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転職8回の末に無職 43歳男性を“どん底”から救ったのは「草むしり」だった〈dot.〉
http://dot.asahi.com/dot/2016040800137.html
2016/4/12 11:30
どんなに広い現場でも1日で終わらせる。作業は役割分担が重要だ(宮本さん提供)
「熱意があれば挑戦できる」と話す宮本さん (宮本さん提供)
依頼先には2人以上のチームで駆け付ける。現場に着くと、まず依頼者にあいさつと自己紹介。事前の打ち合わせを済ませているリーダーが、メンバーに対し作業の分担やひと通りの流れ、目標終了時刻を説明して作業に入る。
段取りを確認したら、後は集中してただただ草をむしり、刈り取るだけ。草刈り機やねじり鎌、草かきなどの道具を駆使して、ひたすら庭をきれいにする。「どんなに広い現場でも1日で終わらせます」。庭などの草むしりや庭木の剪定(せんてい)などを行う会社「草むしり」(群馬県前橋市)代表の宮本成人さん(51)は胸を張る。
世の中には、思いもよらない仕事が、起死回生の一手となることもある。宮本さんの草むしり会社は、まさにそんなケースだった。
長野市の専業農家に生まれた宮本さんは、大学卒業後、地元に戻って就職。しかし、「少し嫌なことがあると、投げやりになって辞めていた」。気がつけば、約20年の間に8回も職を転々としていた。その間、転職先の関係で群馬県高崎市に引っ越し 、気が付くと43歳。「普通のサラリーマン人生を送るはずが、なんでこうなっちゃったんだろう」とがくぜんとした。8回の転職経歴は履歴書に書きにくい。お金もない。まさに“どん底”だった。
そんな時、友人から誘われた植木屋のアルバイトで人生が変わった。それまで飲食業で働くことが多かったという宮本さん。植木の剪定という外で体を使う仕事は新鮮で、汗が心地よかった。「お庭がきれいになって、お客さまが喜んでくれて、お金ももらえる。すごくいいなあ」。生活のために嫌々始めた仕事だったはずが、アルバイトに行くのが楽しみになった。
しかし、植木屋の仕事は年末にはほとんどなくなってしまう。再び職を失い落ち込む宮本さんに、友人がこうアドバイスした。
「草むしりをしてみたら?」
「43歳で手に職もないし資格もない。人脈もお金もない。人に使われるのも嫌。やるしかなかった」(宮本さん)。こうして、お隣の前橋市で草むしり会社を設立。2009年1月のことだった。
当初の営業範囲は、関越自動車道の前橋インターから半径2キロ(現在は5キロ)に設定。道も町の名前も分からない中、毎日手作りのチラシをまき続けた。まずは自分を知ってもらおうと、チラシには顔写真やプロフィルを掲載。そうするうちにぽつぽつと依頼が寄せられるようになり、年末には目標の100件を達成した。
とはいえ、軌道に乗せるのは簡単ではない。100件の顧客が、次も頼んでくれる保証はない。収入も低い。「先が見えない中、果たしてこれで生活できるのか、とすごく不安だった」という。
不安が解消されたのは3年後。顧客は約400件に増え、「これはいける」と確信した。草むしりで困っている人はたくさんいて、リピート率は約90%になっていた。それからは毎年約100人ずつ顧客が増えていき、現在では約700件に上る。
仕事は大変だが、やりがいもある。例えば、昔ながらの日本家屋で草むしりをしていた時のこと。長い間手入れされていなかった、うっそうとした庭を1日かけて作業した。夕日が沈むころ、それまで姿をみせなかった依頼主が縁側に正座して庭を眺めていることに気が付いた。親の遺影のような写真を抱き、じっと庭を見つめている。「喜んでくれたのかな」と胸が熱くなった。
宮本さんの存在を知り、会社には「草むしりを仕事にしたい」という問い合わせも寄せられるようになった。これを受け、実技や座学など45日間の研修を経て、試験に合格すると取得できる「草むしりマイスター」という資格を創設。現在、40、50代を中心に約10人が資格を持ち、福井や滋賀、香川など全国9地区で活動している。宮本さんは「いずれは全国で1000人のマイスターを送りだし、100万件のお客さまの役に立ちたい」という目標を掲げる。
「何もなかった43歳の時から始め、今では十分仕事としてやっていけるようになった」と宮本さん。現在は「勇気と覚悟さえあれば、思いはかなう」と感じている。春を迎え、これから仕事が忙しくなる。宮本さんが始めた「草むしりの輪」が、全国に広がることを期待したい。
(ライター・南文枝)
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