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中国の技術窃取に悩まされ続ける米国の対抗措置 日本が見落としがちな米中貿易戦争の文脈 休戦あり得ぬ トランプ最終的戦勝は
http://www.asyura2.com/18/hasan129/msg/838.html
投稿者 うまき 日時 2018 年 12 月 10 日 19:44:30: ufjzQf6660gRM gqSC3IKr
 

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

中国の技術窃取に悩まされ続ける米国の対抗措置

2018/12/10

岡崎研究所

 米国マイクロン社が、中国の企業に知的財産を盗まれたと非難したことを受けて、米国商務省は、10月29日、中国の福建晋華への米国技術の輸出を規制することを発表した。国有企業の福建晋華は、米国技術と類似の技術を使用し製造を行っているが、司法省によれば、それらは米国の軍事システムでも使用される機微な技術への脅威となる。


(annydesign/TopVectors/iStock)
 今回の中国企業による米国技術の窃取は、台湾を舞台に2年前の2016年に端を発する。その年、台湾にあるマイクロン社の子会社UMCが福建晋華と技術協定を結び、DRAM(記憶保持メモリ)へのアクセスを許した。そのDRAMの技術を窃取した2人のマイクロン社のエンジニアは、UMCに雇用されたが、2017年8月、台湾当局によって起訴されている。

 本年11月1日、米国司法省は、UMC、晋華、2人のエンジニア及び追加1人の下マイクロン社社員を、貿易秘密を窃取した疑いで起訴した。ジェフ・セッションズ司法長官は、被害額を、87億5千万ドルと推定する。

参考:Wall Street Journal ‘A Better China Trade Strategy’ November 1, 2018

 技術後発国は多かれ少なかれ技術先進国から技術を窃取しようとするものである。しかし中国による技術窃取のスケールはけた違いに大きい。中国は技術で米国に追いつくことを国策として推進しており、その手段の一つとして不法な窃取も国家主導で行っている。

 中国の近年の技術水準は著しく向上しているが、その少なからざる部分が窃取によるものと推定される。最大の被害者は技術で優位に立つ米国である。米国は以前から中国による技術の窃取に懸念を表明してきたが、最近危機感を強めている。中国の技術水準が急速に高まり、米国を急迫しているからである。

 米国は以前から中国に対し、知的財産権の窃取などに警告を発してきたが、ここにきて具体的な対策を取るようになった。その一つが報復関税で、 6月15日、中国による知的財産権に対する報復として、中国の対米輸出品500億ドルに関税を付加すると発表し、その後2段階に分け、実施した。しかし関税が知的財産権の窃取に対する有効な手段とは思われない。むしろ知的財産権の窃取を口実に関税を付与した感すらある。

 このような状況の中で、告訴がなされた。これは、米国の情報機関と司法省が協力して、米国の先端技術を窃取しようとする中国のスパイやハッカーを逮捕するものである。スパイ行為を法律で取り締まることになると、機微な情報が公にされるおそれがあるが、機密保持もさることながら、窃取を厳しく罰し、少しでもそれを減らすことを優先させるということであろう。そのうえ告訴は、単に違法行為を追及するのにとどまらず、中国のスパイ技術の詳細を明らかにするという。告訴方式は今後ますます強化されていくだろう。

 しかし、技術の窃取の防止は容易ではない。特にサイバーによる技術の窃取に有効に対処することは多くの困難が伴う。サイバー攻撃への対処が進歩すれば、それを回避するようなサイバー技術が開発され、鼬ごっことなる恐れもある。 そのうえ中国は、米国が告訴など技術窃取対策を強化しても、技術窃取は止めないだろう。今後とも長きにわたり技術窃取をめぐる米中の攻防が続くものと思われる。

 中国の技術窃取については、最大の標的である米国のみならず、欧州、日本も大いに関心がある。欧州、日本も米国と協力して、中国による技術窃取を強く非難し、その防止に協力すべきである。
http://wedge.ismedia.jp/articles/print/14690

 

日本が見落としがちな「米中貿易戦争」の文脈

2018/12/09

樋泉克夫 (愛知県立大学名誉教授)

