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折れない自信は必ず作れる 教養 ブラック新人 失敗力 オススメ業界 即戦力化 グローバル戦略 撤退・投資基準 自転車通勤
http://www.asyura2.com/13/hasan79/msg/605.html
投稿者 eco 日時 2013 年 4 月 22 日 02:24:03: .WIEmPirTezGQ
 

(回答先: 40歳から細胞が変わる? 砂糖 若手 多死 生保 女性政策 さとり 組織 雇用破壊 成功 算数 仲間 住宅 投稿者 eco 日時 2013 年 4 月 19 日 01:34:51)


【第1回】 2013年4月22日 潮凪 洋介

折れない自信は必ず作れる

知識でも、ノウハウでもなく、大切なのは「自信」。

19歳で起業。成功と失敗を繰り返し、2回目の脱サラ後、32歳で5000万円の借金を背負った著者が、どん底状態から、人生を大逆転させた行動力の秘密を語る。根拠がなくても、実績がなくても、やる気を生み、恐怖心を消し去る「強い心」のつくり方

いつ、どこからでも、
自信は必ず身につけられる!

 本連載では、折れない自信をつくるための考え方・方法論を紹介していきたい。私の経験をもとに、「いつ、どこからでも、誰にでもできる」にこだわって厳選したものだ。

 突然だが、1つ質問をさせてほしい。「自信」について、あなたはこのように考えていないだろうか?

「自信満々な人が羨ましい。とてもマネできない……」
「自信なんて、生まれつきのものじゃないの?」

 残念だが、これらはすべて間違いだ。自信は誰でも身につけられるし、ましてや生まれつきのものでもない。

 現在、私は「恋愛」「自由人生」などをテーマに、新聞、雑誌、書籍などの執筆やコメント、または講演会やラジオなどを通じて、30万人を超える方々と向き合わせてもらっている。

 その傍ら、イベントプロデューサーとして、GIVENCHYやJTBなどを筆頭に、さまざまな大企業、メディア、さらには行政団体とコラボイベントを実現し、自分なりの実績を積んできた。19歳で起業し、その後、転職、起業を繰り返し、32歳のときに5000万円の借金があったが、紆余曲折を経て、今は晴れて無借金経営だ。

「自分は完璧だ!」「すごい人間だ!」
などと思わなくてもいい

 成果を確信しながら、実際に成果を出している。事業を複数経営しつつ、休日は、家族や友人とともに最高の休日を過ごしている。楽しくてたまらない。

 さまざまな挑戦、失敗、再起を繰り返してきたが、心を強くする方法はとてもシンプル。それは「小さな成功」を積み重ねることなのだ。

 本題に入る前に、ここで誤解を解いておきたい。「自分にはこれができる!あれもできる!」ということだけが自信ではない。字の通り、「自分を信じる」ということ。「これでいいんだ」という自己肯定感。それが自信なのだ。

 自分を信じるということは、「自分は完璧だ!」「すごい人間だ!」などと思うことではない。むしろ、「自分には何ができて、何ができないのか」をきちんと理解して、受け入れることに近い。

 話を戻そう。では、「自分を信じる」ためにはどうすればいいのか?人は、過去の情報をもとに生きている。ゆえに、過去の成功体験は自信につながり、過去の失敗・トラウマは苦手意識になる。

 つまり、自分を信じるには、「自分に成功体験を与え、自己肯定感を高める」しかない。ポイントは、成功体験というものをおおげさに考えないこと。

「小さな成功」に着目する
習慣を持とう

「難攻不落の取引先を落とした」
「社内の一大プロジェクトを成功させた」
「1年越しの企画を実現させた」

 確かにこれは自信につながる成功体験だ。しかし、そう実現できることではない。自信が持てない人に限って、「一気に」「大きなこと」をやろうとして失敗する。そして、その失敗に対して落ち込む。「自分はダメなんだ」と思いこむ。

 ここで考えてほしいのは、「成功」のとらえ方だ。例えばこんなものも「成功」と呼べないだろうか。

「企画書を1枚書き上げた」
「営業の電話を、いつもより3件多くかけた」

 これを、大きな成功を呼び込むための「小さな成功」ととらえてほしい。
「自信が持てない」「何をやるにも怖い」という人ほど、この発想の転換をぜひやってほしい。自信の源となる自己肯定感を高めることができる。

 もし今、あなたがどん底の状態にいるとしても、自分を責めるのはやめてほしい。そして1秒でも早く、自分自身を好きになるために、「小さな成功」に着目する習慣を持ってほしい。

 次回以降の連載では、さまざまな角度から「小さな成功をおさめる方法」と「自己肯定感を高める方法」を紹介していくので、楽しみにしておいてほしい。

(次回連載は、4月23日の予定です)
http://diamond.jp/articles/print/34804

  


 

変化の時代である現代のリーダーに求められる教養

古代ローマの賢帝を形作った「帝王学」

2013年4月22日(月)  御立 尚資

 様々な分野の方々と、リーダー育成の議論をする機会がある。

 リーダーは育つものか、育てるものか。両方の側面があろうかとは思うが、育つ環境を整える、ということも考えれば、リーダー予備軍をより多く輩出するためにできることは、確実に存在する。

 こういった議論と育成の試みを通じて、そして素晴らしいリーダーだなと感心させられた方々との接触から得られた個人的な確信が1つある。それは、リーダーにとっての「教養」というものの重要性だ。

人口爆発が引き起こした様々な変化

 このコラムでも何度も触れてきたが、我々は「変化の時代」を生きている。安定的なパラダイムがいったん崩れ、次の安定的状態が出来上がるまでの「つなぎの時代」と言ってもよい。

 巨視的に見れば、20世紀後半から21世紀を生きる人々は、地球の人口爆発の後期を経験していることになる。英国の経済学者、アンガス・マディソン氏によれば、紀元0年からの1000年には、人口は6分の1増えただけだった(約2億3000万人から約2億7000万人への増加。出所:OECD「経済統計で見る世界経済2000年史」)。これが、紀元1000年からの1000年には、実に、約22倍になった。

 その増加の大部分は、第1次産業革命を終え、それまでにない経済成長が始まった1820年以降のものだ(1000年から1820年までに、世界の人口は約7億人増。その後、2000年までの間に、約49億人増えている)。

 国連の推計によれば、今世紀後半以降、人口増加ペースは低下し、21世紀末には場合によっては人口増加が止まるかもしれないと想定されている。

 従って、現在は、18世紀後半から始まった人口爆発の、後半から最終段階にあると言ってもよかろう。

 そして、人口爆発は、サステナビリティーの問題をはじめ、様々な変化を引き起こす。

 人口増加と教育普及。この2つが合わさって起こる新興国の工業化は、その1つの表れだろう。当然ながら、新興国が工業化することで、先進国の産業構造は変化せざるを得ず、中流層への賃金低下圧力も強まる。

 もっと、足元を見ると、米国一極集中、パックスアメリカーナという国際秩序が崩れ、中国、インドをはじめとする新興国も交えた多極化の時代へのシフトも始まっている。もちろん、新たな秩序はまだ見えていない。

 これら以外にも、情報とネットワーク技術の大きな進歩、金融経済の巨大化……。思ってもみなかったような変化をもたらすものの、それらがどういう安定した新パラダイムを生み出すのかが見えていない。そうした構造的要因がいくつもある。

 ここで、少し話を転じる。

 ローマ時代の5賢帝の1人に、マルクス・アウレリウスがいる。共和制、内乱の時代を経て、ローマは紀元前1世紀後半のアウグストゥスが統治する時代以降、元首制を確立、1世紀から2世紀にかけて5賢帝の時代と呼ばれる安定期を迎えた。

 その5賢帝の最後の1人がマルクス・アウレリウスだ。「最後の1人」ということから明らかなように、彼は大きな変化の時代、次のパラダイムへのつなぎの時代を生きた。ゲルマン民族の自国領への侵入、東方からの疫病の蔓延など、様々な困難が襲った時代である一方、アウレリウスないしその部下は、遠く中国にまで使者を遣わしたとされる。

 アウレリウスは、映画「グラディエーター」にも登場するので、それをご記憶の方も数多くいらっしゃるに違いない。

「ふらふらしないでしっかり立つ」能力の重要性

 さて、彼の書いた『自省録』という書籍の中に、面白い一節がある。

 「生きる技術は、次の点でダンスの技術よりもむしろレスリングの技術に似ている。すなわち、不意におそいかかる予測されない出来事に備えながら、ふらふらしないでしっかり立つという点で」(水地宗明訳、京都大学学術出版会)

 ローマの皇帝として生きる技術、というのは、リーダーとして生き残り成功する技術、と言い換えてもよいだろう。ダンス、だとか、レスリング、だとか、やや現代的にも感じられる例えを使いながら、先の読めない変化の中で、「ふらふらしないでしっかり立つ」能力がリーダーにとっては大事だ、というのだ。

 ここからは、上智大学教授の荻野弘之氏が著した『マルクル・アウレリウス『自省録』―精神の城塞 (書物誕生―あたらしい古典入門)』(岩波書店)に依って書くのだが、アウレリス自身は、皇帝の養子として、当代一流の学者から、弁論、法律、哲学など当時の「帝王学」を学んだ。その中でも、師ルスティクスを通じて知ることとなったエピクテトスのストア哲学に、多大な影響を受けたとされる。

 「ふらふらしないでしっかり立つ」ためには、外界の変化でぶれない「軸」が不可欠。アウレリウスの場合は、基礎教養としての諸学、中でもストア哲学とそれに基づくたゆまぬ自省が「軸」を作り上げたのだろう。

 現代の「変化の時代」を生きるリーダーにとっても、同様の「軸」が必要だ。環境の激変、予測できないような事態。こういったものに襲われた際に、リーダー自身が「ふらふら」としていては、国、企業といった共同体の構成員の多くが、疑心暗鬼になり、組織全体として冷静な判断・行動が取れなくなってしまう。

 「変わるもの」を冷静に受け入れ、その中で「ぶれない」判断・行動をするためには、リーダーの中に「変わらないもの」、「判断の軸となるもの」がなければならない。

 この「軸」を構築する要素には、
― 宗教・哲学といった精神のよすが、ないし、価値判断の基準となるもの、
― 社会科学・自然科学などの、自らの頭で考え、起こっている事象を理解するための武器・ツールとなるものなど、いくつかの要素があろう。

現代に必要な教養とは何か

 私自身は、これらは広い意味での「教養」と呼び変えてもいいと考えている。「教養」という言葉は、ペダンティック(知識をひけらかす)だとか、時代錯誤だとかいった含意を込めて使われることが多いが、当然そういう意味ではない。

 例えば、リーダーのための学びの場として知られる米アスペン研究所は、古典を読み、対話することを通じて、「教養」を確立することの重要性を発信しておられる。それが、「専門化」「細分化」「瑣末化」という弊害を防ぎ、社会の課題を解決できる人材にとって重要な要素だからだ。

 アウレリウスの時代の「教養」と我々の時代の「教養」は、当然違ったものになるだろう。自らの教養不足を恥じつつも、現代に必要な「教養」とは何か、ということに少しこだわって考えていきたいと思っている。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20130417/246848/?ST=print

「オレオレ新人」がやってきた!

“ブラック新人”事件簿2013

2013年4月22日(月)  瀬戸 久美子 、 日野 なおみ

 日経ビジネス4月15日号「それをやったら『ブラック企業』〜今どきの若手の鍛え方〜」特集に合わせてスタートしたオンライン連載では、1回目にファーストリテイリングの柳井正会長兼社長が若手社員の教育方針について語った「甘やかして、世界で勝てるのか」。2回目は低価格飲食チェーンのワタミで陣頭指揮を執る桑原豊社長が今の思いを独白した「我々の離職率は高くない」。
 3回目は、2013年3月に日経ビジネスオンライン「NBO世論調査」内で実施した、ブラック企業や社員教育にまつわる調査結果をリポート「若手の扱い方が分からない…」先輩社員の悲痛な叫び)。
 4回目では、“ブラック新人”が巻き起こしたオドロキの事件簿を紹介する。同時に、ブラック企業アナリストの新田龍氏が、その対処方法も伝授する。今回紹介するのは「オレオレ新人」「上から目線新人」「機械仕掛け新人」だ。
事件簿1:ドヤ顔上等な「オレオレ新人」
◇研修を終えた新入社員君、得意先に事務的なお遣いで行かせたところ、「喧嘩してきましたわ」とドヤ顔で帰ってきた。血の気がひいた。
◇「オレなら大丈夫っすよ」と自信たっぷりの口調で意気揚々と貨物運搬車に乗り込み、発進させた直後に曲がり角で支柱にぶつけた新入社員。脱兎の如く走って逃げ失せた姿に呆然…。
◇不満ばかり言うので「どうしたらいいと思う?」と意見を問うたら、「それってオレの仕事じゃないっすよね」と言われる。
◇就業中、居眠りしていたので注意したら、「眠いから寝て何が悪いんですか!」と返された。
◇「友達が働いている会社は楽らしい」「この仕事は私の仕事ですか?」とネガティブなことばかり言う後輩。前々からやりたいと言っていた仕事に空きができたので「やってみる?」と聞くと、「面倒くさくて難しそうなので、結構です」と断られた。呆れてものが言えなかった。
◇入社時は黒髪だったのに、入社2カ月目には、金に近い茶髪にしてきた。理由は「毎年、春は髪の毛染めるんですよ」。
◇業務命令で作れと言った資料のテーマに対して「コレじゃない感が半端なくてモチベーションが上がりません」と平気な顔で言われた。
◇新入社員研修での最後の感想を述べるところで「私はもともとできていましたが、周りのみんなもこの研修でよく成長したと思います」と上から目線での”講評”をした女子がいた。
事件簿2:気づかないのか? 「上から目線新人」
◇決算が近づいてきたある日、ある新人の営業職が私に電話をしてきて「自分の売り上げにしたいので、あなたが工場に生産指示を出している商品を私に譲ってください」と言ってきた。とっさに返す言葉が見つからなかった。
◇「私、○○さんのことすごいなって思います! 私、○○さんみたいに、女なのにずっと働くとか無理なんです。専業主婦になって、旦那さんとか子供のためにご飯作ったりとか洗濯したりとか、普通の女の人の生活がしたいので。だから、ずっと仕事をしている女の人ってすごいと思います!」と、入社2年目の女子社員に言われた。悪気はないのだろうが、30歳になっても結婚せず働いている私に対して、若干上から目線のような気が……。

ブラック企業アナリストの新田龍氏が、巷に増える“ブラック新人”の対処術を教える
 私自身、新入社員から数年間はだいぶ生意気でしたし、先輩をないがしろにしたこともありました。自分の経験と、これまで多くの「社内ミスコミュニケーション」の実態を見、このパターンの社員には大きく3種類あると思います。

 1つは、「本当に実力がある」タイプ。

 これはいずれ、周囲がその実績を認めるので大きな問題にはなりにくい。ただ本人があまりに傲慢だと、その印象だけで損する可能性があります。ですから、その点を諭せば十分です。本人も理解し、改善できるだけの力はあるはずです。

 2つ目は、「実はあまり自信がなくて、虚勢を張っている」タイプ。

 彼らには、大きな口を叩くことで、周囲から認められたいという願望があります。「口先だけのクセに…」とムカついてしまうかもしれませんが、ここはぜひ彼らのいいところを見つけだし、認めてあげましょう。そうすれば彼らは、「認められた」と自信を持ち、心を開いて学ぶ姿勢になります。

