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日本の潜在成長率は本当にゼロ%台前半なのか(ZUU)
http://www.asyura2.com/16/hasan112/msg/674.html
投稿者 赤かぶ 日時 2016 年 9 月 02 日 21:07:30: igsppGRN/E9PQ kNSCqYLU
 

             日本の潜在成長率は本当にゼロ%台前半なのか(写真=PIXTA)


日本の潜在成長率は本当にゼロ%台前半なのか
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160902-00000018-zuuonline-bus_all
ZUU online 9月2日(金)19時20分配信


■要旨

日本の潜在成長率は1980年代には3~4%台だったが、バブル崩壊後の1990年代前半に大きく低下し、1990年代後半以降は概ね1%を割り込む水準で推移している。日本銀行、内閣府、ニッセイ基礎研究所による直近の潜在成長率の推計値は0.2%、0.3%、0.3%といずれもゼロ%台前半となっている。

潜在成長率は推計方法や推計に用いるデータによって数値が異なることに加え、新しいデータの追加によって過去に遡って推計結果が改定されることが多い。たとえば、ニッセイ基礎研究所による潜在成長率の推計値は2007年度が当初の2.1%から1.3%へ下方改定される一方、2010年度が当初の▲0.2%から0.5%へ上方改定されている。

先行きの成長率によって潜在成長率がどのように変化するかをシミュレーションすると、今後3年間の成長率がゼロ%の場合には潜在成長率もほぼゼロ%となるが、1%成長の場合は0.5%、2%成長の場合は1.1%、3%成長の場合は1.6%となる。また、1%以上の成長が続いた場合には先行きだけでなく足もとの潜在成長率も高まることになる。

ゼロ%台前半とされている現在の潜在成長率はあくまでも過去の日本経済を現時点で定量的に捉えたものであり、将来の経済成長を決めるものではない。少なくとも現時点の潜在成長率を所与のものとして日本経済の将来を考える必要はない。

■はじめに

日本の経済成長率の低迷に歯止めがかからない。安倍政権が発足してからの3年間(2013~2015年度)で企業収益(法人企業統計の経常利益)は37%、雇用者数は151万人の大幅増加となったが、この間の実質GDPの伸びは1.9%(年率0.6%)にすぎない。

2015年度の実質GDPは前年比0.8%と2年ぶりのプラス成長となったが、2014年度の落ち込み(同▲0.9%)を取り戻すまでには至らなかった。一般的に、経済成長率は短期的には需要要因、長期的には供給要因で決まるとされる。

最近の成長率の低迷は消費税率引き上げに伴う個人消費の落ち込み、海外経済の減速による輸出の伸び悩みなど、短期的な要因によって押し下げられているという側面もある。しかし、過去10年間(2006~2015年度)の平均成長率も0.4%にとどまっているため、成長率低迷の主因は供給力、すなわち潜在成長率の低下にあるという見方は多い。

実際、日本銀行、内閣府が推計する直近の潜在成長率はそれぞれ0.2%、0.3%と極めて低い水準となっており、経済成長率を高めるためには構造改革などによって潜在成長率を引き上げることが急務とされている。

しかし、潜在成長率(供給力)が低下する一方で、GDPギャップはマイナスが続いており、このことは日本経済の供給力に需要が追いついていないことを意味する。日本経済が長期にわたり停滞を続けている原因としては、需要不足によるものなのか供給力の低下によるものなのかは必ずしも明らかではない。

本稿では、日本銀行、内閣府、ニッセイ基礎研究所による潜在成長率の推計値がいずれもゼロ%台前半まで低下していることを確認した上で、潜在成長率を推計する際に一般的に用いられる生産関数アプローチの概要を解説する。

さらに、実績値の改定、新しいデータの追加によって潜在成長率の推計結果が大きく改定されてきたことを踏まえ、先行きの経済成長率によって将来だけでなくゼロ%台前半とされている足もとの潜在成長率が今後大きく変わりうることを示す。

■潜在成長率を巡る問題

◆潜在成長率、GDPギャップの推移

潜在GDPとは、「中長期的に持続可能なGDPの水準」、「物価上昇率を加速させないGDPの水準」などと定義され、その変化率(年率)は潜在成長率と呼ばれる。潜在GDPと現実のGDPの乖離がGDPギャップ(需給ギャップ)とされ、現実のGDPの水準が潜在GDPの水準を上回ればGDPギャップはプラスとなり、逆の場合にはGDPギャップがマイナスとなる。

