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私が「景気後退の衝撃に備えよ」と話すワケ 米国公的債務の膨張にやきもきし始める投資家 利払いに1兆ドル トランプ新常態化
http://www.asyura2.com/18/hasan129/msg/397.html
投稿者 うまき 日時 2018 年 11 月 12 日 12:26:50: ufjzQf6660gRM gqSC3IKr
 

私が「景気後退の衝撃に備えよ」と話すワケ
小宮一慶が読み解く経済の数字・企業の数字
消費増税は延期の可能性も十分ある
2018年11月12日(月)
小宮 一慶
 安倍晋三首相は、10月15日の臨時閣議で2019年10月に予定している消費税率10%への引き上げを明言しました。しかし、私は再度延期される可能性もあるのではないかと考えています。
 内閣府は、11月7日に9月の景気動向指数を発表しました。景気の現状を示す「一致指数」は114.6と2カ月ぶりに低下しましたが、それと同時に、景気の基調判断を「改善」から「足踏みを示している」に24カ月ぶりに下方修正しました。
 日本国内の景気は、じわじわと後退の気配を見せています。さらに最近の株価の乱高下は、消費者心理を冷やす要因にもなりかねません。また、米中間選挙の結果により、議会のねじれでトランプ政権の内政運営が難しくなる中、対中圧力をさらに強化することが懸念されます。それが日本経済にも悪影響を与えると私は考えています。
 このところ私は講演会などで、お客さまである経営者の皆さんに向けて「景気後退の衝撃に備えよ」という話をしています。景気循環という意味に加え、米中貿易戦争や消費増税という懸念材料も大きなインパクトを及ぼす可能性が高いからです。
 今回は、日本国内の景気の現状を分析した上で、今後の動向について考えたいと思います。

(写真:PIXTA)
足元の景気は陰りつつある
 まずは国内景気の現状から見ていきましょう。GDPの5割強を支える個人消費はどうでしょうか。総務省が発表する家計調査で「消費支出2人以上世帯」を見ますと、2018年に入ってから前年比でマイナスが目立っており、弱いと言わざるを得ません。結果が発表されている9カ月分のうち、6カ月で前年を下回っています。

 もう一つ、「街角景気(景気ウォッチャー調査)」の数字も弱含んでいます。これは、全国の小売店の販売員やタクシー運転手、ホテルのフロントなど、景気の動向を直接肌で感じている職種に聞き取り調査をしているものです。50が基準で、それより上ならば景気がいい、下ならば悪いと感じている人が多いことを示しています。
 最近の推移を見ますと、2018年に入ってから、ずっと50を下回る水準が続いています。7月は46.6、8月は48.7、9月は48.6となっています。
 この夏は、豪雨や台風、北海道の地震など、経済的にインパクトが大きい災害が多く起こりました。11月14日に発表される7〜9月期のGDPについて、民間調査会社の予測は、マイナスとの見方が大勢です。
 この先を考えると株価も不安材料でしょう。10月2日に日経平均株価はバブル崩壊後最高値を更新しましたが、その後、世界的な株安などを受け、株式相場は乱高下しています。富裕層を中心とする消費者心理にも悪影響を与える可能性があり、景気の動向は予断を許さない状況と言えるでしょう。
 ちなみに最近の東証1部全銘柄のPER(株価収益率=株価÷1株当たり純利益)は、14.03倍、日経平均採用銘柄は12.60倍(いずれも11月6日時点)ですから、それほど高いわけではありません。この先、貿易摩擦問題などもあり、企業収益も不透明なところもありますが、今のところはそれほど割高感はないと思います。
 以上を踏まえますと、戦後2番目の景気拡大を続けているという点、予算編成や統一地方選挙の時期などを加味しますと、景気の先行きが読みにくくなっていることから、安倍首相が10月15日に消費増税を明言したのは、タイミングとしてはベストだったのではないでしょうか。11月14日に発表予定の2018年7〜9月期のGDPがマイナスになりますと、消費増税の発表はやりにくくなりますからね。
企業業績も落ち込み始める可能性が高い
 国内景気の判断材料として、大きなポイントとなるのは企業業績の動向です。
 企業業績は2018年4〜9月期決算発表を見る限り、今のところ好調ではありますが、今後、次の2つの要因から落ち込む可能性があると私は考えています。
 まず、消費者心理の冷え込みです。株価の乱高下、気候変動、あるいは、秋も深まり気温の低下などがあると、人々は今まで通りに積極的に消費をしようとしなくなることが考えられます。
 もう一つは、米中摩擦の影響です。前回のコラム「『米国第一』は意外に正しかった」でも述べましたが、米中貿易戦争の勝敗は明確です。
 2017年の貿易統計によると、米国のモノの貿易赤字は7962億ドルであり、そのうち対中赤字は約半分の3752億ドル。一方、中国の貿易収支は4215億ドルの黒字。中国にとっては貿易黒字の大半を米国から稼いでいるわけですから、米国側が輸入品に関税をかければ、中国は大きなダメージを受けることは避けられません。
 中国の2018年7〜9月期の実質GDPは、前年同期比6.5%と成長が鈍化しつつあります。中国政府は景気後退の可能性を見越し、早くも強力な景気刺激策を講じようとしています。
 中国政府は、やると決めたら徹底的に巨額の投資をして景気対策に臨むでしょうが、それでも景気は落ち込んでゆく可能性があります。これに加え、今のところはまだ影響が出ていませんが、米国への輸出に大きな影響が出るようなことがあれば、中国経済はかなり厳しい状況に追い込まれる恐れもあるでしょう。
 そうなりますと、日本経済への影響も免れません。トランプ政権は、中間選挙で議会にねじれが生じ、メキシコ国境に「壁」を作るなどの予算をともなう公約を実行するのが難しくなる可能性があるので、これまで以上に対外的には「アメリカファースト」を強調するのではないかと私は懸念しています。これは日本経済にとってもちろんマイナスとなります。今後の貿易政策も含めて、注視し続ける必要があります。
日銀は打つ手なし。経営者は衝撃に備えるべき
 冒頭でも触れましたが、私は最近、お客さまである経営者たちに向けて、「景気後退の衝撃に備えてください」と呼びかけています。これまでお話ししてきたように、日本国内の景気はすでにピークアウトしている可能性があるからです。
 少なくとも、現在の景気の状況がいつまでも続くことはあり得ません。リーマン・ショックほどの衝撃は来ないとは思いますが、これまでの好景気の反動で、業種によっては大きなダメージを被る可能性もあります。経営者は、現在の景気を前提にした経営計画を立てるべきではありません。
 本格的な景気後退が到来した場合、日銀はもう打つ手がありません。日銀が10月30〜31日に開いた金融政策決定会合では、短期の政策金利をマイナス0.1%、長期金利にあたる10年物国債利回りをゼロ%程度に誘導する金融緩和策の維持を決定しました。
 この先、景気後退期がやって来てしまったら、日銀はどのような対策を講じるのでしょうか。米国は着実に金利を上げつつあります。欧州は少し出遅れてしまいましたが、今年末には量的緩和を終了すると表明しています。日本だけが、出口の目途すら立っていないのです。
 このところ日銀当座預金残高が390兆円台に張り付いていることから、日銀は国債買い入れを事実上減らす「ステルステーパリング」を行っているようにみえますが、新たな景気対策として打つ手がないことに変わりはありません。
 とくに景気変動の影響を受けやすい業界では、今のうちから手元流動性を高め、設備投資を従来水準より控えるといった対策を始めた方がいいでしょう。
消費増税対策、やるならシンプルな方策に
 景気が減速していく中で、2019年10月の消費増税を迎えると、消費は予想以上に大きな冷え込みとなる恐れがあります。前回(2014年)の増税時はそうでした。
 政府はそれを予想しているからこそ、増税のインパクトを緩和させるために、様々な対策を検討しています。
 確かに、増税対策を講じることは必要です。しかし、期間限定でややこしい対策をするくらいなら、1年間増税を延期する方が良いのではないでしょうか。少なくとも、キャッシュレス決済へのポイント還元策と抱き合わせにするなどという方策を増税対策と同時に行うことは、企業の立場からはいかがなものかと思います。
 一時的な対策では企業や店舗はそのためだけのシステム変更のために投資や手間がかかります。あまりにも企業の立場を無視しすぎています。
 もちろん、増税を再延期することになれば、国債の格付け低下など、日本の財政に対して国際的な信認が失われるという見方もあるでしょう。
 それを懸念するのであれば、増税はするけど1年間だけ猶予期間を設ける、あるいは増税幅を1年目は1%にするなどという形にすればいいのではないでしょうか。
 ここまで話してきたように、日本の景気の動向を考えると、そもそも消費増税の実現の可能性にも懸念があると感じますが、それとともに、増税のやり方をどうするのか。増税前の駆け込み需要や、その後に控える反動減のインパクトを緩和するためにはどのような方策が適切なのか。まだまだ検討の必要性を感じます。


このコラムについて
小宮一慶が読み解く経済の数字・企業の数字
 2020年東京五輪に向けて日本経済は回復するのか? 日銀の金融緩和はなぜ効果を出せないのか? トランプ米大統領が就任した後、世界経済はどこに向かうのか? 英国の離脱は欧州経済は何をもたらすのか? 中国経済の減速が日本に与える影響は?
 不確定要素が多く先行きが読みにくい今、確かな手がかりとなるのは「数字」です。経済指標を継続的に見ると、日本・世界経済の動きをつかむヒントが得られる。
 企業の動きも同様。決算書の数字から、安全性、収益性、将来性を推し量ることができる。
本コラムでは、経営コンサルタントの小宮一慶氏が、「経済の数字」と「会社の数字」の読み解き方をやさしく解説する。

https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/011000037/110900046

 

米国公的債務の膨張にやきもきし始める投資家
元利払いで1日14億ドル、新議会に突きつけられる大きな課題
2018.11.12(月) Financial Times
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ロシア疑惑関連の機密報告をバズフィードに漏えい、財務省職員を逮捕 米
米首都ワシントンにある米財務省の建物(2016年3月10日撮影)。(c)Andrew CABALLERO-REYNOLDS / AFP〔AFPBB News〕

 先月、米国の中間選挙が近づくなかで、有権者が見たらたじろいだに違いない試算をドイツ銀行のアナリストチームが公表した。

 米国政府による公的債務の元本返済と利息支払いの合計額が現在、毎日(そう、1日当たりで)14億3000万ドルに達しており、ほかの主要7カ国(G7)諸国の10倍以上になっている、というのだ。

(この恐ろしいランキングで、1位の米国とはかなりの差がある第2位につけているのはイタリアだ)

