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資産だと思ったらまさかの負債…「不動産相続難民」が急増中 借金より深刻な問題がいま目の前に
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/54612
2018.02.27 椎葉 基史 司法書士法人ABC代表 現代ビジネス
不動産相続難民急増中
高度成長期の日本では、マイホームを持つことがサラリーマンのステイタスであり、夢でもありました。実際、不動産の価格は確実に上がっていったので、不動産こそが確実な資産だと考えられていたのです。
いざとなれば売却や賃貸で収入を得ることもできると多くの人は信じていました。
ところが、1991年にバブルが崩壊し、不動産価格が一気に下降を始めます。
また、人口が減少に転じている一方で、新築マンションや一戸建て住宅の建設は今も続いているので、住宅の供給が過剰になり、昨今は日本各地の空き家問題もメディアをにぎわせています。
そしてそれと同時に今、資産だと信じて相続した不動産に苦しめられる、「不動産相続難民」が急増しているのです。
そう語るのは、司法書士法人ABC代表の椎葉基史さん。前回の記事「突然1億円の請求が・・・『負債相続』故人の借金に苦しむ人が急増中』では、負債の相続に苦しんでいる人が増加している現実と対策とをお伝えした。借金相続にも様々なパターンがあるが、さらに複雑なのは、土地や家屋の相続なのだという。価値がなくなった不動産ならぬ「負」動産相続の具体例の一部を、前回同様椎葉さんの著書『身内が亡くなってからでは遅い「相続放棄」がわかる本』よりご紹介する。
地方の実家を放置していたら
横山誠一さん(52歳)は、5年ほど前にご両親を相次いで亡くし、他の資産と共に、新潟の実家を相続しました。
すでに東京に家を持っている横山さんは、その家に住む可能性はほぼゼロだとわかっていたのですが、遺品を整理したあと、なんとなくそのまま放置していたのだそうです。
手続きが面倒だというのももちろんあったかもしれませんが、小さい頃から暮らした両親との思い出もたくさんある実家をいきなり手放すことへの躊躇もあったのでしょう。
ただ、問題は、そこに住んでいるか否かにかかわらず、所有しているというだけで請求される固定資産税です。
これが年間3万円弱にもなるので、さすがにこの先もこのままずっと払い続けるのは負担が大きすぎると判断した横山さんは、思い切ってその実家を売却することを決心します。
すると、売却を依頼した不動産業者からは、建物を解体し、一旦更地にすることを求められました。家屋がかなり老朽化していたので、このままでは買い手がつかないというのです。そこで横山さんは200万円強の費用をかけて、家を解体することにしました。
周りは田んぼや畑ばかりでお世辞にも立地に恵まれているとは言えない場所でしたが、土地の広さは80坪ほど。これが、300万円程度で売却できれば、解体費用を差し引いても、100万円ほどの利益が出るだろうと、その時は期待していたのだそうです。
田畑に囲まれ、思い出もある実家でも・・・Photo by iStock
ところが、土地はなかなか売れる気配がありません。
解体費用分だけ回収できればそれでいいかと考え直し、250万、200万と値を下げても問い合わせさえ来ないと言います。
もうこうなったら赤字を覚悟するしかないと、さらに150万円、100万円とどんどん値段を下げていっても、全く売れないのです。
固定資産税が増えた?!