 最も厄介なのは3つ目の「本当は何の力もない、まったくのカン違い」タイプです。

 私もこのタイプでした。若気の至りですが、今から思い出すと汗顔ものです。「自分はデキる」と信じ込んでいるので、せっかくのアドバイスや忠告も「無知な大人が訳のわからないことを言っている」とスルーされてしまいます。

 有効な対処法は、「そこまで言うなら、じゃあやってみてよ」と難易度の高い仕事を任せるか、「ロールプレイング」をやらせてみることです。おそらく、本人が思っているようにはできないはずなので、実力を痛いほど思い知ることになるでしょう。私もこのロープレで改心しました。

 対処方法で共通するのは、いずれも相手を尊重する姿勢です。これは、部下や後輩の指導に限らず、ビジネスの本質です。

 もしかしたら、「なぜレベルの低い新人相手に、私がここまでやらなくちゃいけないんだ」と感じるかもしれません。ですがよく考えてみてください。

 本格的にマネジメント力を評価される職位に就けば、もっと低レベルの部下を使いこなさなくてはならないかもしれない。そんな時でも、「コイツは使えない」と言っていると、あなた自身が「使えない上司」になってしまいます。ぜひ、トンデモ新人と接しながら、我が身を振り返ってみてください。

 私も新人時代には、先輩をないがしろにしました。ですが、その対象は決まって、仕事ができない先輩や人柄がなってない先輩、威厳のない先輩でした。逆に、仕事ができて人柄がよくて威厳のある先輩には服従していました。

 「生意気なヤツだ」と敬遠すれば、その雰囲気は間違いなく新人に伝わります。敬意を払われたいなら、敬意を表されるだけの人であること。相手を尊重するのはお互いさまですから。

事件簿3:全て指示待ちの「機械仕掛け」新人
◇「業務手順を記載したノートを忘れたため仕事ができません。どうすればいいですか?」と聞かれたり、コピーをお願いした時、「コピーを取る方法を、新人研修の時に教えてもらってないので出来ません」と言われたりする。
◇「この仕事急いでやって!」とお願いしたら「急いだら間違いますけどいいですか?」と確認された。
 「教えてもらっていないので、できません」「言われてないので、やってません」……。

 「それくらい、自分で考えてサクっとやれよ」。こう叫びたくなる気持ちはよく分かります。私も、初めて後輩や部下を持ったときには同じ気持ちになりました。ですが叫び出す前にやるべきことがあります。

 「教わってない」「指示されてない」からやらないと言い放つ社員にも、2つのタイプがあります。

 1つは、「本当にやる気がない」タイプ。

 これは残念ながら採用ミス。選考通過の判断を下した面接官を恨みましょう。

 もう1つは、「やる気はあるけど、やり方がわからない」タイプです。

 実際にはこちらが多数派であり、彼らは単に、目の前の現実を言葉にしているだけなのです。それにもかかわらず上司は、「やる気のないヤツだ!」と短絡的に解釈してしまう。そして、そこからミスコミュニケーションが生まれていきます。

 よく考えてみてください。上司や先輩は、今年入ってきたばかりの新人に比べれば、多くの経験を積んでいます。成功も修羅場も相応に体験しているはずです。新人時代の気持ちを忘れたかもしれませんが、おそらく当時は、仕事や社会、人間関係もよく分からず、不安だらけだったのではないでしょうか。

 部下としては、「『知らないこと』を『知らない』と言っただけ」という率直な気持ちの吐露かもしれません。それにキレたり、「ゆとり世代だから」と扱ってしまったら、部下は何を頼ればいいのでしょうか。

 また「サクッと」はもちろん、「しっかり」「ちゃんと」「きちんと」という指示は、最初の指導では封印した方がいいでしょう。

 これらの言葉は、「指導者側の文脈」で使われてしまう。上司や先輩の考えるレベルと、新人の思うレベルはだいぶ違うはずでしょう。であれば、具体的に「何を・どのように・どの程度まで」すべきか共有すべきです。

 頭から「やる気がないのか!」と叱るのではなく、次のような表現を使ってみてはどうでしょう。

◇「おっと、その言い方はビジネス社会じゃNGなんだよ。気持ちは分かるが、言い方を変えた方がいいな」
◇「知らないことを『知らない』というのはいいことだ。私も、君がどこまで理解できているのか把握したい。ただ頭から『できない』と言ってしまうのはよくない。理由は分かるか」
◇「できないというのは、思考停止であり、拒否でもある。『その仕事を、これからもずっとできないままにしておきます』って言っているのと同じだからな。こんなときは、『その仕事は初めてなので分かりません。どうしたらいいか教えて頂けますか』もしくは『どなたにサポートして頂いたらよいですか』という感じで答えるといい。そうすれば、少なくとも『やる意思はある』ことが伝わるし、誰かしら手を貸してくれるはずだ」
 どうでしょう。重要なのは、相手の目線に立つことです。情報の受け手が、意図ややるべき内容を具体的かつ正確に認識できていると確認できるまで、根気よく丁寧に説明する。それができれば、風通しがいい会社になるはずです。


それをやったら「ブラック企業」

「ブラック企業」と言われることが、企業に深刻なダメージを与えるようになっている。ゆとり世代が続々と職場に入ってくるなかで、今どきの若い世代といかに接し、教育するのか。また「ブラック」と巷で呼ばれている企業のトップはその状況をどう見ているのか。ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長とワタミの桑原豊社長が、その思いを語る。同時に読者が経験した「新入社員事件簿2013」を掲載。新入社員が巻き起こす「とんでもハプニング」に、先輩・上司はいかに対応すべきなのか。対処術も合わせて紹介する。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20130418/246882/?ST=print


Management 「失敗力」を使って、創造性を発揮する
2013年04月22日
ビジャイ・ゴビンダラジャン  ダートマス大学 タック・スクール・オブ・ビジネス 教授

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進んで失敗を望め――こう言われても、とまどうかもしれない。しかし大きな失敗を防ぐために、小さな失敗が有効になるとしたらどうだろう。それが実証された、ディズニーの事例を紹介する。

 イノベーションの公式には、3つの変数がある。
 イノベーション=f(戦略+創造性+実行)

 実行段階において低コストで実験を行い、失敗を許容する必要がある――最近はこのことが重要視されている。しかし、実行における高リスク・高コスト・高い失敗確率を、その前の段階で減らす方法もあるのだ。創造性を発揮する段階(アイデア出し)でボツと思われたアイデアについて、実行段階に至る前に低コスト・低リスクの実験を行うことだ。競合が大きな成功を収めた時、自社の誰かがこんなふうに言うのを聞いたことはないだろうか。「自分たちもこのアイデアは考えた。でもボツにされたんだ!」

 新しいアイデアを生み、実験を成功させる公式には、これも3つの変数がある。
 アイデアの成功=f(支援+失敗+組み合わせ)

1. 低コストの実験を、常に後押しする
2. 失敗を望む。失敗は組織が前進している証である
3. 失敗したアイデアどうしを組み合わせ、新たに画期的なアイデアを生む方法を身につける

 例を紹介しよう。1989年に、ディズニーMGMスタジオというテーマパークがオープンした時、予想を超える入場者数を記録した。そこでパークは、さらなるアトラクションと、レストランやギフトショップなどの施設を早急に追加する必要に迫られた。我々は、同社の部門横断チームと協力してレストランの新しいコンセプトを生み出すよう依頼された。

 まず2日間のセッションを行い、1日目は参加者の想像力を解放するために数々の実験をした。最初に、「古き良きアメリカ」の例を考えてもらった。ある参加者はドライブイン・ムービーを挙げた。そして参加者を小グループに分け、ドライブイン・レストランというコンセプトについて検討してもらったが、十分な収益を上げるほどの集客が見込めるアイデアは、ひとつも出なかった。それらはレストランというよりは、アトラクションだった。こうして、このアイデアはボツになった。

 別の実験として(いくつかを試した)、好きなテレビ番組にまつわるものを挙げてもらった。ひとりが「ハッピー・デイズ」(青春コメディ・ドラマ)のなかで舞台となっている、アーノルズ・ダイナーというレストランを挙げた。アーノルズを元に考えてもらったが、ただ座って食べるだけのレストランにはどのグループも興味を示さず、このアイデアも失敗に終わった。

 車の中にいる客に料理を出すというのは魅力的なアイデアも出たが、たくさんの車をレストランの外の敷地にうまく収容する方法を誰も思いつけなかった。実験を通して、いくつかの悪くない案と、多くのボツ案が生まれ、その日の終わりには参加者たちは鬱々としていた。

 2日目。再び参加者を小グループに分けたが、今回は、これまでのボツ案のなかから2〜3個取り上げて組み合わせ、うまくいきそうな新しいものを立案してみるよう伝えた。あるグループは、ドライブイン・ムービーとアーノルズ・ダイナーを組み合わせ、これが後のディズニー・サイファイ・レストラン(Sci-Fi Dine-In Theater)となった。設定はドライブイン・ムービーだ。客はあたかも、夜空に美しい月と星空が輝く野外にいるような気分になれる。スクリーンには、「妖怪巨大女」や「アタック・オブ・ザ・キラー・トマト」のようなB級ホラー映画の名シーンが代わるがわる映される。客の座席は、1950年代のクラシックカーだ。館内後部の「ダイナー」に控える給仕係は、電子部品を身につけローラースケートに乗って客席に現れ注文を取る。

 この企画は大ヒットとなり、数々の賞を受賞している。そしてこれは2つの、ボツと思われたアイデアから始まったのだ。

※原注:本記事はマーク・セベル、ジェイ・ターウィリガーとの共著。両者はボストンのイノベーション・マネジメント支援組織であるクリエイティブ・リアリティーズの経営パートナー。


原文:The Positive Power of Failure March 17, 2011
http://blogs.hbr.org/govindarajan/2011/03/the-positive-power-of-failure.html
http://www.dhbr.net/articles/-/1739

 

【第23回】 2013年4月22日 高野秀敏 [株式会社キープレイヤーズ代表取締役]
「アベノミクス」はいつまでも続かない!?
転職市場が好調な今こそオススメな業界と企業
「アベノミクス」の影響で、にわかに景気が良くなってまいりました。株価も昨年末から3割以上、上昇中です。4月1日付のロイター通信によると、「日銀が1日発表した3月全国企業短期経済観測調査(短観)では、大企業製造業の(企業の景況感を表す)業況判断DIがマイナス8となり、3四半期ぶりに改善した。先行きはマイナス1で、改善が見込まれている。非製造業はプラス6で、3四半期ぶりに改善した。先行きはプラス9で、改善が見込まれている」とのこと。製造業、非製造業ともに、景気回復の兆しが見え始めています。

景気の良い状態はいつまでも続かない!
今こそあえてキャリアの見直しを

 では、気になる転職採用状況はこれからどうなるのでしょうか? 実は今、すでにとても良い状況にあるといえます。

 一般論として、雇用は景況感に遅れて反応する「遅行指標」といわれます。景気と採用は、ある程度、連動するわけです。経営者が「景気が良い」と思えば、さらに良い人材を採用し、事業を拡大させようとします。一方、「景気が悪い」と思えば一旦採用を止めて様子をみようとします。多くの経営者は、ライバル企業を睨みつつ採用方針を決めます。過去でいえば、9.11同時多発テロ事件後の2002年、そしてリーマンショック後の2009年は、採用数にも大変な落ち込みがありました。

 一方、2010年、11年、12年は、採用が好調だったわけですが、今後、景気が落ち込めば、採用数も激減するものと思われます。また、景気が良いといっても、採用水準はほぼ下がっておりません。体感値にはなりますが、リーマンショック以降、経営者が二度と大型リストラをしたくないという心境もあるのか、採用水準は一定の質を担保しています。

 現在は、転職したとしても給料が大幅に上がることもそうはなく、現職の水準を維持するだけになりそうです。ですから、将来を見据えて、一旦は給料が大幅にダウンしてでも転職するという方が実際には多いようです。

 この好調な採用景気がどこまで続くのかは読めないところですが、永遠に続くことは過去の歴史からみても考えられません。景気が良いと、仕事が忙しくなり、自分のことを考える時間がなくなります。ただ、こんなときだからこそ、一度キャリアを見直してみることも大事なことです。人と同じ考え方や行動をしていると、チャンスを逃してしまうことがしばしばです。景気が悪くなれば、業績も悪くなり、給料や賞与が下がり、転職したくなるというのが世の常です。逆張りこそが、大切な考え方なのです。

 だからといって決して転職を煽っているわけではありません。ただ、今はなんとなく漠然と仕事をなさっている方が多くいらっしゃるように見受けます。景気の良いときこそ、キャリアを真剣に考えるときです。

 では、今年以降の転職市場ではどんな業界でどんな人材が求められるのでしょうか。具体的に見ていきましょう。

未経験でもエントリー可能な業界

 不動産、医療介護、人材。この3分野は、引き続き比較的に業界未経験でも採用が多いタイプの業界です。これまで働いていた業界に染まっていない、素地の高い方が採用されるチャンスにあります。

成熟化、少子高齢化社会の日本で
これからのチャンスのある業界、企業

IT、インターネット業界

 ウェブエンジニア、クリエイター(デザイナー含む)を中心に昨年同様、引き続き好調に採用が続いています。とにかく人が恒常的に不足している業界のため、今年度も引き続き常時募集が続くといえます。

 ソーシャルゲーム、ネットメディア、アドテクノロジーといったこの3つのカテゴリーは引き続きホットな状況です。その他の職種では、アドテクノロジーの営業系職種や、これらの企業では上場が続くため管理部門系職種も継続して募集が続いていくものと予想されます。

ヘルスケア業界

 医療、介護系ビジネスは、以前から少子高齢化にともないニーズが高まっています。既存企業もそうですが、よりニーズを捉えた新しいスタイルの会社も生まれ始めています。

 医療というと、MR(医薬情報担当者)をすぐに思い出す方もいるかもしれませんが、製薬にしろ、医療機器にしろ、営業関連職種、技術系職種のみならず、管理部門系の求人も発生します。

 介護については、社会のニーズが高い一方で、残念ながら必ずしも人気業界とはいえないため、働き手が足りません。ですので、引き続き採用ニーズは高いでしょう。

 また最近では、ホスピタリティワン社のように、医療、介護保険ではカバーできない新しいサービス(在宅介護サービス等)を創る会社もでてまいりました。時代とともにチャンスが大きい業界です。

デフレビジネス

 ファーストリテイリング(ユニクロ)、ジェイアイエヌ(メガネのJINS)、俺の株式会社(俺のイタリアン、俺のフレンチ)のような、価格がリーズナブルなサービスが今、多くの方に求められています。

 日銀が「インフレターゲット2%」を掲げましたが、なかなか簡単には個人の給料が上がらないなかで、良いものを安く提供している企業の評価がますます高くなるはずです。このような「デフレビジネス」に強い企業では、現場の仕事も本社系の仕事も採用数が伸びていくでしょう。

文化輸出型ビジネス

 これは、日本ならではのサービスを行うビジネスを指します。飲食でいえば、海外でも流行している和食の「大戸屋」がその例です。海外では決して安く提供しているわけではなく、相場は日本と同じくらい。それでも日本食は、高い人気があります。

