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[国際18] 仏経済事情に見るルペン人気の正体 ルペン勝利ならユーロは1ドルかそれ未満  仏マクロン勝利を61%予想−EUにプラスとエ

FX Forum | 2017年 03月 27日 13:38 JST 関連トピックス: トップニュース
コラム:
仏経済事情に見るルペン人気の正体

山口曜一郎三井住友銀行 ヘッド・オブ・リサーチ
[東京 27日] - ここ最近の欧州政治情勢に関して、市場では懸念がいくぶん後退している雰囲気がある。理由の1つは、15日に行われたオランダ議会選挙で、極右・自由党(PVV)が思ったよりも議席を伸ばせなかった一方、連立与党の1つである自由民主党(VVD)が、議席を減らしながらも第一党の地位を維持したためだ。

もう1つの理由は、20日のフランス大統領選テレビ討論会後の世論調査で、最も説得力のある候補はマクロン氏だったとの結果が発表されたからだ。これらを受けて、ユーロが対ドルで1.06ドル台から1.08ドル台まで上昇するなど、市場ではフランス大統領選に対する懸念がいくらか後退している。

しかし、フランス大統領選において極右政党・国民戦線(FN)のルペン党首が支持率を伸ばしている背景を考えれば、状況はまだ楽観視できない。今年の欧州は選挙イヤーということで、どうしても各候補の政治的主張や世論調査動向に目が向きやすいが、ここで改めてエコノミストらしく、経済を切り口に今後のポイントを論じてみたい。

<フランスの貿易開放度、実は欧州主要国で下から2番目>

ルペン氏に対する高い支持率の背景には、フランス国民の現在の生活や経済環境への不満が存在していると考える。

もちろん、過激派組織による攻撃に対する恐怖や、移民への心情的・社会的不安が大きな影響を与えていることは確かだが、ユーロ圏に属していること、あるいは欧州連合(EU)に加盟していることの恩恵を享受できていない人が数多く存在しており、それらの不満が反EU、反エスタブリッシュメントに向かっているとみられる。

おそらく、移民の存在が自分たちの生活を阻害しているとか、自分たちの生活が良くならないのは現在の政権のせいだと感じるくらい、景気拡大への実感がない点に問題の一因がある。そう考えると、以下の3つの背景要因を指摘できそうだ。

1)フランスは相対的に内需主導の国であり、オランダのような貿易立国と比べるとユーロ圏とEUの恩恵を受けている実感に乏しい

2)人々の景況感に直結するのは雇用情勢だが、失業率は高止まったままで、低下ペースが鈍い

3)恩恵を感じる機会が少ないためか、人々のEUに対する意識は他国と比べて低い

まず1点目から説明しよう。EUという経済同盟を形成し、ユーロという共通通貨を導入している恩恵は、経済における効率的な資源配分という点で見ると、貿易開放度の低い国よりも高い国の方が大きい。

そこで、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、オランダ、ベルギー、オーストリア、アイルランド、フィンランド、ポルトガル、ギリシャの11カ国について、貿易開放度を測る物差しとして、名目国内総生産(GDP)に対する財の輸出入合計額の比率を計算・比較してみると、フランスは実は下から2番目だ(最下位はギリシャ)。

対照的に、オランダは貿易開放度が高く、ベルギーに次いで上から2番目だ。オランダで、国民の一部に反移民、反EUの動きがあっても、それが大きなうねりとならなかったのは、同国にとってユーロ圏とEUの存在が重要と考える国民が多くを占めていたためと考えられる。

<フランス国民の多くにEUが魅力的に思えない理由>

次に失業率について見てみよう。2010―16年のフランスのGDP成長率は平均プラス1.14%とユーロ圏全体の同1.04%を上回っているが、国民が景気拡大を実感する1つのバロメーターである雇用情勢はさえない状況が続いている。

失業率は、足元で若干改善の動きが見られるものの、2016年は10.0%という高い水準にとどまった。ドイツの失業率が4.2%まで低下していること、ユーロ危機で一時14.7%まで上昇したアイルランドの失業率が7.9%まで下げてきていることなどと比べると、フランスの労働市場の改善は鈍い。

