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田中宇の国際ニュース解説 無料版 2026年1月8日 https://tanakanews.com/
■要約
トランプ政権はマドゥロ大統領を拉致し、ベネズエラの直接統治を開始した。これは旧来の英国系エリートが好んだ「民主化」という名の傀儡化ではなく、経済実務に長けたロドリゲスを暫定大統領に据え、石油利権を還流させて破綻した経済を立て直す現実主義的な「米州主義」の発露である。この動きは、米諜報界で主導権を握るリクード系が、英国系覇権を解体し、世界を多極型へ移行させる戦略の一環だ。
トランプはあえて「悪役」を演じる偽悪戦略をとり、リベラルな英国系を排除しつつ、中南米を自らの「極」に組み込もうとしている。ロシアや中国は表面上は批判するが、多極化の進展を歓迎して米国の行動を事実上黙認している。対照的に、旧来の覇権に固執する英欧はトランプと対立して自滅的な状況にある。世界はもはや自由貿易や国家主権という建前が通用しない、実利に基づいた多極的な弱肉強食の時代へと決定的に転換したのである。
■本文
トランプ政権の米軍が1月3日にベネズエラを襲撃してマドゥロ大統領夫妻を米国に拉致(麻薬取引の容疑で逮捕・送致)し「ベネズエラが安定して発展し始めるまで米国が統治する」とトランプが宣言してから5日が過ぎた。
大統領不在時の憲法規定にのっとり、1月5日にロドリゲス副大統領が暫定大統領に昇格した。憲法規定では、30日以内に選挙を行って正式な大統領を決め、暫定大統領と交代することになっている。
だが「統治者」になったトランプは、30日以内の選挙はやらない、と言っている。
https://tass.com/world/2068831
US is not at war with Venezuela, Trump says
トランプ政権は昨秋、欧州のノーベル委員会を加圧して、ベネズエラの親米右派の野党指導者マチャドにノーベル平和賞をとらせている。トランプは、30日後に大統領選挙をしてマチャドを(不正に)勝たせ、左派のロドリゲスとすげ替える策謀をやっても不思議でない。
しかし、それは行わない。トランプは「マチャドは不人気なので政権をとれない」とも言っている。マチャドへのノーベル授賞の強制は、ノーベル委員会など欧州を支配するリベラル派エリートに嫌な思いをさせつつ、目くらましとして機能するトランプの策略だったようだ。
トランプは、旧来の米共和党エリート(中道右派、リベラル派と並ぶ英国系)が好んだ「民主化」と言いつつ反米左翼を外して右翼の米傀儡政権にすげ替える策略を、やるかのように見せてやらない。トランプは、2大政党のエリートが動かしていた英国系の米覇権体制を壊すために大統領になった。
https://tanakanews.com/250105venezuela.htm
トランプのベネズエラ攻略
トランプは、経済政策を担当して割とうまくいっていたロドリゲスを評価し、しばらく(2年ぐらい?)やらせることにしたようだ。
トランプのベネズエラ統治策は18か月の計画で、安定、治安維持、(米企業を入れて儲けさせつつ)経済発展を重視している。旧来の英国系が重視した「民主化」は含まれていない。
トランプは表向き好戦的だが、実際は現実主義だ(契約を経た経済搾取はやりうる)。「米国はベネズエラと戦争してない」とも言っており、イラク戦争みたいに軍事力でベネズエラを政権転覆することもやらない。
https://www.rt.com/news/630565-trump-venezuela-order-oil/
Trump explains how he wants to ‘run’ Venezuela
https://sputnikglobe.com/20260107/rubio-outlines-us-three-step-plan-on-venezuela-1123436786.html
Rubio Outlines US' Three-Step Plan on Venezuela
左翼や権威筋の分析者は「トランプはロドリゲスを加圧して、石油などベネズエラの利権をひとしきり奪ったら辞めせる」と予測しているが(今回も)たぶん外れる。
トランプは、ロドリゲスと米石油産業を協力させ、ベネズエラを産油国として立て直していく。米政府は、ベネズエラに進出する米石油業界に資金援助する。
米企業は儲けるが、同時に、破綻していたベネズエラ経済が少しずつ改善し、人々の困窮が減っていく。
https://www.rt.com/news/630662-trump-venezuela-leader-short-leash/
Trump putting Venezuela’s interim leader on ‘short leash’
https://www.zerohedge.com/markets/us-may-subsidize-oil-giants-rebuild-venezuelas-energy-sector-trump-says
US May Subsidize Oil Giants To Rebuild Venezuela’s Energy Sector, Trump Says
トランプは、ベネズエラが備蓄していた5000万バレルの良質な原油を米国に輸出させることにした。ほらみろ、やっぱりトランプはベネズエラの石油利権の収奪が目当てだ !、という声が聞こえる。
私から見ると、こうした声の主は(意図的に)話の半分しか見ていない。ベネズエラが米国に輸出した原油の代金は、ロドリゲスが手掛けるベネズエラ経済の再建に使われる。
米欧に経済制裁されてきたベネズエラは、これまで大っぴらに石油を輸出できなかった。ベネズエラの石油の大半は、制裁にとらわれない非米的な中国が買っていた。米欧に売れないベネズエラを買い叩き、安値で売らせていた可能性が高い。