 また、東京寿司アカデミーのように、日本だけではなく、シンガポールで寿司職人を養成するというサービスも注目です。もちろん寿司は日本が本場ですし、なかなか海外では技術の習得が難しいものなので、今後も需要が高まっていくでしょう。

 飲食、サービスは、日本では必ずしも人気が高くない業界ですので、こうした企業でのビジネス体験を得てから転職ですることで、次のステップでは海外赴任など、夢も膨らみます。

クラウドソーシングビジネス

 ここ数年、新たな業務が発生した際に、正社員を雇うのではなく、非正規雇用社員を効果的に活用する企業が増えてきます。景気の良いときに人を雇い、不景気になると解雇するということは、解雇規制が厳しい日本の法律ではなかなかできません。また、解雇をした企業は世間一般からの評判も悪くなるでしょう。企業にとっては、優秀な方のスキルを適切なスパンで提供してもらうことが大事なのです。

 エンジニア、クリエイターではクラウドワークス社が、イラストではMUGENUP社が成長してきています。成長業界ですので、エンジニア、クリエイターのみならず、オールジャンルで人材採用の可能性があるビジネス分野といれうでしょう。
http://diamond.jp/articles/print/34960

 


 
【第2回】 2013年4月22日 三浦由紀江
【第2回】
10代〜60代まで、110人のパート・アルバイトを
即戦力化する方法(1)【パート編】
第190回NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」(2012年8月20日放送)でも取り上げられたカリスマ駅弁販売営業所長の三浦由紀江氏。10代〜60代まで、110人のパート・アルバイトを束ね、所長就任4年で売上を1億1000万円アップさせた。この間、就任4年目は東日本大震災があった。東北新幹線という大動脈を命綱にする大宮駅の駅弁販売がメインだけにこの痛手はあまりにも大きい。だが、この逆境にもめげずに、1本370円のミネラルウォーター「はやぶさウォーター」を“復興の旗印”と自ら考案。震災後の売上4割減のピンチを救う起死回生の一打になった。
このたび、『時給800円から年商10億円のカリスマ所長になった28の言葉』を刊行した三浦氏に、パートを即戦力化し、売上を大幅アップさせる秘訣を語ってもらった。

社員9人に対し、パート・アルバイトが110人という職場

 私は所長就任4年で売上を1億1000万円伸ばしました。

 就任1年目の売上は前年比5000万円アップ。2年目も3年目もそれぞれ3000万円アップ。4年目は東日本大震災の影響で一時4割減収になり、大変厳しい状況になりましたが、私が考案した「はやぶさウォーター」や新開発の駅弁などがヒットし、売上は前年とほぼ同じでした。

 その秘訣はなんだったのか、振り返ってみたいと思います。

 大宮営業所では社員9人に対し、パート・アルバイトが110人ほどいます。年齢も10代〜60代まで、実にバラエティに富んでいます。

 ですから、「パート・アルバイトの即戦力化」が業績を大きく左右します。

 私が業績をアップできた大きな理由は、パート・アルバイトが楽しく仕事をする環境をつくり、即戦力化したことです。

 あるとき、パートの時給を上げようとしたら、こう言われました。

「時給を上げないでください!」

 主婦のパートのなかには、夫の扶養控除の範囲内で働きたいという人が多く、控除適用のボーダーである年収103万円を超えるかどうかが、とても重要です。

 彼女はとてもよく働いてくれていたので、私は時給を上げたいと思いました。
 年収103万円を超えてしまったら、勤務時間を減らせばいいと単純に考えたのです。
 ところが、そのパートは、

「働くのが楽しいから勤務時間を減らしたくない。時給は上げないでください」

 と譲らないのです。

 実は私もパート時代、

「働くのが楽しければ、給料なんか関係ない」

 と思ったことがありました。

 パート時代に働いていた上野駅の売店では、よく売れるパンも、あまり売れないパンも同じ数量入荷されていました。

 その日のうちに全部売り切れてしまうか、あるいは売れ残ったパンはすべて廃棄して、翌日はすべて新しいパンに切り替わるなら、文句はありません。

 でも、袋入りのパンの消費期限は3日あり、入荷から3日間は廃棄できませんでした。
私は、「鮮度が落ちて、まずくなったパンをお客様に売るなんて間違っている」と思いました。
 まずいパンを買ったお客様の印象は悪くなり、2度と買ってもらえなくなります。

 ある日、我慢できなくなって、「こんなまずいパンは売れないから廃棄しちゃえ!」と消費期限の残っているパンを棚から下げてしまいました。

「なんてことしてくれるんだ!」

 それを見た上司は、ものすごい剣幕で怒りました。

自分で発注してみて発見したこと

 しかし、私はひるみませんでした。

「まずくなったパンをどうして売らなくちゃいけないんですか。だったら残らないように発注すればいいじゃないですか!」

 すると、予想外の言葉が返ってきました。

「じゃあ、自分で発注してみる?」

 発注は責任ある仕事です。
「パートがそんな責任のある仕事をしていいの?」という気持ちはありましたが、喜んで引き受け、家に仕事を持ち帰って発注数を考えました。
 もちろん、家で仕事をしても、一銭にもなりません。

 最初はまったくうまくいきませんでした。

 毎日、売れたパンの種類と数をメモし、発注数との差を確認し、次の発注数を決めるのですが、売れ行きがよかった商品が急に売れなくなったり、売れ残ったから数を減らすと突然売れ始めたりと、けっこう難しいのです。

 試行錯誤しているうちに、

「データだけで判断しないで、自分が自信を持っておすすめできる商品を多めに発注したほうがいい」

 と気がつきました。

 おすすめしやすい商品なら、少し多めに仕入れても、自分でなんとか売り切ることができると思ったからです。
 その結果、売れ残って廃棄処分する商品は減っていき、売上は1日当たり5万円も伸びました。

駅弁廃棄量が6000個から2500個に激減! 
コストダウンに成功した理由

 私は自分の経験から、大宮営業所でもパートに発注をまかせました。
 すると、パートは自分の仕事ぶりが認めてもらえたことに感動し、仕事に対するモチベーションが格段に上がりました。

 社員なら1、2週間の売上データを見ながら、「どうも売れないようだから商品を変えてみようか」くらいにしか思いませんが、現場で販売しているパートは、「思ったとおりに売れない」と感じたら、すぐに商品のラインナップや発注数を大きく変えます。
 売れない商品を売るのは大変ですから、1週間も黙っていられないのです。

 たとえば、大宮駅の「駅弁屋旨囲門」で発注をまかせていたパートは、出勤前に必ず事務所に立ち寄っていました。
 自分の発注が的中したか、どのくらい廃棄があったのかを確認するためです。
 その時間の給料が出るわけではないのですが、自主的にやってくれていました。

 彼女は、駅弁が1つ売れ残っただけでも涙目になり、「所長、すみませんでした」と悔しがりました。
 商品を切らさないために多めに仕入れているので、売れ残っても仕方ないのですが、彼女は常に「廃棄ゼロ」を目指していました。

 販売スタッフに発注をまかせるようになってから、大宮駅の駅弁廃棄率は6%から2%になりました。1か月当たりの駅弁廃棄量が6000個から2500個に減りました。

 金額にすると、350万円の無駄が150万円に減ったのです。
 これは劇的なコストダウンとなりました。

パンツスタイルに制服を変更!モチベーションアップ

 パートのモチベーションを上げるためには、働くときの服装も重要です。
 大宮駅の売店では、黒シャツ、黒パンツ、赤エプロンという制服で接客をしています。この制服は私が考えました。
 こだわったのは、女性もパンツスタイルで接客するようにしたことです。

 上野駅の売店では女性の制服がスカートでした。
 スカートだと、座ったりかがんだりするときにどうしても気になります。

 パンツスタイルなら、何も気にせず思い切り動けます。
 お客様もテキパキ働いている販売員のほうが清々しく感じるはずです。

 実は、パンツだけは制服の用意がなく、自前のものでお願いしています。
 パンツの場合、ウエストだけでなく太ももなどのサイズもありますから、誰にでも合うサイズを用意するのが難しいのです。

 それでも、女性スタッフはみんな「動きやすい」と喜んでくれていますから、スカートをやめる決断は正しかったのでしょう。

「がんばって稼いできてね!」と元気よく送り出す

 昔は田植えをするとき、歌ったり踊ったりする専門の人がいて、みんなを盛り上げたそうです。
 畦道(あぜみち)で誰かが拍子を取りながら歌って踊り、農作業をしている人たちも一緒になって歌いながら作業をします。
 つまり歌いながら作業することで、辛い農作業を楽しくしていたわけです。

 私がすべきことはまさにこれだと思いました。

 支店長や所長がいつも難しい顔をして机に向かい、挨拶もしないような職場だったら、どんなに優秀なスタッフでも、その能力を発揮することはできないでしょう。

 私がパートとして働いていたときも、そんな上司がいる事務所に帰ってくると、本当に意気消沈しました。

 逆に、私ががんばっていることを認め、仕事がしやすいように配慮してくれる上司がいるときは一生懸命やろうという気持ちが湧いてきました。駅弁販売にもよりいっそう熱が入り、売上も上がったのです。

 そんな経験をしたからこそ、パートが楽しく、気持ちよく仕事できるようにテンションを上げることが、管理職である私の役目だと思っています。

 だからパートを売店に送り出すときには、「いってらっしゃい、がんばって稼いできてね!」と送り出します。

 自分で売店に行くときには、「おはよう、売れてる?」と声をかけ、「あまり売れていません」というときには、商品の陳列を直したり、「こういうことをしたほうがいいんじゃないの?」とアドバイスしたりします。

 ときには、「今日は○○さん、きっと売り切るよ。がんばろうね」と励ますこともあります。
 ほんの5分くらいの会話ですが、「あなたのことを見てますよ。おもいっきりがんばってね」と伝えることが大切です。

 すると、パートはエンジンがかかり、一生懸命仕事をするので成果もあがります。
 その成果をきちんと見て、「よくがんばっているね」と認めてあげると、仕事が楽しくなり、自分の能力をどんどん発揮してくれるのです。

 では、アルバイトをどう即戦力化したのか。
 それについては次回お話ししましょう。

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「10代〜60代まで、110人のパート・アルバイトを即戦力化する秘密!」
第190回NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」で大反響!110人のパート・アルバイトを即戦力化する秘密!44歳で時給800円、52歳で正社員、53歳で大宮営業所長となり、就任4年で売上を1億1000万円アップさせた28の言葉。ギクシャクした人間関係修復のコツ、部下を動かす言葉、1%の偶然をチャンスに変える方法、モンスタークレーマーをファンにする言葉、使えるパート・アルバイトの採用法まで一挙公開!心の底から仕事が楽しめ、心が楽になる三浦語録が満載。ぜひ一度ご堪能ください。 

三浦由紀江(みうら・ゆきえ)
JR東日本グループの株式会社日本レストランエンタプライズ(NRE、旧・日本食堂)弁当営業部上野営業支店前大宮営業所長。現・上野営業支店セールスアドバイザー。97年、44歳時にJR上野駅の駅弁販売を開始。当時の時給は800円。52歳で正社員となり、53歳時に異例の抜擢で大宮営業所長となる。就任1年目で駅弁売上を5000万円アップさせ、年商10億円超を達成。以降、所長就任4年で売上を1億1000万円アップさせる。大宮駅限定のカリスマ駅弁を20種産み出すかたわら、9人の社員と110名のパート・アルバイトを束ね、6店舗を切り盛りするカリスマ営業所長として活躍。NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」、TBS「応援!日本経済 がっちりマンデー!!」でも紹介された。
http://diamond.jp/articles/print/34518

【第25回】 2013年4月22日 本荘修二 [新事業コンサルタント]
世界から熱い視線を注がれる500 Startups
常識破りのグローバル戦略とは?【後編】
 昨年12月3日、シリコンバレーのマウンテンビューにある「500 Secret Lair」で、500 Startups(以下500)のメンター・ミーティング開かれていた。筆者はその場で代表のデイブ・マクルーア(Dave McClure)氏の言葉に、一瞬耳を疑った。なにしろ、10以上の国をあげて、国際展開すると言うのだ。もともと500はグローバル戦略をとってきたが、これは予想を超えていた。

 第24回に続き、第2回でも取り上げた米国スーパーエンジェル500について、一年を経ての続報をお届けする。

 社名の500に迫りつつある投資社数もさることながら、33ヵ国のスタートアップに投資している点は、他に類をみない。500が米国に留まらず世界に展開するのはなぜか? どのような地域に力を入れているのか? どのようなアプローチで取り組んでいるのか?

 今回は、500のグローバル展開、そして日本関係の活動について紐解いてみたい。

世界にオープンな育成プログラム
各国の起業家コミュニティとつながる

 グローバル展開は500 Startupsの設立時からの一大方針だ。世界中にいる優れた起業家人材とつながり、共に成功しようと志している。

 一年前は、投資した会社の10%が米国外だったが、いまは15%ほどに上昇している。今年2月に終えたアクセラレーター・プログラムでは参加33社中19社と、6割近くが米国外からの参加だった。ラトビア、エストニア、クロアチア、インド、日本、台湾、オーストラリア、ブラジル、アルゼンチン、オーストリア、デンマーク、イタリア、スペインと様々な国からスタートアップがシリコンバレーに集まった。


Geeks on a Planeでの一幕 Photo by Christen O'Brien
 参加した企業がこれほど多くの国から集まった理由の一つには、500がますます世界で注目されていることがあげられる。これに加え、第22、23回でも紹介したGeeks on a Plane(GOAP、ギークス飛行機に乗る)なるプログラムで、500のグループは2012年だけで20ヵ国以上を訪れたが、うち17ヵ国のスタートアップに500は投資している。

 GOAPは日本的な、単に企業を訪問し、レセプションに参加して名刺交換するだけの海外視察とは異なり、各国のコミュニティとつながり、投資すべきスタートアップとの出会いがあれば、その場で投資に踏み切るようなアクション・オリエンテッドなものだ。そのため、500も現地の起業家も、実際の行動へと発展することが少なくないのだ。

投資家自ら国際化を
異質の出逢い、市場の可能性

 500の国際展開は、その度合いで米国に数あるスーパーエンジェルのなかでも突出している。筆者の古巣のGeneral Atlantic(GA)は、ベンチャー・キャピタルとして国際展開した先駆けだが、その理由は、フォーカスしているIT業界が国際化しているから投資家であるGA自身も国際化する必要があったからだった。GAの戦略は当時としては先進的だったが、いまではセコイアやアクセルなど、国際展開するベンチャー・キャピタルは珍しくはない。500の国際展開のスピードと地域の広がりは、スーパーエンジェルの中では、比べる相手がないくらいだ。

 スタートアップに対して「スケーラブルであれ」(第19回でスティーブ・ブランク氏も指摘するように、中小規模で安定成長にとどまらず急成長を続けるもの )と言っているが、ベンンチャー・キャピタルは、自身がさしてスケーラブルではない。だが500は、グローバル戦略にその可能性を試そうとしている。特定地域に依存する従来の投資家のモデルを踏襲せず、グローバルなフランチャイズとも言える新たな投資家モデルをつくろうとチャレンジしている。500自体がスタートアップとして新境地を切り開こうとする性格を表した戦略と言えよう。

