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新自由主義の世界
http://www.asyura2.com/20/reki4/msg/916.html
投稿者 中川隆 日時 2020 年 5 月 28 日 18:19:57: 3bF/xW6Ehzs4I koaQ7Jey
 

(回答先: ハイエク、フリードマンのマネタリズムの世界 投稿者 中川隆 日時 2020 年 5 月 28 日 08:22:41)

新自由主義の世界


【新自由主義とは】定義・問題点・生まれた背景をわかりやすく解説 2020年4月22日
https://liberal-arts-guide.com/neoliberalism/


新自由主義(neoliberalism/ネオリベラリズム)とは、


市場(経済活動)への国家の介入を最小限にするべきと考える思想で、小さな政府、民営化、規制緩和といった政策を目指す経済思想

のことです。

「新自由主義のせいで労働者に厳しい世界になった」「民営化や構造改革は新自由主義の影響」などと言われることがあります。

日本で言うと、小泉政権は明らかに新自由主義的な政策を実践しました。

これを読むあなたもすでにご存知かもしれませんが、実は新自由主義及び新自由主義に基づいた政策に対しては、さまざまな批判があります。

「新自由主義の何が問題点なの?」

と疑問に思っている方も多いかもしれませんので、この記事では、

新自由主義とはそもそも何なのか?
新自由主義にはどんな問題があるのか?
新自由主義という思想はどうやって生まれたのか?
日本の新自由主義にはどんなものがあるのか?

詳しく解説していきます。

1章:新自由主義とは何か?

それではさっそく、新自由主義の定義や特徴、その問題点から解説していきます。

1-1:新自由主義の定義

冒頭の繰り返しになりますが、


新自由主義とは、市場(経済活動)への国家の介入を最小限にするべきと考える思想で、小さな政府、民営化、規制緩和といった政策を目指す経済思想

のことです。

1980年代以降に世界で大きな影響力を持つようになった思想で、イギリスのマーガレット・サッチャー、アメリカのロナルド・レーガン、日本の中曽根康弘政権などが行った政策に、新自由主義の影響が見られます。

2000年代以降では、小泉純一郎政権で行われた郵政民営化などの一連の政策が、新自由主義的政策として知られています。

参考

新自由主義は、リバタリアニズムという政治思想とも強く結びついています。特に現代の若者を中心に広がっていると言われるリバタリアニズムについて、詳しくは以下の記事をご覧ください。

【リバタリアニズムとは】自由主義との違いと批判・役割をわかりやすく解説
https://liberal-arts-guide.com/libertarianism/


■新自由主義にはもう一つ意味がある

ただし、注意して欲しいのが、実は新自由主義にはもう一つの意味があるということです。

上記の新自由主義が一般的なものですが、下記の意味でも使われることがあります。


【新自由主義(New Liberalism)】

経済活動に国家が介入し、国民の最低限の生活や失業、健康、教育などに対する国家の役割を認める思想。「大きな政府」を認める。社会自由主義とも言われる。

一般的には、新自由主義(ネオリベラリズム)の意味で使われることが多いですが、政治学や経済学を学ぶと、ニューリベラリズムの意味も出てくることあります。

しかも意味的にはほぼ正反対のことを指すので、混同しないように気をつけてください。

参考

新しい自由主義について、詳しくは以下の記事で解説しています。

【社会自由主義とは】定義・政治的立場から批判までわかりやすく解説
https://liberal-arts-guide.com/libertarianism/

また、新しい自由主義や社会民主主義が行った「福祉国家」的政策について、詳しくは以下の記事で説明しています。

【福祉国家とは】3つの分類と誕生〜現代までをわかりやすく解説
https://liberal-arts-guide.com/welfare-state/


1-2:新自由主義の特徴

新自由主義には、以下のような特徴があります。

市場への国家の介入を最小限にする
民営化を目指す
個人の責任を重視する

簡単に解説します。

1-2-1:市場への国家の介入を最小限にする

新自由主義は厳密に学術的に定義された言葉ではないため、いろいろな意味で使われることがあります。

しかし、一貫しているのが市場への国家の介入を最小限にする思想であるということです。

市場とは、簡単に言えば経済活動のことです。

新自由主義は、「国家が市場に介入せず、市場の取引に任せることが、もっとも効率的である」という考え方をベースにしています。

しかし、実際の社会では、様々な形で国家が市場に介入しています。

そのため、そのような国家の役割を「非効率だ!」「国家の介入は最小限にすべきだ」と批判するのが新自由主義の特徴です。

1-2-2:旧来の政策を批判する(民営化・規制緩和を主張する)

繰り返しになりますが、実際の社会では様々な形で国家が市場に介入しています。

たとえば、

道路やダムなどのインフラ作りや整備
健康保険制度や年金制度、生活保護などの社会保障制度
義務教育
図書館、美術館、博物館などの文化的事業
安全保障
警察

などです。

これらは、旧来の経済学の考え方では「公共財(市場に任せていたら供給されない財)」だと考えられたため、国家によって供給されてきたのですが、新自由主義の立場からすると「市場に任せた方が効率的に供給されるはず」と考えられます。

したがって、新自由主義的な立場の人は、旧来の政策や国家の役割を批判し、民営化や規制緩和を主張することが多いのです。

1-2-3:自己責任論と結びつきやすい

新自由主義は一般的に、「自己責任論」と結びつきやすいです。

自己責任論とは、「現在の境遇は自分これまでの行動の結果なのだから、自分の責任である。だから、そこから救われることを政府に求めるべきではない。」という思想のことです。

新自由主義は、市場への国家の介入を認めないため、

生活保護などの社会でセーフティネットとして機能するもの
年金制度
各種補助金

などの国家による個人の救済や生活の保障に厳しい姿勢を取ることが多いです。

1-3:新自由主義の問題点

新自由主義の特徴について、何となく理解できましたか?

「で、結局新自由主義は良い思想なの?悪い思想なの?」と思われている人も多いかも知れません。現代人は、少なからず新自由主義的思想の影響を受けていることも考えられるので、

「政府は小さい方が良い」

「公務員は減らすべき」

「公共事業は民営化した方が絶対社会のためになる」

と、新自由主義的発想をする人も少なくないと思います。

しかし、実は新自由主義には、以下のような問題点が指摘されています。

格差の拡大
社会からのセーフティネットの喪失
企業の活動への影響
労働者の立場の弱体化

そのため、あなたも自分の考え方を振り返ってみて、新自由主義の良い面、悪い面を再検討してみることも大事です。

それぞれ簡単に説明します。

1-3-1:格差の拡大

国家が持つ大きな役割の一つが、「富の再分配」です。

つまり、裕福な人から多く税金をもらい、それを貧しい人、働けない人、病気や障害を持つ人のために使いましょう、ということです。

しかし、新自由主義の考えでは「小さな政府」を目指すため、富の再分配も最小限に、社会保障も最小限に、という方向に向かってしまいがちです。

すると、裕福な人はより裕福に、社会的弱者は弱い立場のまま、ということになってしまうのです。

現代社会の格差の拡大の原因のすべてが新自由主義のせいではありません。

しかし、新自由主義が一定の影響力を持つ限り、「格差を是正しよう」という思想が広まる障害となってしまう可能性はあるのです。

1-3-2:社会からのセーフティネットの喪失

新自由主義が影響力を持つと、実際に政策として社会のセーフティネットが厳しくなることもあり得ますし、「自己責任論」がはびこるという意味でも、貧しい人、社会的立場が低い人、失敗した人などに対する風当たりが強くなりがちです。

その結果、一度の失敗で転落して救われない。這い上がることが難しい社会になり、失敗を恐れてリスクを取った行動ができなくなっていく可能性があります。

1-3-3:企業の活動への影響

新自由主義は「民営化」「規制緩和」を主張するため、企業活動がより自由になっていくようになります。

これは一見メリットですが、逆に企業の活動のコントロールが効かなくなった結果、社会に大きなダメージを与える出来事を起こしてしまうことがあります。

代表的なのが、2008年のリーマンショックです。

リーマンショックは、アメリカの金融機関が過度に利益を追求した結果、世界レベルの金融危機の引き金を引いてしまった事件です。

このように、規制緩和にはデメリットもあるのです。

1-3-4:労働者の立場の弱体化

労働者は「雇われている」という立場上、経営者・企業のオーナーと比べて弱い立場に置かれがちです。

そのため、先進国では労働者の立場を守るためにさまざまな法律が作られたのですが、イギリスではサッチャー政権によって労働組合が弱体化させられ、企業と対等に渡り合う力を持たなくなりました。

また、日本でも小泉政権時代に行われた労働者派遣法の改正によって、非正規雇用者が増加し、ワーキングプアを増加させることになりました。

つまり、新自由主義的政策が行われると、労働者の立場が弱くなり「会社から使い倒される」という状況が生まれやすいのです。

新自由主義は、古典的自由主義が現代に復活した思想であると言われることがあります。古典的自由主義について詳しくは以下の記事で解説しています。

【古典的自由主義とは】2つの意味と変遷をわかりやすく解説
https://liberal-arts-guide.com/classical-liberalism/


ここまでをまとめます。


1章のまとめ

新自由主義は、市場への国家の介入を最小限に考えるため、自己責任論、企業の過度な利益追求、格差拡大などに結びつきやすい
新自由主義は、社会的弱者や敗者に厳しい社会を作ることに繋がり得る


ここまで新自由主義の定義や特徴について詳しく解説しましたが、理解できたでしょうか?

「このような思想が影響力を持つようになったのは何で?」

と思っている方も少なくないと思いますので、2章では新自由主義が生まれ、世界に広まった背景を解説します。

2章:新自由主義はなぜ生まれたのか?

新自由主義は、大きく、

経済学における思想として形成→1980年代以降政策として導入

という流れで影響力を持つようになり、現代に至ります。

時系列で説明します。

2-1:全体主義批判として登場(ハイエク)

そもそも、新自由主義の起源は1930年代の社会的背景にありました。

当時の社会は、社会主義やファシズムなど、「強力な権力を持つ」「単一のイデオロギーで支配する」「国民の自由を制限する」という特徴を持つ全体主義国家が登場していました。

経済学者のフリードリヒ・ハイエク(Friedrich August von Hayek)は、このような全体主義に対抗し自由主義を守るために、

国家が経済活動や理想的な社会秩序を計画する「計画主義」は、全体主義に至る道である
市場は単なる交換や利益追求を行う場ではなく、市場での活動を通じて自由の精神を鍛える場である

という主張をし、市場への国家の介入を批判しました。

ハイエクの思想や次に紹介するフリードマンの思想が注目されて、新自由主義という思想が形成されていきました。

2-2:新自由主義の元祖(フリードマン)

一般的に、新自由主義の元祖と言われるのが経済学者のミルトン・フリードマン(Milton Friedman)です。

フリードマンは、

社会課題は国家ではなく「市場の自動調整機能」によって解決されるべき
1930年代のアメリカでの、国家が積極的に市場に介入する政策(ニューディール政策)を批判

国家はルール作りや監視などのみの役割であるべき

と主張しました。

フリードマンも実は国家の役割を部分的に認めていたのですが、当時の「大きな政府」的な政策を批判し、現在に至る新自由主義の思想を形作ったのでした。

2-3:1980年代の新自由主義的政策の登場

新自由主義が思想として生まれたのは1930年代でしたが、それからしばらく、世界では福祉国家的な政策(政府が市場に積極的に介入する政策)がメジャーであり、新自由主義的な政策が行われることはありませんでした。

しかし、1970年代、先進国ではスタグフレーション(景気が後退しているのに物価が上昇する=国民の消費が苦しくなる)が起こり、福祉国家路線の政策が批判されるようになり、かわりに新自由主義的政策が行われるようになったのです。

具体的には、

イギリス:サッチャー政権(1979年-1990年)による幅広い構造改革、労働組合の弱体化、競争的社会構築を目指す政策

アメリカ:レーガン政権(1981年-1987年)による規制緩和、減税などの一連の政策(レーガノミックス)

中曽根康弘政権(1982年-1987年)による日本専売公社、日本国有鉄道、日本電信電話公社の民営化などの政策

ワシントン・コンセンサス:国際通貨基金(IMF)や世界銀行、各地域の開発銀行などが、途上国の開発・支援を行う上で導入した基準で、新自由主義的な政策を途上国に押しつけるもの