 米国経済の規模の大きさを考慮しても、これは衝撃的な額だ。しかし、それだけでは済まない。

 さらに考えさせられるのは、この10億ドル規模の支払いは、歴史的な基準に照らせば金利がまだかなり低い水準にとどまっている時期に実現しているということだ。

 それゆえ、米連邦議会は重要な問いを1つ突きつけられたことになる。

 もし金利が今よりも通常に近い水準に上昇したら(あるいは、そうなる時に)、公的債務とその元利返済は一体どうなるのか、という問いだ。

 最近までは、投資家も有権者もこの問題を特に気にしていないように見えた。なるほど、ここ数年は世界中の資産運用担当者が米国債を買いに来ている。

 債務残高が15兆ドルを超える事態になっても、その傾向に変わりはない。

 そのうえ、ドナルド・トランプ大統領の政権が大型減税を発表して債務をさらに積み上げた昨年には、かつて恐れられていた「債券自警団」もほとんど死んでいるように見えた。

 しかし、市場は神経質になってきている。中間選挙が行われた週に何があったかを振り返ってみるといい。

 開票作業が行われた6日夜には、共和党候補の優勢が伝えられるたびに債券利回りが跳ね上がっていた。

 ところが民主党議員の当選を示す青色が米国の地図上で多くなり、民主党の下院奪還が決まると、利回りは元に戻った。

 楽観的な人ならば、そんな変動は、共和党は民主党よりも経済成長志向が強いという認識「だけに」よるものだと言うかもしれない。

 実際、ホワイトハウスで経済政策のアドバイザーを務めるラリー・クドロー氏は先日、本紙フィナンシャル・タイムズに対し、米国の長期金利が今年に入ってじりじり上昇している最大の理由は――米連邦準備理事会(FRB)の利上げを除けば――共和党の減税によって実現した景気拡大を投資家が好感しているからだと述べた。

 また、金利の上昇が財政に脅威をもたらしつつあるとの見方を一蹴し、米国なら債務を「経済成長によって克服」できると主張した。

 しかし、この週の金利の変動については違う解釈もできる。

 一部の投資家が現政権の財政スタンスに不安を募らせた揚げ句、民主党が下院を支配してくれればトランプ氏にタガをはめてくれると期待した、という解釈だ。

 また、投資家たちがなぜそのような心配を始めたのかについては、簡単に理解できる。

 前述した1日当たりの元利返済額に話を戻そう。

 米議会予算局(CBO)によれば、米国が2018年に支払う借入利息は、差し引きで約3180億ドルになる。今のところは、米国全体の予算に比べれば手に負える数字に見える。

 しかしCBOの計算によれば、現在の政策軌道が維持され、かつ金利水準が長期平均――10年物国債利回りで3.7%、3か月物財務省短期証券利回りで2.8%――に向けて上昇すると想定するなら、1年間の元利返済額は2028年までに3倍に膨らみ、金額で言えば1兆ドル近くに達するという。

(ちなみに、現在の利回りは10年物が3.2%、3カ月物が2.34%で、上記の想定はこれらを少し上回るだけだ)

 もしそうであるなら、利息の支払いは遠からず米国政府で3番目に大きな歳出項目になり、防衛費すら上回ることになる。

 しかし、CBOの想定よりも金利が早く上昇したら、状況はもっと悪いものになるだろう。なぜなら、米国の債務にはもう1つ、平均償還年限がわずか6年だという衝撃的な側面があるからだ。

 この年限はほとんどの欧州諸国よりも短いうえに、トランプ政権下で――嘆かわしいことに――短くなっている。

 例えば、米財務省は中間選挙の前に、財政赤字が史上初めて1兆ドルを突破するとの見通しをこっそり明らかにした。

 この赤字を埋めるために、スティーブン・ムニューシン財務長官は830億ドルの国債の売り出しを計画している。こちらも史上最大で、世界金融危機直後の国債発行が小さく見えるほどの規模だ。

 衝撃的なことに、ムニューシン氏はこの半分近い約370億ドル分が発行の3年後に償還されるとの見通しを明らかにしている。

 そのような短い償還期間では、ロールオーバーリスク(注1=満期時に思うように借り換えができないリスク)に直面しやすくなってしまう。

 では、ホワイトハウスが方針転換し、こうしたリスクに取り組み始める可能性はあるだろうか。

 期待はできない。民主党が過半数を握った下院ならおそらく、これ以上の減税は防ぐことができるだろうが、政策面での大規模な巻き返しまではできそうにない。

 しかし、もしトランプ氏が7日に語ったように本当に民主党と「協力」したいのであれば、何らかの債務削減戦略を超党派で策定する道を探ることは良い出発点になるだろう。

 いっそ、前政権下で分別のあるアイデアを出したシンプソン・ボウルズ委員会(財政責任改革委員会)の新バージョンを立ち上げてみてはどうだろうか。

 わくわくするニュースには必ずしもならないだろうが、これこそが米国の有権者と投資家が心の底から望んでいることだ。

 FRBがまだ利上げを続けるつもりでいることを考えると、なおさらだ。

 1日当たり14億3000万ドルという目の玉が飛び出るような請求書を誰かが大統領に突きつけ、対策を講じるように促してくれることを祈ろう。

By Gillian Tett

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54639


 

 
米選挙が示す「トランプ的なるもの」の新常態化
インタビュー
民主党は左バネで下院を制す
2018年11月12日(月)
森 永輔
米国の中間選挙が終わった。米国政治に詳しい、上智大学の前嶋和弘教授は「結果は引き分け」とみる。上院の過半数を維持した共和党は「トランプ党」に変貌。下院の過半数を奪還した民主党は、「左バネ」を効かせて得票を伸ばした。
(聞き手 森 永輔)

ミネソタ州の下院選に勝利したイルハン・オマル氏。同氏は元ソマリア難民。8歳の時に米国に移り、苦労した末、今回の当選に至った(写真:AFP/アフロ)
米国の中間選挙が複雑な結果に終わりました。まだ全議席が確定していませんが、上院は与党・共和党が過半数を維持。下院は野党・民主党が過半数を奪還しました。2010年の中間選挙で共和党に多数派を奪還されて以来のことです。共和党と民主党、果たしてどちらが勝利したのでしょうか。
前嶋:私は「引き分け」とみています。共和党が勝ったとも、民主党が勝ったとも、見えますよね。