 12月2日にアルゼンチンで行われた米中首脳会談を、シンガポールの有力華字紙『聨合早報』(12月3日)は一面で「中米両国、新税徴収を暫時停止し、90日以内に新たなる協議を/ホワイトハウス、首脳会談は非常に成功」との見出しを掲げて伝えた。


G20首脳会議 米中首脳会談(写真:ロイター/アフロ)
 同紙によれば、G20に参加したリー・シェンロン(李顕龍)首相は国民に向って、「中米間の矛盾は米ソ冷戦時代のそれと同日には論じられない。当時のソ連は軍事超大国だったが経済力は極めて小さく、各国は基本的にソ連との経済交流はなかった。だが中米関係のみならず、両国と各国との経済関係は世界経済と切り離せない。中米関係は長期に亘る緊張と困難な時期を迎えるだろう。経済的にも不安定な時代を覚悟し、どのような状況にも立ち向かえる準備をしておくべきだ」――こう呼び掛けている。

 米中首脳会談当日の午後、アルゼンチンを遠く離れたシンガポールではシンガポール国立大学東亜研究所の鄭永年所長による「中米貿易戦争とその将来」と題する講演が行われていた。演題からして米中首脳会談に合わせて準備していたことは間違いなく、それだけシンガポールでも高い関心が払われているということだろう。

『聨合早報』の報道、リー首相の国民向け発言、鄭永年所長など専門家の見解――東南アジアの“小さな経済大国”における見方は、当然のように日本とは違う。だが、その違いこそが、米中両国の狭間における立ち位置に悩む我が国にとっては少なからざる参考になるはずだ。(なお我が国とは異なり「中米」と表記しているところがシンガポールにおける華字紙の立場を象徴していると思われるので、敢えて「中米」のままにしておく)


シンガポールの有力華字紙『聨合早報』(12月3日)の一面記事(写真:筆者提供)
シンガポールから見た「米中貿易戦争」
 鄭永年所長は、中国市場の特殊性・閉鎖性に対するウォール街のイラ立ちが米中貿易戦争の背景にあると指摘する。

 一般的に貿易における出超・入超は日常的に起こる現象であり、中米間だけに見られるものではなく、国家の指導者の意思によって操作できるものでもない。どのような国家関係であれ貿易取引が続く間は、深刻かどうかの程度の違いはあるものの、この問題が解消されることはない。だから中米両国間で国交断絶といった最悪の事態にでも立ち至らない限り、貿易戦争に終戦はない。問題は両国の「火力の差」に行き着く。

 アメリカにおける対中貿易赤字の原因は中国にはなくアメリカ、より正確にいうならアメリカ資本にある。ウォール街がホワイトハウスを動かすことはあっても、ホワイトハウスに動かされることはない。だから中米貿易戦争におけるアメリカ側の主役はトランプ大統領ではなく、ウォール街ということになる。ウォール街の最終目標は中国市場の一層の開放にある。中国が毛沢東の時代のような対外閉鎖に先祖帰りでもしない限り、ウォール街が中国市場を手放すことはない。要するに貿易戦争は、中国市場がウォール街の求めるままに開放されるまで続くだろう。

 中国の最大の強みは政治制度でも軍事力でもなく、市場の将来性である。中国における中間層の数は既にアメリカを越えた。アメリカでは減少する中間層が中国では増加が続くからこそ、ウォール街が着目するのである。確かにインド市場も巨大だが問題が多く簡単には開放されそうにない。魅力に乏しいから、ウォール街が動かない。中米両国は世界経済でトップを占める規模であり、多くの国々と関係を持つ。それだけに貿易戦争の帰趨は世界、ことに近隣のアジア経済を直撃してしまう。

 貿易戦争の将来を危惧し、中国からアジアの近隣諸国へ活動の主軸を移そうとする動きも見られる。だが短時間では移転は不可能であり、コストが掛かり過ぎる。そういった動きを中国側も望むまい。あるいは今回の首脳会談で打ち出された90日の“休戦期間”に、中国は一層の市場開放を模索するのではないか。

