★阿修羅♪ > 政治・選挙・NHK214 > 569.html
 ★阿修羅♪  
▲コメTop ▼コメBtm 次へ 前へ
トランプの請求に日本は従うことしかできない 日露会談、領土問題の先にある巨大な“果実” ロシアへのインフラ輸出 
http://www.asyura2.com/16/senkyo214/msg/569.html
投稿者 軽毛 日時 2016 年 10 月 18 日 00:19:22: pa/Xvdnb8K3Zc jHmW0Q
 


トランプの請求に日本は従うことしかできない

もしトランプが大統領になったら…

沖縄から見た駐留経費問題
2016年10月18日(火)
寺岡 篤志

 「日本は米軍の駐留経費を全額負担せよ。払わなければ、米軍撤退も辞さない」――。米共和党の大統領候補、ドナルド・トランプ氏の在日米軍を巡るお騒がせ発言は、日米安保体制が持つ「金で安全を買う」というある種の歪みを映し出していると言える。

 在沖縄米軍基地の全廃を訴える前泊博盛・沖縄国際大学教授は、もしトランプ氏が米大統領になったら「日本は唯々諾々と駐留経費を払ってしまう」と予想する。さらに「トランプ発言を契機に、日米安保条約が果たして何を守っているのか、日本がお金を払うだけの価値があるものか、考え直さなければいけない。中ロとの間に経済的な安保体制を組み立てることこそ日本の取るべき道だ」と主張する。

前泊博盛氏(まえどまり・ひろもり)氏。1960年、沖縄県宮古島市生まれ。明治大学大学院博士前期課程(経済学)修了。1984年に琉球新報に入社し、社会部や政治部の記者として、防衛省、外務省、旧沖縄開発庁の取材に従事。2011年から沖縄国際大学経済学部教授。専門は基地経済の研究。
トランプ氏は、米軍の中流経費の100%支払いを、日本を含む各国に求めると発言しています。これをどのように見ていますか。

前泊:まず前提として、トランプ氏は防衛に関して無知だと思いますね。誤った情報に基づく発言であることは踏まえておいた方がいい。

日本はいわゆる思いやり予算など7000億円以上を負担していると言われています。過去のデータでは負担割合は7割超です。

前泊:トランプ氏はそのことを知らないと思いますよ。自分に都合のいい情報だけを元に発言を構成するのは、彼独特の論理展開の仕方ですね。刺激的な数字や情報があれば、そこを一点突破していく。そういう仕掛け方が非常に上手です。

 「日本は十分な駐留経費を払っていない」と言えば、日本の安保体制に疑問を抱いている米国民は、なぜ日本のために米国の若者が血を流す必要があるのか、と反応する。事実でない情報で、米国民の頭の中の情報を勝手に操作してしまう。大統領候補の発言として一定の信頼がありますから。

裏を返せば、トランプ発言を受け入れる素地が米国民にあるということですか。

前泊:やっぱり格差の問題があります。中間層から下のクラスが、この怒りをどこにぶつければいいか考えている時に、ターゲットが示されると、そこに向かってしまう。そういうところを上手に操作しているなという気がします。

「結局はみかじめ料か」

 日本に対しては、「金を払わないならば守らないよ」とまるでみかじめ料をやりとりすることで日米同盟が成り立っているかのような印象を与えました。日本人は「結局、お金なのか」「相互信頼に基づくグローバルパートナーシップというのは建前だったのか」「トモダチってそんなものだったのか」と感じているでしょう。

トランプ氏はこのことをストレートに表現してしまった。米政府も「え? 本音を言っちゃった?」と思っているかもしれない(笑)。

米軍が沖縄に海兵隊を配置しているのは、アジアでの抑止力のためと言われてきました。米国の中でその意味は薄れてきているのでしょうか。

前泊: 米軍は数百の基地を海外に展開しています。このうち沖縄の基地について、沖縄の四軍調整官を務めたウォレス・グレグソン氏が最も安上がりの基地だ、という趣旨の発言をしています。この発言は、「米軍の海外基地はコストが高すぎる。縮小を検討すべき」と米議会が問題提起した時のものです。グレグソン氏は、コストの低さから「沖縄からの撤退は最後でいい」と主張しました。