前嶋和弘(まえしま・かずひろ)
上智大学総合グローバル学部教授。専門は米国の現代政治。中でも選挙、議会、メディアを主な研究対象にし、国内政治と外交の政策形成上の影響を検証している(写真:加藤 康)
 共和党にとって上院での勝利は想定の範囲内でした。改選議席35のうち26議席が民主党。民主党が過半数を得るためには35議席中28議席を取らなければなりません。これは無理な話です。
 一方、共和党が下院で敗北するのも想定の範囲内だったでしょう。約40人の現職議員が出馬を取りやめ引退しました。民主党の引退議員は約20人。この差である20議席を、共和党は戦う前から失ったようなものでしたから。現職が出馬しない選挙区では、反対党の候補に一挙に風が吹きます。米議会の選挙では現職の再選率が90%程度なので、この20議席が勝敗を決しました。
 これらの理由から、予想通りの選挙結果になったといえます。
 共和党は、下院においてぼろ負けすることはありませんでした。トランプ大統領が「完全勝利」というのも、まるっきりの間違いとは言えません。
「トランプ的なもの」が認められた
前嶋:「引き分け」にはもう一つ別の意味もあります。今回の選挙結果が「トランプ的なもの」が認められたことを示す−−と解すことができるからです。
 2016年の大統領選でトランプ氏が勝利したとき、「トランプ的なもの」は、ちょっとおかしな人たちが信奉するものと考えられていました。しかし、それがかなり浸透したことが明らかになった。共和党については、トランプ大統領が乗っ取ったといっても過言ではないでしょう。トランプ氏をよすがに勝利した人がたくさんいます。
テキサス州上院選で勝ったテッド・クルーズ氏ですね。2016年の大統領選でトランプ氏と激しく対立しましたが、今回は接戦の中、トランプ氏の応援をあおぎました。
前嶋:そうですね。ほかにも、フロリダ州知事選を制したロン・デサンティス氏がいます。子供と積み木をしながら「壁を築け」と語るキャンペーン映像が印象的でした。
 ジョージア州知事選を戦ったブライアン・ケンプ氏も「トランプ的」です。「移民を追い出す」と明言していました。皮肉にも激戦の相手は、初のアフリカ系女性知事になるかもしれないステイシー・エイブラムス氏です。この選挙は11月11日時点でまだ決着がついていませんが、トランプ氏の支持がなければケンプ氏の優位は大きく揺らいでいました。
 こうした「トランプ的」な人が増える一方で、穏健派の議員らは引退していきました。穏健派の引退も共和党のトランプ化をうながしたといえるでしょう。
下院議長を務めたポール・ライアン氏の引退が大きな話題になりました。
前嶋:加えて、トランプ大統領と激しく対立したボブ・コーカー上院議員も引退しました。トランプ大統領が北朝鮮を挑発するのを懸念し、「トランプ大統領は『第3次世界大戦への道』に巻き込みかねない」と警告していました。
 共和党は「トランプ」と「田舎」「宗教保守」の党に変貌したのです。あとは、ビジネスパーソンですね。減税政策を好感している人たち。
民主党の支持層拡大阻止と司法の「永続保守革命」
「トランプ的なもの」は浸透したのでしょうか、それとも、もともと存在していたものが、トランプ氏の登場を契機に顔を出したのか。
前嶋:両方の面があると思います。白人の生活が以前より苦しくなる中で「浸透」していった。同時に、トランプ大統領が選挙運動をする中で「掘り起こし」てきた。
「トランプ」「田舎」「宗教保守」の中心をなすのは白人層ですね。黒人やヒスパニックが増える米国の人口動態を考えると、共和党は先細りしませんか。
前嶋:はい、90年代半ばからそうした指摘がなされています。
 『The Emerging Democratic Majority』(John B. Judisと Ruy Teixeiraの共著、2004年)という書籍が、ヒスパニックを取り込むことで民主党が多数派になることを予言していました。実際に、その方向にあります。
 ただし、共和党も手をこまぬいてはいません。G.W.ブッシュ大統領は2000年の大統領選挙では演説にスペイン語を取り入れるなどして、ヒスパニックの取り込みに努力しました。2004年の再選でも同じようにヒスパニック系の動員を進めました。これが、フロリダ州でマルコ・ルビオ上院議員が登場するなどの布石になっています。同氏はキューバ系アメリカ人です。
 ただし、トランプ大統領は今、取り込みとは逆の動きに出ています。これ以上、非白人が増えないよう移民の流入をとどめる対策を進めている。移民への厳しい対応は共和党の延命を図る選挙対策でもあるのです。
 実はトランプ大統領は共和党に対する大きな置き土産をすでに残しています。一つは今ふれた、移民対策を通じて民主党支持層の拡大を阻止すること。もう一つは、保守派の判事の任命です。代表は、ブレット・カバノー氏を最高裁判事に任命した。最高裁判事は終身制ですから、司法の世界において、保守層の意向が末永く反映されることになる。今後30年を見据えた「永続保守革命」を実現したのです。
 あまり報道されていませんが、高裁や地裁のレベルでも、保守派の判事を続々と任命しています。トランプ政権は人事が遅い−−と言われますが、司法の人事に関してこの批判は当てはまりません。
「オバマ連合」に再生の兆し
民主党も変わりました。
前嶋:はい。大きく言えば、「都会」と「カントリークラブ」(郊外に住む高学歴・高所得層が通う会員制ゴルフクラブ)層)の党になりました。あとはエリートですね。このため、貧しい人々の支持をすくい切れていない面があると思います。
今回の中間選挙では左バネが強く効いた印象があります。
前嶋:そうですね。2008年の大統領選で風を起こした「オバマ連合」が再生の兆しをみせました。若者、女性、マイノリティーです。今回の中間選挙で投票率が上がった一因は彼らが積極的に参加したことにあると思います。
 民主党は下院選で、435選挙区に183人の女性候補を立てました。知事選でも、35州のうち15州を女性候補で戦いました。
バラク・オバマ前大統領が、民主党候補を応援すべく各地を回りました。前例のないことですね。
前嶋:おっしゃる通りです。米国政治における対立の構図が変化していることの表れだと思います。米国政治のもともとの姿はホワイトハウスと議会が相互にチェックする構図です。2002年の中間選挙で、G.W.ブッシュ大統領が共和党候補を応援して全米を行脚したときには、これを批判する世論が盛り上がりました。
 しかし、いまは共和党と民主党が対立し、大統領および大統領候補・経験者がそれぞれの頂点に立っている。
日本の議院内閣制みたいですね。
前嶋:そうなのです。
民主党に話を戻すと、タレント不足が気になります。タレントとして名前が挙がるのは高齢者ばかりです。
前嶋:過半数を取り戻した下院は、ナンシー・ペロシ氏が再び議長に就く可能性が高いですね。同氏は87年に初当選して以降、30年以上、議員を続けている大ベテラン。もう78歳です。リベラル系の雑誌である「アトランティック」でさえ、「民主党はペロシではまとまらない」という批判的な特集を掲載していました。
 下院民主党でナンバーツーのステニー・ホイヤー院内幹事は79歳、上院トップのチャック・シューマー院内総務は68歳。しかも、どちらも民主党全体は束ねるタイプではありません。
 テキサス州の上院選でクルーズ氏と激戦を演じた民主党・新人のベト・オルーク氏は38歳と若く、期待されましたが、当選することができませんでした。
対立が続き、政策は進まない
中間選挙が「引き分け」に終わったことで、今後の政局はどうなるでしょう。
前嶋:やはり、滞ると思います。2010年の中間選挙以降のオバマ政権と同じ苦境に陥る可能性がある。議会内で共和・民主両党が対立し法案が通らず、政策が前に進まない。
政策ごとに対立状況を伺います。メキシコ国境の壁については……
前嶋:対立するでしょう。民主党は「絶対にノー」です。
ペロシ氏が「超党派で進められる分野」としてインフラ投資を挙げていますが……。
前嶋:ペロシ氏の発言は「壁はやめろ」というメッセージなのだと思います。
トランプ大統領が選挙の直前に提案した中間層向けの新たな減税についてはいかがですか。
前嶋:共和党が想定する「中間層」と民主党が想定する「中間層」が異なっている可能性があります。共和党がいう「中間層」の方が所得が高い。
 それでも、協力ができないわけではない。ですが、ここで協力すると、財政赤字の問題が浮上します。
もともと財政の均衡を重視していた共和党が財政赤字を拡大させ、もともと大きな政府を容認してきた民主党が財政均衡を強く要求している。逆転現象が起きています。
前嶋:おっしゃるとおりです。なので、小さな政府を信奉するリバタリアンの考えを持つ人々が共和党から離れていく傾向も現地で調査して感じました。
財政の関連でいうと、債務上限の引き上げ問題が年明けに浮上しますね。
前嶋:対立するのか協力するのか、ここは予想がつきません。これまでは共和党が「引き上げ」に反対してきました。今回は、共和党と民主党が立場を逆にして対立するのか。
 民主党が、条件次第で「引き上げ」を受け入れるかもしれないですね。例えば、共和党がオバマケア廃止を取り下げるとか……。
 いや、オバマケアで両党が妥協するのは考えづらいですね。トランプ大統領が仮に2期務めたとして、その後も対立が続く可能性が大です。
北米自由貿易協定(NAFTA)の新協定「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」はどうでしょう。
前嶋:これは、民主党が大反対することはないかもしれません。労働組合の支援を受ける議員は保護主義的な考えを持っています。
 とはいっても、一筋縄ではいかないことも考えられます。米韓FTA(自由貿易協定)の時は2007年の署名から2010年の批准まで3年を要しました。署名したのはG.W.ブッシュ政権、批准したのはオバマ政権。それも2010年の中間選挙で民主党が敗れ、同党が下院で過半数を失った後でした。
 どの産業に補助金を出し、救うのか、という各論で共和・民主両党が対立することもあるでしょう。
米国にミサイルが飛んでこなければ、それで十分
外交はどうなるでしょう。
前嶋:内政が停滞するならば、トランプ大統領は、比較的自由の利く外交でポイントを稼がなければなりません。
 外交において強硬さを増すとの見方があります。基本はそうでしょうが、必ずしもそうとばかりはいえないと考えます。トランプ大統領の頭の中にあるのは2020年の再選です。すべてを、再選に寄与するか否かを基準に判断する。
 なので、11月末に開かれる米中首脳会談で、妥協に転じる可能性もあります。中国は「中国製造2025」のトーンを弱める政策パッケージを、実質的なナンバーツーである王岐山氏が検討しているといわれています。中国が首脳会談でこれを提示し、トランプ大統領が再選への「加点」になると評価すれば妥協するでしょう。
 マイク・ペンス副大統領が10月4日、中国に対して強硬な発言をしました。なのに「もう妥協するのか」という見方もあるでしょう。しかし、米国も自国経済を傷ませることはしたくないのだと思います。コペルニクス的展開は十分にあり得るのです。
 経済と安全保障の問題を分けて交渉を進める可能性もあります。「中国は安全保障上の脅威である」との認識が、米国内でここ1年程の間に非常に強くなりました。これは大きな変化です。
 日本に対してはTAG(物品貿易協定)交渉で強く出てくるかもしれません。トランプ大統領は「シンゾーはいいやつだけど、日本は米国をだまし続けてきた」という趣旨の発言をしています。日本が米国に輸出する車への関税を米国が見送る代わりに、日本が米国製の武器を購入する、という経済と安全保障のディールがあり得ます。もう進行しているように見えますね。
 北朝鮮に対しては、日本が思う以上に早く妥協する可能性もあることを注意しなければなりません。段階的に、朝鮮戦争の終結宣言、在韓米軍の撤退、経済支援と進む。
 トランプ大統領にとってこの問題は、6月12日の米朝首脳会談の成果で十分だったのかもしれません。北朝鮮に非核化を約束させ、米国民に「ミサイルはもう飛んでこない」と訴えることができる状況を作れればよかった。中間選挙対策としてはこれで十分だったのです。共和党支持者が考える中間選挙の争点として、北朝鮮の核問題は4月から5月までは上位にありましたが、このウエイトが下がっていきました。
 トランプ大統領は、実際の非核化を急ぐ必要はないのです。ただし、2020年の再選に向けてポイントを稼ぐべく、北朝鮮に査察を認めさせるなどの手は順次打っていくでしょう。
日本にとっては最悪ですね。
前嶋:そこは、どうでしょう。トランプ大統領と安倍晋三首相は緊密に連絡を取って、対北政策を進めていると思います。現実的にみると、非核化のペースは必ずしも遅くない気がします。
第2のオバマが生まれるなら左派から
次なる興味は2020年の大統領選に移りますね。先ほどうかがったように、民主党はタレント不足です。
前嶋:そうですね。名前が挙がるのは、前回の大統領予備選に出たバーニー・サンダース氏、オバマ政権で副大統領を務めたジョー・バイデン氏、そして有力上院議員のエリザベス・ウォーレン氏。しかし、いずれも高齢です。順番に77歳、75歳、69歳。
 40歳代で注目されるのは、カリフォルニア州上院選を制したカマラ・ハリス氏。「女性版オバマ」の異名をとる人物です。他方、「第2のオバマ」「ニュージャージー州のオバマ」と呼ばれているのは、アフリカ系のコリー・ブッカー上院議員。どちらも上院司法委員会に属しており、カバノー氏の最高裁判事承認をめぐる審議で、追及の中心となりました。
あまりに激しくやりすぎて、共和党支持者を目覚めさせたとみられていますね。
前嶋:おっしゃるとおりです。
 これまで挙げた人々はいずれも、トランプ大統領と伍すことができる人物ではありません。2020年大統領選挙をテーマに世論調査で「トランプ大統領 対 民主党候補ミスター(もしくはミズ)X」を問うと、ほぼ同点となります。ところが、このX」の部分に実際の人物名を入れると、トランプ大統領に勝つことができない。ウォーレン氏しかり、バイデン氏しかり、ブッカー氏しかり、です。
オバマ氏が再び立候補することもできるのでしょうか。今回の中間選挙での応援活動をみていると、同氏ならトランプ大統領に勝てるかもしれません。
前嶋:そうですね、しかし、再び出馬は不可能です。フランクリン・ルーズベルトが4選されたような例がかつてならあったのですが、そのルーズベルトの多選が問題となったため、直後の憲法修正22条で大統領が当選できるのは2回までとなりました。ただ、民主党内にはオバマ氏の妻のミッシェルさんを推す声が根強くあります。いまのところ、本人は強く出馬を否定してはいます」
 民主党は「第2のオバマ」連合が作れるかどうかが課題です。
「第2のオバマ」は民主党の中道派から現れるでしょうか、それともサンダー氏のような左派から現れるでしょうか。
前嶋:左派からでしょう。サンダース氏や、最年少女性下院議員となるアレクサンドリア・オカシオコルテス氏のような人たちの中からですね。共和党では明らかに右バネが効いています。その反動が民主党に現れる。
 オカシオコルテス氏はたいへんな人気を博しました。29歳の新人ながら、ベテランの共和党現職を破りました。早くから当選が確実視されていたので、他の民主党候補を応援するため、全米を遊説して回っていました。
 社会民主主義者が民主党の新しい道を開いていくのかもしれません。
 ただし、これには問題があります。現在の分断状況をさらに広げることにつながるからです。民主党の中道派が力を失うほど、共和党との妥協が難しくなります。法案はまとまらず、政策は進まなくなり、政治は劣化する。サンダース氏やオカシオコルテス氏「的」なものは、面白くはありますが問題もあります。彼らは、非合法移民摘発の象徴である「移民関税執行局(ICE)」の廃止などを訴えています。こんな政策は現実的ではありませんし、民主党内からも反発があります。
米国が直面する分断は、何が原因なのでしょう。
前嶋:米国が理想の国に向かうために経験する「生みの苦しみ」なのだと思います。第2次大戦後、米国は世界一の豊かさを享受しました。しかし、黒人差別という大きな問題があることがクローズアップされるようになります。「これを変えなければならない」という意識が高まり、公民権運動につながった。
 この時、「自由と多様性こそ力だ」という理念が同時に意識されるようになりました。そして、1965年に改正された移民法が決め手でした。これが中南米からの移民に道を開いたのです。
 現在、起こっているのは、この多様性を受け入れる壮大な実験に対する反動です。多様性を助長する法律やルールが、社会と政治に分断をもたらした。多様な人々を受け入れることによって「仕事を失った」などと考える既存の国民が反発したのです。「Make America Great Again」はこうした人々にとってマジックワードとなりました。
 オバマ氏がこんな名言を残しました。「トランプ氏は原因ではなく現象である」。米国には、「分断」という原因がすでにあって、トランプ大統領がこれを体現した、という意味です。
 ただし、「多様性を受け入れることは素晴らしい」と考える人たちももちろんいます。今回の中間選挙で、ソマリア難民だったイルハン・オマル氏や、パレスチナ系ムスリムのラシダ・タリーブ氏、ネイティブアメリカンのデブ・ハーランド氏らが当選しました。
 オマル氏は内戦下のソマリアから米国に8歳の時に逃げてきました。米国でも苦労した末、今回の当選に至った。