加えて、世界銀行が発表しているジニ係数で所得格差の動きを見ると、フランスは、オランダ、ベルギー、ドイツなどよりも所得格差が大きく、これも人々の不満を高めている可能性がある。フランスの方がオランダよりも国民の満足度は低そうであり、足元で国民の1割に達したと言われている移民に不満の矛先が向かうのもうなずける。

こうした環境に置かれているフランス国民にとって、EUは必ずしも魅力的に見えない。これが、前述した、ルペン氏が支持率を伸ばしている3つ目の背景要因だ。

2016年秋に実施されたEUの世論調査(Eurobarometer)にある3つの質問「EUのイメージ」「自分の声はEUに反映されている」「EUの将来」に対する回答を用いて、EU28カ国の国民のEUに対する意識を調べてみた。

各回答における「ポジティブ、同意、楽観」の符号をプラスに、「ネガティブ、不同意、悲観」の符号をマイナスにして足し合わせ、その合計を比較することで、各国民がEUに対してポジティブかネガティブかをつかもうとしたものだが、これによると、最もポジティブなのはアイルランド、最もネガティブなのはギリシャとなる。

フランスは下から6番目であり、EU離脱を決めた英国よりも1つ順位が上なだけだ。一方、オランダはネット・ポジティブで、上から14番目とほぼ真ん中に位置する。

このように見ると、オランダ総選挙で与党の自由民主党が何とか踏みとどまったのは、もちろん各種報道にあるように、最近の自由党がやや右寄りの姿勢を見せていたこと、トルコとの外交衝突で強い姿勢を示したことなどが大きな理由ではあるが、オランダ国民のユーロ圏とEUに対する不満は必ずしも非常に強いわけではなく、国民が一定の恩恵を感じていることが背景にあったと思われる。

翻ってフランスについて考えると、この点は弱い。最近の世論調査では、ルペン氏の支持が低下し、マクロン氏の支持が上昇しているとの評価が聞かれるが、決選投票での支持率がマクロン氏60%前後、ルペン氏40%前後というのは2カ月前と比べてほとんど変わっていない。フランスのメディアやアナリストからは、決選投票の世論調査でこれだけの差があればマクロン氏が勝つだろうとの声が聞かれるが、英国民投票や米大統領選を教訓にすると、安心できるほどの差ではない。

もちろん、フランスもオランダに続いて、内向き志向や反エスタブリッシュメントの流れに歯止めをかける可能性は十分あるが、予断を持たずに情勢を見ていくことが必要だ。ユーロドル相場についても、この先、フランス大統領選までに再び売りを試す局面があると考える。

<経済的切り口で見て危険なのはイタリア>

最後にもう1点加えておきたい。フランス大統領選のあとには、9月にドイツ連邦議会選が控えており、メルケル首相率いるキリスト教民主同盟(CDU)がシュルツ元欧州議会議長を擁する社会民主党(SPD)に勝つことができるかが注目される。

メルケル首相が退くようだとユーロ圏とEUの求心力が弱まるのではないかという点は、現在のようにEU体制に脆弱性が見られる中では大いに心配だが、両党とも親EUであり、反EU、反エスタブリッシュメントという点では、大きなうねりに巻き込まれる懸念は小さい。経済を切り口に見ても、人々の生活に対する不満が爆発する水準にはないと言える。

実は、今回の切り口で見るとより危険なのはイタリアだ。輸出主導のイメージがある同国だが、貿易開放度は辛うじてフランスを上回る程度であり、2016年の失業率は11.7%とフランスを上回る。ジニ係数で見た所得格差もフランスより大きい。

そして、EUへの意識は、ギリシャ、キプロスに次いで、28カ国中で下から3番目だ。与党・民主党(PD)の分裂懸念、ポピュリスト政党・五つ星運動が第一党となる可能性などイタリアでは政治情勢が非常に不透明だが、経済的な背景から見ても同国は危険な状態にある。

