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製造業が国内回帰しても無人工場が増えるだけである…なぜ人々の「仕事」は減るのか?(Business Journal)
http://www.asyura2.com/16/hasan107/msg/297.html
投稿者 赤かぶ 日時 2016 年 4 月 07 日 00:33:06: igsppGRN/E9PQ kNSCqYLU
 

製造業が国内回帰しても無人工場が増えるだけである…なぜ人々の「仕事」は減るのか?
http://biz-journal.jp/2016/04/post_14586.html
2016.04.07 文=小笠原泰/明治大学国際日本学部教授 Business Journal


 本連載では、急速な技術革新がもたらす社会・経済システムの変化について議論を展開したい。その前提として、雇用の喪失について少し歴史的に振り返ってみたい。

 人類の歴史を振り返れば、18世紀の産業革命以降、技術導入によって人々が従事する「仕事」は減少してきた。それに対する労働者の抵抗としては、19世紀前半にイギリスで起こった、織物工業への機械導入による失業の恐れを感じて手工業者や労働者が機械を破壊したラッダイト運動が有名である。これは、現在の人工知能をはじめとする高度なコンピュータによる雇用喪失議論の先鞭でもある。現在、「ネオ・ラッダイト」と呼ばれる「技術開発を大幅に制限し、その使用も制限するべきである」と主張する極端な運動がある。

 また、産業と企業活動の「脱国境化」も、一国の特定産業の雇用を減少させてきた。1970年代のアメリカで起こった脱工業化社会の動きの背景にあった同国製造業の競争力喪失は、安価な輸入製品に加えて、アメリカ企業も製造拠点を安価な労働力を確保できる海外に移行したことで、それに従事する同国工場労働者の失業に起因している点も、この歴史的な流れの一端といえる。
 
 しかし、前者では機械工業化による製造業拡大が失業した労働者を十分に拡大することで、後者では産業構造を第二次産業(加工製造業)から第三次産業(広義のサービス業)主体に転換し、失業した工場労働者を第三次産業で吸収することによって問題を解消した。

 そして91年の冷戦終結後、国家の力を減衰させる急速なグローバル化によって、企業にとって国境を越える資本移動の制約が解かれたことで、主にブルーカラーの「ルーティン(反復)生産」に従事する工場労働者の仕事は、賃金がより安い地域の労働者に代替されて、先進国で仕事がなくなることが加速化した。

 これが、「先進国の製造業空洞化」である。日本もこの洗礼を受けた先進国のひとつだが、ここでも失業した工場労働者は裾野の広いサービス業に吸収されることになった。

 これと並行して、製造機械の急激な技術進歩も、工場労働者の仕事を減らしてきた。機械技術はその精度と効率を上げ、旋盤や金型に代表されるような熟練工の領域までも機械で置き換えられ、FA(ファクトリー・オートメーション)のように工場の製造ラインに極力、労働者をおかない傾向が強まっている。最近では、少数の設備装置管理者以外は人がいない「無人工場」も珍しくはない。日本国内に製造業が回帰しても、無人に近い工場を建設することになるであろう。つまり、現状の労働者の仕事が機械に置き換わるだけでなく、そもそも工場労働という「ルーティン生産」に従事する仕事の需要が減少するのである。

■ペティ・クラークの法則

 これまでの工業化以降の大きな流れは、企業の多国籍化・グローバル化と技術革新による産業構造の変化により、ルーティン生産に従事する工場労働者を中心とする仕事が先進国を中心に機械へと代替された。加えて技術進歩により、そのような仕事そのものも減少するが、先進国のGDPが順調に成長していた、つまり行き場を失った工場労働力を吸収し得るほかの産業セクターとして第三次産業が拡大していたということである。

 これを人間欲求の観点から合理的・必然的発展として説明したのが、「ペティ・クラークの法則」である。これは、経済発展に伴い国民経済に占める比重は自然界から原料を採取・生産する第一次産業から原料を加工する第二次産業へ、そして第一次・二次産業に含まれない無形財に基礎を置く第三次産業へと移行していくという法則であり、産業構造と社会の高度化を意味していた。

 日本もこの「ペティ・クラークの法則」に漏れず、第二次産業の就業者数が70年の1790万人(全就業者数のなかで占める割合:34.1%)から2010年の1412万人(同25.2%)へ減少する一方で、第三次産業就業者数は1970年の2451万人(同46.6%)から2010年の3965万人(同70.6%)へと着実に増加した。
http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/13/dl/13-1-4_02.pdf

 このように書くと、いかにも産業構造と社会が高度化したように聞こえるが、雇用吸収という観点では、第三次産業が第二次産業において失業した労働力を吸収するブラックホールのような存在であったともいえよう。それも、第三次産業のなかの労働集約的な産業がその受け皿であったことは間違いないだろう。

 歴史的にみると、先進国では主にルーティン生産に従事する工場労働の仕事は徐々になくなってきたが、欧米では2010年代初頭から、日本ではここ1〜2年、人工知能を筆頭とする技術進歩により仕事がなくなるという話題が突如注目を浴び、社会の関心を集めている。一過性のブームととらえることもできるが、筆者は、現在進行する技術革新は産業革命に等しい大きな社会転換をもたらすのではないかと考えており、想定される社会構造の転換を理解することが重要であると考える。次回、現在進行している仕事の喪失は、これまでのそれと根本的に何が違うのかを整理してみたい。

(文=小笠原泰/明治大学国際日本学部教授)

 

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1. 2016年4月07日 00:39:36 : jXbiWWJBCA : zikAgAsyVVk[322]

失われた20年、自ら改革できたのはトヨタだけ

特別対談:日立製作所の川村隆相談役×早大の内田和成教授(前編)

2016年4月7日(木)宗像 誠之

 ボストンコンサルティンググループ(BCG)の日本代表を務めた経験を持つ、早稲田大学ビジネススクールの内田和成教授。製造業として過去最大の赤字を記録した日立製作所を立て直した川村隆相談役。企業経営やガバナンスのあり方に詳しい両者の特別対談を2回に分けてお届けする。日本企業がどう変革していくべきか、熱い議論が繰り広げられた。(構成:宗像 誠之)

早稲田大学ビジネススクールの内田和成教授(右)と日立製作所の川村隆相談役(写真:陶山勉、以下同)
内田和成氏(以下、内田):川村さんは最近、『100年企業の改革 私と日立』という本を出版されました。本を読んで私自身が感じたことを中心に、いくつかお話しさせていただこうと考えています。

 まず1つ目は、沈みかけていた日立製作所グループを、川村さんが辣腕を振るって改革をされた話から聞きたいのです。私の問題意識としては、川村さんが日立を改革した事例は、似たような問題を抱えている他の日本企業にも処方箋になり得るのかどうかというところなんですよね。

川村隆氏(以下、川村):ありがとうございます。日本の高度成長期から振り返ってお話しさせていただくと、あの頃は政府が所得倍増計画を出したり、日本のインフラも未整備でたくさんつくらなければならない時期でした。新幹線の整備など、日本の国内に需要がいろいろあって、その需要の高まりに乗じて日立製作所も含め、多くの日本企業が成長したわけです。そのなかで海外の仕事も一緒にくっついて出てくるような感じでした。

 この流れが続いていた1980年代までは本当に良かったんですけど、1990年代初頭にバブル経済が弾けた。その後はかなり問題があったと思います。それは本の中でも書いたんですけれども、バブル後に20年間も経済が低迷したというのは、ちょっと長すぎたかなと思っています。

 やはり日立も含めた日本企業が全体的に、その後の努力が足りなかったところが相当あると思うんですよ。その頃、国内が伸びないからということで、頑張って海外に布石を打ち始めていたのはトヨタ自動車くらい。だからトヨタは今も、日本の会社の中ではダントツに業績が良い。それ以外の日本企業はやっぱり、日本の中で横にらみをしながら右往左往していたという感じです。

 我々日立は、2009年以降はだいぶ改革をしましたけど、ああいう改革はもっと早く、1990年代でもできたなと思っています。今にして思うと、ということですが…。

日本企業は1990年代から改革に乗り出すべきだった

内田:何で日本企業はそのころ、改革ができなかったんでしょうね。

川村:みんな横並びで痛みのあることはあんまりやりたくなかったんでしょうね。それから80年代の印象が非常に強烈なものだから、もう少し待っていれば、またいい時代が来ると思っていたんです、みんなね。

内田:それはすごくよく分かります。

川村:80年代までの国内需要は、非常に強烈でしたから。日本企業はその強烈な体験を忘れられない一方で、、80年代にトラウマを作ってしまった。不動産投資にみんな手を出して、本業から離れた余計なことをいっぱいやったよね。それでやけどして、トラウマになっていて、新たな投資をするとか、新たなことを始めるということに関して非常に消極的になってしまった。

 そういう時期だからこそ、トヨタのように海外へ戦略的に布石を打っていくということが本当に大事なことだったんだけど、我々も含め多くの日本企業が、それを怠ってしまったんですよね。それが日本企業の一番悪いところ。それにやっと2009年になって我々は気付いたものだから、いろいろ改革を始めたということです。バブル崩壊から20年近くもたって、ようやくかって感じだよね。

 その改革というのはお手本がありましてね、米ゼネラル・エレクトリック(GE)のジャック・ウェルチ時代の改革や、米IBMのルイス・ガースナー時代の改革です。業種は違いますけど、やっている改革の中身は一緒なんですよ。

 やっぱり歳を取ってきた企業の中で、老化した事業をきちんと畳んでいくと。畳み方もいろいろなやり方があって、完全に撤退するものもあれば、M&Aでほかの会社の事業をくっつけて競争力を付けるとか、残存者利得を狙ってしばらく頑張るとかね。

 様々な形はあるんだけど、古い事業はやめて、そこに投資していたヒトとモノとカネを、伸びる事業に移していくということを基本的にやっている。その顕著な事例がGEやIBMでした。ほかにも、世界中にそういう改革をしっかりしている企業はあるんだろうけど、我々が一番知っているのがその2社だったから、日立の改革のお手本にしましたよ。何か悪いことがあったから改革するというのではなくて、そういう改革を普段から継続的にやっておくべきなんですよね。


早稲田大学ビジネススクールの内田教授
内田:要は事業ポートフォリオの組み替えを、いかに思い切ってやれるかだと思います。

川村:ただ、それはものすごく痛みを伴うので難しい。特に日本人は痛みに弱いでしょう。要するにどこかの工場を畳まなければならない場合は、従業員の配置転換などやらなければならないことがたくさんあります。

 海外ですと、会社と個人の雇用契約ですから、退任のときはこうしますよ、罷免のときはこうしますよ、というのが決まっていて、その通りにやればいいんだけど。日本だとそうはいかない。

内田:日本だと、社員の雇用を守って終身雇用を維持しなければならないから、例えば営業利益率が2%前後くらいしかなくて利益率低くても、「利益は出てるし。赤字じゃないんだから、まだこの事業をやめる必要はないんじゃないか」みたいな話になりがち。

川村:今もそうですね。

内田:その辺が日本企業らしいといえばらしいんだけど。

日本企業が利益率を上げるためには

川村:だけど、やっぱり日本企業の利益率が海外勢に比べて悪いのは明らかで、しかもその状態が長く続いちゃったことが一番悪いところなんですね。

 高度成長期のときは、黙っていても利益率が上がってきたからいいんだけど、今は放っておいたら利益率が上がらない時代になっちゃったわけ。だから、ある種の痛みを伴う努力や改革をしなきゃいけないんですね。

 さっき指摘した不動産投資のトラウマは結構、多くの日本企業の意識の底流にまだ残っていますよ。あのとき盛大に投資をしてしまって、その後に、やたらと苦労しちゃった。それで悪化した財務諸表を改善するのに、もうそれだけで20年くらいかかっちゃったと、こういう思いがある。

 そして、新しいことに積極的にどんと乗り出さない。不動産投資を止めるだけじゃなくて、自社の本業に近い部分の投資まで新しいことには及び腰になって止めちゃった。これが非常に良くなかった。

内田:日本企業におけるチャレンジングな部分だなと私が思うのは、日本企業って業界ごとにだいたいやることが似通っていて。何かほかの企業と違うことをやることに逡巡があったり、あるいは何か不安があったりするので、どうしても業界ごとの行動様式が横並びになっちゃう。

川村:その通りです。

内田:だけど今の時代、これだけ成熟化して、日本のマーケットが成熟化していると業界の中でほかと同じことをやっていたら絶対に生き延びられないので、個性を出さなきゃいけない。だけど業界内で横並びの意識が強いから、その個性を出すのがあんまり得意じゃない。

 逆に言えば、日本を代表する産業になっている自動車業界って、さっきおっしゃったトヨタとかホンダって、私から見るとすごい個性がありますよね。どっちの個性がいいとか、悪いとかじゃなくて。


日立製作所の川村隆・相談役
川村:自動車会社が飛行機を作るなんていうのは、本当に個性があると思いますよ。横並びではなく個性を出すという意味で我々がやったことといえば、2009年にテレビを止めると決心したことなんですよ。

 欧米企業は撤退しているのに、日本の電機メーカーはみんな横並びでテレビを作り続けていて、会社の中でも日立がテレビを作るのを止めるというだけで大変な変化だったんですよ。