 昨年の北京におけるトランプ大統領と習近平国家主席による最初の首脳会談以来、貿易問題は両国間の懸案になっていたわけであり、やはり90日という限られた時間で解決できるような単純な問題ではない。だが双方ともに「回帰不能点」まで突き進むような愚かな選択を望まないだろうし、やはり双方が話し合いの継続を示している事は歓迎すべきだ。

 これからの90日以内に習近平政権が中国市場における障壁を取り除き、より開かれた市場の将来像を示せるかどうか。これが中米貿易戦争における極めて重要なカギといえる。

 以上の鄭永年所長の考えとは異なり、問題の背景には企業家であるトランプ大統領の持つ特異な性格がかかわっている。だからトランプ政権の間に中米貿易関係を“正常軌道”に乗せておくべきだ――とするのが、同じシンガポール国立大学東亜研究所の郭良平研究員である。

 郭研究員は「中米関係を救う最終チャンス」(『聨合早報』12月3日)と題する論文において、「トランプ大統領は必ずしも中国に反感を持っているわけではない。本当は中国に憧れている」「中国はトランプ大統領の虚栄心を満たすべく譲歩すべきであり、面子を潰してはならない」と指摘し、共和・民主両党を含めワシントンを軸にアメリカの反中国感情は拡大しつつあり、それ故にポスト・トランプ政権は対中関係を現在の経済問題から政治問題へと必ずやエスカレートさせるだろう。新冷戦時代の到来である。

 だから問題解決に当たってはシンガポールのリー首相が説くように両国は「技術問題として交渉すべきであり、政治問題化させるべきではない」とする。最近の数十年の中米関係を振り返れば、巨大な消費市場を始めとして資本、先進技術から高度の人材養成に至るまで中国は余りにも多くの利益をアメリカから授かってきた。

「アメリカがなかったら中国の開放はなかったし、現在の中国はありえなかった。中米関係を解決することで、中国はさらなる利益を得られるだろう。こういった現実主義の視点から中米関係を捉えるなら、中国は敢えて妥協と譲歩に踏み出すべきだ」と、郭研究員は論文を結んでいる。

 以上の2人の専門家の見解とは異なり、『聨合早報』(12月2日)の社説(「グローバル自由貿易体制においては自らの更なる進化を」)は米中貿易戦争を世界経済の枠内で捉え、「双方が設定した90日以内の妥協が失敗した場合、世界経済は貿易戦争の火の海に叩き込まれる。各貿易大国は公平・公正を原則に問題処理に当たるべきだ」と説く。

アメリカ人が抱く「中国への幻想」
 米中貿易戦争を経済問題に押し止めて処理に当たるべきか。政治問題にまで拡大して考えるべきか。我が国メディアの一部からは「トランプ政権による新世界秩序構築の一環」とか「対中100年戦争」といった議論が聞かれるようになったが、シンガポールの場合には、リー首相の発言に象徴されるように飽くまでも米中関係のなかの「技術問題」として捉える見方が一般的といえるようだ。

 では米中関係という視点から米中貿易戦争をどう捉えているのか。たしかに郭研究員が説くように「アメリカがなかったら中国の開放はなかったし、現在の中国はありえなかった」。だが果してそうなのか。じつは鄭所長は講演の最後を「我われはアメリカが中国を変えることができるといった幻想を持ってはいない。中国だけが自らを変えることができる」と結んでいる。

 ここで改めて米中関係を簡単に振り返ると、日中戦争から朝鮮戦争にかけてホワイトハウスの住人であったルーズベルトとトルーマンの両大統領による対中政策の誤りが、蒋介石政権を台湾に追いやり、中華人民共和国を成立させたことを押さえておく必要があろう。

 中国経済発展の起点を今から40年前の1978年末に置くことに異論はないが、対外開放の遠因を辿るなら1972年のニクソン大統領の電撃的訪中に行き着くだろう。ニクソンと毛沢東によってもたらされた米中雪解けが、それまで「竹のカーテン」の内側で逼塞していた中国を西側世界に引きずり出した。この事実がケ小平の対外開放への決断を促したであろうし、であればこそGDP世界第2位に巨大化した現在の中国の産婆役を果たしたのは、やはりアメリカであったと見做すべきだ。