などがこの時期行われました。

参考
レーガンの政策(レーガノミクス)やサッチャーの政策(サッチャリズム)について、詳しくは下記の記事でも解説しています。

【レーガノミクスとは】その意味・背景・結果をわかりやすく解説
https://liberal-arts-guide.com/reaganomics/

【サッチャリズムとは】具体的な政策や社会への影響をわかりやすく解説
https://liberal-arts-guide.com/thatcherism/


2-4:1980年代以降の新自由主義

1980年代以降、新自由主義的政策は先進国の間で受け入れられました。

日本では小泉政権(2001年-2006年)が行った政策が、新自由主義的政策だったとして代表的です。

具体的には、

郵政民営化
道路公団民営化
独立行政法人の再編&民営化
公共事業の削減
社会保障の削減
年金制度の改革(老齢者控除の廃止など)
医療保険の改革(自己負担の引き上げなど)

などの様々な政策が行われました。

これが「小さな政府」「公共事業や社会保障削減」「自己責任化」「民営化」を目指す新自由主義的政策であることは、何となく分かると思います。

参考
小泉政権の「改革」は、55年体制の崩壊からの長い政治の「右傾化」の中で行われました。政治の右傾化について詳しくは以下の記事をご覧ください。

【右傾化とは】55年体制から安倍政権までの変化をわかりやすく解説
https://liberal-arts-guide.com/conservatism-swing/


その後、日本では新自由主義的政策が一定の影響力を持つようになり、それに対する批判もなされていますが、財政赤字が常態化し、「小さな政府」的な政策を行わざるを得ないという事情もあります。

財政赤字の常態化や少子高齢化の進行(財政支出が多くなり、財政収入が少なくなる)、景気の停滞などが続けば、「小さな政府」的な政策を行わざるを得ないため、これからも新自由主義的思想が一定程度の影響力を持っていくことでしょう。


2章のまとめ

新自由主義は、フリードマンやハイエクなどの経済学者の思想から生まれた
新自由主義は1980年代に政策として実施され、それ以降強い影響力を持つ思想になった

この記事のまとめ

新自由主義は、小さな政府、自己責任論、民営化・規制緩和、貧者・敗者に厳しい社会と関連する

新自由主義が形成されたのは1930年代の経済学の世界だが、1980年代以降世界で政策としてメジャーになった

日本のように財政的に苦しい国家の場合、新自由主義的政策が今後も行われる可能性は高い

https://liberal-arts-guide.com/neoliberalism/  

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コメント
1. 中川隆[-11058] koaQ7Jey 2020年10月02日 09:30:13 : EF1PnyRTuQ : OHNEQ3VoSXdGWG8=[13] 報告
竹中平蔵氏のドケチベーシックインカム月7万、コレじゃない感の危険な正体=今市太郎
2020年9月29日
https://www.mag2.com/p/money/968355

菅新内閣の強力なアドバイザーとして機能しはじめている経済学者の竹中平蔵氏は、テレビ番組で驚きのベーシックインカム案を提唱。物議を醸す状況となっています。自助努力を促す貧民政策の柱なのでしょうか。(『今市太郎の戦略的FX投資』今市太郎)

「月7万円で暮らせ」という乱暴な提案
菅新内閣が誕生してから、おぼろげながらも具体的な政策方針が見えはじめています。

この内閣の強力なアドバイザーとして機能しはじめている経済学者の竹中平蔵氏は、TBSのBSテレビ番組に登場して驚きの「ベーシックインカム案」を提唱したことから、市場では大変な物議を醸す状況となっています。

ベーシックインカムの議論のたたき台と考えるならば、それほど厳しく追及すべきものではないのかもしれません。しかし、竹中氏の提案内容は、医療・年金・介護・生活保護などの社会保障給付費をすべてぶった切り、捻出した120兆円あまりを原資として、1人当たり7万円を支給すれば101兆円弱で収まるので、それ以外の保証はすべて廃止するというもの。あとは個人の自助努力で勝手にやってくれ、というかなり大雑把で乱暴な提案となっています。

とくに公的医療保険の領域でのサポートがまったくなくなった場合、高齢者は本当に生きていけるのかという大問題が浮上することになります。そもそも、シビルミニマムといっても金額が小さすぎて、リアルな生活では暮らしていかれないという絶望的な気分にさせられます。

ドイツではすでに同国の経済研究所がユニバーサル・ベーシックインカム研究の一環として、向こう3年間に渡って120人のドイツ人に月間1200ユーロ(日本円にして15万円)を支給する実験をはじめています。この実験の月額金額でも、竹中氏の口走る提案内容の2倍強の金額ですから、7万円というのがいかに安くて、多くの国民を棄民に追いやる超低レベルの水準なのかは、実施しなくてもよくわかる状況です。

貧困ベーシックインカムは実現するのか?
今のところ、竹中平蔵氏が勝手にメディアで話した提案内容なのだから、騒ぐ必要はないと言う方も多いようです。

しかし、菅官房長官は、竹中平蔵氏が小泉政権時に民間から総務大臣として登用された時の副大臣であり、両者は極めて近しい関係にあります。しかも総理就任後の直近、9月18日には、さっそく竹中氏と都内のホテルで朝食をとりながら懇談をしており、実際にはかなりシンクロナイズされている可能性も高まります。

まずは竹中発言で観測気球を上げてみて、世間やメディアの反応を見始めている可能性は十分にあります。

ひょっとすると、これまでも自助・共助・公助がどうのと散々言い触れていたものの、究極の目標はこれだったのかという気もしてくるわけで、なんとも気分の悪くなるのは私だけでしょうか。

世界的に先進国は社会主義化し、ベーシックインカムを検討する傾向が強い
世界的に見ますと、MMT(現代貨幣理論)などが流行っていることもあり、米国や欧州圏でこのベーシックインカムについて真剣に導入を口にする政治家が非常に増えているのは厳然たる事実です。

米国民主党でこの手の話を積極導入しようとするアレクサンドリア・オカシオ=コルテス氏などは、実証実験は行っていないものの、日本がどれだけ財政投資を行っても30年もデフレが続き、何の問題も起こらなかったことをベンチマークの基礎にするなど、かなりお粗末な検証しかされていないのもまた事実。

今のところベーシックインカムの実証化で、ベストプラクティスとなっているものはないのが実情です。

ミルトン・フリードマンがベーシックインカムを提唱してからすでに半世紀以上
ベーシックインカムというと、とにもかくにもまず思い出されるのが、1976年にノーベル経済学賞を受賞した競争的市場を信奉するいわゆるシカゴ学派のミルトン・フリードマンの存在です。

同氏は1962年にすでにベーシックインカムを含む発想を書籍として出版していますし、その前から欧州圏ではこの手の発想がしたためられてきていますので、決して歴史の浅い富の分配案ではないことがわかります。

しかし、ベーシックインカムは、その利点として「貧困の一掃」「将来不安の緩和」「長期的な需要創出と経済拡大」「セーフティネットで何度でも挑戦できる社会の実現」「ブラック企業など経済理由の犯罪の減少」などが語られる一方、デメリットについても多くの指摘があります。

デメリットの代表例は、「国民全般の労働意欲の低下」「財政負担の増加で、インフレ時に借金が拡大した場合の持続可能性の低下」「金銭だけで解決しない社会保障サービスの喪失」などで、今のところ最適なプランというものはどの国でも実現できていないのが現実です。

また計画経済と社会保障の実現を掲げていた社会主義国は90年代までにほぼ消滅し、こうした枠組みでうまく機能している国は世界中見渡してもどこにもないという、かなり大きな現実が存在するのもまた事実です。この手の政策、本当に経済学者だけで枠組みを決めていいのか?という問題も浮上することになります。

そういう意味で思い浮かぶのが、1998年のロングターム・キャピタル・マネジメントの破綻問題です。当時、ノーベル賞学者による完璧な予測と投資を売り物にしていたにもかかわらず、レバレッジをかけすぎた取引で、ロシア危機で完全に破綻に追いやられるほど危機的な状況に陥ったことは記憶に新しいところです。

つまり、学術的な枠組みを設定して運用を開始しても、実態経済の中ではうまく機能しなくなることは十分にあるもので、学者任せにするのは相当危険であることを感じさせられます。

中間所得層が絶滅すれば資本主義はおしまい
今のところ竹中案がそのまま実行に移されるとは思いませんが、これをまともに実施した場合、1億総国民貧民化となるのはほぼ間違いない状況です。

ベーシックインカムの実施にあたっては、より多角的な分析と計画を進めることが必須の状況と思われます。

ただ、この段階で1つだけはっきりしていることは、あまりに低金額レベルのベーシックインカムを実施してしまうと、資本主義を継続するために必要な中間所得層という存在が完全に消滅しかねないことで、1億総貧民化が進めばもはや取り返しのつかないところに追い込まれてしまうということです。

これは日本に限ったことではありませんが、過去20年あまりでこの国から中間層というものは確実に消滅しつつあり、多くの国民が自らをまだ中間層であると錯覚していることが、なんとか社会を支えているというのが現実です。

60代後半の学者や政治家が安易に決定する政策は、せいぜい先行き20年を超えれば本人にとってはまったく関係のない世界の話となりますから、現状のように老人ばかりで構成されているような政権に安易に決めさせてはけっしてならないものであり、広範な国民的議論が湧き上がることを期待したいものです。

日本経済のこれからに期待するのは難しい
これで超没落社会が現実のものになれば、内需で発展を遂げなくてはならない企業で構成される日経平均株価などがここから大きく上昇するなどという期待はまったくの夢になりかねない状況です。

海外投資家はまったく買わなくなり、日経平均がここから4万だなんだと荒唐無稽なことを口走っていた向きは完全に撤退を余儀なくされそうです。

竹中氏はこの政権では中枢的な役割を果たしてかなり活躍しそうな嫌な予感しかしませんが、その同氏がこのタイミングでベーシックインカムについて語るというのは、単なる偶然ではないのではないでしょうか。

またしても新自由主義の出来損ないがこの政権で跋扈(ばっこ)することになるのかと思うと、お先真っ暗な気分です。


▲△▽▼


自己責任論 2020年10月01日
http://tokaiama.blog69.fc2.com/blog-entry-1265.html

 「自己責任論」を日本で吹聴しているのは、竹中平蔵・菅義偉ら新自由主義者である。
 どこの、どんな記事を見ても、日本における元祖「自己責任論者」こそ竹中平蔵であると指摘している。

 https://www.tokyo-np.co.jp/article/55521

 https://note.com/pond_kop/n/n1210704fbfe4

 https://twitter.com/search?q=%E8%87%AA%E5%B7%B1%E8%B2%AC%E4%BB%BB%E8%AB%96&src=typed_query

 https://biz-journal.jp/2020/09/post_181364.html

 そもそも、「自己責任論」の大元は、竹中の師匠であり、新自由主義思想の創設者、ミルトン・フリードマンである。
 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%83%AB%E3%83%88%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%95%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%89%E3%83%9E%E3%83%B3

 フリードマンは、「自己責任」のことを「自由」と言い換えている。
 人間には自由がある。それは政府の規制を受けないで、社会原理で淘汰されるのがもっとも合理的であるという主張なのだが、よく読んでみると、フリードマンの自由とは「金儲けの自由」であり、それは自己責任において、何をやっても許される。
 それを政府や国際協議が規制してはならない。ただ「市場原理に任せておけば、自然に淘汰洗練されてゆく」という主張である。

 要するに、「自己責任で金儲けをやるのだから、周囲は、それを規制するな」というわけで、その金儲けのプロセスが、人々を苦しめているとしても、放置しておけば市場原理によって勝手に収束するというわけだ。

 これは、フリードマンが守ろうとしたユダヤ系国際金融資本にとって、もっとも都合の良い屁理屈である。
 世界中の金という金を洗いざらい独占しようとする国際金融資本にとって、もっとも邪魔になるのが、貿易障壁であり、国家権力による規制なのだ。
 だから、国の枠組みを超えた「グローバルスタンダード」を国際社会に強要することにより、自分たちの国際的な利権を極限まで追求しようとした。

 そのために、1970年代にフリードマンの新自由主義思想が誕生し、80年代になって、レーガンや中曽根義弘、サッチャーによって世界的に拡散された。
 日本に持ち込まれた新自由主義を具現化して、資本家、国際金融資本の利権を極限にまで高めようとしたのが、小泉純一郎・竹中平蔵コンビである。
 そして今、竹中のダミーといわれる菅義偉が政権をとり、再び、「自己責任論」=自助努力を強調して、民衆からあらゆる資産を奪い取って、国際金融資本に貢ごうとしている。

 以下が、菅義偉の「自己責任論」イメージ図だ。
  
jikosekininn01.jpg


 これが何を意味しているかというと、日本国民は、何事もすべて政府や公的機関に頼らず、自分で自分を守れ、政府は最低のセーフティネットしか与えない。
 竹中は、その生活保護や年金、健康保険も廃止し、月7万円で生活しろといってる。これがセーフティネットなのだと……。
 https://www.mag2.com/p/money/968355

