ロシア、天然ガスのパイプラインに遅れ
トルコと交渉難航、中国向け整備も時間
【モスクワ＝田中孝幸】ロシアが欧米との対立を背景に打ち出したトルコや中国への天然ガスパイプラインの建設が遅れている。2014年末に発表したトルコ経由で欧州に供給するルートはいまだ同国との建設の最終合意すらできていない状態だ。需要が減る欧州に代わって頼みとする中国向けの整備にも時間がかかっている。いずれの事業もプーチン政権の東方重視政策の目玉だが、実現に向けた環境は厳しくなる一方だ。
ガス管を黒海からトルコに通す「トルコストリーム」は、ロシア側の想定では東欧のハンガリーに至る。予定される建設費はロシアからトルコまでの部分だけで114億ユーロ（約１兆６千億円）にのぼる。年間輸送量は最大で、日本の年間ガス消費量の半分に当たる630億立方メートルに達する。
ロシアは当初、ガスパイプラインを黒海からブルガリアに通す計画を立てていたが、欧州連合（ＥＵ）の反対で断念に追い込まれ、代わってトルコストリーム構想が浮上した。トルコとロシアの首脳が推進で合意した。
ところが建設に必要な政府間協定の取りまとめは難航。ロシア、トルコ両国の外交関係者によると、エネルギー輸送の中継国として地域での影響力を高めたいトルコは同国に設置するガスパイプラインの運営権を含む権益を求めているが、これに対し、事業の主導権を握り続けたいロシアは消極姿勢を崩していない。
ロシア側は11月に予定するプーチン大統領とトルコのエルドアン大統領の会談での政治決着を目指す方針。とはいえ６月の総選挙の与党大敗後、連立協議が決裂して再選挙が濃厚となったトルコでは冬まで政局の混乱が続く見通し。協定調印は来年以降に持ち越され、19年をメドとしていたガスの供給開始も遅れる公算が大きくなっている。
ロシア東部にあたるシベリアの東部と西部からそれぞれ大消費国の中国にガスを供給する２つのパイプラインの建設計画も遅れが目立つ。18年ごろから30年間にわたり、年最大で東ルートが380億立方メートル、西ルートは300億立方メートルを供給する予定で、14年の中ロ首脳会談の際に建設推進で合意した。
このうち西ルートはガスの供給価格を巡って中ロの主張に大きな隔たりがあり、暗礁に乗り上げている。中国が景気減速によるガス需要の減少を受けて消極姿勢を強めているとの見方もある。中国石油天然気集団（ＣＮＰＣ）は14年に、20年の年間ガス需要予測を４千億立方メートルから３千億立方メートルに事実上引き下げた。
東ルートの建設も当初の予定より遅れ、中国国内の工事は15年６月にようやく始まった。供給価格は14年５月に合意したが、その後の原油価格の大幅下落に連動してガス価格も下がり、中国側が不満を強めていることも要因の一つとされる。
プーチン氏は９月の訪中時に習近平国家主席と東西ルートの今後について協議する見通しだ。だが、西ルートについては「事業凍結もささやかれる」（中ロ外交筋）状態で、首脳会談を契機に事業が加速するとみる向きはほとんどない。
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国営ガスプロム苦境深まる ＬＮＧ事業、制裁対象に
【モスクワ＝田中孝幸】ロシアのプーチン政権のエネルギー戦略を担ってきた国営天然ガス企業ガスプロムの苦境が深まっている。１〜６月期のガス生産量と輸出量は前年同期よりそれぞれ12.9％、８％減った。株価も下落を続け、時価総額は2008年の最盛期の７分の１に落ち込んだ。
最大の要因はガス輸出を欧州や周辺国への外交カードとするプーチン政権下で「採算を度外視した様々な事業や供給方針を押しつけられた」（元閣僚）ことだ。ロシアは対立を深めたウクライナへのガス供給を14年６月から半年間停止した。結果としてガスプロムは約60億ドル（約7300億円）相当の損害を被った。
政権が期待するアジア太平洋地域への液化天然ガス（ＬＮＧ）輸出にも暗雲が垂れこめる。米国は８月上旬、ウクライナ問題を受けた対ロ制裁の対象にガスプロムが進める極東サハリンのエネルギー開発事業「サハリン３」の鉱区を加えた。
ロシアのタス通信によるとガス田開発に必要な機器を欧米などから調達できないようにする措置が柱で、ガスプロムの事業に対する米国の制裁はこれが初めて。ロシア政府高官は「サハリンにおけるほかのＬＮＧ開発に参加する西側企業への報復制裁もあり得る」と反発。事業環境はさらに悪化する可能性がある。
［日経新聞８月２４日朝刊Ｐ．７］
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