不幸はこれだけではありません。
建物が建っていれば、その土地の固定資産税の税額は半額以下に減額される措置が取られるのですが、更地にしてしまうと、その措置が解除されます。その結果、固定資産税の金額が増額され、場合によってそれまでの最大4・2倍に跳ね上がることもあります。
もちろん建物を取り壊せば、建物の固定資産税はなくなりますが、古い家屋の場合は評価額が低いため、土地のほうの固定資産税額のほうがもともと高い、というケースが大半です。
それがさらに増額されるのですから、建物の固定資産税分を差し引いても結果的には負担が増えてしまうのです。
横山さんの場合も、200万円ものお金をかけて家屋を解体し、更地にしたことで、なんと、固定資産税の税額が年間6万円にも跳ね上がってしまいました。
年間3万円の支払いから逃れたくて売却を決意したにもかかわらず、結果的には、その2倍もの支払い義務が生じてしまったのです。
そしてこの先も、この土地が手放せない限り、毎年6万円の固定資産税の請求書が届くことになります。この絶望的な状況からなんとかして脱却できないか、今から相続放棄はできないのか、と横山さんは私の事務所に駆け込んでいらっしゃいました。
けれども残念ながら、もはや手立てはありません。
すでに相続をしてしまっている以上、今更相続放棄はできないのです。
「200万円の解体費用を回収することはもう諦めた。もう、タダでもいいから誰かに引き取ってもらいたい」
それは横山さんの偽らざる本音なのですが、その土地に興味を示す人は未だ現れていません。
空き家の放置は大きなリスクに
固定資産税というのは、その不動産の評価額をベースに算出されます。
評価額が低ければ、固定資産税もほぼゼロに近くなることがあり、その場合、あまり財布も痛まないので、そのまま放置されるケースは多々ありました。
その結果、荒れ放題の空き家が増え、今や全国の空き家率は13%にも上ります。この状況を打破するため、平成27年の5月に完全施行されたのがいわゆる「空家対策特別措置法」です。
これは、市町村の空き家対策に法的根拠を与えるために制定されたもので、増え続ける空き家への改善(具体的には修繕や解体など)を促すための法律だと言っても良いでしょう。
放置される空き家が増え続けると、老朽化による倒壊などの危険性が高いだけでなく、衛生上の問題、景観上の問題、防犯上の問題など、様々な問題が懸念されます。
その中でも特に対策が必要な空き家は「特定空家」に指定され、強制的な対処が可能になりました。その1つが、固定資産税の特例対象からの除外です。
固定資産税の特例というのは、「建物が建っていれば、その土地の固定資産税の税額は200uまで1/6200uを超える部分については1/3に減額される」という措置のこと。
つまり、「特定空家」に指定され、この特例措置が解除されてしまうと、たとえ家屋が建ったままでも、更地と同様の税負担が強いられるというわけです。
空き家のまま放置すると重い負担になることもある Photo by iStock
もちろん、行政からは、助言や指導から勧告→命令→強制対処(行政代執行、略式執行)と段階的な手順が踏まれますので、指定されたからといって即解除というわけではありませんが、「勧告」の対象となった時点で特例対象から除外されます。
さらに強制対処の段階まで進めば、強制的に撤去される可能性もあります。その費用は一旦公費でまかなわれますが、結果的には所有者に請求されます。税金は高くなるわ、解体費用は負担させられるわで、まさに弱り目に祟り目ですが、その家屋の所有者(相続人)である以上、そこから逃れることはできません。
つまり、使い道がないから、あるいは売れないからと言って、これまでのように相続した不動産をそのまま放置することは、大きなリスクを伴う行為だと言わざるを得ないのです。
設備充実のリゾートマンションが負動産に
東京都の遠山哲夫さん(38歳)は、約3年前に湯沢にあるリゾートマンションを相続しました。スキーが大好きだった父親が家族のために35年ほど前に購入した物件で、子供の頃は冬になると遠山さんも何度も訪れていたと言います。
冬にスキーのためによく訪れていた温泉付きリゾートマンションを遠山さんは相続したが・・・ Photo by iStock
ただ、ここ10年くらいは家族もあまり利用しておらず、今後必要になるとも思えないので、相続したらすぐ売却するつもりでした。築年数も経っていますし、リゾートマンション自体のブームもはるか昔に過ぎ去っていることはわかっていたので、売却したところで大したお金にはならないだろうことは十分予想していました。
そのこともあり、積極的に相続したいわけではなかったものの、だからと言って、相続を放棄する必要性は特に感じていなかったと言います。
「とりあえず相続して、どうするのかは、後で考えればいいと甘く考えていた」と遠山さんは当時の心境を振り返ります。
けれどもまもなく、遠山さんは自分がとんでもない負動産を相続してしまったことに気づきます。
遠山さんが相続した2LDKのリゾートマンションは、温泉付きの豪華な施設が売りでした。そのような豪華な施設を維持するためには当然ながら管理費用が必要ですが、修繕費用の積立金も合わせると、それがなんと月々5万円もかかるのです。