 普通に稼いでいる国民は、その7万円を返却しろとも言う。いったい、今現在、日本のどこで7万円で生活できる人がいる?
 公園で寝泊まりするホームレスくらいだろう。家を借りれば、7万円など瞬時に飛び去ってしまう。ちなみに竹中自身の年収は、パソナ会長や数十の団体利権で、30億円は下らないといわれている。

 おまけに、年金も健康保険も廃止というのだから、とてもじゃないが正常な精神性ではない。安倍晋三が、パート労働者の月収は25万円と決めつけて話題になったが、竹中は、国民が家賃1万円の家に住んで、月に3万円もあれば食費が出ると思い込んでいるにちがいない。病気になれば、アメリカと同じで、死ぬまで我慢させる。医療サービスは大金持ちに限定するというわけだ。

 この竹中平蔵を忠実にコピーした政策を行おうとしているのが菅義偉政権なのだ。
 菅は、首相就任後、最初に竹中と会談し、政策の最高ブレーンに任命するらしい。
 結局、国民から年金給付を強奪し、日本国民が数十年にわたって爪に火を点すようにコツコツと貯めて支払ってきた年金基金は、全部、国際バクチに注ぎ込む。

 実際に、すでに年金は安倍政権によって、それ以前まで危険性から絶対に排除されてきた高リスク金融(詐欺)商品(例えば、サブプライムローンのような)に全額投入されてきたせいで、現在、残高は隠されていてはっきりわからないが半分は欠損してしまっていると噂されている。

 GPIFの、この報告には、都合の良い数字ばかりが出ていて、全投資額と全損失の具体的な数字がないので、信用できない。
 https://www.gpif.go.jp/operation/the-latest-results.html

 政府は、国民の年金基金を投機性の極めて強いバクチ運用に、ほぼ全額を放りこんだので、巨大な損失を被り、都合の良い数字だけを出して、全体像を見せようとしない。
 https://kumitateru.jp/media/topic/public_pension/15-trillion-yen-loss

 つまり、政府が国民の預金を勝手に使い込んで大穴を開けてしまったので、これ以上、年金を支払い続ける原資が不足し、これ以上年金を支払わない、健保にもカネを出さない、代わりに、毎月7万円で、何もかも自己責任でやってゆけと言っている。
 これが自己責任の正体だ。

 そもそも、我々人間は、誰一人、自己責任だけで生きている者などいない。
 人類は助け合わねば生きてゆけないようにプログラムされている。
 生まれて、少なくとも10才くらいに達するまでは、自己責任も糞もない。誰かが助けてあげなければ死んでしまうのだ。また70才以降も同じだ。
 本当に、自己責任で生きて行けるのは、せいぜい20才〜50才くらいまでの30年程度だろう。

 「自己責任」という概念が通用するのは、極めて限られた強い立場の人間だけであり、その人ですら、他人の助けなしに、強い立場を作り出すことも、維持することもできないのだ。
 自己責任論は、まさに新自由主義を利用して利己的ボロ儲けを狙う者たちの詭弁である。それは、人間社会を破綻させる屁理屈なのだ。

 我々は、自助ではなく、共助でなければ生きられない。消費税に10%もの罰金をかけたこの国のなかでは、公助がなければ悲惨な事態になる。
 人々が、医療を利用するには、公助がなければ不可能なのだ。そのために、もの凄い罰金としての消費税を国民に強要しているではないか!

 何が「公助に頼るな」だ、ふざけるな! ならば、税金を取るのをやめよ!

 我々は「助け合い社会」によって生かされている。このことを忘れてはならない。
http://tokaiama.blog69.fc2.com/blog-entry-1265.html

2. 中川隆[-8697] koaQ7Jey 2021年1月02日 14:17:45 : WlRsmkTSXA : dXRtcGJHMUpmMVk=[25] 報告
80年代に新自由主義政策の先鞭をつけたイギリスのサッチャーは「社会などというものはない」といってのけました。それは戦後のイギリスにおける福祉国家体制を解体していくにあたって、また鉄道や水道、電話、航空、石炭といった社会インフラを担ってきた国営企業を民営化して市場原理にゆだね、照応して労働法制の規制緩和、社会保障制度の縮小を進めるにあたって、徹底的な個人の自己責任を強調する新自由主義の哲学を象徴する言葉でした。露骨に翻訳すると、「社会にすがりつくのではなく、自己責任で生きていけ!」というものです。
 第二次大戦後の資本主義の相対的安定期が行き詰まりを迎えるなかで、80年代以後にレーガン、サッチャー、中曽根らが実行し、今日に至るも引き継がれてきた新自由主義――。それは人、モノ、カネの国境に縛られぬ往来や、多国籍金融資本による各国の規制にとらわれない金融活動を推進し、グローバリゼーションの要となってきました。各国で、公営だったものが民営へと切り替わり、公共性のともなう社会的機能がみなビジネスの具にされ、巨大な資本が暴利を貪る市場へと開放されてきました。水や食料(種子等)など、人々の生命に関わる分野も例外ではありませんでした。

 さらに、そうしたビジネスを展開しやすくするために、8時間労働の実現をはじめ、資本主義の登場以来、労働者が長年の闘いによって勝ち得てきた諸々の権利も規制緩和が進みました。米ソ二極構造が崩壊し、社会主義陣営も変異・変質して「資本主義の勝利」が叫ばれるなかで、対抗する政治勢力や労働者の拠るべき組織が弱体化したり崩壊していくこととセットで、巨大資本による遠慮を知らぬ社会の私物化が始まりました。

 日本国内を見てもいまや派遣労働という現代の奴隷制が横行し、そのもとで少子高齢化を迎えて労働力人口が縮小すると、今度はより安価な外国人労働者を引っ張ってくる始末です。社会全体の未来や展望、人間そのものの再生産、国家としての計画的な運営などお構いなしに、みな株主や資本の都合に社会を従え、その最上段に金融資本が君臨して主人公を気取っています。その結果、必然的に貧富の格差は増大してきました。

◇      ◇

 今回の新型コロナウイルスの感染拡大は、こうした新自由主義のもとでは人々は生きていけないことを鮮明に映し出しました。経済活動が窒息し、世界中が混乱を極めて人、モノ、カネの往来が停滞することによって、各国では恐慌突入ともいえる局面があらわれました。失業や倒産、廃業の危機が連鎖するなかでしわ寄せは末端に押しつけられ、暮らしがままならないなかで自殺者の増大も深刻なものとなっています。すべての対応を自己責任にゆだねたからです。例えコロナに感染しなくとも、自粛によって誰しもが何らかの影響を被り、社会の構成員一人一人の困窮が回り回って社会全体に波及していく様を、この一年わたしたちは目の当たりにしてきました。

 そこで問われているのは、それこそ「社会」とは誰のために存在し、国家は誰のために機能しなければならないのかです。主人公をはき違えた社会運営を是正しないことには、世の中の圧倒的多数を占める人々の暮らしが成り立たないことは歴然としています。コロナ禍において自己責任にゆだねて人間の暮らしを脅かせば、最終的には社会の存立基盤そのものが揺らぐのも現実なのです。

 「社会」とは、人間が集まって生活を営む集団であり、その構成員たちが相互に連関しあいながら、それぞれの役割や専門的要職を果たすことで誰かを支え、また支えられて成り立っていることをコロナ禍は教えました。医師や看護師がいなければ医療をまともに受けられず、学校が機能しなければ子どもたちは学ぶこともできません。物流を担う運送・輸送労働者がいなければ食料や物資は社会の隅々に行き渡らず、コロナだからといって電気、ガス、水道といったライフラインが滞れば暮らしは成り立ちません。農業、漁業といっても生産者がいなければ人々は食事にもありつけません。街の飲食店がなければ食文化もつなぐことができず、居酒屋がなければほんの少しの憂さ晴らしや付き合い、親睦を深めることも叶いません。スーパーがなければ食料の買い出しもできません。まだまだあります。そのように、みんなの仕事がみんなのために機能し、社会生活が成り立っているのです。

 自粛という我慢に耐えるなかで、日頃から社会を縁の下で支えているエッセンシャルワーカーに光が当たりましたが、こうした一人一人の労働こそが、人間が集まって生活を営む集団、すなわち社会を支えていること、その力なしにはいかなる人間の集まりも存続しえないことを教えました。それぞれに存在価値があり、社会的有用性に応えることで一つのパーツとして機能していること、人と人とのつながりによって世の中は動き、協同の力が支えていることについて、改めて考えさせられるものがあります。社会の主人公は人間そのものであり、その人間の暮らしが疫病によって脅かされているならば、国家が当たり前の営みとしてしっかり補償や手当をすることが、回り回って社会を守ることにつながるはずです。

◇      ◇

 実社会は恐慌さながらでありながら、株価は異様なる高騰を続け、相変わらず金融界だけは雲の上でバブルに踊っています。リーマン・ショックを上回る景気後退に直面するや、各国の中央銀行が当時よりもさらに異次元の金融緩和を実施し、市場にマネーを注ぎ続けたからに他なりません。こうして実体経済との乖離は極限まで進み、金融資本主義のプレイヤーたちは国家や社会に思いっきり寄生しています。国家からドーピング注射を受けたマネーを独り占めして、握りしめて離さないのです。そのカネを社会全体の利益のために吐き出させるというのは、特に乱暴な話ではないはずです。

 新自由主義を代表する哲学を単純化すると「今だけ、カネだけ、自分だけ」という言葉に尽きますが、そうではなく、社会にとっての必要性、人々が暮らしていくために必要なことが第一に優先される社会にすること、国家がそのために機能するという当たり前の営みをとり戻すことが、コロナ後の社会の在り方に違いありません。
https://www.chosyu-journal.jp/seijikeizai/19656

3. 中川隆[-7802] koaQ7Jey 2021年1月31日 15:56:36 : pewE9MNtck : TENybGJhVVBSNEE=[4] 報告
【サッチャリズムとは】具体的な政策や社会への影響をわかりやすく解説
2020年1月3日 / 2021年1月27日
https://www.jomo-news.co.jp/news/gunma/society/270072

サッチャリズムとは

サッチャリズム(Thatcherism)とは、1980年代にイギリスの首相マーガレット・サッチャーによって行われた新自由主義的・新保守主義的な政策のことです。

サッチャーの政策なんて、現代日本を生きる私たちに身近ではないと思われるかもしれません。しかし、サッチャーが行ったいわゆる新自由主義的政策やその社会への影響は、日本で行われた政策も共通点が多く、日本の政治を考える上でも役立ちます。

そこでこの記事では、

サッチャリズムの背景や特徴、具体的な政策
サッチャリズムの失敗や社会への影響
について詳しく解説します。

関心のあるところから読んでみてください。

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目次 [非表示]

1章:サッチャリズムとは
1-1:サッチャリズムの背景
1-2:サッチャリズムの特徴
2章:サッチャリズムの具体的政策と影響
2-1:新自由主義的な財政政策・構造改革
2-2:金融自由化(ビッグバン)
2-3:マネタリズム的な金融政策
2-4:労働組合との対決・炭坑労働者のストライキ
3章:サッチャリズムとホール
4章:サッチャリズムに関するおすすめ本
まとめ
1章:サッチャリズムとは
サッチャリズムとは、「鉄の女」と呼ばれたイギリス初の女性首相であるマーガレット・サッチャー(Margaret Hilda Thatcher)によって行われた、一連の政策のことです。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1を入れていますので、クリックして参考にしてください。

一般的に、イギリスの福祉国家的政策(後述)から新自由主義的政策に転換したこと、強い態度でさまざまな改革を行い、社会に大きな影響を与えたことから知られています。



1章ではサッチャリズムの背景から、サッチャーがどのような問題意識を持つようになったのか、そしてどのような特徴の政策が行われたのかを説明します。

より具体的な政策の内容や社会に与えた影響については2章以降で説明します。

1-1:サッチャリズムの背景
サッチャリズムは経済・社会保障面では新自由主義的、外交的には新保守主義的な政策が行われたと言われます。

なぜそのような政策が必要とされたのでしょうか?