 もう1つ大事なことは、マグネット論です。海外基地は、本国に攻撃を加えられないようおとりの役割を果たしているということです。

 沖縄の基地は安上がりでマグネット効果があるという見方は、日米同盟を損なう可能性があるので、米政府はあまり流布しないようにしている。

つまり、米国が保有する海外基地の重要性は薄れているものの、沖縄の基地にはまだ必要性がある。であるにもかかわらず、トランプ氏は必要ないとしているわけですか。

前泊:必要じゃないと思っている人も多いでしょう。というより、米国民は沖縄に基地があることをあまり知らないんですよ。米国民は政府がやっていることを全部知っている、と思ったら大間違いです。日米同盟があることすら知らない人も結構いるかもしれない。米連邦議会の議員だって沖縄に5万人も米軍人と関係者がいたことを知らない人が多い。

 日本政府は、米軍は何から何を守っているのかを真剣に考えなくてはいけない。日米安保条約があっても米軍が日本を守るとは限らない。最近は防衛の専門家の口からもこんな言葉が出てきています。米国との同盟関係を今後も死守するなら、日米安保条約で日本が守るべき国益とは何なのかを検証する必要がある。

 米国は国益委員会をつくってずっと議論している。米国が覇権国家として君臨できる体制をつくることが、最重要の国益として位置付けられています。同盟国において米国が国益を確保するためにどうするべきかも分析しています。例えば日本に対しては、自民党以外の政党を政権に就かせないという内容が出たこともあります。

 日本も国益委員会をつくるべきだ、と2000年ごろに守屋武昌さん(元防衛事務次官)と話したことがあります。彼は内々に国益の検証を試みて、「この国は二律背反が多くて国益がまとまらない」と言っていました。自衛隊が何から何を守るのかという議論もまとまらない。だから場当たり的にしか自衛隊を動かすことができない。

日本はトランプ氏の負担増要求に応える

翻って日本から見た米軍基地について。トランプ氏が大統領になっても本当に駐留経費を払えと言うかどうか疑問はあります。ここはしかし、仮定を重ねて、仮に大統領になり、仮に駐留経費を払えと言ったとする。日本は払うと思いますか。

前泊:払うと思いますよ。駐留経費を7000億円ぐらい払っているけれども、世界最高の軍隊を番犬として雇えるならまだ安上がりと思っているでしょう。日本の保守勢力はこのことをストレートに言わないようにしてきた。言ったら米軍が引き上げちゃうかもしれないから。

 ただ、トランプ氏はそこを揺さぶってくる。日本が出すというなら、さらにつり上げてくる。もっと出せと、嫌だったら引き上げるよと。その時、日本人はどこまでなら許容できるのか。


移設問題が過熱している普天間基地。沖縄国際大学に隣接している。

沖縄国際大学から見た普天間基地。木の陰には垂直離着陸輸送機オスプレイも見える。
 例えばオスプレイを17機買いますよね。これは全部で3700億円ぐらいと言われています。この支出が、高いのか安いのかの議論がないまま決まる。辺野古に普天間基地を移すことも、その移転費用が適正か、十分な議論はされていない。

 日本の安全保障は結局、米国に全権を委任する形になっています。お金の請求も鵜呑みにするしかなかった。日本国民は戦後70年間、米国に求められるがままにお金を支払うことに疑問をもってこなかった。しかし、トランプ氏の発言を契機に催眠術が解けるかもしれない。国立競技場の建築費と同様に、米国に現在支払っている金額が正当なものかどうか考え始めることになる。

もしトランプ氏が請求をつり上げた場合、どこまでついていくんでしょう。

前泊:今の体制だと、「どこまでも」でしょう。米国は交渉上手なのです。

 米国は1960年代に辺野古に新基地を建設する構想を作ったことがあります。これは、ベトナム戦争の最中だったため、予算が付かずお蔵入りになった。でも今回、「辺野古への移設を求めたのは日本なんだから、日本がお金を出せ」と主張して辺野古に基地を造らせている。