ニューメキシコ州の下院選で当選したデブ・ハーランド氏。ネイティブアメリカンの女性で初めて下院議員に(写真:AFP/アフロ)
トランプ氏が「Make America Great Again」と唱えるのに対して、彼女たちは伝統的な「American Dream」を体現したわけですね。
前嶋:はい。「Great Again」ではなく、多様性を受け入れる広い度量を米国が持っていて、すでに「Great」であることを証明した。
 今回の中間選挙は「トランプ的なもの」が受け入れられたことを示すと同時に、「多様は力」という理念を信奉する力がいっそう強くなったととらえることができます。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/interview/15/230078/110900172

 


米中間選挙後、トランプ大統領は何を仕出かすか
まずは司法長官、次は特別検察官の首、そしてその後は・・・
2018.11.12(月) 高濱 賛
「無礼」「国民の敵」トランプ氏、CNN記者と口論 ホワイトハウス出禁に
米中間選挙後にホワイトハウスで行われた記者会見で、米CNNのジム・アコスタ記者(中央)と白熱した様子で言葉を交わすドナルド・トランプ大統領(右、2018年11月7日撮影)。(c)Mandel NGAN / AFP〔AFPBB News〕

ペロシ民主党下院院内総務がチラつかす「天下の宝刀」
 ドナルド・トランプ大統領の型破りな2年間の政治を米国民がどう評価するか注目された米国の中間選挙。 

 米国の有権者は、上院はトランプ共和党に軍配を上げたが、下院ではイエローカードを突きつけた。

 下院は予算決定権限を持ち、大統領を弾劾できる「天下の宝刀」(弾劾発議権)もある。

 立法調査権で大統領のロシアゲート疑惑はもとより資産チェック、巨額脱税疑惑、政治資金不正利用容疑まで徹底的に調査ができることになる。

 それでなくとも叩けば埃の出てくるトランプ大統領は戦々恐々だろう。

 ロシアゲート疑惑捜査への関与を拒んできた、かっての腹心・ジェフ・セッションズ司法長官を解任し、司法省内のイエスマンを据えようと目論む大統領の心中は、穏やかならざるものがある。

 もっとも、負けん気のトランプ大統領は選挙直後は強がって見せた。

 開票結果を見て「上院では過半数を取った。現職大統領が初の中間選挙で過半数を取ったのはジョン・F・ケネディ第35代大統領以来だ」と豪語した。

 同じことを記者会見でも繰り返したが。天敵のCNNの記者からロシアゲート疑惑について質問されるや色を成した。

 その記者にはすぐさまホワイトハウスへの出入り禁止を命じた。理由はマイクを取り上げられた時に係のインターン女性の体に触れたセクハラだからだというのだが・・・。

45年前の「土曜日の夜の虐殺」の再来はあり得るか
 大統領としては、セッションズ長官の首を斬り、返す刀でロバート・モラー特別検察官の首も取るつもりだろう。

 そうすることでロシアゲート疑惑捜査の幕を下ろすのが狙いだ。しかし、それがどんな結果をもたらすのか――。

 普通の人間なら思案するところだが、想定外のことをするトランプ大統領だけに何をやるか、分からない。

 ウォーターゲート疑惑捜査を続けるアーチボルト・コックス特別検査官を更迭、その過程でエリオット・リチャードソン司法長官とウィリアムス・ラッケルズハウス司法副長官を辞任に追い込んだリチャード・ニクソン第37代大統領。

 その「Saturday Night Massacre」(土曜日の夜の虐殺、1973年10月20日)が究極的には弾劾につながった悪夢をトランプ大統領が知らないはずもない。

 来年1月開会の新議会ではナンシー・ペロシ民主党下院院内総務(新議会ではおそらく下院議長)率いる民主党は徹底抗戦に出るのは必至。

 ロシアゲート疑惑を巡る攻防だが、それだけではない。2020年の大統領選を視野に入れた民主、共和両党の前哨戦はすでに火ぶたが切られている。

中間選挙で一層浮き彫りになった「分裂国家」の様相
 今回の選挙でより一層鮮明になったのは、米国の分裂化だ。

 大都市と地方、東部・西部と南部・中西部、白人と非白人(黒人、ラティーノ、アジア系)、保守とリベラル、大卒と高卒以下、女性と男性、世代、そしてホワイトハウスと主要メディア。

 その間にできた溝はより広く、深くなっていることだった。まさに「2つの国家」が出現した様相を呈している。

 実は、今回紹介する新著の著者、タッカー・カールソン氏はこう言い切って憚らない。

 「アメリカ合衆国は、今、1860年、奴隷制撤廃か否かで真っ二つに割れた、あの時と同じような分裂状態にある。あの時はその直後に南北戦争に突入したのだ」

 今回の選挙結果は、米国の分裂化がここまで進んでいることを全世界に露呈した。

 フランスの人口学者、エマニュエル・トッド氏が説く「米国の失墜」は、外的要因よりもむしろ内部分裂によって加速するのではないか、と憂慮する人も出ている。

 こうした国家分裂状態についてトランプ大統領はどう見ているのか。このままでいいと思っているのか。

 大統領は連日のように、ツィッターで重要な外交案件から個人的な感情まで流している割には、その本心が伝わってこない。

「私の支持者は過激なレトリックを望んでいる」
Ship of Fools: How a Selfish Ruling Class is Bringing America to the Brink of Revolution by Tucker Carlson Free Press, 2018
 選挙の直前の11月1日、大統領はオンライン・ニュース解説サイト「Axios」と単独会見をしている。

 そのやり取りは衛星・ケーブルテレビ局のHBOでも放映された。

 トランプ大統領はこのインタビューでこう発言している。

 「(主要メディアを敵対視していることについて)私についてネガティブなことばかり報じているメディアを攻撃するのは当然のことだ」

 「私がやっていることは正しい。それを(メディアが)批判ばかりしているから反論しているに過ぎない」

 「私について正しい報道をすれば、私ほど高尚で物分かりのいい大統領はいない。私の支持者は選挙演説で(リベラル派やメディアを叩く)過激なレトリックを要求しているのだ」

https://www.axios.com/trump-axios-hbo-media-enemy-of-the-people-441ae349-3670-4f7d-b5d5-04d339a15f68.html

 自分の政治理念やスタンスを全く理解してくれない主要メディアへのいら立ちがほとばしっている。

 だとすれば、国論を統一するよりも自分に賛同し支持してくれる有権者だけを相手に選挙を戦い、勝つだけだという論理だ。

民主、共和両党の『愚か者たち』に牛耳られたワシントン
 トランプ大統領の熱烈な支持者の間でブームを呼んでいる本が中間選挙の直前に出ている。

 著者のカールソン氏は保守系フォックスニュースの人気キャスター。タイトルは『Ship of Fools』(愚か者たちの船)*1。

 サブタイトルは『How a Selfish Ruling Class is Bringing America to the Brink of Revolution』(利己的な支配階級はいかに米国を革命のがけっぷちに追いやろうとしているのか)。

*1=キャサリン・アン・ポータ―の長編小説を映画化した同じ題名の映画が53年前に制作されている。4部門アカデミー賞を受賞している。ドイツ・ナチスが君臨する1930年代初頭メキシコからドイツに向かう豪華客船という閉鎖空間で繰り広げられる上流階級の人間模様を描いた作品。

 カールソン氏はフォックス・ニュースの前にはCNN、MSNBCといったケーブルテレビのキャスターを務めていた経験もある。

 今回の選挙の最中、共和党候補の集会にトランプ大統領に同行して演壇にも立ったショーン・ハニティ氏のような超保守派ジャーナリストとは一線を画す穏健派だ。

 カールソン氏は、一般大衆の生の声を無視し続けてきた民主党インテリ・リベラル派を激しく批判。

 返す刀で「共和党の守護神のように振舞う教条主義的な保守派知識人たち」を一刀両断にしている。

 「2016年は大衆民主主義にとって画期的な年と位置づけられるだろう。これまで米政治や経済を牛耳ってきたエリートたちが選んできた大統領に代わって、ドナルド・トランプという全く政治経歴のない人間が大統領になったからだ」

 「彼を大統領に押し上げたのはブルーカラーやキリスト教保守といった、これまで日の目を見なかった一般大衆だった」

 「それまで米国を支配していたのは寡頭政治(Oligarchy)だった。こいつらが民意を反映した民主主義を行っているようなふりをしていただけで、そこには一般大衆の声を吸い上げる真の民主主義はなかった」

 「しかも彼らは、米国に生まれ育った中産階級の勤労者たちが、自分たちの両親より少ない賃金で生活しているという実態から目をそらしている」

 「エリートたちは、多くの中産階級の男たちが絶望から逃避するために麻薬に走ったり、自殺している現実を無視している」

 「民主党や共和党のエリートのイネブラー(Enabler=やろうと思えば実現できる人、既存の政治家やそのブレーン)はこうした中産階級の人たちのために何かやろうとはしてこなかった」

 「彼らは結託して海外に米軍を駐留させ、無駄なカネを使い、金融資本主義のグローバル化を促進してきた」

 「エリートたちは、少なくともトランプ氏が大統領になるまで何もしようとしなかった。その結果、中西部と米国の製造基盤を完全に崩壊させてしまったのだ」

トランプ大統領の狙いはエリート・イネブラーの一掃
 カールソン氏は、イネブラーとしてリベラル派では作家兼評論家のマックス・ブーツ氏、保守派では保守言論界の重鎮、ウィリアム・クリストル氏、中道派ではフェイスブックの共同創業者、マーク・ザッカーバーグ氏を「イネブラー」の典型に上げている。

 「こうした閉塞状態にある米国を再生させるにはどうすべきか。2つの選択肢がある」

 「1つは民主主義体制をやめて、権威主義体制を導入すること」

 「もう1つは、大衆の声などには一切耳を貸さぬエリート・イネブラーを一掃して大衆民主主義を徹底させることだ。私は後者を支持する」

 カールソン氏によれば、トランプ大統領が強引とも思われる「米国第一主義」を掲げて突っ走っている理由は、民主、共和両党を牛耳ってきたエリート・イネブラーを一掃するためだというのだ。