また、現実のGDP成長率が潜在成長率を上回ればGDPギャップのプラス幅が拡大(あるいはマイナス幅が縮小)、現実のGDP成長率が潜在成長率を下回ればGDPギャップのプラス幅が縮小(あるいはマイナス幅が拡大)する。

潜在GDPやGDPギャップは経済・物価情勢を判断する上で非常に重要な指標であるが、客観的なデータとして直接観測できるものではなく、推計によって求められる。そのため、推計方法や推計に用いるデータなどによって潜在GDP、GDPギャップの値は変わってくる。

日本銀行、内閣府、ニッセイ基礎研究所による直近の潜在成長率の推計値(*1)を見ると、概ね以下のような推移となっている。

1980年代に3~4%台であった日本の潜在成長率は1990年代初頭から急速に低下し、1990年代の終わり頃には1%を割り込む水準にまで低下した。2000年以降は1%台に回復する局面もあったが、2000年代後半に大きく低下しこの数年間はいずれもゼロ%台前半で推移している。直近(2015年度下期)の潜在成長率は日本銀行が0.2%、内閣府、ニッセイ基礎研究所が0.3%となっている。

日本銀行、内閣府、ニッセイ基礎研究所による潜在成長率は、推計方法や推計に用いるデータが違うことなどから、異なった動きをすることがある。

たとえば、内閣府推計の潜在成長率は2005年頃から緩やかに低下し、リーマン・ショックよりもかなり前に1%を割り込んでいるが、日本銀行、ニッセイ基礎研究所推計の潜在成長率はリーマン・ショックが発生した2008年以降に急速に低下し、1%を割り込む形となっている。

また、日本銀行の潜在成長率は2010年頃から5年以上にわたってゼロ%台前半の推移が続いているが、内閣府、ニッセイ基礎研究所の潜在成長率がゼロ%台前半となったのは2013年頃である。

このように、短期的に見れば水準、方向が異なることもあるが、一定期間を均してみれば日本銀行、内閣府、ニッセイ基礎研究所の潜在成長率の水準は概ね等しくなっている。

次に、潜在GDPと現実のGDPの乖離であるGDPギャップの推移を確認する。潜在成長率と同様にどの推計値を見ても大きな流れは変わらない。

GDPギャップはバブル期の1980年代後半から1990年代初頭にかけて大幅なプラスとなっていたが、バブル崩壊とともに急速に悪化し、1990年代前半にはマイナスに転じた。

2002年以降の戦後最長の景気回復局面の後半にはプラスに転じたが、リーマン・ショックによってGDPギャップのマイナス幅は急速に拡大し、2009年度には日本銀行、内閣府、ニッセイ基礎研究所のマイナス幅はいずれも▲7%台に達した。

その後は景気循環、東日本大震災などによってアップダウンを繰り返しているが、いずれの推計値でも明確なプラス圏には浮上していない。ただし、足もとのGDPギャップの水準は日本銀行の推計値が▲0.1%とゼロ近傍となっているのに対し、内閣府、ニッセイ基礎研究所の推計値が▲1%程度とマイナス幅が大きくなっている(図表3)。

なお、内閣府、ニッセイ基礎研究所の推計値に比べて日本銀行の推計値は動きが滑らかとなっている。これは内閣府、ニッセイ基礎研究所は、潜在GDPを推計したうえで、現実のGDPとの乖離をGDPギャップとしているため、現実のGDPの振れがGDPギャップの推計値に直接影響するのに対し、日本銀行は設備、労働の稼働状況からGDPギャップを推計し、そのギャップと現実のGDPから潜在GDPを求めているためと考えられる。

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(*1)内閣府は潜在成長率の四半期データ(前期比年率)を公表しているが、日本銀行は半期データ(前年比)の公表となっているため、内閣府(ニッセイ基礎研究所)のデータを半期ベースに転換した。
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◆潜在GDPの推計方法