https://www.rt.com/news/630696-venezuela-give-oil-us/
Venezuela to ‘turn over’ sanctioned oil to US - Trump
トランプだってベネズエラを脅して安値で買い叩くはずだ !、という声が聞こえる。そうだろうか。トランプは、米国傀儡にしたベネズエラの経済立て直しを成功させたい。
そうすれば、今は反米でトランプを非難しているコロンビアやメキシコなど他の中南米諸国が、トランプと仲良くすると意外に良いかもと考え始め、トランプの米州主義や中南米傀儡化がうまくいく。
中国人は生来の悪質な商売人なので非道に買い叩くが、トランプは米州主義の成功という別の主目的があるので、合理的な価格で買う。
https://tass.com/world/2068979
US demands from Venezuela to severe economic ties with Iran, Cuba, China, Russia
トランプの米国の傘下に入ることで、ベネズエラは経済制裁を受けなくなった。トランプはベネズエラに、中国への石油輸出を止めろと加圧している。
これは自由貿易の原則を踏みにじっているぞ !、という声が聞こえる。確かに踏みにじっている。だが、これまでの英米単独覇権体制(グローバリズム)の終了(覇権の多極化)とともに、世界的な一枚岩の自由貿易体制も終わっている。
多極化とともに、すべての国家が対等で国家主権を持っているという建前も消失している。中南米(やカナダやグリーンランド)は、極の一つである米国の傘下に入った。だからトランプはベネズエラの国家主権を踏みにじってマドゥロを拉致し、ベネズエラを米傀儡化し、中国など他の極との経済関係を縮小させた。
傀儡は「悪」なのか?。そうでもない。日本も欧州も、戦後ずっと英米の傀儡だったが楽しくやってきた。善悪観自体が、覇権勢力による作り物だ。
米国側のマスコミは英国系覇権の終了と多極化を報じないので、人々は世界の転換に気づいておらず、すでに存在しない自由貿易体制や国家主権をトランプが踏みにじったと騒いでいる。
勝手に多極化しても認めないぞ !。という声が聞こえる。人々が認めなくても、世界の流れは変わらない。覇権体制は民主的に決まるものでない(昔から宮廷ユダヤ人とかが決めている)。
日本の高市政権は、トランプに勧められて多極化対応し始めている(日本が中国の傘下に入らず独自の極になるための日中対立とか、核保有の準備とか)。そんなの許さないと叫ぶ人々の政治力の方がどんどん落ちている。
https://tanakanews.com/251223nuke.htm
日本も韓国も核武装しそう
これまでの英国系覇権は、自分たちを善玉、政敵を悪玉に仕立てる善悪の歪曲策に長けていた。覇権運営を担当する米諜報界は911以来の暗闘の結果、主導権をリクード系が握っているが、まだ英国系の要員が存在し、相互に馬鹿し合い、誰がどっちかわからない。
だから、トランプは意図的に「悪い奴」を演じ、イスラエルはガザなどで意図的に極悪な人道犯罪を続けている。こうすることで、自分たちを善玉にしておきたい英国系が入り込めないようにしている。
トランプとイスラエルは、偽悪戦略によって「極悪」になることに成功し、英国系を諜報界から追い出している。だから、米民主党や英国やEU独仏など英国系の勢力は諜報力が大幅に低下し、各方面で超愚策を重ねて自滅している。
トランプは、マドゥロ拉致など、米州主義の戦略もわざと帝国主義的に極悪に進めている。だから、人々はトランプを非難する。
しかし実際は、これまでの英国系覇権も、中南米など世界中の途上諸国を借金漬けにして、借金の見返りに利権収奪の民営化を強要する「ワシントン・コンセンサス」などをやっていた。
https://tanakanews.com/251230trump.htm
トランプ化で激動した2025年
トランプやイスラエルは軍事偏重だという批判もある。軍事偏重なのは、覇権運営を担当する諜報界が軍事部門の一部だからだ。同じ理由から、英国系覇権の時代(戦後ずっと)も、世界は戦争や内戦が常に誘発されていた。
リーマン危機の再来みたいなドル崩壊(金融バブル崩壊)によって英国系覇権が諜報界ごと自滅して世界が多極型になっていたら、世界的に戦争が大幅に減っていたはずだ(かつてはそういうシナリオだった)。
だが実際は、英国系を追い出したリクード系が、そのまま諜報界を牛耳って居座り、QE再開などでドルのバブルを延命しているので、諜報界は今後も残り、人類の戦争体質がしばらく続く。
https://www.thebureau.news/p/cubas-security-state-colonization
Cuba's Security-State Colonization In Americas, Proven By Delta Force Killing 32 Intel Agents Surrounding Maduro
ベネズエラの話に戻る。これまでベネズエラの左翼政権は、キューバやイラン(レバノンの武装組織ヒズボラ)と協力していたので、ベネズエラの軍部にはキューバやヒズボラの要員が多数入り込んでいた。そこにトランプの米軍がやってきてマドゥロを拉致し、後継のロドリゲスは米国の傀儡になる代わりにベネズエラの国体を守ることにした。
ロドリゲス政権は今後、米国の命令で国内に残存するキューバやヒズボラの要員を逮捕もしくは追放していく。ベネズエラ軍部で、米傀儡になりたくない勢力も取り締まられる。
それは嫌なので、今回の流れに反対する軍部の諸勢力が、ロドリゲスの暫定大統領への就任直後に決起してクーデターを起こそうとしたが、鎮圧された。ベネズエラの内戦化は防がれたと思われる。