 カールソン氏は、ニューヨーク・タイムズが9月5日付けで掲載したトランプ政権の高官によるトランプ大統領告発文についてこうコメントしている。

 「この某政府高官は『大統領は何をしでかすか予測ができない気まぐれなボスで、政策に弱く、言語道断なことをやっている』と批判している」

 「大統領の言動を見ればその通りだ。トランプ大統領の特徴は、彼は公的な場でも私的な場でも全く変わらないことだ」

 「大統領には秘密のペルソナ(仮面をかぶった人格)というものがない。これまでの大統領たちのように外的な顔がない」

 「感じたことをそのまま口にする。選挙公約したことをそのまま実行しようとする」

 「もう1つ、トランプ大統領の政治理念はワシントンに半永久的に住み着いてる政治家や官僚とは異なるということだ」

 「だからワシントンのエスタブリッシュメントは大統領に反発するし、大統領がやろうとすることを妨害しようとするのだ」

 「多くの政治家たちは選挙で選ばれた後は投票してくれた人たちに忠実ではなくなる。それこそが問題なのだ」

 大統領の本心を忖度するカールソン氏だが、同氏が支持するトランプ大統領が清廉潔白な人物なのであれば、ある程度頷ける。

 だが、問題はトランプ氏がロシアゲート疑惑はじめ脱税疑惑、セクハラ疑惑などで疑惑だらけの人物だということだ。

「愚か者」はエリートか、それともトランプ大統領か
 選挙結果についてコメントを求めた元政府高官の1人は筆者に以下のような一文をメールしてきた。

 「かって言論界で健筆を振るったH・L・メンケン*2というジャーナリストがいる。そのコメントは今も引用されている。その1つにこんなコメントがある」

 「『民主主義が完璧に遂行されていれば、米国民の魂により近く寄り添う大統領が生まれる。だが愚かな民たちのすべての望みがかなう素晴らしい日、ホワイトハウスの主人公には正真正銘の愚か者がなっているだろう』」

("As democracy is perfected, the office of president represents, more and more closely, the inner soul of the people. On some great and glorious day the plain folks of the land will reach their heart's desire at last and the White House will be adorned by a downright moron.")

*2=H・L・メンケン氏(1880〜1956)はドイツ系アメリカ人ジャーナリスト兼著述家。ボルチモア・サン編集局長を務めた。代表作に「American Language」がある。反ポピュリズムを主張、第1次、第2次世界大戦に米国が参戦することに猛反対した。

 カールソン氏はワシントンを占拠してきた既成政治家や官僚を「愚か者たち」と攻撃したが、メンケン氏が今生きていれば、ポピュリズムをバックに躍り出たトランプ大統領を「正真正銘の愚か者」とあざ笑うのだろうか。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54633  

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コメント
1. 2018年11月12日 13:03:08 : ZzavsvoOaU : Pa801KbHuOM[127] 報告
2018年11月12日 居林 通 :UBS証券ウェルス・マネジメント本部ジャパンエクイティリサーチヘッド

貿易摩擦、安倍政権不安定化に業績悪化

複雑に絡む変動要因

 10月2日に安倍晋三総理の自民党総裁選挙勝利を受け、日経平均株価は2万4270円を付けたかと思えば4週間後には一転して2万1149円まで下落した。

 その後、トランプ米大統領と習近平中国国家主席との電話会談が明らかになると、11月29日の米中首脳会談での貿易摩擦緩和への期待で、今度は2万2200円超えまで日本株市場は反発した。表面上は、米国の貿易政策に世界の株式市場が翻弄されているように見えるが、実際の市場の行方を決める要因はもう少し複雑であろう。

 筆者は三つの論点(下表参照)が海外投資家にとっての日本株の魅力度を決め、それらの変化が海外投資家の動向につながり、日本株の値動きのトレンドをつくると考えている(年初から10月26日までの海外投資家の先物を含む売越額は9.2兆円で、今年の最高額を更新している)。


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 第一は米国の貿易政策だ。本稿を執筆の時点では米国の中間選挙の結果は分からないが、トランプ政権の貿易政策が他国に寛容になることは考えにくい。

 多くの企業が中国に工場を建設してもよいのかどうかを決めることができなくなり、設備投資を先送りしていることは7〜9月期の決算でも垣間見えている。トランプ政権の貿易政策は、今後も海外投資家のマインドの重しになるだろう。

 加えて、日本株を海外投資家が買う大きな理由になってきた安倍政権の安定も揺らぐ可能性がある。3期目の安倍政権には消費税率引き上げ、憲法改正、外国人労働者受け入れなどの難問が待ち受けている。

 頼みの日本銀行の金融緩和政策も新味がなくなってきた。海外投資家から見れば景気対策を矢継ぎ早に出している中国市場の方が、リバウンドを取るには魅力的に映るのではないだろうか。

 そして、長期的には株価の動きに非常に重要な企業業績にも変化が見られる。8月25日号の本欄で指摘したように日本企業の業績は減速傾向にある。7〜9月期の決算は現在半数ほどの企業から発表されたが、売り上げ、利益共に予想を下回り、純利益は前年同期比でマイナス1%とわずかながら減益だ。

 日本株は現在の株価水準では過去の平均から見て割安といえ、決算後の急落が過剰反応ではないかと思われる銘柄も散見されるが、貿易摩擦の動向が見えにくいこと、加えてアベノミクスに対する期待値の変化、企業業績サイクルと複数の要因を考慮しなければ判断できない相場になっている。

(UBS証券ウェルス・マネジメント本部ジャパンエクイティリサーチヘッド 居林 通)

 今年の最安値は日経平均株価で2万0617円。2万1000円以下に株価が下落するまでは銘柄を十分に選別した投資判断が必要になると考える。
https://diamond.jp/articles/-/185032


 

2018年11月12日 ダイヤモンド・オンライン編集部

ペンス副大統領来日でFTAの地ならし、日米摩擦復活で追い詰められる日本

中間選挙を終えて会見に臨むトランプ大統領(左)とペンス副大統領

11月12日にペンス米副大統領が来日、年明けから始まる日米間の「物品貿易協定(TAG)」交渉の地ならしが行われる予定だ。TAGは、9月の日米首脳会談で合意されたものだが、実質的には日本がこれまで回避してきた「日米自由貿易協定(FTA)交渉」の色彩が濃厚だ 。(ダイヤモンド・オンライン特任編集委員 西井泰之)

 中国に「貿易戦争」を仕掛け、メキシコやカナダには「NAFTA(北米自由貿易協定)」見直しをのませるなど、荒っぽいやり方で貿易不均衡是正という“公約実現”に突き進んできたトランプ大統領は、中間選挙での“歴史的勝利”を背景に、自動車部品への25%関税や為替条項などをちらつかせて、農業分野の一層の市場開放を始めとする 成果を求めるとみられる。

 日本にとっては“想定外”の出来事の末に追い込まれたFTA交渉で、日本は受け身を余儀なくされそうだ。

トランプ大統領の「脳内摩擦」
対応に苦慮する日本政府
「80年代の日米摩擦は実体のあったリアルな摩擦だったが、今回はトランプ大統領の頭の中だけ、いうなれば“脳内摩擦”だ」。

 経産省幹部の1人は、これまでと勝手の違う対米交渉に当惑気味だ。

 日米摩擦当時は、米国の貿易赤字の半分を日本が占め、日本製品の流入に苦境に陥った業界が対策を求めて議会に陳情。議会の保護主義圧力を抑えるため、政府間交渉で日本側が輸出自主規制に応じるといったことが繰り返された。だが今は、赤字の半分近くを占める中国やEU、メキシコなどよりも低い8.6%に過ぎず、業界や米議会からも日本に対する目立った批判はない。

 にもかかわらず、日米摩擦当時、自ら新聞に日本製品の輸入禁止を求める意見広告を出したこともあるトランプ大統領の頭の中にだけ、「80年代の日米摩擦が“冷凍保存”されている」(経産省幹部)というわけだ。

 トランプ大統領の貿易や通商政策に関する考え方も、従来の米国の政策とは異なるものだ。

 トランプ大統領がこだわるのは、2国間関係を軸にした貿易収支。米国からの輸出が、貿易相手国からの輸入を上回り、あらゆる貿易相手国に対して黒字を計上することが「勝ち」だと考える、一昔前の重商主義的な発想だ。そのためには、米国の輸出が増えるよう貿易相手国に市場開放を求め、逆に相手国に高関税を課して輸入品の流入を抑えるのは当然というわけだ。

 WTO違反の一方的な措置で「制裁関税」を課したり、冷戦時代の遺物とされる「安全保障(上の)措置」を名目に、鉄鋼に25%、アルミに10%といった「追加高関税」を課したりといった“禁じ手”を使い、衰退した地域や産業の不満や格差拡大に対する国民の怒りといった内政問題を、すべて貿易政策で解決しようとするかのような強引さが際立っている。

唐突に出てきたTAG
FTA交渉に追い込まれる
 こうした中、9月の日米首脳会談で合意されたのが、「日米貿易物品協定(TAG、Trade Agreement on Goods)」の交渉開始だった。

「TAGの話は直前まで全く聞かされてなかったから驚いた」と経産省の中堅幹部は、唐突にでてきた「TAG」に困惑を隠さない。

 日本はこれまで、米国が二国間で貿易だけでなく、投資や非関税障壁などの規制も含めて包括的な自由化をすすめる「FTA(自由貿易協定)」を求めるのに対して、自由化推進は多国間の地域協定を拡大することを主張。

 トランプ政権には、当初は米国を含む12ヵ国が合意した「TPP(環太平洋経済連携協定)」への復帰を働きかけてきた。米国との二国間協定では、米国に有利な条件を押し込まれるとの懸念があったからだ。

 だが、9月の日米首脳会談では、(1)日米貿易物品協定(TAG)の交渉開始と、(2)TAG交渉妥結後に、物品貿易以外のサービスや投資などの課題について交渉することが共同声明で同時にうたわれた。

 「TAG」という呼称をひねり出したのは、日本側だった。二国間交渉を求める米国に抗しきれないと判断したものの、物品の関税交渉に絞るように見せることで、「FTA」と解釈されるのを避け、交渉範囲が輸入規制などの非関税障壁が残る農産品などに広がり、譲歩を迫られることを避けようとの思惑があった。

 首脳会談後の記者会見で安倍晋三首相は、「(TAGは)FTAとは全く違うもの」と否定した。だが米国側は、米議会に対する交渉開始の通知には、「US-japan Trade Agreement」と、「TAG」とは言わず、その後もペンス副大統領が「日本との歴史的な二国間のFTA交渉を始める」と発言するなど、日米で2通りの言い方がされている。

「総理が言うのは、これまで日本が言ってきたFTA(のやり方)とは違うという意味」と、日本側関係者は解説する。事実上は、「物品貿易」と「それ以外」の2段階に分けた形にして、日米FTA交渉の開始を飲まざるを得なかったのが実情だ。

自動車で「輸出自主規制」再び?
80年代日米摩擦に逆戻り
 米国との二国間交渉で焦点になるのは何か。

 米国は、対日貿易赤字の約8割を占める自動車と同部品について、鉄鋼と同様に「25%追加関税」を課することをちらつかせて、不均衡是正を求めている。

 先の首脳会談の合意で、交渉中に追加関税は発動しないとされたが、共同声明では自動車について「市場アクセスの交渉結果が、米国の自動車産業の製造及び雇用の増加を目指すものであることと」と明記された。