潜在GDPの推計方法には(1)生産関数を用いる方法、(2)HPフィルターによるトレンドを用いる方法、(3)NAIRU(*2)アプローチによる方法、等がある。

日本銀行、内閣府、ニッセイ基礎研究所はいずれも生産関数アプローチを採用している。以下では、生産関数アプローチによる潜在GDPの推計方法の概要を示す。

まず、以下のコブ・ダグラス型の生産関数を仮定する。

ln(Y)=(1-α) ln(K)+α ln(L)+ln(TFP)・・・(1)
Y:実質GDP、K:資本投入量、L:労働投入量、
TFP:全要素生産性、α:労働分配率

TFP(全要素生産性)は(1)式に現実のGDP、現実の資本・労働投入量を代入することによって残差として求められる。ただし、このようにして求めたTFPはGDPなどの毎期の振れを含んでいるため、HPフィルターによって平滑化したものを全要素生産性とする。

(1)式に潜在資本投入量、潜在労働投入量、全要素生産性を代入することにより、潜在GDPが求められる。

ln(Y※)=(1-α)ln(K※)+αln(L※)+ln(TFP)
Y※:潜在GDP、K※:潜在資本投入量、L※:潜在労働入量

日本銀行、内閣府、ニッセイ基礎研究所の潜在GDPの推計方法は、大枠では同じだが、推計に用いるデータ、推計方法の細かい部分は異なっている。

たとえば、労働投入量=15歳以上人口×労働力率×(1-失業率)×一人当たり総労働時間

で計算される。潜在労働投入量はこの式の労働力率、一人当たり総労働時間にトレンド、失業率にUV分析を用いた構造失業率を代入することによって求めるところは共通だが、内閣府、ニッセイ基礎研究所が全体の労働力率、総労働時間にHPフィルターを使ってトレンドを計算しているのに対し、日本銀行は労働力率に関しては年齢階層別、男女別にHPフィルターでトレンドを抽出、労働時間に関しては一般労働者分、パート労働者分の潜在労働時間を別々に推計するという方法をとっている。

資本投入については、基本的な推計方法はほぼ同じだが、推計に用いる資本ストックのデータが異なっている。具体的には、日本銀行はJIPデータベースの資本ストック、内閣府は「固定資産残高に係る参考試算値(内閣府)」の実質固定資産残高(*3)、ニッセイ基礎研究所は「民間企業資本ストック(内閣府)」を用いている。

「民間企業資本ストック」は過去からの投資額の累積から廃棄された設備(除却額)を控除することによって推計されているが、既存設備の陳腐化、磨耗などによる経済的な価値の低下が反映されていないという問題点が従来から指摘されている。

これに対し、JIPデータベースの資本ストック、内閣府の実質固定資産残高は設備の減耗分が毎期控除されているため、経済的な価値により近いものになっていると考えられる。ただし、JIPデータベース、内閣府の実質固定資産残高は四半期データが存在しない(年データのみ)、公表が遅い(*4)といったデメリットもある。日本銀行、内閣府は公表データが存在しない期間について、延長推計、四半期化を行っている。

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(*2)Non-Accelerating Inflation Rate of Unemployment(インフレ率を加速させない失業率)
(*3)2015年2月までは「民間企業資本ストック(内閣府)」を用いていた。
(*4)現時点で、JIPデータベースの最新値は2012年、実質固定資産残高の最新値は2014年である。
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◆潜在成長率の寄与度分解

潜在成長率は潜在GDPの伸び率であるため、潜在成長率=潜在資本投入量の伸び率×資本分配率(=1-労働分配率)+潜在労働投入量の伸び率×労働分配率+TFP上昇率となる。したがって、潜在成長率は資本投入、労働投入、TFPに寄与度分解できる。日本銀行、ニッセイ基礎研究所推計の潜在成長率の寄与度分解したものが図表である(*5)。

日本銀行、ニッセイ基礎研究所の推計値ともに、1980年代は潜在成長率4%程度のうち資本投入、TFPによる寄与が1%台後半~2%台前半、労働投入による寄与が0%台後半となっていた。1990年代初頭以降の潜在成長率の急低下局面では、人口増加率の低下、労働時間短縮の影響などから労働投入の寄与がマイナスに転じ、その後はほぼ一貫してマイナスとなっている。

両者の推計値が大きく異なるのは、資本投入、TFPの動きである。日本銀行の推計値では資本投入による寄与が1990年頃から大きく低下し、2010年頃からはゼロ近傍の推移となっている。

