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[ペンネーム登録待ち板7] ビッグデータが明らかにした、男女をめぐる残酷な現実[橘玲の日々刻々]
〔阿修羅掲示板の投稿規定2011.09.12版〕を三回読み終えました


http://diamond.jp/articles/-/134859
2017年7月10日

ビッグデータが明らかにした、男女をめぐる残酷な現実[橘玲の日々刻々]
 ビッグデータはときに不都合な事実を突きつけることがあります。

 アメリカの出会い系サイト「OKキューピッド」のサイトには年間1000万人が出会いを求めて集まってきて、1日3万組がはじめてのデートをし、3000組がつき合いを継続させ、200組が結婚します。そんな彼らが提供した膨大なデータを(プライバシーに配慮したうえで)解析すると、男と女のむずかしい関係が明らかになります。

 女性にとって魅力的な男性の年齢は、20代のときは自分よりすこし年上で、30代からはすこし年下になりますが、50歳の女性の好みは46歳の男性でその差はわずかです。女性は、自分と同じような経験をしてきたパートナーを求めているのです。

 それに対して男性にとっての魅力的な女性はというと、(予想はつくものの)結果はかなり衝撃的です。

 20歳の男性は、20歳の女性とつき合いたいと思っています。そして30歳の男性も好みは20歳の女性、40歳の男性は21歳の女性、50歳の男性も求めているのは22歳の女性です。男性は、女性に「若さ」以外の価値はないと思っているかのようです。

 もちろんこれはただの願望で、この世にハーレムがないことくらい男性にもわかっています。

 そこで男性会員が実際にメッセージを送った女性の平均年齢を見ると、30歳の男性は25歳の女性に、40歳の男性は30歳の女性に、50歳の男性は40歳の女性にアプローチしています。実際に行動するときはすこし理性的になるようですが、それでも10歳若い女性でないと満足できないのです。魅力的な年齢が男女で大きく異なることが、出会いを難しくしています。

 アメリカ社会の大きな困難である人種についてもデータは正直です。

 男性がどの人種の女性を好むかを見ると、アジア系、ラテン系、白人の男性の多くは自分と同じ人種の女性とつき合いたいと思っています。特徴的なのは黒人男性で、アジア系やラテン系の女性よりも黒人女性を低く評価しているのです。

 一方、女性がどの人種の男性を好むかを調べると、黒人の女性は黒人の男性とつき合いたいと思っています。この結果は、アメリカにおける黒人女性の苦境を示しています。彼女たちは黒人のカレシを探していますが、黒人の男性は別の人種の女性に興味を持っています。さらに人種別の魅力度では、アジア系、ラテン系、白人の男性にとって、黒人女性の魅力は平均を25%も下回っています。黒人の女性が満足のいくパートナーを見つけるのはものすごく大変なのです。

 しかしこれは、日本人をはじめアジア系男性にとっても他人事ではありません。これも予想がつくでしょうが、アジア系の女性は、自分と同じ人種よりも白人男性とつき合いたいと思っているからです。

 ビッグデータが明らかにしたのは、アジア系の女性はすべての人種から満遍なく好かれるものの、アジア系の男性は好感度が低く、黒人、ラテン系、白人の女性からは相手にされないというきびしい現実です。アメリカのような多民族社会では、日本人の女の子はモテるけれど、男の子はそうでもない、ということのようです。

参考:クリスチャン・ラダー『ハーバード数学科のデータサイエンティストが明かす ビッグデータの残酷な現実』
『週刊プレイボーイ』2017年7月3日発売号に掲載

橘 玲(たちばな あきら)

作家。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ヒット。著書に『日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル』『橘玲の中国私論』(ダイヤモンド社)『「言ってはいけない?残酷すぎる真実』(新潮新書)など。ダイヤモンド社から新刊『幸福の「資本」論 -あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」』が発売中。

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ビッグデータが明らかにした、男女をめぐる残酷な現実 [橘玲の日々刻々][2017.07.10]
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http://www.asyura2.com/13/nametoroku7/msg/673.html

[ペンネーム登録待ち板7] ビッグデータが明らかにした、男女をめぐる残酷な現実[橘玲の日々刻々] 酢
2. [1] kHw 2017年7月18日 12:03:18 : tPo1a4fY0A : 7LPM3POXQX0[4]
〔阿修羅掲示板の投稿規定2011.09.12版〕を三回読み終えました
http://www.asyura2.com/13/nametoroku7/msg/673.html#c2
[国際20] トランプ米大統領、セッションズ司法長官指名を後悔=NYT 調査から外れると知っていたら司法長官に指名しなかった
World | 2017年 07月 20日 14:04 JST 関連トピックス: トップニュース
トランプ米大統領、セッションズ司法長官指名を後悔=NYT

[ワシントン 19日 ロイター] - トランプ米大統領は19日、米ニューヨーク・タイムズ(NYT)紙とのインタビューで、セッションズ司法長官がロシアによる米大統領選への干渉疑惑に関する調査から外れると知っていたら、司法長官に指名しなかった、と語った。

セッションズ氏は3月、ロシアによる昨年の大統領選への干渉があったかどうかに関する調査から外れると表明した。同氏は1月の司法長官指名承認公聴会で、昨年選挙戦中にキスリャク駐米ロシア大使と面会していたことを公表していなかった。

トランプ大統領は「セッションズ氏は調査から外れるべきでなかった。そうするつもりだったら、司法長官のポストを引き受ける前にそれを私に伝えるべきだった。それを知っていれば別の人を指名していた」と語った。

トランプ大統領はまた、ドイツ・ハンブルクで開催された20カ国・地域(G20)首脳会議の夕食会でのロシアのプーチン大統領との会話について、時間は15分ほどでほとんど社交辞令的な内容だった、と説明した。両首脳がG20夕食会で会話を交わしたことは18日まで公表されなかったことから、物議をかもしている。

米コンサルティング会社ユーラシアグループのイアン・ブレマー社長によると、両首脳の協議は1時間ほど続き、プーチン氏の通訳者だけが協議に参加したという。

*カテゴリーを追加します。

http://jp.reuters.com/article/usa-trump-russia-sessions-idJPKBN1A50BV
http://www.asyura2.com/17/kokusai20/msg/115.html

[経世済民122] 日銀:物価目標2%達成「19年度ごろ」に先送り、政策は現状維持 下振れリスク大きい ドル・円上昇
日銀:物価目標2%達成「19年度ごろ」に先送り、政策は現状維持
日高正裕、藤岡徹
2017年7月20日 12:27 JST 更新日時 2017年7月20日 13:46 JST

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ソフトバンクのビジョン・ファンド、米ロボット技術への128億円投資主導

物価見通しは17年度1.1%上昇、18年度1.5%上昇に下方修正
長期金利「0%程度」、短期金利「マイナス0.1%」をいずれも維持

日本銀行は20日の金融政策決定会合で、物価上昇2%達成時期を「2018年度ごろ」から「19年度ごろ」に先送りした。企業の賃金・価格設定スタンスがなお慎重なものにとどまっていることが背景。物価目標達成時期を先送りするのは昨年11月の会合以来となる。長短金利操作付き量的・質的金融緩和の枠組みによる金融調節方針は維持する。
  決定会合後に公表した経済・物価情勢の展望(展望リポート)によると、生鮮食品を除く消費者物価指数(コアCPI)前年比の新たな見通し(政策委員の中央値)は17年度が4月の1.4%上昇から1.1%上昇に、18年度は1.7%上昇から1.5%上昇に下方修正した。19年度は消費増税の影響を除くベースで1.9%上昇から1.8%上昇に引き下げた。新たな物価見通しも「下振れリスクの方が大きい」としている。
  足元の物価の弱めの動きを反映し、家計や企業の先行きの物価観を示す予想物価上昇率の高まりが「やや後ずれ」しており、物価が弱めの推移を続ければ、予想物価上昇率の高まりが「さらに遅れるリスクがある」という。公共料金や一部のサービス価格、家賃などは依然鈍い動きを続けており、「先行きも消費者物価上昇率の高まりを抑制する可能性がある」とも指摘した。
  みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミストは発表後のリポートで、2%の物価目標は「日本経済の実力や国民の物価観との対比で明らかに高すぎる」と指摘。同目標の早期実現を掲げた異次元緩和は「できないことを目指しているわけで、事実上『エンドレス』である」という。
  その上で、議長案に反対してきた佐藤健裕、木内登英両審議委員が今会合を最後に退任することで、「9 月開催の次回会合以降、金融政策を巡る議論が一層盛り上がりを欠き、形骸(がい)化する恐れがある」としている。

下振れリスク
  足元の景気は前回までの「緩やかな拡大に転じつつある」から「緩やかに拡大している」に判断を一歩進めた。先行きも「景気拡大が続く」としているが、経済の見通しは「海外経済の動向を中心に下振れリスクの方が大きい」としている。
  日銀は13年1月に2%の物価安定の目標を導入し金融緩和を続けてきたが、目標の達成はさらに遠のく。5月のコアCPI前年比は0.4%上昇とエネルギー価格の押し上げにより徐々にプラス幅を拡大しているが、生鮮食品とエネルギーを除くベースでは横ばいと低迷が続いている。
  東海東京調査センターの武藤弘明チーフエコノミストは発表前に行ったブルームバーグの調査で、黒田東彦総裁の退任後、日銀は「柔軟な物価目標に転換してくる可能性がある」と指摘した。
  金融調節方針は、誘導目標である長期金利(10年物国債金利)を「0%程度」、短期金利(日銀当座預金の一部に適用する政策金利)を「マイナス0.1%」といずれも据え置いた。長期国債買い入れ(保有残高の年間増加額)のめどである「約80兆円」も維持した。

ETF買い入れも据え置き
  指数連動型上場投資信託(ETF)、不動産投資信託(J−REIT)の買い入れ方針も据え置いた。前会合に続き木内、佐藤両審議委員が長短金利操作等の金融調節方針に反対した。
  会合結果の発表前は1ドル=111円台後半で取引されていたドル円相場は、発表後112円10銭と円安水準で推移している。黒田総裁は午後3時半に定例記者会見を行う。
  決定会合の「主な意見」は7月28日、「議事要旨」は9月26日に公表する。決定会合や金融経済月報などの予定は日銀がウェブサイトで公表している。
ブルームバーグの事前調査の結果はこちら
  ブルームバーグがエコノミスト43人を対象に7−12日に実施した調査では「安定的に2%を超える状態が将来的に実現するか」と聞いたところ、回答した42人のうち「はい」は16人にとどまり、26人が「いいえ」と答えた。2%目標の達成が長引いた場合、目標達成までマネタリーベースの拡大方針を継続する公約を見直すという見方もあった。
  金融政策については、全員が現状維持を予想していた。黒田総裁の任期中に長期金利の目標を引き上げるという予想は4人と、6月の前回調査から減少した。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-07-20/OT9ID46KLVR501


ドル・円が上昇、日銀が物価目標の達成時期先送り−112円台前半
酒井大輔
2017年7月20日 12:27 JST 更新日時 2017年7月20日 15:53 JST
 
ドル・円は日銀決定会合後、一時112円22銭まで上昇
緩和継続期待で他中銀とのコントラスト鮮明、円売り支え−NBC
 
東京外国為替市場ではドル・円相場が上昇。日本銀行の物価目標の達成時期見通しが先送りされたことを受け、ドル買い・円売りがやや優勢となった。
  20日午後3時48分現在のドル・円相場は前日比0.1%高の1ドル=112円07銭。日銀発表直前の111円98銭前後から一時112円22銭までドル高・円安に振れた。日銀はこの日の金融政策決定会合で、金融政策の現状維持を決定。同時に発表した「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)では、従来「2018年度ごろ」としていた2%の物価目標の達成時期について、「19年度ごろ」になる可能性が高いとした。
  円は主要10通貨のうち7通貨に対して前日の終値を下回っている。黒田東彦総裁は午後の記者会見で、景気の総括判断を一歩前進させたとした一方、価格設定スタンスはなお慎重で、中長期の物価上昇率の高まりはやや後ずれとの見解を示した。その上で、2%目標に向けモメンタムに力強さが欠けており、注意深く点検が必要とし、経済物価・金融を踏まえてモメンタム維持に必要な政策調整を行っていくと述べたが、為替相場の反応は限定的だった。

  
  NBCフィナンシャル・マーケッツ・アジアのデービッド・ルーディレクター(香港在勤)は「物価目標の達成時期の後ろ倒しを受けて、緩和継続でほかの中銀とのコントラストがクローズアップされやすく、ドル・円やクロス円の押し目は支えられやすいだろう」と語った。
豪ドル反落
  午前の取引でドルに対して2年2カ月ぶりの高値1豪ドル=0.7989ドルを付けた豪ドルは午後に入り弱含む展開となった。一時は、15年5月以来の0.8ドル台の手前まで上昇したものの、午後3時直前には0.7923ドルまで反落した。
  ソシエテ・ジェネラル銀行の鈴木恭輔為替資金営業部長は、豪ドルの支援材料について、「18日の豪準備銀行議事録で利下げ観測が大幅に後退したことに加え、アップトレンドにある鉄鉱石価格の状況」を挙げた上で、午前に発表のあった豪雇用統計が市場予想通りなら、大台を試す可能性があると指摘していた。
  6月の豪雇用統計では、正規雇用者が増加したほか、労働参加率は65.0%と市場予想の64.9%を上回った。半面、失業率は市場予想と同じ5.6%、雇用者全体の数は1万4000人増と予想を1000人下回った。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-07-20/OTDD6B6S972D01
http://www.asyura2.com/17/hasan122/msg/628.html

[エネルギ3] テスラのマスク氏、豪州の電力危機に介入−石炭巡る意見対立が鮮明化 Perry Williams、Jason Scott
テスラのマスク氏、豪州の電力危機に介入−石炭巡る意見対立が鮮明化
Perry Williams、Jason Scott
2017年7月20日 12:57 JST
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「石炭に長期的未来はない」とマスク氏がアデレードで発言
豪政府は電力料金の高騰抑制が政治的責任だと主張
米テスラの創業者、イーロン・マスク氏がオーストラリアの電力危機に介入していることで、石炭の将来を巡る意見の対立が広がっている。
  マスク氏は石炭に前途はないと考えている。これに対し、豪政府は引き続き石炭を発電に必要な主要資源だとして推進。また、トランプ米大統領も「クリーンで美しい石炭」技術によって、米鉱業界の雇用を救済できると考えている。

  マスク氏は今月の豪州訪問中にアデレードで記者団に対し、「石炭に長期的未来はない」と語った。
  マスク氏はサウスオーストラリア州で停電が頻発する電力網を支えるため、世界最大のリチウムイオン蓄電池システムを建設する計画を発表。これに対し、豪議員からは反発の声が上がっている。フライデンバーグ・エネルギー相は、同州がクリーンエネルギー導入がうまくいっていないことを隠すために著名人を利用していると批判した。
  ただ、豪州の大半の州はこうした見方に同調していない。マスク氏の発表から数時間後、サウスオーストラリア州に隣接するビクトリア州は新たな石炭火力発電所建設への道を閉ざす方針を示した。
  豪州のエネルギー政策は論争を呼んでいる。国民の過半数が再生可能エネルギー電力の導入拡大を支持しており、電力料金の高騰抑制が政治的責任だとする政府方針と対立。現在、豪州の電力源の約76%を石炭火力発電所が占める。石炭火力発電所は割安な電力供給源ではあるものの、温室効果ガス排出削減の取り組みにはマイナスとなる。
原題:Elon Musk Exposes Deep Coal Divide in Energy-Hit Australia (2)(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-07-20/OTBT3N6S972901
http://www.asyura2.com/16/eg3/msg/118.html

[政治・選挙・NHK229] 加計と稲田に厳しく蓮舫に甘い報道の「わかりやすい構図」 生活保護で大学に通うのは、いけないことなのか?
2017年7月21日 岸 博幸 :慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授
加計と稲田に厳しく蓮舫に甘い報道の「わかりやすい構図」


加計学園、稲田大臣、蓮舫氏など政治をめぐる重大な報道が相次いでいる。これらの報道において、メディアの追求の厳しさに差を感じるのはなぜか(写真はイメージです)
 今週は政治関連で色々な報道がありました。加計学園問題では日本獣医師会内部の議事録が流出し、防衛省では南スーダンPKOの日報の隠蔽に稲田大臣が関与した可能性を示す内部証言が出ました。一方で、民進党の蓮舫党首は二重国籍疑惑に関する会見を行ないました。

 それらの報道を見ていて、マスメディアの扱い方にすごく大きな差があるなあと改めて感じたので、そうした差が生じる理由を考えてみたいと思います。

加計問題・稲田大臣と蓮舫党首で
報道の厳しさに差があるのはなぜ?

 加計学園問題でのメディアの追求は、いまだに収まる気配なく続いています。どこかから内部文書が流出するというイベントが定期的に起きつつ、もう2ヵ月以上も続いています。

 同様に、稲田大臣に対するメディアの追求もずっと続いています。稲田大臣の場合は発言と行動が軽すぎて、自ら追求のネタをバラまいている感もあるので、自業自得ではありますが。しかし、野党は来週の予算委員会の閉会中審査で、加計学園問題のみならず稲田大臣も追求するつもりのようで、メディアも日報の隠蔽疑惑をかなり大きく報道しています。

 それと比べると、蓮舫氏の二重国籍疑惑についての報道は非常に軽いものでした。今週18日に記者会見がありましたが、マスメディアの報道はその日で収束しましたし、何よりその内容にすごく違和感を感じました。

 そもそも蓮舫氏の対応は明らかに国籍法違反です。国籍法第14、16条は以下のように定めています。

・20歳以降に外国及び日本の国籍を有することとなった時は、その時から2年以内にいずれかの国籍を選択しなければならない。

・日本の国籍の選択は、外国の国籍を離脱するか、日本の国籍の選択と外国の国籍を放棄する宣言(選択の宣言)によって行われる。

・選択の宣言をした国民は、外国の国籍の離脱に努めなければならない。

 記者会見によれば、蓮舫氏が選択の宣言を行ったのは昨年10月ですので、国籍法第14、16条違反に罰則はないとはいえ、それまでは国籍法違反の状態をずっと続けていたのです。

 かつ、蓮舫氏はその間に国会議員となりましたが、公職選挙法では次のように定められています。

・第235条/当選を得又は得させる目的をもって公職の候補者若しくは候補者となろうとする者の身分、職業若しくは経歴…又はその者に対する人…の推薦若しくは支持に関し虚偽の事項を公にした者は、2年以下の禁錮又は30万円以下の罰金に処する。

・第251条/当選人が235条の罪を犯し刑に処せられたときは、その当選は無効とする。

 したがって、蓮舫氏が二重国籍の状態で選挙に出ることは法律上明示的には禁止されていませんが、二重国籍という国籍法条の違法状態を隠していたことは第235条の“身分の虚偽”に該当する可能性があり、仮に第251条で刑に処せられたら当選は無効となるのです。

蓮舫氏の法律違反を厳しく
追求しないマスメディア

 つまり、この問題の本質は政治家として長い間ずっと法律違反をしていたという点に尽きます。蓮舫氏は今まで国会議員を務めてきた期間ずっと、かつ国務大臣を務めた時代、さらには政権奪取を目指す政党の代表になって以降も、説明責任を一切果たさず、かつ法律違反の状態を速やかに解消しようとしなかったのです。本来は政治家としての道義的責任が問われて然るべきです。

 それにもかかわらず蓮舫氏は会見で、「戸籍情報を開示した」「人権保護上好ましくないけどあえてした」「他の人の前例にしたくない」と、まるで自分が被害者であるかのような説明ばかりしていました。
 
 そして面白いのは、マスメディアの大半が蓮舫氏の会見のトーンに合わせた報道をしていたことです。しかも、会見からわずか2日でもうこの問題は沈静化し、蓮舫氏の責任を追及する報道もありません。

憲法改正発言で護憲派が団結
“勧善懲悪”のわかりやすい構図

 このように、加計学園問題や稲田大臣と蓮舫氏とでは、マスメディアの追及に随分と差があります。それはなぜでしょうか。

 もちろん、マスメディアの役割の1つは権力の監視であり、特に相手が一強政権の総理や大臣と落ち目の弱小野党の党首では、追求の軽重に差が出て当然です。しかし、それだけでは説明できないくらいに報道の量や追求の厳しさに差がある理由として、2つのポイントがあるのではないかと個人的に邪推しています。

 1つは、メディアによる加計学園問題の追求は5月から急激に激しくなったことです。3月頃から森友学園問題の延長でチラホラと報道はされていましたが、朝日新聞が5月中旬に最初の文科省内部文書流出を報道したように、5月から一気に潮目が変わったかのようになりました。だからこそ、わずか2ヵ月で支持率は20ポイントも急落しています。

 その原因として考えられるのは、5月3日の憲法記念日に安倍首相が「2020年までの憲法改正」を明言したことです。すなわち、それまで明示してこなかった憲法改正の具体的なスケジュール感が示されたことをきっかけとして、野党や一部メディアなど憲法改正に反対する護憲派の諸勢力が一致団結して、加計学園問題で政権を攻撃するようになったという流れは否定できないと思います。

 つまり、一部メディアについては憲法改正反対というベースがあるからこそ、加計学園問題の報道がこれだけ厳しくなるのではないでしょうか。

 もう1つは、メディアは“勧善懲悪”というわかりやすい構図をつくり上げるのが好きだということです。

 森友学園問題ではそれが成立しませんでしたし(籠池氏、財務省、昭恵夫人という明確な悪役はいたが、明確な善玉がいなかった)、加計学園問題でも最初はそれが不明確でした(官邸、内閣府という悪役が明確だっただけ)。ところが、前文科次官の前川氏が表舞台に現れたことで、官邸が悪玉、前川氏が善玉というわかりやすい“勧善懲悪”の構図ができたのです。

 稲田大臣についてはもっと簡単で、国民は東日本大震災以降、無意識のうちに自衛隊は国民を守ってくれる善玉と思っているので、その自衛隊に関する情報を隠蔽したり選挙の道具に使う稲田大臣という悪役との対比で“勧善懲悪”の構図ができています。

 そう邪推すると、蓮舫氏の二重国政問題に関するマスメディアの報道がゆるゆるになって当然です。蓮舫氏は弱小野党の党首であるだけでなく、一致団結した護憲派の側の人であり、さらには蓮舫氏が悪玉とわかっていても善玉がいないので“勧善懲悪”の構図がつくれないのですから。

来週の閉会中審査で
安倍政権の真贋が判明する

 この私の邪推が正しいとすると、気になるのは官邸と自民党のマスメディアに対する危機意識・対応が緩すぎるということです。

 政権の関係者の多くが、7月10日の閉会中審査に関する報道について、「野党や前川氏の良いところばかりで、加戸氏(元愛媛県知事)の良い発言や自民党の質問者が前川氏を追及するところをほとんど報道しないのはひどい」と愚痴ばかり言っていましたが、特に護憲派の一部メディアは政権を貶めるのが目的だし、“勧善懲悪”の構図を強調したいのですから、そうなるのはわかり切ったことです。

 それにもかかわらず、萩生田官房副長官が「記憶にない」と政治家のいかがわしさ、悪役の悪さを象徴するような答弁をするのを許容していては、護憲派の一致団結した総攻撃に勝てるはずがありません。

 逆に言えば、来週7月24日、25日の予算委員会の閉会中審査は、安倍政権の真贋を見極める格好の場となるのではないでしょうか。

 つまり、安倍政権にとって本当の敵は民進党などの野党ではなく、一致団結した護憲派に属し“勧善懲悪”の構図が好きな一部メディアなのです。国民の多くがその一部メディアの報道を通じて情報を得る以上、「メディアや野党が印象操作をするから」といった言い訳は意味がありません。たとえばサッカーの日本代表の負け試合で、「アウエーだから」が言い訳にならないのとまったく同じです。

 それら護憲派メディアの報道を通じて、国民の側が「真相はこうだったのか」と多少なりとも納得するような説明をできなかったら、安倍政権の負けだと思います。というのは、加計学園問題程度でそれができないようなら、護憲派メディアがより一層厳しく報道するであろう憲法改正で多くの国民を納得させることなど、不可能だからです。

 たとえば、安倍首相や参考人として出席する和泉補佐官はもちろん、政府側の答弁者が1人でも「記憶にない」などといった悪役の悪さを強調する、そしてメディアの報道で切り取りやすい言葉を使っただけでも、アウトだと思います。

 だからこそ、7月24日、25日の閉会中審査をじっくりと見守りましょう。
http://diamond.jp/articles/-/135884


2017年7月21日 みわよしこ :フリーランス・ライター
生活保護で大学に通うのは、いけないことなのか?


生活保護のもとでの大学進学が原則として認められていない日本。厚労省は大学等への進学に対して一時金の給付を検討中だが、それだけで抜本的な解決策になるとは思えない(写真はイメージです)
生活保護のもとでの大学進学は
世帯分離という裏技で認められる

 厚労省は、大学等(以下、大学)に進学する生活保護世帯の子どもたちに一時金を給付する方向で検討を開始している。金額や制度設計の詳細はいまだ明らかにされていないが、2018年度より実施されると見られている。

 現在、生活保護のもとで大学に進学することは、原則として認められていない。家族と同居しながらの大学進学は、家族と1つ屋根の下で暮らしながら、大学生の子どもだけを別世帯とする「世帯分離」の取り扱いによって、お目こぼし的に認められている。

 しかし、この取り扱いには以下のような問題点がある。

・生活保護世帯である家族の人数が減る。

・家族の保護費のうち生活費分(生活扶助)が人数に応じて減額される。

・家族の保護費のうち家賃補助(住宅扶助)も人数に応じて減額される。それまでの住まいは、相対的に「家賃が高すぎる」ということになり、ケースワーカーに転居するよう指導されることもある。

・進学した子どもは、医療を含め、生活保護でカバーされていたすべてを失う。このため生活に必要な費用のすべて、学費、国民健康保険料などを稼いだり借りたりする必要がある。

 生活保護世帯の子どもは、大学に進学する以前も、進学して以後も、その家族の一員であり、衣食住・水道光熱費などの消費を共にしているはずだ。しかし、大学に進学すると、「生活保護で暮らす家族の一員ではないが同居している」という存在になる。それどころか、自分が進学することによって生活費が減少して厳しいやりくりを強いられる家族を目の当たりにすることになる。

 さらに、家賃補助が減額されると、家族は減少した生活費からの持ち出しで家賃を支払わなくてはならなくなる。まして「ケースワーカーに転居を指導される」となると、当然、人数に応じたより家賃の低廉な住宅への転居となる。

 生活保護世帯の子どもは、大学に進学すると、制度面では「いるのにいない」とも「いないのにいる」ともつかない“座敷わらし“のような存在にされてしまうのだ。しかし、彼ら彼女らは”座敷わらし“ではなく、生身の人間だ。したがって、生活、健康、学業を支えるためには現実の資源が必要であるはずだ。

 現在、厚労省が検討している支援策は、「世帯分離の取り扱いは現状のまま」「進学時に一時金を給付する」「進学後も家族と同居し続ける場合には、家賃補助(住宅扶助)は減額しない」というものだ。言い換えれば「進学したら、医療を含めて生活保護の対象から外し、生活にかかわる費用は出さない(ただし一時金を除く)」という取り扱いは現状のままということだ。

「何もないよりマシ」なのは間違いない。では、何がどの程度期待でき、何が期待できないのだろうか。

 私は、社会保障・社会福祉を研究する桜井啓太さん(名古屋市立大学講師)に、現在報道されている厚労省方針についての意見をうかがうことにした。桜井さんは、「自立」の研究で博士号を取得した若手研究者で、元生活保護ケースワーカーという経歴を持つ。また、今回の厚労省方針に影響を与えたと見られる堺市の調査にも参加している。

中途半端な厚労省方針
最大の障壁は家族の困窮

 桜井さんは、開口一番「なんとも中途半端ですね」と語った。

「生活保護世帯の子どもの大学進学のために制度設計をすること自体は、良いことだと思うんですよ。進学した子どもを世帯分離したら保護世帯の人員数が減ることを理由とした住宅扶助のカットはやめる。それから、生活のために一時金を給付するわけですよね。でも、どうしても『中途半端だなあ』という印象を受けてしまいます」(桜井さん)

 聞きながら、私は「桜井さんは紳士だ」と感じる。私の第一印象は「え? やる気あるの?」であり、その次に浮かんだ思いは「特大のダメを大ダメに軽減したからと言って、『前進』とは呼べないよねぇ? 生活保護に甘えてない?」であった。ここで言う「甘え」とは、生活保護制度を積極的に使わせない、充実させないことを良しとすることに制度運用側が慣れてしまっていることを指している。

 ともあれ、生活保護世帯の子どもが大学に進学した場合、最初の大きな障壁となり得るのは、家族と本人の「住」だ。

 まず、埼玉県さいたま市に住む母親(40代)、高3男子、中2女子の3人から成る生活保護母子世帯を例として、高3の子どもの進学が何をもたらすかを見てみよう。もともと首都圏に住んでいるのだから、高3の子どもは自宅から通学できる範囲で進学先を見つけることが可能だろう。しかし大学に進学すると、以下のような変化が母親と中学生の子どもを襲うことになる。

・一家の人員数 3人→2人

・一家に給付される保護費の生活費分 4万9780円減少

・一家に対する家賃補助上限 5万9000円→5万4000円

 もしかすると母親は、思春期に突入した2人の男女の子どもに個別のスペースを与えられるよう、若干の無理をして家賃6万4000円のアパートに住んでいたかもしれない。すると、これまでも持ち出していた5000円の差額に加え、新たに発生する5000円の差額を、約5万円減少した生活費から捻出することになる。

 さらに、基準額を家賃が1万円上回ることになる。生活費を切り詰めて家賃を支払うと、「健康で文化的な最低限度」の生活が営めなくなるし、「生活保護では許されないゼイタク」ということになりかねない。上回っている金額によっては、「高額家賃」として転居を指導されることになる。そこに、高校時代までは同じ生活保護世帯の一員だった子どもが現在も住んでいるにもかかわらず、である。

同居の子どもを「いないもの」に?
悪い冗談のような行政の転居指導

「生活保護世帯で、子どもが大学進学によって世帯分離し、生活保護世帯の人員数が減り、その人員に対する家賃基準より現在の家賃が高すぎる場合には、子どもを“いないもの“として転居指導する」という悪い冗談のような取り扱いは、つい最近まで行われていた。

 このような場合に転居指導をしないこととなったのは、2017年4月、つい3ヵ月前からだ。厚労省は2018年4月から、さらに減額も取りやめる方針のようだ。桜井さんは、この方針をどう見るだろうか。

「今年度から転居指導の扱いをやめ、来年度からは減額もやめるというのは……当然そうあるべきだろうという話ではあるんですが……どういう意図に基づいた制度設計なのか、よくわからないというのが正直なところです」(桜井さん)

 私には、気がかりがもう1点ある。生活保護世帯の子どもが大学に進学した場合の家賃の減額をやめるとなると、その分の財源はどこかから確保されることとなる。「他の生活保護世帯から削り取って大学進学の財源に」という成り行きだけは避けてほしいところなのだが、最も可能性が高いのはまさに「それ」なのだ。しかも、問題は「住」だけではない。

目的がよくわからない給付金構想
「生活保護で大学へ」はいけないのか?

 子どもを大学進学させた生活保護世帯は、衣食・光熱費を含めた生活費全体において、同世帯ではないけれども同居している大学生の子どもの存在により、厳しい生活を強いられることになる。保護費の生活費分(生活扶助)が、同世帯ではなくなった子どもの分だけカットされるからだ。

 生活保護の対象とならなくなった大学生の子どもには、さらに医療費という負担が発生する。国民健康保険料と医療費の自費負担を、自ら支払わなくてはならない。その負担に耐えられず、国民健康保険に加入せずにいると、無保険状態になる。厚労省が構想しているという一時金は、これらの問題をどの程度軽減できるのだろうか。

「普通に考えて、世帯分離の取り扱いを止め、大学への世帯内就学を認めればいいんです。現在の高校進学と同じように。そうすれば、これらの問題は全部クリアできます。その上で、学費など、大学での修学に必要な費用に使うアルバイト収入は、収入認定の対象から外せば、学生支援機構奨学金を借りるとしても最小限で済みます。これらの変更は、厚労省の局長通知だけでできます」(桜井さん)

 大学等への進学率は、浪人を含めると80%を超えている。長年、「生活保護でも認める」の基準とされてきた「一般普及率が70%」という指標から見ても、生活保護で暮らしながら大学へ進学することは、認められるべきであろう。「いつやるの? 今でしょ!」だ。

 桜井さんは、そもそも大学進学にあたっての給付金という厚労省構想にも疑問を感じている。

「意図は何なんでしょうか。世帯分離とはいえ、大学進学後も保護世帯の家族と一緒に住んでいる子どもが大半なんです。大学進学のための特別な需要があることは間違いありませんが、何なのでしょうか。優先度はどの程度なのでしょうか」(桜井さん)

 何を根拠にしているのか、“イミフ”(意味不明)なのだ。

「生活保護世帯の子どもは、大学に進学すると、在学中ずっと生活困窮状態に陥り続けているんです。不利や困難は、ずっと続いているんです。就学時限定の給付金は、使いにくいものになるだろうと思います」(桜井さん)

 さらに、桜井さんの懸念は止まらない。「生活保護優遇」という制度設計になり、不公平感をぶつけられる可能性もあるからだ。でも、広い関心と議論を呼び起こす機会でもある。

生活保護と大学進学問題を機に
「ナショナルミニマム」の拡大を

 高校進学率は100%に近くなり、ほぼ「延長された義務教育」のようなものとなっている。生活保護世帯でも、1970年、世帯分離をせずに親と暮らしながらの高校進学が認められるようになった。さらに2005年には、生活保護費の中で必要な費用がカバーされるようになった。カバーできていない部分はいまだに多々あるのだが、最大の問題は、「教育」として認められているわけではないということだ。

 生活保護には、職業生活の維持・発展を目的とした「生業扶助」というメニューがあり、高校での学修に関する費用は「生業扶助」で保障されている。失業者に対する職業訓練と同じイメージだ。要は「高校を卒業できれば職業に就けて生活保護が不要な成人になる可能性が高い」ということである。「本人に高校教育を受ける権利があるから」ではない。

 桜井さんは「『自立助長のため』から抜け出せてないところが根深い」としながら、
「生活保護での世帯内大学進学が実現されたら、『生活保護が必要なのに受けていない家庭の子どもがかわいそう』『大学に行かない子どもがかわいそう』という意見が、必ず出て来るでしょう。でも、生活保護での大学進学で、世帯分離の取り扱いを止めるということは、日本全体の『ナショナルミニマム』が久しぶりに拡がる、ということなんです」(桜井さん)

 ナショナルミニマムとは、国が国民に対して「これ以下の生活はさせない」と保障する基準だ。日本で言えば、生活保護基準や生活保護で認められる「健康で文化的な生活」の最低限度がナショナルミニマムに当たる。

「生活保護で世帯内大学進学を認め、世帯分離しなくてもよくすることは、多くのご家庭で大学進学が重い負担となり、大学生が奨学金という名の借金まみれになることを解決する方法の1つなんです。生活保護行政の大切な仕事の1つは、日本全体のナショナルミニマムを決めることです。生活保護世帯の大学生だけに対する優遇、ということではありません」(桜井さん)

 しかし現在、生活保護世帯の子どもが大学に進学すると、ナショナルミニマムから弾き出されてしまうことになる。

「だから、そこまで、ナショナルミニマムを拡大しようという話なんです。すると、生活保護は受けていないけれども大学生の子どもがいるために貧困状態に陥っているお宅も、生活保護の対象になります。現在の生活保護世帯だけの話ではないのです」(桜井さん)

困ったときに「助けて」と言える社会、
助ける手段がたくさんある社会を望む


本連載の著者・みわよしこさんの書籍『生活保護リアル』(日本評論社)好評発売中
 とはいえ、生活保護で何もかもを解決することはできない。国公立大学では、学費減免制度が比較的充実している。しかし、私学や専門学校はどうすればよいのか。生活保護世帯の子どもたちは、様々な理由で、大学ではなく専門学校を選択することが多い。下宿している貧困状態の大学生もいれば、児童養護施設の退所者もいる。

「結局、ナショナルミニマムを拡大し、より普遍的な給付制度を構築する必要があるのでしょう。たとえば、失業給付の学生版、学生であるということに対する何らかの手当があってもよいのかもしれません」(桜井さん)

 誰もが、困ったときには「助けて」と言える社会。具体的に助ける手段が数多く存在して選べる社会。そんな社会に生きられたら、と私も思う。

(フリーランス・ライター みわよしこ)
http://diamond.jp/articles/-/135883
http://www.asyura2.com/17/senkyo229/msg/441.html

[環境・自然・天文板6] 夏の「酷暑」は年々悪化!スパコンが予測した恐ろしい未来 「酷暑」がもたらす未来とは 10年以上前に予測されていた
2017年7月21日 鈴木貴博 :百年コンサルティング代表
夏の「酷暑」は年々悪化!スパコンが予測した恐ろしい未来

「酷暑」がもたらす未来とは
10年以上前に予測されていた


日本の夏は明らかに暑くなっている。もはや猛暑というより酷暑だ。実は、こうなることを10年以上も前にスパコンは予測していた
 今回は、猛暑ならぬ「酷暑」についての話をする。昔話から始めると、私が社会人になった1985年頃、クライアントに会うときは夏もウールのスーツにネクタイ姿が当たり前だった。2005年に始まったクールビズでは、お役所の掛け声は「ノーネクタイ・ノージャケット」になったが、それでも最初の数年はネクタイだけ外してスーツの上下で過ごすのが、私の周囲の大企業では通例だった。

 そして今では、夏はポロシャツにチノパンで大企業を訪問してもそれほど不自然ではなくなった。そうなってみて改めて振り返ると、不思議なのは2005年まで「なぜ、スーツにネクタイで夏を過ごしていても平気だったのか?」ということである。

 理由は単純である。明らかに今ほど暑くなかったのだ。暑い夏はヒートアイランド現象と地球温暖化がもたらしている。前者は20世紀後半から問題になっていたが、後者が効いてきたのはここ10年くらいのことだ。

 実際、2005年頃には「地球シミュレータ」という、日本が世界に誇るスーパーコンピュータによる地球温暖化のシミュレーションが、頻繁にドキュメンタリー番組で放送された。それによれば、世界中で二酸化炭素をかなりの努力で削減したとしても、今後東京の夏が涼しくなることはないということだった。

 2005年当時は、最高気温が30℃を超える真夏日は、東京では7月中旬から8月末までの時期に限られていた。それが21世紀を通じて見ると、夏は6月中旬から9月末までの100日間と年々長くなっていく。

 また当時、東京の最高気温は、毎年8月に30℃から32℃の間というのが相場だった。これが2020年までには毎年35℃を超えるようになると、シミュレータでは予測されていた。

 実際にその後どうなったかというと、2010年以降、最高気温が33℃を超える年が続いたのだが、2014年に気象庁が観測場所を移転して、データが不連続になった。そして不思議なことに、新しい観測場所では今年まで、東京の最高気温が32℃を超えることはなかった。

 勘繰ると、節電政策を打ち出していた政権に対する何らかの忖度が働いたのかもしれない。しかし、ついに新しい観測場所でも、今年7月に最高気温が32℃を超えた。やはり、日本は確実に暑くなっているのだ。

 まだ先の話ではあるが、2070年頃には40℃を超える年が出現し、東京にも災害規模の熱波が到来するようになると言われる。ちなみにその頃の東京では、1月に紅葉を迎えた後、冬がないまま春を迎える。そして、ゴールデンウィークから10月末まで1年の半分が夏になる。温暖化はそこまで行くと予想されているのだ。

恐ろしいシミュレーションに
現実が近づいてきてしまった

 このようなシミュレーションの精度はかなり高い。にもかかわらず、最近、地球シミュレータが報道に登場することがあまりなくなってきたように思える。先ほど気象庁のデータについて「忖度」という言葉を使ったが、地球温暖化については、報道に関する何らかの自主規制が本当にあるのではないかと思えるフシがあるのだ。

 理由は、シミュレーションに現実が追いついてきたからだと私は推測している。2005年当時は、温室効果ガスを減らすキャンペーンの一環としてシミュレーションを繰り返し、報道するのがブームだったが、その当時のシミュレーションでは、2020年以降の日本はかなり悲惨なことになることが予測されていた。その予測に現実が近づいているので、放送できなくなったのではというのが、私の勘繰りである。

 当時シミュレータが予測していた2020年から2050年にかけての日本には、3つの災害がもたらされるとされていた。「巨大台風」「豪雨」そして「熱波」である。

 東京、横浜、名古屋といった大都市は熱波に見舞われ、20世紀の台湾やフィリピンと気温がそれほど変わらなくなる。熱波と連動してゲリラ豪雨などの大雨も年々増加する。それに加えて、西日本を中心に大規模な台風被害が確実に増加すると予測されていた。台風の数が年々増えるだけでなく、これまで日本を襲ったことがない巨大台風も上陸することが予測されている。

熱波、巨大台風、豪雨が続発
これまでの常識は通用しない

 振り返ってみると、当時の予測はここ数年の災害の発生状況と完全に一致している。先頃、九州と愛知を襲った集中豪雨の記憶はまだ新しい。昨年は8月に相次いで4つの台風が上陸し、猛威を振るったが、こんなことも従来はなかったことだ。

 これらの災害も痛ましいが、実はそれ以上に熱波の犠牲者が増加していることはあまり知られていない。夏の熱波による熱中症死は1996年から2000年頃は毎年150人から200人程度だったが、近年は毎年1000人前後と急増中。死者の4分の3が65歳以上の高齢者で、発生場所で多いのが住居内である。

 こうした「酷暑」問題の本質は、もう後戻りできないことと、年々悪い方に向かっていくだろうということだ。

 そもそも、世界が地球温暖化対策にどれだけ力を入れたとしても、事態の悪化を食い止めることは難しいことがわかっている。そんな状況にもかかわらず、世界は京都議定書に続いてパリ協定も骨抜きにする方向へと動いている。

 そんなご時世に我々個人が肝に銘じるべきことは、去年までの経験則で物事を判断しないことだ。「去年の夏はこれで過ごせた」「台風が来たけどいつも通り外出してもいいだろう」というように、去年まで大丈夫だったからといって、今後も同じ行動をとることは控えたほうがいい。

 とにかく、この暑さは年々ひどくなり、これまでになかったリスクも起きることが予測されている。それが夏の「新しい常識」だということを理解することが、何よりも重要なのだ。

(百年コンサルティング代表 鈴木貴博)
http://diamond.jp/articles/-/135886
http://www.asyura2.com/15/nature6/msg/574.html

[不安と不健康18] 遺伝子組み替え作物は実は危険じゃなかった! むしろ農薬使用量が激減し安全  砂糖とアレが組み合わさったらドラッグとなる
遺伝子組み替え作物は実は危険じゃなかった! むしろ農薬使用量が激減し安全
2017年07月15日 ライフハック・キャリア

「遺伝子組換え作物は危険」というデータは、不正確なものだった
 いまもネットで議論が絶えないのが、「遺伝子組み換え作物」の問題です。

 遺伝子組み換えとは、ある生き物から役に立つ遺伝子だけを取り出し、別の生き物に組み込んでいく技術のこと。日本では、大豆食品やスナック菓子などに、大量の遺伝子組み換え作物が使われています。

 その安全性については昔から否定論が多く、ネットで検索をかければ「遺伝子組換え作物を食べて奇形化したラット」の哀れな画像が大量にヒット。思わず身ぶるいさせられます。

 さらに2015年には、台湾政府が給食から遺伝子組換え作物の完全排除を決めたのも話題になりました。遺伝子組み換えの安全性には科学的な合意がなく、毒性の強い農薬が大量に使われているというのです。

 事実ならば恐怖の一言ですが、遺伝子組換え作物への批判は、どこまで的を射たものなのでしょう? 本当に科学的な根拠はあるのでしょうか?

 まずは、遺伝子組み換え食品で奇形化したラットの問題から見ていきましょう。

 ネットに出回る奇形ラットの画像は、2012年の動物実験が出どころになっています(1)。カーン大学の研究チームが、ラットに遺伝子組換えのコーンを食べさせたところ、次々に悪性の腫瘍が発生したという恐ろしいデータです。体の節々がふくれあがったラットの姿はあまりにも悲惨で、遺伝子組換えの否定派が大騒ぎしたものムリはありません。

 ところが、この論文には、発表後から「実験のデザインがおかしい」という指摘が多く上がりました。

 この実験の問題点は、大きく2つあります。第一に、遺伝子組み換え食品を与えたラットの数は20匹程度であり、とても統計的な検証に耐えうる数ではありません。

 さらに大きな問題が、この実験ではアルビノラットを使っている点です。アルビノラットはもともと癌になりやすい生き物で、あるデータによれば、18カ月の間に自然に腫瘍ができる確率は45%にものぼります(2)。

 これらのポイントが指摘されたため、カーン大学は後に論文を撤回し、いまも再提出は行われていません。論文としての妥当性は失われたと見てよいでしょう。


メタ分析では「安全性に問題なし」

 それでは、「遺伝子組み換えの安全性には科学的な合意がない」との指摘はどうでしょうか?

 この問題ついては、2012年にAAAS(アメリカ科学振興会)が以下の声明文を出しています(3)。

『科学的な結論は明確だ。バイオテクノロジーの分子技術による現代の作物改良は安全である。(中略)WHOや米国医師会、米国科学アカデミー、英国王立協会といった組織がリサーチを行い、いずれも同じ結論に達している』

 AAASは世界でもトップクラスの科学団体です。科学に絶対はありませんが、ひとまず「科学的な合意はある」と考えるべきでしょう。

 ここまで大勢の科学者が遺伝子組換えの安全性を支持するのは、精度の高い証拠があるからに他なりません。

 もっとも有名なのは2012年にペルージャ大学が行ったメタ分析です。2002〜2012年に出た1,783件の実験データをまとめた膨大な調査で、科学的な信頼度はピカイチと言えます。

 その要点は以下のようなものです。

・科学的なデータは、遺伝子組み換え作物の安全性を確認している。遺伝子組み換えは、環境にも人体にも問題がない。
・遺伝子組み換え作物のなかに、特殊なアレルゲンや毒物が見つかったという事実もない。
・遺伝子組み換えが生態系を乱すという証拠もない。

かなり徹底的に安全性を認めており、このデータを批判派がくつがえすのは難しいでしょう。

→次ページ農薬の使用量を減らし、収穫量も増やせる!

農薬の使用量を減らし、収穫量も増やせる!
もうひとつ、2014年に行われたメタ分析では、147件の実験データをもとに、「遺伝子組み換えと農薬の問題」についても精度が高い結論が出ています。こちらの要点は以下のとおりです。

・遺伝子組み換え技術を使うと、農薬の使用量を最大37%まで削減できる
・逆に穀物の収穫量は22%まで増やすことができる

 毒性の高い農薬が使われるどころか、遺伝子組み換えは農薬の絶対量を減らし、逆に安全性を高めてくれるわけです。農薬への依存度が高い後進国などにとっては、まことにありがたい技術だと言えるでしょう。

 そんなわけで、いまのところ遺伝子組み換え作物に関しては、

1.危険性は動物実験でしか確認されておらず、そのデータの精度も怪しい
2.質の高い研究ほど遺伝子組換えの安全性を保証している

 というのが現代科学の結論。遺伝子操作には本能的な恐怖を抱いてしまうのが人情かもしれませんが、いたずらに怖がる理由はありません。

1.Gilles-EricSéralini (2012)Long term toxicity of a Roundup herbicide and a Roundup-tolerant genetically modified maize
2.J. D. Prejean(1973)Spontaneous Tumors in Sprague-Dawley Rats and Swiss Mice
3.AMERICAN ASSOCIATION FOR THE ADVANCEMENT OF SCIENCE(2012)Statement by the AAAS Board of Directors On Labeling of Genetically Modified Foods
4. Alessandro Nicolia (2012)An overview of the last 10 years of genetically engineered crop safety research
5.Wilhelm Klümper(2014)A Meta-Analysis of the Impacts of Genetically Modified Crops

<文/Yu Suzuki>

【Yu Suzuki】
月間100万PVのアンチエイジングブログ「パレオな男」管理人。「120歳まで生きること」を目標に、日々健康維持に励んでいる。アンチエイジング、トレーニング、メンタルなど多岐にわたり高度な知見を発信している。NASM®公認パーソナルトレーナー。あまりに不摂生な暮らしのせいで体を壊し、一念発起で13キロのダイエットに成功。その勢いでアンチエイジングにのめり込む。11月11日、初の著書『一生リバウンドしないパレオダイエットの教科書』(扶桑社)が発売。

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「速読」は科学的に不可能だと証明される。最も有効なのは「飛ばし読み」スキルを上げること
https://hbol.jp/146026?page=3

 

砂糖と“アレ”が組み合わさったら、ドラッグとなる! だが単独では……
2017年07月02日 ライフハック・キャリア

「砂糖中毒」は嘘だったことが判明。だが、特定条件では依存性を発揮する
 ここ数年、「砂糖中毒」という言葉をよく聞くようになりました。タバコ中毒やアルコール中毒のように、砂糖に対して極度の依存を起こした状態のことです。

 糖質制限ダイエットの世界では昔から有名な説で、なかには「砂糖にはコカイン並みの依存性がある」といった主張をする医師も存在。糖質には脳をダイレクトに刺激する作用があり、ドラッグと同じような快感をもたらすというのです。

 その結果、多くの人は砂糖や炭水化物なしではいられなくなり、肥満、疲労、イライラ、不安といったあらゆる不調の原因になるんだとか。事実なら、まことに恐ろしい話です。

 しかし、どうにも怪しい印象がぬぐえません。本当に砂糖がコカイン並みの快楽をもたらすなら、角砂糖への依存が社会問題になり、すでに法律で規制されていてもおかしくないようにも思えます。果たして、「砂糖=ドラッグ」説は事実なのでしょうか?

 そもそも、砂糖の中毒性が騒がれるようになったのは、2008年のマウス実験がきっかけになっています(1)。プリンストン大学の研究チームが、マウスへ砂糖をあたえ続けたところ、脳に大量の快楽物質(オピオイドとドーパミン)が分泌されたうえに、実験後には重度の禁断症状まで確認されたのです。このデータだけを見れば、確かに砂糖はドラッグと同じように思えるでしょう。

 ただし、これはあくまで動物実験の話。実は、ヒトを対象にした研究では、砂糖の依存性はまったく認められていません。

 現時点で最新のデータは、2017年にマーストリヒト大学が発表した論文です(2)。このなかで、研究チームは健康な男女1,495人を対象に食品の依存度を調べ、全員のBMIとの関連を調べました。

 そこでわかったのは、以下のような事実です。

・95%の人は何らかの食品に依存した経験を持っていた
・砂糖だけの食品に依存を起こすケースはほとんどなかった

 誰にでも食品への依存は起こりえるものの、砂糖中毒にかかった人はほぼゼロだったようです。

→次ページ中毒を引き起こすのは、砂糖と”アレ”の組み合わせ

中毒を引き起こすのは、砂糖と“アレ”の組み合わせ
 それでは、依存を起こしやすい食品とはどのようなものでしょうか? 研究チームは次のようにコメントしています。

「もっとも依存のような行動が確認されたのは、砂糖と脂肪が組み合わさった食品だ。基本的に太りぎみの人ほど『砂糖+脂肪』の消費量が大きく、おもに砂糖だけをふくむ食品は肥満との相関がなかった。

 砂糖が多い食品は依存性が低く、肥満のリスクにもなりにくい。過去のデータと照らし合わせてみても、食べ過ぎの原因はカロリー密度と個人の環境によるところが大きいだろう」

 あくまで砂糖に依存を起こすようなパワーはなく、ケーキやアイスクリームのように大量の糖分と脂肪が組み合わさったときに、はじめて食べ過ぎが起きるというわけです。

 もうひとつ、2016年の研究も見てみましょう(3)。

 これはケンブリッジ大学によるレビュー論文で、過去に行われた砂糖中毒に関する127件の実験データをまとめたもの。「砂糖中毒」について考えるうえでは、現時点でもっとも信頼性が高い内容になっています。

 研究チームの結論は、以下のとおりです。

「ヒトが砂糖に依存を起こすという証拠は存在しなかった。動物実験のデータでは、確かに砂糖中毒のような行動はみられるが、それはあくまで断続的に砂糖へアクセスできる環境があったときだけだ。

 砂糖中毒に近い行動は、報酬が多い食品が断続的に手に入る環境によって引き起こされる。決して、砂糖に神経科学的な作用があるわけではない」

 簡単に言いかえると、砂糖で脳がおかしくなるような事実は存在せず、たんに「お菓子屋さんが近所にある」や「戸棚にケーキが置いてある」といった誘惑の大きい環境によって、あたかも依存のような行動が起きるというわけです。実に常識的な結論と言えるでしょう。

 まさに大山鳴動してネズミ一匹。どうやら「砂糖=ドラッグ」説は、動物実験の不確かなデータをもとにした空騒ぎだったようです。

 もちろん砂糖の摂りすぎは厳禁ですが、もっとも大事なのは総カロリーとのバランス。無闇に怖がる必要はまったくありません。

1.Avena NM, et al. “Evidence for sugar addiction: behavioral and neurochemical effects of intermittent, excessive sugar intake.”(2008)
2.Markus CR, et al. “Eating dependence and weight gain; no human evidence for a ‘sugar-addiction’ model of overweight.”(2017)
3.Westwater ML, et al. “Sugar addiction: the state of the science.”(2016)

<文/Yu Suzuki>

【Yu Suzuki】
月間100万PVのアンチエイジングブログ「パレオな男」管理人。「120歳まで生きること」を目標に、日々健康維持に励んでいる。アンチエイジング、トレーニング、メンタルなど多岐にわたり高度な知見を発信している。NASMR公認パーソナルトレーナー。あまりに不摂生な暮らしのせいで体を壊し、一念発起で13キロのダイエットに成功。その勢いでアンチエイジングにのめり込む。11月11日、初の著書『一生リバウンドしないパレオダイエットの教科書』(扶桑社)が発売。

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http://www.asyura2.com/16/health18/msg/549.html

[経世済民122] 日本のクルマ産業が、中国の電気自動車ベンチャーに駆逐される日 まるでガラケー。テスラに駆逐される日本の車産業

http://blog.livedoor.jp/batayangolf-yukihirokondoh/archives/8894419.html
まるでガラケー。テスラに駆逐される日本の車産業

日本のクルマ産業が、中国の電気自動車ベンチャーに駆逐される日
人気記事ビジネス2017.07.19 768 by 中島聡『週刊 Life is beautiful』
 

日本のクルマ産業が、中国の電気自動車ベンチャーに駆逐される日

従来型ビジネスモデル崩壊か。「マイカー」という言葉が消える日
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自動車の地球環境への配慮などが叫ばれるようになって久しい昨今ですが、世界の自動車業界は今、ZEV(排ガスゼロ車)に大きくシフトしてきているようです。Windows95の設計に携わり、「右クリック」などを現在の形にしたことでも知られる世界的プログラマーの中島聡さんが発行するメルマガ『週刊 Life is beautiful』では、急速にZEVへのシフトに舵をきり始めた世界の動向にスポットをあて、中島さんが米テスラが牽引する「自動車産業の未来」を考察しています。

ZEV(排ガスゼロ車)へのシフト

ここのところ、急速に ZEV(zero-emission vehicle、排ガスゼロ車)へのシフトが進んでいます。

もっとも目立ったのが、フランスによる2040年までにガソリン車とディーゼル車を廃絶しようという動きです(France will ‘ban all petrol and diesel vehicles by 2040’)。低所得者に対する自動車の買い替え補助、新たな石油・石炭の採掘の禁止なども含め、2050年までにカーボンニュートラル(二酸化炭素の排出量と吸収量を同じにすること)を達成するための、大きなコミットメントです。

この動きに関しては、様々な見方が出来ますが、米国がトランプ政権の誕生により、地球温暖化対策のリーダーシップの座を降りることになったことが、逆にヨーロッパの国々にとっては「絶好のチャンス」と見て、これを機会に業界全体に進化圧をかけることにしたのではないかと、私は見ています。

同じような動きは、ヨーロッパの他の国々でも見られますが、特にディーゼル車の排ガススキャンダルでお尻に火がついたドイツは(フォルクスワーゲンに続いて、メルセデスベンツに対しても疑惑の目が向けられています。Bosch faces diesel scrutiny again, this time in Mercedes-Benz probe)、電気自動車へのシフトをせざるを得ない状況です。フランスよりも、もっと積極的な進化圧をかけてきても不思議ではありません。

(地球温暖化ではなく)排ガス問題を抱える中国も、ZEV へシフトを加速するために大きな圧力をかけ始めました。カルフォルニア州のように、各自動車メーカーに対して、2018年には新車の8%を、2020年には新車の12%にしなければいけない、という進化圧をかけているのです。これに対し、テスラ以外のほとんどすべての自動車メーカーは猛反対しているそうです(Virtually all automakers (except for テスラ) are asking China to slow down electric car mandate)。

カルフォルニア州の厳しい排ガス規制がテスラの成長に大きく寄与したように、中国の規制が、中国の電気自動車ベンチャーを育成することになるのは、ほぼ確実だと思います。

その結果、電気自動車へのシフトが素早く行えない既存の自動車メーカーは、日本のガラケーメーカーが iPhone と安価な中国・台湾製の Android ケータイの間に板挟みになって苦しんだのと同じ目に会う可能性は十分にあります。

見事に外れたトヨタ自動車の「目論見」

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ちなみに、電気自動車社会へのシフトが急速に進んでいる証拠が、Bloomberg の「Big Oil Just Woke Up to Threat of Rising Electric Car Demand」という記事のグラフにとても良く現れています。石油産油国の集まりである OPEC が発表している、電気自動車の普及予測が、2016年度版で、大きく塗り替えられたのです。2015年版では、2040年における電気自動車の数を4千6百万台と予測していましたが、2016年度版では2億6千6百万台と5倍にもなっているのです。

https://d2kwcz501vadsp.cloudfront.net/p/news/wp-content/uploads/2017/07/6a00d8341c4f9853ef01b8d2963036970c.jpg

こういった世界の動きに対する日本政府と日本の自動車メーカーの対応の悪さを厳しく指摘したのが、古賀茂明氏による「安倍政権の戦略ミスで電気自動車は世界最後尾の日本 トヨタ社長の涙の意味」という記事です。

トヨタに関していえば、エコカー(ハイブリッド車)へのシフトでは、プリウスで世界をリードしましたが、その次の一手として用意していた水素自動車よりも先に、電気自動車の市場が立ち上がってしまったために出遅れてしまった、というのが実情だと思います。「水素自動車」を開発していた人たちには申し訳ありませんが、「電気自動車社会」へのシフトはすでに始まっており、結果として「水素社会」の実現性はさらに遠のいたことになります。

所有していたテスラの株を(値上がりする前に)売却してしまったのも、今から考えれば大きな失敗だったと思います。今からでも遅くはないので、テスラと本格提携して、Model 3 の OEM 生産で電気自動車のデファクト・スタンダードを作ってしまう、というウルトラCも悪くない戦略だと思います。テスラが今、喉から手が出るほど必要としているのは、成長のための資金と生産設備の拡充であり、それらを手に入れるためであれば、既存の自動車メーカーとの資本・業務提携というのは十分にありうる話だと思います。

日本はこのまま世界に取り残されてしまうのか?

一方の日本政府は、ひと昔前までは、厳しい排ガス規制で適切な進化圧をかけて日本の自動車メーカーを育てて来ましたが、(この記事によると)今や新車の7〜8割が「エコカー」減税の対象になってしまったほど、だらしないそうです。せっかくの「進化圧を与える道具」が、単なる「日本の自動車メーカー支援」に成り下がってしまったのです。

本来ならば、電気自動車へのシフトを加速すべく、強い進化圧をかけるべきタイミングですが、これまで官民一体となって「水素社会を作る」話を進めて来た手前、日本のメーカーの(電気自動車へのシフトの)準備が出来るまでは急速な舵取りは出来ない、というのが現状であり、それがますますシフトを遅らせる結果となっているのです。

私はテスラの Model X を去年の12月から毎日のように運転していますが、一度電気自動車の素晴らしさを知ってしまうと、二度と普通の車には戻れません。静かで清潔で、ガソリンスタンドに行く必要も、オイル交換も定期点検も必要なく、かつ、運転のしやすさが格別(重心が低く、加速性能が高い)なのです。

さらにそれにオートパイロット機能がついているのですから、まさにこの違いは、ガラケーとスマートフォンの違いに匹敵します。テスラがModel 3 の生産能力を大幅に引き上げ、同時に、中国政府による進化圧で育てられた電気自動車ベンチャーが世界に乗り出してくるだろう2018年〜2020年は、自動車業界にとって激動の年になると私は見ています。

(中島聡『週刊 Life is beautiful』より一部抜粋、毎月必ず読みたい方はご登録ください。初月無料です)

http://www.mag2.com/p/news/257408/3?l=tnz04c614d
http://www.asyura2.com/17/hasan122/msg/654.html

[国際20] 米でも婚姻率が低下、ラスベガス大打撃−学歴・階級による格差も拡大 労働市場を蝕むオピオイド 反米勢力が資金作りと米国崩壊
米でも婚姻率が低下、ラスベガス大打撃−学歴・階級による格差も拡大
Jeanna Smialek
2017年7月24日 15:50 JST

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米国の結婚の中心地を自ら名乗るラスベガスで、ローランド・オーガスト氏は何千人もの挙式をつかさどってきた。

ラスベガスは結婚業界の落ち込み阻止に取り組んでいる

Photographer: Jonnie Chambers for Bloomberg
  しかし最近では、エルビス・プレスリーの扮装をして結婚式を行うことが多いオーガスト氏は仕事柄、米国で長期にわたって進行している結婚するカップルの減少を肌で感じている。

:オーガスト氏が行った先月の結婚式の様子

Photographer: Jonnie Chambers for Bloomberg
  ラスベガスのあるネバダ州の婚姻率はここ数十年で急低下。米国全体でみられる落ち込みが極端に現れている形だ。1970年代以降の社会情勢の変化を受け、結婚はますます比較的高学歴で裕福な人のための制度となっている。

ウェディングチャペルの看板

Photographer: Jonnie Chambers for Bloomberg
  オーガスト氏が勤務するウェディングチャペルでは商売が落ち込んでいると同氏は話す。ラスベガスは年間最大30億ドル(約3330億円)の経済効果を生む結婚業界の落ち込みを食い止めるための取り組みを進めている。
  格差社会である米国で婚姻率の低下が最も目立つのは高卒以下の層だ。労働・中流階級でも低迷しており、調査では家族の崩壊が一因であることが示されている。
  ピュー・リサーチ・センターによると、18歳以上の米国人に既婚者が占める割合は2014年に50%程度となり、1960年の72%から低下した。学歴が比較的低い層で落ち込みが際立っている。ブルッキングス研究所によれば、14年時点で40代前半までに結婚している大卒女性の割合は75%近くに上るが、高卒女性では60%未満にとどまった。
  結婚式はラスベガスの年間の訪問者の約4%を引き付けており、同市のアイデンティティーにとって不可欠だ。同市の結婚業界を守る取り組みは奏功しているように見え、結婚許可証の発行件数はここ数年で安定化している。14年にネバダ州で合法化された同性婚が増加していることも一因だ。

結婚証明書に署名するオーガスト氏
Photographer: Jonnie Chambers for Bloomberg
  1999年から2011年までラスベガス市長を務めたオスカー・グッドマン氏は、明るい兆候さえ見いだしている。今のように結婚する人が減少する時代には、カジノなどでの娯楽に金を費やす独身者が増えることが期待できるという。
  「結婚のために来る人もいれば、結婚を避けるために来る人もいる。ラスベガスに対して悲観的になる必要はない」とグッドマン氏は話した。
原題:Elvis Has Front-Row Seat as Vegas Confronts U.S. Marriage Divide(抜粋)

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-07-24/OTKW026TTDS201

 


アメリカ労働市場をむしばむ「オピオイド系鎮痛剤」
Jeanna Smialek
2017年7月21日 01:45 JST 
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労働参加率の低下と関係があると考える−イエレンFRB議長
採用候補者の半数、犯歴あるか薬物検査で陽性−工場経営者
 
米国の労働市場をむしばむオピオイド系鎮痛剤の中毒は、イエレン連邦準備制度理事会(FRB)議長も無視できないほどに影響が拡大している。
  ペンシルベニア州ジョンズタウンで工場を経営するビル・ポラチェク氏は数年前、機械工と溶接士の採用候補者を100人に絞ったところ、犯罪歴がある、あるいは薬物検査で陽性反応が出た候補者が半数を占めた。「適性のある人材が来てくれない」と同氏は嘆く。
  オピオイド中毒の問題がアメリカ社会で深刻化するにつれ、雇用主が抱える人材難の問題も拡大している。イエレン議長は先週の上院公聴会で、この問題について時間を割いた。オピオイド中毒が雇用の妨げになっていると報告した地区連銀も複数ある。

オピオイド乱用者
  FRBが通常なら管轄外の薬物中毒問題を気にする理由は2つ。一つは、働き盛り世代の労働参加率が歴史的に低い現状を理解する上で重要だということ。もう一つは、この数年にコミュニティーと労働力動向への関心を高めているFRBとしては、オピオイド危機は全米の人的リソースを損なう悲痛な現実であるということだ。

  米薬物乱用・精神衛生管理庁によると、2015年時点で26歳以上の成人推定270万人が鎮痛剤を乱用していた。これとは別に現在では23万6000人がヘロインを使っている。
  イエレン議長は先週の上院証言でオピオイド中毒について問われ、「働き盛り世代で労働参加率が低下していることと関係があると考えている」と発言。「問題はコミュニティーをむしばみ、雇用の機会が低下している労働者に特に影響している。これが偶然なのか、あるいは長期的な経済への弊害なのかは分からない」と続けた。
原題:Here’s Why Yellen’s Fed Cares About America’s Opioid Epidemic(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-07-20/OTEBN06JIJUP01


 


米国の労働力損なう鎮痛剤… オピオイド中毒が深刻化 死亡率上昇は「極めて異例」
2017.7.22 06:14

 米国の働き盛り世代を中心に広がるオピオイド系鎮痛剤の中毒は、米金融政策当局も無視できないほどに影響が拡大している。複数の地区連銀はオピオイド中毒が雇用を阻害する要因になっていると報告。イエレン米連邦準備制度理事会(FRB)議長が議会公聴会でこの問題に言及するなど、米国の労働市場をむしばむ危機となっている。

 陽性反応が半数

 ペンシルベニア州ジョンズタウンで工場を経営するビル・ポラチェク氏は、機械工と溶接士の採用候補者を100人に絞ったところ、犯罪歴がある、あるいは薬物検査で陽性反応が出た候補者が半数を占めたと明かす。「適性のある人材が来てくれない」と同氏は嘆いた。

 オピオイド中毒の問題がアメリカ社会で深刻化するにつれ、雇用主が抱える人材難の問題も拡大している。イエレン議長は先週の上院公聴会で、この問題について時間を割いた。

 イエレン議長は上院証言でオピオイド中毒について問われ、「働き盛り世代で労働参加率が低下していることと関係があると考えている。問題はコミュニティーをむしばみ、雇用の機会が低下している労働者に特に影響している。これが偶然なのか、長期的な経済への弊害なのかは分からない」と語った。

 FRBが通常なら管轄外の薬物中毒問題を気にする理由は2つ。一つは、働き盛り世代の労働参加率が歴史的に低い現状を理解する上で重要だということ。もう一つは、この数年にコミュニティーと労働力動向への関心を高めているFRBとしては、オピオイド危機は全米の人的資源を損なう悲痛な現実であるということだ。

 米薬物乱用・精神衛生管理庁によると、2015年時点の推定で26歳以上の成人270万人が鎮痛剤を乱用していた。これとは別に現在では23万6000人がヘロインを使っている。また、失業者のうちオピオイド乱用者の割合は10%程度と、米国人労働者に占める乱用者の割合を大きく上回ることが分かった。

 死亡率上昇「異例」

 イエレン氏はまた、「死亡率は上昇しており、これは極めて異例なことだ。この一因にオピオイドの過剰摂取があることは、極めて深刻で痛ましい問題だ」との見解も示した。

 オピオイド中毒をめぐる調査では、地区連銀は主導的な役割こそ果たしていないものの、次第にその影響について注目し始めている。

 今月公表された地区連銀経済報告(ベージュブック)で、セントルイス連銀は「経験あるいは適性のある従業員を見つけるのは難しいとルイビルやメンフィスの製造業関係者は話している。薬物検査をクリアできない候補者すらいる」と報告した。

 また、ボストン連銀は昨年9月に米北東部ニューイングランド地方経済の失望感とオピオイド使用の関連性についての調査を発表した。

 クリーブランド連銀は、先月主催したイベントでオピオイドをテーマにしたパネルディスカッションを開催。同連銀のアドバイザーを務めるカイル・フィー氏は「われわれが管轄する地域はオピオイド中毒問題の震源地だ」と発言。同連銀の別の関係者は「オピオイド中毒の問題はこのパネルディスカッションにとどまらず、イベント全体を通じて議論された」と話した。

 実業界からもオピオイドが経済をリスクにさらしていると懸念の声が上がっている。

 米銀JPモルガン・チェースのダイモン最高経営責任者(CEO)は先週のアナリスト向け会議で、米企業のビジネスが妨げられているとして米政府に対するさまざまな不満を吐露したが、その中でオピオイド中毒にも言及。「年間3万5000人もの死者が出ている」と当局の無策を批判した。フィラデルフィア連銀の管轄地域でも、中毒が採用活動の障壁になっていると企業経営者が訴えている。(ブルームバーグ Jeanna Smialek)
http://www.sankeibiz.jp/macro/news/170722/mcb1707220500001-n1.htm

反米勢力が資金作りと米国社会崩壊の為に、色々と仕掛けている。日本では、朝鮮ヤクザが覚醒剤を売って同じことをしている。さらに、日本を乗っ取る手段の一つにも使っている。記事をクリップするクリップ追加
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2017/7/22(土) 午前 8:35
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アメリカ労働市場をむしばむ「オピオイド系鎮痛剤」
Jeanna Smialek
2017年7月21日 01:45 JST

労働参加率の低下と関係があると考える−イエレンFRB議長
採用候補者の半数、犯歴あるか薬物検査で陽性−工場経営者
米国の労働市場をむしばむオピオイド系鎮痛剤の中毒は、イエレン連邦準備制度理事会(FRB)議長も無視できないほどに影響が拡大している。
  ペンシルベニア州ジョンズタウンで工場を経営するビル・ポラチェク氏は数年前、機械工と溶接士の採用候補者を100人に絞ったところ、犯罪歴がある、あるいは薬物検査で陽性反応が出た候補者が半数を占めた。「適性のある人材が来てくれない」と同氏は嘆く。
  オピオイド中毒の問題がアメリカ社会で深刻化するにつれ、雇用主が抱える人材難の問題も拡大している。イエレン議長は先週の上院公聴会で、この問題について時間を割いた。オピオイド中毒が雇用の妨げになっていると報告した地区連銀も複数ある。

オピオイド乱用者
  FRBが通常なら管轄外の薬物中毒問題を気にする理由は2つ。一つは、働き盛り世代の労働参加率が歴史的に低い現状を理解する上で重要だということ。もう一つは、この数年にコミュニティーと労働力動向への関心を高めているFRBとしては、オピオイド危機は全米の人的リソースを損なう悲痛な現実であるということだ。

  米薬物乱用・精神衛生管理庁によると、2015年時点で26歳以上の成人推定270万人が鎮痛剤を乱用していた。これとは別に現在では23万6000人がヘロインを使っている。
  イエレン議長は先週の上院証言でオピオイド中毒について問われ、「働き盛り世代で労働参加率が低下していることと関係があると考えている」と発言。「問題はコミュニティーをむしばみ、雇用の機会が低下している労働者に特に影響している。これが偶然なのか、あるいは長期的な経済への弊害なのかは分からない」と続けた。
原題:Here’s Why Yellen’s Fed Cares About America’s Opioid Epidemic(抜粋)

このような攻撃に対する防御は、厳しい取り締まりだけでは足りない。国民の精神を強くしなければならない。日本人なら、毎日一回以上天皇陛下に手を合わすべきだ。形式は問わない。物理的に手を合わす必要さえない。たったこれだけで心が強化されて行く。ただし、時間はかかる。一生かけて取り組んでほしい。
https://blogs.yahoo.co.jp/matarou5963/18574572.html

IMFの最新世界経済見通し、「米国第一」主義の効果を想定せず
Andrew Mayeda
2017年7月24日 12:00 JST
関連ニュース
バークレイズ最高級株式リサーチ5050万円−金・銀・青銅3コース
ドルが一時1カ月ぶり111円台割れ、米政権不透明感で−下値は限定的
田辺三菱:イスラエルのニューロダームの買収で合意−1252億円
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世界経済の成長率は4月時点から据え置き、米英を下方修正
中国と日本、ユーロ圏、カナダの17年成長率予想を引き上げ

国際通貨基金(IMF)によると、世界経済の回復は経済規模で世界一の米国に依存しなくなりつつある。
  IMFが24日、クアラルンプールで公表した最新の世界経済見通し(WEO)によれば、今年の世界の成長率は3.5%となり、2016年の3.2%から加速する見通し。18年は3.6%成長を見込む。IMFは今年と来年の見通しを4月時点の予測と同じ水準としたが、回復のけん引役は変化している。IMFによると、世界景気の回復は経済規模が世界最大の米国や、英国への依存度が低下する一方、中国と日本、ユーロ圏、カナダへの依存を強めている。
  ドルは先週、1年2カ月ぶりの安値を付けた。米上院共和党によるヘルスケア改革の取り組みが頓挫したのを受け、トランプ政権の経済政策課題の遂行能力を投資家は割り引いて考えている。
  IMFは米経済の今年と来年の成長率をいずれも2.1%とし、6月27日に公表した米経済年次審査報告と同じ水準とした。4月時点では今年は2.3%、来年は2.5%の成長を見込んでいた。16年の成長率は1.6%だった。
財政政策
  IMFは「米経済成長率が4月時点の予想を下回るのは、財政政策が従来の予想よりも景気拡大につながりにくいとの想定を主に反映している」と説明した。IMFは6月、トランプ政権の減税とインフラ支出増大の計画が成長率を押し上げるとの想定を予測から除外したことを明らかにしていた。
  また、欧州連合(EU)離脱交渉を進める英国については、予想より低調だった1−3月(第1四半期)の経済活動を理由に今年の成長率予想を0.3ポイント引き下げ1.7%に修正した。
  米英のこうした伸び悩みは他国が補っている。IMFは中国の今年の成長率予想を6.7%と、6月14日に公表したスタッフの年次報告と同水準とし、4月の予想から0.1ポイント引き上げた。18年は6.4%成長を予想し、3カ月前から0.2ポイント上方修正した。年次報告では、中国の18ー20年の年平均成長率を6.4%と予想していた。
  日本の今年の成長率予想は1.3%と、4月時点から0.1ポイント引き上げたが、18年の予想は0.6%とし、4月時点と同じ水準に据え置いた。
  ユーロ圏全体の今年の成長率予想は1.9%と、3カ月前より0.2ポイント上方修正し、18年については3カ月前より0.1ポイント高い1.7%とした。
  カナダは主要7カ国(G7)の今年の成長をリードする見通し。IMFは今年の成長率を2.5%と、4月時点より0.6ポイント上方修正。来年については4月時点より0.1ポイント低い1.9%と予想した。
  世界の見通しに対するリスクは短期的に「総じて均衡」しているが、中期的なリスクは下方に傾いているとIMFは論じた。
原題:America First No More as IMF Sees U.S. Fading as Growth Engine(抜粋)

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-07-24/OTKOMY6S972901
http://www.asyura2.com/17/kokusai20/msg/143.html

[国際20] 「レッドライン」を越えてきた強気の北朝鮮 足元を見られるトランプ大統領は国内でも一層窮地に  トランプ政策の皮肉な副産物
「レッドライン」を越えてきた強気の北朝鮮
 

足元を見られるトランプ大統領は国内でも一層窮地に
2017年7月25日(火)
上野 泰也

北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は、ICBMの発射実験成功の後、「米国の敵視政策や核の威嚇が根本的に清算されない限り、われわれはいかなる場合にも、核と弾道ミサイルを交渉のテーブルに上げない」と述べて交渉を拒否。強気の姿勢を崩さない。(写真:AP/アフロ)
強気の理由は「武力行使はない」と見ているから

 筆者は6月6日に配信された当コラム「何が起きれば『恐怖指数』は急上昇するのか? 北朝鮮の『レッドライン』と『ロシアゲート』疑惑」の中で、北朝鮮に対し武力行使に踏み切る「レッドライン」を米トランプ政権はあえて明示していないものの、米政府高官の発言などから、@核実験、A大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射、B米軍基地への先制攻撃の3つが実質的な「レッドライン」とみられるとした。

 その後、米国の独立記念日(7月4日)に北朝鮮は弾道ミサイルを発射。米軍筋などは当初は中距離弾道ミサイルだと推定していたが、北朝鮮当局がICBM「火星14」発射に成功したと発表すると、米国も飛距離5500km以上のICBMだと認めた(韓国の国家情報院は中距離ミサイル改良型だとしている)。ハワイやアラスカにも届くとみられており、米ジョンズ・ホプキンズ大高等国際問題研究大学院の米韓研究所によると、試験と開発が進めば1〜2年で核弾頭1発を搭載し米西海岸を射程に収めるミサイルになり得るという。

 こうした状況になってもトランプ政権の動きは鈍く、武力行使に踏み切る兆候はない。そして、米国の足元を見て(武力行使はないと見透かして)、北朝鮮は強気に出ている可能性が高い。

北朝鮮が反撃すれば、日韓に多大な被害

 武力行使の手法で最も有力なのは、巡航ミサイルによる核施設・ミサイル発射基地空爆だろう。だが、それをためらわせる要因として、@ターゲットを事前に全て捕捉して同時攻撃することの難しさ(核施設は地下にも存在するし、ミサイルは移動発射台の場合もある)、A北朝鮮の強力な砲兵部隊が報復措置として韓国を砲撃した場合に想定される甚大な被害、B左記ともリンクしている韓国・文在寅政権の対北朝鮮武力行使への強い反対姿勢、C国連決議がなく中国・ロシアの事前の了承もないまま攻撃する場合のこれら両国と米国の関係悪化、以上4点を指摘することができる。

 ワシントンの軍事筋によると、トランプ政権は北朝鮮の核・ミサイル関連施設への先制攻撃や、北朝鮮船舶が出入港するのを阻止する海上封鎖などをかつて検討したが、北朝鮮の反撃によって韓国や日本に多大な被害が出ることから「現実的ではない」と判断されたという(7月6日 朝日新聞)。マティス米国防長官は6日、「(北朝鮮によるICBM発射自体で)われわれが戦争に近づいたわけではない」と述べ、外交的解決の模索を確認した。

金委員長「核戦力強化の道から一歩も引かない」

 金正恩朝鮮労働党委員長はICBM発射に成功した後、「米国の(北朝鮮への)敵視政策と核の威嚇が根本的に清算されない限り、われわれはいかなる場合にも、核と弾道ミサイルを交渉のテーブルに上げない」「核戦力強化の道から一歩も引かない」と述べた。このため、次は6度目の核実験強行で米国を揺さぶるのではないかという見方が出ている。もしそうなれば、実質的「レッドライン」の2つめが越えられたことになり、緊張が高まるわけだが、すでに述べた理由から米国による武力行使は予想し難い。

 この間、中朝貿易関係者の間では2年後には制裁が緩和されるとの期待感が広がっており、北朝鮮当局は2年程度で対米交渉により局面を打開する戦略を描いている可能性があるという(7月12日 毎日新聞)。

 7月11日のウォールストリートジャーナル(アジア版)はコラムで、安全保障問題で経験豊富なロバート・ゲーツ元国防長官の対北朝鮮政策案を取り上げた。北朝鮮に体制維持保証を与えることも含め、まず中国との間で包括的で高度な合意に至った上で、実効性ある査察も交えて北朝鮮の核を封じ込める。中国が北朝鮮説得に失敗した場合、米国はミサイル防衛網拡充などで中国との対決姿勢を強めるというものである。

中途半端な緊張状態が、しばらく続きそうな雲行き

 ほかに、経済・金融制裁強化、中国による北朝鮮への原油供給停止などのアイディアは出ている。だが、いずれも切り札にはなりにくい(後者はロシアが抜け道になり続けると実効性は低下する)。中途半端な緊張状態が、しばらく続きそうな雲行きである

 北朝鮮リスクの封じ込めがうまくいかず、中国からはこの問題で一方的に責任を押し付けられることへの不満の声が出始めている中、国内政治的にもトランプ大統領の立場はますます苦しくなっており、「トランプ包囲網」がじわじわ狭まっているようにも見える。

 1月20日の就任式からもうすぐ半年になるが、態勢立て直しはいっこうに進まず、支持率が上向く兆しもない。議会民主党との対立は激しく、CNNなど国内大手マスコミとの関係は悪化したままである。

トランプ長男のロシア問題は深刻度が高い

 これは大統領にとってかなり大きなダメージだと筆者がすぐ考えたのが、7月9日にニューヨークタイムズ(電子版)が報じた、大統領の長男ドナルド・トランプ・ジュニア氏とロシア人弁護士ナタリア・ベセルニツカヤ氏の面談である。時期は大統領選挙期間中の昨年6月9日で、当時選対本部議長だったポール・マナフォート氏と、トランプ氏の娘婿であるジャレッド・クシュナー氏が同席した。その後公表された電子メールからは、仲介者が「ロシアの検事総長が、クリントン氏を有罪にする公文書や情報、同氏のロシアへの対応に関する情報をトランプ陣営に提供すると申し出た。非常に高度な機密情報なのは明らかで、ロシア政府によるトランプ氏支援の一環だ」と伝えると、トランプ・ジュニア氏が「感謝する。あなたの言う通りなら、今夏の後半だと素晴らしい」と返信したことがわかり、グラム上院議員(共和党)は「これまでの疑惑の中で最大の問題だ」とした(7月13日 日本経済新聞)。

相応の根拠が見出されれば「弾劾」もある

 これに対しトランプ大統領はツイッターで「これは政治史上最大の魔女狩りだ」としつつ、ロイターに対し7月12日、この面談のことは2〜3日前まで知らなかったと述べた。だが、家族とのつながりを人一倍大切にしているとされる大統領が、こうした重大なことを本当に何も知らないままだったとは考えにくい。

 ロシア政府による米大統領選への干渉をトランプ氏が容認(黙認)し、これと共謀して選挙に勝とうとしていたことが立証される、あるいはそうした疑惑に相応の根拠が見出される場合は、議会が大統領弾劾手続きに着手する可能性が格段に高まる。

 こうした「ロシアゲート」疑惑の拡大をうけて、民主党全国委員会は「トランプ陣営がロシアと共謀したがっていたことに疑問の余地はない」との声明を発表。昨年の大統領選で副大統領候補だったケーン上院議員は「反逆罪の可能性もある」とした(7月12日 時事通信)。

一方、大統領を見捨てる行動をとれば、再選が難しくなる

 もっとも、来年秋に中間選挙を控えている共和党の下院議員たちが所属政党の大統領をそう簡単に見捨てて弾劾手続きに乗り出すわけにはいかないだろう。以前にも書いたことだが、「ラストベルト」などでトランプ人気が根強い状況が変わらなければ、大統領を見捨てる方向の行動をとった議員は再選が難しくなるという事情がある(当コラム6月13日配信「どうして米国株は最高値を更新しているのか? 『トランプ辞任なら株高』という説もあるが…」ご参照)。

 また、ワシントンポストによると、1996年の大統領選(ビル・クリントン大統領が再選した)で中国政府が選挙結果を左右しようとした疑いが浮上し、FBIや議会が調査したものの、結局のところクリントン陣営や民主党議員の誰も訴追されることはなかったという。

モラー特別検察官がどのような結論を出すか

 米国の刑法では共謀自体は犯罪にならないので、連邦選挙運動法など何らかの法律に抵触していたかどうかを検察当局は調べることになる(7月11日 ロイター)。大統領による司法妨害の疑惑を含め、多方面にわたって調査を行っているとみられるモラー特別検察官が最終的にどのような結論を出すかが、最も大きなポイントになる。

 いずれにせよ、トランプ大統領の政治的な求心力はじわじわ低下しており、財源難から実現困難とみられている大型減税を含む税制改革は、ますます遠のいている。民主党のシャーマン下院議員は7月12日、司法妨害を理由にトランプ大統領の弾劾決議案を提出した。この議案が可決される可能性は現時点ではほとんどないものの、今後は「弾劾」という言葉がこれまでよりも頻繁に、マーケット関連のニュースに登場しそうである。


このコラムについて

上野泰也のエコノミック・ソナー
景気の流れが今後、どう変わっていくのか?先行きを占うのはなかなか難しい。だが、予兆はどこかに必ず現れてくるもの。その小さな変化を見逃さず、確かな情報をキャッチし、いかに分析して将来に備えるか?著名エコノミストの上野泰也氏が独自の視点と勘所を披露しながら、経済の行く末を読み解いていく。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/248790/072000102/


http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/012700108/071900022/
トランプ政策の皮肉な副産物

移民の代わりにロボットへ
2017年7月25日(火)
篠原 匡、長野 光
 「米国第一主義」という旗印の下、移民に対して抑制的な政策を打ち出しているトランプ政権。不法移民の国外追放や取り締まり強化、専門的な技能を持つ外国人に発給される「H-1B」ビザ審査の厳格化、外国人起業家に門戸を開くためにオバマ政権が導入した「スタートアップ・ビザ」の実施延期など、様々なレベルで締め付けを強化している。その狙いの一つは米国人の雇用確保だが、足元で起きている状況を見ると、トランプ大統領の認識とは少し異なる。(下の動画をごらんください)
(ニューヨーク支局 篠原匡、長野光)

https://www.youtube.com/watch?v=q4tZ9iEWooI


 五大湖の一つ、ミシガン湖に接する米中西部ウィスコンシン州。酪農やチーズ生産が盛んなことで知られているが、一方で衛生陶器のコーラーやバイク製造のハーレーダビットソンが同州に本拠を置くなど製造業の集積も進んでいる。最近は同州出身のポール・ライアン下院議長や、トランプ大統領の首席補佐官を務めるラインス・プリーバス氏の関連でこの地名を聞くことも少なくない。そんなウィスコンシン州の製造業は深刻な問題を抱えている。労働力が足りないのだ。

 「セールスの伸びは極めて強いが、このままの状況が続けばビジネスを少し減らす必要があるかもしれない」

 芝刈り機や除雪機で高いシェアを誇るアリエンスのダン・アリエンスCEO(最高経営責任者)はそう語ると顔をしかめた。


芝刈り機や除雪機を製造するアリエンスのダン・アリエンスCEO(上)と製造現場(下)

 新製品の引き合いが予想以上に強く、除雪機で40%、芝刈り機も20%の増産を目指している。そのためには200人の労働者が必要だが、2月から人材募集をかけているのに一向に集まらない。急場を凌ぐため、近隣のグリーンベイからマイクロバスでソマリア難民を連れてきた。また、今の時期は9月からの新学期に向けて学生が休暇に入っているため学生バイトも増やしている。それでも、9月以降に労働力が足りなくなることに変わりはない。

 「人材募集に27万ドルをかけたが、これは前年の10倍だ。来年度も30万ドルの予算を組んでいる」

 これはアリエンスに限った話ではない。同じウィスコンシン州シボイガン郡で発砲材料を用いた製品を手がけるプリマス・フォームも7つの職種で人材を募集中だ。

 「本格的に人手不足が問題になってきたと感じたのは1年ほど前から。失業率が下がるのは嬉しいことだけど……。今後も厳しい状況が続くと思う」。そうデイビッド・ボーランドCEOは打ち明ける。同州の失業率は5月で3.1%と、全米平均(6月で4.4%)を大きく下回る。

 そして、同じような悩みを全米の企業経営者が抱えている。

経済好調の副作用

 アリエンスから西に2400km、ユタ州ソルトレイクシティ。屋根材の販売を手がけるルーファーズ・サプライのステファニー・パパスCEOはトラックドライバーを探すために走り回っている。「この2年間で人手不足が深刻になってきた。今が一番苦しい」。


屋根材を販売するルーファーズ・サプライのステファニー・パパスCEO(上)と作業現場(下)

 労働環境が過酷なトラックドライバーはもともと労働力の確保が難しい。その中でもルーファーズのドライバーは目的地に運ぶだけでなく、建設現場で屋根材を降ろしたり、クレーンで建物の上まで屋根材を上げたり、複雑な作業が求められるため求人のハードルが高い。退役軍人の採用を検討し始めたほか、トラック免許の教習所に求人を出したり、免許の取得をサポートするなどの対応をしているが、必要な人数は確保できていない。

 なぜこのような状況になっているのか。一つは堅調な米国経済だ。

 フィラデルフィア連銀が毎月出しているState Coincident Index。これは非農業部門就業者数や製造業の平均時給、失業率などのデータを元に全米50州の経済状況を示したものだ。過去3カ月の変化を見ると、アラバマ州の3.9%増を筆頭に44州で数値が改善している。

多くの州で景況感が改善している

注:フィラデルフィア連銀が毎月発表しているState Coincident Index。非農業部門就業者数や製造業の平均時給、失業率など4つの統計から算出。3カ月の変化を示している
出所:Federal Reserve Bank of Philadelphia
 全米に目を転じても、2017年第1四半期の実質GDP(国内総生産)成長率は1.4%増にとどまったが、個人消費はいまだ堅調だ。低調だった設備投資もここに来て拡大しており、企業の景況感は悪くない。通商政策をはじめトランプ政権が進める政策には不透明感も漂うが、米経済は今のところ「適温」の状態が続いている。

 ベビーブーマー(1946〜64年生まれ)が退職している影響も大きい。

 米国の労働力における大きな世代の塊として存在していたベビーブーマーだが、2000年代後半以降、退職が目立つようになった。米国の25〜54歳人口は80年代に2%以上の伸びを見せたが、この10年は0.1%に過ぎない。その穴を埋める存在として期待されるミレニアル(80年代〜2000年代初頭生まれ)も労働環境の悪い製造業を嫌って都市に出て行ってしまう。

 「この世代は、親から『大学を出て自分よりもいい仕事に就きなさい』と言われてきた。地元にはベビーブーマーを埋め合わせる人材がいない」。シボイガン郡経済開発公社のデーン・チェコリンスキ氏は語る。

 さらに、移民の流入が鈍化していることも労働力不足に拍車をかける。

 米ピュー・リサーチ・センターによれば、両親ともに米国生まれの米国人が労働市場に流入する数は1990年代以降、減少傾向にある。75〜85年の10年間に25~64歳人口が2003万人増加したのに対して、1985〜95年は1512万人、95〜2005年は1057万人、05〜15年は482万人と大きく減っている。(参考記事:FACTANK『Immigration projected to drive growth in U.S. working-age population through at least 2035』)

 その減少を補ったのは移民だ。実際の流入数を見ても、1995〜2005年は1083万人、05〜15年も612万人と両親ともに米国生まれの米国人を上回っている。だが、移民を送り出してきた国々の経済成長に伴って、米国への流入ペースは鈍化しつつある。そうなると。今後の伸びを支えるのは親とともに米国に来た移民2世だが、親世代の流入が鈍化すれば移民2世の伸びも鈍化する。

移民2世が減少する?

注:単位は百万人。2015年以降は予測
出所:Pew Research Center
 経済面だけを考えれば、移民の流入を促進するような政策を採るべきだが、現在の抑制的な移民政策を考えると移民が急増していくとは考えにくい。しかも、トランプ政権が志向している製造業の米国回帰が進めば人手不足はさらに加速する。トランプ政権は長期的に3%の経済成長を目指しているが、現状では労働力不足が足かせになる可能性が高い。

 もっとも、労働力不足はトランプ政権にとって悪い話ばかりではないかもしれない。トランプ大統領が意図していることではないだろうが、現在の状況が続けば企業は生産性の改善に取り組まざるを得ない。それが結果的にロボット開発のイノベーションを加速させるという期待だ。

 「人類は今、ロボットの活用という面でとてつもない成長を目の当たりにしている」。カリフォルニア大学サンディエゴ校のヘンリック・クリステンセン教授がこう指摘するように、ここ数年、ロボットの活用が急速に広がっている。とりわけ中堅・中小の製造業での導入が目立つ。

 例えば、鉄製のバスケットを製造しているMarlin Steel。同社は米国内のベーグル店向けにバスケットを納入していたが、中国がWTO(世界貿易機関)に加盟した2001年以降、価格競争力の勝る中国企業との競争に晒された。会社を畳むかドラスティックに会社を変革するか――。その二者択一を迫られたMarlin Steelは生産プロセスの自動化を決断。生産性の向上によって、それまでのベーグル店だけでなく、自動車メーカーや医療機器メーカーなどに顧客を広げることが可能になった。

 人手不足に悩んでいるウィスコンシン州のプリマス・フォームも過去1年半でロボットの数を増やした。導入しているのは設定次第で動作を変えることができるフレキシブルなロボットだ。製品数が多く、一つあたりの生産量がそれほど多くない同社にとって、製造プロセスごとに作業を切り替えられないと導入する意味がないからだ。結果的に、他の複雑な作業に従業員を回せるようになった。

 「この数年で使用されるロボットの数は10~15%ほど伸びた。自動車業界が中心だが、中小の製造業がロボットの導入を始めている」

 自動化システムの業界団体、A3(Association for Advancing Automation)の代表、ジェフ・バーンスタイン氏は言う。

 ロボットを開発しているメーカーは先行きに自信を深める。

 人間と一緒に働く協働ロボットを開発しているRethink Robotics。16年に片腕ロボット「Sawyer」を投入したところ、想定以上の引き合いがあったため増産を決めた。「歴史的に自動化は一つの目的のためにカスタマイズされており、大企業以外は活用できなかった。だが、Sawyerは安全かつフレキシブルで、トレーニングも簡単。協働ロボットは労働力不足のギャップを埋める存在になる」。製品・マーケティング担当役員のジム・ロートン氏は語る。


 従来は自動化や省人化が難しかった業界でもロボットの導入が進みつつある。典型的な業界は物流だ。

 「物流センターの作業員は1日に最大12マイル(19.2km)も歩く」。物流センターでの自走型ロボットを開発しているシリコンバレーのベンチャー企業、Fetch Roboticsのマイケル・ファーガスンCTO(最高技術責任者)が語るように、倉庫の労働環境は過酷だが、eコマースの拡大とともに物流センターの数や取扱数量は激増している。倉庫の生産性向上は小売りや物流会社にとって深刻な問題だ。

Fetch Robotics Freight500 in action

『vimeo』動画より
 その中で米アマゾンは12年に倉庫の自動化を手がけていたKiva Systems(現Amazon Robotics)を買収、物流センターの自動化を加速している。カナダの物流コンサル会社、MWPVLの試算によると、Kivaの自動化システムの導入で20%の労働コストの削減につながるという。業界の自動化ニーズは強く、Fetchのようなベンチャーも続々と生まれている。

 将来的な期待の高い業界としてはトラック業界や農業も挙げられる。

 「トラックの中に押し込まれた生活で年収6万ドルなら、最低賃金のウォルマートで働く方がマシだよ」。トラックの自動運転と遠隔操作の技術開発を手がけるStarsky Roboticsの創業者、ステファン・セルツ・アクスマカー氏はこう語る。広大な米国大陸のこと、東海岸から西海岸に行って戻るまでに3週間は拘束される。それでいて、アクスマカーCEOが指摘するように年収は6万〜9万ドルに過ぎない。

 農業も同様だ。カリフォルニア州で野菜や果物の収穫にあたっているのは多くの場合、不法移民だ。作業自体がハードな上に、トランプ大統領の移民政策で労働力の確保が難しくなりつつある。それだけにテクノロジーに対するニーズも強く、様々なスタートアップが研究開発に取り組んでいる。

 Blue River technologyはカメラでレタスの苗を瞬時に見極め、生育不良の苗や雑草にピンポイントで除草剤を散布する装置を開発した。ロボット関連のプロジェクトを数多く抱える非営利の研究機関、SRI Internationalでも、イチゴやリンゴを収穫するロボットの研究を進めている。

 「われわれは人間の生活を楽にするためのロボットを開発している。汚い仕事、辛い仕事を人間から解放することは社会にとって大きなベネフィットだ」。SRIでロボットの研究・開発を取り仕切るナヒド・シドキ・エグゼクティブディレクターは語る。

 ロボット開発が加速している背景には、企業サイドの強いニーズに加えてビジネスモデルの変化もある。これまでロボットメーカーは装置の販売で収益を上げていたが、クラウドビジネスなどと同様、利用時間や台数、利用量などに応じて課金するモデルに変わりつつあるのだ。「これだと初期の設備投資負担が軽く、状況に応じてビジネスを拡大できるため、ユーザーは自動化投資に踏み切りやすい」(シリコンバレーのロボットスタートアップで働くロボット評論家の河本和宏氏)

 労働力が増えないのであれば、生産性を高める以外に経済成長を実現する術はない。だが、米国では生産性の伸びが低迷しており、その部分も制約要因になっている。それが人手不足によって解消されるのであれば、トランプ政権にとっては嬉しい誤算だろう。もちろん、あらゆる業界でロボットが活用されるようになるにはもうしばらく時間がかかる。それでも、今の人材不足が開発を加速させるのは間違いない。「米国人の雇用創出」を訴えるトランプ大統領が求めるものとは違うと思うが。

このコラムについて

トランプのアメリカ〜超大国はどこへ行く

1月20日に第45代米大統領に就任したドナルド・トランプ氏。通商政策や安全保障政策など戦後、米国が進めてきた路線と大きく異なる主張をしているトランプ大統領に対する不安は根強い。トランプ氏は具体的に何を実施し、何を目指しているのか。新大統領が率いるアメリカがどこに向かうのか。それをひもといていこうというコラム。

日経BP社
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[経世済民122] “油断”か“あきらめ”か、失い続ける日本 進む英語力の崩壊、国際化と逆行 各社の改革 生産性を高め時短を実現する工夫

“油断”か“あきらめ”か、失い続ける日本


進む英語力の崩壊、国際化と逆行
2017年7月25日(火)
和田 秀樹
 3か月に一度、精神分析の勉強のためにアメリカに行っている。学者主導で旧態依然とした日本の精神分析と比べて、アメリカでは、それで「飯を食っている」人が多いため、患者たちの変化に合わせて、あるいは、認知行動療法の人気に対抗すべく、精神分析の理論や実践がフレキシブルに変わる。それを習いに、尊敬できる先生のもとに勉強に通っているのだ。

 余談になるが、その日本の精神分析学会から、学会の方針などを決める運営委員に推薦され、立候補を勧める手紙が来た。多少は現状に危機感を感じて、最近の動向を知る気になったのかと立候補したら、ものの見事に最下位で落選だった。1位と2位の人は私の10倍以上の票を取っていたが、留学経験も英文の論文の実績もない人だった。今回立候補した中で英文の査読論文(編集委員がジャッジして採用を決める論文)の実績がある精神科医(英文の論文のある心理士の人も立候補していたが、その人は当選していた)は、私と京都大学の岡野憲一郎先生(日本で私が信頼できる数少ない精神分析医である)だけだったが、岡野氏の地元の近畿地区で最下位落選(関東地区で落選した私の4倍くらいの票を取ってはいたが)だった。日本というのは学会であっても、新しいものや旧来の理論を否定されるのには相当な抵抗があるようだ。

日本製トイレをしのぐアメリカの公衆トイレ


トイレやカーナビ、自動車。日本が強いとされていた産業分野が失われつつある。(©Puwadol Jaturawutthichai-123RF)
 精神分析の勉強のためにアメリカに行くと、その度に発見がある(私が気付くのだって少し遅れるが、日本の多くの人は気付いていないはずだ)。

 今回の発見は、トイレとラジオとカーナビだ。

 トイレについては、ウォッシュレットが世界中で売れ始めたこともあって、日本は最先端と考えられている。確かにアメリカではかなりいいホテルに泊まってもウォッシュレットになっていないし、色々なところのトイレは日本のほうが格段にきれいだ。そもそも公衆便所がアメリカは少なすぎて、私のように歳を取って尿が近くなった人間にはつらい。

 しかし、その公衆便所の男性用トイレが、かなりの割合で「ウォーターフリーテクノロジー」というものになっている。水で流さないのに臭くならないし、汚れもつかないという便器である。水が少ない国が多い中、資源の有効利用という点では高く評価できるし、恐らく小便器の分野では日本製より世界的にずっと売れることだろう。

 的確な無駄遣いの対策という点では、以前はペーパータオルが自動で出てくる機械が手洗いに設置されていることが多かったが、今はダイソンの手の乾燥機がかなり入っていた。ダイソンはいろいろな分野で積極経営をやっているようで驚かされた。

自動車向けラジオやカーナビアプリもアメリカで進化

 続いてラジオについてだが、私はジャズが好きで、アメリカで車を借りると普段はFM専門局にチューンする。選曲もよく、私のお気に入りの局があるのだが、半径80キロくらいがエリアのようで、ちょっと遠出をすると聞こえなくなってしまうのが難点だった。一方、今回借りた車ではFM局の受信機能がなかったので、仕方がなく「SAT Radio」というのを聞いてみた。SATというのはsatelliteの略のようで、衛星を使った自動車向けのラジオ放送のことなのだが、とても使い勝手がいい。

 ジャズだけでも5、6局あり、その中から好きなものを選べる。衛星放送だけあって、今回は500キロくらい遠出をしたのだが、まったく同じ音質でどこでも聞ける(トンネルに入ると聞こえないが)。途中で聞こえなくなって局を変える必要がないのだ。これなら、広大なアメリカのドライバーにも受けるだろう。

 最後は、カーナビについてだ。私はいつもHertzでレンタカーを予約しているのだが、今回から電話予約では、カーナビ付きの車を扱わなくなった(私の借りるクラスだけかもしれないが)という話だった(後述の渋滞情報付きのカーナビアプリを使える機器を貸すシステムに変わったようだ)。

 実際借りてみると、やはりカーナビはついていない。遠出の予定があったので、目の前が真っ暗になったが、以前に渋滞を避けるのに便利と聞いて入れたスマホ向けの「Waze」というカーナビアプリを使ってみた。これが予想外に優れもので、とんでもない裏道を教えてくれる(渋滞を避けるばかりか、移動時間の短縮になる信号のない道まで教えてくれる)。遠出をした際に教えてくれた思いもよらない道はものすごく殺風景だったが、確かに時間は早かった。

 数年前は、アメリカのカーナビには渋滞情報がなかった(今でもレンタカーのカーナビは渋滞情報がついていない)ので、都市部では不便だった。高速道路はタダとは言え混むことが多いのだが、カーナビでは早く着ける一般道も教えてくれない。アメリカはダメだなと思っていたら、ITの時代になるとGPSによる位置情報の精度の良さを活かし、SNSと連携してリアルタイムの投稿を渋滞情報に反映する機能を持つアプリが登場した。そのため、交通取り締まりや何らかの突発的な渋滞まですぐに表示され、予想到着時間に反映される。このシステムが提供されたことで、最も早く到着するルートの割り出しや到着予想時刻の計算も恐ろしく正確になっている。日本の官製の渋滞情報は主要道路しか使えないので、裏道も混んでいるときには役に立たないが、アメリカ企業はその問題もクリアした。

 日本ではGoogleが似たような機能を提供するアプリを提供しているが、まだ情報提供者が少ないのか、普及が遅れているのか、日本では既存のカーナビを使う人が多いように見える。私の経験では、Googleのアプリの到着予測時刻はそんなにあてにならないと感じるが、それでも日本の旧来のカーナビよりはるかに使い勝手がいい。日本のカーナビは世界一とされていたが、地元の日本でも、アメリカの会社に駆逐されるのは時間の問題だろう。

 日本が勝っていると思って油断していると、いろいろな分野で知らないうちに抜かれていることが多いことをまさに痛感した。

国際競争から脱落しつつある日本

 実は、この出国の直前に元経産省の官僚の古賀茂明氏が書いた、安倍政権の戦略ミスで日本が世界で唯一と言っていいくらいEV化で出遅れている、という記事を読んでいた。

 トヨタ自動車ですら水素自動車にこだわったために、本格的なEV発売は2020年くらいになる見通しで、世界の大手メーカーで最後尾の状況になってしまったというのに、EVの技術提携のために買っていたテスラ株を全部売ってしまうことになったというのだ。

 これを古賀氏は安倍政権と経産省の戦略ミスだとしているが、その可能性は十分ある。通産省であれば、日本の産業の方向性を官僚が引っ張っていったとされる(実はそうでもなく民間が優秀だったという説もあるが)が、今は内閣人事局が人事権を握るため、政権に気に入られるような無難な政策しか打ち出せない。そもそも、マスコミの官僚たたきで待遇が悪くなっている上、政治家(政権)に忖度しないと出世できないので、優秀な人材はバカバカしくて外資系企業などに流れているという話も聞く。

 ただ、私の見るところ、アベノミクスの最大の欠点は未来志向でないことだ。

 円安は旧態依然とした輸出産業を助けたが、逆に円高でも勝負できる産業の創生には邪魔になった。テスラにしても、当初は10万ドルもする車を出していた。新しいものなら高くても買うはずだという気概を何よりも評価する。円安歓迎というのは、逆にいうと高いと売れない、安くしないと買ってもらえないというマインドの裏返しだからだ。日本だって、ゲームやアニメ、医療なら1ドル50円でも勝負できる。円安でないと生き残れない産業を切って、円高でも勝てる産業を育成すれば、日本のGDPはドル建てで倍になり得たと私は信じている。

 というのは、円安で儲かった輸出産業はろくに設備投資をせずに、内部留保ばかりを増やしている。こんな会社に未来があるとは思えない。金融政策にしても、いくら低金利にしても相変わらず銀行の審査が厳しいので、なかなかベンチャー産業が出てこない。お札を刷って、低金利にすること以上に、政府が保証してベンチャーに金が回るようにしなければ未来志向の金融政策とは言えないだろう。

 今の日本では「あきらめ」が蔓延し、人々の上昇志向もかなり低下している印象だ。そのため、なかなか新産業が生まれてこないし、消費マインドも冷え込んでいるから内需もなかなか伸びない。そのうえ、肝心の国際競争力までこの体たらくでは、日本の先行きが本当に不安になる。少なくとも「あきらめ」ていない人への積極支援は必須だろう。

英語力の低下も深刻

 諸行無常とはよくいったもので、今、圧倒的に勝っているものでも油断しているとすぐにボロボロになるというのは、平安時代(鎌倉時代というほうが正確かもしれないが)からの戒めである。そのマインドが日本人に欠落してきたのではないだろうか?

 円高時代にトヨタが赤字になったことがあるように、日本の自動車産業が世界で勝てているというのも、実は、そろそろ怪しくなっているのかもしれない。それが円安政策で見えなくなっているとしたら、むしろそのほうが危険だ。

 勝っていると思って油断していたら、もう世界で勝負できなくなったものはいくらでもある。液晶にしても日本のトップメーカーが台湾の会社に買われるし(その後業績が急回復したのは皮肉だが)、有機ELはアメリカの発明だが、2007年にソニーが世界初の有機ELテレビを発売するなど、日本が圧倒的に強い分野だった。それが今やサムソンに勝てないという。写メールのころは海外の携帯電話は、何の機能もついていないに等しかったが、今はスマホは日本でも日本製のシェアが低い。私は愛国者のつもりで最近日本製のスマホに買い換えたが、タッチパネルのセンサーの性能が悪くて、まともに電話に出られないし、誤作動も前の機種より多い。

 勝っているという油断以上に怖いのは、勝っていないのに勝っているという誤解から、もっと負けることだ。

 日本人の英語力についての批判は「読み書きはできるが、聴く話すはできない」だったが、そんなことを言っている時代からTOEFLの日本人の平均点は読み書きでもアジアで最低レベルだった。実際、英字新聞を読む大学生は、東大生でもほとんどいなかった。話せないというが、自分の言いたいことを書ける日本人がどれだけいたというのだろうか。

 それなのに、読み書きの授業時間を削って、オーラルコミュニケーションなるものの時間を増やした。日本人の英語力崩壊は進み、短期を除く日本からの留学生は減っているのが実情だ。まさに国際化と逆行する結果となったのだ。

 日本人は「従来型の学力」は高いが、表現力や創造性に欠けるという理由から、2020年からはすべての国立大学をAO入試化する改革が予定されている。しかし、すでに従来型の学力でも韓国や中国や台湾に抜かれているというデータはいくらでもある。

 ノーベル賞の数で、中国や韓国に勝っているつもりになっている人がいるが、それは10〜20年前の日本の研究力が勝っていたという話で、今の勝ちではない。実際に、引用数の多い雑誌に載る論文の数では、中国にはるかに抜かれている。

 もうこれ以上の油断をやめないと日本はとんだ後進国になりかねない。少なくとも英語を読む力は負けているという自覚だけはもって、外国の情報に触れ続けるのと、勉強を続けるのが個人でできるサバイバル術と言えるだろう。東大卒であれ、東大教授であれ、油断して大学に入ってから、あるいは教授になってから勉強しなければ、はるかに下の学歴や肩書きの人に負けるのは当然のことなのだから。


このコラムについて

和田秀樹 サバイバルのための思考法
国際化、高齢化が進み、ストレスフルな社会であなたはサバイバルできますか? 厳しい時代を生き抜くアイデアや仕事術、思考法などを幅広く伝授します。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/122600095/072100013/?