 日本が追加関税を回避するには、米国の対日輸出が増えるか、米国内の投資や雇用が増えるかといった「成果」が求められる。だが、日本の自動車関税はすでに無税になっており、米国の対日輸出が目立って増える可能性は低い。一方で、日本の各メーカーは、すでに部品を含めて米国内や周辺のメキシコなどでの生産体制を確立し、対米投資をさらに増やすといっても限界がある。そもそも、民間の投資について政府が強引に口出すわけにもいかない。

 米国はこれまでに米韓FTAの見直しや、メキシコ、カナダとのNAFTAに代わる「USMCA(米国・カナダ・メキシコ協定)」を締結。「弱い相手から先に、自国に有利な協定をまとめ、それをモデルにして日本や欧州に同じことを求める戦略をとっている」(日本側関係者)。

 例えばUSMCAでは、3年間で関税撤廃の条件である域内原産割合(3ヵ国の調達比率)を75%まで引き上げるのに加えて、製造工程の40%を時給16ドル以上の地域で行うようにするなど、米国内の工場が有利な条件が盛り込まれた。

 さらにサイドレターで、「25%追加関税」措置を除外する枠を規定、乗用車の場合は「年間260万台」、自動車部品の場合は、「メキシコからの輸入が1080億ドル相当分」、「カナダからの輸入は324億ドル相当分」とされた。

 この枠を超えると追加関税が実施されることになるため、メキシコとカナダは事実上「輸出規制」を受けることになる。また米韓新FTAでも、韓国側が対米鉄鋼輸出を2015年〜17年の平均の7割に抑える合意がされた。

 ただ、メキシコやカナダからの輸出は各170万台程度で、輸出を規制するとしてもかなり“高い天井”だ。今の生産には実害はなく、一方でトランプ大統領も国内向けに輸入車の流入に「枠」をはめたと主張できるものになった。

 こうしたことから、日本も“輸出自主規制”を迫られるという見方もある。天井を高くすれば、日本企業には実害はない一方で、米国側も「成果」を誇示できるというわけだ。

 これに対して、かつて日米摩擦交渉にあたった経産省OBの1人は「すでに90年代半ばには、こうした管理貿易の手法はよくないということで、米国を始め多くの国が認識してWTO体制の下で自由貿易を推進しようということになった。時計の針を逆戻りさせるものだ」。

 だが問題は、「80年代の日米摩擦時代で頭が止まったまま」のトランプ大統領に、そうした理屈が通じるのかどうかだ。

農畜産品で「TPP超え」譲歩か
為替条項で揺さぶり
 もう1つの焦点が、米国が従来から求めている農畜産物の市場開放だ。

 首脳会談の共同声明で、日本として「過去の経済連携協定で約束した市場アクセスの譲許内容が最大限」として、農畜産物についてもTPPの水準以上の市場開放はしないことが、一応、明記された。

 今年の年末にはTPPが発効し、来年になれば豪州などからの安い牛肉が日本に入ってくる。経産省の幹部は「不利な状況に置かれた米国の業界からの声も強まっているため、米国政府はTAGの合意を急いでおり、TPPと同じ水準で合意に応じるはず。米国だけが有利になるようなTPP以上の自由化は、日本側が統一地方選や参院選があり、とても飲めないことは米国も分かっているはず」と話す。

 しかし、「TPPは米国に不利。国益が反映されていない」とTPP離脱を決めたトランプ大統領が、それで妥協するのかどうか。

 日本側にも、妥協の糸口を探るかのような動きもなくはない。茂木敏充・経済再生相は10月16日の記者会見で、「全体的に最大限の譲歩はTPPだが、(品目ごとの最大は)それぞれ違う」と発言、場合によっては一部品目でTPP以上に譲歩する可能性に含みをもたせた。

 日本側には、一部の品目で「TPP超え」になった場合、それ以外の何らかの品目で「TPP以下」の水準にし、全体でならして「TPP並み」の自由化で収めたいという思惑が見え隠れする。

 実際、7月に署名した日欧経済連携協定(EPA)では、チーズなどの一部の品目について、TPPより自由化の水準が高いものがある。

 自動車・自動車部品への「25%追加関税」については、米国内でも自動車業界が、世界的なサプライチェーンの混乱や組み換えなどのコストを懸念して反対している。また、実施されれば輸入車価格がかなり値上がりすることになり、消費者の反発も強まると予想されている。

 このように“両刃の剣”の面があり、トランプ政権としては、TAG交渉が難航する局面で、改めて「25%追加関税」を “脅し”として持ち出し、日本に牛肉や豚肉などで、譲歩を迫るという可能性は不定できない。

 一方で、ここにきて新たな要素が加わった。

 10月中旬、ムニューシン米財務長官がインドネシアでの記者会見で、日本との二国間協定に、「為替条項」を盛り込む必要性に言及したことだ。この発言も、米国の貿易赤字は、貿易相手国による不当な通貨安政策によってもたらされていると思い込んでいるトランプ大統領の考えを代弁している面がある。

 実際、USMCAや米韓FTAでも、メキシコペソ安やウォン安誘導を禁じる「為替条項」について、強制力こそないものの付帯協定として結ばれた。

 米国内では、一部の学者から、「プラザ合意」(85年9月)のような為替調整を主張する声も出始めた。

 日本側は「為替誘導などの実態がないことは明らか」と反発する。しかし一方で、円安や株高はアベノミクスの成果と安倍政権は強調してきた。この“矛盾”を米国から突かれる可能性もある。

 こうして日本側の思いとは裏腹に、日米交渉はトランプ氏の「脳内摩擦」にとどまらず、リアルな「80年代型摩擦」の様相を帯びてきた。

日本側に誤算相次ぐ
脱グローバリズムのうねり
 “異質”のトランプ政権誕生以来、日本政府はいくつかの「戦略」を作り、貿易摩擦再燃を避けようとしてきたが、誤算が相次いだ。

 戦略の1つは、グローバル化が進み、モノやマネーの流れが一体化する世界経済の実態を理解する政権内の「グローバリスト」と、自由貿易や同盟関係重視など伝統的な考え方の人たちとの連携だった。

 政権発足後は、「米国第一主義」のバロン大統領首席補佐官らに対峙する形で、経済政策の司令塔である国家経済会議(NEC)のコーン委員長や、石油会社の会長も務めていたティラーソン国務長官らが影響力を持っていたからだ。こうした閣僚に連なる政府高官らと接触、現実的な解決策を探る狙いだった。

 実際、昨年6月、大統領との衝突などからバロン首席補佐官が辞任した際や、今年1月、世界の金融トップや企業経営者らの集まるダボス会議に出席したトランプ大統領が、「TPP復帰」の可能性に言及した際など、日本側が「潮目の変化」を期待した局面もあった。

 TPP復帰を問われ、「現実的な実体のある『取引』であれば」と語ったトランプ発言の草稿は、コーン委員長が書いたと言われている。ところが政権内の保護主義派が猛反発。結局、コーン委員長らは辞任に追い込まれた。政権に残ったのは、日米摩擦時代、USTR次席として日本に輸出規制などを飲ませたライトハイザー通商代表に象徴される、筋金入りの保護主義派だけだった。

 通商問題などを話し合う場として、麻生太郎副総理・財務相とペンス副大統領、ロス商務長官を窓口にした「新経済対話」の枠組みを作ったのも、トランプ大統領が直接、かかわらない形にして現実的な合意を探る狙いだった。

 ペンス副大統領の地元、インディアナ州にはかなりの日本企業が進出しており、日本が米国内の雇用に貢献していることが分かっているとの読みがあったが、この経済対話のチャネルが機能しなかったことも、誤算だった。ロス長官と商務省幹部の間の意思疎通も含め、商務省自体が機能しない状況が続いたからだ。

「日本はいくつかの提案を出してはきたが反応が鈍く、進捗状況を担当者に問い合わせても、まだ中の議論が進んでいない、長官に説明する時間がとれていないといった返答がしょっちゅうだった」(関係者)

 商務省やUSTRでは、議会での承認が遅れて局長クラスでも空席ポストがあることも一因だが、さらに大きな問題は、通商政策も大統領の意向次第でロス長官らも動きようがなくなっていることだ。

 こうした状況で、日本側が期待し、模索し続けてきたのが、安倍・トランプの「親密な関係」の下で、トランプ大統領が対日強硬措置に向かうのを抑えるという戦略だ。

 鉄鋼・アルミへの追加関税が3月に打ち出された際も、「日米は安保のパートナーだし、総理とトランプ大統領の関係があったから、日本は適用外になると期待した」(経産省幹部)という。だが、トランプ大統領は首を縦には振らなかった。

 逆に北朝鮮問題など、安全保障で米国に依存する日本が米国に歩調をあわせる場面はあっても、トランプ大統領が日本に配慮することはなかった。むしろ、安全保障との「取引(ディール)」で、貿易面で日本に譲歩を迫る姿勢は一貫していた。

 

しかし最大の誤算は、こうした「自国第一」の保護主義的な政策に対する米国内の支持が根強いことだろう。

 背景には、90年代後半以降、国際競争力のある金融やIT産業などを前面に、自由貿易・市場主義路線を進めたことに対する「懐疑」が国内に強まっていることがある。グローバル化の果実を得た一部の企業や富裕層に富が偏る一方で、多くの人はその恩恵を得られないまま。むしろ輸入品の流入などで、日米摩擦の時代とははるかに違う規模で多くの人が失業や所得低下の憂き目にあった。

 トランプ大統領誕生の決め手になったのも、グローバル化が加速したことで職場や雇用が減り、日米摩擦時代の「ラストベルト(錆びついた地域)」から、「フローズンベルト(凍り付いた地域」へと、地域経済が一段と疲弊した中西部の白人労働者たちの支持だった。

 こうしたグローバリゼーションに対する「懐疑」は米国だけでなく、欧州などにも広がるとともに、自由貿易を標榜してきたWTOも多くの加盟国が納得する形での貿易や投資のルール作りができなくなり、存在感が低下した。こうした「脱グローバリズム」のうねり中では、日本の対トランプ戦略にもともと限界は見えていた。

 中間選挙でもトランプ政策に支持が根強いことが示され、トランプ大統領の意識もすでに2020年の「再選」に向いている。最強国の「保護主義」にどう折り合い、どう距離を置きながら、いかに国益を確保していくのか、手探りの状況は続く。
https://diamond.jp/articles/-/185092

 


トランプ大統領を待ち受ける議会との壮絶なバトル
中間選挙で民主党が下院を奪還、疑惑追及へ召喚の黄金時代に
2018.11.9(金) Financial Times
(英フィナンシャル・タイムズ紙 2018年11月8日付)

「無礼」「国民の敵」トランプ氏、CNN記者と口論 ホワイトハウス出禁に
米中間選挙後にホワイトハウスで行われた記者会見で、米CNNのジム・アコスタ記者(手前)を指差すドナルド・トランプ大統領(2018年11月7日撮影)。(c)Jim WATSON / AFP〔AFPBB News〕

