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Re: “魔法”はないが“名医”や“合理的手法”はあります 投稿者 あっしら 日時 2002 年 7 月 25 日 16:53:17:

(回答先: Re: 「デフレ不況」を克服しないで「財政危機」を克服することはできません 投稿者 匿名希望 日時 2002 年 7 月 25 日 06:28:02)

真摯なレスありがとうございます。


>無論、緊縮型・増税型への歳出入構造の転換が経済に及ぼす悪影響を軽視するつもり
>はありません。それが国民の感じる「痛み」の正体であり、我々日本国民はそれを甘
>んじて受けるしかありません。痛みなしで乗り切れるような魔法の行政手段など存在
>しないのです。

“痛み”なしで、「デフレ不況」と「財政危機」を乗り切ることはできないと思っています。

しかし、鈍感な方(きちんと経済論理を考えないという意味)であれば“痛み”と感じない“痛み”もある一方で、死ぬ(倒産や失業)ほどの傷ではないのに死に至る“痛み”もあることや、確かに痛かったが短期間で良かったという“痛み”の長さもあれば、もう死んだ方がましだと思うほどの“痛み”の長さもあることを考えなければなりません。

「痛みなしで乗り切れるような魔法の行政手段など存在しない」のは現実ですが、それを捕捉させてもらえば、“痛みをそれほど感じさせないで乗り切れる名医的行政手段”は存在します。

そして、痛みをそれほど感じさせない方法であるほうが、経済論理的にも、「デフレ不況」と「財政危機」を最短で脱却させることができます。

逆に、必要のない痛みを与えれば、痛みだけが残り、「デフレ不況」と「財政危機」はさらに悪化します。


>>税制・通貨発行量・貸し出し量・利子率を操作することで、個人や企業の収入を変
>>動させ、ひいては政府の歳入を変動させることができる立場なのです。

>貴殿のお考えがこの一文に凝縮されていると思われます。
>完全な過誤ではありませんが、これらの政策実施が時代を問わず常に通用する永遠の
>真理であるかのようにとらえられては困ります。

政策の立案及び実施を担当されている方らしく、“手段”を述べた部分に焦点を当てられましたが、政府債務問題=財政危機に対する私の考えが凝縮された一文は、

『抽象的過ぎるかもしれませんので、ざっくばらんに書けば、これまでに積み上がった政府債務を債権者に打撃を与えないペースで薄めなければならないということです。』

というものです。


『“プライマリー・バランスの改善”以上に、“政府債務残高の対GDP比の低下(改善)”や“政府債務の確定利子率の実質ベースでの低下(マイナス化)”のほうがより重要な政策課題だと考えています。逆に言えば、“政府債務残高の対GDP比の低下(改善)”や“政府債務の確定利子率の実質ベースでの低下(マイナス化)”が達成できる国民経済状況をつくり出すことで、“プライマリー・バランスの改善”もできるということです。』


これは、直接借り入れや“やり繰り”による隠れ債務を加算すると750兆円程度と推測できる政府債務残高を現状の価値のまま維持している限り、好意的に表現して、プライマリー・バランスを改善させたとしても“焼け石に水”であり、そうであるならば、行政は、短期的にはプライマリー・バランスを現状水準で維持しつつ、名目GDP成長率のプラス転換と利子率の実質マイナス化の実現に注力しなければならないというものです。


>ご案内の通り、90年代から00年代初を通じて減税、公共投資の増強、金融調節・量的
>緩和、とありとあらゆる政策メニューを実行し、見るべき結果なく現在に至っており
>ます。

1)減税

有価証券取引税・地価税の減税はありましたが、世帯の70%ほどを占める勤労者家計については、消費税率2%アップ及び社会保険料負担増により、“特別減税”期間も含めて、公的負担は増加=“増税”になっています。

財務省が公表しているデータをわざわざ示す必要はないと思いますが、「税収/名目GDP」を付加したものなので参照していただければ幸いです。

税制変更に関してはより詳しいはずですから、増税が税の増収につながるかどうかを判断するための一つの資料にはなると思っています。
(*印は、大きな税制変更が実施された年です)

