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こんな面白い内幕、見たことない!『住友銀行秘史』私はこう読んだ 10万部突破!日本中の銀行員が熟読
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50057
2016.10.28 週刊現代 :現代ビジネス
カリスマと呼ばれた経営者が右往左往したり、保身に走る専務や常務が人事抗争に明け暮れたり……。巨大銀行の役員のリアルを描いた衝撃作からは、すべての組織人が学べる教訓がいくつも見つかる。
■「最大の謎」が解けた
「まさかあの内部告発文書を國重氏が書いたとは、本当に驚きました」
まず、評論家の佐高信氏が言う。
「イトマン事件当時、あの内部告発文書は事件の内情を最も詳しく明かしている資料として、記者やマスコミの人間にとって必読書のようになっていたものです。私もどうにか手に入れようと方々に当たって、コピーにコピーを重ねたものを入手したのを思い出します。
当然、その告発者については様々に噂が出回りましたが、当時まだ40代だった國重氏だという話は聞こえてこなかった。それが今回明かされてびっくりしたし、その当事者が事件のすべてを明かしたのだから、強烈なインパクトがあります」
戦後最大の経済事件・イトマン事件の裏でなにが起きていたのか。その内幕を赤裸々に明かした問題作『住友銀行秘史』(講談社)がいま、日本全国でバカ売れしている。
著者は、イトマン事件の舞台となった住友銀行でかつて取締役を務めた國重惇史氏。
暴力団、地上げ屋などの闇の勢力によって巨大銀行が喰いものにされるという前代未聞の事件の最中、國重氏はうろたえる当時の住銀幹部たちがなにを話し、どう立ち振る舞ったのかを手帳に記録。本書ではその手帳の記述をもとに、イトマン事件の真実が明かされると同時に、國重氏が事件の「内部告発者」であったことが告白されている。
そんな衝撃作だけに、たちまち10万部を突破する大ベストセラーになったわけだが、ノンフィクション作家の森功氏は、國重氏の内部告発文書が果たした「役割」について次のように指摘する。
「当時、住銀会長だった磯田一郎氏はイトマンを事件化することだけは避けようと、イトマンに常務として入り込んでいた伊藤寿永光氏を、カネを払ってでも退陣させて事を収めようとしていました。
しかし、イトマンを喰いつくそうとする伊藤氏を簡単に解任することはできず、てこずった。その間に内部告発書などで内部情報が流出していき、住銀内では問題を先送りする磯田氏への反発の流れができ、磯田氏は身動きが取りづらくなっていくのです。
そんな反磯田の動きが決定的になったのは、イトマンと磯田氏の娘婿の会社の不明朗取引問題などを暴いた内部告発書が出て、メディアで報じられたことにあった。本書では、まさにその核心的な告発文を書いたのが國重氏だったことが明かされている」
■「天皇・磯田」の実像
森氏の言う通り、本書の主役の一人は、住銀会長を務めていた磯田一郎氏である。
磯田氏は京都大学卒の1935年入行。「住銀の天皇」と呼ばれる実力者で、財界で一目置かれるカリスマバンカーだが、本書ではその「ありのままの姿」が描かれていることで、関係者たちに驚きを与えている。
〈 磯田会長の機嫌がめちゃくちゃ悪い。明日まで大阪の予定が、急に夜の予定をキャンセルして帰京。午前中の経営会議も欠席。月曜の午前、佐藤正忠氏と会うことになった。伊東秘書室長の話では、めっきりやつれた、と 〉
〈 今朝、磯田会長は佐藤正忠氏に会った。9時00分~9時15分。その後、アサヒビールの樋口廣太郎社長と一日5回も電話で長話。きっと、もみ消し工作をしているのだろう 〉
たとえばこれは、日本経済新聞がイトマン事件のスクープ記事を報じた直後の磯田氏の様子を記したもの。佐藤正忠氏は雑誌『経済界』の主幹で、のちにイトマンの河村良彦社長から2億円もらってちょうちん記事を書いたことを明かした人物。磯田氏がそんな人物に「もみ消し工作」を依頼していたとは、まさに知られざる「苦悩」がうかがえる一幕ともいえる。
