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NY州大学でおこなわれた2016年米大統領選挙 第1回討論会(写真=代表撮影/ロイター/アフロ)
ヒラリーか、トランプか? アメリカ大統領選「第3の選択肢」まで浮上
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20161007-00020313-president-bus_all
プレジデント 10月7日(金)6時15分配信
ヒラリーか、トランプか? アメリカ大統領選挙が混沌としている。民主党、共和党の両党とも支持者の意見が割れていて、大統領候補のヒラリー氏、トランプ氏も決め手を欠き、両者のデットヒートが続いている。「お金の流れで世界を見抜け」が副題の近著『政府はもう嘘をつけない』の著者で、国際ジャーナリストの堤未果さんに、アメリカで今、何かが起きているかを聞いた。
NY州大学でおこなわれた2016年米大統領選挙 第1回討論会(写真=代表撮影/ロイター/アフロ)
■未曽有の大統領選が二大政党制をぶっ壊す!?
アメリカの大統領選が複雑な様相を示している。通常であれば、この時期には民主党と共和党で大統領候補の支持がはっきり分かれているはずだ。民主党と共和党との間で、揚げ足取り合戦やネガティブキャンペーンなどがあり、国民はそのどちらかにつく状態になる。ところが今回は、民主党・共和党の両党内部で支持者の意見が割れている。これは二大政党制という従来の仕組みがもはや幻想だということに多くの国民が気づき始めたことに他ならない。
そしてそれ以外の国民は、二大政党もダメだが、共和党政権になるくらいなら民主党、民主党政権になるくらいなら共和党の方がましという狭められた選択肢の中でのジレンマを抱えている。今までのような、民主党と共和党の一騎打ちのスポーツのような分かりやすい構図ではない、異例の大統領選となっているのだ。
従来の共和党は小さな政府を志向し大企業寄りと言われていたが、共和党候補のドナルド・トランプ氏はまったく立場を異にする。そもそも既存の共和党員ではなく、その発言は共和党の主張とは異なるものが多い。共和党のエスタブリッシュメントたちは、トランプ氏が大統領になると共和党のイメージが壊れる上に、下手をすれば党の存続すら危ういと考えている。ネオコンはヒラリー支持だ。
トランプ氏の政策は、国内雇用を増やすことを最重視している。NAFTAを前例としてあげ、国家に税収をもたらさないグローバル企業と銀行だけが儲かり国内格差を拡大する自由貿易ではなく、年金・医療・教育などを強化し、国内への投資を最優先すべきだとしている。自由貿易を推進する上位1%の超富裕層から献金を受け取らない自分だけが、それを実現できるというトランプ氏に、NAFTA以降悪化を続ける実体経済の中で疲弊している国民が期待をかけているのだ。
一方の民主党の支持者もジレンマを抱えている。元ファーストレディ・国務長官として抜群の知名度を持つヒラリー・クリントン氏と候補者指名を争ったバーニー・サンダースの存在だ。弱者の味方として支持を集めていたサンダース氏を応援していた「金権政治にメスを入れたい」有権者は、指名されたからと言って1%の紐付きであるヒラリー氏を支持できない。ならば共和党のトランプ氏にというわけにもいかない。
民主党が指名した候補者を支持しない民主党員がこれだけ出てくる状況もまた、前代未聞だと言われている。二大政党以外の大統領を求める声も拡大している。ウォールストリート・ジャーナル紙が行った世論調査では、リバタリアン党で元ニューメキシコ州知事のゲイリー・ジョンソン候補が10%、緑の党で医師のジル・スタイン候補が5%の支持をそれぞれ得ているという。
さらにウィキリークスが、ヒラリー側のスキャンダルを投票月の直前の 10月に「オクトーバー・サプライズ」として公表する予告をしているのも興味深い。エクアドル政府を通して何らかの圧力がかかれば公表は断念されるだろうが、万が一これが現実になれば、ヒラリー陣営は重大なダメージを受けることになるだろう。
■民主党でも共和党でもない「第3の選択肢」
では、現在、アメリカで何が起こっているのか。
誰もがアメリカンドリームを手にする機会があったはずのアメリカが、国家としての力を失い、超富裕層だけが潤う「株式会社アメリカ」と化して「今だけカネだけ自分だけ」という強欲資本主義の価値観が蔓延している。銀行や多国籍企業だけが儲かり、その儲けは全部タックスヘイブンに行ってしまう。国内インフラは疲弊し、社会保障はカットされ、教育も医療も上がる中で中間層はますます増税される。グローバル企業にとっての公共事業と言われる戦争は終わる気配を見せず、サブプライムローンに続く車のローンは破綻寸前のカウントダウン真っ最中だ。
共和党のブッシュ政権後、民主党のオバマ政権に望みをかけたがチェンジは起きず、失望した国民の多くが徐々に、アメリカの抱える真の病理が個々の政策ではなく、それを束ね飲み込んでいく「政治とカネ」という構造そのものにあることに気づき始めているのだ。
1%から巨額の資金でバックアップされているヒラリーが大統領になれば、これまでと同じ方向性が想定されることは明白だ。クリントン夫妻の財団が国内外の軍需産業から多額の資金援助を受けていたという疑惑を受けて、白人の中流以下の女性の多くは反ヒラリーの姿勢をとっている。「もう戦争はごめんだ。そろそろ国内を立て直してほしい」という女性の声が、初の女性大統領としてのヒラリーではなくトランプ候補を後押しする要因になっているのはある種の皮肉と言えるだろう。
