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米国支配層(世界支配層)は「産業主義近代」の終焉が近いことを知っていて、その後の世界に向けて動いている。
http://www.asyura2.com/0403/dispute18/msg/395.html
投稿者 あっしら 日時 2004 年 6 月 25 日 00:03:47:Mo7ApAlflbQ6s
 


日本に限らず、ほとんどの国の政治的支配層や“知的執事”(学者やメディア)は、歴史認識(過去の理解)に引きずられるとともに、現在の政治的経済的諸条件がこれからも続くという判断に従って政策を考えているように見える。

さらに言えば、「歴史認識」や「現在の諸条件」も、自分たちの思考成果と言うよりは、世界支配層が散布した理論や価値観を受け容れたものでしかないとも言える。

阿修羅でも様々な考えが提示されているが、やはり、多くがその枠内に留まっているように思える。
なぜなら、資本主義的産業活動を基礎とした「近代」が永遠にとは言い切らないとしても100年オーダーで継続するという理解に基づくものや、世界支配層は市場原理的自由主義を普遍的に信奉し“社会主義政策”なんか忌避するに決まっているという理解に基づくものがほとんどだからである。

しかし、これまでそして現在の「近代世界」の在り様を主導的に方向付けてきた米国政権(世界支配層の政治的エージェント)は、これまでのような「近代」がほどなく行き詰まることを見通した上で政策を決めていると判断する。

“彼ら”とサシで忌憚なく話をしてみたいという冗談は実現しそうもないので、メディアを通じて“彼ら”の考えを推測するしかないが、どうも、“彼ら”はちゃんと経済論理を理解しているらしいことがわかったからである。

“彼ら”は、ポスト「近代」の在り様を想定しつつ、それに向け現在を動かし続けていると捉えなければ、“彼ら”から主導権を奪うことなんかとうていできないだけでなく、“彼ら”の強欲非道な政策を止めることもできないと考えている。

“彼ら”がちゃんと経済論理を理解しているらしいとはうすうすわかっていたが、先月(5月)下旬にテレビ東京で放送された「日高レポート」でのフリードマン経済担当大統領補佐官の発言を聞いて、やっぱりわかっていると確信した。

番組でフリードマン氏は、「これまでは生産性の上昇が国民生活を向上させてきた。しかし、生産性の上昇が国民生活の向上につながらないようになった」(趣旨)と語った。(ボンクラのせいなのかわざとなのかはわからないが、日高氏はそれに目立った反応をしなかった)

この間、「産業主義近代」の終焉をテーマにした書き込みをいくつか行ってきたが、“「産業主義近代」の終焉”とは、まさに、その「生産性の上昇が国民生活の向上につながらない時代」の到来を意味する。

以下、列挙的に説明させていただく。


● 生産性の上昇は何か

抽象的に言えば、経済活動で同じ貨幣額を投入して得られる貨幣額が増大することである。
もう少し見えやすく言えば、同じ労働力量を使って産出する財の量が増大することである。(労働力や財の単価が変動するので、前述の定義に必ずしも合うわけではないが、根源的なものであるのでご記憶を)

具体例としては、

販売単価1万円のCDプレイヤーを生産し販売している企業がある。
去年は、それを100人の労働者で7万台生産した。
今年は、それを100人の労働者で8万台生産した。

労働者に支払う給与が同じであれば、生産が増加した1万台×1万円で1億円の増収である。
この場合、生産性の上昇率は、生産台数の増加率と同じ14.3%である。
(原材料・部品・機械設備など必要なものをすべて100人で生産するものと仮定する)
14.3%の生産性の上昇は、より効率的な生産設備をつくって利用したことによって達成されたものとする。


● 生産性の上昇が国民生活を向上させるわけ:給料アップの源泉

上記の具体例では、販促費などの経費が前年と同じであれば増収分が利益増となる。
利益額が税引き後に一定でいいと経営者が考えるのなら、増収分を労働者の給与引き上げに回すことができる。(実際は、労働組合が賃上げ交渉でそれを引き出す必要がある)

戦後日本の高度成長期に見られた持続的な勤労者所得の増加は、このような生産性上昇→給与アップによって実現されたものである。
(実態は、経営者側が最低ラインの企業に横並びさせるかたちで決着させたので可能賃金アップよりもずっと少ない賃金アップ。それが“優良企業”をさらに“優良企業”にしていく要因ともなった)