 


時間配分を発表、円卓の導入…各社の改革テク
 

生産性を高め、時短を実現する工夫
2017年7月25日(火)
吉岡 陽、西 雄大
 日本企業の多くが実践する働き方改革。残業を禁止し強引に退社させたり、無駄な会議を減らしたりすることに取り組んでいる。だが、生産性が高まる取り組みをせず、勤務時間だけを制限してしまうと、企業の競争力を落としかねない。日経ビジネス7月24日号特集「便乗時短 やってはいけない働き方改革」で、生産性を高めつつ時短の働き方を実現できた事例を紹介したが、まだまだある。

 そのひとつが革製品の販売やシェアハウスの運営などを手がけるボーダレス・ジャパン(福岡市)だ。同社のオフィスには大きな机があり、社員はジグザグに座っている。正面に顔を合わせることはないが、すぐに話しかけられる状態を作っている。同社は9時始業で、18時終業が定時。どうしても残業が必要な時は19時まででそれ以降は認めない。

 ボーダレス・ジャパンでは朝礼で残業するかどうか決まる。始業時に1人ずつ朝からどの作業に何時間かけるのか発表する。それぞれ「デザイン検討に1時間」「資料作成に1時間30分」といった具合だ。8時間分の業務内容を発表する。

 マネージャーがメンバーの発表内容を聞きながら、明日に繰り越したり、時間配分を変えたりする指示を出す。

悩んだらすぐに全員集合

 がむしゃらと言っても、8時間無言で働き続けるわけではない。むしろよく話す。業務中に悩みごとができると、周りの人に相談ができる。1回あたり15分ほどで、招集がかかると全員手を止めて一緒に考えなければならない。もし他者からの相談に対応することで、自分の業務が明日へ持ち越しになっても構わないルールになっている。

 田口一成社長は「作業スピードはどんなに頑張っても大して上がらない。むしろ、アイデアに行き詰った時に考えている時間と間違えた判断をしてしまい、気づくまでの時間が無駄。短時間でメンバーが集まって話をした方が結果的に時短になる」と話す。

 田口社長は新卒でミスミに入社。新規事業の立ち上げなどで毎日深夜まで働いていた。田口社長は「人間は集中できる時間が限られている。長く働いてもダラダラしてしまうだけ」と話す。

 2007年の起業時からこうした働き方を取り入れてきた。台湾や韓国など海外事業においても働き方改革を強化していく考えだ。


ボーダレス・ジャパンではジグザグに座って、気軽に話しかけやすい雰囲気を作る(写真撮影:菅敏一)
会議不要の「円卓」職場

 ボーダレス・ジャパンのように生産性を高めるにはオフィスレイアウトがカギを握る。人気のフリマアプリを運営するメルカリ(東京都港区)もオフィスレイアウトにこだわっている。2015年に同社のオフィスに取り入れたのが「円卓」だ。

 メルカリではフリーアドレス制を採用しており、社員は基本的にオフィスのどの席で仕事をしてもいい。オフィスの2〜3割を、4〜5人が余裕を持って座れる大きめの円卓が占めている。

 「円卓には、コミュニケーションを活性化する心理的効果があることが知られている」(心理カウンセラー)。円卓に座る全員の顔が見え、四角い机に比べて丸い形状は気持ちをリラックスさせるという。中華料理が円卓で振る舞われるのもこのためだ。

 円卓には、新サービスの開発など、同じプロジェクトに関わるメンバーなどが集まって仕事をする。互いに声がかけやすく、相談したいことがあれば、その場で打ち合わせができる。会議の時間を確保したり、皆でぞろぞろと会議室に移動したりする必要もない。アイデアを思いついたらその場で共有し、問題があればメンバーが互いの知識を持ち寄ってすぐに解決する。

 パーティションで区切った個室感覚のオフィスの方が、集中力が高まり仕事の効率が上がると一見思えるが、実際には一人だけで完結する仕事はごく一部。しかも、日々様々な課題やトラブルが発生する。

 特に、「『ドッグイヤー』で動いているIT業界では、1つひとつの作業や意思決定のスピードが命だ」(メルカリの掛川紗矢香執行役員)。細かく区切ったオフィスでバラバラに仕事をするよりも、1カ所に集まった方が、仕事の効率は高まる。それがメルカリが出した結論だ。もちろん、静かに1人で集中して作業したい時もある。そういう場合は、周りに人の少ない席やオフィスの端の休憩スペースなど、好きな場所で作業できる。

 社員同士のコミュニケーションを重視するメルカリでは、実は在宅勤務も認めていない。IT系の企業では、ITツールを活用して自宅や出先で仕事をする「テレワーク」を認める企業が増えている。それでも同社は、「同じ場所で仕事をする」ことにこだわる。

 グループウェアの「Slack」などのITツールを使って効率的に情報共有する工夫をしているが、それではコミュニケーションの「速さ」と「密度」が不十分だという。「何かトラブルが発生した場合、その場で相手の表情や声から緊急性や重要性を判断できたり、アドバイスした内容をどの程度理解しているかも分かる。

 在宅ではそうはいかない。育児が忙しい社員もいるが、フレックスタイム制や認可外保育所や病児保育に対する補助を制度を設けて、会社に来やすい環境を整えている」(掛川執行役員)。

 生産性向上の手法は各社異なる。ただ共通しているのは、無駄な時間をどう削減するかだ。1人で悩むよりも気軽に話せたり、わざわざ会議を開かずに済んだりすることで残業を抑制している。根本的な残業の原因を断ち切ることで時短となり、成果が出る働き方改革につながっている。


円卓がずらりと並ぶメルカリのオフィス風景(写真撮影:北山宏一)

このコラムについて

便乗時短 やってはいけない働き方改革
「働き方改革は結構だが、会社の活力が落ちている気がしてならない」産業界全体で労働時間の削減が進む中、こんな本音を漏らす経営者が増えている。恐らくその見立ては正しい。残業撲滅のムードに乗じ、やるべき仕事まで減らす“便乗時短”が横行しているからだ。その要因は、多くの企業が進めている働き方改革そのものにある。生産性を上げず、強引に残業を規制するやり方では、社員は仕事を抑制せざるを得ない。まず生産性を上げ、結果として労働時間を減らしていく──。そんな働き方改革を成し遂げるためのタブーなき提言をする。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/072000149/072400002/ 


仕事の無駄は数値でつかむ

サービス業の生産性向上原論

山梨県の健康ランド「クア・アンド・ホテル」の取り組み
2017年7月25日(火)
内藤 耕
山梨県の健康ランドが、4年前から現場改革に取り組んでいる。客数のばらつきに対応するには、どんな働き方ができるか。日々の分析で見つけた無駄を排除し、労働時間を短縮した。

クア・アンド・ホテルが経営する「石和健康ランド」の従業員。働き方を大きく変えた(写真:清水真帆呂、以下同)
 人が足りないと思っていたら、実は人が余っていた。人を適正に配置したら、労働時間も削減できた──。クア・アンド・ホテル(甲府市)が運営する「石和健康ランド」(山梨県笛吹市)は今、大きな手応えをつかんでいる。

 4年前に人員シフトの見直しをはじめとする現場改革をスタートし、2014年度(14年4月〜15年3月)の総労働時間は前年度比95・0%、15年度(15年4月〜16年3月)は同94・7%に減った。


山梨県の石和温泉駅近くにある施設は中高年に人気
「人が足りません!」

 もともと石和健康ランドのシフトは単純だった。

 同施設は24時間営業で、風呂・サウナを中心に飲食やカラオケ、マッサージ、散髪、アミューズメント、宿泊など多種多様なサービスを提供する。以前は持ち場ごとに早番、遅番、深夜の3種類のシフトを組んでいた。

 例えば、「フロント勤務の早番は、午前○時出社、午後○時退社」「風呂場担当の遅番は午前○時出社、午後○時退社」と固定。団体の予約客があるときに出勤人数をやや多めにするといったことすら、していなかったという。

 「お客様が多かろうが少なかろうが、基本的にシフトは同じ。定められた休憩時間になれば、仕事が忙しくても休憩に入る。逆にお客様が少なくて暇を持て余していても、特に何かをしなければいけないとは考えない。そんな職場だった」と、同施設の荒井清隆総支配人は苦笑いする。

 一方、現場のあちこちから、人手不足を訴える声が相次いでいた。同施設のお客の中心は、近隣の中高年。周囲には農家も多く、雨が降ると農作業を切り上げ、骨休めに来館してくれる。こうした日は、どの持ち場も忙しい。

 「お客様が多い日は、うちの部門は残業しないと回りません。人を増やしてください!」という声が絶えなかった。とはいえ、経営側としてはおいそれと増やせない。

 解決策を求め、石和健康ランドでは忙しさを「見える化」することにした。まず、始めたのが、15分単位で1日の仕事内容を全て書き出してもらうことだ。

15分単位で書き出す

 例えば、フロント業務の担当者はこう記入する。

「午前8時台
30分はフロント業務
15分は朝礼
15分は大広間の応援」

 さまざまな持ち場がある同施設では、他部署の応援をすることがよくある。自部署の仕事内容、他部署の応援内容、それらを退社時に15分単位で手書きする。

 この書き出し表の実物が、図1だ。1時間を「1」とし、45分間は「0.75」、30分間は「0.5」、15分間は「0.25」と表記する。1日の作業内容を忘れないように都度、メモを取る社員もいるが、さほどの手間ではない。これにより、正社員41人、パートなどを含めると100人以上いる従業員の働き方が分かるようになった。

図1 フロント従業員の業務書き出し表

※各自がフロント業務に費やした時間を記している。
 他部署の応援、ミーティングなどにかけた時間は別表に記入
 ただしこの表だけでは、社員の「忙しさ」までは分からない。そこでこれを基礎データとし、あらゆるアプローチから分析する。

 図2を見ていただきたい。これは時間帯別で、1日の受付人数とフロントの従業員数を比較したものだ。

 受付人数が少ないのに、フロント人数が多かった時間帯はどこか。その逆で、受付人数が多いのにフロント人数が少なかった時間帯はないか。そうしたギャップを見つけるには、もってこいの図だ。

図2 フロントの時間帯別人員数

忙しい時間帯はどこ?

 ただ、ギャップが現実の忙しさと食い違う部分もある。他部署の応援、あるいは他部署からフロントの応援に来てもらうこともあるからだ。そこでギャップが生じた部分については、実際にどのような働き方だったのかを、先ほどの図1と照合し、確認する。

 石和健康ランドでは毎朝これらの図などを使い、前日の働き方を振り返っている。

 人手が足りなかった時間帯があり、それが残業につながったのだとすれば、どうすれば改善できるか。例えば、忙しい時間帯に人員を厚めにするシフトが組めないか。他部署から応援を頼めないかなどを検討し、実行に移していく。

 逆に人が余っている場合は、受付カウンターを1カ所閉鎖し、浮いた1人が休憩時間や会議資料の作成時間に充てれば、結果的に残業を削減できる。他部署の応援に回り、他部署の労働時間を減らすという働き方もできる。

 「私も含め、社員は『とにかく忙しい』という曖昧な言い方をしなくなり、『午後5時から7時の時間帯にあと1人欲しい』と具体的な議論ができるようになった」と、荒井総支配人は変化を語る。

フロントは「2人減」

 一方、月ごとの検証もする。それが図3だ。

図3 総入館者数とフロントの実働時間(日次集計)

 横軸に総入館者数、縦軸に実働時間を取り、1日ごとに値をプロットする。実働時間とは他部署の応援時間を差し引いた、フロント業務の正味の時間だ。

 総入館者数が増えれば、実働時間もそれに比例して増える。ただそれは理論値で、実際にはきれいに分布しない。


空き時間に玄関を掃除する荒井総支配人。お客のために時間を使う
 仮に比例していれば、図3で示した赤線の近辺に多くの点が集まるが、外れた点もある。そこに人員余剰の可能性が潜んでいる。

 例えば「来館者数が少ないときは人員が多すぎる傾向がある」といったことが分かる。そんなときはシフトの組み方などを根本的に見直すことを検討する。

 ここまですれば、どこに人員の無駄があるかが手に取るように分かり、その対策も見えてくる。石和健康ランドではこうした作業を日々進め、予想来館者数(図4)に合わせてシフトを組んでいる。

図4 来館者数とフロント実働時間の想定・実績比較

 予想来館者数は、基本的に前年の同週同曜日の実績値。販促イベントの予定があれば、人数を増やすなどの微調整を加える。この予想来館者数を基に、日ごとの想定労働時間を算出する。算出方法は簡単で、分かりやすく言えば図3の赤線上に乗るようにする。

 こうして、「○月○日はAさんが午前8時出社で7時間勤務、Bさんは午前9時出社で8時間勤務」というように、できるだけ無駄のないシフトを組む。

 以前のフロント担当は「早番4人、遅番4人、深夜2人」の体制だったが、今では「早番3人、遅番3人、深夜2人」と2人分を減らすことができたという。

仕事の成果物は何か

 さて、ここまでは主にフロント業務を例に話を進めてきたが、他の部門はどうしているのか。基本的な分析手順はフロントと同じだが、指標だけが少し違う。例えば、食事スペースの大広間はこのようにしている。

 フロントは来館者数に対し、人員配置が適正かどうかという視点で見た。しかし、来館した人全員が食事をするわけではないし、食事をしても、軽食で済ますお客もいれば、たくさん食べるお客もいる。そこで大広間では、商品提供数を指標にしている。


フロント業務を見直し、1日10人から8人体制に。残業時間も減らした
 商品提供数が多ければ、それに比例して仕事も忙しい。そこでフロントの図3に相当する大広間のグラフは、横軸に商品提供数、縦軸に実働時間を取っている。

 「それぞれの仕事の成果物は何か、という観点で指標を決めている」と荒井総支配人。フロントは1人でどれだけの受付業務ができるか、大広間はどれだけ料理を運べるかが成果物というわけだ。

 こうした働き方の分析により、石和健康ランドでは、残業を減らしつつ、社員1人当たりの売上高、利益も増加。毎年、賃金のベースアップを続け、賞与も年3回支給する。「経営するほうも、私たち社員にとっても、ハッピーな状態」と、社員たちは皆、満足げだ。

(この記事は「日経トップリーダー」2017年5月号の特集の一部を再編集したものです。記事執筆は日経トップリーダー編集部の北方雅人)


このコラムについて

サービス業の生産性向上原論
日本経済にとって喫緊の課題であるサービス業の生産性向上。長らく議論はされてきたけれど、なかなか有効な方法論が見えてこない。そこで、斯界のプロ、内藤耕氏がサービス業の生産性向上の考え方、進め方を分かりやすく解説します。作業効率化と生産性向上は同じなのか。サービス業と製造業では、生産性を上げる方法は違うのか。目からウロコの「生産性向上原論」をお届けします。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/interview/15/101300010/071200006/p5.png
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/interview/15/101300010/071200006/p7.png
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/interview/15/101300010/071200006
http://www.asyura2.com/17/hasan122/msg/691.html

[経世済民122] 17年度の実質成長率は1.5%、18年度は1.1%成長 中銀総裁の正常化 日銀副総裁:強力な金融緩和推進 FOMC豪中銀
17年度の実質成長率は1.5%、18年度は1.1%成長


2017/7/26 15:12

NEEDS予測 輸出と設備投資は、年後半に底堅さ戻る

 日本経済新聞社の総合経済データバンク「NEEDS」の日本経済モデルに、7月25日までに公表された各種経済指標の情報を織り込んで予測したところ、2017年度の実質成長率は1.5%、18年度は1.1%の見通しとなった。

http://www.nikkei.com/content/pic/20170726/96958A9E93819499E0E49AE28B8DE0E4E2E5E0E2E3E59BE2E2E2E2E2-DSXZZO1927113026072017000000-PN1-2.jpg


 17年4〜6月期の実質国内総生産(GDP)は、前期比0.6%増と6四半期連続のプラス成長となったもよう。実質民間最終消費(個人消費)は回復が続く。公共投資は、遅れていた16年度補正予算関連事業の執行が進み、大幅増になると見込んでいる。また、内閣府が4〜6月期のGDP1次速報推計に用いる民間在庫変動の内訳の見込み値を反映すると、民間在庫変動が実質GDP成長率を0.3 ポイント押し上げる。
 7〜9月期以降も雇用環境は歴史的な良好さが続き、消費を下支えする。17年度の実質成長率は4〜6月期の高い伸びにより16年度を上回り、18年度も堅調な推移を見込む。


■輸出は底堅さを取り戻す

http://www.nikkei.com/content/pic/20170726/96958A9E93819499E0E49AE28B8DE0E4E2E5E0E2E3E59BE2E2E2E2E2-DSXZZO1927115026072017000000-PN1-2.jpg


 17年4〜6月期のGDPベースの実質輸出は同0.8%減を見込んでいる。貿易統計を基に日銀が算出した4〜6月期の実質輸出(季調値)は前期比0.5%減と、5四半期ぶりに前期比マイナスに転じた。しかし、7〜9月期以降は世界経済の堅調を背景に、輸出はプラスの伸びを取り戻すとみている。GDPベースの実質輸出は、17年度は前年度比4.7%増、18年度は同3.1%増を見込んでいる。

■企業の設備計画は伸びを維持
 4〜6月期のGDPベースの実質設備投資は、民間設備投資の先行指標である機械受注(船舶・電力を除く民需、季調値)の動きが弱く、前期比0.1%増でほぼ横ばいとみている。ただ、企業の設備投資計画の前年度比の伸びは高い。日銀が7月3日に発表した6月の全国企業短期経済観測調査(短観)では、17年度の設備投資計画(全規模全産業、ソフトウエア・研究開発を含み土地投資を除く)は前年度比5.7%増だ。同調査の生産・営業用設備判断を見ても、全規模全産業の「先行き」で設備不足感は続いている。投資意欲は底堅く、17年度のGDPベースの設備投資は前年度比2.3%増、18年度も同2.2%増と2%台の伸びが続く見通しだ。


■19年10月の消費増税で19年度は0.7%成長に
 NEEDS予測では、今月から予測期間を19年度まで延長した。19年10月からは消費税率が8%から10%に引き上げられ、同時に軽減税率も導入されると想定している。
 海外経済は米国、欧州、アジアともに安定した成長が続くとみている。19年度の実質公共投資は前年度比5.3%減を見込み、金融政策は現状同様の緩和が維持されると想定している。労働力人口は、15歳以上人口は微減が続くものの、女性や高齢者の労働参加が進むため、横ばい程度で推移するとみている。19年10月の消費税率引き上げがない場合の見通し(ベースライン)では、19年度の個人消費は、雇用・所得環境の安定的な改善に支えられ前年度比1.0%増となる。設備投資や輸出も堅調に推移し、実質GDPも同1.0%増を見込む。
 このベースラインに、消費税率引き上げの影響として物価上昇や、個人消費などの駆け込み需要と反動減などを織り込むと、19年度の実質成長率は0.7%となった。税率引き上げを受けて、19年度の消費者物価(生鮮除く総合)はベースラインより上昇率が0.5ポイント高まり、前年度比1.5%上昇となる見込みだ。
(デジタル事業BtoBユニット)
>> NEEDS日本経済モデルについてはこちら
http://www.nikkei.co.jp/needs/model/
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFK26H0Y_W7A720C1I00000/
 

中銀総裁の正常化、4番バッター不要に
井上哲也野村総合研究所 金融ITイノベーション研究部長
[東京 26日] - 米連邦準備理事会(FRB)のイエレン議長と日銀の黒田東彦総裁の任期は、各々来年の2月と4月に満了を迎える。今年も後半に入り、日米とも任命する側の政治環境にさまざまな変化が見え始めているだけに、後任人事に関する議論もこれから本格的に深まることになろう。

日米の金融政策は、金融政策決定会合(MPM)と連邦公開市場委員会(FOMC)という会議の場で、メンバーによる多数決で決定される。その意味では、中央銀行総裁も、少なくとも金融政策の決定においては会議のメンバーの「ワン・オブ・ゼム」にすぎない。それなのに、FRB議長あるいは日銀総裁の人事に高い注目が集まるのはなぜだろうか。

もちろん、FRB議長や日銀総裁は、組織全体のスタッフを駆使して膨大で緻密な分析を行わせ、それに基づく「議長案」をもって会議に臨むだけに、金融政策の決定に至る議論では主導的な役割を果たすことになる(それでも、メンバー間の意見の対立によって、文字通り僅差の多数決で政策が決定されたこともないわけではない)。

ただ、このように中央銀行総裁に注目が集まるようになったことは、世界的な金融危機から現在に至る中央銀行の政策自体の結果という面もある。

<主役に祭り上げられた中銀総裁>

世界的な金融危機に見舞われた日米の中央銀行総裁は、各国の監督当局や財政当局と連携しつつ、金融システムへの大量の資金供給やクレジット資産の買い支えなど、前例のない内容や規模の対策を果断に実行した。同時に、為替スワップ網の構築や国際的な金融機関の破綻防止などの面で、欧州を含む先進国の間での国際的な政策協調も主導した。

このように緊急性が高く、外部の広範な組織との調整や連携が必要な局面では、多数決による合議よりも、総裁個人による決断力や実行力が重要になることは想像に難くない。実際、当時の市場は、連日のように中央銀行総裁の発言や行動を見せられ続けたわけである。

こうして拡大した中央銀行総裁のイメージは、金融危機が徐々に収束した後にも元には戻らず、むしろ膨張したと言っても過言ではない。理由の1つが、その後の景気回復に向けた大きな役割が、少なくとも結果的には金融政策に委ねられたことにある点は否定できないだろう。金融危機後に特有な低成長と低インフレを解消する上で、政府も市場も中央銀行の対応に多くを依存し続け、中央銀行総裁はその主役に祭り上げられた。

もちろん、中央銀行から見て、こうした受動的な理由ばかりではない。例えば、日米の政策金利がともに名目ゼロの水準に低下した後、両国の中央銀行は国債の買い入れを中心とする「非伝統的金融政策」を大規模に実施したことで、市場における中央銀行のプレゼンスはさまざまな意味で高まった。

最も直接的には、中央銀行が国債市場のような金融市場の中心で巨大なエクスポージャーを有する影響力あるプレーヤーになったことである。例えば、日銀は今や総発行額の4割を超える国債を保有し、イールドカーブ・コントロールの下で長期金利を任意の水準に誘導している。

加えて、日米両国の中央銀行が、先行きの政策運営を予告することで市場の期待に働き掛ける戦略(「フォーワード・ガイダンス」または「時間軸政策」)を常用したことによる影響も大きい。各々の中央銀行が、政策のメッセージを明確にする観点から、FRB議長や日銀総裁による「ワン・ボイス」での発信を意識したこともあり、市場が文字通り彼らの「一挙手一投足」を追い続ける慣習が定着した。

今や、FOMCやMPMの後の定例記者会見にとどまらず、20カ国・地域(G20)や国際決済銀行(BIS)などが開催する国際会議、さらにはこれまでは学者や中央銀行の実務家のみが関係していたセミナーやコンファレンスまで、「市場イベント」として意識されるようになった。

<次は少し地味でも頼りになる6番バッターか>

ただし、こうしたトレンドにも、ここへきて変化の兆しがみられる。日米の中央銀行も国際通貨基金(IMF)やBISのような国際機関もともに、低成長を克服する上では、大規模な金融緩和だけでなく、機動的な財政政策の活用や労働市場などの構造改革、イノベーションの促進といった政策との適切な連携が必要であるとの主張を行うようになり、市場も総じてこうした考え方を支持している。

このように、金融政策が、経済対策の中で突出した主役から「ワン・オブ・ゼム」へと立場を変えていく上では、中央銀行による政府のさまざまな当局との調整や連携が一層重要になることは言うまでもない。

また、FRBは、雇用と物価の改善を背景に、利上げと保有資産の削減を通じた「非伝統的金融政策」からの撤退に先んじて着手している。双方ともに相応の時間を要する作業であるほか、市場や経済の反応には不確実な面が残るだけに、FRBもこれまでのように市場を一方的に「誘導」するやり方ではなく、市場に自らの考えを説明しつつ、市場の声を聞きながら修正を加えるといった本来の「市場との対話」に基づく政策運営に転換することが求められる。

さらに、保有資産の削減に際しても国債市場の安定を維持する上では、上に見た中央銀行と政府との連携や調整の重要性が一層高まることも明らかである。

イエレンFRB議長や黒田日銀総裁の後任者が次の任期中に直面する政策環境がこのように変化していくとすれば、彼らに第一に求められる資質も、決断力や実行力、それらに基づく政策をアピールする力から、経済政策に関して政府と連携し調整する力や、市場との対話に即して金融政策の「正常化」を柔軟かつ忍耐強く進める力へとシフトしていくように思える。

次の時代に求められる中央銀行総裁のイメージは、少し地味だが頼りになる6番バッターのような存在なのかもしれない。

*井上哲也氏は、野村総合研究所の金融ITイノベーション研究部長。1985年東京大学経済学部卒業後、日本銀行に入行。米イエール大学大学院留学(経済学修士)、福井俊彦副総裁(当時)秘書、植田和男審議委員(当時)スタッフなどを経て、2004年に金融市場局外国為替平衡操作担当総括、2006年に金融市場局参事役(国際金融為替市場)に就任。2008年に日銀を退職し、野村総合研究所に入社。主な著書に「異次元緩和―黒田日銀の戦略を読み解く」(日本経済新聞出版社、2013年)など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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中曽日銀副総裁:現在の強力な金融緩和「粘り強く推進していく」

日高正裕
2017年7月26日 11:15 JST 更新日時 2017年7月26日 15:19 JST
金融政策と構造政策がかみ合うことが持続成長軌道に道を開く
2%実現までなお距離があり、日銀はしっかりと受け止める必要ある

日本銀行の中曽宏副総裁は、できるだけ早期に2%の物価目標を実現するよう、現在の強力な金融緩和を「粘り強く推進していく」と述べるとともに、金融政策と政府による政策がしっかりとかみ合うことが「持続的な成長軌道に戻す道を開く」として、政府の対応に期待を示した。

  中曽副総裁は26日午前、広島市内で講演し、物価は景気の改善度合いに比べて弱めの動きとなっており、「2%の実現までなお距離がある」と指摘した。その上で、日銀としてこの点を「しっかりと受け止める必要がある」と述べた。

  物価の先行きについては、マクロ的な需給ギャップが着実に改善していく中、企業の賃金・ 価格設定スタンスが「次第に積極化してくる」上、中長期的な予想物価上昇率も価格引き上げの動きが広がるにつれ、「着実に上昇する」との見方を示した。

  日銀は20日の金融政策決定会合で現状維持を決定。併せて公表した展望リポートで、物価上昇率の2%達成時期を「18年度ごろ」から「19年度ごろ」に先送りした。2013年4月に2年をめどに目標の実現を宣言してから、達成時期の先送りは6回目。黒田東彦総裁は同日の会見で、労働需給のひっ迫や高水準の企業収益に比べ、 企業の賃金・価格設定姿勢が「なお慎重なものにとどまっている」と述べた。

ETF購入なお必要

  中曽副総裁は講演後に行った記者会見で、年間6兆円規模で行っている指数連動型投資信託(ETF)の買い入れについて、2%物価目標をできるだけ早期に実現するために「なお必要」と述べるとともに、「個別銘柄に偏った影響が生じないように工夫している」と語った。

  日銀の巨額のETF購入には、全国銀行協会の平野信行会長(三菱UFJフィナンシャル・グループ社長)が13日の会見で「さまざまな課題も指摘されている」と発言。日本取引所の清田瞭最高経営責任者(CEO)も12日のインタビューで「いつまでも日銀が買っていることが前提になってしまうのは長い目で良くない」と述べるなど、懸念の声が上がっていた。

  中曽副総裁は2%の達成時期が6回にわたり先送りされたことについては、「当局として真摯(しんし)に受け止めたい。批判は率直に受け止める」と語った。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-07-26/OTODFS6JIJUQ01


FOMC声明:注目の的はバランスシート政策に−金利据え置き予想で

Jeanna Smialek、Matthew Boesler
2017年7月26日 14:41 JST
バランスシートの縮小開始の時期でヒントあるか注目
弱めの物価統計が続き、インフレに関する文言の変更も
25、26両日に開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)で何かサプライズがあるとすれば、それはいつからバランスシート縮小に取りかかる計画かについてのニュースとなるだろう。

  米東部時間26日午後2時(日本時間27日午前3時)に声明が発表され、エコノミストは利上げはないと予想している。6月の前回FOMC以降、弱めの物価統計が続いているため、金融当局者はインフレに関する文言を変更する可能はあるが、微調整にとどまるだろう。会合後のイエレン連邦準備制度理事会(FRB)議長による記者会見は予定されていない。

  4兆5000億ドル(約503兆円)規模のバランスシートは主に米国債と住宅ローン絡みの債券で構成されるが、その縮小にいつ着手するかが不確実性の大きな要因となっている。当局者は年内のプロセス開始を見込んでおり、イエレン議長は「比較的早期」に縮小し始める可能性があるとしている。

  イエレン議長が具体的な指針を明らかにしていないことで、エコノミストは発表の機会として9月のFOMCに目を向けていることがブルームバーグの調査で示され、今回のFOMC声明のうちバランスシートに関する部分はそのようなシグナルがないか注目を集めるだろう。

  BNPパリバ・インベストメント・パートナーズのシニアエコノミスト、スティーブン・フリードマン氏(ニューヨーク在勤)は金融当局者について、「彼らは今秋にプロセスを始動させたいもようで、イエレン議長が用いた『比較的早期』といった、制約のないタイプの表現で十分だろう」と指摘。「7月の会合後に市場にプロセス開始に向けた準備をさせるだけの十分な基礎固めを彼らがしたとは思えない」と語った。

原題:Fed Balance Sheet Shifts Into Limelight Absent Rate Hike Urgency(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-07-26/OTON6M6KLVR801


World | 2017年 07月 26日 16:23 JST 関連トピックス: トップニュース
豪中銀総裁が低金利擁護、引き締めで他中銀に追随しない方針
  [シドニー 26日 ロイター] - 豪準備銀行(RBA)のロウ総裁は26日、インフレはまだ見通しに達しておらず、政策金利を過去最低水準に維持することに「非常に満足している」と述べた。

また、労働市場の最近の上向き傾向を歓迎する一方、賃金の伸び悩みと、高水準の家計債務を踏まえると、政策金利はより長期的に低位に維持されるとの認識を示した。

総裁はシドニーで開かれた昼食会で「現在の政策は雇用を創出しており、非常に満足している」と語った。

この日発表された第2・四半期の豪消費者物価指数(CPI)統計では、中銀の重視するコアインフレ率が中銀の目標(2─3%)を6四半期連続で下回った。

こうした低調な数字にロウ総裁のコメントを併せ考えると、カナダ中銀の利上げ後に高まった国内での利上げ観測が大きく後退する可能性もある。

コムセックの主任エコノミスト、クレイグ・ジェームズ氏は「上下いずれかへの金利の変更を正当化する決定的要因はない」と指摘した。

一方、6月の豪雇用統計は4カ月連続で改善。フルタイムの就業者が大幅に増え、失業率は5.6%だった。

その他の統計も豪経済が総じて堅調であることを示唆している。

ただ賃金の伸びは1.9%とかつてない低さ。より長時間の労働を希望する人の割合を示す不完全就業率は過去最高に近い水準で、インフレ率が中銀目標の2─3%に届かない要因となっている。

総裁は「われわれは労働市場がかなりの雇用を創出し、失業率の上昇が抑制されていることで忍耐強くなれている」と述べた。

豪中銀は、インフレ圧力が弱く、家計の債務比率が過去最高にあることを理由に、政策金利を過去最低の1.50%に据え置いている。

総裁は「中銀が家計のバランスシートを注視していることは周知の事実だ。家計の債務水準は高く、異例に遅い賃金の伸びを上回る水準で拡大している」と指摘。

さらに、インフレ目標達成に注力する姿勢を強調し、「経済の持続可能な成長を支援し、最も公共の利益となるかたちでこれを推進する」と述べた。

国内での利上げ観測については、「金融緩和の時のように、一部で刺激策が解除されても他の中銀に足並みをそろえて動く必要はない」と主張した。

*内容を追加します。

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豪中銀、長期的成長を楽観視 賃金の伸び鈍化を懸念
〔マーケットアイ〕外為:豪ドルは0.75ドル後半、豪中銀は家計債務増加の中で金融...
http://jp.reuters.com/article/australia-reserve-bank-governor-idJPKBN1AB0AU
http://www.asyura2.com/17/hasan122/msg/718.html

[国際20] 来年の米弱気相場に備えよ、リセッションは19年前半か 英国:経済成長ペース「著しく減速」−4〜6月GDP前期比0.3%増
来年の米弱気相場に備えよ、リセッションは19年前半か
Adam Haigh、Natasha Doff、Dani Burger、Julie Verhage
2017年7月26日 15:22 JST

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中曽日銀副総裁:現在の強力な金融緩和「粘り強く推進していく」

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• 今最も脆弱な資産については見方分かれるが、大半の回答は債券
• メルトダウンは示唆されず−世界4大陸の金融専門家30人に尋ねた

米株式市場で2番目に長い強気相場が2018年終盤に終わるとともに、米国のクレジット市場も世界的な金融危機後で初めてとなる弱気相場に入るとの予想が、ファンドマネジャーやストラテジストを対象にブルームバーグが実施した調査で示された。
  世界4大陸の金融専門家30人に14日から21日にかけ尋ねた調査では、今最も脆弱(ぜいじゃく)と見られる資産について見方が分かれた。欧州の高利回り債から新興市場の現地通貨建て債まで答えはさまざまだったが、大半は債券という結果となった。
  米国の次のリセッション(景気後退)についての質問には25人が回答。19年1−6月(上期)というのが中央値だった。
  各国・地域の中央銀行がバランスシートの縮小を本格化させると見込まれる時期に、株式も債券相場も弱含むとなれば、いわゆる「グレートローテーション」という考え方に終止符が打たれる可能性もある。
  07−09年のような金融メルトダウンを示唆する回答者はいなかったものの、米株式市場における02年の弱気相場では7兆ドル(現行レートで約783兆円)を超える時価総額が失われた。
  シュローダー・インベストメント・マネジメントでマルチアセットファンドを運用するレミ・オルピタン氏(ロンドン在勤)は「非常に大きな痛みを伴う結果となる恐れがある。流動性が加速してきた強気相場であり、流動性がなくなれば、弱点が生じる」と述べた。

  今後1年でポートフォリオの扱いについては、株式を減らすか、想定通り株価が下落すれば買い増すというのが一般的な回答だった。米国株の保有圧縮や日本株買い、欧州と新興市場の株式への資金を増やすとの回答もあった。
原題:Next Bear Market for Stocks & Credit Hits in 2018: Survey (1)(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-07-26/OTONAO6JIJVE01

英国:経済成長ペース「著しく減速」−4〜6月GDP前期比0.3%増
Jill Ward
2017年7月26日 18:10 JST

英国の4−6月(第2四半期)成長率は小幅なプラスにとどまり、さえないパフォーマンスが続いた。
  政府統計局(ONS)が26日発表した4−6月の国内総生産(GDP)速報値は前期比0.3%増となった。1−3月(第1四半期)は0.2%増だった。英国の景気は「今年上半期に著しく減速した」と、ONSは指摘した。
  4−6月の成長に唯一プラス寄与したのはサービス業で、前期比0.5%拡大した。製造業と建設はマイナスだった。
  国際通貨基金(IMF)は今週、英国の17年成長率見通しを1.7%とし、これまでの2%から下方修正した。ブルームバーグがまとめたエコノミスト調査では、今年の成長率は1.6%に減速し、来年は1.3%になると予想されている。

原題:U.K. in ‘Notable Slowdown’ With 0.3% Growth in Second Quarter(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-07-26/OTOWL86K50XV01


http://www.asyura2.com/17/kokusai20/msg/164.html

[国際20] 米中蜜月の終焉、経済戦争突入か グローバリゼーション崩壊 AIは人間殺せるかFBとテスラ舌戦 自動運転に米政府急ブレーキ
米中蜜月の終焉、経済戦争突入か

斉藤洋二 ネクスト経済研究所代表

[東京 26日] - 今秋に予定される5年に1度の中国共産党大会を控えて、北京では習近平総書記(国家主席)の権力基盤強化と「ポスト習」の行方を巡る権力争いが最終盤に至っている。その中で注目を集めるのが「ミスター・クリーン」こと王岐山・党中央規律検査委員会書記だ。

2008年のリーマン・ショック当時、副首相として、ポールソン米財務長官(当時)の依頼に応じ米国債を大量購入し金融危機脱出に協力したと伝えられる(国内においては4兆元の景気対策の取りまとめに主導的役割を果たしたといわれる)経済通だが、2012年以降の5年間は習氏の盟友として反腐敗闘争をリードしてきた。

王氏はすでに69歳であり、本来なら68歳という党中央政治局常務委員会(最高指導部)メンバーの年齢制限ルールに抵触するため、今回の共産党大会で定年退職となる。しかし、習氏が自身の権力基盤強化のため、年齢制限ルールを変更し、王氏を李克強首相の後継に据えるのではないかとささやかれている。このところ動静があまり聞こえず「王岐山失脚か」といった臆測も流れているだけに、その人事の行方は何よりも注目されるところだ。

一方、共産党大会を目前にして、事実上失脚したホープもいる。習氏の後継者として胡春華・広東省党委書記とともに常務委員会入りが濃厚とされていた孫政才・重慶市党委書記だ。

その手ぬるい政治手腕に批判の高まりが伝えられていたが、重大な規律違反容疑を理由に突如解任され、後任に習氏の側近である陳敏爾・貴州省党委書記が就いた。党中枢の権力闘争の激しさを物語る出来事だが、「ポスト習は習」を目指す習氏が大きくリードといったところだろうか。共産党大会を前にして、党長老との人事調整などが行われる今夏の北戴河(ほくたいが)会議(河北省のリゾート地、北戴河で開催)は例年にも増して注目されることになりそうだ。

<米中100日計画に成果はあったのか>

さて、このように激しい権力闘争を続ける一方で、習氏はもう1つ頭痛の種を抱えている。ほかならぬ米中関係である。

周知の通り、米中関係については、トランプ大統領が選挙期間中から中国批判を強めていたことから就任後の経済戦争勃発が懸念されていた。だが、トランプ氏が習氏をフロリダの別荘に招いた4月の米中首脳会談において、意外にもすんなり北朝鮮問題と経済対話で一定のディールが結ばれ、両国は蜜月演出に成功。特に米中貿易不均衡是正などを目指す「100日計画」策定での合意は両国関係の改善をもたらすものとして期待された。

実際、「100日計画」については精力的に協議が続けられ、5月に貿易不均衡是正に向けた取り組みとして両国政府が10分野で合意に至り、米国の液化天然ガス(LNG)の輸出拡大、さらに金融サービスの市場アクセス拡大などが発表された。また、中国側が米国産牛肉の輸入を14年ぶりに再開するなど象徴的な出来事も加わった。

とはいえ、中国側にはさまざまな国内規制が残っており、同国の米国製品の輸入量が一気に拡大する可能性は低いとの見方が大勢だ。北朝鮮問題に目を転じても、中国は北朝鮮からの石炭輸入を停止しているが、鉄鉱石の輸入を大幅に拡大するなど制裁どころか相変わらず同国への事実上の経済支援を続けている。

さらに、「100日計画」の総括と今後の行動に向け、7月19日に「米中包括経済対話」がワシントンで開催されたが、2016年において3470億ドルにも上った米国の対中貿易赤字の具体的な削減策や今後の工程表は示されず、共同記者会見も行われなかった。まさに「蜜月関係」は終わりつつあると言ったところだろうか。

確かに米中関係は4月以降友好的に進んだが、それは中国側において共産党大会を前に外交問題で失点したくないとの思惑があり、また米国側にも北朝鮮問題での仲介役として中国への期待があってのこと。つまり、この間は友好を演じることが両者の国益にかなうとされた。だが、今後は、両国関係は一気に冷え込む可能性が高いだろう。

特に米国側の出方が注目される。中国で過剰生産される鉄鋼製品に対し、より厳しい制裁関税や輸入割り当てを適用したり、中国を為替操作国に認定したりするなどの対中強硬策に出ることも予想しておく必要があるだろう。

<米中戦争は経済分野でとどまるか>

振り返れば46年前の1971年7月、ニクソン米大統領(当時)が、キッシンジャー大統領補佐官(同)を密使として極秘裏に進めていた米中国交正常化交渉と訪中計画(翌72年2月に訪問)を電撃発表し、「ニクソンショック」として世界を驚かせたことがあった。それ以来、両国関係は対立と和解の間を振れながら進んできたが、今後もそれを繰り返すとみるべきだろう。

とはいえ、米中関係の底流には覇権争いが存在し、中国の台頭が著しい現在、その争いは以前にも増して激しくなる可能性を秘めている。したがって、今秋の共産党大会以降はハードな関係へと大きく振れる懸念は拭えない。

国際通貨基金(IMF)によれば、2014年に購買力平価ベースで中国の経済規模が米国を上回った。IMFのラガルド専務理事は、今後10年でIMF本部がワシントンから北京に移る可能性があることにも言及している。

中国はソフトパワー(その国の文化や価値観などが持つ影響力)や軍事力において米国に及ばないものの、経済分野では米国を凌駕しつつあることは明らかだ。アジア太平洋地域における覇権争いの激化は避けがたいと考えるのが妥当だろう。

ちなみに、カリフォルニア大学の教授からトランプ政権の通商問題アドバイザーになったピーター・ナヴァロ氏は、自著「米中もし戦わば」において、目下の米中覇権争いが無益な戦争に至る可能性に言及している。著者が米中関係の将来を予測する根拠として、過去500年において英独関係のように15例の覇権争いがあり、うち11例において戦争になったという歴史的事実を挙げている。

現在は米国の軍事費が中国を圧倒しており、米国の方が技術的にも優れていることは確かだとしているが、中国の経済成長を考えると、少なくともアジア地域では米国が中国に「降参」する可能性を示唆している。

さらに両国が戦争遂行のための膨大な資源を有する大国であることから、短期戦とはならず、「経済に壊滅的な打撃を与える、明確な勝敗のつかない長期戦」となる可能性が高いと分析している(核戦争については、論外の選択肢としつつも、中国政府の最優先の目標が国民福祉の向上ではなく共産党の権力維持であることから、現実のものとなり得ると警鐘を鳴らしている)。

今後も米中は軍事、経済、サイバー空間、宇宙、国際金融など、さまざまな分野において覇権争いを続けることになるだろう。すでに北朝鮮問題で米中関係はきしみ始めており、米国が通商問題で圧力をかけるシナリオが現実化しつつある。米中関係の視界不良が広がれば、行き着くところはまず経済戦争への突入ではないか。

このように米中関係の悪化は米国保護主義の台頭をもたらし、さらに貿易摩擦の暗雲は国際金融市場を覆うと予想されるだけに、その動向を注意深く見守るにこしたことはない。

*参考文献:ピーター・ナヴァロ著/赤根洋子訳「米中もし戦わば 戦争の地政学」(文藝春秋刊)

*斉藤洋二氏は、ネクスト経済研究所代表。1974年、一橋大学経済学部卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。為替業務に従事。88年、日本生命保険に入社し、為替・債券・株式など国内・国際投資を担当、フランス現地法人社長に。対外的には、公益財団法人国際金融情報センターで経済調査・ODA業務に従事し、財務省関税・外国為替等審議会委員を歴任。2011年10月より現職。近著に「日本経済の非合理な予測 学者の予想はなぜ外れるのか」(ATパブリケーション刊)。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。


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中国:SWF設立支援で発行の国債、ロールオーバーを計画−関係者
Bloomberg News
2017年7月26日 19:00 JST
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8月に期限を迎える2007年発行の国債、10兆円近くが対象と関係者
プライマリーディーラーに発行された後、人民銀が買い取りへ
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中国人民銀行(中央銀行)と財政省は政府系ファンド(SWF)設立を支援するため10年前に発行された国債をロールオーバーする方針だ。事情に詳しい関係者が明らかにした。8月に期限を迎える国債6000億元(約9兆9400億円)相当が対象だという。
  財政省は2007年に国債約1兆5500億元を発行。この調達資金を活用し、人民銀を介してSWFである中国投資(CIC)の設立を支援した。8月に期限となる国債は中国農業銀行向けに発行され、その後で人民銀が購入。人民銀が国債を直接買い入れることは認められていないため、こうした措置が取られたという。
  非公開情報だとして関係者が匿名を条件に述べたところによれば、ロールオーバーされる国債は8月中旬か下旬にあらためて値付けされる。前回と異なり、債券市場のプライマリーディーラー(政府証券公認ディーラー)である複数の銀行向けに発行され、それを人民銀が買い取る。
  人民銀はこの件についてコメントを控えた。財政省にファクスでコメントを求めたが、今のところ返答はない。
原題:China Is Said to Plan Rollover of Bonds Backing Sovereign Fund(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-07-26/OTOXU36TTDS301


【第1回】 2017年7月26日 大西 俊介
2016年グローバリゼーションの崩壊

トランプ政権発足後の新たなグローバル秩序の胎動の中、真に必要な組織モデル、人材像のあり方とは何か。大手日系IT、外資系ファームのマネジメントを経験し、現在も外資系IT企業の日本代表を務める筆者が論考する。

Brexitとトランプ政権誕生

インフォシスリミテッド 日本代表
大西 俊介
おおにし・しゅんすけ/1986年、一橋大学経済学部卒業後、同年日本電信電話株式会社に入社、株式会社NTTデータ、外資系コンサルティング会社等を経て、2013年6月より、株式会社NTTデータ グローバルソリューションズの代表取締役に就任。通信・ITサービス、製造業界を中心に、海外ビジネス再編、クロスボーダーな経営統合、経営レベルのグローバルプログラムの解決等、グローバル企業や日本企業の経営戦略や多文化・多言語の環境下での経営課題解決について、数多くのコンサルティング・プロジェクトを手掛ける。NTTデータグループの日本におけるSAP事業のコアカンパニーの代表として事業拡大に貢献した。2017年1月1日、インフォシスリミテッド日本代表に就任

 2016年11月9日の朝、私は成田空港にいました。12月末で当時社長を務めていた会社を去ることになっていたので、引継ぎに向けてのいろいろな準備を始めていました。行先はアメリカ合衆国。ニューヨーク州の地方都市にある日系企業のお客様のプロジェクト拠点を訪れ、ともにプロジェクトを進めているグループ企業のマネジメントメンバー達と自分が去った後のことについて、いろいろと話しておくことが目的でした。
 朝9時過ぎに、ラウンジでニュースをチェックしました。すでにアメリカ大統領選の開票が始まっていましたがトランプ氏がリード、おまけにカギとなる州の1つと言われたフロリダ州がトランプ氏勝利の可能性と報道されていました。なんとなく気になって、先に客先の拠点に入っている社員にメッセージをいれると「海岸部の出口調査ではヒラリー氏が圧倒的みたいですよ」というレスポンスがありました。
 とはいうものの、何かが起きそうな予感がして、離陸した後も有料のWi-Fiのチケットを買って、チェックしていると、どんどん信じられないような結果が目の前で起きていきました。
 機内で昼食を食べ終わるころには、ほぼ大勢も決まり、この後、起きるかもしれないことを考えると「失望」の一言しかなく、そのまま眠り込んでしまいました。JFK空港から国内線へのトランジットの合間の時間で朝食を食べていると、ヒラリー氏の敗戦スピーチがLIVE放送されていました。彼女の後に続く、若い女性たちへの勇気づけのメッセージで有名なスピーチでしたが、時差ボケ、眠気もあって、未だに目の前に起きていることが信じられず、まさに「茫然自失」という体だったと思います。
 お客様の拠点訪問を終えた後、自社グループ会社の幹部とのミーティングのためにアトランタに向かいました。アトランタは南北戦争で南軍の拠点だった都市ですが、公民権運動の指導者として有名なキング牧師が生まれた場所でもありますね。移民受け入れを拒否し、マイノリティを否定する発言を繰り返すトランプ氏の勝利から2日後、200年の歴史をもって、キング牧師ら多くの先人達の苦闘の結果として、黒人大統領を選出するまでになったこの国の歴史が根本から変わるかもしれない、そんな歴史的な大きな転換点に自分がいるような気がしました。
 最終日はニューヨークに戻りましたが、マンハッタンでは至る所でデモがくりひろげられていました。
 また、これより前、2016年6月23日にはイギリスの欧州離脱是非を問う国民投票(United Kingdom European Union membership referendum)が実施されました。開票の結果、残留支持が1614万1241票(約48%)、離脱支持が1741万742票(約52%)であり、離脱支持側の僅差での勝利でした。Brexit(英国のEU離脱)が方向づけられた日でした。
 2016年という年は、後年、歴史の教科書において転換点として記載される可能性をもった1年だったのかもしれません。
世界はフラット化しなかったのか
 ベルリンの壁の崩壊以降、ここ20年、世界は自由化の方向に大きく進んできました。人種や経済だけでなく、文化やライフスタイルの多様性という観点から、アメリカはその象徴でした。半面、世界中のいろいろなところで格差が広がっていったことも事実です。
 移民を受け入れ、国内の大手企業がグローバリゼーションの名のもとに生産拠点等を海外に移転したことにより、国内の雇用が減少したというのがトランプ氏の主張です。
 Brexitは歴史的にはかなり古くから存在する論点だったようですが、今回の転換の1つになったのは独首相アンゲラ・メルケルによる移民受け入れの発言だったとも言われています。国ごと経済情勢が異なるにも関わらず、経済政策はEUの判断に基づいて行われる。そのような中で移民を受け入れるということを他国の首相が口にし、それをEU参加国として、一定程度の負担を強いられるところにイギリス国民の一部に大きな反発が生じたのかもしれません。
 ギリシアの問題もEUの制度的な限界にもあるのかもしれません。通貨発行の統制を国が自律的にできないとことは、アベノミクスにより、部分的に息を吹き返しつつある日本経済とは異なる状況です。
 私はこれらの動きは、あくまでこれまでの多様化・自由化の手法に未成熟な部分があり、その結果、生まれた不整合に修正をかけようとする反動だと思っています。何がしかの論理的な根拠があるわけではありませんが、いってみればこれは免疫反応のようなものであって、世界大戦前のような保護主義に極端に回帰するものではないと信じています。
 なぜならば、長い目で歴史をみてば明らかなように、人間は生まれながらにして自由で気ままな生き物であり、一時的であれば可能ですが、統制的(抑圧的)なマネジメントを継続的に行うことは不可能だからです。
 免疫活動が効果を発揮すれば、さらなる反動が近いうちにおき、結果として多様性を受け入れ、より深化した自由化の方向に戻っていくと信じています。当然、課題を是正した結果として、これまでとは異なる、より高度化した構造やビジネスモデルを踏まえた経済圏になると思いますが。そんな風に考えると、最近のフランス大統領選挙とその後の総選挙、これがどんなことになるのか非常に興味深いですね。
 まとめると、行ったり戻ったりのプロセスではあるものの、結果としては多様性を受け入れるためにより高度な仕組みが整備され、その効果を享受する方向に長い目で見れば進むということです。
企業経営における「多様性」と「一様性」
 これは企業経営においても同じようなことがいえるのではないかと思います。
 終身雇用制を前提とした日本企業の多くは、結果として同質的な価値観を有するモノカルチャー、一様性の企業文化になっていると感じます。もちろん海外に事業展開し、M&Aなども活発に行っていく企業は多いですが、本社の経営層に他業界や他社での経歴を有する方や女性、もしくは外人の方を役員としてそれなりの数で受け入れている企業がどれだけあるでしょうか。
 外部からの要員を受け入れた企業もありますが、結果一時的にうまくいかない状況になったときに「それ見たことか」風な日本的ですが、ある意味、偏執的ストイックネスから、極端にそういった動きを排除することもしばしばです。
出所:2017 PwC Consulting LLC
出所:2017 PwC Consulting LLC
 平均的にみればおよそ決まりきった任期の日本の役員からすれば、まったく異なる発想や価値観を有する人材を受け入れることはリスクとはとらえても好機とは考えら選れない人が多いのかもしれません。
 異なる発想を有する人材が入ってくれば、それに対する“反応”が起きます。この反応を問題事象としてのみしか捕らえられない人もいるように思います。そのような経営層が進める海外事業展開など、全くの自己満足としか思えません。異なる意見を聞き、結論を導いていくのはそれなりに大変なもの、一様性の企業体質を維持しようとするのは経営の怠慢としか思えません。
成長にひずみはつきもの
「成長のひずみ」という言葉もよく聞きます。だけどこれは問題事象ではなく、免疫反応の一種として捉えるべきではないかと思います。
 スタートアップ企業ならいざ知らず、すでにある程度歴史のある企業が、変革したり、事業拡大したりしようとすれば、それなりの「ひずみ」が生じるのは「当たり前のこと」です。
 問題は対処の仕方で、「多様性」を否定し「一様性」のマネジメントに戻すのではなく、トップ自らが多様性を受け入れ、トップでなければできない改革に変えていくところがポイントだと思うのです。決して多様性を後退させ、結果的に停滞感につながるような後ろ向きの課題対処であってはなりません。
 日立製作所は2009年3月期に7873億円と、製造業として当時、過去最悪の最終赤字となりましたが、2009年4月に会長兼社長に就任した川村隆氏を中心とする大改革で反転し、以降、素晴らしい規模とスピード感を持って変革を続けていると思います。
 レジリエンス(resilience)という言葉もよく聞きます。「自発的治癒力」、つまりは免疫反応に近い用語ですが、先に書いたように世界経済にはそのような力があると思います。右派の代表格ルペン候補を否定した仏大統領選がそのいい例です。ところが日本企業はどうでしょうか。相対的に見て、日本企業はレジリエンスが弱いように思えます。治癒力はあるのかもしれません。でもそれは更なる投薬強化の方向に向かっているようにも見えます。
 2016年の大きな変化を受けた後の2017年、世界情勢はまた大きく変わり始めています。そして新たなグローバリゼーションの方向性が見えつつあると思います。このままでは一部のすばらしい例外を除き、日本はどんどん取り残されるような気がします。
 では、世界で起きている変化とはどんなことなのか、また、この変化に対し、結局われわれはどのような対応が求められるのか。より具体的なお話にするために、次回以降、私が属する業界及びその周辺から書いていきたいと思います。

http://diamond.jp/articles/-/134764

 

AIは人間殺せるだけの知性持つか、FBとテスラCEOが舌戦

 7月25日、テスラのイーロン・マスCEO(写真)とフェイスブックのザッカーバーグCEOが、AIが人間を殺せるだけの知性を持つかどうかとの見方について、ここ数日舌戦を展開している。写真はワシントンで19日撮影(2017年 ロイター/Aaron P. Bernstein)

[サンフランシスコ 25日 ロイター] - 米電気自動車大手テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)と米フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOが、人工知能(AI)が人間を殺せるだけの知性を持つかどうかとの見方について、ここ数日舌戦を展開している。

マスク氏は25日、ツイッターで「(ザッカーバーグ氏の)この問題に対する理解は限定的」と批判的な投稿を行った。

これより先、ザッカーバーグ氏は23日に動画を配信中、ロボットの危険性に対するマスク氏の見方について視聴者から質問され、「私は非常に楽観的だ」とコメント。「否定的な見方をする人たちは終末のシナリオを吹聴しようとするが、私には理解できない。きわめて否定的な態度で、ある意味で大変無責任だと思う」と回答した。

一方マスク氏は、今月行われた米国の州知事の会合で、AIの危険性はそれほど架空のものではないと述べ、規制に動くべきと発言した。

AIは医療や娯楽、銀行などの部門で広く活用されるようになったが、マスク氏とザッカーバーグ氏は、各国政府による規制強化が必要かどうかで激しく対立している。
http://jp.reuters.com/article/musk-zuckerberg-idJPKBN1AB0F0

 


【第246回】 2017年7月24日 桃田健史 :ジャーナリスト
自動運転推進に米政府が急ブレーキをかけた理由


AUVSI オートメイテッド・ヴィークル・シンポジウム 2017の全体講演の様子 Photo by Kenji Momota
 アメリカの自動運転に関する動きに急ブレーキがかかった。

 そうした、日本にとって“ヤバい雰囲気”を7月10日の週にサンフランシスコで強く感じた。トランプ政権の下、自動運転バブルはこのまま崩壊してしまうのだろうか?

注目の国際協議の場だったのだが…

 アメリカの運輸交通委員会(TRB)及びDOT(運輸省)が関与する、自動運転や自動飛行に関する産学官連携での協議体である無人移動体国際協会(AUVSI) が主催する、AUVSI オートメイテッド・ヴィークル・シンポジウム2017(7月11日〜13日、於:ヒルトンサンフランシスコ・ユニオンスクエア)を取材した。

 自動運転に関する国際協議は、国連の欧州経済委員会における自動車基準調和世界フォーラム(WP29)や、道路交通法等の整備に関する委員会(WP1)、また高度交通システム(ITS)の世界会議などが主体である。

 だが、グーグルやアップル、そしてインテルやエヌビディアなど、人工知能を活用した自動運転技術の研究開発を進め、デファクトスタンダードを狙う大手IT産業、及び自動運転を活用した新しい移動体サービス事業(MaaS :モビリティ・アズ・ア・サービス)の拡大を狙うウーバーやリフト等のライドシェアリング大手を抱えるアメリカが、法整備においても自動運転の世界をリードしているのが実情だ。

 筆者は直近の2ヵ月間、世界各国で自動運転に関する取材を立て続けてに行っている。具体的には、米サンノゼ市でのインテルの自動運転ワークショップと、エヌビディアの開発者会議GTC、仏ストラスブール市でのITS EU会議、また日本国内では経済産業省によるラストマイル自動走行実証に関する取材で福井県永平寺町、石川県輪島市、そして沖縄県北谷町。この他、日系及び欧州系の自動車メーカーが主催した各種の技術フォーラムで自動運転技術開発の担当者らと直接、意見交換している。

 その上で、AUVSIの自動運転シンポジウムに対して期待を持って参加したのだ。

行政の色がまったくない


自動車メーカーとしての技術展示は、ホンダ1社のみ Photo by Kenji Momota
 毎年1回のペースで開催され、今年で6回目となる同シンポジウムをすべて取材してきた筆者にとって、今年の講演内容は筆者自身の想定を遥かに下回るショボいものだった。

 なにせ、自動運転の法整備を行う政府機関である、連邦高速道路交通安全局(NHTSA:発音はニッツァ)による講演がゼロだったのだから。

 昨年7月の同シンポジウムには、NHTSA長官の他、NHTSAを所管するDOTの長官も講演し、自動運転に関するガイドラインについて意見を述べた。本来、同ガイドラインは昨年7月頃には公開される予定だった。しかし同年2月にフロリダ州内で、テスラ・モデルSの自動運転技術を使ったオートパイロットの誤作動による死亡事故が発生し、自動運転に関する社会の関心が高まったため、米連邦政府として自動運転の法整備について再協議を行っていた。

 同年9月には、同ガイドラインが発表され、それに続いて自動車と道路インフラ(V2I)や、自動車と自動車(V2V)、そして自動車と歩行者(V2P)などの総称である、V2Xに関する規制法案についてもNHTSAが公表に踏み切った。

 そうした流れは明らかに、政権交代前の“駆け込み”だった。そして今、その反動を食らっているのだ。

オバマの決定は何でも反対!?


シェアリングサービス大手のウーバー、リフトが参加したパネルディスカッション。一般論での議論であり、法整備に関する具体案は特になし Photo by Kenji Momota
 今回のシンポジウム開催時点で、NHTSA長官は未任命のままだ。今年1月に就任したDOTのイエーン・チャオ長官は、昨年の自動運転ガイドラインを発表の1年程度後に改訂することを示唆しているのだが、具体的な動きはまったく見えてこない。また、DOTの肝いりとして企画された、自動運転を活用した未来型の街づくり政策『スマートシティ』についても、今年9月からオハイオ州コロンバス市での実施が決まっているものの、具体案については未だに公開されていない状況だ。

 また、アメリカにおける自動運転の法整備はこれまで、公道での走行実験を許可してきたネバダ州、カリフォルニア州、オハイオ州、テキサス州など、州政府の意向が強く反映されおり、それをNHTSAがどのように連邦法として取りまとめるかの段階にある。その中で、昨年までのAUVSIシンポジウムでは、州政府担当者も講演し、それぞれの地域における自動運転の社会受容性について議論を進めてきたが、今回は全体講演で州政府の発表はゼロだった。

 トランプ政権は「反オバマ政策」を唱えるイメージが根強い。自動運転に関する政策も、パリ協定からの脱却に見られるような大胆な方針転回で、葬り去るようなことはないと信じたい。だが、今回のシンポジウムで日米欧の各自動車メーカー関係者などと意見交換するなかで、全員の共通認識は「これからどうなるか、さっぱり分からない」だった。

 そのうえで、結局は自動車メーカーが90年代から徐々に進めてきた、高度運転支援システム(ADAS)が徐々に発展し、2030年頃には高度な自動運転に「なるのかもしれない?」という、自動車メーカーの商品企画として“夢物語”へと、自動運転の議論が逆戻りしてしまうような感覚を抱いた自動車メーカー関係者が多かった。

自動運転バブル崩壊の予感


基調講演は、トヨタ・リサーチインスティテュート(TRI)だったが、話題は自社で行う113億円の投資ファンド Photo by Kenji Momota
 ちなみに、今回の全体講演に自動車メーカーとして登壇したのはトヨタと日産のみ。ホンダが日本政府が進める戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)を代表して講演した他は、トラックの縦列自動走行のパネルディスカッションでボルボが登場しただけ。コンチネンタル、ボッシュ、デルファイなど大手自動車部品メーカーの全体講演もゼロだった。これでは、米連邦政府の動きが見えないなか、自動運転の開発動向について積極的にはしゃべりたくない、と思われても仕方がない。

 もう1点付け加えると、自動車メーカー主導ではなく、いわゆるロボットタクシーのような公共交通に近いかたちの自動シャトルサービスが、2020年頃には世界各地で実用化されるという“青写真”がある。

 この分野では、グーグルからスピンアウトしたWaymo (ウェイモ)がある他、欧州では仏Navyaなどが各地で実証試験を行っている。だが、6月開催のITS EU会議での各種協議を見聞きし、またEU(欧州委員会)の担当者や欧州の自動運転シャトル事業関係者らと直接話してみたが、「現状での実証試験は、実施の各自治体の警察が個別に判断しており、EUとして総括的な法整備を行うのは、かなり先になる」という意見が多かった。

 こうした世界各地での“生の声”と接する中で、筆者が感じるのは、自動運転バブルの崩壊だ。

 自動運転、自動運転と、自動車産業界やメディアが大騒ぎし始めたのは、いまから4年前の2013年頃。その起点は、グーグルカーの量産計画に対する“噂”だった。

 そしていま、先行き不透明なトランプ政権の意思決定プロセスによって、自動運転という次世代の技術開発や、そこに対する投資がスローダウンしてしまう危険性がある。

 そうしたなかで、日本にとって最も大きな問題は、日系自動車メーカー関係者らが今回のシンポジウムの現場で実際に話していたような「元の鞘に収まるのだから、まあ、のんびりやろう」という、“心の隙間”ができてしまうことだ。

 その隙に、世界各地では水面下で、新たな動きが着々と進む。自動車産業界ではティア2(二次下請け)である半導体メーカーらのサプライチェーン改革。世界最大の自動車市場・中国では、燃料電池車の本格普及を想定し、その前段階としての電気自動車の普及政策と自動運転政策が融合する。

 日系自動車業界関係者におかれては、いまこそ、しっかりと、気を引き締めていただきたい。

追記:本稿作成後、米下院のエネルギー商業委員会が、自動運転の販売や使用を緩和する法案を可決した。こうした議会の動きについては、今回取材した現場でも、参加者らは米自動車大手メディアのAutomotive News等を通じて承知していた。それにもかかわらず、現場の空気感はトランプ政権による自動運転の今後について、不透明感が拭えていなかったのが大きな問題だ。

(ジャーナリスト 桃田健史)
http://diamond.jp/articles/-/135829

ロンドンを揺さぶるタクシーvsウーバー大戦争、その真の勝者は?

グローバリゼーションの落とし穴
笠原 敏彦ジャーナリスト
長崎県立大学教授・元毎日新聞欧州総局長プロフィール

「ロンドン・タクシー」vs「ウーバー」

グローバリゼーションと技術革新の破壊力とは、ここまで凄まじいものなのか。

7月5日付ニューヨーク・タイムズ紙国際版の記事「タクシー戦争に反響するブレグジット問題(Echoes of ‘Brexit’ in cabby war)」を読んだ感想である。

記事によると、伝統のロンドン・タクシーが今、米国発の配車サービス「Uber(ウーバー)」との乗客争奪戦により危機に追い込まれているのだという。

ロンドンで暮らした者にとって、あのどっしりとした「ブラックキャブ」は街の景観と不可分のものとして蘇る。通り名と番地を告げればどこへでも運んでくれる熟練の運転手らは、ひと時のバトラーのように感じられたものだ。

グローバリゼーションの行きつく先とは、伝統であれ、文化であれ「守るべきもの」を一切許さない津波が襲ったような世界なのだろうか。

記事を読み、グローバリゼーションの犠牲者だと感じている人々が「主権国家の再生」に望みを託そうとするムーブメント、すなわちナショナリズム台頭の背景がより説得力を持って理解できた。

その文脈で、イギリスの欧州連合(EU)離脱「ブレグジット」とアメリカの「トランプ現象」を捉えるなら、グローバリゼーションの先頭に立つ「二つのアングロサクソン国家」でナショナリズムが共鳴していることは、やはり偶然ではないのである。

2017年4月6日、Uberに抗議して通りを埋め尽くしたロンドン・タクシー2017年4月6日、Uberに抗議して通りを埋め尽くしたロンドン・タクシー〔PHOTO〕gettyimages
世界で最も厳しい試験

まずは、ニューヨーク・タイムズ紙国際版の長大かつ詳細なルポ記事(筆者はKatrin Bennhold氏)の概要を背景説明とともに紹介したい。

ロンドン・タクシーの資格認定は、1662年に始まる辻馬車の認可制度(ハックニーキャリッジ法)に由来するものだ。誇張はあるとしても、その資格を取るには「世界で最も厳しい」試験をパスしなければならない。

「Knowledge of London(ロンドンに関する知識)」と呼ばれる試験の内容はざっとこんな感じである。

ロンドン市内の約2万5000に上る通りと、約10万の名所・建物・施設などを全て覚えなければならない。筆記試験以上に難儀なのは、数段階に渡って行われる口頭試問であり、その中身がまた尋常ではない。

1対1で行われる試験では、面接官が挙げる始点と終点を結ぶ最短ルートを答えるだけでなく、そのルート上の全ての通り名や交差点、交通ルールなどを即座に答えなければならない。

試験をパスするには平均で4年を要し、受験者たちはこの間、座学だけでなく、バイクや自転車で市内を走り回ってロンドンの地理を頭に叩き込む。脱落率が7割という狭き門だ。

なんともイギリスらしい厳格さである。もちろん、その一方で、こうした厳しい試験をパスしたロンドン・タクシーの運転手に対し、市民たちが敬意を払ってきたことは言うまでもないだろう。

NEXT ?? それがウーバー以後…

ウーバーがロンドンに進出したのは2012年のロンドン五輪直前。ブラックキャブより3割程安い運賃と、空き時間を使って自家用車で稼げるという手軽さにより、急速に拡大してきた。

ウーバーの登録運転者数は約4万人で、ブラックキャブの2万1000人のほぼ2倍近い。両者のコントラストは鮮明である。

移民中心のウーバーに対しブラックキャブは白人中心、カーナビなどIT技術を駆使するウーバーに対し、蓄えた地理的知識と客をつかまえる勘で営業するブラックキャブ、という具合だ。

それぞれの言い分

ルポは、白人で労働者層出身のブラックキャブ運転手、ポール・ウォルシュさん(53)と、モロッコ移民でイスラム教徒の女性、ザラ・バカリさん(38)の日常を丹念に追う内容で読ませる。

ポールさんは3年間、週6日スクーターでロンドン市内を走り回って1994年にようやくブラックキャブの免許を得た。この間、口頭試問の悪夢から通り名をつぶやきながら夜中に目を覚ますことが何度もあったという。

彼は苦々しく語る。

「俺は(免許取得に)3年もかかったんだ。なのに、ウーバーはその知識をアプリに変えてしまった」

一方、ザラさんはモロッコ系の男性と結婚するために電気もない村から18歳でロンドンに移住。その差別体験を振り返る。

ある日、妊婦の彼女が4人の子供を連れてバスに乗ると、黒人のバス運転手から罵倒された。

「この外国人野郎。お前らはこの国に来てただ子供を産み続けるだけなんだ」

ウーバーの運転手としても、ブラックキャブに異常接近されたり、道を譲ってもらえなかったり、罵られたりしているという。

ザラさんが連日のように運転して1週間で得る収入は300ポンド(約4万5000円)ほど。契約料や配車の在り方などでウーバーへの不信や苦労はあっても、自分で稼いだお金を自分で管理できることには喜びがあるという。

そんな両者がライバルを見る目は厳しい。

ザラさんにとって、ブラックキャブは「人種差別の代名詞」だ。一方、ポールさんにとってウーバーは「伝統文化の破壊者」だ。

グローバリゼーションで利益を得る者と、生活を脅かされていると感じる者。昨年6月に行われたEU離脱の是非を問う国民投票で、ザラさんは残留に投票し、ポールさんは離脱に投票した。

Uberに抗議し、イギリス国旗を振るブラックキャブの運転手〔PHOTO〕gettyimages
ポールさんは、EU域内を自由に移動できる労働移民への不満を口にする。

「ロンドンは歴史的に難民を歓迎してきた。しかし、難民と経済移民は別物だ。彼らは我々の生活水準を押し下げているんだ」

ポールさんは、「ウーバー以前」には1日20回の乗客があったが、「ウーバー以後」は5回ほどになり、「大抵の週は経費を補うだけだ」と話す。

そして冷笑的に続ける。

「(自動運転が普及すれば)ブラックキャブの運転手もウーバーの運転手も歴史になってしまうんだろうな」

取材したブラックキャブ運転手の大半が国民投票ではブレグジット支持に投票していたという。

NEXT ?? 結局、勝者は誰なのか?

消費者としてはいいかもしれないが…

このゲームの勝者は、IT技術によりグローバルなマーケット支配力を手にしたウーバーなのだろう。

7月15日付の毎日新聞で浜矩子・同志社大学教授はこう書いている。

「ライドシェア大手の米ウーバー・テクノロジーズは、自分たちは運転手さんたちの雇用主ではないという。タクシーに乗りたい人と、タクシーサービスを提供したい人を結びつける。そのためのITプラットフォームを提供しているだけである。それがウーバーの言い分だ」

スマホをタップするだけで割安のタクシーを迅速に呼べるのは、消費者としては有難い話だ。また、「誰もが自分の都合に合わせた時間で臨時収入を得ることができる」というウーバーの謳い文句は、稼ぎたい、働きたい者にとって魅力的だろう。

「消費者」と「働き手」の心理をIT技術で結びつける手法は、ビジネスモデルとしては称賛に値するものなのかもしれない。

しかし、一人ひとりが「消費者」の立場を離れて、「働き手」の立場に身を置いたとき、グローバリゼーションの「勝者」と「敗者」のバランスはいかなるものなのだろうか。

この点を考えるとき、現在のグローバリゼーションの在り方がより豊かで安定した社会を導き得るとはとても思えない。

グローバリゼーションの「魔力」とは、消費者にとっての魅力(自由競争・輸入による価格低下)を、マーケット支配力を持つ企業・組織がアピールすることで醸し出されているように見える。

そして、ウーバーのケースを見るまでもなく、国際的なマネーの流れが支配力を持つ企業などに集中することは火を見るより明らかである。

ブレグジットとトランプ現象はつながっている

少々話は逸れるが、こうした視点で見たとき気になるのは、自由貿易協定をめぐるメディアの報道ぶりだ。

最近で言うなら、7月6日のEUとの経済連携協定(EPA)での大枠合意のケースである。

日本のメディアはこぞって、「ワインやチーズが安くなる」と喜ぶ消費者サイドの話と、悲鳴を上げる生産者サイドには補助金など政府の支援策が必要という話、マクロ経済的に積極評価する専門家のコメントという、いつものパターンが繰り返されたように思う。

しかし、そのような数字的な損得、帳尻合わせで豊かと感じられる社会、安定した社会を本当に築けるのだろうか。政府から補助金などの支援を受けることで生業を続けることができたとしても、働き手としてのプライドは保てるのだろうか。立ち止まって考えるべきときが来ているように思う。

人々は自らの日々の生活さえもコントロールできない無力さを覚えるとき、アイデンティティに回帰して「強い国家」に頼ろうとするのだろう。

イギリス国民がEUから「主権」を取り戻すために下したブレグジットという選択と、アメリカ国民が「ワシントンから政治を取り戻す」と訴えたドナルド・トランプ氏を大統領に選んだ「トランプ現象」の根底には、同じメカニズムが働いているように思えてならない。

ふしぎなイギリス
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52376?page=3



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[国際20] フランスがガソリン車の販売を禁止する真の理由 英、ガソリン車など販売禁止へ 40年以降、仏に続き表明 
フランスがガソリン車の販売を禁止する真の理由

石油「新三国志」

産油国は低価格戦略で対抗するしか道がないのか
2017年7月27日(木)
橋爪 吉博

フランスのマクロン大統領は最大の政治的効果を狙って、仏米首脳会談の直前に内燃機関自動車の販売禁止方針を打ち出した。その背景には自国の自動車産業と電源構成を冷静に見極めた深い戦略がある(写真:Sipa USA/amanaimages)
 7月6日、フランスのユロ・エコロジー大臣(環境連帯移行大臣)は、2040年までに、二酸化炭素の排出削減のため、国内におけるガソリン車およびディーゼル車の販売を禁止すると発表した。

 具体的内容やそこに至る道筋など詳細は明らかにされていない。また、EV(電気自動車)の走行距離やバッテリー寿命など技術的課題、そして給電インフラや産業構造転換など社会経済的課題が現時点では解決されていないことから、実現は難しいとする見方もある。

 しかし、フランス政府の発表は、G7の先進国政府として初めての、内燃機関自動車の販売禁止方針の表明である(7月26日には英国も2040年までにガソリン・ディーゼル車の販売を禁止する方針を打ち出した)。そして、パリ協定離脱を宣言した米トランプ大統領が初めて出席するG20(7月上旬にドイツ・ハンブルグで開かれた20カ国・地域首脳会議、以下G20ハンブルグ会議)とフランス訪問の直前という絶妙のタイミングで、最大の政治的効果を狙って打ち出された、マクロン仏新大統領の決断であった。

 本稿では、このフランスの発表の狙いと背景を分析するとともに、今後の産油国、特に三大産油国の対応について検討してみたい。

パリ協定の性格

 2017年6月1日、トランプ大統領は、選挙公約に従って、米国のパリ協定からの脱退を発表した。ただ、実際の脱退は、発効3年後から通告可能で、通告の1年後に効力を有することから、将来の話になる。

 そのトランプ大統領のG20ハンブルグ会議とフランス訪問の直前のタイミングで、パリ協定のホスト国として、地球温暖化対策の積極的推進を表明し、リーダーシップを取ろうとしたマクロン大統領の政治的決断は「凄い」というほかない。

 特に近年、EU(欧州連合)内では、メルケル独首相の主導権が目立ち、フランスの影が薄くなっていただけに、マクロン大統領の国際的な発言力強化につながるものであった。環境立国は、EUとしての未来戦略でもある。

 パリ協定は、2015年11〜12月にパリで開催された、第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)で締結され、16年11月発効した国際条約である。しかし、パリ協定は、同床異夢の産物であり、内容が十分に整合的であるとは言い難い。

 パリ協定では、まず世界共通の長期削減目標として、産業革命前からの気温上昇を2度(可能ならば1.5度)未満に抑制するとし、先進国だけでなくすべての国が削減目標を自ら策定し、国内措置を履行、5年毎に目標を提出することとした。

 ところが、各国目標が達成されても、削減量が大きく不足し、全体目標は達成できないことから、各国は5年ごとに目標を見直し、これを強化していくこととされている。「グローバル・ストックテイク」と呼ばれる一連の仕組みだ。

 COP21終了後、会議報告を聞いた時、環境NPO・環境省関係者は2度目標の合意を、産業界・経産省関係者は各国目標の履行を強調していた。筆者は同じ会議の報告とは思えなかったことを記憶している。当然、EU各国は、全体目標の実現を重視している。

ディーゼル車の行き詰まり

 実は、米国は脱退するまでもなく、パリ協定で自ら課した削減目標(2025年に2005年比26〜28%削減)の達成は何ら難しいことではない。シェール革命により、米国内の天然ガス(パイプラインガス)価格が下がり、火力発電用燃料は石炭からガスにシフトしており、二酸化炭素排出量は順調に減り続けている。

 したがって、トランプ大統領がいくら石炭復権を叫んでもその実現は難しい。米国石炭産業の後退は、パリ協定ではなく、シェール革命によるものである。そのため、トランプ大統領にとっての問題は、目標見直し時の目標の緩和禁止規定の解釈の問題に過ぎないとする指摘もある。

 確かに、地球温暖化対策は人類の持続的発展にとって喫緊の課題ではあるが、先進工業国において、現時点で、現状の自動車産業を否定する政策方針を打ち出すことは、驚きである。

 現在の自動車産業は、エンジンをはじめ部品点数も多く、関連産業のすそ野も広く、雇用に与える影響も大きい。日本自動車工業会によれば、車体・部品関連の製造業雇用者だけで約80万人、販売・サービス等の自動車関連産業全体では550万人の雇用者があるといわれる。それに対し、EVは、モーターを中心に部品点数も少なく、雇用吸収力も必ずしも大きいとは言えない。わが国では、こうした決定を国民的議論なしに突如発表することは無茶な話だろう。

 現時点で、フランスが内燃機関自動車の禁止方針を打ち出した背景には、ドイツのフォルクスワーゲン(VW)による米国燃費規制違反を契機とするディーゼル乗用車の技術的限界もあるのであろう。7月18日には、独ダイムラーが燃費規制とは無関係としつつも、「メルセデス・ベンツ」ブランドのディーゼル車の大規模リコールを発表したところであり、また、7月5日には、スウェーデンのボルボも2020年には販売全車種を電動車にすると発表している。

 伝統的に、フランスを代表する自動車会社ルノーを含め、欧州系の自動車メーカーは、ディーゼル乗用車に強い。にもかかわらず打ち出されたフランスの内燃機関自動車販売禁止方針は、ディーゼル自動車技術に対するギブアップ宣言であり、フランス自動車業界に対する「転身」要請かもしれない。

 わが国では、石原慎太郎・元東京都知事のディーゼル排ガス規制時の経緯からディーゼル車へのイメージが悪いが、欧州では、ディーゼル車はガソリン車よりむしろハイテクなイメージがあり、燃費不正発覚以前には、乗用車の新車登録ベースで、ガソリン車よりディーゼル車の方が、むしろ多かった。同クラスの乗用車で、ディーゼル車の方が20%程度燃費が良いこと、燃料税もガソリンよりディーゼルが安い国が多いことも、欧州のディーゼル車人気の要因であった。

 一般に、燃費規制と排ガス規制の間には、エンジンの構造上、トレードオフの関係があるといわれる。公害問題華やかなりし時代には、大気汚染対策としての排ガス規制の強化が進んだが、その後の地球温暖化が問題となってからは、燃費規制が徐々に強化されてきた。そうした中で、燃費規制と大気汚染対策、特に窒素酸化物(NOx)規制を両立させることが難しくなってきたことが、VWの燃費不正の背景にある。その後、燃費不正は、多くのディーゼル車メーカーに広がった。

 なお、マクロン大統領は、前のオランド政権の経済・産業・デジタル大臣時代、ルノーに対する政府関与を巡って、ゴーン率いる経営陣と対立したこともあった。だが、ルノーは早い段階からEVの本格的導入に向けて取り組んでおり、わが国でもEVに強いと見られる日産自動車・三菱自動車と資本提携している。

原子力発電による電気

 もう一つ、フランスが内燃機関自動車の禁止方針を打ち出し、EV等の電動車に舵を切った背景には、フランスの電力がほとんど二酸化炭素を排出せずに作られていることもある。

 電気事業連合会の資料によれば、フランスにおける電源別発電電力の構成比(2014年)は、石炭・石油・天然ガスで5%、原子力で77%、水力・再生可能エネルギーその他で17%だった。化石燃料起源の電力は5%に過ぎず、8割近くが原子力起源の電力で、クリーンな電力であると言える。

 これに対し、わが国では、化石燃料86%・原子力0%・再生可能エネルギー14%と、化石燃料起源の電力が圧倒的に多く、現時点では、EVは温暖化対策にならない。自動車の走行段階でCO2排出がなくとも、発電段階でCO2を出すのではトータルでクリーンな自動車とは言えない。

 1970年代に石油危機を2度経験し、フランスでは、エネルギー安全保障確保の観点から、石油依存脱却の切り札として、原子力発電の強化を図って来た。チェルノブイリ事故が起きても、また福島第一原発の事故の後でも、原子力への依存・信頼は揺るがなかった。「中東の石油より、自国の科学者を信じる」という言葉もあった。2016年の一次エネルギー供給ベースでも石油が32%に対し原子力は39%を占めた(英エネルギー大手BPが毎年発行している「BP統計」2017年版)。

 その取り組みが、地球温暖化対策においても、功を奏していると言える。そもそも、パリ協定自体、そうした確固としたエネルギーの基盤がフランスになければ、まとまらなかったに違いない。わが国が直面している環境保全・エネルギー安全保障・経済成長のいわゆる「3E」のトリレンマから、フランスは解放されているのである。

ドイツの立場

 フランスの内燃機関自動車禁止方針発表に、最もショックを受けたのは、ドイツのメルケル首相であったかもしれない。ドイツは、EU内でフランスと並ぶ環境保護国家であり、温暖化対策のリーダーである。しかし、現時点では、フランス同様に、将来の内燃機関自動車禁止方針は打ち出せないであろう。

 なぜならば、国内自動車産業の規模がフランスの約3倍であるからだ。2016年の世界の自動車生産量は、中国2812万台、米国1220万台、日本920万台、ドイツ606万台がトップ4位であり、フランスは第10位の208万台である(日本自動車工業会調べ)。

 また、発電における石炭と天然ガスへの依存度はそれぞれ46%と13%だ。自然エネルギーが21%と比較的高いものの、火力比率が高いため、電化は温暖化対策にならない。

 ドイツは、温暖化対策先進国と言われながら、ロシアからの天然ガス依存上昇に対する安全保障の配慮からか、石炭火力を温存する政策を伝統的に採用してきた。政治的にも、石炭労組の発言力は未だに強い。原子力発電の将来的廃止を打ち出す中、今後は、日本同様、「3E」のトリレンマから抜け出すことは難しくなるものと思われる。

原油価格低迷の意味

 国際エネルギー機関(IEA)によれば、2015年の世界の石油需要の約56%は輸送用燃料であり、そのうち約8割が自動車燃料と考えられる。産油国にしてみれば、今回のフランス政府の方針表明は、市場における核心的な需要の喪失を意味する。既に、インド政府も、2030年を目途にガソリン車の販売禁止の方向を打ち出しており、一部の北欧諸国も同様の検討を行っているといわれる。

 産油国としては、こうした動きが続くことを警戒していることであろう。

 しかし、OPEC産油国は地球温暖化対策に対抗するための措置を、既に2014年秋の段階で講じていると見られる。

 2014年11月のOPEC総会におけるシェア確保戦略発動による減産見送り決議である。一般的には、シェールオイルの増産に対抗して、価格戦争を仕掛けたとされている。バレル当たり100ドルから50ドル水準への価格引き下げによって、生産コストの高いシェールオイル減産を目指したことは確かである。

 同時に、高価格を維持することによる需要減少と石油代替技術の開発の阻止を目指したものとも考えられる。OPEC産油国にとって、シェア確保戦略とは、現在の石油市場のシェアも重要であるが、将来のエネルギー市場における石油のシェアの維持も視野に入れた構想である。

 特にサウジアラビアにとっては、「石器時代が終わったのは石がなくなったからではない」(ヤマニ元石油相)。シェール革命も、技術革新による資源制約の克服であった。サウジは石油資源の枯渇よりも、石油の需要を奪う新技術の登場を一番恐れている。サウジアラムコ(国営石油会社)の新規株式上場(IPO)も、地球温暖化対策による原油資産の座礁資産(Stranded Asset、資金回収できなくなる資産のこと)化に対するリスク分散、一種の「保険」であるとする見方もある。

 現時点においてEVは、走行距離の問題やバッテリー寿命などの技術的問題、給電施設などインフラの問題があって、まだまだ普及段階とは言えない。だが、将来技術開発が進めば、そうした問題点は一つずつ解決されてゆくだろう。

 EVの普及を先送りさせるには、産油国として打つ手は、財政赤字に耐えつつ、原油価格を低迷させ、技術開発のインセンティブをそぐことぐらいしか考えられない。

 おそらく、2016年の年末以降、協調減産でOPECと行動を共にしているロシア等の非加盟主要産油国にしても、同じ認識を持っているであろう。

 最大の産油国であり、最大の自動車生産国である、アメリカはどうか。エネルギーの自立(自給化)と同時に、自国の雇用の確保を目指すトランプ政権にとっては、パリ協定や地球温暖化対策など、関係ない。現状の方針を進めてゆくしかない。

 そうなると、OPECと非加盟主要産油国は、短期的にはシェールオイルとシェアを争い、中長期的には石油代替技術と需要を争いつつ、現状程度の協調減産を続けていくことになる。

 したがって、今後、相当長期にわたって、原油価格は現状程度で低迷を続けるのではないかと考える。


このコラムについて

石油「新三国志」
 2016年末、今後のエネルギー業界を揺るがす出来事が重なった。1つはサウジアラビアが主導するOPEC(石油輸出国機構)とロシアなど非加盟国が15年ぶりに協調減産で合意したこと。もう1つは米国内のエネルギー産業の活性化を目論むドナルド・トランプ氏が米国大統領に就任したことだ。サウジとロシア中心の産油国連合による需給調整は原油価格の下値を支えるが、トランプ政権の規制緩和などにより米シェール業者の価格競争力は高まり原油価格の上値は抑制されるだろう。将来の原油需要のピークアウトが予想される中、米・露・サウジの三大産油国が主導し、負担を分担する新たな国際石油市場のスキームが誕生しつつある。その石油「新三国志」を、石油業界に35年携わってきた著者が解説していく。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/022700114/072400008/


 

英、ガソリン車など販売禁止へ 40年以降、仏に続き表明
 【ロンドン共同】英国のゴーブ環境・食料・農村相は26日、2040年から石油を燃料とするガソリン車とディーゼル車の販売を禁止すると明らかにした。ロンドンを中心に大気汚染が深刻化する中、メーカー各社に電気自動車(EV)などの開発を促す狙いがある。フランス政府も40年までに販売終了を目指すと表明しており、欧州各国に同様の規制が広がる可能性がある。

 ゴーブ氏によると、販売禁止に向けた経過措置として、地方自治体が汚染のひどい地域へのディーゼル車の乗り入れを制限することなどを想定。そのための資金を自治体に援助して対策を進める考えだ。
http://www.chunichi.co.jp/s/article/2017072601001642.html
http://www.asyura2.com/17/kokusai20/msg/168.html

[政治・選挙・NHK229] 安倍首相もハマった、マスコミが疑惑だけで罪人を作る3つの方法 小池百合子と蓮舫の明暗を分けた「ドン底経験」と「計算高さ」
2017年7月27日 窪田順生 :ノンフィクションライター
安倍首相もハマった、マスコミが疑惑だけで罪人を作る3つの方法

決定的な証拠がないまま、加計学園問題で追いつめられ、とうとう「退陣カウントダウン報道」まで出てきた安倍首相。その転落プロセスをつぶさに見ていくと、マスコミが権力者を糾弾する際に多用する「3つの勝ちパターン」が見えてくる。(ノンフィクションライター 窪田順生)

退陣カウントダウンモードに突入
安倍首相叩きが止まらない

 安倍首相の支持率低下に歯止めがかからない。既に「毎日新聞」(7月24日)などは、「支持率が20%台になった最近の主な内閣」という支持率推移のグラフと、20%台突入から退陣するまでの期間を並べ、「カウントダウン」モードに入っている。


「疑惑」はあるものの、「決定打」が出てこないまま、罪人認定されつつある安倍首相。マスコミが権力者を追い落とす際の3つの手法に、まんまとハマった 写真:日刊現代/アフロ
 個人的には、安倍首相が退陣しようがしまいが知ったことではない。ただ、「謝罪会見」など危機管理広報のアドバイスをしている立場からすると、今回、安倍首相が追いつめられていった「プロセス」は非常に興味深い。

 確たる証拠もないのに、「怪しい企業」の汚名を着せられる企業のそれとよく似ているからだ。

 ひとたびマスコミのネガティブ報道が氾濫すると、そのイメージを回復することは難しい。後ろめたいことがないのなら会見を開いて説明すりゃいいじゃん、と思うかもしれないが、大きな組織になればなるほど、立場的に言えないことが増えてくるものだ。

 役所、取引先、顧客という第三者が関わってくれば、ぼやかしておかなければいけない点がさらに増える。結果、徹夜で想定問答集をつくって、直前までリハーサルをおこない、自分の息子のような年齢の記者に平身低頭で接しても、会見翌日の報道は「深まる疑惑」なんて見出しが躍ってしまう。

 要するに、疑惑を払拭するために開いた会見が、「裏目」に出てしまうのだ。

 そういう企業をこれまで掃いて捨てるほど見てきた。もちろん、糾弾されて当然という企業もあるが、なかには、そこまで厳しく断罪されるほどのことはしていないのに、マスコミによって「巨悪」に仕立て上げられてしまった企業もある。今回の安倍首相もそれとよく似ている。

「文春砲」「新潮砲」を食らった政治家たちと
安倍首相の決定的な違い

 なんてことを言うと、「安倍首相のことなんか知るかと言いながら、必死にかばおうとしている工作員がいるぞ」と、また猛烈な誹謗中傷に晒されるかもしれないが、かばうつもりなどサラサラない。

 安倍政権がいつまで持つのかという大騒ぎになっている割に、この「加計疑惑」には、「疑惑」を裏付けるような「確たる証拠」が存在しない、ということを申し上げたいのだ。

 これまで「文春砲」や「新潮砲」を食らった閣僚や政治家たちは大抵、言い逃れのできない「証拠」を上げられていた。

 たとえば、甘利明・元経済再生担当相は、ご本人と直接やりとりをしたという人物が「カネ」の流れも含めて事細かに証言した。「このハゲー!」の豊田真由子衆議院議員も被害者自身の証言と、音声データがそろっている。「重婚ウェディング」で政務官をお辞めになった中川俊直衆議院議員は、ハワイで撮ったツーショット写真という、言い逃れできない“ブツ”がある。

 そういう意味では、稲田朋美防衛相の「あす、なんて答えよう」なんて発言をしたメモなどもこれにあたる。これはもう完全にアウトだ。

 ただ、安倍首相が加計理事長に便宜を図ったという「証拠」は、今のところ出てきていない。この時期に加計氏とゴルフに頻繁に行っている、とか獣医学部新設の申請を把握したタイミングが怪しいなどというのは、「状況証拠」に過ぎないのである。

「おいおい、お前の目は節穴か、前川さんの証言や、あの『ご意向文書』があるじゃないか」と息巻く方も多いかもしれないが、残念ながら前川さんは安倍首相から直接何かを言われたわけではない。和泉首相補佐官から言われたという話も、和泉氏本人は「岩盤規制改革をスピード感をもって進めてほしいと言っただけで、そんなこと言うわけないだろ」という趣旨のことを述べており、「水掛け論」となっている。

 衆院閉会中審査で小野寺五典衆議院議員とのやりとりを客観的に見ても、前川さんがおっしゃる「加計ありき」というのは、かなり「私見」が含まれている。嘘をついているとかいう話ではなく、「告発者」というほど「疑惑の核心」をご存じないのだろうということが、答弁を見ているとよく分かる。

安倍首相がまんまとハマった
マスコミの「殺人フルコース」

 例の「ご意向文書」に関しても同様で、「加計ちゃんに頼まれているんだからとっとと岩盤規制壊しちゃってよ」なんてことは1行も書いていない。国家戦略特区を推し進めているのだから、これくらいのことを言ってもおかしくないというような発言しかない。

 これらの「文書」を「首相の犯罪の動かぬ証拠」だとしたいという方たちの気持ちはよくわかるが、「文春」や「新潮」だったらボツ扱いの「怪文書」というのがホントのところなのだ。

 では、「確たる証拠」がないにもかかわらず、なぜ安倍首相は「罪人」のようなイメージが定着してしまったのか。

 民進党のみなさんを小馬鹿にしていたり、選挙妨害する人たちの挑発に乗って「こんな人たち」とか言ってしまうなど、いろいろなご意見があるだろうが、「怪しい企業」の汚名をかぶせられた企業を見てきた者から言わせていただくと、マスコミの「勝ちパターン」にまんまとハマっている、ということがある。

 防戦一辺倒の発想しか持っていない、企業、役所、政治家のみなさんはあまりご存じないと思うが、マスコミにはこういう流れにもっていけば、どんな相手でもやりこめられる「殺人フルコース」ともいうべきテクニックが3つある。こういう時代なので、誰でもマスコミから「疑惑の人」と後ろ指をさされる恐れがある。自分の身を自分で守っていただくためにも、ひとつずつご紹介していこう。

<テクニック1>
「争点」を変えていくことで「消耗戦」に持ち込む

 改めて言うまでもないが、「疑惑報道」の主導権はマスコミ側が握っている。ここが怪しい、ここがクサい、という「争点」はマスコミが選ぶのだ。

 茶の間でテレビをご覧になっている方や、スマホでニュースを飛ばし読みしているような方は、マスコミから「ポイントはここです」と提示されると、わっとそこに注目をするしかない。違和感を覚えても、立派なジャーナリストや評論家から「ここが怪しい」と言われたら、そういうものかと思う。

 ちょっと前まで、前川さんの証言や「文書」の真偽が「争点」だと大騒ぎをしていたが、先ほども指摘したように、「証拠」とは言い難いビミョーな結末を迎えると、次のカードとして「首相は誠実な説明責任を果たせるか」とか「加計学園の申請を把握したのはいつか」なんて新たな「争点」を提示していく。

 このような長期戦になればなるほど、攻められる側は消耗し、ネガティブイメージがビタッと定着していくということは言うまでない。

 企業不祥事に対する報道でもよくこういうことがある。不祥事の原因を追及されていたかと思って対応をしていたら、いつの間にやら社長の「人格攻撃」になったり、過去の不祥事を蒸し返されたりする。こういう流れに振り回されると、企業は後手後手に回って、甚大なダメージを受ける。

<テクニック2>
「発言の矛盾」を追及して、「嘘つき」のイメージをつける

 先ほども触れたように現在、「争点」となっているのは、「安倍総理が1月20日に知ったという発言は本当か」ということだが、「加計疑惑」の本当のポイントは、安倍首相が総理大臣という立場を使って、加計学園に便宜をはかったのか否かである。

 誤解を恐れずに言ってしまえば、知った日などというのは「どうでもいい話」である。

 しかし、マスコミは安倍首相の説明の辻褄が合っていないとして「疑惑がますます深まった」という。矛盾があるのは、申請を把握した日付を巡る説明であるのに、なぜか「加計学園」全体の疑惑とごちゃまぜにしているのだ。

 要するに、「説明が理にかなっていない」→「安倍首相は嘘つきだ」→「加計学園に便宜を図った」という三段論法に持っていっているのだ。

 こういうマスコミの「飛躍」は不祥事企業に対してもおこなわれる。たとえば、異物混入騒動時のマクドナルドなどはわかりやすい。「ナゲットに歯が入っていた」→「他の店舗でも異物混入があった」→「マクドナルドの品質管理に問題がある」という具合に報道が過熱していったのは記憶に新しいだろう。

 外食での「異物混入」など日常茶飯事で、マックに限らず日本全国でのどこかで毎日のように発生している。そのなかの極端な事例をマスコミがピックアップして、企業全体の話とごちゃまぜにしたことで、企業の「品質」を揺るがす大問題にまでエスカレートしてしまったのだ。

<テクニック3>
「納得のいく説明がされていない」と食い下がる

 これまで紹介した2つの勝利パターンだけでも、世の中に「嘘をついているのでは」というネガティブな印象を広めることができるが、相手にさらに「不誠実」というレッテルを貼ることができるマジカルワードが、以下の決め台詞だ。

「納得のいく説明をしてください」

 これを出されると、「疑惑」をかけられている人間はもうお手上げだ。「疑惑」を追及する記者は、疑惑を認めないことには納得しない。

 つまり、どんなに説明を重ねて「それは違いますよ」と否定をしても、「納得いかない」と、ちゃぶ台返しをされてしまうのだ。しかも、世の中的にはどうしても「納得できる回答をしていない方が悪い」という印象になる。つまり、権力者や大企業の「傲慢さ」を世の中に広めるには、もっとも適した「攻め方」なのである。

 菅義偉官房長官の会見で、「きちんとした回答をいただけていると思わないので繰り返し聞いている」と食い下がっている東京新聞の記者さんが「ジャーナリストの鑑」として英雄視され、菅さんの株がガクンと落ちていることが、なによりの証であろう。

報道対策に疎い日本政府は
繰り返しマスコミにやられる

 このような説明をすると、「こいつはマスコミを批判しているのだな」と思うかもしれないが、そんなことはない。一般庶民がどう受け取るかはさておき、実際にマスコミで働いている人たちは、社会のためになると思って、こういう攻め方をしている。

 彼らは、自分たちの「仕事」をしているだけなのだ。

 問題は、こういう「勝利パターン」に、安倍首相をはじめ国の舵取りをおこなう人々がまんまとハマってしまう、という危機意識の乏しさだ。

 確たる証拠でもない「疑惑」なのだから、はじめからしっかりと対応をしていればボヤで済んだのに、ここまでの「大炎上」を招いてしまった、というのは、よく言われる「安倍一強のおごり」としか思えない。

 これまで紹介した「マスコミの勝ちパターン」があるということが常識化している欧米では、政府は「報道対応のプロ」を雇う。といっても、どっかの大学で勉強してきました、みたいな人ではなく、「マスゴミ」の性質を知り尽くしたタブロイド紙の編集長などが一般的だ。

 少し前まで「特定秘密保護法と共謀罪で報道が萎縮する」なんて泣き言をいっていたのがウソのように、マスコミはイキイキしている。「不誠実」「嘘つき」というイメージ付けでクビがとれると味をしめれば、次の首相も、そしてまた次の首相もターゲットにされる、というのは政権交代前の自民党で学んだはずだ。

 誰になるかは知らないが、安倍さんの「次の人」は、もっと真剣に「報道対策」を考えた方がいい。
http://diamond.jp/articles/-/136478


2017年7月27日 週刊ダイヤモンド編集部
小池百合子と蓮舫の明暗を分けた「ドン底経験」と「計算高さ」


東京都の小池百合子知事と、民進党の蓮舫代表の“差”はどこにあるのか  Photo:Rodrigo Reyes Marin/AFLO
東京都議選で圧勝し、政党まで立ち上げ勢いに乗る東京都の小池百合子知事。一方、都議選に惨敗、自らの国籍問題で揺れる民進党の蓮舫代表。同じ女性政治家にもかかわらず明暗がくっきりと出た背景には、経験と戦略の違いがあった。(ジャーナリスト 横田由美子)

 安倍政権の支持率が、とうとう危険水域の3割を切った。

 毎日新聞が7月24日に配信した世論調査によると、安倍内閣の支持率は、前月比10ポイント減の26%、不支持率は同12ポイント増の56%となり、いわば「街行く人の2人に1人が政権に石を投げている状態」(官邸関係者)となった。

 秘書に対する「このハゲー」発言で話題なった豊田真由子、公用車で子どもを送迎していた疑惑を持たれた金子恵美、不適切発言の連発に加え、陸上自衛隊内の文書について「虚偽答弁」を行った事実まで浮上した防衛大臣の稲田朋美、さらには昨年獲得した党員数がわずか2人にとどまり「謝罪」を述べた五輪担当相の丸川珠代ら“安倍ガールズ”たちが次々と起こす不祥事に、安倍首相の顔色は日に日に悪くなるばかりだ。

 特に稲田の虚偽答弁は、単に大臣としてのリーダーシップの欠如が問題になっているのではなく、防衛省の内局と制服組との間の亀裂を深め、制服組内部にも混乱を生じさせたという意味で、国家レベルの危機をもたらしたと言えよう。

 だからといって、代表である蓮舫率いる野党第一党の民進党の支持率が上がっているかと言えば、そうではない。NNNが7月上旬に行った世論調査では9.2%と、全く受け皿になっていないことが明らかになった。

凋落する自民、民進が
都民ファの応援団に

 一方、自民党に拮抗する支持を得ているのが、実質、東京都知事の小池百合子率いる都民ファースト(以下、都民ファ)だ。時事通信が行った調査では、次期衆院選についての質問に対して「期待する」は26.6%に上っている。「期待しない」という声もまた多く、55.2%となっているが、国会議員が一人もいない中で自民党とほとんど変わらない数字をたたき出しているということ自体、注目に値するであろう。

 つまり、凋落する自民党と、支持率が一向に上がらないどころか、東京都議選で過去最低の5議席に留まるなど大惨敗を喫した民進党が、一緒になって都民ファに追い風を送る、すなわち両党が都民ファの“応援団”になっているという、皮肉な状況になっているのだ。

 そうした中で蓮舫は、二重国籍問題で連日批判を浴びている。7月18日の記者会見で蓮舫は、日本国籍の選択宣言をしたことを証明する戸籍謄本の一部などを「こういうことは私で最後にしてほしい」と言って開示したが、決断の遅さがむしろ裏目に出て、党勢をさらに低迷させている。事実、民進党所属の国会議員も泥船から逃げるがごとく、ぞろぞろと離党し始めている。

 昨年9月の代表選挙では、鮮やかに前原誠司元外相をかわして圧勝した蓮舫だが、この10ヵ月のお粗末な党運営で、稲田が大臣の器でなかったように、蓮舫も党代表の器ではなかったことを図らずも証明してしまった形だ。

 追い込まれていく安倍自民と蓮舫民進。それだけではない。与党・公明党の山口那津夫代表の顔色も優れない。今回、都民ファと選挙協力することで目標議席こそ達成したが、「友党を見捨てた風見鶏的姿勢」が批判を浴び、次期衆院選における自民党との選挙協力も危ういものとなっている。

 そうした中、ただ一人、元気に溢れていのが東京都知事の小池である。心なしか顔色も艶々しているが、1年前、誰が小池の今の姿を想像しただろうか。

凋落してからの10年間で
試行錯誤した戦略で這い上がった小池

 小池は、1992年に政界入りして以来、五つの政党を綱渡り状態で渡り歩きながらも、永田町の“ヒロイン”であり続けた。特に2000年代の活躍はめざましく、女性初の防衛相就任(06年)、女性初の自民党総裁選出馬(08年)など、永田町で最も男社会である「自民党」で果敢に挑戦し続けた。だが、この総裁選出馬が岐路となって、彼女の政治家人生は“凋落”していく。

 総裁選では、推薦人をどうにかかき集めたものの、地方票はゼロ。翌年の総選挙でも、比例東京ブロックでかろうじて復活当選。10年には野党だった自民党で女性初の総務会長に就任するも、その影は薄くなるばかりだった。

 それが、2012年の総選挙で、前回敗れた対立候補に大差で勝利し、復活を果たしたかに見えた。しかし、その前に行われた自民党総裁選で、小池は大きな計算ミスを犯していた。安倍晋三ではなく、石破茂の側についてしまったのだ。地方での人気こそ盤石だった石破だが、国会議員票でまさかの3位に沈んだ。

 その結果、安倍総理の下の組閣で、同年代で“元祖安倍ガールズ”の高市早苗が総務相に厚遇されたのは仕方がないにしても、わずか当選4回に過ぎない稲田朋美への“偏愛”とも受け取れる重用ぶりは、到底、納得のいくものではなかったはずだ。

 また、当選2回の丸川も閣僚に抜擢された他、いわゆる“風”だけで当選した“安倍チルドレン”たちが当選2回程度で政務官などに登用されていく姿を目の当たりにして、小池のプライドが相当傷ついたのは容易に想像がつく。

 しかし、彼女の長所の一つである「諦めの悪さ」が、こうした“冬の時代”を支えてきたと言っても過言ではないだろう。都知事選や都議選で勝利した戦略は、実は10年以上前から彼女が試行錯誤してきたことがベースとなっているからだ。

 具体的には、女性層の上手な取り込みと、信頼できるブレーン、政策集団の作り方である。

 自民党総裁選に出馬した際、小池は地方の女性シニア層を意識し、年齢を感じさせない美貌と、スタイリッシュな装いの“キャリア女性”的な個性を隠そうとするあまり、必要以上に反発を招いた。

 しかし、働くキャリア女性が多く、美魔女がブームとなっている東京では、小池のそうした個性は、過大すぎるほどの評価を得た。小池自身の年齢が還暦を超えたことも、同性からの「ライバル視」を「憧れの対象」に転換させることにつながった。

 また、以前はブレーンを女性議員で固めようと試みていたが、佐藤ゆかり、猪口邦子と政策ユニットを組んだ結果、瞬間的に空中分解した経験から、今回は元東京地検特捜部長の若狭勝、都議選後に都民ファ代表に就任した野田数などをブレーンに迎え、政策集団はおろか、自身で政党を作ることにまで成功した。

 このように、10年間の試行錯誤が、時流にうまく乗る形で実を結んだ結果、勝利の女神が彼女に微笑んだのである。

師である野田を幹事長抜擢で失敗
執念や計算高さで力不足の蓮舫

 一方、小池とは真逆で、失敗を犯しているのが民進党代表の蓮舫だ。政治の師である野田佳彦元首相を幹事長に起用したことで、実権は野田にあると見られてしまい、“客寄せパンダ”になってしまったのだ。だが、都議選での大惨敗によって、その役割さえも果たせなかったことが明らかになってしまった。

 じつは、蓮舫も小池もタイプ的にはよく似ている。

 テレビ出身で国際色豊か、共にスタイリッシュで美人だ。蓮舫が好んで白を着用するのに対し、小池はテーマカラーの緑を基調としたワードローブを組む。台湾にルーツを持つ蓮舫が翡翠を身につけるのに対し、小池はカイロ大学に留学していたこともあり、アラビア風のロングストールやラピスラズリなど中東を原産地とするアクセサリーをよく身に付けている。

 しかし、強かさや胆力に加えて、執念や計算高さといった面で、蓮舫の力量不足は否めない。やはり小池は、五つの政党を渡り歩き、権某術数渦巻く自民党時代も含めて、権力闘争にもまれ続けてきた経験が生きているのだろう。

 厳しい言い方だが、蓮舫は、「有力者からの引き立てを受けてきた女性議員」の域を出ていないのではないのだろうか。

 支持率低迷に喘ぐ安倍政権は来月にも内閣改造を控える。同じように低迷する民進党もまた「解党的出直し」をテーマに人事を一新するという。本来、野党第一党である民進党が、慢心する自民党に対し嫌悪感を持つ有権者の受け皿になってもおかしくない。だが、このままでは、有権者の心はますます都民ファに流れる一方だろう。

 そうした状況で民進党がどこまで巻き返せるのか。敵は、自民党ではなく都民ファになった今、代表である蓮舫の真の力量が問われている。(敬称略)
http://diamond.jp/articles/-/136481
http://www.asyura2.com/17/senkyo229/msg/702.html

[経世済民122] 日本総研・高橋氏:補正予算で景気刺激する理由ない 米FOMC金利据え置きバランスシート縮小「比較的早期に」 株債券上昇
日本総研・高橋氏:補正予算で景気刺激する理由ない

野原良明
2017年7月27日 05:00 JST

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支持率回復へ、安倍政権は公共事業より構造改革推進に焦点を
財源なく、旧来型の経済対策のための国債追加発行に否定的な考え

経済財政諮問会議の民間議員を務める高橋進日本総合研究所理事長は、日本経済が潜在成長率を上回る状況にあることから、景気浮揚のための補正予算編成は必要なく、政府は構造改革の推進に注力すべきだとの考えを示した。

  高橋氏は25日のインタビューで、「足元で景気刺激を必要とする状況ではない。補正を組んでまで景気を持ち上げないといけない理由はない」と指摘。「成長を促進するためにピンポイントの政策はそうそうない」とし、「そういうものであれば当初予算で組まないといけない」と語った。

  輸出が堅調な中で消費が持ち直し、1−3月期の実質国内総生産(GDP)は、約11年ぶりに5期連続のプラス成長となった。潜在成長率0.8%に対し、2016年度の成長率は1.2%。高橋氏は近く発表される4−6月期GDPにも、これまでの経済対策の効果が現れるだろうとの見方を示した。

  一方で、安倍晋三内閣の支持率が低迷する中、政府・与党の一部から大規模な補正予算の編成で政権浮揚を求める声も出ており、2019年10月に予定されている消費再増税の延期論まで浮上している。安倍首相は8月早々にも内閣改造を断行し、政権の立て直しを図る方針だ。

  前年度予算の税収は当初見込みを下回り、補正予算の十分な財源もない。高橋氏は、公共事業を中心とした旧来型の経済対策を行うための国債の追加発行には否定的な考えを示した上で、「個人的には構造改革をきちんとやってもらいたい。その方が支持の回復につながる」と述べた。

  高橋氏は政府が掲げる「20年度の基礎的財政収支(PB)黒字化目標」と「債務残高対GDP比の安定的な引き下げ」の2つの財政健全化目標の重要性も指摘。「PBだけに縛られていたのでは必要な歳出もできなくなるので、ある程度柔軟にやるべきだ」としながらも、「いつまでもできるわけではない。当然一緒に構造改革をやって成長率を上げるということだ」と語った。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-07-26/OTOLBT6JIJUY01

米FOMC:識者はこうみる

[26日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)は26日までに開催した連邦公開市場委員会(FOMC)で金利を据え置くとともに、「比較的早期に」バランスシートの縮小に着手する考えを示した。

市場関係者のコメントは以下の通り。

●サプライズなし、引き締めペースに注目

<グレンミード(フィラデルフィア)の投資戦略部ディレクター、ジェーソン・プライド氏>

市場は今回、利上げはほぼないと予想していたため、サプライズはまったくなかった。今後は利上げだけでなく量的緩和の縮小も行われる見通しで、年内に何らかの動きがあると予想されるが、引き締めのペースについては注意が必要だ。

●9月にバランスシート縮小開始と市場に伝達

<ウェルズ・ファーゴ・ファンズ・マネジメント、シニア投資ストラテジスト、ブライアン・ジェイコブセン氏>

FRBは9月という時期に直接言及することなく、バランスシートの縮小を9月に開始すると市場に伝えた格好だ。最近の雇用統計の進展に伴い、景気判断も改善した。インフレ率については、FRBはなお目標の2%に向かって上昇するとの期待を堅持している。

●非常に均衡が取れた声明

<BMOキャピタル・マーケッツ(ニューヨーク)の金利ストラテジスト、アーロン・コリ氏>

今回の結果は非常にバランスがうまく取れていた。結果にランクをつけるとすれば、今回が最高だったと言える。

FRBは市場に何の新たな情報も提供しなかった。インフレは軟調であるとの認識を示したが、これは声明のハト派的な部分と言える。一方、比較的早期にバランスシートの縮小に着手すると示唆することで、市場に対する手綱を引き締めぎみに維持した。

9月のバランスシート縮小開始が確実であることを示唆する一方で、特にインフレに関して一部リスクはなお存在しているとの認識を示すことで、FRBはうまく均衡を取った。

●比較的早期の文言、9月以降の資産縮小開始余地残す

<フォレックスライブの首席為替アナリスト、アダム・ボタン氏>

FOMC声明を受けてドルは下落した。理由は2つある。ひとつは、バランスシートの縮小について「比較的早期」に開始するとし、「早期」とはしなかったことだ。これは9月以降に開始する余地を残したことになる。また、市場ではこの日の決定を控え、何らかのタカ派的なサプライズがあるとの見方を踏まえたポジションを取っていたが、こうしたサプライズがなかったため、ドルが売られる結果となった。ただ、ドルは間もなく安定し、市場の関心は指標にシフトすると想定する。

●資産縮小開始9月に正式発表

<ジェフェリーズ(ニューヨーク)の首席フィナンシャル・エコノミスト兼債券担当マネジング・ディレクター、ワード・マッカーシー氏>

バランスシートを巡るガイダンスを変更したことについては、9月にも正常化着手を正式に発表することを示唆していると解釈している。

ただ「比較的」との文言を使ったことで、労働市場やインフレ、さらに連邦債務上限引き上げ問題などを巡り懸念が生じた場合、一定の調整余地が生まれた。

今回の声明のトーンは過去数回の声明と似通っていた。ただインフレが「2%を下回っている」ことは若干強調されている。

総合すると、今回の声明では金利とバランスシートの正常化を継続することがなお示されているが、このところのインフレ鈍化に関する見方については、「理解不能な苛立たしい事象」から、「金利引き上げとバランスシートの正常化を遅延させる要因になりかねない事象」に格上げされた。

●多少ハト派色増す、資産縮小は9月開始

<コモンウエルスFX(ワシントン)の首席市場アナリスト、オマー・エジナー氏>

連邦公開市場委員会(FOMC)声明は控えめながらハト派色が増したとの印象を受けた。連邦準備理事会(FRB)はインフレ見通しに関してやや懸念を深めている可能性がある。過去の声明文ではインフレが「やや」(somewhat)鈍化したとの表現だったが、今回この「やや」という文言が外れたようだ。これはFRBがインフレへの警戒をわずかながら強めた表れではないか。

その他、バランスシートの縮小についてはおそらく最も明確で、バランスシートの縮小が9月に開始することを意味しているとおもう。全体的には今回の声明文は前回からそれほど大きく変わっていないが、インフレに関する部分に相場は反応しているようだ。
http://jp.reuters.com/article/fomc-highlights-idJPKBN1AB2QE?sp=true

Business | 2017年 07月 27日 04:45 JST 関連トピックス: ビジネス, トップニュース
FOMC声明全文
[ワシントン 26日 ロイター] - 6月の連邦公開市場委員会(FOMC)以降に入手した情報は、労働市場が引き締まり続け、経済活動が今年ここまで緩やかに拡大している(has been rising moderately so far this year)ことを示している。雇用の伸びは今年の初め以来、概して堅調で、失業率は低下した。家計支出と企業の設備投資は引き続き拡大した(continued to expand)。前年同月比でみると、全体のインフレ率と食品やエネルギーの価格を除く指標は低下し、2%を下回っている。将来のインフレを示す市場ベースの指標は低いままで、調査に基づいた長期的なインフレ期待の指標は、総じてあまり変わっていない。

委員会は法律上与えられた責務に従って、雇用最大化と物価安定の促進を目指す。委員会は、金融政策の運営姿勢の緩やかな調整により、経済活動が緩やかなペースで拡大し、労働市場の状況はさらにいくらか力強さを増すと引き続き予測している。前年同月比でみたインフレ率は短期的には引き続き2%をやや下回る(Inflationon a 12-month basis is expected to remain somewhat below 2 percent in the near term)が、中期的には委員会の目標である2%近辺で安定する(to stabilize around the Committee’s 2 percent objective over the medium term)と予測している。短期的な経済見通しへのリスクはおおむね均衡しているとみられる(appear roughly balanced)が、委員会は物価の動向を注意深く監視(monitoring inflation developments closely)する。

労働市場の状況とインフレ率の実績と見通しを考慮して、委員会はフェデラルファンド(FF)金利の目標誘導レンジを1.00─1.25%に維持することを決定した。金融政策の運営姿勢は引き続き緩和的で、それによって労働市場の状況のさらにいくらかの引き締まりと、2%のインフレへの持続的な回帰(sustained return)を支える。

FF金利の目標誘導レンジの将来的な調整の時期と規模を決めるに当たり、委員会は目標にしている最大雇用と2%のインフレとの比較で経済状況の実績と見通しを評価する。この評価は、労働市場の状況に関する指標、インフレ圧力やインフレ期待の指標、金融動向や国際情勢の解釈を含む幅広い情報を考慮する。委員会は対称的なインフレ目標(symmetric inflation goal)との比較で、インフレ率の実際の進捗と予想される進展を注視する。委員会は、経済状況はFF金利の緩やかな引き上げを正当化する形で進むと予測する。FF金利は当面、長期的に到達すると見込まれる水準を下回るレベルで推移する可能性がある。ただ、FF金利の実際の道筋は、今後入手するデータがもたらす経済見通し次第である。

当面、委員会は保有する政府機関債とエージェンシー発行モーゲージ債(MBS)の償還元本をMBSに再投資し、米国債の償還金を新発債に再投資する既存の政策を維持する。委員会は、予測通りに経済が広く進展するならば(provided that the economy evolves broadly as anticipated)、比較的早期にバランスシートの正常化計画の実施に着手すると見込んでいる(expects to begin implementing its balance sheet normalization program relatively soon)。この計画は、2017年6月の「委員会の金融政策正常化の原則と計画」の補足事項で説明されている。

政策決定の投票で賛成したのは、ジャネット・イエレン委員長、ウィリアム・ダドリー副委員長、ラエル・ブレイナード、チャールズ・エバンス、スタンレー・フィッシャー、パトリック・ハーカー、ロバート・カプラン、ニール・カシュカリ、ジェローム・パウエルの各委員。
http://jp.reuters.com/article/fomc-statement-idJPKBN1AB2QY

米FOMC、金利据え置き バランスシート縮小「比較的早期に」

[ワシントン 26日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)は26日まで開催した米連邦公開市場委員会(FOMC)で金利を据え置くとともに、「比較的早期に」バランスシートの縮小に着手する考えを示した。

FRBはフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を1.0─1.25%に維持、緩やかな利上げ軌道を継続するとしている。

FOMC声明では、経済は緩やかに拡大しており、雇用の伸びも堅調との認識を表明。だが、総合および基調インフレはいずれも低下しており、物価動向を「注視する」と指摘した。