 そしてなによりもアメリカは、社会経済が発展し、民度が向上すれば、人々は民主主義を求めるようになり、やがて独裁政権は崩壊すると思い込み、中国への経済支援を惜しまなかった。だが中国は経済発展するほどに、独裁体制を強化させ、アメリカに歯向かうのである。アメリカがケ小平以後の中国に結ぼうとした夢は破れた。その象徴的事例が1989年の天安門事件だろう。

 ここで考えてみたいのが、アメリカ人が抱く中国イメージである。

「アメリカが生んだ最も優れたジャーナリスト」と評価されるD・ハルバースタムは、「多くのアメリカ人の心のなかに存在した中国は、アメリカとアメリカ人を愛し、何よりもアメリカ人のようでありたいと願う礼儀正しい従順な農民たちが満ちあふれる、幻想のなかの国だった」(『ザ・コールデスト・ウインター 朝鮮戦争』文春文庫 2012年)と、近代中国におけるアメリカ人の中国観を振り返る。

 だが中国とアメリカの第2次大戦以降の関係を振り返っただけでも、「多くのアメリカ人の心のなかに存在した中国」は幻想にすぎず、現実の中国は「アメリカとアメリカ人を愛し、何よりもアメリカ人のようでありたいと願う礼儀正しい従順な農民たちが満ちあふれる」国ではなかった。

中国人の恐るべき「粘り強さ」とは
 ここで少し視点を変えてみたい。

 諸橋轍次(1883年〜1982年)は、1925年から2000年に補巻が刊行されるまで75年の歳月をかけて『大漢和辞典』を完成させた漢学者である。彼は大正時代に訪れた中国における見聞録を『遊支雜筆』(目K書店 昭和13年)として発表しているが、その中で中国人の性格を「極めて呑気」と指摘した。だが、たんに「呑気な生活をして居る」わけではない。その間に、何かを学んでいるというのだ。(なお引用文中の旧漢字のみ、現行漢字に改めておいた)

 たとえば小鳥を飼っている人を見ていると、「一時間二時間、長きは半日近くも一つ場所に立つて同じことを反覆して居る。如何にも其の呑気さには驚かざるを得ない」のだが、「斯かる呑気な生活をしている間に一つの要領を得て居る」。つまり呑気に過ごしている間に「何時か知らん小鳥の習性を能く洞察し」、遂には小鳥に同化してしまうというのである。

 この小鳥飼いの“学習ぶり”を、諸橋は「長江の開拓」に援用して解説した。

「揚子江沿岸は今から九十年、百年以前に欧米の人々に依って多く開かれた」。先鞭を切ったのがイギリスで、ドイツ、アメリカ、フランスと続き「どしどし外人の経営が伸び」、これらの国々の力によって揚子江に沿った港には次々と外国との交易のための施設が設けられ、経済建設が進む。だが、「其の間支那の人々は黙つて居る、自分の土地が外人の手に依つて開かれるといふことに就て何等の故障も申し出でず、只じつと静観して居」る。

 静観するままに時が過ぎた。ところが「今から約十年前、即ち揚子江沿岸が開かれ始めてから八十年、九十年を経過した」頃になると、「恰も地に湧いて居る虫がうぢうぢと動き出すやうな姿」で「支那民族が動き出しました」。

 そうなると「流石に粘り気の強い英米人でも、そこに居辛く感ずるやうにな」り、10年ほど前から「到頭英米独仏の各列強が、段々揚子江の上流から追い下げられ」、やがて居留地は上海とその周辺のみに限られてしまうようになる。こうして彼らが得たものは「英米人が五十年、百年に亙って経営した其の設備」であり、そこで「之に注いだ資金と、而してそれに伴う知識文化といふものを唯取りにしたのであります」。

