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「最低賃金引き上げ」でも低所得層が救われない理由(ダイヤモンド・オンライン)
http://www.asyura2.com/16/hasan111/msg/597.html
投稿者 赤かぶ 日時 2016 年 8 月 05 日 08:36:20: igsppGRN/E9PQ kNSCqYLU
 

「最低賃金引き上げ」でも低所得層が救われない理由
http://diamond.jp/articles/-/97961
2016年8月5日 岸 博幸 [慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授] ダイヤモンド・オンライン


 政府が新たな経済対策を決定しました。真水で7.5兆円、事業規模が28兆円と、そこまで大規模な財政出動が本当に必要なのかと突っ込みを入れたくなりますが、それ以上に問題なのは、“未来への投資”を標榜しながら、働く人の将来の所得増加につながる政策が足りないということです。これでは、働く人の圧倒的多くが感じている将来不安は払拭されないのではないでしょうか。


■弱い立場で働く人のための
 環境整備は頑張ったけれど…



今回の経済対策、弱い立場の働く人を救う対策は取られましたが、根本的な働く不安の解消にはなっていないようです


 もちろん、今回の対策では、働く人の環境改善に向けた政策はたくさん講じられており、それ自体は評価すべきです。


 保育と介護の受け皿整備、保育・介護人材の給与引き上げ、育休の期間延長といった政策は、保育や介護のために仕事を犠牲としなければならない人たちにとっては、大きな環境改善となります。また、最低賃金の引き上げは、低賃金に悩まされてきた非正規雇用の人たちにとっては大きな福音です。


 ただ、これらの取り組みは、保育や介護に追われる人や低賃金の人といった、労働者の中でも弱者のための政策といえます。しかし、今の日本の雇用や労働に関する課題はそれだけではありません。


 そもそも経済政策の最大の課題は、欧米と比べて低い日本経済の生産性を引き上げて潜在成長率を高めることにあります。その現実からは、現状の低い失業率や高い有効求人倍率で安心している余裕はありません。労働者が生産性に見合った賃金を得られるようにする、衰退産業から成長産業への雇用の移行が進むようにする、といった対応が不可欠です。


 そして、それらを現実のものとするためには、終身雇用、年功序列、新卒一括採用といった日本的な雇用制度を変えなくてはなりません。そもそも働く人のうち非正規雇用の割合が37%という現実を考えると、終身雇用のメリットは大企業の正規雇用という既得権益層しか享受できていません。そして何より、グローバル化とデジタル化という構造変化が急速に進む中では、イノベーションの継続的な創出が不可欠となりますので、職場が同質的な人の集まりとなる終身雇用はこれらの構造変化との親和性が低いと言わざるを得ません。


■なんちゃって同一労働同一賃金ではダメ


 このように考えると、“未来への投資”を謳う以上は、単に弱い立場で働く人のための環境整備にとどまらず、雇用制度の改革に取り組まなくてはならないはずです。


 もちろん、今回の経済対策では、同一労働同一賃金の実現や長時間労働の是正などの労働制度改革に取り組む方針を明確にしてはいます。しかし、その内容を見ると、やはり全くもって不十分と言わざるを得ません。


 そもそも、“雇用制度”ではなく“労働制度”の改革と表現しているところから、やる気のなさが伺えてしまいます。“労働制度”ですから、雇用のあり方に手をつける気はなく、労働者を取り巻く問題しかやる気がないのです。


 だからこそ、同一労働同一賃金という雇用制度の改革で最重要の課題についても、非正規雇用の賃金を上げることだけにしか取り組んでいません。しかし、正しい意味での同一労働同一賃金を実現するには、正規雇用についての解雇ルールを明確化し、生産性の低い正規雇用者の賃金を引き下げることが不可欠です。そうした厳しい改革的な内容には触れず、耳当たりのいい非正規雇用の賃上げだけを目指すようでは、“雇用制度”の改革が進むとは思えません。


■働く人にもっとスキルアップの機会を提供すべき


 かつ、雇用制度の改革は同一労働同一賃金の実現だけでは不十分であり、今回の経済対策でも決定的に足りないもう一つの要素があります。それは、働く人にもっとスキルアップの機会を提供するということです。


 経済学的には、働く人の賃金はその人の生産性に比例して上昇します。しかし、日本には政府が提供する職業訓練の機会が非常に少ないと言わざるを得ません。高度成長期以降、労働者の技能習得は基本的に企業に任せてきたのが続いてしまっているからですが、その結果、大企業の正規雇用ならOJTがあるものの、それ以外は自治体が提供する公共職業訓練くらいとなっています。しかも、その内容はどちらかといえば初歩的な内容で、最新の技術や知識を教えるものとはなっていませんので、これでは働く人のスキルアップにつながりません。


 それでは政府は本来どのような形でスキルアップの機会を提供すべきでしょうか。その参考となる事例が米国にあります。それはMDRCという非営利のシンクタンクがニューヨーク市と共同で、連邦政府からの資金援助を受けつつ行った実験的な取り組みです。


 それは“WorkAdvance”という新しい形の職業訓練プログラムですが、従来型の職業訓練と比べて以下のような特色を有しています。


・今後の成長性の高い(=雇用吸収力の大きい)産業を選び、職業訓練の内容をそれに合ったものとする
・雇用主となる企業経営者と話し合い、特にどのようなスキルがその産業で必要とされており高い賃金につながるかを明確にし、それを職業訓練で教える
・カリキュラムを終えた受講者への職業紹介を行うのみならず、受講者がキャリアアップと収入増を実現できるよう、就職後もカウンセリングを行う