FRBが基調インフレ指標として注目するコア個人消費支出(PCE)物価指数は、5月に前年同月比1.4%上昇と、伸びが縮小。2月の1.8%上昇から鈍化傾向が鮮明となっており、一部のFRB当局者は懸念を示している。

また「委員会はバランスシートの正常化プログラムを比較的早期に実行に移すと想定している」とし、6月に示した計画に沿って行う考えを示した。

声明発表を受けて、市場ではFRBが次回9月の会合でバランスシートの縮小開始を発表するとの見方が強まった。

ウェルズ・ファーゴ・ファンズ・マネジメントの投資ストラテジスト、ブライアン・ジェイコブセン氏は「FRBは市場に9月のバランスシート開始を宣言したも同然」と述べる。

今回の決定に反対票を投じたメンバーはいなかった。

*内容を追加して再送します。
http://jp.reuters.com/article/fomc-idJPKBN1AB2L3



12月米利上げ観測後退、比較的早期にバランスシート縮小開始とのFOMC声明受け
[ 26日 ロイター] - 米短期金利先物が上昇。米連邦準備理事会(FRB)が26日まで開催した連邦公開市場委員会(FOMC)で、「比較的早期に」バランスシート縮小を開始するとの考えを示したことを受け、年内の追加利上げ観測が後退した。

CMEグループのフェデラルファンド(FF)金利先物に関するロイターの分析によると、FOMC声明発表直後、市場が織り込む12月の利上げ確率は40%となった。声明発表前は50%弱の確率を織り込んでいた。
http://jp.reuters.com/article/usa-fed-futures-idJPKBN1AB2LD

米国で想定される2つの金融政策(福永博之)
日銀の金融政策 指値オペの影響とは
 日本の金利水準を確認してみましょう。グラフで最も高いところは0.1%近辺です。逆に一番低いところは、マイナス0.3%をつけています。そこまで低くなった理由は、日銀がマイナス金利を導入したことによるものです。ただ実際に導入が発表された後は、一旦落ち込んだものの回復し、日銀はマイナス金利を継続しているものの、実際の長期金利はプラスを維持しているという状況です。

 そうした中で、消費者物価指数の推移を見ると100を超えてきていて、なんとなく高止まりの様子を見せています。これまでは戻そうとしても戻しきれずに押し返されていたわけですが、今回は2カ月連続で上昇しています。
 世界情勢を見ると、アメリカは利上げ、ないしはバランスシートの縮小に入っており、一方、ユーロ圏ではECBがテーパリングをするかもしれないとして、ドラギ総裁が景況感にも前向きな話をしています。そうした中で、日本でも長期金利がやや上昇してきているとなると、日銀も出口戦略などという話が出るのではないかとマーケットは考えてしまいがちです。
 そこで重要となるのが、今回の金利の低下局面です。実際に黒田総裁が指示をしているのかどうかは分かりませんが、前にも黒田バズーカは2月14日に行われ、バレンタインデーの贈り物などと言われました。そして今回も七夕の7月7日に日銀は行動を起こしたのです。この日、日銀は指値オペというものを実施しました。
 債券は、価格と金利が逆相関になります。価格が上がれば金利は低下するわけです。そこで日銀は指値オペといって、いくらで買いますと定めたオペレーションを通達したのです。つまり、高い値段で買うということで、それだけ金利の低下につながるのです。ではどれだけ買うのかというと、今回のオペレーションでは無制限で買うとしたのです。指値オペで出てきたものは全て買うとやったわけです。
 金利の上昇傾向で日本も出口かと言われていたところに、日銀は低金利を続けるのだという姿勢を、今回の7月7日の指値オペではっきり示したのです。しかも、そうした行動はサプライズだったので、金利はその後再び低下傾向になっています。日本が出口戦略に向かうなどという事は時期尚早、それほど早いものではないというメッセージをマーケットにはっきり見せたというところがポイントなのです。こうしたことにより、国債の価格も安定しているのです。
 そして為替についても、アメリカの長期金利が低下してくれば日米の金利差は縮まるので、日本の金利低下の余地もそれほどない中でアメリカ金利が低下すると、どうしても円高になりがちです。しかし以前のように100円台前半にはなっていません。これも、日銀の示した姿勢が背景にあります。この指値オペを行った当日も大きく円安に触れました。
 市場へのメッセージ、マーケットの安定、円安、この3つの効果を狙ってオペを行っていたのだとすれば、これは相当頑張っていると評価できることだと思います。これまでの日銀の総裁たちは何をしていたのかと思うほどです。そしてこうしたことが、信頼の蓄積、積み上げにつながって、何かをしたときに大きなインパクトになるのです。あるいは、出口戦略などの話になったときのインパクトを、逆に小さくするような、マーケットの信頼に結びついていくことになるのです。今回の政策は、非常に意義のあるものだったと思います。
米国で想定される2つの金融政策
 日銀は緩和を続けると言っているわけですが、アメリカの方では、バランスシートの縮小まで考えているにもかかわらず金利がなかなか上がりません。今後世界のマーケットへ与える影響を考えた場合、フォローしておくべきことは、まずはバランスシート縮小の時期です。今月もFOMCがありますが、その文言の中で、時期を示唆するような何らかの言葉が付け加えられるかどうかがポイントになってきます。今回は会見はなく、基本的には声明文だけなので、何も動きはないと思われていますが、その中でも今後の示唆があるかどうかは注意が必要です。
 もし仮に実際にバランスシートの縮小を発表したとすると、金利がどちらに動くのか考えておかなくてはいけません。バランスシートの縮小というのは、再投資をしないということです。日銀の場合は指値オペをして高い値段で買ったわけですが、そうなると金利は低下します。一方、再投資をしないという事は買いが入ってこないということになり、金利は上がります。よってロジックとしては、金利は上昇する方向に向かうはずなのです。実際に行われたときに金利が上がっていくのかどうか、見ておかなくてはいけません。

 なぜバランスシートの縮小と利上げが同時に行われないのかというと、両方を一度にやってしまうとインパクトが強すぎるからです。バランスシートの縮小は、マーケットの需給から金利を押し上げようという流れで、一方、FFレートを引き上げることは、市中からお金を吸い上げるということになるので、全く違う手段ですが、どちらからも金利押し上げ効果が出ると大変なインパクトになってしまうのです。
 そしてもう一つ重要なのがその順番です。マーケットでは利上げを先にするのではなく、バランスシートの縮小を先にするという見方が多くなっています。次にイエレン議長の会見があるのは9月なので、バランスシートの縮小が9月にあって、その次に会見が行われる12月に金利を上げるのではないかという見方が大勢です。このように2段階でやるというのが今のマーケットの味方です。しかし一方では、FFレートを先に上げておいて再投資で調節するという考え方もあります。
  このようなことから、金利に与える影響のシミュレーションをしておくと良いでしょう。ただいずれにしても金利が上がって、悪い金利上昇となった場合には注意が必要です。景況感が良ければ利上げをしても大丈夫と冷静に受け止められますが、再投資もなくなり需給が悪化している中で、景況感もそれほど良くない場合には、再び緩和に向かうという話にもなりかねません。そうなると株価は業績さえよければ大きな下落にはならないかもしれませんが、景況感が悪く割高感が目立てば、調整に入る可能性が出て来るので、ポートフォリオの中にNYダウの指数などを持っている方は、特に注意が必要です。
講師紹介

ビジネス・ブレークスルー大学
資産形成力養成講座 講師
株式会社インベストラスト 代表取締役
IFTA国際検定テクニカルアナリスト
福永 博之
7月20日撮影のコンテンツを一部抜粋してご紹介しております。
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ソフトランディングなきBREXITは撤回すべき(大前研一)


7月26日の海外株式・債券・為替・商品市場
Bloomberg News
2017年7月27日 05:57 JST

関連ニュース
FOMC:保有証券縮小、「比較的早期に」開始へ−金利は現状維持
米国株:S&P500種ほぼ変わらず、引け際15分で上げ幅縮小

米国債:上昇、FOMC声明が継続的な低インフレを示唆
米税制改革案の枠組み、週内に公表される可能性も−関係者


欧米市場の株式、債券、為替、商品相場は 次の通り。

◎NY外為:ドル大幅安、FOMC声明に反応−発表直後に一時上昇も

  26日のニューヨーク外国為替市場ではドルが大幅安。主要10通貨のほとんどに対して下げた。米国債利回りも低下。米連邦公開市場委員会(FOMC)はこの日、政策金利の据え置きを決定。声明ではインフレ率について、目標の2%に上昇するとの見方を維持した。またバランスシートの縮小に関しては「比較的早期」に開始するとの見通しを示した。

  ドルは下落する前にいったん上昇する場面があった。FOMCは声明で「前年比ベースでのインフレ率は短期的に2%をやや下回る水準にとどまると予想されるが、中期的には委員会の目標 である2%程度で安定すると見込んでいる」と指摘したことが手掛かり。

  ニューヨーク時間午後3時現在、主要10通貨に対するドルの動きを示すブルームバーグ・ドル・スポット指数は前日比0.4%低下。
  ドルは対円では0.5%安の1ドル=111円32銭。対ユーロでは0.7%下げて1ユーロ=1.1723ドル。

◎米国株:S&P500種ほぼ変わらず、引け際15分で上げ幅縮小

  26日の米国株式市場ではS&P500種指数が前日とほぼ変わらず。引け際直前に上げを縮小した。連邦公開市場委員会(FOMC)は声明で、経済が勢いを増しているにもかかわらずインフレが依然目標水準に届いていないと指摘した。
  ニューヨーク時間午後4時過ぎの暫定値では、S&P500種が前日とほぼ変わらず。0.1%未満上げて2477.82。ダウ工業株30種平均は97.58ドル(0.5%)高い21711.01ドル。ナスダック総合指数は0.2%値上がりした。
  FOMCはこの日発表した声明で、経済見通しへの短期的なリスクは「おおよそ均衡している」ようだが、インフレは引き続き目標である2%を下回っていると指摘。米当局は利上げを急いでいないとの観測が市場では強まった。一方、声明はバランスシートの縮小を比較的早期に開始するとし、ハト派的な傾斜とバランスを取った。

◎米国債:上昇、FOMC声明が継続的な低インフレを示唆

  26日の米国債は上昇。米連邦公開市場委員会(FOMC)は25、26 両日の定例会合後の声明で、インフレが依然として目標値を下回る低水準にあることを示唆した。
  ニューヨーク時間午後2時49分現在、10年債利回りは5ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)下げて2.29%。
  FOMCは声明で「前年比ベースでの全般的な インフレ率ならびに食品とエネルギー価格を除いたベースでの指標は低下し、2%を下回る水準で推移している。市場に基づくインフレ調整指標は低い水準が続いている」と指摘した。
◎NY金:上昇、FOMCが金利据え置き−インフレ動向注視と表明
  26日のニューヨーク金スポット相場は米連邦公開市場委員会(FOMC)の声明発表後に上昇し、日中の高値をつけた。FOMCは政策金利を据え置き、「インフレの動向を注視している」と表明した。
  シンク・マーケッツUKのチーフマーケットアナリスト、ナイーム・アスラム氏は「金価格はしっかりとプラス圏で推移している。FOMCは金利を引き上げないだろうとトレーダーらは考えている」と電子メールで指摘。「インフレがかなり低いことが主な理由だ」と述べた。
  ニューヨーク時間午後2時8分現在、金スポット相場は前日比0.4%高の1オンス=1255ドル。
  ニューヨーク商品取引所(COMEX)の金先物12月限はFOMC声明の発表前に、前日比0.2%安の1オンス=1255.60ドルで終了した。
原題:Spot Gold Advances as Fed Holds Rates Steady, Assesses Inflation
(抜粋)PRECIOUS: Gold Fluctuates Before Fed Decision; SPDR Assets Sag(抜粋)

◎NY原油:8週ぶり高値−米在庫が1月以来の水準に減少

  26日のニューヨーク原油先物市場でウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物は続伸、8週間ぶりの高値に達した。米エネルギー情報局(EIA)の週間在庫統計によると、先週の原油在庫は1月以来の水準に落ち込み、ガソリン在庫は6週連続で減少した。
  USバンク・ウェルス・マネジメントの投資担当シニアストラテジスト、ロブ・ヘイワース氏(シアトル在勤)は「価格を押し上げた最大の材料は、在庫がまた減少したという事実だ」と指摘。「在庫取り崩しは市場でずっと待望されていたことであり、朗報だ」と続けた。
  ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のWTI先物9月限は前日比86セント(1.80%)高い1バレル=48.75ドルで終了。5月30日以来の高値。ロンドンICEの北海ブレント9月限は77セント上昇の50.97ドル。
原題:Oil Climbs as U.S. Supplies Shrink to Lowest Since Start of Year(抜粋)

◎欧州株:ストックス600、続伸−力強い決算を好感

  26日の欧州株式相場は上昇し、指標のストックス欧州600指数は続伸となった。決算シーズンが本格化する中、一部企業の決算が予想を上回る内容だったことが好感された。原油高を手掛かりに石油・ガス株も買われた。
  ストックス600指数は前日比0.5%高の382.74で終了。ただ、最近のユーロ高が欧州企業の利益回復を妨げるとの懸念から、5月につけた年初来高値を3.5%下回る水準にある。  
  ゴールドマン・サックスのグローバル株式チーフストラテジスト、ピーター・オッペンハイマー氏によれば、企業決算はこれまでのところまちまちだ。銀行が好調だった一方、工業部門の企業の結果は予想を下回ったと、同氏はリポートで指摘した。
  「プジョー」などの自動車ブランドを持つフランスのグループPSAと、スイスのバイオテクノロジー・特殊化学品企業ロンザグループは大きく上げた。今年上期に増益となったことが買いにつながった。一方、オランダの半導体製造装置メーカー、ASMインターナショナルは6.2%安。四半期業績が一部予想に届かなかった。
原題:Stoxx 600 Rises for Second Day as Earnings Season Gains Steam(抜粋)

◎欧州債:中核国債が反発、FOMCを控え薄商い−イタリア債も上昇

  26日の欧州債市場では中核国債が反発。前日は米国債に連れ安していた。FOMCの結果を控え、総じて薄商いだった。
  イタリア国債も買われた。利回り上昇に伴う押し目買いが入り、この日の10年債利回りは約3bp低下。
  トレーダー1人によれば、入札を控えて10年債が売られ、上げ幅をやや消した。
  英国債も比較的堅調で、ドイツ10年債に対する利回り上乗せ幅は2bp縮まった。前日は英国債先物に大規模なブロック取引の売りが入ったことを受け、利回り上乗せ幅は拡大した。
原題:Bunds Stall as Traders Pause for Fed; End-of-Day Curves, Spreads(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-07-26/OTP65D6JIJUP01

http://www.asyura2.com/17/hasan122/msg/728.html

[経世済民122] 最低賃金引き上げで「時給1000円」時代へ 安倍首相の求心力低下がリスク 2020年日本超え?韓国最低賃金上げ率がスゴい

最低賃金引き上げで「時給1000円」時代へ

働き方の未来

安倍首相の求心力低下がリスク

2017年7月28日(金)

磯山 友幸

パートやアルバイトの待遇改善につながる(写真はイメージ)
年3%程度の引き上げが続く

 東京の最低賃金が1000円を超える日が近づいている。厚生労働省の中央最低賃金審議会は7月25日、2017年度の最低賃金の目安を決めた。全国平均で時給を25円引き上げ848円にするほか、東京都は26円引き上げて958円とした。今後、各都道府県の審議会が、地域別の最低賃金を正式に決め、10月をめどに改定後の最低賃金が適用される。

 政府は2016年6月に閣議決定した「ニッポン一億総活躍プラン」で、最低賃金の「年3%程度の引き上げ」を盛り込んでいた。全国平均の引き上げ率は昨年に続いて2年連続で3%を超えた。東京都の最低賃金も2.7%程度の引き上げが続いており、このペースが続けば2年後の2019年には、最低時給が1000円台に乗る。安倍晋三内閣が中期的な目標としてきた「時給1000」円が実現する。

 安倍内閣は最低賃金の引き上げを重点政策のひとつとしてきた。第2次安倍内閣が発足する前の2012年の最低賃金は全国平均で749円、東京都で850円だった。それ以降、毎年引き上げられ、5年間で全国平均が99円、東京が108円引き上げられた。率にすると全国平均で13.2%、東京で12.7%という大幅な引き上げだ。民主党政権時代も最低賃金の引き上げに積極的だったが、2012年までの5年間の上昇率は全国平均で9%だった。最低賃金に近い時給で働くパートやアルバイトなど非正規社員の待遇改善につながってきたとみられる。

 最低賃金の引き上げには中小企業経営者などの反発が強い。彼らを有力支持母体とする旧来の自民党は最低賃金の引き上げには慎重な姿勢だった。ここへきて毎年3%の引き上げが実現している背景には、深刻な人手不足によって、パートやアルバイトの時給が実際に上昇していることがある。人材を確保するには時給を引き上げざるを得ないという現実問題が先行しているのだ。ここ数年の急ピッチの最低賃金引き上げには抵抗感はあるものの、反発はあまり大きな声になっていない。

企業利益は急拡大も労働分配率は低下

 安倍内閣が最低賃金引き上げに積極的な背景には、アベノミクス開始以降、安倍首相が繰り返している「経済好循環」の実現がある。大胆な金融緩和などによって円高が是正され、企業収益が大幅に改善した。これが賃金の上昇に結びつき、消費の増加などとなって現れるのが「経済好循環」だが、まだまだ一般国民にその実感はわいていないのが実情。安倍首相みずから、経団連などの財界首脳にベースアップの実現を求め、春闘では4年連続のベアが実現しているものの、中小企業では、まだまだ賃上げの動きは本格化していない。

 企業は業績が好転していてもなかなか賃金の引き上げには回さず、内部留保として先行きに備える傾向が強い。最新の2015年度の法人企業統計によると、金融・保険業を除く全産業の期末の利益剰余金は377兆8689億円と1年前に比べて23兆4914億円も増えた。率にして6.6%の増加である。もちろん、最大の要因は企業が稼ぐ利益自体が高水準を続けていること。1年間の純利益は2014年度に41兆3101億円と10%も増えたが、2015年度も41兆8315億円とほぼ横ばいを維持した。アベノミクスが本格的に始まる前の2012年度の純利益は23兆8343億円だったから、円安などの効果で企業の利益は1.7倍に急拡大したことになる。

 この間の人件費の総額も増えていることは増えている。2012年度は196兆8987億円だったものが2015年度は198兆2228億円。1兆3241億円の増加である。ただし、利益(付加価値)の伸び率の方が大きかったので、賃金に回った割合、いわゆる労働分配率は低下している。

 最低賃金の引き上げによって、パートやアルバイトの最低賃金が上昇した場合、それにつれて中小企業の正社員の賃上げに結びつく可能性もある。今後も人手不足が続くことが予想されるため、不安定なパートやアルバイトに依存するよりも、正社員を採用したいと考える中小企業経営者は増えている。特に人手不足が深刻な外食チェーンや小売り、宿泊、運輸関係でこの傾向が強い。こうした業種は給与が低く、生産性が上がらない業種とみられてきたが、人手不足による賃金上昇が顕著になってきた。

 第2次安倍内閣発足直後から雇用者数は増え続けているが、当初は非正規雇用が大幅に増え、正規雇用はむしろ減少傾向が続いた。団塊の世代が定年を迎え、嘱託などとして継続雇用された時期と重なったこともあるが、景気回復が始まった段階での正規雇用に経営者が躊躇していた側面もあった。

 ところがここ1年ほどは非正規雇用の伸びよりも正規雇用の伸びが大きくなる傾向が現れている。最低賃金の上昇でパートなどの給与が相対的に上がったため、むしろ正規雇用を求める経営者が増えたとみられる。

フルタイムで働けば、年間収入は200万円超に

 今年3月に政府の「働き方改革実現会議」(議長、安倍首相)がまとめた実行計画では、「同一労働同一賃金」がひとつの大きな課題だった。仕事内容も責任の軽重も同じ人が正規雇用か非正規雇用かというだけで、賃金格差を設けることは認められなくなる方向にある。最低賃金の引き上げによって、こうした待遇格差が縮まるだけでなく、非正規雇用の正規化にも拍車をかけることになりそうだ。

 東京都で最低時給が1000円を超えてくると、仮に最低時給でフルタイムで働いたとして、年間の収入が200万円を超える。最低賃金はパートやアルバイトだけでなく、正規社員にも当然適用されるので、雇用されて働く人の年収が200万円を下回ることはなくなるわけだ。まだまだ十分な賃金水準とは言えないが、賃金格差や貧困問題を解消していくうえでも、最低賃金の引き上げは一定の効果を上げていると言えそうだ。

 問題は、ここに来て内閣支持率が急低下し、磐石とみられた安倍政権の先行きに不透明感が漂ってきたこと。労働に関係する政策は、労使や与野党など、主義主張や利害関係が対立するものを調整することが重要になる。政権基盤が強くないとなかなか実現できないテーマだ。

 今年秋の臨時国会では労働基準法の改正が大きな焦点になる。例外的に認める残業の上限を「100時間未満」とするなど残業上限を定める法案が審議されるが、政府がそれと「セット」での成立を見込んでいる「高度プロフェッショナル制度」の扱いが微妙になっている。高度プロフェッショナル制度は年収1075万円の専門職社員に限って、残業時間や残業代の規定を除外する制度。政府は、時間では成果を計りにくい専門職が自律的に働くのに不可欠な制度としているが、野党や労働組合は「残業代ゼロ法案」「過労死促進法案」だとして強く批判してきた。

 政府と連合が水面下で続けてきた交渉で、連合執行部は、法案の修正を条件に高度プロフェッショナル制度を容認する姿勢を見せたが、民進党や傘下の労働組合の強い反発で、方針撤回に追い込まれた。背景には、安倍内閣の支持率低下で、「臨時国会でまだまだ条件闘争できるのに、こんなに早い段階で妥協する必要はない」(民進党幹部)という主張が大勢を占めたことがある。政府の足元がぐらついた結果である。

 今後、安倍内閣がさらに弱体化すれば、これまで進めてきたアベノミクスや「働き方改革」などの方向性が大きく変わる可能性が出てくる。もともと安倍首相の改革路線に反対している自民党議員も多いが、安倍首相が高い人気を維持していた中で、「公然とアベノミクスに反対することはできない」(自民党ベテラン議員)というムードが強かった。安倍氏の求心力低下が、来年以降の最低賃金の引き上げや労働政策に、変調をきたすきっかけになる可能性は十分にある。


このコラムについて

働き方の未来

人口減少社会の中で、新しい働き方の模索が続いている。政官民の識者やジャーナリストが、2035年を見据えた「働き方改革」を提言する。

日経BP社
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/021900010/072700049/

どう思う? 最低賃金25円の引き上げ
7月27日 17時59分
今年度の最低賃金の引き上げについて厚生労働省の審議会は、全国の平均で25円引き上げて時給848円とする目安を示しました。25円は、過去最大の上げ幅となった昨年度の実績と同じ金額。ネット上では歓迎の声がある一方で不満の声も上がっています。最低賃金の引き上げについて雇用問題に詳しい日本総研調査部の山田久理事に聞いてみました。
最低賃金の引き上げのニュースが流れるとネット上では「過去の引き上げ幅に比べると頑張っている」と歓迎する声が上がりました。また、「娘がアルバイトを始めて1年で時給が上がりました。人手不足もあるでしょうが、人件費に経費を割けるようになってきていると思う」として、収入のアップを実感しているという声も上がっていました。

これに対して、「たった25円?100円単位で上がってほしい」という声や「最低賃金1000円が普通にならなくちゃ…」といった声も。また「先進国ではぶっちぎりの最下位!」という指摘も出ていました。

一方、ネット上では、「都道府県単位で決まる理由が分からない。人はよい給与を求めて都会に出るだろうし、地方の過疎化が進むと思う」という声や「最低賃金の格差があるなら消費税も最低賃金に合わせて設定すればいい。都会のほうが賃金が高いのに消費税は同じだから田舎は衰退する」という意見なども見られました。

日本総研調査部の山田さんは「日本の最低賃金は、先進国の中で最低水準なので、ヨーロッパ並みに引き上げようという意見もある中では、まだ、今は道半ばと言える。しかし、中小企業への影響を考慮すると今回の引き上げ幅は妥当だと思う」と話しています。

また山田さんは、「地域によって、生活水準が異なるので、最低賃金の水準がすべて一律というわけにはいかない。しかし、格差は広がっていてこのままでは地方から人材が都市部に流出し、ますます地方が人材不足になってしまう。今後は最低賃金の水準が低い地域での引き上げペースを上げていく必要がある。これに合わせて中小企業の支援が必要で人材育成や企業どうしの連携などを自治体などが積極的にバックアップして生産性を上げる必要がある」と強調していました。

日本の景気回復には消費がカギとなります。消費を伸ばすには賃金の上昇は不可欠。今後も最低賃金の動きに注目していく必要がありそうです。
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官房長官 最低賃金1000円達成へ課題解決を7月26日 17時15分
最低賃金 全国平均で25円引き上げ時給848円を目安に7月26日 6時15分動画
最低賃金の議論大詰め 今夜にも引き上げ額の目安7月25日 15時48分
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170727/k10011077041000.html

2020年には日本を超える!? 韓国の最低賃金の値上げ率がスゴい
慎武宏 | ライター/S-KOREA編集長
7/28(金) 7:02
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最低賃金引上げは若者たちを明るくするか(写真:ロイター/アフロ)
今年度の最低賃金の目安が決まった。前年度から3%引き上げた全国平均848円となった。これは2年連続過去最大の引き上げ率で、「毎年3%程度引き上げ」という安倍政権の目標に合わせる形となっている。

お隣・韓国でも2018年度の最低賃金が決まった。それも、過去最大の引き上げ幅だ。2017年現在の最低賃金は6470ウォン(約640円)だが、来年度はなんと16.4%引き上げた7530ウォン(約750円)になるという。

引き上げ率が2桁になるのは2007年の12.3%以降11年ぶりのことで、もしこのまま2桁ペースでの引き上げが続けば、2020年には日韓の最低賃金が逆転する見込みだという。

韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権は「2020年の最低賃金を1万ウォン(約1000円)にする」ことを公約に掲げており、先日発表した「100大国政課題」にも賃金格差解消を強く訴えていた。
(参考記事:日本と韓国の大富豪は何が違う? 億万長者の成り立ちに見る韓国の経済格差)

つまり、今回の急激な引き上げは公約実践に向けた第一歩というわけだ。

韓国では今回の最低賃金引き上げによって277万人の労働者がその影響を受けるという。年齢別に見ると19歳未満が63.8%で最も多く、非正規雇用の割合が多い20〜24歳と60歳以上はそれぞれ35.2%、34.4%だった。

近年、韓国の若者たちの間では「ヘル朝鮮」や「スプーン階級論」などの造語が次々と生まれその将来を憂う声が絶えなかったが、最低賃金の引き上げが、一筋の光として期待されている部分もある。

ただ、今回の政府決定について韓国内では激しい賛否両論が巻き起こっているのも事実だ。

反対派の主張は「最低賃金が上がればかえって雇用が減り、サービス質の低下、経営悪化につながる」ということ。

一方の賛成派からは「雇用主は当分辛いかもしれないが、この画期的な引き上げは経済不平等の解消、産業構造の変化、労働時間短縮に導くため避けては通れない道だ」という声が上がっている。

もっとも、それ以前の問題として韓国社会に蔓延している「賃金の未払い」が気になるところでもある。

韓国の労働運動団体であるバイト労組によると、昨年発生した賃金未払い額は1兆4000億ウォンに及ぶという。

韓国より経済規模が3倍以上大きい日本よりも、10倍を超える数値だ。しかもバイト労組関係者の話によると「これは氷山の一角」らしく、最低賃金や退職金の未払い被害に遭った労働者がそれを通報しない場合も多いらしい。

先日は「国民の党」の主席副代表であるイ・オンジュ氏がこんな発言をしていた。

「私も過去にバイトをした経験があるが、給料を踏み倒されたことがある。でも店長と私は同じ船に乗っていると思い、労働庁に通報しなかった。こういう共同体意識が必要ではないか」

やり甲斐も苦労も分かち合おうと伝えたかったのかどうかは定かではないが、国会議員である彼女が苦労を強要しているようにも映って猛烈批判を受けているのは言うまでもない。

韓国で国会議員は「特権層だ。様々な特典は語るまでもなく、権力も享受している」と言われているだけになおさらだ、
(参考記事:国会議員の平均資産額は日本の約5倍!? 韓国の政治家はなぜ儲かるのか)

彼女は以前、ストライキを起こした学校の非正規給食調理員に向けて「給食調理員なんて、ただの飯炊きおばちゃん」と暴言を吐いた人物だが、今度は賃金の未払いを容認するような発言でまたもや渦中の人となった。
(参考記事:日本よりひどいかも…!? 韓国政治家たちの暴言が低レベルすぎる)

雇われる側に理不尽な「共同体意識」を求めたり、それに従ったりする人が未だに存在する限り、賃金の未払い問題は無くならないだろう。ましてや最低賃金が上がれば、もっと増えるかもしれない。

それにしても、原発の永久停止や公務員増員など、前例のない政策を続々と打ち出している文在寅政権。それは果たして薬となるか、毒となるか。その行方に注目したいと思う。

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慎武宏
ライター/S-KOREA編集長
1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書に『祖国と母国とフットボール』『イ・ボミはなぜ強い?〜女王たちの素顔』『ヤバいLINE 日本人が知らない不都合な真実』など。訳書に『パク・チソン自伝』『サムスンだけが知っている』など。プロデュースに『ザ・日韓対決 完全決着100番勝負』『韓流スターたちの真実』など。日本在住ながらKFA(大韓サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)に記者登録されており、ニュースコラムサイト『S-KOREA』編集長も務めている。
shinmukoeng
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https://news.yahoo.co.jp/byline/shinmukoeng/20170728-00073790/
http://www.asyura2.com/17/hasan122/msg/742.html

[経世済民122] コラム:ドル安と円安「共存」の賞味期限 焦点:米FRB、早期の追加利上げは可能か 
コラム:ドル安と円安「共存」の賞味期限

亀岡裕次大和証券 チーフ為替アナリスト
[東京 28日] - ドル円は4月17日に今年の最安値108.12円をつけた後、114円台半ばを高値として上下動を繰り返してきた。その間の相場は、政治情勢、金融政策、経済指標で、ほぼ説明できる。これらの要因から考えて、今後のドル円相場はどうなりそうか。

まずは、4月以降、どのような材料でドル円相場が動いてきたのか、整理したい。

<為替相場に影響を与えた主な出来事>

4月から5月にかけては、「欧州政治リスクの後退」「トランプ政策期待」「米連邦準備理事会(FRB)のタカ派姿勢」から、ドル円が上昇した。

主な出来事(日付は日本時間)、仏大統領選第1回投票でマクロン氏1位(4月24日)、米政権が税制改革案の概要発表(27日)、米連邦公開市場委員会(FOMC)声明「米成長鈍化は一時的」(5月4日)、米下院がオバマケア代替法案を可決、米上院が9月末までの予算案可決(5日)、仏大統領選決選投票でマクロン氏勝利(8日)。

5月から6月にかけては、「トランプ陣営とロシア政府の癒着疑惑」「米経済指標の弱さ」から、ドル円が下落した。

主な出来事は、トランプ米大統領がコミー連邦捜査局(FBI)長官を解任(5月10日)、FBI長官が解任数日前にロシア疑惑捜査の態勢強化を司法省に要請(11日報道)、米大統領が機密情報をロシア外相に漏洩(16日報道)、コミー前FBI長官が米上院公聴会で証言(6月8日)、5月米消費者物価、小売売上高ともに市場予想下回る(14日)。

6月から7月にかけては、「欧州中銀(ECB)出口政策期待の急浮上」「FRBバランスシート(BS)縮小観測」「米経済指標の強さ」から、ドル円が上昇した。

主な出来事は、FRBが利上げ、年内のBS縮小開始示唆、再投資縮小計画公表(6月15日)、ECB総裁が政策調整で景気回復に対応可能と発言(27日)、米上院共和党がオバマケア代替法案先送り(28日)、6月米供給管理協会(ISM)製造業景況指数が市場予想上回る(7月3日)、6月米非農業雇用者増が市場予想上回る(7日)。

そして、7月上旬以降、「ロシア疑惑再浮上とトランプ政策運営懸念」「米経済指標の弱さ」「米利上げ期待後退」から、ドル円が下落した。

主な出来事は、トランプ氏長男が米大統領選中にロシア人弁護士と面会(7月10日報道)、6月米消費者物価、小売売上高ともに市場予想下回る(14日)、オバマケア代替法案、米上院共和党の造反4人で可決困難に(18日)、FOMC声明、早期のBS縮小開始示唆、インフレ表現弱めに(27日)。

<米政策懸念と米指標悪化がドル安に働く可能性>

上記の通り、トランプ政権に対する見方は、米長期金利とドル円を左右する。ロシア政府との癒着疑惑などから米国民の政権支持率が低下しているため、共和党内でも「トランプ離れ」が起きている。共和党の穏健派がトランプ政権や保守派の政策姿勢と距離を置くようになり、共和党議員の意見が一致しにくい状況にある。米上院共和党でオバマケア代替法案がなかなかまとまらず、法案審議は議会休会明けに再開されそうだ。

8月の議会休会中は、公聴会での証言がないために、FBI捜査の進展が明らかにならなければ、ロシア疑惑は強まりにくいだろうし、政策運営懸念も一服するかもしれない。しかし、休会明けの9月になっても歳出削減法案が成立しないようだと、減税などの税制改革法案の審議はさらに遅れることになるだろう。トランプ政権への懸念が米金利低下とドル安に働く可能性は後退しそうにない。

一方、ECBの出口政策期待は、欧州金利上昇を通じて米国金利上昇を招き、ユーロ円だけなくドル円の上昇を招く要因にもなった。ECBが9月か10月の理事会で資産買い入れ拡大の可能性を示すフォワードガイダンスを修正した場合、資産買い入れ縮小期待がさらに強まって金利上昇に作用する可能性はある。ただ、政策正常化に向けた資産買い入れ縮小が段階的で緩やかなものであり、金融引き締め(利上げ)につながるとは限らないとした場合、金利上昇は抑制されるだろう。

FRBの保有債再投資縮小は、具体的な計画が明示され、比較的早期(おそらく9月)の開始も示唆されているため、すでに米金利に織り込まれた部分が大きく、追加的に米金利を上昇させる効果は小さいだろう。むしろ、FRBの景気やインフレについての判断が下方修正されることにより、利上げ期待が後退して米金利低下とドル安が進む可能性が高まりつつある。

米国では、個人消費関連の統計が弱い。新車販売が過去6カ月のうち5カ月で減少したのは、自動車ローンの拡大と延滞率上昇に対応した金融機関の貸し出し厳格化も影響しているが、原因はそれだけではないだろう。個人の消費性向は昨年12月に92.0%まで高まった後、今年5月には91.2%まで低下しており、昨年9月の91.0%以来の低水準だ。トランプ政策期待の高まりと後退を映しているなら、消費性向は回復しにくいだろう。減税を期待して消費支出を前倒ししていた部分があれば、その反動が生じ、前倒ししなかった場合に比べて消費性向がやや低下する可能性もある。

7月は、米ミシガン大学消費者期待指数が前月比3.7ポイント低下、コンファレンスボード消費者期待指数が3.7ポイント上昇と、好対照の結果となったが、小売売上高や個人消費支出などの消費関連指標は明確な改善とはなりにくいのではないか。

最終需要の大部分を占める個人消費が弱い割に、企業関連の統計は強めだ。6月の米ISM製造業景況指数は2014年8月以来の高水準となり、米鉱工業生産も3カ月前比などの伸びが高まっている。ただし、こうした統計は個人消費の動きとほぼ一致するか、やや遅れて動くケースが多い。企業が供給したほどには需要が伸びずに在庫が積み上がり、生産活動が鈍化する可能性がある。そうなると、雇用にも影響が及ぶようになる。

ISM指数と相関の強いNY連銀製造業景況指数とフィラデルフィア連銀製造業景況指数は、いずれも6月に改善した後、7月に悪化した。ISM製造業景況指数や非農業部門雇用者増が7月に悪化(鈍化)して米金利低下とドル安に働く可能性がある。

<円高に転じてドル円下落拡大も>

ただ、ドルも弱いが、円も弱い。ドルは幅広い通貨に対して下落してきたが、円もドル以外の通貨に対して下落(クロス円が上昇)してきた。

背景には、米金利低下の一方で米株価が上昇してきたことがある。7月のFOMC声明がインフレや個人消費の判断をやや弱めたと受け取られて米長期金利低下とドル安が進む一方、長期金利低下やドル安を受けて米株価が上昇したため、リスクオンの円安圧力から多くのクロス円レートが強含んだ。ドル円はドル安によって下落したものの、円安によって下落が減殺されたのだ。

もっとも、米金融当局の姿勢変化ではなく米経済指標の悪化により長期金利が低下した場合、期待成長率が低下するために、株価は下落しやすくなる。これまで、米金利と反対方向の株価の動きがドル円の変動を減殺してきた(米金利低下・ドル安と株高・円安)が、米金利と同方向に株価が動くとドル円の変動が大きくなりやすい(米金利低下・ドル安と株安・円高)。

例えば、米国の株価指数が10%下落すると、ドル円には金利変化による影響とは別に5円程度の円高圧力がかかると推定される。今後も株高・円安がドル円下落を減殺し続けるか否かは、米経済指標の動向にかかっているだろう。

*亀岡裕次氏は、大和証券の金融市場調査部部長・チーフ為替アナリスト。東京工業大学大学院修士課程修了後、大和証券に入社し、大和総研や大和証券キャピタル・マーケッツを経て、2012年4月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。


米FRB巡る誤解、早晩解消でドル高へ=池田雄之輔氏
7月27日午前5時。筆者はいつも通り、起床後すぐにスマートフォンで為替相場をチェックした。一瞬目を疑ったが、ドル円は確かに111.20円。前夜は112円ちょうど付近だったから、かなりのドル安である。イベントと言えば日本時間午前3時に米連邦公開市場委員会(FOMC)声明文発表が予定されていたから、「声明文がハト派的だったのかもしれない」と推測した。 記事の全文

日銀の金融政策に対する「7つの疑問」=佐々木融氏
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焦点:米FRB、早期の追加利上げは可能か

[ニューヨーク 27日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)は物価低迷によって早期追加利上げを阻まれるだろうとアナリストは騒いでいる。しかし、金融市場ではバラ色の光景が広がっており、FRBは結局年内の追加利上げが可能になるかもしれない。

株式市場ではダウ工業株30種平均、S&P総合500種、ナスダック総合指数の主要指数がこの数週間で何度も過去最高値を更新。ドルは主要通貨で構成されるバスケットに対して年初来で8%強と、2002年以来の速いペースで下落した。一方、10年物米国債利回りは今年に入ってわずかに低下し、FRBが今回の金融引き締め局面で最初に利上げした2015年12月とほぼ変わらない水準にある。

モルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメントのポートフォリオマネジャー、ジム・キャロン氏は「FRBは今年に入って2度利上げしたが、金融環境は緩和的なままだ」とみる。

事実、金融環境はかつてないほど緩和している。バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチの債券指数データによると、15年12月の米利上げ以降、22%近かった最低格付けの米企業の社債利回りは10.6%まで下がった。過去20年間平均の14.7%を大きく下回る水準だ。

また、セントルイス地区連銀が算出している金融市場のストレス度合を示す指数も約3年ぶりの低水準を付け、過去最低に近い。

FRBが量的緩和縮小の意向を示したり利上げを実施しても、低コストの資金へのアクセスには何の支障も生じていないようだ。

つまり、インフレ率がFRBの目標とする2%を下回り続けていても、追加利上げ余地は十分あるということだ。

マクロ・インサイト・グループの創設者のシェリヤール・アンティア氏は「利上げ開始から18カ月間に金融市場はどんどん緩和が進み、特に信用スプレッドが縮小した。FRBにとっては新たな『謎(コナンドラム)』だろう」と述べた。連邦公開市場委員会(FOMC)主要メンバーの念頭にはこの謎があり、最近の物価上昇率の低下とある程度綱引きしているのは間違いないという。

<金融環境の緩み>

FRBは過去に何度も市場の動揺により政策判断を先送りしている。2013年と15年には、市場の混乱で金融環境が引き締まったため、金融政策の正常化に向けた取り組みを棚上げした。

現在は金融環境が緩んでいる。米企業は低いコストで資金を借り入れることが可能で、輸出競争力は高い。一方、消費者からすれば保有資産が値上がりし、値上がり分を買い物に充てることができる。

ザ・ルースホールド・グループの最高投資責任者、ジム・ポールセン氏は「FRBには徐々に金利の正常化を進めるゆとりがたっぷりとある」と話す。

<物価低迷と資産バブル>

確かにFRBのイエレン議長らは最近のインフレ圧力低下に警戒感を示しており、内部にはインフレの上昇を見極めてから再利上げする方がう良いとの見方がある。ただニューヨーク連銀のダドリー総裁など、今利上げを逃すと金融緩和が行き過ぎ、資産バブルが生まれるリスクがあると懸念するメンバーもいる。

こうした対立を反映し、金融市場でも金利先物が見込む年内再利上げの確率はほぼ50%となっている。一方、エコノミストはFRBが年内に量的緩和の縮小に着手すると見込む。

アマースト・ピアポントのチーフエコノミスト、スティーブン・スタンレー氏は「FRBは米国債や住宅ローン担保証券(MBS)の償還分を再投資せず、バランスシートを縮小することで、金融環境に直接影響を与える措置を取る一方、米経済には大きな差異をもたらさずにすむだろう」と述べた。

(Richard Leong記者)


焦点:主要中銀が一斉にタカ派メッセージ、市場に衝撃

NY市場サマリー(14日)
NY市場サマリー(19日)
NY市場サマリー(14日)
http://jp.reuters.com/article/usa-fed-markets-idJPKBN1AD0J5?sp=true

きょうの国内市況(7月28日):株式、債券、為替市場
Bloomberg News
2017年7月28日 16:07 JST

●日本株3日ぶり反落、ボラティリティーの高まり警戒−決算期待過剰も

  東京株式相場は3日ぶりに反落。ボラティリティー(変動性)への警戒が高まり、決算への期待値が高過ぎた東京エレクトロンをはじめ、日立ハイテクノロジーズや新光電気工業など半導体関連銘柄が安い。決算が市場予想を下回ったアイシン精機も売られ、業種では証券株も下げた。
  TOPIXの終値は前日比5.62ポイント(0.3%)安の1621.22、日経平均株価は119円80銭(0.6%)安の1万9959円84銭。
  三井住友アセットマネジメントの金本直樹シニアファンドマネージャーは、「日本の決算数字そのものは決して悪くない」が、日本株の中で「グロースが期待できる象徴的な銘柄群には買いが集中し、織り込んでいただけに、材料出尽くしで利益確定売りが先行した」と言う。半導体関連については、「現状がモメンタムのピークとの見方も一部で出ている」と指摘した。
  東証1部33業種は証券・商品先物取引やその他製品、空運、海運、化学、電機、パルプ・紙、サービス、機械など18業種が下落。電気・ガス、精密機器、食料品、不動産、建設、陸運など15業種は上昇。売買代金上位では、四半期減益決算の日産自動車や大和証券グループ本社が売られ、市場予想を下回る決算だったサイバーエージェントも安い。半面、通期業績計画を上方修正したセイコーエプソンやデンソー、決算と自社株買いが評価されたオムロンは高い。
  東証1部の売買高は20億2809万株、売買代金は2兆7735億円、代金は3日連続で増え6月16日以来、1カ月半ぶりの高水準。値上がり銘柄数は807、値下がりは1087。

●債券下落、米金利上昇や日銀オペ結果が重し−買い持ち高解消との声も

  債券相場は下落。前日の米国債相場が大型社債発行による需給悪化懸念で下げた流れを引き継ぎ、売りが先行した。日本銀行が実施した長期国債買い入れオペで売り圧力の強まりが示されたことも、相場の重しとなった。
  長期国債先物市場で中心限月9月物は、前日比3銭安の150円18銭で取引を開始し、いったん150円17銭まで下落。結局は2銭安の150円19銭で引けた。
  SBI証券の道家映二チーフ債券ストラテジストは、「最近の金利低下の流れの中で、いったん債券のロングポジションを解消する動きが多い感がある」と指摘。この日の相場については、「海外金利がやや上昇した影響も多少ある」と述べた。
  現物債市場で長期金利の指標となる新発10年物国債の347回債利回りは、日本相互証券が公表した前日午後3時時点の参照値より0.5ベーシスポイント(bp)高い0.07%で開始し、その後も同水準で推移した。新発5年物の132回債利回りは0.5bp高いマイナス0.06%で取引された。超長期債も軟調。新発20年物の161回債利回りは0.5bp高い0.585%、新発30年物の55回債利回りは1bp高い0.865%にそれぞれ上昇した。
  日銀が実施した長期国債買い入れオペでは、残存期間「1年超3年以下」が2800億円、「3年超5年以下」が3300億円、「5年超10年以下」が4700億円と、いずれも前回と同額。24日のオペでは「5年超10年以下」が今年初めて減額されており、今回も7日に大幅増額される前の水準(4500億円)まで戻されるのでないかとの見方も出ていた。オペ結果によると、応札倍率が3本とも前回から上昇し、売り圧力の強さが示された。落札金利はいずれも市場実勢並みだった。

●ドル・円が下落、株安で円買い圧力−米GDP控え下値は限定的

  東京外国為替市場でドル・円相場は下落。日本株の下落を背景に円買い圧力が掛かった。海外時間に米国の国内総生産(GDP)と雇用コスト指数の発表を控えて、ドルの下値は限られた。
  午後3時55分現在のドル・円は前日比0.2%安の1ドル=111円01銭。朝方に付けた111円33銭から値を下げ、午後には一時110円88銭を付けた。前日は米連邦公開市場委員会(FOMC)後のドル売りが続き、アジア時間に110円78銭まで下げた後、米金利の上昇を背景に海外時間に111円71銭まで反発。その後ムニューシン米財務長官の通貨安誘導をけん制する発言や米国株の下落を受けて反落した。
  外為どっとコム総研の神田卓也取締役調査部長は、「ドル・円は上値が重い一方、このところ111円台を割り込むと買いが入ってくる形で、下値も結構堅くなってきている」と指摘。「きょうの米GDPの予測値は上方修正されている。来週の米雇用統計もあるので、米景気が言うほど弱くないとなれば、ドルはもう一度持ち直す方向に行くのではないか」と話した。
最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中 LEARN MORE 


野村HD:4−6月純利益は569億円−株、投信など営業部門が好調
谷口崇子、日向貴彦
2017年7月28日 15:12 JST 更新日時 2017年7月28日 16:18 JST
 
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日本株3日ぶり反落、ボラティリティーの高まり警戒−決算期待過剰も
シャープ:4−6月は171億円の営業黒字に転換、鴻海改革が奏功
 
国内証券最大手の野村ホールディングスの4ー6月期(第1四半期)連結純利益は前年同期比21%増の569億円となった。株式や投資信託の販売など営業部門が好調だったほか、アセットマネジメント部門も貢献した。
  純利益はブルームバーグ・ニュースが集計したアナリスト4人の予想レンジ(451億円ー635億円)の範囲内だった。
  野村HDが東証に28日開示した資料によると、4−6月期の株式市場は地政学リスクから低調に始まったものの、徐々に不透明感が薄れ同社収益も月を追うごとに回復した。アセットマネジメント部門は運用資産残高が46.1兆円と3四半期連続で過去最高を更新、運用報酬を押し上げた。
  北村巧財務統括責任者(CFO)は決算会見で、国内営業部門について「株価が戻る中で、投資マインドが回復してきた」と発言。足元では有効求人倍率などの経済指標や企業業績に明るい兆しが出ているとし、収益拡大に期待を示した。
  同社の4−6月期の収益合計は前年同期比12%増の4679億円。委託・投信募集手数料は同19%増の910億円、投資銀行業務手数料は同31%増の227億円、アセットマネジメント業務手数料は同11% 増の583億円、トレーディング損益は同14%減の1205億円だった。
  海外拠点の税引き前損益は、米州が79億円の黒字(前年同期は152億円の黒字)、欧州が22億円の黒字(同44億円の赤字)、アジア・オセアニアが53億円の黒字(同61億円の黒字)で合計の黒字額 は155億円(同169億円の黒字)にとなった。リスクとコスト管理が奏功し、海外拠点は5四半期連続で黒字を確保した。
  シティグループ証券の丹羽孝一アナリストは決算前の取材で、野村HDは「既にコスト構造改革を終えており、収益水準の拡大が必要だ」と指摘。投資銀行業務では企業の買収・合併(M&A)やキャピタルマーケッツでの収益水準の拡大が期待されるとした。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-07-28/OTN3Z46TTDS801
http://www.asyura2.com/17/hasan122/msg/748.html

[経世済民122] 先月の有効求人倍率 バブル期超えをさらに上回る 正社員求人倍率も初の1倍超え 景気は本格回復へ 完全失業率2.8%に改善
先月の有効求人倍率 バブル期超えをさらに上回る
7月28日 8時32分
仕事を求めている人ひとりに対し、企業から何人の求人があるかを示す、先月の有効求人倍率は、前の月より0.02ポイント上昇して1.51倍で、バブル期の最高を超えたことし4月をさらに上回りました。
厚生労働省によりますと、先月の有効求人倍率は、季節による変動要因を除いて、1.51倍で、前の月より0.02ポイント上昇しました。これは、昭和49年2月の1.53倍以来、43年4か月ぶりの高い水準で、バブル期の最高を超えたことし4月をさらに上回りました。

都道府県別では、福井県が最も高く2.09倍、次いで、東京都が2.08倍、石川県が1.92倍などとなっています。

一方、最も低かったのは、北海道の1.08倍、次いで、高知県の1.13倍、神奈川県と長崎県の1.16倍で、9か月連続ですべての都道府県で1倍以上になりました。

また、新規の求人数は、前の年の同じ時期と比べて6.3%増え、これを産業別に見ますと、製造業が14.2%、運輸業、郵便業が11.1%、建設業が7.6%、それぞれ増えています。厚生労働省は、「自動車関連産業を中心に製造業が好調なことなどから、新規の求人数が伸びていて、引き続き、雇用環境は着実に改善が進んでいる」としています。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170728/k10011077841000.html

2017.7.28 22:11
正社員求人倍率が初の1倍超え 6月、景気は本格回復へ

 景気が本格回復する兆しが出始めた。厚生労働省が28日発表した6月の正社員の有効求人倍率(季節調整値)は前月比0・02ポイント上昇の1・01倍となった。1倍を超えたのは集計を開始した平成16年11月以来初めて。また、総務省が同日発表した1世帯当たりの消費支出も16カ月ぶりに改善。アベノミクス効果で賃金水準の高い正社員まで雇用改善が広がり、消費拡大に結びつく好循環が生まれつつある。(西村利也)

 「雇用情勢、所得環境の改善が続く中で、デフレ脱却に向けた動きが続いているとの認識だ」。石原伸晃経済再生担当相は同日の記者会見で、景気は回復基調だと強調した。

 厚労省が発表した求職者1人当たりの求人数を示す有効求人倍率は、パートタイムなどを含む全体で前月比0・02ポイント上昇の1・51倍となり、4カ月連続で改善。ピークだったバブル期の2年7月(1・46倍)を上回る高水準となった。運輸業を中心に人手不足が続いており、「非正規求人から長期で雇用できる正社員の求人に切り替える企業が増えている」(厚労省)。

 総務省が発表した6月の完全失業率(季節調整値)は、前月比0・3ポイント低下の2・8%で4カ月ぶりに改善した。

 雇用環境の改善は消費支出にも好影響をもたらし始めている。同省が発表した2人以上世帯の家計調査によると、1世帯当たりの消費支出は26万8802円となり、物価変動の影響を除いた実質で前年同月比2・3%増加した。住宅リフォーム関係や新車販売の旺盛な需要が全体の押し上げに寄与した。

 自営業などを除いたサラリーマン世帯の消費支出は実質6・7%増の29万6653円で、2カ月連続の増加。実収入は0・1%増の73万5477円と4カ月ぶりに増えた。

 また、6月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除く)も、前年同月比0・4%上昇と6カ月連続のプラス。原油価格の持ち直しでエネルギー関連の価格が上昇したほか、6月からの安売り規制の強化に伴うビール類の値上げが押し上げた。
http://www.sankei.com/economy/news/170728/ecn1707280038-n1.html


 

6月の有効求人倍率、1.51倍 完全失業率は2.8%に改善
2017/7/28 18:38 印刷
有効求人倍率
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厚生労働省が2017年7月28日に発表した6月の有効求人倍率(季節調整値)は、前月比0.02ポイント上高い1.51倍だった。上昇は4か月連続。1974年2月以来、43年4か月ぶりの高水準となった。

正社員に限った有効求人倍率(季節調整値)も前月を0.02ポイント上回る1.01倍で、集計を始めた2004年11月から初めて1倍を超えた。

雇用情勢は改善している
雇用情勢は改善している
自動車製造の求人数増が寄与

有効求人倍率は、求職者1人あたりの求人数を示す。6月の有効求人数は269万187人で前月と比べて1.5%増えたが、有効求職者数は177万9214人で前月と同じ水準だった。そのため、有効求人倍率が上昇した。

また、新規求人倍率は前月比0.06ポイント低下の2.25倍だった。

6月の新規求人数(原数値)は前年同月と比べると6.3%増加。これを産業別にみると、製造業は14.2%増、運輸業、郵便業は11.1%増、建設業は7.6%増、医療、福祉は6.6%増、サービス業は5.9%増などで増加となり、教育、学習支援業は0.4%減となった。

J‐CASTニュースの取材に、厚生労働省は「有効求人倍率は順調に伸びている。自動車の製造が好調なことが全体を押し上げている」と話した。

製造業のうち、自動車生産にかかわる輸送用機械器具製造業の求人数は、前年同月比24.6%増加の1万168件、金属製品製造業は25.1%増の9192件と、自動車製造での求人数が増えたことが、全体の有効求人倍率に大きく寄与したという。

一方、総務省が同日発表した労働力調査によると、6月の完全失業率(季節調整値)は2.8%で前月から0.3ポイント改善した。4か月ぶりの改善。

完全失業者数は前月比16万人減の189万人。「自発的な離職(自己都合)」が10万人減る一方、就業者数は12万人増の6531万人で、総務省は「雇用情勢は確実に改善している」としている。
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 岸田文雄外相兼防衛相は29日未明、防衛省内で記者団に、28日深夜に北朝鮮が発射した弾道ミサイルは3500キロメートルを大きく超える高度に達したと明らかにした。約45分間、約1000キロメートル飛行したと分析。「最大射程は5500キロメートルを超えるとみられ、大陸間弾道ミサイル(ICBM)級の弾道ミサイルだと考えられる」と述べた。

 北海道積丹半島から約200キロメートル、奥尻島の北西約150キロメートルの日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下したとの見方も示した。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGN28H2V_Y7A720C1000000/

 
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萩原ゆき
2017年7月29日 01:24 JST 更新日時 2017年7月29日 04:14 JST
 
わが国の安全に対する脅威が重大かつ現実なものとなった−安倍首相
大陸間弾道ミサイルだと米国は判断−米国防総省のデービス報道官
 
北朝鮮が28日午後11時42分ごろ、同国中部より日本海に向け弾道ミサイルを発射した。日本政府はミサイルが約45分間飛行し、日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下したと推定している。航空機や船舶の被害は確認されていない。菅義偉官房長官が記者会見し、発表した。

  安倍晋三首相は29日未明、北朝鮮はミサイルを「わが国のEEZ内に着弾させた」と述べ、「先般のICBM級ミサイルの発射に続いて、わが国の安全に対する脅威が重大かつ現実のものとなったことを明確に示すものだ」と語った。北朝鮮に対し、「厳重に抗議し、最も強い言葉で非難する」とも述べ、国際社会と連携して圧力を強化していく考えを示した。首相と官房長官の発言場面をNHKが中継した。

  米国防総省のデービス報道官は報道機関向けの電子メールで、「発射されたミサイルは大陸間弾道ミサイル(ICBM)だと米国は判断した」と発表した。北米への脅威はなかったとし、なお詳細な分析を継続していると述べた。

  政府はこれより先、国家安全保障会議(NSC)の会合を開催し、対応を協議。菅官房長官はその後の会見で、今回発射されたミサイルの数や種類など詳細については分析中と述べた。

  

金正恩朝鮮労働党委員長
https://assets.bwbx.io/images/users/iqjWHBFdfxIU/iEUUVhWO1mFI/v0/1200x-1.jpg


This picture taken on July 4, 2017 and released from KCNA on July 5, 2017
  北朝鮮は5月に弾道ミサイルを3回、6月8日に短距離ミサイルを発射。今月4日に発射し、日本のEEZ内に落下したミサイルについて、ICBMの発射に初めて成功したと発表していた。

  

 
NY外為(28日):ドル下落、低調な米指標と北朝鮮ミサイル発射で

Dennis Pettit、Alexandria Arnold
 
28日のニューヨーク外国為替市場ではドルが下落。経済指標を受けて米国のインフレ圧力は抑制されているとの見方が強まったことから、ドル指数は14カ月ぶり低水準付近にとどまった。ドル指数は週間ベースでは3週連続の低下。

  米実質国内総生産(GDP)と雇用コスト指数はいずれも市場予想を下回った。ミシガン大学消費者マインド指数は速報値から上方修正されたものの、インフレ期待値は弱い数字が続いた。北朝鮮が弾道ミサイルを発射したと伝わると、ドルは下げ幅を拡大した。


  ニューヨーク時間午後5時現在、主要10通貨に対するドルの動きを示すブルームバーグ・ドル・スポット指数は前日比0.5%低下し、昨年5月初旬以来の水準付近。ドルには月末の売り圧力も見られた。

  ドルは対ユーロで0.6%安の1ユーロ=1.1751ドル。ドルは対円では0.5%下げて1ドル=110円68銭。ドル・円相場は北朝鮮ミサイルが大陸間弾道ミサイル(ICBM)だったとの国防総省の認識を受けて、一時110円55銭と日中安値に下げた。

  北朝鮮は同国中部より日本海に向け弾道ミサイルを発射した。日本政府はミサイルが約45分間飛行し、日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下したと推定している。菅義偉官房長官が記者会見で述べた。米国防総省のデービス報道官は報道機関向けの電子メールで、「発射されたミサイルはICBMだと米国は判断した」と発表した。

  米国の4−6月(第2四半期)実質国内総生産(GDP)速報値は前期比2.6%増。ブルームバーグがまとめた市場予想の中央値は2.7%増だった。第1四半期は1.2%増と、従来の1.4%増から下方修正された。4−6月の雇用コスト指数は0.5%上昇。市場予想は0.6%上昇だった。

  一方、ドイツの7月の消費者物価指数( CPI)速報値は、欧州連合(EU)基準で前年同月比1.5%上昇と、前月に並んだ。エコノミスト調査の中央値では1.4%上昇への減速が見込まれていた。前月比では0.4%上昇した。  

原題:Dollar Drops for Third Week as Data Underscore Fed Dilemma(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-07-28/OTTGA36TTDS401

 

北朝鮮ミサイルはICBM、米国防総省・韓国軍が分析

[ワシントン/ソウル/東京 28日 ロイター] - 北朝鮮が発射したミサイルについて米国防総省は28日、大陸間弾道ミサイル(ICBM)だったとの見方を示した。

国防総省の報道官によると、ミサイルは北朝鮮北部から発射されて約1000キロ飛行、北海道沖約167キロの日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下したという。

同報道官は今回の発射について、予想していたと指摘。北米に脅威を及ぼすものでなく、さらに分析を進めていると明かした。いかなる攻撃や挑発行為からも、自国や同盟諸国を守る用意を引き続き整えていると説明した。

今回発射されたミサイルについて、韓国軍もICBM級だったとの見方を表明。飛行距離は1000キロ(620マイル)を超え、高度は3700キロ(2300マイル)に達したとしている。

欧州連合(EU)は今回のミサイル発射について、国際的な平和と安全に対する深刻な脅威となると非難。北朝鮮に対し朝鮮半島の非核化に向けた対話に参加するよう呼びかけた。EUのモゲリーニ外交安全保障上級代表は8月6─7日にマニラで開かれる 東南アジア諸国連合(ASEN)閣僚会議でこの問題を取り上げる。

一方、ロシアのタス通信は国防省当局者の話として、ロシアが収集したデータによると今回のミサイルは中距離弾道ミサイルだったとみられると報道。外交筋によると、ロシアと中国は追加的な国連制裁措置の発動は北朝鮮が長距離ミサイルの発射、もしくは核兵器の実験を行った場合のみに限られるとの立場を示している。

北朝鮮のミサイルについて、米カリフォルニア州のミドルベリー・インスティチュート・オブ・インターナショナル・スタディーズのジェフェリー・ルイス氏は、ロサンゼルスはすでに射程圏に入っていると指摘。シカゴ、ニューヨーク、ワシントンも射程圏内に近いとしている。

この他、米国に本部を置くユニオン・オブ・コンサーンド・サイエンティスツは、シカゴとデンバーも射程圏に入っている可能性があるとの見方を示した。
https://jp.reuters.com/article/usa-northkorea-icbm-idJPKBN1AD2JR


「北朝鮮ミサイルはICBM」米国防総省が発表
2017/7/29 2:44

 【ワシントン=永沢毅】米国防総省は28日、北朝鮮が発射した弾道ミサイルについて、大陸間弾道ミサイル(ICBM)だとの見解を発表した。米東部時間午前10時41分(日本時間午後11時41分)ごろに北朝鮮のムピョンニからの発射を探知。620マイル(約1000キロメートル)飛行し、日本海に着弾した。

 声明では「韓国、日本という同盟国を防衛するコミットメントは揺るがない」と表明した。ICBM発射は7月4日以来で、北朝鮮の脅威が一段と高まった。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGN28H2T_Y7A720C1000000/


 

安保理、北朝鮮ミサイルで緊急会合調整 米など圧力強化へ
2017/7/29 5:04
 
 【ニューヨーク=高橋里奈】国連安全保障理事会は28日、北朝鮮による弾道ミサイル発射を受け、緊急会合の開催に向けて調整に入った。北朝鮮の度重なる挑発行為に対し、米国は改めて制裁強化の必要性を訴えるとみられる。日本も米国と同様に圧力を強めたいが、北朝鮮の「友好国」であり、常任理事国である中国やロシアが反発する可能性もある。

 米国防総省は北朝鮮が発射した弾道ミサイルについて大陸間弾道ミサイル(ICBM)だとの見解を発表している。安保理は北朝鮮によるミサイル発射を非難する報道声明の発表や緊急会合の開催に向けて水面下で調整を始めたとみられる。

 北朝鮮によるICBMの発射は7月4日以来で、米大陸を射程に収めるICBMの発射に日米韓は警戒を強めている。米国は安保理で石油の禁輸や航空・海上輸送の制限など追加制裁に向けた議論を進めたい意向だが、常任理事国で拒否権を持つ中国やロシアが慎重姿勢を崩しておらず、協議は難航している。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGN28H2X_Z20C17A7000000/

http://www.asyura2.com/17/senkyo229/msg/781.html

[経世済民122] ブラックスワンは舞い降りるか、6つのリスクを考える 次の暴落の原因。中国5000億ドル債務爆弾 FRB早期の追加利上げは
コラム:ブラックスワンは舞い降りるか、6つのリスクを考える
 
田巻 一彦

[東京 28日 ロイター] - 世界経済は好調だが、2008年9月のリーマンショック直前も、似たような楽観ムードが広がっていた。ブラックスワンはどこから舞い降りてくるのか。今はスーパーテールリスクだが、現実化すると大きなショックを与えかねない6つの「地雷」について考えてみた。 

<360度視界良好な世界経済>

国際通貨基金(IMF)は24日、2017年の世界の成長見通しを3.5%、18年を3.6%と発表した。その中で17年と18年の中国の見通しを6.6%から6.7%、6.2%から6.4%へと上方修正。日本も17年を1.2%から1.3%に引き上げた。

当面は好調な経済が持続するという「ご託宣」だ。実際、株式投資家の不安心理の度合いを示すシカゴ・オプション取引所(CBOE)のボラティリティー・インデックス(VIX指数).VIXは、26日までの10営業日に10を下回り続けた。この期間は過去最長で、「低リスク」を満喫している市場心理の「楽観」を端的に示している。

世界経済は、今のところ360度「視界良好」だが、得てして「好天」がずっと続くと多くの人が思った直後に大きなショックが来るケースがある。その典型例がリーマンショック直前の市場環境だった。

そこで、今は現実化の可能性がかなり低く、「スーパーテールリスク」と呼べるが、いったん顕在化したら、大きな衝撃度を与えるブラックスワンの姿を6通り考えてみた。

<1つ目のリスク、トランプ政策空振りへの失望>

1番目は、トランプ米政権の政策が空回りし続け、市場関係者が「嫌気」し、米株式市場が急落を始めるケース。

米上院は26日、医療保険制度改革法(オバマケア)の大部分を廃止する法案を45対55の反対多数で否決。27日にはトランプ政権と共和党指導部が国境税導入の見送りを決定した。

また、広報部長に就任したスカラムチ氏が、プリーバス大統領首席補佐官、バノン首席戦略官兼上級顧問を汚い言葉で非難したと米誌ニューヨーカーが報道。政権中枢の亀裂が表面化している。

このまま税制改革法案や予算案の審議が停滞した場合、今年末にかけて市場の不満や失望が充満し、何かのきっかけで「暴発」するリスクは、引き続き注視が必要だろう。

<2つ目のリスク、FRB資産圧縮で米ローン延滞率急増>

2番目は、米連邦準備理事会(FRB)の資産圧縮が今年9月から始まり、予想を超えて米長期金利や超長期ゾーンの金利が上がり始めるケース。

教育ローンや自動車ローンの延滞率が上がり出し、信用度の低いジャンク債の価格が急落し始め、米金融市場に借り手の信用度への警戒感が台頭し、リーマンショックの再来の前兆かという不安心理が広がり出すというシナリオだ。

1番目の政治的なリスクと「合わせ技」になった場合、想定外のショック発生のリスクが高まりかねいないだろう。

<3つ目のリスク、アジア地区のドル建て負債が火薬庫に>

3番目は、FRBの利上げや資産圧縮でドルの流動性が引き締まり、ドル建て債務を抱える新興国の金融や実体経済に過度のストレスがかかることだ。

国際決済銀行(BIS)によると、アジア太平洋地域の途上国が抱えるドル建て債務は、2016年9月末で約1.1兆ドルを超える。

米長期金利が上がり出せば、そうした国々の返済余力に黄信号が点灯し、それが信用不安へとダメージが広がるリスクがある。

特に地方政府や国有企業などの債務問題を巡り正確な実態が明らかにされていない中国で、大銀行のドル資金繰りに懸念が発生するようなことになれば、大きなショックの発火点になる可能性がある。

<4つ目のリスク、湾岸諸国が保有資産を大量売却>

4番目は、アラブ諸国とカタールとの国交断絶の長期化。緊張がさらに高まればペルシャ湾岸諸国の通貨とドルとのペッグ制が動揺し、通貨安の圧力が強まりかねない。その場合、通貨防衛の「軍資金」確保のため保有するドル資産を売却するだろう。

湾岸諸国は世界中で金融資産や不動産を保有しており、手持ち資産の売却が大規模に実行されれば、予期せぬ市場で価格急落が発生し、ショックが波及する可能性がある。

米政府などデータによると、湾岸諸国は米国債を約2400億ドル保有しており、米国債売却への思惑が出た場合、米長期金利の乱高下を招くこともあるだろう。

<5つ目は、ECBの出口戦略と欧州金融システム危機>

5番目は、欧州中銀(ECB)の緩和政策からの出口戦略発動で、鎮静化してきた欧州の「危ない銀行」の経営危機とシステミックリスクの表面化だ。

足元では、イタリアやスペインの国債利回りが低下し、表面上、どこにも金融危機の芽はないようにみえる。

しかし、今年6月25日、イタリア政府が欧州連合(EU)の破綻処理ルールに従わず、ベネト・バンカなど2行に公的資金を注入し清算してしまったことなどをみても、ECBの超緩和政策によって金融システムの弱さが隠されてきた面がある。

出口政策の実行に伴って、その隠れていた部分が水面上に浮かび上がってくると、南欧諸国で連鎖的に金融システムへの懸念が表面化するリスクが高まるだろう。

<6つ目はアベノリスク>

最後のテールリスクは、日本の政局。1強の安倍晋三政権が支持率低下で動揺した場合、アベノミクス相場を支えてきた海外勢がまとまった規模で日本株売りに転じると、日本発の「ショック」が発生する可能性がある。

海外勢は、この4年間で日本株を約12兆円買い越している。この「氷山」が動き出すと市場インパクトは拡大することになるだろう。

実際、一部の海外勢は、最近の日本の政局動向に対する関心度合いを高めているという。

いずれも今のところは、ほとんど発生のないに近いリスクと言える。しかし、それが一転して現実になる可能性を高めると、意外性の高さをパワーとして衝撃が加速度的に大きくなるのは、リーマンショックの際に経験済みだ。

どのリスク発生の確率が相対的に高いのか、今のうちに「頭の体操」をしておくことをお勧めしたい。

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http://jp.reuters.com/article/column-idJPKBN1AD13G

次の暴落の原因。中国が抱える「5000億ドル債務爆弾」はいつ炸裂するか
斎藤満
2017年7月27日ニュース

中国で発行されたドル建て債務が5000億ドルを突破。これが中国には爆弾となる可能性があり、ひいてはFRBの金融政策や日本市場にも影響を及ぼす可能性があります。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)
※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2017年7月26日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
中国経済はトランプの顔色次第。日本にも影響する2つのシナリオ
中国発行のドル建て債務、5000億ドルを突破
国際決済銀行(BIS)によると、中国で発行されたドル建て債務は、足元で5000億ドルを超えました。人民元建ての債務がGDPの3倍もあるとされるのに比べると小さな数字に見えますが、これが中国には「爆弾」となる可能性があり、ひいてはFRBの今後の金融政策にも影響を及ぼす可能性があります。
5000億ドル強のドル建て債務というと、2008年〜2009年の危機時の20倍、2015年9月の1.5倍となります。2015年9月と言えば、米国でFRBが利上げに出ると見られていたのが、12月に先送りされた時期ですが、FRBが利上げを先送りした原因として、中国の金融市場の不安定があげられていました。
つまり、中国が3000億ドルを優に超えるドル建て債務を抱える中でFRBが利上げに出れば、ドル金利の上昇とドル高が中国には大きな借り換えコストの負担となり、経済金融を混乱に陥れる、との不安がありました。実際、その夏には人民元、中国株の急落が世界に不安の波紋を広げていました。
トランプとの「密約」頼みの中国経済
今日の中国市場は、為替も株式市場も政府の強力なコントロールの下で安定を見せ、そのおかげでFRBも利上げを継続し、資産の縮小にも踏み切ろうとしています。しかし、中国でのドル建て債務は、15年秋よりも5割も多くなり、新興国で発行されたドル建て債務の3分の1を占めています。しかも、中国ではそのうち1000億ドル余が年内に償還を迎えます。
市場が不安定になれば、この5000億ドル強のドル建て債務は大きな爆弾となりうるのですが、中国政府はこのところ人民元を押し上げ、1ドル6.7元台に誘導しています。一頃は1ドル7元を脅かすほど、人民元不安が高じていましたが、国内金利を高めに誘導し、資本規制を強化することで人民元の先安観はかなり後退しました。
そして最大の不安定要素であった米国政府が、トランプ大統領の下で少なくとも秋の共産党大会までは習近平主席の立場が悪くならないよう、市場の混乱回避、政治的な対立回避に回っています。この中国支援の下、中国金融市場も安定を維持し、この間にFRBは利上げを進めることができました。
このシナリオであれば、秋の共産党大会までは市場も安定が続きますが、共産党大会が習近平体制の強化で終わると、そのあとは米中冷戦の開始となり、米中関係が再び悪化すると考えられていました。従って、共産党大会が終わる前の安定期に、ドル建て債務の償還が進めば、大きな混乱は避けられます。
Next: 米中関係の悪化が招く日本株の大幅調整。想定される2つのシナリオ
再び動き始めた米中間交渉
しかし、米中間で交わされた「100日計画」が、少なくとも米国が納得するような成果を見ず、北朝鮮も核ミサイル開発を進めています。このため、米国側が中国に対して不満を持ち、ウイルバー・ロス商務長官はあからさまに米中間の貿易不均衡に対する不満を公然と表明するようになり、早急に「公平、公正で相互的な関係」を構築するよう求めるようになりました。
つまり、米中間の交渉時計は、秋まで止まっているはずが、早くも動き始めた感があります。つまり、中国が持つ5000億ドル強のドル建て債務が改めて「爆弾」になりうる状況となりつつあります。そこから考えられるシナリオは次の2通りとなります。どちらにしても円相場や日本株にも影響が及びます。
日本市場への影響必至。想定される2シナリオ
1つは米国の対中強硬論が前倒しされるケースです。習主席が共産党大会を乗り切れると見れば、前倒しで中国叩きを再開する可能性があり、その場合は中国の市場開放、資本規制の緩和、金融自由化を求めて中国を揺さぶる可能性があります。これは中国に大きな負担となりますが、中国がこれに利上げで対応すれば、金融引き締めも経済を圧迫します。
そこでは中国、新興国向けの配慮は後回しになり、15年夏のような新興国の通貨安、株安が再現される可能性があります。その引き金となりうるのが、丹東銀行以外にも、例えば4大国有銀行の1つにも、米国のドル決済市場から排除するケースで、ドルがとれななくなった銀行中心に市場は大混乱となります。その場合はリスク・オフとなり、円高が加速し、日本株が大きな調整を見る可能性があります。
もう1つのケースは、逆にFRBが――
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焦点:米FRB、早期の追加利上げは可能か
 
[ニューヨーク 27日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)は物価低迷によって早期追加利上げを阻まれるだろうとアナリストは騒いでいる。しかし、金融市場ではバラ色の光景が広がっており、FRBは結局年内の追加利上げが可能になるかもしれない。

株式市場ではダウ工業株30種平均、S&P総合500種、ナスダック総合指数の主要指数がこの数週間で何度も過去最高値を更新。ドルは主要通貨で構成されるバスケットに対して年初来で8%強と、2002年以来の速いペースで下落した。一方、10年物米国債利回りは今年に入ってわずかに低下し、FRBが今回の金融引き締め局面で最初に利上げした2015年12月とほぼ変わらない水準にある。

モルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメントのポートフォリオマネジャー、ジム・キャロン氏は「FRBは今年に入って2度利上げしたが、金融環境は緩和的なままだ」とみる。

事実、金融環境はかつてないほど緩和している。バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチの債券指数データによると、15年12月の米利上げ以降、22%近かった最低格付けの米企業の社債利回りは10.6%まで下がった。過去20年間平均の14.7%を大きく下回る水準だ。

また、セントルイス地区連銀が算出している金融市場のストレス度合を示す指数も約3年ぶりの低水準を付け、過去最低に近い。

FRBが量的緩和縮小の意向を示したり利上げを実施しても、低コストの資金へのアクセスには何の支障も生じていないようだ。

つまり、インフレ率がFRBの目標とする2%を下回り続けていても、追加利上げ余地は十分あるということだ。

マクロ・インサイト・グループの創設者のシェリヤール・アンティア氏は「利上げ開始から18カ月間に金融市場はどんどん緩和が進み、特に信用スプレッドが縮小した。FRBにとっては新たな『謎(コナンドラム)』だろう」と述べた。連邦公開市場委員会(FOMC)主要メンバーの念頭にはこの謎があり、最近の物価上昇率の低下とある程度綱引きしているのは間違いないという。

<金融環境の緩み>

FRBは過去に何度も市場の動揺により政策判断を先送りしている。2013年と15年には、市場の混乱で金融環境が引き締まったため、金融政策の正常化に向けた取り組みを棚上げした。

現在は金融環境が緩んでいる。米企業は低いコストで資金を借り入れることが可能で、輸出競争力は高い。一方、消費者からすれば保有資産が値上がりし、値上がり分を買い物に充てることができる。

ザ・ルースホールド・グループの最高投資責任者、ジム・ポールセン氏は「FRBには徐々に金利の正常化を進めるゆとりがたっぷりとある」と話す。

<物価低迷と資産バブル>

確かにFRBのイエレン議長らは最近のインフレ圧力低下に警戒感を示しており、内部にはインフレの上昇を見極めてから再利上げする方がう良いとの見方がある。ただニューヨーク連銀のダドリー総裁など、今利上げを逃すと金融緩和が行き過ぎ、資産バブルが生まれるリスクがあると懸念するメンバーもいる。

こうした対立を反映し、金融市場でも金利先物が見込む年内再利上げの確率はほぼ50%となっている。一方、エコノミストはFRBが年内に量的緩和の縮小に着手すると見込む。

アマースト・ピアポントのチーフエコノミスト、スティーブン・スタンレー氏は「FRBは米国債や住宅ローン担保証券(MBS)の償還分を再投資せず、バランスシートを縮小することで、金融環境に直接影響を与える措置を取る一方、米経済には大きな差異をもたらさずにすむだろう」と述べた。

(Richard Leong記者)

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NY市場サマリー(14日)
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http://jp.reuters.com/article/usa-fed-markets-idJPKBN1AD0J5
http://www.asyura2.com/17/hasan122/msg/776.html

[経世済民122] 子供の貧困率が12年ぶりに改善、その理由は エマ・ワトソン「弱者男性キモくて金のないおっさん」解決策は 文京区貧困当事者
記事
• THE PAGE
• 2017年07月06日 11:11
子供の貧困率が12年ぶりに改善、その理由は

 経済的に厳しい状況で暮らす子供の割合が少しだけ改善しました。平均的な所得の半分を下回る世帯で暮らす子供の割合を示す「子供の貧困率」が12年ぶりに低下しました。ただ、先進各国と比較すると日本の水準はかなり低く、さらなる改善が必要な状況に変わりはありません。

厚生労働省が6月に公表した「国民生活基礎調査」

https://wordleaf.c.yimg.jp/wordleaf/thepage/images/20170705-00000009-wordleaf/20170705-00000009-wordleaf-0cb2314d6d8cd65260a281320346b2832.jpg

 厚生労働省が6月に公表した「国民生活基礎調査」によると、2015年における子供の貧困率は13.9%と前回(2012年)よりも2.4ポイント改善しました。子供の貧困率が改善するのは12年ぶりのことです。子供の貧困率は、平均的な所得の半分を下回る世帯で暮らす17歳以下の子供の割合を示したもので、一般的な相対的貧困率を子供に適用したものです。

 相対的貧困率については一部から現状を的確に表わしていないといった批判がありますが、総合的に見て、貧困の状況をもっとも適切に評価できる指標であり、その有効性はほぼ確立しているといって差し支えありません。

 子供の貧困率が上昇する最大の原因は、シングルマザーの雇用環境と考えられますが、今回の調査では子供がいる現役世帯のうち、大人一人の世帯における貧困率が54.6%から50.8%に大きく改善しました。大人一人の世帯の多くはシングルマザーと考えられますから、結果的に子供の貧困状況も改善したわけです。

 しかし諸外国との比較という点ではまだまだ不十分です。欧州各国の子供の貧困率はほとんどが10%以下となっており、日本とはかなり開きがあります。先進主要国の中で、日本よりも貧困率が高いのは、苛烈な弱肉強食社会である米国などごく一部に過ぎないというのが現実です。

 また日本の場合、シングルマザー世帯の中で、仕事がある人とない人の間で貧困率が大きく変わらないという不思議な現象が見られます。最低賃金の制度があるにもかかわらず、仕事を持っている人と持っていない人で貧困率が変わらないということは、労働法制に違反した賃金が横行している可能性が推察されます。

 今回、シングルマザー世帯の貧困率が改善したのも、働き方改革などによって、違法な労働がクローズアップされたことで雇用主が賃金を支払ったことが大きく影響しているかもしれません。貧困層に向けた支援を拡充するのはもちろんのことですが、払うべき賃金をしっかりと支払うだけで、こうした貧困はかなりの部分が改善できる可能性もあるわけです。
(The Capital Tribune Japan)
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• 三浦義隆
• 2017年07月29日 11:47
エマ・ワトソン演説と「弱者男性」問題について
「弱者男性」「キモくて金のないおっさん」問題に解決策はあるか

1. エマ・ワトソン論争の概観
3年前に女優のエマ・ワトソン氏が国連でしたフェミニズムに関するスピーチの話題が、なぜか今さらネット上で再燃しているようだ。
logmi.jp
ワトソン氏はこのスピーチの中でいろいろなことを話しているが、今話題になっているのは、
男性もジェンダー・ステレオタイプから自由になってよい(あるいは、なるべきだ)」
と主張している部分。
ワトソン氏は、
「弱いと思われるのが嫌だから」と言って、男性は心が弱っているのに助けを求めようとしません。その結果、イギリスの20歳から49歳の男性は、交通事故、ガン、心臓疾患よりも自殺によって命を落とす方が圧倒的に多いのです。「男性とはこうあるべきである」「仕事で成功しなければ男じゃない」という社会の考え方が浸透している為に、自信を無くしている男性がとても多くいるのです。つまり、男性も女性と同じようにジェンダー・ステレオタイプによって苦しんでいるのです。男性がジェンダー・ステレオタイプに囚われていることについては、あまり話されることがありません。しかし、男性は確実に「男性とはこうであるべきだ」というステレオタイプに囚われています。彼らがそこから自由になれば、自然と女性も性のステレオタイプから自由になることが出来るのです。男性が「男とは攻撃的・アグレッシブであるべきだ」という考え方から自由になれば、女性は比例して男性に従う必要性を感じなくなるでしょう。男性が、「男とはリードし、物事をコントロールするべきだ」という考え方から自由になれば、女性は比例して誰かにリードしてもらう、物事をコントロールしてもらう必要性を感じなくなるでしょう。
とか、
男性も女性も繊細であって良いのです。男性も女性も強くあって良いのです。
とか述べている。
この主張に対して、
しかしエマ・ワトソンの歴代交際相手は男らしい成功者ばかりではないか。女がそういう男を選ぶ以上、男がジェンダー・ステレオタイプから自由になれるはずがないではないか。ワトソンは矛盾している。
などと批判するネット民が大勢現れた。
これに対しての反論も多数出て、論争状態となっている。
私の専門とは無関係の話題ではあるが、この論争について少々考えてみた。
2. エマ・ワトソンの主張は矛盾はしていないが救済にはなりにくい
ワトソン氏の主張について「矛盾」という強い言葉を使って批判する意見が多く見られるが、同氏の主張に論理矛盾は見当たらない。
ワトソン氏の立場からは、そもそも、「(ワトソン氏のような若く美しい)女性に選ばれなければ救われない」という批判者のよって立つ前提そのものが、ジェンダー・ステレオタイプの一つだということになるはずだからだ。
ワトソン氏の主張は、男がナヨナヨしていて弱くても、女をリードし物事をコントロールすることができなくても、モテなくても、そのことによって人としての価値を否定されるべきではないということであろう。この主張は、弱い男が弱いままで女にモテることがないとしても、なんの支障もなく成立する。
だから論理的には、「エマ・ワトソンは矛盾している」との批判はあたらないだろう。論理的には。
しかし、実際上このような主張が、いわゆる「弱者男性」を本当に救うかというと、その点は疑問だ。
ワトソン氏の主張を「男はモテるほど価値がある」というジェンダー・ステレオタイプに適用すると、同氏の主張は
モテなくても気にするな。気にしないようにすれば、解放されて楽になる
となる。
たしかにそうできれば楽になるかもしれないが、「うるさい。そんなことができれば苦労はしないよ」
と思う人が多いのではないだろうか。
貧しい人に「貧しくてもよいではないか」と説く「清貧の思想」というのがあるが、これは貧困や社会的格差を正当化する主張だとして強く批判されることが多い。
ワトソン氏の主張も、モテたいのにモテない男から見たら、金持ちから清貧の思想を説かれているように映るだろう。
ワトソン氏の主張に反発する男性が少なからずいたのは、少なくとも心情的には理解できる。
「弱者男性」「キモくて金のないおっさん」問題に解決策はあるか »
3. 「弱者男性」「キモくて金のないおっさん」問題に解決策はあるか
今回の論争に限らず、いわゆる「弱者男性」問題とか「キモくて金のないおっさん」問題というのは、ネット上では常に高い関心を集める話題だ。
「キモくて金のないおっさん」こそが現代日本における最たる弱者であり、是非とも救済されるべきだ
といった意見を述べる人がよく見られる。
しかし、具体的にどのように救済すべきかについて現実的な方策を示す主張には、私の観察範囲では接したことがない。
解決策のない問題というのは、そもそも問題でないか、あるいは少なくとも問題として考える意義に乏しいことになろう。その点、「弱者男性」「キモくて金のないおっさん」問題はどうか。
まず、「キモくて金のないおっさん」のうち「金のない」問題は、通常の経済政策や再配分政策の問題にすぎないことが明らかだから、固有の問題として論じる必要はないだろう。
したがって、主な問題は「キモい」問題の方であろう。
ここで「キモい」とは、「容姿やコミュニケーション能力に劣るため、異性から承認を得にくい男性」くらいに捉えておけば概ね間違いないだろう。換言すれば非モテ男性のことだ。
先に取り上げた「モテなくても気にしない」という解決策以外に、これを解決する方法はあるのだろうか。
もっとも直接的で効果的な解決策としては、
お金と同じように、国家が強制的に女性を「再配分」してしまう
というものが考えられる。しかしお金と違って女性には人格があり人権があるから、このような解決策はとうてい支持し得ない。
キモくて金のないおっさんの救済を強く主張する論者でも、「女性を再配分しろ」とまで主張する人は見たことがない。論者も「女性を再配分してしまうわけにいかない」ということは前提にしているからだろう。
しかし、「女性を再配分する」という解決策を否定してしまうと、この問題に果たして独自の意義があるのか疑わしく思えてくる。
なぜならば、女性再配分以外にとりうる解決策は、結局経済政策やお金の再配分に帰着するので、社会的経済的問題一般から「キモくて金のないおっさん」問題を区別して論じる実益が乏しいように思われるからだ。
近年、生涯未婚率は男女とも目に見えて上昇しており、中でも男性の生涯未婚率の上昇は顕著だ。*1
異性との交際経験を持たない人の割合も男女ともに上昇しており、特に20代男性では53.3%が「交際経験なし」だとのちょっと衝撃的な調査結果もあった。*2この調査では、特に男性において、年収が高いほど恋愛・結婚に前向きであるという傾向が見られることも指摘されている。
このように生涯未婚とか交際経験なしという人が増えてきた背景には、「恋人がいない人や独身者は人格的に未熟」といった世間の偏見が薄れてきたということもあるだろう。
だから生涯未婚や交際経験なしの増加は、全面的に悪いことというわけではない。それこそワトソン氏の主張に沿う「モテなくても気にしなくてよい社会」が、昔に比べたらある程度実現しているともいえる。
しかし、よい面はあくまで一部であって、「恋人がほしいのにできない」「結婚したいのにできない」人が増えているという負の側面の方がおそらく大きいだろう。
そして、その負の側面は、バブル崩壊以降の若者の経済力のなさが原因となっている可能性が高い。結婚生活には一定の経済的基盤が必要と考えられているし、特に男性においては、低収入がモテの上でも結婚の上でも重大な不利になるからだ。
この負の側面を解決するために、異性再配分のような直接的な解決策ではないが、経済的格差を縮小し貧困を減らすような施策は、生涯未婚者や交際経験を持たない人を減らす方向に働くだろう。
そのような施策は、どんどん行うべきだと思う。
そして、「弱者男性」「キモくて金のない男性」問題は、結局そういう普通の経済政策や再配分政策により解決を図る他ないのではないか。
換言すれば、これを固有の問題として論じてみても、固有の現実的な解決策はどうもなさそうだから、時間の無駄ではないかと思う。
と言いながら、私も時間を費して本稿を書いてしまったわけだが。
*1 第1−特−20図 生涯未婚率の推移(男女別) | 内閣府男女共同参画局
*2 20代男性の53.3%が「交際経験なし」 恋愛・結婚意識に「年収」は影響大 - ITmedia ビジネスオンライン
http://blogos.com/article/237397/?p=2

 

• 田中俊英
• 2017年07月27日 09:43
文京区の貧困当事者は、語ることができるか
■文京区
「子ども宅食」が話題を呼んでいる(食料を直接手渡す「こども宅食」は、「7人に1人が貧困」の子どもたちを救うのか)。貧困支援としては画期的な取り組みで、僕も大賛成だ。
文京区区長・成澤廣修氏とNPO法人フローレンス代表の駒崎弘樹氏の対談を読んでいてもその意気込みが伝わってくる(見えない貧困に苦しむ1000人の子どもを救え!文京区長が「こども宅食」でNPOとの協働を決断した理由)。
この取り組みが成功することを祈る。
一方で、大阪市南部の貧困エリア(西成区ほか)でここ5年ほど仕事をしてきた(高校居場所カフェに学校ソーシャルワーカーもいたりする「学校イノベーション」)僕としては、貧困支援の対象エリアがやはり気になる。
僕は大阪在住なのでいまひとつわからないが、「文京区」といえば、どちらかというと東京23区の中でも裕福なほうだろう。
たとえばこの記事によると、文京区は23区中下から4番目の生活保護が少ない裕福な区なのだそうだ(東京で生活保護が多い区は?)。
ということは、そこでの貧困対策が全国のモデルになりうるか、という問いが浮かび上がる。相対的に裕福なエリアにおいて行なった貧困支援が、東京23区であれば足立区や台東区、大阪市であれば西成区など、日本の大都市における有数の貧困エリアに、その貧困支援モデルが応用できるか、としいう素朴な問いが成り立つ。

■半数が中学受験をするエリア
僕はこの素朴な問いを、足立区や台東区や、僕が日々仕事をしている大阪市西成区の生活支援課(生活保護担当セクション)の担当者たち、あるいはそれらの区でがんばるNPOや社協の人たちに聞いてみたい。
文京区区長は上対談で、このように語る。
【貧困の苦しみは「他人との比較」から生まれます。例えば、文京区だと小学生の半数以上が中学受験をします。小学4年生ぐらいになると「塾に行っている」のが普通なんですよね。塾に行けないことで「なんで自分だけが」という苦しみが芽生えるのです】
小学生の半数以上が中学受験をする。このようなエリアで「貧困支援」に乗り出す感覚が僕にはわからない。僕が通う大阪市南部の「しんどい」(大阪弁~「生きづらい」をやんわり表現)エリアの小学校では、ありえない事態だろう。
半数が中学受験をするエリアでは、貧困層はまずは少数者となる。
そうしたエリアにおいて、たとえば「生活保護」はレアだろうし、シングルマザーもステップファミリーも、児童虐待も児童相談所も一時保護も、DVもPTSDも、すべて珍しい事象だろう。
また、10代出産で生まれた子どもの親権を、別れた夫婦のどちかかがゲットするか、またその10代夫婦は実は親権に主体的ではなく(その背景に軽度の知的障害があったりする)、親権がほしいのは祖父母であり、その欲望がまわりの福祉担当者からすると祖父母の老後介護への欲求(つまり孫に自分を介護してほしい)が背景にあると疑われる、といった事態も、文京区では珍しい事態だろう。
挙げ始めたらきりがないが、これらは、大阪市西成区などでは日常的な事態だし、足立区でも台東区でも同じだと思う。
■「自分もそうだが、友人たちもそう」
ポイントは、こうした貧困に伴う諸問題が、日常的だということだ。それはレアではなく、あちこちにある。
学校であれば、「自分もそうだが、友人たちもそう」な状態にある。
この、一体感、同一感、当たり前感が、貧困問題では重要だと僕は思っている。
中学受験が半数ではなく、相対的貧困が半数、シングルマザーや10代出産と離婚は日常的、DVや児童虐待と児童相談所出動等も日常茶飯事、つまり、貧困とは単に貧乏なだけではなく、こうしたたいへんな状況が当たり前のようにまわりに繰り広げられる事態だ。
そしてそこには、「涙」もあるが諧謔的な「笑い」もあったりする。
つまり、そうした「泪橋」(『あしたのジョー』ですね)的状況がそのへんにゴロゴロ転がっているのが、貧困エリアの日常だということだ。そこでは決して「中学受験が半数」を占めない。
ポイントは、文京区的な「貧困がレア」なエリアにおける事業展開が、区長やNPO代表が想定するように、貧困支援が全国展開していく時の「モデル」になるかどうか、だ。
■文京区的取り組みは他人事
素朴に「文京区をモデルに全国に拡大する」と行政やNPOが語り、それを素朴にメディアが拡散する。
その「素朴な」感覚が、貧困対策は貧困当事者の状況をあまり知らない中流出身者以上が構築しているという皮肉を炙り出している、と僕は思う。
上述したとおり、貧困層が多い貧困エリアでは、身も蓋もないたいへんな事態が日常化している。それらは決して少数派ではなく、珍しい現象でもない。悲惨だが当たり前であり、悲しくて憤るがそればかりではやっていられない、思わず笑い飛ばすしかない事態が日々展開されている。
その「笑い飛ばし」はシニカルでもあり、児童虐待の被害児童が案外シニカルな笑いを好むように(5才にして、皮肉なお笑いマニアのように)、暴力と笑いが日常化する。
そこでは、文京区的取り組みは当然他人事だ。それはおそらく、支援者にとってもそう。西成区やそこで日々奮闘する(あるいは手抜きする)支援者にとって、貧困問題の解決は程遠い。それを解決するには、尋常ではない労力を要する。
そして、そうした貧困が日常/多数派になったエリアにおける「貧困当事者」は、決して当事者として名乗り切れない。また、語れない。
■サバルタンは語れない
当事者は当事者であるほど自覚できない、というのはここでも同じだ。それは僕が以前、G.スピヴァクのテーマである「サバルタンは語ることができるか」を応用して書いたように(「当事者」は語れない〜どう「代弁」し、どう「代表」するのか、誰が高校生や若者を「代表」するんだろう?)、問題の当事者であればあるほどその問題の当事者であるという自覚をもてないという皮肉を生む。
これは「ひきこもり」問題でも同じだし、19世紀のインド植民地における最下層女性(サバルタン)でも同じだし、現代の日本の貧困層(特に子ども・女性)でも同じだ。
当事者は語ることができない。その苦しみを自覚できないが故に、当事者としいう自覚を持てないが故に。
文京区の貧困当事者も西成区の貧困当事者も語ることはできない。文京区は「レアケース」として、西成区では「多数派ではあるがあまりに込み入った問題の当事者」として、語ることができない。
だからこそ、文京区やNPOには「結果」を出してほしい。できれば、こうしたサバルタン問題(当事者は語れない)を意識しつつ。
だが、このようなサバルタン問題は、実は権力サイドがつくり出している。
19世紀インドであれば、イギリス人やそれにとり入るインド人権力者層がつくりだしている。
そうした権力サイドが、物言えぬサバルタンを創設する。19世紀インドにおけるサバルタンは名をもたず(花の名前等一般名詞に置き換えられている)、死の原因にしろ紋切り的な失恋自殺等に解釈され直す(反権力的サバルタン女性は抹消させられる)。
現代日本バージョンではどうか。行政やNPOが、貧困支援という「サバルタンの抹消」にならないことを祈ります。★
※Yahoo!ニュースからの転載
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http://www.asyura2.com/17/hasan122/msg/789.html

[経世済民122] 今の日本株は嵐の前の静けさか、夏以降に急変動も−楽観市場は要注意 グリーンスパン警告−債券バブル破裂 安倍3つのシナリオ
今の日本株は嵐の前の静けさか、夏以降に急変動も−楽観市場は要注意
関根裕之、長谷川敏郎、Min Jeong Lee
2017年8月2日 06:38 JST

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• 日経平均の上期値幅比率は今世紀2番目の低さ、7月もこう着相場
• 金融政策の大転換で市場動揺なら日経平均は4000円変動も−大和証

ことし上期の値幅比率が10年ぶりの低水準となった日経平均株価は、下期に入ると日々の変動がさらに小さくなった。2001年以降、上期の動きが小さいと下期に大きく変動するという経験則があり、投資家は低ボラティリティーに安心している場合ではないのかもしれない。
  日経平均の1−6月の高値(2万0230円)と安値(1万8335円)の差を前年の終値で割ったことし上期の値幅比率は9.91%。同比率が10%を下回るのは01年以降では3度しかなく、最も低かった07年の9.3%に次ぐ2番目の低さだった。
  

https://assets.bwbx.io/images/users/iqjWHBFdfxIU/imnT.Y3zIDgk/v1/-1x-1.png 
  
  7月に入ると日経平均はこう着色を強め、同月では取引時間中に前日比で1%以上動いた日がなかった。これはことし初めてのことだ。日経平均ボラティリティー指数は26日に12.23と、10年11月の算出開始以来の最低を更新。米国でもシカゴ・オプション取引所のボラティリティー指数(VIX)が21日に1993年12月以来の水準に落ち込み、ボラティリティー低下は世界的な傾向となっている。
  穏やかな相場が続くが、これは「嵐の前の静けさ」と、大和証券投資戦略部の石黒英之シニアストラテジストは判断している。21世紀に入ってから、「日経平均の年前半のボラティリティーが低いと、もれなく年後半はボラティリティーが拡大している」ためだ。最も低かった07年は仏BNPパリバを発端とするサブプライム問題の影響で年後半に2倍に拡大、3番目の05年は郵政解散で4倍、4番目の14年も下半期に6割増えた。
  JPモルガン・アセット・マネジメントの重見吉徳グローバル・マーケット・ストラテジストは、グローバルに低ボラティリティーが恒常化しているため投資家がその特異さに気づきにくい心理にあることを指摘する。「どこかでこの上昇相場が終わると思いながらも、いつ終わるか分からないため買っているという印象」だとした上で、「それがまさに上昇相場の終わりに近いような動き。問題はいつ、何によって調整が起こるのかは誰にも分からないことだ」と同氏は言う。
  大和証の石黒氏は現在の株式市場が「米金融当局が金融政策を正常化させる一方、利上げを急がない姿勢で、低金利継続を背中に買っている楽観状態」であることから、「各国中銀が正常化に向けて動き出す8月後半から9月にかけて相場が動く可能性がある」とみる。下期変動率のベースとなる6月末の日経平均終値2万0033円を基準として過去の経験則から20%近く変動すると仮定すれば、「まず1万8000円程度まで調整した後、年末にかけては米政策期待で2万2000円程度まで上昇と、4000円の値幅に備える必要がある」と同氏は言う。
  ただ、年後半も凪相場が続くとの見方も根強い。岡三アセットマネジメントの前野達志シニアストラテジストは、「米国で金融政策の正常化が進み、利回り曲線が逆イールド化し、景気後退を織り込み始めるまで、ボラティリティーの大きなスパイクはないだろう」とみる。前野氏はそうした相場環境が訪れる時期を19年と想定しており、米金融政策の方向性や政策期待からことし秋以降にボラティリティーが上がったとしても一時的だとみている。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-08-01/OTY5QN6K50XV01


グリーンスパン氏が警告−株価ではなく債券バブルの破裂に用心を
Oliver Renick、Liz Capo McCormick
2017年8月1日 09:30 JST 更新日時 2017年8月1日 14:33 JST
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実質長期金利はあまりにも低過ぎて持続不可能−インタビューで指摘
真の問題は債券市場のバブルが崩壊した時に、長期金利が上昇する点

アラン・グリーンスパン元米連邦準備制度理事会(FRB)議長は、株式市場の行き過ぎを探し回る株式弱気派に対し、債券相場について心配した方がよいと警告した。実際にバブルが発生しているのは債券市場であり、それが破裂した場合には誰にとっても悪い事態をもたらすという。

  グリーンスパン氏はインタビューで、「どのような基準から見ても、実質長期金利はあまりにも低過ぎるため、持続不可能だ」と指摘。「こうした金利が上昇する場合、かなり急速に上昇する公算が大きい。われわれが経験しているのは株価ではなく債券相場のバブルであり、それは市場に織り込まれていない」と語った。
  その上で、「真の問題は債券市場のバブルが崩壊した時に、長期金利が上昇する点だ。われわれは1970年代以降目にしたことのないスタグフレーションへと、違った経済局面に移行しつつあり、それは資産価格にとって良くないものだ」とグリーンスパン氏は論じた。

  グリーンスパン氏によれば、実質金利が上昇すれば、米株価を割安と捉える残り少ないバリュエーション手法の一つが試されることになり、特に株式は債券とともに打撃を受けることになる。同氏の見解を支える理論は「FEDモデル」として知られる。広く受け入れられているわけでは決してないが、債券相場が株価よりも急速に上昇している限り、投資家はより割安な資産を保持し続けるのが妥当とされる。

  このモデルに従えば、米株価は現時点で債券相場と比較して最も魅力的な水準の一つにある。グリーンスパン氏が例示する米インフレ連動国債(TIPS)10年物利回り(現在0.47%前後)を用いると、S&P500種株価指数の益回り(4.7%前後)との差は20年平均を21%上回っている。これは過去最高値水準にある主要な株価指数や、金融危機以降で最高近辺にある株価収益率(PER)を正当化している。

  グリーンスパン氏の論理では、金利が急上昇し始めれば、投資家は急速に株式を手放すべきだということを意味する。ゴールドマン・サックスのデービッド・コスティン氏は、S&P500種の年末時点の推計を引き上げているウォール街の動きに加わらない理由の一つにインフレ高進の脅威を挙げている。
原題:No Bubble in Stocks But Look Out When Bonds Pop, Greenspan Says(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-08-01/OTZBZ26TTDS001

 
2017年8月2日 山崎 元 :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員
安倍政権の行方「3つのシナリオ」で予測するマーケットの動き


参院予算委の閉会中審査で、加計学園問題に関して答弁する安倍晋三首相。世論調査での不支持率が高まるなど、政権の基盤が揺らぎ始めている Photo:日刊現代/アフロ
突然到来した「政治の季節」

「政治の季節」が突然やってきた。

「安倍一強」とも言われ、来年秋の自民党総裁選での安倍晋三首相の三選が動きようのない既定路線かと思われた状況が、一転して不透明化してきたからだ。

 一つには、安倍政権が、森友学園、加計学園など、「お友達優遇疑惑」を上手く処理できなかったこと、もう一つには内閣改造を待たずに稲田朋美防衛大臣が辞任せざるを得なくなったことなど、政権やその周辺の問題などが原因となって安倍政権に対する国民の不信感が高まった。

 また、7月に行われた東京都議選で自民党が大敗したことで、都民ファーストの会のような「受け皿」さえあれば、安倍政権は強くない(倒し得る)という状況認識も台頭してきた。

 各メディアの世論調査では、安倍内閣の支持率が軒並み大きく下げて、不支持率と大きく逆転した。もともと「政局」の話題が好きなマスコミは、解散・退陣などのシナリオを想像し、次の首相候補を公然と語るようになった。

 安倍首相の「モリカケ疑惑」については、裁判なら有罪になるような決定的証拠は出てこないだろうが、政治の文脈にあって、問題はそこではない。安倍氏が身内を優遇するイメージを払拭できなかった点で、政権側は失敗した。

 安倍氏にとって、前回の政権時と同様に「お友達」が鬼門だ。籠池泰典氏も、加計孝太郎氏も、稲田朋美氏も、国民から見ると安倍首相が特に優遇したように見える。

 一方、安倍政権の大きな“政治的財産”だった「国民の脳裏に残る民主党政権時代の悪い記憶」を忘れさせないためにいるかのようだった、民進党の蓮舫代表と野田佳彦幹事長が共に辞任することとなり、最大野党である民進党も遅ればせながら看板替えのプロセスに入った。

 もともと民進党の最大の存在意義は、選挙のための「共同体」だったと筆者は理解しているのだが、「政治マーケティング」(という分野があるとして)的な常識で考えると、半ば自滅を目指すかのような体制がなぜ選択されたのか、その理由は日本の組織一般の失敗を研究する上で興味深い。

 とはいえ、民進党も本来の目的(≒次の選挙への適応)に対する行動を開始したので、安倍政権としても油断はできない。

 また、小池百合子東京都知事の周辺では、東京都政だけでなく国政に進出する準備が進んでいるようであり、いわば「国民ファーストの会」的な新党が国政選挙に間に合うように整備される可能性が出てきた。

 本稿では、こうした政局の流動化が、今後、経済とマーケットにどう影響するのかを考えてみたい。

大きなポイントは「来年3月」

 さて、政治談義の道草から拙稿の本題に戻って、経済・マーケットからの観点に視点を絞る。今後あるかもしれない政治的シナリオは、例えば、以下の三つが考えられる。

(1)安倍内閣が低支持率(というよりも、高い不支持率)を背景に、安倍氏の体調不良などを理由として今年度内(来年3月よりも前)に退陣する。

(2)民進党、「国民ファーストの会」(仮称)の準備が整わないうちに、安倍首相が早期に解散総選挙に打って出る(この先の場合分けとして、a.議席を減らしても政権を維持できる結果か、b.政権を失う大敗を喫するか、という場合分けがある)。

(3)来年秋まで粘って、10月に予定されている消費税率引き上げの再延期を掲げて自民党総裁選・衆議院選挙を戦うところまで持ち込む。

 もちろん政治は、株価や為替レートのためにあるわけではない。だが、マーケットの側から見た場合、最も大きな決定要素は、「来年3月」まで安倍政権がもつかどうかだ。端的に言って、次の日銀の正副総裁を、誰が首相の内閣が任命するのかという点に最大の注目点がある。

 来秋の消費税率引き上げの有無にも関心が集まるが、日銀の正副総裁は任期が5年に及ぶし、金融緩和の継続に対する期待形成に大きな影響を与える。

 安倍首相が来年3月まで在任しているなら、金融緩和に積極的な正副総裁を選ぶだろう。しかし、「安倍首相の次の首相」が人事を行う場合、現在の黒田総裁よりも金融緩和に消極的な人物を任命する確率が大きくなる。

 そうなると、「日本だけが積極緩和の中、米欧が金融緩和を縮小する」という状況が維持されなくなる公算が高まるので、結局のところ、「安倍政権が来年3月まで続かないだろう」という強い観測が出た時点から、円高と株安が進行する可能性が大きい。

 もっとも、安倍政権が継続した場合であっても、黒田総裁の続投とは限らない。黒田氏が2014年の消費税率引き上げの影響を過小評価し、事実上税率引き上げを後押ししたことを、安倍首相が快く思っていない可能性がある。

 ただし、黒田氏以外に「金融緩和に積極的」というイメージを持った後任者がいるかというと、簡単には思い浮かぶ人物がいない。安倍政権継続の場合、「黒田総裁続投+リフレ派の学者の副総裁+日銀プロパー副総裁」といった組み合わせになるのではないかと予想しておく。副総裁2人に関しては入れ替えがありそうだ。

 いずれにせよ、現在、すでに株式・不動産・外貨建て資産などに大きな買いポジションを持っている投資家の中には、政治的には安倍首相を支持していなくても、安倍首相の続投を願っている人が少なからずいるのではないか。もちろん、こうした人たちが願うのは、(3)の「来秋まで安倍政権が粘ってくれる」ことだ。

内閣改造後の世論調査に注目

 前記した三つのシナリオのいずれになるのか、あるいは別の流れになるのか(政治には大きな意外性があるし…)大いに気になるところだが、当面の注目は、8月3日に予定されている内閣改造後の世論調査だろう。

 これで支持率がさらに下落し、不支持率が拡大するようだと(政治に詳しい記者によると不支持率が重要だという)、党内で「安倍降ろし」が活発化する可能性があり、(1)の「年度内退陣」の確率が高まる。

 巷間、次の首相候補としてよく名前が挙がるのは、岸田文雄外務大臣と石破茂氏だ。だが、例えば、禅譲を約束しつつ岸田氏の協力を得ることで、すでに安倍氏に対する批判を始めている石破氏を牽制できれば安倍政権は延命できるかもしれないが、相当に難しい舵取りが必要となりそうだ。

 さりとて、支持率が下がる中で(2)の「早期解散」に打って出る元気が安倍首相にあるかどうかは疑問だ。また、仮に総選挙ともなると、民進党も「国民ファーストの会」(仮称)も必死で体制を整えるだろうから、「野党の準備不足」を頼りに解散に打って出て議席を大きく減らしでもしたら、安倍首相が続投するのも簡単ではなさそうだ。

 したがって、8月3日の内閣改造は、安倍首相にとっても、マーケットの先行きに注目する人にとっても、相当に重要なイベントとなるが、本稿執筆時点(8月1日)では「人気取り」につながる画期的なサプライズ(例えば「小泉進次郎厚生労働大臣」といった感じか)は想像しにくい。むしろ、人事を終えることで、ポストを得られなかった入閣待機者の人心が離れることの方が心配だ。

 なお、喜ばしくない想定だが、北朝鮮が軍事的な動きを強めるような事態が起こると、国民の政権交代への期待が不安に変わって、結果的に安倍政権を支える効果があるかもしれない。

 マーケットとしては、今後、内閣改造及びその後の世論調査、安倍政権の打つ手などの様子を見ることになるが、安倍政権の継続に見切りをつけるポイントがくると、いささか心配な状況になる可能性が大きい。

 この場合、後任者にどのくらいアベノミクス(特に金融緩和政策)が引き継がれるかを探ることになるが、特に来年3月に向かって「政治リスク」を意識しなければならない状況が続きそうだ。

 投資家にとって(日本経済にとっても)一つの憂鬱は、安倍氏の「次」として名前の挙がる人々の多くが、財政緊縮的であったり、金融緩和に対して理解不足だったりするように見えることだ。

 そうなると投資家は、「アベノミクス相場の終わりの始まり」の可能性を意識しなければなるまい。今後の展開によっては、リスク資産への投資ポジションを引き下げることを検討すべきだが、マーケットでは、こうした諸々の状況も含めて価格が形成されている理屈なので、リスク資産の「売り過ぎ」には注意したい。ポートフォリオの調整は、やるとしても、「ぐずぐずと少しずつ」がコツである。

(経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員 山崎 元)
http://diamond.jp/articles/-/137189
http://www.asyura2.com/17/hasan122/msg/818.html

[経世済民122] 日本で進む国際的引きこもり化、留学したい大学生たった1% 定年退職男が悩む「終活」 いまの日本に生まれたことが最大の幸運
017年8月2日 渡部 幹 :モナッシュ大学マレーシア校 スクールオブビジネス ニューロビジネス分野 准教授
日本で進む国際的引きこもり化、留学したい大学生たった1%
!?