 また、500の特徴は「なんでもシリコンバレーという時代は終わった、それ以外にもチャンスがどんどん生まれる」という意識だ。第20回でポール・マーティーノが、「シリコンバレーは技術やインフラのイノベーションをつくるが、革新的なアイデアを生み出すアジアの可能性は大きい」と言っているように、シリコンバレー一辺倒ではなく、他の地域の起業家のポテンシャルに注目し、また両者の組み合わせによるイノベーションを志向するのは、時代の必然とも言えよう。まだ本気で取り組む人は少ないが、一つの大きな流れになるかもしれない。

 他と違うものでなければスタートアップの意味は薄れる、異質の組み合わせが創造をもたらす、そして米国以外の市場の経済成長、の三点からして、ベンチャー投資家がグローバル戦略に舵を切るのは当然だと言える。

 筆者が日本側ホストの一人としてGOAPをサポートしたのが2009年6月。500代表のマクルーア氏は、同社創業の前年からグローバル戦略を実践していたのだ。

メキシコ、インド、ブラジル
コミュニティ・ビルダーとともに道を開く

 500が米国以外で特に力を入れつつある地域としては、まずメキシコ、インド、ブラジルがあげられる。2012年前半にブラジルはじめ南米を担当するベディ・ヤン(Bedy Yang)を、同年夏にメキシコを担当するセザール・サラザール(Ce'sar Salazar)とサンチアゴ・ザバラ(Santiago Zavala)を、同年秋にインドを担当するパンカジ・ジェイン(Pankaj Jain)を500に迎え入れた。

 メキシコのスタートアップ事情は日本の方には馴染みがないかもしれないが、筆者の古巣のGAも、メキシコにアドバイザーを三人も置くなど、注目を集めている市場だ。人口は1億2000万、GDPは世界12位で、近年の改革で高い経済成長と規制緩和が実現されている。また、スペイン語圏の入り口としての意味も大きく、米国とのつながりも強い。

 10年ほど前は300万人にすぎなかったメキシコのインターネット・ユーザーは、2015年には20倍になると予測されている。いま世界で、ファイスブックのユーザー数は5位、ツイッターは7位だ。またこの二年で、スタートアップ・ウイークエンド(金曜の晩に集まり、日曜の晩の発表時までにビジネス・コンセプトとデモができるプロトタイプを仕上げるという突貫集中スタートアップ企画で、米国発で世界に拡大中)は、全くのゼロから、年40以上のイベント開催と、米国に次ぐ活況となっている。ネット関係のスタートアップ熱が高まっているのだ。


500の創業者、デイブ・マクルーア氏もメキシコで精力的に動く Photo by 500.co
 500はメキシコに、昨年「500 Luchadoes」(マスクのレスラーでおなじみのメキシコのプロレスの意)と名付けた小規模のアクセラレーターを発足し、メキシコにフォーカスした投資ファンドを今年立ち上げている。

 インドについては、第22、23回でも紹介したように、巨大な市場となる高成長の重要な地域だ。500はZipDialなどすでに数社に投資をしており、米国でのアクセラレーター・プログラムにもインドからのスタートアップが参加している。今年、インド用のローカルの投資ファンドを立ち上げたところだ。なお、地場のアクセラレーターと協力関係を持ち、メキシコのように自らアクセラレーターを立ち上げる予定はない。

 サンパウロとシリコンバレーを行き来していたベディ・ヤンは、500に参画する前から、「Brazil Innovators」というコミュニティをつくり、シリコンバレーともつながったイベントをブラジルで開催してきた。500ファミリーは、GOAPでブラジルはじめ南米にも訪れており、すでに数社に投資しているが、ブラジル用のローカルの投資ファンドも立ち上げる計画だ。

 このように、重視する国には、実際にそこに居住し、地域のコミュニティとよくつながった人材に、実務を任せて展開している。中央集権的なスーパーエンジェルは、こうした国際展開はなかなか難しいだろう。もちろん、ドアを開ける、コミュニティとつながる上で、マクルーア氏はじめ500のチームが実際に何度か訪問することで、効果をあげている。

 上記の三国だけでなく、500は国際展開にアグレッシブだ。中国、東南アジア、東アジア、そして、中近東、ロシア、トルコや東欧なども視野に入っている。今年、新たな女性メンバーであるルイ・マー(Rui Ma)を中国担当に迎え、カイリー・ン(Khailee Ng)をマレーシアのEIR(Entrepreneur In Resident)として迎えている。

日本のスタートアップにも投資
インターナショナルな顔ぶれ

 今年2月にNTTドコモから、ドコモ・キャピタルの500 Startupsへの投資が発表されたが、日本企業の500への注目度は高まっている。2009年にGOAPが日本に来て以来、日本のコニュニティとのつながりも進んでいる。これまで、日本関係では以下の12社のスタートアップに出資している。

 マウンテンビューの500 Startupsのコワーキング・スペースに拠点を持ち、米国中心で活動してきたのが、Ginzamarkets、SearchMan、Hapyrusの三社(Hapyrusは外に引っ越したばかり)。

 SearchManとHapyrusは、米国でのアクセラレーター・プログラム卒業生の日本人創業者によるスタートアップだ。Ginzamarketsは、GinzametricsというSEOデータ管理・分析プラットフォームを提供しているが、日本にマネジャーがおり、多くの日本企業を顧客としている。

 これに加え、Gengo、PeaTix、Exchange Corp.(Aqush & MyCredit.jp)、Language Cloud、Fullcourt、TokyoOtakuMode、Cinemacraft(Videogram)、AppSocially、Whillなどに出資している。AppSociallyとWhillは今月開始のアクセラレーター・プログラムに参加している。PeaTixは、第24回で紹介した500の新しいニューヨーク・オフィスに入居したところだ。

 この12社だが、日本以外の市場へアプローチしているものが多く、インターナショナルな創業者が多い。そのどちらもないものは見当たらない。例えば、TokyoOtakuModeは、英語は上手ではないが、もとから英語圏の海外ユーザーがメインだ。国内市場にフォーカスした事業でも構わないが、500ファミリーの一員となるメリットを活かせるような事業特性を持っていることが、よき縁の第一歩だと言えよう。

 また、よくある日本のスタートアップとは一線を画した曲者も多い。みな上手く行くかは分からないが、この中には、日本でのスタートアップ関係のイベントでスピーカーを務めた起業家やテレビ取材された起業家も多く、注目の度合いは高いようだ。


 なお、この4月16日に開催された新経済連盟サミットでの500パートナー(日本担当でもある)ジョージ・ケラマン(George Kellerman)氏のスピーチが、来場者の心を震わせた。文字だけでは伝えにくいが、あえて紹介する。

「スタートアップ起業家は立ってください」
「次世代のビジネスを作っているこの人たちを祝福してください」
「みなさん立ってください。出る杭は打たれるというが、全員が立てば打たれない。みんなで日本を変えましょう」


日本の聴衆を感動させたジョージ・ケラマン Phot by Shuji Honjo
 この言葉は満場の拍手喝采を浴び、その興奮はソーシャルメディアを駆け巡った。ちなみに、セッション後にケラマン氏と名刺交換をと並ぶ列は数時間も続き、多くの人が「感動した」と口にし、「会社を辞めて起業するといま決めました」と決心を伝えた者が2名いたという。日本のコミュニティへの力強いメッセージとなったようだ。

シリコンバレーにもまれ
ユーザーに腐心するエンジニア創業者

 先に挙げた12社の中から、日本から海を渡り500 ファミリーに加わり、事業立ち上げに懸命に取り組んでいる2人のスタートアップについて簡単に紹介しよう。

 SearchManは、当初AppGroovesとして500のアクセラレーター・プログラムを経た柴田尚樹氏が創業し、SerachManへとピボット(事業転換)し、日本でも知られるNiren Hiro氏をCEOに迎えたスタートアップだ。柴田氏は、楽天の執行役員、東京大学助教、スタンフォード大学客員研究員を経て、ロクに資料すらないままマクルーア氏に自らの事業構想を説き、シード出資を得てシリコンバレーで創業した。500らしいストーリーの一つだ。

 柴田氏は、元GoogleやFacebookのメンターが親身に相談に乗ってくれる、スタートアップが多数集まっているので刺激になるし教えあうのがプラス、といった500のよさを語るが、特に印象的だったのは、「思い込みはダメだ、ユーザーに聞け!」という点だ。

 絶対これは刺さるぞと思って開発したものがカラ振りに終わったことは数知れず、500のマントラともいえる、データをみろ、ユーザーの反応はどうだ、という客観的な事実に基づくマネジメントが叩き込まれていた。

 SearchMan.comはApp Storeの検索エンジン最適化ツールだ。簡単に言うと、広告に頼らず、App Storeの検索エンジン最適化をして、検索経由でのインストールを増やすためのツールだ。今年はじめにはGoogle Playにも対応し、リリースから1年足らずで1万以上のアプリ開発会社が使っており、よいペースでユーザー数は伸びている。アプリ開発会社の主な言語でのキーワード最適化以外にも、日本から英語圏に進出する際の検索キーワードの最適化に使われる例も多い。また、SEOコンサル、広告代理店が、これをツールに使いコンサルティングを提供している例もある。今年は勝負の年となりそうだ。


Hapyrusを操業した藤川幸一氏 Photo by Shuji Honjo
 Hapyrusは、藤川幸一氏らが2011年3月に設立した、ビッグデータ技術のスタートアップだ。藤川氏は、ヤフー日本法人に買収されたPIM(現ヤフーCOO川邊健太郎らが創業)とシリウス・テクノロジー、そして買収後にヤフーでエンジニアを務めた後、500のアクセラレーター・プログラムに参加した。

 Hapyrusは、普通では価値が出ない、捨てられるようなログデータ等をクラウド上で適切に管理・分析することで、データの価値を向上させるFlyDataというプロダクトを開発している。Amazonのペタ(1000兆)バイト級データを扱うデータウェアハウスサービスRedshiftにも対応している。

 これはアクセラレーター・プログラム時とは異なるビジネスにピボットしている。このサービスを開発するにあたり、藤川氏はデータアナリストにアプローチし、例えば関心を示したある著名モバイルSNSのデータアナリストとのやりとりを繰り返して改善していった。

 また、Hapyrusは、Amazon Redshiftのプレビューベータへのアクセスを公開前に許され、早くからRedshift対応の開発ができた。これは、とても大きなアドバンテージだった。これは、500がAmazonなど有力企業とパートナーシップを築いているから可能になったことだ。

 Amazonなどの一部の企業は、次のGoogleやFacebookになるようなスタートアップが、500ファミリーから出てくる可能性があり、早く自社プロダクトを使ってもらうことが、後々自社の成長に大きなメリットをもたらすことを知っているのだ。そうした中から将来有望なスタートアップを買収することもある。

 藤川氏は、チーム作りのチャレンジやピボットについて苦労を語ってくれたが、最も印象的だったのはユーザーへのフォーカスだった。初期ユーザーとの共同作業とも言えそうな深い連携や、ユーザー獲得への必死さは、日本でよく見られる、「エンジニア出身の社長がつくりたいものをつくる」という姿勢とは根本的に異なるもので、ユーザーに認められなければ意味はないという、経営者へと脱皮したマインドを示すものだった。

 二社とも、経験ある腕利きの技術者が創業したスタートアップだが、顧客獲得やユーザーへの真摯な取り組みにおいては、競争が激しくレベルの高いベンチャーがあまたあるシリコンバレーで、500ファミリーの一員としてコミュニティに刺激を受けていることが、プラスとなっているようだ。

 もっとも、あくまで起業家が主役だ。シリコンバレーは「創業者が尊重されて気持ち悪いほど」という声に表されるように、起業家のポテンシャルを最大限に引き出す場となっているのだ。また、エンジニアの地位も高い。尊重されるからには、エンジニア出身でもユーザー/顧客にフォーカスし、「売れるものをつくる」そして「売る」ための努力を惜しまないのだ。

スタートアップと投資家にとって
500のグローバル戦略の意味は?

 投資家にとって、すごいヤツら、すごいアイデアが、シリコンバレー以外にあれば、プラスとなる。筆者がインド関係で出合ったものだけでも、ZipDialのようにコロンブスの卵のようなビジネスを創造するスタートアップがいくつもある。

 成長が期待され、ポテンシャルの大きな市場も魅力的だ。さらに、これから国ごとの市場は、各国独立ではなく融合が進むだろう。IT/ネット分野では、なおさらだ。なお、国によって、規制や税などの難儀な問題があるので、実務的にそう簡単ではない。そのため、すべてを自前で進めるのではなく、それぞれの国ごとの現地スタッフの知恵を活用するといったフレキシブルな対応が必要だ。

 スタートアップにとってはどうか。起業家がグローバルなスーパーエンジェルとつながるメリットは多々ある。米国などの母国以外の市場に展開するときには、彼らのもつコミュニティは重要だ。それに、異質との出会いがいつでもでき、刺激は満点だ。市場というだけでなく、新たな国際的な事業をつくるチャンスもある。ソフト開発の複数国チームはよくある話だ。

安易な海外志向と一線を画す
日本のインキュベーターも海外から受け入れを

 第24回で500 Startupsのネットワーク効果について記したが、シリコンバレーの500ファミリーに加わる意義は大きい。メンターやファウンダーのネットワークからなるコミュニティに参加できるうえに、そのノウハウと経験を活かすことができる。

 グローバルでは500のチームが不思議がるほど、各国で500のブランドは強くなっている。世界各地の起業家や投資家から、シリコンバレーのコミュニティとつながるメリットを強く求められている。実際に、各国から500のアクセラレーター・プログラムへの応募は絶えない。こうした動きは、ネットワーク効果をさらに増幅させる。

 しかし、注意も必要だ。二年ほど前に、猫も杓子も米国に行きたいと日本のスタートアップ界が狂ったときがあった。その頃、東京での夕食の集まりでマクルーア氏が、大声で叫んだ。

「日本は大きな市場で、消費者は進んでるし金払いもいい。DeNAやクックパッドなど成功例もある。なのに、日本でやらずにスグ米国なんて何言ってるんだ」

 つまり、意味もなくシリコンバレーに行くという姿勢はナンセンスだということだ。どんどん海外へ進出すること奨励している日本のスーパーエンジェルもあるが、500の姿勢はそれとは根本的に異なる。

 一方で、日本で海外のスタートアップを支援している例は少ない。筆者が知る海外の起業家が日本のあるアクセラレーター・プログラムに参加しようとしたが、海外から英語での応募を受け付けないという。そもそも日本語でしか情報を出していないことも多い。

 かたや、日本でも、コワーキング・スペースにはインターナショナルなスタートアップもみられ、一部の大学では海外の人材受け入れに積極的だ。

 インキュベーターは、数ヵ月単位のプログラムで仕事をすることが多く、短期の仕事のように見られるが、本質的には長期的に未来を創ることを担う。しかし、日本のインキュベーターは、そこまで将来の展望や、ビジョンを持っていないこともみうけられる。

 例えば、国内フォーカスが強く、海外は視察や訪問に留まり、海外からのスタートアップを受け入れる姿勢が欠けていたらどうお思いだろうか。短期的に国内のスタートアップ・ブームに乗っかろうということだけでは、未来をつくる展望に欠ける。

