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※2025年5月17日 日刊ゲンダイ2面 紙面クリック拡大 文字お越し
※紙面抜粋
(C)日刊ゲンダイ
ここ数年、重大事故を繰り返している自衛隊で何が起こっているのか。その頻度、深刻度は極めて異常なのに、なぜ、責任が追及されないのか。イジメ、セクハラも後を絶たず、慢性的な隊員不足の中、防衛費だけ膨張の危うさと限界。
◇ ◇ ◇
離陸から1分数十秒の間に何が起きたのか。航空自衛隊のT4練習機が愛知県犬山市のため池「入鹿池」に墜落した。離陸から1分ほどで高度約1400メートルまで順調に達し、東から南に旋回しながら高度5000メートルまで上昇する予定だったが、何らかの異常が発生。墜落したとみられる。
事故機は14日午後3時6分ごろ、県営名古屋空港から離陸。直後に中部国際空港の管制官と交信した際、機体の異常などを伝えるやりとりはなく、約2分後にレーダーから機影は消失した。脱出装置を使うと自動的に発信される救難信号も確認されていないという。
入鹿池のほとりには、人気観光施設の「博物館明治村」が広がり、学校や住宅が点在する。一歩間違えれば市民を巻き込む大惨事だった。事故機は急に池に向かったとの目撃情報もあり、機体の異常を感知したパイロットが、とっさに2次被害の回避行動をとったとの見方も出ている。
搭乗員は井岡拓路1等空尉(31)と網谷奨太2等空尉(29)。2人は宮崎県の新田原基地に拠点を置く第5航空団所属で、ともに一定の飛行経験がある。井岡1尉の総飛行時間は約1170時間。中堅からベテランのパイロットと言えよう。
事故発生から丸2日が過ぎた16日、ようやく搭乗者と思われる体の一部が発見されたが、事故原因は判然としないままだ。事故当時の気候は良好で操縦ミスでなければ、エンジンや操縦系統の突発的なトラブルが生じたのか。整備不良や、離陸直後に鳥がエンジンに吸い込まれるバードストライクなど、さまざまな可能性がある。
いずれにせよ、幅広く調べた上で事故原因の特定が急務だ。徹底した原因究明こそが再発防止には不可欠だからだ。
潤沢な予算の使い道を間違えている
ここ数年、自衛隊機の重大事故が続いている。昨年4月には海自の哨戒ヘリ2機が伊豆諸島沖で衝突し、乗員8人が死亡。2023年には陸自の多用途ヘリが沖縄・宮古島沖に墜落し、陸自の航空機事故としては過去最悪の10人が亡くなった。22年には空自の戦闘機が石川・小松基地から離陸直後に墜落し、2人が死亡--。1年に1回のペースで自衛隊機が海上に墜落し、隊員が亡くなる事故が相次いでいるのだ。この頻度、深刻度は極めて異常である。
これ以上、繰り返さないためにも、さまざまな可能性を排除せず調査を尽くすべきである。ただ、その障壁となるのが事故機の製造時期の古さだ。T4は1988年に運用が始まり、事故機も89年製でフライトデータレコーダー(FDR)が搭載されていなかった。そのせいで事故当時の警報音や高度、速度、操縦士の会話などの記録が存在せず、事故原因の特定が難航するのは必至である。
空自は現在、練習機や戦闘機にFDRを順次搭載しているが、限られた予算の中、事故発生率の高い戦闘機を優先し、練習機は後回し。保有197機のT4のうち、約60機はFDRが未搭載のままだ。中谷元・防衛相は、15日の参院外交防衛委員会で「事故を踏まえ、より速やかな搭載に努めたい」と答えたが、何をモタモタしてきたのか。
第2次安倍政権の発足以降、防衛予算はうなぎ上り。政府は27年度までの5年間で総額43兆円もの血税を防衛予算に注ぎ、米国に言われるがまま、GDP比2%に増やす計画だ。カネならうなるほどあるはずで、FDR搭載をケチっている場合ではない。潤沢な予算の使い道をよっぽど間違えているとしか思えないのだ。
高額な装備も人がいなければ宝の持ち腐れ
回収された墜落機の残骸と見られる破片(C)共同通信社