元日本経済新聞経済部次長で、現在は『ニュースソクラ』編集長の土屋直也氏は言う。
「私は日経時代、都内にあった磯田氏の頭取公邸に取材に行ったことがありますが、駆け出しだった私にも丁寧に対応してくれました。人心掌握に長けた好々爺という風情でしたが、そんな磯田氏がイトマン事件の渦中にあってはここまで右往左往していたとは知りませんでした。
本書では、磯田氏がイトマン問題について知った当初、『自分がやるしかない』と語っているシーンが出てきます。しかし、その威勢の良さはだんだんと消えていき、その後は右へ左へとブレていく様がよくわかる。
磯田氏は副頭取時代に、中堅商社・安宅産業の処理で手腕を発揮したことで一気に頭取候補に浮上し、そこから剛腕と称される経営者になります。そんなカリスマであっても闇の勢力につけこまれるとかくも判断が鈍っていくものなのかと思うと、考えさせられるものがある」
前出の佐高氏も言う。
「当時の磯田氏の権勢は絶対的で、私が磯田批判の記事を書こうとした際には連日のように広報担当の役員が止めに入ろうと必死になっていた。『そんなに磯田が怖いのか』と思ったものです。当時の磯田氏は住銀の年上のOBを『君付け』で呼ぶなど、絶対権力者として振る舞うようになり、それを苦々しく見るOBも少なくなかった。
しかし、本書を読んでわかるのは、そんな磯田氏も所詮は張子の虎だったということです。結局は磯田氏を恐れていたのは住銀内部の人間たちだけであり、その権勢は周りの『社畜』によって作られていたに過ぎなかった。だからこそ、本当の危機に直面した時、この巨大組織はなにも対処できなかった」
■闇の勢力とズブズブ
当時、銀行内では問題を先送りにしようとする磯田会長、西貞三郎副頭取らの一派と、いち早く膿を出し切ろうとする玉井英二副頭取、松下武義常務らの一派が対立。そこに住銀内部の人事抗争が絡み合い、壮絶な行内闘争が繰り広げられていた。その内実についても本書は詳述している。
〈 午後、玉井副頭取が秋津専務の部屋に入って長いこと話をしていた。玉井副頭取から秋津専務の部屋に行くことは異例。昨日の経営会議で秋津専務が筋の通った話をしたので、玉井副頭取が近寄った可能性あり 〉
〈 本日午後、秋津専務の部屋にいたら電話があり、席を外した。秘書室で待機していたら、秋津専務と西副頭取の電話が同時に終わった。西副頭取が秋津専務に館内から電話してきたようだ。西副頭取の多数派工作だろう 〉
住銀内部では経済小説さながらのこんな「陣取り合戦」が毎日のように行われていたというが、第一勧銀出身で作家の江上剛氏は、「住銀役員の人事にかける異常な情熱に驚きました」と言う。
「たとえば磯田氏が浅草の三社祭に行く際、一派の役員がついていくという話が出てきますが、他の銀行ではこんなことはありえません。第一勧銀では上役や役員に年賀状一つ出してはいけなかったし、社内でのお中元、お歳暮のやり取りも全面禁止。それを住銀幹部たちはイトマン事件の真っ最中にでさえ、自分の地位のことばかりを考えて行動しているのだから、その人事にかける情熱には凄みさえ感じました。
また、松下常務が辞令が出ているのに拒否するという場面が出てきますが、これも本来は会社員としてありえない。会長や頭取から『関連会社に行け』と言われたら、『はい、わかりました』で終わり。
松下氏、玉井氏らは当時から有名なバンカーでしたが、あれだけ派閥を作って、磯田一派との派閥抗争でくんずほぐれつ暗闘していたというのは、その度胸に感嘆します。そんな人物がゴロゴロいた住友銀行というのは本当に恐ろしい銀行だったのだな、と改めて感じ入りました」
そんな住銀の幹部たちと、「地上げ屋、株屋などの闇の勢力との関係が詳細に描かれていたのが興味深い」と語るのは、イトマン事件の内情に詳しいジャーナリストの伊藤博敏氏だ。