日本の若者の引きこもり化が加速!?
「海外なんて行きたくない」


海外のことは何でもネットで分かる時代。英語だってネットで学べるから、わざわざ海外に行こうと考える若者は減っている。しかし、情報を集めることと、実際に海外で「体験」をすることの間には、大きな差がある
 先日、日本の某国立大学の副学長が、筆者の勤めている大学を訪問され、数日にわたってお話を伺う機会を得た。

 その先生は、若い時からアメリカに渡り、アメリカの一流大学で博士号をとって、今も活躍している優秀な方だ。当然ながら英語にも不自由せず、本学でも多くの人とコミュニ―ションを取っていた。

 彼と同様に筆者も米国の大学で博士号を取り、日本の大学に勤めた経験があるので、彼との会話は必然的に、日本や他の国の大学の国際比較になったが、その中で彼が印象的なことを語っていた。

「先日テレビを見ていたら、株のオンライントレードで数億を稼ぎ出している若い個人投資家の特集をしていたんですよ。独学で株を始めて、ほぼ引きこもりのような生活をしながらやっているんですが、才能があるんでしょうね。大成功しているんです。その彼がインタビューで、得たお金を使って海外旅行などには行かないんですか、と聞かれたら、『いえ、興味ないですから』と答えていて、へえ、と少し驚いたんです」

 筆者もそういう人がいるのは聞いている。似たような話はネットでも見かけるため、彼の話を聞いても「そうか」と思うだけだった。相槌を打っていると、彼はこう続けた。

「実はうちの学生も同じなんですよ。とても優秀で、アメリカの大学なんかに行ったら伸びるだろうな、と思っている学生に、海外留学する気はない?と聞くと、『いや、海外のことはネットでほぼわかるし、英語だって日本で勉強すればいい。それに、実際に行って何の得があるんですか?』と逆に質問されてしまいましたよ」

 それで思い出した。近年、米国の一流大学への留学生は大半が中国人で、それ以外で目立つのはヨーロッパと韓国だという。日本人の数は激減している。彼は続けた。

「それでね、こんなこと言うのはその学生だけなのかと思って、教えているクラスで、『海外で勉強してみたい人、手挙げて』と言ったら、200人以上いるクラスで2〜3人だけしか手を挙げなかったんですよ!ビックリしたなー!」

情報はなんでもネットで手に入る
海外に行く意味を見出せない現代

 筆者の若い頃は、海外、特に欧米に対して、漠然とした憧れがあった。インターネットがなかったため、情報源は新聞や雑誌、そして経験者の談話しかなかった。留学を志してからは、毎日のように本屋に行って留学雑誌や関連書物を漁っていたものだった。

 今は、本当に情報を得るのが楽になっている。ネットで検索すれば大抵の現地情報は手に入るし、経験者のブログやフェイスブックも簡単に探せる。

 さらにその先生がある学生に聞くと、こういう答えが返ってきた。

「情報ならばネットで手に入るし、いろんなメディアで海外とやり取りもできます。文字だけでなく、スカイプやLINEでの会話も可能。買いたいものも、アマゾン等で手に入れられます。食べ物だって、日本でだいたい食べられるし、日本の食べ物の方がおいしいですし。南の島にちょっとリゾートに行くならともかく、わざわざ日本と変わらない規模の海外の都市に住んで得になる理由はないですね」

 情報という観点からいえばその通りだと思う。そして語学留学程度ならば、それこそ高いお金を払ってする必要などないだろう。安価なスカイプレッスンの英会話教室を活用するほうが、よっぽど効率的だ。その意味では、この学生の言うことに理はあると思う。

 だが、実際に海外に留学し、現在も海外に暮らすものとしては、それだけにとどまらないものがある。それは現地でやらなくてはならない「問題解決の体験」だ。

 大きなものから小さなものまで、私たちは日々意思決定を行っている。今日の昼食から、進路の決定、就職先の希望、ビジネス上の重大な決定まで、さまざまな意思決定を行わなくてはならない。その意思決定のほとんどは「問題解決」のために行われる。

 海外に実際に住み、その文化の中で(お客さんとしてではなく、現地の人と同様に)、問題解決のための意思決定を行うと、自分が日本で学んできた日本のやり方や考え方が通用しないことがたくさんある。最初は、それがわからず、困ったり、失敗したりする。そのような体験を通じて、私たちは徐々に、意思決定の仕方を覚えていくのだ。

情報だけでは世界で
ビジネスができない理由

 日本以外の環境や文化では、そこで培われた、日本とは違う考え方や問題解決の方法、意思決定の仕方があり、それらの背後にはきちんと意味がある。失敗しない意思決定をするには、その意味を理解することが重要となる。そのためには、ネットによる情報取得だけでは、全然足りない。現地での体験が必要なのだ。

 筆者はたまに日本に戻ると、日本が素晴らしい国であることを実感する。外国より優れているものはたくさんある。だが、いつでもどこでも日本人のやり方が最高かというと、それは違うと思っている。日本人のやり方が最高なのは、日本という文化、文脈の中だけだ。違う文化、違う文脈にいれば、違うやり方が必要となる。そしてそれは体験によってしか身に着かないと思っている。

 前回、この連載(記事はこちら)で、エアアジアCEOのトニー・フェルナンデス氏が、インド系ASEAN人起業家フォーラムで講演をした際に披露したエピソードを紹介した。この経済会議ではほかにも、すでに様々な国でビジネスを行ったインド系の人々の体験談が披露されていた。

 そこで驚いたのは、さまざまなインド系ASEAN人が、世界のさまざまな場所で、さまざまな体験をすでにしていて、それを共有しようとしていることだ。そのうえで彼らは、大枠のビジネス戦略について合意を得ようとしていた。

 シンガポールのシンクタンクの予想によると、2035年時点でのGDPの世界1位は中国で、2位に米国、3位がインド、4位が日本で、5位にはインドネシアが入るとしている。つまり、世界GDP大国ベスト5のうち4ヵ国がアジアの国だ。

 そして、そのうち日本はすでに低成長期に入っており、インド系ASEAN人が新規参入できる市場は少ないと予想する。中国は、最近鈍化してきたものの、経済成長は続けており、かつ人口が多いため、莫大な内需がある。しかし政治的な理由から、外国人、特に中国語の話せないインド系が中国市場に新規参入するのは難しいと考えている。

 ならば、彼らのターゲット市場は、インド、インドネシア、そしてASEAN諸国でのビジネス展開だ。マレー語とインドネシア語はほぼ同じだし、マレーシアとフィリピン、シンガポールでは英語が通じる。インドとの橋渡しもできる。

 しかし、現時点で彼らに欠けているのは、異文化での「体験」だ。外国でビジネスを行う際には、その文脈に即した意思決定が必要だが、その経験が足りない。同胞の「体験談」を聞くだけではダメなことを彼らは分かっている。

 その経済会議の目的は、さまざまな国々で活躍するインド系ASEAN人のコミュニティを活性化し、若いビジネスパーソンの交流を進めて、さまざまな体験ができるように、今からネットワークを作ることにある。それが約20年後には花開くと予想しているのだ。

 ASEANを含め、諸外国は自分たちの文化の外にあるチャンスを見ている。翻って日本はどうか。筆者には、少し内に籠りすぎのように見える。ニュースを見ても国内のニュースばかりで、CNNやBBCがトップに持ってくる国際情勢や世界市場のニュースの扱いは比較的小さいように思える。

 目先の得や損ではなく、将来のビッグサクセスへの投資として、「体験」は必要なものだと筆者は考えている。日本人が今後もこのまま「内向き」ならば、やがて「国際的引きこもり」になってしまうかもしれないと、筆者は少し不安に感じている。
http://diamond.jp/articles/-/137184


 

日経ビジネスオンライン
どう生きる?定年退職男が悩む「終活」の実態 退任後1カ月で女房と2人で3000kmをドライブしたワケ

お悩み相談〜上田準二の“元気”のレシピ


2017年8月2日(水)
上田 準二
ユニー・ファミリーマートHD相談役、上田準二さんの「お悩み相談」。今回は、同窓会への出席をためらう64歳の男性の悩み。役員などに出世した同期と比べて早く定年退職したことを引け目に感じている相談者に、上田さんは「あなたこそ人生の大先輩だ」と教えを請いたいという。そのワケは?
悩み:「同窓会に顔を出すのが、怖いです」
 同窓会の案内がきたのですが、60歳で定年退職した私と比べて、同窓たちは会社役員を務めているなど「友がみな我より偉く見ゆる日よ」という状態です。旧交を温めたい気持ちはあるのですが、同窓会に顔を出すと引け目を感じて、話の輪にも入れないのではないかと、出席するのをためらってしまいます。どうしたら気持ちが切り替えられるでしょうか。

(64歳 男性 無職)
大竹剛(日経ビジネス 編集):今回は、60歳で定年退職をしたという、64歳の男性からのお悩みです。同窓会に顔を出すのが怖いとのこと。どうやら、親しい同級生たちは今も会社役員を務めているなど、出世の階段を登った人が多いようですね。

 そうした同級生と比べると、既に退職している自分の姿に引け目を感じてしまっているようです。きっと、ご自身も出世の階段を上り詰めたかったのに、それができなかったという思いもあるのかもしれません。社長、会長を歴任して、70歳まで現役で大企業を引っ張ってきた上田さんは、相談者から見れば、羨ましい存在でしょう。


1946年秋田県生まれ。山形大学を卒業後、70年に伊藤忠商事に入社。畜産部長や関連会社プリマハム取締役を経て、99年に食料部門長補佐兼CVS事業部長に。2000年5月にファミリーマートに移り、2002年に代表取締役社長に就任。2013年に代表取締役会長となり、ユニーグループとの経営統合を主導。2016年9月、新しく設立したユニー・ファミリーマートホールディングスの代表取締役社長に就任。2017年3月から同社取締役相談役。同年5月に取締役を退任。趣味は麻雀、料理、釣り、ゴルフ、読書など。料理の腕前はプロ顔負け。(写真:的野弘路)
上田準二(ユニー・ファミリーマートホールディングス相談役):この方は、全くそんなことを思う必要はございませんよ。

大竹:ない。はっきりと言いきりましたね。

上田:僕の同期で会社に入った人間というのは、伊藤忠商事時代の同期ですよね。まあ、その大部分は60歳で定年ですよ。64〜65歳のときには、もう9割ぐらいが退職していました。役員になるというのはごく限られた人で、ほとんどは役員にならず定年を迎えるわけですから。

 同期会なんかやると、皆さんだいたい来ますよね。彼らが僕に何を言うかというと、「お前はまだ現役で仕事をしていて、大変やな」と。「上田、俺なんかお前みたいに、あの仕事をやってくれ、この仕事をやってくれと頼まれたことがないから、きっちりと定年でやめられた。お前は大変やな、ご苦労さん」なんて言われるわけでね。

 逆に僕は聞くんですよ。「あなたは今何をやっているの」と。いろんな答えが返ってくるよね。奥さんと温泉旅行だとか海外旅行だとか、奥さんと一緒にゴルフだとか。今まで読めなかった本を読んだりだとか。最近なんか果樹園をやっているとかいう人もいる。

 「お前なんかが果樹園をやって商売をしても、倒産する」なんてからかうと、「いや、だから果樹園で利益を出そうなんてことじゃなくて、好き勝手に作っているだけだ」と言うんだよ。「今度、お前のうちに送ってやるから」と言われて、しばらくしたら本当に送ってきた。これまた、ひどくごつごつした果樹が届くんだよ、もう(笑)。

大竹:何ですかそれは。リンゴですか。

上田:リンゴだとかモモだとか、いろいろなものだね。要するに、僕なんかはそういう人たちに何を聞きたいかと言うと、自分のエピローグ、つまりは終活ってどんな生活をしているのかなんだ。残り少ない人生、どうやって生きていったらいいのか、ものすごく興味があるわけよ。

現役を早く退いた人は、終活の大先輩だ

大竹:早く現役を退いた人は、上田さんより終活の先輩なわけですからね。

上田:そうだよ。先輩どころか、大先輩だ。僕は、そういう大先輩から、どうやって自分の人生、最後のステージを豊かに過ごしているかを教えてもらいたいよ。

 中には、失敗しているやつもいるわけ。さんざっぱら、あれやろう、これやろうと言って、退職金がなくなってしまったというやつもね。どうするんだよと聞けば、「いや、もう年金と息子に世話になる」なんて。気楽なもんだよな。でも、それはそれで1つの生き方だし、そういうのも含めて、僕は教えを請いたい。

 そんな僕みたいな人間も多いと思うよ。巡り巡って、役員やら社長やらやってしまった人間にとっては、終活の時間はその分、短くなってしまっているわけだから。

 従って、この方は何も引け目に感じることはないな。退職してしまえば、会社人生はそこで完全にリセットされるわけだし、実際、同期会なんかでは、ほとんど仕事の話なんか誰もしませんよ。会社を離れて今やっていることとか、これから何をやるか、やりたいかといった話で持ちきりだね。クルーザーに乗りたいだとか言うやつもいれば、えらい高級な外車のスポーツカーを買うやつもいる。まったく、高速道路を逆走したらどうすんのかと言いたいよ(笑)。

 だけどね、現役時代にできなかったことがある人が、「これを今やっている」「これからあれをやりたい」と話しているを聞くのは楽しいんだ。まあ、老後の失敗談もいろいろあって面白いね。

大竹:人生、最後まで失敗はつきものだと。

上田:ええ、誰でも最後まで、人間ですから。女房との関係の失敗談なんかが多いよね、やっぱり。女はこうなるぞとか、うちの女房がこんなことしやがってとかね。それが結構楽しい。

大竹:上田さんが出る同期会というと、伊藤忠時代のですか、それとも大学時代のですか。

上田:大学時代のは同じ寮に入っていた寮生が多いね。これは毎年やっている。会社関係は年に2回から3回。決して役員だったとか、役職がどうだったとか、そんなようなことはお互い全く話題にすらしませんね。今日、明日、来年、自分は生きているのかといった話ばっかりですから(笑)。この相談してくれた方も、もう何も気になさらないことです。逆にあなたは、役員経験者から見れば大先輩なのですから。

大竹:終活という観点から見れば、役員をやってしまって終活のスタートが遅れるのは、むしろ不幸かもしれない。

上田:そう。もう僕なんかは、終活の新入生だから。新入生にいろいろと教えてほしいよ。

大竹:同期会、同窓会ではなくても、普段から大学とか伊藤忠とか、昔の友人とのお付き合いは多いのですか。

上田:いっぱいあります。僕なんかは、いろんな会社を渡ってきたでしょう。自分がいた会社ではなくても、取引先もいろいろあったしね。

 いずれにしても、仕事で一応区切りがついた人々が集まっているわけで、会社でどういう力関係にあったとか、どんな取引関係にあったとか、まったく関係ない付き合いですよ。またそうじゃないと、お互い続きませんから。だから、こういう会には、とにかく出られた方がいいですよ。もうオープンな気持ちで気楽にね。

一番大切なのは、「心身共に健康であること」

大竹:相談役に退いた後、どんなことを心掛けていますか。

上田:一番は、心身共にできるだけ長く正常であることだと。

大竹:正常であること。なるほど、「健康であること」とは違って、「正常であること」。何やら、奥深いですね。

上田:うん。だいたいみんな70歳過ぎたら、車と一緒で体のどこかが傷むものですよ。それが当たり前です。だから心身共にちゃんと「正常であること」がいちばん重要なんだよね。中古車でも、メンテナンスをしっかりしていれば、きっちりと走れるでしょう。エンジンがかからない、タイヤが動かないなんてことにならないようにしたいものだよ。

 それに、体だけじゃないよね。「心」も大切。趣味でナシやらリンゴやらを作って、売り物にならないような味だったとしても、それを作って食べていたら健康になったとかね。果物を作れるような場所に住んで、それでもうけるのではなくて、趣味としてやって心が充実していれば、それで健康になるんだよ。

大竹:ところで、上田さんは5月の株主総会で取締役を退いてから、日々、どんな生活をしているのですか。

上田:それがだね、まだほとんど毎日、会社に来ています。だけど、9月を過ぎたら、ユニー・ファミリーマートホールディングスの上期決算が出ますし、会社に来るのは半分ぐらいに減らしたい。来年になったら、もっと少なくするよ。

大竹:会社に来ないで何をするんですか。

上田:もう、これが今から楽しみなわけです。何をしなきゃいけないと思うのが何もなくて、今日はあれをしよう、来月はこれをしよう、年末はこれをしようと考えるのが、わくわくするじゃないですか。

大竹:逆の人もいますよね。会社での役割を失って、何をしていいか分からなくなって途方に暮れるという……。

上田:うん。そういう人もおるよね。定年後に急にふけちゃったとかね。ストレスがあった方が健康だったとか、何もなくなったら急におかしくなっちゃったとか。

 確かに、日々の生活の中で適度なストレスというのは、必要なのかもしれないな。まあ、僕の場合、適度なストレスは女房だから(笑)。時間できて、女房に「これをやろう」と言ったら、「いや、私はそれは嫌、こっちをやる」とか言われるしね。

 だけど、僕にだってやりたいことがあるから、もう強引に引っ張り出す。

女房にゴルフ一式をプレゼント、2人で1カ月で3000km走破した

大竹:例えば、奥さんと旅行したり……

上田:そう、株主総会後の約1カ月で、3000kmほど車で走りました。

大竹:1カ月で3000kmですか!すごいですね。どこへ行ったんですか。

上田:いっぱい行きましたよ。温泉へ行く途中にお寺を回ったり、自然を見たり。だけど、温泉だけでは物足りないというので、最近、ネット通販でゴルフセットとゴルフウエアとゴルフシューズをぱっと注文して、女房にプレゼントしたんだ。

 女房が届いた荷物を見て、「ちょっとこれ、女性物が届いたんだけど」と言うから「お前がやるんだよ」とね。「では、ゴルフ教室に行く」と言うもんだから、「そんなん行ったってダメだ。暇になったんだから、俺が全部コーチをやるから一緒にコースに出るぞ」と。

大竹:なんと、素敵ですね。

上田:でしょう。それで、だいたい僕は朝5時ぐらいに起きだして、バタバタと準備をして、6時ぐらいに「起きろー」と女房を起こして支度をさせて、車に乗り込んでダーッと出発。「どこへ行くの」と聞かれても、「俺が計画しているんだから、お前は寝てればいいんだ」と。

大竹:1カ月で3000km走って温泉もゴルフも、となると週末は忙しいですね。

上田:休みの日は、とにかく出かけているよ。金曜日から休んで2泊3日にするとかね。だから僕は、やることがなくなって急におかしくなるなんていうことにはならないな。やることを考えなきゃいけないということが楽しみになっている。

大竹:ちなみに、上田さんは結構、車を運転するのが好きだったんですね。

上田:好きですよ。

大竹:奥さんも運転が非常にお上手だといううわさも聞きましたが。

上田:よく知っとるな。実は、女房は僕が知らん時に、ある仕事を勝手にしていたことがあるんだよ。若い頃の話だがね。

 ある時、つい女房に「お前なんか何の資格も持っていないし、特技もない」と言ってしまったことがあったんだ。そうしたら、その後、急に夜、女房の帰りが遅くなるようなことが増えたんだ。「こいつ、おかしいな」と思ったよ。「ちょっと、あの世界に狂ってしまったかな」と。

大竹:あの世界、というのは……

上田:ホストクラブ(笑)。

かつて女房は車検場で運転の腕を磨いていた

上田:気がつけば、何か高そうな服とか指輪を、僕の知らないところで買っていたんだよ。当然、「これどうしたんだよ」と問い詰めたよ。そうしたら、「私のお金で買ったんですから、文句を言われたくない」なんて言うんだ。「何やっているんだ」と聞けば、何と、車検場で働いていたんだ。車検が終わった車をお客さんのところに届けたりする仕事だよ。

 何でそんな仕事をしていたかというと、僕が「お前なんか手に職がない」と言ったことが原因だったんだ。自分には、車の運転免許があるというわけだ。

大竹:上田さんが奥さんの気持ちを焚き付けてしまったんですね。

上田:そうなんだよ。1人が車検が終わった車を運転して、もう1人が別の車で後ろからついていって、帰りは2人で乗って戻ってくるというやつだ。

大竹:へえ〜それは運転が上手になりますよね。

上田:大型じゃないけど、トラックの運転免許も取ったんだって。

大竹:凄い行動力!それなら、運転はかなりの腕前でしょう。

上田:だけれども、僕がファミリーマートの社長になった時、車検場の上司から言われたんだって。「上田さん、新聞を見たら、おたくのご主人、ファミマの社長じゃないか」と。

大竹:社長夫人が、何をやっているんですか、と。

上田:そう。「ちょっとうちでトラックの配達だとかを続けるわけにはいかないでしょう」と言われてしまったらしいんだ。だから、それ以来、車検場の仕事はしていないけれど、運転は上手い。

大竹:それなら、旅行の時は交代で運転しているんですか。

上田:うん。結構2人で走りましたよ。万座温泉、伊東温泉。軽井沢、近場の千葉なんか有名なお寺は全部回ったしね。

大竹:さすがに、1カ月3000kmを1人で運転すると疲れてしまいますものね。70歳を超えると、免許の更新の際には高齢者講習を受ける必要があるようです。プロ級の運転技術を持つ奥さんと一緒とはいえ、運転にはくれぐれも気をつけてください。

読者の皆様から、上田さんに聞いてほしい悩みを募集します。悩みの投稿は日経ビジネスDIGITALの有料会員か、もしくは日経ビジネスオンラインの無料会員になる必要があります。日経ビジネスオンラインの無料会員の場合は、投稿に会員ポイントが必要です。
>>悩みの投稿<<

このコラムについて

お悩み相談〜上田準二の“元気”のレシピ
コンビニ大手ファミリーマートで発揮した優れた経営手腕のみならず、料理、読書、麻雀、釣り、ゴルフと、多彩な趣味を持つ上田準二氏。ユニー・ファミリーマートホールディングスの社長を退任し、相談役となった今だから語れる秘蔵の経験や体験を基に、上田氏が若者からシニアまで、どんな悩みにも答えます。上田氏の波乱万丈の人生を聞けば、誰もがきっと“元気”になる。
日経BP社

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/skillup/16/022100017/073100029/

 


【第1回】 2017年8月2日 橘玲 :作家
いまの時代の日本に生まれたことが「最大の幸運」である理由

作家であり、金融評論家、社会評論家と多彩な顔を持つ橘玲氏が自身の集大成ともいえる書籍『幸福の「資本」論』を発刊。よく語られるものの、実は非常にあいまいな概念だった「幸福な人生」について、“3つの資本”をキーとして定義づけ、「今の日本でいかに幸福に生きていくか?」を追求していく連載。幸福のインフラとなる、「金融資産」「人的資本」「社会資本」という3つの資本(資産)の有無で生まれる8つの人生パターンにすべての人が当てはまる。あなたの今はどの状態か?  そして目指すべき「幸福な人生」とは?


人生は幸福になるようにデザインされているわけではない

 まずはきわめてシンプルな事実から語りはじめたいと思います。それは、

「あなたがいまここに存在することがひとつの奇跡」

 ということです。

 とはいえこれは、哲学や宗教、あやしげなスピリチュアルの話ではありません。父親と母親が出会い、2人の遺伝子からたまたまひとつの組み合わせが選ばれてこの世に生を受け、さまざまな出来事を体験し、多くの出会いや別れがあり、現在に至るまでには膨大な数の偶然の積み重なりがあります。この偶然を「奇跡」と呼ぶならば、これは誰でも知っている当たり前のことをいっているだけです。

 そうした偶然のなかでもとくに強調したいのは、

「いまの時代の日本に生まれたということが最大の幸運である」

 ということです。

 ここで、すぐにあちこちから批判の声が聞こえてきそうです。日本経済は四半世紀に及ぶデフレに苦しみ、非正規雇用やワーキングプア、ニートや引きこもりが激増して、若者はブラック企業で過労自殺するまで働かされ、老後破産に脅える高齢者には孤独死が待っているだけだ、というのです。

 私はこうした日本の現状を否定するわけではありません。しかしその一方で、この島国から一歩外に出てみれば、「下を見ればきりがないが、上を見るとすぐそこに天井がある」という現実にたちまち気づきます。

 国連は毎年、1人あたりGDPや健康寿命、男女平等、政治・行政の透明性、人生における選択の自由度などを数値化して「世界幸福度ランキング」を発表していて、その上位は北欧など「北のヨーロッパ」の国々が独占しています(それにつづくのがカナダ、オーストラリアなどアングロサクソンの移民国家です)。

 最近では「ネオリベ型福祉国家」と呼ばれるようになったスウェーデンやデンマークのリベラルな政治・社会制度はさまざまな面で日本よりすぐれており、雇用制度や教育制度など見習うことは多々ありますが、それを「幸福な理想社会」と呼べるかは別の話です。

デンマークは本当に「幸福な国」か?

 デンマークでは非白人移民の国外追放を求める国民党が閣外協力ながら政権の一角を占め、オランダの総選挙では「ヨーロッパのイスラーム化阻止」を主張するヘールト・ウィルデルスの自由党が大きく票を伸ばしました。世界でもっともリベラルな国々は、「反移民」「反EU」の右派ポピュリズムが跋扈する社会でもあるのです。

 これは、「北のヨーロッパ」にあまり住む気になれない私の個人的な感想というわけではありません。東南アジアのビーチリゾートには、北欧の「幸福な国」から移り住んできたひとたちがたくさんいます。

 長く寒い冬を避けるのがいちばんの理由でしょうが、彼らと話をすると、「あんな社会で暮らすのはまっぴらだ」という愚痴がいくらでも口をついて出てきます。ここでは詳しく述べませんが、北欧は個人主義が極限まで徹底されたきわめて特殊な社会なのです。

 日本がこれから必死の努力で「改革」を行なっても――もちろんこれは必要なことですが――そのゴールは、自由で平等で暮らしやすいかもしれないけれど、移民問題で国論が二分し、ものごころついてから死ぬまで「自己責任」「自己決定」で生きていくことを強いられる社会です。これが、「上を見るとすぐそこに天井がある」という意味です。

 しかしだからといって、絶望する必要はありません。

「知識人」を自称するひとたちは、「資本主義が終焉して経済的大混乱がやってくる」とか、「社会が右傾化してまた戦争に巻き込まれる」とかの不吉な予言をばら撒いています。

 しかし過去100年間を時系列で眺めれば、私たちが暮らす社会がずっと安全になり、ひとびとがゆたかになったことはあらゆる指標から明らかです。――そしてこれは、時間軸を300年、500年、1000年、あるいは1万年に延ばしても同じです。

 かつての日本社会は、ごく一部の特権層しかゆたかさを手にすることができませんでした。しかし現在では、より多くのひとが「幸福の条件」にアクセスできます。江戸時代であれば、あるいは明治や昭和初期であっても、「平民」が幸福について語るなど考えられなかったでしょう。

「江戸時代といまを比べても意味がない。問題は(デフレや右傾化で)いまの日本社会がどんどん生きづらくなっていることだ」との反論もあるでしょう。しかし「日本が世界の頂点に立った」とされる1980年代は(私は20代で体験しましたが)、有名大学を卒業し、官僚になるか一流企業に就職する以外に社会的成功への道のない時代でした。


『幸福の「資本」論』
橘玲著
ダイヤモンド社 定価1500円(税別)
 80年代末のバブル経済でこの構造にひびが入り、それまで社会の底辺にいた(ヤクザと同類の)ひとたちがきらびやかな衣装をまとって登場しますが、バブル崩壊と暴対法(暴力団対策法)の施行でその抜け穴はたちまち塞がれてしまいました。

 しかしその後、グローバル化の荒波によって日本社会の構造は根本から揺さぶられ、それまでつぶれるはずがないとされていた大手金融機関が次々と破綻する経済的混乱を経て、一介の若者が徒手空拳で大きな富を合法的につかめる時代がやってきました。

 冷静に歴史を振り返れば、「経済的成功への機会」という意味で、現在の日本が過去のどの時代よりも恵まれていることは間違いありません。すなわち私たちは、いまの時代の日本に生きているというだけで、とてつもない幸運に恵まれているのです。

 だとしたら考えるべきは、この「奇跡」と「幸運」を活かし、どのように「幸福な人生」をつくりあげていくかでしょう。

 これまで私は、何度かこう述べました。

 ひとは幸福になるために生きているけれど、幸福になるようにデザインされているわけではない。

 私の新著『幸福の「資本」論』では、「金融資産」「人的資本」「社会資本」という3つの資本=資産から、「幸福に生きるための土台(インフラストラクチャー)」の設計を提案しています。この考え方はきわめてシンプルですが、だからこそとても強力です。

 次回から、その設計の仕方について述べて行きましょう。

(作家 橘玲)
http://diamond.jp/articles/-/137181
http://www.asyura2.com/17/hasan122/msg/819.html

[国際20] 世代交代が一気に進み、日本への期待強めるロシア 駆引上手な華僑「陰」の立場 債券バブルはじけた後の投資 インフレ率回復へ
世代交代が一気に進み、日本への期待強めるロシア
プーチン大統領も出席した肝煎りの国際産業博覧会で日本がパートナー国に
2017.8.3(木) 菅原 信夫
TOTOのブースで「ウォシュレット」の説明を受ける来場者。温水洗浄便座はモスクワでやっとその姿が見られるようになったところで、エカテリンブルクでは初めての登場である。ただし、ロシアのトイレには電源や水栓が引き込まれておらず、実際に取り付けるにはかなり大きな付帯工事が必要となる。
 ロシア・ウラル地方の主要都市であるエカテリンブルクで、7月10日から13日まで、国際産業博覧会「INNOPROM2017」が開催され、筆者はジェトロ派遣の日本企業向け相談員として全期間現地に滞在した。

 その時の印象を中心に、日露の産業交流を描いてみたい。

 この展示会には、毎年パートナー国という主賓国が選ばれて、大きなスペースを与えられるとともに、セミナーやパネルディスカッションなどロシアとの関係を論ずる場に優先的に招聘される。今回は日本がパートナー国として選ばれた。

 このため、日本からは世耕弘成経産相、高橋はるみ北海道知事など行政の高官が訪問したことも本展示会の特徴と言えよう。 

 また会場外における文化交流も盛んで、今回日本は、パートナーカントリー文化プログラムとして和太鼓を中心にした和風テイストのプログラムを準備、エカテリンブルク国立オペラ・バレエ劇場で開会初日の夜に上演した。

 なお、このコンサートに先立ち、ウラジーミル・プーチン大統領その人による主催国挨拶があって、パートナー国日本のことを持ち上げていたのが印象深い。

 このプーチン大統領の登場は事前には知らされておらず、バレエ劇場への入場時の警備、予定時間の後ろ倒しなどから、どうも重要人物が出てくるのではないかと皆が思い始めたところでの登場で、このこと自体がロシア側によるショーであった。

 今回、5万平米を誇る展示会場にブースを設けた日本企業は170社、エカテリンブルクの地を踏んだ日本企業の出張者は800人と発表されている。

 近年これだけの規模で日本が参加したロシア国内での展示会、見本市というのは皆無であり、この影響は今後数年にわたり、エカテリンブルクをはじめとするウラル地方、さらにはシベリア地区全体に及ぶものと考えられる。

欧米による対ロ経済制裁の影響

 北朝鮮がICBM打ち上げ成功を祝い、平壌で関係者を招待して最大級の祝宴を張ったという報道があるが、このINNOPROMにもそんな一面が感じられて仕方がない。

 すなわち、2014年夏、ロシアに対して課せられた経済制裁から3年が経過し、その間ロシアはあらゆる分野において自主独立の精神をもって産業の振興を図り、その結果が今回のINNOPROMとして凝縮した、と考えられるし、事実プーチン大統領の上記演説でもそのような大統領の気持ちが述べられていた。

 日本企業の多くは自社ブースでのアテンドが多忙で、ロシア企業中心の第2、3パビリオンを視察する時間もなかったかと思うが、そこには外見上ほぼ欧米の水準にまで達したロシア製品が並んでいた。

 筆者が特に関心を持ったDM社は、道路建設用車両の製造メーカーであった。説明を聞くと、この会社はヤロスラブリ州リービンスクに本社工場を持ち、同州に工場を持つコマツのことはよく知っていると言う。

 日本企業であるコマツがロシア国内に工場を作り、日本その他海外から輸入するコンポーネンツを組み立てて製品化しロシアという消費地に提供するビジネスが可能なら、我々にもできないわけがない、と言う。

 ただし、広範な製品を持つコマツと正面から競争しないため、DM社は道路建設機械という分野に限定。

 会社設立から20年、今や道路建設に絡むほぼ全種類の機械を提供できるまでになったDM社が意識するのは、同分野で圧倒的な力を発揮する日本の酒井重工業であり、韓国Doosanである。

 ここには、経済制裁を強化する欧米からロシアがこの種の製品を輸入することはもうない。残るは日本、韓国だけ、という思いが強いように感じられた。

 今回のINNOPROMでロシア企業ブースに行くと、このようにしっかりした企業プレゼンテーションができる担当者がどこのブースにも必ずいる。これはロシア企業の大きな成長だと言えるだろう。

 知り合いを見つけては、共に酒を酌み交わし、新規商談を督促する、これがこれまでのロシア流展示会だったとすると、なんとスマートになったものだろうか。

結局のところ、INNOPROMという博覧会の本質は、「ウラル地区の文化祭」という意味合いが強く、 商談のための機会を提供するというような高度に商業化した展示会とは初めから一線を画していた。何せ、一般市民の入場が許される時間になるや否や、人々の集まるところは、日本産の菓子類を試食できる JSN社のブースであり、間違ってもその奥の三菱電機ブースではなかった。
 しかし、説明を聞くほど、筆者の不安は高まる。すでに本欄でも何度か触れているが、現在のロシアには、部品、コンポーネンツまで全てを国産品で用意するだけのパーツメーカーが育っていない。

 この苦しみを味わっているのが日本をはじめとする外国自動車メーカーだが、工作機械では国産品を諦め、ユニット単位で海外から輸入する方式を取っている。

 ロシアメーカーは輸入したユニットを組み立て、アッセンブリーメーカーとして「Made In Russia」を名乗ることにはなるが、その実質はロシア製とは言い難いものになる。 

 DM社に戻ろう。筆者に完璧なプレゼンテーションを披露してくれた担当者に、エンジンのメーカーを尋ねる。担当者はちょっと間をおいて、「カミンズ製です」と言う。そして、「酒井もカミンズを使っています」と付け加える。

 筆者の不安は、今やディーゼルエンジンのワールドスタンダードになったカミンズをロシアの建機が使っていることにあるのではない。 米国政府により、ある日カミンズのロシアへの供給が止まることがあるのではないか。ここに本当の不安がある。

 対露経済制裁は、米露関係の悪化に伴い、ますます強化される可能性がある。こんなとき、輸入品コンポーネンツに頼るロシア製産業機械はどうなるのか、しかしそこに実は日本の大きな可能性が秘められているのではないだろうか。

 小型ローラーのエンジンにクボタ製、と書かれているのを見ながら、DM社のブースを後にした。 

西側の基準で商売を考えられる人と会社

 今回、参加した日本企業向けに日本側主催者団体のジェトロ、ROTOBOでは多くの通訳を準備したが、それでも現場段階で不足していたことは否めない。そこにモスクワから通訳・翻訳会社が自社の日本語通訳を非公式に送り込んで来ていた。

 そして、「無償通訳いかがでしょうか」と中小企業ブースを中心に売り込みをかけ、ブース側のニーズを探る。多くの中小企業ではカタログも英文までが精一杯で、なかなかロシア語版を作るまでの準備はできなかった。

 そこに無償通訳は目をつけ、このカタログは露文化すべきだ、明日までに仕上げましょう、という特急サービスを提案、ちゃっかりと注文を取る。

 筆者はこのやり取りを聞いていて、ニヤリとしてしまった。

INNOPROMが開催されたエカテリンブルク・エクスポの外観。INNOPROMはロシア連邦産業商業省とスヴェルドロフスク州政府との共催でこの博覧会場にて第1回より開催されている。因みに今回は第8回目、来年のパートナー国は韓国が決まっている。
 高額の旅費を自社で支払ってエカテリンブルクまで遠征し、さらに無償での通訳サービスの提供、何度もブースに現れては笑顔で話かけ、ブースの実力者を探る。そして、その実力者への翻訳サービスの提案。まさに「商売」を実践したこのロシア人の手を握りたい思いだった。 

 再びDM社。

 製品価格というものが交渉価格を意味し、ソ連時代から正価という考え方がなかったロシアビジネスにおいて、価格表というものがどんな客にも提示できるようになったのは大きな進歩である。

 「これは酒井重工のXXモデルと同等ながら価格は半額だ」と価格表を見せて説明する。 モデルの数字まで酒井と類似しているのは微笑ましいが、こうして海外製品を例に取り比較する気持ちが唯我独尊を特徴とするロシアビジネスに出て来たことは大きな変化だと思わざるを得ない。

新世代人の日露両サイドでの活躍

 国際政治の世界で冷戦が続いていた筆者の世代では、ご本人がソ連の大学に留学、卒業したケースというのは非常に珍しいことだった。

 卒業後、ロシア語を生かして通訳・翻訳の世界に入られた方やソ連ビジネス専門商社で活躍されたような例は少数にすぎず、日ソあるいは日露をつなぐ大きな橋にはなり得なかった。

 しかし、今回筆者が気づいた新時代人というのは、筆者の次の世代、我々がソ連に駐在していた頃、日本人学校やインターナショナル校に通い、その後ロシアの大学で学び立派に卒業した駐在員の子弟たちのことである。

 あるいは、中学卒業と同時にロシアのバレエ学校に入学し、プロのバレエダンサーを目指すような子供たちのことである。

 こういう人たちの特徴は、ロシア語を頭でなく、体で覚えているという語学力である。

日露経済を阻むもの、その1つが言葉だろう。ロシア語のできない日本人と日本語のできないロシア人。通訳に頼ろうにもエカテリンブルクでは日本語の分かるロシア人はいないだろうと思うと、実はそうでもない。エカテリンブルク国立大学には歴史の古い日本語科があり、毎年冬に実施される日本語能力試験には多くの受験生を送っている。
 また、ロシア社会に友人だけではなく、親戚を持つ人たちも出現している。日米と比較した時の日露の関係の脆弱さを語るとき、筆者はいつも日米には草の根交流があるが、日露にはそれがない、という説明をしてきた。

 しかし、この説明はそろそろ取り下げないといけない。今回のINNOPROMでは、そのような人々が大手商社のブースで、あるいは起業家としてロシアに設立した企業のブースで、大活躍している姿を見た。

 また、一方、国籍こそロシア人だが就職以来ほとんど日本の企業に勤務しているという人や、日本に会社を作り、日本とロシアを結ぶ仕事をしている方も増えてきた。

 INNOPROMで日本企業とロシア企業の橋渡しをされたグレーブ・ジュラフスキー氏はまさにその見本であろうか。

 会場内での日本企業への支援はもちろんのこと、会場外でもロシアを知らない日本人たちのアドバイザー兼添乗員のような役をグレーブさんは自ら引き受けていた。古いロシア人像しか持ち合わせない筆者は敬服してしまった。

 このように日露両側における関係者の精神状態は大きく変わりつつある。

 日本経済新聞社の寺井伸太郎記者は「日経ビジネスオンライン」で最近のロシアビジネスについて、次のように述べている。

 「日本にとって依然近くて遠い国のイメージが残るロシア。経済関係は資源など限定的だが、日露両政府の接近で潮目が変わりつつある」

 筆者はINNOPROMを見て日露貿易の潮目が変わったという思いに大いに賛同する。

 ロシアが日本をパートナー国とした理由とその必要性、それに応えられるだけの日本人のロシアに対する見方の変化、そんなものを強く感じた。国際政治の荒波に揉まれながらも、日露経済はお互いを必要としつつ、実績を伸ばして行くのではないだろうか。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/50698


 


駆け引き上手な華僑が守る「陰」の立場とは?

華僑直伝ずるゆる処世術

2017年8月2日(水)
大城 太

 友人の間だけだから大丈夫、ペンネームを使っているからバレないなどと考えて、SNSなどで無用なトラブルを起こしてしまう人が後を絶ちません。インターネットでの出来事はインターネット内ですべて完結する、という誤解が間違いを起こす根底にあります。ツールとしてパソコンやスマホを使っていたとしても、その画面を見ているのは生身の人間であることを忘れてはいけません。

 そのような基本的なことは多くの人が理解していますが、間違いが起こるのは、誰しもが持ち合わせている承認欲求と、書くことによってスッキリ感を味わいたいという気持ちが原因の多くを占めています。

 中国古来の「陰陽」を理解している華僑は、炎上狙いの場合を除いてこのようなミスは犯しません。「陰陽」とは、簡単に言えば、静と動、暗と明のような、二つの対立する性質が万物のなかに存在しているという考え方です。

 インターネット上に当てはめると情報の発信者は陽になります。情報の受け手側は陰になります。普段のビジネス活動で言えば、仕事上で何かを提案したり、発言する側は「陽」で、それを受け止める側は「陰」です。

 この場合、自分のポジションが「陰」であるということはとても有利です。受け止める側であれば目立たちません。出る杭を打とうとしている人にも狙われませんし、落とし穴も掘られない、嫉妬の対象にもなりません。嫌われるリスクも減るでしょう。

 華僑が駆け引きをするにあたっては、常に自分が陰のポジションを取ります。自分が何をやろうとしているのかを相手に悟られてはいけない。語らないことこそが最強であると考えています。

 これは華僑だけでなく、中国人も同じです。中国の街中や日本でも彼らは大きな声でしゃべっていますが、そういう場合は、意味のない単なる雑談の時です。意味があることや何かを意図して話す時は、小さい声で話し、できるだけ相手にしゃべらせようとしています。どちらか一方が「ワァ〜っ」としゃべっている場合は、相手にしゃべらされているのです。

 「語らない」という中国人の姿を体現している有名人に、中国の習近平国家主席がいます。彼は中国で共産党が政権を取って以来、一番強い国家主席とも言われていますが、彼こそ、歴代で一番語らない指導者です。ニュースで見る習近平も常に「陰」の状態でいることが伝わります。無表情で考えていることも読めません。

「語らない」ことで相手のミスを引っ張り出す


 そもそも自分が「陽」になって、何かを発してしまった場合、それを「今の発言はナシ!」と引っ込めるのはなかなか難しいことです。自分が「陰」になれば、そういうミスをしなくてもすみます。

 華僑の場合は、相手から「陽」を引き出すことで、そういうミスをさせるという手段をよく使います。私もその手に引っかかり、うっかり口を滑らせて、「しまった!」ということがよくありました。

 以前、華僑の部下と話していたら、なぜか報酬をアップすることになってしまったことがあります。一度言ってしまったら、それを撤回すると私のメンツが立ちません。彼らはそこまで計算して、ミスを引っ張り出すのです。

 その時の手口は、こうです。「妻が最近、体調を崩しています」「中国に残してきた母が病気で非常にお金がかかるのです。歳が歳ですので、働くのもままなりません、なので、妻が夜も働きに出ています」。15分間の間に彼が発した言葉はこれだけです。それ以上は何も話さず、黙っています。「陰」のポジションを死守しているのですね。

 二人きりで話して相手が「陰」のポジションを死守すれば、私が「陽」にならざる得なくなり、相手をおもんぱかるようなセリフを次々に言う、言わされるという会話になります。

 別の華僑の場合も似ています。クレーム処理をしにいった部下から報告を受けた時も、部下は「クレーム処理に負けました」というだけで、どう負けたのか、そこで何があったのか、全容をなかなか話しません。

 それを聞き出そうと、しゃべらされていたのは私の方でした。部下は「例えば……」と言ったかと思えば、黙る。すると、私は「例えば、こういうこと?」と二の句をついでしまい、しまいには、「それはお前の責任じゃないよ」と、彼を慰めていました。

 最終的な彼の目的は、クレーム処理に負けたことは自分のミスではないというところに持って行きたかった。それを私の口から言わせるのが狙いです。

 「それはお前の責任じゃないよ」と言ってしまった時点で、私は彼に対して、それ以上の責任を追及することができなくなってしまいました。

 このように、話をするときはすべてを一気に語らず、小出しにして、相手が会話を続けやすいところで終わらせることで、相手を「陽」の立場に持って行くことができます。

 「陽」の人は「どういうこと?」と、「陰」の人から聞き出そうとしますが、それに対しての答えも100%言いません。「陽」の人に想像させて、いろいろ話させることで、思考回路を裸にしていくのです。「語らない」ということはそれだけのパワーがあります。

「勝っている人」を仲間にする方法とは


 自分から何かアクションを起こしたい場合は、「陽」の立場からのスタートになってしまいますが、やりたいことの経験者を仲間に入れることでいいポジションどりができるようになります。経験者の中でもすでに勝っている人と組めば、勝たせてもらうことができて、勝ち癖の感覚もつかめます。そういう時のために、華僑は日々、人の情報を収集しています。

 ではどのようにして仲間に迎え入れればいいのでしょうか? 「このビジネスについて教えてください」と頼むではなく、「全部自分が動きますし、利益の八割はあなたにあげます。一緒にやりましょう」と誘うのです。

 ここまでのいい条件を断る人はいないでしょうし、八割ももらえるなら、その人は利益を出すために頑張ります。誘ったほうは、成功体験を積めるだけでなく、勉強にもなり、誘った相手の人脈も使えるのです。

 社内の人をプロジェクトなどに誘う場合も同じです。その人の実績になるようなプランを考え、評価を上がるように協力します。一緒にすることができたら、誘った相手から「得をさせてくれた使えるやつ」と評価されるでしょう。今度、その人が何かビジネスを始める時に、声をかけてくれるかもしれません。その場合は、自分の取り分をどんどん増やして、最終的にはパートナーに昇格することもあり得ます。

 このやり方は華僑の師匠もよく話します。「結局、ビジネスを誰かに教えてもらっても、儲けはすべて自分の取り分だと思っているから、いつまでたっても成功しないんだ。教えてくれる人にはどんどん儲けをあげたらいい。華僑はよくそういうことをやるよ」と。

 相手の利益になることを率先してやる、ということは行動的でもあるにも関わらず、何かあった時に、「陰」の位置に立つこともできます。実績は相手に渡すことを前提に動くからです。

 この考え方は少々ずるいと感じたかもしれませんが、華僑たちの口癖の「ずるい=賢い」「賢い=ずるい」に相通ずるものがあります。とはいえ、ずるさ一辺倒では評価されないのが日本社会です。ですので、本コラムはずるさをゆるくいかせてもらいますということで「ずるゆる」なのですね。

「陰」のポジションは情報収集にも最適


 華僑には何でもかんでも利用してやろう、という考えがあります。誰しも人の愚痴を聞くのはうんざりするものですが、それさえも喜んで聞いたりします。

 人には話したい欲求があります。「ウンウン、そうなんですね」と聞いていれば、「私はこんなことが嫌いなんです」から始まり、「誰それが苦手なのです、なぜなら人にはわからないように、こんなことをしている人ですから」と秘密の情報収集までできてしまうこともあります。

 社内でコーチングやカウンセリングを実施している企業も増えてきましたが、聞いている方がストレスを感じていることが多いと聞きます。ですが、華僑の場合は「得をしている」「情報収集できる」と思いながらコーチングやカウンセリングを実施します。

 相手が愚痴や嫌いなことを話してくれれば、その反対をしてあげれば、そんなに近しい仲でなくとも、味方にすることが容易になります。しかも話しているのは愚痴を言っている人ですので、自分は安全な「陰」のポジションから動かなくても良い、ということになります。

 ここぞという時や、勝負をかける時は、「陽」の位置どりをしても問題ありません。ですが、チャレンジしろと言いつつ、失敗をしたら、ミスした人の烙印・レッテルを張るのも日本社会の特徴ですので、できるだけ「陰」にいるようにするのが得策です。

 「陰」は何もしていないように見えますが、実はたくさんの情報収集と情報や情勢の分析をしています。情報、情勢の分析ができ、それを周りに悟られない、負けない戦というのをお分かりいただけると思います。

部下を「陽」に立たせる誘導質問


 それでは“ずるゆるマスター”の事例を見てみましょう。

 Tさんは最近よくため息をつくようになりました。多くの中間管理職がそうであるように、上と下との板挟みになっています。

 上長からは、もっと若い人を鍛えるようにと言われていますが、世相を反映して超過残業は禁止という御達しがあります。子供の先輩に当たるくらいの年齢の部下は何を考えているのかわからず、伝えたことがちゃんと伝わっているのかよくわからないというジェネレーションギャップに悩まされています。

 悩んでいても仕方ないので、役員の呼び声高い最年少部長“ずるゆるマスター”のKさんに相談することにしました。

 「という感じで、上から下からと非常に苦しい状況にあります」

 「正直に話してくれてありがとう。T君は課長だから上司は次長や部長になるね。そして部下は課員のみんなになる。まず部下のみんなをまとめていくことから整理していこうか。直属の部下は何人になるのかな?」

 「そうですね、私の所属する2課は総勢15人ですが、課長が2人おりますので、私の直属は7人になります」

 「7人だったら、個別の面談も可能だよね」

 「はい、おっしゃる通りです。週1回は一人ひとりと面談をしておりますが、特に20代の2人は何を考えているのかさっぱりわかりません。デジタルネイティブ世代ですので、彼らのSNSなどもチェックするようにしているのですが、先日、私の薄くなった頭頂部のことでしょう、カッパと揶揄しているのをみました」

 「そうなんだね、それは単なる悪ふざけで済むことだと思うけど、機密情報やお客さんに関わることなどを匿名だからと言って気軽に書いたりすることはしっかりと釘をさしておかないといけない」

 「ですが、彼らはハンドルネームを使っていますし、プライベートなことまで踏み込んでくるのか、と信頼関係が壊れそうです。ただでさえ、信頼関係ができているのかわかりませんし」

 「それはT君が陰陽の陽から彼らに発言するから、彼らにしてみれば監視されていると感じる。どんどん彼らに話させるべきなんだよ」

 「はい、わかります。ですが、なかなか業務のこと以外を話してくれないのです」

 「それは簡単だよ。質問をするだけだ。Twitterのことでもいい、Instagramのことでもいい。自分の子供がどのように使っているのかを知りたい、という感じで彼らに質問を投げかける。どのような仕組みになっているのかくらいはすぐに答えてくれるだろう。

 
その時に、『うちの娘はなんて危険なことをしているんだろう、そんなのすぐにどこの誰が投稿しているのかわかるじゃないか。危機管理能力が乏しいにもほどがあるよね』とあくまで部下ではなく、自分の子供のことのように話す。そうすると次は彼らから質問してくるはずだよ、どのようなリスクがあるのか、と。その時に、『君たちはどのような使い方をしているか教えてくれる? どこが危険か教えてあげるよ』と言えば、その瞬間からT君は陰陽の陰になり、彼ら若手が陽になる。陽はいわばスポットが当たった状態になるので彼らは饒舌になるはずだよ。同じように業務に関しても、常に彼らを陽になるような誘導質問をしていくべきなんだよ」

 「なるほどですね、そういう手があったのですね」

上司を陽に立たせる=上司を出世させる


 「次はT君の上司に当たる次長、部長に対してだけど、それも同じだよ。上司が陰陽の陽になるような行動、態度を取るべきなんだ」

 「部下たちと同じように次長や部長にも質問を投げかけていく、ということでしょうか?」

 「その場合は違う、逆だよ。次長や部長の仕事が順調に進むように、彼らの立場になって考えた行動をとる。T君は次長や部長から指示をされていると思っているけれども、指示をされていると思っている時点で、T君は常に陽の立場になり、ミスがあれば当然T君がクローズアップされるし、上手くいったらいったで当然、指示を出した彼らの実績になる。ここだよ。上手くいったら上司の実績になるということは、彼らがその時点で陽になる。T君が常に陰のポジションで居心地良く過ごし、順調に昇進するためには、上司が陽になるための行動、言動を心がけるべきなんだ。答えは簡単、上司が出世する手伝いをすれば、常に自分は陰になれる。出世した上司は誰に助けてもらったのかは忘れないものだよ」

 「ありがとうございます。目から鱗です。なんだか元気になってきました」

 次の日からTさんはため息をつかなくなりました。ため息をつくどころか、時折、一人ほくそ笑んでいるようにも見えます。それと同時にTさん率いるチームは3カ月後の会社の創立記念日の催しで優秀チーム賞を受賞しました。

 目立つわけでもなく、自己アピールもしないのに何事も順調にこなすあの人は「陰陽」を理解している“ずるゆるマスター”かもしれません。

 「陰陽」のポジションを活用した華僑流のコミュニケーション術ついては、拙著『「「華僑」だけが知っている お金と運に好かれる人、一生好かれない人』にてさらに詳しく解説しています。ぜひ当コラムと併せてご一読ください。


このコラムについて

華僑直伝ずるゆる処世術
 世界各地に移住し、そしてその土地土地で商売を成功に導いている華僑。華僑は日本人ではなかなかマネができない“生き方のコツ”を持っている。“生き方のコツ”と一口に言ってもビジネス、家庭生活、対人関係、子育てなど多岐に渡る。本コラムでは、華僑の師から学び実践して結果を出してきた筆者が、生真面目な日本のビジネスパーソンにぜひ取り入れてほしい成功術を紹介する。華僑のずる賢くもゆるく合理的な処世術(世渡り術)はきっと仕事にも人生にも役立つはずだ。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/022500005/073100038/


 


債券バブルがはじけた後の株式投資、ウォール街はこう考える
Elena Popina、Lu Wang
2017年8月3日 07:18 JST

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アラン・グリーンスパン元米連邦準備制度理事会(FRB)議長は今週、債券市場はバブルの状態にあり、破裂した時には株式を含め全ての資産に影響が及ぶだろうと警告した。
  米金融当局が景気刺激措置をさらに引き揚げ金利が上昇したらどうなるか、投資家はどう備えるのか。ウォール街の著名ストラテジストらの声を聞いてみよう。
JPモルガン・チェースのニコラオス・パニギリツオグル氏
  「ここ数週間、弊社顧客の会話で圧倒的に多かったのは、欧州中央銀行(ECB)と連邦準備制度による量的緩和(QE)縮小が秋に向けて市場が直面する主要リスクだという認識だ」と7月28日のリポートで指摘。米当局のバランスシート縮小とECBのテーパリング、あるいはそのいずれかの時期として想定される「9月が近づく中で、投資家は既にヘッジを通じて高リスク市場へのネットエクスポージャーを減らしている」という。

バンク・オブ・アメリカ(BofA)メリルリンチのサビタ・スブラマニアン氏
  金利の大幅な上昇はあらゆる資産の売りを促すだろうが、痛みは一律ではない。最悪なのは公益株のように債券の代わりに買われる銘柄だろう。1日の電話会議で「債券のような株を売り、株らしい株を買え」とアドバイス。高レバレッジ業界を避けるのも良いアイデアだ付け加えた。

エバーコアISIのデニス・デブシェール氏
  S&P500種株価指数が現行水準から7%下落した2300で今年を終えると予想。同指数の株価収益率(PER)は1年半にわたって高止まりしその間に相場上昇への悪影響は出ていないものの、バリュエーションは金融政策や経済成長によって普通に正当化されるより高いため、いずれかに変化があった場合のリスクは高いと指摘。モメンタム株に最初に影響が出るかもしれないと分析し、「価格モメンタムは今年これまででパフォーマンス最良のファクターだが、ここ2週間はアンダーパフォームした。このトレンドは債券利回りが一段と上昇すれば加速するだろう」と7月31日のリポートで記述した。

原題:Wall Street Is Mapping Stock Trades for a Post-Bond Bubble World(抜粋)

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-08-02/OU1TTV6S972901


インフレ率は鈍化局面から回復する−米地区連銀総裁2人が指摘
Jeanna Smialek、Christopher Condon
2017年8月3日 08:33 JST
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ウィリアムズ、メスター両地区連銀総裁が発言
両総裁は共に来年のFOMCで投票権を有する

米地区連銀総裁2人が2日、米インフレ率は金融当局が計画する緩やかな政策引き締めを妨げることなく、最近の鈍化傾向から回復へ向かうとの見解を示した。両総裁は共に来年の連邦公開市場委員会(FOMC)の投票メンバー。
  サンフランシスコ連銀のウィリアムズ総裁は向こう1、2年でインフレ率は当局の目標である2%に近づくだろうと発言。クリーブランド連銀のメスター総裁も今後1年間で2%に接近するとの見通しを示したが、最近のインフレ率の鈍化以外にも「さらなる何か」があり得るとして、今後の統計を見ていきたいと述べた。
  今年に入って、当局者が長期的に持続可能と見なす水準を失業率が下回っても物価上昇は鈍く、当局者らを戸惑わせている。今週発表された6月の米個人消費支出(PCE)価格指数は前年比1.4%の上昇にとどまった。同指数は当局がインフレの目安としている。
  
  ウィリアムズ、メスター両総裁は共に、米経済は最近の成長鈍化はあるものの概して順調であり、好調な労働市場と適度な成長が最終的には物価の問題を解決するという見解をあらためて示した。
  ウィリアムズ総裁は、ダラス連銀のトリム平均PCE価格指数のような一時的要因を除外できる指標は一段と力強い上昇を示していると指摘しながらも、「インフレ率に関してはまだ先は長い」と発言。「米経済が持続可能な成長の道筋から外れないためには、リセッション(景気後退)と景気回復の時期に導入された金融刺激策を緩やかに減らす必要がある」と語った。
  バランシシート縮小の開始時期については、ウィリアムズ総裁は今秋が適切と発言。一方、メスター総裁は、当局は「比較的早期に」開始するとの見解を示しているとあらためて説明した。
  また両総裁とも、急ペースでの利上げが必要になる景気過熱を回避するためには、緩やかな政策引き締めが重要だと強調した。
原題:Fed Officials Cling to View Inflation Will Snap Back From Slump(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-08-02/OU2X7B6JTSEA01


 
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  サンフランシスコ連銀のウィリアムズ総裁は向こう1、2年でインフレ率は当局の目標である2%に近づくだろうと発言。クリーブランド連銀のメスター総裁も今後1年間で2%に接近するとの見通しを示したが、最近のインフレ率の鈍化以外にも「さらなる何か」があり得るとして、今後の統計を見ていきたいと述べた。
  今年に入って、当局者が長期的に持続可能と見なす水準を失業率が下回っても物価上昇は鈍く、当局者らを戸惑わせている。今週発表された6月の米個人消費支出(PCE)価格指数は前年比1.4%の上昇にとどまった。同指数は当局がインフレの目安としている。
  
  ウィリアムズ、メスター両総裁は共に、米経済は最近の成長鈍化はあるものの概して順調であり、好調な労働市場と適度な成長が最終的には物価の問題を解決するという見解をあらためて示した。
  ウィリアムズ総裁は、ダラス連銀のトリム平均PCE価格指数のような一時的要因を除外できる指標は一段と力強い上昇を示していると指摘しながらも、「インフレ率に関してはまだ先は長い」と発言。「米経済が持続可能な成長の道筋から外れないためには、リセッション(景気後退)と景気回復の時期に導入された金融刺激策を緩やかに減らす必要がある」と語った。
  バランシシート縮小の開始時期については、ウィリアムズ総裁は今秋が適切と発言。一方、メスター総裁は、当局は「比較的早期に」開始するとの見解を示しているとあらためて説明した。
  また両総裁とも、急ペースでの利上げが必要になる景気過熱を回避するためには、緩やかな政策引き締めが重要だと強調した。
原題:Fed Officials Cling to View Inflation Will Snap Back From Slump(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-08-02/OU2X7B6JTSEA01
http://www.asyura2.com/17/kokusai20/msg/215.html

[国際20] ミサイルは飛んでくる、か 破局に向かうベネズエラ 原油市場に現た2つの地政学リスク ベネズエラより怖いサウジの政変リスク

ミサイルは飛んでくる、か

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/174784/080300105/p1.jpg

小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 〜世間に転がる意味不明
2017年8月4日(金)
小田嶋 隆

 北朝鮮によるミサイル発射という事態に、どうやら私たちは慣れてしまったようだ。

 少なくとも私は、かなり頑強な耐性を獲得している。
 ニュースを見ても、驚かない。
 毎度毎度、定期便が上空を通過するのを見上げているみたいな気持ちで、ニュースの画面を眺めている。
 この数年で地震にビビらなくなった事情と似ていなくもない。

 震度3までは、毛ほども動揺しない。
 震度4でもまだまだ落ち着いている。

 おそらく、そう遠くない将来、最終的な地震が襲ってくるのだとしても、私は、その時までそんなにあわてないのではないかと思う。
 あたりまえの話だが、慣れるということと、危機が去るということは、同義ではない。
 危機感が鈍麻しているのだとしたら、むしろ危機は深まっていると考えなければならない。
 北朝鮮によるミサイル攻撃のリスクに関して言うなら、われわれが慣れれば慣れるほど、危険度は増している。
 危険度が増している理由のひとつは、彼らが打ち上げている飛翔体が、単なる注意喚起のための花火ではなくて、確実なエスカレーションを含んだ実験だということの中にある。
 とりわけ、飛距離が伸びている点が深刻だ。
 なんでも、今回のブツは、アメリカ本土に到達する性能を有している可能性があるのだそうだが、ということになると、彼らのプレゼンテーションは、これまでとはひとつ次元の違う危険性を物語っているわけで、これは考えれば考えるほど、しみじみとヤバい。

 個人的には、北朝鮮がいきなりわが国にミサイルを打ち込んでくるとは思っていない。

 とはいえ、永遠にこの膠着状態が続くとも思えない。
 当面、私が懸念しているのは、アメリカが過剰反応することだ。
 トランプ大統領の昨今の言動を見るに、あながち杞憂とも思えない。
 というのも、普通ならやりそうもないことをやらかすのが彼の持ち前であり、トランプさんの政治的な生命線は、何をやり出すのかを、政敵や専門家が読めないところにあるはずのものだからだ。
 となると、過剰反応が過剰反応を呼んで、展開次第では、戦争が起こらないとも限らない。
 そういうことが起こった場合、火の海になるのは、アメリカではなくて、北朝鮮ならびにその周辺国で、具体的には韓国と、もしかしたら日本ということになる。  これは、あまり考えたくないシナリオだが、だからこそ考えておかねばならない。

 米共和党の重鎮、リンゼー・グラム上院議員がNBCテレビのニュースショーに出演して語ったところによれば、トランプ大統領は、グラム氏に
「北朝鮮がICBMによる米国攻撃を目指し続けるのであれば、北朝鮮と戦争になる」
 と語ったのだそうだ(こちら)。
 なかなかおそろしい発言だ。
 が、本命のおそろしいコメントは、その後だ。
 グラム氏によれば、大統領は、続けて
「北朝鮮(の核・ミサイル開発)を阻止するために戦争が起きるとすれば、現地(朝鮮半島)で起きる。何千人死んだとしても向こうで死ぬわけで、こちら(アメリカ)で死者は出ない」
 と言っていたらしい。

 なるほど。
 トランプ大統領の立場に立ってみれば、自国民が死なないことがわかっている戦争であるなら、始めることをためらう理由はそんなにない、ということなのかもしれない。
 もちろん、政治家によるこの種の発言は、はじめからブラフ(ハッタリ、脅し)を含んだものとして、割り引いて考えるべきなのあろうし、実際に戦争をするかどうかは別として、戦争の可能性を排除しない旨を明言しておくことが、外交上のアピールとして不可欠な手順なのですとかなんとか、過剰反応する素人の動揺っぷりに冷水を浴びせることが、そのスジの専門家の大切な仕事でもあるのだろう。
 その文脈からすれば、北朝鮮のミサイル実験とて、大きな意味では、ブラフに過ぎない。
 してみると、このお話は、はじめから最後まで茶番なのかもしれない。
 とはいえ、歴史の教えるところによれば、茶番劇が戦争を招いた事例はさほど珍しくない。
 「襟首をつかんでスゴんでみせてるだけで、どうせ本気でケンカをする気はないわけだ」
 「双方とも、引っ込みがつかなくなってイキってみせてるだけだわな」
 「まあ、アレだ。誰かが止めてくれるのを待ってるカタチだよ」
 という観察が、まったくその通りなのだとしても、状況が一触即発であることもまた事実ではあるわけで、とすれば、何かの拍子で一方の拳が相手のカラダのどこかに触れてしまったがさいご、乱闘が始まるであろうことも、無視できない可能性として考慮のうちに入れておかなければならない。
 私は、軍事情勢や軍事技術に明るい人間ではない。
 国際政治に精通しているわけでもない。
 ただ、金正恩氏の人物像と、トランプ氏の精神状態については、彼らが就任して以来、ずっと注意を払ってきたつもりでいる。

 その点から考えて、この2カ月ほどのやりとりに、なんだか非常にいやな感じを抱いている次第なのだ。
 以下、順を追って説明する。
 交通事故は、二人の下手くそが出会わないと起こらないと言われている。
 事故というものは、二人の稚拙な、ないしは不注意なドライバーが偶然同じ道の同じ場所を走っているからこそ発生するものであるわけで、道路を走るドライバーがヘタであっても愚かであっても、その下手くそが単独で下手くそである限りにおいて、典型的な自損事故はともかく、破滅的な事故はそうそう起こらない。
 これはおそらく国際政治においても同じことで、無茶なリーダーや、愚かな指導者が国を動かしているのだとしても、単独では戦争は起こらない。
 無思慮な政治家をトップに戴いている国の軍隊が、周辺国を刺激したり、威嚇しているのだとしても、周辺国の政治家がマトモな判断力を保持している限りにおいて、即座に戦争が勃発することはない。
 短期的に見れば、身勝手な軍事的挑発を繰り返す国は、周辺国から譲歩を引き出すことができる。
 というのも、軍事的な挑発や威嚇へのとりあえずの無難な対応は、外交上の譲歩以外に見つかりにくいものだからだ。

 とはいえ、あたりまえの話だが、国際社会からの孤立と引き換えに入手した暫定的な譲歩が、長い目で見て、利益をもたらすはずもないわけで、とすると、孤立した国家は、最終的には、振り上げた拳を降ろして平伏するか、でなければ、さらなる挑発を繰り返しつつチキンレースを続行する以外に、有効な選択肢を喪失するに至る。
 この段階で、その狂った軍事独裁国家による一方的な威嚇に対して、周辺国がどのように対処するべきであるのかについては、いつも議論が分かれる。
 当面の平和を維持しつつ、軍事独裁国家の沈静化あるいは緩やかな自滅を待つシナリオを推奨する人々もいれば、ナチス・ドイツへの初期の宥和政策が失敗であったことの教訓を言い立てて、あくまでも、強硬な封じ込めを主張する人々もいる。
 とはいえ、外交という枠組みで考えれば、制裁を課すにしても、話し合いに持ち込むにしても、周辺諸国がいきなり極端な結論に飛びつくことは考えにくい。なんとなれば、戦争は、すべてのメンバーにとって破滅的な過程を含む解決だからだ。
 しかしながら、直接の紛争と遠い位置にいる第三国が介入するケースについては、戦争回避は、絶対の前提ではなくなる。

 このことは、先に引用した
 「戦争が起きるとすれば、現地で起きる。何千人死んだとしても向こうで死ぬわけで、こちらで死者は出ない」
 というトランプ大統領のセリフが、これ以上ない雄弁さで物語っているところのものでもある。
 つまるところ、リスクを負っていない者にとって、戦争は絶対に避けなければならない手段ではないのであって、考えてみれば、前の大戦が終わってからこっちの70年間ほど、アメリカが関わってきた戦争は、どれもこれも、自国とは遠くはなれた場所で起こる、遠い日の花火みたいな物語だったのかもしれないわけだ。
 だからって、いくらなんでも戦争は起こらないだろうと考える人が大多数であろうことはわかっている。
 私自身も、八割方大丈夫だとは思っている。
 でも、残りの二割のところで、どうしても不安に思う気持ちを拭いきれないのは、トランプ大統領の精神状態が戦争に向かっているように思えるからだ。

 この半月ほどの間に、トランプ大統領の足場は急速に危うくなっている。
 まず先月末、目玉政策のひとつである、オバマケア廃止法案が上院で否決された。
 この法案否決は、上院で過半数を維持している共和党議員から造反者が出たことの結果であるだけに、ダメージは大きい。
 政権内では、スパイサー報道官とプリーバス首席補佐官が辞任し、その彼らの反対を押し切って起用したスカラムッチ広報部長までもが就任10日で辞任に追い込まれている。10日で3人。ガバナンスは崩壊寸前と言って良い。
 トランプ大統領の北朝鮮に対する挑発的な発言は、この状況で発された言葉だけに、余計に薄気味が悪い。
 トランプはヤケを起こすのではなかろうか。
 そう思うと、先の発言はさらにイヤな響きを帯びる。
 もっとも、リーダーがイカれているのだとしても、それだけでは戦争は起こらない。
 常識的に考えれば、世論がそのイカれたリーダーのイカれた政策を支持しない限り、国が戦争に踏み出すことはない。

 その意味では、仮にトランプ氏個人が個人的にヤケを起こしたのだとしても、だからといって、ただちにアメリカが北朝鮮に対して先制攻撃を発動する事態は考えにくい。
 ただ、こんなことを言うと、迷信深いと思われるかもしれないのだが、私は、リーダーの精神状態と国民の世論は、どこか深いところで連動するものだと考えている。

 つまり、リーダーが情緒不安定に陥ると、それに呼応して、国民の中にも平静を失う人間が大量発生するということだ。
 国民世論の中にある「気分」がそれにふさわしいリーダーを選ぶなりゆきと、リーダーが醸している「気分」が国民世論を誘導する流れの間には、神秘的な相互作用が介在している。ニワトリが先なのかタマゴが先なのかはともかくとして、両者は連動しつつ互いを鼓舞し、最終的に行き着く先に行き着くことになっている。
 長い間サッカーを見ているファンは、サッカーチームが、戦術やシステムとは別に、監督の「パーソナリティー」や「気分」を体現する瞬間に何度も立ち会うことになる。
 3-4-3と4-4-2がどうだとか、ポゼッションサッカーとリアクションサッカーがどうしたとか、そういう理屈や戦術とは別なところで、チームは、最終的に、監督の短気さや、ユーモアや、慎み深さや、体調を反映した動き方を獲得する。時にはリーダーがかかえている家庭の問題や、他チームからのオファーの噂が選手たちの走りっぷりに影響する。

 というよりも、戦術以上のものを表現するのが優秀なチームというものなのであって、その「戦術以上のもの」とは、究極的には、監督個人の人格そのものに帰着せざるを得ないのだ。
 で、このお話を通じて私が何を言おうとしているのかというと、チームがリーダーの個性を反映する傾向は、学校のクラスとか、会社とか、人間の組織には付き物で、国についてもある程度同じだということだ。つまり、一国の指導者の基本的なマナーは、その国の国民の当面の国民性として表現されることになるということなのだ。
 いつだったか、メリル・ストリープという女優さんが、
 「特権や権力、抵抗する力のすべてにおいて、自分が勝っている相手です。これを観たときに私の心は少し砕けてしまって、いまだに頭の中から追い出せない。映画の場面じゃなかったので。現実だったので。そしてこの、人に恥をかかせてやろうというこの本能を、発言力のある権力者が形にしてしまうと、それは全員の生活に浸透してしまいます。というのも、こういうことをしていいんだと、ある意味でほかの人にも許可を与えてしまうので。他人への侮辱は、さらなる侮辱を呼びます。暴力は暴力を扇動します。そして権力者が立場を利用して他人をいたぶると、それは私たち全員の敗北です」(引用元はこちら)
 というスピーチをしたことがあった。
 で、実際に、アメリカでは、トランプ大統領の就任以来、ヘイトクライムが目に見えて増えている。

 これは、大変に示唆的な話だと思う。

 似た話はわが国にもある。

 以下のリンクは、兵庫県の私立名門校灘中学校・高校の校長が、同校で採用する歴史教科書をめぐって、現場に押し寄せた有形無形の「圧力」や「抗議」について書き記した文章だが、この場面で同校の事務局に寄せられた「国民世論」は、みごとなばかりに「政権」の個性を先読みしたカタチで噴出している(こちらから。リンク先はPDF)。
 私は、政権が抗議運動を主導しているというストーリーの話をしているのではない。
 そんなことをするまでもなく、権力のトップにある人間たちが抱いている「気分」を体現する世論は、おのずと形成される。
 これを「忖度」と呼ぶのか、「お先棒」と呼ぶのかは一概には言えない。
 むしろ、そうした漠たる世論を代表する実体として政権が樹立されたというふうに考えれば、これはこれで民主主義のあるべき姿だということもできる。
 トランプ大統領は、このあたりで何か一発派手な花火を上げる必要性を感じ始めているかもしれない。
 彼を支持するアメリカ人の中にも、その華々しく心躍る未知への冒険を待望する気持ちが醸されている可能性がある。
 ただ、われわれは、当事者だ。
 私たちは、花火の見物席に座っている人間たちではない。どちらかといえば、打ち上げ花火の落下の現場に近い場所で暮らしている。
 とすれば、トランプ氏に、ひとまず平常心を取り戻してもらうのが、われわれにとっての当面の最善手ということになる。
 うちの国のリーダーが、二人のイカれつつあるリーダーの仲介役をつとめられれば素晴らしい。
 あるいは雨天中止を祈る。
(文・イラスト/小田嶋 隆)
「話さなくても雰囲気で、この記者は朝日、この人は日経、と分かるよ」
と、ある企業のトップの方に言われたのを思い出しました。

 当「ア・ピース・オブ・警句」出典の5冊目の単行本『超・反知性主義入門』。相も変わらず日本に漂う変な空気、閉塞感に辟易としている方に、「反知性主義」というバズワードの原典や、わが国での使われ方を(ニヤリとしながら)知りたい方に、新潮選書のヒット作『反知性主義』の、森本あんり先生との対談(新規追加2万字!)が読みたい方に、そして、オダジマさんの文章が好きな方に、縦書き化に伴う再編集をガリガリ行って、「本」らしい読み味に仕上げました。ぜひ、お手にとって、ご感想をお聞かせください。


このコラムについて
小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 〜世間に転がる意味不明
「ピース・オブ・ケイク(a piece of cake)」は、英語のイディオムで、「ケーキの一片」、転じて「たやすいこと」「取るに足らない出来事」「チョロい仕事」ぐらいを意味している(らしい)。当欄は、世間に転がっている言葉を拾い上げて、かぶりつく試みだ。ケーキを食べるみたいに無思慮に、だ。で、咀嚼嚥下消化排泄のうえ栄養になれば上出来、食中毒で倒れるのも、まあ人生の勉強、と、基本的には前のめりの姿勢で臨む所存です。よろしくお願いします。

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/174784/080300105

 


 

破局に向かうベネズエラ:国際社会はどう対処すべきか
2017.8.4(金) The Economist


 
1米国で出てきた「もう韓国を助けるな」の声
[古森 義久]2017.4.19
2米国から恐れられた日本のIT技術、AIの死角に着目
[伊東 乾]2017.8.4
3「タイで優雅な年金生活」の夢が破綻、大惨事も
[末永 恵]2017.6.30
4加計選定「一点の曇りもない」証言を報道しないNHK
[森 清勇]2017.8.4
5原油市場に現れた2つの地政学リスク
[藤 和彦]2017.8.4
6タダでも中国には行きません 深刻な学生の中国離れ
[姫田 小夏]2017.5.2
7やる気がない、欲がない若手社員との付き合い方
[藤田 耕司]2017.8.4
8爆買い客が中国に持ち帰った最も貴重なお土産とは?
[姫田 小夏]2016.12.13
9派閥均衡の内閣改造は安倍首相の「敗北宣言」
[池田 信夫]2017.8.4
10無断欠勤し放題、それでも仕事が回る工場の秘密
[HONZ]2017.8.1
ランキング一覧

(英エコノミスト誌 2017年7月29日号)

ベネズエラ制憲議会選、大統領が勝利宣言 衝突の死者10人に
ベネズエラの首都カラカスで、制憲議会選挙に抗議して警察署に放火した反政府デモ隊(2017年7月30日撮影)。(c)AFP/JUAN BARRETO〔AFPBB News〕
制裁は、国ではなく政権幹部個人に的を絞るべきだ。

 ベネズエラは原油の埋蔵量がサウジアラビアより多いと主張しているが、その国民は飢えに苦しんでいる。驚くべきことに、国民の93%は必要な食料を買う経済的余裕がないと言い、4人のうち3人はこの1年の間に体重が減ったと話している。

 この悲劇をもたらした政権は、貧しき人々への愛を公言している。だが、その幹部たちは多額の公金を着服している。ベネズエラは今や中南米で統治が最もお粗末で、最も汚職がはびこる国になってしまった。

 ベネズエラは、民主主義がなぜ重要なのかを教えてくれる教科書のような国だ。たちの悪い政府に捕まった国民には、ろくでなしを追い出す権力を持たせる必要がある。だからこそ、ニコラス・マドゥロ大統領は、ベネズエラにわずかに残った民主主義の息の根を止めることにあれほど熱心なのだろう。

 直前に気が変わることがなければ、マドゥロ氏は7月30日、自分に都合のいいメンバーで構成された制憲議会を作るためにイカサマ選挙を実施することになっていた*1。国民からは支持されていない自らの国家社会主義政権を永続させることがその目的だ。

 制憲議会が発足すれば、野党勢力が現在支配する国会(議会)の権力は完全に破壊され、来年実施予定の大統領選挙――もし自由かつ公正に行われれば、マドゥロ氏は間違いなく落選する――の正統性も損なわれる。野党勢力によれば、新たに作られる制憲議会はキューバ型の共産主義を導入するという。

 街にはすでに催涙ガスがまき散らされ、警官隊が発射した散弾も転がっており、制憲議会の発足で少なくとも国内の暴力行為が激しさを増すことになるだろう。4カ月近く続いている抵抗運動では100人を超える死者が出ているうえに、数百人が政治的な理由で身柄を拘束されている。国民はこの状況に激怒している。ほかの国々も警戒すべきだ。

*1=この記事が出た後、選挙は予定通りに実施された。

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[あわせてお読みください]
原油市場に現れた2つの地政学リスク (2017.8.4 藤 和彦)
米国のベネズエラ制裁に思わぬ障害 (2017.7.27 Financial Times)
ベネズエラの「制憲議会」とは一体何なのか? (2017.7.20 Financial Times)
悲劇に転じるB級映画ばりのベネズエラのドラマ (2017.7.6 Financial Times)
ベネズエラ反政府デモ、米ゴールドマンに飛び火 (2017.6.1 Financial Times)http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/50710

 
原油市場に現れた2つの地政学リスク
ベネズエラより怖いサウジの政変リスク
2017.8.4(金) 藤 和彦
「マドゥロ氏は独裁者」 米国、ベネズエラ大統領に制裁
ベネズエラの首都カラカスで、制憲議会選挙の結果を祝うニコラス・マドゥロ大統領(2017年7月31日撮影)。(c)AFP/RONALDO SCHEMIDT〔AFPBB News〕
 7月31日の米WTI原油先物価格は6日続伸し、5月30日以来約2カ月ぶりに1バレル=50ドルを上回った。

 市場関係者の間で、原油価格に対する悲観的な見方が後退している(7月31日付ブルームバーグ)ことがその要因だ。契機になったのは、7月24日に開催された主要産油国の「減産遵守監視委員会(JMMC)」の開催だった。

 JMMCではナイジェリアとリビアの増産が認められるネガティブな決定もあったが、市場関係者が反応したのはサウジアラビアのファリハ・エネルギー産業鉱物資源相の発言である。ファリハ氏は「サウジアラビアの8月の原油輸出を日量660万バレルと前年を約100万バレル下回る水準に減少させる」との見通しを示し、「必要があれば協調減産の期限を2018年3月からさらに延長する」ことを表明した。このことが原油価格を反転させる大きな要因となった。 

 OPECは、7月の原油生産量は前月に比べて日量14.5万バレル増となっている(7月21日付ロイター)ことから、9月に開催予定だったJMMCを8月7日に前倒しして(UAEで実施)、減産目標の遵守率が低い加盟国を招いて引き締めを図ろうとしている。

 ファリハ氏はOPECの減産遵守率が低下していることに非常に神経質だったと伝えられており(7月26日付OILPRICE)、同氏の剣幕に押されてアラブ首長国連邦(UAE)やクウェートが相次ぎ原油輸出量の削減を表明している。

 米国でも「買い」材料が相次いだ。原油在庫は今年最大規模の減少となり、1月上旬の水準にまで落ち込んだ。また、シェールオイル開発大手がアナダルコ・ペトロリムを皮切りに今後設備投資を縮小する方針を明らかにしたことから、「シェールブームにブレーキがかかった」との見方が広がった。

原油価格を押し上げるベネズエラの混乱

 米国の原油生産自体は引き続き好調であり、石油掘削装置(リグ)稼働数もそのペースが鈍化したとはいえ増加し続けている。このような状況下で原油価格は1バレル=50ドルが壁となっていたが、これを突き破る最後の一押しとなったのは、ベネズエラの地政学リスクである。

 ベネズエラは世界最大の原油埋蔵量を誇り、原油生産量はOPEC第6位である(日量190万バレル強)。この有力産油国の原油生産量が、政情不安により大幅に減少するとの見方が強まっている。

 2014年後半の原油価格急落以降、ベネズエラでは長らく混乱が続いていた(財政均衡原油価格は1バレル=200ドル超)。今回、混乱が一気に深まった理由は、7月30日にマドゥロ大統領が「制憲議会」選挙を強行したからである。制憲議会とは、憲法改正を目的とした臨時の立法機関だ。議会の無効化を含む強い権限を有しているうえ、政府のコントロール下にある選挙管理委員会が候補者を選定するため、政府の意図に沿った恣意的な運用が可能になるとされている。

 前回はチャベス前大統領が1999年に国民投票を行った上で制憲議会を招集した。だが、マドゥロ大統領は今回こうした憲法上の手続きを無視している。そのため「独裁につながる」として国内外から非難されていた。

 800万人以上が投票したとされる制憲議会選挙は即日開票され、与党の統一社会党が全545議席を獲得したことが判明した。同党党首のマドゥロ大統領は「我々の選挙史上最大の投票だ」と正当性を誇示し、速やかに憲法改正の手続きに入る意向を示した。

 これに対し米トランプ政権は「大統領と政府が同国の民主主義を損なっている」として、米国の管轄下にあるマドゥロ大統領の資産凍結などの制裁を発動した。

 ただし、噂されていたベネズエラ産原油の輸入禁止は見送られた。ベネズエラにとって最大の輸出先である米国市場(全輸出に占めるシェアは40%弱)を失うことは致命的な打撃となるが、米国もベネズエラ産原油の輸入を停止すれば、「返り血」を浴びることになるからだ。

 ベネズエラ国営石油会社(PDVSA)の子会社であるシトゴは、米国内に3つの製油所と約6000軒のガソリンスタンドを有している。つまり、ベネズエラ産原油がガソリン供給に与える影響はきわめて大きく、米国のガソリン価格が急騰するリスクがある。米国政府としては、ベネズエラが原油を輸出する際に品質を向上させるために充当している米国産原油の輸出(日量2万バレル弱)を停止するのが関の山ではないだろうか。

PDVSAがデフォルトしたら何が起きるか?

 ベネズエラの原油生産に関して米国の制裁よりも心配なのは、PDVSAが自滅することである。

 ベネズエラ全体の外貨準備が100億ドルを割り込んでしまったことから、PDVSAが外貨不足により今後の資金返済に窮し、デフォルトを起こしかねない状況である。PDVSAは多額の融資の見返りに原油を無償で供給する契約(Loan for Oil)をロシアと中国との間で結んでいる。PDVSAがデフォルトを起こせば両国に大きな損失が生じてしまうことは必至である。

 さらに、ここに来て大きな懸念要因として浮上しているのが、マドゥロ政権が進めようとしている憲法改正の中味である。

 ベネズエラの原油生産の約4割は外資との合弁企業(ベネズエラ政府の持ち分は51%)が担っている。しかし、ベネズエラ政府は憲法改正によって、この合弁企業を国有化しようとしているのだ(7月18日付OILPRICE)。もし国有化が行われれば、ベネズエラの原油生産は減少する可能性が大きい。また、債務返済にこれまで大きな役割を果たしてきた外資企業が撤退すれば、PDVSAのデフォルトは一瀉千里(いっしゃせんり)である。今年前半、PDVSAは約60億ドルの債務返済を滞りなく行ったが、10〜11月に予定されている債務返済(約40億ドル)に赤信号が点滅し始めている。

 ただし、PDVSAのデフォルトをプラス材料と捉える市場関係者もいる。PDVSAがデフォルトを起こせば、世界の原油市場(日量約9500万バレル)にとって需給状況が改善することから、「原油価格は1バレル=7ドル上昇する」との試算がある(英バークレイズ)。

嵐を呼びそうなサウジアラビアの「政変」

 このように秋にかけてベネズエラの原油生産が波乱要因になるのは確実な情勢だが、筆者が最も懸念するのはやはりサウジアラビアである。

 6月21日、サウジアラビアの皇太子だったナエフ氏(57歳)が突然解任された。日本経済新聞は「若返るサウジはどこへ」(7月31日付)という記事で、その内幕をニューヨーク・タイムズ(7月18日付)などの記事を基に次のように伝えている。

 イスラム教のラマダンと重なった6月20日夜、サルマン国王はナエフ皇太子を呼び出し、皇太子の地位を我が子であるムハンマド氏(31歳)に譲り内相の職も辞するように迫った。携帯電話を取り上げられ外部と連絡できなくなったナエフ氏は抵抗をあきらめ、翌日の明け方に退任に同意したという(その後、ジェッタの宮殿で軟禁状態にある)。

 サウジアラビア政府は皇太子の交代は粛々と行われたとのスタンスを崩していないが、7月8日にドイツのハンブルグで開催されたG20サミットにサルマン国王とムハンマド皇太子の両者が欠席したことは、宮廷に異常な政変が生じたことの何よりの証左ではないだろうか。

 しかし、なぜ今なのか。ZeroHedge(7月24日付)は、「UAE主導によるカタール首長失脚を狙ったクーデターが米CIAに阻止されたため、これに焦ったサウジアラビアのサルマン国王親子が、CIAとのつながりが深いナエフ氏をあわてて失脚させた」という米情報機関筋の分析を掲載している。

 前述のニューヨーク・タイムズの記事も米情報機関筋からのリークがベースとなっており、米情報機関が今回の皇太子交代を快く思っていないことは確かだろう。欧米諸国にとって、ナエフ氏はサウジアラビア国内のアルカイダをはじめとする過激派の掃討に体を張って対処した「対テロ作戦」の盟友である。一方、ムハンマド氏は「中東地域のトラブルメーカーである」との認識が欧米の情報機関の間で定着している。

 サウジアラビアのサルマン国王は7月20日、「テロ対策を担当する国王直属の部署を新設する」という勅令を発表した。これにより内務省の下にあった検察や治安部隊を指揮する権限が王宮に移り、ムハンマド新皇太子が一段と反対勢力ににらみを効かせることが可能となった。7月24日付ロイターは「現国王は7月に息子への譲位を発表する声明の事前録音を行い、早ければ9月にこの発表が放映される」と報じている。だが、ここまでムハンマド氏を庇護して重用する強行策がはたして吉と出るのだろうか。

 7月26日付OILPRICEによると、ムハンマド皇太子が国王になるための最後の障害はムトイブ国家警護隊隊長(アブドラ前国王の息子)の存在のようである。国家警護隊は約10万人の精鋭部隊を擁しており、国防軍以上の実力を備えているとされている。サルマン親子が生前譲位を強行しようとすれば、国内で武力闘争が勃発する可能性すらある。

 筆者は、秋以降、原油価格は下落傾向にあるとの見方を変えていないが、「2つの地政学リスクによる原油価格の高騰」というシナリオも視野に入れる必要があると考え始めている。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/50699


http://www.asyura2.com/17/kokusai20/msg/221.html

[経世済民122] アベノミクス復活の条件  制御不能のインフレ円安懸念 狂うCPI上昇の筋書、背景に高齢化 実質賃金減少 都合のいい働き方
オピニオン:
アベノミクス復活の条件

ロバート・フェルドマンモルガン・スタンレーMUFG証券 シニアアドバイザー
[東京 3日] - 足元で広がるアベノミクスに対する不安を解消し、日本経済を持続成長軌道に復帰させるためには、安倍政権は新たに7つのシグナルを発信する必要があると、モルガン・スタンレーMUFG証券のシニアアドバイザー、ロバート・フェルドマン氏は述べる。

中でも重要なのは、経済成長の足かせとなっている硬直的な労働市場の改革であり、具体的には正社員解雇に関する透明性のある公正な金銭的解決ルールの整備と、ホワイトカラー労働者に対する労働時間規制の適用除外が柱になるべきだと説く。

同氏の見解は以下の通り。

<安倍政権は「危機」局面に突入>

政府による改革速度と経済成長率の関係について、私はこれまで「CRIC(クリック)」サイクルと名付けた独自のメカニズムを用いて分析してきた。CRICとは、Crisis(危機)、Response(反応)、Improvement(改善)、Complacency(怠慢)の頭文字を取ったもので、自民党・安倍政権の現状は「危機」局面にあると考える。

民主党政権時代の「危機」局面を引き継いだ安倍政権は、始動するや否や、改革重視の政策路線に向けてアクセルを踏むことで「反応」「改善」局面を突き進んだが、2016年前半辺りから旧来の自民党的な調整型政治の色彩が次第に濃くなり、「怠慢」局面入りした。

恐らくは、2014年春の消費増税後の景気落ち込みを乗り越え、株価や成長率が戻り始めたことで、油断ないしは慢心してしまったのだろう。そのツケは大きく、昨年7月の東京都知事選での自公推薦候補の敗北、今年7月の東京都議選での自民大敗などを経て、明らかに「危機」局面入りしてしまった。

大事なのは、ここからの「反応」局面だ。再び経済ファンダメンルズを改善させるような改革に乗り出す必要があるが、それができなければ、景気が回復したとしても持続はできないだろう。

<労働市場改革は仕切り直しを>

では、具体的に必要な改革とは何か。私は大きく分けて、1)労働市場改革の仕切り直し、2)規制改革と民営化の加速、3)審議会の少数精鋭化など合理的な政策決定システムの再構築、4)政策決定・運用プロセスの透明性向上策、5)より大胆な法人減税、6)予算支出の再配分、7)内閣改造後の経済優先姿勢、の7つのシグナルを新たに発する必要があると考える。

特に重要なのは労働市場改革だ。なぜかと言えば、労働市場の硬直性が日本経済の潜在成長力を損ねている大きな要因であり、少子高齢化が急速に進む中で、この問題が今後ますます経済の重い足かせとなっていくことが予想されるからである。

私がとりわけ問題視しているのは、労働市場の既得権益側であるインサイダー(大企業の正社員)と、その外側にいるアウトサイダー(中小企業の正社員、企業規模にかかわらず全ての非正規社員)の二重構造だ。この構造が温存されている限り、今回のように長期にわたる景気回復局面でも賃金上昇圧力は限定的なものになるだろう(文末の注釈参照)。

この点を改革し、柔軟かつ効率的な労働市場を作り上げるためには、主に2つのアクションが必要だ。第1に、正社員解雇に関する透明性のある公正な金銭的解決ルールを整備すること。第2に、ホワイトカラー労働者を、労働時間規制の適用から除外することだ(ホワイトカラー・エグゼンプション制度)。

これらの改革案に対する、「首切り自由法案」「残業代ゼロ法案」といった批判は、問題の本質を見誤っている。例えば前者については、正社員雇用を柔軟に調整できないことが、企業が正社員を増やすことに躊躇(ちゅうちょ)している理由であることを直視すべきだ。既得権益化した(特に大企業の)正社員雇用システムは、企業や経済の競争力を損ね、ゾンビ化を招いてしまっている。

むしろ、公正かつ透明性の高いルールの下、解雇の際に一定額の補償金を支払う法的義務を企業側に負わせ、そのうえで正社員労働市場の流動性を高めれば、労働市場全体では、正社員雇用は増え、非正規雇用は減り、賃金にも上昇圧力がかかりやすくなるはずだ。

一方、後者のホワイトカラー・エグゼンプションは、先述した二重構造問題とは直接関係ないが、労働市場の柔軟性を高めるだけでなく、大きな社会問題となっている長時間労働への合理的な解決策にもなり得る。

労働時間と成果が直接結びつかない仕事は増えている。ホワイトカラーを労働時間規制から解き放てば、逆に短い労働時間でたくさん稼ぐインセンティブが高まるはずだ。それが、技術革新を背景に経済のサービス化、ソフト化が進んだ時代に適した働き方でもあるし、ひいては日本企業の国際競争力にも資することになろう。

ちなみに、今秋の臨時国会に提出されると報じられている働き方改革関連法案のベースとなる働き方改革実行計画(働き方改革実現会議が3月決定)は、長期間労働の是正策(罰則付き時間外労働の上限規制導入)が最大の目玉であり、解雇の金銭解決ルールや全面的なホワイトカラー・エグゼンプション制度導入への言及が一切ない。その後、報道によれば、後者については、高年収の専門職に対象を限る形で、働き方改革関連法案と一本化される方向だというが、導入するならば年収制限は外すべきだ。

いずれにせよ労働時間規制の強化を進めるだけでは、企業側は正社員雇用に関する負担増だけを背負い込むことになり(新規制対応のソフトウェア整備だけでも膨大な金額に上る)、正社員雇用意欲は削がれる可能性がある。その結果、非正規雇用が増えれば、賃金には低下圧力がかかる。

また、働き方改革実現会議の案では、行政機関(労働局や労基署、厚労省)の人員増強が必要になるため公的部門が肥大化し、「小さな政府」を目指す改革路線からは逸脱していく可能性がある。もちろん、ホワイトカラー・エグゼンプション制度導入で、長時間労働が必要になるケースも考えられる。ただし、管理監督の強化は主に公的機関の陣容拡大によってではなく、各企業の内部通報システム整備など民間側の取り組みによって実現されるべきだろう。

そもそも行政裁量が拡大すれば、官僚と個別企業間の水面下の取引や政治家の介入なども招きかねない。公平性や効率性の面で、欠陥の多い改革案と言わざるを得ない。安倍首相には、働き方改革実現会議の案を全面的に見直すぐらいの覚悟で、労働市場改革を仕切り直してもらいたい。その際、既得権益側である連合や経団連の合意ありきではなく、刷新した小規模な会議で進めることが肝要だ。

<成長重視の予算再配分が急務>

もう1点、7つのシグナルの中で特に強調したいのは、社会保障関連(医療、年金、福祉、介護、失業)向け歳出から成長支援(研究開発、エネルギー、インフラ、教育など)向け歳出への予算支出の再配分だ。もちろん、安倍政権は歴代政権と比べて、その方向へ進めるそぶりをより強く示しているが、実際の行動が十分に伴っているとは言い難い。

例えば、国民経済計算をもとに一般政府部門(国、地方、社会保障基金の連結ベース)の歳出総額を見ると、後者の成長支援を含む営業歳出は2000年の83兆円から2015年には81兆円まで減少したが、社会保障歳出は79兆円から113兆円まで膨張している。

もちろん、高齢化の進展で後者が膨らむのは避け難いが、あまりにも不均衡が拡大し過ぎだ。せめて、社会保障歳出の伸び率を名目国内総生産(GDP)成長率の2分の1にとどめる努力をする一方で、営業歳出は名目GDP成長率と同程度まで伸びを許容するような発想が必要だろう。そうすれば、社会保障歳出額は増加してもGDPに占める割合は低下する。

一部には、金融政策の次は財政政策の出番であり、政府支出拡大によって2%インフレと成長を目指すべきだといった声も聞こえるが、無計画な財政拡大が持続成長をもたらすことはない。そもそも、2%インフレ達成後に財政政策を正常化させれば、緊縮財政になるだけだ。ただ一方で、「将来の財政危機を避けるために、今、大規模な歳出削減と大増税をしなければならない」と言ったところで、国民がついてこないのも不都合な真実だろう。

安倍政権に求められているのは、どだい無理な話をすることではなく、潜在成長率の向上を目指し、労働市場や成長分野に関わる規制改革を着実に進め、同時に上述したような成長重視の予算再配分のグランドデザインを示すことだ。それができなければ、次に世界的な経済危機が訪れたとき、日本は経済的・財政的持続性を維持できないと海外の投資家に判断されてしまう恐れがある。

注:GDP統計などを用いて総報酬の前年比伸び率を私なりに試算すると、2017年3月時点では約2%上昇しており、勤労統計などを見て「賃金はあまり上がっていない」とする意見には同意できない。だが、それでも適切な労働市場改革が実行されれば、日本の賃金はもっと上がる余地がある。

*ロバート・フェルドマン氏は、モルガン・スタンレーMUFG証券のシニアアドバイザー。国際通貨基金(IMF)、ソロモン・ブラザーズ・アジア証券などを経て、現職。米マサチューセッツ工科大学(MIT)経済学博士。

*本稿は、ロバート・フェルドマン氏へのインタビューをもとに、同氏の個人的見解に基づいて書かれています。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトのアベノミクス特集に掲載されたものです。


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1800年以前の人類の長い歴史の中で、長期的な1人当たりの所得増加率はほぼゼロ%だったと考えられている。もちろん、それ以前に経済が全く成長しなかったわけではない。しかし、それは1人当たり所得の増加によるものではなく、主に人口増加による所得の増加が原因だった。つまり、生産性とそれに連動する生活水準の継続的な向上が始まったのは19世紀からだ。 記事の全文

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http://jp.reuters.com/article/opinion-abenomics-feldman-idJPKBN1AI07B

 

2017年8月4日 森信茂樹 :中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員
内閣改造後のアベノミクスに制御不能のインフレ、円安の懸念


7月の経済財政諮問会議 Photo:首相官邸HP
 安倍第3次改造内閣が発足した。目新しさは特に見当たらないが、注目は、政権が、急降下した支持率を回復するために、今後どのような経済・財政政策をとってくるのかという点だ。

 全体的なストーリーとしては、「金融政策」が手詰まりにあることから、支持率回復を目指す「財政政策」に重心がシフトすると考えられる。財政赤字が先進国ではすでに最悪の状況、一方で景気回復が続き完全雇用の状態で、財政のアクセルをふかすとどういうことになるのか。

消費増税は3度目の先送りか
「教育無償化」で国債増発

 財政シフトでまず考えられるのは、具体的には、2019年10月に予定されている消費税率10%への引き上げの3回目の延期である。

 延期が問題なのは、単に経済政策上の理由からだけではない。

 10%引き上げの際には同時に軽減税率が導入されることになっているが、これについては、軽減品目とそうでない品目との仕分けや納税手続きが煩雑になることなどからスーパー業界、税理士会、青色申告会などが依然として反対している。

 筆者も納税義務者(事業者)・消費者・税務当局の全員にコストを負わせる軽減税率の導入は廃止すべきという立場である。消費増税引延ばしは、この問題の先送りにつながる。

 また、軽減税率導入のためには1兆円の恒久財源を探さなければならない(法律に明記されている)が、増税を嫌う安倍政権が1兆円規模の増税を行うとは考えられない。

 消費増税の先送りは、短期的には、マクロ経済へのマイナスを避ける効果があるかもしれないが、その効果は長続きしない。

 株式市場などは、増税先延ばしをほとんど織り込んでおり、それによる株価の上昇も期待できない。

 むしろ、前回の本コラム(7月26日)で書いたように、国家の歳入(税収)構造が変わりつつある中で、社会保障の財源を消費増税により確保していくという政策を中断することのマイナス効果、つまり必要な社会保障はきちんと手当てして国民の将来不安を解消する、というメッセージが発せられないことのデメリットの方が大きい。

 次に財政政策として、補正予算も含めた歳出増による需要喚起策が考えられる。
 公共事業の追加は、効果も限定的で、国民のイメージが悪いことからすると、追加措置の主体は、子育てや教育の分野になるのではないか。

教育で改憲の突破口狙う
景気拡大局面に真逆の財政出動

 すでに「教育国債」の発行による教育無償化に向けて、自民党で具体的な議論が行われてきている。教育国債に対する合意は得られていないものの、議論としては根強いものがある。

 この問題が厄介なのは、「維新と組んで憲法改正を発議する」という戦略と絡んでいることである。支持率急降下で、憲法改正に向けてのハードルは高くなったとはいえ、安倍政権の最大関心事がそこにあることには変わりないだろう。

 つまり、憲法9条の改正だけでは国民はついていかない。そこで出てくるのが教育の無償化という、国民の多くが賛成する(反対しない)改正項目である。維新を取り込むうえでも、それは必要だ。

 だが教育無償化は、財源さえ確保できれば、何も憲法を変える必要はない。

 このことは、法学者ならずとも常識的に考えればわかるはずだが、安倍政権は、これを一つの突破口にする可能性がある。

 しかし教育国債という赤字国債の安易な発行を認めれば、確実に財政規律は取り返しのつかないほど緩んでしまう。

 しかもこうした財源論の前に、なぜ教育が無償である必要があるのか、重点は幼児教育か高等教育なのか、奨学金の給付の仕方を変えるのではだめなのか、これで格差問題が本当に解消するのかなど、様々な論点で、国民的な議論を深めることが先ではないか。

 また、団塊の世代がすべて75歳以上になる2025年にむけて、ただでさえ膨張する社会保障費をいかに抑え、負担が有効に使われるようにすることが必要となる。

 数の多い高齢者の利害が優先されがちなシルバー民主主義からの脱却が求められる中、社会保障の効率化を行うことなく教育無償化、というのでは、財政規律は吹っ飛んでしまう。

 景気回復局面が長く続き失業率などがバブル期並みに低下している現在、追加財政政策というのは、真逆の政策といえよう。

財政拡張のツケは日銀が背負う
政府は「アコード」を守れ

 では金融政策はどうなるのか。

 これは安倍政権の政策というより日本銀行の政策だが、安倍政権(官邸)は、今回の人事で退任する緩和慎重派の2人の審議委員に替えてリフレ派の審議委員に送りこんだ。 政権の意向を、彼らが「忖度」する形で緩和策が維持されるだろうということが、おのずから見えてくる。しかしリフレ的な金融政策が行き詰まっていることは、もはや誰の目にも明らかだ。

 日銀は、拡張的な財政政策が行われても、財政規律が弛緩しても、その影響が国債市場に現れないように、イールドカーブコントロールなどで長期金利を抑え込もうとするだろう。しかし、このような財政・金融政策は、ますます将来のハイパーインフレーションへのマグマをため込むだけではないか。

 3度目の消費増税先送りが行われ、財政追加策が行われて、国債が増発されても、、日銀が国債購入を続けることで国債市場の価格形成が歪められ、本来、市場が発すべき「警戒警報」が鳴らない。

 完全雇用の下で、こうした拡張的な財政政策が続くと、いずれインフレが制御できなくなり、所得分配や資源分配がさらに歪められる。

 原点に返って考えるには、2013年1月、政府と日銀との間で結ばれた「アコード」をもう一度思い返すことではないか。

 この「約束」では、政府は、構造改革と財政再建(正確には、「財政運営に対する信認を確保する観点から、持続可能な財政構造を確立するための取組を着実に推進する。」)を、日銀は2%のインフレターゲットの実現を、という役割分担を明確に定めている。

 これに対して、日銀が14年10月末に追加金融緩和を行った翌11月、安倍政権は1回目の消費増税の先送りをするという、いわば“約束違反”をした。

 その後、国民の信任を得るとして衆議院を解散・総選挙を行い、自民党は大勝したが、そこから日銀は、安倍政権の拡張的財政政策のツケを、すべて背負い込むことになった。「異次元緩和」を進めるという名分のもとでの大量の国債購入やマイナス金利政策である。

 日銀のこうした政策が、市場や投資家から明らかな「財政ファイナンス」とみなされれば、一気に日銀の信頼性は失われ、国債は暴落(長期金利は上昇)し、さらには円に対する信任も失われるので、円安となる。

 公的債務への懸念が長期金利の上昇圧力と円安への圧力を生み出すので、日本は否が応でもハイパーインフレーションの道に進んでいく。

 円安でインフレが生じると、長期金利にはさらなる上昇圧力がかかり、これを日銀が無理やり国債購入などで抑え込もうとすると、実質金利の低下を通じさらなる円安となって、インフレのスパイラルが生じるのである。

 結論を言えば、本来、目指すべきは、低成長でも持続可能な社会保障と財政制度の再構築である。

 そのためには、歳入面では消費税を主体とした税構造に変えることと富裕高齢層への増税のパッケージ、歳出面では社会保障、とりわけ年金支給開始年齢の引き下げ、医療・介護の効率化を図りながら、勤労世代や教育に必要な分野への重点のシフトを進めることである。

(中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員 森信茂樹)
http://diamond.jp/articles/-/137488


 

コラム:狂うCPI上昇の筋書き、背景に高齢化も

村嶋帰一シティグループ証券 チーフエコノミスト
[東京 3日] - このところ、個人消費に底堅さが出ている。国内総生産(GDP)ベースの実質個人消費は1―3月期に前期比0.3%増加、14日に発表される4―6月期もはっきりと増加した可能性が高い(コンセンサス予想は0.5%増)。

雇用・所得環境の改善やそれに伴う消費者センチメントの持ち直し、株高に伴う資産効果などが個人消費を押し上げているとみられる。

<個人消費は雇用者報酬ほど伸びない>

とはいえ、今年1―3月期の実質個人消費の水準を、2014年4月の消費増税前の2013暦年平均と比較すると、依然として0.4%下回っている。一方、今年1―3月期の実質雇用者報酬は2013暦年平均をすでに2.1%も上回っている。雇用者報酬の増加のわりに、個人消費が伸びないという傾向が読み取れる。

この背景としては、まず、税・社会保障負担の増加が重しとなり、可処分所得が雇用者報酬ほどには伸びなかったことが指摘できる。ただ、先行きを展望すると、家計を巡る大型の税・社会保障負担の増加はすでに一巡しており、この点からみれば、雇用者報酬と可処分所得の伸びのギャップは縮小する可能性がある。

雇用者報酬が伸びる中で、個人消費の足取りが緩慢だったもう1つの理由として、年金生活者の存在(あるいはその比重の高まり)が指摘できる。年金生活者は、直接的に雇用・所得環境の改善の恩恵を受けられない上に、政府による年金給付削減の打撃を受けてきた。

数字で確認すると、名目年金給付額は2013年度に(正確には10月から)1.0%、さらに2014年度にも0.7%削減された。これは、2000年度から2002年度にかけて、物価下落にもかかわらず、特例法でマイナスの物価スライドを行わずに年金額を据え置いたことに伴う「払い過ぎ」(特例水準)を解消したことによるものである。

一方、消費者物価指数(CPI、総合)は、2013年度に前年比0.9%、2014年度には2.9%上昇した。2013年度の上昇は、日銀による量的質的金融緩和の導入に前後した円安ドル高を主因としており、2014年度は、それに消費増税の影響が加わった。

以上の結果、年金生活者の実質購買力は2013年度に1.9%、2014年度には3.6%低下したことになる(年金額の変化率−インフレ率)。その後、2015年度は0.7%上昇したが、2016年度はほぼ横ばい、2017年度は小幅減にとどまっており、現時点の年金生活者の実質購買力は2012年度を約5%下回っていると試算される。この点が、上で述べた雇用者報酬と個人消費のギャップを生み出す一因になった可能性が高い。

われわれエコノミストは、家計部門を代表するのは雇用者であり、彼らを巡る雇用・所得環境が個人消費の動きを規定すると考えがちである。ただ、年金生活者数の雇用者数に対する比率はすでに70%に達しており、少子・高齢化が続く中、「雇用者=家計部門の代表」という理解はすでに正確性を欠いているとみられる(1990年代後半はこの比率が約50%だった)。個人消費の動向を理解・予測する上では、雇用者に加えて、年金生活者の状況を正確に把握する必要性が高まっている。

<年金生活者の実質購買力は今後も低下へ>

年金生活者が個人消費の重しになるという構図は今後も続く可能性が高い。政府は近年、年金財政の持続可能性を高めるため、年金給付の抑制措置を導入・強化してきた。その代表として、マクロ経済スライド(現役被保険者の減少と平均余命の伸びに基づいて年金額を減額する仕組み)があげられる。

また、政府は昨年12月、マクロ経済スライドの適用を拡大すると同時に、賃金変動が物価変動を下回る場合に、賃金変動に合わせて年金額を改定する考え方を強化する法案を可決した。

現在の制度を前提に、1)CPIは今後、毎年1%ずつ上昇する、2)現役世代の1人当たり賃金も同じく1%ずつ上昇する、という機械的な仮定をおいて、今後の年金改定率を計算したところ、2017年度実績のマイナス0.1%の後、2018年度以降、2025年度までは名目で据え置きが続くという結果になった。この場合、実質購買力は毎年1%ずつ低下し、2025年度までの累計では8.5%も低下する。

こうした厳しい見通しは、現役世代にも大なり小なり理解されている可能性が高いように思われる。政府は、年金財政の持続可能性を高め、現役世代の年金制度への信頼を取り戻すために、給付抑制措置を導入・強化してきたのだが、それが現役世代の老後不安を強め、貯蓄率の上昇を通じて、個人消費に下押し圧力を及ぼしてきた可能性がある。「意図せざる帰結」を招いたように見受けられる。

以上の考察は、現役世代の雇用・所得環境の改善ほどには個人消費が増加しないという構図が今後も続く可能性を示唆している。日銀は、雇用・所得環境が改善すれば、個人消費が持ち直し、さらにそれがCPIを押し上げていくと想定してきた。ただ、日本の家計部門を巡る現況は、より複雑なものになっているように思われる。

<需給ギャップ縮小を過大評価すべきでない>

日銀は、7月の展望レポートの中で、2%のインフレ目標が達成されると見込まれる時期を従来の「2018年度頃」から「2019年度頃」にいとも簡単に先送りした。ただ、それでも、「2%の物価安定の目標に向けたモメンタムは維持されている」と指摘、その中心的論拠として、マクロ的な需給ギャップ(実際のGDPの潜在GDPからのかい離率)が改善していくことをあげた。

ただ、仮に需給ギャップの改善が続いたとしても、それが輸出主導(あるいは設備投資主導)によるもので、個人消費のよりはっきりとした回復を伴わない場合、家計向けの財・サービス価格であるCPIに働き掛ける力は限定的にとどまる可能性がある。ここでは触れないが、この点は統計的にもある程度、確認することができる。単なる需給ギャップの動向以上に、個人消費が今後の物価動向を占う上で重要になっているのだ。

本稿で議論した通り、年金生活者の実質購買力の低下が足かせとなることで、個人消費の回復が現役世代の雇用・所得環境の改善を下回り続けるとすれば、需給面からCPIを押し上げる力は緩慢なものにとどまり、CPIの伸びは需給ギャップから示唆されるよりも小幅となろう。

*村嶋帰一氏は、シティグループ証券調査本部投資戦略部マネジングディレクターで、同社チーフエコノミスト。1988年東京大学教養学部卒。同年野村総合研究所入社。2002年日興ソロモン・スミス・バーニー証券会社(現シティグループ証券)入社。2004年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。


ドル安ゆえに現実味増すドル円上昇シナリオ=高島修氏
筆者の年初のドル円相場見通しは、118円台は天井圏で、春先にかけて108円台へ下落。その後、半年ほどは110円前後を中心にレンジ相場を形成し、年末辺りから上昇基調に復帰するというものだった。 記事の全文

米金融政策の視界をさえぎる複合要因=鈴木敏之氏
米国も「権威主義的国家」に向かうのか=河野龍太郎氏
アベノミクス復活の条件=フェルドマン氏
狂うCPI上昇の筋書き、背景に高齢化も=村嶋帰一氏
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村嶋帰一
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[東京 3日] - このところ、個人消費に底堅さが出ている。国内総生産(GDP)ベースの実質個人消費は1―3月期に前期比0.3%増加、14日に発表される4―6月期もはっきりと増加した可能性が高い(コンセンサス予想は0.5%増)。

雇用・所得環境の改善やそれに伴う消費者センチメントの持ち直し、株高に伴う資産効果などが個人消費を押し上げているとみられる。

<個人消費は雇用者報酬ほど伸びない>

とはいえ、今年1―3月期の実質個人消費の水準を、2014年4月の消費増税前の2013暦年平均と比較すると、依然として0.4%下回っている。一方、今年1―3月期の実質雇用者報酬は2013暦年平均をすでに2.1%も上回っている。雇用者報酬の増加のわりに、個人消費が伸びないという傾向が読み取れる。

この背景としては、まず、税・社会保障負担の増加が重しとなり、可処分所得が雇用者報酬ほどには伸びなかったことが指摘できる。ただ、先行きを展望すると、家計を巡る大型の税・社会保障負担の増加はすでに一巡しており、この点からみれば、雇用者報酬と可処分所得の伸びのギャップは縮小する可能性がある。

雇用者報酬が伸びる中で、個人消費の足取りが緩慢だったもう1つの理由として、年金生活者の存在(あるいはその比重の高まり)が指摘できる。年金生活者は、直接的に雇用・所得環境の改善の恩恵を受けられない上に、政府による年金給付削減の打撃を受けてきた。

数字で確認すると、名目年金給付額は2013年度に(正確には10月から)1.0%、さらに2014年度にも0.7%削減された。これは、2000年度から2002年度にかけて、物価下落にもかかわらず、特例法でマイナスの物価スライドを行わずに年金額を据え置いたことに伴う「払い過ぎ」(特例水準)を解消したことによるものである。

一方、消費者物価指数(CPI、総合)は、2013年度に前年比0.9%、2014年度には2.9%上昇した。2013年度の上昇は、日銀による量的質的金融緩和の導入に前後した円安ドル高を主因としており、2014年度は、それに消費増税の影響が加わった。

以上の結果、年金生活者の実質購買力は2013年度に1.9%、2014年度には3.6%低下したことになる(年金額の変化率−インフレ率)。その後、2015年度は0.7%上昇したが、2016年度はほぼ横ばい、2017年度は小幅減にとどまっており、現時点の年金生活者の実質購買力は2012年度を約5%下回っていると試算される。この点が、上で述べた雇用者報酬と個人消費のギャップを生み出す一因になった可能性が高い。

われわれエコノミストは、家計部門を代表するのは雇用者であり、彼らを巡る雇用・所得環境が個人消費の動きを規定すると考えがちである。ただ、年金生活者数の雇用者数に対する比率はすでに70%に達しており、少子・高齢化が続く中、「雇用者=家計部門の代表」という理解はすでに正確性を欠いているとみられる(1990年代後半はこの比率が約50%だった)。個人消費の動向を理解・予測する上では、雇用者に加えて、年金生活者の状況を正確に把握する必要性が高まっている。

<年金生活者の実質購買力は今後も低下へ>

年金生活者が個人消費の重しになるという構図は今後も続く可能性が高い。政府は近年、年金財政の持続可能性を高めるため、年金給付の抑制措置を導入・強化してきた。その代表として、マクロ経済スライド(現役被保険者の減少と平均余命の伸びに基づいて年金額を減額する仕組み)があげられる。

また、政府は昨年12月、マクロ経済スライドの適用を拡大すると同時に、賃金変動が物価変動を下回る場合に、賃金変動に合わせて年金額を改定する考え方を強化する法案を可決した。

現在の制度を前提に、1)CPIは今後、毎年1%ずつ上昇する、2)現役世代の1人当たり賃金も同じく1%ずつ上昇する、という機械的な仮定をおいて、今後の年金改定率を計算したところ、2017年度実績のマイナス0.1%の後、2018年度以降、2025年度までは名目で据え置きが続くという結果になった。この場合、実質購買力は毎年1%ずつ低下し、2025年度までの累計では8.5%も低下する。

こうした厳しい見通しは、現役世代にも大なり小なり理解されている可能性が高いように思われる。政府は、年金財政の持続可能性を高め、現役世代の年金制度への信頼を取り戻すために、給付抑制措置を導入・強化してきたのだが、それが現役世代の老後不安を強め、貯蓄率の上昇を通じて、個人消費に下押し圧力を及ぼしてきた可能性がある。「意図せざる帰結」を招いたように見受けられる。

以上の考察は、現役世代の雇用・所得環境の改善ほどには個人消費が増加しないという構図が今後も続く可能性を示唆している。日銀は、雇用・所得環境が改善すれば、個人消費が持ち直し、さらにそれがCPIを押し上げていくと想定してきた。ただ、日本の家計部門を巡る現況は、より複雑なものになっているように思われる。

<需給ギャップ縮小を過大評価すべきでない>

日銀は、7月の展望レポートの中で、2%のインフレ目標が達成されると見込まれる時期を従来の「2018年度頃」から「2019年度頃」にいとも簡単に先送りした。ただ、それでも、「2%の物価安定の目標に向けたモメンタムは維持されている」と指摘、その中心的論拠として、マクロ的な需給ギャップ(実際のGDPの潜在GDPからのかい離率)が改善していくことをあげた。

ただ、仮に需給ギャップの改善が続いたとしても、それが輸出主導(あるいは設備投資主導)によるもので、個人消費のよりはっきりとした回復を伴わない場合、家計向けの財・サービス価格であるCPIに働き掛ける力は限定的にとどまる可能性がある。ここでは触れないが、この点は統計的にもある程度、確認することができる。単なる需給ギャップの動向以上に、個人消費が今後の物価動向を占う上で重要になっているのだ。

本稿で議論した通り、年金生活者の実質購買力の低下が足かせとなることで、個人消費の回復が現役世代の雇用・所得環境の改善を下回り続けるとすれば、需給面からCPIを押し上げる力は緩慢なものにとどまり、CPIの伸びは需給ギャップから示唆されるよりも小幅となろう。

*村嶋帰一氏は、シティグループ証券調査本部投資戦略部マネジングディレクターで、同社チーフエコノミスト。1988年東京大学教養学部卒。同年野村総合研究所入社。2002年日興ソロモン・スミス・バーニー証券会社(現シティグループ証券)入社。2004年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)


ドル安ゆえに現実味増すドル円上昇シナリオ=高島修氏
筆者の年初のドル円相場見通しは、118円台は天井圏で、春先にかけて108円台へ下落。その後、半年ほどは110円前後を中心にレンジ相場を形成し、年末辺りから上昇基調に復帰するというものだった。 記事の全文

米金融政策の視界をさえぎる複合要因=鈴木敏之氏
米国も「権威主義的国家」に向かうのか=河野龍太郎氏
アベノミクス復活の条件=フェルドマン氏
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実質賃金、3カ月ぶり減少=6月の毎月勤労統計
[東京 4日 ロイター] - 厚生労働省が4日発表した6月の毎月勤労統計調査(速報)では、名目賃金に当たる現金給与総額が前年比0.4%減の42万9686円だった。実質賃金は0.8%減で3カ月ぶりに減少したが、厚労省は「賃金は基調として緩やかな増加傾向にある」としている。

給与総額のうち、所定内給与は前年比0.4%増の24万2582円と3カ月連続で増加した。一方、所定外給与は同0.2%減の1万9001円と、2カ月ぶりに減少した。
http://jp.reuters.com/article/wage-data-june-idJPKBN1AK003

 
ドイツが南欧に後れを取る、総合PMIで12年ぶり−ユーロ圏全体55.7

Alessandro Speciale
2017年8月3日 18:45 JST

ドイツの総合PMIは10カ月ぶり低水準、12年ぶりに仏伊西を下回る
PMIは四半期ベースの独成長率を0.4−05%と示唆

ドイツの景気は7月に先の見積もりよりも減速し、他のユーロ圏の経済大国に後れを取ったことが明らかになった。

  IHSマークイットが3日発表したドイツの総合購買担当者指数(PMI)改定値は54.7と、速報値の55.1から下方修正され、6月の56.4も下回った。10カ月ぶり低水準で、この12年余りで初めてフランスとイタリア、スペインに後れを取った。それでも今回の数値はドイツの四半期ベースの成長率が0.4ー0.5%と堅調になることを示唆している。

  ユーロ圏全体の総合PMIは7月に55.7に低下したものの、今四半期も拡大ペースを維持する方向にある。IHSマークイットのチーフビジネスエコノミスト、クリス・ウィリアムソン氏は、「PMIは7月に成長ペースがやや減速したことを示唆したが、依然として勇気づけられる明るい見通しだ」と説明した。

原題:German Economy Lags Euro-Area Peers for First Time in 12 Years(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-08-03/OU3OQV6KLVR401

 

生産性を向上させる“都合のいい働き方”
“目的”ではなく“手段”とせよ。テレワーク導入が遅れる日本企業
BY Kayo Majima (Seidansha)

2017年5月、アメリカである大企業のニュースが話題を呼んだ。そのニュースとは、米IBMが同社の在宅勤務従業員に対して、退社もしくは地域別に定めたオフィスに通うかの選択を迫ったというもの。
4年前には米ヤフーもテレワークの縮小を宣言しており、テレワーク先進国であるアメリカの大企業がテレワークの廃止に方針を転換しつつあることが報じられた。そんななか、日本政府は率先してテレワークを推進し、普及率を上げようとしている真っ只中だ。果たして、米大企業の方針転換は日本にも影響するのだろうか?
「アメリカにおけるテレワークや在宅勤務は、週に5日間ずっと自宅で仕事をするケースが多いです。そもそも、オフィスから数100km以上も離れた場所に居住する社員は出社そのものが困難なので、そうせざるを得ないケースが多いです。米IBMや米ヤフーの場合は、滅多に出社しないテレワーカーの働き方をコラボレーションの観点から考え直すという話。そのため、日本で一般的な『週に1〜2日程度のテレワーク』とは、もともと性格が違うんです」
そう語るのは、情報通信総合研究所ソーシャルイノベーション研究部主任研究員・國井昭男氏だ。國井氏は、長年に渡りテレワークの研究を重ね、日本テレワーク学会の副会長も務めている。
「現在も、アメリカでは9割近い企業がテレワーク制度を導入しているので、テレワークの規模が縮小しているという状況ではないです。日本とは状況も目的も違うので、影響は少ないと考えられます」
国の事情はそれぞれ。すべてを他国になぞらえることはできないのだ。

国策とは裏腹、進まないテレワーク導入
政府は、2020年の東京オリンピック開会式の日である7月24日を2017年からテレワーク・デイと定め、参加企業を対象に一斉テレワークを実施するなど、その導入に力を入れている。しかし、実際のところテレワーク導入企業は増えているのだろうか?