 だけど、客観的に外から見れば日本でいつまでテレビを作っているんだと、問題意識を持つのは当然。それなのに日立は2009年になってようやくそういう決断したし、ほかの国内電機メーカーはテレビやめるのにさらに何年もかかりましたよね。

 やはり横にらみは続いていたし、大きな変化を嫌うという日本的なメンタリティーがあったよね。だから、自動車メーカーが飛行機を造るぐらいの大きな決心をやるのも大変化ですが、逆にテレビを止めるぐらいでも大騒動だったんですよね。こういう決断ができない日本企業は、やはり相当遅れていると言わざるを得ない。

内田:それは、多くの日本企業に共通している課題ですね。まだテレビを作っている会社は多いですよね。

電機各社は横並びでテレビや半導体を作り続けた

川村:半導体も同じです。今にして思えば一番良かったのは、例えば半導体はNEC一社に集めますとか、テレビはソニーに集約しますとかやればよかったのかもしれない。みんなで日本の会社を1事業1社ぐらいに集約して、そうしたら半導体を集約した会社は投資をすべて半導体に投入できるようなる大会社になったはず。事業ごとにそういう集約会社をいくつもつくればよかったんですが、複数の電機メーカーで少しずつ同じ事業をやっているものだから、韓国勢に負けちゃった。

内田:やはり、川村さんが横にらみでなく大胆な改革をできたのは、川村さんが一度、日立の本体から外に出たことで客観的に問題を見られるようになったからなんでしょうか。それとも、単に川村さんが変わり者だったのか、あるいはそこまで追い込まれちゃったのか。何で2009年まで日立ができなかったことを、川村さんだとできたんですか。

川村:私が一度、日立本体を辞めた人だったというのは大きいと思います。

内田:本体を辞めて外から見たときに、何か変だなと思ったんですね。

川村:ええ、これはまずいなと思ったわけですよ。本体の中にいる人は分からんのかなと。要するに日立はいつまでもカネにならない事業に固執していたんです。単に「昔からやっている」という理由でね。

川村:半導体事業も切り出したように見えて、持ち株分をかなり残していたり、いろいろ中途半端だったんですよね。改革を少し進めてはいたわけですが。

日本の会社は、特に会社の中の意識が閉鎖社会的

内田:今の話を少し一般化すると、日本の企業を改革しようと思ったら、中で純粋培養で上がってきた人が経営者になっていると、なかなか難しいということになっちゃうんですかね。

川村:ええ、そうなっちゃいますね。

内田:そうすると、そういう企業が大半の日本にとっては大きな問題ですね。

川村:日本の会社は特に会社の中の意識が、閉鎖社会的ですからね。最近、いい方向になってきたのは、日本の会社の20%ぐらいはグローバル企業になってきて、海外とのやりとりが多くなってきましたから、自然に変わり始めている部分もある。それは非常にいいことでね。ですから、閉鎖的なものを意識的にもう少し変えていこうというのがガバナンス改革にも関係してくるんですけどね。ただ、日本だと政府が企業のガバナンス改革に旗を振っているので、本当はあまりよくない傾向なんですけどね。

内田:各社の取締役会には、必ず社外取締役を入れろ、みたいな話ですか。

川村:そうそう。あれは民間の会社が自分たちで問題意識を持って実行すべきことで、政府がルールを作るもんでもない。

内田:そうそう、何かルールで決めるって若干、本末転倒な気がしていて。私は個人的には反対なんですけどね。

川村:その通りで、政府がやるようなことじゃないですよ。民間企業の活性化の話なんですから。


対談する内田氏(右)と川村氏(左)
《後編に続く》

このコラムについて
トレンド・ボックス

急速に変化を遂げる経済や社会、そして世界。目に見えるところ、また見えないところでどんな変化が起きているのでしょうか。そうした変化を敏感につかみ、日経ビジネス編集部のメンバーや専門家がスピーディーに情報を発信していきます。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/226265/040600021/?ST=print


 

米国で過熱する議論、自由貿易は是か非か

自由貿易は必要、だが”被害者”には支援を

2016年4月7日(木)The Economist


 米国のカントリー歌手ロニー・ダンは2011年、新曲『Cost of Livin’』を収録した。「生活費」を意味するこの作品は、職を求める元工場労働者の姿を切なく歌っている。「銀行からの電話が鳴り始めた/家の戸口には狼どもが待ち構えている」――。求人数をはるかに超える求職者が溢れる未来を感じているのか、彼の意欲的なトーンは絶望感へと成り代わっていく。


TPPに距離を置き始めたヒラリー・クリントン氏(写真:AP/アフロ)
 同様の叫びは米国中の工業地帯から聞こえてくる。製造業において1999年から2011年の間に失われた職の数はほぼ6万にのぼった。

 この規模そのものは特に驚くべきものではない。動きの激しい米国経済においては、毎月およそ500万の就職口が生まれては消えていく。だが米国の主要大学の経済学者たちが最近行った一連の研究から、気がかりな結果が明らかになった。先に挙げた、1999年〜2011年に失われた職の5分の1は、中国が競争力をつけたことが原因だった。


出所:The Economist
[画像のクリックで拡大表示]
 このとき失業した人々は新たな仕事を近隣で見つけることができなかった。かといって、別の地域で職探しをしたわけでもない。彼らのほとんどは、失業したか、働くのを完全にやめてしまったのである(多くの人は後者を選んだ)。就職をあきらめた人の多くは障害者給付金を請求した。現在、25〜64歳の米国人の5%がこの手当を受給している。

主な大統領候補はみな自由貿易に背を向ける

 こうした研究成果によって不安が高まったため、「貿易」は今回の米国大統領選において試金石となる問題になっている。共和党の指名争いで首位を走るドナルド・トランプ氏は、中国とメキシコからの輸入品に禁止関税をかけると公約している。

 民主党の最有力候補とされるヒラリー・クリントン氏を相手に健闘しているバーニー・サンダース氏は、貿易協定に反対することを誇りのしるしとしている。当のクリントン氏も、環太平洋経済連携協定(TPP)に距離を置くようになった。TPPはオバマ大統領が取り組んでいる貿易協定で、クリントン氏も以前はこれを支持していた。

 貿易の自由化は、第二次世界大戦が終って以降、数十年にわたって米国その他の国家に繁栄をもたらす原動力の一つとなった。であるにもかかわらず、主流をなす政治家たちは今、自由貿易への支持をためらうのみならず、積極的に反対している。これは嘆かわしいことだ。自由貿易は、今でも大きな支持を得るに値するものである。たとえ、それによって害を被る人たちへの手厚いケアが必要になるとしてもだ。

自由貿易がもたらすデメリットは偏って存在する

 自由貿易の支持者たちは、貿易が自由化されれば大多数が恩恵を受けるものの一部には損失を被る人がいることを、いつの時代も理解していた。ロバート・ピール卿は1846年に穀物法の撤廃を要求する中で、この法律が農業労働者にもたらし得る害に対して人々が抱く懸念について認識していた(本紙=The Economist=はこの運動を支援するために創刊された)。ピール卿は「誰も苦しめることなく法制度を改正することができればいいのに」と語る一方で、次のように主張した。「穀物にかけられる関税に誰よりも苦しむのは、他でもなく最も貧しい農場労働者だ」。そして、この指摘は正しい。

 これに関連して、最新の研究から明らかになったことがある。自由貿易が米国にもたらす損失は、想定されていた以上に特定の層に集中し、しかも影響が長引くということだ。その大半は、中国が猛スピードで台頭してきたことによる。世界のモノの輸出に占める中国の割合は1991年には2%だったが、2013年までに19%へと急増した。

 中国の台頭が引き起こしたこのショックは、米国経済における断層線もまた露わにした。労働者たちは以前に比べ、転職や他州への移住をしたがらなくなった。持ち家の所有率が上がっていることが理由の一つと考えられる。地域が衰退しても人々はそこに留まる。活力のある地域は価格が高すぎて手が出せないのかもしれない。どんな説明をつけるにしろ、自由貿易は一部の場所に大きな犠牲を負わせる可能性がある。

自由貿易は米国民から購買力を奪う

 こうした懸念への対応として最悪なのは、トランプ氏が大々的に謳っている保守主義の姿勢だ。中国から流れ込む安価な輸入製品――衣服、靴、家具、玩具、電子製品など――の波は、低所得層の購買力を大きく押し上げた。また、低所得者たちが買うことのできる品の種類も増やした。

 カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)とコロンビア大学の経済学者たちが、米国が貿易に門戸を閉ざした場合の影響を試算している。それによると、米国の中位所得層は購買力の29%を失う。さらに、最貧困層は実に62%を失うという。彼らが買うものは輸入品に偏っているからだ。

 加えて、豊かになった中国市場が輸出業者にもたらす恩恵について考えてほしい。世界の市場をまたにかけた競争や、消費者向けの製品(米アップル製のiPhoneなど)に使用する安価な材料が米国内のイノベーションを誘発し、米国の設計者の生産性を上昇させる。これらを考慮すれば、自由貿易を支持する論調に抵抗するのは難しい。

失業者向け支援を拡充せよ

 外国勢との競争によって損失を被る労働者を保護するには何をすべきだろうか。連邦政府の貿易調整支援(TAA)制度が提供するセーフティネットはお粗末としかいいようがない。失業した米国人労働者の多くが、より高い収入を得ることができる障害者給付金を受給する道を選び、労働市場を完全に離れる理由はここにある。

 米国は欧州の最悪な側面の一部を導入する一方で、欧州にある素晴らしい制度を見逃している。ドイツは欧州における屈指の製造大国だ。中国の競争力の向上と東欧諸国の欧州連合(EU)加盟という2つのショックをうまく吸収してきた。その理由の一つとして、労働者のスキルを常に向上させることができる徒弟制度の存在がある。

 これに対して米国では、スキルの格差を縮小するため、衰退地域におけるコミュニティカレッジの役割が有望視されている。だが、高額な4年制大学で受ける教育が相変わらず重視されすぎている一方で、職業訓練が極めて軽視されている。

 米国は“労働市場に対する有効な政策”という点においても他の先進国に後れをとっている。失業者たちが新たな職を探すのを支援するため、もっと多くのことができるはずだ。職業紹介サービスや、スキルを身につけるための各種コースを活用すればよい。地理的に極めて広域な米国の労働市場においては、輸入増加の影響で不利益を被った労働者が移転した際に補助金を与えるということも考えられる。

 失業者の多くが不満を抱いているのは、サービス部門で見つけた新たな職の給与が以前より低いことだ。製造大手から支給されていた健康保険や年金が得られなくなることもある。こうした声は、転職しても引き続き享受できる福利手当制度の確立を求める主張の強力な論拠となっている。賃金保険制度も有効かもしれない。

 このような政策を必要とするのは米国に限らない。英国の製鉄所は国内産業の崩壊に直面している。ここで求められるのは、貿易によってもたらされるショックを取り除くことだけではない。このような政策の多くは、安価なロボットから3Dプリンタなどの新技術に至るまで、国内に混乱をもたらす他の原因に対処するためにも必要だ。

 保護主義者は昔のやり方に戻りたがっている。だが、変化に備えて労働者たちを訓練しつつ、自由貿易がもたらす永久的な利益を得るほうがよっぽど賢明である。

© 2016 The Economist Newspaper Limited.
Apr 2nd -8th 2016 | From the print edition
英エコノミスト誌の記事は、日経ビジネスがライセンス契約に基づき翻訳したものです。英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。

このコラムについて
The Economist

Economistは約400万人の読者が購読する週刊誌です。
世界中で起こる出来事に対する洞察力ある分析と論説に定評があります。
記事は、「地域」ごとのニュースのほか、「科学・技術」「本・芸術」などで構成されています。
このコラムではEconomistから厳選した記事を選び日本語でお届けします。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/224217/040600073/

 

田嶋智太郎の外国為替攻略法
2016年04月06日
なおも世界経済下支えのための"ドル高の修正"は続くのか?