     新規国債  歳出   税収  名目GDP 税収/GDP
================================================================
83年度 13.5 50.6 32.4 285.5 11.3
84年度 12.8 51.5 34.9 304.8 11.5
85年度 12.3 53.0 38.2 325.8 11.7
86年度 11.3 53.6 41.9 340.9 12.3
87年度  9.4 57.7 46.8 355.8 13.1
88年度  7.2 61.5 50.8 381.6 13.3
89年度  6.6 65.9 54.9 409.6 13.4 *
90年度  7.3 69.3 60.1 441.9 13.6
91年度  6.7 70.5 59.8 469.2 12.7
92年度  9.5 70.5 54.4 481.6 11.3
93年度 16.2 75.1 54.1 486.5 11.1
94年度 16.5 73.6 51.0 491.8 10.4
95年度 21.2 75.9 51.9 497.7 10.4
96年度 21.7 78.8 52.1 510.8 10.2
97年度 18.5 78.5 53.9 521.8 10.3
98年度 34.0 84.4 49.4 515.8  9.6 *
99年度 37.5 89.0 47.2 512.5  9.2
00年度 33.0 89.3 50.7 513.0  9.9
01年度 30.0 86.4 49.8 500.0  9.9
02年度 30.0 81.2 46.8 496.2  9.4


※ 02年度のGDPは政府見通し。01年度の税収は予算を下回っている。

2)公共投資の増強

ケインズの有効需要原理と乗数理論の組み合わせは、遅れて先進国に到達した日本においてさえ70年代に有効性を失ったと考えています。(有効需要原理そのものは今なお有効ですが)

不況に喘ぐ90年代においても、公共投資が、GDP低落の下支えになったことは間違いありません。
しかし、乗数理論が有効性を失っていますから、翌年のGDPを落とさないためだけでも、ほぼ同額の公共投資を継続しなければなりません。
公共投資の減額は、直接には建設業・鉄鋼業・セメント業・輸送業に打撃を与え、産業連関的に最終消費財メーカーにまで打撃を与えます。

政府固定資本形成がGDPの5.1%(95年ベースで諸外国は仏:2.9%・独:1.8%・英:1.1%・米:1.9%)と大きいのは、“遅れた先進国”として社会資本の充実に国家が尽力してきたことが主要因だと考えていますが、それは同時に、建設業従業者の疑似“公務員化”を進めてきました。

[人口千人当たりの公務員数比較]

1998年データ:政府企業の従業員は除き、国防関係者を含む。但し公社職員は枠外。

日本:34.5(人/千人)
 米:74.6
 仏:75.0
 英:55.6
 独:56.9


失業者の増加と財政危機のなかで「公務員の数を減らせ!」という声も散見されますが、日本の公務員数は、人口比で比較すれば圧倒的に少ないというのが実状です。

公務員数4,365千人に建設業従業者5,090千人を加算すると9,455千人となり、人口千人当たり74.7になります。
98年時期の建設業の民間需要:官公庁需要を68%:32%として、その比率で割り振ると、5,994千人となり、人口千人当たり47.4になります。

(建設業における官需は、95年7兆円・99年4兆7千億円・00年4兆2千億円と減少し、官需比率も95年40%・99年32%・00年31%と低下している)

政治家などの利権という問題だけではなく、「建設国債主義」と“遅れた先進国であること”が、日本で公共投資の拡大を必然化させたと考えています。
そして、昨今話題になっている建設業の倒産も、建設需要の低迷に照らせば当然のことです。

このように書いたからと言って、別に公共事業の同額レベルの継続や拡大を主張したいわけではありません。

ケインズ主義の有効性が薄らいだ75年以降の日本は、政府支出の在り方を変えることによって、緩やかに公共事業依存構造を修正しなければならなかったのです。

端的に言えば、建設業従事者を現在のような経済状況で失業させるのではなく、政府支出の切り替えを通じて、徐々に別の業種に移動させる政策を採っていなければならなかったと考えています。

90年代の不況期においてさえ、需要不足を公共投資に依存したことが、大きなツケと罪を生んだと判断しています。

(ここまで書いた後では蛇足になりますが、90年代とりわけ中期の公共投資に関しては、地価下落をくい止めることが強く意識された投資になったことで効果が減殺されたことを否めません)


3)金融調節・量的緩和

● 量的緩和政策

金融政策が意図するかたちで巧く機能していないことは、95年から00年で、通貨発行残高が17兆5千億円増加したにも関わらず、預金残高の増加は7兆4千億円で、貸し出し残高に至っては、逆に22兆4千億円も減少しているデータを見ればわかることです。
(17兆5千億円+22兆4千億円=約40兆円が、この期間に処理された銀行の不良債権額に相当すると考えています)