総務省「通信利用動向調査」および国土交通省「テレワーク人口実態調査」をもとに國井氏が作成
「日本でのテレワークの普及には、2つの観点があります。ひとつは、テレワークを導入している企業はどれくらいあるのか、という企業ベースでの普及率。もうひとつが、ワーカー視点での普及率です。総務省が行った調査では、2016年のテレワーク導入企業は13.3%、国土交通省が行なったテレワーカー率は12.9%となっています。グラフを見てもわかるように、企業導入率はだいたい10%前後を推移していますね」
ちなみに、総務省の調査対象となっているのは、100人以上の従業員を抱える企業。一般的に、大きな企業はテレワークを含めた“働き方改革”に取り組んでいる比率は相対的に高いと想定されているので、全国の中小企業も含めた場合は、13.3%よりも低くなる可能性は高いとのこと。国策とは裏腹に、テレワークの普及はまだ余り進んでいないようだ。

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企業がテレワーク導入を拒む理由
テレワークという働き方を、すべての企業や人が歓迎しているわけではないことは、導入企業が13.3%という低い数字を見れば明らか。なにゆえ、これほどまで定着しないのだろうか。
「テレワークを導入していない企業に聞き取りをすると、圧倒的に多いのが『うちの仕事はテレワークではできない』という回答。いわゆる『適用業務範囲問題』ですね」
テレワーク制度を導入している企業であっても、社員側が制度を利用していないケースも。その理由の多くが「自分はヘッドオフィスでしかできない業務を担当しているから」となり、企業の回答と一致しているという。
それでは、実際にテレワークを導入している企業にとっても、「適用業務範囲」の問題が障壁となっているのだろうか?
「じつは、導入企業の多くは適用業務範囲が問題になっているというケースはほとんどありません。私の主観ではありますが、ホワイトカラーの業務はどの会社も大きな差があるとは思えないので、工場勤務などの場所の制約がない限り、ヘッドオフィスでのテレワークの導入は難しくないのでは、と考えられます」
適用業務範囲を始め、テレワークの導入を阻む要因として挙がる「労務管理」「情報セキュリティ」の問題についても、すでに克服できているテレワーク導入企業が多いという。ここで、あるテレワーク導入企業の例を見てみよう。

週に1日の在宅業務を採用した某社のケース
某社は、テレワーク導入前まで、週に10時間前後の時間外勤務が平均的だった。そこで、テレワークが可能な業務を週に1日の在宅勤務日に集約したところ、業務効率と生産性が向上し、時間外勤務の平均が週に6時間にまで削減することができたという。
「仕事には、自分ひとりで完結できる“自律的業務”と、誰かと一緒に進めなければならない、あるいは誰かと行なったほうが効率的な“非自律的業務”があり、日本の多くのサラリーマンはこの2つを会社で行なっていると思います。しかし、自律的業務はテレワークに切り替えたほうが、周囲にジャマされず短時間で効率的にこなすことができ、生産性が向上するという結果が出ています」
ただし、國井氏いわく「これはキレイな話」。実際に効果を上げるためには、テレワーク中の社員の業務の状況をきめ細かく把握し、マネジメントする業務が発生するため、中間管理職の負担が増えることを懸念する声も多い。
そして、テレワークを導入した企業には「コミュニケーション」と「生産性の担保」という課題が残る、と國井氏。
「会社にいなくても、適したツールを使えば対面での会話やテレビ会議も可能です。ところが、オフィスにいるときの“雑談”や“職場の雰囲気をつかむ”といったコミュニケーションは可視化が難しく、テレワーカーとヘッドオフィスの間で共有できない部分でズレが出てくる可能性は高いです」
また、テレワークのメリットとされている「生産性」についても、普及を阻む要因になっているケースもあるそう。
「テレワークを導入した企業の多くは『生産性が上がった』とおっしゃるのですが、じつは確証があるわけではないんです。日本の企業は、日頃から生産性を測っているわけではないので、テレワーク実施前のデータがなく、実施後と比較することができない。そのため『生産性の向上』について信用できる客観的なデータは少なく、テレワーク未導入の企業は懐疑的になっている、という意見はよく耳にします」
生産性が上がる保証もなければ下がる保証もない現状では、“失敗するくらいなら何もしない”ことを選ぶ企業が大半なのだ。

新型インフルエンザの流行がテレワーク導入のきっかけに?
まだまだ少数派ではあるものの、国策として進めていることもあり、テレワークに対する認識は変わってきている、と國井氏は語る。
「もともと日本におけるテレワークは、女性が結婚や子育てで退職してしまうことを防ぐという目的で始まった働き方なんです。企業が女性社員のために作った福利厚生策という面が強く、20世紀の初めまでは政府のテレワーク推進ポスターでも、母親が仕事をしながら赤ちゃんを抱いているようなイメージのものが少なくありませんでした」
長らく「テレワーク=女性のもの」というイメージが定着していたが、2006年発足の第一次安倍政権は「テレワークで生産性を高める」という政策を打ち出したという。
「当時のテレワークの概念からすれば、突き抜けた方針だったのですが、歴代の内閣の中で企業の生産性という観点からテレワークを推奨したのは安倍内閣だけ。現在の第二次安倍内閣でも、そのスタンスを保ちながら力を入れているので、広く国民に認識され始めたとも考えられます」

その後、新たな働き方としてワークライフバランスが注目を集めるなど、人々が“働き方”そのものに目を向けるようになった2009年。テレワークの導入企業率が19.0%にまで急上昇した時期があったという。
「じつは、2009年は新型インフルエンザが世界的に大流行した年なんです。当時は、新型インフルエンザの情報が少なく、多くの企業が『インフルエンザ患者が家庭にいる場合も出社停止』という措置を取り、それでは会社が回らなくなってしまうことで大騒ぎになりました。しかし、もともとテレワーク制度を導入していた企業は在宅勤務で乗り切ったと話題になったのです」
この一件から、テレワークの制度とツールを導入する企業が増加。その翌年には12.1%まで比率が下がってしまったが、新型インフルエンザが「テレワークに男女は関係ない」という考え方が広まるきっかけとなった。
「テレワークは女性のものという認識は変わりつつありますが、いまだにその見方を持っている人が多いことも事実。普及と定着には時間がかかるかもしれません。何より、テレワークを導入することが目的になっている企業が多く、それが普及を遅らせている可能性もあります」
テレワークの導入は“目的ではなく手段”と捉えることで、導入のハードルを下げることができるはず、と國井氏は語る。
「テレワークは生産性を高めたり、従業員が働きやすい企業をつくるための、ツールのひとつなんです。テレワークが企業に適していれば導入すればいいし、適していなければ導入しなければいいだけの話。それぞれのワーカーにとって、都合がいい働き方を選ぶことが、理想の働き方といえるのかもしれません」
まずは、すべての働く人たちが個人に合った働き方を選べる社会を目指すことが、テレワーク普及のカギとなる。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/50704?page=4


 
Column | 2017年 08月 4日 08:21 JST 関連トピックス: トップニュース
コラム:シリコンバレー企業、雇用の「火の粉」対策

Gina Chon

[ワシントン 2日 ロイター BREAKINGVIEWS] - シリコンバレーの企業は、雇用問題で、トランプ米大統領の上を行こうとしている。

オンライン小売大手のアマゾン・ドットコム(AMZN.O)は、数万人規模のスタッフ採用を計画している。IT大手アルファベット(GOOGL.O)の慈善活動部門は、職業訓練団体に5000万ドル(約55億円)を寄付するという。

各企業がこうした計画を喧伝する背景には、一つには、自動化や人工知能(AI)の導入が進むにつれ、テクノロジー企業が雇用を奪っているとの批判が出ることへの懸念がある。

通商は、2016年の米大統領選でこうした批判の意外な標的となり、グローバル化の弊害の象徴として共和・民主両党から攻撃された。トランプ氏は、就任直後に環太平洋連携協定(TPP)からの離脱を決定し、北米自由貿易協定(NAFTA)からの離脱もちらつかせた。伝統的に通商を擁護してきた共和党や民主党中道派は、不意を突かれた。

テクノロジー企業は、似たような火の粉が降りかかるのを未然に防ごうとしている。アマゾンは2日、配送施設のフルタイムスタッフなど5万人の確保を目標に採用フェアを開催した。来年夏までに計10万人の採用を目指す。また同社は、需要の高い医薬品ラボテクノロジー、航空機整備などに関連する学位の取得を目指す時間給勤務スタッフの学費を負担している。

アルファベットの慈善活動部門Google.orgは先週、「変化する雇用の質」に対応するための訓練や研修を実施している組織に対し、5000万ドルを支援すると発表した。6月には、インターネット交流サイト、フェイスブック(FB.O)のシェリル・サンドバーグ最高執行責任者(COO)がデトロイトを訪問し、ソーシャルメディアを活用した無料のマーケティング講座を開くと発表した。マイクロソフト(MSFT.O)の慈善活動部門も同月、コロラド州の大卒資格のない人向けの職業訓練プログラムの拡張に2600万ドルを寄付した。

こうした企業は、自動化とAI分野の主要な担い手でもある。プライスウォーターハウス・クーパース(PwC)によると、ロボットの導入が進むことで、今後15年で米国の職業の40%近くが失われる可能性がある。AIにより無人運転が可能な車両や、人間に代わって仕事するソフトウエアが活用されれば、こうした変化は加速するだろう。

ネット関連の企業が、移り変わる雇用傾向に米政府よりも賢明な対応を取れることを示すのは、そう難しい話ではない。貿易問題の余波で職を失った人向けの政府のプログラムは、ほとんど効果がなかった。例えば、工場での職を失った女性向けに紹介されたのは、需要のある分野向けの訓練ではなく、美容師の職業訓練だった。

シリコンバレーの企業の目標はもっと明確だ。グーグルは、労働者支援のためテクノロジーを活用するプログラムに資金を出している。

テクノロジー企業はまた、小規模事業にプラットフォームを提供するなどして、経済の役に立っていることをアピールする広報キャンペーンも検討している。

前任者の時代に始まった採用計画を、自分の手柄として自慢するトランプ氏よりは信用度が高いといえる。だが、批判を避けるために、大統領のマネをして「手柄話」を吹かすことにも、誘惑がないとはいえないだろう。

コラム:シリコンバレー企業、雇用の「火の粉」対策

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コラム:トランプ氏の景気刺激策、景気後退を先延ばしするだけ
コラム:米予算教書、空論前提のブードゥー経済政策
http://jp.reuters.com/article/amazon-com-jobs-breakingviews-idJPKBN1AJ0KK?sp=true
http://www.asyura2.com/17/hasan122/msg/846.html

[自然災害22] 南アジア、2100年に「生存不可能レベル」の猛暑に 15億人に影響 熱波が中国の3分の1 イタリア地で40度の歴史的高温
南アジア、2100年に「生存不可能レベル」の猛暑に 研究


【パリAFP=時事】世界人口の5分の1が暮らす南アジア地域では、地球温暖化に歯止めをかけるための対策を何も講じなければその高気温と高湿度がさらに進み、今世紀末までに人が生存できないレベルに達する恐れがあるとする研究結果が2日、発表された。(写真は資料写真)
 米科学誌「サイエンス・アドバンシズ」に掲載された論文は「人が防御(手段)なしで生きられる温度と湿度の水準を超える夏の熱波」について警鐘を鳴らしている。
 米マサチューセッツ工科大学(MIT)などの研究チームが行った今回の研究は2つの気候モデルに基づいている。一つは、気候変動を食い止めるための措置をほぼ何も講じない「成り行き(BAU)」シナリオで、もう一つは2015年のパリ協定の下で世界190か国以上が合意した「気温上昇幅を2度未満に抑える」ことを目標とするシナリオだ。
 気温だけでなく「湿球温度」の予測を調査対象としたのは、この種の研究としては今回が初めてだ。湿球温度は、気温および湿度とそれに応じた冷却能力を組み合わせたもの。
 人が生存可能な湿球温度の限界値は35度と考えられている。
 論文によると、BAUシナリオの下では「今世紀末までに、湿球温度が南アジアの大半で生存限界値に近づき、いくつかの地域では限界値を超えると予測される」という。
 南アジアでこの多大な弊害をもたらす湿球温度にさらされる人口の割合は、現在の0%から約30%にまで上昇すると、論文は指摘している。特に人口密度が高い農業が盛んな地域では最悪の影響が生じる恐れがある。これは労働者らが冷房の効いた環境に避難する機会がほとんどないまま、暑さに耐える必要があるためだという。
「危険な猛暑が早ければ数十年以内にインド、パキスタン、バングラデシュなどの地域を襲い始める可能性がある。この中には、同地域の食糧供給の大半を支える肥沃なインダス/ガンジス川流域も含まれる」と、論文は述べている。
 ■緩和策は有意
 インドには12億5000万人、パキスタンとバングラデシュには3億5000万人が暮らしている。2015年、インドとパキスタンの広い地域に熱波が押し寄せ、約3500人が死亡した。これは近代史上で5番目に大きな被害規模となった。
 だが研究チームによると、今回のモデルは希望の光ももたらしている。今後数十年にわたって温暖化抑制対策が講じられるシナリオの下では、有害な湿球温度にさらされる人口の割合は現在の0%から2%の増加にとどまると考えられるという。
 このシナリオでも気温は(31度を上回る)危険な水準に達するとみられるが、人間の生存を脅かす限界値にはそれほど近づくことはないと考えられる。
 論文の主執筆者で、MITのエルファテ・エルタヒール教授(環境工学)は「公衆衛生と猛暑の軽減という観点では、緩和策は有意だ」と話し、「緩和策を講じることで、これらの深刻な予測が回避可能になることが期待できる。これは避けられないことではない」と説明した。【翻訳編集AFPBBNews】
〔AFP=時事〕(2017/08/03-14:43)
この記事の英文はこちら【英文時事コム】
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https://www.jiji.com/jc/article?k=20170803036005a&g=afp


 

今世紀中に南アジアは人が住めない場所に、米MIT予測(字幕・3日)
8/4(金) 16:25配信 ロイター

(C)Reuter
 米マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者らが、南アジアの気候変動に関する新たな研究報告をまとめた。それによると今世紀中にインド、パキスタン、バングラデシュの一部地域は、火ぶくれができるほどの気温で、人間が住めなくなるという。

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https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170804-00010003-reutv-asia

 


 

2100年、酷暑でアジアの一部が居住不能に
15億人に影響、大移住の時代がやってくるのか、最新研究
2017.08.04


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干上がった地面を歩く女性。インド、バードラックのバスデプール村で撮影。南アジアの大部分で高温多湿化が進んでいる。(PHOTOGRAPH BY BISWARANJAN ROUT, AP)
[画像のクリックで拡大表示]
 このまま地球温暖化が進行すると、南アジアの一部は人が生きていけないほどの暑さに見舞われるという研究結果が発表された。最も深刻な影響を受けるのはインド北部、バングラデシュ、パキスタン南部。世界人口の5分の1に相当する15億人が暮らす地域だ。南アジアで最も貧しい地域のひとつでもあり、多くの人が何時間も屋外での厳しい農作業に従事し、自給自足に近い生活を送っている。(参考記事:「写真ルポ:高温地域で新要因による腎臓病が増加」、「世界の貧困対策、カギは農村と女性」)

「彼らは気候変動の影響を受けやすい状況にあります」と、今回の研究を行った米マサチューセッツ工科大学(MIT)の環境工学教授エルフェイス・エルタヒール氏は話す。

 オンライン科学誌「Science Advances」に8月2日付で発表された論文によると、このまま炭素排出量を抑制しなかった場合、数十年以内に命の危険を伴う熱波が発生し、一帯の食料供給の大部分を担う肥沃なインダス川、ガンジス川流域が壊滅的な被害を受けかねないという。(参考記事:「温暖化対策の主導権が中国へ? トランプ大統領令で」)

 ただし、2015年のパリ協定で誓約した通りに炭素排出量を削減すれば、リスクを大幅に減らすことができる。「この地域で暮らす人々の命は、炭素排出量を削減できるかどうかにかかっています。これは抽象概念などではありません」とエルタヒール氏は話す。(参考記事:「【解説】COP21「パリ協定」勝ち組になったのは?」)

人が生きていけない暑さとは

 南アジアはすでに世界で最も暑い地域の一つだが、エルタヒール氏らは最先端の気候モデルを使用し、南アジアの将来の温度と湿度を予測した。米海洋大気局(NOAA)国立気象局のヒート・インデックスによると、気温34.4℃、湿度80%の場合、体感温度は約54℃となる。何らかの方法で体を冷やさなければ極めて危険とされる温度だ。

 人が生きるか死ぬかに関わる暑さの指標は、気温と湿度を組み合わせた「湿球温度」で表すことができる。湿球温度が35℃(たとえば気温約38℃、湿度85%)に達すると、人体に備わる冷却機構だけでは数時間しか生きられない。今のところ、この条件を満たす気候は非常に珍しい(35℃より低い湿球温度でも命取りになることはある)。(参考記事:「死の熱波、2100年には人類の4分の3が脅威に直面」)


次ページ:ガンジス川と人々の暮らし 写真17点
[画像のクリックで別ページへ]
 インドでは現在、人口の約2%が32℃に近い湿球温度にさらされることが時折ある。論文によれば、このまま炭素排出量を削減しなかった場合、2100年までにこの割合が約70%に上昇するという。さらに、約2%の人は、生存の限界である湿球温度35℃にさらされるようになる。(参考記事:「切なすぎる、水道でミイラ化した不運なカメレオン」)

熱波は移住を促進する

 気候と移住を専門とするカナダ、ウィルフリッド・ローリエ大学のロバート・マクレマン氏によれば、田舎の貧しい人々は酷暑に対処するすべがなく、水と食料、涼しさを求めて都市に移り住む傾向があるという。

「バングラデシュで行われたある研究は、洪水よりも酷暑による移住の方が多くなることを示唆しています」とマクレマン氏は言う。

 酷暑より海面上昇の方がはるかに注目を集めており、多くの研究が行われているが、実際は、酷暑の方がもっと早く、大きな影響をもたらす可能性がある。しかし、「まだ現実的な解決策は提示されていません」(参考記事:「気候変動、最新報告書が明かす5つの重大事実」)

 2016年にオレゴン州ポートランドで開かれた会議では、米国北西部の都市の代表者が集まり、カリフォルニア州や南西部からの移住の増加にどう対応するかを話し合った。講演を行ったマクレマン氏によれば、移住の理由は暑さから逃れるためだという。

「各都市の職員たちは移住の増加を認識しており、どのように対応すべきか頭を悩ませています」

 フロリダ州をはじめとする南東部の各州でも、酷暑が深刻化すると予想されている。しかし、気象学者で気候の専門家でもあるミシガン大学のリチャード・ルード氏によれば、最も危険な地域はミネソタ州からミシシッピ川渓谷に沿ってニューオーリンズへと至る米国の中央部だという。

「沿岸州の猛暑は海によって和らげられていますが、セントルイスやシカゴではしばしば、高温多湿の気候が長く続くのです」

 米国の気候変動による気温上昇はわずか1℃だが、すでに記録的な熱波を何度も経験している。このまま炭素排出量を削減しなかった場合、平均4℃以上は気温が上昇すると予測されている。そうなれば、「全く違う世界になるでしょう」とルード氏は警告する。(参考記事:「トランプ次期大統領が引き起こす気候変動の危機」)

 米国ではこの20〜30年間に、多くの定年退職者や仕事を持つ若者などが北から南へと移住した。ルード氏は、今後は南の人々が厳しい暑さから逃れるため、北への回帰が起きるだろうと述べている。

 ルード氏によれば、中東やアフリカの一部ではすでに、人々が酷暑と干ばつを理由に移住を始めているという。(参考記事:「パミール伝統の暦、気候変動で役立たずに」)

次ページ:ガンジス川と人々の暮らし 写真17点
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/b/080400103/ph_thumb.jpg

 


中国各地が焼けるような暑さに 熱波が中国の3分の1を覆う
人民網日本語版配信日時:2017年7月12日(水) 19時0分
中国各地が焼けるような暑さに 熱波が中国の3分の1を覆う画像ID 570793
「地面に卵を割ったら目玉焼きになった」、「温度計を振り切る暑さ」、「ストーブの中のような都市が日に日に増加」……。
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「地面に卵を割ったら目玉焼きになった」、「温度計を振り切る暑さ」、「ストーブの中のような都市が日に日に増加」……。中国では連日、猛暑がネット上の話題をさらい、街の人々は口々に「暑い」と話している。最新の天気予報によると、今後10日間、中国の中・東部の地域では今年最も広い範囲で、最も暑い日が、最も長く続くことになりそうだ。中国全土で、猛暑となる地域の面積は364万平方キロで、21省を熱波が襲うと予想されている。中国新聞網が報じた。

〇各地で高温記録更新

ここ数日、中国では新疆維吾爾(ウイグル)自治区の猛暑が話題をさらっている。有名な丘陵・火焔山がある吐魯番(トルファン)市は、気温40度以上の酷暑日が13日も続いている。10日午後6時、同市の最高気温はなんと49度に達し、現地の過去最高気温記録を塗り替えた。同市の二堡(カラゴジャ)郷に至っては50度を突破した。

同自治区以外に、陝西省の多くの地域でも高温記録を次々に塗り替えている。同省の気象台のモニタリングによると、10日午後4時の時点で、西安市の気温が40.9度に達した。また、19のモニタリング地点の気温も40度を超えた。

甘粛省では今月7日以降、青空が広がり気温がどんどん上がり、10日から、一部の地域の気温が35度を上回った。また、いくつかの県・区の気温もここ20年で最高を記録した。

〇最強の暑さが襲来!熱波が364万平方キロを覆う

気象モニタリングによると、6月26日以降、中国の西北、華北、黄淮、内蒙古(モンゴル)自治区などで35度以上の猛暑日が続いており、新疆維吾爾自治区、陝西省、河北省などの一部の地域の最高気温が39-41度に達している。また、猛暑日が7-12日となっている。うち、今月9日、中国北方地方の猛暑の範囲は215万平キロに達し、熱波が北方地方の10省(区、市)を襲っている。

焼けるような暑さがすでに何日も続いているものの、天気予報によると、今後はさらに暑い天気になりそうで、中央気象台は10日午後6時に4段階のうち2番目に深刻なレベルの黄色高温警報の発令継続を発表した。

中国の中央気象台の予想では、今後10日間、中国の中・東部地域では、今年で最も範囲が広く、最強の猛暑に襲われることになりそうだ。北方地方で猛暑となる地域の範囲は拡大を続け、南方地方のその範囲も江南東部から江南、華南地域へとじわじわ拡大している。

中国の天気予報サイト・天気網の報道によると、今回の熱波で最も暑くなるのは今月13-17日で、13日は中国全土364万平方キロで猛暑となり、熱波が21省(区、市)を襲うことになる。

同期間、新疆維吾爾自治区の北部や内蒙古自治区中西部、西北地域東部、華北、黄淮北部などでは、気温35-38度の猛暑となり、局地的には40度を超える所も出そうだ。猛暑日が5-8日間続くことになる。北京の10-14日の予想最高気温が35-37度となっている。また、江淮、江南のほとんどの地域、華南東部などでも連続4-6日間、蒸し暑い天気となり、江南東部は猛暑日が7-9日間続きそうだ。

〇焼けるような暑さの原因は?

中央気象台の首席予報員・孫軍氏の分析によると、継続時間が長く、局部的に非常に暑くなるのが今回の特徴だ。また、北方地方は青空が広がって気温がドンドン上がるのに対して、南方地方は蒸し暑い天気となりそうだ。

孫氏によると、南方地方は亜熱帯高気圧に覆われ、青空が広がり、雨があまりふらず、日中、太陽の短波放射の影響を受け、地面の温度がじわじわと上昇する。また、高気圧に覆われる地域は下降気流が強くなり、気温が上昇する。気温を上げる要素である放射と下降気流の影響が重なることで、今回のような厳しい暑さとなるという。

一方、北方地方は、大陸の亜寒帯偏西風に襲われ、今後はそれが温暖高気圧に変わりそうだ。青空が広がり、太陽の放射や下降気流も強くなり、日中は地表の温度が一気に上がることになる。

孫氏によると、「今回の厳しい暑さは、例年と比べて特別暑いというわけではない。これまでの統計を見ると、2013年7月23日から8月14日まで、南方地方で23日連続で猛暑となった。また、同年7月25日から8月9日まで、北方地方でも16日連続で猛暑となり、うち、河北中南部や陝西省の関中地域では猛暑日が10日以上となった」という。

〇予報された気温より暑く感じる理由

天気予報で示された気温がそれほど高くないのに、実際には非常に暑く感じるのは、どうしてだろう?主な原因として、人間が主観的に感じる温度(体感温度)と天気予報で示された温度には、たびたび差が生じることが挙げられる。

世界気象機関(WMO)の規定によると、気象部門が発表する気温は、百葉箱の中にある温度計で測定された温度だ。この温度計は、比較的風通しが良く、地面から1.5メートルの高さの箱に設置されている。一方、我々が感じる温度は、湿度・風速・外部環境など様々な要素による影響を受けた空気の温度であり、実際の環境下の温度は、常に変動している。このため、夏の体感温度がしばしば、予報された気温より高く感じられる。体感温度をある程度考慮に入れるため、国内外の研究者はこれまでに、数多くの研究や実験を重ねてきた。このうち、米商務省海洋大気庁(NOAA)は、「ヒートインデックス(気温と湿度から算出した体感温度)」という概念を打ち出した。この指数は、人体の体感温度を左右する重要指標として「湿度」を取り上げている。

〇高温によって人体にはどのようなダメージがもたらされるのか?

湿度が高くなると、程度の差こそあれ、人体にさまざまなダメージがもたらされることが、関連研究から明らかになっている。


【8つの高温対策】

1、屋外で作業する際には、有効な暑さ対策を行うこと。炎天下で、肌を長時間晒すことは厳禁。冷たい飲み物を常に携帯しておく。

2、炎天下で速く走らない。むやみに人混みに出ない。屋外から室内に入った時は、すぐにエアコンの冷風を大量に浴びないこと。

3、午前10時から午後4時の間は、可能な限り外出を避ける。喉が渇く前の水分補給を心がける。

4、高温の日は、胃腸からの風邪を予防するため、飲食と衛生に注意する。

5、毎日、睡眠をたっぷりとり、規則正しい生活と労働生活を心がけ、免疫力を高める。

6、高齢者や乳幼児など特別な人々への配慮を怠らないこと。高温の日は、高齢者の心臓・脳・血管系疾病や子供の体調不良が起こりやすい。

7、太陽光を浴びる際には、日光皮膚炎(湿疹)の予防を心がける。もし、皮膚が赤く腫れるなどの症状が現れた場合は、冷たい水で患部を洗い、症状が重い場合は病院で診察を受けること。

8、眩暈・吐き気・口の渇き・ぼーっとする・息苦しいなどの症状が出た時は、熱中症の初期症状を疑い、ただちに休息をとり、冷たい水を飲んで体温を下げる。症状が重い場合は病院で診察を受けること。
http://www.recordchina.co.jp/b184219-s10-c30.html


 

熱波襲来のイタリア、各地で40度の歴史的高温を記録(3日)
4:10pm JST - 01:36

イタリアは3日、歴史的な熱波に見舞われ、各地で40度もの高温を記録した。アフリカ大陸からの熱波を受けてイタリアの気象当局はこの日、26の都市に対し最高レベルの警戒を求める警報を発出した。この中には観光客に人気の高いフローレンスやローマ、ベネチア、ベローナも含まれた。(ナレーションなし)
http://jp.reuters.com/video/2017/08/04/%E7%86%B1%E6%B3%A2%E8%A5%B2%E6%9D%A5%E3%81%AE%E3%82%A4%E3%82%BF%E3%83%AA%E3%82%A2-%E5%90%84%E5%9C%B0%E3%81%A740%E5%BA%A6%E3%81%AE%E6%AD%B4%E5%8F%B2%E7%9A%84%E9%AB%98%E6%B8%A9%E3%82%92%E8%A8%98%E9%8C%B23%E6%97%A5?videoId=372249832&videoChannel=201&channelName=JP+In+Depth
http://www.asyura2.com/17/jisin22/msg/150.html

[経世済民122] 生活保護の女子高生、奨学金も夢も奪われ今なお終わらぬ葛藤 既婚三股男が傷つけた幼い娘の心、シングルマザー不倫の代償 
2017年8月5日 みわよしこ :フリーランス・ライター
生活保護の女子高生、奨学金も夢も奪われ今なお終わらぬ葛藤

http://diamond.jp/mwimgs/e/9/600/img_e9301a6e35abea9fe2471ac34e6cd25e137469.jpg

2014年、福島市の生活保護母子世帯で育つ女子高生が、給付型奨学金の全額を収入認定で失い、学園生活も将来の希望も奪われた。久しぶりに会った彼女の「心の叫び」とは?(写真はイメージです)
あの女子高生はいま?
奪われた学園生活と希望

 2014年4月、福島市の生活保護母子世帯で育つ高校1年生の少女が、自らの努力によって獲得した給付型奨学金の全額を収入認定(召し上げ)された。約1年半後の2015年8月、厚労省は福島市の決定を不当とする厚労大臣裁決を下した。さらに給付型奨学金およびアルバイト収入を塾代などに充当することを認める通知を発行し、用途の制限を緩和した。

 少女はその後、夢へ向かって歩みつづけているのだろうか。

 2017年7月、私は2年ぶりに彼女・アスカさん(18)と対面した。

 2015年のアスカさんはシャープなイメージを漂わせ、ハキハキとした口調でこれまでの歩みと将来の希望を語る、建築家志望の聡明な高校2年生だった。そのときすでに、高校生活の困難から、アスカさんは大学進学を断念していたが、建築家への次の歩みとなる就職のために努力し続けていた。

 目の前のアスカさんの顔立ちや表情からは、2年分の成長が感じられる。しかし2年前の明るさは全くない。大学進学を断念し、夢に近づく就職も断念したアスカさんは、結局は入学した高校での学校生活と卒業まで断念することになり、現在は通信制高校に在学している。また精神的な健康も失われ、心療内科で治療を受けている。

 アスカさんのかつての高校の同級生たちは、この3月に卒業し、今は大学進学など次のステップに進んでいる。

 アスカさんに何が起こったのかを理解するためには、アスカさんと母・ミサトさんのこれまでの歩みを知ることが、どうしても必要だ。やや長くなるが、その経緯を紹介したい。

「前例」「均衡」を理由として
理不尽に奪われた給付型奨学金

 アスカさんと母・ミサトさんが生活保護で暮らし始めたのは、アスカさん小学6年生の夏だった。それまで、母娘はあらゆる面で不安定な生活を余儀なくされてきたのだが、ミサトさんが心身を病み、生活保護以外の選択肢がなくなったのだ。2015年、高2だったアスカさんが語ったところによれば、小学6年の時に生活保護で暮らすことになって、「少し落ち着いたかな? という感じになりました」ということだった。

 中学生になったアスカさんは、「建築家になりたい」という夢を抱いた。落ち着いた勉学どころではない環境にあったアスカさんの成績は、中の下というところだった。しかし「夢に向かって進むことをやめたらダメになる」と始めた猛勉強は、成績の急上昇に結びついた。中学3年のときには給付型奨学金に応募し、高校3年間にわたって年間17万円を獲得できることになった。ちなみに、高校生活を送るにあたって学費以外に必要な経費の平均は、年間41万円である。

 アスカさんはさらに、志望校であった公立高校にも合格し、建築家への夢へと近づいた。実習や遠隔地への視察旅行など、普通科の高校生より多くの費用を必要とする高校生活は、自らの努力によって獲得した年間17万円の給付型奨学金によって、大きな問題なく送れるはすであった。

 もちろん、給付型奨学金の選考に合格したことや年間の給付金額などは、その時点で担当ケースワーカーに報告していた。

 ところが、希望の高校に進学した直後の2014年4月、担当ケースワーカーは、給付型奨学金を全額「収入認定」することを母娘に告げた。

 生活保護世帯は、生活保護基準の範囲で生活を営む義務があるため、それ以上の収入は、原則として「収入認定」、つまり召し上げられてしまうのだ。しかし、生活保護の目的の1つである「自立の助長」のために使用するのであれば、「収入認定除外」(召し上げない対応)とすることが望ましい。このことは厚労省も通達などで繰り返してきている。しかし、福島市のケースワーカーが述べた理由は、「国の規定」「一般世帯と均衡が取れない」「前例がない」だった。

 なお、給付型奨学金の趣旨を考慮し、高校生自身が全額使用できるようにしてきた自治体は、2015年当時も他地域にはあった。「前例」はあったし、それを可能にする厚労省の運用規則もあった。しかし、福島市のケースワーカーたちは知らなかったのだ。

突然の体調変化で朝起きると嘔吐
「収入認定」による人生のつまずき

 重く固い表情、顔を伏せたまま口を開けずにいるアスカさんの横で、母・ミサトさんがアスカさんの高校生活について語り始めた。

 2014年4月、母娘に対して、高校に進学したばかりのアスカさんの給付型奨学金が収入認定されることが告げられた。アスカさんは「は? なんなの?」と怒ったという。

 翌月の5月から、アスカさんの体調に変化が現れた。朝、起きると嘔吐。学校でも嘔吐。しかし内科的な疾患はなかった。結局、ミサトさんが現在も通い続けている心療内科で、アスカさんは「身体化障害」という診断を受けた。ストレスによる身体の変調だ。ついでアスカさんは「人と接するのが怖い」と言い始めたという。

「中学までは特に問題はなく、お友達ともお付き合いできていました。『なんで? 急にどうしたんだろう?』と思いました。ただ、理由は……なんとも言えません。高校に進学して環境が変わったせいなのか、専門家としての将来や進学を目指しているクラスメートたちに囲まれてなんとなく居づらかったのか」(ミサトさん)

 高校生活と次の進路を考えるにあたっては、今日も明日も明後日も来週も来月も、進学や就職が具体的な課題となる近未来も、高校での学校生活と家庭生活が大きな問題なく営めるという前提が必要だ。周囲のクラスメートのほとんどが、その前提を疑わずにいられる中で、せっかく努力によって獲得した給付型奨学金を使えなくなったアスカさんにとって、高校の教室の風景や同級生たちの笑顔は、どのようなものであっただろうか。

 クラスメートにとって重要な「当たり前」が、クラスメートと同じ制服を着て同じ教室で同じように学んでいるアスカさんには「当たり前」でない。しかも、アスカさんが努力によって獲得した給付型奨学金があれば、まだ「当たり前」に近い状況でいられたはずなのだ。

「アスカの具合が悪くなったのは、収入認定された直後でした。言われてみると、少なからず影響はあったのかなあ? と思います。やはり、やる気をなくしている状態でした。高校の次を目指してテンションが高くなっている同級生たちの中に、アスカが1人だけいれば、浮くような感じになってしまうでしょうし」(ミサトさん)

 それでもアスカさんは、真面目に高校に通い続けた。実習に必要な用具が少し壊れても、消耗部品がなくなっても、修理も交換もできなかった。それでも実習をこなし、課題を提出した。

 高校2年だった2015年の8月、厚労省は福島市の給付型奨学金に対する収入認定を不適切とした。そのとき、アスカさんはすでに大学進学を断念していた。「せめて残り半分の高校生活は、クラスメートと同様に送れたであろう」と期待したくなるのが人情だろう。しかし現実は残酷だった。

 アスカさんは高校2年の後半から、高校を欠席しがちになった。進級や卒業に影響が及ぶほどの欠席日数ではなかったが、高校3年の夏休みが終わるころ、アスカさんは「もう高校に通い続ける自信がない、怖くなった」と、通信制高校への転校希望を口にした。ミサトさんは「無理させるつもりはありませんでした。今まで、毎日毎日、1日に何回も嘔吐しながら高校に通っていたのを見てきていたので、『いいよ、これ以上頑張らなくて。あなたの好きにしなさい』と」と語りながら嗚咽に声を詰まらせ、「逆に、無理させてしまったんじゃないかと」とつぶやく。

 今、アスカさんは、心療内科での治療を受けながら通信制高校に在学している。残りの単位は10単位ほどだが、スクーリングが近づくたびに不安になる。それでも、今年度中には卒業できそうだ。

現金という「補装具」があれば
障害は困難につながらないかもしれない

 最近になって、アスカさんは「アスペルガー症候群」と診断された。2年前、2015年9月に会ったアスカさんを思い出すと、言われてみれば「アスペルガー症候群の影響だったのかな?」と思い当たる節がなかったわけではない。しかし、特に困難や問題として表面化している印象は受けなかった。アスカさんのギリギリの頑張り、あるいは大人の他人である私に弱く苦しいところを見せずにいようという心遣いであったのかもしれないけれど――。

 そもそも、自分で「ちょっと大変」「なんだか疲れる」と思いながら、あるいは周囲に「ちょっと変わってる」と思われながら、大きな問題なく学校生活や職業生活を送っている発達障害や精神障害の人々は、どこにでもいる存在だ。

 特に学校では、1つ2つの得意科目や「一芸」を評価されていれば、それほど大きなストレスを感じずに学校生活を送ることができるだろう。職場でも、「発達障害? ああ、言われてみれば確かに。でも、彼女の専門分野の知識と技術とセンスの代わりになれる人は、そう簡単に見つからないし、悪気があって空気を読まないわけではないのはわかるから」と評価されて幸せな職業生活を送れる人々はいる。

 アスカさんも、高校生活が始まったときから問題なく給付型奨学金を使えていたら、そういう風に高校生活を送り、次のステップに進めていたのではないだろうか。そう問いかける私に、母・ミサトさんは「……それは、思わなくもないです」と重い口調で語る。

苦痛とダメージへの思慮が
見られない福島市の対応

 現在、元高校教員を中心とする理解者たち、アスカさんの身の上に起こった残酷な出来事が二度と誰にも起こってほしくないと望む弁護士たちの支援によって、損害賠償を求める訴訟が継続中だ。訴訟は給付型奨学金を収入認定された翌年、福島市の収入認定処分の取消しと損害賠償を求めて開始された。

 原告は、高校2年だったアスカさんとミサトさんだ。「損害賠償」と言えばすぐ「カネ目当て」という批判が現れるのは日本の常だが、失われた機会や心理的苦痛を司法の場で問題にする手段は、損害賠償請求訴訟しかないのである。

 なお訴訟に先立ち、2人は福島県に対して審査請求・再審査請求を行った。アスカさんが高校1年だった時期である。この時期、福島市は収入認定した給付型奨学金を少しだけ返還したりしていたのだが、すべて使えるようになったのは厚労大臣裁決が行われた2015年8月以後のことで、アスカさんはすでに高校2年になっていた。

 しかも、奨学金はいったん福島市が全額を預かり、アスカさんが「申請して使わせていただく」という形だ。ときには、何に何円が必要になるかわからない将来の支出について、明細を要求されたりもしたという。現在も続いている訴訟において、福島市は「給付型奨学金は使えるようにしたんだから、もう自分たちに責任はない」という主張を一貫させており、それまでのアスカさんの1年半の高校生活に与えた苦痛とダメージへの思慮は全く見られないという。

 成り行きと現状について、ミサトさん、支援の中心になっている元高校教員、弁護士、そして私が会話し、憤慨していたとき、黙って耳を傾けていたアスカさんが、伏せていた顔を上げて語り始めた。

無残にも潰された希望が
再び芽吹く将来を求めて

 アスカさんは「今でも、『こんなはずじゃなかったのに』と思うときがあるんです。福島市が全然反省してなくて、私の辛さをわかっていないのが、すごく悔しくて」と語り始め、涙を流し始めた。

「誰にも自分と同じ目に遭ってほしくないから、母と一緒に審査請求を行い、訴訟の原告になったんです。最初は、4年も長引くと思っていませんでした。『間違ってました、ごめんなさい』と謝って、今後こんなことがないようにしてほしい、と思っていました。でも全然、そんな様子が見られないんです。これがいつまで続くんだろうと……」

 嗚咽し始め、しばらくして嗚咽が止んだアスカさんに、「酷な質問かもしれない」と思いながら今後について尋ねると、「……やはり、進学というのは、もう考えられないです。そうなると、『就職しなきゃ』と思います」という答えが返ってきた。

 就職についての希望を問うと、しばらく言葉を探した後、アスカさんは「もう、建築を仕事にしている自分は想像できないです」と答えた。幼少時から数え切れないほど繰り返してきた紙模型づくりやイメージスケッチが、全くできなくなってしまったという。

 なぜ、そうなったのか。アスカさん自身にその場で問いかけることは憚られたので、自分なりに想像を巡らせた。そして、「それはそうだろう」という気持ちになった。

 大好きな○○への情熱が、「○○を職業にしている自分の将来」という夢につながり、努力の一歩へと踏み出させ、成績を上昇させ、給付型奨学金獲得と、夢に近づける高校への合格につながった。

 ところが、給付型奨学金がいきなり召し上げられ、○○を職業とする将来への道であったはずの高校での学びや学校生活が、思うに任せない状況となった。1年半の困難な高校生活の後、給付型奨学金は自分の手元に戻ってくることになったが、失われた機会や時間、心身へのダメージ、将来への希望を完全に修復することはできない。給付型奨学金を使えることになり、1年半の間に失ったものを引きずりながら、1年半遅れで普通の高校生活が送れるようになった本人に、奨学金を召し上げた本人たちが「私たちは機会を奪わなかった」と主張しているわけである。

 これほど、人間を人間と思っていない扱いがあるだろうか。しかし相手と自分には、最初から圧倒的な力の差がある。結局のところ、自分を前進させてきたはずの「○○」が、自分を再起困難なほど打ちのめしてしまったのだ。打ちのめしたのは「○○」そのものではなく相手たちなのだが、相手たちの強大な力は最初からわかっていることだ。そんな中で思いと考えをグルグル回りさせていると、「○○」がトラウマの源に見えてくるのは、むしろ当然ではないだろうか。

 どうか、自分の生きがい、自分の支えとなってきた何かを「○○」に起きかえ、我がこととして考えてみていただきたい。私にも、かつて自分を導いてきた何かを最も遠ざけるようになってしまった経験が、何回もある。

女子高生から「自立の助長」を
遠ざけたのはどこの誰なのか


本連載の著者・みわよしこさんの書籍『生活保護リアル』(日本評論社)好評発売中
 アスカさんは今、子ども時代に建築と同じくらい好きだったものを、1つ1つ思い起こしている。今は、穏やかに暮らしながら心身の治療を行うことが最優先課題だが、いずれは治療が効果を上げて健康を取り戻し、通信制高校も卒業し、職業生活に就く日がくるだろう。そのとき、自分の希望が少しずつでも叶う職業であるように。アスカさんは懸命に、自らの希望を、再び作り上げようとしている。

 もしもアスカさんが高校入学時から問題なく給付型奨学金を使えていれば、今頃は大学生として建築を学んでいたかもしれない。あるいは、建築の実務の現場で職業人としての一歩を踏み出していたかもしれない。

 生活保護の目的は「最低生活の保障」と「自立の助長」だ。アスカさんから「自立の助長」を遠ざけたのは、どこの誰なのだろうか。答えは、言うまでもないだろう。

(フリーランス・ライター みわよしこ)

(参考)

・生活保護のリアル〜私たちの明日は?「高1女子に奨学金を返還させた福島市の非情」(2015.9.25)

・生活保護のリアル〜私たちの明日は?「生活保護世帯の高校生は夢を持ってはいけないのか」(2015.10.9)
http://diamond.jp/articles/-/137487


2017年8月5日 露木幸彦 :露木行政書士事務所代表
既婚三股男が傷つけた幼い娘の心、シングルマザー不倫の代償(上)


シングルマザーの不倫は最悪の結末を迎えることとなりました(※写真はイメージです)
先週、今井絵理子参議院議員と橋本健神戸市議の不倫が報じられました。今回の騒動ではあまり取り上げられることはありませんが、シングルマザーの恋は、恋をした女性だけでなく、子どもに多大な影響を与えてしまうケースがあります。シングルマザーの環奈さんは彼の「妻と別れて結婚する」という言葉を信じて、既婚男性と不倫してしまいます。自宅に居場所がない男性は環奈さんの実家に入り浸り、やがて幼い娘さんは彼をお父さん的に慕い、懐きます。ところが彼には妻だけでなく、第三の女性がいることが明らかになり、一方的に別れを告げられてしまうのです。(露木行政書士事務所代表 露木幸彦、文中すべて仮名)

 先週は今井絵理子参議院議員と橋本健神戸市議の不倫疑惑が大きな話題になりましたね。両名は早々にコメントを出したのですが、「2人が一線を超えたかどうか」「橋本氏と妻の婚姻関係が破綻していたかどうか」「略奪不倫なのかどうか」など恋愛的な部分に終始しています。しかし、本当に大事なことをすっかり忘れていませんか?

 それは「子どもの存在」です。今井さんに聴覚障がいを持つ息子さんがいることは周知の事実ですが、「シングルマザーの恋」は始めるにしても終わらせるにしても子どもへの影響は不可避です。

シングルマザーが引っ掛かりやすい
「離婚するする詐欺」

 体力的、時間的、そして精神的に追い詰められたシングルマザーが「癒し」を求める。そして妻と上手くいっていない既婚男性が「すぐに肉体関係をもてそうな女性」を見つけると、「妻とは離婚するつもり」という口説き文句で熱烈アプローチをするというシチュエーションは決して珍しくありません。

 この手の不倫は決まってトラブルに発展するので私のところへ相談しに来る女性は非常に多いです。「妻との離婚」をエサに女性を口説くことを私は「離婚するする詐欺」と呼んでいますが、なぜシングルマザーは詐欺に引っかかりやすいのか、実例をもとに見て行きましょう。

<登場人物>
福井環奈さん(34歳)⇒専業主婦
福井凛香ちゃん(4歳)⇒幼稚園児
高橋良雄氏(42歳)⇒会社員

「奥さんと子どもに不満があって家に帰れなくなって1人で寂しいから私と付き合って、私の実家に入り浸り。でも、奥さんとよりを戻すから、“私たち”が必要なくなったって!?私の気持ちも身体も弄んだ彼が憎いです!結婚する気もないのに『もう少し待って』と言い続け、“私たち”を縛って自由を奪って都合が悪くなったらポイ捨て!どんな思いで私と娘が彼のことを頼りにしていたか……絶対に許せません!」とありったけの怒りを私にぶつけてきたのは福井環奈さん(34歳)。

 環奈さんは3年前に元夫と離婚。シングルマザーとして4歳の娘さん(凛香ちゃん)を育てています。環奈さん1人で娘さんの面倒をみるのには無理があるため、実家で暮らし、母親、そして兄夫婦の協力を得ることで何とか日々をやり過ごしていたのです。

 育児だけに時間、体力、そして気力を取られるなかで知り合ったのが高橋良雄氏(42歳)。環奈さんいわく彼の第一印象は「背が高く格好いいタイプ」だったそうで、張りつめた毎日のなかで癒しを求めていた環奈さん。当然、彼が独身だということを微塵も疑うことなく、付き合い始めたそうです。

独身だと信じて体を許した彼に
奥さんと2人の子どもがいた!

「結婚するつもりじゃなければ体の関係は持ちたくない。遊びというわけにはいかないから」

 環奈さんはそう言って彼からの(肉体関係の)求めを断ってきたのですが、離婚後、環奈さんは子育てに追われ、お酒を飲むような時間的な余裕はありませんでした。しかし、彼と付き合い始め、お酒を勧められるようになり、今までアルコール耐性がほとんどなかったため、ハメを外してしまったのでしょうか。少量のお酒で酔っぱらってしまい、彼からの求めに応じてしまったのです。

「環奈ちゃんとの子どもは欲しいけど、念のため、避妊はしておこうか」

 性交渉の最中、彼からそう言われたことは覚えているそう。しかし、2人の蜜月も長くは続かなかったのです。

 環奈さんが彼の家を訪ねたところ、4人分の傘が置かれていたので、「おかしいじゃないですか?」と問い詰めると「いや、もう引っ越したんだ。表札を変えていなかっただけで」と苦しい弁明をしてきました。さらに「本当のことを知りたいの!」と追及すると、彼は独身ではなく既婚で、同じ歳の妻と8歳、6歳の子どもがいることを白状したのです。

 彼は妻子の存在を明かした後も、環奈さんを何度も食事に誘ってきました。環奈さんはシングルマザーとはいえ、既婚者との交際は「不倫」なので、最初のうち、彼からの誘いを断り続けていたのですが、彼が「嫁とは離婚するから!」と約束したので会うことにしました。

「環奈ちゃんと別れるつもりはない!僕を信じてついてきてくれ、待っていてくれ!将来的には僕と結婚して子どもを産んでくれ!!ずっとそばにいるから」

実家に入り浸る彼に懐く幼い娘
彼と再婚を強く意識

 シングルマザーの相手をしてくれる男性は自分くらいという気持ちもあったのかもしれません。結局、環奈さんも情に流れてしまい、その日の夜も彼に抱かれてしまったのです。実際のところ、彼は妻と上手くいっておらず、妻に追い出されるような形で帰る場所を失い、環奈さんの家に入り浸り、環奈さんの家から出勤することが増えていったのです。

 彼の家庭はいわゆる「こづかい制」で、彼は妻に給料を全額渡し、妻から毎月3万円のこづかいをもらうという弱々しい立場。3万円のこづかいを使い切ってしまえば手元には何も残らず、それでも足りなければアルバイトをするしかないという有様。彼はラブホテルに行くお金もないので、環奈さんの部屋がラブホ代わりでした。

「嫁は家政婦だから気にしないで欲しい。周りの友人は子どもがいても別れている人もいるから、そんなに離婚が大変だとは思わないさ」と彼は事あるごとに離婚を匂わせました。例えば、環奈さんが「奥さんが離婚に反対したら」と聞くと、彼は「理由が経済的なものなら自立できるようサポートするつもりだから」と言い、また環奈さんが「いつまで待てばいいの?」と不安そうな顔をすると、彼は「もう嫁は離婚に納得してくれているんだ。あとは子どものこともあるから、金の話だけさ」と熱く語り、彼が妻と離婚し、環奈さんと本気で一緒になるつもりだと信じて疑わなかったのです。

>>(下)に続く
2017年8月5日 露木幸彦 :露木行政書士事務所代表
既婚三股男が傷つけた幼い娘の心、シングルマザー不倫の代償(下)

>>(上)より続く

 さらに、環奈さんの娘さんは彼と一緒に食事をしたり、寝たりするなかで次第に、彼に懐いていきました。同居している環奈さんの兄の方が付き合いは長いのに、「(兄と)お風呂に入ったら」と言っても嫌がっていたのですが、彼のことを嫌がる素振りは見せず、娘さんは風呂場で彼の背中を洗ってあげたりしていたそうです。また、娘さんが幼稚園で熱中症になり、病院へ連れて行って、点滴をしている最中も泣きながら「(彼に)会いたい!」と懇願したとのこと。今までママ(環奈さん)にベッタリだった娘さんが心を開いたことを環奈さんは喜び、彼の頼もしさに惹かれ、元夫の代わりに娘の父親になってくれたら……と淡い期待を寄せていたのです。

 実際のところ、環奈さんはわずか4年で元夫との結婚生活に終止符を打ち、乳飲み子を抱えて実家へ出戻りました。日夜、育児に奔走しており、外で働いて稼ぎを得ることは難しいので、実家へ生活費を入れることもできず、兄夫婦にも娘さんの面倒も見てもらうこともあるので心苦しい思いをしていました。

 そのため「自立してできるだけ早く実家を出たい」と常日頃考えており、それを叶えてくれるのが彼との結婚(再婚)だったのです。離婚前から付き合っていれば、離婚成立と同時に結婚(彼にとっては再婚)できるに違いない。

 一刻も早く、そして確実に結婚するための方法「離婚前の交際=結婚の予約」と自分なりに解釈していたようですが、百歩譲って彼が無事、妻と別れることができれば、順序違い(離婚する前に付き合い始める)の罪も多少、カモフラージュできるかもしれません。

 しかし、彼にとって離婚の大きな障害となっていたのは「離婚したら、もう子どもに会わせない」という妻の一言。そうこうしている間に3ヵ月が経過し、環奈さんの目論見通りに事は進みませんでした。

生活費も払わず母と衝突も
第三の女性宛てのメール!?

 さらに一緒に生活を続けるうち、彼のだらしなさも露呈し2人の間で次第に喧嘩が増えていきました。例えば、彼は実家のリビングで寝転がりながらテレビを見たり、夕飯を食べても食器を片付けずに置いたままにしたり、風呂上りにタオル1枚でうろついたり……「娘の彼氏」という立場で入り浸っているだけなのに酷い有様です。彼のだらしなさを目の当たりにして、同居中の母親も見るに見かねて彼に対して苦言を呈したのですが、彼は彼で「はいはい、分かりました」と口先で言うだけ。実際にはほとんど反省しておらず、改めるのは一時だけ。すぐに戻ってしまい、生活態度を根本的に改める気がないのは明らかでしたが、それだけではありません。

 彼は平日の大半を環奈さんの家で過ごし、朝と夜の食事を共にし、さらに昼食の弁当を持たせていたので、また扶養家族が1人増えた勘定です。さらに通勤やショッピングなどに母親名義の車を使用するため、ガソリン代や高速代として毎月1万円ほどかかっていました。

 さすがに赤の他人にタダ飯を食べさせたり、無料送迎車を提供するわけにはいかず、業を煮やした母親が彼に対して食費や交通費を入れるよう頼んだそうです。彼も最初のうちは3万円を生活費として渡していたのですが、3ヵ月目から怠るようになり、生活態度や金銭を巡って彼と母親との間でいがみ合いが絶えなくなりました。

 さらに環奈さんに追い討ちをかけたのは「今日そっちに行ってもいいかなぁ。そろそろ雅恵(女の名前)が恋しいよ」という彼からの違う女性宛てのメールでした。

 最初はメールを見て見ぬふりをし、「結婚するのだから」と自分に言い聞かせましたが、最初の数日間は不眠に陥ってしまったそうです。

彼と結婚を宣言する第三の女性
彼から「子連れは難しい」と一方的な別れ

 そんな矢先、彼の三股状態(妻を含める)を決定づける出来事がありました。環奈さんは彼が見知らぬ家に入るところを目撃しました。普段は職場で仕事をしている時間です。そこで環奈さんは「今どこにいるの?」とカマをかける感じで探りのメールを送ったのですが、彼は平気な顔で「会社にいる」と返してきたのです。そして環奈さんは小1時間、件の家の前で待機していたところ、彼と「謎の女」が出てきたのです。

 環奈さんは彼を女性から引き離して捕まえると、少し距離を置いたところで「本当のことを教えて欲しい」と迫ったのですが、彼は「昔、付き合っていた女だ。相談にのっているだけで体の関係はない」としらばくれるばかり。さらに彼がその場から逃げ去ると、今度は女性が環奈さんに向かって「あんた消えてくれる!私は散々、彼に尽くしてきたの。高級なバイクも買ってあげたわ。奥さんとけじめをつけたら私と一緒になるの、わかった!?」と言い放ったのです。

 環奈さんは女性のあまりにも高圧的な態度に屈し、一言も言い返すことはできずにそのまま立ち去りました。彼は会社をサボって女性の元へ通っていたらしく、彼に裏切られたことから気持ちが不安定になり、相変わらず不眠は治る気配はなく、さらにその日から食事が喉を通らず、神経性の下痢が止まらず、トイレのなかで泣き続けることが増えていったそうです。

 そんな一触即発の険悪ムードが長続きするわけもなく、彼と2人きりで買い物に行ったとき、「環奈ちゃんとはずっと一緒にいたいよ。でも、やっぱり子連れは難しいよね」と彼の方から別れ話を切り出してきたのです。

「納得いかない!結婚前提だから娘にも、母や兄夫婦にも会わせたのに娘がいるから無理だって!?」と環奈さんは悲鳴にも似た声を挙げて、取り乱し、涙ながらに「考え直して!」と懇願したのですが、彼は「ふざけるな!!」と怒鳴り付け、環奈さんの手をほどき、自宅へ戻ると去って行きました。

 翌日、彼は「1人になって考えたいんだ」というメールを送ってきたのですが、それ以降は環奈さんからの電話に出ず、メールに返事をせず、結局、LINEも既読になることもありませんでした。

“初めての父”との突然の別れ
受け入れられない幼い娘


露木さんの著作『男の離婚 賢く有利に別れるための6つの成功法則 慰謝料・養育費・親権・財産分与・不倫・浮気』が好評発売中です
 彼が家に来なくなってから、娘さんの落ち込みぶりは悲惨なものでした。トイレに1人で行けなくなり、夜も環奈さんが手をつながないと「寂しい」と言って夜泣きをするようになったり、彼の名前を呼んで「会いたい!」と言ったり、環奈さんのスマートフォンに3人で撮った写真が保存されているのを知っているようで、必死に画面をタッチしたり。初めて心を許せる父親のような男性に巡り合ったのに、ある日突然、目の前から消えてしまったのだから娘さんのショックは計り知れないでしょう。

 このように環奈さんの子連れ再婚という目論見は水の泡となったのですが、彼と知り合う前に戻ることができれば、まだマシだったかもしれません。しかし、環奈さんは不眠症や拒食症、そして胃腸の不調に悩まされ、さらに娘さんにも心の傷を負わせてしまったのだから取り返しがつきません。

 既婚男性との交際が「不倫」だということを見て見ぬふりをしたり、実家に迷惑をかけるのに知らないふりをしたり、(彼と女性)の浮気を黙殺したり……彼との再婚が「娘のため」だと自分で自分を洗脳し、娘さんの存在が不倫の免罪符だと思っていたら、それは間違いでしょう。

 シングルマザーの恋愛は、他の恋愛に比べ、失恋のリスクが大きくなります。「子どもがいるのに男にうつつを抜かしてはいけない」とは言いませんが、彼と子どものどちらが大事なのか、きちんと気持ちを整理した方が良いでしょうし、万が一の場合、無関係な子どもを巻き込む危険があることを承知の上で交際を始める必要があるでしょう。
http://diamond.jp/articles/-/137726
http://diamond.jp/articles/-/137518

http://www.asyura2.com/17/hasan122/msg/857.html

[経世済民122] 木内前日銀委員:国債買い入れは「来年中ごろに限界に達する可能性」 米雇用統計:7月は予想上回る 米雇用増えても賃金伸びず
木内前日銀委員:国債買い入れは「来年中ごろに限界に達する可能性」
日高正裕、藤岡徹
2017年8月4日 14:45 JST

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長期金利に上昇圧力加われば、限界はもっと早くなるかもしれない
2%物価目標の位置付けをより柔軟な方向に修正し、政策の正常化を


日本銀行審議委員を5年間務めた木内登英氏は先月の退任後、初めてインタビューに応じ、日銀が現在のペースで長期国債を買い続けた場合、来年中ごろに限界に達する可能性がある、との見方を示した。
  野村総合研究所のエグゼクティブ・エコノミストに就任した木内氏は4日、ブルームバーグテレビジョンに出演し、「日銀は永久に長期国債を買い続けることはできない」と指摘。国債保有残高の増加ペースは約20兆円縮小したが、この程度では「不十分」だとし、「来年中ごろに限界に達する可能性がある」と述べた。
  木内氏の任期中最後となった7月20日の金融政策決定会合で、日銀は長期国債買い入れのめど(保有残高の年間増加額)「約80兆円」を維持した。しかし、黒田東彦総裁は5月の国会答弁で60兆円前後になっていることを明らかにしていた。
  日銀が買い入れを続けるには民間金融機関が保有長期国債を売らなければならないが、「全て放出するとは考えにくいため、買い入れの限界が近づいている」と述べ、日銀は買い入れ額をさらに減額せざるを得なくなるとみる。仮に長期金利に上昇圧力が加われば、目標の0%を維持するため買い入れ額を増やさなければならなくなり、「限界は来年中ごろより早くなるかもしれない」と語った。
  先月の決定会合後に公表した展望リポートでは、2%物価目標の達成時期を「2018年度ごろ」から「19年度ごろ」に先送りした。達成時期の先送りは13年4月の異次元緩和導入から6度目となる。
  木内氏は2%の物価目標を「近い将来、達成するのは不可能だ」と指摘。物価の基調は主に潜在成長率によって決まると考えられるが、これを引き上げる構造改革がにわかに実現するとは考えにくいため、目標としても「適切ではない」と述べた。
  過激な金融緩和策によって為替が円安となり、物価が上昇したとしても、「実質所得が減少して消費を冷やし、生活の質は低下する」と指摘。日銀は物価目標の位置付けを柔軟な方向に修正すべきで、「そうすることが異次元の金融緩和の正常化につながる」との見方を示した。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-08-04/OU56G96JTSE901

米雇用統計:7月は20.9万人増、予想上回る−娯楽や製造業で伸び
Michelle Jamrisko
2017年8月4日 23:40 JST

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米国の労働市場では7月に市場予想を上回る雇用者の増加がみられた。失業率は16年ぶり低水準に並び、賃金の伸びも予想を上回った。

  米労働省の4日発表によると、非農業部門雇用者数(事業所調査、季節調整済み)は前月比20万9000人増加。ブルームバーグがまとめたエコノミスト予想の中央値は18万人増だった。
  家計調査に基づく7月の失業率は4.3%で、エコノミスト予想に一致した。

  平均時給は前月比で0.3%増で、市場予想に一致。前年同月比では2.5%増と、予想の2.4%を上回った。週労働平均時間は34.5時間で、市場予想に一致した。
  7月は広範にわたり雇用増が見られたが、特に娯楽・ホスピタリティ関連が2015年9月以来で最も雇用者が増加した。製造業や教育、ヘルスケア関連も5カ月ぶりの高い伸びとなった。

https://assets.bwbx.io/images/users/iqjWHBFdfxIU/isBYZ3weJDu0/v2/-1x-1.png

  ジェフリーズのチーフ金融エコノミスト、ウォード・マッカーシー氏(ニューヨーク在勤)は「労働市場は引き続き非常に良好だ。見通しも極めて明るい」と述べ、「民間部門では今も多くの求人があり、あらゆるスキルレベルにおいてほぼ完全雇用に近づいている」と指摘した。
  労働参加率は62.9%と、前月の62.8%から上昇した。フルタイムでの職を望みながらもパートタイム就労を余儀なくされている労働者や、職探しをあきらめた人などを含む広義の失業率は8.6%で前月と変わらず。正社員を希望しながらもパートタイムで働く労働者は4万4000人減少して528万人だった。
  民間部門の雇用者は20万5000人増。市場予想の18万人増を上回った。前月は19万4000人増。政府職員は4000人の増加となった。
  製造業の雇用は1万6000人増、小売りは900人増、娯楽・ホスピタリティ関連は6万2000人の増加だった。
原題:Payroll Gain of 209,000, Wage Pickup Show U.S. Labor Strength(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-08-04/OU5YEGSYF01S01

エラリアン氏:「ますます心配になる」、米雇用増えても賃金伸びず
Natasha Rausch、Katherine Chiglinsky、Jonathan Ferro
2017年8月5日 02:00 JST

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FRBにできることではない、政府と議会の仕事だ−エラリアン氏
トランプ氏がツイート、7月の雇用統計は「素晴らしい」と自賛

独アリアンツの主任経済顧問を務めるモハメド・エラリアン氏は、米国では雇用が増加しているものの賃金の伸びは依然としてあまりにも低いと指摘。議会や政府が行動を取るべき緊急性は高まっていると述べた。
  エラリアン氏は4日、ブルームバーグテレビジョンとのインタビューで、「歴史を振り返れば今はまだ見限るべきではないが、予想に届かない経済指標が続いている。米経済はソフトパッチ(軟調局面)に入っており、しかもこのソフトパッチは長期化しそうだ」と発言。「従って、個人的にはますます心配になっている」と語った。
  米労働省が4日発表した雇用統計によると、7月の平均時給は前月比0.3%増、前年同月比で2.5%増。年間の賃金上昇率は過去2年、ほとんど変わっていない。エラリアン氏とのインタビューは、この統計の発表前に行われた。
  同氏はまた、米政策金利が引き続き過去最低付近にあるため、イエレン連邦準備制度理事会(FRB)議長が将来の金融安定を脅かさずに労働市場を活性化できる余地はほとんどないと指摘。インフラ投資の増額や税制改革、個人債務の過剰な負担を軽減する措置が必要だとして、「これはFRBにできることではない。議会や政権に可能な行動であり、実行するべきだ」と主張した。
  7月雇用統計では非農業部門雇用者数(事業所調査、季節調整済み)が前月比20万9000人増加し、市場予想を上回った。トランプ大統領は統計の発表後、「素晴らしい雇用者数が発表された。それに私は就任してまだ間もない」とツイッターに投稿した。
  
原題:El-Erian ‘More and More Worried’ About Wages, Even as Jobs Gain(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-08-04/OU64OP6KLVR401


FX Forum | 2017年 08月 5日 08:59 JST 関連トピックス: トップニュース
米雇用統計:識者はこうみる

[4日 ロイター] - 7月の米雇用統計は、非農業部門雇用者数が20万9000人増と、市場予想の18万3000人増を上回る伸びとなった。賃金も5カ月ぶりの大幅増となり、労働市場の引き締まりを示唆した。

市場関係者のコメントは以下の通り。

●FRBは9月にバランスシート縮小着手

<キャンター・フィッツジェラルドの金利ストラテジスト、ジャスティン・レデラー氏>

広範にわたり堅調な結果となった。時間当たり賃金は予想に沿ったものだった。

今回の結果は米連邦準備理事会(FRB)が9月にバランスシートの縮小に着手する方針を変えるものではなかった。次回利上げはその先の12月になる。

●バランスシート縮小・年内あと1回の利上げ軌道から外れず

<ウエルス・ファーゴ・ファンズ・マネジメントのシニア投資ストラテジスト、ブライアン・ジェイコブセン氏>

7月の雇用者数が予想を上回っただけでなく、これまで月の分も差し引きで上方修正された。

時間当たりの平均賃金前年比での伸びは2.5%増と前月から横ばいとなったが、少なくとも伸びは縮小はしなかった。

米連邦準備理事会(FRB)はバランスシート縮小に着手し、年内にあと1回の利上げを実施すると見られているが、今回の堅調な雇用統計とドル安が相まってこうした方針が変更される理由は見当たらない。

●賃金の理想は3.5%増、12月利上げ見込む

<ダン&ブラッドストリートのエコノミスト、ボディ・ガングリ氏>

足元雇用は拡大していることがうかがえ、統計は底堅く基調的な内容といえる。時間当たり賃金は前年比の伸びが2.5%だった。理想は賃金がさらに伸び、米連邦準備理事会(FRB)が快適とみなす3.5%に近づくことだが、だからといってFRBは今回の内容を過度に弱いなどとは判断しないはずだ。物価には間違いなく一定の上方圧力がかかっており、統計は金融政策の正常化の流れを阻害するほど弱いものではない。したがってわれわれは依然12月の利上げを予想する。

●低賃金の雇用増が平均賃金下押し

<シュワブ金融調査センター(ニューヨーク)の首席債券ストラテジスト、キャシー・ジョーンズ氏>

賃金が7月に伸びたのはよかったが、依然として中途半端な伸びにとどまっている。労働参加率はやや上昇した。統計は非常に底堅かったとはいえ、利上げ回数が年内あと1回との市場の予想は変わらないだろう。賃金に関しては、低賃金の雇用が増えることで、平均賃金を下押ししている点が問題といえる。

●賃金増鈍さ謎、引き締め継続にリスクも

<ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズの首席投資ストラテジスト、マイケル・アローン氏>

非農業部門雇用者数、民間部門雇用者数ともに力強い数字で、雇用増の裾野も幅広い。

だが労働市場がここまで引き締まっているにもかかわらず、賃金増のペースが前年比で2%台で低迷している謎は解消されていない。

イエレン米連邦準備理事会(FRB)議長は労働専門のエコノミストで、フィッシャー副議長も議長とそう遠くはない。正副議長ともにフィリップ曲線の理論を、献身的にとは言わないまでも、尊重している。この理論に従えば、失業率が4.3%まで下がれば、賃金は上昇すると考えられる。議長らは賃金増の鈍さに当惑しつつも、この理論が金融政策の引き締めを続ける自信にもなっている。学んできた知識に照らし合わせると、雇用がここまで改善すれば、ある時点で賃金増ペースが加速すると示唆されているからだ。

FRBがこのまま引き締めを継続し、インフレが想定通りに加速しなければ興味深い。そのリスクが向かう先は市場となるかもしれない。

*写真を追加します。

私たちの行動規範: トムソン・ロイター「信頼の原則」
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米雇用統計:識者はこうみる

NY市場サマリー(7日)
ドル全面高、強い雇用統計で米追加利上げ観測高まる=NY外為
http://jp.reuters.com/article/us-econ-job-idJPKBN1AK1WS

http://www.asyura2.com/17/hasan122/msg/862.html

[経世済民122] 「死ぬまで働く明るい老後」の無残。なぜ日本の年金は破綻したのか 安倍総理が消費税減税を決断 なぜ犯罪者には無職が多い
「死ぬまで働く明るい老後」の無残。なぜ日本の年金は破綻したのか
矢口新
2017年7月30日ニュース

日本人の老後の経済状態が、世界ランキングで見て最下位に近い状態に置かれているのをご存じだろうか?年金支給額を減らすことで、形としての制度を維持することはできても、日本の年金はすでに半ば破綻しているのだ。我が国はいったい何を誤ったのか?(『相場はあなたの夢をかなえる ―有料版―』矢口新)

プロフィール:矢口新(やぐちあらた)

1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。アストリー&ピアス(東京)、野村證券(東京・ニューヨーク)、ソロモン・ブラザーズ(東京)、スイス・ユニオン銀行(東京)、ノムラ・バンク・インターナショナル(ロンドン)にて為替・債券ディーラー、機関投資家セールスとして活躍。現役プロディーラー座右の書として支持され続けるベストセラー『実践・生き残りのディーリング』など著書多数。
※矢口新氏のメルマガ『相場はあなたの夢をかなえる ―有料版―』好評配信中!ご興味を持たれた方はぜひこの機会に初月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

死ぬまで働く以外に道はないのか? 最底辺に墜ちた日本人の老後

年金の支給開始年齢が75歳に?


大半の日本人は、優雅な年金生活などという大それた夢はもとより、つましい隠居生活も望めなくなりそうだ。
内閣府の有識者検討会が、公的年金を受け取り始める年齢を70歳より後にもできる仕組み作りを「高齢社会対策大綱」に盛り込む検討に入ったと報道された。有識者検討会の改定案を受け、政府が年内に決定する模様だ。
報道によれば、18日の検討会では、座長の清家篤・前慶応義塾長が「もっと先まで繰り下げ支給の幅を広げる可能性もある」と明かした。働ける元気な高齢者を支援する狙いで、検討会では、繰り下げできる年齢について「75歳とか、もっと延ばしてもいい」との意見が出たという。

2017年5月に発表された、経済産業省の次官と若手有志がまとめたという提言書(不安な個人、立ちすくむ国家[PDF])でも、日本が抱える多くの問題を列挙したのちに、「高齢者も働け」と締めくくっていた。こうした一連の流れを鑑みると、政府は、「働ける元気な高齢者を支援」することで、「日本の個人と国家の諸問題」を一気に解決したいのだろうか?

日本の年金制度は受給開始標準年齢が65歳で、60歳〜70歳の間で受給開始年齢を選択できる。65歳で受け取る年金額を1とした場合、60歳に繰り上げて受け取れば約70%に減額されるが、70歳に繰り下げて受け取れば1.42倍の年金額を受け取ることになる。
ちなみに直近の資料では、繰り上げ需給が35.6%、繰り下げ需給が1.4%となっているが、新しく受給対象となった人々だけを見ると、繰り上げ需給が10.9%、繰り下げ需給が2.0%と、受給年齢を先延ばしする傾向が顕著に見られている。

出典:平成27年度厚生年金保険・国民年金事業の概況:繰り上げ・繰り下げ受給状況[PDF]
https://d16tvlksr2me57.cloudfront.net/p/money/wp-content/uploads/2017/07/30174355/170730yaguchi-01.jpg

仮に85歳まで生きるとすれば、国民年金平均受取額の年間67万円を65歳で受給開始した場合、受け取れる金額は20年間で総額1,340万円となる。これを70歳まで受給を繰り下げれば、67万円×1.42倍の年間951,400円×15年で総額1,427万円と、繰り下げた方が受取額は6.5%、約87万円増える。

では、75歳まで需給を繰り下げるとどうなるだろうか?65歳で受給開始に比べ年間の受給額は約2倍となるが、85歳まで生きられても受取期間が半減するので、受取総額は65歳で受給開始したのとほぼ同額となる。もっとも85歳を超えて生きれば、得することになるので、余生がより楽しめる。これが、「働ける元気な高齢者を支援」するという意味なのだろうか?

2017年 世界年金受給者生活水準ランキング

投資銀行「ナティクシス・グローバル・アセット・マネジメント」社による「2017年世界年金受給者生活水準ランキング」で、日本は調査対象43カ国中、総合順位で22位となった。

出典:Natixis 2017 Global Retirement Index [PDF]
https://d16tvlksr2me57.cloudfront.net/p/money/wp-content/uploads/2017/07/30175735/170730yaguchi-02.jpg


ところが、その内訳を見てみると、日本は「健康状態ランキング」では6位に浮上するが、「モノの豊かさランキング」では12位に下がる。そして、「生活の質ランキング」では圏外に落ちてしまう。

トップ10は様々な先進国指数でも上位の常連国なので、そんなものかと納得できなくもないが、全体として「この国よりも日本の生活の質はひどいのか」と衝撃を感じざるを得ない結果だ。もっとも、「生活の質」という概念は漠然としたものだ。日銀の金融政策のように「マインド」で乗り切れる範囲なのだろうか?

しかし日本は、「退職後の経済状態」という具体的なランキングでも圏外なのだ。

このランキングで特徴的なところは、トップ10のうち、欧州の国々はスイスとエストニア、ノルウェーだけということだ。ドイツやオランダでさえ、20位にも入っていない。その理由は、少子高齢化、高水準な公的債務、高税率が、欧州各国の年金制度の持続性や老後の生活に影を落としているからだ。

日本が、生活の質ランキングや退職後の経済状態ランキングで下位に低迷する原因も、欧州と同じだ。もっとも、日本人は老齢でも健康なので総合順位では中位にまで浮上するわけだが、国の方針に従えば、そのぶん死ぬまで働かされることになる。

Next: どこまでも減少していく年金支給額、あなたはいくら受け取れる?

日本の年金制度の実態は「10割負担」

公的年金は世代間扶養とされている。現役世代が支払った国民年金保険料、あるいは厚生年金保険料、共済年金保険料が、政府からの同額補助を受けて基礎年金勘定としてプールされ、60歳〜70歳以上の年金受給者に給付されている。
この時、国民年金加入者は基礎年金だけを受け取るが、厚生年金や共済年金の加入者には基礎年金に上乗せ分が給付される。これはサラリーマンや公務員の方が、拠出段階でより多くの支払いをしているからだ。厚生年金保険料や共済年金保険料は給与から天引きされ、会社や役所からの補助を加えて支払われている。

保険料の拠出額は、平成16年(2004年)の年金制度改正までは、少なくとも5年に一度の財政再計算を行い、給付と負担を見直して財政が均衡するよう、将来の保険料引き上げ、計画を策定していた。

しかし、少子高齢化の急速な進展にともない、当時の方法のまま給付を行う場合、将来的に保険料水準が際限なく上昇してゆくことが懸念されたことから、将来の保険料負担を固定し、その範囲で給付を行うという、新たな年金財政の運営方法がとられるようになった。

このことは同時に、将来の保険料負担を固定したままで、少子高齢化の進展が進むと、将来的に給付水準が際限なく減少していくことを意味している。

つまり、65歳で受け取れる年金額を1とした場合、70歳から受け取ることを選択すれば、1.42倍増で受け取ることができ、75歳まで延ばせば約2倍で受け取ることができるようにはなるが、基準となる65歳で受け取れる年金額が際限なく小さくなる可能性も示唆しているのだ。

また、平成16年(2004年)の年金制度改正では、基礎年金の政府(国庫)負担割合を、それまでの3分の1から、5年間で段階的に2分の1にまで引き上げた。もっとも、国庫は国民が支払った税金で成り立っているので、税収が増えなければ、財政赤字が膨らむか、増税するかのどちらかとなる。実質的には、国民が10割負担しているのだ。

国民年金保険には、第1号から第3号までの被保険者がいる。第1号がいわゆる国民年金、第2号がいわゆる厚生年金(1〜4号)、第3号は以下の通りだ。
 第1号被保険者:自営業者や学生等
 第2号被保険者:厚生年金保険の加入者(会社員等)及び共済組合の加入者(公務員等)
 第3号被保険者:会社員や公務員など国民年金の第2号被保険者(夫など)に扶養される配偶者(20歳以上60歳未満)

第3号被保険者である期間は、第1号被保険者期間と異なり、保険料を自身で納付する必要はなく、保険料納付済期間として将来の年金額に反映される。また、第2号の厚生年金は、さらに1〜4号に分類され、
 第1号厚生年金被保険者は、民間企業のサラリーマン
 第2号厚生年金被保険者は、国家公務員共済組合の組合員
 第3号厚生年金被保険者は、地方公務員共済組合の組合員
 第4号厚生年金被保険者は、私立学校教職員共済制度の加入者
となっている。

65歳夫婦に月額133,972円、今後はさらに激減も

厚生労働省が2017年3月に発表した報告書によれば、国民年金(老齢基礎年金)の平均支給額は、月額で55,244円となっている。また、新しく受給者となった人々の平均は3,000円以上少ない。
国民年金の制度上の支給額は、月額64,941円だが、これは40年間保険料を支払った場合の満額で、実際に、この金額をもらっている人は少ない。
一方、厚生年金第1号の平均支給月額は147,872円となっている。これは、60歳以上、100歳を超えている受給者も合わせた平均だ。

とはいえ、65歳を基準とする、新規に受け取り始めた受給者の平均年金月額は82,081円に下がる。

厚生年金の場合、加入期間や報酬によって、支給される金額に差が出てくる。従って、男女差も大きい。厚労省による40年間サラリーマンとして働いた夫(厚生年金第1号)と、専業主婦(国民年金第3号)の組み合わせモデルでは、合わせた支給額が221,277円となっているが、これも、60歳以上、100歳を超えている夫婦受給者をも合わせた平均となる。

新規に受け取り始めた厚生年金受給者の平均年金月額は82,081円、国民年金が51,891円なので、共に65歳のサラリーマン夫と、専業主婦の組み合わせでは、夫婦で月額133,972円受け取ることが期待できることになる。
これでは、優雅な年金生活などという大それた夢はもとより、つましい隠居生活も望めない。そして、仮に少子高齢化が今後も進むとすれば、この金額が激減することがあっても、決して増加することはないのだ。また保有資産があっても、政府の政策通りにインフレが到来すれば、その購買力は減少していく。
ちなみに、本記事でデータを参照した「平成27年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」には、公務員などの年金額の資料が省略されている。私が、あえて触れなかった訳ではないので、悪しからず。

Next: 日本人の老後を犠牲に、形としての年金制度だけが維持される

年金制度は維持できるか?

結論を言えば、平成16年(2004年)の年金制度改正で「維持できるように改正した」。つまり支給額を減らせば、形としての年金制度は維持できるということになる。逆に言えば、現状の「共に65歳のサラリーマン夫と、専業主婦の組み合わせで、夫婦で月額133,972円」は、すでに半ば破綻しているということだ。
しかも、ここで少子高齢化が進めば、これが将来にわたっての上限となる。将来に向けては、今がピークなのだ。

また、その少子高齢化の大きな要因が「結婚できない経済」にあることから、消費税でも撤廃しないことには、歯止めがかかる見通しは立たない。

【関連】日本はなぜ超格差社会になったのか?その「制裁」は1989年に始まった=矢口新

日本経済は消費税を導入した1989年の翌年から成長鈍化し、デフレが始まった。また、消費税率を3%から5%に引き上げた1997年からは縮小が始まった。

GDPとインフレ率の推移
https://d16tvlksr2me57.cloudfront.net/p/money/wp-content/uploads/2017/07/30183929/170730y-a01.jpg

この間に世界経済の規模が3倍以上に拡大したことを鑑みれば、資本力、教育レベルや技術力などに問題のない国が、どうすればここまで経済を悪化させることができるのかと、ケーススタディの材料にもなるくらいの異常事態だ。
こうして見ると、前述の政府や官庁の提言書などに協力している日本の経済学者たちは、ノーベル賞にも値するかもしれない格好の研究テーマにそっぽを向いているとしか思われない。

世界経済との比較だけではない。20年にもわたるほぼゼロ、あるいはマイナス金利政策や、未曽有の資金供給を続けながら経済成長が縮小したという事実に、政府、政策担当者、政治家、官僚、経済学者たちは、本気で目を向けていただきたい。あなた方の政策や提言で、こうなったのだから。

この流れを逆転させることなしには、「結婚できない経済」が続き、少子高齢化は進展、年金の受取額は減少し続けることになる。

世界の名目GDP推移
https://d16tvlksr2me57.cloudfront.net/p/money/wp-content/uploads/2017/07/30183927/170730y-a02.jpg

日本人の老後が、世界的な退職後の経済状態ランキングで最下位に近いことはすでに述べた。主な要因は、世界一の水準にある公的債務だ。
平成16年(2004年)の年金制度改正で、基礎年金の政府(国庫)負担割合を、それまでの3分の1から、5年間で段階的に2分の1にまで引き上げた。とはいえ、国庫は国民が支払った税金で成り立っているので、税収が増えなければ、財政赤字が膨らむか、増税するかのどちらかとなる。

ところが、税収は消費税を導入した1989年の翌年にピークをつけており、その後の景気対策などの歳出増を補えず、財政赤字は膨らむ一方だ。赤字の穴埋めには公債(国債)を発行して借金するので、公的債務も増加の一途だ。近年は、日銀の購入により残高は減少しているが、父親の借金を母親が肩代わりしているだけで、家計の苦しさは変わらない。

財政の状況
https://d16tvlksr2me57.cloudfront.net/p/money/wp-content/uploads/2017/07/30183925/170730y-a03.jpg

こうした事実を鑑みれば、年金保険も、見返りのほとんどない事実上の税金に等しいという見方も、必ずしも行き過ぎとは思えない。そしてこうした負担自体が、経済をさらに縮小させているのだ。
Next: 「GPIFによる投機」に、日本人の老後を託してよいのか?

GPIFによる「投機」の行き着く先
もっとも、GPIFによる年金基金の運用が、こうしたすべての逆風を補ってくれれば、年金の受取額も減少せずに済むかもしれない。そこで、現状のGPIFの資産配分を見てみる。

GPIFの資産配分
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ここで指摘しておきたいのは、国内株式のパフォーマンスは、ドル円レートに強く影響を受けているということだ。これを為替リスクとみれば、外貨資産に加えて、大きな為替リスクを取っていることになる。
本来の資産運用は、それなりの利回りが得られる最もリスクの少ないものをコア資産とする。米国では、為替リスクのない米2年国債が1.35%、10年国債が2.25%ほどの利回りを提供しているので、決して十分な利回りだとは言えないまでも、コア資産とすることができる。

一方で、日本国債は、2年国債が-0.13%、10年国債が0.06%と、運用対象とは見なせない。マイナス利回りとは、100%で返済される債務に101%などの高値を支払うもので、リターンを得るには、102%など更なる高値で売るしかない。つまり、日本国債は保有できないほどの超高値で買い、更なる高値で売り抜けるしかない限界的な投機の対象なのだ。

こうしたことを促す、政府・日銀の政策は、保有できる投資ではなく、キャピタルゲイン狙いの投機を勧めているのだ。これでは保有が前提の安定した年金運用はできない。

円安だけが日本人の老後の望み?

外貨資産には為替リスクがあるが、他に選択肢はほとんどない。日本の対外純資産が世界一なのは、世界一国内に運用先がない国なので、為替リスクを取るしかないことを強く示唆している。

運用難が続く日本

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こうして見ると、円安だけが日本人の老後の望みとなる。もっとも、円安になれば円資産は目減りする。インフレになっても資産は目減りする。それよりは、消費税を撤廃し、経済成長に望みをかけることだ。これこそ本来、日本が採るべき正しい経済政策のはずである。


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首相、消費増税「予定通り」 19年10月に10%
2017/8/5 10:02 (2017/8/5 13:29更新)
 
 安倍晋三首相は5日午前の読売テレビ番組で、2019年10月に予定される消費税率10%への引き上げについて「予定通り行っていく考えだ」と述べた。財政健全化についても20年度の基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化と、国内総生産(GDP)に対する債務残高の比率の引き下げの「2つの目標に向かってしっかりと経済運営を行う」と語った。

 消費税率の8%から10%への引き上げは当初15年10月に行う予定だったが、政府は経済情勢を理由に2度にわたって先送りしている。19年10月の引き上げについても経済情勢を踏まえ、来年中に最終判断する見通しだ。

 首相は景気について「消費は緩やかに上がっているが力強さに欠ける」と指摘。賃上げについて「私も直接、経済界に強く働きかけていきたい」と語った。企業には「大変、内部留保が積み上がっているのは事実だ。来年の春闘に向けてしっかりと経済界にもその役割を果たしてもらいたい」と訴えた。

 憲法改正を巡っては「今後は(自民)党にお任せする。日程ありきではない」と重ねて強調。衆院解散・総選挙で与党の議席が3分の2を割ると憲法改正の発議が難しくなるとの指摘には「まず与党で案を考えなければいけない。同時に野党も含めてできるだけ多くの多数派を形成する努力を重ねなければならない」との考えを示した。衆院解散に関しては「頭の中は真っ白だ。まず経済の再生で結果を出し、国民の信頼を回復しなければいけない」と述べた。

 学校法人「加計学園」の獣医学部新設問題などを巡る自身の国会答弁に関して「政権発足以来、少しずつ成果が出てくるなかで、自分の気持ちの中におごりが生じたのかもしれない。それが答弁の姿勢に表れた」と語った。学校法人「森友学園」が開設を予定していた小学校の名誉校長に昭恵夫人がいったん就任したことには「もう少し二人とも慎重でなければならなかった」と述べた。

 北朝鮮を訪問して金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長と直接会う考えはないか聞かれ「北朝鮮は核・ミサイルについて廃棄すると約束しているが、その約束を裏切っている。そこにコミットしないと対話は成り立たない。今は圧力をかけるときだろう」と否定的な考えを示した。

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政府、安倍晋三、金正恩、予定通り、消費税率

触れられぬ消費増税 財政 消えかけた約束 (2017/7/27付) [有料会員限定]

地方税収7年ぶり減、16年度40.3兆円 円高で消費税目減り (2017/7/11 20:47)
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDE05H01_V00C17A8000000/


 

「政治生命をかけた冒険」安倍総理が消費税減税を決断するこれだけの理由=近藤駿介

2017年8月3日 ニュース

 
フリージャーナリストの田原総一朗氏が7月28日、内閣支持率をV字回復させる秘策として安倍総理に進言したという「政治生命をかけた冒険」の中身とはいったい何か?結論を言えば、それは財務省を敵に回しての「消費税減税」である可能性が高い。安倍総理には、この「大冒険」に打って出るだけの合理的な理由が存在しているからだ。(近藤駿介)

プロフィール:近藤駿介(こんどうしゅんすけ)
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験。評論活動の傍ら国会議員政策顧問などを歴任。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚を伝える無料メルマガに加え、有料メルマガ『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』好評配信中。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

安倍内閣は外交ではなく「経済」で乾坤一擲の大勝負に打って出る

「政治生命をかけた冒険をしないか」田原総一朗氏

支持率の急落に見舞われた安倍総理に、思いもよらないところから援軍が現れた。それは、7月28日昼、突如首相官邸を訪れ、総理と会食をともにしたフリージャーナリストの田原総一朗氏だ。田原氏と言えば、これまで安倍政権に対して厳しい発言を繰り返してきた著名ジャーナリストである。

8月3日に実施される内閣改造の陰に隠れる格好となっているが、田原氏が食事に手を付けることなく総理に持ち掛け、総理も応じたとされるこの「政治生命をかけた冒険」の中身が俄かに注目を浴びている。

安倍総理との会談後に記者団からの質問を受けた田原氏は、具体的な中身には言及しなかったが、「政治生命をかけた冒険をしないか」と提言したことを明らかにするとともに、幾つかのヒントを残していった。

「解散のような細かな問題ではない」
「連立のような話ではない」
「民進党、共産党、小沢さんも反対ではない」
「自民党内には反対する人がいる」
「今やるべきこと」
「安倍総理しかできない」
「言ったらぶち壊れてしまう」
「総理の進退ではない」
「(首相は)やるつもりじゃないか」

こうした田原氏の発言を手掛かりに、多くのコメンテーターが、急落した内閣支持率をV字回復させるために提案された「政治生命をかけた冒険」の内容がどのようなものなのか、様々な見解を披露している。そして、そのコンセンサスは北朝鮮や北方領土などを中心とした「外交」だということになっている。

北朝鮮やロシア相手に「冒険」はできない

しかし、筆者は「外交」分野での「冒険」である可能性は低いと考えている。

「外交」は相手があるものであり、安倍総理が「冒険」を仕掛けても、相手が総理の思惑通りに動いてくれる保証はない。

仮に北朝鮮やロシア相手に「政治生命をかけた冒険」を仕掛け、それが上手くいかなかった場合、本当に安倍総理の政治生命は断たれることになる。それを考えると、「外交」は「政治生命をかけた冒険」をする舞台としては相応しいものではない。

また、危険水域と言われる水準まで支持率が下がった安倍内閣が、支持率回復を目指して「外交」分野で「政治生命をかけた冒険」をするのは国益にとって危険すぎる。

いくら窮地に追い込まれた安倍総理でも、支持率回復のために国益面でのリスクを背負いかねない「冒険」に打って出るほど冷静さを失っているとは思えないし、安倍政権を支持しているわけでもない田原氏が、国益を損ないかねない「冒険」を提言することも考え難い。

外交では「人柄への低評価」は覆せない

忘れてはならないのは、安倍内閣の支持率が危険水域まで下がった理由は、「(総理の)人柄が信用できない」点にあるということである。

もし支持率低下の要因が「政策が悪い」「実行力がない」というものであれば、「外交」分野で失地挽回するための「冒険」に出ることは選択肢としてあり得ることである。

しかし、「(総理の)人柄が信用できない」と考えている国民の評価を、「外交」分野での「冒険」によって覆すのは容易なことではない。一般的に「人柄が信用できない」と思われた人の言動は、たとえ正当性を持ったものであっても好意的には受け入れられ難いからだ。

換言すれば、「人柄を信用できない」という評価を一発で覆すような政策は存在しないということである。官邸側が実績を積み上げていって信頼回復に努めたいという意向を示しているのも、それが分かっているからだ。

しかし、「人柄が信用できない」という理由で急低下した支持率を短期間に回復することが絶対に不可能なわけではない。それは、「支持率を回復する」という目標を達成するために、必ずしも「人柄」に対する信用回復が必要だとは限らないからだ。

Next: 「消費税減税」しかあり得ない!田原氏が総理に迫った冒険の中身

「政治生命をかけた冒険」=「消費税減税」

安倍総理にとって目下の目標は「支持率を回復する」ことであり、必ずしも「人柄が信用できない」という評価を払拭することではない。ここが田原総一朗氏が提言した「政治生命をかけた冒険」の要諦であるはずだ。

総理の「人柄」に対する不信感が強まる中で「支持率を回復する」ための必要条件は、「人柄が信用できない」という評価を埋め合わせてお釣りが来るくらいの魅力的な「実利」を、できるだけ多くの国民に提供することである。

こうしたことを考えると、田原氏が提言し、「(総理も)やるつもりじゃないか」とされる「政治生命をかけた冒険」とはズバリ「消費税減税」ではないかと筆者は考えている。

安倍内閣支持率の急落の原因は「人柄が信用できない」というものであるが、低支持率の底流にあるのは、多くの国民が「アベノミクスの恩恵」をいつまで経っても得られないという経済政策に対する不満である。もし、アベノミクスの恩恵が、期待通りに多くの国民に及んでいれば、「人柄が信用できない」という理由でここまで支持率が急落することはなかったはずである。

アベノミクスは、日本経済における戦後3番目に長い景気回復を達成し、株価も倍になり、有効求人倍率もバブル期を上回るなど、経済指標上では良好な成果をあげてきた。しかし同時にそれは、八割方の国民にとって景気回復の実感なき「国民の共感を得られていない成果」であることも事実である。

この「景気回復の実感」を醸成するために必要不可欠なのは、国民の多くが自分のところにお金が流れてくることを感じることである。多くの国民がアベノミクスによる景気回復の実感を得られていないのは、その恩恵が収入増という形で及んでくる気配すら感じられないからに違いない。

こうしたことは個人消費の低迷となって表れている。個人消費低迷の原因は単純なものではないが、そのきっかけとなったのが2014年4月から実施された消費税8%への引上げであることは確かである。

安倍総理にとっての「心外」

有識者のほとんどが太鼓判を押した消費増税によってアベノミクスが腰折れしたことは、必ずしも消費増税に積極的ではなかったとされる安倍総理にとって心外だったはずである。それを裏付けるように、安倍総理は2016年11月に消費税率10%への引上げ時期を2017年4月から19年10月に再延期する税制改正関連法を成立させ、同じ轍を踏まないようにしている。

安倍政権は個人消費を喚起するために財界に対して賃上げ要請を行っているが、思うような成果は挙げられていない。それによって、安倍政権が目論んでいた企業が潤うことで従業員にまで恩恵が及ぶという「トリクルダウン政策」はもはや死語と化している。

アベノミクスで日銀がばら撒いた資金のほとんどは日銀に還流し、量的緩和による円安などによる恩恵のほとんどは大手企業に独占された格好になっており、中小企業や国民には流れてきていないのが実情である。

Next: 迫るタイムリミット。安倍総理の「理想の死に際」はどちらか?

消費税減税はハイリスク・ハイリターンな冒険

「消費税減税」のメリットは、景気回復の実感を得られていない多くの国民に対して、政策効果を直接感じてもらうことのできる数少ない政策であることだ。消費税は逆進性の高い税でもあるので、「消費税減税」によって格差社会を生み出しているという批判を和らげることも期待できる。

「異次元の金融緩和」を行っている日銀は、個人消費低迷の要因について、長期に及ぶデフレ経済によって国民の「デフレマインド」が強まった結果だと分析している。しかし、「デフレマインド」以上に強いのは、高齢化社会の進行に伴って膨れ上がる社会保障費の財源を背景とした「増税マインド」である。

「消費税減税」は、こうした「増税マインド」に一旦歯止めを掛けることで、日本経済の大きな課題となっている個人消費を喚起できる可能性を秘めた「冒険」だと言える。

「消費税減税」は、その財源問題とともに財政規律を重視する人たちからは無責任な政策として大きな非難を浴びる可能性もある。そして、「増税=勝利」「減税=敗北」と考える財務省を敵に回しかねない危険な「冒険」である。

安倍総理にとって「理想の死に際」はどちらか?

