
※2025年5月24日 日刊ゲンダイ2面 紙面クリック拡大
※紙面抜粋
進次郎パフォーマンスを実況中継…無策石破政権の目くらましに大メディアまた加担
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/372285
2025/05/24 日刊ゲンダイ ※後段文字お越し
やってる感満載のパフォーマンス(代表撮影)
企業・団体献金に頬かむりした石破政権だが、世間の関心をコメに集中させ、そこで踊るパフォーマンス大臣。随意契約でスーパーに安いコメを卸せば、とりあえず価格が下がったことを見せられるだろうが、問題は持続性。安易に騙されてはいけない。
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小泉進次郎新農相が、張り切りまくっている。
「コメ担当大臣」を自任し、就任早々、備蓄米放出の手続きを見直し。従来の競争入札から随意契約に切り替え、来週月曜にも新制度の手続きを始めるという。
就任翌日(22日)には民放のニュース番組をハシゴし、23日夜はNHK「ニュースウオッチ9」に生出演。20分以上も熱弁を振るい、「5キロ(当たり)2000円で店頭に出す」「6月1週には実現させる」「需要があれば備蓄米は全部出してもいい」と矢継ぎ早にぶち上げた。
23日は、都内スーパーのコメ売り場と米穀店を視察。積極的に情報発信を繰り返す鼻息の荒さに大手メディアもつられ、価格高騰問題などをガンガン取り上げる。とにかくコメ、コメ、コメ、コメ……。コメさえ安くなれば、世の中は丸く収まるといったムードをあおっている。やれやれだ。
まさに石破首相の狙い通りの展開ではないか。「コメは買ったことがない」「家に売るほどある」と消費者逆なでの大放言で辞めた前任者の負のイメージを払拭すべく、後任に抜擢したのは自民党内随一の「人寄せパンダ」。その意をくんで進次郎は父・純一郎元首相譲りのパフォーマンス全開で躍り続け、世間の関心をコメ問題に集中させ、あまたある政権の無策・失政には頬かむり。また大手メディアが政権の目くらましに加担している構図である。
企業・団体献金の逃げ切りはベタ記事扱い
石破政権の数えきれない無策の一例が、企業・団体献金の見直しだ。当初は3月末までに結論を出すはずが、リミットから2カ月近く過ぎても成果はゼロ。野党との協議は平行線をたどり、4月以降、衆院政治改革特別委員会での企業・団体献金の議論は一度も行われず、完全空転である。
自民党政治改革本部の渡海紀三朗本部長は「参院選が終わってからやるのも一つ」とか言い出し、すっかり逃げ切りムード。「禁止より公開」を掲げた自民の公開強化法案の実務担当は農相に選ばれた進次郎だった。まんまと献金を死守。石破の改革意欲のなさが露呈しているのに、大手メディアはほぼベタ記事扱いで、コメ&進次郎を最優先だ。政治評論家の本澤二郎氏はこう言う。
「都議選、参院選と選挙の季節を控え、もはや石破首相はヨタヨタ。いつ党内から『降ろし』が起こってもおかしくない。高市前経済安保相は次の総理に意欲マンマンで、岸田前首相も再登板に色気を出している。進次郎氏のコメ担当大臣起用には、まだ残る人気にあやかり、彼らの動きを封じる狙いもあるのでしょう。そんな思惑を知ってか知らずか、大手メディアは進次郎氏のパフォーマンスを実況中継してタレ流すのみ。権力の監視役ならば米価高騰の裏の農水官僚・自民党農水族・JA全農という『農政トライアングル』のもくろみを追及すべき。本来の使命を放棄しています」
市場原理無視の発想でコメ高騰は解決するのか
楽天グループに直接渡しても…(C)共同通信社
店頭のコメ販売価格は直近(5月5〜11日)で全国平均4268円。前年の2倍以上の高値で、過去最高を更新し続けている。過去3回、計31万トンの備蓄米放出の効果は、ちっとも表れていない。
税金で買い入れた備蓄米は「国民の財産」。不当に安く売るわけにいかず、農水省が高い価格を提示した業者に売り渡す競争入札にこだわる余り、米価が下がらない一因になっているのは事実だ。3回の備蓄米放出で得た差益は60キロにつき約1万円。「国が儲けてどうするんだ」(小野寺政調会長)と自民党内からも文句が出るのは当然だが、魔法の杖じゃあるまいし、随意契約に切り替えれば全てがうまくいくのか。