 こういうタフネゴシエーターが米国にはいるけれども、日本にはいない。だからどこまでもお金を持っていかれるだけ。

さらに仮定を重ねてしまいますが、もし日本がもう付き合えないとなった場合、本当に米軍は撤退するのでしょうか。

前泊:撤退しても米国に痛みはないと思いますよ。原状回復義務もないし、むしろ残していく施設を売ってお金に換えるでしょうね。

「経済安保が生きる道」

トランプ氏が大統領になったとき、日本の安保戦略をどう見直すべきだと思いますか。

前泊:日本が守るべき国益は何かを問い直した時、例えばアジア全体で作り出す経済的利益がある。今はなぜ日米安保体制だけを重視しているのでしょう? 米国はそれこそ世界100カ国と安保体制をつくっている。なのに、なぜ日本は中国やロシアと結ばないのか。

 軍事力を使った安全保障体制ではなく、経済的な手段を使った安全保障の確保でいい。中国がアジアインフラ投資銀行(AIIB)を作ったら、参加しないよう米国が牽制してくる。問われているのは自主的な外交をする能力です。

中国とどういった距離感を保つかはものすごく難しい。そもそも沖縄に基地がある理由に中国を挙げる人も多い。

前泊:沖縄の基地はもともと日本を占領するための最前線拠点でしょう。それが朝鮮戦争やベトナム戦争に直面し、東西冷戦を戦うための基地に変貌した。そして今はアジアで米国の利権を確保するための基地になっている。

 なぜ環太平洋という無理矢理な言い方で米国はアジアに入ってくるのか。アジアはアジアにおいて、アジアの人の血を一滴も流さない安全保障体制を作らないといけない。EU(欧州連合)と同じようにAU(アジア連合)をつくる。紛争が起きないよう話し合う利害調整機関をつくる。EUのような共同体ができれば、絶対に血は流れない。

 自民党の重鎮でも危機意識を持って動いている人は居ますよ。ご近所とけんかをして、遠い米国と仲良くするっておかしな話でしょう。中国は脅威だと言われますが、最大の貿易相手国を脅威として見るのが正しいか。

「基地の撤収はむしろ沖縄を潤す」

前泊先生の専門である基地経済について伺います。米軍が沖縄から引き上げた場合、問題はありませんか。

前泊:今、沖縄は空前の好景気です。国内外からの観光客が年間1000万人に届こうとしている。特にアジアからの流入が増えています。だから空港が足りない。米軍が嘉手納飛行場から撤退すれば、国際空港としてすぐ活用できますよ。撤退に至らなくても、岩国航空基地(山口県)のように軍民共用で使えばいいのです。


観光需要に沸く沖縄。写真は北谷町の商業施設「アメリカンビレッジ」。
 嘉手納飛行場の滑走路のように、米軍が撤退した後の基地には活用できるものがたくさん残ります。例えばF15の掩体壕。あれは横をふさげば、東京ビッグサイト以上の見本市会場になります。これらを一つ一つ検証し、何に使えるかを調べているところです。そういうビジネスを米国とできるようにしたいですね。

 仲井真弘多県政時代から県庁が作っていた資料に、基地返還地における経済効果を予測したものがあります。例えば普天間飛行場が沖縄にもたらす経済効果は現在120億円ですが、返還されれば3800億円まで増える。すべての施設を合計すると、基地があることで逸失利益が1兆円ぐらいある。

 日本政府が今、沖縄振興予算をカットすると揺さぶりをかけています。これは、県民に健全な危機感を持たせるむしろポジティブな効果があるのではないかと思っています。これまでは政府と協調路線を取る保守県政の方が振興予算が減る傾向にあった。逆に革新県政になると増える。直近の最も低額の時で年間2000億円強。この程度までなら減らされても沖縄は大丈夫ですよ。

米軍は尖閣を守っていない

経済的手段で安保体制を築きリスクを減らすとして、米軍基地を全てなくすことは可能でしょうか。

前泊:駐沖縄米軍の縮小をうたった SACO(日米特別行動委員会)合意が生まれた背景には、沖縄県がつくった基地返還アクションプログラムがあります。このプログラムでは2015年までに基地を全廃することになっている。これは当時の橋本龍太郎首相も受け入れた計画です。基地が全部なくなってもよい体制を日本も沖縄も常に考えないといけない。