左翼は怒るだろうが、生産性の上昇を超える給料アップは「資本の論理」が生きている現実においては究極的には不能なのである。
それは、善意の企業家が経営している会社を考えればわかる。
自分の給料以外は要らないと考えているその人は、利益ゼロで従業員の生活がよくなることをめざしている。
そこが、生産性が変わらないまま従業員の給料をアップしたらどうなるであろう。
すぐにわかるように、給料アップ分だけ赤字である。銀行から借り入れをしてしばらくはしのぐこともできるが、元利返済ができなくなりやがて倒産することになる。


● 生産性の上昇が国民生活を向上させるわけ:国内需要の拡大

CDプレイヤーを生産し販売している企業の例を思い出すと、CDプレイヤーの単価は変わっていない(上がっていない)のに、そこの労働者の給料は増加していることがわかる。
それは、今まで自分が造っているCDプレイヤーを買えなかった労働者がCDプレイヤーを買える可能性を意味する。
日本全体の勤労者の所得が増加しているのであれば、CDプレイヤーを欲しいと思っている人の多くが実際にCDプレイヤーを買うことになる。

日本全体の勤労者所得が増加しているときは、このような需要増加がいろいろな商品に対して見られるようになる。

そのため、生産性上昇で増加した生産量を超える需要増加が生まれる商品も出てくる。
それが、生産規模の増強=生産設備や就業者への需要増加につながる。(日本の高度成長期のように完全雇用状況であれば、生産設備の改良を通じたさらなる生産性上昇追求に向かわせる)

このような経済論理が現実として働いたのが日本の高度成長期である。


● 生産性上昇の別の効用

競争原理が企業に生産性上昇を追求させる。
それは、生産性上昇は、給与アップの源泉にすることができるだけではなく、財の販売価格を引き下げる源泉としても使えるからである。

CDプレイヤーを生産し販売している企業の例で言えば、給与アップは限定的にとどめ、製品販売価格の引き下げに生産性上昇を使うことができる。

1万円だった単価を9千円に変更するとそれまでよりは需要が増加する。しかし、給与アップが限定的なので需要増加も限定的なものになる。
下手をすると、生産性上昇で増加した分の製品の一部が売れ残ることになる。

あたりの国を見回すと日本よりも貧乏な国ばかりで、CDプレイヤーはごく一部の金持ちしか買わないものであり、そのような金持ちはCDプレイヤーならうちのような安いものではなくもっと高級品を買う。

太平洋の遥か彼方だが、米国では猫も杓子もCDプレイヤーを買っている。うちも米国で売ろうと思っていたが、うちの品質では1万円はムリだと言われた。
9千円でも売れるようになったので、米国の大型小売店に声をかけると、「よし、それなら売れる」と注文が来た。そして、「8千円になれば2倍は売れる」とも言って来た。

その見通しに意を強くしてさらなる生産性上昇に励んだ。

このようなかたちで達成した輸出拡大の継続が、日本の高度成長期のもう一つ、というかメインの支えである。


● 生産性の上昇は何に保証されるか

ここまでの説明で、生産性の上昇が達成できる条件が見えてくる。

★ 「生産性の上昇は、それに見合う給料アップを実現するか、それに見合う輸出増加を達成しなければならない。(給料アップと輸出増加の混合でもかまわない)」


これを怠れば、生産性上昇で達成した財(製品)の生産量増加分に売れ残りが出るようになる。
そして、それは、遅かれ早かれ、生産調整(首切り)や赤字化さらには破綻につながっていく。


生産性の上昇を保証する二つの違いを国民経済から見ると、

給料アップ:供給活動投入額(給料)の増加を通じての国内需要額拡大

輸出増加:国内供給量の増加縮小
(生産性上昇で達成した製品増加量を超える輸出増加を実現すると国内供給量の縮小になる)

となる。

そして、国内需要額拡大は、販売量の増加もしくは製品単価の上昇につながり、国内供給量の増加縮小は、製品単価の下落を抑制する。

輸出増加は、輸出で稼ぐことだけに意味があるのではなく、国内に供給する財(製品)の量を抑制することにも大きな意味があることをお忘れなく。


● 「生産性上昇が国民生活の向上につながらない時代」とは

フリードマン補佐官が語った「生産性上昇が国民生活を向上させない時代」とはどういうものであろうか。

国民生活が全体として向上するための条件は、就業希望者の多くが就業し、就業を通じて得られる実質所得が増加することである。
失業者が増加するなかで、就業者の所得が少し増加したとしても、国民生活が全体として向上するとは言えない。