財務省を敵に回すことは、安倍総理にとってまさに「政治生命をかけた大冒険」である。しかし、「内閣支持率が30%を割り込むと1年以内に政権は倒れる」というジンクスが生きているとしたら、「人柄が信用できない」という理由で政権が倒れるのと、消費税減税で財務省を敵に回すことで政権が倒れるのと、どちらの死に際を選ぶかという安倍総理の決断の問題でもある。

相次いだ閣僚の不祥事や自身の体調不良によって「政権を投げ出した総理」というレッテルを貼られた経験を持っている安倍総理は、「憲法改正を成し遂げた総理大臣」として歴史に名を残そうとしている。しかし、今のままでは「傲慢な政権運営で急激に支持を失った総理」という新たな汚名を着せられるだけになりかねない。

たとえ政権を維持できなくなったとしても、「傲慢な政権運営で急激に支持を失った総理」としてではなく、「個人消費を喚起して経済を立て直すために消費税減税を唱え、敢然と財務省などの抵抗勢力と戦って散った総理」として歴史に名を残すほうがはるかに得なはずである。

ここに来て、自民党内からは2020年度の基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)の黒字化目標を取り下げることを検討するという「消費税減税」に追い風となる動きも出てきており、こうした風をうまく利用すれば「支持率を回復する」という目的を達成することも不可能ではない。

Next: 安倍総理には財務省を敵に回すだけの合理的な理由が存在している

安倍総理には財務省を敵に回すだけの合理的な理由がある

「消費税減税」は、有識者の常識からすれば奇策、邪道かもしれないが、

「民進党、共産党、小沢さんも反対ではない」
「自民党内には反対する人がいる」
「今やるべきこと」

など、田原総一朗氏が示唆した条件をすべて満たす数少ない政策であることは間違いない。

見誤ってはいけないのは、安倍内閣が目指しているのは「(できるだけ早く)支持率を回復させる」ことであり、必ずしも総理の「人柄に対する信用を回復させる」ことではない、という点だ。

「消費税減税」に対しては強い反対論が出ることは間違いなく、支持率が急回復するかは定かではない。しかしそれは、財務省や有識者たちを味方につけるか、アベノミクスの恩恵を感じていない多くの国民を味方につけるかという選択の問題でもある。

そして今の安倍内閣にとっては、アベノミクスの恩恵を感じていない多くの国民を味方につけたほうが「支持率の回復」には近道なのは間違いない。

「消費税減税」によって「増税マインド」が薄れ、個人消費を喚起することができれば、「政策に期待が持てる」という評価とともに支持率が上昇する可能性は十分に考えられる。

減税によって家計に余裕が生まれ、それが安倍内閣の支持率を上昇させ、さらにそうした提案をした田原氏のジャーナリストとしての評価が高まれば「三方よし」となる。安倍総理に批判的であった田原氏がわざわざ敵に塩を送るような行動に出たのも、その提案が「三方よし」だと感じたからに違いない。

「消費税減税」は、財務省を中心とした財政規律派を敵に回す大きなリスクを負う「冒険」だが、危険水域まで支持率が急落し政権基盤が揺らいでいる安倍総理にとっては、「政治生命をかけた冒険」として決して悪くない選択肢であるはずだ。

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【関連】内閣改造はなぜ愚策なのか? 安倍総理が「こんな人たち」に負ける理由=近藤駿介

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http://www.mag2.com/p/money/274442/4?l=tnz04c614d

 

「孤独力の欠如」が生む転落劇。なぜ犯罪者には無職が多いのか?=午堂登紀雄

2017年8月1日 ニュース 
「孤独に弱い人」ほど、社会に対して敵意を持ちます。世間はなぜ自分に冷たいのか? なぜ自分の思い通りにならないのか? 不満ばかりが溜まっていくのです。今回は「孤独」との正しい向き合い方を考えてみます。(『午堂登紀雄のフリー・キャピタリスト入門』午堂登紀雄)

※本記事は有料メルマガ『午堂登紀雄のフリー・キャピタリスト入門』2017年7月24日号を一部抜粋したものです。興味を持たれた方は、ぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:午堂登紀雄(ごどう ときお)
米国公認会計士(CPA)。1971年生まれ、岡山県出身。中央大学経済学部 国際経済学科卒。株式会社エディビジョン代表取締役。一般社団法人 事業創造支援機構代表理事。

「孤独」の光と影。あえて人を避けるなら次に転落するのは自分だ

孤独力の低い人は社会に恨みを持つ

ひとりの時間を楽しめない人、つまり孤独力の低い人間は、ヒマがあるとろくでもないことを考えるようになります。

実際、犯罪を犯して逮捕される人の共通点はほぼ「無職」であるように、彼らは何もすることがなく孤独な状態になると、自分が何者なのか、何をすればよいのかわからなくなります。

彼らは、自分の思い通りにならない人生、今の不満な状態に対し、それを改善・解決するために何をすべきかに考えが及びません。なぜなら、そのような内面の作業の経験がないからです。

だから自分が何をするかではなく、世間はなぜ自分に冷たいのか、なぜ自分の思い通りにならないのかと、不満ばかりが溜まります。それはやがて社会に対する敵意や憎しみとなり、放火や無差別殺人によって主張しようとします。

では、なぜそういう犯罪という形でしかアピールできないかというと、おそらく2つの理由が考えられます。

ひとつは、自分が注目を集めたい、自分という存在を見てほしいという欲求だけが強くなりすぎ、善悪の区別がつかなくなること。一方、「良い行い」というのは、周囲に対するインパクトがありません。ゴミ掃除をしても注目を集めることはありません。しかし、犯罪は一瞬にして皆を振り向かせることができ、自分の思いを巨大化させて知らしめることができます。

もうひとつは、仕返しの感情です。彼らは思考のレベルが浅いので、ざっくりと「世間」「社会」というあいまいなものに敵意を抱きます。具体的に誰に何を求めているのか、考えも及びません。だから対象は誰でもいいのです。

そして周囲に迷惑をかけ、慌てたり困っている人を見て安心します。不幸なのは自分だけじゃないし、もっと不幸になった人を見て、「ざまあみろ」と自分の溜飲を下げているわけです。

思考のレベルが浅いがゆえに「その見返りとして何が得られるか」「その行為の結果、自分がどういう事態になるか」という想像力すら失くしてしまうのです。

Next: 本当の意味で孤独を楽しめる人間は「絶対的な孤独」に陥らない

孤独に効く処方箋

こういう人に対する処方箋のひとつは、毎日疲れてバタンキューになるまで活動レベルを上げることです。

実はうまくいっていないという不満を持つ人ほど、日々の活動量が足りていないのです。不満を感じるほど体力が有り余っているわけですから、何も考えられなくなるほど何かに必死で取り組むことです。

「疲れた、とにかくもう寝たい」くらいにへとへとになれば、「こんないたずらをしてやろう」「こんなことをして社会に仕返しをしてやろう」というエネルギーすら出てきませんから。

人間の本能として、過酷な状況下では、今日を生き延びようという生存本能が強く刺激されます。どうすれば生き残れるかという思考は、どうすれば成果を出せるかという前向きなメンタルの獲得につながります。

いたずらや仕返しは自分の生存とは関係ありませんから、そういう行為はひどく幼くバカバカしく感じられます。

かつて悲惨な事故があった某ヨットスクールも、そうやって多くの若者を立ち直らせてきたわけですから、行き過ぎただけで、心理学的には非常に理にかなっている方法と言われているのもそのためです。

実際、僧侶の修行は荒行だったという話を聞いたことがあるのも、肉体を過酷な状態に追い詰めることが、悟りを開くための精神の修養につながるのだと、昔の人も知っていたのでしょう。

そしてこれはそんな特別なことではなく、スポーツや営業の世界でも、過酷な練習や仕事を経験してきた人のほうが心が成熟しているというのは、どの分野でも同じなのかもしれません。

本当に孤独な人間などいない

孤独になるのはイヤだからと、無理をしてでも誰かとつながろうとする行為。繰り返しになりますが、それは自分を隠して接することですから、相手も心を開いてくれず、結果としてむしろ心の孤立を招いてしまいます。つまり自分をさらけ出すことは、孤立しないようにすることです。

一方で、自立した人間は、孤独にはなりません。というより、孤独を楽しめるから孤独を感じることがないという方が正確でしょうか。

どんな人でも、自分から人間関係を避けようとしなければ、全員からハブられることはありません。学校でも、仮にネクラであっても、同じような人が近づいてくる。パーティーでも、ポツンと1人で立っている人に声をかけるような人もいます。

あるいは、そもそも他者に興味関心が薄く、誰かをハブるとか疎外するとかいう発想がない人もいるでしょう。だから孤独を恐れて自分を抑えつけないことです。

Next: 徹底的に人を避ける「絶対的な孤独」には転落の罠が潜んでいる

絶対的な孤独を求めてはいけない

しかし、孤独に悩む人の中には、自ら人間関係から距離を置く人が少なくありません。たとえば男性に多いですが、自分から人付き合いを避け、社会から孤立していきながら、「世間は冷たい」「国は何もしてくれない」と嘆くパターンです。

こういう「絶対的な孤独」に慣れてしまうと、ますます人間関係が苦手になります。なぜなら、他者との距離感がつかめなくなるからです。

他人との関係があるから、自分の位置を確認できるし、他人との関係があるから、自分の個性を認識できるわけです。

絶対的な孤独の中では、自分を映してくれるものがないため、逆に自分がわからなくなることがあります。たとえば無人島で1人で生きていれば、自分はこう考える、なんてことを考えることそのものに意味を見いだせないでしょう。

孤独を恐れる必要はない。しかし人を避ければ、人間関係の刺激に弱くなります。人との接点を減らせば、人間関係に対して虚弱体質になり、ちょっとした行き違いや摩擦で、心がどうしようもなく不安になり、それがますます自分の心にバリアを張って、人との距離を作ってしまう。

そんな悪循環を作っているのが、若者に多いとされる引きこもりや、定年退職した高齢者男性によく見られます。
(続きはご購読ください<残約5,700文字>)

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ひとりでいると考え過ぎるという人は、考えが狭まっているだけ

悩みとは、自分のことをきちんと考えていない人

わが子の発達障害も明るい未来になる

「ありがとう」を口癖に

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http://www.mag2.com/p/money/272805/3?l=tnz04c614d
http://www.asyura2.com/17/hasan122/msg/867.html

[国際20] インドのしたたかさを知らず、印中対決に期待し過ぎる欧米 印中かつてない軍事緊張関係 中国軍道路建設で一触即発 戦争勃発か
インドのしたたかさを知らず、印中対決に期待し過ぎる欧米
2017年8月5日(土)12時30分
河東哲夫(本誌コラムニスト)

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インドビジネスの強みはバランス感覚 Mukesh Gupta-REUTERS
<係争地で緊張を高めるかに見える「竜(中国)」と「象(インド)」。それでも対中包囲網の強化を期待できない理由とは>

これからの世界の両雄、中国とインドの関係がきな臭い。

6月16日に中国軍はブータンとの係争地ドクラム高地に侵入して、道路建設を開始した。ここはインドの中心部と北東端アルナチャルプラデシュ州を結ぶ回廊に近い戦略地点。中国軍はブータンとインドの抗議を尻目に居座っている。

今回の関係悪化は4月に始まった。4日にチベット仏教の最高指導者でインドに亡命しているダライ・ラマ14世がチベットのすぐ隣、アルナチャルプラデシュ州を訪問し、約1週間滞在してからだ。

5月14日に北京で開かれた一帯一路サミットにインドは参加を見送った。中国がインドと係争中のカシミール東部で開発を進めようとしていると不快感を表明し、国境問題を持ち出した形だ。さらに6月3日朝に、中国軍の攻撃ヘリがインド北部のウッタラカンド州に侵入した。

インドと中国は決別した――そう早とちりして欧米がインドを引き込むチャンスと思い込むと手痛い目に遭うだろう。インドはアジアインフラ投資銀行(AIIB)の創設メンバーだ。中国も6月9日の上海協力機構(SCO)首脳会議で、これまでの抵抗をやめてインドの加盟を認めている。

インドは米中ロ各国と付かず離れず、バランスを取るのにたけている。例えば軍事面でインドはロシアと陸海空の共同演習を、日米とは東シナ海やインド洋で海軍共同演習を定期的に行う。さらに中国を南北で挟む位置にあるモンゴルとも小規模共同演習を行う一方で、インドは中国とも共同演習を続けている。

【参考記事】「インドと戦う用意ある」中国が中印国境で実弾演習

親密な「竜象共舞時代」
インドにとってこれまで、最大の脅威は隣国パキスタン。もともと一つの国だったのが宗教を理由に別の国となり、カシミールで領土係争を抱え、テロを仕掛けてくるからだという。

だが、中国はいま押せ押せムードだ。ネパールではインドの影響力を覆す勢いだし、アフリカ東部のジブチに海軍基地を設けた。さらにインド洋ではパキスタンのグワダル港やスリランカのコロンボ港などの整備も手掛け、モルディブでも地歩を築いている。まるで「真珠の首飾り」でインドを締め上げるかのようだ。

ただ、インドは中国海軍を深刻な脅威とは思っていない。中国艦船の多くはマラッカ海峡を通ってインド洋に入る。その途上にあるアンダマン・ニコバル諸島にはインド海軍の基地があり、中国海軍を捕捉できる。インド海軍には中国空母「遼寧」に匹敵する空母もある。

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だからインドはこれまで安心して中国の経済力を利用してきた。モディ首相と習近平(シー・チンピン)国家主席の仲はよく、中国語の読本にも「竜象共舞時代」との標語が出てくる。16年の印中両国間の貿易額708億ドルのうち、中国からインドへの輸出額は583億ドル。インドで中国製品の存在感は圧倒的で、家電ばかりか、ヒンドゥー教の神像など外国人観光客が買う土産物までが中国製だ。中国製日用品の一大集散地である浙江省義烏には、インド人バイヤーが押し掛けている。

インドの街を歩くと、地下鉄の工事現場に円借款供与案件であることを示す日の丸印のすぐそばに、中国の建設企業の看板が立っている。価格や工期などで優れている中国企業が落札してしまうのだ。

【参考記事】アジア首脳が次々ドイツを訪問、一体どちらの思惑か

インドは米中ロのいずれにもなびかない。中国との対立を売りに欧米各国から支援を得ながら、中国ともしっかり裏で手を握る。13年には国境防衛協力協定を結び、不測の衝突を防ぐための一連の措置を合意しているのだ。

タフな交渉で知られるロシアの外交官がある時、こうこぼしていた。「インドほど交渉上手な国はない。ロシアの戦闘機を買うと言って喜ばせておいてから、何年も延々と値下げ交渉を仕掛けてくる」

今回の印中対立にも、余計な期待や過度の心配はやめよう。冒頭のダライ・ラマ視察への報復にすぎず、両国はそのうち和解するだろう。

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[2017年8月 8日号掲載]

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http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/08/post-8142.php


 

中国とインドがかつてない軍事緊張関係に
中国軍による道路建設で一触即発状態、戦争は勃発するか
2017.8.7(月) 長尾 賢

インドの首都ニューデリーで、中印の国境をめぐる対立を受け、中国大使館の前で抗議する活動家ら(2017年7月7日撮影、資料写真)。(c)AFP/Money SHARMA〔AFPBB News〕

 「国家は戦争をしない」と考える人は多いのではないだろうか。戦争をしない方が賢く見える要因がたくさんあるからだ。
 例えば、核兵器を保有する国同士が戦争をすれば、利益に見合わない大きな損害が出る。昨今の経済的な相互依存関係から見ても同じだ。だから損得計算からして戦争に踏み切るような決断はあり得ない。
 しかし、このような意見は第2次世界大戦のような大戦争には適用できても、より小規模な戦争にも適用できるのだろうか。また、英国がEUから離脱したような、経済合理性からは説明しにくい事態が起きる可能性はどうだろうか。
 より細かな想定をしていくと、国家間で本当に戦争は起きないのか、疑問に思えてくる。
 最近、インドと中国の国境地帯(厳密には「実効支配線」)で起きている両軍のにらみ合いも、戦争に至る可能性のある危機なのかもしれない。きっかけは、中国がブータンと領有権争いを行っている地域で、中国軍が道路建設を行ったことだ。
 ブータンの安全保障を担うインドが阻止に入り、印中両軍がにらみ合い、次第に兵力を増強しながら、6月半ば以降1か月以上にらみ合っている。
 このような国境地帯における侵入事件そのものは小規模なものも含めると年間300件以上あり、ほぼ毎日だ。そのうち、少し規模の大きなにらみ合いが起きるのも、年平均2回程度ある。
 しかし、今回は若干、様相が異なる。
 中国軍の報道官が「過去の教訓(1962年の戦争でインドが中国に敗北した件)」から学ぶよう言及し、中国政府は、インド軍が撤退しない限り「交渉しない」と言及し、中国メディアも「外交以外の手段(戦争を指す)」を選択すると連日報道している。
 中国は「孫子の兵法」の国である。「孫子の兵法」では、戦争をするときは密かに準備し、奇襲を狙う。戦争をすると公言しているときは、戦争しない傾向がある。だから、そこから考えれば、今回、戦争になる確率は低い。
 しかし、過去に中国がインドに対して仕かけた軍事行動を分析すると、インドが中国に限定的ではあるが、軍事的な攻撃を仕かけてもおかしくない状況がある。そして中国がインドを攻撃するような事態になれば、日本も立場を決めざるを得なくなるだろう。
 そこで、本稿は、印中国境で何が起きているか、過去の事例を含め分析し、本当にインドと中国が交戦状態に入ったとき、日本がどうするべきか考察することにした。

1.国境地帯で何が起きているのか
 今、インドと中国の国境地帯で何が起きているのだろうか。ことの発端は、中国がチベット地域で行っている道路建設が、中国とブータンと領有権問題で争っている地域にまで伸びてきたことだ。
 結果、ブータンの安全保障を担うインドが兵を送り、これを阻止しようと立ちふさがった。
 中国側に言わせれば、インドの兵士が「中国の領土」に勝手に「侵入してきた」ことになる。そこでインドが兵を引かない限り、交渉しない、戦争に打って出る可能性もあると強調し始めたのである。
 上述の通りこのようなインドと中国の国境警備当局のにらみ合いは頻繁にある。しかし、今回はいくつかの点で以前にはない特徴がある。
 まず、中国側が明確に戦争をちらつかせていることだ。最近、中国は尖閣諸島、津軽海峡、鹿児島県沖など日本の領海に軍艦を侵入させているし、南シナ海でも埋め立てて7か所の人工島を造り、その上に武器を配置し、3つの軍用滑走路も建設している。
 しかし、これまで中国は、戦争や軍事目的であることを強調しないようにする傾向があった。
 ところが、今回のインドに対する事例では、1962年に両国が戦争に至り、中国が勝利したことを中国軍の報道官が明確に引用し、中国メディアも戦争にかかわるメッセージを頻繁に引用して、積極的に戦争をちらつかせている。
 実際、今回中国が建設している道路は、重量が40トンの大型車両の走行に耐えるものであるが、これは中国がチベットで実験を繰り返している新型戦車の走行に耐えるもので軍事目的に使用できる道路である。その点がこれまでと大きく違う。
 また、今回の地域は、インド側にとって軍事的な重要地域であることも特徴だ。
 地図を見ると分かるが、インドは大きく2つの地域、インド「本土」と北東部に分かれていて、その2つの地域は、ネパール、ブータン、バングラデシュに挟まれた鶴の首のような細い領土でつながっている。
 この細い部分は最も狭いところで幅17キロしかない。東京から横浜でも27キロ程度あるからとても狭い地域だ。この部分を攻められると、インド北東部全域がインド「本土」から切り離されてしまう安全保障上の弱点になっている。
 そのため、インドはブータンと協定を結んで、ブータンにインド軍を駐留させて守ってきた。
 1971年の第3次印パ戦争で、東パキスタンを攻め、バングラデシュを建国したのも、この安全保障上の弱点を克服することが目的の1つである。1975年にシッキム藩王国の民主化運動を支援し、結局はインドへの併合へと至ったのも、この安全保障の弱点を克服するためであった。
 今回、中国はこのようにインドにとって安全保障上重要な地域で、中国の戦車が移動できる道路を建設しているわけだ。そして、インドがこれを阻止しようとすると戦争をちらつかせて脅しをかけていることになる。大変強硬な姿勢だ。
図1:位置関係地図(筆者作成)
http://jbpress.ismedia.jp/mwimgs/d/c/-/img_dc91ba4fe92afd4a8f49e55b7131d5b850102.jpg

2.ミリタリーバランスは中国に有利
(1)中国側の動き
 このように中国がインドに対して脅しをしかける背景には、中国の方が軍事的に有利な現実がある。その根拠は、地形、インフラ、周辺国への影響力の3つである。
 中国が地形的に有利なのは、標高が高いからである。標高が高いところから低いところに攻めて行くときは、上から下を見るから全体を見渡してどこに向けて大砲を撃つべきか、分かりやすい。
 坂を駆け下るから攻めやすいこともある。弾薬やその他の補給品、重量物も運びやすい。しかも、もともと標高の高いところの空気に慣れている側は、高山病を克服できる。逆に、低いところから高いところへ攻めて行くインドはすべてで不利なのだ。
 そして、中国のチベット地域では、インフラ建設によって、さらに中国側に有利な状況を作りつつある。鉄道や道路網、トンネルが建設され、飛行場が増設されつつある。
 当初これらのプロジェクトは、江沢民が中国の国家主席だった時代の「西部大開発」計画としてスタートし、民生用のプロジェクトであったが、インフラ建設に伴い中国軍の移動も容易になった。その結果、中国軍の展開が活発になり始めたのである。
 国境地帯における中国側からインド側への侵入事件は、2011年は213件であったが、2012年は426件、2013年は411件、2014年は460件と上昇してきた。
 2015年10月に南シナ海で航行の自由作戦が始まる時期と同じくして数が減り、2015年は360件になったが、2011年に比べればまだ多い状況が続いている。中国は、戦闘機や弾道ミサイルの配備も積極的に進めている。
 さらに、中国は印中国境防衛にかかわる周辺国、パキスタン、ネパール、バングラデシュなどでも影響力を拡大させている。周辺国への政策もインフラ建設や軍事力の展開がメインだ。
 特にパキスタンへは「一帯一路」構想の一部「中国パキスタン経済回廊」構想に基づいて、印パ間で領有権を争っているカシミールで道路建設を行い、パキスタン軍との共同国境パトロールなども実施している。
 パキスタンへの武器の輸出は顕著で、インドは特に中パ間で共同開発した「JF-17戦闘機」を懸念している。
 ネパールへも道路を延伸し、武器を密輸している(インドとの協定でネパールはインドの許可を得ない限り武器を輸入できないことになっているから、中国からの輸入は密輸にあたる)。
 そしてバングラデシュに対しても、港湾建設や武器輸出などを通じて影響力を行使し始めている。
 武器は高度なのに乱暴に扱うからすぐ壊れ、修理や弾薬・修理部品の供給に依存する。中国製の武器を輸入するということは、中国に依存することを意味する。これら周辺国で中国製の武器が増えていることは、中国の影響力が増していることを示しているのだ。

(2)インドの対抗策
 そこでインド側も対処しようとしてきた。インフラを建設し、軍を再配置し、周辺国対策を進めようとしたのだ。印中国境地帯では、1997年に73本の道路が必要と判断し、そのうち61本の道路を2012年までに造ることにした。鉄道14本も計画した。
 軍の再配置も進め、戦車部隊、多連装ロケット部隊、巡航ミサイル、「Su-30戦闘機」の配備を進めている。その中で特に目玉となるのは新しい第17軍団の創設だ。
 この軍団は、中国よりも標高が低いという地形的に不利な状況を克服するために作られた。実はインドは過去、標高の高い所にいる敵と戦ったことがある。1999年の印パ間のカルギル危機だ。
 この時、インドは山の頂上に陣取る敵に対して攻撃することがとても困難で、敵の9倍の戦力で攻撃しないと勝てないことを知った。また、標高の高い所にいる敵を攻撃するためには、まず敵の補給を断つことが重要なことも再認識した。
 そこで第17軍団を創設することにしたのだ。第17軍団は空中機動軍団。敵が攻めて来れば、輸送機に乗って敵を飛び越え、敵の後方、より標高の高いチベットへ攻め込む。そして、敵の背後にある補給拠点を攻撃して敵を弱らせる。最後は、他の味方と連携しながら領土を奪回するのである。
図2:インドの陸軍師団配置図(赤い矢印が第17軍団、拙稿『検証 インドの軍事戦略―緊張する周辺国とのパワーバランス』(ミネルヴァ書房、2015年)251ページより更新)
http://jbpress.ismedia.jp/mwimgs/d/3/-/img_d30d0c19d5cb0f20b6757fe3956613a058426.jpg


図3:インド空軍戦闘飛行隊配置図(ミグ21を除く、拙稿『検証 インドの軍事戦略―緊張する周辺国とのパワーバランス』(ミネルヴァ書房、2015年)254nより更新)
http://jbpress.ismedia.jp/mwimgs/1/a/-/img_1a766b5c41cdca99b277fb8c69fe5207116554.jpg

 この第17軍団の構想を実現するには、多くの装備が必要だ。そこでインドは米国と協力している。第17軍団関連の装備では、大型輸送機、中型輸送機、大型輸送ヘリ、攻撃ヘリ、空輸可能な超軽量砲など、米国製の比率が非常に高い。
 さらに、インドは、周辺国対策も進めている。インフラ建設の支援と共に、武器輸入への影響力を狙った構想だ。
 例えば2017年に、バングラデシュが購入する武器の費用500億円をインドが肩代わりする協定を締結したのは、その一例だ。バングラデシュは、この資金で、中国製の戦闘機ではなくロシア製の戦闘機を購入することを検討している。
 もしバングラデシュがロシア製の戦闘機を購入すれば、インドもロシア製の戦闘機を使っているから、整備や訓練などの面で、インドがバングラデシュ空軍の維持管理にかかわることが可能で、インドのバングラデシュへの影響力を維持することが可能になる。
 これらの構想は、みな一定の進展がみられている。しかし、問題はその実現速度だ。例えば、インドの道路建設は、2012年までに73本中61本完成している計画だったはずだった。
 ところが実際には、2017年3月までに24本しか完成していない。第17軍団はすでに編成され、人員も揃ったのに予算が十分ではなく、規模を縮小するべきかの議論が行われている。
 周辺国への武器購入資金援助のプログラムはまだ始まったばかりで、どの程度中国の影響力を抑えることができるかまだ分からない。その結果、インドと中国の国境防衛能力には差が出てきた。
 インド軍と中国軍が国境まで一斉に競走した場合、中国軍は2日で到達し、インド軍は7日かかる見通しだ。中国はこのようなミリタリーバランスの状況を見て、今回のような挑発的な行動に出ているのである。

3.過去の事例からみた中国の真の目的
 しかし、もし中国が本当にインドを攻撃するとしたら、どのような目的があるのだろうか。領土が欲しいのだろうか。
 過去の中国の行動にそのヒントが隠されている。過去、中国がインドに対して攻撃的な軍事行動を行ったことは、少なくとも3回ある。1962年の印中戦争、1967年のナトゥラ事件・チョーラ事件、1986〜87年に起きた危機である。
 これらの3つの軍事行動の目的は何だったのだろうか。
 これらの3つの事件はすべて領土紛争を原因として発生しているのは確かだ。1962年の印中戦争では、西はカシミール、東はアルナチャル・プラデシュ州(中国名:南チベット)まで、インド中国双方が自国領だと主張しているところで戦った。
 1967年のナトゥラ事件・チョーラ事件においても、印中両国の境界を示す国境フェンスの建設において、わずか30センチの土地がどちらに帰属するかをめぐって5日間にわたり交戦した。
 1986〜87年の危機も発端は、中国軍がインド側のスムドロング・チュ(印中両方が領有権を主張するアルナチャル・プラデシュ州とブータンの接合点)へ侵入したことがきっかけであった。
 しかし、このような一見して領土紛争に見える3つの戦闘の真の目的は、領土でなかった可能性が高い。
 1962年の印中戦争においては、中国軍が圧倒的に有利な戦闘を展開していたにもかかわらず、自国領と主張していた領土のかなりの部分から一方的に撤退し、結局ほとんどがインド領になってしまった。
 1967年のナトゥラ事件・チョーラ事件においても、戦闘は中国側有利だったにもかかわらず、中国軍が一方的に撤退したため、やはりインド領になった。
 1986年中国軍の侵入については、インド軍が1個旅団派遣するファルコン作戦を実施、さらに全土で対中国演習を行うチェッカーボード演習を計画し、それに驚いた米ソが仲介に乗り出し、中国側は領土を取るどころか、インドとの関係改善を迫られる結果になった。
 つまり、中国側のインドに対する軍事行動は、領土紛争を理由にして起きているものの、実際には、本気で領土を確保しようとしてない。
 そもそも、中国とインドが争っている領土は、あまり魅力的な領土ではない。
 標高は5000メートル以上もあり、人はほとんど住んでおらず、開発も進んでいない。水以外の資源も特に見つかっていない。自然がとてもきれいなだけである。
 奪い取ることにどれほどの意味があるか分からない土地だ。だから、中国が、このような価値のない領土をめぐって攻撃を仕かけたことの方が不思議なのである。別の真の理由があったとみる方が自然だ。
 では何が真の理由だったのだろうか。
 もし中国にとっての利益は、より外交上の成果を狙ったものだと仮定すると、以下の説明が可能になる。
 例えば1962年の印中戦争は、米ソのどちらでもない非同盟諸国のグループにおいて、中国とインド、どちらが主導権を取るかの争いだった可能性がある。実際、印中戦争の後、非同盟諸国の間でインドはリーダー格には見られなくなり、中国との協力関係を強化する動きが続いた。
 1967年のナトゥラ事件・チョーラ事件においては、共産圏において中国とソ連のどちらが主導権を取るか、争っていたものとみることができる。
 当時、ソ連は、第2次印パ戦争の仲介役として印パ両国の停戦を実現し、存在感を示し始めていた。もともとインドに対する影響力の強いソ連が、パキスタンでも影響力を増すとなると、中国のパキスタンに対する影響力は低下していく。
 そのことを懸念した中国は、インドを攻撃することにした。中国がインドを攻撃すれば、ソ連はインド支持を、パキスタンは中国支持を明確にせざるを得なくなる。結果、ソ連とパキスタンの関係は悪化し、中国はパキスタンへの影響力を維持できる、というわけである。
 1986〜87年の危機についても、米中とソ連が争う世界的な構図の中で、中国がパキスタンへの影響力を維持しようとした可能性がある(各国の位置関係は図1参照)。
 当時、ソ連はアフガニスタンに侵攻しており、米国はパキスタンを通じてアフガニスタンのゲリラを援助していた。そこで、ソ連はインドに軍事支援する代わりに、パキスタンを攻撃してアフガニスタンのゲリラへの支援ルートを遮断するような作戦を要求した。
 実際、インドはソ連からの軍事援助を受けて戦力を近代化し、パキスタン攻撃を念頭に置いた大演習を準備した(「ブラスタクス演習」として実施)。
 これを見ていたパキスタンの同盟国である中国は、スムドロング・チュへの侵入事件を起こして、インド軍を自分の方に引きつけ、パキスタンとアフガニスタンのゲリラ支援ルートを救おうとしたのである。それによって、中国のパキスタンに対する影響力を保持するのが狙いだ。
 つまり、過去の3回の事例を見れば、中国がインドに対して軍事行動を取るときには外交的な目的がある可能性が高い。では、現代の中国にとって、インドを攻撃する真の目的はあるのだろうか。
 6月半ばから続いているインドと中国のにらみ合いの原因が、中国とインドではなく、中国とブータンの間で起きた領土問題に起因することは注目に値する。
 もしインドが中国の要求しているように兵を引けばどうなるか。ブータンは、インドはブータンを守ってくれないと考えて、インドのブータンに対する影響力が落ちることになる。
 インドが譲歩すれば、ブータンだけでなく、ネパールやバングラデシュ、スリランカ、モルディブ、ミャンマーなどのインドの周辺国からみて、インドは弱い国として見られる可能性がある。
 つまり、中国の軍事行動の真の目的には、他の周辺国に対して、インドと中国、どちらが影響力を有するか、争っている側面がある。
 中国は「強い」リーダー的存在の国であり、インドは「弱い」国であると証明したい。これは過去3回起きてきたことによく似ている。
 しかも、中国から見れば、インドのナレンドラ・モディ政権の政策は、挑戦的である。例えばインド海軍の艦艇は、かつては、日本に寄港すると中国にも寄港していた。ところがモディ政権成立の1か月前を最後に中国へ寄港しなくなった。
 モディ政権になってからのインド海軍の艦艇は、日本、ロシア、韓国、フィリピン、ベトナム、マレーシア、ブルネイ、シンガポール、インドネシア、オーストラリア、米国(ハワイ)などの国々へ寄港したり、共同演習している。
 これだけ訪問しているのに中国に訪問していないのは、インドのモディ政権が、中国軍のインド洋進出を不愉快に思っていることを示す明確なメッセージとなっている。中国から見れば、挑戦的だ。
 さらに、2017年4月には、中国が領有権を主張するインドのアルナチャル・プラデシュ州(中国名:南チベット)へのダライ・ラマの訪問を許可した。6月には、中国で行われた「一帯一路」サミットへのインド代表参加の招待を断っただけでなく、「一帯一路」構想に対する明確な反対の公式声明を出した。
 そこには、インドが領有権を主張するカシミールで中国軍が道路建設を行っていることへの不満や、援助される各国の現地の事情を顧みずに援助漬けにする中国のプロジェクトの在り方への批判が書かれている*1。
 そしてその直後に、日本と共に「アジア・アフリカ経済回廊」構想を打ち出し、日印主導の援助外交によって、中国への対抗心を明確に示している。
 中国から見ると、これらのインドの行動は、中国がリーダー的な存在であることを否定する挑戦的な姿勢である。だから、過去3回の軍事行動と同じように、中国の影響力を示す手段として軍事的な攻撃を選択することがあっても、不思議ではない。
*1=Ministry of Foregin Affairs Government of India, ”Official Spokesperson's response to a query on participation of India in OBOR/BRI Forum”, May 13, 2017
http://mea.gov.in/media-briefings.htm?dtl%2F28463%2FOfficial_Spokespersons_response_to_a_query_on_participation_of_India_in_OBORBRI_Forum
4.インドはエスカレーションで対抗する可能性
 インドはどう対応するだろうか。6月から続くインドと中国との国境警備当局のにらみ合いでは、インドは非常に抑えた対応をしている。
 中国側が1962年の戦争を引き合いに出して、インドが兵を引かない限り交渉もしないと、繰り返し述べているのに対し、インド側はほとんど沈黙を守っている。インドは落ち着いて対応している。
 もしこのまま中国側が攻撃に出なければ、事態はエスカレートしないで収まっていくかもしれない。
 しかし、にらみ合いが行われている場所の背後ではインドも中国も軍を準備させており、攻撃が行われた時の備えをしている。もし本当に中国がインドを攻撃するようなことがあったら、インドはどうするだろうか。それには、まず、中国がどのような攻撃をするか考えなくてはならない。
 もし中国が、インドを攻撃することを想定した場合、過去の1962年、1967年、1986年の例をみてみれば、中国の軍事行動は限定されたものになる可能性がある。
 例えば1962年に起きたことは、中国の陸軍は攻撃を仕かけたが、空軍は爆撃などに従事していない。
 1967年の戦闘も陸軍だけで、ナトゥナ峠、チョーラ峠周辺に限定されていた。1986年の事例に至っては、中国は侵入しただけで攻撃を行っていない。
 これには中国側の合理的な理由がある。まず、中国が、インドよりも「強い」ことを示すだけのために攻撃をすることを想定した場合、大きな戦争をする必要はない。
 次に、標高が高い方が有利というのは、陸上戦の場合だ。もし空軍を投入していれば、飛行場が標高の高い地域にある中国の飛行場では空気が薄いため、戦闘機は十分な揚力を得られず、多くの燃料や武器が積めない。
 空軍を投入せず、陸上戦だけに限定した方が、中国にとって有利なのだ。さらに、もし中国が大規模な攻撃をした場合、米国やロシアが仲介に乗り出し、圧力をかけてくる可能性が高い。
 米国やロシアは先に攻撃した中国よりもインドを支持する可能性が高い。だから、もし中国がインドを攻撃するならば、陸上戦だけに限定し、核危機になりそうな大規模な作戦にならないよう、地域も限定的に抑えておいた方がいい。
 ところが、インドから見ると、その部分が中国の弱点になる。
 インドは、限定的な戦争を志向する代わりにエスカレートさせるかもしれない。例えば、陸上戦に限らず空軍を投入すれば、インドは戦局を挽回できるかもしれない。
 インドの空軍機は標高が低い地域の飛行場から離陸する。多くの燃料やミサイルを積めることになる。現代の戦闘機は同じ時間で複数の敵と戦えるから、燃料やミサイルを多く積めるインドの戦闘機は、中国に比べ数が劣っていても、数の劣勢を補って善戦する可能性がある。
 また、インドは、核戦争の危機を演出して、米国やロシアの外交的な介入をしてくるよう、促すこともできる。
 さらに、中国軍が有利に戦っている場所とは別の場所で攻撃に出て、うまくいけば、インドが失った領土と、インドが奪い取った領土を交換する取引を狙う可能性もある。
 空軍の投入、核危機の雰囲気を利用すること、別の場所へ戦線を拡大し取引を狙う方法、これら3つの方法は、実はインドは過去に実際実施したことがある方法だ。
 1999年に印パ間で起きたカルギル危機の際は、山岳戦で、インドは空軍の投入を決めた。その時、1998年に両国は核実験をしたばかりだったので、核戦争を危惧する米国は急ぎ仲介に乗り出した。
 米国の介入は、インドへの攻撃を仕かけたパキスタン側に厳しく、インド側に立ったものになった。
 また、別の事例であるが、1965年の印パ戦争時には、カシミールでの戦局が悪かったため、パンジャブ州で攻撃に出て、戦後、印パで奪い取った領土の交換を実施したこともある。

5.日本は備えなければならない
 以上をまとめると中国は、ブータンなどの第三国に自らの影響力を認めさせるために、インドに軍事的な圧力をかける場合があり、それは場合によっては、限定的な軍事攻撃に至ることも考えられる。
 その場合、インドは事態を収めようとするよりも、エスカレートさせて対応する可能性も考えられる。
 では、このような事態に日本はどうするべきだろうか。
 実は、印中国境の問題は日本の安全保障に深くかかわっている。中国がインドとの国境紛争に多くの資金や戦力を割けば、中国が日本に対して使う資金や戦力は少なくなる可能性があるからだ(例えば日本正面に配置していた戦闘機やミサイルの部隊を、インド正面に配置しなおすことなどが考えられる)。
 中国は国防費全体の4分の1を印中国境方面に投じているものとみられている。そのため、日本がインドの国境防衛力強化に協力して、中国により多くの国防費をインド側で使うように仕向けることは、日本にとって有用となる。
 その際にどう協力するのか。危機に至る前の平時の協力と、危機になってからの協力と2つの方法が両方必要だと考えられる。
 危機が起きる前にインドへの協力としては、例えば、インドの国境防衛力を向上させるために、インド側が必要としている道路網、鉄道網、橋、トンネル、空港、ヘリパッドなどの建設が考えられる。
 これは、民生用のプロジェクトとして実施可能なもので、実際、日本はインド北東部地域で道路建設に従事する権利を得た唯一の外国である。積極的に機会を利用すべきである。
 また、防衛技術協力、防衛装備品の輸出も積極的に進めるべきである。すでに米国は第17軍団の装備を供給して協力しているが、日印間ではレーダー網の構築などで協力する余地があるだろう。
 また国境地域を衛星を使って宇宙から監視する能力は、インドもかなり進んでいるので、日本とインド、米国との間で学び合う関係ができるはずだ。
 一方、実際に危機が起きた場合においては、より即効性のある対応が必要となる。例えば3つのことが考えられる。
 まず、インド支持の声明を出して立場を明確にする方法がある。米空母派遣が行われるようであれば(1962年の印中戦争のときは、インド支援のために米国は空母を派遣した)、それに合わせ、海上自衛隊のヘリ空母「いずも」「かが」のインド洋派遣など、目に見える支援を行う方法もある(実際、今回の危機の最中、「いずも」はインド洋で日米印共同演習を実施した)。
 さらに、尖閣周辺に自衛隊を展開させることや、南シナ海で米国が行う「航行の自由作戦」へ自衛隊を参加させるなどして、中国軍を印中国境から東シナ海や南シナ海方面へ再展開させるよう仕向ける方法も考えられる。
 インドが中国との「戦争」に負けて、中国対策で日本に協力しなくなると、日本の対中安全保障は大きな打撃を受ける。
 逆に、インドが日本に感謝して日本との関係を強化する方向に進めば、日本にとって印中の危機はチャンスとなる。
 最近シンガポールで講演したインドの外務次官は、日本とベトナムとの関係強化を打ち出した*2。日本は危機をチャンスに変えられるよう、平時、非常時両方について、インドへの支援を準備しておく必要がある。

*2=インドの外務次官が日本とベトナムとの関係強化を宣言したした原文は以下
Ministry of Foregin Affairs Government of India, “Speech by Dr. S. Jaishankar, Foreign Secretary to mark 25 years of India-Singapore Partnership at Shangri La Hotel, Singapore”, July 11, 2017
http://www.mea.gov.in/Speeches-Statements.htm?dtl/28609/Speech_by_Dr_S_Jaishankar_Foreign_Secretary_to_mark_25_years_of_IndiaSingapore_Partnership_at_Shangri_La_Hotel_Singapore_July_11_2017

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/50680

 


「我慢にも限界」中国軍がインドに警告、実弾演習で圧力も―中国メディア

2017年8月6日 18時0分 Record China
5日、参考消息網は記事「中国軍、インドに『幻想を捨てよ』と警告=人民解放軍は『弓に矢をつがえた状態』と海外メディア」を掲載した。
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2017年8月5日、参考消息網は記事「中国軍、インドに『幻想を捨てよ』と警告=人民解放軍は『弓に矢をつがえた状態』と海外メディア」を掲載した。

中国国防部は3日夜、インド軍兵士が国境を越えて中国側に侵入したとの批判声明を発表した。任国強(レン・グゥオチアン)報道官は「中国は最大の善意を用い、外交ルートを通じて事態の解決を図っている」とした一方で、「善意を払うといっても原則がある。我慢にも限界はある」との表現で強く警告した。

中国とインドは先日来、国境付近で緊張を高めており、両国ともに相手側が先に侵犯したと批判している。台湾・中時電子報は、中国国防部以外にも、外交部、在インド中国大使館、新華社、解放軍報などの政府機関や官製メディアが矢継ぎ早に声明を発表していると指摘。中国政府は自らの権益擁護のためにあらゆる行動をとる可能性を示すものだと分析している。中国は警告を発する一方で、チベット軍区でロケットや榴弾砲による実弾訓練を連日行うなど、圧力を強めている。(翻訳・編集/増田聡太郎)
Record China
外部サイト

外交部、インド軍の不法越境は無責任で無謀な行為
中国が「印軍越境に関する中国側立場」国際社会に向け表明、インドは平淡な反応―仏メディア
インド、中国の国際数学競技会参加取りやめに不満、台湾代表に「国旗」所持認める―中国紙
「CHINA」が理由でインドが入域許可証の発行を拒否、中印の緊張が台湾の大学生に波及―台湾メディア
中国、インド誌を「子供だまし」と批判、中国地図から台湾・チベット省く―中国メディア
http://news.livedoor.com/article/detail/13438801/
http://www.asyura2.com/17/kokusai20/msg/247.html

[経世済民122] 無料が当たり前! 今の子どもは「タダ・ネイティブ」 20年で変化していた子供のお小遣いの使いみち
無料が当たり前! 今の子どもは「タダ・ネイティブ」

博報堂生活総研の「トレンド定点」(第3回)
2017.8.7(月) 三矢 正浩
「タダ・ネイティブ」な子どもたちが未来の社会をつくる。

 私の在籍している博報堂生活総合研究所は、1981年の設立から現在に至るまで、「生活者発想」に基づいて生活者の行動や意識、価値観とその変化を見つめ、さまざまな研究活動を行ってきました。
 前回に引き続き、世の中で生じている事象に対して、研究所に蓄積された研究成果やそれらに基づく独自の視点により考察を加えてまいります。読者の皆様にとって、発想や視野を広げるひとつのきっかけ・刺激となれば幸いです。
 前回コラム「この20年で変化していた子供のお小遣いの使いみち」では、博報堂生活総合研究所が1997年から10年おきに、小4〜中2の子どもたちを対象に実施している「子ども調査」の最新結果をご紹介しました。http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/50398

そのポイントをまとめると、

・調査結果を20年前と比較したとき、大きな変化が認められたのが「消費・お金」と「情報環境」に関する分野

・お小遣いをもらう子が過去最低となり、もらっても貯金するとの回答が過去最高に

・新商品や流行への関心も低下し過去最低に

・自分の暮らしの豊かさや幸福度の自己認識は上昇し、過去最高に

 つまり、「お金を使って何かを買ったり、新商品や流行りのものを追ったりしなくとも、高い幸福感と豊かさを感じて生きているのが今の子どもたちである」と、そんな結果が導かれたわけです。
 彼ら彼女らは10年もすれば大人になり、徐々にこの国の中核を占める生活者になっていきます。本稿では、上記調査結果の背景に何があるのか、そして我々がこの「未来の大人」たちとこれから先どう向き合っていくべきか、考察していこうと思います。

出典:「こども20年変化」 調査データ。
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http://jbpress.ismedia.jp/mwimgs/7/6/-/img_769648704fb3e54bfeacac1a1d382dc2327841.png


新旧関係なくレコメン情報を楽しむ子どもたち
 1997年の子どもと2017年現在の子ども。置かれている環境で何が一番違うかと言えば、やはりインターネットの存在を抜きに語ることはできないでしょう。もちろん1997年にもインターネット技術はあったわけですが、現在の利用環境の便利さとは比べようもありません。各家庭では定額制で高速通信サービスを利用し、高性能なスマホ・タブレットなどのデバイスも普及しています。
 その中で子どもたちは、どのようにインターネットに向き合っているのか。私たちはアンケート調査と並行して、家庭訪問調査を実施し、子どもたちのネット利用実態についてヒアリングと行動観察を行いました。
写真は博報堂生活総合研究所「こども20年変化」家庭訪問調査より。(以下写真も同様)
 そこで目にしたのは、友達とオンライン上で会話をしながらそれぞれの家で同時にゲームをやっている子どもや、チャットアプリのグループ通話機能を使って30人近くをつなぎ、オンライン上の「クラス会議」を開催する子どもたちの姿。
 彼ら彼女らにとって、インターネットはもはや「便利な道具」というレベルを超え、「リアルと地続きの空間・居場所」と言って差し支えないくらい当たり前のものになっているようでした。

 端末の操作も素早く手慣れたもの。タブレットの処理速度が追いつかないくらいのスピードで指を動かしている子もいました。
 そんな子どもたちにとって、ネット上にあるさまざまな情報にアクセスすることはごくごく容易なこと。自分で検索して探し出すこともできますが、それ以上に「レコメン(recommend)機能」や友達からのオススメにより「情報は勝手にやってくるもの」との認識ができつつあるようです。
 例えば動画共有サイトでは、一度コンテンツにアクセスすれば、そのあとは関連するレコメン動画が芋づる式に次から次へと提示されます。子どもたちの目に映るそれらの情報は、新しいものも古いものも「並列」であり「等価」。面白いと感じたものは新旧を気にせず楽しんでいます。

 家庭訪問でも、自分が生まれるずっと以前に作られたドラマや音楽にのめりこんで視聴している子や、5年以上前にリリースされたゲームを今もなおやりこみ続けている子どもたちに出会いました。
 新旧関係なく情報がレコメンされる環境では「新しいもの=よいもの」という認識は形成されにくくなるでしょう。今の子どもたちが新商品や流行に対して関心を持ちにくいのは、このような状況が影響していると考えられます。

タダが当たり前の「タダ・ネイティブ」登場
 もうひとつインターネットの与えた大きな影響は、各種サービス・コンテンツが通信料を除けば基本的に「タダ」で利用できるということです。
 ネットの中には無料で楽しめるゲームやマンガ、イラスト、小説、音楽、映像などが、それこそ無限と言っていいくらい存在しています。子どもたちがお小遣いを握りしめてお店に行かなくとも、本当にいろいろなものが手に入るようになりました。
 前回のコラムで示したお小遣いの使いみちに関する調査結果では、貯金の増加と表裏を為すようにマンガやCDなどのコンテンツ系支出が減少していましたが、この状況はまさにコンテンツの「タダ化」の影響が端的に現れたものと言うことができます。
 むやみに流行や新しいものを追わなくなった今の子どもたちは、インターネットにより無料で手に入るものやレコメンされるものを楽しむことがスタンダードとなった新しい生活者たちです。博報堂生活総合研究所では、その特徴から「タダ・ネイティブ」(=無料で楽しむことが当たり前の世代)というキーワードで彼ら彼女らを呼称しています。


「タダ・ネイティブ」の支出は「好き」の態度表明
 冒頭でも書きましたが、今の子どもたちは10年先には大人。この国の中核を占める存在になっていきます。我々はこれから先、彼ら彼女ら「タダ・ネイティブ」たちとどう向き合っていくべきなのでしょうか。
「消費者」として捉えた「タダ・ネイティブ」たちは、いかにもお金を使うことにシビアで、財布を開かせるのは至難の技のようにも思えてきます。では、いったいどんな時に、積極的にお金を使いたいと思うのか。子どもたちへのインタビューなどから得られたヒントは、「ライブ」と「応援」です。

・普段は動画サイトで好きなアニメを視聴しているが、そのアニメが映画化されると毎回、「絶対に公開初日に観に行っている」と語ってくれた女の子。

・無料で遊んでいるゲームの中で流れている音楽にハマり、その音楽を生で聴くために、親の分も合わせて1万8000円もコンサートチケット代を支払ったという男の子。

・無料でマンガが読めるアプリを使っているものの、好きな作家の作品については「打ち切りになったら嫌だから、作者への感謝をこめて課金をしたい」と語る男の子。

・マンガ雑誌の人気キャラクター投票で、自分の好きなキャラ3人全員に投票したいがために、同じ雑誌を3冊買ったという女の子(1冊に1つ投票用紙が付いている)。


 これらのエピソードを、実に生き生きとした表情で語ってくれた子どもたち。その様子を見ていると、どうも彼ら彼女らにとってお金を払うという行為は、「対価の獲得」というよりも、「好きなものに対する応援」や「好きなものへの接近」という「『好き』の態度表明」に近い感覚があるようにも思えてきます。
 前述したお小遣いの使いみちの調査について、ひとつ興味深い結果があります。多くの支出項目が横ばいないし低下している中で、唯一、「映画、コンサートなどの入場券」だけは1997年から右肩上がりに伸び続けています。「自分の好きなものに近づく、生で触れるためには支出を惜しまない」。そんな意識の高まりが読みとれる結果です。

出典:「こども20年変化」 調査データ。
http://jbpress.ismedia.jp/mwimgs/7/3/540/img_737dd6c168e3739b2e639739a823acf173578.png
http://seikatsusoken.jp/kodomo20data

「タダ・ネイティブ」が働き方改革の急先鋒に?
 もうひとつ、「働き手」として捉えた「タダ・ネイティブ」たちはどうでしょうか。
「リアルと地続きの空間」としてネットに接している子どもたちは、「これはリアルでやらなければいけない」などの固定観念が我々と比べて薄い分、仕事でも効率性を重視してネットとリアルを使い分けることでしょう。組織の中でこれまでなんとなく続けてきた非効率なルールや行動を打ち壊し、「働き方改革」を進める急先鋒の役割を担ってくれるのは、実は「タダ・ネイティブ」たちなのかもしれません。
 また、新旧を気にすることなく情報・コンテンツに接してきた彼ら彼女らは「新しいもの=よいもの」と考えない代わりに「古いもの=ダサい」という感覚もあまり持っていません。
 組織の中で「過去のもの」として見過ごされてきた製品や技術、コンテンツなども、「タダ・ネイティブ」たちの手にかかることで意外な魅力が再発見される。そんなふうに「温故知新の目利き」として力を発揮してもらうことだって十分に考えられるでしょう。
 言うまでもなく、子どもの存在はこの国の未来そのものです。「消費者」「働き手」をはじめとして、生活者の持つさまざまな側面や役割から、彼ら彼女らを見つめること。その上で、子どもたちが主役となる社会の姿を大胆に想像すること。それらのことが、この国の将来像を考える上でとても重要なポイントであるように思います。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/50682


 

この20年で変化していた子供のお小遣いの使いみち
博報堂生活総研の「トレンド定点」(第2回)
2017.7.10(月) 三矢 正浩
この子が大人になる頃には、どんな消費者になっているだろう。
 私の在籍している博報堂生活総合研究所は、1981年の設立から現在に至るまで、「生活者発想」に基づいて生活者の行動や意識、価値観とその変化を見つめ、さまざまな研究活動を行ってきました。
 前回に引き続き、世の中で生じている事象に対して、研究所に蓄積された研究成果やそれらに基づく独自の視点により考察を加えてまいります。読者の皆様にとって、発想や視野を広げるひとつのきっかけ・刺激となれば幸いです。
子どもは変わった? 変わっていない?
「最近の子どもは外で遊ばない」「最近の子どもは食生活が乱れている」などという具合に、「最近の子どもは・・・」というパターンの言説を目にすることがあります。特に、子どもにまつわるインパクトの強い事件や出来事があったとき、この手の話はよく語られがちです。
 それを聞いて「確かにそうだ」と思う方もいれば、「ほんとにそうなのか?」と疑問を抱く方もいらっしゃるでしょう。なにしろ、自分自身が子どもだった時代の意識にも影響されるため、「子どもは変わった」「変わっていない」は実に曖昧かつ主観の入りやすいテーマであるようです。
 私たち博報堂生活総合研究所では、小学4年生から中学2年生の子どもたちを対象として、生活行動や意識、価値観の変化を長期スパンで調べる「子ども調査」を、1997年、2007年、2017年と10年おきに行ってきました。この20年間、日本では少子化の進行、共働き世帯の増加、ゆとり教育と脱ゆとりへの転換、デジタル環境の向上、東日本大震災の発生など、さまざまな事象が生じてきました。こうした中、果たして子どもは「変わった」のでしょうか、それともあまり「変わっていない」のでしょうか。
 1997年から2017年まで継続して聴取している「子ども調査」の質問項目は約600項目。そのうち、1997年と2017年のスコアを比べた時に、統計上「変わった」と言えるほどスコアが変化したものが約6割、統計上「変わった」とは言えないものが約4割となりました。
出所:博報堂生活総合研究所「子ども調査2017」(以下データも同様)
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 これが9:1ないし8:2くらいの割合であれば、胸を張って「子どもは変わった!」と言えそうなものですが・・・あいにくそこまで極端な結果にはなっていません。「子どもは変わっている部分もあれば、変わっていない部分もある」。スッキリはしませんが、ひとまずはこういう結論に落ち着かざるを得ないようです。
お小遣いもらっても、用途は「貯金」?
 とはいうものの、調査結果を細かく見れば、変化の大きかった部分とそうでない部分とが見えてきます。「子ども調査」の質問は衣食住や勉強、遊び、人間関係など生活のさまざまな分野に及んでいますが、その中に、前述した「変化」が特に大きかった分野があります。
 それはずばり、「消費・お金」と「情報環境」です。少し詳しく見ていきましょう。

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 まずは「消費・お金」。子どもたちにお小遣いをもらっているかどうかを聞いたところ「もらっている」は63%に。このスコアは1997年の79%から下がり続け、今回が過去最低になりました。低下の背景には、親と一緒に買い物に行った時に買ってもらう、ネットショッピングで買ってもらうなど、欲しいものを都度購入するパターンの増加も考えられます。
 ですが、そもそも今の子どもたちはあまりお金を使っていない=必要としていないのでは・・・? と思わされるデータがあります。
 先述の質問で「お小遣いをもらっている」と答えた子どもたちにその使い道を聞いたところ、なんと1位が「貯蓄」という結果に。1997年から急激なスコアの伸びを見せ、ついに50%を超えました。一方で「マンガ」「CD・DVD・ブルーレイ」などを買うとの回答は減少しています。

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 お小遣いをもらっている子は減っていき、もらっても貯金に回す今の子どもたち。そんな彼ら・彼女らの買い物についての意識を聞いた質問では、

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「流行に関心がある」・・・55%(1997年は66%)
「新しい商品が出るとすぐ欲しくなることが多い」・・・42%(同56%)

と、新商品や流行への関心は1997年から少しずつ低下し、今回が過去最低のスコアとなりました。
 次に「情報環境」について見ていきます。1997年の状況との大きな違いは、なんと言ってもインターネットの存在。今の子どもたちにとって、インターネットはだいぶ身近なツールになったようです。ネット上で提供されるサービスの利用状況を見ると、
「検索サイト」・・・87%
「動画共有サイト」・・・81%

などなど、大人同様にさまざまなサービスに接していることが見て取れます。

http://jbpress.ismedia.jp/mwimgs/8/1/540/img_8196d92476924dafa6249a16e4031be017775.png
 インターネットを利用している子どもに、情報発信についても聞いたところ、
「チャットアプリでのメッセージ受発信」・・・45%
「SNSへの参加」・・・22%
「動画投稿サイトへの投稿」・・・11%

などとなりました。ネットを使っている子どもの10人に1人以上が動画を投稿したことがあるというのは、もしかしたら大人よりも多い、結構な割合ではないでしょうか。

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 そんな子どもたちに、情報への関心度合いについて聞いてみると、

http://jbpress.ismedia.jp/mwimgs/b/8/300/img_b8c463f0a07d166360b02833cacc22d047366.png
「流行っている物事を人より早く知りたい方だ」・・・46%(1997年は64%)
「流行っている物事を人より詳しく知りたい方だ」・・・41%(1997年は63%)

と、それぞれ50%を下回り、過去最低のスコアとなりました。インターネットに慣れ親しみ、たくさんの情報を瞬時に知ることが可能になったはずですが、子どもたちの気持ちはどうも「流行り」からは遠ざかっているようです。
「新しさ」では動かない、「手ごわい未来の消費者」が出現
 お小遣いをもらっても貯金。新商品や流行にあまり関心を持たなくなった今の子どもたち。我々大人からすれば、もしかしたらちょっと物足りなく感じる存在なのかもしれません。
 では、そんな子どもたちは、自分の置かれている状況をどう感じているのか、生活の満足度合いを聞きました。「自分のくらしは豊かなほうか」「自分は幸せなほうか」との問いに対して、

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「豊かな方だと思う」・・・82%(1997年は66%)
「幸せな方だと思う」・・・91%(1997年は78%)

との結果となり、どちらも過去最高のスコアをマークしました。大人が周りで何を思おうとも、当の子どもたちはどうやら、自分たちの生活を十分満足に感じているようです。
 お金を使って何かを買ったり、新商品や流行りのものを追ったりしなくとも、高い幸福感と豊かさを感じて生きている今の子どもたちこそが、10年後20年後、未来の消費者の中核となっていきます。
 単に「新しさ」や「流行」では動きにくい、この「手ごわい消費者」たちにどう向き合っていくべきか。商品・サービスを提供する事業者は、今のうちから検討を重ねていっても早すぎることはないのかもしれません。
 次回のコラムでは、このような結果が生じた背景を考察、今の子どもたちの行動や思考をさらに掘下げ、気になる“攻略”の糸口にも迫ってみたいと思います。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/50398

http://www.asyura2.com/17/hasan122/msg/889.html

[戦争b20] 遠のく「核兵器なき世界」被爆国の重い責任 北朝鮮「地球規模の乱世」を予想し核開発 トランプは中露韓から袋小路に 日本は 
遠のく「核兵器なき世界」被爆国の重い責任

トランプが壊すオバマの理想

岡部直明「主役なき世界」を読む


2017年8月8日(火)
岡部 直明

トランプ米大統領とプーチン・ロシア大統領は、20カ国・地域(G20)首脳会議が開催されたドイツのハンブルクで7月7日に初会談した。米露の核軍縮問題や、シリアやウクライナなど幅広い分野で意見交換したとみられ、会談は2時間15分と異例の長さになった。(写真:AP/アフロ)
 オバマ前米大統領がめざした「核兵器なき世界」は、その理想からますます遠ざかろうとしている。トランプ米大統領は「核兵器なき世界」の目標を見直し、核戦力の増強を打ち出した。これに対して、プーチン・ロシア大統領も核戦力の近代化と増強を表明、核軍縮どころか核軍拡競争に逆戻りする恐れさえある。最も危険なのは、北朝鮮が核・ミサイル開発に傾斜し、北東アジアの緊張が高まっていることだ。こうしたなかで、唯一の核被爆国である日本の役割は決定的に重要である。その日本が核兵器禁止条約に参加しなかったのは問題だ。核廃絶を外交の基本に据え直し、米ロに核軍縮を呼び掛けるなど、積極的外交を展開することが歴史的使命である。

トランプの核戦略の波紋

 トランプ大統領はオバマ大統領が敷いた平和路線をすべてくつがえそうとしている。「核兵器なき世界」をめぐっては、「どの国も核をもたないのが理想だが、核保有国があるなら我々はその先頭にいたい」と核戦力の増強に転換した。核軍縮の結果、核弾頭は米国が6800発、ロシアが7000発になっているのが不満らしく、ロシアの前に出る方針を示したものだ。これに、プーチン大統領が黙っているはずはない。このままでは米核軍拡競争の悪夢がよぎる。

 トランプ政権をめぐるロシア疑惑は事態をさらに複雑化している。プーチン大統領との良好な関係を維持したいトランプ大統領だが、ロシア疑惑のなかでは、対ロ経済制裁の強化を受け入れざるをえなかった。それは米ロ間の緊張をさらに高めることが考えられる。

 イランの核合意でも、トランプ大統領はオバマ路線を覆そうとしている。オバマ政権下で国連安保理常任理事国(米ロ中英仏)とドイツのG6がイランとの協議でようやくまとめた核合意を破棄しようとしている。対イラン政策を誤ると、混迷する中東情勢は危機的状況に陥り、イラン核合意に参加する主要国との緊張も高まりかねない。

北朝鮮の危険な野望と中国の核増強

 核をめぐる差し迫った危険は、北朝鮮の無謀な挑戦であることはいうまでもない。米国にまで到達するという大陸間弾道ミサイルの度重なる実験は、トランプ政権を苛立たせ、国際社会の非難の的になっている。これに核開発が重なれば、北東アジアの緊張を一気に高める。日本は深刻な影響をこうむる恐れがある。日米韓の連携を強めるとともに、国連安保理での制裁強化に取り組むしかないだろう。5日、安保理で石炭などの輸出の抜け穴をふさぐ制裁決議が中ロを含む全会一致で採択されたのは、一歩前進である。

 懸念されるのは、北朝鮮に最大の影響力をもつはずの中国が北朝鮮の核・ミサイル開発に警告しながらも、圧力をかけ渋っているようにみえることだ。北朝鮮の崩壊は避けたいという中国の思惑がうかがえるが、事態を放置すれば、北朝鮮の核・ミサイル開発はエスカレートするばかりだろう。

 問題は、中国の習近平政権自体が海洋進出など軍拡路線に傾斜しているところにある。核増強もその一環とみられる。オバマ前大統領が「核兵器なき世界」を表明して以来、世界中で核軍縮の動きが広がったが、そのなかでも、中国だけは核増強の路線を変えなかった。この核増強を含む中国の軍拡路線は東アジアの緊張を高めることになる。

インド・パキスタン・北朝鮮 ── G8が許した核拡散

 北朝鮮をめぐる危機的状況は、1998年5月が分水嶺になっている。英国バーミンガムで開いたロシアを含むG8の首脳会議(サミット、15~17日)を目前して、インドはG8の姿勢を試すかのように、2度にわたる核実験を実施する。これに対して、G8の声明は「インドおよびその他地域に対し、これ以上の核実験はしないよう求める」と事実上、黙認に近い内容になった。

 このバーミンガム・サミットを取材した経験からみても、G8の態度は生ぬるかった。主催したブレア英首相が会議を早々に切り上げて、ほかの首脳とともにサッカーのテレビ観戦に興じたくらいだから、危機感のなさは明らかだった。

 G8サミットでインドの核実験が黙認されたとみて、隣国で敵対するパキスタンは黙っていなかった。5月末、G8の警告を無視して核実験に踏み切ったのである。

 問題は核拡散の連鎖がここで止まらなかったところにある。パキスタンの国民的英雄であるカーン博士を通じて、核技術が北朝鮮に流出したのである。バーミンガム・サミットの失敗は、核拡散の歴史に汚点として残るものだろう。

欧州の核危機救ったオランダ

 バーミンガム・サミットは大国が核の拡散を防げなかった例だが、小国が核の危機を救った例もある。冷戦末期、1980年代、欧州は核の危機に見舞われていた。ソ連はワルシャワ条約機構の東欧諸国に中距離核ミサイル、SS20を配備する。これに対抗して北大西洋条約機構(NATO)加盟の西欧諸国には米核ミサイルが配備されることになった。ジュネーブでの米ソ間の中距離核戦力(INF)交渉も決裂し、欧州を舞台に米ソ緊張が一気に高まった。

 当時、西欧では各国で反核運動が盛り上がっていた。この反核運動はソ連の差し金だったという説もあるが、日本経済新聞のブリュッセル特派員として、この反核運動を取材していて、欧州市民の強い反核意識を肌で感じたものだ。

 西独など主要国に相次いで米核ミサイルを配備するなかで、小国オランダは対応に悩んだ。NATOの決定に従うか、それともオランダの反核機運を受け入れるか。若きルベルス首相にインタビューしたが、首相執務室で頭をかきむしる姿をみた。反核運動の高まりのなかで、ルベルス首相は米ミサイル配備を延期することを決断する。この小国の決断が結局、米ソ核軍縮交渉の再開を導き、冷戦終結への導火線になっていく。

唯一の被爆国・日本が担う地球責任

 唯一の被爆国である日本が担う責任は、欧州の小国の比ではないだろう。被爆国だけが核爆弾が何をもたらすか、その悲惨さを本当に知っているからだ。被爆者の体験を伝え続けるなど、被爆国からの国際発信ほど重要なものはない。広島、長崎を最後に核兵器が一度も使用されなかったのは、被爆国からの発信力がいかに大きかったかを物語っている。それがオバマ大統領の広島訪問に結びついたのである。

 その唯一の被爆国・日本が核兵器禁止条約に参加しないのは、これまでの核廃絶への発信力を自ら減殺するようなものだ。もちろんこの条約には米国など核保有国やNATO諸国など米国の同盟国は不参加だ。米国の「核の傘」に依存する国際政治の現実を浮き彫りにしている。しかし、唯一の被爆国はそれを超える重い地球責任を担っている。

G20首脳の広島訪問を

 唯一の被爆国として、日本外交の基本に、「核兵器なき世界」を据えることが先決だ。「非核3原則(持たず・作らず・持ち込ませず)」の維持は当然である。

 そのうえで、第1に、核超大国である米ロに核軍縮を強く求めることである。安倍晋三首相はトランプ米大統領とも、プーチン・ロシア大統領とも友好関係を築いてきている。近すぎる関係を不安視する見方もあるが、こうした関係こそ生かして米ロ双方に直言すべきである。国際社会を見渡しても米ロ首脳双方に直言できるのは、安倍首相くらいだろう。

 第2に、中国、英国、フランスという他の核保有国にも核軍縮を要求することだ。とくに核増強に動く中国には強く警告するしかない。事実上の核保有国であるインド、パキスタン、イスラエルへの要求も忘れるべきではない。そのうえで、北朝鮮に国際社会と連携して核放棄を突きつけるしかない。

 第3に、2019年に日本で開く20カ国・地域(G20)の首脳会議で、G20首脳の広島訪問を呼び掛けることである。オバマ大統領の広島訪問を実らせた外交成果をもってすれば、実現可能だろう。米ロ中英仏という核保有国すべての首脳が、広島を訪れて初めて、「核兵器なき世界」への道は開かれる。地球を俯瞰する外交の真価が問われる。


このコラムについて

岡部直明「主役なき世界」を読む
 世界は、米国一極集中から主役なき多極化の時代へと動き出している。複雑化する世界を読み解き、さらには日本の針路について考察する。
 筆者は日本経済新聞社で、ブリュッセル特派員、ニューヨーク支局長、取締役論説主幹、専務執行役員主幹などを歴任した。
 現在はジャーナリスト/明治大学 研究・知財戦略機構 国際総合研究所 フェロー。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/071400054/080600034

 
2017年8月8日 李策 :フリーライター
北朝鮮、武器売却情報網を通じ「地球規模の乱世」を予想し核開発か


4月15日に行われた北朝鮮の軍事パレード Photo:AP/AFRO
ロシアの大使が北朝鮮を訪問
謎多き外務次官と会談

 7月下旬、北朝鮮とロシアの間で気になる動きがあった。

 北朝鮮国営の朝鮮中央通信によれば、ロシア外務省のオレク・ブルミストロフ巡回大使が7月22〜25日に平壌を訪問。申紅哲(シン・ホンチョル)外務次官と会ったという。

 ブルミストロフ大使は北朝鮮の核問題を担当しており、6ヵ国協議が再開することになればロシア次席代表となる要人である。一方、申氏は2013年2月まで駐バングラデシュ大使を務めたという以外、ほとんど経歴が知られていない謎多き人物だ。

 ただ、彼がバングラデシュに駐在していた前後、同国と北朝鮮の貿易取引は大きく増加。彼の離任後には、同国の首都ダッカが、北朝鮮の不法な外貨稼ぎの主要拠点となっていることが分かっている。

 そして2015年2月に外務次官就任が確認されて以降、申氏はシリア、赤道ギニア、アンゴラ、コンゴなど、北朝鮮との武器取引が疑われる国々を相次いで訪問。特にシリアでは、アサド大統領とも面会している。アサド氏は、北朝鮮の金正恩朝鮮労働委員長がメッセージをやり取りする、数少ない国家元首の1人だ。

 こうした申氏の“動線”を見れば、北朝鮮外務省における彼の役割が、第三世界との「秘められた関係」であることが分かる。では、そのような人物がなぜロシアの核問題担当者と会ったのか。朝鮮中央通信は会談内容をまったく伝えていないが、2人をつなぐキーワードは、おそらくイランだ。

 ブルミストロフ氏が北朝鮮を訪問していた頃、米国議会では北朝鮮とロシア、イランに対する制裁強化をひとまとめにした法案が議論されていた(8月2日に成立)。周知のとおり、シリア内戦でアサド政権を支えるロシアとイランは実質的な軍事同盟であり、北朝鮮とイランも兵器開発などで協力関係にある。

 北朝鮮とロシア、そしてイランは、米国の動きを受けて、何らかの意見調整を行う必要が生じたものと筆者は見ている。

中東やアフリカ諸国に
武器を売りまくり情報収集

 北朝鮮はとかく世界から孤立し、情報の流れから遮断された国と見られがちだ。しかし、その見方は正しくない。

 例えば、北朝鮮の武器商社として悪名高い朝鮮鉱業開発貿易(KOMID)は、ロシアやイラン、シリア、ナミビア、南アフリカなどに要員を置き、中東やアフリカの紛争地に兵器を売りまくってきた。

 彼らが売るのは、最新のレーダーでもなければステルス戦闘機でもない。先進国では「骨董品」と呼ばれるような旧ソ連製戦車のカスタムパーツや、荒れ地でホコリまみれになっても動作不良を起こさないシンプルな構造の機関銃の類である。今日、明日にでも戦う必要に迫られた顧客が望むのは、そのようなタフな兵器の数々なのだ。

 つまり、北朝鮮には、いつ、どこで、誰と誰が、何を理由に戦おうとしているのかといった、日本人や韓国人にはとうてい知り得ないような情報が、リアルタイムで寄せられているワケだ。

 北朝鮮が、中東やアフリカの国々とこうした関係を結ぶようになったのは、金正恩氏の祖父・金日成主席のころからだ。1973年の第4次中東戦争では、エジプトとシリアに空軍パイロットを派兵してイスラエル空軍と戦わせている。

 最近も朝鮮中央通信は、シリアにおけるアサド政権とロシア、イランによる「反テロ作戦」の戦果を頻繁に伝えている。また金正恩氏とアサド氏の関係を見ても、北朝鮮が今なお、この地域に対する高い関心を維持していることが分かる。

 ただ、昔と今とでは世界の環境がまるで異なる。

金正恩は地球規模の乱世を
予想しているのかもしれない

 金日成が中東戦争に派兵したのは東西冷戦の中、東側陣営や非同盟運動の内部で自らの地位を確保するための「損得勘定」をした上でのことだった。イスラム諸国を自らの応援団にすることで、陣営の盟主たる旧ソ連や中国にも自己主張できる“立ち位置”を狙ったわけだ。

 一方、金正恩はどうだろうか。世界のスーパーパワーが米国のみとなり、中国やロシアといえども、米国と完全に対立してしまっては繁栄を望むことはできない。そうした中で北朝鮮は、どこまで本気かは別として、米国との「対決」をうたう唯一の国になってしまった。中東やアフリカといくら友好関係を維持してみても、米国と敵対することで生じるマイナスを埋められるとは思えない。

 ただし、それは世界が今の形のまま、安定し続けることを前提とするならばだ。

 北朝鮮の李容浩(リ・ヨンホ)外相は昨年の国連総会で行った演説で、次のように述べた。

「世界ではテロの狂風が吹きまくり、戦乱による難民事態に席巻され、世界的なホットスポットは減るのではなく、反対に増えている。(中略)真の国際的正義を実現して世界の平和と安全を守り、国連が設定した持続開発目標を達成するためには、『正義』の看板の下で不正義が横行する古びた国際秩序を壊し、公正かつ正義の新しい国際秩序を樹立しなければならない」

 同様の表現は、ほかの演説文や国営メディアの論評にも数多く見られる。思うに金正恩は、世界の戦地に送った要員から報告される内容に触れながら、地球規模の「乱世」の到来を予想しているのではないか。

 例えば、イランとサウジアラビアが衝突したり、先進国が「核テロ」に見舞われたり…。今の状況を考えれば、そうした事態もあながちあり得ない話ではない。世界がそんな混乱の中にたたき込まれれば、「弱肉強食」の度合いが強まり、「強者」すなわち核を握る者が勝つ──。

 本当にそうした世の中が訪れるかどうかは別として、まだ30代前半で生い先長い金正恩が、このような世界観を持っていたとしても不思議ではないだろう。(フリーライター 李策)
http://diamond.jp/articles/-/137837?


 


2017年8月8日 真壁昭夫 :法政大学大学院教授
北朝鮮問題でトランプは中露韓から袋小路に追い込まれつつある


Photo:新華社/アフロ
 7月28日の日本時間深夜、北朝鮮はミサイルの発射実験を行った。今回発射されたのは大陸間弾道ミサイル(ICBM)で、米国を射程に入れる能力を備えていると見られる。この発射を機に、朝鮮半島情勢が一段と混迷の色を深めている。最大のポイントは、北朝鮮への対応を巡る米国と中国、ロシアの利害の食い違いが一段と鮮明になっていることだ。

 トランプ大統領は、米国の専門家から地政学的な朝鮮半島の重要性、北朝鮮と中国およびロシアとの関係などに関するレクチャーを受けているはずだ。それにもかかわらず、同氏は朝鮮半島情勢について、これまで経験してきたビジネス交渉の延長線上で捉えているのかもしれない。

 圧力をかけたり好条件を示せば、相手が同氏の言うことを聞くと思っているのだろうか。それは誤りだ。安全保障問題は国の存亡にかかわる問題であり、ビジネスとは明らかに違う。それに伴う交渉は、時にビジネスに関する交渉やディール(取引)よりもはるかに複雑だ。

 当面、トランプ政権は中国に北朝鮮への圧力行使を求め続けるだろう。ただ、それで朝鮮半島の問題が解決できるわけではない。現在のように米国が北朝鮮に圧力をかけ続けると、朝鮮情勢を巡る米中露の関係は一段とこじれてしまう恐れがある。その中で、わが国はいかにして自国を守るか、現実的な対応を進めなければならない。

北朝鮮は
中国の生命線の一部

 トランプ政権は中国に対して、北朝鮮に圧力をかけ核兵器やミサイルの開発を断念させるよう求め続けている。中国は米国の要請に配慮して水面下での交渉を進めてきた。それでも、米中の溝は縮まっていない。むしろ、両国の関係は冷え込みつつあるように見える。

 最大の問題は、トランプ大統領の「中国にとって北朝鮮がいかに重要な存在であるか」という認識が低いことかもしれない。米国が中国に圧力をかけて、北朝鮮の軍事的挑発をやめさせようとしても中国は動かないだろう。

 なぜなら、もし北朝鮮がなくなると、中国は米国からの圧力の緩衝国を失うことになるからだ。朝鮮半島で北朝鮮がないと、中国が直に米国のパワーと対峙することにつながる。それを防いでいるのが北朝鮮だ。

 朝鮮半島の38度線を挟んで自国の意向を反映した北朝鮮と、米国の陣営に属する韓国が対峙する状況は中国にとって不可欠だ。中国にとって、北朝鮮という緩衝帯は一種の生命線とも言える。

 金独裁政権が中国の意向を無視しているにもかかわらず、中国は北朝鮮に対して強い態度を取っていない。その背景には、こうした事情がある。むしろ中国はいたずらに北朝鮮を刺激したくはない。中国は、北朝鮮がミサイル発射実験などを繰り返しているのは「米国が北朝鮮への圧力を強化したからだ」と批判している。この考え方はロシアにも共通する。

 トランプ大統領の頭の中では、国家間の交渉はビジネスと同じであり、先手を切って相手に圧力をかければ、有利な条件を引き出すことができると思っているのかもしれない。中国に圧力をかけて、どうにかして中国を動かしたいのだろう。

 しかし、中国に圧力をかければかけるほど、米中間の関係は冷え込む可能性がある。中国としても、今秋には大事な共産党大会を控えており、米国に対して安易な譲歩はできない。米中韓の軋轢が増し、トランプ大統領がさらなる袋小路に追い込まれる可能性は高い。

甘えに徹する韓国と
影響力拡大を狙うロシア

 米中の関係がこじれ始めていることに加え、相変わらず「駄々っ子」のようにふるまう韓国と、影響力の拡大を狙うロシアの動向も、北朝鮮問題の先行き不透明感を高めている。

 韓国の文政権は今でも、元々聞く耳を持たない北朝鮮との対話を重視している。ミサイル発射を受けて日米韓で制裁を検討するとの姿勢を示しつつも、韓国は融和姿勢を崩してはいない。

 この背景には、経済的な恩恵を重視して中国との関係を強化したいという文政権の狙いがあるのかもしれない。日米の視点から考えると、韓国の対北朝鮮政策はかなり甘いと映る。

 韓国の本音は、自国経済を支えるためにも「中国との関係は強化したい」という思惑があるように見える。そのため、北朝鮮に表立って圧力をかけるのは好ましくない。もし、韓国が北朝鮮に攻撃されれば、日米も困る。それゆえ「日米は韓国を見捨てないはずであり、最終的には日米とも韓国の味方をする」との見方があるのだろう。

 おそらく、今後も文政権はそうしたスタンスを大きく変えることはないだろう。中国の顔を立てるために北朝鮮との対話を重視しつつ、その一方で日米の圧力重視姿勢にも表向きの理解を示すだろう。

 次にロシアだ。ロシアが重視しているのは自国の影響力を高めることだろう。ロシアは、シリア内線に介入することで、米国が混乱させた中東情勢を安定させようとしている。その拠点を築くためロシアは、クリミア半島に侵攻したとも考えられる。

 ロシアの狙いはずばり、欧州への影響力拡大だろう。EUは中東からの難民という問題に直面している。それがテロやポピュリズム政治の台頭につながった。もし、ロシアがシリアの安定を実現することができれば、欧州への難民流入は減少するだろう。その場合、EU域内で、米国よりもロシアとの関係が重要との論調が増える可能性がある。ロシアは極東地域での影響力拡大も狙い、北朝鮮に配慮を示している。

わが国は
自国を守るすべを備えよ

 このように考えると、トランプ政権は朝鮮半島情勢を巡る国際情勢を理解できていない。北朝鮮は、米国本土を射程に収めるICBMを手に入れたと見られる。この状況で米国がとりうる方策は、(1)北朝鮮への攻撃、(2)体制転換の模索、(3)中国の働きかけ強化、の3点にまとめられる。中露が北朝鮮を見捨てるとは考えづらい。韓国は、米国が北朝鮮を攻撃しないと考え、ミサイル防衛システムの配備を進めていない。

 外交交渉をビジネス交渉と取り違えているトランプ政権は、今後も北朝鮮への強硬姿勢をとり、中国に圧力行使を迫るだろう。その結果、北朝鮮問題を巡る国際的な議論の中で米国は孤立する恐れがある。米国の外交政策のかじ取りもかなり難しくなるだろう。米国が方針を修正し中露との連携などを模索しない限り、朝鮮半島情勢がどのように収束するかはかなり見通しづらい。

 この状況でわが国は、米国との同盟関係を基礎にして安全保障を確保せざるを得ない。外交面で米国が行き詰まりつつある中、アジア、欧州各国との関係を強化し、発言力を高めておくことも必要だ。

 中国は一帯一路構想を推進することでアジア新興国に経済の開放を求めている。欧州ではドイツが中国との関係を強化している。米国の求心力が低下する中、わが国は迅速に経済外交を軸としてアジア新興国との関係を強化し、国際社会における発言力の向上に取り組むべきだ。

 アジアの新興国は世界経済の原動力である。わが国がアジア地域での存在感を高めることができれば、日EU経済連携の早期実現など、ドイツをはじめとする欧州各国との連携も進みやすくなるだろう。その結果として、わが国に賛同する国の数を増やすことができれば、国際社会における発言力は高まるはずである。

 言い換えれば、わが国は北朝鮮問題を巡る各国の足並みをそろえ、どのような解決策が可能かを模索する環境を整えていくべきだ。そのために各国との関係を強化することが、自国を守ることにつながるはずだ。

(法政大学大学院教授 真壁昭夫)
http://diamond.jp/articles/-/137835

http://www.asyura2.com/17/warb20/msg/702.html

[経世済民122] 血縁に見捨てられた認知症の伯母 ある成年後見人の手記 まさか消費者金融に世話になるとは 定年女子より真っ暗、役職定年女子
WEDGE REPORT
血縁に見捨てられた認知症の伯母【ある成年後見人の手記(1)】
2017/08/07
松尾康憲 (ジャーナリスト)
 「松尾由利子さんが倒れ、脳の血管が切れて認知症となられました」

 2009年2月5日朝、単身赴任していた共同通信社大阪支社に出社間もなく、神戸市内の救急病院から電話。これで義理の伯母、当時86歳の成年後見人への道を選ぶに至った。
 2日後、病院に由利子を見舞う。車いすに座りぐったりしていた。それでも私が分かり「やっちゃん」と、か細い声で呼んでくれた。
 新大阪駅で買い持参した「いちご大福」を、看護師が小指の先ほどに切り食べさせる。いちごは、飲み下せない恐れがあり、捨てられた。「箸を認識できず、食事は手づかみ」と、ソーシャルワーカーの高田美恵(仮名)。
 危急の電話の主も高田だった。彼女が語る経過は……。
 ─―09年1月25日、バスの中で不快を訴え下車、停留所で動けなくなっているのを通行人が見つけ、救急車で搬入。由利子は、現金3万円と預貯金通帳、印鑑など貴重品を手提げ袋に入れ持ち歩いていた。
 高田は、所持品を手掛かりに神戸市内に住む血縁の2軒に電話したが、「関係ない」と、けんもほろろ。外信部次長時代の筆者、松尾康憲の名刺を頼りに東京本社に電話し、大阪に単身赴任中の私を手繰り寄せた─―
 「後見人になっていただけませんか? 身柄を引き取れとか言いません。受け入れる施設は、私が見つけ、その後もご相談に乗ります。拒否されるなら、神戸市長が後見人の選任を申し立てる選択肢もあります。でも、ご身内がなられた方が……」。成年後見とは、家庭裁判所から選任された「成年後見人」が、認知症になった人の預貯金の管理や不動産の処分などを行うとともに、福祉施設や病院の入退院手続きといった日常生活にかかわる契約などを支援する制度である。高田に、ぐいぐいと引きずり込まれていった。
 由利子は、筆者にとって亡父の兄の奥さん。夫は他界し子はいない。私とは血縁がなく扶養義務もない。

(iStock.com/kazoka30)
血縁はないが思い出を共有
 1959年秋に私が満6歳を迎える前に、由利子との最初の接点があった。私は東京都内で出生したが、2歳のときに両親が離婚。婿養子だった父が私を連れ郷里、広島県尾道市の実家に帰り、暮らすに至っていた。
 59年11月、父が33歳にして死去。家族、親族の女たちが号泣していた。その中の1人が由利子だ。その直前、父は死期を察していたのか、由利子に小遣いを託し私を近くの行楽地・千光寺公園に連れて行かせてくれたのを覚えている。実子のいない由利子はかわいがってくれた。

若き日の松尾由利子(撮影日・場所は不明。)
 尾道の家は印刷業を営んでいた。祖父が跡取りにと、神戸から由利子夫婦を呼び寄せていた。当時は都会と地方の生活差が大きく、朝食に紅茶とトーストを味わう夫婦はとてもハイカラに見えた。
 ところが、私が小学校1年か2年のとき、祖父と息子は家業の経営をめぐりいさかいを繰り返し決裂。由利子夫婦は神戸に舞い戻ることになった。その経緯は、私が子供だったため詳しくない。私は寂しくなった。
 少年期から思春期を迎え、私には、小さな町を出たくて出たくてたまらない思いが募っていく。18歳で神戸の公立大学に入り、日本育英会奨学金(当時)月1万2000円と新聞配達や家庭教師で自活して学生生活を送った。
 十数年ぶりに再会を果たした由利子夫婦に、大きな経済負担を掛けた覚えはない。だが保険外交員の由利子は、食事に招いたり、小遣いをくれたりした。義理の仲なのに嫌な顔もせず。多感な青年期にどれほど心温められ、孤独を癒されたか……。
 だから、今できる力がある以上は、独りにしておけない。
 義理の伯母である松尾由利子を実名で書いていくのは、彼女を巡る事態の推移が決して絵空事でなく確固たる現実であり、誰の身にも起きかねないことを分かっていただきたいからである。善良なる市民として勤労して過ごした末の最晩年に、認知症を患うのは恥でも何でもない。自らの軌跡の公表が、成年後見制度などの改善にたとえ一歩でも寄与するなら、伯母は本望であろうと確信する。
信じられないごみ屋敷
 09年2月12日、再び見舞う。高田が由利子の車いすを押し、その自宅の神戸の某市営住宅を女性民生委員と私を含め4人で赴いた。
 5年ぶりになろうか、3号棟415号室のドアを開けると、部屋の中は衣類、雑貨、ごみが散乱、足の踏み場もなく、土足で上がった。電気は切れている。あの几帳面だった由利子の部屋がこれ!
 倒れる前から認知症が始まっていたのか? 呆然とし「電話しても連絡がつかなくなっていた」とつぶやくと、民生委員が「そうですよ。出歩くのが好きで、家は寝るだけの場になっていた」。
 荒れ果てた部屋に「もう、ここ嫌や」と、車いすの由利子が言う。奮起させようと、ソーシャルワーカーの高田が声を上げた。
 「大切な物を回収しましょう。銀行員の名刺が見つかったら、事情を説明しに来てもらいましょう。私たちが証人になります。伯母さんの入院料などの支払いのため、下ろさないといけないって」
 女性の気丈を感じた。堆積物の中から、定額貯金や定期預金の通帳、さらに外貨建て投資信託に関する郵便物、金融機関職員の数々の名刺などなどを回収した。
 その名刺を頼りに、某メガバンクの支店に電話した。
 「口座番号○○○○、松尾由利子の親族の者ですが、本人が倒れて引き下ろせなくなっているので、事情を確認に来ていただきたい」
 だが、人を寄越すどころか、名刺の主も電話口に出さない。法務担当者が「引き出すなら、戸籍謄本を持って来てください。えっ、ご本人の亡くなられた夫の弟の息子さんですか。血縁関係がなければ駄目です」。
 私は「血族に身元を引き受ける者がいなくて、病院が困っているんです。ここに居る本人が預けた金を、この危急時に、どうすれば利用できるか、教えてください」。何の回答もなかった。

頼りにならない弁護士

(iStock.com/takasuu)
 あの名刺群の行員たちは、80歳を超えた由利子の勧誘にどれほど笑顔を振りまいたことか……。怒りを抑え「お立場は、よく分かりました。当方は、専門家の助力を得て法的手段で解決します」と、私は述べた。
 JR神戸駅近くの法律事務所に駆け込み、皆元静香弁護士(仮名)らに委任したのが09年2月19日。
 ソーシャルワーカーの高田の知人から「金融に強い」との評判を聞き、難題をこなすプロ集団と信じていた。由利子の金を由利子のために使えるようにしたいと、すがる思いだった。
 事前の打ち合わせで、手付金23万円を支払い、代理人活動開始ということになっていた。弁護士事務所まで金を持参したが、何を勘違いしたのか13万円しかなく、残り10万円は振り込みに。私のミスだ。初めての体験の連続に、神経が参っている。
 成年後見制度について初めて知った。プライバシーをすべて皆元らに話し、記録に残す。
 「とにかく早く手続きを進めてほしい」と頼み込んだ。当時の由利子のぐったりした様子を目にした身としては、万一の事態が起きた場合、つまり由利子が死去した時、後見人の身分がなければ、大変複雑な問題に巻き込まれると懸念したからだ。また、後見人になってこそ、私の立替払いは本人の財産から弁済されるのである。
 だが弁護士は、選任までの所要時間の見通しを言ってくれない。1カ月半がたっても何も進まない。4月1日には、こんなやり取りがあった。
 私「どの段階まで来ているんですか」
 皆元「不動産登記がないことの確認書類を求めています」
 私「早くしていただかないと立替払いの負担も大変です。交通費とか」
 皆元「交通費は出ませんよ」
 私「この支出は認められる、これは駄目という基準を示してください」
 皆元「はっきりした基準はないんです」
 皆元らが、由利子の血族や病院、施設関係者らへの聞き取り調査に動く気配がないのも、不思議だった。思い余って4月6日、ある革新政党に近いといわれる神戸の法律事務所に山江恵一弁護士(仮名)を訪ねた。
 ここで初めて、後見人に関するマニュアルをもらった。弁護士に対する懲戒制度についても説明を受けた。
 「先生、替わってもらえませんか」と要請したが、専門外のため「弁護士会で後見人専門の人を紹介してもらった方が良い」と勧められた。他人の仕事を引き継ぐのは嫌なのか。皆元たちで続けるしかない。
申立人の法的な保護が必要
 こうして私は09年2月に成年後見人への選任申立てを決意し、生まれて初めて司法の判断を仰ぐ立場となった。裁判所の門をくぐったことの無い読者も多いだろう。そんな人々こそ、「司法は、当事者である市民の声に耳を傾け審判を下す」との私が当初抱いていた素朴な期待を理解してくださると思う。だが事は安易ではなかった。
 私が、神戸家裁に成年後見人への選任を申し立てるに当たり、疑問を抱いたのは、雇った弁護士から準備書類作成のため、由利子が住んでいた市営住宅に行き、書類や書簡などの回収を頼まれた時だ。弁護士が依頼人に作業を求めるというのも考えてみれば変な話だが、それはともかく、何度も部屋に上がり込んで物色したが、これは家宅侵入や窃盗の容疑を抱かれかねない行為だと思い、怖かった。私はこの時点でまだ後見人にもなっておらず、立ち入り権限はあるのだろうか? 隣人が不審に思い110番通報して警官が来でもしたら、一悶着は避けられなかっただろう。
 市民が司法判断を求めようとすると、危なっかしい思いを余儀なくさせられるような現状は、早急に改めねばならない。後見人選任の申立人を保護する制度を設けるべきだ。(つづく)
Wedge3月号 特集「成年後見人のススメ」認知症700万人時代に備える
PART1:東京23区の成年後見格差、認知症への支援を急げ
PART2:先進地域に学ぶ成年後見の拠点作り・前編:品川モデル
PART2:先進地域に学ぶ成年後見の拠点作り・中編:「品川モデル」構築のキーマン・インタビュー
PART2:先進地域に学ぶ成年後見の拠点作り・後編:大阪モデル
PART3:過熱する高齢者見守りビジネス最前線

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まさか消費者金融に世話になるとは【ある成年後見人の手記(2)】
2017/08/08
松尾康憲 (ジャーナリスト)
 2009年3月14日、松尾由利子は神戸市街の救急病院から六甲山を越え、有馬温泉の奥、神戸市外にある老人保健施設に移り住むことになった。生きて還ることなき旅路である。車いすの由利子と、介護タクシーに乗り込んでいると、ソーシャルワーカーの高田美恵が白衣を着替えて駆け付け、「同行します」と言ってくれた。業務外なのに。

 幼くして両親と生死別していた筆者は、この時55歳だったが、こうした施設とは縁遠かった。徐々に老いていく親を見ている身であれば、心の準備もできようが、私はいきなり当事者となったのだ。ひとり付き添うのが心細くてたまらず、高田の親切がうれしかった。

 一方、施設への入所を強引に進めたのも高田であった。「まだ後見人でも何でもない無資格者ですよ。もうしばらく待ってもらえませんか」と、私は抵抗したのだが、高田に「救急病院という性格上、いつまでも収容できないんです。ふさわしい施設を紹介しますから」と押し切られてしまった。その果ての同道である。


六甲山(iStock.com/paylessimages)
施設へ送る「生還なき旅路」

 由利子が、「姥(うば)捨て山」に連れて行かれるような気分を抱くのではないか、嫌がったらどうしよう、と胸ふさがる。ところが現実の由利子は、車窓から見える街並みや木々の緑を楽しみ、顔に笑みを浮かべる。揺れが快適なのか春眠も味わってくれた。高田ともども安堵した。外出好きな伯母にとっては1万250円のドライブとなった。

 その2日後の夜、施設のケアマネジャーから電話が鳴った。「夜ベッドで無理に立とうとするんです。転倒が怖くて……。うちは身体拘束できません。『ビールが一番やな』とおっしゃっていますが、飲めるんなら睡眠薬より良いので送ってくれませんか」。缶ビール2ダースを送った。

 規則正しい生活と栄養バランスのとれた食事のせいか、車いす頼りだった由利子が立てるようになった。この時期の由利子は、どんどん元気になっていった。歩けるし、トイレも自分で行ける。

 すると新たな問題が起きる。4月18日、ケアマネジャーより電話が鳴った。「徘徊がひどくエレベーターで降りて外出しようとするんです。仕方ないので閉鎖棟に移ってもらいます。酒類は禁止です」。かわいそう、楽しみがなくなる。私は、目まぐるしい推移に携帯電話が鳴るのが怖くなってしまった。ジャーナリストでありながら……。

 新たな住まいとなった閉鎖棟は、2階の厚い鉄扉で仕切られた空間で、中に入ったら健常者も職員に頼んで鍵を開けてもらわないと外に出られない。約30人の高齢者男女が、ピンクのジャージーを着せられ2人部屋に寝起きする。ビールが飲めなくなっただけではない。私物の持ち込みは一切禁止。タオルまで廃棄させられた。「重症者には、何でも食べてしまう方がいるので」と寺田弘子看護師(仮名)。

募る不信感、ついに弁護士解任


神戸家庭裁判所
 皆元静香弁護士らに委任して約4カ月を経た09年6月15日、やっと神戸家庭裁判所での調査官面談にこぎ着け「神戸家裁50774号(後見開始申し立て)」という事件名を得た。この場で皆元らを事実上解任した。

 由利子には計14人の血族がいることは後に判明する。彼ら彼女らから、私が成年後見人となることへの同意を得なければならないのに、皆元らは1人も取っていなかった。

 調査官の前で、私が詰問すると、「要らないと思った」と皆元。「『思った』って、法律家の言葉ですか」。もはや依頼者と弁護人の対話ではない。4カ月が空費された。書類不備もあった。由利子の名を「百合子」と誤記していた。

 皆元が、別れ際「辞任届でいいですか? 手付金の全額は返せません」と言うので、「了解。費消分は差し引いてください。ただし法外な金を取ったら懲戒申し立てしますよ」と釘を刺した。20万円余りが戻ってきた。

 4日後、兵庫県弁護士会に駆け込み、6月26日付で広末毅弁護士(仮名)に委任。メールで進展状況を知らせてくれ、信頼関係が築けた。

 ただ、それまで弁護士という職種に抱いていた畏敬は壊れてしまった。弁護士会に駆け込んだ時も60〜70歳くらいの年配弁護士に聴取を受けたが、名乗らない。敬語を使わない。

 私が説明し始めると「法律相談の場じゃあない。手短に」。由利子が倒れた経緯に及ぶと「認知かあ?」。「認知症です。正確に記録してください」。病名を端折れば差別的ニュアンスを帯びかねないことすらわきまえていない。

経済負担重く消費者金融へ

 09年6月15日の神戸家庭裁判所での初回調査官面談から、筆者は由利子の成年後見人の候補に。ところが後見人になるまでは重い経済負担ばかりで権利保障は無い。メモを繰ると、私の立替払いは09年9月7日時点で81万5129円。

 由利子を入所させた有馬の奥の老人保健施設から4月17日付で5万5908円の請求書が届き、以後は毎月約10万円。これを滞りなく払う。この外に、差し引き二十数万円の弁護士料、由利子が滞納してきた後期高齢者医療保険料なども負担した。

 9月7日午前、新任の広末弁護士と臨んだ神戸家裁2回目の調査官面談。家裁から請求されたのは鑑定費はじめ計7万7950円。

 由利子について、「要介護5」との証明書と、診断書は提出済みだったが、偽証罪を視野に入れた「鑑定書」を、診断書を書いたのと同じ医師から求めるというのだ。せめて後見人になるまで支払いを待ってほしい。

 私の当時の年収は1000万円を超えていた。だが住宅ローン返済、息子の学費といった既定支出があり、家計は想定外の出費にもろい。定期預金を崩し、ボーナス期の谷間、顔をこわばらせて消費者金融へ。生まれて初めての体験だった。しかしながら担当者の対応は、銀行や家裁、弁護士よりよほど親切だった。

 由利子をほぼ月1回見舞ってきた。単身暮らす大阪府吹田市から有馬の奥の施設までの片道は、地下鉄とJRを乗り継ぎ710円。施設最寄りへのバス便は少なくタクシーに乗り換え2500円。手土産も含め諸経費は1回1万円超。

 さらに2カ月にほぼ1度、妻、容子を東京から呼び3人で“デート”。息苦しいであろう施設での生活に、せめて“社交”の機会を与えようと思ったからだった。09年5月30日が第1回で、東京から妻を呼び寄せ、タクシーでドライブした。


温泉街を流れる有馬川(iStock.com/paylessimages)
 由利子を妻が持参した思い切り若めの服に着替えさせ、定番となったコースは、まず美容院で身づくろいし口紅を引く。有馬温泉の足湯につかり、両脇を支えカフェバーへ。ビールとワインを少しだけたしなませ、近くの和菓子店で土産を選ばせる。

 美容院で「どんな具合に?」と尋ねられたから「とにかくお客さん気分を味わわせてください」と頼んだ。

 タクシーに乗った由利子は、「六甲はあっちやな。ここ有馬かいな」。道路表示の漢字を読み取る。2時間余りを過ごすと「ありがとう。長生きして良かった」。

 以上のような、後見人になるまでの「見舞い」経費は、先に挙げた80万円余りの立替払いから外した。

 事実上解任した皆元弁護士からは「お見舞いは自由意志です」と言われ、広末も「多額請求では後見人になれません」と釘を刺されていたからだ。

 だが、老いはての人にとり最も必要なのはケアではないか。後見人となる身も、金計算よりもケアにこそ意を用いたい、と思ったものだ。

9カ月も経ってやっと後見人に

 神戸家庭裁判所の家事審判官(一般裁判での裁判官に相当)は09年10月6日、私を由利子の成年後見人とする審判(判決に相当)を下した。

 審判書の主文は、1.「本人」由利子について後見を開始、2.成年後見人として申立人(筆者)を選任、3.手続費用のうち申立手数料800円、後見登記手数料4000円、送達・送付費3150円、鑑定費約8万円は由利子の負担。

 これが全内容、一般の裁判での判決理由に相当する文言はない。成年後見開始の審判において、申立人自身は異議申し立てできない。この薄い文章の読み方を広末弁護士が教えてくれた。「弁護士料は、伯母さんでなく、松尾さんの負担ということです」。

 私が払ってきた弁護士料は通算24万3600円。どの弁護士も、後見人に選任されれば戻ってくる前提で話をしていた。それは私の聞き間違いだったのだろうか。いずれにせよ戻ってこない支出となった。

 その結果、09年9月時点での立替払いを80万円余りと先述したが、立替分として戻ってきたのは約49万円にとどまった。

 後日、家裁で書記官に尋ねた。「この申し立ては、私の利益になるものではない。すべて伯母由利子のためなのですよ」。答えは「弁護士なしで後見人になる人もいます」。

 二の句が継げなかった。書記官の想定にあるのは、親子や兄弟、夫婦などの間での後見人選任であり、家族会議で円満に同意を得るケースだろう。

 姻族三親等の私は、血族の誰一人面識もなかった。そもそも血族が何人いるかさえもわからなかった。弁護士に頼り相手方を探すことから始めなければならない。それには戸籍謄本の取得が必要だが、弁護士や司法書士など抜きでは不可能だ。

 一般の裁判と異なり、審判官は申立人と対面しない。こんな環境を訴える場は、私にはなかった。

見捨てる血族たち

 由利子の血族との面会を一度だけセットしたことがある。だが、その再会は荒涼たるもので、血縁とは何かを考えさせられた。

 広末弁護士が由利子の血族の割り出しを進め、姉妹2人と甥や姪ら計14人がいることが判明。この中で、神戸に住む実妹の田宮悦子(当時79歳、仮名)が私と連絡を取りたがっているという。

 考えた末に電話した。「どんな経緯があったか知らないし、知るつもりもないが、一度見舞っていただけませんか」。

 曲折を経た末に09年9月7日午後、悦子と息子の次郎(当時47歳、仮名)が施設を訪ね、私も広末弁護士と同道することになった。

 施設に着くと、悦子母子を先に進ませ対面させた。由利子の口から飛び出した第一声は「あんた誰?」、そして私に気づき「ああ、やっちゃん」。

 悦子は当惑し「なんで分かるん?」。頬を流れる涙も見られない。由利子が実妹に「奥はん」とも呼び掛ける場面もあり、懐旧談も長くは続かない。

 皆が由利子の部屋に集まり、医師の説明を聞いた。すると次郎が「預貯金が1000万円あるそうだが、母は妹だから下ろせるはず」と言いだす。広末が「法律上そうはいかないんです。本人の前で、金の話はやめてください」。

 次郎が、何度も金の話をぶり返す。私も感極まり「あなた方は私より縁が濃い。あなた方が後見人を引き受けてもいいんですよ」。「いえ、ありがとうございます」と母子。


(iStock.com/Halfpoint)
 由利子がうつむく。空気が分かるのだ。「伯母さん、面倒を見るよ。そのために弁護士先生に来てもらったの。また有馬温泉に行こうね」。私はこう言って、気を紛らわせるしかなかった。

 帰り際、母子と早く別れようと思っていたら、「こんな所で放り出されても」と悦子。仕方なくタクシーで駅まで送った。「こんな所」って、実の姉の終の住み処なのに……。

 その後、由利子が亡くなる14年10月まで、血族の誰一人として由利子を見舞っていない。
(つづく)※8月9日公開予定
血縁に見捨てられた認知症の伯母【ある成年後見人の手記(1)】←            

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PART1:東京23区の成年後見格差、認知症への支援を急げ
PART2:先進地域に学ぶ成年後見の拠点作り・前編:品川モデル
PART2:先進地域に学ぶ成年後見の拠点作り・中編:「品川モデル」構築のキーマン・インタビュー
PART2:先進地域に学ぶ成年後見の拠点作り・後編:大阪モデル
PART3:過熱する高齢者見守りビジネス最前線

http://wedge.ismedia.jp/articles/-/10163


 


定年女子より真っ暗、「役職定年女子」の未来

残れず、生めず、決心も付かず…

河合薫の新・リーダー術 上司と部下の力学


2017年8月8日(火)
河合 薫

 2020年まで、あと3年。いや、もう3年? 
 いずれにせよ、3年後は「アッ」という間にくる。

 といっても、東京オリンピックの話をしているわけではない。

 なんと「日本人の女性の過半数が50歳以上」になってしまう……というのだ。

 『未来の年表 人口減少日本でこれから起きること』の著者、河合雅司氏が、合計特殊出生率を計算する際に「母親になり得る」とカウントされている49歳までの女性人口と、50歳以上の女性人口を比較した結果、

 「2020年には、50歳以上の人口(3248万8000人)が、0〜49歳人口(3193万7000人)を追い抜き、日本女性の過半数が出産期を終えた年齢になる」

 ことがわかった(国立社会保障・人口問題研究所の推計に基づき算出)。

 「出産期を終えた年齢」……ですか。
 ふむ。グサッとくる言葉だ(苦笑)。

 今までも「産めや、増やせや、でもって、働けや!」と、戦時中並みの圧力をかけられている若い女性たちが気の毒で、「戦力外でホント、ごめんなさいね。いつの間にやらこんな年齢になってしまって…、個人的には“まだ”イケるかもと思っているのですが…(冷汗)」なんてことを冗談混じりに言っていたのだが、遂に「50歳以上」で一括りにされてしまうとは……。

 兄と私を育てあげた77歳の母親と一緒のグループ。なんてこった。

この数字が胸にズシッと来た理由

 河合雅司氏が日本人の女性を「母親になり得る年齢」と「もうムリ!!」という年齢とに分け、比較した背景には、

 「半数以上が50歳以上になって、どうやって少子化を解消するというんだ? ひとりで5人も6人も生んでくれってことなのか?」

 といった、「政府の少子化対策の夢物語ぶり」を指弾する狙いがあった。

 この数字を突きつけられた世間はおののき、“未来の日本”を案じたわけだが、リアル「50歳以上」の働く女性たちの心配は、ちょっとばかり異なる。

 “自分の未来”に、戦戦恐恐としたのである。

 私自身も「3年後の2020年に大人(20歳以上)の“10人に8人”が40代以上。50代以上に絞っても“10人に6人”」と各所で公言してきたのだが、「女性」と限定されたことで、数字の持つ重さにズッシリとヤラレている。

 「女性には役職定年なんてない。アレはドラマの世界」――。

 こう嘆くのは、某大手企業に勤める、夫なし、子なし、介護の母ありの“マンネン課長”。51歳の女性である。

 というわけで、今回は「定年女子」ならぬ「役職定年女子」について、アレコレ考えてみようと思う。

 と、その前に簡単に補足しておきますと、「ドラマの世界」とは、今話題になっている「定年女子」のこと。大手商社に勤める53歳の主人公が(南果歩さん)、突然、役職定年を言い渡され、邪魔者扱いされ居場所を失い、会社を辞め、セカンドライフを模索するドラマだ。

 プライベートでは、浮気が原因で離婚した夫の母親の介護まで“なぜか”任され、出産を控えた娘が浮気で出戻りとやらで、てんやわんや。
 50代以上の女性たちに、人気を得ている、らしい。

 では「役職定年はリアルではありえない」とする、“マンネン課長女子”のお話からお聞きください。

 「うちの会社では、55歳になると“3つ”から選ばなくてはなりません。

 早期退職するか、給料半額で現場に戻るか、給料そのままで地方でも関連会社でもなんでもやります宣言するか……です。でも、現実的には“早期退職”するしかないんです」

 「御社は女性の多い会社としても有名ですよね?」(河合)

 「はい。先輩たちの中には、現場に戻った人もいますし、関連会社に転籍した人もいます。

 私たちより上の世代は、採用も少なかったし、辞めた人も多いので、残っている女性は少ない。だから3択が可能なんです。

 でも、私たちの世代はそうはいかない。女性も多く採用してるので、どう考えてもポストが足りません。もともとうちの会社は、男性と女性とではキャリアパスが違います。

 男性は、いろいろな部署を経験しますが、女性は接客のある現場をずっと担当させられ、リーダーから課長になるというコースが一般的です。部長に昇進する人は滅多にいませんから、“マンネン課長”が最高地点なんです。

 取締役に先輩女性2人が抜擢されていますが、男性との割合から考えるとこれ以上増える見込みもない。

 関連会社でも、女性を受け入れるポストは少ないし、転籍した先輩女子が65歳まで在籍したら私たちの受け入れ先は激減します」

少数のおばさんならいい会社でも、おばさんだらけだと…

 「でも、役職定年して現場に戻るという選択肢は残るんじゃないんですか?」(河合)

 「ドラマでは、女性の“役職定年”が話題になっていますけど、実際はそんなかっこいいものではないですよ(苦笑)。部長になった一部の女性と、マンネン課長の私たちとでは、役職を退いたあとの待遇が全く違いますから。

 そもそも……現場は歓迎しませんしね。
 オバさんが数名なら『女性を長期雇用するいい会社』というイメージアップになるかもしれませんが、オバさんだらけになったら『なんだよ、ババアかよ。こないだの若い人の方がいいな』とか、お客さんに言われてしまうのがオチ。

 会社もできることなら、オバさんは奥に押し込めておきたいというのがホンネだと思いますよ」

 「ということは、早期退職という名のリストラを、暗黙裡に強要される確率が高いってことですね」(河合)

 「ええ、そうです。たぶん会社もこんなに女性社員が残るとは、考えていなかったんじゃないでしょうか。まぁ、自分自身、こんなことになるだなんて、想像もしていませんでしたから……」

 「早期退職しても、それなりにもらえるならアレですけど、もともとうちの会社は女性の基本給が低いんです。

 50歳過ぎた女性を雇ってくれる会社なんてないし、家のローンも残ってる……。
 先のこと考えると、不安だらけです。ホント、どうしたらいいんでしょう。

 ただ、困った事に、あと数年で選択をしなければならないというリアリティが持てない自分もいて……。情けない話ですけど、不安から逃れるために先送りしている自分がいます。

 この先、女性の活用ってどうなるんでしょうか? 他の企業とかどうなっているんですか? 河合さん、知ってたら教えてください」

 ……以上です。

 「今さら何を言ってるんだ。オレたち、みんなそうやって悩みながら生きてんだよ!」

 と、男性たちは呆れているかもしれませんね。
 はい、そのとおりなんですよ。

「いまさら何を」って、その通りなのですが

 でも……、そのなんといいますか、“男女雇用均等法世代”より下の私たち世代は、

 「私には若い頃から描いてきたキャリアデザインがあります。将来はこの会社を背負っていきます。その思いだけでキャリアを重ねてきました!」

 と胸を張るような女性は極めて稀。

 世間的には“バリキャリ”と思われている女性であっても、周囲が思っているほどにはキャリア志向は高くないのです。

 気がつけば、この年齢。気がつけば、オヤジ並みに働き、子なし夫なしの「親になり得ない群」のメンバーのひとりにカウントされ……。

 かくいう私も「3年働いたら辞めて結婚し、双子を育てる予定」だったので、彼女の気持ちが痛いほどわかる。

 仕事では、ロールモデルがいなくても困らなかったけど、人生は別。
 「自業自得」と思いつつも、子なし、夫なし、仕事なしの未来像が描けず、足がすくむ。“孤独死”なんて文字まで、頭を過る。

 ひたすら時間だけが過ぎ、鏡に写る自分の顔の衰えに気が滅入り……、不安が募る一方で、「ひょっとしたらどうにかなるかも」という淡い期待が交錯し、金縛りになる。

 人生とはありえぬことの連続だが、「今、ここで未来を案じている自分」も、想定外中の想定外で。ありえない、のである。

 「あのさ〜、そんなの男だって一緒。すべてが想定外でしょ? だいたい男の方が大変だよ。家族もいるんだからさ」

 はい、そのとおりです。
 なのでこの先のことは、彼女自身がどうにかしなきゃいけなない問題であり、婚活するもよし、セカンドキャリアに向けて勉強するもよし、50歳以上の女性を雇ってくれる会社で必死で働くもよし、それこそ「背負うもの」が少ない分、踏ん張るしかない。

 と、このように、“役職定年女子問題”は、社会的な共感・理解を得ることが極めて難しいことは重々承知している。

 が、その一方で、私は別の思いを持ったのもまた事実。
 「女性活躍って、何なのだろう?」と。

 「女性活躍」=リーダーを増やす 管理職を増やす という凝り固まった考え方にこれまでにも異論を唱えてきたけど、「リーダーになり得ない(=会社に残り得ない)&親にもなり得ない)群のリアル」を理解し、解決していくことが真の女性活躍につながっていくのではないだろうか。

 だって彼女のあとには、さらに大量採用された、50歳以上の働く女性は確実に増えるわけで。雇う側も「こんなに残るとは想定外」などと言っている場合ではないのである。

 男女差に関する、興味深い「数字」がある。

 経済協力開発機構(OECD)の「国際成人力調査(Program for the International Assessment of Adult Competencies : PIAAC)」の結果で、日本の「労働者の質」は世界トップレベルであることは、以前書いた(“東京の夜景”の被害者を二度と出さないために)。

 この調査は、読解力、数的思考力、ITを活用した問題解決能力の3分野のスキルの調査に加え、「学歴ミスマッチ」なるものの分析も行っている。

 学歴ミスマッチには、「オーバー・クオリフィケーション(オーバー・エデュケーション)」と、「アンダー・クオリフィケーション(アンダー・エデュケーション)」があり、前者は「現在の仕事に必要な学歴(学歴要件)よりも高い学歴を取得している場合」で、後者はその逆のこと。

 PIAACの分析では、日本のオーバー・クオリフィケーションの割合は31%、アンダー・クオリフィケーションは8%で、OECD加盟国の中でオーバー・クオリフィケーションの割合がもっとも高い国であることがわかっているのだ。

ギャップが持続する日本

 とりわけ大卒労働者が、大卒から想定されるよりも低いレべルの能力が求められる仕事に従事している割合が日本は高く、就職6カ月後と5年後の追跡調査でも、その状態が解消されないことが示されている。

 他の先進国の場合、たとえ入社時にオーバー・クオリフィケーションであっても、その後の社内異動などで解消されるケースが多いにも関わらず、だ(D.Varhaest and R. der Velden .“Cross-country differences in graduate evereducation and its persistence ”)。

 例えば、就職時のオーバー・クオリフィケーションが、日本の次に高いオーストラリアと比較すると……

就職時―― 日本(31%) オーストラリア(27.8%)
就職半年後―― 日本(30%) オーストラリア(24%)
就職5年後―― 日本(25%) オーストラリア(14%)
持続率―― 日本(66%) オーストラリア(39%)
 ※持続率とは半年後のオーバー・クオリフィケーションが解消されない人の割合

 ちなみに、持続率が7割近いのは、先進国では日本特有の現象である。

 つまり、「日本って、せっかく大学とか大学院まで行っても、意味ないじゃん。だって、企業はさ〜、大卒者の能力を活かしきれてないし〜、労働力の質の高さを生産性に反映できてないのかもね〜」ってこと。

 しかも、学歴ミスマッチを男女に分けて比較した国内外のいくつかの調査からは、

日本の女性は就職時にマッチした職を得ても、その後、オーバー・クオリフィケーションに陥りやすい。
オーバー・クオリフィケーションはマッチした人に比べ低賃金になるが、その差は若年層よりも中高年層で、男性よりも女性で大きい。
オーバー・クオリフィケーションの解消には、日本では転職よりも内部異動の効果が大きいが、内部異動で効果があるのは男性のみ。
女性は転職でオーバー・クオリフィケーションの解消が期待できるが、無期雇用の場合、転職でオーバー・クオリフィケーションに陥りやすい。
 などなど、日本の女性の教育レベルは世界的に誇る高さにも関わらず、その潜在能力を活かされていない可能性が示されているのである。

 ……さて、これらの結果をアナタは、どう受け止めますか?

上を伸ばすだけでは活躍意識は高まらない

 「じゃあ、女性のキャリア意識をあげろ!」
 「じゃあ、転勤とか出張とか文句言うなよ!」
 「じゃあ、リーダーになりたいってもっと主張しろよ!」
 といった、厳しい意見をいう人も多いかもしれない。

 しかしながら、「内部異動で効果があるのは男性のみ」という結果を踏まえると、問題は女性が置かれる環境、すなわち「人事」にあるという解釈もできる。

 「女性の方が優秀なんだよね〜」
 という意見を耳にすることは度々あるけど、その“優秀さ”は適性配置されているのだろうか。

 だいたい“デキる女性”のお決まりのコースといえば、「広報部長」や「ダイバーシティ部長」というのも、妙だ。

 「企業の生産性を高めよ!」を合い言葉に、AIやらなんやらに躍起になるのもいいけど、男性であれ女性であれ、50過ぎであれ、組織内のありとあらゆる階層・階級で、潜在能力を引き出す人材の配置を模索しないと、企業は膨大な「割増退職金」を払い続けることになる。

 だって、あと3年で「大人(20歳以上)の“10人に8人”が40代以上」、「女性の過半数が“出産期を終えた年齢”」になるという現実は“ありえる事実”として存在しているのだ。

 会社内の階層・階級の“上”の方ばかりを「活躍」の場と意識してしまうと、女性の「活躍したい」という意識はむしろ下がるかもしれない。それはもちろん、男性を対象にしても言えることなんですけどね。

 ……最後に……。あの〜「女性は若いほどいい」という価値観もどうにかなりませんかね? 