 フィリピンは急に米軍が撤退して大変なことになった。日本は米軍が居なくなるときに備えてリスクヘッジしないといけないんですよ。

経済的な安全保障体制で、米軍が持つ抑止力としての機能を完全に代替していくということですか。

前泊:例えば米軍から返還された土地に米ボーイングの整備工場や中国の物流企業のセンターを誘致し、経済安保の拠点にする。ほかにも香港、マレーシア、シンガポールといったアジアの国々が拠点を置いたら、沖縄をたたこうと思う国はないですよ。

使われない射爆撃場

尖閣諸島に対する脅威は経済安保で排除できますか。

前泊:日米地位協定に基づいて日本が米国に提供している施設の中に、赤尾嶼 (せきびしょ)、黄尾嶼 (こうびしょ)という射爆撃場があります。これは尖閣諸島の大正島、久場島にあります。

 大正島、久場島の接続水域にロシアや中国の軍艦が入ってきて大騒ぎになっても米軍は動かない。沖縄県の資料では、両施設は1979年から特に訓練が行われていません。もし米軍がここで演習したら抑止力になりますよね。中国軍機が入ってきたら自衛隊にはスクランブルがかかるのに、米軍はここを使わない。米軍は尖閣を守っていないんですよ。
――バラク・オバマ米大統領は、尖閣は安保条約5条の対象だと言っています。

前泊 対象だけど、自分たちで解決しろということでしょう。たかが岩山ごときのために、アジアにおける最大の貿易相手国である中国と対立することはないのです。日本との貿易量は中国とのそれに比べるべきもない。尖閣ごときのために中国とけんかして米国に何の得があるかと米国は考えていますよ。損得で見れば米国が動かないのは理解できます。

米国にとっての損得、中国にとっての損得、それを見定めた上で日本の安全保障を議論することが必要です。


このコラムについて

もしトランプが大統領になったら…
米大統領選の投票日、11月8日まで、レースは秒読みの段階に入った。
共和党の候補、ドナルド・トランプ氏には女性蔑視発言という新たな“逆風”が加わった。
共和党の重鎮たちの間で、同氏を見切る発言が相次いでいる。
だが、トランプ氏はこれまで、いくつもの“試練”を乗り切ってきた。
米兵遺族を中傷する発言をした時にも、「タブーを破った」として評価を下げたが、いつの間にか、民主党のヒラリー・クリントン候補の背中が見える位置に戻ってきた。
クリントン氏が再び体調を崩すことがあれば、支持率が逆転する可能性も否定できない。
「もしトランプが大統領になったら…」。
この仮定は開票が済む、その瞬間まで生き続けそうだ。
日経ビジネスの編集部では、「もしトランプが大統領になったら…」いったい何が起こるのか。
企業の経営者や専門家の方に意見を聞いた。
楽観論あり。悲観論あり。
「トランプ氏の就任が米国の『今』を変える」との意見も。
百家争鳴の議論をお楽しみください。

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/101200023/101700012/ 


 

 


日露会談、領土問題の先にある巨大な“果実”

Money Globe ― from London

ロシアへのインフラ輸出は日本経済を潤す
2016年10月18日(火)
菅野 沙織

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/185821/101300006/p1.jpg?__scale=w:500,h:335&_sh=0250ee0ed0

今年9月、ウラジオストクで開催された東方経済フォーラムで会談した安倍首相とプーチン大統領(写真=TASS)
 ロシアのプーチン大統領の来日まで後2カ月余りとなった。

 12月15日には安倍総理の故郷である山口県長門市で首脳会談が行われる予定である。サミットでは、「静かな環境」の中で両首脳が膝突き合わせて行うフェイス・トゥ・フェイス(直接)会談が重視される模様である。今回の首脳会談の結果は大きく注目されており、領土問題の解決に向けた進展や近い将来の平和条約締結への期待が寄せられている。

 戦後70年余りを経ても双方の歴代リーダーたちによる領土問題解決に向けた努力が実らず、日露間では平和条約がいまだに締結されていない状況が続く。ただ、この「異常状態」が今度こそ打開できるのではないかと期待する声が高まっている。実際、根拠はいくつか存在する。

 一つは日本政府がロシア側に提示した、経済協力関係の拡大を重視する8項目からなる新アプローチの「形」と「中身」の効果である。このアプローチの強みは、目に見える形での経済協力をとっており、過去にはなかった新たな挑戦ということである。