昨日(5日)、ドル/円は一時109.94円まで下押す場面があり、かねてから重要な節目の一つと見られていた110円の水準を一時割り込む展開となりました。目下は、同水準を明確に下抜けるかどうかの正念場に差し掛かっていると見ることができそうです。

前回更新分の本欄で「注目したい」と述べた3月の米雇用統計における「平均時給」の伸びは、前年同月比+1.7%と事前の市場予想を若干下回りましたが、昨年まで1%台前半から半ばあたりの水準で推移していたことを考えれば必ずしもネガティブな水準ではありませんでした。また、3月のISM製造業景況指数も51.8と、景気判断の分岐点である50を半年ぶりに回復し、米国経済は緩やかながらも着実に成長度合いを高めつつあるように思われます。それにしては、このところドルが円やユーロをはじめとした諸外国通貨に対してあまりに弱い基調を辿り続けているのは一体なぜなのでしょうか。

先週31日付の日本経済新聞は「世界経済の下支えへ日米欧が政策協調しているとの観測も浮上している」と報じました。実際、2月下旬に上海で行われたG20財務相・中央銀行総裁会議が閉幕してからというもの、俄かに日米欧の金融政策に政策協調とも取れる動きが目立つようになったことは事実と言えます。そして、目下はG20の容認を得て"ドル高の修正"がじりじりと進んでいるようにも見られます。

ただ、ここにきて新興国からの大量資金流出に伴う世界経済不安定化のリスクがかなり大きく後退していることもまた事実です。3月に入ってからのドルは主要31通貨すべてに対して下落し、ロシア・ルーブルやブラジル・レアルまでもが対ドルで大きく値上がりするなど、新興国通貨全体が大幅高の展開となっています。つまり、一頃大いに懸念された世界経済のリスクは足下で大きく後退しているわけです。

そこで注目しておきたいのは、何と言っても4月14−15日にワシントンで開かれるG20財務相・中央銀行総裁会議の行方でしょう。焦点は、その場において「世界経済のリスクが一頃よりも大きく後退した」との認識を各国が共有することとなるかどうかです。そうした認識が共有されれば、日米欧の金融政策には一定の自由度が生まれることとなり、さしあたって4月26−27日に予定されるFOMCの声明内容も、これまでよりは少々タカ派的な色合いを帯びたものとなる可能性があるとの連想にもつながりやすくなるのではないかと思われます。

もちろん、今回もG20が「依然として世界経済のリスクは高い」との認識で一致するようであれば、今後一段のドル安が進行する可能性もあり、その点は十分に警戒しておく必要もあるものと思われます。まして、4月中旬からは米主要企業の1―3月期決算の発表が相次ぎ、その結果次第では米株価の調整などを通じて、ドル安・円高の傾向が強まる可能性もあるものと少々心配されるところです。

今しばらく、米国の追加利上げがなかなか現実味を帯びてこないといった状況が続くとすれば、その前に一旦はドル/円が節目の110円を明確に下抜ける可能性も十分にあるものと思われます。その場合には、本欄の3月23日更新分でも触れたように、テクニカル分析のセオリーに基づく下値の目安の一つである106円台半ばあたり、あるいは心理的節目となり得る105円前後の水準を試す可能性もあるものと見ておく必要があるでしょう。昨年6月高値を起点とするドル/円の中期的な調整は、いよいよ最終段階を迎えようとしているものと思われます。

コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役

前の記事:当面は米国の賃金と消費者物価の伸びに要注目! −2016年03月30日
http://lounge.monex.co.jp/pro/gaikokukawase/2016/04/06.html

 



空き家にも儲けのチャンス「民泊の現場」最新リポート(上)
2016年4月7日(木)福島 由恵

空き家や自宅の誰も使っていない部屋を活用してお小遣いを稼ぐ。そんな新しい不動産の使い方を実現できるのが、人気急上昇中の「民泊」だ。儲けたい、楽しみたい、その目的はいろいろ。民泊の今を様々な角度から、2回にわたって紹介する。
(記事の最後に1万円の商品券が10名様など計51名にプレゼントが当たるアンケートの案内があります)
 「予定を超える受講希望があったため、会場を変更します」。2月のある土曜日、東京都内で開催された「民泊セミナー」の申込者には、こんなメールが届いた。
 「民泊」が盛り上がっている。民泊とは、一般住宅の部屋を旅行者などの宿泊向けに有料で貸し出すこと。訪日外国人の増加によるホテルの部屋不足を背景に、民泊の利用者数が急速に伸びている。
 件のセミナーでも、熱心にメモを取る参加者からは、「民泊用の物件を探すにはどうすればいいか」「今後の規制緩和の見通しは?」といった質問が相次いだ。
「民泊」が成立するまで

民泊仲介サイトで 圧倒的シェアを持つAirbnb
 民泊では部屋を貸す人をホスト、借りる人をゲストと呼ぶ。両者のニーズをネット上で仲介するのが、「プラットフォーマー」と呼ばれる事業者だ(上図)。
 そのプラットフォーマーの世界最大手が、米国に本社のあるAirbnb(エアビーアンドビー)だ。同社の公開資料によると、2015年夏に同社サービスを利用した旅行者は世界で約1700万人。圧倒的シェアを誇り、巷では「民泊をする」の意味で「エアビーする」と使われることさえある。
世界では民泊ユーザーが 増えている

出所:Airbnb
 さらに同社の資料によると、日本では部屋を貸し出すホスト数が10年以降、毎年2倍以上のペースで増加。15年6月までの直近1年間で、ホストとして部屋を貸し出した人は5000人以上、約52万人の訪日客が利用している。また、日本のホストがAirbnbを通して得た収入は、1人当たり年間平均96万円弱だという。
 早稲田大学の研究チームは、この1年間におけるAirbnbの経済波及効果を年間2000億円以上、雇用創出効果を同約2万人以上と分析している。
空き部屋があれば誰でも始められる
 「民泊の魅力の一つは少ない費用で始められること」と話すのはAirbnb総合研究会・代表の阿部ヨシカズさんだ。「貸す部屋は空き家や賃貸アパートの一室の他、現在住む自宅の一部を使う方法もある。寝具など部屋の備品は手持ちのものでも大丈夫。お風呂もエアコンもなし、和式トイレの古い畳の部屋でも、民泊ではそれなりのニーズがある」と言う。
阿部ヨシカズさん
Airbnb総合研究会 代表 民泊プロデューサー
民泊を行う大家さん向け情報サイトを運営し、メルマガでも定期的に情報発信を行う。2016年初出版の『Airbnb入門ガイド』では初心者向けに分かりやすくノウハウを解説。http://airbnb-info.com/
 民泊の実態など研究を進めていいる、マンション管理士の飯田勝啓さんによると、「現在、民泊で最も多いパターンは、賃借した部屋をゲストに貸す方法」という。いわゆる「又貸し」だ。通常、家賃収入を得る賃貸経営をするには、物件入手に数百万〜数千万円の初期投資が必要。だが又貸しだと主な初期投資は賃貸契約時に払う敷金・礼金程度で済む。この手軽さが、民泊人気を盛り上げている。
飯田勝啓さん
マンション管理士/賃貸不動産経営管理士ファイナンシャルプランナー
マンション管理の専門家として活躍。
話題の「民泊」を研究テーマに、セミナーなどを通じて適正な対応を呼びかけている。http://www.mankanken.com/
 民泊でどれだけ稼げるのだろうか。飯田さんはかつて民泊物件に泊まったことがあり、その料金は1泊8000円。そして、たまたま同じ建物内の同じ間取りの部屋が、管理費込み7万5000円で賃貸に出されていた。この実例を基に、編集部が試算したのが下図の例だ。

 「1〜2月の寒い時期は、民泊利用は年間で最も低水準」(阿部さん)という情報と、右下図の2月の東京23区の平均実績を参考に、稼働率は約50%(利用者が月に15日)と想定。試算では収入は月12万円になる。ここから毎月の主な経費に当たる家賃7万5000円を引いた4万5000円が、月々手元に残る利益だ。

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 初期投資額を加味した初年度の収支はどうか。賃貸の契約時に掛かる費用や家具などの合計を約45万円とすると、年間の純利益は9万円。順調なら1年足らずで初期投資額を回収できる。上手く運営すれば、それなりに旨みがあるビジネスモデルといえそうだ。
無断転貸や規約違反はトラブルの原因に
 ただし心配の種もある。一部から民泊の実態は旅館業であり、許可を得ないと旅館業法に違反する可能性があると指摘されている点だ。料金を取って宿泊者を泊めるには、本来、自治体の許可が必要。許可を得るには、宿泊施設として必要な設備や衛生管理の要件を満たす必要がある。政府は東京五輪を見据え、訪日外国人の宿泊先を確保するために民泊の規制緩和を打ち出しているが、法改正にまでは至っていない。
 旅館のような規模で複数の部屋を民泊向けに貸し、近隣からの苦情を放置していた悪質な事例では、書類送検されるケースも出ている。
 前述の又貸しスタイルでは、大家の許可を得ていない事例が目立つ点も気になる。飯田さんが民泊で泊まったマンションも「転貸借不可」の賃貸物件だった。
 「利用者が出す騒音や、ゴミの捨て方について近隣住民が管理会社や大家に苦情を寄せ、又貸しが露見することもある」(阿部さん)。発覚すれば、契約違反を理由に退去を迫られるリスクが高い。
 自己所有の物件でも、マンション管理組合が定める規約に違反していれば、民泊を行うことは難しい。「民泊禁止など専有部分の用途に制限が設けられていないか、事前の管理規約の確認は必ずしてほしい」(飯田さん)。
国家戦略特区で自治体公認の民泊
 法的問題を現時点でクリアできるのが、政府の国家戦略特別区域内で営む自治体公認の民泊だ。現在、条例に基づき民泊の運営が認められる自治体は、東京都大田区、そして大阪市と大阪府(大田区以外は施行前)だ。
 大田区では宿泊旅行サイトの運営会社「とまれる」が、全国初の民泊運営事業者として認定され、2月に民泊仲介サイト「STAY JAPAN」を開設した。同サイトに民泊物件を登録するには大田区の認可が必要で、3月上旬時点で登録されているのは同社運営物件含め3件に限られている。なお特区の定めの中で運営される民泊は、最低でも滞在が6泊7日以上という条件がある。
 とまれるでは、田舎の民家に泊まり農業を体験できる「体験型民泊」も支援。同社運営の「とまりーな」で情報提供を行う。利用者が増えれば、地方を中心に増加する空き家対策にも貢献できそうだ。

日本初の自治体公認事業者が運営する民泊仲介サイトhttps://stayjapan.com/

現在、3物件が大田区公認民泊物件として登録されている。うち2件はとまれ る社が運営。写真右はマンションの1室。左は一軒家タイプ。マンションでは 美容に役立つアメニティが充実

体験型民泊で紹介される「駒木 の家」(青森県)の例。薪割り体 験などができる
ホスト業務全般を代行する会社も
 最近では、ゲストとやり取りする時間を作りづらい人や、英会話が苦手な人などに向け、ホストの役割全般をサポートする事業者が続々と登場している。
 例えば運営代行会社のリーウェイズやファミネクトなどは、ゲストとの通信、緊急対応などの一連の運営作業を宿泊料金の2割で引き受ける。リーウェイズは、ホストの自己物件を対象にサービスを提供。事前に問題なく運営できる物件かどうか確認を行い、トラブル防止に努める。ファミネクトは、転貸借が認められる賃貸用不動産の紹介も行っている。手間をかけずに安心して運営するために、専門業者を頼るのも一案だ。

リノベーションで物件を見栄えよくし、稼働率を高める方法もある。写真はファ ミネクトの例。2室30uのクロスの張り 替えを行い、施工代金は約8万円
 Airbnb総合研究会の阿部さんは、民泊の今後について「厚生労働省は、自宅の一部をシェアする形なら、民泊を旅館業法の対象外とする方針だ。民泊は今後さらに普及していくだろう」と期待する。そうした中で、ゲスト獲得の競争激化も指摘。運営を成功させるには、「ゲストに喜んでもらえる努力が必要」と言う。 
 マンション管理士の飯田さんは、「社会に役立つ仕組みとして発展していくために、ホスト、ゲスト共にルールを守り、互いに気遣うことが大事」と呼びかけている。
「民泊」体験記
東京都内でビジネスホテルの予約を取ろうとしたが、どこも満室。そこで飯田勝啓さんは「民泊」の利用を思いついた。場所は新宿に近いJRの主要駅から徒歩1分の好立地だ。その生のコメントをお伝えしよう。
ロックなしのドアにびっくり


施錠なしのドアから入り、入室後は机の上にあった鍵を使って出入 りする
 民泊させてもらったマンションはオートロック式だった。「入れるのか?」と不安を抱いたが、あらかじめメールで教わっていたセキュリティ解除の暗証番号を玄関脇のパネルでタッチするとオートロックの扉が開き、すんなりとマンション内に入ることができた。大きなスーツケースを引きずりながら狭い階段を進む。すれ違う居住者には怪訝な顔をされ、少々バツが悪かった。
 予約した部屋に到着してドアノブを回すと、鍵はかかっておらず、そのまま室内に入ることができた。初めて「無人チェックイン」を味わったが、どこか不思議な感じだ。部屋の鍵は室内の机の上に置かれ、チェックイン後はこれを使って出入りする。
自宅感覚で意外に快適?!
 部屋は広さ23m2程度のごく普通のワンルームマンションだ。東京都内で安いビジネスホテルを選ぶと、部屋は非常に狭くて居心地が悪い。だがこの民泊の部屋はゆったりとしており、自分の部屋に戻ったような感覚になれる。生活必需品は一通り揃っており、ネット環境も整っている。長期滞在にも十分使えそうだ。
 気になったのは、部屋の使い方の説明がなかったこと。予約時の注意事項は「禁煙」と「土足禁止」の2点だけ。ゴミ出しルールなどの記載がなく、結局は室内にゴミを残したままチェックアウトさせてもらった。
 マンションでは騒音やゴミ出しの不徹底によるトラブルが発生していると聞く。ホスト側は、滞在時のルールを丁寧に伝え、防止に努めていくことが大事だと思う。
(『日経マネー』2016年5月号の記事を再構成しました)
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油価低迷でついに戦争へ、ナゴルノ・カラバフ炎上
大国に囲まれたアゼルバイジャンの苦悩
2016.4.7(木) 杉浦 敏広