https://www.rt.com/news/630652-venezuela-coup-attempt-reported/
Heavy gunfire erupts near presidential palace in Caracas
1月8日には、ベネズエラ沖の公海上で、米国の沿岸警備隊がロシア船籍のタンカー「マリネラ号」を襲撃して拿捕する事件が起きた。近くにはロシア軍の潜水艦が護衛のために来ており、米露が大西洋で交戦して核戦争になりかねない一触即発になった。
マリネラ号は、イランの革命防衛隊の系列のトルコの会社が保有する船で、イラン傘下のヒズボラとベネズエラが協力して軍事力や資金を増やすためにタンカーで石油を運んでいた。ヒズボラをテロ組織に指定する米当局は、2024年からこの船を制裁対象として追尾してきた。
https://www.jpost.com/international/article-882619
US, with help of UK, seizes Venezuela-linked oil tanker sailing under Russian flag
昨年末、マリネラ号はベネズエラに近づいたところを米当局に発見され、米側の拿捕の試みを振り切って逃げていた。イランは、米国のベネズエラ攻撃を批判するロシアに助けを求め、露当局は助け舟を出す目的で、逃げ続けるマリネラ号をそれまでのギアナ船籍からロシア船籍にしてやった。
ロシアの船なら、米国も拿捕しないだろうという読みだった。しかし、米国は露船籍への転換を配慮せず、マリネラ号を襲って拿捕した。露政府は、マリネラ号を拿捕した米政府を非難しているが、軍事行動を起こしていない。
https://www.rt.com/russia/630677-russia-reaffirms-solidarity-venezuela-us-aggression/
Russia declares solidarity with Venezuela
ロシアや中国は、トランプのベネズエラ攻略を国家主権の侵害として非難しているが、口だけであり、軍事的な動きをしていない。
ロシアも中国も、世界の多極化によって得をしている。だから露中は、ベネズエラ攻略など米州主義の発露と、ウクライナ戦争などによる英欧自滅を引き起こして世界を多極化してくれるトランプを口で批判するだけで、実はこっそり賛同している。
イランは、米イスラエルに政権転覆を誘発され、追い詰められてロシアにすがっている。拉致される前のマドゥロもロシアや中国ににすがっていた。
ロシアや中国は、イランやマドゥロに対して付き合い程度に助けたが、同時に、中南米の覇権国が米国になり、中東の覇権国がイスラエルになることを非公式に認めている。露中は、トランプのベネズエラ支配を妨害しないし、イスラエル(とその傀儡のトランプ)がイランの力を削いでいくことを妨害しない。
https://tanakanews.com/260102likd.htm
リクード系の覇権拡大
https://www.rt.com/news/630698-russia-middle-east-2025/
In 2025, Russia emerged as more than just an ‘alternative for the West’
露中が多極化に協力しているのと対照的に、英国系の英欧EUは、英国系の覇権が失われてしまう多極化に反対している。EUは、トランプの多極化(米州主義)の果実であるベネズエラの新政権の正当性を認めていない。
https://tass.com/world/2068911
EU doesn’t recognize legitimacy of Venezuelan interim president
トランプは米州主義の発露として、EU加盟のデンマークからグリーンランドを剥奪もしくは買収しようとしており、これも欧米間の対立になっている。
欧州がグリーンランド問題でトランプと対立しすぎると、トランプは報復としてNATOやウクライナへの協力を渋り、欧州の軍事力が低下してロシアへの降伏を余儀なくされる。だから、欧州はトランプに譲歩してグリーンランドを渡さざるを得ない。
欧州は、多極化の流れに気づくのが遅すぎた。というか、いまだにちゃんと気づいていないふしもある。自業自得だ。
https://www.rt.com/news/630686-rubio-greenland-us-plans/
US planning to buy Greenland
https://www.rt.com/news/630669-us-threats-greenland-nato/
US threats over Greenland make NATO pointless
https://www.zerohedge.com/geopolitical/trump-warns-nato-without-america-there-no-alliance
Trump Warns NATO: Without America There Is No Alliance
今回の記事はトランプをほめすぎだ !。そういう声が聞こえる。実は、私もそう思う。しかし、世の中(とくにリベラル左翼マスコミなどの英傀儡)はトランプを誹謗中傷しすぎだ。みんなトランプの偽悪戦略を真に受けている。だから多分、ほめすぎぐらいの方がちょうど良い。
私は長年の分析執筆から、世界に関する自分と世の中の見方が対立した時は自分の方が結果的に正しい時が多いと感じている。
この記事はウェブサイトにも載せました。
https://tanakanews.com/260108Laam.htm
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