 これまで、70余年に渡り続いてきたロシアへのアプローチは、実質的に何の成果も得られず、失敗だったと言わざるを得ない。日本政府側にも、従来のアプローチを変えない限り、交渉が成功する可能性はゼロに近いという焦燥感はあるだろう。

 その変化の結果が、新アプローチの中身ということになるが、ここでのポイントは、ロシア側が重視している経済協力関係の拡大に焦点を当てたことだ。ロシア人がよく使う「共同経済活動」を重視したアプローチは、相手の要望に耳を傾け譲り合う姿勢を示している。この点が、従来の日本政府にはない変化であり、関係者に今回の会談が成功につながる期待感を与えている。

 もちろん、その最終的なゴールは領土問題の解決だ。仮に新アプローチが領土問題解決につながらないのであれば、こうしてロシアへの経済協力ばかりしていいのか、という疑問の声は実はよく聞かれる。

 ただ、ここで重要なのは、視点を領土問題から少しずらし、対ロシアの新アプローチは日本経済にどういう影響を与えるかについて考察することである。なぜなら、外交戦略である「新アプローチ」は事実上、対ロシアに限らず世界を舞台にした日本政府のインフラ輸出戦略そのものだからである。

ロシアへの経済協力は「インフラ輸出戦略」

 2013年5月に発表された「インフラシステム輸出戦略」(その後、毎年改定されているが、当初の構想やガイドラインの大枠は変わっていない)では、インフラ輸出による日本の経済成長の実現という同戦略の目的が強調されている。

 官邸のウェブサイトに掲載されている「インフラシステム輸出戦略」の原文(2013年5月)によれば

「・・・新興国を中心とした世界のインフラ需要は膨大であり、急速な都市化と経済成長により、今後の更なる市場の拡大が見込まれる。このため、民間投資を喚起し持続的な成長を生み出すための我が国の成長戦略・国際展開戦略の一環として、日本の「強みのある技術・ノウハウ」を最大限に活かして・・・(中略)・・・我が国の力強い経済成長につなげていくことが肝要である。」(第1章総論、p.4)。

 「インフラシステム輸出戦略」の上記のガイドラインには、目的はもちろんのこと、具体策も明確に書かれているほか、具体的な分野や地域別の取り組み方針も明記されている。対象地域は、驚くには及ばないが、ロシアも当初から含まれている。

 2013年に発表された戦略には「ロシア」に対するインフラ輸出戦略とは「ロシアでは、我が国の経験を活かし都市環境、運用インフラ分野で協力」と書かれている(上記、p.26)が、16年の改訂版には、同じくロシアを対象とした戦略としては「・・・都市環境分野で、モスクワ等における都市開発、木造建築、廃棄物処理、管路更生等で両国の協力を推進。運輸インフラ分野で、シベリア鉄道等の鉄道事業、空港等について検討を深度化。医療・保健分野で、ロシア極東地域の拠点として画像診断センターを開設し、検診・診断の事業を展開。郵便分野で、日本製郵便区分機の納入や郵便事業間での協力促進を支援。」と掲載されている(p.46)。

 つまり、インフラ輸出を目的とする経済活動分野が拡大していることが分かる。

 そして、本年5月の日露首脳会談の際にロシア側に提案された8項目の新アプローチは、以下の分野に及ぶ(日本外務省のホームページより)。

 (1)健康寿命の伸長
 (2)快適・清潔で住みやすく、活動しやすい都市作り
 (3)中小企業交流・協力の抜本的拡大
 (4)エネルギー
 (5)ロシアの産業多様化・生産性向上
 (6)極東の産業振興・輸出基地化
 (7)先端技術協力
 (8)人的交流の抜本的拡大

 この内容を政府のインフラ輸出戦略と照らし合わせてみよう。新アプローチの(1)が医療、(2)が都市環境、(4)が資源確保の関連事業、(5)と(6)が文字通り極東の産業振興・輸出基地化、そして(7)はこの戦略を支えるために不可欠である人的交流の拡大に重なる。提案が、政府の日本経済成長と関連性のあるインフラ輸出戦略の一部であることは明らかである。

