オーストラリアでは、その時代まで自国の自動車産業を強力に保護していました。輸入車に対して、57.5％の関税を掛けていました。オーストラリアは「労働者の天国」と呼ばれており、従業員に支払われる賃金は高く、労働時間も厳しく制限されていた。このため、オーストラリア製の自動車の価格は高く、輸入車(特に日本車)に対する価格競争力が弱かった。このため、強力な産業保護政策が取られたのです。

日本からの製品輸出では販売台数を伸ばせなかったため、トヨタと日産が1970年代、いち早く現地生産に進出しました。トヨタは自力で進出し、日産は撤退したフォルクスワーゲンの工場を買い取りました。しかし、そこにもオーストラリア連邦政府は介入してきた。オーストラリア製の部品を85％使わないと、「輸入車」と見なすと言うものです。

トヨタは、このためライバルのGMホールデンからエンジンを購入して、コロナを現地生産したのです。1,892ccの「スターファイア4」と呼ばれる4気筒エンジンでしたが、これが走らない。V8エンジンの片側をぶった切って、ボアを縮小した代物だから。たったの78馬力しかない。当方も興味があったので借りてみましたが、これは酷かった。

このダメダメエンジンでも、トヨタでは自社形式「1X型」として取り扱っていたのです。とにかく85％の現地調達率を達成するために、無理やり製品に仕上げた。当時の日本から派遣されていた技術者は、相当苦労したでしょうな。

●1978年当時オーストラリアで現地生産していた自動車メーカーは、フォード、GMホールデン、クライスラー、トヨタ、日産の5社でしたが、クライスラーがアメリカ本体の経営危機(註　イラン革命による第二次石油危機により、ガソリン価格が高騰し、日本製の小型車に顧客が流れたため。)に見舞われ、アメリカ・カナダ以外の世界各国の生産拠点を一斉売却することになり、オーストラリアは提携先の三菱自動車に売却されることになったのでした。

1981 Chrysler CM Regal - 265 hemi
https://www.youtube.com/watch?v=p74ZmEd1MFs
●音楽うるさいけど、ご勘弁を。1:01に注目。エンジンルームのプレートが、三菱モータースになっています。三菱が1980年に買収したものの、すぐ日本設計車に切り替えられなかったため、1981年まで継続生産されました。

1980年代以降、アメリカ系メーカー2社、日系メーカー3社の体制になりましたが、1980年代末期以降のウルグアイラウンドの進展によって、まず輸入関税が15％に引き下げられた時点で日産が脱落。続いて0％になって三菱が脱落。3社体制となります。

Mitsubishi Motors Australia Tonsley Park Closure 2008
https://www.youtube.com/watch?v=CcjAm2RiheA

輸入関税がかけられなくなり、5社はタイに次々と工場を建設。そこからオーストラリアに輸出する構図となりました。トランプ大統領が言うメキシコが、アジアではタイなのです。

Mitsubishi Motors Thailand company information
https://www.youtube.com/watch?v=jpZqbWrr8jE

安い工賃で組み立てられるタイ製の自動車に対抗できないことから、オーストラリアに残る3社(フォード、GMホールデン、トヨタ)も、現地生産をやめることを決定しました。最も古くから生産していたフォードの撤退は、社会に与えた衝撃はあまりにも大きかったのです。

91 Years of Manufacturing in Australia
https://www.youtube.com/watch?v=GMtdTl6sO5o
●日本風に言えば、「大正時代」からオーストラリアで自動車を生産していたのです。

3社の工場閉鎖で、失業率が高まっています。納入していた部品会社も、存続できない危機に晒されています。アボットも、ターンブルも全然ダメダメじゃないか。オーストラリアにこそ、トランプ氏が必要です。

当然のことながら、日本にもトランプ氏のような政治家が必要ですよ。既に家電製品の大半が中国大陸製品になっているじゃないですか。