農水省は20日に先月27日までの備蓄米の流通状況を発表。3月中の2回の入札で落札された備蓄米21万トンのうち、スーパーなどの小売りや外食に届いたのは2万2303トンで全体の10.5%。放出1カ月でまだ1割程度しか店頭に並んでいない。
3月の入札では9割超をJA全農が落札したが、農水省の倉庫から各地のJAに備蓄米が届くまで、ほぼ1カ月。卸売業者との売買契約の商談を済ませるのに最低でも1〜2週間を費やし、小売りとの間でも商談は欠かせず、さらに1週間ほどの時間が加わるとされる。
備蓄米は玄米で保管されており、精米にも時間がかかる。備蓄米はコシヒカリなどのブランド米の量が少なく、店頭で販売する際は複数の国産米とブレンドし、袋詰めの工程も入る。ブレンドしたコメを売る場合は「複数原料米」の表示が必須で、新たな袋やパッケージの製造も迫られる。
備蓄米が店頭に並ぶまでには、これだけのプロセスがかかるのだ。
進次郎が随意契約の相手先に想定するのは大手スーパーやネット販売業者だ。23日は楽天グループの三木谷会長兼社長と面会し、「全面協力」を取りつけた。随意契約はあらかじめ価格を決めて業者も選べる。JAなど集荷業者を通さず、直接、小売りに備蓄米を渡し、先述の面倒くさい作業をすっ飛ばせば、もっと早く安く消費者に届けられる──そんな発想のようだが、スーパーや楽天に精米やブレンド、袋詰めなどのノウハウはあるのか。大いに疑問だ。
長年コメ農家の苦境を放置してきたツケ
進次郎の言う通り、市場の原理を度外視してまで5キロ=2000円の店頭価格が実現しても、それは備蓄米が混ざったホンの一握り。問題は持続性でコメ全体の価格が下がる保証はどこにもない。業者の間ではむしろ、この先も大きく下がらないとの見方が強い。
2025年産米の確保に向け、各地のJAが仕入れ先のコメ農家に支払う「概算金」(仮渡し金)は、すでに昨年から3〜4割アップ。JA全農の新潟県本部では「一般のコシヒカリ」の概算金は60キロ当たり2万3000円で昨年比35%、額にして6000円引き上げ。JA全農あきたも「あきたこまち」が60キロ当たり2万4000円と、昨年比7200円、42%引き上げる方針である。
その上、JA以外の業者らが農家から直接コメを買い取る「スポット価格」は60キロ当たり4万5000〜5万円程度と2倍近い高値をつけている。5キロ換算で3750〜4167円程度。流通経費を加算すれば店頭の販売価格は4500〜5000円になる。石破が約束した「5キロ=3000円台」の実現は前途多難だ。
高千穂大教授の五野井郁夫氏(国際政治学)はこう言った。
「石破首相も小泉農相も目先のコメの値段ばかり追いかけていますが、米価高騰の最大の理由は生産不足。その要因は気候変動とコメ農家の減少です。日本の農業従事者の平均年齢はおよそ70歳。65歳以上が全体の7割を占め、70歳以上は35%と世界の中でも異常な高齢化が進んでいます。政治が長年『時給10円』ともいわれるコメ農家の苦境を放置してきたツケで、今から事実上の減反政策を改め、若い担い手の育成に励んでも一朝一夕には解決しません。ポイント・オブ・ノーリターンに差しかかっています」
価格高騰でコメ農家の生産意欲が高まり、飼料米に転換させた水田を再び主食用米に戻す動きも活発化。25年産の主食用米の作付面積は昨年比7万5000ヘクタール増え、農水省は40万トンの生産増を見込む。しかし今夏も猛暑予想。期待通りに収穫できるとは限らない。
「作付面積の増加は、散々苦しめられてきた高齢農家たちの『最後のひと稼ぎ』に感じます。あと5年もすれば日本のコメ作りは崩壊しかねないのに、石破政権は7月の参院選さえ、しのげればいいという発想にしか見えません。このまま無策を続ければ早晩、日本のコメ市場は開放せざるを得ない。むざむざと無血開城で米国に明け渡すつもりなのでしょうか」(五野井郁夫氏=前出)
進次郎のコメコメ・パフォーマンスと大メディアの実況中継には、安易に騙されてはいけない。
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