アルメニアが支配するアゼルバイジャンのナゴルノカラバフで、アゼルバイジャン軍に向かって砲撃するナゴルノカラバフ自衛軍のアルメニアの兵士たち(2016年4月3日撮影)〔AFPBB News〕
2016年前半における旧ソ連邦諸国のトピックス
旧ソ連邦諸国では2016年前半、様々な動きがあった。特筆すべきは、11世紀に東西分裂したローマ・カトリック法王と東方正教会の盟主ロシア正教会総主教が21世紀に会談し、本格的和解への第一歩を踏み出したことだろう。 
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はロシア軍に対し2016年3月14日、シリア撤退を命じた。なぜ唐突にシリア撤退を発表したのか、様々な憶測が流れている。 
ロシア側説明では「目的を達したから」となるが、筆者は油価低迷により国庫財政が逼迫して、戦費調達に支障をきたしたのが最大の理由と考える。同様に他の旧ソ連邦天然資源諸国も、油価低迷により経済は危機的状況に陥っている。 
ウクライナのペトロ・ポロシェンコ大統領は4月5〜7日訪日予定だが、ウクライナ政局は流動化している。ポロシェンコ大統領の政権基盤は脆弱であり、政府は崩壊の瀬戸際にある。 
カスピ海と黒海に挟まれたコーカサス地域では4月2日、アゼルバイジャンとアルメニア間で長年の係争案件となっているナゴルノ・カラバフ紛争が再燃。 
両軍はいったん停戦合意したが、原稿執筆中の4月4日現在も戦闘は継続しており、多数の死傷者が出ている。今後の戦況いかんでは本格的戦闘状態となり、両軍の全面戦争に発展する恐れもある。 
日露関係に目を転じれば、今年は日ソ国交回復60周年記念の年になるので、安倍晋三首相は日露関係改善、特に領土問題解決に積極的に取組む姿勢を内外にアピールしている。この一環として、2016年5月6日にはロシア黒海沿岸のソチにてプーチン大統領と非公式首脳会談を予定しているが、会談に臨む日本側の焦りも見え隠れしている。 
最初に2016年上半期における旧ソ連邦諸国を中心とした主要な動きを概観したい。  
◆ 1月3日:サウジアラビアとイラン、国交断絶→予想に反し、油価さらに下落。
◆ 1月9日:トルクメニスタンのベルディムハメドフ大統領、内閣改造発表。
◆ 1月16日:対イラン経済制裁措置解除→油価続落。
◆ 1月20〜23日:ダボス会議(経済フォーラム)開催(於スイス)。
◆ 2月 9日: 米EIA(エネルギー省エネルギー局)、短期油価予測発表→2016年1バレル約37ドル、2017年約50ドルの予測。
◆ 2月12日:露正教会総主教とローマ法王、1000年振りの会談→和解への第一歩。
◆ 2月16日:ロシア・サウジアラビア等4石油相会談→油価乱高下。
◆ 3月8日:米EIA、短期油価予測発表→2016年1バレル約34ドル、2017年約40ドル。
◆ 3月14日:プーチン大統領、シリアからのロシア軍撤退を指示。
◆ 3月18日:プーチン大統領、クリミア訪問。クリミア併合2周年。
◆ 4月2日:ナゴルノ・カラバフ紛争再燃。停戦合意後も戦闘継続。本格的戦闘へ?
◆ 4月5日:ウクライナのポロシェンコ大統領、訪日予定。
◆ 4月12日:米EIA、4月度短期油価予測発表予定→2016年油価?、2017年油価?
◆ 4月17日:カタールのドーハにて、原油生産国による生産調整会議開催予定。
◆ 5月6日:黒海沿岸ソチにて、プーチン大統領と安倍首相非公式会談予定。
◆ 5月26〜27日:三重県志摩市にて、主要国首脳会議開幕予定(伊勢志摩サミット)。
油価推移概観/2015〜2016年
油価下落傾向が続いている。油価下落に伴い天然ガス価格も低迷しており、旧ソ連邦諸国の原油・天然ガス生産大国は経済的危機に直面している。 
2015年末に策定された2016年度政府期首予算案の想定油価は1バレル40ドル(カザフスタン)と50ドル(ロシア・アゼルバイジャン)となり、2014年末に策定した2015年国家予算案想定油価の約半分となった。 
しかし現実の油価はさらに下落しており、アゼルバイジャンのイルハム・アリエフ大統領は2016年3月3日、2016年国家予算修正案に署名し、修正予算案は発効。2016年国家期首予算案の想定油価は1バレル50ドルだったが、修正案の想定油価は25ドルになった。 
ここで、2015年の北海ブレント油価推移を概観したい。 
2015年5月5日に同年最高値1バレル68.34ドルを記録後、8月24日最安値42.47ドルをつけた。その後反転して上昇傾向となり、10月8日には53.38ドルまで上昇したが、その後再度下落。 
12月4日のOPEC(石油輸出国機構)総会で減産合意が得られなかったことを受け、油価は急落。ブレントは12月31日、37.60ドルで取引を終了した。 
2016年1月3日のサウジアラビアとイランの断交を受け油価は上昇に向かうかと思われたが、年明けから連続して8営業日、油価下落局面が続いた。 
1月20日には12年振りの最安値27.86ドルとなり、その後1月29日に35.91ドルまで上昇した。ロシア・サウジアラビア・カタール・ベネズエラ4か国は2月16日、2016年1月11日の生産水準より増産しないことで原則合意したが、油価は32.35ドルに下落した。 
4月17日には石油産出国約12か国がカタールのドーハに集合して、生産調整を協議予定と言われている。イランは制裁前の日量400万バレルに達すれば生産調整に同意するとの話も伝わっているが、イランの原油輸出量は拡大しており、現状では油価は40ドルを割り、下落傾向にある。 
4月17日の会議結果次第では、さらに下落する可能性もある。参考までに、2016年1〜3月度の欧州市場における代表的3油種(北海ブレント/露ウラル/アゼリ・ライト)の油価推移は下記の通りとなる。 
(出所:http://www.oilcapital.ru/
一方、米EIA (エネルギー局)は2016年1月12日に今年最初の短期油価予測を発表、17年予測は WTI (West Texas Intermediate) 47ドル、北海ブレントは50ドルであった。 
3月8日発表の短期油価予測では両油種とも16年油価は34ドル、17年は40ドルとなり、2月9日発表の油価予測(16年37ドル/17年50ドル)を下回る予測となった。次回米EIA短期油価予測は4月12日に発表される予定なので、4月の短期油価予測が注目される。 

アゼルバイジャンの苦悩/炎上するナゴルノ・カラバフ
【1】アゼルバイジャン概観
Republic) 正式国名:アゼルバイジャン共和国(Azerbaijan
口:931万人(2013年推計)  人
国土面積:8万6600 km2(日本の北海道とほぼ同じ面積)
都:バクー(Baku)  首
族:アゼルバイジャン人(約9割)、その他レズギン人、ロシア人、タリシュ人等  民
教:イスラム教シーア派が優勢  宗
国家元首:イルハム・アリエフ(Ilham Aliyev)大統領(1961年12月24日生/54歳)
:アルトゥール・ラジザデ(Artur RAZIZADE)首相(1935年2月26日生/81歳)  首相
(2006年に24.5%を記録) GDP成長率 :1.1%(2015年速報値)
外国貿易:油価低迷により、同国の貿易黒字は下記の通り急減している。
(出所:アゼルバイジャン国家統計委員会)
経済構造は石油・天然ガス輸出額が輸出総額の9割以上を占める典型的な≪油上の楼閣型経済≫であり、石油・ガス依存型経済構造からの脱却が同国の喫緊の課題となっている。GDP実質成長率は2006年に24.5%を記録して以降、同国のGDP成長率の伸び率は減少している。 
米格付け会社S &Pは2016年1月29日、油価下落に伴い、アゼルバイジャンの長期格付けをBBB-からジャンク債レベルのBB+に1ノッチ下げた。
S &Pに続き、 米格付け会社フィッチ・レーティングス(Fitch Ratings)も2月29日、同国の内貨・外貨長期債券格付けを「BBB-」から「BB+」(negative) に1ノッチさげて、投資不適格とした。
【2】アゼルバイジャンの政治体制
旧ソ連邦は1991年12月25日に解体され、ソ連邦を構成する15の民族共和国は名実共に独立した。旧ソ連邦の盟主ロシア共和国はロシア連邦に、アゼルバイジャン共和国はアゼルバイジャン共和国として独立した。現在のイリハム・アリエフ大統領はアゼルバイジャン共和国独立後、第4代の大統領である。 
3代目のゲイダル・ アリエフ大統領は2003年10月に逝去。同月実施された大統領選挙では、同大統領の長男I. アリエフ首相(当時)が立候補して当選した。アゼルバイジャン憲法により大統領三選は禁止されていたが、同国議会は2009年、憲法の三選禁止条項を廃止。修正案は国民投票にて承認され発効したので、理論上は終身大統領も可能となった。 
アゼルバイジャン大統領の任期は5年間である。2008年10月15日に実施された大統領選挙では投票率約76%、現職アリエフ候補は得票率約89%で当選、2期目の大統領に就任した。2013年10月9日に行われた大統領選挙は同国独立後8回目の選挙になった。投票率約72%、現職のアリエフ大統領候補が1回目の投票で約85%を獲得して当選、三選された。 
アゼルバイジャンは5カ国(ロシア・ジョージア・アルメニア・イラン・トルコ)と国境を接している。トルコとは国境を接していないと思われるかもしれないが、実は、アゼルバイジャンの飛び地ナヒチェバン自治共和国がトルコと国境を接している。 
現在3期目を務める同大統領の外交政策は従来同様≪全方位外交≫であり、この政策は将来も変更ないだろう。その理由は同国の地理的立場にある。北側国境はロシア連邦ダゲスタン共和国と国境を接しており、北の大国との平和共存が国家安全保障のカギとなる。 
イラン北部地域にはアゼルバイジャン本国の約3倍のアゼル人が居住していると言われており、イランとは微妙な関係にある。西の隣国ジョージアとは友好関係にあるが、現在でも国境線は4カ所で画定しておらず、国境画定定期協議が続いている。カスピ海東側の天然ガス大国トルクメニスタンとは、カスピ海領海線画定問題を抱えている。 
最大の問題はアルメニアとの領土紛争である。アゼルバイジャンは隣国アルメニアと領土問題を抱えている。国内のナゴルノ・カラバフ(「山の上の肥沃な土地」という意味)自治州はアルメニアの支持を受けて事実上独立状態だが、アゼル人は同地の奪還を強く望んでいる。 
他方、アルメニアは隣国トルコと紛争を抱えているが、敵の敵は味方ゆえ、トルコはアゼルバイジャンを支援している。付言すれば、アルメニアの後ろ盾はロシアである。 
ロシア正規軍はアルメニアとの条約に基づき、アルメニア本国のギュムリ市に駐屯している。この軍が動くと本格的全面戦争になるので、ロシア軍自体が動くことはないと予測する。 