元陸自レンジャー隊員の井筒高雄氏も「36年もの昔に製造された機体を今も訓練機として使っていること自体、おかしい」と疑問を投げかける。こう続けた。
「新たな精鋭を育てるミッションに使い古された機体はそぐわない。老朽化が今回の事故に影響した可能性も捨てきれません。防衛予算が膨張する一方で、FDRのない古い機体を放置するなんて、搭乗員の命を軽んじている証拠。米国製の高額兵器を爆買いする前に、まず足元の自衛隊員を大事に扱うべきです。ただでさえ、自衛隊は慢性的な人員不足に苦しみ、有能な隊員ほど本職以外の業務を兼任せざるを得ません。野球に例えれば外野手の数が足りず、2人や1人で守っている状況です。なり手も不足し、操縦や整備の技術が継承されていない懸念もある。装備品よりも人材に重きを置くべきで、人的基盤の強化をおろそかにしながら、相次ぐ事故の責任を現場だけに押し付けるのは酷な話です」
追及されるべきは「文民統制」の原則からいっても政治の責任だ。長年に及ぶ政治の無策と急激な少子化・人口減少に伴い、自衛隊の人員不足はもはや不可逆的なレベルに達している。
23年度は1万9598人の募集に対し、実際に採用できたのは9959人。採用率は過去最低の51%にとどまった。定員割れも年々深刻化し、23年度末時点の定員は24万7154人だが、実に2万3643人も足りない。とりわけ減っているのが現場を下支えする若手隊員の数だ。警察でいえば駆け出しの巡査に匹敵する「士」級隊員の定員への「充足率」は任期制も含めて67%。ついに7割を切ってしまった。
どんな民間企業でも若手社員がどんどん減っていけば、社内のモチベーションは下がる。任務上、若い力が求められる自衛隊ならなおさらで、組織の疲弊が目に見えるかのようだ。今や自衛隊は困難な任務にあたる人材を質量ともに維持するのが困難なのではないか。
自衛隊機が毎年のように墜落する背景と遠因には、心もとない人的基盤や隊員の士気の低下が横たわっているように思えてならない。
自衛隊の惨状は人口減社会の縮図
いわゆる敵基地攻撃能力の「目」として、標的を探知・追尾する小型衛星網の構築に今年度予算だけで約2823億円を計上。すでに米国製巡航ミサイル「トマホーク」の購入契約も約2540億円という高額で締結し、今年度から最大400発が順次納入される。
「いくら高額な装備を導入したところで、取り扱える人員がいなければ宝の持ち腐れ。この国の防衛には何の役にも立ちません」と言うのは、防衛ジャーナリストの半田滋氏だ。こう続ける。
「石破政権もようやく重い腰を上げ、自衛官の初任給アップや手当の新設と増額、再就職支援などを打ち出していますが、遅きに失した感は否めません。自衛官も公務員である以上、報酬など処遇改善には限界があり、しかも自衛隊には『残業』の概念はない。残業手当が支給される同年齢の勤め人に比べ、圧倒的に実入りは少ないのです。危険な任務に見合うだけの収入は得られず、ましてやイジメやパワハラ、セクハラも後を絶たない。とても魅力的な環境とは言えず、若者に敬遠されるのは当然です」
歪み切った古い体質の一掃のため、半田氏が提案するのは「防衛オンブズマン制度」だ。
「ドイツ軍が兵士の人権保護のために導入し、一気に隊内の民主化が進んだ実績があります。オンブズマン自体は1人だけですが、強力な法的権限を持ち、国会内にオフィスを構え、元議長経験者ら権威ある人物が就く。その下に100人ほどのスタッフを擁し、彼らが隊員やその家族からの内部通報を受け付け、国会などの関係機関に問題解決の提案・勧告を行うのです。自浄能力のない組織を改革するには、これだけの荒療治が必要です。さもなくば自衛隊は人口減下で持続不可能となる。防衛費だけ膨張させても、日本の国防は風前のともしびです」(半田滋氏=前出)
自衛隊の惨状は人口減少社会の縮図だ。たった1分数十秒の間に起こった墜落事故には、この国の宿痾が濃縮されている。
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