結論から言えば、福祉国家的政策に限界があると考えられるようになったからです。

1-1-1:福祉国家的政策の伝統
そもそも、イギリスには福祉国家的政策の伝統がありました。

福祉国家とは、医療保険、社会福祉サービス、貧困層への補助などの社会保障制度の拡充を重視し、実現している国家のことです。

福祉国家について簡単に説明します。

政治学や経済学における重要なテーマに、「国家の市場に対する役割をどこまで認めるか?」というものがあります。そして、大きく分けると以下の2つの立場があります。

自由主義(古典的自由主義、新自由主義)・・・国家は市場(民間の経済活動)に対してできるだけ関わるべきではない。
社会民主主義・ケインズ主義・・・市場に任せていたら格差拡大や景気の上下が激しくなるなどの問題が起こるため、国家が積極的に介入するべき。
福祉国家というのはAの立場から、国家が市場に介入し、社会保障サービスを充実させることを重視する国家のことです。

イギリスに限らず、第二次世界大戦後の西側先進国の多くは福祉国家的な政策を行っており、日本や自由主義の国と言われるアメリカですらそうだったのです。

→福祉国家について詳しくはこちら

また、イギリスではケインズ主義と言われる政策が戦後政治の主流でした。

ケインズ主義とは、簡単に言えば下記のような金融政策を行うことで景気を安定させ、完全雇用(失業者がいないこと)を目指す政策のことです。

景気が悪い時
政府が金利を下げ、お金を借りやすくして投資や消費を促進させたり、政府が支出を増大することで、景気を刺激する
景気が良い時
景気が過熱しインフレが激しくならないように、政府が金利を上げ、投資や消費を抑制させたり、政府が支出を抑えて景気を安定化させる
このように、国家が景気循環に介入して失業率を下げること、社会保障サービスを充実させることを合わせて行っていたのが戦後政治の路線でした。

しかし、1970年代頃にはすでにこうした政治が批判されはじめ、市場原理主義(国家が市場に介入しないこと)を主張する論調が起こりました。

1-1-2:ポンド危機・景気の行き詰まり・労働者の不満
1960年代頃には、ケインズ主義的な経済運営を批判する勢力が生まれました。

ケインズ主義的な「景気が悪くなったら金利を下げ、公共支出を増加し、景気が良くなったら金利を上げ、公共支出を減らす」という政策は、経済成長にもブレーキをかけてきたからです。

そのため、イギリス・保守党の中でも市場原理主義的な主張をする勢力が生まれたのです(ニューライト)。

イギリスの戦後政治は、保守党=右派(資本家など裕福な人が支持者)、労働党=左派(労働者など経済的に貧しい人が主な支持者)という二大政党制で運営されました。

保守党の市場主義路線の主張に対し、労働党は左派の立場から社会主義的路線を打ち出して真っ向から対立しましたが、1970年にはエドワード・ヒース率いる保守党が勝利し、市場主義的な政策を明確にしました。

その後、ヒースは当時の経済環境から市場主義的政策が難しく、旧来通りの政策を行い、特に労働組合との間で関係を悪化させます2。

その後、1974年には労働党政権が生まれます。

ウィルソン政権
インフレと国際収支悪化から、公共支出の削減や賃金抑制という労働者に厳しい政策を行う
キャラハン政権
国際収支の悪化とポンド切り下げのため、IMF(国際通貨基金)から借り入れを決定し、緊縮的な経済政治、賃金上昇を抑制する政策を行う
70年代後半の労働党の政策は、労働者に不満を爆発させ公務員の労働組合は大規模なストライキを行いました。

このストライキは、公共サービスの利用者には不便を押しつけられる結果になったことから、労働組合やストライキに対する消費者からの不満が蓄積されました。

この労働党への不満や労働組合への悪いイメージの蓄積が、80年代のサッチャー政権が支持を集めることにつながっていきます3。

整理すると、

福祉国家・ケインズ主義的な政策は、財政の悪化や景気の行き詰まりから限界と考えられるようになった(また、保守党内に自由主義・市場主義的な勢力が生まれた)
労働者は労働党の政策に不満を持った
労働組合やストライキという労働者が企業・資本家に対して権利を要求する運動に対し、悪いイメージが持たれるようになった
ということから、新自由主義的な政策が行われる前提が形成されていたのです。

1-2:サッチャリズムの特徴
さて、こうした背景から生まれたのが、新自由主義と新保守主義を特徴とするサッチャリズムだったのです。特徴を順番に説明します。

1-2-1:新自由主義
新自由主義とは、市場(経済活動)への国家の介入を最小限にし、小さな政府、民営化、規制緩和といった政策を目指す経済思想

1-1で説明した通り、戦後のイギリスは基本的に福祉国家・ケインズ主義という国家が市場に積極的に介入する政策を行ってきました。

しかし、サッチャーが行ったのは、

生活インフラ(水道、電気、ガス)や通信、鉄道、航空などの民営化、規制緩和とそれによる公共支出の削減
金融システム改革(ビッグバン)
所得税や法人税の引き下げと、消費税の引き上げ
といった過去の伝統的な政策を覆すものでした。

このように、政府の役割を民間に移譲することで財政支出を減らし、自由化や規制緩和を進める改革は日本の中曽根政権以降、特に橋本龍太郎政権や小泉政権でも行われました。

新自由主義的なサッチャリズムは経済を刺激するために行われましたが、むしろ社会には大きな悪影響を与えることにもなりました(この点について2章で説明します)。

新自由主義について詳しくは以下の記事で解説しています。

【新自由主義とは】定義・問題点・生まれた背景をわかりやすく解説

1-2-2:新保守主義
サッチャリズムと言えば経済的側面(新自由主義的政策)が知られていますが、一方でサッチャリズムは新保守主義とも言われます。

この場合の新保守主義とは、イギリス的な伝統的な価値観を現代の時代にあらためて実現することで、国民統合を強める試みのことです。

簡単に言えば、

イギリスの伝統は古典的自由主義である
自由主義という価値観をあらためて国民に認識させることで、「われわれイギリス人」という意識を強める
ということです。

サッチャーはフォークランド紛争によってもナショナリズムを喚起し、国民からの支持を集めましたが、古典的自由主義という価値観も国民統合に利用したと考えられます4。

新保守主義として有名なのはアメリカのネオコンです。これは「強いアメリカ」「民主主義・自由主義の国」という価値観を重視し、それを現実世界で実現しようとする立場(よって好戦的)です。

詳しくは以下の記事をご覧ください。

【ネオコン(新保守主義)とは】起源からトランプまでわかりやすく解説

また、国民統合・ナショナリズムについては以下の記事で解説しています。

【ナショナリズム・国民国家とは】成立過程から問題までわかりやすく解説

さらに、イギリスの伝統的価値観を理解するためには、イギリスの歴史を知っておくことも大事です。以下の記事が参考になります。

【イギリス革命とは】清教徒革命と名誉革命の歴史・背景を詳しく解説

サッチャリズムの背景や特徴について理解できたでしょうか。

2章では、サッチャリズムの具体的な政策とその影響について説明します。

いったんここまでを整理します。

1章のまとめ
サッチャリズムは、福祉国家・ケインズ主義的な政策の限界から、新たな政策として生み出されたもの
サッチャリズムの特徴は新自由主義と新保守主義
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2章:サッチャリズムの具体的政策と影響
これからサッチャリズムの具体的な政策内容を解説します。先に要点を挙げると以下の通りです。

新自由主義的な財政政策・構造改革
金融自由化(ビッグバン)
マネタリズム的な金融政策
労働組合の政治力の削減
順番に説明します。

2-1:新自由主義的な財政政策・構造改革
繰り返しになりますが、サッチャーは伝統的な自由主義の思想を持っていました。簡単に言えば、政府に頼らず自助努力を奨励する精神です(これは、サッチャーの家庭環境が影響していると言われます)5。

そのため、公共支出、社会保障サービスの削減を行いました。

2-1-1:公共支出の削減
サッチャーが行ったのが、下記のような政策です。

所得税、法人税を引き下げ、消費税を上げる
石油、石炭、ガス、水道、電気、通信、航空、鉄道、自動車などの国営企業を民営化し、公共部門の労働者を減らす(財政支出の削減)
ケインズ主義的な政策では、景気を上向かせたい場合は公共支出を増やす(つまり、企業の代わりに国がお金を出して経済を回す)ことを重視します。しかし、サッチャーは逆に民営化を進めて公共サービスにも市場原理を持ち込み、民間の自助努力に任せる政策を行いました。

さらに、逆進性のある消費税を増税するという、労働者に厳しい政策も行っています。

逆進性とは、消費税の増税は所得の低い人ほど苦しく、所得の高い人ほど負担が軽くなるという消費税の特徴のことです。

こうしてサッチャリズムは、格差を広げ弱者が自助努力に追い込まれる厳しい社会を創り出したと、後になって批判されるようになったのです。

2-1-2:社会保障の削減
サッチャーは、公共支出の削減として社会保障サービスも削減しました。

公的年金を引き下げ
民間年金の方が有利になるため、多くの人は民間に移行する
低所得者や失業者に対する福祉の削減
福祉サービスの受給者は、逆に増大することになった
サッチャーは社会保障サービスにも市場原理を導入することで、公共支出の削減や競争原理によるサービス向上、国民の自助努力の精神を刺激することを考えましたが、結果として、福祉サービスの受給者が増大するという逆の結果をもたらしたのです。

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2-2:金融自由化(ビッグバン)
サッチャーは、下記のような「ビッグバン」と呼ばれる金融政策を行いました。

売り上げ手数料の自由化
銀行と住宅金融公庫の区別の撤廃
証券・金融市場の海外への開放
この「ビッグバン」によって、

イギリスへの海外からの投資が増大し、イギリスの金融機関が海外の資本から買収される(ウインブルドン現象)
金融部門における専門職が増大
イギリスの産業が工業から金融へと、脱工業化が急速に進む
といったことが起こりました。

特に産業が脱工業化し金融部門が成長したことで、金属、機械工業などの産業は、急速に衰退していきます。そして、これらの産業を抱えていた地域に失業率が集中することになります。

その後のイギリスは、世界の金融の中心として世界中から資本を集めることになりました。そのため、サッチャリズムが社会にとって害悪でしかなかったとは言えません。しかし、少なくとも国内の労働者・低所得者らにとってはつらい社会を作ることになったのです。

サッチャリズムの金融自由化(ビッグバン)は、90年代の日本の橋本政権によって行われた「日本版金融ビッグバン」のモデルになりました。

2-3:マネタリズム的な金融政策
マネタリズムというのは、政府(中央銀行)が国内に流通する貨幣量を増やすと、物価が上がり投資が増え、失業率が下がると考える、経済政策における思想のことです。

マネタリズムについてここでは詳しく解説しませんが、貨幣供給量を増やすことが景気刺激になると考える思想、とここでは押さえておきましょう。

サッチャーはこのマネタリズムの思想に基づいて、物価上昇(インフレ)に対処するために政策金利を上げることで、流通している貨幣量を減らす金融政策を行いました。しかし、このマネタリズム的な政策が行き過ぎた結果、失業率が急上昇し、1970年代末には5%台だった失業率が1983年には11%台にまで悪化しました。

2-4:労働組合との対決・炭坑労働者のストライキ
サッチャリズムの特徴として、労働組合を解体させたことがよく知られています。

サッチャーが労働組合を解体させたのは、労働組合が政治的勢力として強いと福祉国家路線の政策から軌道を変更することができないからです。なぜなら、福祉国家的な政策は労働者が労働者としての権利を主張することで成り立っていたからです。

したがって、サッチャーは1981年に労使関係法で労働組合の力を削り、さらに1982年雇用法で労働組合の活動を厳しく制限し、労働組合の政治力を奪いました。

しかし、もちろん労働組合側も黙ってはいません。

1984年、イギリス石炭庁が全国174カ所の炭坑のうち20を閉鎖する計画を発表し、炭坑労働組合がそれに反対。そして、全国の炭坑労働者のうち80%がストライキに参加することになりました。

サッチャー政権はこの大規模ばストライキに対し、警察による弾圧やマスコミを使った印象操作などによって対抗し、ストライキは労働者側の敗北に終わります。

1章でも説明したように、これ以前からすでに労働組合やストライキに対して悪いイメージがついていたこともあり、これ以降イギリスの労働組合は政治的な力を失っていきました。

こうしてサッチャリズムを止める勢力が力を失い、新自由主義がイギリスでも猛威を振るうようになったのです。

この大規模な炭坑労働者のストライキは、後にいくつかの映画の題材になりました。ぜひ鑑賞してみてください。


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2章のまとめ
サッチャーは公共事業の民営化や規制緩和、福祉サービスの削減などで公共支出を削減した
金融自由化(ビッグバン)によって、脱工業化が進み工業部門の失業者が増大
労働関係法、雇用法を改正し労働組合の力を弱めた
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3章:サッチャリズムとホール
さて、サッチャリズムを語る上で欠かせないのはスチュアート・ホールの「The Great Moving Right Show」(1979)という論文です。

この論文は「労働者階級の人々を苦しめる権威的政治指導者が、なぜ労働者階級から支持されるのか?」を分析したものです。言い換えれば、労働者階級の右傾化に関する分析です。