一方、ニッセイ基礎研究所の推計値では、資本投入による寄与度は長期的に見れば低下傾向にあるものの、日本銀行と比べると水準は高く、足もとでも0.5%程度のプラスとなっている。逆にTFPは日本銀行の推計値のほうが高く、ニッセイ基礎研究所推計のTFPは足もとでは若干のマイナスとなっている。

資本投入による寄与が大きく異なっている理由は、前述したように推計に用いている資本ストックのデータが異なることである。日本銀行が用いているJIPデータベースの資本ストックは足もとでは前年比で小幅なマイナスとなっているのに対し、ニッセイ基礎研究所が用いている内閣府の民間企業資本ストックは前年比で1%台の伸びを維持している(*6)。

内閣府の民間企業資本ストックが経済価値を過大評価しているとすれば、ニッセイ基礎研究所の資本投入量の推計値も過大となっている可能性がある。

しかし、仮に資本投入量を過大推計していたとしても、実はこのことが潜在成長率の過大推計には直結しない。それは、TFPが現実のGDPと資本投入、労働投入との残差によって求められるため、労働投入、資本投入の推計値が大きければTFPがその分小さくなることによって調整されるという関係があるためである。

実際、資本投入による寄与度がニッセイ基礎研究所のほうが大きい分、TFPは日本銀行のほうが大きくなっており、両者が相殺することで潜在成長率の水準はそれほど大きく変わらない形となっている。

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(*5)内閣府は潜在成長率の内訳(資本、労働、TFP)を公表していないため、ここでは日本銀行、ニッセイ基礎研究所の推計値を比較した。
(*6)ただし、日本銀行、ニッセイ基礎研究所ともに資本ストックの公表データを加工して資本投入量を算出しているため、公表データの伸び率の違いがそのまま潜在成長率の推計値に反映されるわけではない。
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◆改定される潜在成長率

潜在成長率はあくまでも推計値であるため、推計方法や使用するデータによって数値が異なることに加え、推計値が事後的に改定されるという問題がある。

ここで、日本銀行の直近(2016年7月時点)の推計値を、日本銀行が現在の方法で潜在成長率の推計を開始した2006年5月時点と比較すると、1980年代半ばの潜在成長率が大幅に上方改定される一方、当時の直近の推計値であった2005年度にかけて下方改定幅が拡大している。特に1984年度については上方改定幅が1%程度とかなり大きなものとなっている。

潜在成長率の推計値が改定される理由のひとつは、実質GDPの実績値が過去に遡って改定されることだ。潜在GDPの推計は現実のGDPに基づいて推計されるため、現実のGDP成長率が上方(下方)改定されると潜在成長率も上方(下方)改定される傾向がある。

2006年5月時点と2016年7月時点の実質GDP成長率を比較すると、1980年代前半から半ばにかけての成長率が大幅に上方改定されており(*7)、このことが潜在成長率の上方改定につながったことが推察される。ただし、2000年度以降の実質GDP成長率はそれほど大きく改定されておらず、2005年度にかけての潜在成長率の下方修正はこれ以外の要因によるものであると考えられる。

潜在成長率の改定要因をさらに詳しくみるために、次に2000年代半ばから直近までの潜在成長率の改定状況を、ニッセイ基礎研究所が2005年度から毎年10月に推計している年度ベースの推計値から確認する(*8)。

各年度の潜在成長率の当初推計値から直近(2016年8月時点)推計値への改定状況をみると、2005年度は1.5%から0.9%へ、2006年度は1.7%から1.0%へ、2007年度は2.1%から1.3%へと下方改定される一方、2009年度は▲0.3%から0.1%へ、2010年度は▲0.2%から0.5%へ、2011年度は0.2%から0.6%へと上方改定されている。

特徴的なのは、上方改定される年度と下方改定される年度が一定期間続くこと、潜在成長率の改定の方向が転換するのは現実の実質GDP成長率がそれまでのトレンドから大きく変化した時期と概ね一致していることである。

たとえば、潜在成長率の下方改定幅が▲0.8%と最も大きい2007年度を例にとると、2007年度の潜在成長率が最初に推計された時点(2008年10月)の過去3年間の平均成長率は2.2%(2005年度:2.4%、2006年度:2.5%、2007年度:1.6%)であった。