民主党の党内混乱もあって、総選挙のタイミングは2018年にずれ込みそうだが、これは選挙イヤーである2017年を乗り越えても安心できない政治イベントが続くことを意味する。

*山口曜一郎氏は、三井住友銀行市場営業統括部副部長で、ヘッド・オブ・リサーチ。1992年慶應義塾大学経済学部卒業後、同行入行。法人営業、資本市場業務、為替セールスディーラーを経て、エコノミストとして2001―04年にニューヨーク、04―13年ロンドンに駐在。ロンドン大学修士課程(金融学)修了。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

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http://jp.reuters.com/article/column-forexforum-yoichiro-yamaguchi-idJPKBN16Y0B9?sp=true

 
ユーロは1ドルかそれ未満に、仏大統領選翌日に−ルペン氏勝利なら
Stefania Spezzati
2017年3月27日 15:54 JST

https://assets.bwbx.io/images/users/iqjWHBFdfxIU/iE07vAGtczQQ/v1/-1x-1.png

フランス大統領選挙でユーロ離脱を掲げるルペン国民戦線(FN)党首が勝利した場合、ユーロは翌日に1ユーロ=1ドルか1ドルを下回る水準に急落する−。ブルームバーグの調査に答えたアナリストやストラテジストなど38人のうち23人が予想した。
  そのうち5人は0.95ドル未満への下落を見込んでいる。ドルとのパリティー(等価)は2002年以来で、現水準から7%余りの下げになる。0.95ドル未満なら12%。その場合、英国が欧州連合(EU)離脱を選択した後のポンドの10%余りの下落と同様の展開になる。

原題:Le Pen May Be to Euro What Brexit Was to Pound as Parity Seen(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-27/ONGQHN6JIJUP01


 


仏大統領選でマクロン氏勝利を61%予想−EUにプラスとエコノミスト
Stefania Spezzati
2017年3月27日 15:18 JST 
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ユーロは1ドルかそれ未満に、仏大統領選翌日に−ルペン氏勝利なら
財政赤字改善が最も進み、設備投資が最も増えるのはフィヨン氏
ルペン氏勝利なら経済の改善には全くつながらないとの見方も
 
フランス大統領選(4−5月に実施)で独立系のマクロン前経済・産業・デジタル相が勝利するとエコノミストの圧倒的多数が予測していることが、ブルームバーグの調査で明らかになった。マクロン氏が当選した場合、諸政策の中で欧州連合(EU)との関係が最も改善されるとエコノミストらは考えている。
  39人のエコノミストを対象に20−23日に実施した調査では、マクロン氏が次のフランス大統領になる平均確率は61%、極右政党・国民戦線(FN)のルペン党首は20%、最大野党・共和党など中道・右派陣営の候補であるフィヨン元首相は18%との結果が示された。また、マクロン氏が勝利する場合、EUとの関係が改善されると43%が回答。フィヨン氏が大統領になれば、財政赤字の改善が最も進み、設備投資が最も増えると考えられていることも分かった。
  労働市場の改善とEUへの深い関与の継続という点では、マクロン氏が最も望ましい候補と受け止められた。ルペン氏勝利の場合、フランスの安全保障と防衛の改善に寄与すると考えるエコノミストもいるが、全体の約3分の1がどの分野の改善にもつながらないとの見方を示した。
  ING銀行のシニアエコノミスト、ジュリアン・マンソー氏(ブリュッセル在勤)は「マクロン氏の勝利は、現時点でのわれわれのメインシナリオであり、欧州と投資にとってプラスだ。だが、完全に自分の味方にはなりそうにない政府の運営に取り組むことを強いられ、左派と右派の両方をまとめていかなければならず、それは危険に満ちた仕事であることが分かるだろう」と指摘した。  
原題:Economists See Macron Win in France Most Positive for Europe(抜粋)、Economists See Macron Win in France Most Positive for Europe(抜粋)
http://www.asyura2.com/17/kokusai18/msg/755.html