 今も飛んでいるスッチー時代の同期によれば、

 「最近のお客さんは恐くなった。二言目には『どう責任とってくれるんだ』って、自分の思い通り(お客さんの)にならなかったことの責任を押し付けられるし、……『ババアかよ』って、わざと聞こえるように言われた事も何度もあるよ〜」

 と、顔で笑い、心で泣いておりました。

 これからは50代のオジさんたちを癒すのは、同じ悩みを抱えている「出産期を終えた年齢」の女性じゃないでしょうか。彼女たちは案外、オジさんたちにはかなり優しいと思いますよ。

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このコラムについて

河合薫の新・リーダー術 上司と部下の力学
上司と部下が、職場でいい人間関係を築けるかどうか。それは、日常のコミュニケーションにかかっている。このコラムでは、上司の立場、部下の立場をふまえて、真のリーダーとは何かについて考えてみたい。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/200475/080700117
http://www.asyura2.com/17/hasan122/msg/899.html

[経世済民123] 日銀の「粘り強さ」が想起させる「あの戦争 緩和効果強調、非常に危うい 日銀は再度検証、国債ETF減額必要 ドル100円へ
日銀の「粘り強さ」が想起させる「あの戦争」

上野泰也のエコノミック・ソナー

日本経済「底力」論と距離がある「前線」の状況
2017年8月8日(火)
上野 泰也

日銀は「物価安定の目標」2%を目指すという短期決戦で失敗しても、勝ち目のすくない戦いを“精神力”で粘り強く続けている。(写真:マリンプレスジャパン/アフロ)
白川前総裁時代、日銀が2%の物価目標を受け入れた理由

 金融市場の外だけでなく、中でも徐々に忘れられようとしているように思えるのだが、白川方明前総裁時代末期の2013年1月22日に日銀が、それまでの日銀の考え方からすれば明らかに非常に高すぎる2%の物価目標を受け入れて政府と共同声明を出したのは、積極的な金融緩和だけで2%を達成できるという金融政策万能論的な見方へと突然切り替えたからではなく、政府および企業の努力によって日本の潜在成長率が上昇するのならば2%は達成可能な水準になっていくという説明はできるという苦渋の判断をしたからだったと、筆者は理解している。実態としては、衆院選で大勝した安倍内閣からの政治圧力に屈したのだが、中央銀行としてそれなりに合理的な説明・理屈付けをしないわけにはいかない。

 7月23日付で退任した佐藤健裕・木内登英両日銀審議委員(当時)は、この時の金融政策決定会合で、「物価安定の目標」2%の導入に反対した。議事要旨によると、その理由は以下の3つだった。

@消費者物価の前年比上昇率2%は、過去20年の間に実現したことが殆どなく、そうした実績に基づく現在の国民の物価観を踏まえると、2%は現時点における「『持続可能な物価の安定』と整合的と判断される物価上昇率」を大きく上回ると考えられること。

Aこのため、現状、中央銀行が2%という物価上昇率を目標として掲げるだけでは、期待形成に働きかける力もさほど強まらない可能性が高く、これをいきなり目指して政策を運営することは無理があること。

B2%の目標達成には、成長力強化に向けた幅広い主体の取り組みが進む必要があるが、現に取り組みが進み、その効果が確認できる前の段階で2%の目標値を掲げた場合、その実現にかかる不確実性の高さから、金融政策の信認を毀損したり、市場とのコミュニケーションに支障が生じる惧れがあること。


警告通りのことが、その後の4年半で起きた

 その後の4年半で実際に起こったことは、この2人の警告通りのことだったと言えるのではないか。「2%の目標を掲げながら大規模な金融緩和を行いさえすれば、インフレ期待が2%に高まり、実際のインフレ率もそれにキャッチアップするはずだ」というリフレ派の考えに沿った2年間という期限を区切った「短期決戦」は、明らかに失敗した。にもかかわらず、金融緩和を「粘り強く」続けている日銀の姿は、太平洋戦争当時の日本と、筆者にはダブって見えてしまう。

 山本五十六提督は「1年や2年は暴れてご覧にいれます」と述べたというが、その後の明確な展望が日本にはなかった。「米国の軍事力を大幅に低下させれば有利な条件で講和に持ち込めるはずだ」といった漠然とした構想だけで戦争に突入したものの、ミッドウェー海戦で主力空母の多くを失ってしまい客観的に見ればもはや勝つ見込みがなくなった後も、神風期待や精神論を支えに戦争を続け、多くの犠牲者を出した。

「底力」という言葉は、戦時中の精神論の延長線上にある

 日銀生え抜きの中曽宏副総裁は7月26日に広島で行った記者会見で次のように述べて、物価上昇2%は達成可能だと主張した。そこでキーワードになった「底力」という言葉に、太平洋戦争当時のような精神論めいたものを感じてしまったのは、筆者だけではあるまい。時代が変わっても、日本人のメンタリティーには変わりがないことを痛感する。

 「私は、日本経済における労働生産性の引き上げ余地はまだ相応にあり、潜在成長率の伸び代もまだ随分残されていると思っています。つまり、日本経済の底力はこんなものではないはずだと思います。日本経済の底力をもってすれば、2%の『物価安定の目標』の達成は可能だと思っています」

 「申し上げたいことは、日本経済の底力はもっとある、まだ伸びるという見方を共有して、そのもとで、企業が企業家精神を発揮していくことが、成長期待が幅広い主体で共有されることにつながっていくということです」

人口対策の強化がやはり必須だ

 日本経済の「底力」を持ち上げる努力を加速すべき責任を最も有するのは、基本的には自社の収益重視の企業ではなく、公共の福祉に資する役割を担っている政府だろう。人口対策の強化が必須だと、筆者はずいぶん前から主張し続けている。

 だが、安倍首相がいま掲げているのは「人づくり革命」であり、日本の国土に滞在してお金を使う人の「数」は増えない。

 ちなみに、退任の5か月前、2月23日に木内日銀審議委員(当時)が甲府で行った講演に、下記のくだりがある。金融政策の限界、政府による人口対策の必要性といった、筆者の年来の主張と重なる内容である。

 「例えば、潜在成長率が低水準にあり、企業の国内成長期待が低い状況では、企業は将来収益を圧迫する基本給の引き上げなどに対して慎重になるのは自然であり、労働者はそうした企業の姿勢を認知するものと考えられます。こうしたもとでは、家計や企業の中長期の予想物価上昇率は低位に形成され、そのことが現実の物価上昇率を低位に抑えるという側面があると思います」

 「しかし、金融政策が前向きな経済構造の変化を直接もたらすことは難しく、そうした変化の実現のためには、イノベーション向上に向けた企業の努力と、それを最大限引き出すための規制緩和や人口対策などを含む、政府の構造改革の取り組みが必要です。そして、国民が持続的に生活の質を向上させるためには、生産性上昇率や潜在成長率の改善を通じて成長力を強化することが不可欠です」

物価の「前線」の状況を観察すると…

 では、日銀が焦点をあてている物価の「前線」の状況はどうなっているだろうか。ファミリーレストランの客単価など、日常生活と関連しているさまざまな指標を筆者はウォッチしており、このコラムでもときどき紹介しているのだが、今回は上がりにくい「もやし」「豆腐」「納豆」の値段を取り上げたい。

 人口減・少子高齢化を主因とする国内需要の減少によって中長期的に悪影響を受け続ける業界は数多い。衣食住のうち「食」の分野では、よほどしっかりした付加価値がついている製品以外、コストプッシュ型インフレには持続性が伴わないと考えられる。

 スーパーマーケットで特売の対象になりやすいことなどから店頭販売価格が押さえ込まれやすく、生産・製造業者がコスト高の中で赤字に苦しむ事例が断続的に報じられているのが、「もやし」「豆腐」「納豆」である。これらは消費者物価指数の採用品目になっている<■図1>。

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/248790/080200104/ZU01.jpg

■図1:全国消費者物価指数 「もやし」「豆腐」「納豆」

(出所)総務省
値段が安すぎて、100社以上のもやし生産者が廃業の現実

 もやしについては、国内消費の大半を占める緑豆もやしの原料の高騰で赤字になり、生産者団体が取引先のスーパーなどに対して値上げを求めていると報じられている。原料が高騰する一方で商品価格が上がらず、10年足らずで100社以上が廃業。もやし単独では赤字で、付加価値の高い「カット野菜」などで利益を確保しながらしのいでいる企業も多く、新規投資が難しい零細企業などで廃業が相次いでいるという(6月5日 朝日新聞夕刊)。

 筆者は1981年、大学1年の時にスーパーの野菜売り場でアルバイトをしたことがあるのだが、その時に最初に任された仕事が、特売用の袋入りのもやしを店頭にうず高く積み上げることだった。36年後の今になっても、もやしは特売の対象である。

 豆腐については最近では、「豆腐業界 激安で疲弊 適正取引へ 食品初の指針」と題した記事が出てきている(6月28日 毎日新聞)。原料である大豆の価格は昔よりも高くなっているが、豆腐1丁の販売価格は以前よりも安くなっており、量販店の特売対象にもなりやすい。経営者の高齢化に安売りが追い打ちを掛け、廃業も後を絶たないという。豆腐を製造する事業所数は2015年度末時点で7525となり、2006年度末から4割減った。

 また、納豆業界では2009年に1社が経営破たんするなど、業界再編が断続的に進んでいる。

「過少需要・過剰供給」構造が変わらぬ限り、物価上昇は困難

 「どのような分野にせよ、高い付加価値をつけることで企業は価格水準を維持すべきであり、それが物価全体の底上げにつながる」という意見を耳にすることがある。だが、そうしたことができる少数の企業はいわば「勝ち組」であり、業界全体さらには国全体について一般化できる話ではない。

 日本経済のベースにある「デフレ構造」(過少需要・過剰供給状態)が抜本的かつ持続的に変わらない限り物価上昇は困難だという、筆者の持論は不変である。

(※ 編集部と筆者の都合により、当コラムは8月15日・22日は休載となります。次回は8月29日に配信する予定です)


このコラムについて

上野泰也のエコノミック・ソナー
景気の流れが今後、どう変わっていくのか?先行きを占うのはなかなか難しい。だが、予兆はどこかに必ず現れてくるもの。その小さな変化を見逃さず、確かな情報をキャッチし、いかに分析して将来に備えるか?著名エコノミストの上野泰也氏が独自の視点と勘所を披露しながら、経済の行く末を読み解いていく。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/248790/080200104/


 


木内氏:緩和の効果強調「非常に危うい」、日銀総裁任期が修正の好機
日高正裕、藤岡徹
2017年8月7日 08:38 JST

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仮に再任でも5年で2%達成の公算なく、2期目で変わる可能性も
債務超過に陥る可能性、通貨発行益があるから大丈夫とは言えない

日本銀行審議委員を5年間務めた木内登英氏は先月の退任後初のインタビューに応じ、異次元緩和の副作用が懸念される中で、効果ばかり情報発信するのは「非常に危うい」との見方を示した。黒田東彦総裁の来年4月の任期満了のタイミングがそうした姿勢を軌道修正する「一つのチャンスだ」と述べた。

  野村総合研究所のエグゼクティブ・エコノミストに就任した同氏は4日のインタビューで、「いろいろな副作用があることを人々が心配している時に、効果だけ強調する情報発信は問題が大きい」と指摘。こうした姿勢を軌道修正するきっかけは「人が変わること」であり、仮に黒田総裁が再任されても、次の5年で物価目標が達成される可能性は低いため、「2期目になれば変わる可能性がある」と期待する。

  日銀は2%の物価目標の実現を「安定的に持続するために必要な時点まで」現在の政策を継続するとしている。木内氏は、昨年9月の長短金利操作の導入で長期国債の買い入れペースはある程度柔軟化したが、2%の物価目標の位置付けを変えてこのコミットメント(公約)を見直さない限り、金利とリスク資産買い入れについては正常化が進まないと指摘する。

  日銀は先月公表した展望リポートで、2%物価目標の達成時期を「2018年度ごろ」から「19年度ごろ」に先送りした。達成時期の先送りは13年4月の異次元緩和導入から6度目だが、新たな見通しも「下振れリスクの方が大きい」としており、次期総裁の5年間の任期で達成できるかどうかも不透明感だ。一方で、異次元緩和の長期化でさまざまな弊害も指摘されるようになっている。

2%目標に根拠はない

  木内氏は、もともと2%の物価目標にはっきりした根拠はなく、日銀はその点で「思考停止になっている」と指摘。本当に2%が妥当なのか「根本から問い直すことが非常に重要だ」と言う。

  超低金利が非常に長期化する中で、「追加的な金利低下の効果は小さくなっている」との見方を示す。日銀は実質長期金利の低下を強調しているが、「効果が出たのは14年くらいまでで、それ以降は副作用ばかり積み上がる局面に入っている」と語る。

  副作用が強まっている筆頭として国債市場を挙げる。長期国債買い入れペース(保有残高の年間増加額)は「約80兆円」のめどとは裏腹に足元で60兆円前後に減速しているが、木内はそれでも「来年中ごろには限界が来る」と予想。その時は流動性が極度に低下した状況で金利が大きく振れ、国債市場だけでなく金融市場全体、ひいては経済の混乱につながる恐れがあるという。

債務超過は十分あり得る

  木内氏が次に挙げる副作用は日銀の財務への影響だ。異次元緩和の出口で日銀は短期金利を引き上げるが、支払金利が保有国債の利回りを上回る逆ざやとなり、債務超過に陥るとの試算もある。黒田総裁は6月の会見で、日銀が赤字に陥る可能性を認めた上で、債券取引損失引当金を拡充していることや通貨発行益(シニョレッジ)があることを理由に、信認が失われることはないという考えを示した。

  木内氏は引当金は「焼け石に水」であり、短期金利引き上げのペース次第で「債務超過に陥る可能性は十分ある」と指摘。仮に政府による資本注入が行われれば、国民負担を伴うことから政治問題化するのは必至で、日銀法が改正されるなどして「独立性が制限されることを覚悟しないといけない」と語る。

  債務超過に陥っても金融政策運営に影響はなく、資本注入の必要もないとの主張もあるが、「国民の間で、日銀が債務超過になって通貨価値は大丈夫かという議論が高まったら、政府は資本注入せざるを得ないだろう。その時は日銀は拒めないだろう」と言う。
  そうした事態を避けるため自力で何とかしようとすれば、物価が上がっても短期金利を低く抑える一方で、長期金利の上昇を容認し通貨発行益を稼ぐという選択肢もあると木内氏は言う。その場合、物価の安定という使命を放棄することになり、急激な円安が進んだり、長期金利が不安定化し、国民生活は打撃を被る。「長期的にはシニョレッジを稼げるので大丈夫だという議論は全く成り立たない」としている。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-08-06/OU5IW06KLVR901


 

日銀は再度の総括検証必要、国債・ETF減額を=岩田一政氏

[東京 8日 ロイター] - 岩田一政・日本経済研究センター理事長(元日銀副総裁)はロイターとのインタビューで、物価2%目標の実現が依然として遠い中、日銀はイールドカーブ・コントロール(YCC)政策や量的緩和の効果などについて、あらためて総括的な検証を行うことが必要と語った。その際、信頼できる物価見通しを示したうえで、長期国債や上場投資信託(ETF)の買い入れを徐々に減額し、政策の持続可能性を高めることが重要とした。

物価1%程度が確実な状況となり、デフレに後戻りしないことが確認された段階で、ゼロ%程度としている10年国債利回り(長期金利)の操作目標の見直しに着手してもいいと指摘。具体的にはゼロ%の対象年限を現行の10年から5年などに短くすることが有効との認識を示した。

来年4月に任期を迎える黒田東彦総裁の後任については、出口政策を円滑に進めるためにも、大規模緩和を推進してきた黒田氏の続投が最適と語った。

インタビューは7日に実施した。主な内容は以下の通り。

──日銀は7月の金融政策決定会合で物価2%目標の達成時期を「2019年度ごろ」に1年先送りした。

「金融政策はフォワード・ルッキングが極めて重要だが、日銀が物価安定目標2%の達成時期を6回も先送りしたことによって、展望リポートの数字を誰も信用しなくなってしまった。経済や物価の予測は、正確で信頼できるものにすることが重要だ」

「失業率がここまで下がっても賃金・物価がなかなか上がらないのは、労働市場の構造変化やIT技術の進歩などが重なっていると思う。今の情勢では19年度中の2%達成はなかなか難しい。物価2%を中長期の目標として置いておくことはいいが、まずは物価1%(の実現)をきちんと確認することが重要だ」

──目標達成が遠い中で、今後の金融政策運営はどうあるべきか。

「昨年9月のYCC政策の導入から間もなく1年が経過するが、物価2%の実現は遠いとみられるため、再び総括的な検証を行うことが必要。具体的には、量的緩和とマイナス金利を含めた現行政策の効果に加え、1%と2%の物価上昇率がどの程度の期間で実現可能なのかを正確な予測をもとに示すべき。そのうえで、持続可能なかたちに国債やETFなどの資産買い入れの減額を検討すべきだ」

──国債・ETF買い入れの減額の進め方は。

「YCCは金利政策であるにもかかわらず、年間80兆円の国債買い入れという量も同時に掲げていることに無理がある。すでに60兆円程度に買い入れを減らしており、金利政策主導であることを強調しながら、徐々に新規国債発行額程度の40兆円ペースに減らすべき」

「ETFについても、どのくらいまでリスクプレミアムが縮小すれば買い入れを止めるのか、条件が明確ではない。そもそもETFの買い入れには、銀行株が入っていることによる利益相反の可能性や、市場の流動性への影響、コーポレート・ガバナンス上の問題など弊害がいくつもある」

「現在の1万9000円から2万円という日経平均株価の水準は、ファンダメンタルな株価に近いと考える。それなのに、年間6兆円ものETF買い入れを続ける必要があるのか。減額によって株価にマイナスの影響もあると思うが、多少下がってもファンダメンタルな株価の範囲内に収まるのであれば、大きな問題にはならないだろう」

──長短金利の操作目標はどうするのか。

「物価が1%よりも大きく下がらない、デフレに戻らないことが確実な情勢になれば、現在のゼロ%程度という長期金利の操作目標を見直してもいい。金融機関収益に与える影響としては、マイナス0.1%の短期金利よりも、10年までゼロ%になっていることの方が大きい。金融庁が地域金融機関にビジネスモデルの転換を促しているが、すぐに転換はできない。このままゼロ%の長期金利を続ければ、地域金融機関の経営に問題が出てくる可能性がある」

「長期金利の操作目標を見直すには2つの方法がある。1つは現在の0.1%の許容範囲(上限)を0.5%などに拡大すること。もう1つは、ゼロ金利の年限を現在の10年から、5年などに短くすること。私は後者が有効だと思う」

「今後、金融正常化の局面では、短期金利の将来のパスと整合的になるように長期金利を調整していくことが自然。そのために日銀がやるべきことは、コミュニケーションと透明性の改善という観点からも、米連邦準備理事会(FRB)のように短期の政策金利の見通しを示すことだ。これも次の総括的な検証の議題に設定すべきだと思う」

──黒田総裁は来年4月に任期を迎える。

「これまでの経緯をよくご存じの黒田総裁に最後までやっていただくのがいいのではないか。金融緩和の出口をきちんと見届ける、アベノミクスを最後までやり遂げるのに最適なのは黒田総裁だろう」

(伊藤純夫 木原麗花)
https://jp.reuters.com/article/iwata-interview-idJPKBN1AO0AY?sp=true

 

円来月にも対ドル100円へ、際立つ割安さと円売り投機−野村AM
野沢茂樹、Chikafumi Hodo
2017年8月7日 09:36 JST更新日時 2017年8月7日 15:18 JST

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円相場は対ドルで、早ければ来月にも100円程度へ急騰する可能性がある−。そのきっかけは、米国の政治的な混乱や金融政策見通しの揺らぎだが、底流にはドル相場が歴史的な規模の下落局面に入りつつある中で、円がまだ割安な水準に放置され投機的な売りも膨らんでいることがあると、運用資産が約44兆円に上る野村アセットマネジメントは指摘する。
  野村AMの榊茂樹チーフストラテジストは2日のインタビューで、ドルの総合的な強さを内外の物価格差を考慮して算出した実質実効為替レートを例に挙げて、1985年と2002年に続き、今年初めから大きな波動の3度目の下落局面に入りつつあると説明した。過去の例では「いったんドル安局面に入ると相当の年数にわたって続く。最初は主要国、その後は新興国の通貨がドルに対して上昇することが多い」と話した。
  ドル売りの受け皿になる可能性のある通貨については、「経常収支の黒字が大きい国・地域のうち、中国の人民元や韓国ウォンの実質実効為替レートは歴史的に高い水準にある一方、ユーロや円はかなり低い」と指摘。「ユーロの割安感は最近の上昇でやや薄れているが、円は主要通貨でいま最も割安感が強い」ため、内外金利差などの円安要因にもかかわらず、「どこかで円高になるリスク」が高まっていると読む。
  ユーロは先週、1ユーロ=1.1910ドルと2015年1月以来の高値を記録した。一方、円は対ドルで108円−114円程度の一進一退から抜け出せない状態が約5カ月間続いている。榊氏はドル・円の長期的な適正水準を測る購買力平価で見ると「100円前後、95円から100円程度だ」と指摘。過去にはこの水準を超えた円高が「しばしば」起きており、先行き米国で利上げ打ち止め観測が浮上すれば、90円程度も「あり得ない話ではない」とみる。
  国際決済銀行(BIS)の統計によれば、ドルの実質実効為替レートは6月に113.81。トランプ米大統領が就任した1月に付けた約13年半ぶり高値118.93から下げたが、2000年以降の平均の109.01を上回ったままだ。ユーロは92.33と15年4月に付けた15年ぶり安値86.88から上昇基調をたどっている。平均は98.74だ。一方、円は76.76で、15年6月に付けた1972年以来の安値67.86から反発したが、なお平均の94.82には距離がある。

  円は長期的に見た割安さが際立っている上、投機的な売り越し残高も足元で急速に拡大している。榊氏は売越高が膨張する過程でも円相場は横ばい圏に踏みとどまっていたと指摘。「蓄積された円ショートが何らかのきっかけで巻き戻されると、かなり急激な円高になり、100円程度まで割と簡単に上昇してしまうリスクもある」と読む。円高の到来時期も「これだけ蓄積すると、案外早いかもしれない」とみる。
  米商品先物取引委員会(CFTC)の統計では、ヘッジファンドや大口投機家によるユーロの買越幅は11年5月以来となる9万1321枚。昨年11月初めから23万枚近く買い越し方向に動いた。榊氏は「ユーロは年末にかけて1.20−1.25ドル程度まで上昇し得るが、やや頭が重くなる可能性がある」と予想。一方、円の売越幅は先月18日時点で12万6919枚と約3年半ぶりの高水準。3カ月足らずで10万枚超も増えた。
  こうしたポジションの蓄積が崩れるトリガーは何か。榊氏は「その時々で何になるか分からない」としながらも、ドル安が加速する「一つのリスクは9月ころにある」と読む。9月は米金融当局が追加利上げの是非や約4.5兆ドルに上るバランスシートの縮小方針を決めるとみられている上、ムニューシン米財務長官は政府債務の上限を引き上げないと同月29日に資金が底をつくと上下両院に訴えていると指摘した。

ムニューシン米財務長官

Photographer: Andrew Harrer/Bloomberg
  米国が政治的な混迷の中で追加の利上げをすれば「インフレ圧力が高まっていないのに大丈夫かとの懸念が広がる」可能性がある一方、利上げやバランスシート縮小の決定を先送りすれば、ハト派化したとして「それ自体がドル安要因になりかねない」と、榊氏はみている。
  ドル安の受け皿としてユーロなどに後れをとっていた円が買われ始めた場合、日本の当局が円高懸念を訴えても国際的な理解を得るのは難しいだろうと分析。完全失業率は約24年ぶりの水準に低下するなど景気は堅調さを維持している。
  榊氏によれば、円高対策として日本銀行ができることは限られる。金利コントロール策で日銀当座預金の一部に課すマイナス金利や10年債利回りの誘導目標を引き下げたり、国債買い入れ額を増やすのは、現実問題としては非常に難しく、「せいぜいできること」は、10年債利回りで「ゼロ%程度」の事実上の下限であるマイナス0.1%程度までの範囲内で抑制するくらいだと読む。
  榊氏は、国内勢の外債買い越しが続いている背景について、日本と米欧との金融政策見通しの格差から円安基調になるとの見方が背後にあると指摘。それでも円安が進まないのは、顧客に円建ての支払い義務を持つため、「機関投資家の外債投資はほとんどがヘッジ付き」だからだと説明した。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-08-07/OU9S5T6K50XS01


 


コラム:ドル110円割れ定着を阻む2つの防護壁=植野大作氏
植野大作
植野大作三菱UFJモルガン・スタンレー証券 チーフ為替ストラテジスト
[東京 8日] - 2017年度がスタートしてから4カ月が経過。この間のドル円相場は110円を割ると下値が堅い一方、115円の手前では上値が重く、難解なレンジ取引となっている。

現在、筆者が在籍する為替アナリスト業界では、「ドル高派」と「円高派」の意見が分かれているが、今のところ、双方ともに明確な勝利宣言を許されず、欲求不満の溜まる日々が続いている。

果たして今後、どちらの陣営に軍配が上がるのだろうか。以下、現時点における筆者の見解をまとめておく。

まず、当面のドル円相場は上値の重い状況が続くだろう。モラー米特別検察官が指揮するロシア疑惑関連捜査は今も水面下で進行中だが、最近は捜査の対象が大統領の娘婿、長男、関連企業へと拡大しており、この先どこまで広がっていくのか見当がつかない。

この手の政局絡みのイベントは、経済指標のように結果が判明する日時を特定できない。そのため、いつ、どのような展開をみせるのか、部外者の予断を受け付けない怖さがある。

一般に、多くの市場関係者は、そのような不透明感を非常に嫌う。当面、ドル円相場の上値が目立って軽くなるとは思い難い。断続的に110円を割り込む可能性はまだ残っているとみるのが無難だろう。

ただし、目先のドル円相場が110円割れの水準に差し込んだ場合でも、長く定着するレベルではないとの判断は堅持している。理由は主に2つあると考える。

<淡々と進む米金融政策の正常化>

第1に、トランプ政権が迷走する中でも米国経済は堅調に推移、米連邦準備理事会(FRB)は金融政策の正常化を進めている。米財政出動の財源となる医療制度改革法案の成立に何度も失敗したことで、現在トランプ財政への期待はほぼ消滅しかかっている。

にもかかわらず、ドル円相場が昨秋の米大統領選の当確発表前の安値である101円台に押し戻されていないのは、米国で財政出動への期待がしぼむ中でも金融政策の正常化が淡々と進んできたことが背景にあると思われる。

米国でトランプ新政権が発足した後、日を追うごとにホワイトハウスの機能不全は鮮明になったが、それによる悪影響が民間の企業業績やマクロ経済に及んだ痕跡はほとんど認められない。米大統領選後にFRBは3回も利上げを実施した。

為替相場に「たら」や「れば」はないが、もしも米大統領選後に経済が失速、FRBがこの間に1回も利上げができないような経済状態だったなら、今ごろドル円相場は101円前後に戻っていたのではなかろうか。

最近の米国の経済指標を俯瞰すると、一部に弱めのデータも散見されるが、経済全体の強弱を示す雇用情勢は良好であり、早期失速の気配は漂っていない。米国の金融政策運営について、FRBによる今秋からの保有資産の縮小開始や年末以降の利上げ再開を見込む向きも決して少なくない。

イエレンFRB議長は、金融政策の正常化を進める条件として、経済状況が「予想通り」であることを挙げており、「予想以上」に強くなければいけないとは言っていない。今後の米国経済が「そこそこの強さ」を維持していれば、「金利」と「量」の両面で金融政策の正常化が進むとの期待は根強く残存するだろう。

<G7中銀で日銀だけ出口論を封印>

第2に、日本の金融政策に目を転じると、異次元緩和の開始から4年以上が経過してなお「物価目標2%」が視野に入っていない。「短期金利=マイナス0.1%、長期金利=ゼロ%程度」という異例の低金利政策は非常に長期化するとの観測が強まっている。

7月7日に日銀は約5カ月ぶりに「指し値オペ」を通知、海外発の金利上昇圧力の国内への波及を許さない姿勢を改めて示した。現在、主要通貨圏の金融政策を比べてみると、すでに利上げを4回実施した米国が金融緩和の出口レースで先頭を走っており、7月12日に6年10カ月ぶりに利上げを行ったカナダがこれに続いている。

昨年6月の国民投票における欧州連合(EU)離脱選択後のポンド安でインフレ圧力が強まっている英国でも、中銀幹部が利上げの可能性をほのめかしているほか、7月の定例会見で欧州中銀(ECB)のドラギ総裁は今年秋に来年以降の量的緩和について「議論する」と明言、多くの市場関係者が年明けからの量的緩和縮小(テーパリング)開始の可能性を意識し始めている。主要7カ国(G7)の中央銀行で金融緩和の出口論すら封印しているのは日銀だけだ。

金融緩和の量的側面に注目しても、日銀による最近の国債購入実績は技術的な限界もあって当初の年80兆円から60兆円前後まで落ちている。だが、日銀は国債以外の資産も購入しており、「インフレ率の実績が安定的に目標2%を超えることを目指す」という「オーバーシュート型コミットメント」の下、金額の多寡にかかわらず、マネタリーベースがオープン・エンドで増え続ける仕組みは堅持している。

昨年夏場に市場を騒然とさせた「総括的な検証」を経て、日銀による現在の金融政策の主な操作目標は「量」から「金利」に変更されており、国内金利の上昇を制御可能な範囲内で日銀の国債購入額が変動するのは自然な現象である。

民間金融機関が保有している国債を手放すのにも限度があるため、日銀による国債購入額は今後も受動的に減り続ける可能性はある。だが、「フローの資産購入額をゼロにすることを目指して減額する」という本来の意味でのテーパリングは日銀内でまだ議論されている様子はない。

誰も日本国債を売っていないのに、ひとりでに金利が上昇することはあり得ない。民間金融機関が「もうこれ以上は売れない」ところまで日銀が国債を買えば、それまでよりも少ない国債購入金額で金利の上昇を抑え込むことは可能だろう。

<年末に向けて1ドル115円突破か>

蛇足になるかもしれないが、民主党政権下で任命された日銀審議委員2人の任期が7月23日に切れており、現在は安倍内閣による任命比率100%の日銀会合が完成している。9月下旬に開催される次回の日銀会合における多数決の結果は、これまで市場が慣れ親しんでいた「賛成7、反対2」から「賛成9、反対0」に近づく可能性が意識されている。

洋の東西を問わず、「金融政策絡みの人事異動」はマーケット・トークの題材として好まれやすい。日本における異次元緩和の長期化観測は、今後一層強固になる可能性があり、米国と比較した金融政策の方向格差だけでなく、その他の先進国と比較しても日銀緩和の特異性が際立ってくるだろう。

アベノミクスの初期段階で猛威を振るった「日銀緩和による円安ストーリー」は、古くて新しいマーケット・トークのテーマとしてクロス円市場を中心に蒸し返されつつある。米金融政策の正常化観測が消えない限り、ドル円市場にもやがて伝染してくる時期が訪れるのではなかろうか。

その時期を特定するのは容易ではないが、早ければ9月20日の米連邦公開市場委員会(FOMC)、21日の日銀会合と続く日米金融政策の発表イベントの頃になりそうだ。毎年10―12月期はドル需要が高まりやすいこともあり、年末に向けては115円突破を予想している。

*植野大作氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ為替ストラテジスト。1988年、野村総合研究所入社。2000年に国際金融研究室長を経て、04年に野村証券に転籍、国際金融調査課長として為替調査を統括、09年に投資調査部長。同年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画、12月より主席研究員兼代表取締役社長。12年4月に三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社、13年4月より現職。05年以降、日本経済新聞社主催のアナリスト・ランキングで5年連続為替部門1位を獲得。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(こちら)

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

改造内閣にアベノミクス「変質」加速の芽=熊野英生氏
今回の内閣改造は、サプライズを狙って支持率回復を目指す手もあった。だが、ふたを開けてみれば、そうした加点よりもさらなる失点をしたくないという安倍晋三首相の考え方がにじんだものになったと言えよう。 記事の全文

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http://jp.reuters.com/article/column-forexforum-daisaku-ueno-idJPKBN1AO0AE


 

ドル上昇、新興国市場では通貨より株式の痛手大きい可能性
George Lei
2017年8月8日 11:10 JST

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• ドル高は通常、新興国通貨により大きな打撃に
• ドルの上昇が長期化すれば株式が最も危険にさらされる恐れ
ドル高は最近、新興国の通貨よりも株式にとって大きな悩みの種になったようだ。
  新興国株の指標のMSCI新興市場指数は今年24%上昇し、年率では2009年以来最大の値上がり。一方、ドルは約8.5%下落している。
  以下のチャートは、2つの資産に密接な関係を示しており、30日ローリング相関はマイナス約0.4。
https://assets.bwbx.io/images/users/iqjWHBFdfxIU/iS0pOnEbbJ2g/v2/-1x-1.png

  一方、ドルと新興国通貨の関係は一般的見方に一致していない。30日ローリング相関では、MSCIの新興国通貨指数がドル指数にほとんど相関がないことが示されており、マイナス0.8だった1年前とは対照的だ。
https://assets.bwbx.io/images/users/iqjWHBFdfxIU/ia6IT4yYyYhY/v1/-1x-1.png

  過去1年半の間にドルと新興国通貨の相関がほとんど存在しなくなったのは2、3回しかない。こうした状況になると相関関係は、ドル高が新興国通貨全般と株式を圧迫するという通常のパターンに戻る傾向がある。
  備考:ジョージ・レイ氏はブルームバーグ向けに執筆する為替ストラテジスト。同氏の見解は個人的なもので、投資助言を意図したものではありません。
原題:Stronger Dollar May Hurt Developing Stocks More Than Currencies(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-08-08/OUCDZV6S973Z01

 

米債券市場はインフレ見通しを誤解−ブラックロックとバンガード
Liz Capo McCormick
2017年8月7日 13:43 JST

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債券市場の大手2社は依然、インフレが盛り返すという見通しを堅持している。
  インフレ論者の中にはトランプ大統領の成長促進公約をうのみにした人も多く、弱い内容の経済指標発表で何度となく面目をやや失ったように見える。
  それでもバンガードとブラックロックはインフレ率が数カ月後には2%に戻ると予想している。ワシントンの動静にかかわらず、労働市場ひっ迫が賃金を押し上げ、それに伴って米国民の消費が増加、消費者物価の押し上げにつながるという図式だ。さらにドル安などを考慮すれば、債券市場がインフレに関して悲観的になりすぎている可能性が高いと両社は受け止めている。
https://assets.bwbx.io/images/users/iqjWHBFdfxIU/ipIVJCUTO_W8/v2/-1x-1.png

  バンガードのシニア・マネーマネジャー、ジェンマ・ライトカスパリウス氏は、「コアインフレの基本的なトレンドは上向きだろう」と述べた。
  米金融当局による低金利策や大規模な量的緩和にもかかわらず、インフレ率は健全な米経済に沿った水準に回復していない指標の1つとなっている。6月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比1.6%上昇と、4カ月連続で伸び率が低下。米金融当局が重視するインフレ指標はさらに弱まり1.4%に低下している。
https://assets.bwbx.io/images/users/iqjWHBFdfxIU/iVj..nkA2ZuU/v2/-1x-1.png

  バンガードは10年物ブレークイーブンの水準を2−2.25%付近と見込んでおり、7月にライトカスパリウス氏はインフレ連動債(TIPS)を購入した。インフレ率が市場の見通しを上回るときに利益の出るTIPSのポジションを同氏は向こう数カ月、増やす意向だという。
  ブラックロックでインフレ連動債ポートフォリオの責任者を務めるマーティン・へガティー氏は、英国や欧州のインフレ連動債よりもTIPSを有望視しており、米国のインフレ率の低迷が続くと予想する債券トレーダーは間違うことになると予想。「TIPSは非常に割安だ」とみている。
  
https://assets.bwbx.io/images/users/iqjWHBFdfxIU/ipmX4xAj39KI/v2/-1x-1.png
  
原題:BlackRock, Vanguard Say Bond Market’s Got This Trade All Wrong(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-08-07/OUAQWT6TTDS001
 

米短期国債利回り、市場の不安示す−債務上限引き上げで期限設定受け
Alexandra Harris
2017年8月8日 11:26 JST

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• 10月5日償還債利回りは1.078%、11月2日償還債の1.05%を上回る
• 米財務長官は議会に9月29日までの行動を呼び掛け

トランプ米政権は付帯条件を付けない形の債務上限引き上げを議会に呼び掛けているが、米短期国債のイールドカーブはそれを反映したものになっていない。
  法定債務上限引き上げに向けた進展が乏しい中、10月5日償還の国債利回りは1.078%と11月2日償還債の1.05%を上回っている。テクニカルデフォルトにさらされかねない証券の保有を避けるため、償還期限が10月より後の債券が買われている。

  ムニューシン米財務長官は7月28日付で米議会に書簡を送り、9月29日までに議会が行動することが「極めて重要」との認識を示した。債務上限を巡る警告で具体的な期日を挙げたのはこれが初めて。
  一方、米下院はすでに休会に入り、上院はこの1週間で債務引き上げ問題に取り組む公算は小さく、神経質な展開が続く可能性がある。議会が再開する9月5日からだと同問題の解決に向けて残された会期は12日程度となる。
  財務長官が引き上げ期限を9月29日に設定したことで、10月の早い時期に償還を迎える米国債でいずれもヘッドラインリスクが高まることになると、ライトソンICAPのチーフエコノミスト、ルー・クランドール氏は7日のリポートに記した。
原題:Treasury Bill Curve Shows ‘Red-Letter’ Date Causing Anxiety(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-08-08/OUCDHB6S972W01


 

銀行融資8年ぶり伸び 7月3.4%増、不動産けん引
2017/8/8 12:24

 日銀が8日発表した7月の貸出・預金動向(速報)によると、融資残高は449兆円となり、前年同月比で3.4%増えた。伸び率は2009年4月以来、約8年ぶりの大きさだった。日銀が大規模金融緩和を続けていることで、貸出金利が大きく低下している。不動産向けやM&A(合併・買収)向けの融資の増加が目立っている。
http://www.nikkei.com/content/pic/20170808/96958A9E93819594E2EA9AE2E78DE2EAE2EAE0E2E3E5979394E2E2E2-DSXMZO1976619008082017EAF001-PB1-2.jpg

 09年当時は、リーマン危機の直後だったため、政府が融資への支援をしていた時期だった。この時期を除くと、バブル期以来の伸びとなる。残高でみても、01年4月以来、約16年ぶりの高水準となった。
 日銀によると、足元の銀行の貸出金利は平均で約0.7%と過去最低の水準だ。日銀が大規模な金融緩和を続けていることで、民間の貸出金利にも低下圧力がかかっている。日銀は金融緩和の一環で金融機関から国債を大量に買っており、銀行が余剰資金を多く持っていることも影響している。企業や家計にとっては、過去に例がないほどお金を借りやすい環境になっている。
 融資の内訳では、不動産向けの伸びが目立つ。特に相続税対策を中心としたアパートローンの融資は、都心部と地方を問わず高水準だ。大手銀では、大型のM&Aの際に必要な手当てとしての融資も伸びている。
 融資増はこうした不動産融資やM&Aに偏っており、アパート建設は過熱しているとの指摘も多い。設備投資向けの資金など企業向けの一般的な借り入れは徐々に増えてはいるものの、金利が極めて低い状況の割には、借り入れ意欲は鈍い。
 日銀が昨年マイナス金利政策を導入したことで銀行の運用先が少なくなり、貸し出し競争が一段と激化している面もある。地銀を中心に利ざやは細り続けており、銀行経営の面でも課題は残る。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGF08H05_Y7A800C1EAF000/


 


7月の企業倒産、前年比微増の714件 2カ月ぶり上回る
2017/8/8 13:30
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 民間調査会社の東京商工リサーチが8日発表した7月の全国企業倒産件数は前年同月比0.2%増の714件となり、2カ月ぶりに前年同月を上回った。7月としては2011年以来6年ぶりに前年を上回った。倒産件数は3月以降に前年比で増加と減少を繰り返しており、低水準に変わりはないものの、企業倒産の減少は底打ちの兆しをみせ始めている。

 7月は「人手不足」関連倒産が24件と3カ月ぶりに前年同月(28件)を下回った。内訳の「後継者難」型が16件と前年同月(27件)から減ったためだ。一方で、人手不足が解消されていないことを背景に「求人難」型の倒産は今年最多の7件となった。「求人難」型の倒産を1〜7月の合計で見ると23件と前年同期(10件)から倍増している。

 産業別では10産業のうち5産業で倒産件数が前年同月を上回った。サービス業他は前年比2.6%増の191件と5カ月連続で増加した。卸売業は同4.4%増の117件と4カ月ぶり、建設業は同3.8%増の135件と3カ月ぶり、不動産業が同21.0%増の23件と2カ月ぶりに増加に転じた。

 負債総額は前年比11.3%減(141億3400万円減)の1098億8500万円と2カ月ぶりに前年比で減少した。負債100億円以上の大型倒産が2カ月ぶりに発生しなかった。〔日経QUICKニュース(NQN)〕
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFL08HCC_Y7A800C1000000/


7月の街角景気、現状判断指数は4カ月ぶり悪化
2017/8/8 14:02
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 内閣府が8日発表した7月の景気ウオッチャー調査(街角景気)によると、街角の景気実感を示す現状判断指数(季節調整済み)は49.7で、前の月に比べて0.3ポイント低下(悪化)した。悪化は4カ月ぶり。企業動向と雇用が悪化した。

 2〜3カ月後を占う先行き判断指数は50.3で、0.2ポイント低下した。低下は4カ月ぶり。家計動向と企業動向が悪化した。

 内閣府は基調判断を「持ち直しが続いている」に据え置いた。〔日経QUICKニュース(NQN)〕
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFL07HW6_X00C17A8000000/
http://www.asyura2.com/17/hasan123/msg/102.html

[戦争b20] 北朝鮮、米国、いかれたアウトローがもたらす惨劇 核戦争は起き得る 日本領海に撃込 グアムへミサイル攻撃 北朝鮮は炎と怒り
北朝鮮、米国、いかれたアウトローがもたらす惨劇
映画と旅する歴史の舞台〜米国篇(12) ワイルドウェストの法と秩序
2017.8.9(水) 竹野 敏貴

フィリピンの首都マニラで行った三者会談で写真撮影に臨む、(左から)米国のレックス・ティラーソン国務長官、韓国の康京和(カン・ギョンファ)外相と河野太郎外相(2017年8月7日撮影)。(c)AFP/YONHAP〔AFPBB News〕
 北朝鮮が、また、ICBM(大陸間弾道ミサイル)を発射した。日本の排他的経済水域に落下、その到達高度から射程は1万キロに達し、米国本土、シカゴなど中西部にまで達するとの分析もある。
 核弾頭搭載も視野に入ってきたと言われるだけに、その脅威は新たなるステージに入ったと言えるだろう。8月5日、国連安全保障理事会では、これまでで最も厳しい経済制裁決議が採択された。
東西冷戦中、人々を震え上がらせた核の危機
 米国中西部、ミズーリ州カンザスシティ。
 緊張高まる東西冷戦情勢のニュースを伝えるテレビ。軍人、医師、農場、学生、それぞれの日常にも不安がのぞく。
 「どっちも先に核を使いたくないはずだ」
 「問題なのは、どこに落とすかってこと」
 「こんな何もない田舎では、何も起こりはしないさ」
 「何もない? 近くには空軍基地があって、ミサイルサイロもある。立派な標的さ」
 1983年、米国での放映時、1億人が見たというテレビ映画『ザ・デイ・アフター』は、日本でも放映され、翌年には劇場公開もされた。そんな「米国が初めて「ヒロシマ」を体験した」と謳う衝撃作ののどかな田舎の様子は急変する。
 シェルターへの避難命令。必需品を買い込もうとパニック状態のスーパー。欧州で核兵器が使われたとの報道。飛び立つミサイル。不安げに空を見上げる市民たち。「30分でソ連に到達する」「ソ連のもだ」との声。
 そして鳴り響くサイレン、逃げ惑う人々、閃光、轟音、キノコ雲・・・。
 戦いなど無縁と考えていた市民の日常がいきなり遮断される。どちらが先に発射したかも分からない。どっちみち結果は同じだが・・・。
 いまや、安全な場所など、世界中どこにもない。戦地とは違い、戦いの日常感がないだけに余計怖い。
 始まる「The day after」の苛酷な現実。実際の「ヒロシマ」を知る日本人としては描写に少々不満は残るが・・・。
 2つの世界大戦でも戦場とならず無傷だった米国本土。しかし、この映画の舞台の1つとなりロケの多くも行われたカンザス州ローレンスには、米国史上、指折りの残虐さで知られる「ローレンスの虐殺」という過去がある。
 南軍ゲリラ部隊の男たちが、血に飢えたように、街を襲う。家は破壊され、焼かれ、略奪、暴行、そして死体の山。その多くは一般市民。部隊の一員ながら、暴虐の限りを尽くす仲間の行為を眺めるしかない青年ジェイク・・・。
 開戦して2年、東部戦線ペンシルベニア州ゲティスバーグ、西部戦線ミシシッピ州ビックスバーグ、それぞれの天王山に敗れ、劣勢続く南軍。そのゲリラ部隊が、1863年8月21日、北軍支持の強かった町ローレンスを襲撃した。
 『楽園をください』(1999)は、そんな地獄に引きずり込まれていく若者の戦う理由を、冒頭、字幕で伝える。
隣人との戦いでもあった南北戦争
 ミズーリの西の州境では、南北戦争は軍隊同志ではなく、隣人との戦いだった。非正規南軍ゲリラ「Bushwhackers」が、血なまぐさく絶望的なゲリラ戦を、北軍や北軍派「Jayhawkers」と戦っていたのである。
 どちらについても危険だったが、中立でい続けることがより危険だった・・・。
 南北境界エリアにあった奴隷州ミズーリは、戦争勃発後も連邦に残留した。しかし、その決定をめぐり州民感情が分裂、南部連合に合流する勢力もあり、住民は南北に分かれ戦った。
 そして、ローレンスは奴隷制廃止運動支持の強固な地盤。Jayhawkersの拠点でもあり、ミズーリ州西部の奴隷制擁護派地域に侵入、攻撃することで知られていたのである。
 ドイツ系移民のジェイクは、父から、北軍のドイツ人グループに身を寄せるよう進言された。
 しかし、ローレンスからやって来た「Jayhawkers」に父親を殺された裕福な農園主の息子、友人であるジャック・ブルとともに、「Bushwhackers」の一員としてゲリラ戦を戦うことになる。
 非正規軍で戦う主人公たちにとって、南北戦争は、大義のための戦いではなく、故郷を、家族を、友を、守る戦いだったのである。
 1970年代下火となっていたハリウッド製西部劇の数少ない傑作、クリント・イーストウッド監督主演の『アウトロー』(1976)の主人公ジョージーはミズーリの農民。ジェイク同様に南軍ゲリラとなった男の戦う理由は、復讐だった。
 カンザスの北軍ゲリラ「Redlegs」に襲われ、妻子を虐殺され家も焼かれたジョージーは、南軍ゲリラとして戦い、復讐の機会を窺っていた。しかし、目的を果たせぬまま終戦。
 連邦への忠誠を誓えば無罪放免、との話に北軍キャンプに出向いた仲間たちが虐殺され、ジョージーは命は落とさなかったものの、5000ドルの賞金を懸けられた「アウトロー」として、至る所で命を狙われることになる・・・。
 戦争が終わり、分裂国家の再生が進められる混乱の世を、アウトローたちは闊歩した。「法と秩序」より拳銃がモノ言う「ワイルドウェスト」で、アウトロー集団「ジェイムズ・ヤンガー・ギャング」は、銀行や列車を荒らし回る。
 その追跡を請け負ったのがピンカートン探偵社。5000ドルの賞金をかけ追うものの、血縁、地縁などの壁に阻まれ、なかなか捕まえることができない。
 しかし、1876年、ミネソタでの銀行強盗が失敗に終わり、ジェイムズ兄弟は何とか逃亡したが、負傷したヤンガー兄弟たちは逮捕され・・・。
血のつながりこそ信頼の証
 ジェシーとフランクのジェイムズ兄弟、コール、ジム、ジョン、ボブのヤンガー兄弟、エドとクレルのミラー兄弟、チャーリーとロバートのフォード兄弟・・・ライ・クーダーの音楽も魅力の実話をベースとした『ロング・ライダーズ』(1980)に登場するアウトローたちの多くが兄弟。
 不信の時代に、血のつながりこそが信頼の証しだった。そして、その中心的存在であるジェイムズ兄弟やコール・ヤンガーなども、戦時、Bushwhackersとして戦っていた(コールは最後正規軍入隊)。
 ピンカートン探偵社は、南北戦争中は北軍のスパイともなり、銀行、駅馬車、列車の警備から、犯罪者の捜索、銃撃戦まで、傭兵のような働きもした。
 連邦法を侵す罪人を追う政府の仕事の下請けとして西部ではアウトローたちの追跡に関わる一方、東部の資本家からの委託業務もこなしていた。
 1876年.ペンシルベニアの炭鉱。
 劣悪な環境での重労働に従事する煤だらけの炭鉱夫たち。作業が終わり、数人が、爆薬を仕かけ、坑道を爆破する。
 そんな炭鉱町に1人やって来たアイルランド系の男ジェイムズは、いきなり酒場で暴力沙汰を起こし収監、やって来たウェールズ人警察署長に語りかけられる。
 「喧嘩とはうまくやったな。強い奴は尊敬されるからな。ここには『モリー・マグワイア(Molly Maguires)』という全国的暴力組織がある。なんとか現行犯で捕まえたい。別の炭鉱では密偵が2人殺され1人が行方不明となっているが、今度は君の番だ」
 苦々しい表情でジェイムズが答える。「志願したのは、この国で芽を出したいからだ」。
 炭鉱夫として働くジェイムズは、「経費」を引かれ、ほとんど手取りのない給与という現実にも接した。モリー・マグワイア構成員は「よそ者」に探りを入れてくる。しかし、やがて、そのリーダーも心を許し・・・。
 マーク・トウェインの著作名から「金ぴか時代、金メッキ時代(Gilded age)」とも呼ばれる南北戦争後から1890年台初めまでの時期、資本主義は急速に浸透した。
 そして、「金ぴか」たる成金層が生まれる一方で、鉄道、鉱山といった巨大資本のもと働く労働者の処遇は極めて劣悪。当然のごとく、ストライキなど労働争議が頻発するようになった。
秘密結社モリー・マグワイア
 そんななか、実在した秘密結社モリー・マグワイアによる活動が、「労働スパイ」によって明るみとなり、「法と秩序」のもと「裁かれて」いく様を『男の闘い』(1970)は描く。
 ピンカートン探偵社は、そこでジェイムズのようなスパイ業務をも請け負った。そして、警察や連邦軍が労働者に発砲し多数の犠牲者を出した1877年の鉄道ストなどでも、スト崩し、潜入捜査など、体制側の駒として「大活躍」したのである。
 その手法は、ジェイムズ・ヤンガー・ギャング追跡劇で問題となった。ジェイムズ兄弟の実家に爆弾を投げ入れ、15歳の少年を死亡させたことが人々の非難を浴びるさまが『ロング・ライダーズ』にもある。
 そうしたことも手伝い、「悲劇のヒーロー」として同情を買うことになったジェイムズ兄弟は、銀行、鉄道など「金持ちから盗む西部のロビンフッド」「義賊」だと「Heroic Outlaw」としてメディアはもてはやした。
 そして、大衆小説本「Dime Novel」の主人公ともなり、さらにその名を知られることになるのである。
 一方、そんな「アウトロー」と対峙、法と秩序を守る「法の番人」一番の有名人がワイアット・アープ。そして、拳銃による法と秩序の維持、フロンティアでの最も知られた銃撃戦が、1881年10月26日の「OK牧場の決闘」である。
 カンザス州ダッジシティで勇名をはせた名保安官ワイアット・アープがブームタウン(俄か景気に湧く街)アリゾナ州トゥームストーン(Tombstone)へとやって来る。
 町は、駅馬車襲撃、牛泥棒、人殺しなど犯罪を重ねるクラントン一家など「カウボーイズ」と呼ばれる一派に牛耳られている。
 「法と秩序」を守るため、非道な「アウトロー」に裁きを下そうと、アープ兄弟とその友人で肺を病むドク・ホリデイが、「OK牧場」での決闘に臨む・・・。
 ジョン・フォード監督の『荒野の決闘』(1946)では叙情的に、ジョン・スタージェス監督の『OK牧場の決斗(原題 Gunfight at the O.K. Corral)』(1957)では男臭い任侠劇として描かれた「墓石」という名の町での銃撃戦は、ざっとこんなイメージ。
 しかし、現実の銃撃戦は「O.K. Corral」ではなくその近くの道で行われた。「OK牧場」は「OK Corral」の訳だが、そもそも「Corral」とは牧場ほど大規模ではなく「柵、囲い」といった程度のもの。邦題からイメージされる銃撃戦とはかなり違う。
人間的なワイアット・アープ像
 そんな勧善懲悪の英雄伝説とは違う人間的なワイアット・アープ像が、ケヴィン・コスナーが演じた『ワイアット・アープ』(1994)。
 駅馬車、鉄道建設現場、バファロー狩り、鉱山、ギャンブルなど、保安官以外にも多種多様な西部開拓時代を象徴する仕事に関わって来たワイアットが、商売での成功を夢見、鉱山や酒場などに投資しようと、銀山人気で急速に発展し始めたばかりのトゥームストーンにやって来る姿が描かれている。
 「OK牧場の決闘」後、アープ兄弟たちは殺人容疑で起訴された。結局無罪にはなったものの、次々と襲われ、1人は死に、1人は片腕を失う重傷を負った。
 ワイアットは「容疑者」を追う旅に出た。ここでも兄弟の血は一番だったのである。そして、殺害。逮捕状が出され、「保安官でありながら、お尋ね者だ」との台詞が映画にはある。
 このワイアットの旅は、「Wyatt Vendetta ride」(Vendettaは「血の復讐」の意)と呼ばれ、『OK牧場の決斗』のジョン・スタージェス監督が10年後に撮った後日譚『墓石と決闘』(1967)でも描かれている。
 逮捕状の出ていない「容疑者」をめぐりドク・ホリデイと議論となり、ワイアットは告白する。
 「復讐だった。次はクラントンだ。偽善者でいるつもりはない」
 「すべて偽善さ。保安官や軍人なら殺しが正当化されるなんて。それでも法は法。無視はできないぞ」
 そう言うドクもガンマンでありギャンブラー。とても善人とは言えない。景気が良く、治安の悪いブームタウンでは、腕の立つ賞金稼ぎが保安官になることも少なくなかった。
 「法の番人」とて、善悪の境界線はクリアではない。
 トゥームストーンから南へ50キロほど行くと米墨国境となる。そのやや西方、アリゾナ州オルターバレーの延々と続く国境地帯を、武装した退役軍人フォーリーが、「アリゾナ国境自警団」を率い、パトロールしている。フォーリーは語る。
 「誰も何もしないのには飽き飽きだ。だから自分の手で行うんだ」
 メディアは、「麻薬や暴力の流入、不法入国を防ぐ」ためと言う彼らを、「過激」「Racist」と非難する。「麻薬や暴力の流入」以外にも「仕事への不法移民の流入」という問題が大きいことも、フォーリーの別の発言が示す。
米墨国境の現実
 『カルテル・ランド』(2015)は、メキシコと米墨国境の現実を「カルテル」に立ち向かう「自警団(Vigilante)」という切り口で見せるドキュメンタリーだが、その背景は複雑だ。
 「911コールして助けを呼んでも、ここはツーソンから1時間半のところ。カルテルに襲われても、1時間半じっとしてろ、と言うのかい?」
 フォーリーは訴える。
 「正と誤、善と悪の間には、想像上のラインがある。自分は、悪に立ち向かい、正しいことをしていると信じている」
 「これまで、反乱軍のために、汚い仕事をしてきた。スパイ、破壊工作、暗殺・・・。うしろめたい任務も大義のためと自分に言い聞かせてきた。でなければすべてが無意味となる・・・」
 帝国軍の大量破壊兵器たる「デス・スター」の脅威を訴え、その弱点が分かる設計図奪取のため惑星スカリフ侵攻を求めるジンの申請を反乱軍評議会は却下した。
 失意のジンに、元帝国軍パイロット、ボーディーなどとともに、反乱軍のスパイ、キャシアンは、こう語り協力を申し出た。
 出撃しようとする彼らは、コールサインを求められた。そして名乗ったのが「ローグ・ワン(Rogue one)」。
 捨身の「ローグ・ワン」勇士たちはスカリフへと向かった・・・。
 スター・ウォーズ・シリーズのスピンオフ『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(2016)の主人公ジンは、アウトロー生活を送ってきたうえ、その父は帝国の科学者で「デス・スター」開発者の1人。
 同行するボーディーも元帝国軍パイロット。だから情報を伝えたところで、「犯罪者の証言を信じるのか」と、評議会も疑いの目を向ける。
 「自分勝手な行動をする、面倒を起こす」といった意の形容詞「Rogue」は、名詞として「ならず者」「ごろつき」といった意味ともなる。
 そんな「Rogue」だからこそ、「冷静な判断」や「科学的分析」の名のもと、事態を見切ってしまうのではなく、「不可能」としか思えない被抑圧者たちの苦境脱出の「希望」となる。
窮地に陥ったスパイたち
 これまで数々の不可能ミッションを成し遂げてきたIMF(Impossible Mission Force)のスパイたちも、『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』(2016)では、窮地に陥っている。
 彼らが追ってきた謎の組織「シンジケート」は、IMFの存在意義を保つための想像の産物だと、CIA(米中央情報局)からも行動を疑問視され、活動停止に追い込まれたのである。
 それでも、イーサン・ハントは活動をやめなかった。そして、CIAからも追われる身となりながらも、それが行方不明か死亡したはずの世界各国の諜報部員たちの集まりであることを突き止める。イーサンは、相棒に語る。
 「1つの組織が今の体制を壊そうとしている。手段を選ばず体制を破壊する連中、『Rogue Nation』だ」
 そして、IMFの精鋭が再集結、「Rogue Nation」との戦いが始まる・・・。
 1990年代、米国は、世界の秩序を乱し、協定や国際法を無視する国、自国の利益のため他国を平気で危険にさらす国「Rogue States」(ならず者国家)に、いくつかの国を指定した。
 そして、「テロとの戦い」で、アフガニスタン、イラク、リビアなどの「敵」を撃退するが、その地は歯止めを失い、いま、戦乱状態にある。
 他方、キューバでは「独裁者」が逝き、いま、「Rogue States」と考えられているのは、イラン、スーダン、シリア、そして、北朝鮮・・・。
 「キューバ危機の時と同じ。ケネディがテレビに出たわね」
 「即刻、報復措置を取る、と言ったのを覚えてるよ」
 「でも起きなかった。今度も大丈夫よ」
 「人間はそれほどイカレちゃいない」
 「でもイカレタ人もいるわ・・・」
 戦争勃発寸前のドイツの状況をテレビで見ながら、『ザ・デイ・アフター』の熟年夫婦が語り合う。
 良心ある者は、暴挙に直面したとき、いくらひどい相手でも、まさかそこまでは、と考え、一定の譲歩をする。
アウトローに手を焼く世界
 しかし、結果として、考えをはるかに超えた相手のイカレぶりに愕然とする。悪いことに、そんな相手なら、さらにつけ込んでくる。そのうえ、苦境を利用し、他の者まで利権狙いで介入してくる・・・。
 市民生活でも、国際社会でも、そんな「Rogue」「Outlaw」には手を焼く。
 「法の番人」が登場したところで、そんな相手でも「法に守られて」いることは少なくなく、型にはまった対応では埒が明かない。ローグ・ワンやイーサン・ハントのようなスーパーな活躍をする「Heroic Outlaw」が登場すれば別だが・・・。
 「ヒロシマ・ナガサキ」から72年の月日が過ぎ、その記憶は風化する一方に思える。もちろん、書物が、メディアが、そして何よりも広島・長崎の地そのものが、様々な記憶を提供し続けている。
 しかし、人間とは負の記憶を封印しようとする動物でもある。だからこそ、望みのない「ザ・デイ・アフター」を迎えないために、核のみならず、多くの人々を苦境に陥れてきたイカレタ人々がもたらした惨劇の歴史を常に再確認し、一人ひとり心して生きていく必要がある。
 負の連鎖を止められるのは、負の記憶を持った社会だけなのだから・・・。
(本文おわり、次ページ以降は本文で紹介した映画についての紹介。映画の番号は第1回からの通し番号)
(1322)ザ・デイ・アフター
(565)(再)楽園をください
(1323)アウトロー

(1324)ロング・ライダーズ
(384)(再)男の闘い
(1325)OK牧場の決斗

(1326)ワイアット・アープ
(1327)墓石と決闘
(1180)(再)カルテル・ランド

(1328)ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー
(1329)ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション

ザ・デイ・アフター
1322.ザ・デイ・アフター The Day After 1983年米国映画
(監督)ニコラス・メイヤー
(出演)ジェーソン・ロバーズ、ジョン・リスゴウ、ジョベス・ウィリアムズ
 核戦争勃発からその「The day after」へと至るミズーリ、カンザスの姿を、『タイム・アフター・タイム』(1979)のニコラス・メイヤー監督が描き、全米で1億人が見たと言われるテレビ映画の衝撃作。
楽園をください
(再)565.楽園をください Ride with the devil 1999年米国映画
(監督)アン・リー
(出演)トビー・マグワイア、スキート・ウーリッチ
 南北戦争が勃発し、境界エリアの奴隷州ゆえ、住民が分裂し戦うことになったミズーリの若者の悲劇を、台湾出身の『ブロークバック・マウンテン』(2005)のアン・リー監督が描く青春ウェスタン。
アウトロー
1323.アウトロー The Outlaw Josey Wales 1976年米国映画
(監督・主演)クリント・イーストウッド
(出演)ジョン・バーノン、チーフ・ダン・ジョージ、ソンドラ・ロック
(音楽)ジェリー・フィールディング
 北軍ゲリラ部隊に妻子を虐殺された農民ジョージー・ウェールズが、「アウトロー」として追われる身となりながら、復讐を遂げようとする姿を描く、クリント・イーストウッド監督主演の傑作西部劇。
ロング・ライダーズ
1324.ロング・ライダーズ The Long Riders 1980年米国映画
(監督)ウォルター・ヒル
(出演)デヴィッド・キャラダイン、ジェームズ・キーチ、デニス・クエイド、クリストファー・ゲスト
(音楽)ライ・クーダー
 南北戦争後、列車強盗、銀行強盗を繰り返す「ジェイムズ・ヤンガー・ギャング」と彼らを追うピンカートン探偵社の姿を、『ザ・ドライバー』(1978)『ストリート・オブ・ファイヤー』(1984)のウォルター・ヒル監督が描く、登場する4兄弟を実際に兄弟である俳優たちが演じているのも魅力の一作。
男の闘い
(再)384.男の闘い The Molly Maguires 1970年米国映画
(監督)マーティン・リット
(出演)ショーン・コネリー、リチャード・ハリス、サマンサ・エガー
(音楽)ヘンリー・マンシーニ
 ペンシルベニアの炭坑で、炭坑夫により結成された秘密結社モリー・マグワイアによる労働争議崩しのため送り込まれた労働スパイの姿を、1950年代、「赤狩り」ブラックリスト入りしていた脚本家ウォルター・バーンスタイン、マーティン・リット監督コンビで描くサスペンス劇。
OK牧場の決斗
1325.OK牧場の決斗 Gunfight at O.K. Corral 1957年米国映画
(監督)ジョン・スタージェス
(出演)バート・ランカスター、カーク・ダグラス
(音楽)ディミトリ・ティオムキン (主題歌)フランキー・レイン
 名保安官ワイアット・アープが兄弟や友人のギャンブラー、ドク・ホリデイとともに、トゥームストーンの町を牛耳る無法者集団を倒すまでを、『荒野の七人』(1960)『大脱走』(1963)などのジョン・スタージェス監督が描く痛快アクションウェスタン。
 ストーリーテリングの役割も果たすバックに流れるフランキー・レインの歌も魅力の一作である。
ワイアット・アープ
1326.ワイアット・アープ Wyatt Earp 1994年米国映画
(出演)ローレンス・カスダン
(出演)ケヴィン・コスナー、デニス・クエイド、ジーン・ハックマン
(音楽)ジェームズ・ニュートン・ハワード
 ダッジシティやトゥームストーンの名保安官だけではないワイアット・アープの様々な姿を『再会の時』(1983)『シルバラード』(1985)のローレンス・カスダンが描く長編西部劇。
墓石と決闘
1327.墓石と決闘 Hour of the Gun 1967年米国映画
(監督)ジョン・スタージェス
(出演)ジェームズ・ガーナー、ジェーソン・ロバーズ、ロバート・ライアン
(音楽)ジェリー・ゴールドスミス
 10年前自らが監督した『OK牧場の決闘』(1957)の後のアープ兄弟と「カウボーイズ」の確執をジョン・スタージェスが描く、ジェリー・ゴールドスミスの音楽も効果的な異色西部劇。
カルテル・ランド
(再)1180.カルテル・ランド Cartel land 2015年メキシコ・米国映画
(監督・撮影)マシュー・ハイネマン
 麻薬カルテルによる犯罪に蝕まれているメキシコ、ミチョアカン州で自警団を立ち上げヒーローとなったミレレス医師と、アリゾナ州のメキシコ国境近くで、不法移民や麻薬の流入を防ごうと「アリゾナ国境自警団」を組織した退役軍人フォーリーを追いながら、カルテルの容赦ない暴力、自警団の変性、腐敗まみれの行政や警察、法の矛盾など、正と誤、善と悪の境界線が激しく揺れ動く姿を描くドキュメンタリー。
 『ハート・ロッカー』(2008)『ゼロ・ダーク・サーティ』(2012)のキャスリン・ビグロー監督が製作総指揮に参加、サンダンス映画祭ドキュメンタリー部門撮影賞・監督賞を受賞し、アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞にもノミネートされた。
ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー
1328.ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー Rogue One : A Star Wars Story 2016年米国映画
(監督)ギャレス・エドワーズ
(出演)フェリシティ・ジョーンズ、ディエゴ・ルナ、リズ・アーメッド、フォレスト・ウィテカー、マッツ・ミケルセン
 帝国軍の大量破壊兵器ともなるデス・スター開発の中心人物だった父が仕込んだその欠陥を知ることができる設計図を入手すべく、敵中へと向かう女性ジンと、「ローグ・ワン」の勇士たちの活躍を、『GODZILLA ゴジラ』(2014)のギャレス・エドワーズ監督が描く『スター・ウォーズ』シリーズ外伝。
ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション
1329.ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション Mission: Impossible ? Rogue Nation 2015年米国映画
(監督)クリストファー・マッカリー
(出演)トム・クルーズ、ジェレミー・レナー、サイモン・ペグ、レベッカ・ファーガソン
 各国の元諜報員により組織され、既存システムの破壊をもくろむ「シンジケート」の国際的陰謀を阻止するべく活躍するIMF(Impossible Mission Force)の姿を、『アウトロー』(2012)に続きクリストファー・マッカリー脚本監督、トム・クルーズ主演で描くアクション大作。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/50742

 


 
核戦争は起き得る:北朝鮮との戦争を避ける方法
2017.8.9(水) The Economist
[The Economist]2017.8.9

(英エコノミスト誌 2017年8月5日号)

北朝鮮のミサイル脅威、冷戦前後の世代で意識の差 米NY市民
米ニューヨーク・マンハッタンの街角の建物にある「核シェルター」の標識(2017年7月30日撮影)。(c)AFP/EDUARDO MUNOZ ALVAREZ〔AFPBB News〕
金正恩氏に歯止めをかける妙案は存在しない。だが、うっかり戦争に突入する事態は最悪だ。

 北朝鮮がこれほどのゴタゴタを引き起こすのは、考えてみれば妙な話だ。この国は決して超大国ではない。経済規模は、兄弟分にあたる民主的な資本主義国、韓国の50分の1にすぎない。米国人は北朝鮮の国内総生産(GDP)の2倍の金額をペットのために費やしている。

 それにもかかわらず、金正恩(キム・ジョンウン)氏の後れた独裁体制は、核兵器をちらつかせる瀬戸際政策で世界中の耳目を集め、米国大統領の関心をも引き寄せた。

 7月28日には、ロサンゼルスを攻撃できる大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験を行った。こうしたミサイルに核弾頭を搭載する能力も、ほどなく獲得するだろう。すでに、韓国や日本を狙ったミサイルには搭載できるようになっている。

 この恐ろしい兵器を管理しているのは、神格化された英雄として育てられた、人の命を何とも思わない人物だ。巨大な強制収容所に送り込まれた無辜の市民がハンマーで殴り殺されているのが、その何よりの証拠だ。7月には北朝鮮の外務省が、もし現体制の「最高権威」を脅かす国があれば、北朝鮮はそうした国々を「核を含む」あらゆる手段で「先制的に全滅させる」と明言した。ここまでくれば、警戒感を抱かない方がどうかしている。

次の朝鮮戦争はどんなものになるのか

 とはいえ、最も重大な危険は、一方が他方を壊滅させようと突然動き出すことではない。双方が読みを誤り、事態があっという間にエスカレートして、誰も望んでいない破局に至ることだ。本誌エコノミストは今週号の特集で、米国と北朝鮮が核戦争に突き進むシナリオの1つを順を追って説明している。

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[あわせてお読みください]
北朝鮮のミサイル実験、写真に隠された恐るべき事実 (2017.8.9 古森 義久)
一瞬の蜜月関係が終わった米国と中国 (2017.8.5 古森 義久)
米太平洋軍司令官が語ったアジア太平洋の3つの脅威 (2017.8.3 北村 淳)
金正恩政権打倒の方法、米国政府が具体的に検討へ (2017.8.2 古森 義久)
北朝鮮のICBM発射で日本の核武装に現実味 (2017.7.31 矢野 義昭)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/50740

 

北朝鮮、グアムへのミサイル攻撃を慎重に検討=KCNA

[ソウル 9日 ロイター] - 北朝鮮国営の朝鮮中央通信社(KCNA)は9日、同国が中長距離弾道ミサイル「火星12」を米領グアム周辺に向けて発射する作戦を「慎重に検討」していると伝えた。

KCNAによると、朝鮮人民軍の報道官は、金正恩朝鮮労働党委員長が命令を下せば直ちに攻撃計画が「複数回にわたり連続的に実行される」と述べた。

「朝鮮人民軍戦略軍はグアム周辺地域を中長距離弾道ミサイル火星12で包囲射撃する作戦計画を慎重に検討している」と言明。グアムにあるアンダーセン空軍基地など主要な米軍基地に対する抑止力を確保する狙いがあるという。

報道官は、作戦計画は近く最高司令部に報告されるとした。

また、別の軍報道官は、米国が「予防戦争」を計画していると批判し、実行に移す動きがあれば「米本土を含む敵の要塞を一掃する全面戦争」で対抗すると威嚇。

軍事行動を回避するために米国は北朝鮮に対する「無分別な軍事的挑発」をやめるべきだと主張した。

トランプ米大統領はこの数時間前、北朝鮮が米国をこれ以上脅かせば「世界がこれまで目にしたことのないような炎と怒りに直面することになる」と発言していた。
http://jp.reuters.com/article/north-korea-idJPKBN1AO2LM


 
北朝鮮のミサイル実験、写真に隠された恐るべき事実 金正恩は日本の領海に撃ち込もうとしていた?
2017.8.9(水) 古森 義久

韓国ソウルの駅で、北朝鮮の大陸間弾道弾(ICBM)発射を伝えるニュース映像が流れるテレビの前を歩く女性(2017年7月4日撮影)。(c)AFP/JUNG Yeon-Je〔AFPBB News〕
 北朝鮮は7月4日のICBM(大陸間弾道ミサイル)発射実験で、日本領海への攻撃を試みていた可能性がある――。こんな考察が、米国の専門家グループから明らかにされた。
 このとき発射された北朝鮮の弾道ミサイルは、実際には日本の排他的経済水域(EEZ)内に着弾した。だが、米国の専門家たちの分析によると、実は金正恩政権は日本の沿岸から至近距離の日本領内水域への発射を意図していた可能性があるという。7月末に米国の一部メディアが、この分析を報道した。

デスク上の地図に示されていた弾道
 ワシントンに本部を置く米国民間の安全保障研究機関「ストラテジック・センティネル」(SS)は7月31日、以下の趣旨の報告書を発表した。
・北朝鮮が行った7月4日の弾道ミサイル発射実験では、ミサイルの予定弾道軌道に関して異常な兆候が観測された。金正恩委員長が双眼鏡でミサイル発射を見守る様子の写真を朝鮮中央通信が発表したが、その写真を見ると、デスクに置かれた地図上の弾道の終着地点が日本の領海内になっているのだ。
北朝鮮の国営通信社「朝鮮中央通信(KCNA)」が発表した、ミサイル発射を見守る金正恩氏の写真
・SSの映像アナリスト、ネーサン・ハント氏がその写真を拡大し、北朝鮮の類似ミサイルの軌道と比較しながら、地図に記載された予定軌道図を精査して分析した。すると、同ミサイルは北海道の奥尻島近くの日本領海内(沿岸から22キロ)に落下するコースを示していた。領海は排他的経済水域と異なり、日本の領有区域そのものである。国家主権がフルに適用される海域であり、そこへの軍事攻撃は戦争に等しい行動となる。
・しかし現実には、同ミサイルは最高度2785キロ、水平飛行距離928キロで、奥尻島北西150キロほどの日本のEEZ内に着弾した。EEZも沿岸国の日本の経済的な独占主権が認められる海域だが、領海とは異なる。
・SSのライアン・バレンクラウ所長やジョン・シリング研究員は、北朝鮮当局の狙いについて次の2つの見解を述べた。(1)当初から同ミサイルを日本の領海に着弾させ、日本や米国の反応をみるつもりだったが、ミサイルが性能を果たさなかった。(2)威嚇のプロパガンダとして、意図的に地図上に日本の領海に撃ち込む弾道を示した。

北朝鮮は日本をなめきっている?
 米国のニューズウィーク誌などの一部メディアも、以上のSSの発表を報道した。ニューズウィークの7月31日付の記事は、「北朝鮮は日本への攻撃を試みたのかもしれない、金正恩のミサイル発射の写真が示す」という見出しで、SSの報告書の内容を詳しく伝えていた。
 同記事によると、ジョンズホプキンス大学の高等国際関係大学院(SAIS)の北朝鮮研究機関「ノース38」のネーセン・ハント研究員も、金正恩委員長の写真に映った地図から、弾道ミサイルの軌道が日本の北海道に近い日本領海内を執着地点としていることが読み取れると認めた。
 また、「ノース38」の別のミサイル防衛専門家マイケル・エレマン研究員は、「通常、他国のEEZ内へ事前の警告なしにミサイルを撃ち込めば敵意のある戦闘行為とみなされ、戦争の原因ともなりかねない。だが、北朝鮮は日本の反応をほとんど気にせず、大胆な挑発行動を続けているようだ」との見解を述べたという。
 北朝鮮の思考が実際にエレマン氏の指摘どおりだとすれば、北朝鮮当局は日本の出方をすっかり甘く見て、なめきっているということでもあろう。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/50730


 

 
米政権、中国の銀行制裁や対中貿易調査を一時見合わせか

[ワシントン/国連本部 8日 ロイター] - 米国のトランプ政権は、北朝鮮と取引を行う中国の銀行に対する制裁の発動を見合わせているもようだ。中国が今月5日、国連安保理の北朝鮮制裁決議を支持したことを受けた措置。中国が制裁決議を厳格に履行するか見極めたい意向という。

複数の米政府当局者が明らかにした。

トランプ政権は、中国が北朝鮮制裁決議を支持したことを受けて、知的財産権侵害を巡る中国への調査も先送りしたもようだ。

ただ、トランプ大統領は不公正貿易の取り締まりを公約に掲げており、対中調査をいつまで延期するかは不透明。

米当局者や外交筋は、中国が制裁決議への反対を取り下げた背景には、米国が北朝鮮と取引のある中国企業への制裁をちらつかせたことや、通商問題を巡って中国政府に圧力をかけたことがある、と指摘している。
http://jp.reuters.com/article/northkorea-missiles-diplomacy-idJPKBN1AP03P


 


トランプ大統領:北朝鮮は「炎と怒り」に遭う、米への脅し続けば

Justin Sink、Nafeesa Syeed
2017年8月9日 06:15 JST 更新日時 2017年8月9日 08:55 JST

北がICBMに搭載可能な小型核弾頭の生産に成功との報道受け発言
金委員長は「極めて脅迫的」だと大統領、発言受け米市場は動揺

トランプ米大統領は8日、北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)級のミサイルに搭載可能な小型核弾頭の生産に成功しているとの米当局の分析を米紙が伝えたことを受け、北朝鮮が米国を脅し続けるなら、同国は「炎と怒り、そして率直に言えば、世界がこれまでに目にしたことがないような力に見舞われることになるだろう」と述べた。

  トランプ大統領はニュージャージー州ベッドミンスターで記者団に対し、金正恩朝鮮労働党委員長は「非常に脅迫的」だと語った。

  米紙ワシントン・ポストは8日、国防情報局(DIA)の分析を引用して、北朝鮮はICBM級ミサイルに搭載可能な小型核弾頭の生産に成功したと報じた。国連安全保障理事会は5日、北朝鮮による2回のICBM試射に対応し、北朝鮮への制裁決議を全会一致で採択。北朝鮮の年間輸出およそ30億ドル(約3300億円)のうち、約10億ドル相当が制裁の対象とされた。

  ICBM発射実験に加え、核弾頭開発の進展が伝えられたことで、トランプ大統領に北朝鮮のエスカレートする挑発に対応するよう求める声は一段と高まっている。トランプ氏は選挙戦中、北朝鮮が米国を射程に入れる核ミサイルを開発するリスクについて「起こらない」とツイッターで断言していた。

  トランプ大統領の北朝鮮を巡る発言に市場は動揺。S&P500種株価指数は0.2%安で終了。シカゴ・オプション取引所(CBOE)のボラティリティ指数(VIX)は、米東部時間午後3時半(日本時間9日午前4時半)前に11%上昇した。米10年債利回りは上昇、ニューヨーク原油先物は前日比22セント安の1バレル=49.17ドルで終えた。

  北朝鮮には他の技術上のハードルがまだあるものの、同国の兵器プログラムは米情報機関の予測を上回る速さで進展しているようだ。米シンクタンク、大西洋評議会 のブレント・スコウクロフト国際安全保障センターの非常勤上級研究員、マシュー・クローニグ氏は、「これで北朝鮮はロシアと中国に次いで、米国に核戦争の脅しをかけられる能力を持った3番目の相手国になった」と語った。

  ヘリテージ財団の上級研究員、ブルース・クリングナー氏は、「必要なのは圧力を強めると同時に、外交の扉を開いておくことだ」と述べた上で、「この先の道のりは長い。われわれは北朝鮮の計画変更を促す圧力を維持する必要がある」と指摘した。

原題:Trump Vows ‘Fire and Fury’ If North Korea Threatens the U.S. (1)(抜粋)


 


 

米爆撃機が日韓と訓練、対北朝鮮で連携 

http://s2.reutersmedia.net/resources/r/?m=02&d=20170809&t=2&i=1196309245&w=644&fh=&fw=&ll=&pl=&sq=&r=LYNXMPED7803H

[東京 9日 ロイター] - 防衛省は9日、航空自衛隊のF2戦闘機2機と米空軍のB−1B戦略爆撃機2機が、九州周辺で8日に共同訓練を行ったと発表した。米軍機はその後に韓国空軍とも訓練を実施。北朝鮮を巡って緊張が続く中、日米韓の緊密な連携を示すのが狙い。

B−1Bは、米領グアムのアンダーセン基地から飛来。朝鮮人民軍戦略軍の報道官は9日、国営の朝鮮中央通信社(KCNA)を通じ、同基地を含むグアム周辺へのミサイル攻撃を「慎重に検討している」との声明を出した。
http://jp.reuters.com/article/us-japan-military-training-idJPKBN1AP051


http://www.asyura2.com/17/warb20/msg/707.html

[経世済民123] 大都市の異常な「住宅価格高騰」が招く悲劇 政府債務はどこまで将来世代の負担か 健全財政は危険 ただでお金をもらえる?

大都市の異常な「住宅価格高騰」が招く悲劇


ロバート・J・シラー :米イェール大学経済学部教授 2017年8月6日


データで見ると、東京は世界の他都市に比べて比較的住宅を手に入れやすい


世界の大都市には住宅価格が法外なまでにハネ上がり、中間所得層ではとても手が出せない状況になっているところがある。都市を離れる決断を迫られている住民もいるようだ。

もちろん、すでに住宅を所有していて、売りに出す家があるなら、不動産価格高騰は思わぬ利益を上げられるチャンスだ。だが、売る家がなければ、ただ都市から追い出されるだけである。

世界で最も住宅を手に入れるのが難しいのは?

影響は、単に経済的なものにとどまらない。中には、自分が生まれ育った街を去らなければならない人もいるのだ。生まれたときからの人とのつながりを失うことは、精神的に大きな痛手となりうる。その都市に長く住んできた人々が外に追いやられるとしたら、街はアイデンティティだけでなく、独自の文化さえ失うことになる。

住宅価格が高騰した都市は徐々に高所得者の居住区と化し、リッチな人々の価値観に染まっていく。所得階層で住む場所が分かれる傾向が強まれば、所得格差が広がり、社会的分断も拡大しかねない。

住宅の手頃感に関する米調査会社デモグラフィアの調査が示すように、世界の大都市の間には、すでにすさまじい格差が存在する。

世界9カ国92都市を対象にした2017年版の調査によると、世界で最も住宅を手に入れるのが難しい都市は香港で、住宅価格は世帯年収(ともに中央値)の18.1倍だった。金利がいっさいかからない前提で30年ローンを組んでも、年収の半分以上を返済に回さねばならない計算だ。

ランキングは香港以下、こう続く。シドニー(12.2倍)、バンクーバー(11.8倍)、ニュージーランドのオークランド(10倍)、シリコンバレーとして知られるサンノゼ(9.6倍)、メルボルン(9.5倍)、ロサンゼルス(9.3倍)。住宅価格が極めて高いロンドン(8.5倍)やトロント(7.7倍)がこれらより順位が低いのは、所得の中央値も高いからだ。

一方、ニューヨーク(5.7倍)、モントリオール、シンガポール(ともに4.8倍)、東京と横浜(4.7倍)、シカゴ(3.8倍)は、国際都市でありながら、住宅は比較的手に入れやすい。

確かに、データは厳密なものではないかもしれない。たとえば、どこまでを都市部とするか、境界線の設定の仕方でも数字にバラツキが出るだろう。世帯人数が大きな都市では、他の都市に比べ、家のサイズも大きくなりがちだ。

なぜ住宅価格が高騰する都市が存在するのか

とはいえ、住宅の手に入れやすさは都市によって大きく違う、という調査の基本的な結論は変わらないだろう。問題は、なぜ住宅価格が法外なまでに高騰する都市が存在するのか、である。

多くの場合、これは住宅開発を阻む障壁と関係がある。水域や土地の傾斜といった物理的な制約が住宅開発を難しくし、価格高騰につながっているとの研究がある。

住宅開発の障壁には、政治的なものもある。中間層向けの住宅を大量に供給すれば、住宅は手に入れやすくなるだろう。しかし、すでに高い値段のついた住宅を所有している人たちからすれば、このような開発を支持する前向きな理由はほとんどない。自らの資産価値を下げることになるからだ。結果、自治体も住宅開発に許可を与えるのに後ろ向きとなる。

ある都市が「偉大な都市」となるには、市場メカニズムによって貢献度の低い低所得者層が排除されるのを甘受すべき場合があるかもしれない。だが多くの場合、年収に対してあまりにも住宅価格が高くなった都市は、「偉大な都市」というより、不寛容で、人道的な助け合いの精神に乏しく、多様性に欠けるものだ。危険な社会的反目の温床となるのである。

http://toyokeizai.net/articles/-/182436

 


 外国人が心底失望する「日本のホテル事情」
2017年7月31日(月)12時00分

デービッド・アトキンソン(小西美術工藝社社長)※東洋経済オンラインより転載

お金持ち外国人には、日本のホテル事情はどう見えている? sanjeri-iStock.


『新・観光立国論』が6万部のベストセラーとなり、山本七平賞も受賞したデービッド・アトキンソン氏。安倍晋三首相肝いりの「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」委員や「日本政府観光局」特別顧問としても活躍している彼が、渾身のデータ分析と現場での実践を基に著した『世界一訪れたい日本のつくりかた 』が刊行された。本連載では、訪日観光客が2400万人を超え、新たなフェーズに入りつつある日本の観光をさらに発展させ、「本当の観光大国」の仲間入りを果たすために必要な取り組みをご紹介していく。

日本にはまだまだ「上」を目指せる潜在能力がある
「最近、街を歩いていると外国人観光客の姿をずいぶんよく見掛ける」
そんなふうに感じる方も多いのではないでしょうか。
それもそのはずです。2013年に1036万人だった訪日外国人観光客は、なんと3年を経過した2016年には2404万人にまで膨れ上がっており、こうしている今も日本を目指す外国人観光客は右肩上がりで増え続けているのです。
さかのぼれば、2007年の訪日外国人観光客はわずか800万人強でした。残念ながらあまり景気のいいニュースを耳にしない日本で、「観光」は気がつけば10年で3倍もの成長を遂げている「希望の産業」なのです。
私は2015年に上梓した『新・観光立国論』のなかで、日本がもつ観光のポテンシャルが極めて高いことを指摘させていただきました。
また、少子高齢化によって社会保障が重い負担となっていくこの国では、「観光」こそが大きな希望になりうることを提言させていただきました。そのような立場からすると、日本がポテンシャルを発揮してきた昨今の状況は、本当にうれしく思っています。
ただ、その一方で「まだまだこの程度で満足してもらっては困る」というのも率直な感想ではあります。
確かに、日本の観光は順調に成長しています。たとえば、観光でいくら稼いだかを表す「国際観光収入」のランキングでは、日本は2013年に世界第19位でしたが、2015年には第12位までランクを上げて、トップ10入りが目前となっています。
しかし「上」を見上げれば、アメリカ、中国、スペイン、フランス、イギリス、タイ、イタリア、ドイツ、香港など、まだ多くの「観光大国」があるという厳しい現実もあるのです。
そこで、日本のポテンシャルをどうすれば正しく引き出すことができるのかを、『世界一訪れたい日本のつくり方』という本にまとめさせていただきました。これは『新・観光立国論』で提言したことをベースにした「実践編」ともいうべきものです。
この本を読んでいただければ、右肩上がりで成長を続け、なんの問題もないかにみえる日本の観光が、実はまだまだ多くの改善点、伸び代に満ちあふれているということがわかっていただけると思います。

外国人富裕層ががっかりする「日本のホテル事情」
今回はそのなかひとつとして、「ホテル」の問題を指摘させていただきます。
日本経済は長年、成長をせずに来ました。これから人口減少が加速しますので、経済基盤が緩みます。観光戦略はその対策のひとつです。そう考えるとやはり、重視すべきは「観光客数」より「観光収入」だというのは明らかです。
そこで、観光収入を決定する要因を探したところ、驚くべき事実を発見しました。さまざまな分析をする中で、世界の高級ホテルに関するデータを見つけて、大きな衝撃を受けたのです。

次のページ 「5つ星ホテル」わずか28軒
Five Star Allianceという有名な「5つ星ホテル」の情報サイトがあります。そのデータによると、世界139カ国に3236軒の「5つ星ホテル」があります。では日本はどうかというと、日本国内でこのサイトに登録されている「5つ星ホテル」はわずか28軒しかありません。これは、ベトナムの26軒を少し上回る程度です。
「ひとつの国にある超高級ホテルの数なんてそんなものじゃないの」と思うかもしれませんが、実は外国人観光客が年間2900万人訪れているタイには110軒の「5つ星ホテル」があります。バリ島だけでも42軒です。年間3200万人訪れているメキシコにも93軒の5つ星ホテルがあるのです。
タイはすばらしい実績を上げています。2900万人の観光客しか来ておらず、物価水準も先進国の半分以下であるにもかかわらず、タイの観光収入をドル換算すると、世界第6位の観光収入を稼いでいる計算になります。
タイが観光でこれほど稼げる理由のひとつに、110軒の5つ星ホテルの存在があります。タイの実績は「特殊な娯楽」を求める人に支えられているという批判をたまに聞きますが、それは事実無根のただの偏見にすぎません。
年間2400万人の観光客が訪れ、G7の一角をなす「経済大国」であるはずの日本に、タイの4分の1、メキシコの3割しか「5つ星ホテル」が存在しない。これは明らかに、日本が国際観光ビジネスを重視してこなかった結果だと思います。
実際、2年前にこんなことがありました。あるアメリカの大富豪の事務所から、紅葉の時期に京都に泊まりたいが、安いホテルしか見つからず、「予算の最低基準」を下回る。いいホテルを探してくれないか、という連絡があったのです。
私も手を尽くしたのですが、結局アパホテルしか空いておらず、その大富豪の訪日自体が白紙になりました。
もちろん、アパホテルが悪いと言いたいわけではありません。しかし世界のお金持ちには「予算の最低基準」があり、それを下回ると訪日すらあきらめる人が多いのです。これは究極の「もったいない」ではないでしょうか。
今まで日本は観光産業に力を入れてきませんでしたので、ある意味、仕方ないともいえますが、今後「観光大国」になることを考えると、高級ホテルを整備して単価を上げることが必要なのです。
そんなものがなくても、日本にはすばらしい文化や「おもてなし」の心があるので、観光客の満足度には影響がないと主張される方もいらっしゃるかもしれません。しかし、残念ながらそれは精神論をふりかざしているだけにすぎず、「観光大国」を目指すうえでの合理的な解決策とはいえません。

次のページ 「一流」旅館でも「3つ星」
たとえば、日本には「一流」と言われる旅館が多くありますが、スタイルが非常に独特で、短期滞在に合わせた限定的なサービスなので、やり方を変えないかぎりグローバルスタンダードには合いません。
いくら日本人に評価されても、グローバルスタンダードから見ると良くて「3つ星」くらいです。外国人に泊まって欲しいならば、必要最低限の調整が必要です。「郷に入るなら郷に従え」という意見もありますが、外国人は「なら、郷には入らない」と考えます。これでは、観光戦略は成功しません。

日本には「5つ星ホテル」が何軒必要か
Five Star Allianceに登録されている3236軒の「5つ星ホテル」がある139カ国を訪れた外国人観光客数は11億4907万人(2015年)ですので、1軒当たりの外国人観光客は35万5090人になります。
この計算でいくと、2020年に4000万人の訪日観光客を目指している日本には、最低113軒の5つ星ホテルが必要となります。2030年の6000万人だと169軒です。
実際、世界各国の国際観光収入と「5つ星ホテル」数の相関関係を分析すると、なんと相関係数は91.1%。極めて高い数値を示します。この計算をしたとき、私は強い衝撃を受けました。
しかし、よく考えてみると1泊数千円の宿に泊まるバックパッカーが1人来るより、1泊10万円のホテルを利用する富裕層に来てもらったほうがよほど稼げるのは当たり前です。このような人は、ホテルに限らず、あらゆる観光資源にたくさん支出してくれる存在なのです。
「5つ星ホテル」を多くもっている「観光大国」がいかに潤うのかは、さまざまなデータが雄弁に物語っています。
たとえば、アメリカは国際観光客数では世界一のフランスに及ばす第2位というポジションに甘んじていますが、国際観光収入では圧倒的な世界一です。
一方、フランスは世界で最も外国人観光客が訪れているのに、国際観光収入では第4位に転落しています。1人当たり観光客収入で見ると、アメリカは世界第6位なのに対し、フランスはなんと世界第108位にすぎないのです。ちなみに、タイは第26位と、かなり健闘しています。
つまり、たくさんの外国人観光客が訪れているものの、アメリカを訪れる外国人観光客よりあまりおカネを使わないというのが、フランスの課題なのです。

「観光収入」は高級ホテルの存在がカギ
このような「逆転現象」をさまざまな角度から分析をしていくと、「5つ星ホテル」がカギとなっている事実が浮かび上がります。
実はアメリカにはなんと755軒の「5つ星ホテル」があり、これは、全世界の「5つ星ホテル」の23.3%を占め、断トツの世界一なのです。一方、フランスの「5つ星ホテル」はタイよりも少し多い125軒しかありません。つまり、渡航先で多くのおカネを費やす「富裕層」を迎え入れる体制の差が、そのまま1人当たり国際観光収入の差になっているのです。

次のページ 「1人当たり」だと世界46位
それを踏まえて、日本を見てみましょう。先ほども申し上げたように、日本の国際観光収入はベスト10入りが目前に控えるようなポジションまで上がってきていますが、「1人当たり国際観光収入」で見ると世界で第46位という低水準に甘んじています。
都市別に見ると、東京にある5つ星ホテルは18軒で、世界21位です。興味深いことに、東京は観光都市ランキングでは世界17位です。
このように見てくると、日本には2400万人もの外国人観光客がやってきているものの、彼らからそれほどおカネを落としてもらっていないという問題が浮かび上がるのです。
ここで誤解をしていただきたくないのは、「ボッタクリ」のようになんでもかんでも高くして、外国人観光客からもっとおカネを搾り取れなどと言っているわけではないということです。
あまりおカネを使いたくないという観光客でもそれなりに楽しめるようにするのと同じように、おカネを使うことに抵抗がない観光客たちに、気兼ねなく「散財」してもらうような環境を整備すべきだと申し上げているのです。
その象徴がまさに「5つ星ホテル」なのです。せっかくおカネを使うことに抵抗がない人がやってきても、安いホテルしかなければ、そこに泊まるしかありません。それどころか、「ホテルのグレードが合わないから別の国に行こう」と考える人がいるのは、先ほどご紹介したとおりです。
このような「稼ぎ損ない」を極力抑えていくことが、これからの日本の観光では極めて重要なテーマとなってくるでしょう。

「庶民向け」だけでは伸び代が小さい
「観光大国」と呼ばれる国の特徴に、さまざまな収入、さまざまな志向の観光客を迎え入れる環境が整っているということが挙げられます。
バックパックを背負って「貧乏旅行」をする若者やショッピングと食事目当てでやってくる近隣諸国のツアー客だけでなく、自家用ジェットでやってくる世界の富豪まで、さまざまなタイプの客が楽しめる「多様性」がカギなのです。
しかし、残念ながら今の日本の観光には「多様性」がありません。これは「観光」というものが、「産業」ではなく「庶民のレジャー」だった時代が長かったことの「代償」です。
いわゆる「1億総中流」のなかで誰もが楽しめ、誰もが泊まれることが最も重要視されたので、あらゆるサービスが低価格帯に固定化されてしまったのです。
人口が右肩上がりで増えていく時代に自国民が楽しむレジャーという位置づけならば、それも良かったかもしれません。しかし、人口が減少していくなかで、外国人観光客も対象とした「産業」として発展させていく場合、このような画一的な価値観は大きな足かせになることは言うまでもありません。
日本が「観光大国」になるには、このような「昭和の観光業」の考え方を捨て、観光には「多様性」が必要だという事実を受け入れることがどうしても必要です。
そのような意味では、「5つ星ホテル」を増やすことは、日本が早急に手をつけなくてはいけない改革のひとつなのです。

『世界一訪れたい日本のつくりかた』

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http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/07/post-8089.php


 

野口旭 

政府債務はどこまで将来世代の負担なのか

2017年07月20日(木)19時00分

<増税などを早期に行って日本の財政を健全化すべきという主張には、政府債務の将来世代負担論=老年世代の食い逃げ論がある。今回は、その問題を考察する>

政界や経済論壇では、増税の是非をめぐる議論が再び活発化している。これまでの増税必要論の多くは、日本財政の破綻可能性を根拠としていた。筆者は本コラム「健全財政という危険な観念」(2017年6月27日付)において、そのような批判は基本的に的外れであることを論じた。
日本の政府財政が本当に破綻に向かっているのであれば、そのことが国債市場に反映されて、リスク・プレミアムの拡大による国債金利の上昇が生じているはずである。しかし現実には、1990年前後のバブル崩壊以降の持続的な「財政悪化」にもかかわらず、日本国債の金利は傾向的に低下し続けてきた。これは、少なくとも市場関係者たちの大多数は、日本の財政破綻というストーリーをまったく信じていないことを意味している。

それに対して、国債金利がこれまで低下してきたのは、単に日銀が国債を買い入れる「財政ファイナンス」を行っているからであり、そのような「不健全な」手段によって財政赤字を隠蔽しているからにすぎないという主張も存在する。
確かに、黒田日銀が国債の買い入れを拡大したことが国債金利のより一層の低下につながったというのは、まったくその通りである。そもそも、異次元金融緩和政策の目的の一つは、長期国債等のリスク・プレミアム低下をうながし、市場金利を全体として引き下げることにあった。つまり、国債金利の低下は、単に金融緩和政策の効果が目論み通りに発揮されたというにすぎない。
日銀の国債買い入れを批判し続けてきた論者たちはしばしば、そのような「財政ファイナンス」が行われれば、政府の財政規律が失われ、国債金利が上昇し、財政破綻やハイパーインフレが現実化すると論じてきた。しかし、現実に起きたことは、まったくその逆であった。彼ら財政破綻派は少なくとも、日銀の国債買い入れによって国債金利は急騰するというその脅しめいたストーリーが誤っていたことは認めるべきであろう。
ところで、増税などを早期に行って日本の財政を健全化すべきという政策的主張には、より慎重に考慮されるべき、もう一つの論拠が存在する。それは、「政府債務は将来世代の負担であるから、現世代は可能な限りそれを減らすべき」とする、政府債務の将来世代負担論である。本コラムではその問題を考察する。

通説としての「老年世代の食い逃げ」論
政府が財政支出を行い、それを税ではなく赤字国債の発行で賄うとしよう。つまり、政府が債務を持つとしよう。そして、政府はその債務を、将来のある時点に、税によって返済するとしよう。
このような単純な想定で考えた場合、増税が先延ばしされればされるほど、財政支出から便益を受ける世代と、それを税によって負担する世代が引き離されてしまうことになる。これが、通説的な意味での「政府債務の将来世代負担」である。
経済をモデル化する一つの枠組みに、若年と老年といった年齢層が異なる複数の世代が各時点で重複して存在しているという「世代重複モデル」と呼ばれるものがある。政府債務の将来世代負担論は、この枠組みを用いるのが最も考えやすい。
そこで、仮に老年世代の寿命が尽きたあとに増税が行われるとすれば、彼らは税という「負担」をまったく負うことなく、財政支出の便益だけを享受できることになる。そして、その税負担はすべてそれ以降の若年世代が負うことになる。

次のページ アバ・ラーナーの将来世代負担否定論
つまり、世代重複モデル的に考えた場合には、増税が先になればなるほど「現在および将来の若い世代」の負担が増える。それは要するに、老年の残り寿命が若年のそれよりも短いからである。老年は、その残り寿命が短ければ短いほど、自らは税負担を免れ、それをより若い世代に押し付ける可能性が強まる。その意味で、この政府債務の将来世代負担論は、「老年世代の食い逃げ」論とも言い換えることができる。

アバ・ラーナーの将来世代負担否定論
こうした通説的な政府債務の将来世代負担論に対しては、よく知られた反論が存在する。それは、初期ケインジアンを代表する経済学者の一人であったアバ・ラーナーによる、政府債務将来世代負担への否定論である("The Burden of the National Debt," in Lloyd A. Metzler et al. eds., Income, Employment and Public Policy, Essays in Honour of Alvin Hanson, 1948, W. W. Norton)。

このラーナーの議論の結論は、「国債が海外において消化される場合には、その負担は将来世代に転嫁されるが、国債が国内で消化される場合には、負担の将来世代への転嫁は存在しない」というものであった。ラーナーによれば、租税の徴収と国債の償還が一国内で完結している場合には、それは単に国内での所得移転にすぎない。ラーナーはそれについて、以下のように述べている。


もしわれわれの子供たちや孫たちが政府債務の返済をしなければならないとしても、その支払いを受けるのは子供たちや孫たちであって、それ以外の誰でもない。彼らをすべてひとまとまりにして考えた場合には、彼らは国債の償還によってより豊かになっているわけでもなければ、債務の支払いによってより貧しくなっているわけでもないのである(上掲書p.256)。

このラーナーの議論には、いくつか注意すべきポイントが存在する。第一に、ここで言われている「将来世代」は、世代重複モデル的な把握ではなく、将来のある時点に存在する人々を老若含めてひとまとまりにしたものとして考えられている。つまり、「1950年生まれ世代」とか「2000年生まれ世代」という区分ではなく、「1950年に生存していた世代」とか「2000年に生存していた世代」といったような世代区分が想定されているのである。

第二に、ラーナーの議論における「負担」は、単に税負担を意味するのではなく、「国民全体の消費可能性の減少」として考えられている。ラーナーは、赤字財政政策の結果としての「負担」は、上の意味での将来世代の経済厚生あるいは消費可能性が全体として低下した場合においてのみ生じると考える。そこでの焦点は、将来世代の所得や支出が現世代の選択によって低下させられているのか否かである。
たとえば、戦争の費用を国債発行で賄い、その国債をすべて自国民が購入したとしよう。その場合、現世代の国民は国債購入のために自らの支出を切り詰めるという「負担」を既に被っているので、将来世代の国民が支出を切り詰める必要はない。将来世代は単に、戦費負担を一時的に引き受けてくれた国債保有者への見返りとして、増税による国債償還という形で、より大きな所得の分け前を提供すればよい。それは、純粋に国内的な所得分配問題である。
それに対して、戦費が外債の発行によって賄われる場合には、現世代は戦争だからといって支出を切り詰める必要はない。戦争のための支出は、現世代の国民の耐乏によってではなく、その時代の他国民の耐乏によって実現されているからである。ただし、将来世代はその見返りとして、増税によって自らの支出を切り詰めて他国民に債務を返済する必要がある。
つまり、将来世代の消費可能性は、現世代が国債を購入してその支出を自ら負担するのか、国債を購入せずに海外からの借り入れに頼るのかによって異なる。前者の場合には将来世代の負担は発生しないが、後者の場合にはそれが発生する。これが、ラーナーが明らかにした「負担」問題の本質である。

次のページ ラーナーの負担否定論の意義と問題点

ラーナーの負担否定論の意義と問題点
このラーナーの議論は、政府債務負担問題についてのありがちな誤解を払拭する上では、大きな意義を持っている。人々はしばしば、赤字財政によって生じる政府債務に関して、家計が持つ債務と同じように「将来の可処分所得がその分だけ減ってしまう」かのように考えがちである。それは、財政赤字が外債によって賄われている場合にはその通りであるが、自国の国債によって賄われている場合にはそうとはいえない。
というのは、人々の消費可能性は常にその時点での生産と所得のみによって制約されているのであり、政府債務や税負担の大きさとは基本的に無関係だからである。政府債務がどれだけ大きくても、それが国内で完結している限り、必ずそれと同じだけの債権保有者が存在するのだから、その債務は一国全体ではすべてネットアウトされる。
他方で、このラーナーの議論には、一つの大きな問題点が存在する。それは、「赤字国債の発行が将来時点における一国の消費可能性そのものを縮小させる」可能性を十分に考慮していない点である。
一般には、政府がその支出を赤字国債の発行によって賄えば、資本市場が逼迫して金利が上昇するか、対外借り入れが増加して経常収支赤字が拡大するか、あるいはその両方が生じる。1980年前半にアメリカのロナルド・レーガン政権は、レーガノミクスの名の下に大規模な所得減税政策を行ったが、その時に生じたのが、この金利上昇と経常収支赤字の拡大であった。金利の上昇とは民間投資がクラウドアウトされたことを意味し、それは一国の将来の生産可能性が縮小したことを意味するから、一国の将来の消費可能性はその分だけ縮小する。また、外債に関する上の議論から明らかなように、一国の対外借り入れの増加とは、将来世代の負担そのものである。
ただし、赤字国債の発行が民間投資減少や経常収支赤字拡大をもたらすその程度は、経済が完全雇用にあるか不完全雇用にあるかで大きく異なる。所得の拡大余地が存在しない完全雇用経済では、国債発行によって政府が民間需要を奪えば、それは即座に民間投資のクラウドアウトや海外からの借り入れ増加につながる。
しかし、ケインズ的な財政乗数モデル(45度線モデル)が示すように、不完全雇用経済では、国債発行による政府支出の増加によって所得それ自体が拡大するため、貯蓄も同時に拡大する。その結果、金利上昇や経常収支赤字拡大は完全雇用時よりも抑制される。
つまり、赤字財政政策による「将来世代の負担」の程度は、不完全雇用時は完全雇用時よりも小さくなる。その意味で、「赤字国債発行による将来世代への負担転嫁は存在しない」というラーナー命題がより高い妥当性を持つのは、財政赤字拡大がそれほど大きな投資減少や対外借り入れ拡大に結びつかないような不完全雇用経済においてなのである。

「若い世代のための早期増税」は妥当か
以上の議論を踏まえた上で、以下では、早期増税の必要性を「若年世代の負担の軽減」に求める議論が、現状の日本経済においてどれだけ妥当性を持つかを考えてみることにしよう。

次のページ ラーナーの議論の最も重要なポイント
確かに、世代重複モデル的に考えた場合には、増税の時期を早めれば早めるほど、年長の世代が生涯において負う税負担が増え、より若い世代が負う税負担減る。とはいえ、この点だけを根拠に増税を早期に行うとすれば、それはおそらく将来の日本経済に大きな禍根を残すことになる。
ラーナーの議論の最も重要なポイントは、「将来の世代の経済厚生にとって重要なのは、将来において十分な生産と所得が存在することであり、政府債務の多寡ではない」という点にある。仮に早期の増税によってより若い世代が負う税負担が多少減ったとしても、それによって生産と所得それ自体が減ってしまっては、まったく本末転倒である。そして、「失われた20年」とも言われるバブル崩壊後の日本経済においては、まさしくその本末転倒が生じていたのである。
6月27日付拙コラムで論じたように、日本経済の長期デフレ化をもたらした一つの大きな契機は、橋本龍太郎政権が行った1997年の消費税増税であった。そして、それ以降の長期デフレ不況の中で最も痛めつけられてきたのは、ロスト・ジェネレーションとも呼ばれている、その当時の若年層であった。そのツケはきわめて大きく、それは単に彼ら世代の勤労意欲や技能形成の毀損には留まらず、日本の少子化といった問題にまで及んでいる。

【参考記事】日本は若年層の雇用格差を克服できるのか
結果としては、この早まった消費税増税は、若い世代の所得稼得能力を将来にわたって阻害しただけでなく、デフレ不況の長期化による政府財政の悪化をもたらし、将来世代が負うことになる税負担をより一層増やしてしまったのである。つまり、「将来世代の負担軽減」を旗印に行われた消費税増税は、皮肉にも彼ら世代に対して、所得稼得能力の毀損と税負担の増加という二重の負担を押し付けるものとなってしまったのである。
この1990年代後半以降の日本経済は、恒常的なデフレと高失業の状態にあった。つまり、一貫して不完全雇用の状態にあった。そして、小渕恵三政権時のような大規模な赤字財政政策が実行された時期においてさえ、国債金利はきわめて低く保たれ、大きな経常収支黒字が維持され続けてきた。これは、赤字財政による将来世代への負担転嫁は存在しないというラーナー命題が、ほぼ字義通りに当てはまっていたことを意味している。
それとは逆に、日本で行われた不況下の増税は、若い世代が将来的に負う負担を減らすのではなく、むしろそれを増やしてきた。それは、不況下の増税がとりわけ若い世代の雇用と所得に大きな影響を及ぼすものである以上、まったく当然のことであった。結局のところ、経済が不完全雇用である限り、職からはじき出されがちな若い世代の雇用の確保の方が、彼らへの多少の税負担軽減よりもはるかに優先度が高いということになるのである。
この筆者のコラム
http://www.newsweekjapan.jp/noguchi/2017/07/post-12.php

 
健全財政という危険な観念
2017年06月26日(月)17時50分

<インフレ・ギャップが拡大してもいない中で行われる増税などの緊縮策は、1997年や2014年の日本の消費税増税がそうであったように、経済を確実にオーバーキルし、時には致命的な景気悪化をもたらす>

経済本の一ジャンルに、「財政破綻本」とか「国債暴落本」というものがある。その内容はどれも大同小異であり、債務の対GDP比などを示しながら、日本の財政状況が他国と比較していかに悪いかを読者に印象付けた上で、日本経済には近い将来、国債の暴落、金利の急上昇、政府財政の破綻、円の暴落、預金封鎖、ハイパーインフレなどが起きると「予言」するというものである。
こうした本の多くは、事実上は「トンデモ本」に近いものではあるが、それらをすっきりと論破することはなかなか難しい。というのは、本質的に同様なストーリーを語っておきながら、表面的には真面目な専門書として書かれているような本も数多く存在しているからである。さらに、日本の財政破綻の可能性を経済モデルによって「学術的」に示したと称する論文やレポートは、巷に氾濫する国債暴落本と同じくらい枚挙に暇がない。
そうしたことから、日本のマスメディアや経済論壇では長らく、財政破綻のリスクを指摘しつつ増税を通じた財政の健全化を訴えるという論調が主流となってきた。日本の財政当局もまた、そのような見方を陰に陽に流布してきた。その結果、おそらく少なからぬ人々が、日本経済は政府の放漫財政によって破綻への道をひた走っているかのように思い込まされてきたのである。
もちろん他方では、そのような財政破綻論や緊縮主義を批判する議論も、ネットなどを中心にそれなりに存在している。しかし、よく知られた大手メディアで、そうした批判派の見解が肯定的に取り上げられることはほとんどない。おそらく、日本の財政が深刻であることは論議の余地もないほど自明であると考えている人々にとってみれば、財政破綻論や緊縮主義へのあからさまな批判は、きわめて奇矯かつ不健全な考えなのである。
実際には、日本経済にとってこれまで、本当の意味でリスクとなってきたのは、財政の悪化それ自体ではまったくなく、財政の悪化という観念上の思い込みに基づいて実行されてきた財政健全化の試みであった。そのことは、そのような的外れな観念が日本の政治や政策の世界を支配する中で行われた1997年と2014年の消費税増税が、その後の日本経済にどのような帰結をもたらしたかを振り返ってみれば明らかである。1997年の増税は、日本経済が真性の長期デフレ不況に陥る原因の一つとなった。そして2014年の増税は、日本経済が未だにそこから完全に抜け出すことができない原因の一つとなっている

財政破綻論の生みの親としての消費税増税
現在にいたる日本の財政をめぐる論議が始まったのは、バブル崩壊によって日本経済が長期低迷に入った1990年代前半のことである。その理由は明らかであり、それまではバブル景気の拡大を背景とする税収増によって改善していた日本の財政収支が、バブル崩壊後の景気悪化によって急速に悪化し始めたからである。
その時期の日本の財政赤字は、現在から見ればまったく取るに足りないものであった。しかし、財政当局すなわち当時の大蔵省は、そうは考えなかった。大蔵省は、「10年に1人の大物」と呼ばれた斎藤次郎事務次官を司令塔として、盛んに政界工作を展開した。そして、1994年2月に、フィクサーとして政界に君臨していた小沢一郎と相謀って、時の首相であった細川護煕に、消費税を3%から7%に引き上げる「国民福祉税」構想を発表させたのである。

次のページ 橋本政権による無用な消費税増税
この国民福祉税という増税構想は、細川政権の官房長官であった武村正義などの反対によって撤回された。そして、細川連立政権は、それによって崩壊した。しかし、大蔵省は増税を決して諦めはしなかった。細川政権の崩壊を受けて、1994年6月に村山富一連立政権が誕生し、自民党が与党に復帰した。この村山政権では、将来的に消費税を3%から5%に引き上げることが内定された。そして、1996年1月には橋本龍太郎政権が誕生し、結局はこの政権の手によって1997年4月の消費税増税が実行されたわけである。
この橋本政権の増税によって、日本経済は戦後最悪の景気後退に陥った。それは、1996年頃までの緩やかな景気回復の中でそれなりに消化されているようにも見えた金融機関の不良債権が、景気の悪化によって一気に表面化したからである。その結果、1997年末から1998年にかけて、日本を代表する金融機関のいくつかが破綻した。そのようにして生じた金融危機は、速水優総裁下の日本銀行の稚拙な対応もあって、その後の日本経済に、現在にまでいたるデフレというやっかいな病を定着させる契機となったのである。
橋本政権は結局、これによって崩壊した。そして不況の最中の1998年7月に、小渕恵三政権が成立した。小渕政権は、橋本政権時の財政スタンスを180度転換し、不況克服のための財政拡張政策を行った。その結果、景気悪化による税収減も重なって、日本の財政赤字は急激に拡大した。
小渕は1999年11月に、松山市で開かれたあるシンポジウムで、「日本の総理大臣である自分は世界一の借金王になった」と自嘲気味に発言した。日本の財政破綻の可能性がメディアや経済論壇で盛んに論じられようになり、財政破綻や国債暴落を煽る書物が経済本の一大ジャンルになるのは、主にこの時期以降のことである。
日本の財政が問題視されるにいたった以上のような経緯は、日本の財政状況の悪化とそれによる財政破綻懸念を生み出した最大の原因は、皮肉にも財政健全化を目的として実行された橋本政権による1997年の消費税増税であったことを明らかにしている。確かに、財政赤字を拡大させる政策を実行したのは、橋本ではなく小渕である。しかし、日本経済が最悪の経済危機に落ち込んでいる以上、小渕であれ誰であれ、橋本を引き継いだ政権に財政拡張以外の選択肢は政治的に存在しなかった。そして、そのような状況を作り出したのは、明らかに橋本政権による無用な消費税増税だったのである。

ますます危機から遠ざかってきた国債市場
こうして、「日本の財政危機」は、ある種の国民的な共通観念となった。しかしながら上述のように、それは元々、日本の財政は危機的であるというプロパガンダに基づいて実行された財政緊縮策の結果にすぎなかったのである。これは要するに、危機という観念が現実そのものをより危機に近づける方向に動かし、それが危機という観念をより強めるという、観念の悪循環である。それは、火の中に飛び込む夏の虫のように、「真の危機」を自らたぐりよせているようなものである。
幸いなことに、財政破綻なる観念の拡大にもかかわらず、現実の日本経済には、その危機の気配すら存在しない。というよりもむしろ、少なくとも国債市場の状況から判断する限り、国債暴落といった事態からはますます離れつつあるとさえいえる。

次のページ 日本の国債利回りの推移
財政破綻本や国債暴落本の執筆者の多くは、いわゆる市場関係者である。また、そのような本を書くことはなくとも、自らのレポートや金融メディアでのインタビューなどを通じて、日本国債売りのポジション・トークとして財政破綻を煽る市場関係者は、海外ヘッジファンドのマネジャーなどを中心に数多い。
実際、財政悪化が問題視されるようになった小渕政権期以降、多くのヘッジファンドが日本の財政危機を喧伝し、日本国債に売りを仕掛けてきた。しかし、それらはいずれも不発に終わり、多くのファンド・マネジャーが市場からの退場を余儀なくされた。彼らはいずれも、日本の財政破綻を煽ることで、結局は自らが破綻する羽目に陥ったわけである。そして、市場ではいつしか、日本国債の売りは「墓場トレード」と呼ばれるようになった。
その状況は、日本の国債利回りの推移が示すとおりである(図1)。それは、バブル崩壊以降、景気循環によって変動しつつも、傾向的に低下し続けてきた。つまり、日本国債の価格は、暴落するどころか、傾向的に上昇し続けてきたのである。小渕政権以降に生じたいわゆる「日本の財政悪化」は、国債市場にはほとんど何の影響も与えなかったということである。


http://www.newsweekjapan.jp/noguchi/2017/06/26/noguchi20170626a.jpg

貯蓄過剰がより顕在化しつつある世界経済
このように、日本ではバブル崩壊以降、財政赤字の拡大にもかかわらず、国債金利は傾向的に低下し続けてきた。これは、市場が日本の財政破綻というストーリーをまったく信じてはいないことを示すという意味では、歓迎すべきことである。しかしながら、金利が上がらないという事実それ自体は、決して望ましいことではない。というのは、国債金利の低下とは、何よりも日本経済に大きな貯蓄超過とデフレ・ギャップが存在していることを示すものだからである。事実、日本経済はその間、高い失業率とデフレに悩まされ続けてきたのである。
日本の国債金利がバブル崩壊以降これだけ低くなったのは、需要不足によって日本経済の民間部門に投資機会が不足し、多くの金融機関が国債で運用する以外の選択肢を見出しにくくなったからである。ただし2013年以降の国債金利低下に関しては、黒田日銀が実行した異次元金融緩和の影響が大きい。しかし、それもまた、日本経済に依然として大きなデフレ・ギャップが残されており、結果としてデフレからの完全脱却が達成できていないという状況の反映と考えることができる。

次のページ 健全財政派の論者たちの主張
おそらく、これから日本経済のデフレ・ギャップが順調に縮小し続け、完全失業率がさらに低下して完全雇用に近づけば、国債金利も徐々に上昇し始めることになるであろう。それは、マクロ経済政策の本来的な目標が達成されつつあることを示しているという意味では、基本的にはきわめて喜ばしいことである。
ところが、健全財政派の論者たちは、「国債金利の急上昇や国債暴落というリスクが高まるのは、まさしく政策目標が達成されたこの出口においてであり、だからこそ金利上昇が始まる前のできるだけ早いうちに増税などによって財政再建を行うべきだ」と主張する。その考え方は、どれだけ正しいのであろうか。
確かに、デフレ・ギャップが消えた後に、インフレ・ギャップが急速に拡大し続ける状況が続けば、物価や賃金の上昇ペースが速まり、急速な金利上昇が生じる可能性はある。事実、そのような「インフレ・スパイラル」は、1980年代前半までの世界経済では、決して珍しいことではなかった。
しかしここで考慮すべきは、少なくとも2000年代以降の世界経済では、インフレの加速や金利の急上昇のような現象は、景気拡大期においてさえまったく起きてこなかったという事実である。FRB理事時代のベン・バーナンキが、2005年の講演「世界的貯蓄過剰とアメリカの経常収支赤字」で論じていたように、そこで生じていたのはむしろ、それとは逆の現象であった。
バーナンキがこの世界的貯蓄過剰(The Global Saving Glut)という問題提起を行った2005年とは、アメリカのサブプライム住宅バブルがまさにそのピークに達しようとしていた時期であった。しかし、そのような景気拡大期においてさえ、アメリカの長期国債金利は、4%前後という、当時としては歴史的に低い水準に保たれていた。バーナンキは、それを可能にしたのは中国に代表される新興諸国の貯蓄過剰であり、それが国際資本移動という形でアメリカへ流入したことによるものであることを指摘したのである。
この時期のFRB議長アラン・グリーンスパンは、退任後に著した自伝の中で、2004年頃からFRBが政策金利を引き上げ始めたにもかかわらず長期金利が低いままに推移した異例の事態を改めて振り返り、それをコナンドラム(謎)と名付けている。バーナンキが2005年に提起した上の世界的貯蓄過剰仮説は、FRB議長としての彼の前任者が在任中にFRB内部で問題提起していたはずのこの「謎」に対する「謎解き」でもあった。
この世界的貯蓄過剰問題は、アメリカのサブプライム・バブルという狂騒の中で、いったんは解消されたかに思われた。しかしそれは、リーマン・ショック後の世界大不況の中で、再びより深刻な形で表面化した。というのは、ローレンス・サマーズがその「長期停滞論」によって問題提起したように、リーマン・ショックから既に10年近くが経過しているにもかかわらず、多くの先進諸国では、物価や賃金や金利の伸びはきわめて弱々しく、景気過熱やインフレを懸念するには程遠い状況が続いているからである。

拙速な緊縮は致命的な結果をもたらす
今後の日本経済あるいは世界経済において、デフレ・ギャップがなかなか解消されないリスクと、インフレ・ギャップが拡大していくリスクのどちらが大きいかを問えば、それはどう考えても圧倒的に前者である。世界的な供給能力は今後、AI等による技術革新や既存技術のグローバルな移転によって、確実に拡大していく。他方で、医療技術の進歩による人々の寿命の伸びは、人々の貯蓄選好をより強めるように作用する。また、それによる将来的な人口構成の高齢化は、予備的貯蓄の必要性を高めることから、マクロ経済全体の貯蓄率をより高めることに帰結する。

次のページ 2019年に消費税増税が予定されている日本経済
中国経済のマクロ的状況は、その点で示唆的である。2000年代に入って急速な経済成長を実現させた中国経済は、まさに典型的な「高貯蓄」経済であった。中国のGDPに対する民間消費の比率は、40%にも満たない。逆にその貯蓄の対GDP比率は、時に50%を越えている。その高貯蓄の原因は、公的な社会保障制度が先進諸国のようには整備されていないことにもよるが、いわゆる一人っ子政策による人口構成の高齢化によるところも大きい。そのような中国のマクロ的状況が、近い将来に大きく変わると考えるべき理由はない。
この世界的貯蓄過剰という要因が、各国のマクロ経済政策に対して持つ含意は、きわめて明白である。それは、「ありもしない高インフレや金利高騰のリスクに怯えて、拙速なマクロ緊縮政策を行ってはならない」ということである。仮にインフレ・ギャップが拡大し、多少の金利上昇が生じたところで、世界的な貯蓄過剰のもとでは、海外からの資本流入によって直ちに抑制されてしまう。逆に、インフレ・ギャップが拡大してもいない中で行われる増税などの緊縮策は、1997年や2014年の日本の消費税増税がそうであったように、経済を確実にオーバーキルし、時には致命的な景気悪化をもたらすことになる。
その点で、安倍政権による2度にわたる消費税増税の延期は、きわめて正しい判断であった。しかしながら、2019年に再度の消費税増税が予定されている日本経済は、依然としてその同じリスクに直面しているのである。
この筆者のコラム
政府債務はどこまで将来世代の負担なのか 2017.07.20
健全財政という危険な観念 2017.06.26
国債が下落しても誰も困らない理由 2017.05.11
日銀債務超過論の不毛 2017.05.08
異次元緩和からの「出口」をどう想定すべきか 2017.04.10
オルト・ライト・ケインズ主義の特質と問題点 2017.02.28
日銀の長期金利操作政策が奏功した理由 2017.02.06

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プロフィール

野口旭
1958年生まれ。東京大学経済学部卒業。
同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。専修大学助教授等を経て、1997年から専修大学経済学部教授。専門は国際経済、マクロ経済、経済政策。『エコノミストたちの歪んだ水晶玉』(東洋経済新報社)、『グローバル経済を学ぶ』(ちくま新書)、『経済政策形成の研究』(編著、ナカニシヤ出版)、『世界は危機を克服する―ケインズ主義2.0』(東洋経済新報社)等、著書多数。

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http://www.newsweekjapan.jp/noguchi/2017/06/post-11.php

 
マネーストックM3、7月は3.4%増 伸び小幅拡大=日銀
[東京 9日 ロイター] - 日銀が9日に発表した7月のマネーストック統計によると、指標となるM3の月中平均残高は1305兆1000億円となり、前年比で3.4%増加した。伸び率は前月の同3.3%増から小幅拡大。マイナス金利政策の導入後に進行した定期預金から普通預金などへのシフトの流れが一巡している。

M3の内訳を見ると、定期預金などの準通貨が同1.3%減少となり、5カ月連続でマイナス幅が縮小した。一方、普通預金などの預金通貨は同8.0%増と前月から伸びが小幅縮小。2016年1月のマイナス金利政策導入の定期預金金利の低下を背景とした流動性の高い預金へのシフトの巻き戻しが続いている。

準通貨のマイナス幅縮小や、譲渡性預金(CD)が同0.1%増と3カ月ぶりにプラス転換したことがM3の増加に寄与した。

幅広い金融資産を含めた広義流動性は同3.4%増となり、16年1月(同3.5%増)以来の高い増加率となった。円安を背景に外債が同10.8%増と2015年4月の同11.0%増以来の高い伸びとなったほか、金銭の信託が同3.6%増と前月の同3.0%増から伸び率を拡大したことなどが要因。投資信託は同1.2%増と5カ月ぶりにプラス幅が拡大した。

M3からゆうちょ銀行などを除いたM2は同4.0%増となり、前月の同3.9%増から伸びが小幅拡大した。

(伊藤純夫)

マネーストックM3、流動性シフトに一服感 16年度は19年ぶり高い伸び

マネーストックM3、12月は3.4%増 流動性へのシフト継続
マネーストックM3、11月は3.4%増 1年3カ月ぶりの高い伸び
マネーストック1月は前年比3.5%増、預金伸び拡大=日銀
http://jp.reuters.com/article/boj-m-idJPKBN1AP03H


 

 


 


ベーシックインカムは「ただでお金をもらえる」制度ではない 2017年08月08日 22:30池田 信夫

【本当にお金をくれるんです。びっくりです】国民全員がただでお金をもらえる。こんなアイデアが最近、まじめに議論されています。ベーシックインカムという社会保障政策。格差拡大や貧困の解決につながるのか、ビジネス特集です。http://www3.nhk.or.jp/news/business_tokushu/2017_0807.html
19:28 - 2017年8月7日


“ただ”でお金をもらえるとしたら?|NHK NEWS WEB
国から国民全員がただでお金をもらえるとしたら、どうなるでしょうか。一体何のことなのかといぶかしく思う方もいるかもしれません。こんな突拍子もないアイデアが最近、まじめに議論され、実証実験も始まっています。ベーシックインカムという、れっきとした社会保障政策です。格差拡大や貧困という世界共通の課題を解決するための手段として注目されるベーシックインカムの実態に迫ります。(おはBiz・豊永博隆キャスター)
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最近ちょっと話題になっているNHKのベーシックインカム特集は、根本的に間違っている。ベーシックインカム(BI)は「国民全員がただでお金をもらえる」制度ではない。フィンランドの実験は「世界初」ではなく、そもそも「ただでお金をもらえる」という言葉が矛盾している。
たとえば日本政府が国民全員の銀行口座に、ひとり年間80万円を振り込んだら名目GDPが20%増えるが、それを政府が発表した途端に、物価が20%上がって実質GDPは変わらない。財源措置がないとBIはヘリコプターマネーと同じで、激しい「財政インフレ」が起こるだけで実質所得は増えないのだ。
カナダで実験されてスイスで提案されたBIはそんなナンセンスな話ではなく、分配後の所得から所得税を徴収して税収中立にする。これはミルトン・フリードマンが負の所得税として提案したものと同じで、日本で財務省が「給付つき税額控除」として提案している制度も発想は同じだ。
生活保護と老齢基礎年金と子ども手当を廃止すると、日本でもすべての個人に年間約80万円(世帯あたり約200万円)のBIが支給できるが、税収中立にするためには所得税率を一律40%にする必要がある(社会保険料は廃止)。
財源はBIとは独立なので、たとえば累進消費税と組み合わせ、所得税・法人税を廃止することもできるが、この場合の消費税率は(税収中立だと)20%以上になる。「ただでお金をもらえる」フリーランチは存在しないというのが経済学の鉄則である。
BIの最大の政治的障害は、既存の社会保障を廃止することだ。これは所得再分配の透明性や世代間の公平という点では正しいのだが、年金生活者や生活保護世帯の既得権を奪うので、通常の方法では不可能だ。スイスでは国民投票をやったが、70%が反対だった。
しかし日本の社会保障が行き詰まるのは時間の問題なので、BIのような年齢に依存しない一括再分配に転換することは避けられない。団塊の世代が「食い逃げ」する前に社会保障を見直すには、政治家のみなさんもアゴラこども版ぐらいのBIの知識は必要だと思う。
http://agora-web.jp/archives/2027673.html


 

ただ”でお金をもらえるとしたら?