 2011〜13年の間に、全米の4地域で合計1300人の失業者か低賃金労働者がこの新しい職業訓練プログラムを受講したのですが、受講者の就職後の賃金が通常の職業訓練受講者よりも20%以上高くなっているなど、かなり大きな成果を挙げています(もちろん、有望と思った産業が州の規制の変更によりダメになったなどの失敗もありますが)。


 ちなみに、この他にも、米国の幾つかの州では成長産業に絞った職業訓練(“sectoral training”)をコミュニティカレッジなどで提供し始めているようで、米国では、こうした新しい形の職業訓練を連邦政府が提供して労働者の低賃金からの脱却を後押しすべきである、連邦政府の職業訓練への投資額は米国のGDPのわずか0.03%で、世界で最も職業訓練がうまく行っているデンマークの18分の1というのは少なすぎる、という主張が識者から行われています。


 翻って日本を見ると、成熟産業から成長産業へと雇用を移行させるのが課題となっているのに加え、働く人の年収の平均が415万円ではあるものの、働く人全体の約40%が年収300万円以下であることを考えると、保育や介護の充実といった環境整備のみならず、こうした低賃金で働く人の収入の増加に向けて、職業訓練の制度を進化させることが不可欠なはずです。


■早く雇用分野で本当の“未来への投資”をすべき


 しかし残念ながら、この分野にはハローワークという官の組織を中心とした制度と規制、厚生労働省などの既得権益が厳然と存在するため、職業紹介一つをとってもなかなか民間企業に十分には解放されていません。


 だからこそ、今回の対策でも職業訓練の充実という先進国では不可欠かつ当たり前の対応が入っていませんが、グローバル化とデジタル化という構造変化が進む中では、職業訓練の仕組みを進化させて働く人が必要とされているスキルを身に付けられるようにしない限り、いくら環境整備を頑張っても特に低所得層の賃金増や将来不安の払拭には限界があるのではないでしょうか。


 もちろん、この改革は、他の改革と異なり財政支出の増加を伴います。例えばWorkAdvanceの受講者一人当たりのコストは5200〜6700ドルでしたので、平均が6000ドルとすると、これと同様の職業訓練プログラムを日本で実施したら、例えば10万人を対象としても600億円かかります。しかし、定額給付金などのワンショットのバラマキと比べれば、それで生活保護を脱する人も出てくるであろうことを考えると、費用対効果は悪くないはずです。


 安倍政権が今後も“未来への投資”を標榜し、かつそれが働く人の未来も含むのならば、今回の対策で満足することなく、次は正しい意味での同一労働同一賃金の実現と職業訓練プログラムの進化という、働く人のスキルアップと日本経済の生産性の向上に貢献する改革に取り組むべきです。


 働き方改革については、今年度内に具体的な実行計画を策定するようですので、是非そこでは、今回の対策のメニューに限定せず、働く人のための“未来への投資”と言うにふさわしい正しい改革メニューを盛り込んでほしいものです。



 

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コメント
 
1. 2016年8月05日 09:03:14 : jXbiWWJBCA : zikAgAsyVVk[453]

賃金市場が効率的である(労働組合や労働規制がなく、巨大企業による寡占もなく自由競争が成立している)場合、

最低賃金を上げても、特に地方の零細企業での最低賃金労働者の雇用が減り、社会保障コストが上昇するだけで、平均としての国民の生活水準は下がる。

特に、日本の輸出大企業の場合、労働規制による解雇困難という非効率性があるので、ますます国内での雇用と投資を減らし、マイナス効果が高まることになる。

国内企業の生産性が上がり、賃金上昇が物価上昇を上回らない限り、全体としての実質所得が上がることはない。

世界が、それぞれ10人しかいない2つの村からなり、そこで生産と交易を行う状況を考えてみれば明らかなことだ。



2. 2016年8月05日 10:03:19 : qkAZ7zSU8E : W9AATMVkcgM[42]
>1 最低賃金を上げても、特に地方の零細企業での最低賃金労働者の雇用が減り、社会保障コストが上昇するだけで、平均としての国民の生活水準は下がる。

社会保障コストが上昇しても国民の生活水準が下がるとはいえない。その理由は、国民生活の水準とは、平均でなく中央値でみるのがよいだろうから。


3. 2016年8月05日 10:29:13 : nJF6kGWndY : n7GottskVWw[2167]

働かず医療や介護で手がかかる老人が増えて、現役世代が減るのだから

生産性が大して上がらず、交易条件も改善しなければ、いくら再分配したところで

当然、平均だけでなく中央値も下がるよ



4. 2016年8月06日 18:37:37 : PMDVRvHLdg : RTvIXZIKe8E[2]
>>だからこそ、今回の対策でも職業訓練の充実という先進国では不可欠かつ当たり前の対応が入っていません

日本でいくら職業訓練を行ってもともと中途採用が一般的ではないので、
採用してくれる企業が限られているからだ。

>終身雇用、年功序列、新卒一括採用といった日本的な雇用制度を変えなくてはなりません。

そのためには経験者中途採用が標準の欧米のようにするのだろうが、
この場合若い人が仕事を得るのが非常に難しくなる副作用もある。


5. 2016年8月06日 18:39:30 : PMDVRvHLdg : RTvIXZIKe8E[3]
>>3
現代は働き手が少ないことや生産性が低いことが問題なのではなく、
生産性が高くなり働き手が多くは必要なくなったことが問題だろう。

問題設定を誤って正しい解決策を得ることはできない。


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