【3】炎上するナゴルノ・カラバフ
アゼルバイジャン共和国は現在、国土の約20%がアルメニア側に占領されている。 
旧ソ連邦には160以上の民族が登録されていたが、民族問題はあまり表面化しなかった。ところが、1985年3月にコンスタンチン・チェルネンコ書記長が逝去し、ミハイル・ゴルバチョフ政治局員が書記長に就任、新書記長は情報公開政策(グラースノスチ)を推進した。すると、それまで封印されていたパンドラの箱が開き、国内の民族問題が噴出した。 
ソ連邦時代の1990年1月20日、首都バクーとその近郊ではアゼル人とアルメニア人の民族問題が勃発し、治安維持の名目で赤軍がバクーに侵攻、多数の死傷者が出た。アゼルバイジャンはソ連邦から独立後、1月20日を「国民喪服の日」の記念日と定めた。 
旧ソ連邦解体後のアゼルバイジャン国内では、アルメニア系住民が多数派を占めるナゴルノ・カラバフ自治州を巡る民族紛争が表面化して、1992年に戦闘は激化。アルメニア軍は同自治州を含むアゼルバイジャン国土の約20%を占領した。 
その後ロシアの仲介により1994年に両国は停戦に合意したが、アルメニア側は停戦ライン沿いに地雷を敷設。その後も最前線では小規模な銃撃戦などが頻発していたが、今回の紛争は1994年停戦後、両国間最大の戦闘行為となった。戦闘経緯はアゼルバイジャン側発表によれば、下記の通りである。 
・2016年4月2日未明 : 最前線のアルメニア軍がアゼルバイジャン側に砲撃開始。
・上記に対し、アゼルバイジャン軍は直ちに反撃開始。
・4月2日午後3時(現地時間)、ロシア仲介により停戦合意。アゼル側、反撃中止。
・4月3日午後3時20分 、アゼルバイジャン外務省発表は下記の通り。
アゼル側死者12人/ヘリ1機墜落/戦車1輌擱座(地雷) 
アルメニア側損害:戦車10両破壊、15砲門破壊、死傷者100人以上(*アルメニア側発表:アルメニア側死者18人/戦傷35人) 
今回の戦闘再開の原因として、ロシアとトルコの関係悪化・対立激化が背景にあると言われているが、真相は不明。ロシアは仲介に努めており、両軍は4月2日午後に停戦合意したものの、最前線では戦闘が継続している。双方が双方を非難しているが、アルメニア側に戦線拡大のメリットはなく、動機は領土奪還を悲願とするアゼルバイジャン側にあると推測される。 
ここで参考までに、「ナゴルノ・カラバフ」の語源に言及したい。 
“ナ”は露語前置詞(“上”/英語の“on” )、“ゴルノ”は露語名詞“山”(“ガラー”/複数形“ゴーリ”)の形容詞(“ゴールヌィ”)、“カラバフ”は現地語で“肥沃な土地”の意味。つまり、ナゴルノ・カラバとは“山岳地帯の肥沃な土地”という意味であり、現地は風光明媚と言われている。 
【4】アゼルバイジャンのエネルギー事情
旧帝政ロシア時代の1848年、カスピ海沿岸バクーにて世界初の原油の商業生産が始まった。米国の原油生産は1850年代であり、世界の原油商業生産はバクー陸上油田をもって嚆矢とする。 
バクー原油は1900年には世界の原油生産の半分を占め、独ソ開戦の1941年にはバクー原油がソ連邦生産の約8割を占め、燃料(石油製品)を赤軍に供給した。 
同国の輸出金額の9割以上が石油(原油・石油製品)および天然ガス輸出である。 
代表的油田はカスピ海ACG(アゼル・チラグ・グナシリ)海洋鉱区であり、カスピ海原油を地中海沿岸のジェイハン出荷基地まで輸送する代表的パイプライン(P/L)がBTC(Bバクー・Tトビリシ・Cジェイハン)原油P/Lである。 
1997年にカスピ海ACG鉱区にて原油生産開始以降、右肩上がりの原油生産量であったが、2010年の5080万トンをピークとして、以後、原油生産量は減少に転じた。 
(出所:アゼルバイジャン国家統計委員会)
天然ガス分野ではカスピ海シャハ・デニーズ海洋鉱区天然ガス田開発プロジェクト、南コーカサス天然ガスP/L(SCP)があり、2016年3月現在、シャハ・デニーズ海洋鉱区第2段階(ピーク時生産年間160億?)の拡張工事が進行中である。 
同国では2006年以降、グロス天然ガス生産量(総生産量)とネット生産量(総生産量−燃焼量−地下圧入量)を発表している。国内の火力発電所用燃料は天然ガスが主体であり、国内年平均ガス需要量は約100億〜110億m 3なので、ネット生産量と国内需要との差が輸出可能量になる。
(出所:アゼルバイジャン国家統計委員会)
欧州諸国はロシア産天然ガス輸入依存度を軽減すべく、代替供給源としてアゼル産天然ガスに期待しているが、新規追加可能生産量は少ない。かつ、2014年後半から始まる油価低迷が今後も続けば、延期・中止される新規構想も出てくるだろう。 
事実、油価下落に伴い同国の金・外貨準備高や石油基金残高は減少しており、今後は新規大型プロジェクトの延期・中止は必至と言える。 
換言すれば、欧州側が期待している新規天然ガス供給源はトルクメン産ガスと制裁解除後のイラン産ガスしかあり得ず、トルクメン産ガスをカスピ海経由欧州に輸出するカスピ海横断天然ガス海底P/L建設構想が再度脚光を浴びることになるだろう。 
【5】アゼルバイジャン国営石油会社(SOCAR)と国家石油基金 (SOFAZ) 概要(1)SOCAR(State Oil Company of Azerbaijan Republic)
SOCARは1992年9月13日付け大統領令第200号により設立され、1993年2月26日付け大統領令第328号により経営形態が確立。現在、下記2つの大規模プロジェクトを推進中である。 
@ カスピ海シャハ・デニーズ(Shah Deniz)海洋鉱区第2段階プロジェクト:
シャハ・デニーズ海洋鉱区では、2006年末に天然ガス生産を開始。第1段階の天然ガスは南コーカサスP/L(SCP)にて、ジョージアとトルコに輸出されている。同海洋鉱区第2段階に関して、コンソーシアムは2013年12月17日、最終投資決定(FID)を発表した。 
同海洋鉱区天然ガス開発第2段階の総工費は従来、輸送インフラも含め計約400億ドルと言われていたが、アリエフ大統領は2013年12月17日、総工費は450億ドルになったと発表。また、同鉱区のPSAは2048年まで延長された。 
A 石油ガス化学産業発展構想 (Oil, Gas, Petrochemical Complex):
アゼルバイジャンは天然ガスの有効利用を目指しガス化学産業発展にも注力しており、同国のガス化学産業発展構想には日本企業も協力している。
SOCARは2012年4月10日、アゼルバイジャン石油ガス化学総合発展計画 (OGPC) を発表した。首都バクーから南西へ約60キロのGaradag地区に製油所や処理工場を建設するもので、SOCARによると同計画の総工費は124億米ドル(金利を含めると144億ドル)、資金回収目途7年間とされた。 
同構想の概要は、●新規製油所建設(62億ドル)●ガス処理工場(24億ドル)●石油・ガス化学(38億ドル)からなる。しかしSOCARは2013年11月、同石化構想の一部延期を発表。当初は新製油所完工後にバクー市内の旧式製油所は解体される予定であったが、同石化構想延期に伴い旧式製油所解体も当面延期されることになった。 
延期の理由は公表されていないが、本構想は2014年後半以降の油価下落により資金手当てが困難になったと言われており、今後の実現性は資金調達次第となるだろう。 
(2)SOFAZ (Stae Oil Fund of Azerbaijan) :
SOFAZは1999年12月29日付け「SOFAZ設立に関する」大統領令第240号により設立され、2000年12月29日付け大統領令第434号により運営形態が確立。2001年6月19日付け「SOFAZ資産管理規定」に関する大統領令第511号により実務を開始した。 
同社設立の目的は、アゼルバイジャンの天然資源収入を効率的に運用して、現世代および次世代の福祉向上に活用することと規定されている。 
SOFAZの主要収入源は生産物分与契約 (PSA)の国家取り分であり、設立以来の累計収入は2015年末までに約1250億ドルに達した。 
一方、同基金の最大支出項目は国庫歳入への繰入金である。同基金資産残高は2015年1月1日現在371億ドル、2016年1月1日現在336億ドルとなり、約10%減少。SOFAZ設立後初めて、資産残高は減少した。 
アリエフ大統領は2016年3月18日、SOFAZの2016年修正予算案を承認した。2016年の同基金予算案は2015年12月29日に同大統領により承認されたが、その後の油価急落に伴い、国家予算案も国家石油基金も想定油価は1バレル50ドルから25ドルに下方修正された。 
US$1≒16AZN)。(出所:アゼルバイジャン国家石油基金) SOFAZの 2016年修正案では、収入は45.78億AZN。収入のうち、石油・ガス関連(利益原油・ガス)が38.76億AZN(収入の約85%)になる(参考:2016年3月現在 
油価低迷により同国の貿易黒字は激減、金・外貨準備高は半減、国家石油基金残高も初の減少を記録。同国経済は愈々、未曽有の胸突き八丁に差しかかった。 
今回のナゴルノ・カラバフ炎上は畢竟、失地奪還を目指す内憂外患のアゼルバイジャン側の動機が色濃く反映しているのかもしれない。 

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46535

 
プーチン大統領の金脈の中心にいるチェロ奏者
オフショア口座に20億ドル、「パナマ文書」で怪しい取引が露呈
2016.4.7(木) Financial Times
(英フィナンシャル・タイムズ紙?2016年4月5日付)

ロ大統領次女らに高級住宅=譲渡?新体操女王も−ロイター
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領。露モスクワ郊外のノボ・オガリョボの私邸にて(2016年3月31日撮影)。(c)AFP/MAXIM SHEMETOV〔AFPBB News〕
?ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の親しい友人たちが同氏の統治下で財産と政治力を蓄える中、大統領に最初の妻を紹介し、2人の長女の名付け親でもあるチェロ奏者、セルゲイ・ロルドゥギン氏は、ロシアの新たな寡頭制の中で地位を築こうとはせず、音楽に人生を捧げることを選んだ。「私は数百万の金など持っていない」。同氏は2014年に、ニューヨーク・タイムズ紙にこう語った。

?実際にはロルドゥギン氏の資産は数百万ではなく、数十億ドルにのぼる。パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」から漏洩し、「国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)」が4月3日に公開した文書は、ロルドゥギン氏が密かにオフショア(租税回避地)の口座網に少なくとも20億ドルの資金を隠していたことを示している。これが事実なら、ロルドゥギン氏は断トツで世界一裕福な音楽家になるかもしれない。

?ICIJが暴いた1100万件の文書はどれもプーチン氏を名指ししてはいない。しかし一連の文書は、莫大とされる同氏の個人資産に関するこれまでの噂を裏付ける強力な証拠になる。

?米財務省は、2014年にロシアのクリミア併合に対する制裁を決定した際、プーチン氏の取り巻き集団のメンバーが、同氏の資金や投資を運用することで「出納係」の役を果たしていると述べていた。

?「ロルドゥギンがこれを自分で稼げたはずがないのは明らかだ――彼は音楽家なんだから」。反汚職活動家でプーチン氏の政敵であるアレクセイ・ナワリニー氏はこう言う。「プーチンが腐敗していることはニュースでも何でもないが、あの有名な『財布』に加えて、これも持っていることが分かった」

?ロシア政府高官らは疑惑を否定した。大統領府報道官のドミトリー・ペスコフ氏――ロシアの法律では政府関係者の配偶者は企業を所有することを禁じられているものの、ペスコフ氏の妻はリークされた文書でオフショア企業の取締役として名前が挙げられている――は3日、米中央情報局(CIA)と米国務省がロシア大統領の信用を傷つける「情報作戦」としてリークを企てたと述べた。

?リークされた文書は、ロルドゥギン氏が、ロシア銀行が運営する複雑な金融ネットワークを利用できることを示している。ロシア銀行のオーナー、ユーリ・コワルチュク氏は1990年代にプーチン氏やその後大富豪になった友人数人とともにサンクトペテルブルク郊外にダーチャ協同組合を立ち上げた人物で、ロシア銀行もコワルチュク氏も米国と欧州連合(EU)の制裁対象になっている。

?ロルドゥギン氏はニューヨーク・タイムズ紙に対し、何年も前に自分がお金に困っていたときに、好意としてロシア銀行の株式を贈られたと語った。現在、ロシア銀行は同氏を、3.2%の株式を所有する株主として記載している。

?2008年から2013年にかけて、ロシア銀行の資産は2倍以上に膨らんで80億ドルに達しており、同行はロルドゥギン氏と結びついた20億ドル規模の企業ネットワークを運営している。

?リークされた文書によると、このネットワークの主要仲介会社は、ほとんど無名の実業家オレグ・ゴルディン氏が経営権を持つ英領バージン諸島の会社サンダルウッドだ。

?文書は、サンダルウッドがロシア国営銀行VTBの子会社RCBキプロスから8億ドル相当の無担保融資を受けたことを示している。RCBキプロスはサンダルウッドの返済能力についてほとんど何も予防策を講じなかった。

?一連の文書によると、サンダルウッドは、多くの場合、有利な条件で利払いを受けられるローン交換合意にも関与していた。ある事例では、ロルドゥギン氏は1ドル払って800万ドルの金利を受け取っている。

?パナマ文書は、サンダルウッドの口座の資金の一部が、破格の低金利でプーチン氏と関係のあるロシア国内のプロジェクトの財源として使われたことを示している。ある例では、サンダルウッドはコワルチュク氏が共同所有するオゾンという会社に1130万ドル融資した。同氏のダーチャ協同組合の近くにスキーリゾート「イゴラ」を建設するためだ。

?ロイター通信によると、このリゾートは、プーチン氏の次女エカテリーナが2013年に、やはりプーチン氏の友人の息子にあたるキリル・シャマロフ氏と秘密裏に結婚した場所だ。

?リークによると、サンダルウッドが2012年に閉鎖された後、その業務はオーブ・フィナンシャル・コープという英領バージン諸島の会社に移管された。プーチン氏のメディアアドバイザー、ミハイル・レーシン氏と関係のある会社だ。

?文書によれば、ロルドゥギン氏は、レーシン氏が創業し、ロシア銀行が共同所有するテレビ広告会社ビデオ・インターナショナルの少数株式を保有している。レーシン氏は昨年ワシントンで不審死を遂げるまで、多くの場合はコワルチュク氏の助けを得て、ロシアメディアに対するクレムリンの支配力を振るった。

?リークされた文書は、ロルドゥギン氏が自動車メーカーのカマズとアフトワズの株式も保有していることを示している。また、ロルドゥギン氏と結びついた複数の企業が、ロシアのオリガルヒ(新興財閥)から極めて有利な条件で何百万ドルもの支払いを受けたことも明らかにしている。

?パナマ文書はさらに、鉄鋼大手セベルスターリと関係のある会社レーベンス・トレーディングが2007年に、ロルドゥギン氏と関係のある別の会社に金利2%で600万ドル貸し付け、わずか2カ月後に1ドルで債務免除したことを示している。オリガルヒのスレイマン・ケリモフ氏の支配下にある企業数社も、2010年に40億ルーブルの融資と2億ドルの融資を同額でロルドゥギン氏と関係のある企業に移管した。

?プーチン氏の柔道仲間のアルカディ・ローテンブルク氏は2013年に、ガスパイプライン建設計画の政府契約を勝ち取った後、ロルドゥギン氏と関係のある企業に対し、返済計画なしで2億3100万ドルの融資を実行した。