 米国大統領としてのドナルド・トランプ氏の最初の2年間の最大の偉業は、大規模な減税だった。

 残りの2年間はおそらく、大統領個人の納税申告書が公開されるか否かをめぐる壮絶なバトルから始まるだろう。

 結束した米連邦政府と割れた米連邦政府との違いは、常にとてつもなく大きい。

 今回は、そのコントラストが夜と昼ほどの違いになる。トランプ氏は中間選挙に向けた遊説で繰り返し、民主党を犯罪政党として非難した。

 6日夜、その民主党が下院の主導権を手に入れた。これは同党がトランプ政権の犯罪疑惑を調査する多数派の力を持ったことを意味する。

 民主党はこの権力をフルに活用するだろう。向こう数か月間は、議会への召喚の黄金時代になるはずだ。

 2020年の次の大統領選挙の形勢が次第に読めるようになってきた。

 ほぼ2兆ドルにのぼる減税の景気刺激策を可決させた共和党は、今世紀に入ってから最も力強い経済を背景に選挙に臨んだ。

 それでも、民主党が2010年以来初めて下院を奪還し、いくつかの州で州知事の座を獲得するのを防ぐには不十分だった。

 目下、下院選の区割りは、共和党に非常に有利になるように境界線が引かれている。

 仮に中立に線が引かれた区割りで選挙が実施されていたら、その結果は民主党の小幅な勝利ではなく地滑り的勝利になっていたろう。

 一般投票の得票率では、民主党が共和党に8ポイントの差をつけた。こうした状況を考えると、選挙結果はトランプ氏の拒絶と見なせるはずだ。

 このため、民主党にとってもう一つの優先事項は、共和党が支配する州で有権者名簿からはじかれた数百万人の米国人の投票権を回復させ、2020年の国勢調査後に区割りの線を引き直すよう州議会での権限を活用することになる。

 しかし、今回の選挙結果は、民主党が望んでいたような明確なものではない。

 まず、共和党は上院で多数派の議席を伸ばした。これはトランプ氏が司法の人事をまだまだ押し通せることを意味している。

 ブレット・カバノー、ニール・ゴーサッチ両氏に加えて最高裁判事をもう一人任命する可能性もある。米国の最高裁は向こう数十年間にわたり、保守派がしっかり握ったことになる。

 さらに言えば、民主党は期待していたように南部に攻め込むことができなかった。

 重要なスイングステートのフロリダ州は、僅差とはいえ、しっかり共和党の赤が続いた。ジョージア州では初の黒人州知事が誕生しなかった。

 また、米国の地方と準郊外は、郊外と都市部が民主党支持に回ったのと同じくらい力強く共和党を支持した。

 2018年の選挙結果は、2016年のトランプ氏の勝利後に危惧された通りに、米国が人口動態で割れていることを裏づけた。

 下院では史上初めて女性議員が100人を超える。そのうち2人はイスラム教徒で、多くはミレニアル世代。

 そして、ほぼ全員が民主党だ。一方の共和党はこれまでの下院以上に白人の男性が多いように見える。

 歴史から学ぶなら、ワシントンの膠着状態は通常、経済にとって良いことだ。今回はおそらく違うだろう。

 民主党は、経済成長がピークに達したタイミングで下院の支配権を握る。減税の刺激策が薄れていくにつれ、経済成長は来年、急減速する公算が大きい。

 トランプ氏は、この景気減速を民主党のせいにするだろう。

 また、金融緩和の刺激策という「パンチボール」を片づけてしまうことについて、米連邦準備理事会(FRB)のことも激しく非難するだろう。

 トランプ氏はわざわざ誘われなくても、2020年に向けた選挙運動が過熱するに従い、経済以外のテーマへ焦点を移していく。

 選挙戦は、ほとんど即座に白熱する。何しろ民主党では、大統領選出馬を狙う政治家が史上最大の30人を数え、中間選挙の選挙キャンペーンが終わるのを今か今かと待っていた。

 トランプ氏の方は、もっぱら地方の小さな町に暮らす白人支持基盤だけにアピールした最近の集会で、再選をかけた選挙綱領がどんなものになるかを垣間見せた。

 6日夜は、次第に人種の違いで割れるようになった米国の党派分裂の現実を改めて裏づけた。

 トランプ氏にとっては好都合だ。今後数か月、米国政治においてめったに見られない見世物があるだろう。

 政府の一部門が、大統領が犯罪者だということを訴える証拠を探す。その大統領は、自分を責める人たちに「非米国的」とのレッテルを張ろうとする。

 そして、その真っただ中で、ロバート・モラー特別検察官が、2016年大統領選のトランプ陣営がロシアと共謀した疑惑に対する捜査の報告書をまとめることになるのだ。

 多くのことが起こり得る。

 例えば、トランプ氏に対する弾劾手続き、モラー氏の解任、トランプ氏の納税申告書の公表をめぐり最高裁が大統領の味方をする事態といったことだ。

 読者がもし過去2年間が面白いと思ったとしたら、こんなのはまだまだ序の口だ。

By Edward Luce

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54621

 
2018年11月12日 週刊ダイヤモンド編集部
中間選挙を切り抜けたトランプ大統領に迫る次なる「逆風」とは?
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ポピュリズム的な政策を掲げ、破天荒な言動で世界中を混乱の渦に巻き込んできたトランプ米大統領 Photo:AP/アフロ
トランプ米大統領の「中間テスト」となった米中間選挙の結果を受け、米議会には上下両院で多数派政党が異なる「ねじれ」が生じることになった。この先、大統領選挙での再選をもくろむトランプ氏が成果づくりへ一段と過激な行動に出ることが懸念される状況にある。(「週刊ダイヤモンド」編集部 竹田幸平、竹田孝洋)

「トランプ大統領を支持するかどうか」──。端的に言えば、これこそが最大の争点となった11月6日投開票の米中間選挙。改選前は与党・共和党が多数派だった上下両院のうち、下院(定数・改選435議席)は野党・民主党が8年ぶりに過半数を奪還する一方、上院(定数100議席、改選35議席)は共和党が過半を保つ形で決着した。

 大勢判明と取引時間帯が重なった7日の東京株式市場は、現地メディアなどからの選挙速報に一喜一憂し乱高下。日経平均株価は続伸して始まった後、午後に下院での民主党の勢いが伝わると売りに押され、前日比61円95銭安の2万2085円80銭で取引を終了した。

 米中間選挙について株式市場が最も望んでいた結果は、追加減税やインフラ投資など景気浮揚目的の法案などが議会を通りやすいという意味で、上下両院とも共和党が過半の議席を得ることだった。

 だが、結果は上下院で多数派の政党が異なる「ねじれ」となり、トランプ氏の意図をくんだ法案の議会通過が難航するのは避けられない情勢だ。

一段の激化は不可避の
米中貿易戦争
 そうした状況下、これから日本を含む世界にどのようなシナリオが待ち受けているのか。

 前提となるのは、トランプ氏が2020年の米大統領選挙で再選を果たすことを最重要視している、ということだ。米国内の関心もそこに集まっており、識者からも「大統領選までの主な政治テーマは『トランプ氏が再選されるか否か』に尽きる」(みずほ総合研究所の安井明彦欧米調査部長)との声が上がっている。

 与党の法案が議会を通過しにくくなることから、今まで以上に大統領令を連発することが考えられる。大統領令で決定を下しやすい分野こそが、中国と激しい「貿易戦争」を繰り広げる通商交渉の分野に他ならない。

 支持者を引き付けてきたトランプ氏の「米国第一主義」は当然、今後も変わらない。財政政策が思うに任せなくなる分、通商政策で保護主義的な姿勢をこれまで以上に貫き、支持層へ訴えかける成果をつくるために各国首脳と交渉してディール(取引)をまとめようとしてくるだろう。

 トランプ氏の支持層である白人労働者には、中国からの安価な輸入品が雇用を奪ったとの考えがあり、大統領選に向けた成果づくりの観点からも、米中貿易戦争の一段の激化が懸念される。

 足元では11月末にアルゼンチンで開催される20カ国・地域(G20)首脳会議に合わせ、米中首脳会談を開いて貿易分野での合意を探ろうとしているとの動きも伝わるが、トランプ氏が米国の貿易赤字が大きい相手国をたたく方針は一貫しており、「一見何らかの手打ちをしたように演出しても、再び手のひらを返すことは十分にあり得る」(丸紅経済研究所の今村卓所長)。

 またペンス米副大統領の10月上旬の演説にも見られるように、米国の対中政策は、知的財産権の侵害や軍事的拡張など多様な面から覇権争いを繰り広げる時代に入っており、中長期的にも強硬姿勢が緩むような環境にはない。

 来年1月からは2000億ドル相当の中国からの輸入品を対象とした追加関税率の10%から25%への引き上げが実施される公算は大きい。加えて、残り全品目に追加関税を課す可能性もある。

 対日政策に関しては、9月に交渉開始で合意した「日米物品貿易協定(TAG)」をめぐり、成果づくりの一環としてトランプ氏が自動車分野での譲歩や為替条項の明記などを迫ってくる可能性がより高まるだろう。

 下院は過半数で大統領の弾劾発議が可能だが、成立には上院で3分の2以上の賛成が必要なため、弾劾へのハードルは高い。

 すでに触れたように中間選挙前にトランプ氏が突如ぶち上げた中間層への追加減税案や、以前から公約に掲げるインフラ投資などは民主党の反対で実現しそうにない。

 そうした中、2年後の大統領選に向けて大きな逆風となり得るのは、回復局面が今夏で10年目に入った米景気の減速懸念が台頭していることだ。

 共和党は好調な景気や雇用増を今回の選挙戦でもアピール材料にしていたが、この条件が崩れる可能性も十分にあり得る。というのも、来年秋ごろには減税政策の景気押し上げ効果が一巡する上、足元では財政悪化を伴う「悪い金利上昇」の兆候が見られるからだ。

 つまりトランプ氏の「中間テスト(中間選挙)」は好況を支えに何とか通過したが、減税策で点数を“先取り”した面も少なくない。後にツケが回ってきたとき、世界経済はトランプ落選のみならず、激しい乱気流に巻き込まれることになりかねない。
https://diamond.jp/articles/-/185031

 