その後明らかとなった先行き3年間の平均成長率は▲0.8%(2008年度:▲3.7%、2009年度:▲2.0%、2010年度:3.5%)となり、2008度以降の3年間の平均成長率は2007年度までの3年間の平均成長率よりも▲2.9%も低くなっている。

逆に、潜在成長率の上方改定幅が最も大きい2010年度の場合、2010年度の潜在成長率が最初に推計された時点(2011年10月)の過去3年間の平均成長率は▲1.4%(2008年度:▲4.1%、2009年度:▲2.4%、2010年度:2.3%)であったが、2011年度以降の3年間の平均成長率は1.1%(2011年度:0.4%、2012年度:0.9%、2013年度:2.0%)となり、2010年度までの3年平均よりも2.5%高くなった。

前述したように、潜在成長率の推計には現実のGDPのデータをもとにしたトレンドが用いられる。具体的には、潜在GDPの構成要素のひとつであるTFPは現実GDPから資本投入量、労働投入量を差し引いた残差をHPフィルターで平滑化して求められる。このため、現実のGDP成長率が過去のトレンドから上(下)振れすれば、TFP上昇率は過去に遡って上方(下方)改定され、潜在成長率の推計値も上方(下方)改定されることになる。

実際、「潜在成長率の改定幅」と「現実のGDP成長率の変化幅(先行き3年平均-過去3年平均)」の間には強い相関があり、相関係数は0.95となっている。

このように、潜在成長率はどのような方法、データを用いて推計しても、実績値の改定、先行きのGDP成長率によって過去に遡って改定される。このことは、現在ゼロ%台前半とされている潜在成長率は今後の成長率次第で大きく変わる可能性があることを意味している。

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(*7)現行のGDP統計は1994年以降の正式系列、1980年~1993年の参考系列が2005年基準・連鎖方式として公表されているが、2006年5月時点では1994年以降の正式系列が2000年基準・連鎖方式、1980年~1993年の参考系列が1995年基準・固定基準年方式で公表されていた。
(*8)日本銀行の潜在成長率の推計値は2006年5月時点、2016年7月時点以外のものが入手できなかった。
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■潜在成長率の先行き試算

最後に、先行きの成長率によって将来、過去の潜在成長率がどのように変化するかを、ニッセイ基礎研究所の潜在成長率の推計方法を用いてミュレーションした。前提としては、15歳以上人口、労働力率、総労働時間、資本ストックなどを先延ばし(*9)した上で、2018年度末まで(2016年7-9月期~2019年1-3月期)の約3年間の成長率が3%、2%、1%、0%(いずれも四半期毎の前期比年率)の場合の潜在成長率を算出した。

3%成長、2%成長の場合、2018年度末にかけて潜在成長率は上昇を続け、2018年度下期の潜在成長率の水準は3%成長の場合が1.6%、2%成長の場合が1.1%となる。1%成長の場合には潜在成長率はほぼ横ばいで推移し2018年度下期の水準は0.5%、0%成長の場合には潜在成長率は足もとの水準からさらに低下し2018年度下期には0.0%となる。

また、1%成長以上のケースでは足もと(2015年度下期)の潜在成長率の水準が直近の推計値よりも高くなる。2015年度下期の潜在成長率は、現時点の0.3%から3%成長で1.0%、2%成長で0.8%、1%成長で0.5%となる。1%成長以上の場合には足もとの潜在成長率が高まった上で先行きが横ばいという形となる。

潜在成長率のシミュレーション結果を資本投入、労働投入、TFPに寄与度分解すると、潜在成長率の変化に最も大きく寄与しているのはTFP上昇率の変動である。今回のシミュレーションでは、資本投入量、労働投入量は足もとから大きく変わらないことを想定しているため、現実のGDP成長率の変化の相当部分が現実のGDPと資本投入量、労働投入量の残差として算出されるTFP上昇率の変化となって表れることになる(*10)。

たとえば、3%成長が継続した場合、2018年度下期のTFP上昇率は足もとのほぼゼロ%から1.2%まで高まる。このケースでは、先行きだけでなく足もと(2015年度下期)の潜在成長率も0.7%(0.3%→1.0%)高まるが、このうち0.6%がTFP上昇率の変化(▲0.1%→0.5%)によるものとなっている。