ホールの研究はサッチャリズムに関する先駆的な研究であり、第二次世界大戦以降のイギリスでもっとも影響力のあった論文の一つとされています。

スチュアート・ホールとは、バーミンガム大学の「現代文化研究センター(CCCS:Center for Contemporary Cultural Studies)」長として、カルチュラル・スタディーズを開花させた人物です。

より詳しくはこちらの記事を参照ください。

【スチュアート・ホールとは】人物・思想・研究までわかりやすく解説
【カルチュラル・スタディーズとは】文化の意味から研究事例まで解説
結論からいえば、ホールは労働者階級の右傾化とサッチャリズムを「権威主義的ポピュリズム」といいます。ホールによると、権威主義的ポピュリズムとは、

古典的なファシズムとは異なり多くの代表的諸制度を保ったまま,同時に人々の合意を構築することに成功した資本主義国家の例外的形態

を意味します。

「権威主義的である一方で、大衆の立場を自称する」という一見矛盾した用語の節合がホールのユニークな分析を顕著に表しています。

論文に当たればわかりますが、右傾化に対する左翼の反応や社会民主主義制度上の問題点など詳細な分析がされており、実際にはここまでおおざっぱな議論ではありません。

サッチャリズムに関する代表的な論文ですから、ぜひ読んでみてください。


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4章:サッチャリズムに関するおすすめ本
サッチャリズムは、日本の新自由主義について理解する上で一つの足がかりになります。

より詳しくは以下の本から学んでみてください。

おすすめ本
デヴィッド ハーヴェイ『新自由主義―その歴史的展開と現在』(作品社)

ハーヴェイの『新自由主義』は新自由主義の研究として名著です。サッチャーはもちろんレーガンや中曽根など新自由主義の代表格について詳しく論じられていますので、ぜひ読んでください。


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長谷川貴彦『イギリス現代史』(岩波新書)

サッチャリズムについて理解するためには、それ以前やそれ以降の政治についても知っておくことが大事です。『イギリス現代史』はサッチャリズムそれ自体の記述は少ないですが、現代史がとてもわかりやすく解説されています。


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まとめ
最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
サッチャリズムの背景には、福祉国家・ケインズ主義の行き詰まりがあった
サッチャリズムの特徴は新自由主義、新保守主義
サッチャリズムで行われたのは、公共支出削減、労働組合解体、金融自由化など

https://www.jomo-news.co.jp/news/gunma/society/270072

4. 中川隆[-7801] koaQ7Jey 2021年1月31日 15:59:30 : pewE9MNtck : TENybGJhVVBSNEE=[5] 報告
【ゆっくり解説】英国IMF危機〜しくじり財政破綻〜【福祉国家の末路】
2021/01/31





【ゆっくり解説】ハイエクvsケインズ〜経済学を変えた世紀の対決〜








5. 2021年1月31日 16:03:05 : pewE9MNtck : TENybGJhVVBSNEE=[6] 報告
>>3のリンク訂正

https://liberal-arts-guide.com/thatcherism/

6. 2021年1月31日 16:14:58 : pewE9MNtck : TENybGJhVVBSNEE=[7] 報告
【サッチャリズム】政策の内容や国際的な影響などわかりやすく解説
2020年10月31日 2020年11月1日
https://akademeia-literacy.com/economics/thatcherism/


Introduction:マーガレット・サッチャーはどんな人?
マーガレット・サッチャー(Margaret Hilda Thatcher)とは、

1925年〜2013年に活躍した政治家で、イギリス初の女性首相。保守党党首。
です。

サッチャーは、保守的で強硬な姿勢から、「鉄の女(Iron Lady)」と呼ばれました。

イギリス初の女性首相かつ、イギリス初の保守党の女性党首です。

本記事では、サッチャリズムの時代背景・政策内容を解説していきます。

【サッチャリズム】 要点
・時代背景:伝統的な福祉政策・英国病
・ネオリベラリズム:個人の自由の尊重や市場原理に基づいて、政府による個人・市場への介入を最低限に留めるべきという考え
・小さな政府を目指す
・政策:ビッグバン・労働組合と対立

目次
1 Part 1:時代背景
1.1 1−1 福祉的経済政策
1.2 1−2 英国病
2 Part 2:サッチャリズムの政策内容
2.1 2−1 ネオリベラリズムに基づいた政策
2.2 2−2 ビッグバン(金融自由化)
2.3 2−3 労働組合との対立
3 Part 3:おすすめの書籍
4 Part 4:まとめ
Part 1:時代背景
サッチャリズムの政策が取られたのは、イギリスの時代背景が影響しています。

1−1 福祉的経済政策
第二次世界大戦後のイギリスでは、世界恐慌の教訓からケインズ経済学や厚生経済学に基づいた福祉的な政策が主流になっていました。

ケインズ経済学・厚生経済学についてまとめた記事は以下のリンクからご覧いただけます。

関連記事
ケインズ【雇用・利子および貨幣の一般理論】非自発的失業や有効需要など、わかりやすく解説
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【厚生経済学】旧厚生経済学から新厚生経済学までの展開をわかりやすく解説
厚生経済学
世界恐慌で景気が悪化したことで、それまで主流だった古典派経済学・新古典派経済学の有効性が疑われ、ケインズ経済学の福祉的な政策が有効であると考えられました。

古典派経済学・新古典派経済学についてまとめた記事は以下のリンクからご覧いただけます。

関連記事
【古典派経済学・新古典派経済学】主要な経済学者や経済思想などわかりやすく解説
古典派経済学 新古典派経済学
大きな政府として市場に介入して企業を国営化することで産業を保護しました。

世界恐慌といった景気が悪い時期は有効だった福祉的な政策ですが、景気が向上すると、政府の介入が非効率を生み出し始めました。

その結果、「英国病」という状況を生み出しました。

1−2 英国病
英国病とは、

社会保障の充実や国営化といった福祉的な政策によって、財政悪化・既得権益の発生・勤労意欲の低下といった問題を引き起こした現象
です。

伝統的な福祉政策をとっていたイギリスは、景気が上向きになっても福祉的な政策を継続したために競争力が低下し、経済成長が停滞しました。

政府が市場に介入し続けた結果、国際競争力の低下や膨大な社会保障費による財政悪化といった問題が発生しました。

また、充実した失業保険や高税率の所得税といった福祉的政策が労働のインセンティブを奪い、勤労の意欲低下という問題が発生しました。

さらに、オイルショックが発生し、不況にもかかわらず物価が上昇するスタグフレーションが発生しました。

このような状況から、労働組合が賃上げを求めるストライキを行なったり、公共サービスの労働者がストライキを行いました。

その結果、ごみ収集や病院、学校といった公共サービスが停止し、国民は大きな不満をかかえ、「不満の冬」と呼ばれました。

このような福祉的政策の限界によって不満が蓄積したイギリスでは、サッチャーが台頭する準備が整いました。

Part 2:サッチャリズムの政策内容
サッチャリズムは、伝統的な福祉的政策とは対照的な政策を展開しました。

2−1 ネオリベラリズムに基づいた政策
サッチャリズムは、ネオリベラリズム(新自由主義)に基づいた政策です。

ネオリベラリズム(Neoliberalism)とは、

個人の自由の尊重や市場原理に基づいて、政府による個人・市場への介入を最低限に留めるべきという考え
です。

ネオリベラリズムは市場の効率性を評価し、政府による介入は非効率であると考え、小さな政府を目指します。

ネオリベラリズムに基づいた政策は

規制緩和・民営化・緊縮財政
などが挙げられます。

サッチャーは、様々な規制を撤廃することで、企業間の競争を促進しました。

既得権益や特定の事業を保護するための規制は、経済的効率性を損なうという考えに基づいて、規制緩和が行われました。

市場原理では、企業の競争の促進によって経済成長が達成されると考えます。

またサッチャーは、国営の水道や電気、鉄道、航空といった事業を民営化し、政府による非効率的な運営をやめました。

国営企業を民営化することで、政府支出を抑えることに成功しました。

また、福祉的政策をやめ、社会保障費を抑える緊縮財政政策を行いました。

企業のために所得税を減税しましたが、消費税は増税し、国民に負担を強いました。

このようにサッチャーは、規制緩和・民営化・緊縮財政といったネオリベラリズムに基づいた政策を展開しました。

2−2 ビッグバン(金融自由化)
ビッグバン(Big Bang)とは、

サッチャー政権下でロンドン証券取引所が実施した金融改革
です。

サッチャーは、アメリカの経済学者であるミルトン・フリードマンが主張したマネタリズムに基づいて、金融政策を行いました。

フリードマンについてまとめた記事は以下のリンクからご覧いただけます。

関連記事
【フリードマン】マネタリズムやネオリベラリズムなど、わかりやすく解説
フリードマン
マネタリズムとは、

貨幣の役割を重視し、貨幣の量によって景気や物価といった変数が決定するという経済理論
です。



ロンドン証券取引所は市場の効率性を高めるために、

・売上げ手数料の自由化

・単一資格制度廃止

・外部資本への開放

という改革を行いました。

競争を制限するような手数料を撤廃したり、外部資本へ開放することで競争を促進させました。

単一資格制度とは、

ブローカーとジョバーの兼業を禁止するという慣習的制度
です。

単一資格制度が廃止されることで金融の自由化が進展しました。

このようにサッチャーは、金融市場を自由化することで市場の効率性を高めようと試みました。

しかし、競争のために外国へ金融市場を解放した結果、外国資本よってイギリス国内の企業が淘汰される「ウィンブルドン現象」がおきました。

2−3 労働組合との対立
サッチャーは、サッチャリズムを行う上で障害となっていた労働組合と対立しました。

当時政治的影響力が強かった労働組合は、労働者の権利や労働環境改善などを主張し、福祉的な政策を求めていました。

労働組合は、福祉的政策と正反対な政策を進めるサッチャーと敵対することになります。

サッチャーは、労働法を改正することで労働組合を弱体化させました。

労働組合側はストライキで対抗しましたが、警察による弾圧といったサッチャーの権力に敗北しました。

労働組合を弱体化させ、政治的影響力を奪うことに成功したサッチャーは、ネオリベラルな政策を促進させました。

以上のような政策を行った結果、戦後最悪の失業率を記録しました。

また、所得格差が拡大し、貧困層が増えることで犯罪率も増加しました。

サッチャー政権の評価は、ネオリベラリズムを信奉する人とそうでない人の間で大きく分かれています。

Part 3:おすすめの書籍
もっと「サッチャリズム」を学びたいという人は、以下の書籍がおすすめです。


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Part 4:まとめ
いかがでしたか?

「サッチャリズム」をまとめると、

【サッチャリズム】 要点
・時代背景:伝統的な福祉政策・英国病
・ネオリベラリズム:個人の自由の尊重や市場原理に基づいて、政府による個人・市場への介入を最低限に留めるべきという考え
・小さな政府を目指す
・政策:ビッグバン・労働組合と対立

https://akademeia-literacy.com/economics/thatcherism/

7. 中川隆[-7800] koaQ7Jey 2021年1月31日 17:11:47 : pewE9MNtck : TENybGJhVVBSNEE=[8] 報告
サッチャーの政策 岩崎新哉
http://www.ritsumei.ac.jp/~yamai/7KISEI/iwasaki.pdf


はじめに

まず、サッチャーが政権を握る以前、イギリスにおいては国有化が大規模に始められ、
それは多くの国の国有化に影響を与えてきた。このイギリスの国有化は第二次大戦後すぐ
に成立した法律によってその枠組みが作られた。そして労働党が国有化を推し進めようと
し、保守党がそれに反対してきたのは事実であるけれども、しかし、戦後の国有化の実施
過程を見ると名目上ほど対立していたわけではなかった。
すなわち、石炭・ガスに見られるように、当時これらの産業は困難な状況にあったので、
民営のままでは無理といられていた。そのため、保守党は国有化にほとんど反対しなかっ
た。インペリアル・エアウェイズの場合も国家利害の観点からほとんど反対されなかった。
つまり、これらの国有化は、もちろん公共的利益の追求ということも目的とされていたの
ではあるが、困難に陥った私企業の救済的な要素が強かったのである。
例外は鉄鋼業であった。これは当時利益の上がっている企業であり、産業全体に影響を
与える戦略産業であったから、その国有化は激しい抗争を巻き起こし、国有化、民営化、
再国有化という変遷を遂げた。いずれにせよ、国有化に関しては政党間の相違は綱領で当
然のこととされているより小さかった。こうして、公共部門は次第に肥大化していき、国
有企業のみで 1979 年にはGDPの約 10%を占め、150万人を雇用するようになってい
た。これは西側世界の国では最大の比率の公共部門を保持していたことになる。

しかし、こうした多くの国有企業が効率性に欠け、従業員の福祉をも達成することに失敗しているという認識が一般の人々にあった。また、これらの原因の多くが国有企業の活
動に対する、絶えざる政治的干渉に帰せられるという一般認識も広くあった。