 ここまで理解できたとして、次は、新アプローチの中身だ。これがインフラ輸出戦略に沿ったものであるとしても、日本政府がこのアプローチをあくまでも領土問題解決に向けて利用したとする。人口2万人弱の北方四島の開発関連のみが対象なのであれば、果たして日本全体に経済的な利益をもたらし、景気対策になりうるのだろうかという疑問が残る。

日本の景気浮揚につながる

 この疑問に対する答えの一端を、今年9月のウラジオストクでの会談で垣間見ることができた。

 9月、ウラジオストクで開催された今年で2回目となる東方経済フォーラムにおいて再度日露首脳会談が実現した。同フォーラム(9月2〜3日)では、9月2日に行われた安倍総理とプーチン大統領の首脳会談、続いて3日に行われた安倍総理の基調講演が大きな注目を集めた。

 9月2日の首脳会談では平和条約に関して率直な議論があったと見られるほか、プーチン大統領の訪日が確認されるとともに、12月15日に山口県長門市で首脳会談を行うことでも合意された。加えて、平和条約締結に向けての動きが加速していることを反映する形で、12月の首脳会談を前に、11月にペルーで開かれるAPEC会議でも首脳会談を実現することで合意したことも発表された。

 実際、1回目の東方フォーラムは「中国重視」の色が濃かったが、今回は日本側の参加者の顔ぶれ(政府関係機関だけでなく日本を代表する事業会社や金融機関のトップなども参加)と参加人数から見て、「日本重視」であったのは明らかである。

 同フォーラムでは具体的な大型案件についての正式な発表こそなかった。だが、日本政府は同フォーラムの前日である9月1日にロシア経済協力相を新設(世耕経済相が兼任)するほどロシアとの経済協力拡大への「本気度」を示した。

 ロシア側もこうした動きに呼応する形で領土問題解決に前向きな姿勢を示し始めている。プーチン大統領はブルームバーグとのインタビューにおいて、平和条約の締結を重要課題と位置づけ、今後日本側との妥協案を模索しながら解決に向けて努力していくという、これまでに見られなかったスタンスだ。

 フォーラムでは首脳会談と同じ時間帯に日露経済会議が開かれ、両国の経済関係の拡大について議論が交わされ、具体策についても話し合われた模様であり、12月のプーチン大統領の来日の際には大型案件が発表されると示唆されている。

 日露間の会話が政府レベルで活発化していることから、大型投資案件については水面下で交渉が行われていることが窺われる一方、詳細についての公式な発表はまだない。一方、先日は日本のメディアが、シベリア鉄道を北海道まで延伸させ北海道とサハリンを鉄道で繋ぐという、ロシア側が提案したと言われることに対する日本側が検討中とされる案件についての「リーク」情報を報じた。

 加えて、開通から100年余り経過しているシベリア鉄道の一部である、極東のウラジオストクとロシア連邦に属するタタールスタン共和国の首都カザンを結ぶ線(800km)を高速化する提案も存在すると報じられた。仮にこのような交渉が一定の成果を挙げるならば、日本の建設業界や高速車両メーカー、信号システムなど運営関連のIT(情報技術)事業を担う日本のメーカーには大きなビジネスチャンスが訪れるといっても過言ではない。

 興味深いのは、日本の報道を受けたタス通信をはじめとするロシアのメディアが、シベリア鉄道の延伸・現代化のプロジェクトについて一斉に報道し、日露関係の行方についての高い関心を裏付けたことである。

 経済協力の案件はシベリア鉄道の現代化プロジェクトだけでは終わらないようだ。他にも、ロシア極東で発電される電気を海底ケーブルで北海道あるいは本州までに送電する「エネルギーブリッジ構想」も検討されていると報じられている。

 対ロシアの投資に限らず競争が激しい大型インフラ輸出の受注を勝ち取るには、やはりトップセールス、つまり総理の力と相手国のリーダーとの信頼関係が極めて重要である。その意味で、対ロシアの新アプローチはまさに、日本のトップによるインフラ輸出の売り込みとも言える。