また、TPPについても、かつてNAFTAで痛い目にあったアメリカの労働者の多くははっきりと反対している。NAFTAやTPPのような自由貿易条約にはっきりと反対を訴えるトランプ氏が労働者人口の多い中西部の激戦州の支持を得れば勝利する可能性が高いのはそのためだ。アメリカ政府を代理人とする巨大資本や金融業界と、製造業を中心としたアメリカ国民一般中流層の立場が対極にある現実を見誤ってはならない。そしてそれは欧州でCETAやTTIPに反対する国民の声と重なり、国境を越えた大きなうねりとなっているのだ。
今世界で起きている新しい流れとその動きを見てみると、2016年のアメリカ大統領選は、各国のルールや多様性を撤廃し、最も効率のよい世界統一市場を目指す1%層と、国家や共同体や多様性というものの存在意義を立て直そうとする市民とのせめぎ合いにおける、一つの象徴に他ならないことがわかるだろう。
ここにきて第3の選択肢がアメリカ国内でささやかれている。11月の選挙直前にアメリカ国内である種の非常事態が発生し、オバマ大統領が続投するという「プランC」だ。
アメリカの大統領は非常事態には自身に巨大な権限を付与する大統領令を行使することができる。リーマンショックを超えるような金融危機や、当局が制圧に乗り出さねばならないほど大規模なテロや暴動が起きれば、大統領選は吹き飛んでしまう。
最近、アメリカで警察官が黒人を射殺する事件が増えている。
日本に入ってくる報道では「人種問題の切り口」でしか取り上げていないが、果たして本当にそうだろうか。現場の声や資金の流れを注意深く見てみると、別の構図が見えてくる。
国防総省が戦場で使う武器を各自治体に払い下げておりそれらが市民に対して使用されている事実や、大統領が米軍の国内配置のみならず国連軍の本土配置までも可能にした今、当局は国内で何かが起こることを、十分想定しているのだろう。
さらに別方面からの緊急事態も警戒されている。ドイツ銀行や債券市場の危機、9.11の遺族がサウジアラビア政府に損害賠償を行える「サウジ法」が米国議会で成立した事を受けたサウジ政府が米国債売却や同盟関係見直しに言及している事実など、周辺国との火種も少なくない。
どの国でもそうだが、深刻な事態が水面下で起きている時ほど情報は統制されてゆく。それほど今のアメリカの状況は切羽詰まっているのだ。
■日本人はどう対応したらいいか
アメリカの次期大統領が誰になるかで、世界が大きく変わる。特に日本は金融や貿易、軍事面で最も大きな影響を受ける国だけに、私たちは2016年のアメリカ大統領選挙をしっかりと注視する必要がある。候補者個人や表面的な事象ではなく、それが出てきた背景とその本質を分析することで、私たちの国、日本の次の航路も明確に見えてくるからだ。
秋の臨時国会の優先事項はTPP、安保法制関連、移民政策の3つだと言われているが、現状を見る限り、日本はヒラリー政権を前提に話が進んでいると思われる。
しかし、トランプ氏が大統領になった場合を想定すると、日本を変革する起爆剤になるだろう。国防について根底から考え直すことが迫られ、TPPは仕切り直しとなり、参加を掲げてきた安倍政権ははしごを外される形になる。これは見方を変えると、どこを守り、どこを改革していくべきか、交通整理をして国益を最大化するチャンスが与えられるということだ。外部からのショック療法のようだが、新しい未来をつくっていくチャンスが来たと捉えることもできる。どう活かすかは私たち次第なのだ。
リーマンショックで本当に守るべきものに気づき目が覚めたのアイスランドの例が参考になるだろう。あれほど小さい国が、自ら取捨選択して国をつくり直した。日本は「政府・マスコミを鵜呑みにするランキング」で世界トップだが、こんな時代だからこそ情報を取捨選択し、自分の頭で考え意志を持つことが何より重要になってくる。今まではアメリカの顔色をうかがい、なかなか思い切った改革ができなかったが、今のように世界全体が同時カオス状態になる時こそ、自分の国の幸福と安全を100年単位で考え、思い切った手が打てるのではないか。
アメリカの大統領選が3つのうちどの結果になったとしても、日本人は恐れることなどない。この国には守るべき宝がたくさんあるからだ。大きく世界が変わる時は、どの国も試される。むしろ平時には気づかなかった自国の素晴らしさが見えてきて、必要なものとそうでないものがクリアになるだろう。
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国際ジャーナリスト 堤未果(つつみ・みか)
東京生まれ。NY市立大学大学院国際関係論学科修士号取得。国連、アムネスティ・インターナショナルNY支局員、米国野村証券を経て現職。日米を行き来し、各種メディアで発言、執筆・講演活動を続ける。『報道が教えてくれないアメリカ弱者革命』で日本ジャーナリスト会議黒田清新人賞、『貧困大国アメリカ』(3部作、岩波新書)で日本エッセイストクラブ賞、新書大賞受賞。多数の著書は海外でも翻訳されている。近著に『政府はもう嘘をつけない』(2部作、角川新書)がある。
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