1.サッチャーの行った政策

サッチャーは先に述べた状況に対して、全面的変革を掲げて戦いを挑んだ。彼女のやろうとしたことは、まさしく産業主義を現代に取り戻し、意識改革を起こそうというもので、ダニエル・ベルが「現代風のブルジョア革命」といみじくも名づけたものである。そしてサッチャーの「現代風のブルジョア革命」の内容は以下のようなものだった。

@国営企業の民営化、非効率企業への国家援助を取り外し、国際競争に耐え得ない企業
は倒産させる。

A最高所得税を 83%から 40%に減税し、豊かな層の企業活動を一層活発化させる。

B慣行の上にあぐらをかいて働かない労働組合に対して、労働法を改正して労働組合活動を制限するとともに、国営企業をはじめとして企業から多くの失業者を作り出し、
失業の恐怖の下、働くことを強制する。

C労働者に公営住宅を払い下げ、所有意識を持たせるとともに、国営企業を民営化する際、株式を払い下げ、900 万に及ぶ株主を作り出し、企業の業績に関心を持たせる。

このような変革政策は相当程度成功し、比較的停滞した社会が相当に活発化した。それ
では本当にサッチャリズムはイギリスの基本構造を変革することに成功したのだろうか。
結論を先取りして言えば、サッチャー政策は自由市場政策をとり、国際競争に生き残れる
企業が生き残ればいいという政策をとった。この結果、伝統的な産業部門は長期間にわた
って多くの部分が衰退することになった。これは、イギリスの経済政策に対する国際指向
性の再主張でもあった。保護されたのは防衛産業と農業であった。一方、この政策で恩恵
を受けたのはシティを中心とする金融、商業会社に加えて既に多国籍企業に支配されてい
る部門であった。
しかし、こうした蓄積戦略はは、一国経済の発展は製造業が担っており、サービス産業
が取って代わることはできないので、イギリスの相対的衰退に歯止めをかけることはでき
なかった。サッチャー政策はイギリスの衰退傾向を逆転し産業主義を取り戻そうとしたに
しては、金融・流通中心、国際指向性中心の経済政策になった。これは、シティ中心のイ
ギリスの伝統的な経済構造から一歩も出ないということになる。
もちろん、後に 90 年代に入り、シティを中心とした金融業務は活発化し、イギリスを蘇
らせることにはある程度成功した。しかし、製造業については、やむをえないとはいえ、
外国資本を導入して補うという政策であった。これも成功しているが、肝心のイギリス固
有資本による製造業の発展は弱いままであった。


2.労働組合への攻撃

サッチャーの最も厳しい攻撃対象は労働組合であった。労働組合は確かにイギリス病の
重要な原因の一つであった。サッチャーは労働組合を弱体化させるために、法的整備を進
めるとともに積極的に組合潰しをやった。イギリス最強の労組である炭鉱労組を 1984〜85
年の一年にわたる合理化反対闘争で敗北させた。その後、イギリスの労働組合員の数は減
少し、また、組合の組織率は大幅に低下していった。いまや、あの強すぎるイギリスの労
働組合といった 70 年代まで持たれていたイメージはどこにもない。
もちろん、これはサッチャー政策だけの力ではない。世界的に先進国では労働組合は弱
体化していたからである。その理由は産業構造の変化で、労働組合加入に熱心でない、組
合活動に関心を持たない人々が増えたからである。すなわち、製造業をはじめとする肉体
労働者の減少、第三次産業の発展、女子雇用の増大、パートタイム労働者の増大小企業の
増大、これらは、いずれも労働組合に関心を持たない人の増大を意味している。
やはり、サッチャー政策が効果を上げたもっとも大きな政策の一つがこの労働組合の問題であった。労組が弱体化したからこそ、安心して外国資本がイギリスへ大挙入ってきた
のであり、この外国資本がイギリスを支えたのである。
サッチャー政策においては、効果的な経済活性化政策はなかった。イギリスの国際経済
への完全な統合を促進し、その中で競争に生き残れる産業だけが生き残っていけばいいと
いう産業戦略であった。
こうした中で製造業生産はその前のピークである 1973 年水準をようやく 1988 年に超え
たに過ぎないという程度にまで縮小したのである。先進国で 16 年前の製造業生産量と変わ
らないという国はほかにはない。確かに製造業の生産は 82〜88 年の間に年平均 5.5%の
上昇を示した。しかしこれは、非能率企業がつぶれたり、省力化の推進といった減量経営
が効果をあげたのである。積極的設備投資を行って高い生産力の下で、どれだけ新生産力
を作り出しているかが問題なのである。


1972→1991 の国内シェア

イギリスの工作機メーカー 70%→40%
靴 69%→30%
衣服 79%→56%
洗濯機 82%→49%


多国籍企業の進出
製造業生産 25%
資本支出 30%
輸出 40%
乗用車・テレビ
バイク・半導体 100%


サッチャー政権以来の民活・民営化路線の裏側でイギリスの製造業の空洞化が進んだ。
上の表のとおり、1971 年から 91 年の 20 年間でイギリス工作機メーカーの国内シェアは
70%から 40%に転落した。同様に靴が 69%から 30%に、衣服が 79%から 56%に、洗濯機
が 82%から 49%に落ちた。イギリスでは製造業を衰退させることによって、やはり将来の
発展基盤を失っているのではないだろうか。
一方で、イギリスをヨーロッパ市場向けの組み立て基地として利用する、日本をはじめ
とした他の先進国の多国籍企業の進出が続いた。結果、外国企業はイギリスの製造業生産
の 25%、資本支出の 30%、輸出の 40%を占めている。そして乗用車生産、カラーテレビ、
オートバイ、半導体は 100%外国資本の所有であり、化学産業も 3 分の1が外国人所有であ
る。
確かに、この外国資本はイギリスの製造業の衰退を補った。もし、外国資本の進出がな
かったら、イギリス経済がどうなっているかを考えるだけでその重要性がわかる。しかし、
イギリスへの外国資本の進出は、イギリスが進出の条件としてより有利だったからとか、
あるいは多国籍企業の単なる相互浸透の問題とかいって済まされないものを含んでいる。
自動車部品やコンピューターのICL社にみられるように、最も重要な部門が外国資本の
支配に服していっているが、そうした分野では研究開発はイギリスでは行われない。総体
として今後イギリスは製造業リードを外国資本に任せることになり、ヨーロッパの辺境経
済化するであろうと思われる。


3.民営化
民営化というのは以前からあったし、問題にもなってきたが、サッチャー政権下で始ま
り、その影響が世界にも広がったような意味での「民営化」は初めてであった。しかし、
民営化という概念は国際多様性を持っていて、その国、その時代によって民営化の意味す
るものが異なる。イギリスでも論者によって異なるのであるが、主に次の3つの形態に集
約できると思う。

@非国有化
これまで政府が保有してきた資産や株式を売却すること。

A自由化
それまで活動が国有企業に限定されていた部門に私企業の参入を許すこと。

B請負制
公共的サービス部門を請負契約によって民間企業に請け負わせるものである。実現した
ものはナショナル・ヘルス・サービスだけで具体的には清掃、給食、洗濯といったもので
ある。

自由化も、実現されたものはバス、郵便、通信などに過ぎず、サッチャー政権下の民営
化政策の中心は非国有化におかれていた。
さて、民営化は、サッチャー政権の中で最も成功したものとされている。しかし、決し
て最初から中心的課題として取り上げられてはいなかった。1979 年選挙綱領でも長期的目
的で国家所有を後退させ、社会における所有の基礎を広げることが漠然と宣言されている
だけで、具体的には、造船、航空機産業と陸送のナショナル・フレイトの売却が謳われて
いるのみであった。これは、それまでの影の内閣では民営化の使命的熱意は必ずしも広く
分け持たれておらず、そこで、サッチャー派、すなわちドライ派は全党的な統一を保つた
め妥協せねばならなかったからである。さらに、1983 年の選挙でさえ必ずしも重要な問題
としては取り上げられてはいなかった。今日でさえ、イギリス政府や保守党から、民営化
についての明確な記載物は出ていないのである。そこで民営化の分析は、大臣演説や種々
の内容説明書、報告などからなされている。実際のところ、イギリス政府は、民営化をや
っているうちに、実践の中でその技術を発展させたということである。イギリスの民営化
は、政策思想の上で勝利したから実施されたというものではなかった。実際にやっていた
らうまくいったので、政府はそれを拡大していったというようなものである。
サッチャー政府が意図的にはっきりと民営化を始めるのは 1984 年からである。表 1 に見
るように 1983 年までは、年間国有企業売却代金は 5 億£以下と少量であった。そして、い
かに劇的に 84 年から売却代金が増えたかをより明確に示したのが図1である。そして、こ
の売却代金がPSBR(公共借入)の返済にいかに用いられたか、図1と図2を重ねてみ
るとよくわかる。1987 年から 88 年ではPSBRはマイナスにさえなっているのである。


表1

図1 民営化売却代金

表 1 イギリスの民営化売却代金

図 1 民営化売却代金(1979〜92 年)


図 2 公共部門借入れ(1979 年〜92 年)

ともかく、国有企業売却は 84 年から劇的に増加し、1987 年の選挙のときまでには 50 億
£と 80 年代初めの時期の 10 倍に達しているのである。サッチャー政府は 79〜83 年までは
選挙への影響を恐れていたのだが、84 年の第二期政権からは自信を持ち、民営化に対する
考え方を完全に変えたのである。
さて、民営化はさまざまな理由のために行われてきたのであるが、その理由の中には矛
盾するものさえ含んでいる。民営化の利益としてあげられたものは、効率を上げ、競争を
増進する、株式所有者を拡大する、労働組合の影響力を低下させる、従業員の働く意欲を
増大させる、経営への政府介入を低下させる、政府資金に代えて市場金融にする、民営化
の際の株式売却代金で公共部門の借入れを引き下げることによって税金を引き下げる、と
いうものであった。
整理すると、第一に、民営化によって効率を増進し、競争を拡大するということである。
実際に国有企業は政府の政治的理由によって採算を無視した介入を受け、効率的な運営を
阻害されてきた。これを、自由化によって自由な企業活動を行わせることによって効率を
増進させる。また、自由化によって新規の企業が参入し、これによって競争が増進される。
いずれにせよ、政府は競争の増進を民営化の最大の目的としている。
第二に、労働組合の力を低下させるということである。これには、株式を売り出す際、
株主を奨励するとともに、従業員に株主を保有させるという方法が取られた。また、公営
住宅の売却により、持ち家政策を実施することもこれに含まれるものである。いわゆる大
衆参加の資本主義である。これらによって所有意識と参加意識を持たせることで、労働者
を保守化させ、労働組合の闘争力を低下させようとしたのであった。
第三に、民営化によって政府収入の増大と政府支出の削減がはかるということである。
まず株式の売却による収入の増大である。さらに民営化によって国有企業への補助金支出
が削減できる。これには公営住宅に支出されていた補助金も含まれる。また自助を提唱す
ることによって福祉費の削減がはかられている。これには、医療・教育などの民営化が含
まれる。


おわりに
さて、最後はサッチャーの経済政策に対する評価についてである。
サッチャー政権下における経済政策と、イギリス経済のパフォーマンスに対する批判的
な評価の多くは、それがもたらした高い失業率に注目している。おまけに「イギリスの製
造業を破壊した」などと、名目でも実質でも支出は増えているにもかかわらず、「福祉国家
を目の敵にした」という批判が繰り返されている。しかしながら、イギリスが抱える根の
深い長期的な問題に焦点をあわせると、次のような見方も可能である。
低生産性、低効率、高インフレといった形で、どのようなコストがふりかかろうとも完
全雇用を維持するという従来のやり方をサッチャー政権が拒否したこと、資源の面でどんなに高くつこうとも福祉国家を維持するというやり方を拒否したこと、不況地域の雇用を
維持するため衰退産業を維持するというやり方を拒否したことなど、いずれもそれ自体と
しては、誤った政策だとか政策が失敗した証拠だとかを決めつけることはできない。それ
どころか、それらはイギリスの長期的な経済問題にようやく手がつけられたことを示して
いるのかもしれない。実際、このような考え方に焦点を当てた発言としては、次のキャラ
ハン氏(1976 年に労働党政権の首相になった)のスピーチ以上に適切なものはない。
「我々は、長い間、多分第二次体制以降、我々の社会と我々の経済に関する根本的な選択
と変革の問題を避けて通ってきた。我々は借り物の時代を生きている、と私が言うのはそ
のことを指している。この国は、非常に長い期間、イギリス産業の基本的な問題に取り組
む代わりに、我々の生活水準を維持するために外国から金を借りて満足してきた。
我々は減税や政府支出を増やすことで景気後退から抜け出せると考えていた。
非常に率直に言わせてもらうと、そのような選択肢はもはや存在しない。それがかつて
は存在したとしても、戦後においては、毎回経済により大幅なインフレを注入することに
よって可能となっていたにすぎない。その結果、より高い失業率がもたらされた。インフ
レの加速が失業率の増加につながったのである。我々はこの国が経験した最悪のインフレ
からようやく抜け出すことができた。しかし、我々は、まだその後遺症である失業から抜
け出せていない。これが過去 20 年間の歴史である。」(James Callaghan, Time and Chance,
Collins, London, 1987 より)