[国際18] 4選阻止、独選挙にも忍び寄るロシアの「魔手」西側諸国の結束を崩す 身内に通じなかったトランプ流交渉術 第一ラウンドで完敗
4選阻止、独選挙にも忍び寄るロシアの「魔手」

ニュースを斬る

西側諸国の結束を崩す狙い
2017年3月28日(火)
石黒 千賀子
ロシアが昨年の米大統領選に続き、今秋の独連邦議会選挙への介入を強めている。メルケル首相の4選を阻止し、西側諸国の結束を崩したいとのプーチン大統領の狙いが背景にある。

ロシアが欧米の選挙に介入する裏には、西側諸国の結束を乱し、ベルリンの壁崩壊後の西側中心の国際秩序を壊し、旧ソ連の勢力圏を回復させたいというプーチン大統領の狙いがあるといわれている。(写真:ロイター/アフロ)
 米司法省は3月15日、米ヤフーの約5億人の個人情報流出に関与したとしてロシアの情報機関職員とハッカー4人の起訴を発表した。ロシア政府がロシアのハッカーにヤフーのサーバーをハッキングさせ、その利用者を対象に一儲けするのを“許可した”という事件だ。見返りにロシア政府が重要と考える情報を彼らに収集させたとされる。

 英フィナンシャル・タイムズ(FT)は17日、「(ロシア政府の)お墨付きハッキング、犯罪集団の台頭招く」と題した記事で、ロシア政府がこの数年、いかにロシアの犯罪組織を使って米国や欧州各国の政府や企業にサイバー攻撃を仕掛けてきたかを詳しく報じた。

 ロシア政府が自国の犯罪組織を活用するのは「誰が攻撃しているのかを相手から分かりにくくできる上、コストが安く幅広いサイバー攻撃が可能になるからだ」と解説。ロシアにはソ連時代から国家に敵対する勢力を抑え込むべく、様々な犯罪集団や国家主義的な組織と連携してきた歴史がある。特にソ連崩壊後はそうした組織と連携する重要性が高まり、今や連携の場がネット上にまで広がっているのだという。

 昨年の米大統領選でクリントン候補に不利な情報を入手すべく米民主党全国委員会などにサイバー攻撃を仕掛けたのは、ロシア政府の意向を受けたハッカー集団「APT28」と特定されている。同集団は2015年に独連邦議会にサイバー攻撃をしたことでも知られる。

 そのロシアが欧州の選挙にも介入しているとの懸念が高まっている。米ウォール・ストリート・ジャーナルは1月5日、「世界はロシアが米大統領選に介入したことに警戒すべき」と題した記事を掲載。ジョン・ブレナン米中央情報局(CIA)長官(1月に退任)の「米国は大統領選で起きたことをしっかり理解し、他国に伝えることが重要だ。特に独連邦議会選挙へのロシアの介入を憂慮している」との発言を伝えている。

テレビ放送まで使って洗脳

 FTは1月30日付の「ドイツ、ロシアの次の標的か」と題した記事で、ドイツが米国よりはるかにロシア介入の影響を受けやすい危うさを指摘している。

 第1は、ベルリンの壁崩壊以降、ドイツに移り住んできた約300万人に上る独系ロシア人の存在だ。独政府や独経済界の支援もあり、彼らはかつて自由民主主義の価値観をロシアに伝える懸け橋となっていた。「彼らを中心とする活動を通じ、ロシアにも民主主義国家になってもらいたいとの狙いがあった」。だが近年、彼らの組織はドイツの政策を少しでもロシア寄りにすべく活用されるように変質しているという。

 第2は地理的近さもあり米国以上に幅広いプロパガンダ戦略を進めている点だ。ロシア政府は数年前からドイツでドイツ語のテレビ放送やオンラインニュースサイト、ソーシャルメディアを展開。メルケル首相の難民政策を批判する一方、移民問題を取り上げ排斥主義をあおったり、事実を歪曲したニュースや解説を流したりしているという。

