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改憲問題「個人の権利」がアブない! 自民党草案に「公共の福祉」を激変させる一言があった
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48614
2016年05月14日(土) 堀川惠子 現代ビジネス
■沖縄基地移設問題での詭弁
最近、日本国憲法第一三条が気になっている。「すべて国民は、個人として尊重される」で始まる有名な条文。戦後世代が読めば、何を当たり前のことをわざわざ憲法に、と思うだろう。かつての私もそうだった。すべて国民は個人として尊重されなかった歴史が、そう遠くない場所にあったことを知るまでは。
翁長雄志著『戦う民意』は沖縄の基地問題をテーマに、国家に対する個(県民)の尊厳はどうあるべきかを深く考えさせられる1冊だ。自民党出身の翁長氏が、保守も革新もないオール沖縄を掲げて知事に就任した経緯は記憶に新しい。
国土面積の0.6%に過ぎぬ沖縄には、73.8%の基地が集中する。政府は普天間基地の移設等により「沖縄の負担を軽減する」との一点張りだ。確かに今後、5つの基地の返還が予定されている。
ところが全ての基地の返還が実現しても、その面積は0.7%しか減らない、つまりほとんど変わらない。
老朽化した基地が沖縄県内に新設され、より長期に固定化される構図を「負担軽減」とすり替えるのは政府の「ウソ」と知事は憤る。
「日米安保体制の名のもとに、自由、人権、平等という価値を守る民主主義国家にあるまじき現実が沖縄で繰り広げられて」いる現在。お国のために犠牲は甘受せよとのごとき政府の主張は、本質的に戦時中のそれと変わりないように見える。
選挙によって沖縄の意志が明確に示されて以降も、政府の姿勢は全く変わらない。同じ構図は福島にも見えると知事は言う。万という単位の国民が故郷を追われ、定住する場も持てず、原発事故の原因はいまだ定かでない。なのに国益の一点で原発は再稼働。
「民主主義の蹂躙に対してもの申す人が、現在の政府、与党にはいなくなってしまいました。だからこそ、全国の都道府県でも沖縄と同じような状況が起こっても何も不思議はありません」という指摘は重い。
■どんなに美しい憲法であっても
先に引いた憲法一三条。国民に与えられた権利には条件がある。「公共の福祉に反しない限り」という文言だ。公共の福祉とは何か。戦後、広く共有されてきた解釈は「他者の権利」である。
たとえばヘイトスピーチをする自由と、それによって誰かの尊厳が傷つけられる場合、前者は制限される。公共の福祉=国益ではない。憲法は権力を縛るためのものなのだから当然のことだ。
井上卓弥著『満洲難民』は、戦場において個人の尊厳が国家により露骨に奪われた過去を浮き彫りにする。8月9日のソ連侵攻を前に軍は早々と退却、取り残された日本人居留民の悲愴な歴史は様々な形で伝えられてきた。本書は、官吏の家族を中心とした逃避行の様子を記した貴重な一次資料を元に著されている。
満州から北朝鮮に逃れた開拓民は38度線前の郭山で足止めを食らう。第二次大戦が生んだ境界線を挟み、悲劇は生まれた。体力のない幼児から次々に亡くなり、女性はソ連兵の凌辱に晒される。
同じ避難民の中にも一口の握り飯を巡って争いが起き、持てる者と持たざる者の差異が顕わになる。みな自分が生きるだけで精一杯。戦場において個人の尊厳など絵空事だ。
さらに本書は、当時の日本政府が終戦前、中国への賠償の一部に、自らが送り出した在留民間人たちを労働力として提供する可能性まで検討していたと書く。
著者はこの棄民政策が、満州からの引き揚げに伴って約30万もの死者を出す元凶となったのは間違いないと述べている。
どんな美しい憲法を持っていても、いざ戦争になれば同じ風景は再生産されるだろう。戦争へと向かう動きに身を挺して抗わねばならない所以はそこにある。
藤野裕子著『都市と暴動の民衆史』は、暴動に於ける民衆蜂起の論理を研究している。中でも関東大震災後の朝鮮人虐殺事件の分析は秀逸だ。著者は、これまで埋もれていた膨大な刑事裁判記録を掘り起した。
それによると、まず朝鮮人に関するデマが流れる。それに官憲が信憑性を付与し、さらに軍という「公権力による虐殺」がデマに真実味をもたらし、民衆による虐殺の連鎖へと繋がる。そして朝鮮人からの報復を恐れ更なる虐殺が続く。
南綾瀬村(現・足立区)での市民による虐殺には三つの自警団が関与した。その一つは「義侠心」が動機だったという。日本人の避難民には率先して食糧や水を分けて弱きを助く一方で、朝鮮人を次々に襲撃。日本人を守るために立ち上がった勇者たちは、他者の生きる権利を踏みにじる虐殺者だった。
今の御時世、この虐殺事件すらでっちあげだと吹聴する向きもあるようだが、裁判記録には当時の経緯が詳細に立証されている。「お国のため、日本のため」。響きの良い言葉の裏側には常に危険が潜む。
自民党の改憲草案は、憲法一三条の「公共の福祉」を「公益及び公の秩序」と書き換えた。市民の人権の衝突を回避するための一三条は、大きく趣旨を変えられている。より良い憲法を作るための活発な議論は否定しない。だが、現行の自民党草案に沿っての改憲だけはお断りしたい。
ほりかわ・けいこ/'69年、広島県生まれ。ジャーナリスト。『教誨師』で第1回城山三郎賞受賞。最新刊『原爆供養塔 忘れられた遺骨の70年』(文藝春秋)。月刊誌「本」(講談社)に『戦禍に生きた俳優たち』を連載中
※この欄は中島丈博、堀川惠子、熊谷達也、生島淳の4氏によるリレー連載です。
『週刊現代』2016年5月21日号より
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