したがって、この観点から考えると、サッチャーの政策が本当の意味で成功したか否か
は、それが完全雇用という戦後の目標を固守したかどうかではなく、イギリスの経済の長
期的なパフォーマンスの改善をもたらしたかどうか、あるいは少なくともそのための環境
を整えたかどうかで判断されるべきである。こうした問題は根が深いので、簡単に変わる
とは思えないが、最近では実際に変化の兆しがうかがえる。とくにイギリス鉱工業生産性
が大きく改善したことは、本当に必要だった変化が起きたことを示すものであり、先行き
は明るいといえる。
1970 年代末にイギリス経済が抱えていた大きな問題を考えると、政府が短期的な視点か
らの総需要管理政策を放棄し、経済の供給面の改善に力を集中したことは正しい。
政権の最初の 18 ヶ月間における財政政策と、特に金融政策は、意図せざる結果とはいえ、
過度に抑制的であり、そのため実質為替レートの上昇を招いたが、経済に対する影響はそ
れほど悪いものではなかった。長期的にはむしろプラス効果が大きかったといえるかもし
れない。
産業に対し生産性の向上とコスト削減を迫る圧力は、大幅に過剰雇用を吐き出させ、漸
進的な方法では生じ得なかったような大規模なパフォーマンスの改善の舞台を提供した。
これは、大量の失業者がもたらした深刻な社会的コストを否定しようというものではなく、1970 年代のイギリスの産業の多くが危険な状態にあったことを考えると、改善しようとす
ると大きな社会的コストが避けられなかったのではないかと思われる。
最初の税制改革−例えば所得税の最高税率の大幅な引き下げ−は方向としては正しいが、
公平や効率の観点から言えば、様々の役得やほかの個人税の減税措置も同時に削減するべ
きであった。限界税率の引き下げは十分な根拠があったが、平均税率の引き下げはそれほ
ど急ぐ必要はなかった。
製造業の生産が 1979 年以降増えていないこと、イギリスの製品貿易が歴史上初めて赤字
になったこと、失業者が大幅に増加したこと、を強調する反対意見のすべては、表面的に
は理解できる。しかし、これらの反対意見の第一の見方は、政府の政策のうちの最初の二
年を重視しすぎており、1981 年以降の持続的なパフォーマンスの改善を軽視している。第
二の見方は、石油の実質価格が大幅に上昇した時期に、イギリスが歴史上初めて大規模な
石油の純輸出国になったこと(イギリスはかつて食糧の 50%以上を輸入していたが、それ
がわずか 30%に低下したことも注目に値する)から、製品貿易の収支をかつてと同じ水準
に維持するのが不可能になったことを完全に見落としている。しかし、失業に関しては明
らかに受け入れがたいので、しんこくに受け止めなければならない。ただ、失業はほとん
どの先進国で大幅に増加したことに注目する必要がある。いくつかの国はイギリスとほと
んど変わらない深刻な状況にある。このことはイギリスの国内政策が唯一の要因ではない
ことを示している。
失業問題と関連があるのは、イギリスの労働力の大部分が技能と訓練が不十分な点であ
る。そして政府がイギリスの長期の産業問題の研究開発の側面とともに、この側面に対し
て対応するのが遅れたことは批判されても仕方がない。失業は短期的には最も緊急な課題
であり、政府は特別の対策を打ち出す必要がある。それを前提として、経済の供給面のパ
フォーマンスを改善する政策を続ける必要がある。
最も重要なのは、教育制度と個人税制の構造の改革である。短期の小幅の総需要管理政
策を避けるのは無理かもしれないが、1960〜70 年代のような大規模な政策に戻ることは不
必要であり、かつ歓迎もされていない。幸いにも 1987 年 6 月の選挙において、イギリス国
民はこうした見解を支持したようである。そして、サッチャーの市場主義と規制緩和の効
果は、むしろ 93 年以降になって顕著に現れたと考えられる。しかし、最高所得税を 83%か
ら 40%にも切り下げ、市場主義と規制緩和でやっていくというサッチャー流の政策は、当
然貧富の差が拡大する。中以下の層のところでは忿懣が充満していた。これが 97 年に労働
党を大勝利させた大きな要因であった。つまり、サッチャー政策はいつまでもそのままで
やっていける政策ではなかった。1980 年代のイギリスに必要な政策であったといえるので
ある。


参考文献

浜矩子『最新 EU 経済入門』日本評論社、1995 年。
内田勝敏、清水貞俊『EC 経済論』ミネルヴァ書房、1993 年。
相沢幸悦『EC 通貨統合の展望』同文舘、1992 年。
岸上慎太郎、藤原豊司『1992 年・EC 読本』東洋経済新報社、1992 年。
上田克巳『欧州単一通貨 ユーロ』日本経済新聞社、1998 年。
星野郁『ユーロで変革進むEU経済と市場』東洋経済新報社、1998 年。
中村靖『イギリスとEU』産業経済研究、1998 年。
中島精也『EU通貨統合をめぐる最新の情勢』世界経済評論、1998 年。
小林襄治『EU 通貨統合とイギリス』世界経済評論、1998 年。
内田勝敏『ヨーロッパ経済とイギリス』東洋経済新報社、1969 年。
中村靖志『現代のイギリス経済』九州大学出版会、1999 年。
ジェフリー・メイナード『サッチャーの経済革命』日本経済新聞社、1989 年。
内田勝敏『イギリス経済』世界思想社、1989 年。

http://www.ritsumei.ac.jp/~yamai/7KISEI/iwasaki.pdf

8. 中川隆[-7710] koaQ7Jey 2021年2月05日 09:30:28 : rbwCQpuSgs : eEc0YkNkUVZqY0E=[3] 報告
「資本主義の危機」を見抜いた宇沢弘文の慧眼
資本主義の転機 日本と世界は変えられる
佐々木 実 (ジャーナリスト)
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/21998

【宇沢弘文(Hirofumi Uzawa)】
1928年鳥取県生まれ。経済学者。東京大学理学部数学科卒。スタンフォード大学、シカゴ大学、東京大学などで教鞭をとる。「日本人で最もノーベル経済学賞に近い」と呼ばれた。97年に文化勲章受章。2014年に他界。 (TOYOKEIZAI/AFLO)
 新型コロナウイルス感染症はあたりまえの日常を揺るがし、時代思潮を変えつつある。欧州知識人を代表するジャック・アタリはいち早く警鐘を鳴らした。

 「危機が示したのは、命を守る分野の経済価値の高さだ。健康、食品、衛生、デジタル、物流、クリーンエネルギー、教育、文化、研究などが該当する。これらを合計すると、各国の国内総生産(GDP)の5〜6割を占めるが、危機を機に割合を高めるべきだ」(『日本経済新聞』2020年4月9日付)

 ダボス会議の生みの親で世界経済フォーラム会長のクラウス・シュワブも「グレート・リセット」の必要を説いている。

 「コロナ危機をきっかけに、世界をより持続可能で強靭、包摂的にする『グレート・リセット』が必要です。株主だけでなく社会に配慮した経済を再定義しなければ」(『朝日新聞』20年10月10日付)

 ふたりの論者に共通するのは、コロナ危機を「資本主義の危機」と捉える視点である。

 新型コロナはグローバル経済を象徴する災厄ともいえる。国境を跨ぐ人の往来は感染を拡大させ、野生動物由来の感染症は自然を侵蝕し続ける経済活動への警鐘とも受け取れる。だが一方で、新型コロナの発生前から、資本主義のあり方を見直す機運が高まっていたことも確かである。

 米国の経営者団体ビジネス・ラウンドテーブルは19年に株主資本主義からの転換を宣言、翌年1月にはダボス会議で「ステークホルダー資本主義(株主だけでなく、従業員や顧客、地域などの利害関係者に配慮した経済)」が論じられもした。

 市場経済システムを万能とみなす市場原理主義的な思想と行動は、世界金融危機を招いたリーマン・ショック(08年)、深刻さを増す地球温暖化や格差問題に直面して、根本的見直しを迫られていた。そんなとき世界を新型コロナが襲い、時代思潮の転換は決定的となったのである。

 資本主義の見直しという方向性は、国連が15年から掲げている「SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)」に集約されるだろう。社会に持続可能性や安定性をもたらす経済システムへの変革が急がれている。

 私が伝えたいのは、国連がSDGsを唱えるより50年近くも前に「社会的共通資本(Social Common Capital)」の概念を着想し、持続的な経済発展を可能にする制度の究明に生涯を捧げた日本人が存在した事実だ。1928年(昭和3年)に鳥取県米子市に生まれ、14年(平成26年)に86歳で世を去った、経済学者の宇沢弘文である。

経済学界の中枢から突如として離脱する

 東京大学の数学科を最優秀の成績で卒業して大学院に進学した宇沢は、敗戦直後の混乱の中でマルクス経済学と出会い、経済学者への転身を決意した。マルクス主義にはなじめなかったものの、新古典派経済学の数理経済学に触れるとたちまち才能を開花させる。20世紀を代表する理論経済学者であるケネス・アローに論文を送ったところ、スタンフォード大学に招かれたのである。

 28歳で渡米してアローのもとで研究を始めると、ロバート・ソローやポール・サミュエルソン、ジェームズ・トービンなどから高く評価された。名を挙げた経済学者がすべてノーベル経済学賞受賞者であることからもわかるとおり、経済学界の中枢メンバーに迎え入れられたのだった。

 「数理経済学の最先端で活躍して、あそこまで尊敬された経済学者は日本人では後にも先にも宇沢さん以外にはいない」

 スタンフォード大学教授などを務めた青木昌彦は米国での評価をそう語っていたが、実際、スタンフォード大学准教授をへて弱冠35歳でシカゴ大学教授に就任した宇沢は、若手理論家の中で1、2を争う存在だった。

 ところが、名声が高まっていた1968年(昭和43年)、不惑を迎える年に宇沢は米国を去る。東京大学への突然の移籍は米国の経済学者たちを驚かせた。謎めいた帰国だったが、あえていえば、「アメリカ社会」「アメリカ経済学」との決別だった。

 ケネディ政権が始めたベトナム戦争は、ジョンソン政権で泥沼化した。17歳で敗戦を体験した宇沢は覇権国・米国がベトナムに政治介入することに早くから批判的で、シカゴ大学では反戦運動に熱心に参加した。

 学問面では、シカゴ大学の同僚ミルトン・フリードマンとしばしば議論を闘わせた。シカゴ学派の頭領にして市場原理主義の教祖的存在だ。もっとも、宇沢はサミュエルソンらアメリカ・ケインジアンにも重大な理論的欠陥があるとみなしていた(当時はケインジアンが優勢だった)。もはや戦時下の米国に留まる理由を見出せなかったのである。

 帰国してからの宇沢は、まるで別人だった。高度経済成長の歪みとして現れた水俣病に代表される公害問題、地域開発にともなう環境破壊を研究対象に据え、現場に足しげく通うようになった。

 画期となる『自動車の社会的費用』(74年、岩波新書)刊行後、現場主義はより徹底していく。90年代に入ると、成田空港建設をめぐって農民が政府と激しく衝突した三里塚闘争の和解を仲裁するなかで、農業を社会的共通資本と捉えたコモンズ論を「三里塚農社の構想」にまとめあげ、同じころ、つまり30年前に地球温暖化の研究も始めている。

 現実との格闘から、社会的共通資本の経済学は生まれた。米国時代の「世界的名声を博した数理経済学者」が〈前期宇沢〉なら、〈後期宇沢〉は「社会的共通資本の提唱者」である。コロナ危機のいま、注目すべきはむしろ〈後期宇沢〉だ。

〈社会的共通資本は、一つの国ないし特定の地域に住むすべての人々が、ゆたかな経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を持続的、安定的に維持することを可能とするような社会的装置を意味する〉(『社会的共通資本』00年、岩波新書)

 宇沢は社会的共通資本の構成要素として@自然環境(大気、森林、河川、土壌など)A社会的インフラストラクチャー(道路、交通機関、上下水道、電力・ガスなど)B制度資本(教育、医療、金融、司法など)を挙げている。