このことは、資本投入量、労働投入量の伸びが現在とそれほど変わらなくても現実の経済成長率が高まれば、結果的にTFP上昇率が上がることで潜在成長率が高まる可能性があることを示唆している。

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(*9)成長率毎に異なる想定を置いている。
(*10)潜在労働投入量を求める際に用いられるHPフィルターによるトレンドも先行きの動きによって過去に遡って改定されるが、今回のシミュレーションでは足もとのトレンドから大きく変わらないことを想定しているため、労働投入の改定幅は小さい。
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■おわりに

ここまで見てきたように、潜在成長率は推計方法や推計に用いるデータによって推計結果が変わるだけでなく、実績値の改定や先行きの成長率の動きなどによって過去に遡って推計値が改定されるという特徴がある。特に、直近の推計結果については不確実性が高いため、ゼロ%台前半とされる足もとの潜在成長率はかなりの幅をもってみる必要がある。

潜在成長率は日本経済の実力とも言われ、中長期的な経済成長率を予測する際のベースとして用いられることも多いが、本稿のシミュレーションで示されたように、今後の成長率次第で先行きの潜在成長率が変わるだけでなく、足もとの潜在成長率も大きく変わりうる。

もちろん、現実の成長率を引き上げることは容易なことではないが、潜在成長率が大きく低下しているという認識が広く浸透していることが企業の期待成長率の低下、設備投資の抑制をもたらしているとすれば、こうした悲観論を払拭することも現実の経済成長率の引き上げに一定程度貢献する可能性がある。

ゼロ%台前半とされている現在の潜在成長率はあくまでも過去の日本経済を現時点で定量的に捉えたものであり、将来の経済成長を決めるものではない。少なくとも現時点の潜在成長率を所与のものとして日本経済の将来を考える必要はないだろう。

<参考文献>
一上響、代田豊一郎、関根敏隆、笛木琢治、福永一郎(2009)「潜在成長率の各種推計法と留意点」日銀レビュー,2009-J-13

伊藤智、猪又祐輔、川本卓司、黒住卓司、高川泉、原尚子、平形尚久、峯岸誠(2006)「GDPギャップと潜在成長率の新推計」日銀レビュー,2006-J-8

荻島駿、笠原滝平(2015)「GDPギャップの推計方法の改定について」今週の指標 No1114 <http://www5.cao.go.jp/keizai3/shihyo/2015/0212/1114.html>

亀田制作(2009)「わが国の生産性を巡る論点~2000年以降の生産性動向をどのように評価するか~」日本銀行ワーキングペーパーシリーズ,No.09-J-11

酒巻哲朗(2009)「1980年代以降のGDPギャップと潜在成長率について」、慶應義塾大学出版会「バブル/デフレ期の日本経済と経済政策」第1巻『マクロ経済と産業構造』p.3-32.

内閣府「経済財政白書」(各年版)

斎藤太郎(さいとう たろう)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 経済調査室長

 

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コメント
 
1. 2016年9月02日 23:15:20 : nJF6kGWndY : n7GottskVWw[2561]

>潜在成長率(供給力)が低下する一方で、GDPギャップはマイナスが続いており、このことは日本経済の供給力に需要が追いついていないことを意味する。
>日本経済が長期にわたり停滞を続けている原因としては、需要不足によるものなのか供給力の低下によるものなのかは必ずしも明らかではない

2者択一思考だな

両者が、相互に影響しあい、人口や産業といった構造要因も劣化した

(しかも新たに海外要因も加わった)

つまりマイルドなデフレスパイラルが続いている可能性も疑うべきでは?