「現在は暴排条例によって企業担当者がブラックのみならずグレーな人物とも付き合いを持てない時代になってきましたが、バブル当時はどの銀行も多かれ少なかれブラック筋と付き合っていました。証券会社に至っては、暴力団に口座を開かせて、大儲けさせて利益供与までしていた。本書ではそうした闇の勢力と銀行とのズブズブの関係が詳細に明かされている。
と同時に、ブラック筋に狙い撃ちにされたときにエリートバンカーたちがいかに非力かということもまざまざと見せつけられます。バブル当時の銀行員の実態がここまで赤裸々に描かれたものはないでしょう」
実際、イトマン問題の解決に向けて奔走する松下常務については、〈松下はヤクザに、指の2~3本は折られるかもしれない〉と脅迫まがいの会話が交わされる場面が出てくる。
また、情報収集に走る國重氏に対し、〈気を付けろ。許永中に情報が筒抜けだ〉〈巽頭取は、國重にくれぐれも身辺を注意するように〉と警告が発せられるシーンもある。
一方で、事件の渦中にあっても、伊藤寿永光氏と近い一部の幹部たちはイトマンへの貸し出しを増やそうと平然と語っている様も描かれている。
■エリートの限界
前出・江上氏は言う。
「いくらバブル期とはいえ、住銀の役員たちがあれだけ闇の世界と接点を持ち、そのことを当然の如く振る舞っているのは驚きです。逆に言えば、住銀には清濁併せ呑む人材が多くいたからこそ、当時は向こう傷を問わない積極営業をできたし、それが三菱、富士など他の銀行を圧倒できた原動力になったのでしょう。
本書に出てくる、後に逮捕されることになるYという支店長にしても、当時は優秀な銀行マンと持て囃されていて、銀行員相手に講演していた。私も銀行員時代、彼の講演テープを聞かされたことがあります」
國重氏は内部告発書で磯田辞任に追い込むだけではなく、その後も河村解任に向けて「Zデー作戦」なるものを考案し、イトマン内部でクーデター計画を実行していたことも明かしている。
事件は最終的に河村、許、伊藤各氏の逮捕で終結するが、「当時は、元広島高検検事長で住銀顧問弁護士だった小嶌信勝氏が大阪地検に乗り込み、事実上の特捜部長のように捜査を陣頭指揮した」(前出・森氏)。実は國重氏はその小嶌弁護士とも直接やり取りをしており、逮捕劇の直前には次のようなメモを残している
〈 小嶌弁護士情報。地検は一生懸命やっている。河村社長を捕まえることを最重点にしている。最初は河村社長まで手を付けないつもりだったが、上(検事正)から、「それではサマにならない」と言われて、動き出した 〉
つまるところ本書は、事件の幕開けから幕引きまですべてにわたり、中枢で暗闘した國重氏の「闘争録」なのである。
作家の楡周平氏は言う。
「この本がなにより衝撃的なのは、銀行員や官僚といった優秀なエリートたちがいかに脆弱な存在であるかを如実に示したことでしょう。私はイトマン事件をモデルにした小説を書く際に取材しましたが、伊藤寿永光氏、許永中氏は超有能なモンスターです。エリートバンカーや大蔵官僚がいくら束になっても絶対に叶わない。
そんなカネ儲けのための嗅覚に長け、手段を選ばない怪物たちに目をつけられたら最後、巨大組織ですら容易に瓦解してしまう。それは銀行に限った話ではなく、日本企業全体の問題なのだということを感じざるを得ませんでした」
前出・土屋氏も言う。
「この本のポイントは、事件当時に40代の中堅エリートだった國重氏が会社を動かしたという事実だと思います。ここ最近、問題が明るみに出た東芝、オリンパスなどのケースでも、実は中堅エリートによる内部告発が突破口になっている。
往々にして巨大企業の50~60代の役員は、トップに逆らわずに大過なく過ごそうと考える人が多い。一方で、会社の将来を真に憂い、大胆な改革に動くのはいつも中堅。國重氏の暗闘は、真のエリートがプライドをかけてやった仕事なのだと感じました」
たった一人で闘った男の秘史は、本物のバンカーとは、本物のエリートとは何かを、多くのビジネスマンに教えてくれる。
「週刊現代」2016年10月29日号より
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