主流派(新古典派)経済学はあたかも「社会=市場」であるかのように仮定し、もっぱら市場均衡のメカニズムを分析する。対照的に、宇沢は市場経済を支える「土台」に光を当てた。市場システムが「ゆたかな社会」を実現するためには社会的共通資本という非市場領域の安定が不可欠である(「社会=市場+非市場」)ことを理論として提示したのである。

 宇沢経済学は、一人ひとりが市民の基本的権利を享受できることが市場経済の大前提であることを強調して止まない。社会的共通資本を市場原理に委ねてならないのはそのためだ。もう一つの特質は、人間と自然の関係をも射程に入れていることだ。〈後期宇沢〉は必然的に、かつて自らも貢献した主流派経済学を激しく批判せざるをえなくなった。

なぜ現在の危機を見透かした
経済学を構築できたのか
 ノーベル経済学賞受賞者のジョセフ・スティグリッツは宇沢の教え子で、宇沢をとても尊敬している。彼にインタビューした際、興味深い証言をした。フリードマンらが台頭し、経済学界を市場原理主義が席巻するようになった70年代半ばからリーマン・ショックまでを「Bad Period(悪い時代)」と呼んだうえで、スティグリッツは宇沢についてこんな解説をした。

 「この時期、経済学界ではヒロ(宇沢の愛称)が常に強い関心を寄せていた不平等≠竍不均衡≠竍市場の外部性≠フ問題はあまり注目されることがありませんでした。経済学の主流派はみんな市場万能論≠ノ染まってましたから。ヒロが成し遂げた功績にふさわしい注目を集めなかった理由は、意外に単純です。つまり、『危機など決して起こるはずがない』と信じ込んでいる楽観的な経済学者たちの輪の中に、ヒロが決して入ろうとしなかったからなのですよ」

 なぜ予言者のごとく、現在の危機を見透かしたかのような経済学を構築しえたのか。スティグリッツはその謎を解くヒントを与えている。

 社会に深く市場原理が浸透したことで噴き出した問題がことごとく宇沢経済学のターゲットとなっているのは偶然ではない。自由放任を旨とする市場原理主義が招いた格差社会、「大気」を社会的共通資本として扱わないがゆえに深刻化した地球温暖化、「医療」を社会的共通資本として扱ってこなかったがゆえにコロナ危機は医療危機に直結してしまっている。

 新型コロナの危機に見舞われて初めて、われわれは「前期」でも「後期」でもない、宇沢弘文の全貌をとらえることができるようになった。社会的共通資本の経済学は危機の時代にこそ、光を放つ。私にはその光が、歩むべき道を照らしているように見える(文中敬称略)。

9. 中川隆[-16841] koaQ7Jey 2021年8月26日 14:09:46 : mEksVkJcjY : dlpkRWozUkJSZHM=[21] 報告
フリードリヒ・ハイエクの呪い。強欲な強者が弱者を徹底的に収奪する世界 │ ダークネス:鈴木傾城
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10. 中川隆[-15960] koaQ7Jey 2021年10月19日 09:38:34 : NSadpLBCCE : REV6MjFxMWtja2s=[10] 報告
平井宏治 M&Aファンドが儲ける仕組み

【討論】米中欧と日本の危機[桜R3/10/18]




◆米中欧と日本の危機

パネリスト:
 川口マーン恵美(作家) ※スカイプ出演
 古森義久(産経新聞ワシントン駐在客員特派員・麗澤大学特別教授)
 島田洋一(福井県立大学教授) ※スカイプ出演
 石平(評論家) ※スカイプ出演
 平井宏治(株式会社アシスト代表取締役)
 室伏謙一(室伏政策研究室代表・政策コンサルタント)
 山岡鉄秀(情報戦略アナリスト・令和専攻塾塾頭)
司会:水島総
11. 中川隆[-15934] koaQ7Jey 2021年10月20日 15:07:32 : OX4jKTRbWY : Z0pnZmFPeUdaL0E=[12] 報告
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12. 中川隆[-15821] koaQ7Jey 2021年10月26日 00:27:18 : TB9yu1cbVQ : TGVnMUt0dC5KQXc=[49] 報告
【東京ホンマもん教室】10月9日 放送 
ゲスト:柴山桂太(対談テーマ:断末魔の叫びをあげる新自由主義 前編)
2021/10/09





【東京ホンマもん教室】10月23日 放送
ゲスト:柴山桂太(対談テーマ:断末魔の叫びをあげる新自由主義 後編)
2021/10/23


13. 2022年8月31日 06:50:01 : ZJ2pv2wnqE : VFI0NmlBVmlkUGc=[1] 報告
ハイエクの警鐘と日本の蹉跌
三輪晴治(エアノス・ジャパン 代表取締役)
2021.01.25
http://www.world-economic-review.jp/impact/article2023.html

ハイエクの教え
 ハイエクの「自由主義」という概念は「反合理主義」である。ハイエクは,「効率」という「合理主義」では人間の社会は旨く行かないと言った。人間の小賢しい効率主義は人間社会を破壊してしまう。ハイエクが「合理主義」や「効率」を警戒するのは,合理主義で社会を変えようとすると,複雑な人間社会を成り立たせている無数のルール,慣行,文化,倫理,道徳,風土の絡み合いを壊してしまうからである。人間社会は長い歴史になかで生まれたいろいろのルール,慣習,文化,倫理,風土が存在し,そのなかで進化するものである。合理主義によりその社会の秩序,慣習,ルール,文化,倫理が壊されると「全体主義」になるとハイエクは警告していた。マルクス主義や全体主義者は,人間の頭で,計画経済で理想的な経済社会をつくるとしたが,それはできなかった。

 アダム・スミスも,同じような警告をしていた。人間の社会の存続は,正義,誠実,貞操,忠誠の義務を守ることによって可能になる。スミスは,共感に基づく個人の倫理的選択と国益の名のもとになされる国民への道徳の要請が衝突した場合,ためらわずに後者が優先されるとした。良き意図さえあればいかなる人間の行為は倫理的に是認されるということではない。行為の結果次第では意図した倫理的判断を補正する必要がある。

 サッチャーはあるところで,市場原理主義の「グローバル化」はハイエクの本から学んだと言っていたが,ハイエクの教えを読み違えていたのだ。サッチャーは「社会などありはしない,あるのは個人だけだ」と言った。サッチャーは「イギリス病」を克服しようとして「グローバル化」に走り,イギリス経済を更に悪くした。アメリカのレーガン大統領は,ミルトン・フリードマンに「新自由主義」を吹き込まれた。フリードマンは,「新自由主義」により富裕層が増えれば「トリクルダウン」(富が国民大衆にも流れてくる)が起こると言ったが,トリクルダウンは実際には起こらなかった。富の格差が広がっただけだった。

 「合理性」と「効率」で押しすすめた「構造改革」は,ことごとく失敗した。橋本内閣の構造改革は失敗し,小泉の郵政民営化も失敗だった。人間社会の習慣,慣行,風土,文化という無数のルールを無視し,破壊すると,経済社会はおかしくなる。歴史を経た人間社会の慣行,習慣,風土といういろいろのルールを考慮に入れなければならない。単純に効率,合理性で社会を改革しようとすると失敗する。「コストカッター」と呼ばれた日産のゴーンは,効率,合理性だけで日産を動かし,日産を駄目にしてしまった。

 「グローバリズム」「市場原理主義」は目先利益を追求で動き,イノベーション投資はしない。「資本主義経済主義」は先のための投資をして,経済活動を拡大発展させるものである。つまり「市場原理主義」でも「保護原理主義」ではない,「資本主義的経済活動」をしなければならない,これをハイエクは教えていた。

 シュンペーターは「家族」というものを重要視していた。自分の寿命より先のことを考えるものとして子供や孫という存在がある。将来に対しての投資はそこから出る。グローバル化で核家族や家族を解体していくと資本主義は死ぬと言った。

 今日の日本は,二宮尊徳の言葉「経済なき道徳は戯言であり,道徳なき経済は犯罪である」という状態にある。今の政府は犯罪を犯していると二宮尊徳は言う。

アメリカの日本に対する「サイレント・インベージョン」
 アメリカがグローバル戦略で,戦後すぐ日本を攻撃したのは,日本の食習慣を変え,アメリカの小麦と牛肉と大豆を日本に押し込んだことである。それで日本の麦作農業も稲作農業も大豆農業も衰退させた。アメリカのモンサント社の種子と農薬を日本に押し込み,アメリカは日本の農業に必要な種子と農薬を握ってしまった。輸入農薬の規制緩和をさせ,アメリカは日本にアメリカの農薬を売る。日本に輸入されている小麦の70%がこのグリホサート農薬が含まれている。ヨーロッパはこの農薬を使用禁止にしている。

 アメリカはハゲタカファンドを日本に入れて,日本の資産をどんどん収奪している。アメリカ政府は,「司法省産業」で,いろいろの言いがかりをつけて,他国から金を巻き上げる。トヨタやタカタなどの日本産業から膨大な金を巻き上げ,日本企業から談合嫌疑で,罰金を取っている。IMFを使ったり,国連を使ったり,通商条約スーパー301条を使ったり,「ワシントン・コンセンサス」で日本にいろいろの制裁をかけている。

 1966年アメリカは日本にアメリカのために国債を発行せよと強要した。そして日本には金融商品を作ることを禁じ,アメリカの金融商品のブローカーになることを強要した。こうしてアメリカは日本を金融でコントロールしている。

 日米半導体貿易交渉で,アメリカは,アメリカ製の半導体を日本に無理やり押し込んだが,アメリカ半導体の品質が悪く,最終的には押し込めなかった。だがアメリカも日本も半導体産業を潰してしまった。今アメリカは大型ギャンブルビジネスを日本に押し込もうとしている。

 アメリカは,日本人のアメリカ留学組を育て,「引き込み屋」として使い,日本に「新自由主義」「グローバル化」を押し付けてきた。アメリカでMBAを取った日本人がアメリカの「コーポレートガバナンス」を押し付けて,日本企業を弱体化し,「日本的経営」を壊してしまった。アメリカ国際金融資本の引き込み屋という日本人の手先がいる。これがアメリカの金融資本が日本の富を収奪するのを手引きしている。

 トランプが反対していたものを,日本はグローバル化という「TPP」を更に進め,「関税の撤廃」,「関税手続きの簡素化」,「サービス業の自由な活動」をして,輸出を伸ばそうとしている。しかし,これは相手国の市場を取ることであり,輸出ドライブをかけることであるので,又国際紛争が起こる。世界的な経済の長期停滞の今は,輸出ドライブをかけるのではなく,各国が内需を拡大することに努力しなければならない。

利権屋というレントシーカーの群れ
 安倍内閣は,国の財産,税金をかすめ取る「レントシーカー」(国の規制を変更させて,国の財産・税金を奪い取るもの)をたくさん作ってしまった(森友学園,加計学園のように)。国の政治のなかでは,国家の財産,税金を横取りする「レントシーカー」が出てくる。白アリのようなものか,コヨーテのような獰猛なものか,いろいろ形を変えて現れてくる。

 「持続化給付金」に食らいついた「デザインサービス協議会」,「電通」,「パソナ」などの「中抜きグループ」が現れた。「GoToキャンペーン」,「GoToイートキャンペーン」には「ツーリズム産業共同指定体」,「全国旅行業協会」などが入ってきている。「大学入試改革委員会」にTOEFL,IELTS,ベネッセなどのレントシンカーが入っている。問題は,政府や官僚がレントシーカーとグルになり,カネを山分けすることである。東日本大震災の復興事業にも大手ゼネコンなどのレントシーカーが食い入り,下請け業者に裏金を作らせ,ゼネコン幹部に現金提供し,それが政治献金にもなった。

 「未来投資審議会」,「有識者会議」,「規制緩和会議」,「公務員制度改革委員会」などに「レントシーカー」が入り込んで,政府の規制を変えさせて,そこで金をむしり取る。こうした会議には,利害関係のない中立の識者が入らなければならない。「政府のコストを下げさせてあげますよ」と提案し,公務員の人員を削減させ,その仕事を丸ごと請け負って儲ける。「なんでも民営化」で公共事業・サービスを外国企業に売り渡すための「引き込み屋」がいる。これも外国企業からその分け前をもらう。

 イギリスのサッチャーは,グローバル化で規制を撤廃して「利益団体」というレントシーカーを退治し,中国の習近平は,国から金をくすねた者を摘発し,投獄した。しかし日本政府はどんどんレントシーカーを育てている。日本ではレントシーカーから分け前を獲る「奉行所」の悪役人がいるようだ。

http://www.world-economic-review.jp/impact/article2023.html

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