企業家がすべて善意の人で、一定額の利益以上は追求せず、そのような条件があるのなら従業員の給与を増やすものとする。

思い出して欲しいのは、経営に問題を生じさせないで給与を増加できるのは、生産性の上昇が達成できるということである。

逆に言えば、企業家がすべて善意の人であれば、生産性が上昇する限り、国民生活は向上することになる。

さらに言えば、生産性を上昇させても経営にシコリが残らない方策の一つは、国民生活向上につながる給料をアップさせることである。
給料をアップさせないでスムーズに生産性を上昇させようと思ったら、生産性の上昇で実現される財(製品)の生産量増加をすべて輸出で消化しなければならない。
(一部でも輸出できなければ、国内需要は増えていないから、それは売れ残りとなる)

しかし、これは、企業家がすべて善意の人である今回のモデルではありえないことである。
なぜなら、輸出増加で企業は潤っているから、従業員の給料もアップするからである。


このような考察から、「生産性上昇が国民生活の向上につながらない時代」とは、勤労者所得は据え置きで輸出だけがガンガン増加していく経済状況であることがわかる。

(このような経済状況は、ガンガンというほどではないが輸出増加で潤っている最近の日本経済と言えるだろう)


フリードマン補佐官は米国政権の中枢にいる人だから、米国について考えてみる。

この間の米国は、生産性上昇を高いレベルで達成していると言われている。
米国は貿易収支赤字が増加しているくらいだから、輸出増加でそれを達成しているわけではない。
もう一つの条件である勤労者所得の増加も実現されていないし、所得額総量で貢献する失業者大幅減少も達成されているわけでもない。

それならば、生産性上昇は何によって達成されているのか?

答えは、「国民生活の低下」である。

おいおい、待ってくれよ。これまで国民生活を低下させることで生産性上昇が達成できるなんて話はなかったぜ、どうことか説明してくれとお叱りを受けるだろうが、それも可能なのである。

但し、それは、産業活動を基盤とした「産業資本主義近代」ではムリである。
(生産性上昇率を超える輸出増加率を持続すれば可能だが、どこの国も同じ経済論理に縛られているのだから、それだけの輸入を受け入れ続ける国々はない。それは、経済論理の束縛から相対的に自由である米国と日本の間で続いてきた“貿易摩擦”を思い浮かべればわかる)

生産性は、企業活動に投入した金額と企業が回収した金額の比率であり、製造業でなくとも算出できる。金融業でも生産性の上昇はある。

また、生産性は変化率だから、絶対額が増加しているとは限らない。
たとえば、1億円を産出するために7千万円を投入していた企業が、8千万円を産出するために5千万円の投入で済ましたとしたら、生産性を10.7%上昇させたことになる。(産出額が減っても利益を増やすことはできる)

次に、金融業は、財(製品)を生産し販売しているわけではなく、貨幣の取り引きを通じて利益を上げている。
製造業なら売上を上げるためには生産量を増加させなければならないから同じ生産性であれば人を増やさなければならないが、金融業なら、1億円の取り引きも1000億円の取り引きも同じ人数でできる。

債券類は売れ残ることはあるが、そうであっても印刷代が損するだけの話であり、製造業のように大きな打撃を受けることはない。
また、低所得者を相手にしているわけではないから、低所得者の生活がどうであろうとそれほど考慮することはない。
さらに、財の輸出と違って、ほとんどの金融市場に自由にアクセスできる。
(外国人投資家が入ってくることを歓呼の声で歓迎している日本の現状を考えればわかる)

金融業は、人とコンピュータ(端末を含む)と回線で事業ができる。コンピュータと回線が安くなり、コンピュータと回線で取り引きされる割合が増加すれば、人を減らすことができる。
それはイコール生産性の上昇である。


金融業の利益は、ストレートに他者が保有していた貨幣的富の移転である。これそのものが、「国民生活の低下」を意味する。
金融業が利益を減らさずに生産性を上昇させるためには、取り引き量が拡大していない限り、雇用する人の数を減らさなければならない。これも、「国民生活の低下」を意味する。

しかし、それだったら、米国はメチャクチャになっているはずだという疑問も出てくるだろう。
メチャクチャにならないためには、外国から金融利益を上げること、政府が外国からできるだけファイナンスして赤字財政支出を増やすこと、同じ財ならできるだけ安いところから輸入すること、金融利益の吸い上げは金持ち中心にすること、最後に、金融利益の吸い上げ増加は産業の生産性上昇に見合う範囲にすることが“秘訣”である。

次回は、それらでメチャクチャにならない論理と「なぜ「産業資本主義近代」は終焉するのか」について説明させてもらう予定である。


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