「要するに、行動が直に結果を伴わなくとも、暫くは我慢する、長きに亙つて終局の結果を収めようといふ、意識的か無意識的かの粘り強さが、支那民族の一つの恐るべき力」である。「呑気な中に要領を得、長きに亙つて或る目的に就いて実現性を有する。支那の民族の力強さは実に其の点にあるのではありますまいか」と。

 この諸橋の指摘は、先に挙げた鄭所長の「我われはアメリカが中国を変えることができるといった幻想を持ってはいない。中国だけが自らを変えることができる」に通ずるようにも思える。

「中国だけが自らを変えることができる」とはいうが、現状では中国は変わりそうにない。中国が変わるのを待つほどに、恐らくウォール街は「呑気な生活をして居る」わけにはいかないだろう。ならば「火力の差」に頼って問題解決を一気に逼るのか。

日本が見落としがちな視点
――こう見てくると、どうやらシンガポールでは、米中貿易戦争をかつての日米貿易摩擦に重ね合わせて見ているようにも思える。つまりアメリカがアメリカの敵として急浮上してきた“新たな経済大国”に対して示す過剰なまでの市場開放要求を巡っての争い、である。だが、それとは別に近現代において米中の間で繰り広げられてきた特殊な2国間関係の文脈で捉えているようでもある。アメリカが長年に亘って中国に対して抱いてきた幻想から、覚めることができるかどうか、である。

 それにしても「極めて呑気」ではあるが無為に「呑気な生活をして居る」わけではないという諸橋の視点は中国が見せる一面の真実を微妙に抉り出すと同時に、現在のわが国で見られる短兵急な結論を求めたがる中国論議に対する頂門の一針とはいえないだろうか。
http://wedge.ismedia.jp/articles/print/14732


 


立花聡の「世界ビジネス見聞録」

休戦あり得ぬ米中貿易戦争

トランプが目指す最終的戦勝とは

2018/12/09

立花 聡 (エリス・コンサルティング代表兼首席コンサルタント)

 世界中の注目を集める中、G20での米中首脳会談が終わった。とりあえず合意された対中関税の第2段階引き上げの90日猶予、これをどう見るべきか。大方は「休戦」「停戦」と評しているなか、北朝鮮の朝鮮労働党機関紙、労働新聞だけが12月4日付けの報道で、米中貿易戦争が「激化」していると伝えた。


米中首脳会談(写真:ロイター/アフ)
休戦ではなく、激戦の先送りに過ぎない
 一部の報道では、北朝鮮の「誤報」と指摘しているが、私はそう思わない。「中米(米中)貿易戦争が年末に差し掛かった今の時点でも緩和の兆しが見えず引き続き熾烈に繰り広げられている」という同紙の解説は仮説よりも、現状の反映ではないだろうか。

「休戦」も「停戦」も交戦当事者の合意により戦闘行為を停止することだ。主に全面的な戦争の終結(終戦)を目的とした場合に使われる用語である。しかし、冒頭で強調しているように、このたびの制裁関税の90日の猶予措置は、第1段階(現状)の10%から第2段階の25%への引き上げ分が対象であり、かろうじて戦闘状態の現状維持であり、休戦でも停戦でもなく、激戦を90日先送りしたに過ぎないのである。

 大胆な仮説になるが、そもそもトランプ大統領は「終戦」を当面の目標としていないのではないかとさえ思う。トランプ氏が目指しているのは、最終的な「戦勝」であって、当面の平和といった短期的利益を前提とする「休戦」や「終戦」ではないからだ。最終的な戦勝を手に入れるために、長期戦や激戦をも辞さないという腹積もりだったのかもしれない。

 ついにG20では「保護主義と戦う」という文言の首脳宣言への盛り込みを断念したのも、2週間前のAPECであった史上初の首脳宣言発出断念のような事態を避けるための妥協措置だったのではないか。一連の首脳会議は米中の対立がいかに深いかを浮き彫りにした。この溝は一時休戦や交渉で埋まる溝ではない。そもそも米中貿易戦争の根源を突き詰めると、その本質は通商問題でもなければ、経済問題でもない。政治問題だからだ。毛沢東いわく、政治とは流血を伴わぬ戦争である。故に「冷戦がすでに始まった」とある意味で理解しても差支えない。

