産)は上がり続けるものとの「神話」に基づ
き銀行融資(負債)を膨らませ、それにより資産価格が上昇し、そして更なる銀行融資と、資
産と負債の両方が際限なく膨らみ続けることで経済発展してきたのだ。そして、サラリーマン
は、経済発展に見合う賃金を要求し、一般の物価も世界の水準からかけ離れて上昇することに
なったのである。1980 年代の後半だけがバブルだったのではないのだ。戦後一貫して、バブル
を形成してきたのだから、資産の膨張が止まったり下落を始めると、負債が一挙に不良債権化
するのは当然だったのである。

そして、バブルが破裂すると、負債の方は減らないが、資産の方は減少することになった。
資産が1 割、2割と下落してくると、「これは大変だ」と資産価格を支えるPKO(価格維持策)
が1992 年8 月の宮沢政権の時から始まった。しかし、資産価値の下落圧力は大きくなる一方
なので、恐怖にかられてますますPKO を大規模化させてきた。橋本政権の一時期(1996〜97
年)、これでは財政が破綻すると緊縮財政に転換したが、それがますます資産に対する下落圧力
を大きくしたので、一転して小渕政権での未曽有のバラマキをもたらしてしまった。

すなわち、バブル崩壊後の12 年間は、橋本政権と現小泉政権の一時期(通算で約2 年)を
除き、政府は資産価格下落の恐怖にかられてPKO を繰り返してきたのだ。国債PKO や株価
PKO ばかりでなく、雇用や企業収益、或いは賃金をも支えるために、景気対策と称して膨大な
公共工事など財政のバラマキを行ってきたのである。

その結果が、欧米先進国の水準と比較してもいまだに2 倍から3倍も高い、地価と株価と賃
金なわけである。従って、資産価格下落の圧力が弱まることはなく、景気悪化とともにますま
す不良債権が増大するという悪循環に陥ってしまったのである。更には、不良債権を債務企業
から銀行へ、そして銀行から国や特殊法人へと移し替えてきたため、国家の財政自体が破綻の
淵に立つ状況になったのだ。

そこで登場してきたのが小泉政権である。小泉首相自身はいまだ自覚していないと思われる
が、小泉政権がやろうとしていることは、国にまで移し替えられた不良債権を「最終負担者」
である国民に移し替えることである。首相は、失業者の増加や賃金の減少などを想定して「痛
み」と称しているが、こんな程度では到底間に合わない。

また、小泉政権をコントロールしている財務官僚は、政治家のように義理人情で動くような
人たちではない。もっと冷酷で、悪知恵の働く人たちだ。彼らは、長期債務だけでも700 兆円
にも達する国の債務を国民に負担させる方法を虎視眈々と狙っている。そして、彼らは、土地
や株価が上昇し、景気も急回復するというような「神風」が吹かない限り、国家財政も破綻す
るという最悪のシナリオも想定しているはずである。

その最悪のシナリオとは、国債の暴落である。国債が暴落すれば、国債を保有している者が
大損をする。主な保有者は、年金、郵便貯金、簡易保険、生損保、銀行、日銀である。国民は
直接には多くを保有していない、と安心してはいけない。国民は、上記の主な保有者に資金を
出している資金提供者なのである。

国債が暴落すれば国にも資金がなくなるから、国は国債の保有者を助けることはできない、
と冷たく言い放つことだろう。国債の保有者は、破綻するにしろ、生き残るにしろ、資金提供
者たる国民の協力、すなわち、国民に対して、国民が持つ債権(資金)の放棄を要求すること
になろう。全額放棄か部分的放棄かは、国債保有者の体力次第だが、こうして国民の資産は大
きくカットされることになる。

国債の保有者ならびに資金提供者が被る損失は、実質的には国債発行者(国)の利益である。
しかも、国債が暴落するということは、金利が急騰することであり、かつ円相場も暴落するか
ら、ハイパー・インフレが待ち受けている。インフレは、固定金利で借金をかかえる者にとっ
ては天の恵みである。価値が減少した通貨で借金を返せばいいからだ。従って、インフレの最
大の恩恵者は、債務者たる国である。そして、最大の受難者が債権者たる国民なのだ。ゆえに、
国債は、国民の負担により大幅に棒引きされ、国家の債務が大きく減少するのである。

これで、「国の債務を国民に移し替える」という財務官僚のシナリオが晴れて完結することに
なる。財務官僚も、敗戦処理を行った大本営の参謀たちのように、戦後の焼け野原に立ったよ
うな気分にはなろうが、「日本がなくなったわけではない。一からやり直そう」と再び頑張り始
めるに違いない。

悲惨なのは国民である。年金や保険は価値が大きく減少し、銀行も破綻が続出するから預金
もペイオフされる。加えて、ハイパー・インフレで物価は高騰する。他方、失業者が街に溢れ
るだろうから賃金が上がることもない。現役世代が苦しんでいるのだから、高齢者が受け取る
年金も増えることなどあり得ない。従って、国民は等しく生活水準が大きく下落することにな
るのである。

ここで、国民は小泉首相が言っていた「痛み」の意味を痛感することになるのである。日本
人が今後被ることになる本物の「痛み」とは、一部の人だけが被る失業増などではなく、日本
人全体が被る生活水準の大幅低下だったのだ、と。

私は、上記の悪夢のような事態が来ないことを切に望むものだが、状況としてはその方向に
向かっていると考えざるを得ない。小泉改革では状況が好転することはありえないし、たとえ
今から本物の構造改革を始めるとしても、国会議員の入れ替えや国民の意識変換に2 年とか3
年の時間がかかるので、もう手遅れであろう。ゆえに、「最悪のシナリオ」をも想定して、これ
からの資産設計を行っていかなければならないと考えている。

相も変わらず暗いレポートとなったが、最後に一言付け加えさせてもらえば、「焦りは禁物だ
が、人よりも早く、そしてより多くの資産を外貨へ逃避させること(キャピタル・フライト)
を上手く成功させることによって、自分の生活だけは守れる」こと、そして「日本の危機をチ
ャンスに転化することも可能だ」ということを述べて、2002 年経済展望の終わりとしたい。


プライオール投資顧問 斎藤利男 (2002 年1 月16 日)より引用

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