住むわけでも、利用するわけでもないこの部屋に年間60万円も払わなくてはいけないという事実に遠山さんは愕然とします。当然、固定資産税も請求されますから、実際の負担額はさらに大きくなるでしょう。
これはすぐに手放さなければやってられないと痛感した遠山さんは、不動産業者を訪れます。そこで提示された査定価格はなんと10万円。バブル時代に父親が3000万円で購入した物件なのに、そこまで価値が下がっていたのです。
しかも不動産業者は、この値段にしても売れる保証はないと言います。信じられない現実に絶望しつつも、もはや、背に腹はかえられません。このまま持ち続けていれば、ランニングコストを永遠に払い続けなくてはいけないのですから、もうこうなったら買ってくれるだけでもよしとしようと開き直り、遠山さんはこの部屋を10万円で売り出すことにしました。
ところが全く売れないのです。
確かに築年数が経っているとはいえ、温泉付きのリゾートマンションです。2LDKですから広さも十分なはずです。そんな部屋がたった10万円で売られているのに誰も見向きもしないのは、高いランニングコストが仇になっているからなのは明白でした。
おそらくタダであげると言われても、受け取ってくれる人はいないでしょう。
家族と住む自宅マンションのローンもあり、大学受験と高校受験を控える2人の子供をもつ遠山さんにとって、月々5万円以上の支払いは大きな負担です。けれども、このリゾートマンションを手放せない限り、遠山さんは管理費・維持費、そして固定資産税の支払いから逃れることはできないのです。
「負動産」があとで発覚すると……
実家などその所有が明らかなもののほかにも、過去の相続などによって思いがけず故人が所有していた不動産がないとも限らないので、「ない」と思い込まずに慎重に探すことが大切です。
まずは「登記済証(権利書)」や「固定資産税の納付書」、あるいは「登記識別情報」が残っていないか探してください。
「登記識別情報」とは、不動産登記法の改正により、これまでの紙で発行されていた登記済証(権利証)の代わりに平成17年3月から導入された、数字とアルファベットを組み合わせた12桁の符合のことで、「登記識別情報通知書」により交付されるものです。
それらを元に市役所などに問い合わせをすれば、被相続人が所有していた土地や建物が判明しますので、その所在地の市町村役場から「固定資産評価証明書」を取得し、不動産としての価値がどれくらいあるのかを確認してください。
また、そういった資料がすぐに見つからなくても、不動産が存在するであろう市町村の固定資産税課等で「名寄帳(固定資産税課税台帳の写し)」の発行を受けると、その市町村に存在している個人の不動産はほとんど特定が可能です。
ただし、固定資産税は市町村ごとに管理していますので、不動産が他の市町村にもまたがって存在している可能性がある場合などは、複数の市町村から取り寄せなければなりません。
気をつけていただきたいのは、住宅の私道部分などの土地で固定資産税の計算の元になる「固定資産税評価額」が0円(非課税)になっている場合です。その場合は名寄帳のリストから漏れている可能性がありますので、やはり権利証等の記載も含めて調査することが重要です。
何度も繰り返していますが、不動産が全て資産であるとは限りません。
そこに住む予定がある場合は、「家」としての価値は残りますが、そうでない場合は、負債を抱えることと状況は変わらない「負動産」となってしまうケースも多々ありますので、その価値を見誤らないようにしましょう。
固定資産税評価額=市場価値ではない
不動産については、1つ忘れてはいけない大事なポイントがあります。
それは、役所が税金を徴収するために算出している「固定資産税評価額」はあくまで目安にすぎない、ということです。
一般的に市場価格の6割ぐらいの金額が固定資産税評価額などと言われますが、実際にはそう単純なものでもありません。
不動産を売却する際の価格は各不動産の個別要因に左右されることが多く、固定資産税評価額上はある程度金額が出ていたのに実際は全く売れない不動産だった、といったこともよくあります。
思わぬ「負動産」を引き継いで苦労することのないよう、相続するかどうかを判断する際には、実際の市場価格を調べることが非常に重要です。役所の調査だけで終わらせず、近隣の不動産業者などに市場での価値を査定してもらうようにしましょう。
熊本に生まれ育ち、大阪に出て20代前半までバンドマンを夢見ていた椎葉基史さんが司法書士になったのは、母親が連帯保証人になっていた親戚の借金を引き継いだことをきっかけ。そして大手法人勤務を経て開業し、長年の経験を踏まえて刊行したのがこの『身内が亡くなってからでは遅い「相続放棄」がわかる本』。負債相続に直面した実例と対策とをまとめた一冊だ。「負債相続」が急増している現状をまとめた記事はこちらから→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/54483 |
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