ロシアにとっても経済支援は干天の慈雨

 ロシア政府は領土問題解決に向けて軟化した前向きな姿勢を示し始めたが、その背景として、新アプローチの効果以外にもロシア側に事情があることは想像に難くない。実際、2014年3月のクリミア併合とウクライナ東部の紛争を巡り欧米との関係が著しく悪化した結果、対露制裁が課された。

 同年の夏には一時100ドルを超えた原油価格が下落し、2年経過した現在も1バレルあたり50ドル前後で推移している。制裁により国際金融市場から事実上シャットアウトされた上、輸出の7割をエネルギー関連が占めるため原油価格下落によるマイナスの影響を大きく受けたこともあり、意外感はなかったであろうがロシア経済は2014年下期には景気後退状態に追い込まれた。

 しかし、2015年の夏頃にはロシア経済も底打ちし、徐々ではあるが回復に向かい始めた。国内経済は制裁と低原油価格という「ニューノーマル(新常態)」に適応し始めた模様であり、規模は縮小したものの貿易黒字と経常黒字が維持されているほか、ルーブル相場も安定している。

 1年前には2桁台だったインフレ率が半減し、経済成長は来年からプラス転換する見通しである。ロシア政府には極東地域開発に注力する余裕も生まれつつあるが、日本の協力を取り付けることができれば、その開発が極東地域のみならずロシア国内の景気を大幅に押し上げるとの期待が寄せられている。

 日露両国、両政府には「事情」があるが、今回、両国には政治・外交面、及び互いの経済活性化に向けて効果が得られる環境が整っていると言えるだろう。領土問題解決と平和条約締結に向けての本格的な合意の準備が年内に完了する可能性があるとすれば、プーチン大統領の12月の訪日後、次の世代の歴史教科書には日露関係に新しいページを開いた「長門協定」が記載される可能性もある。

 12月の訪日が、歴史に残る動きとなることが期待されている。

※本稿は著者の個人的な意見であり、所属する組織の見解を表しているものではありません。


このコラムについて

Money Globe ― from London
環境、会計など様々な分野で影響力を誇示する欧州の経済情勢を、現地の専門家がマクロ、為替、金融政策、M&A(合併・買収)など様々な観点から分析する。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/185821/101300006


 

 

  拍手はせず、拍手一覧を見る

コメント
 
1. 中川隆[4502] koaQ7Jey 2016年10月18日 00:51:19 : b5JdkWvGxs : DbsSfawrpEw[4913]
アメリカは1943年の時点で日本には未来永劫 自主防衛力は持たせないという方針を決めていた

第九条もその段階で決まっていた事を記しただけのもの

アメリカは北朝鮮や中国の核武装は容認するけど、日本の核武装や自主防衛力は一切認めない

そもそも現行憲法は国民の承認を一度も受けていないだろ

日本国憲法は、 「日本国民が主権を保有していない時期」 すなわち、1945年8月15日から、サンフランシスコ条約が発効になった1952年4月28日の「間」に作られた


天皇一族はアメリカの手先だから護憲・平和主義なんだ

平和主義とか護憲というのはアメリカが日本に自主防衛力を持たせない為に
売国奴を唆せてやらせてるんだろ
アメリカと中国は昔から大の仲良しだから、日本が自主防衛力を持てないのは両国の利益になるんだな


戦前も戦後も


中国はアメリカの同盟国
ロシアと日本はアメリカの仮想敵国


なんだ。 日本が敵国だからこそ米軍は何時までも日本を占領している。


日本はアメリカの仮想敵国 _ 米軍は日本が独立するのを阻止する為に日本に駐留している
http://www.asyura2.com/13/lunchbreak53/msg/528.html

日本は現在でも米国の軍事占領下にある _ 日本の政治を決定している日米合同委員会とは
http://www.asyura2.com/13/lunchbreak53/msg/532.html


2. 2016年10月18日 02:56:59 : w3M1BHSquE : 5KToaZSVnLw[933]
>自分に都合のいい情報だけを元に発言を構成する

↑ これ、ウヨの典型的な思考パターン 自分あるいは自分達さえ良ければそれで良いという

だから 世界各国に存在するウヨ連中は お互いに反目し 決して連帯する事がないんですね
トランプのような「米国のウヨ」 と、中川クンのような「日本のウヨ」 とは 永遠にかみ合わない訳で
「自分勝手な」 世界各国に蔓延るウヨは、絶対に利害は一致しないのが当たり前ですから
英国を EUから離脱させたのも 「英国のウヨ」 であるが、他国のウヨからは支持されていない