>潜在成長率は資本投入、労働投入、TFPに寄与度分解

この辺がわかり易い
http://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je01/pdf/wp-je01fu-2-04fc.pdf
https://www.boj.or.jp/research/wps_rev/rev_2009/data/rev09j13.pdf

>日本銀行、ニッセイ基礎研究所の推計値ともに、
>1980年代は潜在成長率4%程度のうち
 資本投入、TFPによる寄与が、1%台後半~2%台前半、
 労働投入による寄与が0%台後半
>1990年代初頭以降の潜在成長率の急低下局面では
 人口増加率の低下、労働時間短縮の影響などから労働投入の寄与がマイナスに

>日本銀行の推計値では資本投入による寄与が1990年頃から大きく低下し、2010年頃からはゼロ近傍
>ニッセイ基礎研究所の推計値では、資本投入による寄与度は長期的に見れば低下傾向 足もとでも0.5%程度のプラス
>逆にTFPは日本銀行の推計値のほうが高く、ニッセイ基礎研究所推計のTFPは足もとでは若干のマイナス

>今後の成長率次第で先行きの潜在成長率が変わるだけでなく、足もとの潜在成長率も大きく変わりうる。
>潜在成長率が大きく低下しているという認識が広く浸透していることが企業の期待成長率の低下、設備投資の抑制をもたらしているとすれば、こうした悲観論を払拭することも現実の経済成長率の引き上げに一定程度貢献する可能性

トートロジー的で、空しい結論だな

少子化で労働投入が減ったことだけが、明確な原因として示されているが、そんなの当たり前のことだ

なぜ資本投入とTFPによる寄与が下がったのか、それを改善するには、どうすべきかを言わないと、

今後の指針としては、ほとんど意味はない

ちなみに日銀では、BSの毀損という、金融要因が、デフレ圧力を通じて生産活動の効率性を押し下げる間接的な経路により、

(つまり銀行からの融資=企業の借入意欲の低下、資本投入=設備投資が抑制されたため)

TFPを押し下げたとシミュレーションから分析しており、

最近の投資と消費の下振れがGDPを押し下げている点から考えても、ある程度の説得力はある


その場合、当然、対策は、デフレからの早期脱却が有効ということになるわけだが

容易に推測できるように

それだけでは労働投入のマイナスを打ち消して、80年代のような4%程度の潜在成長率に戻るはずもない

当然、それ以外の地道な改革努力があって、初めて2%程度の安定したプラス化が実現できると考えるのが自然だろう


https://www.boj.or.jp/research/wps_rev/wps_2016/wp16e03.htm/
失われた20年における全要素生産性の成長率低下の原因について
―バランス・シートの毀損による影響の定量評価
2016年3月22日
武藤一郎*
須藤直**
米山俊一***

全文掲載は、英語のみとなっております。

全文 [PDF 663KB]
要旨

1990年代以降の日本経済の長期低迷(いわゆる「失われた20年」)は、何によってもたらされたのだろうか?長期低迷の原因として、大別すると、これまで二つの見方が挙げられてきた。

一つ目の見方は、全要素生産性(Total Factor Productivity、TFP)の成長率の鈍化に注目する立場である。1990年代以降、TFPの成長率は顕著に低下しており、先駆的な研究であるHayashi and Prescott(2002)は、こうしたTFPの動きを外生的な技術水準の推移と解釈すると、長期低迷を教科書的な成長モデルによって説明できることを示している。

もう一つの見方は、1990年代に生じた二つの金融に係る危機――1990年代初頭のバブル崩壊および1990年代後半の銀行危機――に注目する立場である。バブル崩壊や銀行危機は、銀行や企業のバランス・シートを毀損したが、先行研究の幾つかは、こうしたバランス・シートの毀損が金融仲介機能を損ない、経済活動の収縮に帰結したと指摘している。

当論文では、銀行を組み込んだ動学的一般均衡モデルを構築し、バランス・シートの毀損とTFPの関係性を考察することで、この二つの見方を整合的に解釈することができることを示している。

モデルでは、バランス・シートの毀損は、銀行部門の効率性を直接的に低下させる経路と、実体経済へのデフレ圧力を通じて生産活動の効率性を押し下げる間接的な経路の二つを通じて、TFPの成長率を鈍化させる。

1980年以降の日本のデータを用いて推計すると、
(1)仮にバランス・シートの毀損、とりわけ銀行部門のバランス・シートの毀損が発生しなかった場合、1990年代のTFPの成長率は実際に観察された成長率の2倍になること、
(2)バランス・シートの毀損がTFPに与える二つの経路のうち、銀行部門の効率性を通じた経路は定量的に小さく、実体経済の生産活動の効率性を通じた経路が主たる役割を果たしていたこと、が分かった。

JEL分類番号
E20、E51

キーワード
失われた20年、全要素生産性(Total Factor Productivity)、バランス・シート問題


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