2018年11月12日 Reid J. Epstein and Janet Hook
米中間選挙が示すもの:二大政党のかい離した世界 共和党支持基盤は地方と白人、民主党支持基盤は都市と郊外
中間選挙での下院勝利を祝う米民主党のペロシ下院院内総務 Photo:Reuters
【ワシントン】米中間選挙の結果から、米国の主要政党がこの10年間にたどってきた変化がより鮮明になった。民主党は主要都市とその周辺部で結果を出し、共和党は地方や小さな町を制した。
 開票結果によると、下院では民主党が(米東部時間7日夜までに確定していない17議席を除く)共和党の27の現有議席を奪取し、過半数議席を獲得した。一方、上院は(3議席が未確定ながら)共和党が2議席上積みして多数派を維持した。これは「うねり」というよりも、バラク・オバマ氏が2008年に大統領に選出されて以降、米社会を緩やかに押し流す「溶岩流」の続きとみるべきだろう。
 オバマ前大統領の就任を機に、地方の白人有権者の民主党離れが起きたのと同様、ドナルド・トランプ氏が大統領に当選して以降、教育を受けた都市郊外の住民は共和党にそっぽを向いた。6日の投票でもこの傾向は続いた。これは今後、ワシントンの与党勢力を変化させるだけでなく、候補者の有権者との向き合い方を変化させるだろう。
 中西部、南部、南西部の幅広い州で、今回の選挙結果は2020年の大統領選に向けた勢力図を塗り替え、過去20年間で最も広大な戦場を生み出している。
 両党の根本的な問題点もさらけ出した。共和党は高年齢層中心の白人の政党と化した。支持者の多くは大卒ではなく、人口に占める比率が次第に低下する層が支える。これに対し、民主党は都市部とその郊外に支持者が集中し、地方の選挙区に勝機が広がらない。
 さらに、トランプ氏が共和党を自身のイメージ通りに作り上げたことで、中道派は党から離れた。一方、民主党は2020年の大統領選に向け、どのような候補者を擁立すれば、新たな支持層であるマイノリティーや若者、学歴のある郊外居住者を結束させられるかという課題に直面している。
 開票結果によると、まだ結果の確定しない少数の選挙区を除き、民主党は大卒有権者の比率が最も高い下院選挙区の81%を制した(1998年には約半数にとどまっていた)。共和党は大卒者の比率が最も低い下院選挙区の約60%を制した(1998年の44%から上昇)。
 2010年の中間選挙では、共和党が郊外にある18の選挙区を制し、ブルーカラー労働者が多い地域や地方の41議席を獲得した。これに対し、今回は少なくとも27の郊外選挙区で議席を失い、結果的に下院多数派を民主党に奪われた。一方、地方や小さな町で共和党が失った議席はわずか7だ。
「以前は共和党の勝利の多くが、郊外居住者の強力な共和党票を基盤としていたが、今となってはそれが過去のものに思える」。共和党系の世論調査専門家で、マルコ・ルビオ上院議員(フロリダ州)やラマー・アレクサンダー上院議員(テネシー州)を顧客に持つホイット・アイヤー氏はこう語る。「急成長する大規模な郡から成長の遅い小さな郡に入れ替わったのは概して良いことではない」
 共和党は何年もかけて中道派を追い出し、保守派のとりでとして結束を固めた。民主党は依然、左派へのイデオロギー転換のさなかにある。ビル・クリントン元大統領が1990年代に進めた中道派路線から大きくかけ離れている。
 2016年の大統領選まで、バーニー・サンダーズ上院議員(民主、バーモント州)の唱える全国民を対象とする高齢者向け医療保険制度(メディケア)は極論とみなされ、あり得ないと冷笑された。
 当選した民主党の新人下院議員50人のうち24人が選挙期間中、国民皆保険や少なくともメディケアに加入する選択肢を提供することを公約に掲げていた。また、リベラル派調査機関のプログレッシブ・チェンジ・インスティテュートによると、民主党新人下院議員のうち22人が社会保障制度の拡充を訴えていた。
 2020年の大統領選に向けて民主党内では有力候補らが医療保険制度を巡る議論を戦わせているが、党指導部は経済政策に軸足を置くのか、党の主義主張に従って社会問題を訴えるのかを決断する必要がある。
 民主党のクリス・マーフィー上院議員(コネティカット州)は7日、党内が文化的な意見対立に終始することを避け、日々の生活の心配をする幅広い有権者の心に響く主張をすべきだと語った。
「2020年の大統領選に向けて、予備選では賃金の問題を重点的に取り上げる必要があると(党の)候補者を理解させるつもりだ」とマーフィー氏は述べた。「一番関心がある問題に有権者の注意を向けるべきだ。ドナルド・トランプを倒せるのは誰なのか(という点だ)」
 リベラル派擁護団体、デモクラシー・イン・カラーの創設者、スティーブ・フィリップス氏は、民主党は黒人やヒスパニック系の有権者の関心を無視したまま、教育を受けた郊外居住者(主に白人で構成される)のみに集中するわけにいかないと指摘する。
「これまでの大統領選で民主党が勝利したのは、旗手となる人物がおり、有色人種や進歩的な白人の気持ちを動かし、大勢を動員できる選挙運動を展開した時だけだ」
 一方、共和党にとっての課題はイデオロギーよりも地域差の問題だ。

 今回、共和党は小さな町や人口の少ない郡などでは大差で勝利を収めた。同党にとって問題なのは、そうした地域の人口が縮小傾向にあることだ。
 ミズーリ州では、上院議員に当選した共和党のジョシュ・ホーリー氏が、州南境沿いのオザーク郡を51ポイント差で制した。6日には同郡で約4000人が投票した。国勢調査データによると同郡の人口は2010年から5%余り減少。住民の28%は65歳以上だ。
 テキサス州上院選では、民主党のベト・オルーク候補のヒスパニック系の得票率から分かるように、共和党支持者を寝返らせるよりも、民主党の支持基盤に積極的に働きかけたことが奏功したと民主党は分析している。オルーク候補は共和党現職のテッド・クルーズ議員に敗れたものの、2016年の大統領選では共和党が9ポイント差で勝利したのに対し、今回は3ポイント未満の僅差だった。
 テキサス州では投票した有権者が820万人と、2014年の中間選挙の460万人から急増した。増加が最も顕著だったのはオルーク氏の出身地であるエルパソ郡だ。ここは住民の83%をヒスパニック系が占める。前回の中間選挙では同郡で7万9502人が投票したが、今回は20万人を超えた。このうちおよそ4分の3が地元出身の同候補を支持した。

https://diamond.jp/articles/-/185070

2. 2018年11月12日 22:26:25 : E6gHVzOxsw : aXWTB5W3ygc[33] 報告
幻想に 酔わせればいい 宣伝で
3. 2018年11月13日 00:15:00 : jXbiWWJBCA : zikAgAsyVVk[1530] 報告
米中間選挙後の株価動向、予想「大外れ」の理由
中間選挙から一夜明けた7日のNY証所
中間選挙から一夜明けた7日のNY証所 PHOTO: RICHARD DREW/ASSOCIATED PRESS
By James Mackintosh
2018 年 11 月 12 日 06:54 JST

――筆者のジェームズ・マッキントッシュはWSJ市場担当シニアコラムニスト

***

 筆者は米中間選挙の結果を受けて株式相場がどう動くか、予想を練り上げていた。非常にスマートで理論的だったが、100%間違っていた。なぜか。その理由は極めて興味深い問いであり、イベントの結果がまさに想定通りの展開となっても、市場の動向を予想することがいかに難しいかを物語っている。

 筆者の大間違いの読みとは、民主党が下院奪還、共和党が上院過半数を維持という広く予想されていた展開となった場合、米株が下がるというものだった。

 その予想はまず、確率から始まる。賭け市場の「アイオワ・エレクトロニック・マーケッツ」では選挙前、上下両院で多数派が異なる「ねじれ」議会となる確率が約60%、共和が上下両院の過半を維持するシナリオが約30%と予想されており、「青い波」に乗って民主が躍進し、上下両院を奪還するとの見方は約10%にとどまっていた。

 共和党が上下両院を引き続き支配すれば、株式相場が喜ぶ減税への期待が高まるであろう。その可能性は十分に高いため、その3分の1の確率のシナリオが現実のものとなれば、明らかに利益を得られる取引であった。だが、実際にはそうはならなかった。そのため、筆者は共和の上下院議会維持のシナリオを見込んだ取引が巻き戻され、相場が下落すると予想した。

 筆者が読み間違った背景には、3つの妥当な理由があり、このうちのいずれか、または3つすべての何らかの部分が、中間選挙後の株高を誘発した要因だろう。

 まず、筆者は間違った市場に目を向けていた。株式市場ではなく、ドルと米国債相場を注視すべきだった。なぜなら、ドルと米国債は、筆者の読み通りの展開となったからだ。選挙当日にあたる米東部時間6日午後9時半(日本時間7日午前11時半)に、Foxニュースが民主が下院奪還と報じると、ドルは急落。米国債利回りは低下し、投資家は一段の財政赤字拡大につながる減税を見込んだ取引を巻き戻した。株価指数先物相場はその後数時間にわたり、ほぼ変わらずだった。

 二つ目は投資家心理だ。債券投資家はよく、株式投資家は感情に流されやすいと批判するが、感情も作用したのかもしれない。ドイツ銀行のマクロストラテジスト、アラン・ラスキン氏によると、米金融街やメディアが伝えていた分析の多くは、これまでの中間選挙後の株式相場は年末まで上昇することが多いというものだった。10月に株急落で怖じ気づいていた投資家が、こうした過去の傾向を耳にして勇気づけられ、選挙後に株式相場に戻るよう後押しされたかもしれない。

 一方で、投資家は同じくらい、単に選挙結果に神経質になっており、不確実性を避けて現金にしがみついていた可能性もある。結果が判明し、再び株式への投資意欲が戻り、相場が値上がりしたのだ。いずれにしても、選挙から一夜明けた7日は、米株にとって素晴らしい日となった。

 欧州株先物は、現物市場の取引が開始されるまで反応薄。欧州株が寄りつきから買いが優勢になると、同時に米株先物も急伸し始めた。これを踏まえると、警戒していた投資家が選挙結果が判明するまで買いを控えていたとの読みを裏付ける。実需筋のマネーが株式相場に流れると先物相場の投機筋がみて初めて、彼らは加わったのだ。

 三つ目の説明は最も可能性が低い。民主の大躍進が株価に与える影響を懸念した投資家が、損失を最小限に抑えるためにヘッジしていたというもの。恐れていたほど、民主党が議席を伸ばさないことが分かると、彼らはヘッジの必要がなくなり、再び買いに回ったとの見立てだ。ただ、この理論はタイミングの点で欠陥がある。つまり、なぜドルと米国債相場は大きく反応したのに、株式相場は欧州株の取引が始まるまで限られたのか?

 最後の仮説は、2020年の大統領選で再選を目指すドナルド・トランプ大統領が 自らの立場を固めるため、一段の関税を避けて、中国との通商協議を妥結に導くだろうと投資家が予想したというものだ。ここで生じる疑問はさて置く:ドル下落はこの見立てに整合する(関税はドル高要因だ)ものの、通商協議合意への期待が高まれば、中国株には追い風となるはずだが、そうはならなかった。中国株は国内投資家が圧倒的であり、資本規制もあり、世界の株式相場とは隔離されているのは事実だ。だが、当時市場は開いており、人民元が米ドルに対し値上がりするなか、中国株は0.4%の上昇にとどまっていたのは奇妙だ。元はさらに値上がりが続いたが、中国株はその後、値を消した。

 筆者は最初の2つの見立てが正しいと考えている。単一の相場予想をあまり確信しないというのが明らかな教訓だ。

 あるイベントに関して、結果を確信していたとしても、株式相場はまるで異なる反応を示すかもしれない。他の資産の動向が株式相場に大きな影響を与えることもあり得る。他の投資家がいかに反応するかを予想する――投資家は互いの反応を予測し合うものだ――ことは、短期的には、実際の結果がもたらす根本的な影響よりもより往々にして重要だ。

 基本的なアドバイスは長年こうだ。短期的な売買は単なる賭けとみるべきであり、賭けが外れると覚悟せよ。

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