1のコメが それを立派に証明しております。


3. 2016年10月18日 07:57:35 : TROnsnLp4E : zn5SNXBdRAg[5]
在日米軍はタダでは撤退しません
暴れまわって日本人をめった刺しにしてから帰還します
米軍が駐留していない国だけ助かります
トランプが大統領になろうが米軍と大統領は主従関係にありません
ドル詐欺はFEMAを発動してめちゃくちゃやる
自分がユダヤで悪事を働くと想像してみることだ
とてつもなく無力であることに気が付くことだろう
ロシアや中国に助けられるかもしれないが、そうなれば馬鹿な日本人のプライドが邪魔して自殺する
どっちに転んでも死ぬのが容易に想像できる

4. 2016年10月18日 12:02:58 : aLq7TnShtE : NJgel2uQHoI[9]
>>3
じゃ本当にそうなるかやってみようじゃないか?

俺はあっさり撤退する方に賭けるがね。

べらぼうに高額な駐留費を請求してきたら、拒否を貫く他に方法はない。


5. 2016年10月19日 00:19:43 : vTYEtTd4cc : iFsRUROyKqQ[163]
>>1の「天皇はアメリカの手先だから護憲・平和主義なんだ」の下りには全く同意出来ないが大筋はその通りだ。

6. 2018年5月15日 10:32:53 : LY52bYZiZQ : i3tnm@WgHAM[-2481]
2018年5月15日(火)

政府出資に公然と道

宮本岳志氏 インフラ輸出法案に反対

衆院委可決

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik18/2018-05-15/2018051502_04_1.jpg
(写真)質問する宮本岳志議員=11日、衆院国交委

 衆院国土交通委員会は11日、海外インフラ事業に日本の民間企業の参入を促進する「インフラ輸出」促進法案を賛成多数で可決しました。同法案は、独立行政法人など公的機関が国内で積み上げてきたノウハウを民間のインフラ輸出に提供し、事業を支援させる内容です。日本共産党は「民間企業による海外インフラ事業に、政府が出資することに公然と道を開く」として反対しました。

 採決に先立ち質疑に立った日本共産党の宮本岳志議員は、日本のインフラ輸出のモデル事業とされる米テキサス州での新幹線事業で地元住民から反対意見が上がっていることや、インドネシアのバタン石炭火力発電事業をめぐって同国の国家人権委員会が日本政府に人権重視など求める書簡を送ったことを紹介。地元住民の意思を反映することや、相手国の法規制が未整備の場合の手続きなど、今回の法案には規定がないと批判しました。

 さらに宮本氏は、独立行政法人は本来、多国籍企業支援のために設立されたものではないとして、政府の見解をただしました。

 石井啓一・国交相は、インフラ輸出は日本経済の成長に寄与することから、独立行政法人を活用する意義はあると答えました。

 宮本氏は「独立行政法人は国内のインフラ整備を担ってきた国民の財産」だと強調し、国内の老朽化したインフラ対策を率先してやるべきだと主張しました。

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik18/2018-05-15/2018051502_04_1.html


  拍手はせず、拍手一覧を見る

フォローアップ:


★登録無しでコメント可能。今すぐ反映 通常 |動画・ツイッター等 |htmltag可(熟練者向)
タグCheck |タグに'だけを使っている場合のcheck |checkしない)(各説明

←ペンネーム新規登録ならチェック)
↓ペンネーム(2023/11/26から必須)

↓パスワード(ペンネームに必須)

(ペンネームとパスワードは初回使用で記録、次回以降にチェック。パスワードはメモすべし。)
↓画像認証
( 上画像文字を入力)
ルール確認&失敗対策
画像の URL (任意):
投稿コメント全ログ  コメント即時配信  スレ建て依頼  削除コメント確認方法

▲上へ      ★阿修羅♪ > 政治・選挙・NHK214掲示板 次へ  前へ

★阿修羅♪ http://www.asyura2.com/ since 1995
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。
 
▲上へ       
★阿修羅♪  
政治・選挙・NHK214掲示板  
次へ