 そもそも、日立製作所のような巨大企業もこれからのために国際化を推進しようとしているのに、スタートアップの推進役が内弁慶では先が見えない。そろそろ昔の日本流、つまり自国に閉じて輸出するスタイルから、国を超えて融合することで未来をつくる新たな展望を持ってもいいだろう。創造的破壊は、インキュベーター自らが行わねばならないのである。
http://diamond.jp/articles/print/34962


「事業の撤退・投資基準」を軸に経常益を7倍に

第1回 吉川廣和・DOWAホールディングス相談役に聞く

2013年4月22日(月)  多田 和市

 「成長事業を伸ばして衰退事業から撤退すれば、高収益企業に再生できる」。DOWAホールディングスの吉川廣和相談役が経営トップとして社員に示したビジョンは明解だ。連載の第1回では、1999年から同社の経営陣として取り組んできた抜本的な構造改革で成果を上げた吉川相談役がつかんだ「経営の本質」を紹介する。
 環境・リサイクル事業や非鉄金属製錬事業、電子材料事業などを手掛けるDOWAホールディングスの業績が好調だ。2012年度の経常損益は前年度比15%増の240億円を見込む。株価も昨年末から約3割上昇。同業他社に比べて群を抜いている。

 業績好調の背景には、1999年から進めてきた抜本的な構造改革がある。最大の課題だった財務体質にメスを入れて有利子負債を減らし、高収益体質に転換したことが今の好業績をもたらしている。

 構造改革を断行したのは、DOWAの吉川廣和・現相談役。「社員がやる気を出して世界一を目指せる成長事業だけを残し、さらに積極的に投資すれば高収益企業に再生できる」という明確なビジョンを掲げた。


吉川廣和(よしかわ・ひろかず)
1942年10月生まれ。66年3月東京大学教育学部教育行政学科卒業。同年4月同和鉱業(現DOWAホールディングス)入社。93年6月取締役。97年6月常務。99年6月専務。2000年4月副社長。2002年社長。2010年4月会長。2011年6月相談役。(写真:陶山 勉)
 構造改革を本格的にスタートさせた99年度はわずか70億円しかなかった経常利益を、2006年度には7倍に増やした。2200億円あった有利子負債は1000億円強まで半減させた。その後リーマンショックの影響で2008年度は133億円の経常損失に陥ったが、2012年度は240億円を見込むまで順調に回復している。「2014年度の経常利益450億円、ROA(総資産利益率)10%以上」という中期経営計画の目標も達成が見えてきた。

 経営体質を大きく変えた構造改革の決め手は、「事業の撤退・売却か、投資・買収を判断する3つの基準」だ。3つの基準は、吉川相談役がジム・コリンズ著の『ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則』からヒントを得て編み出した。

 「当社にとって最大の問題は、財務体質だった。このまま借金体質を続けていたら、それこそ会社が持たない状態だった。不良資産を処分し、借金を極力減らして身軽になり、再スタートしなければならなかった」(日経ビジネス2012年11月26日号実践の奥義「経営の普遍的な法則を学ぶ」から引用)

 吉川相談役は、自身がDOWAの経営陣として進めてきた抜本的な構造改革に踏み切った理由をこう説明する。実際、財務体質を改善するために採算割れの事業は、矢継ぎ早にメスを入れていった。

 本格的な構造改革に踏み切る1999年の前年(98年)7月には、バブル期に買収した東北ペプシコーラ販売を売却。理由は、毎年赤字を計上して資金繰りに行き詰まっていたからだ。「バブルのツケを処理するという意味では遅すぎたと言えるだろう」と、吉川相談役は振り返る。

 2000年には、500人の希望退職を募り、研究開発費や諸経費を削減。同年9月、DOWA子会社の日本弁柄(べんがら)工業が創業以来取り組んできた弁柄(赤色顔料)事業やDOWAの岡山工場の主力事業だった酸化鉄事業など、50〜60年続いていた伝統的な事業から撤退した。両事業とも中国から輸入される安価な製品に押されていたからだ。黒字であっても、いずれ赤字に転落するのは明らかだった。

『ビジョナリーカンパニー2』から撤退・投資基準導く

 当時の吉川相談役には、1つの悩みがあった。それは「本格的に『選択と集中』を進めるためには、撤退する事業、継続する事業を迅速に決めなければならない。そのためには、撤退・売却の基準や投資・買収の基準を明確に求める必要があった。当初は、事業を生み出すキャッシュフローなどを基に基準を決めようとしていたが、しっくりいかなかった」のだ。

 そんな折、吉川相談役は2001年12月に翻訳出版された『ビジョナリーカンパニー2飛躍の法則』を手にすることになった。当時の吉川相談役は副社長として、会社の再建に本腰を入れていた。早速同書を読んでみた吉川相談役が注目したのが、「針鼠(はりねずみ)の概念」だった。同書にはこんなくだりが出てくる。

 「アイザイア・バーリンは有名な随筆『針鼠と狐』で、世間には針鼠型の人と狐型の人がいると指摘した。これが古代ギリシャの寓話、『狐はたくさんのことを知っているが、針鼠はたったひとつ、肝心要の点を知っている』に基づいたものだ。狐は賢い動物で、複雑な作戦をつぎつぎに編み出して、針鼠を不意打ちにしようとする。(中略)狐の方がはるかに知恵があるのに、勝つのはいつも針鼠だ」という話だ。

 そしてコリンズは「世界がどれほど複雑であっても、針鼠型の人たちはあらゆる課題や難題を単純な、そう、単純すぎるほど単純な針鼠の概念によってとらえる。針鼠型の人たちにとって、針鼠の概念に関係しない点は注目するに値しない。(中略)偉大な企業への飛躍を導いた経営者は、程度の違いはあっても、全員が針鼠型である」と書いている。そのうえで、針鼠の概念を以下のようにまとめている。

 「(1)自社が世界一になれる部分はどこか(同様に重要な点として、世界一になれない部分はどこか)。この基準は、中核的能力がどこにあるかよりも難しい。中核的能力があっても、その部分で世界一になれるとはかぎらない。逆に、世界一になれる部分は、その時点で従事していない事業かもしれない。(2)経済的原動力になるのは何か。飛躍している企業はいずれも、鋭い分析によって、キャッシュフローと利益を継続的に大量に生み出す最も効率的な方法を見抜いている。(中略)(3)情熱を取り組めるのは何か。偉大な企業は、情熱をかきたてる事業に焦点を絞っている。どうすれば熱意を刺激できるのかではなく、どのような事業になら情熱をもっているかを見つけ出すことがカギになっている」

 吉川相談役はこの記述を読んだ時、「これだ!」と思った。議論を重ねた後、事業を続けるかどうか、新たに投資するかどうかの判断基準を導き出した。

撤退・売却と投資・買収を判断する3つの基準


 判断基準はこうだ。第1の基準は、まずは「マーケットがあるかどうか。そして衰退のマーケットなのか、成長マーケットなのかどうなのか」という基準だ。

 第2の基準は、DOWAが世界でトップになれるかどうか。DOWAは基本的に製造業なので、世界一の技術力があるかどうかという基準だ。素材産業はいつもグローバル競争に晒されている。従って世界一の技術を持っているか、一生懸命がんばれば世界一になれるかどうか見極めるというものだ。

 第3の基準は、社員が動く原動力があるかどうか。要は、言い意味でのやる気があるかどうかという基準だ。

 3つの条件を整理すると、「マーケットの成長性」、「世界一の技術力」、それに「社員のやる気」だ。2002年頃、吉川相談役は社員に対して3つの基準を発表した。たとえ黒字事業であっても、3つの基準に合わなければ、撤退を決めた。その逆にその時は赤字事業でも3つの基準を満たしていれば、継続を決めた。

 その結果、スーパーマーケットや商社なども売却した。DOWAのスーパーは「供給所」と呼んでいる社員用売店部門を地域に開放して誰でも利用できる店舗を独立させたもの。「同友」という名のスーパーとして地位を確立しており、黒字を出していた。ところが1990年代に全国チェーンが参入して過当競争に陥っていたのだ。大手スーパーとの競争力は歴然としていた。紆余屈折の末2002年4月、約150人の再雇用を条件に大手スーパーに売却した。

 さらに2003年3月、半導体部品の1つであるリードフレーム事業も撤退した。87年に市場参入し、国内だけでなくフィリピンにも工場を建設し、約10年間で黒字化した事業だ。しかし、極めて競争が激しく、両工場合わせても世界市場でのシェアは1%にも満たなかった。世界上位の企業は10%以上のシェアを持ち、太刀打ちできなかった。100億円以上投資しても3%のシェア向上しか図れないという試算もあり、撤退を決めた。

 3つの基準を基に、投資を決めたり、買収したりした事業は現在もすべて黒字だという。吉川相談役はこう語る。「当社の構造改革が成果を上げたという意味で、コリンズには本当に助けられたと思っている。だから当社にはコリンズ信奉者が結構いる」。

 経営者とは何か――。

 この問いに対して、吉川相談役は『ビジョナリーカンパニー』の著者ジム・コリンズ氏がシリーズ4作目の『ビジョナリー・カンパニー 4 自分の意志で偉大になる』で書かれている建設的なパラノイア(偏執狂)という言葉に言及した。

 「建設的かどうかどうかは自己評価しなければいけないが、私自身、DOWAホールディングスの社長、会長を務めた約10年間は、まさにパラノイアだったと思う。妄想癖とか、ノイローゼやうつ病だとか言われようと、そういったものをずっと抱えていた」

 「あの10年間は会社の再建を懸けて、抜本的な事業構造改革に取り組んだこともあり、経営トップとして常に不安だった。自分のやっていることが本当に正しいのか、経営者として正しい道を進んでいるのか、第三者の評価を受けても分からなかった。DOWAを取り巻く経営環境がどう変化するのか分からず、不安を覚えた」

 「だから、いつもセンサーを働かせて、できる限り情報を集めた。新聞や雑誌、本を読んだり、『起業家』と呼ばれる先達の意見を伺ったり、講演会に出かけたりした。情報収集は人並み以上にやってきたと思うが、それは不安の裏返しだった。2011年に会長職から相談役になり、第一線を退いてようやくホッとしたというのが、偽らざる心境だ」

データを出し合うことで本当の議論ができる

 吉川相談役は若い頃、酒を飲みながらいろいろな人と侃々諤々の議論をよくやったという。いわゆる居酒屋談義だ。しかし、「いかに無駄だったかということが分かった。翌朝、何を議論したか、忘れている。結局、相手を説得できないし、実践に生きるわけでもなかった」と、吉川相談役は話す。

 特に権力の前には全く力がないことを、吉川相談役は思い知ったという。「改革という行動に移させるためには、裏付けるデータがないと話にならない。データに基づく議論は、データで答えるしかない。データを出し合うことで本当の議論ができるし、不当な権力にも対抗できる」と、吉川相談役は主張する。

 吉川相談役が持っていないデータを相手が出せば、冷静に受け止めて、自分が間違っていたら自分の説を変えればいいと言う。要は、正しいことが分かればいいというわけだ。データに基づく「経営の見える化」を徹底することが重要であり、実践しながらデータに基づいてチェックすべきだと、吉川相談役は説いている。

 第2回は、キヤノン電子の酒巻久社長を予定している。


ビジョナリー経営塾

 少子・高齢化や深刻なデフレ経済、アジア新興企業の台頭など、日本企業を取り巻く経営環境が厳しさを増している。こういう時だからこそ、経営者は自社の経営理念(ビジョン)を明確に打ち出し、やるべき手をどんどん打つべきである。

 「偉大な企業」になるために、経営者はどう考えて、具体的に何を実践したらいいのか。

 コラム「ビジョナリー経営塾」では、実際に経営改革を成し遂げ、成果を上げられた経営者から具体的な取り組みとその過程でつかまれた「経営の本質」について学ぶ。
 http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20130418/246908/?ST=print


【第88回】 2013年4月22日 高城幸司 [株式会社セレブレイン 代表取締役社長]
長距離通勤者をあざ笑う
「自転車通勤」がブームに終わる可能性
 職場へは「電車通勤が当たり前」というのは、もう古い考え方かもしれません。実は近年、若手社員を中心に自転車で悠々と出社する「チャリ通族」が増えているからです。

 一方で「自転車で通うなんて危険」「朝から運動なんて疲れる」というようなネガティブな意見を持つのは、ローンで郊外にマイホームを購入し、電車で長距離通勤をしている人たちです。

 こうして通勤の在り方が変わりつつあるなか、これからの通勤事情はどうなるのか?急増する若手社員の自転車通勤を題材に考えてみましょう。

11時には終電がやってくる!?
「片道2時間通勤なんて信じられない」

 新入社員の歓迎会や新しい組織での飲み会などが開かれ、春の繁華街は活気に満ちています。そんな雰囲気につられて、つい普段より店に長居してしまいがち。ただ、明日の仕事もあるため、帰宅時間を考えて飲まなくてはなりません。そこで、誰もが気になるのが最終電車。おのずと通勤時間の長い人から先に帰ることになります。

 そんな通勤時間をきっかけに価値観の違いを痛感する出来事に遭遇したのは、精密機械メーカーに勤務する20代の若手社員とその先輩社員たち。

「そろそろ帰らないと…。終電だから失礼するよ」

 同僚との飲みが佳境に入るタイミングで席を立ったのは、Dさん(35歳)。時計を見て、大急ぎでカバンを持って帰ろうとしています。

 時刻はまだ11時前。最寄り駅の電車は、12時過ぎまで動いています。居酒屋はまだ満席状態。そこで、「もう少し飲みましょうよ」と後輩が帰りを急ぐDさんを引き留めようとしました。

 しかし、それに対して、

「駅から自宅までの最終バスに間に合わなくなるから、帰りなさい。お疲れ様」

 と制したのは、上司のFさん(45歳)。Dさんが職場から2時間近くかかる場所にマイホームを買ったことを知っていたので、帰ることを勧めたのです。

「この時間に出ないと間に合わないところから通うなんて、ありえない」

 一方で若手社員は、そう勝手に盛り上がり始めました。なかには「1日のうち4時間もの時間を通勤に捧げる人生なんて」…と同情する声まであがる始末。

 そんな声に対してFさんは、

「新婚で、来年には子どもが生まれるんだぞ。マイホームには絶好の場所を選んだと思う。人生の決断を称えて乾杯しようじゃないか」

と返し、すでに帰ったDさんをネタに飲み会が続きます。果たして、この飲み会は、何時頃お開きになるのでしょうか?