?リークされた文書によると、ロルドゥギン氏と関係のある企業は、ロシアの石油・ガス独占企業のロスネフチとガスプロムの株式の売買でも莫大な利益を上げた。2010年には、別のオフショア企業がロルドゥギン氏にロスネフチ株を売却した後、即座に売却契約を取り消し、ロルドゥギン氏の会社は賠償金として75万ドル受け取った。ロシア最大手銀行ズベルバンクが手がけた別のケースでは、ロルドゥギン氏が株式を購入し、翌日に買値より何十万ドルも高い値段で売り戻している。

?ロシアのメディアはロシアと関係のあるリークを無視し、ウクライナのペトロ・ポロシェンコ大統領が持つオフショア企業に関するニュースばかり取り上げた。

?「ロシアでの反応は、『はっはっ、連中は20億見つけただけか?』というものだ。そんなのは個人的な出費の小口現金だ」。ナワリニー氏はこう話す。「パナマはロシア政府関係者にとって一番人気のあるオフショアではない。もし英領バージン諸島についてこのような情報を見つけたら、金額は何倍も大きくなるだろう」

By Lindsay Fortado

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46536

 
中国が「5カ年計画」通りに成長できるわけ
中国の潜在的成長力の最も分かりやすいメーターは?
2016.4.7(木) 林毅夫
北京の高層ビル(資料写真)
(北京より)?最近まとまった中国の第13回5カ年計画は、2016年から2020年の期間に向けた中国の経済戦略と抱負を明確に打ち出している。とりわけ、GDP(国内総生産)と平均世帯収入(都市部および農村部)を2010年に比べて倍増させるというのが、5カ年計画の目的のうちの重要なものだ。

?こういった目標を達成するためは、中国経済はこれから5年間、少なくとも毎年6.5%以上の成長をしなければならない。このペースは1979年から中国が記録してきた9.7%の成長ペースに比べたらかなりゆっくりであるものの、それでも国際的な水準からすると紛れもなく速いペースだ。

?そして、中国の成長が2010年初めから毎四半期ごとに減速しているという事実を考慮するに、この目標は達成可能なのかと疑問に思う者もある。

?しかし私は達成可能だと考えている。

*??*??*??*

?経済成長は、技術の進歩と産業の整備による労働生産性の向上によって起こる。既に生産性の面で最先端にある高所得の国では、技術的・組織的な行き詰まりを突破することによって所得向上を獲得しなければならなくなっている。結果として、これらの国々での典型的な成長率は3%にとどまっている。

?しかし発展途上国においては、生産性の向上率を潜在的に加速させることができるので、GDP成長率に関しても、先進国の技術を借りてくることによって(後発者利益の活用だ)、加速度的に増加させることができる。それが、今まで中国がやってきたことだ。

?36年間の巻き返しの後に、中国に対して投げかけられる疑問は、この巻き返しの過程からあとどのくらい恩恵を受け続けられるだろうかということである。

?もう限界に達してしまったと考える学者もいる。経済史学者アンガス・マディソンの実施済み過去データによると、ほかの東アジア諸国の1人当たりGDPが、購買力平価の観点から、1990年のUSドル価基準に比較して約1万1000USドルに(または2005年のUSドル価基準に比較して約1万7000USドルに)達した後にどのようにして経済成長が減速してきたかということを説明している。

?たとえば、日本がそのレベルに達したのち5年は、日本経済は年平均3.6%で成長した。韓国に関して言うと、成長率は4.8%に沈んだ。香港での減速は5.8%であった。中国が今年これらの諸国と同じ閾値を超えると予測された場合には、向こう5年の成長率は7%よりもはるかに下まで落ち込むだろうと考えるものは多い。

?しかし私はこの意見に反対だ。この分析が考慮に入れ忘れていることがある。それは、先進国が手をこまねいているわけではないという事実だ。先進国は成長しており、技術革新を経ている。そして、この経験が、途上国が学び続ける機会を作っている。

?中国の成長減速を予想する者は、1人当たりGDPを検討している。これは、各国の平均労働生産性の反映であり、それゆえに、その国の技術的・産業的進歩のレベルのあらわれだ。しかし、中国の潜在的成長力の最も分かりやすいメーターは、恣意的な閾値と比較した1人当たりGDPではなく、「中国と世界最大の経済先進国アメリカの1人当たりGDPの差異」である。そしてこの方法によると、中国にはまだたくさんの伸びしろがあることが分かる。

?日本が1972年に1万1000USドルの閾値を超えたとき、日本の1人当たりGDPはアメリカの72%だった。台湾が1992年に同じ閾値を超えたとき、台湾の1人当たりGDPはアメリカの48%だった。現在の中国はアメリカの30%にしか及ばない。

?2008年、マディソン(2010年没)が死ぬ前に最後に出した数字は、中国の1人当たりGDPがアメリカの21%というものだった。ほかの東アジア諸国の経済がアメリカと近くなった時点でどのように実行されていたかを分析してみると、私たちは中国の潜在的成長力を見積もることができる。

?アメリカに比較した日本の1人当たりGDPは1951年で21%であった。その後の20年で、年平均9.2%の成長率を見せた。シンガポールは、1967年にそのレベルに達したのちの20年で、8.6%の成長を見せた。台湾、香港、韓国に関しても、筋はだいたい同じだ。すなわち、アメリカに比較した1人当たりGDPが21%であった時点から20年の間の成長率は約8%程度だということだ。中国もまた、2018年までの間同じように成長する潜在力があると考えない理由はない。

*??*??*??*

?現在の中国経済の減速は、外部的・循環的要素に起因するものであり、所与の限界によるものではない。中国は、2008年の金融危機と輸出需要の急降下による後遺症に苦しんできた。1979年から2013年まで、輸出成長率の年平均は16.8%だったが、2014年には6.1%まで落ち込み、2015年にはさらにマイナス1.8%にまで落ち込んだ。

?この外部的障害はまだ続きそうだ。途上国の政治体制が、経済成長のために必要な構造改革を実施する努力を妨げるからだ。構造改革というのは例えば、賃金や社会給付の引き下げ、レバレッジの解消、財政赤字の連結などだ。実に、1991年に始まった日本の例のように、たくさんの先進国が失われた10年の危険を冒した。

?5カ年計画の成長目標を達成するために、中国は、投資や消費を含め、国内需要を当てにしなければならないだろう。幸いなことに、投資・消費のいずれの分野でも中国には大きな可能性がある。生産性の高い投資機会を見つけるのがしばしば困難なほかの途上国と違って、中国はインフラ、都市化、環境管理、ハイテク産業のどの分野においても向上を追求することができる。

?そして、ライバルとなる他の途上国の多くと異なり、中国にはそういった投資のための十分な財務余力、家計貯蓄、外貨準備金高がある。投資は雇用を生み、家計所得を生み、消費を生むだろう。

?結果として、外的要因が改善されないとしても、6.5%以上の年間成長を達成するという目標は中国にとっては十分に実現可能だ。この場合、中国は世界最大の経済エンジンであり続け、2020年までに少なくとも世界の成長の30%に寄与するだろう。

c Project Syndicate, 2016.
www.project-syndicate.org

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46512


 


日本のCO2削減目標は変更もあり得るパリ協定の「宿題」(1)、日本の批准は時機を見極めよ
2016年4月7日(木)馬場 未希

4月22日から、「パリ協定」への署名が始まる。世界最大の排出国中国と、2位の米国は年内の批准を決めた。日本にも批准への圧力がかかりそうだ。しかし、日本が批准するに当たっては、特に米国の大統領選の行方を見極める必要がある。この条約は参加国政府に3つの宿題を与えている。場合によっては「2030年度、26%削減」という日本の目標を見直す必要もでてくる。政府次第で、足元でも長期でも企業経営に影響が及ぶ。
 「パリ協定」への署名開始が4月22日に迫る。この日、ニューヨーク国連本部では署名式が開催される。
 パリ協定は、2015年12月にパリで開かれた「国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)」で採択された条約だ。2020年から今世後半などの長期にわたって、国際社会が地球温暖化と闘う上での基盤となる。

「米国は地球温暖化を引き起こした者として、なすべきことをする」とCOP21開幕で話した米オバマ大統領。パリ協定への早期の批准に意欲を見せる(写真:UNFCCC)
 日本がパリ協定に参加するには、署名の他に「批准(締結)」と呼ぶ手順を踏む必要がある。55カ国以上の国が批准し、同時に批准国の温室効果ガス排出量が世界全体のそれの55%を超えると、パリ協定が効力を発揮(発効)する。
 署名式には日本政府も出席を予定している。丸川珠代環境大臣は「パリ協定を早期に発効させたい」と話し、なるべく早い時期に日本として批准することに意欲を見せている。
 ただ、パリ協定が温暖化防止に真に効力を発揮するかどうかは「排出大国」が批准するかどうかにかかる。世界2位の排出国・米国は、オバマ大統領が早期の批准に意欲を見せる。3月31日、オバマ大統領は核安全保障サミットのためにワシントンを訪れた中国・習近平国家主席と会談し、温暖化対策に関する共同声明を発表。4月22日に米中両国が署名し、2016年中にも両国が批准のための手続きすることを表明した。今や世界最大の排出国である中国が、米国と足並みをそろえる。
 しかし米国は世界最大の排出国だった2001年、京都議定書の交渉から突如、離脱し、温暖化対策に後ろ向きな共和党政権時代を経た“前科”がある。今年11月の大統領選により共和党に政権が交代すれば、態度を翻して離脱を“再犯”する可能性も残る。歴史的に世界で最も温室効果ガスを排出してきた米国の参加なくして、中国やインドなど排出量の増大が顕著な国々の積極的な取り組みは期待できない。これから世界が進める温暖化対策の実効性が失われる。日本も批准に当たっては、各国の動向を見極める必要がある。
パリ協定の3つの「宿題」
 そのパリ協定は、参加国に3つの大きな「宿題」を突き付けている。1つは温室効果ガス削減目標の「再提出」。次に2050年頃を見据えた国別の「長期戦略」の策定。そして、低炭素技術を生かすための「技術移転と資金支援のリンク」である。
 1つひとつの宿題を政府がどうこなすかで、企業への影響はリスクにも、商機にも転ぶ。
 目標の再提出は、各国が2020年以降に自主的に取り組む温暖化対策を「前進」させるため。長期戦略は2050年など長期を視野に入れた温暖化防止を促すためだ。
 加えてパリ協定とその関連決定は、先進国から途上国に対する技術の移転と、資金の支援をうまく組み合わせる仕組みづくりを求めている。
 中期の目標や、長期の戦略を世界で押し進める柱となるのは、大幅な削減につながる低炭素技術を、経済成長を遂げたい途上国にまで普及(移転)させること。これまでも国連の下、技術移転の推進が検討されてきたが目覚ましい成果は上がっていない。別途、先進国が拠出する資金支援と結びつけ、効率的に移転を進める仕組み作りが急務になっている。
2020年に日本も目標再提出
 手強いのは、2020年に提出期限が迫る削減目標の再提出だ。
 パリ協定はこの年、参加国に削減目標(自ら決める貢献:NDC)の提出を求めている。米国のように2025年までの削減目標を掲げる国が、ここで新たに2030年などを期限とする目標を提出する。同時に、2030年までの削減目標を提出済みの日本や欧州連合(EU)なども目標の「更新や提出」が求められる。目標は変更しなくてもいいが、改めて提出する。変更する場合も目標引き下げは認められない。目標引き上げ、すなわち前進だけが認められる。
 国連は2018年、世界全体の削減状況を確認する「促進的対話」を実施する。国ごとに評価するわけではないが、取り組みが不十分と評価されれば国際的な圧力もかかる。加えて同じ年、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は1.5℃に気温上昇をとどめるための温室効果ガス排出シナリオに関する特別報告書を発行する。こうした一連の流れが、目標引き上げを求める世論の高まりに火を付けかねない。
 不安材料はまだある。提出期限を控えた2019年、米国はどのような2030年目標を策定するかだ。民主党大統領なら踏み込んだ削減目標も考えられるとの見方もある。日本の2030年目標と比べて差が付けば、政府も目標を点検しないままではいかなくなる。2019年にさらに高い目標を求められるリスクを念頭に置いた方がいい。
長期ビジョン巡り政府の攻防
 長期戦略も提出期限は2020年である。正しくは「長期の温室効果ガス低排出発展戦略」との名称で、国ごとに2050年を視野に対策方針を策定して、国連に提出する。
■パリ協定が分かるキーワード@