8月7日 19時10分
国から国民全員がただでお金をもらえるとしたら、どうなるでしょうか。一体何のことなのかといぶかしく思う方もいるかもしれません。こんな突拍子もないアイデアが最近、まじめに議論され、実証実験も始まっています。ベーシックインカムという、れっきとした社会保障政策です。格差拡大や貧困という世界共通の課題を解決するための手段として注目されるベーシックインカムの実態に迫ります。(おはBiz・豊永博隆キャスター)
世界で注目集めるベーシックインカム

フェイスブックの創業者、マーク・ザッカーバーグ氏がことし5月、母校のハーバード大学の卒業式に招かれた際の講演で、こう語りました。

「ベーシックインカムを導入し、みんなが新しいことに挑戦できるようにすべきです」

1月に開かれた世界各国の政治や経済界のリーダーが一堂に会する世界経済フォーラムの年次総会、いわゆる「ダボス会議」でもベーシックインカムが議論されました。格差拡大や貧困、国民の分断や内向き指向。世界に垂れこめる暗雲はしばしば資本主義のゆがみや限界とも指摘され、どうしたら問題を解消できるかとリーダーたちは真剣になっているのです。
ベーシックインカムとは
注目を集めているベーシックインカムとはどのような制度なのでしょうか。

日本語では「基本所得」と訳されますが、「すべての人」に「無条件」で「毎月、一定額」を支給するというのが特徴の社会保障政策です。生活保護や失業手当などとの最大の違いは「無条件」ということです。生活保護や失業手当を受給するためには所得や仕事の有る無しなどが問われ、行政に書類申請することが必要です。しかしベーシックインカムは、何の制限もなく、自動的に国からお金が振り込まれる仕組みとなっています。お金はすべての人が対象ですから、生活に困っている人だけでなく、収入の安定した人も、子どもにも全員に給付されるというのが本来の仕組みです。これが「“ただ”でお金をもらえるとしたら」というタイトルの意味です。
日本も深刻 貧困問題
日本も格差や貧困はひと事ではない深刻な問題です。ことし3月時点で生活保護を受けている世帯は1人暮らしの高齢者の増加を背景に164万世帯余りとなり、過去最多。しかも、日本には生活保護を受け取らず、それ以下の水準で暮らしている人の数が800万人とも1000万人とも言われており、行政の支援が届いていない、統計には表れない貧困の問題が深刻だとされています。
世界初 全国規模の実証実験
このベーシックインカム、正式な形で採用した国はまだありません。しかし、北欧のフィンランドはことし1月から2年間の期限を区切り、実証実験を始めています。全国規模で実験を行うのは世界で初めてのことです。
フィンランド ヘルシンキ

実験は全国の25歳から58歳の失業者を対象に無作為で2000人を選び出し、毎月560ユーロ、およそ7万円を支給するというものです。対象者を絞り込んでいる点は本来の「すべての人」という条件には該当しませんが、政策目的は失業や貧困の問題をどう解消するのかという点にあるので、実験としては妥当なものだと思います。


ベーシックインカムは気持ちを変える?
私は実際にフィンランドに行き、この制度によって、生活を立て直すことができたという女性を取材しました。首都ヘルシンキから北に500キロ。北緯64度にあるパルタモという町で暮らすマリ・サーレンバーさん30歳。11歳の息子を育てるシングルマザーです。実証実験の対象に選ばれ、ことし1月から月7万円を受け取っています。

サーレンバーさんは去年10月、勤めていたスーパーマーケットを解雇されました。頼りになるのは、月8万円の失業手当だけでした。子どもの教育費や光熱費を払うことで毎日が精いっぱいだったといいます。早く再就職して収入を増やしたいのはやまやまですが、収入を得たとたん、失業手当は減額されてしまいます。そのため、職探しには前向きになれなかったといいます。

ベーシックインカムは減額されることはありません。そのため、7万円を安定した生活費として使い、積極的に仕事をすることにしました。今では印刷所とスーパー、2つの仕事を掛け持ちしたことで、収入は合計で月22万円に上りました。

サーレンバーさんは「とても前向きな気持ちで仕事ができますし、ずっと抱えていた経済的な不安もなくなって安心しています。将来はフルタイムで働いて自分の給料で生活を支えられることを望んでいます」とうれしそうに語っていたのが印象に残っています。

実証実験を行うのはなぜ
フィンランドはなぜこうした社会実験に踏み出したのか。社会保険庁の担当者に取材すると、長年にわたって築き上げられてきた手厚い社会保障の仕組みが、これから先も安定して維持できるのか、新しい時代に適合できるのかという根本的な問いが投げかけられているといいます。

また、背景には高止まりした失業率という問題もあります。2016年の失業率は8.8%。リーマンショック、ヨーロッパの信用不安に加えて、フィンランド固有の事情としてロシアとの貿易取引の減少という問題があります。隣国ロシアとはもともと貿易が盛んですが、EU=ヨーロッパ連合によるロシアへの経済制裁によって、ダメージを受けているというのです。フィンランド政府は2年後に実証実験の効果がどのようなものだったか、検証するとしています。
ソーシャルでは賛否両論!
このベーシックインカムに関する特集を7月27日のNHKおはよう日本で放送したところ、ソーシャルメディアで多くの反響がありました。

おはよう日本 けさのクローズアップ

「資本主義の根本を否定するような政策」
「ちゃんと働く人が減って文句を言う人が増える」
「財源を確保できないだろう」
「無条件ということはその国に行くだけでお金をもらえるとか悪用されて不法移民が来そうで」

という否定意見多数。
一方、

「貧困を乗り越えるための重要な武器になるかも」
「競争原理を部分的に打ち消していく可能性があることは評価する」
「生産性の悪い仕事を駆逐する」

という肯定意見もたくさんありました。

中には「かつてトンデモ扱いされてたベーシックインカムがNHKニュースで報じられるようになる日が来るなんて胸熱」というコメントまでありました。

ちゃんと働く人が減ってしまうのではないかとの指摘は、この制度が議題になると必ず出てくる意見です。無条件にお金をばらまいてしまえば、そのお金を遊興費に使ってしまうのではないか。人々の勤労意欲を奪ってしまい、怠惰な人をうむことになりはしないかという疑念です。明確にそうならないと断言はできませんが、実際、フィンランドでベーシックインカムを受給している3世帯を取材しましたが、皆さん、それぞれ生活が安定し、人生を前向きに捉え直して新たな挑戦をしているように感じました。

また、財源はどうするのかという疑問は最も本質的な部分だと思います。ベーシックインカムのために大増税というのでは到底受け入れられないでしょう。ただ、今の生活保護や失業手当にも多額の予算が使われ、また多くの公務員が審査や職業訓練などの仕事に携わり、行政コストもかかっています。ベーシックインカムは「無条件」ですから審査や訓練というプロセスはありません。実際フィンランドで取材しましたが、ただお金が振り込まれるだけというもので、いたってシンプルでした。「すべての人に給付する」という性格上、年金の一部や児童手当などとってかわるものもあるでしょう。政府予算のなかでむだな歳出を減らすこと、富裕層に対する課税強化も当然必要だと思います。
新しい発想 求められる時代に
イギリスのEUからの離脱、トランプ政権誕生を目の当たりにして、人々はますます、世界は何かおかしな方向に行っているのではと感じ始めているのではないでしょうか。何かを根本的に変えないと格差や貧困の問題は解消できないのではないか。いままでのような豊かさは享受できないのではないか。そんなときに1つのアイデアとしてベーシックインカムという政策があるように思います。

いきなり導入できるかどうかはさておき、過去のしがらみや常識にとらわれず、新しい発想で考えてみる、そのようなことが求められる時代に私たちが生きているように思います。

おはよう日本 おはBiz
豊永博隆 キャスター
平成7年入局
函館局 サハリン駐在をへて経済部
ニューヨーク駐在4年 リーマンショックを取材
金融・通商・エネルギー取材を長く担当
現在は経済部デスクを兼任
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http://www3.nhk.or.jp/news/business_tokushu/2017_0807.html

 

ベーシック・インカムって何? 2017年02月27日 14:20 池田 信夫

このごろ「高校無償化」や「子育て支援」など、新しいタイプのバラマキ福祉が出ていますが、高校生や幼児をもつ親だけにばらまくのは不公平です。子育て支援のお金は、こどもではなく親がもらうので、それがこどもに使われるかどうかかはわからない。これは単なる所得再分配で、こどものいない貧乏人は税金を払うだけなので、ますます貧しくなります。
再分配するなら、すべての国民に非裁量的にばらまくべきです。それがベーシック・インカム(BI)で、カナダやスイスなどで提案されています。これは図のように、すべての人に(たとえば)80万円を一律に支給します。年収50万円の人には生活保護の代わりに差額の30万円を支給し、所得が80万円以上の人からは所得税20%を徴収した上でBIを支給します。年収500万円なら、手取りは80万円+(500万円×0.8)=480万円になります。
http://livedoor.blogimg.jp/ikeda_nobuo/imgs/a/e/ae1e0ca3-s.jpg 

他方、ミルトン・フリードマンの提唱した負の所得税は、社会保障をやめて税制だけで所得再分配するものです。これは課税最低所得が年400万円だとすると、それを超える所得に(たとえば)20%課税し、それ以下の人からはマイナスの税金を取る、つまり税金を還付するものです。年収500万円なら、手取りは400万円+(100万円×0.8)=480万円です。
つまり負の所得税とBIは思想的にはまったく違いますが、算術的には同じなのです。一律に給付するBIのほうが税務は単純化できますが、カナダの一部で行なわれた実験では「働かなくても金がもらえる」というBIのイメージが労働倫理に悪影響を及ぼすので、負の所得税のような形で労働所得を補助することが現実的でしょう。日本で議論されている給付つき税額控除は(言葉はまずいが)そういう発想です。
今の社会保障の一部を置き換えることもできます。今の老齢基礎年金と生活保護と子ども手当を廃止してBIに切り替えると、年間1人84万円(こども36万円)。これは標準世帯では204万円で、今の支給水準とほぼ同じです。社会保障をすべて所得税(および負の所得税)に置き換えると、所得税率は40%以上になりますが、今の社会保障でも2020年代には国民負担率は50%を超えるのでほとんど同じです。
所得税の欠点は、捕捉率が低く資産に課税できないことです。特に高齢者の資産は現役世代よりはるかに多いので、所得税に一元化するのは不公平です。資産課税や消費税と併用する必要があります。医療保険も基礎的な医療だけに縮小し、BIで医療費を支給したほうが効率的です。BIはこどもにも一人ずつ所得を分配するので、上の場合は毎月3万円のこども手当を配るのと同じです。
BIや負の所得税は理想に近い再分配システムですが、フリードマンが提案してから50年以上たっても実現しません。それは既存の社会保障をすべて廃止するので、年金生活者や官僚機構が強く反対するからです。でも日本の社会保障は行き詰まり、あと20年ぐらいで年金基金の積立はなくなって税金と同じになります。それなら最初から、税で分配すればいいのです。よい子のみなさんが大人になるころは、BIを真剣に考えるようになるでしょう。
追記:「高校無償化は現金じゃなくて授業料の免除だ」というコメントが来ましたが、授業料を免除されたら、高校に払うはずの所得が他に使えるので同じことです。「子育て支援」も同じくゼロサムの所得移転なので、それによって成長率が上がることはありません。しいていえば教育の受益者は子で負担者は親なので、親が浪費しないように使途を固定する意味は(初等教育には)ありえます。
http://agora-web.jp/archives/2024647-2.html


http://www.asyura2.com/17/hasan123/msg/123.html

[国際20] 「辞任」「解任」続出で迷走するホワイトハウスの課題 ラスプーチンと将軍たちの戦い 財政規律バトル「政府債務上限問題」再燃
「辞任」「解任」続出で迷走するホワイトハウスの課題


「オバマケアの見直し」膠着が人事の混乱の伏線に
2017.8.10(木) 新潮社フォーサイト

トランプ氏、首席補佐官の交代発表 内紛露呈、共和党と関係悪化も

米メリーランド州で開かれた討論会で発言するラインス・プリーバス大統領首席補佐官(2017年2月23日撮影、肩書は当時のもの)。(c)AFP/Mike Theiler〔AFPBB News〕
(文:足立 正彦)

 7月下旬からトランプ政権のホワイトハウス人事を巡る迷走が続いている。

 ウォール街の投資家であるアンソニー・スカラムッチ氏の広報部長任命を契機としてホワイトハウス中枢の内紛が一挙に露呈し、同氏の広報部長起用に強く反発していたショーン・スパイサー大統領報道官は7月21日に辞任。後任には、5月からスパイサー氏に代わってホワイトハウスでの定例記者会見を頻繁に担当してきたサラ・ハッカビー・サンダース副報道官(マイク・ハッカビー元アーカンソー州知事の娘)が昇格した。

 また、スパイサー氏やスティーブ・バノン首席ストラテジスト兼大統領上級顧問とともにスカラムッチ氏の起用に反発していたラインス・プリーバス大統領首席補佐官も7月28日に事実上更迭され、後任にはジョン・ケリー国土安全保障長官が横滑りし、7月31日に正式に就任した。

 そしてさらに驚かされたのは、ケリー大統領首席補佐官が就任するや否や、スカラムッチ広報部長がわずか在職10日の7月31日に解任されたことである。トランプ大統領に対してスカラムッチ氏の解任を求めていたのは、他でもないケリー氏であった。

迷走するホワイトハウス中枢人事

 トランプ政権発足からいまだ半年余りしか経過していない。にもかかわらず、ホワイトハウス中枢の混乱ぶりには目を見張るものがある。

◎新潮社フォーサイトの関連記事
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本コラムは新潮社の会員制国際情報サイト「新潮社フォーサイト」の提供記事です。フォーサイトの会員登録はこちら
 ロシア政府が2016年米国大統領選挙に介入していたとして、オバマ政権(当時)が対ロシア報復制裁措置を決定した昨年12月29日のまさにその日、セルゲイ・キスリャク駐米ロシア大使(当時)と電話でトランプ政権発足後の制裁措置の解除について協議していたことが発覚したマイケル・フリン氏は、在職わずか24日で国家安全保障問題担当大統領補佐官を辞任に追い込まれた。

 そして今回のスパイサー、プリーバス、スカラムッチ各氏の相次ぐ辞任や解任と、ホワイトハウス中枢の人事は大きく揺れ動いており、トランプ政権の「異常さ」は明白である。

プリーバス氏らの「辞任の伏線」

 プリーバス氏は2011年から共和党全国委員会(RNC)の委員長を務めており、当時、RNCで報道担当をしていたのがスパイサー氏である。

 プリーバス氏は中西部ウィスコンシン州の地方政治に深く関与しており、保守系有権者の草の根運動であったティーパーティー(茶会党)運動が全米各地に広がった2010年中間選挙では、ウィスコンシン州でも共和党のスコット・ウォーカー州知事候補やロン・ジョンソン上院議員候補の初当選に大きく貢献していた。

 また、ポール・ライアン下院議長も同州第1区選出の下院議員であり、ライアン下院議長との関係も良好であり、それだけに、ホワイトハウスと議会共和党との橋渡し役を期待され、プリーバス氏を大統領首席補佐官に起用した背景があった。

 しかし、RNC委員長として選挙での政治資金調達や党勢拡大に取り組んできたプリーバス氏には議会折衝の経験がほとんどなく、加えて「共和党内の意見対立」という大きな制約があった。

 1月3日に招集された第115議会(〜2019年1月)でトランプ政権と議会共和党指導部が最優先で可決を目指したのは、医療保険制度改革法(通称、オバマケア)の撤廃と置き換えを目指す代替法案であった。

 だが、オバマケアにより生じている財政支出を削減するには撤廃すべきとの立場の保守派議員と、無保険者を大幅に増加させるという低所得者層の切り捨てはすべきではないとの立場の穏健派議員との間で、共和党内での意見の対立が激化。その結果、上院では、オバマケア撤廃法案も代替法案も一部撤廃法案も、いずれも共和党議員の一部が離反してすべて否決。ついに7月28日には、上院でのオバマケア見直しを事実上諦めざるを得ない状況に追い込まれた。

 共和党がホワイトハウス、上院、下院のすべてを支配しているにもかかわらず優先法案を可決できない現状にトランプ大統領は不満を募らせていたが、それがプリーバス氏やスパイサー氏の在任わずか半年余りでの辞任の伏線であった。つまり、共和党主導の上院におけるオバマケアの見直しが膠着状態に陥る中でホワイトハウス中枢の人事を巡る混乱が明らかになったことは、決して偶然ではない。

ホワイトハウスへの規律導入

 ホワイトハウスと議会との橋渡し役を期待されていたプリーバス氏の辞任で懸念されるのは、トランプ政権と共和党主流派との今後の関係である。

 今回、大統領首席補佐官に就任したケリー氏は元海兵隊大将であり、国土安全保障長官として国境管理の強化などに取り組んできた。だが、大統領首席補佐官というポストは、政権の要として、とりわけ議会対策について重要な役割を担う。

 ちなみに、元軍幹部が大統領首席補佐官に就任した事例は非常に少なく、ウォーターゲート事件当時、リチャード・ニクソン大統領と、副大統領から後任の大統領に昇格したジェラルド・フォード大統領に仕えたアレクサンダー・ヘイグ氏(第1期レーガン政権で国務長官に就任)以来となる。

 トランプ政権下のホワイトハウスは内部対立やメディアに対する意図的な情報のリーク(漏洩)などが日常茶飯事となっており、混乱をさらに助長する結果を招いていた。こうした状況に対してプリーバス氏は適切に対応できなかったため、トランプ政権の不安定さを有権者に印象付けることになった。

 まずこうしたホワイトハウスの従来までの状況を変革し、ホワイトハウスに規律を導入することがケリー氏の最初の取り組みとなる。

 その一環として、これまでは主要幹部であれば自由に大統領執務室に出入りできた状況を改め、たとえトランプ大統領の長女イヴァンカ・トランプ大統領補佐官であっても、娘婿ジャレッド・クシュナー大統領上級顧問であっても、ケリー氏の許可を必要とするかたちに変更した。

 ただ、ケリー氏の不安材料として、議会折衝を挙げなければならない。国土安全保障長官当時の信頼の厚いスタッフを配置するとともに、現在、議会折衝を担当しているマーク・ショート立法担当部長の他に、議会折衝に長けた人物をさらに迎えることも不可欠となろう。

 そうした取り組みによって、優先法案であったオバマケア代替法案頓挫からの立ち直りを図り、減税や法人税引き下げを柱とする税制改正などの次の主要な立法課題に取り組むための第1歩としなければならない。(足立 正彦)


足立 正彦
住友商事グローバルリサーチ シニアアナリスト。1965年生れ。90年、慶應義塾大学法学部卒業後、ハイテク・メーカーで日米経済摩擦案件にかかわる。2000年7月から4年間、米ワシントンDCで米国政治、日米通商問題、米議会動向、日米関係全般を調査・分析。06年4月より現職。米国大統領選挙、米国内政、日米通商関係、米国の対中東政策などを担当する。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/50732

 


米政権、ラスプーチンと将軍たちとの新たな戦い

アメリカ現代政治研究所

火だねを残したホワイトハウスの人心一新
2017年8月10日(木)
高濱 賛

新たに大統領首席補佐官に就任したジョン・ケリー氏(写真:AP/アフロ)
ドナルド・トランプ米大統領は、課題山積の中で17日間の夏休みに入りました。7月のホワイトハウスはまさにハリケーンが襲ったような感じでしたね。

高濱:8月に入ってもハリケーンの余波はホワイトハウスをすっぽりと包んでいます。まだまだ不安定な天候が続くと見る「政界天気予報」もあります(笑)

 トランプ大統領は、ロシアとの不透明な関係をめぐる「ロシアゲート」疑惑に対して積極的な動きをとらないと見なしているジェフ・セッションズ司法長官を更迭する可能性すらほのめかしているのですから。

 7月28日にはラインス・プリーバス大統領首席補佐官(*1)を、同31日には10日前に起用したばかりのアンソニー・スカラムチ広報部長(*1)をそれぞれ更迭しました。同26日には、ショーン・スパイサー報道官(*1)が辞任しています。
*1:プリ―バス氏の後任には7月31日、ジョン・ケリー国土安全保障長官が就任。スパイサー氏の後任はサラ・ハッカビー・サンダース副報道官が7月21日に昇格。スカラムチ氏の後任は8月6日現在未決定。

 政権発足から6カ月の間に首席補佐官、国家安全保障担当補佐官、報道官が全員交代するという異例の事態です。それでも「裸の王様」と化したトランプ大統領は、得意の「You're fired!」(*2)(お前は首だ!)の連発でした(笑)
*2:トランプ氏はかつてテレビ番組「アプレンティス」(見習い)に出演。「You're fired!」を決まり文句として使ったため、この表現は同氏のトレードマークになった。

ホワイトハウスの内紛はこれまでにも噂されてきましたね。

高濱:トランプ大統領の娘婿ジャレッド・クシュナー上級顧問に連なる中道派と、スティーブン・バノン首席戦略官・上級顧問らの保守強硬派との確執が注目されてきました。

 その中で両派の間に立って蝶つがいの役割を果たしてきたのが、プリーバス首席補佐官でした。共和党全国委員長だった経験からトランプ大統領と共和党保守本流の連絡役でもありました。そのプリ―バス氏の首を斬ったのですからワシントン政界は開いた口が塞がりません。

プリーバス氏を更迭した理由はなんですか。

高濱:プリーバス氏が「ウエストウィング」(ホワイトハウス行政府)を取り仕切ることができていたのは、一にも二にも大統領との信頼関係でした。

 首席補佐官は閣僚外の役職ですが、日本で言えば、内閣官房長官です。首席補佐官のオフィスは大統領執務室に一番近いところにあり、大統領に会おうと思えばいつでも会えます。

 トランプ大統領はそのフリーバス氏を7月に入って遠ざけ始めたんですね。理由は、ロシアゲート疑惑への対応にしても医療保険制度改革(オバマケア)を撤廃・代替する法案にしてもうまくいかないのは「お前が悪いんだ」と、責任をプリーバス氏になすりつけたのです。

 加えてプリーバス氏は、クシュナー上級顧問やバノン首席戦略官とは異なり、大統領選を一緒に戦った「譜代」ではありません。政権発足と同時に陣営に入った「外様」です。本人はそう思わなくても、トランプ大統領に対する「忠誠心」に差がありました。

 もっとも山積する課題が解決しないのは、プリーバス氏だけの責任ではありません。最大の理由は、トランプ大統領自身が思いつきで政策を決定することと、ツイッターによる暴言・放言です。

 保守系新聞のウォール・ストリート・ジャーナルは7月30日付の社説でこう指摘しました。「ホワイトハウスが混乱する原因はプリーバス氏ではなく大統領自身にあることを認識しない限り、いくらスタッフを刷新しても問題解決にはならない」 ("WSJ says 'Trump is the problem, not Priebus, " Brian Freeman, www.newsmax.com.,7/30/2017)

ケリー新首席補佐官は軍隊式秩序を持ち込めるか

プリ―バス首席補佐官を追い出したのは、「ホワイトハウスのラスプーチン」とも呼ばれているバノン首席戦略官と言われていますが……

高濱:そう言われています。トランプ大統領はバノン氏を怒鳴りつけたり、批判したりしているのですが、同氏は同大統領の「アルターエゴ」(alter ego=分身)的存在です。トランプ大統領の思考を理路整然と整理する知的同志なのですね。

 それにロシアゲート疑惑の追及はひたひたとウエストウィングに押し寄せています。トランプ大統領の最側近であるクシュナー氏は疑惑を晴らそうと議会証言に臨みました。当面はなんとか切り抜けたものの、疑惑から完全に抜け出せたとはいえない状態です。

 バノン氏は側近グループでは唯一、ロシアゲート疑惑と無関係とされています。そのためウエストウィングで最近特に影響力を強めています。

プリーバス氏に代わって急きょ、首席補佐官に起用されたのは軍人出身のジョン・ケリー国土安全保障長官ですね。

高濱:中南米を担当する南方軍司令官でした。トランプ大統領はケリー氏に、情報管理を含め軍隊式の規律と秩序をホワイトハウスにもたらして欲しいようです。

 ジェームズ・マティス国防長官(元中央軍司令官)、H.R.マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当、元陸軍中将)に続き、首席補佐官までが軍人出身者になったわけです。

退役将軍が政権の中枢に座を占めてもあまり批判が出ないのはなぜでしょう。

高濱:米国ではシビリアン・コントロールがそれだけ定着しているからかもしれません。それにこの3人の将軍は、輝かしい軍歴もさることながら、ワシントン政界や言論界でも人品骨柄申し分ないと太鼓判を押されている人たちですから。むしろトランプ政権を立て直すのはこのマティス長官、マクマスター補佐官、それにケリー補佐官の3人と言われているくらいです。
("100 days, Trump's Generals seen as a moderating force," Tom Bowman, NPR, 4.28.2017 )

「ノーナンセンス・アプローチ」だが、安定化には火種残る

これで“ハリケーン一過”、トランプ政権は仕切り直しで順風満帆となりますか。

高濱:それが、そうもいかないようです。暗雲は依然として立ち込めています。

 タイム誌でホワイトハウスを担当しているゼーキ・J・ミラー記者はこう指摘しています。「ケリー氏を首席補佐官に起用したことを評価する声が大方だ。だがノー・ナンセンス・アプローチ(現実的でしっかりしたアプローチ)ではあるものの、混乱しているホワイトハウスを安定させることができるかどうかはまだ分からない」

 「ホワイトハウス高官の一人は、『トランプ大統領はケリー首席補佐官に強力なリーダーシップを期待している』と言っている。だが、トランプ大統領自身が唯我独尊、勝手な言動と決定を続けている。大統領がそれをやめない限り、ケリー補佐官が本当にリーダーシップを発揮できるかどうか。不安定要素は残ったままだ」
("What the White House Staffing Changes Mean." Zeke J. Miller, Time.7/31/2017)

アフガニスタン派兵規模をめぐって対立

バノン氏とマクマスター補佐官が対立していると言われます。直近の案件はなんですか。

高濱:アフガニスタン情勢をめぐっての案件です。具体的には、トランプ政権としてどのようなアフガニスタン戦略を策定するか。「オバマ政権のアフガニスタン戦略は間違っていた」(トランプ大統領)のであれば、それに代わる新しい戦略を打ち出さなければなりません。ところが政権発足から6カ月たってもはっきりした戦略を出せずにいるのです。

 アフガニスタンには依然として8400人の米軍兵士が駐屯しています。治安状況は厳しいまま。主要な反政府武力勢力であるタリバンのほか、「ISILホラサーン州」を称する勢力などが各地でアフガニスタン政府軍への攻撃を繰り返しています。テロなどによる民間人の死者は17年上半期だけで1662人と、前年同期比で2%も増加しているのです。8月3日にはカンダハル州でタリバンが自爆テロを起こし、米軍兵士2人が死亡しています。
("Iran Gains Ground in Afghanistan as U.S. Presence Wane," Carlotta Gall, New York Times, 8/5/2017)

 トランプ大統領の考えは「米兵はアフガニスタンから1日も早く引き揚げるべきだ」と単純明快です。しかし、情勢が悪化する中で直ちに撤退はできません。好転させるには増派せざるを得ない。マティス国防長官は少なくとも3000人の増派が必要だと見ています。

 全権移譲されていたマティス長官が増派を決めれば実地に移されるはずだったのですが、最近になってトランプ大統領がその全権を取り上げてしまいました。最終決定は国家安全保障会議(NSC)の判断にゆだねることになりました。

 マクマスター補佐官は、マティス長官の意見に賛同しています。しかし、バノン氏がこれに横やりを入れている。バノン氏は「われわれは勝っている。だから引き揚げろ」という考えです。トランプ大統領はバノン氏の考えに賛同しているふしがあります。

バノン氏が大統領の耳元でなにやら囁いているのが目に浮かぶようですね。ケリー首席補佐官としては、バノン対マクマスターの確執を和らげ、ウエストウィングに秩序を取り戻すことが最初の腕の見せ所ですね。

高濱:悪いことに、バノン氏の主張を超保守系メディアがリングの外で支援しています。バノン氏の古巣であるブライトバード・ニュースはじめ、FOXニュースでホストを務めるショーン・ハニティ氏たちです。同氏はトランプ支持のハードコアです。

 こうしたメディアは8月に入って「マクマスターはオバマ政権からの生き残りに追従している」「マクマスターは本当にトランプ支持者なのか」などと批判し始めています。集中砲火を浴びせているのです。
(”The War Against H. R. McMaster," Rosie Gray, The Atlantic, 8/4/2017)

https://www.theatlantic.com/politics/archive/2017/08/the-war-against-hr-mcmaster/536046/?utm_source=yahoo&yptr=yahoo

大統領がほのめかす「マクマスター・アフガン駐留米軍司令官」説

トランプ大統領はどちらの肩を持っているのですか。

高濱:心情的にはむろん、バノン氏を信頼しています。ただマイケル・フリン氏が大統領補佐官(国家安全保障担当)を辞任したあと、マクマスター将軍を三顧の礼で迎え入れたのですから、そう簡単に更迭するわけにはいきません。それにマクマスター氏は軍事問題の権威、文武両道兼ね備えた学者将軍です。

 トランプ大統領は最近になって、「アフガニスタンの戦局が好転しないのは、ジョン・ニコルソン司令官の責任だ。奴を更迭して別の将軍を送れ」といい出しました。これもバノン氏の入れ知恵でしょうね。

 直接の上司であるマティス長官や国防総省(ペンタゴン)の制服組最高幹部はニコルソン司令官の続投を主張して反発しています。

 こうした状況の中でトランプ大統領は、ニコルソン司令官を更迭し、その後釜になんとマクマスター補佐官を送ることを考え始めたといわれています。

となると、マクマスター氏の後任は誰になるのですか。

高濱:マクマスター補佐官の後任には、マイク・ポンペオ米中央情報局(CIA)長官(*3)を横滑りさせるというのです。米メディアは「ホワイトハウスのドミノ現象」と呼んでいます。
*3:ポンペオ氏は下院議員。米陸軍士官学校卒の退役陸軍大尉、ハーバード大法科大学院卒の弁護士。マクマスター氏の後任になれば、引き続き軍人出身者が大統領補佐官(国家安全保障担当)になる。

マクマスター補佐官の反応はどうですか。

高濱:マクマスター補佐官は、NSCの人事刷新を終えたばかりです。ロシアゲート疑惑で事実上解任されたフリン前補佐官が引き連れてきた人材を一掃しました。

 7月末までに、上級部長のエズラ・コーエン・ワトニック氏、情報担当首席補佐官のテラ・ダール氏、中東政策補佐官のデレク・ハービィ氏、戦略担当部長のリッチ・ヒギンズ氏を更迭しました。
("White House purging Michael Flynn Allies From National Security Council," Glenn Thrush and Peter Baker, New York Times, 8/2/2017)

 マクマスター補佐官としては、自前のスタッフを集めて、さて仕事を始めようとしていた矢先に、“戦場送り”になる可能性が浮上したわけです。相当、頭にきているのではないでしょうか。戦場送りにされるようなら辞表を叩きつけるかもしれません。

なるほど、ホワイトハウスが混乱している最大の要因が大統領自身であることが手に取るようにわかります(笑)。それでこれからどうなるのですか。

高濱:「神のみぞ知る」ですね。

 しかし、トランプ大統領にとっては、お膝元の内紛どころじゃない状況が続いているのです。内政・外交もさることながらロシアゲート疑惑に対する捜査が新たな段階に入りました。

 ホワイトハウスの「ドミノ現象」が続く中で、ロバート・モラー特別検察官がロシアゲート疑惑をめぐって大陪審を招集したことが3日に明らかになっています。捜査は当面、トランプ大統領の長男ドナルド・トランプ・ジュニア氏とロシア人弁護士の面会(16年6月9日)などロシア側との接触が焦点になっているようです。

 トランプ大統領はモラー特別検察官を捜査から外す可能性を否定していません。同特別検察官を解任するのではないのかといった憶測も消えていません。

 内憂外患、17日間もゴルフなぞしている余裕はないはずです……。打つ手なしだからゴルフ三昧しかない、のかもしれませんが。注目はこれからの17日間、トランプ大統領がツイッターで何を発信するかですね。


このコラムについて

アメリカ現代政治研究所
米国の力が相対的に低下している。
オバマ大統領に代わって政治経験ゼロの不動産王ドナルド・トランプ氏が大統領の座に就いた。
大統領選中に掲げた「米国第一主義」と「偉大な米国」を錦の御旗に、内政外交の舵を大きく切った。
東アジアでは、北朝鮮の挑発行為に対抗して軍事力を誇示。緊張を高める政策を取る。一方、欧州では、防衛費の分担をめぐって、北大西洋条約機構(NATO)加盟国との関係をギクシャクさせている。政権発足早々に中東諸国を歴訪したが、イスラム教過激派組織によるテロの撲滅につながる糸口をまったく掴めていない。
転換期を迎えた米国が今後どう出るかは、日本にも重要な影響を及ぼす。日本にとって米国の後ろ盾は欠かせない。これまでにも増して米国政治の動向を注視する必要がある。
米国に拠点を置いて25年のベテラン・ジャーナリスト、高濱賛氏が米国政治の最新の動きを追う。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/261004/080800052

 


 

2017年8月10日 加藤 出 :東短リサーチ代表取締役社長
米国で財政規律をめぐるバトル「政府債務上限問題」が再燃中


9月29日までに米国の政府債務上限を議会が引き上げないと、政府の支払いが遅延する恐れがあると訴えているスティーブン・ムニューチン米財務長官?Photo:AP/アフロ
 米国の政府債務上限問題が金融市場の懸念事項になってきた。スティーブン・ムニューチン米財務長官は、9月29日までに議会が上限を引き上げないと、政府の支払いが遅延する恐れがあると訴えている。

 米財務省が工面しても、10月上旬には国庫の資金は底を突きそうだ。2011年7月と13年10月に同じ問題で混乱が生じた時は、米国債のデフォルト(債務不履行)が心配され、利回りが上昇した。国債の元利金支払いを他の米政府の支払いよりも優先させるべきだ、という議論もあるが、今のところムニューチン氏は政府の支払いに優先順位をつけることに慎重だ。

 米議会は夏に休会となるため、9月29日までの議会の稼働日数はわずか12日しかない。しかし、ドナルド・トランプ米政権の議会に対するコントロール力は弱く、状況は混沌としている。米連邦準備制度理事会(FRB)は、9月19〜20日の米連邦公開市場委員会(FOMC)でバランスシートの縮小開始を決定したがっているが、もしこの問題で市場が不安定になれば、延期の可能性も出てくる。

 世界の金融市場関係者にとって、米国でたびたび生じるこの問題は大きな迷惑だ。国債発行計画を含めた今年度の政府予算が議会で承認されているのに、債務上限の制約で予算執行が滞るというのは、制度の構造としても不合理である。ただ、米議会には国の借金を安易に膨らませてはいけないと信じる勢力がいて、米国債市場を“人質”に取って、財政規律をめぐるせめぎ合いを何度も演じている。

 国際通貨基金(IMF)の推計では、米政府における17年のグロス(総額)債務の国内総生産(GDP)比は108%、基礎的収支の赤字のGDP比は1.9%である。一方、日本のそれらはいずれも倍以上の239%と3.9%だ。しかも、日本の今後の財政収支は高齢化と人口減少によって、より厳しくなっていく。それなのに、財政規律をめぐる米国のようなバトルは日本では見られない。

 19年度に消費税率を引き上げなければならない、という緊張感も今はあまり見られない。危機意識が高まらない理由の一つは、日本銀行の超金融緩和策によって多くの国債の発行金利がゼロ%前後、またはマイナス金利に押し下げられていることにある。

 1990年代には、スウェーデンやオーストラリア、ニュージーランドで財政改革が進められたが、国債の利払い費が膨張して、予算がそれに深刻に圧迫されていたことが背景にあった。将来世代へ借金をつけ回すことへの罪の意識が世界で最も弱い国民は、もしかするとわれわれかもしれない。

 状況を少しでも改善するための手として、せめて独立財政機関の設立が必要と思われる。米国では議会予算局がそれに当たり、政府が経済政策などを発表すると、長期的に財政に与える影響をすぐに試算して公表する。彼らは政治から完全に独立した存在で、トランプ政権が妙に楽観的な見通しを示しても彼らに否定されてしまう。

 経済協力開発機構(OECD)によると、20カ国以上が独立財政機関を設置し、30〜50年といった超長期の財政収支の推計を公表している。一方、日本政府はたった8年先しか示していない(加藤創太・小林慶一郎編著『財政と民主主義』第2、4章に詳しい)。

 中立的な組織をつくる難しさはあるが、信頼に足る議論のたたき台があれば、長期的な財政収支に対する国民の関心は今よりも高まってくるのではないか。

(東短リサーチ代表取締役社長 加藤 出)
http://diamond.jp/articles/-/138086

http://www.asyura2.com/17/kokusai20/msg/270.html

[政治・選挙・NHK230] 安部改造内閣が問われる「20兆円財政出動」で物価目標2%達成 安倍下ろし歪曲報道パニック 競争ないから日本の航空運賃高い

2017年8月10日 高橋洋一 :嘉悦大学教授

安部改造内閣が問われる「20兆円財政出動」で物価目標2%達成


Photo:首相官邸HPより

 秋の臨時国会では補正予算が提出される。政府が掲げる「2%物価目標」を実現するには、その規模はどの程度が適切なのだろうか。
 そのカギを握るのが、「GDPギャップ」である。それを埋めるには25兆円程度の有効需要を上乗せすればよく、いまの国債市場の玉不足を考えれば、国債増発による財政出動は正当化される。

インフレ目標の達成に
経済政策の余地はある

「GDPギャップ」は、実際のGDP(国民総生産)と潜在GDPの差の、潜在GDPに対する比率と定義されている。
 問題なのは、潜在GDPである。一般的には、経済の過去のトレンドから見て平均的な水準で、資本や労働力などの生産要素を投入した時に実現可能なGDPとされているが、GDPギャップの大きさについては、前提となるデータや推計方法によって結果が大きく異なるため、相当の幅をもって見る必要がある。

 このことはGDPを推計している内閣府や日銀でも注意事項として認識はされている。
 内閣府は最近、GDPギャップの推計方法を若干、改訂した。その値は2017年1−3月期では+0.1%としている。もっとも、この結果をもって、GDPギャップがないから既に完全雇用だ、経済対策は必要ないと早合点はできない。内閣府の潜在GDPは必ずしも完全雇用を意味していないのだ。

 その理由を簡単に言えば、まだインフレ率は上がっていない以上、まだ失業率は下がる余地があり、インフレ目標達成とさらなる失業率の低下のために、経済対策の余地はあるということだ。
 日銀の算出しているGDPギャップについても、内閣府と似た傾向になっており、注意が必要だ。いずれにしても、内閣府と日銀によるGDPギャップの絶対的な水準をそのまま鵜呑みにしないほうがいい。
 ただしGDPギャップについては、その絶対的な水準ではなく、その変化はおおいに参考になる。内閣府のデータは公表されているので、それを活用してみよう。

2%の物価上昇には
25兆円の有効需要が必要

 まず、失業率とインフレ率の関係(フィリップス曲線)を整理しておこう。
 それを子細に見ていくと、ちょっと違った姿が見える。
 失業率とインフレ率は、逆相関になっているが、実は、両者の間を、GDPギャップが介在している。
 例えば、GDPギャップがマイナスで大きいと物価が下がり、失業率が大きくなる。逆にGDPギャップがプラスで大きいと物価が上がり、失業率が小さくなる。
 下の図1は、2000年以降四半期ベースで見たGDPギャップとインフレ率の関係である。左軸にGDPギャップ率、右軸にインフレ率(消費者物価総合対前年比)をとっている。GDPギャップは半年後(2四半期後)のインフレ率とかなりの相関関係がある。

http://dol.ismcdn.jp/mwimgs/6/b/670m/img_6b41951ad029c7b21f0bb7aba8e9301f98795.jpg
◆図表1:GDPギャップ率とインフレ率(半年後)

 ここで、GDPギャップとインフレ率の関係から、「2%インフレ」にするために必要なGDPギャップ水準を算出してみると、+4.5%程度である。
 それを埋め合わせるためには、有効需要25兆円程度が必要になる。1単位の財政出動による需要創出効果を示す財政乗数が、内閣府のいう1.2程度としても、この有効需要を作るための財政出動は20兆円程度である。

財政出動で構造失業率
2%程度まで下げられる

 また、この財政出動はGDPギャップを縮小させるので、インフレ率の上昇とともに、これ以上、下げられない「構造失業率」までは失業率の低下をもたらすはずだ、
 下の図2は、2000年以降の、四半期ベースで見たGDPギャップと失業率の関係である。左軸にGDPギャップ率、右軸に失業率をとっている。図をわかりやすくするために、左軸は反転させて表示しているが、GDPギャップはやはり半年後(2四半期後)の失業率とも、かなりの逆相関関係がある。

http://dol.ismcdn.jp/mwimgs/c/2/670m/img_c25010bb90e60048ceedcfa2303baaba95920.jpg
◆図表2:GDPギャップ率と失業率(半年後)

 GDPギャップと失業率の関係式から見た、GDPギャップ+4.5%程度に対応する失業率は2.7%程度である。
 ここで、筆者が、2016年5月19日付けの本コラム(「日銀の「失業率の下限」に対する見方は正しいか」)で書いたことを参照してもらいたい。
 その構造失業率の推計値は、同じく2.7%である。もちろん、経済学は精密科学ではないので、2.7%ピッタリということではなく、2%半ばという程度である。

 ただし、2016年5月の本コラムでは、UV分析を用いている。、構造失業率の推計方法には、UV分析とフィリップス曲線による分析(特にNAIRU[インフレを加速させない失業率]の推計)がある。
 今回のコラムは、フィリップス曲線による分析と本質的に同じだが、いずれにしても、二つの異なる分析によっても、日本の構造失業率が2%半ばと同じになっているのは興味深いことだ。
 数学の証明問題では、二つ以上の方法により証明すると、その命題はより正しいとされるが、経済学でも別の二つの方法で同じ結果であれば、よりもっともらしいといえるだろう。
 以上の分析を総合すると、構造失業率は2%半ば程度であろうとともに、それに対応するインフレ率はインフレ目標の2%である。

 であれば、有効需要25兆円、財政出動に換算して20兆円規模を求めることは、インフレ目標2%を達成し、同時にこれ以上下げられない構造失業率2%半ばを達成することになる。つまり適度なインフレの下で、回避できない失業を除いて人々に完全雇用を実現する合理的な政策である。

国債は玉不足
増発も正当化される

 ただし、財政出動しても、その効果がただちに発揮されずに、実体経済への影響が出た後、インフレ率と失業率に波及するには時間差がある。
 もっとも、インフレ率も失業率もともに、GDPギャップから半年程度のラグなので、インフレ率がまだ2%に達しないようであれば、金融緩和しても実害はあまりない。
 急激にインフレ率が高くなることを心配する向きもあるが、物価が上がるとしても1年以内にインフレ率5%ということはほとんど考えられない。5%のみならず、一桁インフレであっても、その社会的コストは大きいとはいえないので、今のような状況ではインフレを過度におそれる心配はないだろう。
 いずれにしても、内閣府や日銀が示しているGDPギャップは、完全雇用とインフレ目標達成の観点から見ると、“過大評価”の数字である。筆者の分析では、たとえGDPギャップがプラスになっても、そう簡単にはインフレ率は上昇しないし、インフレを過度に心配すべきでないことをデータが示している。
 これに対して、そうした過大な財政出動は財源の裏付けが必要であり、国債発行では財政再建に反するという、いつもの財務省の声が聞こえて来そうだ。

 だが、その心配が無用であることは、2月23日付け本コラム(「日本の財政再建は「統合政府」で見ればもう達成されている」)などで何度も繰り返して述べている。
 むしろ問題は、現在の国債市場において、国債の玉不足になっており、日本銀行の「異次元緩和」にも支障が生じている事態であることも付け加えておこう。そうした観点から、国債発行による財政出動も正当化できる。
 こうしたまともな政策を安倍政権が実施できるかどうか、内閣改造の真価が問われている。
(嘉悦大学教授 高橋洋一)
http://diamond.jp/articles/-/138218

 


【第1回】 2017年8月10日 櫻井よしこ :ジャーナリスト
「安倍下ろし」歪曲報道パニックにみる10年前と酷似したメディアの構図

安倍改造内閣の発足にもかかわらず、かつて60%を超えていた支持率は、いまだ40%を切っているとの世論調査もある。今回の一連の流れで大きな影響力を見せたのが、加計学園問題などをひたすら報じ続けた新聞・テレビなどのマスメディアだ。櫻井よしこ氏によれば、ここには第一次安倍政権のときと「まったく同じ構図」が見て取れるという。いったい何が「引き金」になったのか? 最新刊『頼るな、備えよ――論戦2017』が発売された櫻井よしこ氏が語った。

前知事の証言を“無視”した
「朝日」と「毎日」


櫻井 よしこ
ベトナム生まれ。ハワイ州立大学歴史学部卒業。「クリスチャン・サイエンス・モニター」紙東京支局員、アジア新聞財団「DEPTH NEWS」記者、同東京支局長、日本テレビ・ニュースキャスターを経て、現在はフリー・ジャーナリスト。1995年、『エイズ犯罪 血友病患者の悲劇』(中公文庫)で第26回大宅壮一ノンフィクション賞。1998年、『日本の危機』(新潮文庫)などで第46回菊池寛賞を受賞。2007年、「国家基本問題研究所」を設立し理事長に就任。2011年、日本再生へ向けた精力的な言論活動が高く評価され、第26回正論大賞受賞。2011年、民間憲法臨調代表に就任。著書に『頼るな、備えよ―論戦2017』(ダイヤモンド社)など多数。

日本の国内政治は、危機に直面している。日本の政治家のなかで、世界の現状と戦略を最も鋭く把握しているのが安倍晋三首相であろう。国際社会の劇的変化のなかで、安倍首相に取って代わって日本の国益を守り得る政治家はいないのではないか。しかしその首相と自民党への逆風が吹き荒れ、支持率が急落した。

さまざまな要因はあるが、大きな原因となった加計学園問題を見てみよう。

愛媛県今治市に加計学園の獣医学部を新設する問題で、官邸の圧力で行政が歪められたと主張する前川喜平前文部科学事務次官の証言をきっかけに、反安倍勢力による倒閣運動と言える動きが生まれた。
7月10日に国会閉会中審査が行われ、獣医学部新設は愛媛県のみならず四国4県の願いだった、安倍首相主導の国家戦略特区こそ、歪められていた行政を正したのだと加戸守行前愛媛県知事は証言したが、「朝日新聞」も「毎日新聞」も加戸証言を無視した。

大半のテレビ局の報道も同様で、いまや安倍首相は一方的に悪者に仕立て上げられている。内閣府・国家戦略特区ワーキンググループ委員の原英史氏は、獣医学部新設問題を審議した一人である。氏が語った。

「加計学園についての真の問題は、獣医学部新設禁止の“異様さ”です。数多ある岩盤規制のなかでも、獣医学部新設の規制はとりわけ異様です。文部科学省は獣医学部新設を過去52年間禁止してきました。通常の学部の場合、新設計画の認可申請を受けて文科省が審査しますが、獣医学部に関しては新規参入計画は最初から審査に入らない。どれだけすばらしい提案でも、新規参入はすべて排除する。こんな規制、ほかにありません」

原氏は、「異様」の意味はもう一つ、この岩盤規制が法律ではなく文科省の「告示」で決められていることだと強調した。国会での審議も閣議決定もなしに、文科省が勝手に決めた告示によって、52年間も獣医学部は新設されていないというのだ。文科省の独断の表向きの理由は、獣医の需給調整、すなわち獣医が増えすぎるのを防ぐためと説明されている。

加計問題はまったく別の角度
からの究明・報道が必要

だが、愛媛県の畜産農家の実情を見つめてきた加戸氏は、知事時代に鳥インフルエンザも経験し、獣医師は絶対的に不足していると強調する。少ない人数の獣医師が皆、倒れそうになるまで働いているのを見ながら、加戸氏は獣医学部新設を許さない鉄の規制、獣医師会と文科省をどれだけ恨めしく思ったかしれないと、語る。いちばん強く反対したのが日本獣医師会だと、加戸氏は本当に口惜しそうに語った。

2年前の2015年9月9日、地方創生担当大臣だった石破茂氏を、「日本獣医師政治連盟」委員長の北村直人氏らが訪ねたときの様子が、日本獣医師会のホームページに掲載されている。石破氏の言葉としてこう記されている。

「今回の成長戦略における大学学部の新設の条件については、大変苦慮したが、練りに練って誰がどのような形でも現実的に参入は困難という文言にした」

獣医学部新設を絶対に阻むべく、規制を強めたと言っていることが窺える。具体的にはそれは獣医学部新設のハードルを上げてきわめて困難にした「石破4条件」を指すとされている。

石破氏はそのような発言はしていないと、全面的に否定するが、上の引用は日本獣医師会のホームページに石破氏の発言内容として公開されているものだ。真の悪者は獣医師会であり、その獣医師会に石破氏が協力したということを示す資料ではないか。これが事実なら、加計学園問題はまったく別の角度から報道しなければならない。

こうした背景のなかで、加計学園がようやく新設を許可されることになった。それが安倍首相の圧力の結果だと、「朝日新聞」はじめ大半のメディアは安倍批判を強める。果たして安倍首相は不当な圧力を加えたのか。

実際にこの問題を取り扱ったワーキンググループの一員、原氏が説明した。

「絶対にそんなことはありません。獣医学部新設の提案は、新潟市、今治市と京都の綾部市からありました。綾部市は京都産業大学を念頭にしていたのですが、7月14日に正式に提案を撤回しました。新潟は申請自体が具体化していません。結局、充実した案を示したのが今治市と加計学園のチームでした。今治市はもう10年以上も申請を続け、それだけに学部の内容も練り上げていました。ほかの申請者とは熟度がまったく違いますから、彼らが選ばれるのは当然です。安倍首相の個人的思いや友人関係など、個人的条件が入り込む余地などまったくありません」

加戸氏も、国家戦略特区で今治市と加計学園による獣医学部新設が認められたことで「歪んでいた行政が正された」と語り、官邸が圧力で行政を歪めたという前川氏発言を真正面から否定した。加戸氏の指摘からも、行政を歪めた張本人は獣医師会であり、さらに文科省であることが窺える。

10年前の安倍政権のときと
「メディアの構図」が酷似…

にもかかわらず、「朝日新聞」をはじめとするリベラル系メディアは、安倍首相を非難する。実に不当な非難である。この理不尽な非難大合唱のなかで、7月2日に行われた東京都議会議員選挙で安倍自民党は大敗した。

10年前の第一次安倍政権の末期の状況と現在のそれは酷似している。10年前、安倍首相は1年間しかもたなかった。その間に防衛庁を「省」に格上げし、教育基本法を改正し、憲法改正に必要な国民投票法を成立させた。これで法制上、ようやく憲法改正ができるようになった。

「朝日新聞」をはじめとする憲法改正に否定的なメディアと野党は大いに反発し、警戒を強め、安倍首相への轟轟たる非難の合唱を巻き起こした。

無論、当時の自民党の側にも問題はあった。松岡利勝農林水産大臣の自殺があり、後任の赤城徳彦大臣は異様な「絆創膏姿」でマスコミに批判された。

メディアは連日書き立て、ワイドショーでは多くのタレントや有名人が同調して、世間は自民党批判、安倍批判一色となった。その結果、安倍自民党は参議院議員選挙に大敗し、首相の辞任につながった。
今回も、安倍首相は選挙前に憲法改正につながる重要な動きを見せた。5月3日に「読売新聞」での単独インタビューで憲法改正に具体的に踏み込み、核心の九条に触れた。

自民党総裁としての首相の提案は、9条1項と2項を残し、自衛隊の存在を憲法に書き込むという絶妙な曲球だった。絶対平和主義の2項を残すという首相提案に公明党は反対できない。日本維新の会も、教育の無償化を掲げる首相の改憲案に反対する理由はない。

よく考え抜かれた戦略的9条改正の提案によって、にわかに改正論議は活発化した。「朝日新聞」らはどれほど驚き、恐れたことか。憲法改正を目指し、そこに近づきつつある安倍首相を許さないというリベラル勢力の怒りと恐れが、洪水のような安倍批判となった。加計問題が材料に使われた。というより、真実を知れば加計問題は安倍批判の材料たり得ない。にもかかわらず、「朝日新聞」もテレビ局の報道番組の多くも、報道を偏向させて、加計問題で安倍政権を非難した。

10年前と今年、同じ歪曲報道が、憲法改正に向けた安倍首相の動きを打ち砕くために行われている。共通項は「憲法改正」なのである。

「不公正な情報操作」に
踊らされていていいのか!

いま、日本が自立することが、日本国民と日本にとってどれだけ重要か。自立のための憲法改正がどれほど、死活的に求められているか。いくら強調しても、し足りない。

だが、そのような改革と憲法改正の動きを、憲法9条を守り抜きたいリベラルメディアが、年来の岩盤規制の甘い蜜の味に浸る既得権益層の人々と組んで、必死に止めようとしている。テレビ局の報道番組もまた、公正を期すべしという放送法に違反して一方的かつ無責任な報道を繰り広げる。

不公正な情報操作に影響された結果、世論は安倍政権に距離を置きつつあり、支持率が急落したことはすでに指摘した。すると、低下した支持率ゆえに憲法改正は難しくなったと、他人事のような論評がなされる。こんなことで果たして日本国を守り通すことができるのか。心ある国民は声を上げるべきだ。問うべきだ。

日本を自立した国にするための憲法改正は、誰のためか。私たち国民のためだ。国民一人ひとりの子どもや孫たちのためだ。日本国民と日本国のためだ。安倍政権の支持率低下を超えて、いま、日本が自立し、危機に備えなければならない。憲法改正を目指す政治的基盤を、むしろ国民の私たちが盛り上げる時だ。

憲法改正、これを日本国民の私たちがやらずして、一体、ほかの誰がやるのか。私たちの運命は私たちが切り拓く。将来に自力で備える。それしか道はないのである。
http://diamond.jp/articles/-/137989


 

 

 

日本の航空運賃が高いのは適正な競争がないから


JALとANAの決算を分析する

小宮一慶が読み解く経済の数字・企業の数字


2017年8月10日(木)
小宮 一慶
 私は、国内線・国際線を合わせて年間70回程度、飛行機を利用していますが、常々「日本の航空会社の運賃は高い」と感じています。2大航空会社である日本航空(JAL)と全日本空輸(ANA)の運賃は、高額だと感じます。後に詳しく説明しますが、「高収益」なのもそのためだと分析しています。

 なぜ、こんな状況になっているのか。それはひとえに、「適正な競争」が起こっていないからでしょう。格安航空会社(LCC)が参入してきたとはいえ、国内の航空業界は、LCCも2社の傘下にある状況で、ほとんど寡占状態です。競合相手が限られる中では、健全な自由競争は期待できません。

 今回は、JALとANAの決算内容を分析しながら、この問題の本質に迫ります。

(写真:ロイター/アフロ)
経営破綻によって「身軽」になり、収益力を上げたJAL

 はじめに、JALの2017年3月期決算から見ていきましょう。売上高は、前の期より3.6%減の1兆2889億円。営業利益は18.6%減の1703億円。最終損益は、5.9%減の1641億円となっています。

 減収減益ではありますが、自己資本当期純利益率(ROE)は18.1%という驚異的な数字となっています。ROEとは、「株主が会社に預けているお金を使って、どれだけリターン(利益)を稼いでいるか」を示す指標。経済産業省主導で作成された、いわゆる「伊藤リポート」が示す「ROEの目標は8%」という数字から考えても、同社はかなり高い水準と言えます。さらには、会社の中長期的な安全性を示す自己資本比率も、56.2%と非常に高い数値です。

 ちなみに、7月31日発表の2017年4-6月期決算は、売上高は前年同期より5.9%増の3148億円。営業利益は12.0%増の247億円。最終利益は32.9%増の195億円。国際線のビジネス利用が伸びたこと、国内線も機内インターネット接続無料化などによって旅客数が増えたことで、好調な結果となりました。

 JALの業績を見る上で注意しなければならないのは、2010年1月に会社更生法の適用を申請し、破綻した時にとられた優遇措置の影響です。その直前に発表された、2009年4-9月期の決算内容を振り返ってみましょう。

 売上高は前の期より28.8%減の7639億円。営業損益は、前の期の302億円の黒字から、この半期は957億円の赤字に転落。最終損益は、366億円の黒字から1312億円の赤字になりました。自己資本比率も8.2%まで悪化しました。いうまでもなく「危険水域」です。

●株式会社日本航空 2009年4-9月期決算 貸借対照表(抜粋)
2009年3月末 2009年9月末
資産の部
現金及び預金 163,696 97,588
資産合計 1,750,679 1,682,719
負債の部
短期借入金 2,911 21,785
1年内償還予定の社債 52,000 17,000
1年内返済予定の長期借入金 128,426 181,410
社債 50,229 50,229
長期借入金 567,963 572,434
負債合計 1,553,907 1,523,450
純資産の部
利益剰余金 △ 21,874 △ 159,397
純資産合計 196,771 159,268
負債純資産合計 1,750,679 1,682,719
(単位:百万円)
 注意すべきは、当時の「有利子負債」です。貸借対照表の負債の部を見てください。短期借入金や長期借入金、社債などを合計すると、約8428億円になります。

 一方、手持ちの「現金及び預金」は、975億円。2009年3月期末より半年で661億円減少しています。さらには、純資産の部にある利益剰余金、これは利益の蓄積を示すものですが、マイナス1593億円となっています。当時の財務内容は、いわば惨憺たるものだったのです。

 その翌年、ついに経営破綻に追い込まれたJALですが、見事にV字回復を果たします。成功要因はいくつかあり、一つは、再建を託され会長に就任した京セラ創業者の稲盛和夫氏の改革が大きく貢献したことです。不採算路線を廃止してスリム化を図り、従業員の「行動改革」や「意識改革」を徹底したのです。

 もう一つは、破綻処理にともなう負担軽減措置です。借金の棒引きと公的資金の注入、さらには法人税も減免されました。

 先にも触れましたが、破綻前の有利子負債は8424億円。年間180億円程度の利息を支払っていました。その巨額の有利子負債は、破綻時に10分の1程度まで棒引きされ、支払利息の額も大幅に減少したのです。ちなみに、2017年3月期に計上されている有利子負債は、合計で1152億円。支払利息は、わずか8億円です。

 身軽になったJALは、財務上の自由度が高まったのを好機に、積極的に設備投資を行います。例えば、燃費効率の悪いジャンボジェットB747をやめて、新しい小型機や中型機を次々と導入しました。

 こうして事業構造をがらりと変えたことで収益率が向上し、ROEや自己資本比率もどんどん高まっていったのです。今後は、破たん後に得た「軽減措置」のために積極的な戦略がある程度規制されていた「足かせ」がなくなり、さらに積極的に事業を展開することが予想されます。

JALはANAよりもはるかに収益率が高い

 続いて、ANAの決算内容を見ていきましょう。2017年3月期は、売上高は前の期より1.4%減の1兆7652億円。営業利益は6.7%増の1455億円。最終利益は26.4%増の988億円。こちらも、かなり良い業績です。

 ROEは11.6%。JALほどではありませんが、高い水準です。自己資本比率も39.7%と安全性の高い数字になっていますね。

 8月2日に発表された2017年4-6月期決算では、売上高は前年同期に比べて11.7%増の4517億円。営業利益は80.0%増の254億円。最終利益は、668.4%増の510億円。業績が大幅に伸びた理由は、国際線の旅客や貨物が伸びたことに加え、格安航空会社ピーチ・アビエーションが連結子会社になったことが影響しています。

 ここで、JALとANAの収益率(※通期で見るため、2017年3月期の決算内容で計算)を比較してみましょう。

●航空2社の収益率の比較(2017年3月期)
JAL ANA
売上高営業利益率 13.2 8.2
売上原価率 71.9 75.1
販管費率 14.9 16.7
有利子負債 152,223 729,877
支払利息 843 9,804
(単位:百万円、%)
 売上高営業利益率(営業利益÷売上高)を計算しますと、JALは13.2%。ANAは8.2%。JALの方が効率よく稼いでいることが分かります。

 その前提となる売上原価率(売上原価÷売上高)は、JALは71.9%、ANAは75.1%。ANAの方が、費用がかかっているということです。また、販管費率(販管費÷売上高)は、JALは14.9%、ANAは16.7%となっており、こちらもANAの方が高くなっています。

 つまり、JALの方がANAよりも利益率が格段に高いと言えます。

 ANAの有利子負債を計算しますと、合計で7298億円。支払利息は98億円計上されています。一方、先に説明したようにJALは破綻によって借金を棒引きされたお陰で、支払利息を8億円程度まで抑えています。

 この点でも、JALの方が利益を上げやすい構造になっているのです。破綻したことで身軽になったことは、収益率の向上にも大きく貢献していると言えるでしょう。

 これは、海外の航空会社にも同じ事が言えます。2011年11月に米連邦破産法11条を申請したアメリカン航空、2005年9月に破綻したデルタ航空は、経営破綻を機に身軽になり、構造改革を進めたことで、収益率が大幅に改善されました。

日本の航空業界は、適正な競争が起こっていない

 JALとANAの業績を振り返ってきましたが、私は、ここで2社の企業努力を讃えたいわけではありません。冒頭でも触れましたように、日本の航空運賃が高すぎることにフォーカスしたいのです。

 先にも触れたように、JALとANA、特にJALのROEは驚異的な高さです。「資本や資産を効率的に使って利益を上げている」と言えば聞こえはいいのですが、経営破綻に伴う負担軽減措置という「追い風」も相まって、少々稼ぎすぎではないかとも感じます。しかし、その高収益の根本的原因は「寡占」ではないでしょうか。

 日本の航空会社がかなり高い利益を上げているのは、運賃が高いからでしょう。それは、国内の航空業界はJALとANAで寡占状態となっており、適正な競争が起こっていないからです。

 国内を運航している航空会社は、ほとんどがANAかJALの傘下になっています。特に、私が疑問に感じたのは、2015年1月にスカイマークが民事再生法の適用を申請し破綻し売却された際に、ANAが共同スポンサー企業になったことです。この時、エアアジアなどのLCCがスカイマークを買収していれば、国内の運賃体系も変わっていたのではないかと思います。

 日本の航空運賃が高いから、新幹線の料金も高い。JR東海も「超」がつくくらいの高収益企業です。交通は社会のインフラですから、その料金が高いということは、国民にとって大きな負担となります。

 「独占・寡占」は、国民経済にとってプラスになるからこそ許されるものです。規模のメリットによって、国民に安価にサービスを提供できるという前提があるからこそ、独占や寡占は許されているのです。

 それが単に企業、それも既得権益の利益になってしまうのであれば、問題は大きいでしょう。日本で飛行機を利用する場合、航空会社の選択肢は非常に限られています。その中で競争が起こらないことは、決して良いことではないのです。

 先にも少し触れたように、JALの経営は、2016年度末まで国交省の監視下にありました。それまでは、新たな投資や路線の開設が制限されていましたが、その期限を過ぎた今、自由な戦略をとることができます。

 ここで適正な競争が起こり、国民にとって非常に重要なインフラである航空便の運賃が下がり、さらには新幹線の運賃も安くなることを心より期待しています。


このコラムについて

小宮一慶が読み解く経済の数字・企業の数字
 2020年東京五輪に向けて日本経済は回復するのか? 日銀の金融緩和はなぜ効果を出せないのか? トランプ米大統領が就任した後、世界経済はどこに向かうのか? 英国の離脱は欧州経済は何をもたらすのか? 中国経済の減速が日本に与える影響は?
 不確定要素が多く先行きが読みにくい今、確かな手がかりとなるのは「数字」です。経済指標を継続的に見ると、日本・世界経済の動きをつかむヒントが得られる。
 企業の動きも同様。決算書の数字から、安全性、収益性、将来性を推し量ることができる。
本コラムでは、経営コンサルタントの小宮一慶氏が、「経済の数字」と「会社の数字」の読み解き方をやさしく解説する。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/011000037/080900018/


http://www.asyura2.com/17/senkyo230/msg/492.html

[経世済民123] 国の借金、6月末で1078兆円 過去最大更新 アパマンローン低水準、金融庁日銀警鐘 中銀惑わす幻影 ドル一段安108円も
国の借金、6月末で1078兆円 過去最大更新
財務省

[東京 10日 ロイター] - 財務省は10日、国債と借入金、政府短期証券の現在高が2017年6月末時点で1078兆9664億円だったと発表した。3月末からは7兆4070億円増加し、過去最大を更新した。

内訳は、内国債が945兆2315億円、借入金が53兆8160億円、政府短期証券が79兆9189億円。内国債のうち、普通国債は837兆2501億円だった。

(梅川崇)
http://jp.reuters.com/article/domestic-debt-idJPKBN1AQ0IQ


 

 

アパマンローン2年ぶり低水準、相続税対策一巡も−金融庁・日銀警鐘
桑子かつ代
2017年8月10日 12:01 JST
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日本銀行の異次元金融緩和を背景に伸びていたアパート・マンション向けローンが、今年に入り減少が続いている。金融庁・日銀はかねて、この分野の融資増加に警戒感を示していたのに加え、相続税対策としての貸家建設は一巡したとの見方が出ている。
  日銀が10日発表した貸出先別貸出金統計によると、4−6月期の国内銀行の「個人による貸家業」向け新規貸出額は前年同期比15%減の7171億円と2四半期連続でマイナスだった。前四半期(1−3月)比では33%減少し、四半期ベースとしては2015年4−6月以来の低水準。また国土交通省発表の6月の住宅着工統計で貸家は前年同月比2.6%減だった。

  個人によるアパート、マンション建設には相続税の節税効果があるのに加えて、金利低下も寄与して、アパマンローンは伸び続けていた。しかし、金融庁は昨年9月のリポートで、不動産向け貸し出しの拡大について「今後の動向は注視が必要」と指摘。建設ラッシュで空室率が上昇し、国民生活センターによると大家がローン返済に窮する事態も発生している。日銀は4月の金融システムリポートで貸し出しの「入り口審査や中間管理の綿密な実施が重要」と強調した。  
  クレディ・スイス証券の望月政広アナリストは、貸し家業向け融資減少の背景について「相続税対策としての賃貸住宅の建設需要が一巡した可能性がある」と指摘。今後の動向については「1年間はローン減少が続くだろう」との見方を示した。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-08-10/OUG18V6KLVRK01

 


 
コラム:中銀を惑わすフォワードルッキングの幻影

唐鎌大輔みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト
[東京 10日] - 前回のコラムでは、米連邦準備理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)など海外主要中銀の金融政策正常化ブームに疑義を呈した上で、「置いてけぼりの日銀」を根拠とする「ドル安・円安」併存論の危うさを指摘した。

確かに、ユーロ高・ドル安・円安を招いた6月末の「シントラ講演」(ドラギECB総裁がポルトガルのシントラで語った「デフレ圧力はリフレに変わった」などの発言)の威光はまだ完全に失せたわけではない。だが、ドル円は8月に入って断続的に110円を割り込むなど、「ドル安の受け皿としての円」という芽はまだ消えていないように見受けられる。

正常化ブームの火付け役となったECBはもとより、実際に利上げに邁進しているFRBですら目標とする物価上昇率が実現できていない状況であり、市場参加者からすれば安心して金融緩和の解除を見守ることができるような環境にはない。

それでも両中銀が正常化への関心を隠さないのは、結局のところ、「(物価は)そのうち上がってくるので今のうちにやっておく」という、いわゆる「フォワードルッキング(予防的)な政策対応」というロジックが幅を利かせているからである。

換言すれば、それは経済・金融情勢に対する自らの予測能力に関し、絶大な自信を前提とした上での運営とも言えるものだ。

<OECD景気先行指数は米英の失速リスク示唆>

しかし、先行きは本当に盤石なのか。例えば実体経済をフォワードルッキングに評価する尺度の王道として経済協力開発機構(OECD)景気先行指数を通じ現状を整理してみたい。

同指数は実体経済に対し約6カ月(正確には平均4―8カ月)の先行性を持つように設計されている。同指数の切れ味を過信するつもりはないが、複数国の景気動向を同一尺度でまとめて比較できる方法は貴重であり、今回はこれを用いて現状認識を試みる。

当然、フォワードルッキングな金融引き締めとの整合性を念頭に置けば、同指数には右肩上がりの動きを想定したいところだ。この点、中央銀行が引き締めを模索している米国、ユーロ圏、英国、カナダについて動きを見ると、ユーロ圏やカナダこそ節目となる100を超えて景気拡大が示唆されるものの、米国や英国は1―3月期をピークとして100を目前に反転下落しており、今後の失速が示唆されている。

もともと英国(イングランド銀行)は正常化グループの一員ではなく、利上げはスタグフレーション対応の側面が大きいため、景気先行指数の動きに意外感はない。問題は連続利上げとバランスシート縮小の同時進行を目論む米国(FRB)において、先行きの失速が示唆されていることだろう。

実際、春先以降の米経済指標を見れば、市場予想対比で実績が下振れることも珍しくなく、物価も目標とする2%から下方向に離れていく現状にある。もとより、米国に関しては景気の拡大局面が98カ月目と史上3番目の長期に差し掛かっており、景気の成熟化は当然予想し得る。かかる状況下、効果にラグのある金融引き締めを重ねて行うことには危うさを覚える。

ちなみに、緩和を続ける日本は100を超えて右肩上がりの状況にあるが、オーバーシュート型コミットメントという現行政策の意図に鑑みれば、これは自然な構図と言える。

<ユーロ圏内でも独仏とPIIGSの明暗くっきり>

ユーロ圏にも慎重な見方が必要だ。確かに、ユーロ圏全体で見た場合、同指数は100を超えて右肩上がりの状況を示すが、あくまで全体としての仕上がりであって、その内実はドイツやフランスの好調がそれ以外の加盟国の不調を糊塗(こと)している。

OECD景気先行指数に関し独仏とPIIGS5カ国(ポルトガル、イタリア、アイルランド、ギリシャ、スペイン)の推移を比較すると、独仏の好調が際立つ一方、PIIGSはさえないことが分かる。特にイタリアやスペインは100を割り込んで緩やかな右肩下がりの状況だ。

単一通貨であるユーロなかりせば、果たしてイタリア中銀やスペイン中銀が引き締めに意欲を見せただろうか。ECBとしては域内全体の計数を前提に政策運営せざるを得ないのは承知の上だが、正常化に着手する以前からこれほど金利や為替が引き締め方向に反応してしまった以上、市場の動きが各加盟国にもたらす引き締め的な影響も今後注視されてくるはずである。

なお、フランスに関しては同指数の安定もさることながら、政治的安定を称賛するムードが強い。しかし、過去を振り返ればユーロ上昇に真っ先に不満をもらしてきたのが同国だったことは思い返しても良いだろう。

フォワードルッキングな政策運営という名目の下、本来ならば政策運営の方向感を左右すべき物価が軽視される状況が続けば、いずれ金融政策による景気のオーバーキル(過剰な落ち込み)が現実のものとなるのではないか。今後の為替市場ではドル売りを基本線としてユーロ買いも1.20ドルをめどに頭打ち感が強くなる展開が予想される結果、円がドル売りの相手方として浮上してくる可能性は高いだろう。

<リーマン危機前の日銀が陥った「正常化の誘惑」>

この点、日銀が7月31日に公表した2007年1―6月分の金融政策決定会合議事録は、欧米中銀の現状に対して教訓を示しているようにも思える。当時の日銀は消費者物価指数の上昇率がほぼゼロ%だったにもかかわらず、正常化(量的緩和解除と利上げ)に着手した。実体経済の堅調さを理由に「いずれ物価は上がってくる」との想定に立ち、予防的な金融引き締めを図ったのであり、いわゆるフォワードルッキングな政策対応として注目された。

具体的には2006年3月に量的緩和を解除、2006年7月にゼロ金利を解除した後、2007年2月には追加利上げに踏み切った。しかし、最後の利上げの半年後にパリバ・ショックが発生し、その約1年後にリーマン・ショックを迎えることになった。

2007年春時点でサブプライム危機の兆候はあったが、眼前の実体経済の堅調さや物価上昇見通しに賭けて引き締めに踏み切った。政策運営のドライバーとして物価が定められていたにもかかわらず、「現実の物価」と「正常化の誘惑」を秤(はかり)に掛けて後者を取ったとも言える。そうした判断に対して厳しい見方があることは周知の通りである。

結局、フォワードルッキングな政策運営は中央銀行にとって、奇麗な「建前」となりがちであり、邪(よこしま)な「本音」を覆い隠す方便になりやすい。現在のFRBの判断も「(イエレン議長の任期中に)やれることはやっておきたい」という糊代(のりしろ)論だと頻繁に揶揄されているし、ECBも拡大資産購入プログラムの技術制約やドイツへの配慮など実体経済の地力とは何の関係もない要素がフォワードルッキングという「建前」の裏側に隠されていそうだ。

実際、「建前」が真実として機能するためには、中央銀行が精緻な予測能力を有していることが前提となるが、それがうまく機能しなかったからこそ、歴史上、中央銀行はバブルの崩壊と生成に苦しんできた。

例えば、FRBのスタッフ見通し1つ取ってみても、過去数年、常に物価に対しては楽観過ぎた。今回ばかりは違うと信じるに足る証拠はさほど多くないだろう。6月から強まってきた正常化熱はやはり一過性のブームで終わり、「日銀だけ置いてけぼり(ゆえに円安)」という相場ムードは、しばらく経てば雲散霧消すると筆者は考えている。

*唐鎌大輔氏は、みずほ銀行国際為替部のチーフマーケット・エコノミスト。日本貿易振興機構(ジェトロ)入構後、日本経済研究センター、ベルギーの欧州委員会経済金融総局への出向を経て、2008年10月より、みずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。欧州委員会出向時には、日本人唯一のエコノミストとしてEU経済見通しの作成などに携わった。2012年J-money第22回東京外国為替市場調査ファンダメンタルズ分析部門では1位、13年は2位。著書に「欧州リスク:日本化・円化・日銀化」(東洋経済新報社、2014年7月)

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

ドル110円割れ定着を阻む2つの防護壁=植野大作氏
2017年度がスタートしてから4カ月が経過。この間のドル円相場は110円を割ると下値が堅い一方、115円の手前では上値が重く、難解なレンジ取引となっている。 記事の全文

中銀を惑わすフォワードルッキングの幻影=唐鎌大輔氏
「ポスト安倍」時代の日銀金融政策=上野泰也氏
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来週のドルは一段安の可能性、米指標低調なら108円台も視野

[東京 10日 ロイター] - 来週の外為市場でドル/円は、一段安の可能性が指摘されている。米株式市場が堅調に推移すればサポート要因となりそうだが、北朝鮮情勢への懸念がぬぐえず、米経済指標が低調であれば108円台への下落も視野に入るという。

予想レンジはドルが108.50―111.50円、ユーロが1.1600―1.1850ドル。

米国で11日に発表される7月消費者物価指数(CPI)が市場予想を上回り、早期追加利上げ観測が高まれば111円半ば程度までの反発はあり得る。ただ、どちらかといえばドル安/円高となり得る材料が多い。ドルは9日安値109.56円でいったん下げ止まったかたちとなっているものの、材料が重なれば108円台へ下落する可能性も捨て切れない。

目先は米朝間の緊張の高まりが警戒される。10日には、北朝鮮が中距離弾道ミサイルによるグアム攻撃計画を8月中旬までにまとめる、と伝えられた。

投資家の不安心理の度合いを示すボラティリティー・インデックス(VIX).VIXは11台で、北朝鮮の核実験リスクやフランス大統領選が警戒された4月半ばの14━16に比べると低水準。軍事衝突に発展しない限り、一過性のリスク回避要因として捉えられそうだが、北朝鮮が来週15日の祖国解放記念日に何らかの行動を起こす可能性があることには留意しておきたい。

日本はこの時期に夏季休暇をとる企業が多く、輸入企業のドル買いが手薄になるとみられている。15日に国内投資家などから米国債の利払いに伴うドル売り/円買いが出れば、円高に振れる可能性があるという。

また、今週はクロス円で円ショートポジションの巻き戻しが活発化し、ドル安/円高が進んだ部分がある。「クロス円での円ショート巻き戻しの余地は十分ある」(外為アナリスト)とみられ、ドル/円以外の値動きにも注意が必要という。

米国では小売売上高、ニューヨーク連銀製造業景気指数、住宅着工件数、新規失業保険申請件数、フィラデルフィア連銀製造業景況感指数、鉱工業生産など、各種指標の発表がある。これらが低調であれば、ドル売りの流れとなりそうだ。

14日には日本の4─6月期国内総生産(GDP)と中国の7月鉱工業生産・小売売上高・都市部固定資産投資、16日には米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨(7月25─26日開催分)も発表される。

(為替マーケットチーム)

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http://www.asyura2.com/17/hasan123/msg/139.html

[政治・選挙・NHK230] マスコミの「反安倍」祭りはいつまで続くのか、朝日新聞が「ワイドショー化」したお家の事情 自衛隊ドローン1機の攻撃防げない
マスコミの「反安倍」祭りはいつまで続くのか

朝日新聞が「ワイドショー化」したお家の事情
2017.8.11(金) 池田 信夫
安保法案が参院本会議で可決、成立
参議院本会議場で、安全保障関連法案が可決され、拍手する議員ら。自民党の「強行採決」を朝日新聞は強く批判した(2015年9月19日撮影)。(c)AFP/TOSHIFUMI KITAMURA〔AFPBB News〕
 北朝鮮が弾道ミサイルを発射したのに、国会ではいまだに加計学園の議論が続いている。今年になって国会審議の大半を占めた森友学園と加計学園は、何が問題なのか、さっぱりわからない。政権に何の問題もないとはいわないが、違法行為があったわけでもないのに、ここまで中身のない話を何十時間も審議したのは前代未聞である。

 共通点はどちらの話にも、安倍首相の名前が出てくることだ。つまりこれはマスコミの左傾化というより「反安倍」のお祭りといったほうがいい。もう1つの共通点は、朝日新聞社会部の「スクープ」から始まったことだ。これには朝日の「お家の事情」もからんでいる。

混乱は慰安婦特集から始まった

 朝日新聞は昔から「反安倍」だったわけではない。小泉内閣のころは郵政民営化を支持し、第1次安倍内閣でも基本線は変わらなかったが、慰安婦問題で海外から火の手が上がったとき、朝日は安倍首相を糾弾する側に回り、首相は孤立した。この問題が両者の対立の根っ子にある。

 第2次安倍内閣が2012年末に誕生する直前に、朝日新聞社の木村伊量社長(当時)はトップ会談で関係を修復しようとし、社内でも秘密の「検証チーム」が発足した。2014年8月に慰安婦問題報道を検証する特集記事を書いたが、「慰安婦問題の本質は女性の人権だ」と開き直って謝罪もしなかったため、かえって批判を浴び、木村氏は退陣せざるをえなくなった。

 同じ時期に、安保法制についての閣議決定が行われた。朝日新聞は集団的自衛権の行使容認に反対の立場を取ったが、これは従来の報道の延長線上で、民主党も絶対反対ではなかった。2014年12月の解散・総選挙では、安保は争点にならなかった。

 ところが翌年、朝日新聞も民主党も「安保反対」に舵を切り、自民党の「強行採決」で国会は荒れた。そこにはいくつかのアクシデントが重なっていた。

政治部と社会部のバランスが崩れた

 1つはよく知られている通り、2015年6月の憲法審査会で自民党の推薦した長谷部恭男参考人が「安保法制は違憲だ」という意見を表明したことだ。このため3人の参考人がすべて政府案に反対という異例の事態になった。

 もう1つは、木村社長の辞任で社内抗争の続いていた朝日新聞で、社会部が実権を握ったことだ。木村氏の後任の渡辺雅隆社長は、初めての大阪社会部長の出身だった。朝日の社長は政治部と経済部が交代で務めていたので、これは異例の人事だった。

 政治部と社会部という棲み分けは、日本独特だ。政局は政治部が取材するが、政治家のスキャンダルは社会部が取材する。たとえば総務省の記者クラブには政治部と社会部の記者が配属されるが、政治部は電波利権を担当する「原稿を書かない記者」で、社会部は政治資金などの不祥事を取材する。

 夜回りで政治家が政治部記者に「おまえの社は政治資金の話でうるさい」と文句をいうと、記者は「上に伝えておきます」という。そういう情報は政治部に上がり、政治家のスキャンダルを「押さえる」記者が出世する。

 だから、どこの社も政治部は保守で、社会部は左翼である。それは仕事の性質上やむをえない面があり、社会部が政権に遠慮するとおもしろい記事は書けない。数の上でも社会部は(地方支局を入れると)記者の過半数だが、政治部は政権との距離が近いので両者のバランスが保たれていた。

 ところが朝日の社内で「左バネ」が強まってバランスが崩れ、政治部が「社会部化」した。民進党の情報源は朝日だから、安倍政権の政策ではなく森友や加計のような些細なスキャンダルを国会で取り上げ、「反安倍」キャンペーンを強化する。要するにマスコミが左傾化したというより、新聞が下世話な社会部ネタに特化し、「ワイドショー化」したのだ。

 読売や朝日のように発行部数が600万部を超える新聞は、世界に類をみない。100万部以上の新聞のほとんどは、他の国では1面に芸能ネタを載せるような大衆紙である。1面に政治・経済の記事をもってくる朝日新聞は、大衆紙としては異例のレイアウトをしてきた。それが森友・加計問題で普通の大衆紙になっただけともいえる。

活字からネットへの過渡期

 これはマスコミが斜陽産業になったという原因も大きい。特に朝日新聞は、慰安婦問題が噴出してから(公称部数で)100万部以上も減っている。こういうときは「数字の取れるネタ」に走りやすい。

 安保法制のような政治問題はワイドショーの話題にはなりにくいが、加計学園のような「疑惑」は、いくらでも引っ張れる。役所の中からも、前川喜平前事務次官のような不満分子が出てきて、内閣支持率を下げる政治問題になる。支持率が下がると政局に影響するので、政治部も参加せざるをえない。

 週刊文春や週刊新潮など「右派」と思われていた出版社系の週刊誌も「反安倍」に舵を切った。これも営業的に考えると、右派の読者層だった戦中派(1930年代生まれ)が少なくなり、団塊の世代が紙のメディアの読者の中心になったためとみることができる。

 1947年に生まれた団塊の世代は今年70歳。会社を完全に引退したが、年金は満額受給できるので生活には困らない。やることがなくなって暇を持て余すので、1日中テレビを見て、新聞を読んでいる。いわば男性も「専業主婦」化したのだ。

 団塊の世代の人口はゼロ歳児の2倍を超えるので、社会的な影響力が大きい。子供のころ刷り込まれた「平和憲法」の理想を今も抱き、安倍政権に敵意をもつ。イメージとしては、民進党の国会議員を想像してみるといい。

 しかし団塊の世代はあと5年で後期高齢者になり、10年余りで半数がいなくなる。その下の(私以下の)世代はもう紙の新聞は読まないので、私の主宰しているアゴラのようなネットメディアが主流になるだろう。

 アゴラの月間ページビューは(他サイトへの配信を含めて)1000万を超える。これはネットメディアとしては群を抜いて多いわけではないが、週刊誌よりはるかに多く、新聞に近い。読者の中心は40代のビジネスマンだが、森友や加計の騒ぎには冷淡だ。

 蓮舫氏の二重国籍のような社会ネタには反響が大きいが、「反日」を攻撃するネトウヨは読者にいない。「憲法9条で日本を守る」という一国平和主義は否定するが、靖国神社を崇拝しているわけでもない。昔の朝日新聞のような「高級紙」の読者に近い。

 今は過渡期で、これからメディアは二極化するだろう。ネットメディアが量的にも質的にも主流になって多様化する一方、新聞はワイドショーに近づいて大衆紙になり、影響力は衰えるだろう。意味不明の「反安倍」キャンペーンは、紙のメディアが政治を動かす最後の現象かもしれない。http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/50775


 


自衛隊はドローン1機の攻撃を防げない
欧米の戦略家たちが注目するロシアの軍事革命
2017.8.11(金) 部谷 直亮

http://afpbb.ismcdn.jp/mwimgs/9/a/600w/img_9ae9060cb8955d244505bb8387ca9c8284230.jpg

ウクライナで弾薬庫爆発、2万人避難 「破壊工作」と軍
ウクライナ東部バラクリヤで、爆発が起きた弾薬庫から立ち上る煙。同国政府提供(2017年3月23日撮影)。(c)AFP/UKRAINIAN PRESIDENTIAL PRESS SERVICE〔AFPBB News〕
 以前、本コラムで、イラクとシリアでイスラム国が人類史上初の自爆ドローン戦に踏み切った事実を紹介し、これが日本にも深刻な影響を与えると指摘した。

◎「100億円のF-35が数万円のドローンに負ける日」
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/48136

 この指摘に対してドローンを過小評価する見解も見受けられたが、その後、とうとうドローンによってウクライナ軍の世界最大の弾薬庫が爆破されるという事態が発生し、米国の戦略家たちの注目を浴びている。

 以下ではこの事件についての概要や見解を紹介し、我が国への教訓を論じたい。

世界最大の弾薬庫がドローンで破壊

 今年3月23日、ロシア軍はたった1機の小型ドローンで世界最大の弾薬庫を爆破してしまった。「ウクライナのKGB」と言われるウクライナ保安庁の発表によれば、ウクライナ東部バラクリヤに存在する約7万トンもの弾薬(10億ドルもの損害)を破壊したのは、たった一発の焼夷型手りゅう弾を積載したロシアの小型無人機だったという。

 米陸軍戦争大学特任招聘教授のロバート・バンカーは、「この種の焼夷型手りゅう弾と無人機を組み合わせた弾薬庫への攻撃は、ウクライナ南東部ではすでに二度発生している」と指摘している。

 実際、ウクライナではこの2年間、そうした攻撃が上記以外にも以下のように相次いでいる。

・2015年10月29日、スヴァトヴォ弾薬庫が爆破され、3000トンの弾薬が1700軒の民家を巻き込んで吹き飛ぶ。

・2015年12月、小型ドローンがバラクリヤ弾薬庫に少なくとも14個の手榴弾を投下。

・2017年2月17日、ザポロジエの弾薬庫が爆発した。

・同年3月14日、ドネツク近郊のウクライナ軍施設が無人機攻撃を受ける。

 これらの攻撃で使用されたのはZMG-1手榴弾だったという。この手榴弾はテルミット式で、爆発するのではなく2200度以上の高熱で炎上し、厚さ1.27cmの鋼板を溶かすことができる。

戦略家たちが重大な懸念

 こうした事実は、欧米の戦略家たちの間で重大な危機感を持って受け止められている。

 例えば、日本でも「オフショアコントロール戦略」の提唱者として知られ、我が国の防衛省とも交流がある元米海兵隊大佐、国防大学上席研究員のトーマス・ハメス氏は、メディア取材に対して、ドローン攻撃の威力を次のように語っている。

「脆弱な目標であれば、弾頭が小さい無人機でも大ダメージを相手に与えることができる。爆薬は必要ない。なぜなら、すでにそこにあるからだ。この意味で駐機中の航空機も危ない。液化天然ガス施設、石油化学製品工場、燃料貯蔵施設も危ない。また、危険な化学物質の貯蔵タンクは爆発はしないが、破裂すれば壊滅的な影響を与える可能性がある。1984年のボパールの事故では、工場からメチルイソシアナートガスが誤って放出され、3000人以上が死亡した」

 現役の米軍人も注目している。マイヤー・ヘンダーソン・ホール基地司令を務めるパトリック・デューガン大佐も、自らの論説の中で以下のように危機感をあらわにしている。

「ロシアの情報機関とゲリラ軍は、ウクライナの基地に対して、ドローンと手榴弾を組み合わせた体系的な攻撃を行っている。なお、バラクリヤが大爆発したのと同じ週、ワシントンの陸軍基地のわずか1キロ以内で、5体の小型ドローンが飛行制限規制を無視して飛んでいた。ドローンを飛ばした飛行者の意図は不明であり、将来の陸軍基地が大丈夫かどうかも不明である」

 さらに欧州評議会の無人機専門家、ウルリッケ・フランクは、「こうした弾薬庫は、ちょっと燃やせば大爆発するので、ドローンの小規模攻撃の良い目標だ」とし、先のバンカー氏も「これは弾薬庫だけの問題ではない。航空機燃料タンクや給油したままの民間機も良い目標だ」とメディアにコメントしている。

ゲリラコマンドへの警戒が薄すぎる自衛隊

 それでは、これらの指摘を我が国はどう考えればよいのか。

 確かにバラクリヤ弾薬庫の保管状況はひどいものであった。いくつかの爆破前の写真を見れば分かる通り、弾薬入りの木箱を大量に野ざらしに置いているような、お粗末極まりないものであった。一方、自衛隊の弾薬庫や備蓄燃料は基本的に盛り土がしてあったり、地下化されているし、弾薬管理は非常に厳密である。

 しかし、本件は我が国にとっても看過できない。例えば、航空自衛隊の那覇基地は、那覇空港と共有しており、民間ジェット機が(特に滑走路で離陸時に)破壊され、大炎上すれば幾日かは航空作戦は不可能になる。その間に航空優勢を奪取されるなり、空爆されれば目も当てられない。

 また、早期警戒機E-2CやKC-767空中給油機のような、数が少なく、戦力発揮に重要な影響を及ぼす機体も破壊・損傷されれば大変なことになるだろう。一発の焼夷手榴弾および数万円のドローンで、1機100億円のF-35やF-15戦闘機を短期的にでも機能停止に追い込めるならば、非常に効果的である。

 そして、航空自衛隊の弾薬庫は高蔵寺等、非常に数が限られており、弾薬庫からのトラックなどへの積み出し時は露出している。こうしたところやトラックでの基地内での移動時に複数のドローンで焼夷手榴弾を投下すればどうなるかは、火を見るより明らかだ。PAC-3等の防空装備も同じような攻撃で無力化されてしまうだろう。

 海上自衛隊も同様である。基本的に護衛艦の装甲は薄く、停泊時に狙い撃ちされればひとたまりもない。例えば、イルミネーター、SPYレーダー、艦上の地対艦誘導弾などにドローンで自爆攻撃なり引っかかるような爆発物を落とされればひとたまりもない(VLSのような装甲がある部署は除く)。実際、ソマリア沖に派遣された艦艇は小銃弾で貫通するために装甲板が追加されている。しかも、海自は作戦行動中の低高度低速目標からの防衛訓練は行っているが、停泊時の対策については訓練していない。

 陸上自衛隊も同様だ。地対艦誘導弾システム等の高価値目標は平時は駐屯地に駐機しており、装甲もないため、簡単に手榴弾で破壊できるだろう。また、オスプレイも同様である。陸自が南西諸島等に戦力を派遣するために契約している高速船「ナッチャンworld」もアルミ船体でよく燃えるだろう。艦橋も狙いやすく、ここが燃えれば動けないだろう。

 もちろん、地対艦誘導弾システム等については「有事が近づけば掘削機でトンネルを掘る」というのが陸自の理屈だが、そうした行動が緊張状態において許されるのか、また、すべてのシステムを格納できるトンネルを掘る時間的余裕があるのか非常に疑問である。

 自衛隊は、こうしたゲリラコマンドへの警戒が薄すぎる。自衛隊の訓練等は相対的にほとんどされていない。陸上自衛隊の理屈としては、野戦演習がすべての基礎であり総合戦闘力発揮の基盤なので大丈夫だ、としているが、野戦と市街戦や施設警備がまったく違うというのは子供でも分かるはずだ。

 航空自衛隊も、基地警備の人数は非常に足りない。仮に増強したとしても、あの程度ではどう考えてもあの広大な敷地の防衛は不可能である。一部の空自関係者は中国の弾道・巡航ミサイルで空自基地が破壊されても民間空港が使えるなどと豪語するが、せいぜいT/G訓練程度で、そのための訓練も態勢も何もない状況で単なる軍事的妄想でしかない。

自衛隊がドローン1個で壊滅する日

 そもそも、三自衛隊のすべてがドローンディフェンダーのようなドローン迎撃用の装備もなく、訓練もしていない。

 地対空ミサイルでドローンを迎撃するのは、自衛隊のただでさえ少ない弾薬量を減少させるだけだし、レーダーに映るのかも微妙だ。実際、英国王立防衛安全保障研究所のジャスティン・ブロンク氏も「パトリオットでドローンを撃墜したという事例は明らかに費用対効果が悪く、現代の高価な装備の軍隊が安価で容易に利用できる民間技術に苦戦する課題を露呈している。また、パトリオットのレーダーは、小型ドローンを効果的に狙うのは難しい可能性がある」と指摘している。

 もちろん、小銃で迎撃するというのもあるだろう。だが、多くの人間が小銃での迎撃は難しいと語る。そもそもの問題は、平時と有事の葉境期において、自衛隊が不審なドローンを小銃なりミサイルなりの実弾を使用できるかである。しかも住宅が近接している状況で、である。法的に自衛隊が平時に不審な基地に近づく小型ドローンを撃墜が可能かという問題もある。要するに、事実上、能力的、法的に小型ドローンによる自衛隊への攻撃は死角となっている。

 しかし、こうしたドローンは家電量販店で数〜10万円で購入可能であり、操縦も簡単で目立たない。あとは工作員が焼夷手榴弾等を持ち込めば、簡単に那覇基地等を機能停止に追い込むなり、高蔵寺弾薬庫からのミサイル搬出中に一気に爆破して弾薬欠乏にさせるなり、自衛隊の宮古島に配備した地対艦ミサイルを破壊するなり、あらゆる攻撃が可能である。また、ハメス氏やバンカー氏が指摘するように民間インフラへの脅威も重く受け止めるべきだ。

 しかも、こうしたロシア軍のやり方を、A2/AD戦やドローン戦を我が国以上に重視している中国や北朝鮮が真似しないはずがない。その意味で「数万円のドローンで自衛隊は1日で壊滅!」というのは、誇張であっても虚偽ではないのである。今やドローン対策のための装備・訓練・態勢の導入こそ急務なのだ。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/50754
http://www.asyura2.com/17/senkyo230/msg/531.html

[経世済民123] 米朝の緊張激化で米株大幅安 VIX急上昇 ドル108円台 欧州銀、失われた10年 米PPI予想外低下、1年ぶりマイナス

米朝の緊張激化で米株大幅安
:識者はこうみる


[10日 ロイター] - 10日の米国株式市場は大幅安。S&P500は値下がり幅が1.4%と約3カ月ぶりの大幅な下げとなったほか、ナスダック指数も2%を超える落ち込みとなった。米朝間の緊張激化に伴い、ハイテク株中心にリスク資産を売る動きが広がった。米国株式市場が下落した。

市場関係者のコメントは以下の通り。

●株価は最大5%下落の可能性

<グローバル・マーケッツ・アドバイザリー・グループのシニア市場ストラテジスト、ピーター・ケニー氏>

市場はいかなる内容であれ「リセット(修正)」する理由を探していた。北朝鮮を巡る地政学的な懸念やストレッチしたバリュエーションが現在のリセットの発端であると言える。市場での期待に反し、米インフレ指標も芳しくない状況だ。

これが調整の始まりかと言えば、答えは「ノー」だ。プルバック(押し戻し)の始まりかと言えば「イエス」であり、株価は1−5%下げる可能性があると予想する。ただ、これはバリュエーション縮小の一部を反映しているに過ぎない。

●なお一段の下げ余地、最高値近辺で推移

<ボストン・プライベート・ウェルスのチーフマーケットストラテジスト、ロバート・パブリック氏>

下落相場拡大の始まりかはなお見極めが必要だ。本日の終値水準を確認しなければならない。(S&P総合500種)50日移動平均の2448に、市場関係者は注目するだろう。今後数日間は政治的な緊張状態が続く。売り圧力も若干みられるようになるのではないか。

まだ極めて売られすぎという状態でなく、一段の下げ余地が残っている。北朝鮮と米国を巡る政治的な緊張がこの日、投資家を神経質にさせた。

相場がなお過去最高値近辺で推移していることも、若干の警戒感を招いた。いまは投資を多少手控える時期と、市場関係者らがみている可能性もある。

また休暇中の人もいて、相場を注視していない可能性もある。

●調整というより一服、基礎的条件は依然良好

<BB&Tウエルスマネジメント(アラバマ州)のシニアバイスプレジデント、バッキー・ヘルウィッグ氏>

株式相場がこれで調整局面入りしたとはいえない。8月と9月の相場は例年軟調だし、「5月売り逃げ、9月買い戻し」の格言に従えば夏枯れも終盤に差し掛かっている。したがって株安は季節的な要因が大きく、好調な企業決算期が終わりに近づき、相場のけん引材料が乏しくなっていることも影響している。

北朝鮮情勢をめぐる不透明感から一部の投資家が様子見を強めていることは確かだが、相場が売り込まれているという状況ではない。調整というよりも一服といった感じだ。

ファンダメンタルズは依然かなり良好で、企業収益の後退も過ぎ去っていることから、ファンダメンタルズの面で大きな下振れ圧力があるとは考えにくい。ただ、海外の動きが短期的な売りを誘う可能性はある。

*見出しとリードを修正し再送します。 

前場の日経平均は小反発、弱含みの円相場が支え

ダウ2万2000ドル突破:識者はこうみる
再送-株式こうみる:北朝鮮リスク、長くは続かず=あかつき証 藤井氏
来週の日本株は調整含み、トランプ発言に警戒感 日米首脳会談見極めへ


トランプ大統領、「ドルは強すぎる」と発言:識者はこうみる
アングル:新車臭を嫌う中国、フォードは「黄金の鼻」部隊投入
コラム:金融政策の温度差が招く円安の賞味期限=佐々木融氏
尼神インター・誠子を変えた!「ゆるふわ無敵髪」に導くヘアケアアイテムって…
新登場のCX-3ガソリンエンジン車、210.6万円〜※メーカー希望小売価格、税込
知らないと損?20等級でも自動車保険料が下がるワケ
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http://jp.reuters.com/article/instant-view-us-stock-fall-idJPKBN1AQ2FS


 
VIXが3日間で62%上昇、米大統領選後の最高水準に−北朝鮮情勢で
Lu Wang、Elena Popina
2017年8月11日 10:15 JST
https://assets.bwbx.io/images/users/iqjWHBFdfxIU/ivXaklAe3FLA/v2/-1x-1.png


大方の歴史的な基準から見れば、ここ3日間の米国株の変動はほとんど目立たない。ただ、8月に入るまでの異常な静けさと比較すると、変動の大きさは顕著だ。
  米国株の前例のない静けさは突然終了した。S&P500種株価指数は9日まで15営業日連続で0.3%以上の変動がなかったが、10日に売りが加速し、3日間での下落率は1.7%となった。これは、ここ9カ月間にピークから底までの下落率が3%を超えなかったことを踏まえると、ほぼ急落といっていいほどだ。

  10日の米株式相場は5月以来の大幅安。北朝鮮が脅しを続けるならば「炎と怒り」に見舞われることになるとトランプ米大統領が述べた後、下げが続いている。S&P500種が前日比1.5%下落した一方で、シカゴ・オプション取引所(CBOE)のボラティリティー指数(VIX)は44%上昇し、3日間の上昇率は62%となった。VIXの終値が16を上回ったのは米大統領選挙以降初めて。
原題:62% VIX Surge on Korea Isn’t How Bulls Hoped August Would Start(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-08-11/OUHWLE6TTDSM01


 

 

 
「金を保有しろ」北朝鮮緊迫でリスク回避
2017/8/11 12:06日本経済新聞 電子版

 【ニューヨーク=山下晃】北朝鮮情勢を巡る緊張が高まるなか、10日の米株式相場は総崩れとなった。ダウ工業株30種平均は3日続落し、ここ3日間の下げ幅は274ドルに達した。投資家は徐々に米国と北朝鮮の衝突シナリオに備えたリスク回避に動いている。

 「金を保有しろ」。著名ヘッジファンド投資家のレイ・ダリオ氏はこの日、北朝鮮情勢の悪化も見据え、保有資産の5〜10%程度は金を保有することを勧めた。

円、一時108円台
 シドニー市場
2017/8/11 13:02
 
 11日のシドニー外国為替市場は円がドルに対して上昇して一時、約2カ月ぶりの円高ドル安水準となる1ドル=108円91銭をつけた。

 北朝鮮を巡る国際情勢の緊迫化を受けて投資家がリスクを回避する姿勢を強め、比較的安全な通貨とされる円を買い、ドルを売る動きが優勢となった。

 市場関係者は「中国などのアジア株が下落したことも、円買いドル売りの動きを後押しした」と説明した。

 日本時間午後0時55分現在は、1ドル=108円90銭〜109円ちょうどをつけた。ユーロは1ユーロ=128円22〜32銭、同1.1769〜79ドル。[共同]
http://www.nikkei.com/article/DGXLAS0040004_R10C17A8000000/


 

 

欧州銀の「失われた10年」

Christopher Thompson

[ロンドン 9日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 世界金融危機の入り口から10年を迎えたが、欧州の銀行の株主資本利益率(ROE)は記念日をお祝いできるほどには回復していない。欧州中央銀行(ECB)のマイナス金利政策が終われば、もっと晴れやかに祝えるようになりそうだ。

現在の欧州銀はこれまでになく安全に、また公益企業らしくなっている。トムソン・ロイターのデータによると、2007年8月9日にBNPパリバが傘下ファンドの一部について解約を凍結すると発表して以来、欧州の銀行業界は約4100億ユーロの増資を行った。この結果、株主は痛手を被り、この10年間のユーロストックス銀行株指数のトータルリターン(配当を再投資)はマイナス53%だ。

しかしここにきて、そうした流れも反転し始めている。ユーロストックス銀行株指数は過去1年間で50%以上も上昇し、iボックス欧州銀行債券指数を楽々アウトパフォームした。これはバリュエーションの違いが一因だ。債券が過去最高値近辺で推移しているのに対し、大手欧州銀株は株価純資産倍率(PBR)で見て1倍前後にまでしか戻っていない。株価のバリュエーションは収益向上や景気回復、バランスシートの強化に加え、株主割当増資がついに終わるとの確信に支えられて回復してきた。

マイナス金利という逆風にもかかわらず、BREAKINGVIEWSの計算によると大手欧州銀のROEは平均9%と、資本コスト並みになった。

銀行がローン債権の価格を再評価できるようになり、ECBに預けている超過預金にマイナス金利を課されなくなれば、利益は急増するだろう。コメルツバンクは、ECBが中銀預金金利をゼロに引き上げれば、自行の純金利収入は年間2億7500万ユーロ増えると推計している。これは2016年の純金利収入の5%に相当する。

欧州銀は波乱万丈の日々を経てきたため、2019年の予想利益に基づく株価収益率(PER)は10倍にとどまっている。これは公益など他のセクターに比べて割安だ。ECBが超金融緩和政策を解除すれば、欧州銀の株主はいよいよ胸を張って祝杯を上げることができるだろう。

*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。


コラム:トランプ政権の現実に目覚めた米株式市場

【中国の視点】日欧の中銀、追加緩和に慎重姿勢継続も
コラム:相場逆転のリスク膨らむユーロ高
概況からBRICsを知ろう〜ブラジル株式市場は3日ぶりに反落、。連日の上昇で足元...
http://jp.reuters.com/article/ecb-breakingviews-idJPKBN1AQ0DV


 

米PPIは予想外の低下、ほぼ1年ぶりにマイナス−サービス押し下げ
Patricia Laya
2017年8月10日 21:36 JST更新日時 2017年8月10日 23:06 JST

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NY外為(10日):ドル下落、米朝間の緊張背景に円は全面高

7月の米生産者物価指数は予想外に前月比で低下し、ほぼ1年ぶりのマイナスとなった。
  米労働省が10日発表した生産者物価指数(PPI)は前月比0.1%低下。ブルームバーグがまとめたエコノミスト予想の中央値は0.1%の上昇だった。前月は0.1%上昇。
  7月は前年比では1.9%上昇。前月には2%伸びていた。
  食品とエネルギーを除くPPIコア指数も前月比0.1%低下。前年比では1.8%の上昇。
  7月のPPI低下は、サービスコストが0.2%低下と5カ月ぶりのマイナスとなったことを反映した。商業は0.5%、運輸・倉庫は0.8%いずれも低下した。

  食品とエネルギー、商業サービスを除いたベースのPPIは前月比変わらず。前年比では1.9%の上昇。
  項目別に見ると、エネルギー価格が前月比0.3%低下と、3カ月連続のマイナス。食品は前月比横ばい。
  食品やエネルギーなど財部門のPPIは前月比0.1%低下。
  米連邦公開市場委員会(FOMC)が年間2%のインフレ目標の基準とするPCE価格指数の算出に使われるヘルスケアサービスのコストは、季節調整前ベースで前月比0.3%上昇した。
  統計の詳細は表をご覧ください。
原題:Unexpected Drop in U.S. Wholesale Prices Shows Tame Inflation(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-08-10/-0-1-0-1


 
ドル安や労働市場、インフレ押し上げへ=NY連銀総裁

[ニューヨーク 10日 ロイター] - ニューヨーク連銀のダドリー総裁は10日、「非常に弱い」米インフレ率は、ドルの下落と過熱し続ける労働市場を背景に、中期的には上向くとの認識を示した。

総裁は講演後の記者会見で、ドル安で輸入物価が押し上げられ、労働市場の引き締まりに伴い賃金が上昇し、最終的にインフレを押し上げるとの認識を示した。

総裁は、インフレ率は中期的には上昇すると予想しているが、恐らく前年比ベースで2%にまでは戻らないだろうと述べ、ここ数カ月連続でインフレ率が弱い数字となっていることに言及した。

総裁は、向こう6─10カ月の間、前年比ベースのインフレ率は引き続き圧迫されるとの見方を示した。

総裁は講演で、年内にもう1回利上げを行い、バランスシートの縮小を開始する可能性を示唆した。

*内容と写真とカテゴリーを追加しました。
http://jp.reuters.com/article/usa-fed-dudley-0810-inflation-idJPKBN1AQ1T5
http://www.asyura2.com/17/hasan123/msg/150.html

[国際20] 金正恩氏の瀬戸際外交はどこへ進む−米国との非難合戦エスカレート 北朝鮮、南北離散家族の再会拒否 亡命者の送還要求 
金正恩氏の瀬戸際外交はどこへ進む−米国との非難合戦エスカレート
Stuart Biggs
2017年8月11日 18:14 JST 
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シンガポール:4−6月GDP改定値、速報値から上向き修正
 
瀬戸際政策は通常、北朝鮮に国内外で利益をもたらしてきた。米本土に核兵器を撃ち込むためのミサイルと、そして恐らく核弾頭を今や手に入れたと思われることから、北朝鮮が瀬戸際政策で引き出そうとしている報酬は大きく値上がりした。
  外交的・金融的な恩恵を得るために緊張を高め、そして後退させる北朝鮮の歴史は1990年代に始まった。同国が核兵器の開発につながり得る核燃料棒の抜き取りに踏み切った時で、カーター元米大統領の仲介によって事態は打開された。
グラフィック:米本土が射程圏内に
  北朝鮮が最初の核実験を実施した2006年の後、6カ国協議によって食料とエネルギー支援の見返りに原子力関連施設を閉鎖することで合意に至るも、金正日総書記(当時)が後に協議から撤退し、核計画を再開した。最近になって核実験とミサイル試射のペースは加速している。
  国連による最新の制裁決議はトランプ政権の外交的勝利だが、北朝鮮は、米国に「多大の犠牲を払わせる」と激しく反発。トランプ大統領も北朝鮮は「炎と怒り、そして率直に言えば、世界がこれまでに目にしたことがないようなパワーに見舞われることになるだろう」と警告。さらに金正恩朝鮮労働党委員長は日本の上空を通過してグアム周辺の海域にミサイルを発射する計画を明らかにした。
米と北朝鮮が戦争になるとどうなる−Quicktake
  一部のアナリストは、今後数日間のうちに情勢緊迫の度合いが一段と増すと予想している。15日は韓国と北朝鮮両国が日本による統治から解放されたことを祝う日であり、21日からは米韓合同軍事演習が始まる。
  英王立国際問題研究所のアジアプログラム副責任者、ジェームズ・ハンナ氏は、北朝鮮あるいは米国が相手の意思を読み間違える可能性は依然あると指摘している。
原題:Kim Weighs Dangerous Path to Nuclear Respect for North Korea(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-08-11/OUIJKL6JIJUQ01


 
北朝鮮、南北離散家族の再会拒否 亡命者の送還要求
2017/8/11 18:29
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 【ソウル=山田健一】北朝鮮は「強制拉致被害者救出非常対策委員会」の報道官談話を発表し、昨年4月に中国から韓国に集団亡命した女性レストラン従業員12人らの送還を韓国政府に要求した。ラヂオプレスが11日伝えた。

 談話は10日付。「送還が実現するまでは、北南間離散家族の対面をはじめ、いかなる人道的協力事業も絶対にあり得ない」と表明した。離散家族の再会に向け南北赤十字会談を呼びかけた、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権の提案を事実上拒否した形になる。

 北朝鮮は昨年の集団亡命について「韓国当局が海外で拉致して連行した」と主張した。「我が国の女性を強制結婚させる方法で、彼女らが本人の意思で韓国に定着したかのようにでっちあげた」としている。12人とは別に2011年に亡命した女性の送還も求めた。

 一方、韓国統一省の報道官は11日の記者会見で、「元従業員らは自由意思で亡命した。送還する根拠が無い」と反論。「離散家族は別の問題だ」と話し、人道的立場から早急に要求に応じるよう訴えた。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM11H2J_R10C17A8FF8000/
http://www.asyura2.com/17/kokusai20/msg/279.html

   

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