 ちなみにDさんの自宅は、職場から電車で1時間半、さらに最寄り駅からバスで15分を要します。待ち時間などを含めると、通勤時間はおおよそ2時間。この最寄り駅から自宅近くまでの最終バスの時間が早いのです。

 そんなDさんのマイホーム事情について、Fさんが後輩たちに一通り説明して「我々もそろそろ帰ろうか」と言い出したとき、

「そんな長時間の通勤なんて考えられません!」

 とDさんの決断を理解できない若手社員たちが、「通勤時間でどれくらいなら我慢できるか?」を題材に飲もうと、追加注文をはじめてしまいました。このままでは、終電に間に合わないのではないでしょうか。おそらく朝まで飲む覚悟なのでしょう。

理想の通勤時間は「30分」なのに
長距離通勤を選んでしまうワケ

 さて、仕事をするうえで切っても切り離せないのが通勤。毎日の行き帰りにかかるこの時間を、「長い」「耐えられない」と感じるのはどのぐらいからでしょうか。

 マイナビ賃貸が「理想の通勤時間」を聞いた調査によると、通勤時間を「長い」と感じるのは「1時間ぐらいから」が30.6%で最も多い結果となりました。

 では、長距離通勤をしている人たちは、移動時間をいかに有効活用しているのでしょうか。取材してみると、

・スマホでニュースをチェック
・メールを送る
・音楽鑑賞、読書

 など、いろいろと工夫をして時間をつかっている様子が伺えました。

 ただ、移動時間が長いことで出勤前に「疲れる」という本音を語ってくれた人は少なくありません。やはり通勤時間が長いのは大変です。先ほどのマイナビ賃貸の同調査によると、理想の通勤時間は「30分以内」が最多で40.2%という結果になりました。通勤時間は短いほうがいいと考えている人が大半なのです。

 また同調査では、

「近いに越したことはない」
「近ければ近いほど朝ゆっくり寝られる」
「満員電車が苦手」

 など、通勤時間が短いことによるメリットに数多くの意見が寄せられています。なかには「交通トラブルが起きても対処できそう」「忘れ物をしても取りに戻れる」など、不測の事態を想定した慎重派による意見は興味深いものがあります。

 ただ、アベノミクス効果や消費税増税など、いくつかの経済環境の変化を踏まえて、「買うなら今でしょ」と、遠くてもかまわないからと、マイホーム購入に意欲的なビジネスパーソンは、一時的かもしれませんが、増えています。

 長谷工アーベストによる「住宅の買い時感」についての分析によると、2013年になり“株価の上昇”“円安傾向”“新政権の経済重視の政策”などへの期待感から、前年より「(景気が)次第に良くなると思う」人が大幅に増加。住宅の買い時感については、「買い時だと思う」と回答した方が、前回調査より増加したようです。

 ところが、その“住宅”というのは、都心ばかりではありません。やはり郊外が多くを占めています。もちろん、「休日は、自然に溢れた場所で過ごしたい」という願望を満たすために、平日の遠距離通勤を我慢する人もいるでしょう。しかし、大半は「通勤時間の近い地域で購入できる予算が無い」のが実情なのです。

長距離通勤者と自転車通勤者が
職場で混在するのが当たり前に!?

 Dさんは昨年、3500万円の新築マンションを購入しました。住宅ローンは35年。このローン返済を考えれば、「一家の長として仕事を頑張らねば」と、責任をひしひしと感じる毎日を送っています。そう考えれば、Dさんは勇気ある決断をしたとも言えます。

 その一方、Dさんの後輩であるGさん(25歳)は、マイホームを買う気がまったくありません。それも、20代だから「今はまだ…」ということではなく、将来にわたって買うつもりはないと言い切ります。確かに20代でマイホームを買いたいという人は減少しているようです。私が実際に取材した20代の半数以上から、「(家は)賃貸」で十分との回答が返ってきました。

 ちなみにGさんの自宅は、通勤時間30分以内のワンルームマンション。職場までわずか3駅です。ただ、電車には乗らずに自転車通勤しています。

 当初は「自転車通勤なんて汗をかいて大変」と思っていたようですが、同僚から「気持ちいからお勧めだよ」と言われて、自転車を購入。少々早めに自宅を出て、傍にある公園を抜けて、ときには寄り道しながら出勤。お気に入りのカフェで一休みして読書することもあります。最近では、出勤途中の景色などをデジカメに収めて「出勤日記」を始めました。これまでとはまったく違う世界観との出会いがたくさんあるので、自転車通勤は楽しくて仕方ないようです。そこである日、

「自転車通勤を始めたら、もうやめられません。一緒にどうですか?」

 そう上司のFさんに勧めてきました。ただ、Fさんの自宅は職場から1時間弱かかる場所にあり、自転車で通うには少々距離が遠すぎます。遠回しに断りました。

 とはいえ、確かに自転車通勤をするビジネスパーソンは、急激に増加しています。ここ最近、街でスーツを着て自転車で出勤する光景を頻繁にみることで、その傾向を実感する人も多いのではないでしょうか?

 なかには、社内に駐輪場の設置や自転車通勤にも手当を支給するなど自転車通勤を推奨する会社も出てきています。自転車通勤を推奨する企業の状況を調べてみると、

・自転車で通っても、ガソリン代を支給
・近くの駐車スペースを駐輪場として貸借
・マンションを確保し、付属のシャワーを全社員に開放

 と意欲的な姿勢をたくさんみつけることができます。今後は長時間の通勤に耐える人と自転車通勤で通う人という、対照的なライフスタイルのビジネスパーソンが職場に混在する時代になっていくのでしょう。

自転車通勤者の92%が「続けたい」
車体にこだわりを持つ人も続々

 ここからはさらに、自転車通勤の人たちに注目してみましょう。一般社団法人 自転車協会の調査によると、自転車通勤の最も典型的なパターンは、「片道5km未満の近距離を、ほぼ毎日、自転車で通勤」のようです。また、始めた目的としては、

「時間の節約」
「お金の節約」
「運動不足解消」

 の3つが主に挙がってきます。

 実感しているメリットは上記の3つに加え、「ストレス解消」。さらに自転車通勤者の92%が、「今後も続けたい」と回答しています。そんな通勤に使う自転車は、「2万円未満の日常的なシティサイクル」が多数派。ところが継続的な自転車通勤を決意した人によっては10万円以上の自転車の利用者も急増しています。

「できたら、吟味したものを長く使いたい」

 とマウンテンバイクに似た「マウンテンバイクルック車」と呼ばれる頑丈で軽快な走りをする自転車があちこちの自転車ショップで並んでいます。さらに山道でも使えるような本格使用の自転車で颯爽と通勤している人も少なくありません。それだけこだわりを持つ人が増えてきたのでしょう。

 ただ、こうしたニュータイプのワークスタイルの登場は、古いタイプと摩擦を起こすことがあります。ある職場では自転車通勤派と長時間通勤派との間で、些細な激突が起きました。果たして、それはどんな問題なのでしょうか?

通勤途中に事故に遭ったり、起こしたら?
自転車通勤のリスクを考慮しよう

 ネット広告会社に勤務しているKさん(26歳)は、会社の傍にある賃貸マンションに住んでいます。通勤はいつでも自転車。そんな出勤スタイルはKさんだけでなく、同世代の社員達のスタンダードになりつつあります。帰社するときには同期の社員同士で、

「帰りに近くのカフェでも立ち寄らない?」

 と声をかけあって、カフェタイムを過ごすなんてこともしばしばです。

 ところが、そんな職場にある日、中途採用で大企業の広告代理店出身のRさん(37歳)が入社してきました。配属されたのは管理部門。社内の人事や管理体制の整備を期待されているようですが、これまで会社が推奨してきた「自転車出勤」について疑義を抱きはじめました。

 Rさんがまず指摘したのが、

・自転車通勤中の事故による運転者自身のケガ

 の心配です。自転車通勤においては任意保険の加入基準などを設定し、許可制にするべきとの意見を役員に提言してきました。

「自転車事故の発生状況は年々増加。自転車事故のリスクは年々高まっていると考える必要がある」

 との発想からです。さらに自転車通勤の場合には自由度が高いため、通勤途上で寄り道をし、合理的な経路を外れる頻度が高いと考えられます。そのため、会社としては自転車通勤者に対して、こうした通勤災害に関する基本的なルールを説明し、合理的な経路を外れた場合のリスクについて理解させる機会を企画すべきと主張。加えて、

・社員が事故で加害者となった場合はどうする

 など次々と問題点を指摘。これまで大らかに推奨してきた自転車通勤が議論の対象になり始めました。

 ただ、こうした問題提起に対して、すでに自転車通勤している若手社員たちは反発します。

「いまさら何を言い出すの。やめてほしい」
「好きで自転車通勤しているのだから、構わないでほしい」

 と口々に叫びます。ついにはRさんに対して、直接文句がぶつけられる事態になりました。

 Rさんにしてみれば、

「反対しているのではない。容認するには問題が多過ぎるから、それを整理するのが先決と言っているだけ」

 とのこと。この激突には経営陣も頭を痛めるしかありません。果たしてどのように収拾したらいいのでしょうか?

 社員の多様化するライフスタイルを鑑みれば、自転車通勤を禁止するべきとは思いません。ただ、会社とすれば、リスク管理の観点から自転車通勤についての体制・ルールを整備していくことが望まれます。例えば、

・自転車通勤を許可制にする
・自転車通勤規程を整備する
・自転車通勤を許可するにあたって民間保険に加入させる

 などをしていくことが必要かもしれません。通勤に対して注意すべきことを提示し、さらに駐輪など周囲に対する迷惑をかけないように指導をかけるのは職場として正しい判断です。社員の視点からすれば面倒かもしれませんが、放置しておける問題ではないでしょう。ゆえに、自転車通勤がなし崩し的に広がっている職場は、社員のブーイングにあっても体制・ルールの整備を早急に行うべきではないでしょうか。


http://diamond.jp/articles/print/34961

2013年4月19日 橘玲[橘玲の世界投資見聞録]

フィリピン・マニラの”困窮日本人”はいかにして生まれるのか?

 マニラにある日本大使館には、3日に1人の割合で、異国の地でホームレスになった日本人がやってくる。そのほとんどが高齢の男性で、「困窮邦人」と呼ばれている。

 フィリピンだけで年間100人という数に驚くかもしれないが、これは2011年の数字で、前年(2010年)の海外援護統計では332人と、毎日1人の割合でマニラの大使館やセブの出張駐在官事務所に一文無しになった日本人が駆け込んできた。
 ちなみに、国別の困窮邦人は2位がタイ、3位がアメリカ、4位が中国、5位が韓国となっているが、フィリピンだけで全体の半分近くを占めておりその数は圧倒的だ。

 困窮邦人の激増は現地の日本人のあいだではよく知られていたが、その存在を広く日本社会に知らしめたのは、マニラ在住のノンフィクションライター水谷竹秀氏の『日本を捨てた男たち』(集英社/第9回開高健ノンフィクション賞)だ。

 この本の冒頭で紹介される困窮邦人・吉田正孝(仮名)の生活は衝撃的だ。

 愛知県内にある自動車部品の工場で溶接の派遣社員をしていた吉田は、名古屋市内のフィリピンクラブで知り合った女性を追いかけて、40代半ばでフィリピンにやってくる。所持金はわずか20万円。ルソン島東部ケソン州にある女性の実家で暮らしはじめたものの、手持ちの金が尽きたとたん、いきなりバス停に連れていかれ、マニラまでのバス運賃250ペソ(約500円)を渡された。
 マニラに着いた吉田は、とりあえず日本大使館に向かうが、「飛行機代も食費も出せない」といわれて路頭に迷うことになる。

 困窮邦人の扱いには日本大使館も苦慮している。自らの意思でフィリピンに渡航し所持金を使い果たした困窮者に、国民の税金である公金を安易に貸し付けることはできないからだ。そこで、両親や兄弟姉妹、親類などに国際電話をかけて援助を求めることになるのだが、不義理を重ねて日本にいられなくなったケースも多くほとんど断われるという。

高級シッピングモール・グリーンベルトで見つけた不思議な日本レストラン「ジョンとヨーコ」

 吉田はしばらくのあいだ知り合いのフィリピン人の家で面倒を見てもらっていたが、そこも居づらくなると、日本大使館に近いパサイ市の教会で寝泊りするようになる。この教会は24時間開放されていて夜になっても追い出されないが、長椅子に横になることは禁じられていて、椅子に座ったまま眠るしかない。

 夜が明けると、吉田は教会近くの貧困地区にあるフィリピン人女性の家に行く。吉田が「お母さん」と呼ぶこの女性は、ゆで卵や野菜の揚げ物、ソフトドリンクなどを販売する露店を教会の前に出している。

 吉田は、商売に使う台車をデッキブラシと洗濯石鹸で洗い、揚げ物用の野菜を包丁で刻み、売れ残ったゆで卵の揚げ物を再利用するため衣をはがす。そうして正午ちかくまで働き、台車を教会前の所定の場所まで運ぶのが彼の仕事だ。

 吉田は「お母さん」の家で朝食と昼食を食べ、さらに20ペソ(約40円)の日当までもらっている。ゆたかな国からやってきた日本人が、フィリピンのスラムに住む露天商の女性に雇われ、面倒を見てもらっているのだ。

日本人のフィリピンに対するイメージは「フィリピンパブ」

 フィリピンに暮らす日本人で、この国のイメージの悪さを嘆くひとは多い。多くの日本人がフィリピンと聞いて真っ先に思い浮かべるのは、真っ青な海や輝くような笑顔ではなく、貧困と犯罪、フィリピンパブだからだ。
 80年代から90年代にかけて、フィリピンやタイなど東南アジアから若い女性を興行ビザで入国させ、風俗店で働かせて売春を強要する違法ビジネスが大々的に行なわれた。戦前、貧しい日本からアジア各国に売られていった女性がからゆきさんだが、アジアからゆたかな日本に出稼ぎに来る彼女たちはじゃぱゆきさんと呼ばれた。

 日本人の男性とフィリピン人女性との交際は、その後、さまざまな社会問題を引き起こすことになる。

 2人のあいだに生まれた子どもの養育を日本人男性が放棄すると、母子だけがフィリピンに取り残される。日本の国籍法はずっと父系優先血統主義で、日本籍の男性と外国籍の女性のあいだに生まれた子どもは自動的に日本国籍を取得できた(国連の女子差別撤廃条約に違反すると批判され、1984年に父母両系血統主義に改正)。婚姻の事実が証明されるか、父親の認知があれば日本国籍を取得できる子どもたちが、フィリピンには10万人ちかくいると推定されている。彼らは「新日系人」と呼ばれている。

 じゃぱゆきさんがアメリカなど国際社会から人身売買との批判を受けたため、2005年に入管法が改正され興行ビザの発給が厳格化された。その影響でフィリピン人女性の入国が難しくなり、独身の日本人男性に報酬を支払って偽装結婚させ、日本に呼び寄せる手口が広がった。

 フィリピンパブで女性と出会い、彼女を追って海を渡った男たちや、退職後に年金を頼りに単身でフィリピンに移住して、マニラやセブのカラオケパブで女性と知り合い結婚や同棲を始めた日本人の困窮化は、2000年になる頃から目立つようになった。その一部は70代や80代を迎えており、困窮邦人は高齢化問題でもある。

フィリピンに渡る男性の目当ては若い女性!?