商業銀行には潤沢に通貨が供給されても、それから先(実体経済)への通貨供給は、増加していないどころか逆に減少しています。

だからこそ、銀行に新規の不良債権が発生し続けるのです。


● 金利政策

金本位制ではなく通貨管理制においては、低金利政策が、不況期の物価下落傾向を抑制するという考え(理論)は誤りです。

企業にとって金利負担の減少はコストの下落そのものなので、これまでよりも低い金利で通貨を借り入れた企業は、同じ利益を確保するためであれば、財の価格を引き下げてもよい条件を手に入れます。
不況であれば、価格競争力を上げて販売量を増加させようと考える企業が多いため、財の価格は現実にも下がります。

この状況で財の輸出が増加すれば、国民経済内に供給される財の量が減少するので、財の価格は下がりにくかったり、あるレベルを超えて輸出が増加すれば、財の価格は上昇に転じます。これは、低金利でコストを減らした企業に大きな利益をもたらします。

輸入の増加は、輸入された財が国内の経済主体と競争関係にあるものならば、供給力の減少を通じて需要の減少をもたらすので、財価格の下落をいっそう促し、企業の利益を減少させます。

財の価格下落は、競争関係にある国民経済との相対的な比較になりますが、変動相場制であれば為替レートが自国通貨高になるので、輸出競争力を低下させます。

また、国内企業間の競争が緩和的でも物価は下落しにくく、それは特定企業の利益増加に貢献しますが、「デフレ不況」では利益が再資本化されることは稀なので、不況の解消にはつながりません。

このようなことから、デフレ対策としての金利引き下げは、デフレ率をより高め、さらに不況を悪化させる結果になります。
低金利政策が唯一有効なのは、それを通じて、輸出の大幅な増加が達成できたときだけです。

合理的なデフレ対策は、貸し出し量の増大とその後の緩やかな金利引き上げです。

(企業にとって金利負担の増大はコストの上昇そのものなので、これまでよりも高い金利で通貨を借り入れた企業は、同じ利益を確保するために販売する財の価格を引き上げなければなりません)

しかし、デフレを伴う不況下で貸し出し量を増大させたり、財の価格上昇が実現されるためには、生産する財に対する需要(内外)を増大させなければならないという大問題があります。

需要増加の見通しがないなかで相対的に金利が高くなった通貨を借り入れしようとする企業はあまりいません。
そして、財に購入に向けられる可処分所得の総和が増加しない限り、財の価格を上昇させることはできず、企業は、金利上昇で利益を減少させるという打撃を被るだけになります。

放置していれば貸し出し量の増加も財の価格上昇もできない経済状況なのですから、まずは、所得税の負担配分を変えることで財への需要を増加させる政策が必要になります。

(財政危機でかつ乗数理論が働かない経済段階なのですから、財政出動はできません)

低中所得者は増加した可処分所得を財の購入に向ける割合が高い一方で、高所得者は増加した可処分所得を貯蓄や金融資産取引に向ける割合が高く、高所得者なら、少々可処分所得が減っても財に向ける通貨量は変わりません。
このような論理で、低中所得者減税はグロスで財への需要を増加するので、貸し出し量が増える条件をつくることになります。

財の価格上昇は、変動相場制であれば、競争関係にある国民経済通貨に対するレートを下げるので、通貨安になって輸出競争力が高まります。

このような論に対しては、高額所得者や法人に対する減税で起業や新規事業が行われ雇用も増えるという反論があることを知っていますが、現状は、潜在失業率が10%と言われるほど、資本過剰=供給力過剰です。
既存の資本過剰を優先的に解消しないまま、供給力増加をはかる政策をとるのは愚かです。
「創業論」を主張するのなら、IT関連企業や新規参入航空会社の経営状況をきちんと検証すべきです。
逆に、今心配すべきなのは、これまで成長産業であった携帯電話事業が成熟化したことで起きると予測できる携帯電話事業の供給力過剰問題です。

財政的に総需要の補填ができない現状を考えれば、不足している総需要を補填する手法は、税制による所得再分配しかありません。


税制による所得分配を変動させることで資本の増加をはかりつつ、緩やかな金利上昇政策と金融緩和政策を実施することで、デフレをインフレに転化することが今いちばん必要な金融政策です。

その上で、高所得者増税で予測できる株価と地価の下落や金利の相対的上昇で100兆円を超える国債を保有している金融機関が被る打撃を解消する政策を採ります。(保有国債の平均金利は2%超)
そのために20兆円を用意しなければならないとしても、このままずるずると進めば20兆円を超える不良債権が確実に発生します。そうなれば、金融システムを維持するために公的資金を再び投入せざるを得ません。

「デフレ不況」が続く限り、規模はともかく、このような悪循環が繰り返されることになります。

(デフレが続く限り、ある時点の20兆円は、金利抜きで数年後に20.3兆円という実質価値になります)


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