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 政府が今夏からまとめる「エネルギー・環境イノベーション戦略」。経済産業省はこの戦略を、長期戦略の中核に位置付ける考えだ。水素サプライチェーン技術や次世代蓄電池などの「有望分野」を伸ばす方針を示す。安倍晋三首相が経済成長と温暖化対策を両立させる3つの原則の第一に「イノベーション」を挙げ、特に革新的技術による解決を求めた経緯もある。「パリ協定が求める抜本的な排出削減を遂げるには、今は想定もできない、革新的な技術が鍵。現在の技術の延長線上にない研究開発の加速が中核になる」と、経産省幹部は強調する。
 だが、長期戦略は早くも難産が予想される。経産省と環境省はまたもつばぜりあいを始めた。
 環境省は2015年10月「気候変動長期戦略懇談会」を設置し、2月に委員らが提言をまとめた。提言によれば第4次環境基本計画に記載した「2050年に80%削減」の目標と2030年目標を達成すると同時に、日本の「構造的な経済的・社会的課題」を解決するという。政府は5月にも2030年目標の達成を裏付ける「地球温暖化対策計画」を閣議決定する。環境省は提言を基に長期ビジョンを構想し、計画に組み込む意欲をみせる。
 提言は、温暖化対策と経済成長を両立するため、CO2排出への価格付け(炭素価格)や、環境金融の活性化により、消費者や企業が低炭素型の製品・サービスを購入・調達する「グリーン新市場」の創出を目指すとしている。
 環境省懇談会の提言について、経産省幹部はこう話す。「2050年80%削減という目標ありきで技術と対策を積み上げようとしている。過度の省エネを社会に強いる上、産業の大幅縮小を伴う」と指摘する。2050年に1990年比で80%の削減を遂げると、国内排出量が2億5000万tにまで減るが、GDP(国内総生産)は320兆円に縮小するとの試算もある。
 長期戦略の作り方や、その中での2050年80%削減目標の位置付け次第で企業には大きな影響が及びそうだ。
 ただ、不協和音はあれどこれからの日本の取り組みの柱が、低炭素技術による貢献となるのは間違いない。
技術移転本番、インフラ作れ
 3つ目の宿題は、事情が少々複雑だ。まず、パリ協定が求める技術に関する規定を整理しよう。
 長期に及ぶテーマと、短中期のテーマがある。長期では、革新的技術の研究開発促進が肝となる。パリ協定は技術革新の必要性を強調。5月の交渉を皮切りに、革新的技術の研究開発方針(技術長期ビジョン)を各国が協力してまとめる。日本はこれに、エネルギー・環境イノベーション戦略を押し込む努力が必要だ。
■2020年までの国内外の動向見通し

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 短中期では技術革新を待たず、今利用できる最良の技術(BAT)の途上国移転の加速が求められている。
 日本政府はこれまで、2国間クレジット制度(JCM)を通じて低炭素技術の移転を国内産業の市場拡大につなげようと、2010年頃から孤軍奮闘しながら途上国のパートナーを増やしてきた経緯がある。一方、JCMの活用が国連に認められるかが不透明で、日本企業はもとより途上国も及び腰というのが実情だった。パリ協定は初めて、JCMなど市場メカニズムの活用を認めた。詳細な運用ルールの交渉も始まる。
 資金に関する規定はこうだ。2010年のカンクン合意は先進国に、途上国に対する年1000億ドルの資金支援を義務付けた。パリ協定はこの支援の2025年までの継続と、2025年以降にさらに上積みすることを求めた。日本もその一翼を担っている。
 問題は、この資金支援が、日本がJCMなどを通じて行う技術移転や、ましてや日本企業の商機拡大とは必ずしも結びついていないことだ。双方を、効果的に結びつけるインフラ作りがパリ協定の宿題になる。
 途上国への技術移転に詳しい東京大学の本部和彦客員教授は、「技術と資金の支援を効果的にリンクさせ、日本の資金を無駄に使わずに日本企業の商機拡大に生かせる道を探らなければならない」と指摘する。
 求められるのは途上国に対して日本の低炭素技術が移転される際に、必要な資金が融資されるようにすることだ。改善には、技術を開発する製造業、途上国での事業を開発する商社やプラント会社、資金融資に関わる政府系や民間の金融機関がタッグを組み、「具体的な仕組みづくりに知恵を絞る必要がある」(本部客員教授)。 具体的には、製造業が協力して効果の高い低炭素技術をコストや運転データとともにリストアップする。途上国がそこから設備を選んだら、国際協力銀行(JBIC)などによる公的融資に民間金融機関が協調して、十分な額が日本から融資されるようにする。
 日本が目指す「低炭素技術による貢献」が実のあるものになるように、政府は仕組みづくりに本腰を入れるべきだ。また、企業は今一度、低炭素技術で途上国市場を拓く機会があるか、見極める時期にきている。
■パリ協定が分かるキーワードA

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エコロジーフロント
企業の環境対応や持続的な成長のための方策、エネルギーの利用や活用についての専門誌「日経エコロジー」の編集部が最新情報を発信する。

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消費増税再延期論に沈黙する財務省

「ご説明」攻勢を封じられた最強官庁の憂鬱

2016年4月7日(木)安藤 毅

消費増税の再延期論が拡大する中、財務省お得意の根回し攻勢が鳴りを潜めている。安倍晋三首相が政権運営の選択肢を広げている背景には、「最強官庁」の影響力低下という要素も大きい。

盟友関係とはいえ、首相と財務相の立場を踏まえた思惑の違いも(写真=時事)
 2016年度予算が成立し、後半国会の焦点はTPP(環太平洋経済連携協定)の承認案と関連法案の審議などに移った。もっとも、2017年4月に予定される消費税率10%への引き上げの再延期論や7月の参院選に合わせた衆参同日選論が広がりを見せる中、与野党の関心は安倍晋三首相による消費増税の判断、同日選の是非、参院選に向けた経済対策に集中しているのが実情だ。

選択肢を広げる安倍首相

 「引き上げを延期するかどうかについては、発生した事態のもとで、専門的な見地からの分析も踏まえその時の政治判断で決定すべきだ」

 「延期をするためには法改正が必要だ。その制約要件のなかで適宜適切に判断していきたい」

 安倍首相は4月1日(日本時間2日)、訪問先のワシントンで同行記者団に消費増税再延期の可能性をにじませる一方、同日選については「(衆院の)解散の2文字は全く頭の片隅にもない」と否定して見せた。

 安倍首相の発言の意図に関し、安倍首相に近い自民党議員は「増税延期と同日選を必ずしもセットで考えているわけではないことを示し、政権運営の幅を広げる狙いがある」と話す。

 安倍首相周辺や関係者の話を総合すると、消費増税と参院選・同日選を巡り、安倍首相は複数の選択肢を視野に入れている。以下列挙してみるとーー。

@ 消費増税は予定通り、同日選は行わず
A 消費増税は予定通り、同日選を実施
B 消費増税を再延期し、同日選を実施
C 消費増税を再延期し、同日選は行わず

 安倍首相は5月末の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)前に経済対策の大枠を固める方針で、サミット前後にこれらの選択肢を中心に増税や同日選について判断する見通しだ。

 ここにきて、民進党の岡田克也代表が「増税延期なら明らかな公約違反で辞任に値する。選挙に有利だと先送りするなら政治の劣化を招く」と強く批判。経団連の榊原定征会長をはじめ、経済界からも予定通りの増税実施を求める声が相次いでいる。

 だが、安倍首相を精神的に追い込むだけのうねりになるには程遠い状況だ。

 世界経済の減速で足元の国内景気はふらついている。アベノミクスに厳しい視線が注がれる中、政権への批判が高まってもおかしくない。それなのに、安倍首相は増税再延期や同日選をちらつかせることで政権運営のフリーハンドを保ち、自らが政局をコントロールできる環境を維持しているのだ。

急低下した財務省の影響力

 野党への期待が高まっていないこともあろうが、大きな要因として挙げられるのが、財務省とその支持勢力の影響力の低下だ。

 時計の針を2014年11月の前回の「消費増税先送り・衆院解散」時に戻してみる。安倍首相が増税先送りを決める直前まで、財務省は文字通り総力を挙げて2015年10月からの消費税率10%への引き上げ実現に向けた根回し作業を展開していた。

 詳細な資料を持参しての「ご説明」の対象は自民の有力議員はもとより、民主党議員、マスコミ関係者など広範囲に及んだ。筆者レベルでも同省幹部、中堅課長からの面会要請が増え、財務省の組織力や情報収集力というものを再認識させられたものだ。

 こうして周到に形成されていった「再増税包囲網」を前に、当時の安倍首相や菅義偉官房長官は頭を抱えていた。2014年7〜9月期のGDP(国内総生産)の落ち込みが確実視される中、増税に踏み切れば景気が腰折れし、政権が掲げるデフレ脱却が夢物語に終わりかねないと危惧したためだ。

 「増税先送りを決めた途端に政局になって政権がガタガタするのを防ぐには、衆院の解散しかないと思った。解散すれば、議員は選挙の準備をするしかないから」。安倍首相は後に、親しい関係者にこう漏らしている。

 財務省とその応援団のパワーをそぐため乾坤一擲の勝負に挑んだ安倍首相。与党を圧勝に導いたことで首相官邸主導を決定づけ、財務省のパワーは大きくそがれた。

 こうした流れをさらに加速させたのが、昨年末の軽減税率導入を巡る攻防だった。すったもんだの末に自民、公明両党は飲食料品などの税率を8%に据え置くことで折り合ったが、財務省の当初案とは大きく異なる決着となった。

 納税額を厳密に把握するインボイス(税額票)の導入など財務省も「実」を取る形にはなった。とはいえ、結果として「官邸1強」と、税制の決定権限を握っていた自民の税制調査会、これを支える財務省の凋落という姿が浮き彫りになったのは紛れもない事実だ。

「今回は動くな」

 財務省にとっては、税制の主要テーマを巡ってまさかの連敗となった。その後も官邸から財務省の財政規律論へのけん制が漏れ伝わり、財務省幹部人事に対する観測記事が各種マスコミで報じられた。

 情報源は不明とはいえ、官邸が各省幹部の人事権を実質的に掌握している事実は重い。人事権を背景に主要政策や予算編成などで官邸が主導権を握る構図が一層鮮明となる中、明らかに現在の財務省の動きは鈍っている。

 「上からは、今回は動くなと言われている」。財務省の中堅幹部はこう漏らす。2014年や昨年の軽減税率を巡る論争時とは大きく異なり、増税実施に向けた自民議員などへの財務省の組織的な働きかけは事実上、封印されている。このことが、現在の安倍首相の選択肢の拡大につながっているといえる。

 とはいえ、安倍首相が増税の再延期を決断するのは容易ではない。2014年に増税延期を表明した際、安倍首相は「再び延期することはない」と断言。経済情勢次第で増税を停止できると定めた消費増税法の景気弾力条項も削除している。

 安倍首相が繰り返し語るように「世界経済の不透明さが増している」のは確かだが、世界経済の現状がリーマンショック級の「大幅な収縮」とまで言えるかについては自民内でも懐疑的な見方が根強い。増税を延期した場合、社会保障充実のための財源の手当てや財政再建への道筋も不透明になるため、公明内から懸念の声も出ている。

 官邸の判断待ちの状況にある財務省は、こうした中、官邸の意向に配慮しながら淡々と予定通りの消費増税に向けた環境整備を進めている。

 安倍首相は5日、2016年度予算を前倒しして執行するよう指示した。今後は経済対策の検討を急ぎ、切れ目のない対応で景気を下支えする考えだ。財務省内では「消費税率の引き上げが実現するなら何でもする」(幹部)との声も出ており、補正予算を秋の臨時国会と年明けの通常国会の2回に渡って編成する案や、所得税などの時限的な減税策の検討案も浮上している。

 実際に増税を先送りするかどうかはともかく、少なくともサミットと景気テコ入れをにらんだ大型の財政出動への流れが固まり、柔軟な財政運営への地ならしが進んだことは、安倍首相の思惑通りの展開と言える。

 永田町を浮足立たせ、市場の大きな関心を集めている増税延期論と同日選論。安倍首相はあらゆる要素を踏まえて判断を下す構えだが、政権内のパワーバランスの変化を反映した関係者の水面下の綱引きも一段と活発化しそうだ。

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記者の眼

日経ビジネスに在籍する30人以上の記者が、日々の取材で得た情報を基に、独自の視点で執筆するコラムです。原則平日毎日の公開になります。
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あなたの周りにも「移民」はいる

「外国人=安い」という発想を捨てよ

2016年4月6日(水)熊野 信一郎

 これまで日本で働く外国人の多くは、幅広い産業の現場で「労働集約型」の仕事を担ってきた。新興国への技術移転を目的とする「外国人技能実習生制度」が、その1つの受け皿だ。今後、本格化する移民の議論も、介護や建設などの分野で人手不足を補うことが大きなテーマとなるだろう。

 このコラムの「三菱重工の巨額特損、もう1つの理由」でも紹介したように、自動車や造船など日本が強みとしてきた製造業でも外国人への依存度は高まっている。それは何も製造現場だけの話ではない。モノづくりを支える「頭脳」も日本人だけでは回らなくなっている現実がある。

 ミャンマー出身のミャッ・ミャッ・モーさん(26)は2015年4月から愛知県豊橋市にある設計会社、豊橋設計で働いている。現在の仕事は、大手鉄鋼メーカーから受注した巨大な製鉄機械の設計。数十年は使い続ける、鉄鋼メーカーの競争力を大きく左右する極めて重要な設備だ。


豊橋設計で働くミャンマー出身のミャッ・ミャッ・モーさん(撮影:早川 俊昭、以下同じ)
 豊橋設計には、幅広い業種の大手メーカーから設計業務の依頼が舞い込む。自動車工場に導入するロボットに、大型プラントの配管、造船や製鉄所などの設備。どれも、高い品質が求められるものばかりだ。国内の生産ラインだけではなく、海外の工場に導入する設備の設計も多くある。大手メーカーは設備の企画や基本設計までは自社で手がけるが、それを詳細な図面に落としこむ作業は外部の企業に委託することが多い。豊橋設計はその担い手だ。