 在比邦人のなかにも、フィリピン人女性と円満な家庭を築いているひとは多い。だが彼らはふつうのひとたちなので、事件を起こすわけでもなく、その存在は目立たない。
 一方、日本でフィリピーナに夢中になったり、フィリピンに行けば若い女性と恋愛ができると思ってやってきた中高年の日本人男性もたくさんいる。こうしたひとたちは、平均的な日本人からはすこしはずれたところにいて、トラブルに巻き込まれやすい。かんたんにいうと、女にだらしがないのだ。

 現地の日本人に話を聞くと、困窮化のパターンはほとんど同じだ。

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 フィリピンでは日本人は金持ちだと思われているので、カラオケパブに行けば誰でも若い女性と“恋愛”ができる。とはいえ、彼女たちの多くはいちど離婚していて、1人で子どもを育てていることも多い。日本人の中高年とつき合う理由は、お金以外にはない。
 ただし、こうした打算の関係で結婚や同棲を始めても、日本人男性が家庭を大事にすればフィリピン人の側からトラブルを起こすことはほとんどないという。妻の一族郎党が日本人の財布を目当てに集まってくるだろうが、夫が日本から高齢の両親を呼び寄せれば大切に世話をしてくれたりもする(もっとも、日本の高齢者には年金がついてくるという“打算”もある)。彼らにとっては家庭(ファミリー)こそが、なにものにも替えがたい宝物なのだ。
チャイナタウンの入口。中産階級になった華人たちはもうここには住んでいない

 トラブルはたいてい、日本人男性の浮気から始まる。

 結婚して子どもができると、フィリピン人の妻は子育てに夢中になる。それが面白くなくてカラオケパブに遊びに行くと、若い女性が言い寄ってくる。もともと女遊びが目的でフィリピンに渡ったのだから誘惑に勝てるわけもなく、たちまち複数の女性とつき合いはじめる。
 もっともフィリピン人男性にとっても浮気は日常茶飯事で、これだけで夫婦関係が破綻することはない。

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 いちばんの原因は、愛人に夢中になって家にお金を入れなくなることだ。それ以上に最悪なのは、妻から文句をいわれると言い訳ができずに(そもそも英語も現地語も話せない)手を出すことだ。
 フィリピンでは、経済力があるのに妻子を養わないのは男として最低だ。女性を殴るのは、人間として許されない所業だ。
 DV(ドメスティックバイオレンス)を妻が実家に訴えると、事態は深刻化する。一族のなかの警察官やヤクザ(あるいはその両方)が出てきて、暴力的な方法で問題を解決しようとするからだ。

 よくあるのが、妻名義で購入した不動産(フィリピンでは外国人が土地を購入することができない)を騙し取られたり、預金の名義を書き換えられたりすることだ。地縁と血縁が網の目のようにはりめぐらされたフィリピン社会では、警官も役人も銀行員もすべて裏でつながっているから、言葉も満足に話せない日本人になす術はない。
 こうして身ぐるみはがれて追い出された日本人が、困窮化して大使館に駆け込んでくる。在比邦人が彼らのことを「自業自得」と突き放すのには理由がある。

歓楽街から様変わりしたマニラ

 私がはじめてフィリピンを訪れた頃は、歓楽街エルミタのゴーゴーバーのネオンがまだ華やかで、大富豪アヤラ一族が開発した新都心マカティの大型ショッピングセンターは建設中だった。そのときから比べるとマニラは大きく変わり、エルミタは新市長の指示で風俗店が一掃され、ゴーゴーバーはパサイ市など近郊の街に移っていった。マカティのアヤラセンターは、高級ホテルやデパート、ショッピングモール、オフィスビルが集まる最先端のエリアになり、オルテガス(ケソン市)やアラバン(モンテンルパ市)などの新興都市が次々と開発されている。

マカティの金融街。ビルの正面には株価ティッカー 

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 以前なら、地元のひとたちはどれほど背伸びをしてもファストフードやファミリーレストランで食事をするのがせいいっぱいで、数少ない高級レストランにいるのは外国人(欧米人か日本人)ばかりだった。だがこの数年の好景気で中産階級が大きく増え、渋滞の列に並ぶのは極彩色のジプニーから日本車やヨーロッパ車の新車に変わった。不動産の価格が高騰し、高層コンドミニアムの建設ラッシュが進んでいるのはアジアの他の都市と同じだ。
 グリーンベルトはアヤラセンターにある庭園を配した高級ショッピングモールだが、平日の昼間に行けば、フィリピン人のビジネスマンやビジネスウーマンが日本円で1人2000円のランチを楽しんでいる姿を目にすることができる。この一角だけなら、銀座や六本木となにも変わらない。

グリーンベルトのレストラン。平日のランチタイム

 もちろん、いまだにフィリピンが貧しいのは確かだ。

 外国人だけでなく、中流以上のフィリピン人家庭でも住み込みのメイドや子守(ヤヤ)を雇うのがふつうだが、その費用はマニラでも月額5000ペソ(約1万円)程度(食事は雇用主負担)。ノイノイ・アキノ大統領が給与明細を公開して話題になったが、彼の月収は手取り6万3000ペソ(約12万6000円)だった。大統領職の報酬がこの金額なのだから、政府高官や警察幹部でも月収はせいぜい8万円程度。ここから住居費や家族の生活費を支払えば、ほとんどなにも残らない。すなわち、賄賂がなければ生きていけない。

 この富の格差があるかぎり、フィリピンの若い女性が日本人の男に近づき、日本の中高年男性がフィリピンに引き寄せられる構図は続くだろう。しかしその一方で、この国が大きく変貌しつつあるのも事実だ。
 そんなフィリピンの光と影を、次回から、マニラで日本人のロングステイヤーの生活支援をするPASCO代表の志賀和民さんが報告してくれます。ご期待ください。



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<執筆・ 橘 玲(たちばな あきら)>
作家。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。「新世紀の資本論」と評された『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ベストセラーに。著書に『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 究極の資産運用編』『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 至高の銀行・証券編』(以上ダイヤモンド社)などがある。ザイ・オンラインとの共同サイト『橘玲の海外投資の歩き方』にて、お金、投資についての考え方を連載中。
http://diamond.jp/articles/-/34822


 

【第3回】 2013年4月22日 矢作直樹
【最終回】
「幸せなお別れ」を約束する言葉がある
やがて訪れる「死」を、悔いなく、幸せに感じつつ迎えるには、
日頃からの積み重ねが大きいもの。
そのために誰にでも今すぐ実践できることに、「言葉」がある。
それも「お別れ作法」の一つである。

身近な人の死への恐れを癒し、
あなたの人生の学びを深める言葉のいくつかを紹介しよう。

言葉は相手を救い、自分を救う

 お別れの作法とは、何も別れが間近に迫った時にだけ必要なものではありません。
 やがて誰もが訪れるその日を、幸せを感じつつ迎えられるのか、そうでないかは、日頃からの経験の積み重ねによるところも大きいのです。
 その日にそなえて、どんな方でも今からすぐに実践できることに、「言葉」があります。

 多かれ少なかれ、どなたにも経験があると思いますが、言葉の使い方一つで会話の流れがガラッと変わります。私の職場である医療現場でも、患者さんとのちょっとした言葉のやりとりで全体の雰囲気が変わることがあります。言葉は重要な存在なのです。
 言葉の使い方一つで、人間は自分と相手の生きる活力を増減させることができます。それが「言葉は言霊(ことだま)」と言われる所以です。
 言葉は相手を救うこともあれば、自分自身を救うこともあります。
 やがて訪れるお別れの時に心残りのないよう、幸せに感じられるよう、日頃から心がけておきたいものです。

 ここでは、私が日々の体験から特に大切だと感じている言葉を紹介したいと思います。使うことで「お互いを幸せにすること」ができるのなら、この世に生きる上でこれほど素晴らしい経験はありません。

矢作直樹(やはぎ・なおき)
東京大学大学院医学系研究科救急医学分野教授および医学部附属病院救急部・集中治療部部長。
1981年、金沢大学医学部卒業。その後、麻酔科を皮切りに救急・集中治療、外科、内科、手術部などを経験。1999年、東京大学大学院新領域創成科学研究科環境学専攻および工学部精密機械工学科教授。2001年より現職。
2011年、初めての著書『人は死なない』(バジリコ)が7万部を超えるベストセラーとなり、話題となる。
「助かります」 

 患者さん本人、その家族、あるいは医療スタッフが、何かちょっとした時に「助かります」と声を掛けることで、その場の空気がスムーズになります。

 私たちは人から何かをしてもらった際に「助かります(助かりました)」と口にします。手伝って(手助けして)もらった時、何かを教えてもらった時、どこかに連れていってもらった時、私たちはこの言葉を気軽に使います。

 私は見えない存在に対して、「いつも助かります」と祈ります。
 当然ながら、見えている存在=私たちの周囲の人たちからも、私たちは常にサポートされていますから、周囲の人に対しても感謝の念で祈ります。
 恐らく、普段はそういうことを気にしない方がほとんどだと思いますが、私たちは互いに意識エネルギーを飛ばし合って交流しています。一種の相互扶助というわけです。
「助かります」という言葉の深意には、相互扶助で構築された世の中の仕組みへの感謝の念も込められているのです。

 この「助かります」という言葉の派生語に相当しますが、「助けていただき、ありがとうございます(感謝します)」という感じで元の言葉をグレードアップさせると、その言葉を投げられた方の魂は輝きを増し、投げた本人も生きる活力が増すことと思います。これがよい言葉の持つ「エネルギー増大の法則」です。
 どことなくイライラしている相手に「この間のあの件、助かりましたよ、ありがとう!」と使ってみてください。ちょっとしたこと、どうでもいいこと、何でもいいのです。

 助かったという言葉には、誰かが誰かを手伝った、サポートしたという意味がありますから、お礼を言われた本人は「人助けという学び」を経験したことになります。現世における学びでは貴重な経験なのです。
 人はほめられると伸びる、というのは定説です。

「やってみたら」 

 病気で療養中の方が、旅行に行きたいと家族に申し出ることもあります。本人の体調を気遣ってなるべく行かせたくないという周囲の雰囲気の中、あえて「行ってきたらいいじゃない」と口にするのも勇気です。

「やってみたら」は、行動を後押ししてくれる代表的な言葉です。
 旅行先で何かあれば、あなたはどう責任をとるのだ、と周囲から言われるでしょう。しかし、こういう状況で何よりも大切なのは本人の希望です。最期にやっぱり叶えてあげたい、と感じるなら、では、どうしたら安全に行けるか、という方向で議論することが先決でしょう。

 それに、ちょっと乱暴な言い方をしてしまうと、仮に何かトラブルが発生した場合でも、当の本人はその旅行を後押ししてくれた人を決して恨みません。むしろ多大な感謝の念を持っています。自分の希望をまっすぐに叶えてくれる人は、長い人生でもそうはいないからです。
 だから、やってみたい、あるいは行ってみたい、と言われたら、周囲の人と力を合わせて、できるだけ叶えてあげる方向で行動してみてください。残された家族には一つの後悔も残らないと思います。

 やってみたら、やってごらん、というフレーズは、子どもが親に言われて嬉しい言葉でもあります。
 子を亡くす親の悲しみは計り知れません。順番から言えば親が先だからです。そして亡くした後で、「あの時、やりたいと言っていたことをやらせてあげればよかった」と悔やみ続ける親が多いのも事実です。

 だからこそ、やってみたら、やってみようかと笑顔で返すことで、お互いの心残りは消えます。

 行きたい、見たい、着てみたい、手に取りたい、描きたい、会いたい、歌いたい、何でも結構です。まずは「何かやりたいことは?」と尋ねてみましょう。初めのうちは遠慮して言わないこともありますが、いろいろ聞いていくと必ず出てきます。

 この言葉が有効なのは、やってみたらと言える立場の人に、ある程度の余裕がある時です。余裕がないとなかなか口にはできません。したがって常にギリギリの生活、つまり心に余裕のない生活ではいけません。
 ちなみに、余裕は金銭からは生まれません。それは「生きていることへの感謝」から生まれるものです。

 生きているということは、何か理由があって周囲に生かされている、ということです。その偉大さが理解できれば、自然と心に余裕が生まれます。
「やってみたら」という言葉には、「あなたを応援しているよ」という大きなサポートの意思があるのです。

「またね」「またお会いしましょう」 

 終末期を迎えた方の中で、面会者に「またね」「またお会いしましょう」と告げる方がいます。
 面会者が当人にそう告げるケースも当然ありますが、実はこの言葉には深い意味があります。

 私たちが普段、友人や離れて暮らしている身内と会って別れる際に「またね」と告げるのは、「また会おうね」という意味ですが、そこには「必ず再会しましょうね」という深意があります。

 どういうことかというと、元気にまた再会できればいいのですが、人生は何が起こるかわかりません。次に会える、いつでも会えると思っていたのに、何らかの事情で相手が他界したということも珍しくありません。
 必ず会えるという保証は、どこにもないのです。

 突然の訃報が信じられず、あの日、駅で待ち合わせて会った時にはあんなに元気で、二人で思い切り話して盛り上がり、「次はいつにしようか」「どこに行こうか」とはしゃいでいたのにと、嘆き悲しむ人も多いでしょう。

 死は意外と誰の身近にもあります。
 事故や事件による死は、ある日、突然やってきます。検査で病変を見つけた時にはすでに手遅れで、そのまま日を置かずに逝くケースも多々あります。
 最期までゆっくり往生できるような死と違い、こうした突然の死は、私たちの覚悟を待ちません。
 数時間前まで元気に行動していた人が、ICUで予断を許さない状況の主役となっているような状況を、長年、救命・救急医として数多く見てきた者として、人の生死の境目ほどわからないものはないと言えます。
 大規模な事故で一人だけ、あるいは数名だけ、まるで奇跡としか言いようのない助かり方をした状況をニュースなどでご覧になると、私の言いたいことが何となくご理解いただけると思います。
 だからこそ、「またね」なのです。

「またね」には、「必ず再会しましょうね」という深意があると書きましたが、そこには「三つの場所での再会願望」が込められます。

 一つ目は、次の機会にどこかの場所でね、という願望。
 二つ目は、もし亡くなっていても、あの世でね、という願望。
 三つ目は、次の生(転生時)でも会いましょうね、という願望。

 以上、三つの場所での再会願望が「またね」という言葉には込められているのです。
 普段、何気なく使っている言葉だと思いますが、そこで交わしているのは私たちの想像以上にスケールの大きな「約束」なのです。
 20世紀最大のスピリチュアル・ヒーラーと呼ばれるハリー・エドワーズは、死ぬ直前に「See you!(またな!)」と言ったそうです。私はこの感覚をとても粋に感じます。

「幸せでした」 

 旅立ちを迎えようとしている方との間で、「楽しかった」「本当にありがとう」「出会えてよかった」などの言葉が使われますが、私はお別れの作法としては「幸せでした」という言葉の使用もお勧めしたいと思います。

 現代人は、この言葉をどこか恥ずかしがって積極的に使いたがらない傾向がありますが、言葉は使わなければ生きません。できれば、生きているうちに相手に「幸せだったよ」と伝えてあげてください。

 そしてこの言葉ほど、伝えた相手の生きる活力を増大させる言葉もないでしょう。たったひと言で、それまでの関係、その空間の雰囲気を変えることさえできる言葉です。

 100人いれば、100通りの人生があります。似て非なるものが私たちの人生であり、人生はどこかの何かと、あるいは誰かと比較して価値が決まるものではありません。
 人生は競争ではなく、共生です。
 古来、幸せも不幸せもその人の気分一つ、要は気の持ちようで決まると言われました。何も持たずとも、幸せは自分で得ることができるのです。私たちを取り巻く森羅万象、そして大いなる存在に自分が生かされている喜びを知ることで自然と幸せになれるのです。

 幸せは「仕合わせ(し合わせ)」とも書きますが、そもそもこの言葉が幸せの語源だと言われており、それは「めぐり合わせ」「運」の意味があります。
 手と手を合わせて「合わせ=幸せ」とも言われるように、幸せは合掌からも生まれます。合掌(祈り)の重要性はすでに書きましたが、祈ることでよい運気が舞い込んでくるのです。