 その辺の論点と文脈をもう一度整理してみたい。

政治とは流血を伴わぬ戦争である
 サプライチェーンの再編。

――結論からいおう。トランプ米大統領主導の対中貿易戦争、その最終的な意図はこれに尽きる。中国に整備されたサプライチェーンによって、安くて良質な「メイド・イン・チャイナ」が生産され、アメリカ国内の消費者もその受益者になった。市場経済メカニズムの産物である以上、資本主義市場経済体制の元祖、アメリカこそこれを尊重すべきだろう。

 しかし、事実は違う。いまトランプ氏はこの市場原理を横目にきわめて政治的な手段、大国の持ち得るすべてのパワーを動員し市場に介入し、政治で経済を制御しようとしているのである。アメリカの国家理念に反しているようにも思えるが、このパラドックス的な現象を解釈するのは実はそう難しくない。

 11月のAPECに出席した安倍首相は、自由貿易の重要性を訴えた。これは1つの正論、経済的な正論である。一方で、トランプ氏には他の正論がある。政治的な正論だ。どちらも正論だが、政治的正論が経済的正論に優先するのは政治家や支配者にとって当然のことだ。

「分断」がキーワードになる
 中国を見ればわかる。中国はまさにこのサプライチェーン、つまり市場経済の産物を都合の良いように利用し、そこから形成された資本の本源的蓄積を生かし、政治的勢力や軍事的勢力の拡張に乗り出したのだった。膨張する経済力を使って途上国との関係づくりに主導権を発揮し、新たな世界秩序を着々と作り上げようとしている。

 国家資本主義という意味において、シンガポールのような自己抑制力による内包的な自己拡張ではなく、外延への拡張がすでに明白な事実となった以上、しかもこれがすでに臨界点に達しつつあるが故に、外力による抑制が必要になったと、トランプ氏はこう認識、判断したのではないだろうか。

 つまりここまでくると、経済を政治によって制御せざるをえなくなったのだ。中国が作り上げようとする新秩序、その息の根を止めるには、サプライチェーンの無効化という手法がもっとも合理的だ。もちろん、コストや苦痛を伴うだろうが、それ以外には方法が皆無だ。米国内経済界からの歎願や不満を無視し、トランプ氏が対中貿易戦争を決断した根本的な理由はここにあったのではないだろうか。

 中国を遮断し、中国外で新たなサプライチェーンを作り上げ、産業集積によってノン・チャイナ経済秩序を構築する。これがトランプ氏が描いたマスタープランではないだろうか。ある意味では紛れもなく一種の戦争である。

 分かりやすく言えば、アメリカは、米中が互いを不要とする新秩序、いわゆる「分断」を作り上げようとしている。昨今の世界では、「融和」が善であり、その対極にある「分断」は悪であるという価値観が主流になっている。しかしながら、自由貿易という「融和」を中国が利用し、経済的利益と政治的利益の二鳥を得ながらも、アメリカは政治的不利益を蒙ってきたという事実は無視できない。したがって、アメリカはいよいよ「分断」という悪を動員し、政治的利益を奪還しようと動き出したのである。

中国によるサプライチェーンの完全掌握を阻止せよ
 こうして、米国は能動的に戦略的意図を込めて新秩序づくりに着手しているのに対して、中国はむしろ受動的にこれを受け入れざるを得ない前提があって、つねに米国に「やめてくれないか」というシグナルを送りながら、新秩序づくりの中止にあらゆる可能性を模索し続けているのである。

 故に、中国は米国以上の苦痛を味わうことになろう。新秩序の構築には時間や労力、様々なコストがかかる。試行錯誤も繰り返さなければならない。そうした意味で、米中ともに同じ状況に直面せざるを得ない。だが、なぜ中国がより大きな苦痛を味わわなければならないのか。