 一時よりも国内での設備投資が活発化してきたこの2〜3年で、こうした仕事の依頼は急増している。問題は、設計者不足だ。豊橋設計には現在、約100人の設計者がいる。これまでも毎年5人程度の新卒社員の採用を目指してきたが、「国内の採用環境は極めて厳しくなっており、我々のような中堅中小企業が優秀な人材を獲得することは極めて難しくなっている」(内山幸司社長)。機械の設計は男性の仕事というイメージが強く、女性の採用は難しい。加えて、顧客企業への派遣や出張も多いために、地元志向の強い若い世代に敬遠されがちなことも採用難に拍車をかけている。

待遇は日本人とほぼ同じ

 そこで活路を見出したのがミャンマーだ。豊橋設計はもともと、ミャンマーに現地法人を持っていた。日本で受注した業務の一部を、現地で採用、教育したエンジニアに任せている。いわゆる「オフショア開発」の拠点だ。現地には日本から派遣したマネジャーはいない。本社とミャンマー法人をインターネット回線で接続し、音声と映像で常にコミュニケーションを取りながら仕事ができる体制を構築している。


豊橋設計の本社には、ミャンマー現地法人を遠隔で管理する設備が用意されている
 昨年から、そのミャンマー法人で採用した人材に、日本で働いてもらうことを始めた。ミャッ・ミャッ・モーさんは1期生2人のうちの1人だ。製鉄機械のような大型の案件になると、複数のエンジニアがチームとなってプロジェクトを進めるため、チーム内での密なコミュニケーションが必要となる。遠隔操作ではなく、日本に常駐してもらった方が効率的であると判断した。

 内山社長は「現地法人を設立したのも、いずれ日本で働いてもらえる人材を採用し、育てるという目的があった」と話す。ミャンマーでは、大学卒業後にすぐに企業に就職することは当たり前ではない。そのため、2人程度の募集枠に対し、50人以上は応募があるという。面接時には必ず「日本で働けますか」と聞いている。遠く離れた日本で働く可能性があることを条件にしても、意欲があり、現地トップクラスの理工系大学を卒業した人材を採用できる環境にある。日本語を教育する時間は必要になるが、技術習得のスピードやモチベーションの高さなどを考えれば、将来的には貴重な戦力になってもらえると判断した。

 決して「安さ」を求めているわけではない。待遇は日本人社員とほぼ同じだ。ミャンマーでは2万円前後だった月給が、日本への転勤後はほかの社員の初任給と同じ約20万円になり、一気に10倍に跳ね上がる。自宅が遠い社員と同じように、社宅も用意している。待遇や働き方は職場のほかの社員と変わらない。

「移民」の定義は1年以上の滞在

 ミャッさんは現在、先輩社員2人と同じチームの一員として働く。オフィスでの会話は日本語で、図面に書かれているのも日本語だ。それでも、業務ではほとんど問題ないという。日本語の勉強を始めてからまだ3年程度だが、日本語能力試験で「日常的な場面で使われる日本語をある程度理解することができる」レベルとなる「N3」に合格している。

 故郷で一人暮らしをしている母親とは、楽天が買収した無料通話サービス「Viber(バイバー)」で頻繁に話をしているという。休日には新幹線に乗って京都や東京に行って友人と会うこともあり、今年の夏休みは富士山登山を計画している。冬の寒さを除けば日本での生活を楽しんでいる様子のミャッさん。「仕事で学ぶことがたくさんあるし、日本語ももっと上手になりたい。できればずっと日本で働きたい」と話す。

 国際連合の定義では、移民は「生まれた国、あるいは市民権のある国の外に移動し、1年以上滞在している人」となる。それに従えば、ミャンマーで生まれ、昨年から日本で働き始めたミャッさんは既に「移民」ということになる。日本では移民と言えば永住前提の外国出身の人を想起しがちだが、一般的にはよりよい仕事や生活を求めて国境を越えて移動する人たちのことを指す。日本企業の日本人社員でも、1年以上の海外駐在経験があれば「元移民」。そう考えれば、日本でも多くの企業の現場や取引先に、既に移民が存在することになる。


次に来日して働く人材向けの研修も開始している
 豊橋設計では、ミャンマーで採用した人材に来日してもらい、継続的に働いてもらう取り組みをさらに拡大する予定だ。候補となる人材をまず3カ月程度の研修として本社に呼び、技術を覚えるのと同時に日本での生活に慣れてもらうための機会も設けている。もちろん、こうしたすべての人材が長期的に日本で働き続けるとは限らない。日本で経験を積んだ後にミャンマーに戻り、現地法人でのリーダー役となるといったケースも想定している。

 日経ビジネス4月4日号の特集「移民ノミクス」では、技能実習生のように外国人を「安く雇える労働者」と見なす対応は限界に近づいていると指摘した。新興国と日本の賃金水準の格差はこれからも縮まるだろう。また、日本と同じように出生率の低下に悩む国が多いアジアでは、優秀な人材の獲得競争が始まっている。

 2016年、100万人の大台に達すると見られる外国人労働者は、いつまでも「勝手に来てくれる存在」ではない。日本企業にも、より戦略的に海外の人材を確保し、必要に応じて教育しながら組織の中に受け入れる取り組みが欠かせなくなってくるだろう。

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移民ノミクス

人口減少が進む中、日本でも移民の受け入れを巡る議論が本格化する。多様性を生かして新たな付加価値を作り出す成長戦略「移民ノミクス」こそが企業や地方に求められている。


「移民ノミクス」
上場企業の元社長「それでも移民に反対!」

『移民不要論』の著者、佐伯弘文氏に聞く

2016年4月7日(木)宗像 誠之

 日経ビジネス4月4日号の特集「移民ノミクス」では、多様性を成長の力とするためにも、企業は前向きに外国人を受け入れるべきだと提言した。人口減少が進む中、経団連を中心に産業界でも多くの企業のトップが移民政策の必要性に言及している。
 そんな中、「それでも私は移民に反対」と声高に主張する、上場企業の元経営者がいる。それが、半導体の搬送機器などを手がけるシンフォニアテクノロジー(旧神鋼電機)で社長や会長を務めた佐伯弘文氏だ。独自に移民問題の研究を続け、2010年に『移民不要論』という書籍を発刊した同氏に、移民反対を主張し続ける理由を聞いた。

佐伯弘文(さえき・ひろぶみ)氏
1939年兵庫県生まれ。1962年に東京外国語大学英米科卒業し、日本ガイシに入社。1964年に神戸製鋼所入社。専務取締役 を経て2000年、神鋼電機(現シンフォニアテクノロジー) の社長に就任。会長を経て2009年から相談役。2011年に相談役を退任。

佐伯弘文氏の著作『移民不要論』(産経新聞出版)
2010年に『移民不要論』という書籍を出版するなど、日本で移民を増やすことに反対し続けています。

佐伯弘文氏(以下、佐伯):自分は海外駐在の経験が長く、海外の知人が多い。2008年ごろから、欧州の友人に会うたびに「日本は絶対に移民の受け入れをしない方がいい。欧州の失敗に学ぶべきだ」と助言される機会が増えた。

 それをきっかけに自分なりに移民の弊害について研究し始めた。これが、移民問題の本を執筆した経緯だ。経営者がこういう本を書いたもんだから、移民賛成派が多い経済界には衝撃が走ったようだ。

治安の良さを大事にすべき

 私が言いたいのは、日本の治安の良さという資産は、カネには替えられない大変な価値ということだ。夜中でも女性が一人で歩けるような安全な国が、日本以外にどこにあるのか。この治安の良さと民度の高さは大事にするべきだ。

 だからこそ、労働力や経済規模を維持する対価として、この安全性を失うのは大きな社会的損失だと思っているわけだ。経済的観点だけで、移民政策の是非を判断すべきではない。日本の経済界は、移民政策を経済的な観点からしか考えてないから問題がある。

欧州の知人からは具体的に、どのような警鐘があったのでしょうか。

佐伯:端的に言うと、「移民が入って来たら治安は悪くなる」に尽きる。移民を受け入れ始めた欧州各国では、移民が一部地域にまとまって住むようになっている。既存のコミュニティーと融合できずに町の中に治安の悪いエリアが生まれてしまったんだ。これは大変な社会的損失だよ。

 なぜ、移民がまとまった地域に住むようになってしまうのか。それは、どうしても移民が差別されてしまうからだ。欧州の多くの街では、移民が多いエリアは結果的に、犯罪率が高くなっているという現実がある。

 安易に移民を受け入れて、日本全国にそんな場所がいくつもある状態になってしまっていいのだろうか、と思うよね。

 日本の場合、さらに問題が大きいと思うのは、文化が独特だからだ。近隣諸国からは戦後、移民が日本に入ってきているが、同じ民族同士で固まってコミュニティーを作っている。やはり、近隣の国同士とはいえ文化や考え方が大きく異なるから、うまく既存の日本人住人と融和できているとは言い難い。

人口減少にはメリットもある

佐伯:どことは言わないが、移民が数多く入居している集合住宅では様々な問題が起こっていて、周辺住民の苦情が絶えない状況だ。具体的には、ゴミの分別をやらなかったり、夜中に大勢で騒いでうるさかったり。3階からモノを捨てて困る、なんていうクレームもあると聞いている。


シンフォニアテクノロジー(旧神鋼電機)の元社長、佐伯弘文氏
 こういう行為は、ルールを守るのが当たり前の文化である日本人からすると理解できないものばかりだ。日本が独特な文化圏にあるということも含め、この国は移民政策に対して特に慎重であるべきだと思う。うまく日本人と移民が融合するとは、とても思えない。

とはいえ、日本の人口は足元で減少しており、今後も減少が続くことが予想されています。日本人の出生率を上げる施策も重要ですが、移民の受け入れも人口問題の解決策の一つとして考えるべきなのではないですか。

佐伯:人口減少を過度に恐れる必要はない。労働力不足や国内市場規模の縮小などデメリットばかりが強調されているが、人口減少にはメリットもあるだろう。

 例えば、今の日本は人口密度が高く、多額のローンを組んでも狭くて小さな家にしか住めない。予算の問題で会社から遠い場所にしか家を買えなかった人は、通勤時間が1時間半とか2時間とか、やたらと長い人も少なくない。

 マンションがどんどんできているエリアの地下鉄の駅では、朝晩の通勤時間帯に、入り口や階段が混雑しすぎて駅になかなか入れないという、おかしな現象も起こっている。これらは、人口が多すぎる弊害だよ。こんな生活しか送れないほど混雑しているというのは、本来はおかしいんだ。

 人口が適度に減ることで、こうした住環境やインフラの問題が改善されて、豊かでゆとりのある社会になる可能性もある。実際に、デンマークやノルウェーなど北欧の国々は、日本よりずっと人口が少ないのに、豊かな生活が成り立っているじゃないか。

日本の人口は、どのくらいが適切だと考えますか。

佐伯:国土の狭い日本では、人口6000万〜7000万人程度が妥当な水準ではないか。そのくらいになれば住環境などの厳しさが緩和されるはず。会社に近くて大きな家に、従来より安く住めるようになれば、子供を2人以上生むゆとりも生まれるはず。金銭的にも精神的にも、生活にゆとりが出てくることで、出生率は自然に上がる可能性が出てくる。

 そうなればいずれは、日本における人口減少のペースが緩やかになったり、自然に人口が下げ止まったりする可能性も否定はできないだろう。

人口減少で国内の消費が減り、日本の経済規模が減少し続けると、日本人の生活水準も下がってしまうかもしれません。

佐伯:人口減少を乗り切る手立ては、移民だけではないだろう。安易に移民に頼る前に、女性や65歳以上のシニアをもっと活用など、やるべきことがあるはずだ。

 手っ取り早いのはシニアの定年をもっと延長することだ。今のシニアはみんな元気なんだから、60歳から65歳に定年を伸ばすくらいでは、まだ不十分。元気な人は、定年を75歳にして、働きたいだけ働いてもらえばいいではないか。

 あとはロボットの進化による生産性向上も、労働力不足の解消に寄与するだろう。人口減少の問題を緩和する方法はほかにもいろいろあるのに、デメリットが多い移民受け入れを、それほど優先して実行する必要があるのだろうか。

人口が減るだけでなく、若者が減り高齢者比率が上昇していくのも問題ではないでしょうか。一般的に人間は、歳をとると保守的になっていきます。新しいことに挑戦する意欲的な若者の人口が減ることは、社会の活力がなくなり、新しいものが生まれにくくなるという指摘もあります。

佐伯:シニアになっても、新しいことに挑戦し続ける人はいる。実際に、日本企業でも、60歳以上の創業者社長は何人かいるし、彼らの発想や行動力は、若い人に決して負けてないよ。

 しかも、このままAI(人工知能)が進化していけば、斬新な発明はAIがやったり、AIが新しいことを創造するようになる世界が来るかもしれない。

 もっと現実的な話をすれば、近年は外国人観光客が増えて日本も観光立国としてやっていける可能性が出てきた。外国人に旅行してもらい一定の滞在期間中に、日本でたくさん消費をしてもらう発想も重要になるだろう。

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移民ノミクス

人口減少が進む中、日本でも移民の受け入れを巡る議論が本格化する。多様性を生かして新たな付加価値を作り出す成長戦略「移民ノミクス」こそが企業や地方に求められている。
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