 幸せとは、自分の生きがい、あるいはやりがいに出会った瞬間です。
 幸せでした、という言葉には「好きな人生を歩くことができた」「ささやかながらも好きな人とめぐり合い、過ごすことができた」などといった感謝の気持ちが込められているのです。


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誰もに必ずいつか訪れるその日を、どう迎えるか。自分自身、あるいは大切な人の死を意識せざるを得なくなった時に知っておいてほしいことがあります。30年以上、医師として常に死と向き合う現場に身を置き、常識を超える幾多の現実を体験して理解した、魂や「あの世」の存在の可能性と、それを理解したからこその逝く側、送る側それぞれのなすべき大事なことを紹介します。
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医師との対話力を高めよう
2013年4月22日(月)  江田 証=江田クリニック院長

今日の診察:患者版フレームワーク
 ビジネスで複雑な問題を解決する時、高いレベルでの考慮が誰にでもできるようにパターン化された思考モデルを「フレームワーク」と呼ぶ。良質な医療を受けるには、医師に対する適切な質問力が必要であり、重要なポイントを漏らさずに考え、意思決定をする「医療IQ」を高めたい。そのための、「患者版フレームワーク」を紹介する。
 これまで病気をしたことのなかったHさん(営業職、47歳)が、右の下腹部を痛がり総合病院に入院した。私のクリニックに通院している奥さんから、患者体験のないHさんが医師とのやり取りに戸惑っていると相談を受けた。
 ビジネスで複雑な問題を解決する時、高いレベルでの考慮が誰にでもできるようにパターン化された思考モデルを「フレームワーク」と呼ぶ。良質な医療を受けるには、医師に対する適切な質問力が必要であり、重要なポイントを漏らさずに考え、意思決定をする「医療IQ」を高めたい。そのための、「患者版フレームワーク」をまとめた。

医師に聞くべき5つのポイント
(1)診断の根拠
 診断の根拠を聞くことで、医師の思考が追体験でき、より理解が深まる。きちんと説明できない医師は、自分でも理解が足りないことも多い。ただし、時間に伴う症状の変化を見ないと診断がつかないこともある。まず薬を飲み、反応や効果を見て診断・治療することもあるので、焦らないことが大切だ。
(2)ほかに考えられる病気
 昔から診断学では、診断に当たり、いくつかの候補病名を挙げることが重要とされている。それを一つひとつ分析し、理由を挙げて否定していくことで、先入観を避けた正確な診断ができる。患者は“シマウマ探し”をして悩まないこと。ひずめの音を聞いた時、大抵の人は馬を予想する。稀なシマウマ、つまり、非常に稀で危険な病気を考えないようにということだ。
(3)治療の選択肢
 治療には、リスク(危険性)とベネフィット(効果)がつきものである。ベネフィットを最大限にしながら、リスクを最小限にするのが適切な治療となる。念のため、治療しなかったらどうなるかも聞いておく。
(4)治療効果を示すデータ
 治療するならば、客観的に効果を判定するためのデータが必要だ。ガンの治療であれば、CT(コンピューター断層撮影装置)やMRI(磁気共鳴画像装置)で腫瘍の縮小具合を確認したり、腫瘍マーカーという血液検査上の数値で効果を見たりする。
(5)治療の目標・期待する結果
 治療効果の感触や予想、病気の完治を目指すのかどうかを明確にし、根治が望めない場合は病気と上手につき合う方法を考える。
 さらに、患者にとって重要なのは、長期的な視点を持つことだ。例えば、悪玉コレステロールと呼ばれるLDLコレステロールは、高値でも症状がない。しかし、将来的には脳梗塞や心筋梗塞を引き起こす元凶となる。10年、20年後を考えたリスクマネジメントをしてほしい。
 Hさんは、このフレームワークを基に医師と対話し、安心して治療を受けたという。無事に退院したと報告があり、私も安堵した。
心と体(日経ビジネス2009年9月14日号より)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20130415/246693/?ST=print


 


社員の生活習慣を“見える化”して健康目標を明確に

ケーススタディ 三菱電機

2013年4月22日(月)  武田 京子

 3月6日、厚生労働省の「第1回 健康寿命をのばそう!アワード」で、三菱電機の健康増進プログラム「三菱電機グループヘルスプラン21(MHP21)ステージ2」が厚生労働大臣賞優秀賞(企業部門)を受賞した。同アワードは、生活習慣病予防と啓発活動の奨励、普及を図るために厚労省が昨年創設した賞で、企業や自治体、市民団体などを表彰するものだ。

 三菱電機が「生活習慣 変えてのばそう 健康寿命」のスローガンの下、従業員自身が主体的に生活習慣を改善できるようにMHP21活動を行ってきたことが評価された。

 MHP21は、会社、労働組合、健康保険組合の3者の協働事業として行っている。社員一人ひとりができるだけ早い時期から食生活や休養、嗜好などの生活習慣を主体的に見直し、QOL(生活の質)の向上を図ってもらうのが目的だ。まさに、企業が従業員の健康に配慮したマネジメントを行うという「健康経営」の基本理念に則した取り組みといえる。三菱電機では、安全衛生管理計画にMHP21が組み込まれており、MHP21の健康増進活動は労働組合の運動方針の柱にもなっている。

 今回の受賞の対象となったのは、2012年度に実施されたMHP21ステージ2の活動だが、実は同社の健康経営への取り組みは、遡ること今から11年前の2002年から始まっていた。

未病者を対象にした生活習慣の改善が活動の柱

 三菱電機健康保険組合は、三菱電機をはじめ、132の事業所が加入している。2012年3月末の加入者数は、被保険者が約11万2000人、被扶養者が約11万5000人の計約22万7000人。全国でも有数の規模を誇る健保組合だ。

 このように多くの加入者を抱える健保組合では、高齢者医療に対する拠出金の増加や、生活習慣病関連の医療費の多額化など、年々増加する支出をいかに抑制するかという課題を抱えている。三菱電機も同様で、三菱電機健康保険組合の大森義文事務局長は、「総医療費に占める生活習慣病の医療費は3割弱に達する。生活習慣病は予防可能であり、その分の医療費を抑えたいというのがMHP21の狙いの一つでもある」と話す。

 一方、企業にとっても、安全配慮義務の厳格化が求められる中、経営活動の基本として従業員の心身の健康への取り組みは重要性を増している。さらに、労働生産性の維持、向上を図るには、健康な労働力の確保や、疾病による休職者数の抑制も必要だった。

 同社がMHP21の活動を始めたのは、こうした医療費抑制、従業員への安全配慮、労働生産性の向上といった急務の課題を解決するために、社員の意識改革による生活習慣の改善の必要があるとの考えからだった。

 従来の企業の健康への取り組みは、健康診断による医学的な対応が必要な人の「早期発見、治療」だが、MHP21では、生活習慣に問題はあるが、まだ医学的な対応が必要ではない人の「生活習慣改善」を対象にしているのが大きな違いだ。病気にならないための「一次予防」に力点を置いているのである。

定量的な目標設定で社員の競争意識を喚起

 実際の活動では、社員が行うべき具体的な取り組み内容と、定量的な目標設定をしているところが特徴だ。

 取り組み内容として掲げられている重点項目は、「適正体重の維持」「運動の習慣づけ」「禁煙」「歯の手入れ」「ストレス対処能力の向上」の5つ。それぞれの項目に対して定量的な目標を設定している。例えば、1日1回30分以上の運動を継続して週2回以上行う社員の比率を26%以上に、喫煙者率は30%以下に、1日3回以上の歯の手入れをしている人の割合は30%以上にする――などが2012年までの目標だった。重点項目に、歯に関する項目が入っているのは、同健保組合の歯科関連の医療費が保険給付費の約20%を占めており、取り組みによる大きな医療費削減効果が期待できたからだ。

 こうした取り組みの結果、MHP21が始まった2001年度には40%だった喫煙者率は、2011年度に27.5%に減少。また、同じ10年間で、運動習慣者の割合は11.7%から16.2%へ、歯の手入れをする人の割合は13.3%から20.5%へと改善したという。

 これは、保険給付費の抑制にも結びついているようだ。下の折れ線グラフは、他社の保険給付費の平均伸び率と同率で三菱電機健保組合の保険給付が推移したと仮定した場合の推定値と、他社の保険給付費の実績との差額がどう推移したかを表したものだ。三菱電機の場合には、MHP21活動開始4年目の2005年度から保険給付が大きく下がり、効果が現れ始めたという。大森氏は、「2010年度までの累計で、70億4000万円の医療費の削減ができた計算になる」と胸を張る。


「注:他社の保険給付費の実績と、他社の保険給付費の平均伸び率と同率で三菱電機健保組合の保険給付が推移したと仮定した場合の推定値との差額の推移」出所:三菱電機
 また、生活習慣病予防の面でも実際の効果が見て取れる。三菱電機の病類別の死亡数の推移では、生活習慣病関連死の数が減り、死亡数全体に占めるその割合も減っている。


出所:三菱電機
 「何より、社員一人ひとりの健康に対する意識が向上した」と三菱電機人事部安全健康グループマネージャーの平川一博氏は語る。

グループ全体への健康啓蒙から事業所特性に応じた活動へ

 三菱電機がこうした成果を挙げられた背景には、具体的な目標設定だけでなく、達成率を上げるための様々な工夫を行っていることがある。その一つが、MHP21「健康宣言」カードだ。各社員がその年度の健康に関する具体的な目標を設定し、それを「健康宣言」としてカードに記し、常に自分の健康を意識するように促している。目標達成者は表彰され、実際の行動へ結びつけるためのインセンティブになっている。


三菱電機の「健康宣言」カード
写真:三菱電機提供
 また、個人や事業所の達成状況を評価するためのシステムとして、「パフォーマンスドライバー(生活習慣評価基準)」を取り入れたことも大きい。評価基準では、「運動習慣あり」を5点、「運動の回数は良いが時間がだめ」を4点など、パフォーマンスを点数化。個人の結果を採点するとともに、それらを集計した事業所別のランキングなどを作成して優れた事業所を表彰するなど、事業所間の競争意識を喚起している。パフォーマンスの分析結果は、事業所ごとの改善が必要な項目のあぶり出しにも役立つ。

 2002年度からのMHP21活動で既に社員の健康意識が高まっていることから、2012年度からの5カ年計画であるステージ2では事業所の特性に応じた活動や、個人のリスクに応じた行動変容の支援を行うという。そのため、健保組合内に分析チームを作り、パフォーマンスドライバーの結果や、全社員を対象に行っている健康調査アンケートの結果などから、各事業所が必要としているメニューを作り出している。

研究所ではストレス対策のイベントを企画

 三菱電機の事業所の一つである情報技術総合研究所(神奈川県鎌倉市)でも様々な取り組みを行っている。

 同研究所は、主に情報セキュリティーに関する技術やデータ処理に関する研究を行う事業所で、約1150人が働く。デスクワークが多く、他部署との交流が比較的少なく、平均年齢が40歳未満と、他の事業所に比べて若いという特性がある。

 こうした特性から、研究所では「運動習慣」と「適正体重の維持」、「ストレス対策」を重点対策に据え、その動機づけとなるイベントなどを企画したという。同研究所の田中清総務課長は「活動プログラムの作成や日常のフォローは、毎月の安全衛生委員会で話し合い、持続可能な活動にしている」と話す。

 運動習慣のモチベーションとなるイベントとしては、ショートテニスやソフトバレー、大縄跳び大会などを企画。チーム対抗の大会で競争意識が生まれ、参加率もアップしたという。また、これは、職場のコミュニケーションを密にするためにも役立っているようだ。「日ごろは接することがない他部署の人と話す機会も増える。管理職の参加も促しているため、相談しやすい環境作りや、社員のメンタルケアの一助にもなる」と田中氏。


写真:三菱電機提供
 毎日、体重を計り、設定した距離をウォーキングする「歩いて計ってヘルスアップキャンペーン」など、個人で参加できるイベントも開催している。

 一方、ストレス対策としては、今年から「体験カウンセリング」を始めた。これはある意味、敷居の高いカウンセリングを全員に体験してもらうことで、カウンセリングが特別なことではないという意識を持ってもらい、その後の利用率を高めることで、メンタル面の不調者の早期発見につなげようというものだ。

 また、定期健康診断後、社内の保健師が各職場に出向いて結果を説明し、全員と面談する「全員面談スッキリプラン」も実施。保健師が社員全員とコミュニケーションをとることで、社員一人ひとりの問題点をより明確化することを期待している。

 このように、三菱電機では、MHP21の活動が「やることに意味がある運動」から、「目標を持ち成果を出す事業」へと変容を遂げた。それにより、企業価値の増大につながる可能性も高まったと言えるだろう。


健康経営最前線

企業が従業員の健康をマネジメントし、その維持・増進を図ることが生産性の向上や業績の拡大につながるという「健康経営」。ここへきて、日本でも注目を集めはじめ、様々な動きが出てきています。本コラムでは、企業の取り組み事例を中心に最新事情を紹介していきます。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20130417/246793/?ST=print


【第146回】 2013年4月22日 井手ゆきえ [医学ライター],-週刊ダイヤモンド編集部-
日本発の調査研究から
緑茶とコーヒーでStop! 脳卒中
 先月、米国医学誌「Stroke:脳卒中(オンライン版)」に日本の国立がん研究センターと国立循環器病研究センターの共同研究結果が報告された。それによると、緑茶とコーヒーを習慣的に飲む人は、脳卒中の発症リスクが低下するという。

 同研究は、1995年と98年に別々に行われた研究の参加者、8万2369人を平均13年間にわたり追跡調査。年齢は45〜76歳で、男女比はほぼ半々、参加当時にがんや心血管系疾患の既往はなかったが、追跡期間中に3425人が脳卒中を発症していた。

 研究グループは追跡期間中、参加者の病院記録や死亡診断書などの記録を収集。さらに、アンケート調査でコーヒー(缶コーヒーを除く)や緑茶の摂取回数を記録した。まず、コーヒーの摂取頻度でリスクを分析したところ、「毎日1杯」飲む人は「飲まない」人に比べ、20%脳卒中の発症リスクが低下していた。また、「毎日2杯以上」では19%の低下、「週に3〜6回程度飲む」では11%の低下が示された。

 一方、緑茶の摂取頻度では、「毎日2、3杯」で「飲まない」人よりもリスクが14%低下、「毎日4杯以上」で20%のリスク低下が認められた。

 さらに、「緑茶を毎日2杯以上、またはコーヒーを1杯以上」で大脳内の血管が破裂する「大脳内出血」の発症リスクが32%も低下していたことが判明したのである。

 これまで緑茶については、心血管疾患の発症リスクを低下させることが知られてきたが、脳出血を含む脳卒中の予防効果を明示した調査研究は珍しい。

 研究者らは、どの成分が有効だったのかは不明としているが、仮説として緑茶に含まれるカテキン成分の抗酸化作用が血管保護に働いた可能性を指摘した。またコーヒーに含まれる「クロロゲン酸」は2型糖尿病の発症を抑えるため、間接的に脳卒中予防に働いたとも考えられるという。

 うれしいことに緑茶もコーヒーもおなじみの飲み物だ。日常に取り入れるのに問題はない。調査では、緑茶とコーヒー1杯の量が約170グラムで計算されている。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)

http://diamond.jp/articles/print/34941  

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