 中国にははたしてこの米国発の「分断」要請に応えて、脱米国を前提とする、かつ米国陣営の新秩序に対抗し得る中国の新秩序を作り上げることができるのか、という課題が横たわっている。サプライチェーンを上流から下流まで整合するには、ハイテク系の中核技術をはじめ中国に欠落しているキー・セクターが数多く含まれている。

 現状ではまさに、中国はこれらを入手しようとサプライチェーンの本質的な完全獲得を目指して工作し取り組んできたところで、米国はこれを最終段階と読み、息の根を止める作戦に乗り出したのだった。そこで最終的成功の一歩手前で前進を止められた中国は、独自のサプライチェーンを整備することはできるのか。頑張って一部できるにしてもその大部分には相当な無理があるだろう。

 ハイテクが無理なら、ローテクでどうだろう。実は直近の中国国内の世論では一部、原点回帰を唱える論調や言説も出始めている。そもそもこの辺が中国経済の成長の原点でもあった。しかし、残念ながらすでに手遅れだ。中国は労働力人件費の高騰によって、ローテク分野の優位性をすでにベトナムや東南アジア勢に奪われているからだ。

中国の弱み、資本流出と外資撤退が止まらない
 さらに、政治的要素だ。このように中国は貿易戦争よりも、独自のサプライチェーンの再編・再構築において本質的な困難に直面している。そこで挙国の一致団結をもってこの山を越えられるだろうか。少なくとも現状ではあまり期待できないと言わざるを得ない。

 資本流出も大きな問題になっている。2年前の元安による資本流出に比べると、米中貿易戦争による今回の流出は様子が違う。まず、元安からくる資本流出がさほど見られない。今年4月の1ドル=6.3元の為替相場だが、12月現在6.8元‐6.9元へと元安が進んだ。中国外貨管理局のデータを額面通りに読めば、今回の元安は資本流出を加速化させたような形跡が薄いものの、資本は流出し続けている。

 この流出は実際に公表データにならず、闇通路を使っている。たとえば香港経由の見せかけの貿易取引が1つの手段である。海外M&Aや海外での保険購入なども元を直接使用できるために、外貨管理局の為替決済を経由せず、データとしてモニタリングができない。無論当局はこれらの闇通路に気付かないはずがない。そこでいたちごっこの攻防戦が繰り広げられる。最近、香港や海外でのIPOを巧妙に使いこなす中国企業も続出し、まさに「上に政策あれば下に対策あり」の様相だ。

 資本流出は国民レベルの対国家コンフィデンスが非常に弱い(自立心が強いともいえる)ことを意味する。いまさら、四面楚歌の境地に陥って求心力を語っても何の意味もない。パニックが加速するのみだ。

 企業も然り。米国中国総商会と上海米国商会が9月13日に公表したデータによると、米中貿易戦争の激化を受け、約3分の1の在中米国企業は生産拠点を中国から転出する意向を示している。外資撤退は問題だが、中国系企業の海外投資もどんどん加速化している。つまり、中国企業も「中国外のサプライチェーン」の構築に進んで参加しようとしているのだ。

 貿易戦争への対策として中国には元安誘導という手もある。ただ、元安は諸刃の剣、株式との連鎖安やさらなる資金流出を招きかねず、悪循環に陥る。1ドル7元あたりからいよいよ危険水域に達し、赤信号が灯る。外資撤退や資金流出の先には、中国経済の失速が懸念される。それに連鎖的に最後の砦となる不動産相場も低迷した場合、国民の資産が目減りすることになり、政治に対する不満がさらに募る。

そして何よりもリストラと雇用問題
 さらに、泣き面に蜂。外資撤退などに伴うリストラの問題が表面化する。労働法によってガチガチに守られている労働者たちはより高額な補償金を手に入れようと企業との戦いを本格化・尖鋭化させる。たとえば、今年1月9日に発生した日東電工の蘇州工場一部閉鎖に伴う従業員デモ騒動事件もその好例。外資撤退に際しての騒動はストライキだったり、デモだったり、過去にも見られたような従業員による企業経営者幹部の監禁だったり、なんでもあり。撤退は進出より何倍も何十倍も難しいというだけに、外資にパニックが起きる可能性もなくはない。

 最終的に、数十万人や数百万人単位の失業者は深刻な社会問題になる。失業した者は家のローンを払えなくなる。再就職の目途も立たないなか、政府はどこまで保障してくれるのだろうか。政府にできることは、企業に圧力をかけてリストラをさせないことくらいではないか。その延長線上では、外資の撤退にある種の「嫌がらせ」を加えてもおかしくない。

分断の時代、米中を選択する時代の到来
 外交面にも影響が及ぶ。バラマキ外交で取り込まれてきた途上国や、経済的利益で付き合ってきた先進国も「金の切れ目が縁の切れ目」で散っていけば、中国の孤立化に拍車がかかる。

 すでに中国の融資や援助を受けてきた国々も離反の姿勢を見せている。今年5月、マレーシアで政権交代が実現し、マハティール氏が92歳の高齢で首相への返り咲きを果たすや、高速鉄道などインフラ建設案件の中止を決断し、借金漬けにさせられた中国投資の追い出しに取り掛かった。

 インド洋の島国モルディブでは11月17日、野党の統一候補として出馬し、大統領選で勝利したソリ氏の就任式が行われた。ソリ氏は親中派ヤミーン前大統領の外交政策を厳しく批判し、対中関係の見直しやインドとの関係強化政策を明確に打ち出した。

「脱中国」という言葉が使われて久しい。その裏には、中国への過度依存という背景があった。いよいよ本格的な分断と棲み分けの時代がやってくる。サプライチェーンに関していえば、「中国外サプライチェーン」は今後数年かけて着々と造り上げられるだろう。

 日本も含めて米中以外のアジア諸国にはまさに、難しい選択を迫られる時がやってきた。それはもはやサプライチェーンの次元を超えて、基本的立場や政策というレベルで考えなければならなくなる。


iStock / Getty Images Plus / ANNECORDON
 シンガポールのリー・シェンロン首相は11月14日、同国で開催されたASEAN首脳会議後の会見で、「もし2つの敵対国と同時に友好関係をもつなら、両方とうまくやれる場合もあれば、逆に気まずくなる場合もある」と語り、米中を選択する時代の到来を示唆した。
http://wedge.ismedia.jp/articles/print/14734  

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コメント
1. 2018年12月10日 20:30:43 : 82xViKsNP6 : jGZW8kme9gs[9] 報告
盗ませて 後から喚く 茶番劇
2. 2018年12月10日 21:38:36 : wTqrxDwRMY : vEeN2335v8Q[1806] 報告
 
 この 第三次世界大戦で アメリカが 勝てば それはそれで 日本にとっては 望ましい

 ===

 日本は 完全なる アメリカの属国なので 「アメリカの勝利 = 日本の勝利」だ

 

3. 2018年12月10日 21:39:46 : wTqrxDwRMY : vEeN2335v8Q[1807] 報告

 これは アメリカが 戦争を起こせる 最後のチャンスだとは 言える!!
 
4. 2018年12月10日 21:48:13 : wTqrxDwRMY : vEeN2335v8Q[1808] 報告

 シリアのISISで ソ連の攻撃を予測できなかった CIAは シリアに完敗した

 そしてできたのが ソ連・中国・イラン 連合だ

 ===

 アメリカは ソ連・中国と直接的な軍事衝突はできないのだから 経済戦争しか手段はない

 ===
 
 イランの天敵は イスラエルで イスラエルの天敵は イランだから

 イランの フリーハンドは 即 イスラエルが 制限されることになる

 ===

 いままで 世界中を牛耳っていたのは フリーメイソンであり イルミナティーだが

 アシュケナジー・ユダヤは イルミナティーの中核だから 

 シリア・イラン(イスラム)の優勢は 許されることではない
 

 

5. 2018年12月12日 12:02:34 : JIY1sdNlGo : co7U_wqZ@s0[36] 報告
アメリカネオコンの日本向け機関紙、岡崎研究所の記事の紹介でした。

参考にさせていただく。

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