 一連のロシアの動きが、民主主義の価値観になじみの薄い旧東独市民を中心に、独極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が支持を拡大させてきた一因だと記事は指摘している。

 ロシアが欧米の選挙に介入する裏には、西側諸国の結束を乱し、ベルリンの壁崩壊後の西側中心の国際秩序を壊し旧ソ連の勢力圏を回復させたいというプーチン大統領の狙いがあるといわれてきた。ゆえにロシアに厳しい政治家の当選を阻むことが重要で、特にクリミア併合でロシアへの制裁を欧州の指導者として主導したメルケル首相の4選は阻みたいとの思いがあるようだ。

 ロシアのペスコフ大統領報道官は1月16日、「ロシアの機関がサイバー空間の違法行為に関与することはない」と語ったが、これを信じる向きは少ない。

 110万人もの難民を受け入れ支持率を落としたメルケル首相だが、自由貿易に基づくグローバル化と民主主義の擁護者として頼りになる存在だ。今秋の独議会選挙は西側が秩序を維持していけるかどうかの試金石になろう。

(日経ビジネス2017年3月27日号より転載)


このコラムについて

ニュースを斬る
日々、生み出される膨大なニュース。その本質と意味するところは何か。そこから何を学び取るべきなのか――。本コラムでは、日経ビジネス編集部が選んだ注目のニュースを、その道のプロフェッショナルである執筆陣が独自の視点で鋭く解説。ニュースの裏側に潜む意外な事実、一歩踏み込んだ読み筋を引き出します。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/110879/032700640

 


身内に通じなかったトランプ流交渉術

トランプのアメリカ〜超大国はどこへ行く

立法府での第一ラウンドで完敗、次ラウンドは税制改正
2017年3月28日(火)
篠原 匡

3月24日、トランプ米大統領は、オバマ前大統領が推進した医療保険制度改革、いわゆる「オバマケア」に代わる法案を、採決直前に取り下げた。(写真:AP/アフロ)
「ディール・メーカー」としての能力に疑問符

 期せずして、政策の優先順位が変わることになりそうだ。

 3月24日、共和党指導部はオバマケア(米医療保険制度改革法)の代替法案を撤回した。もともとは23日の木曜に下院で採決される予定だったが、法案通過のための賛成票に見通しが立たず、一度は延期が決まった。その後、翌金曜の夕方に再び採決されることになったが、反対派の切り崩しが進まず、撤回に追い込まれた。

 オバマケアの撤廃は過去4回の選挙で訴えてきた共和党の看板政策だ。上下両院を共和党が制し、ドナルド・トランプ氏がホワイトハウスの主になった現状は長年の宿願を果たすまたとない好機だった。それが、まさかの大敗北である。ディール・メーカーとしてのトランプ大統領の能力、下院議長としてのポール・ライアン氏の指導力に疑問の目が向けられている。

トランプ政権の命運を左右する「下院フリーダム議連」

 採決にすら持って行けなかった最大の理由は共和党内の分裂だ。とりわけ、保守強硬派が集う下院フリーダム議連(HFC:House Freedom Caucus)の造反である。

 HFCはティー・パーティの流れをくむ下院共和党の保守強硬派。小さな政府を金科玉条とし、徹底的な歳出カットや減税を求める財政タカ派だ。大きな政府の象徴であるオバマケアを蛇蝎のごとく嫌っている。メンバーが開示されていないため正式な数は不明だが、30〜40人とされる。

 彼らの存在が一躍、有名になったのは2015年9月のベイナー・前下院議長の追い落としだ。

 2013年10月以来の政府閉鎖を回避すべく、2016年度予算案の成立に向けてギリギリの調整を続けていたが、前議長の政治的妥協を批判していた同議連は解任動議を提出、ベイナー前議長は辞任に追い込まれた。後任として白羽の矢が立ったライアン氏は挙党一致を条件に下院議長に就任した。この時はHFCもライアン議長の支持を表明している(下院フリーダム議連がライアン氏を支持した時の声明)。

トランプケアは「撤廃とはほど遠い内容」

 トランプ大統領の最初のビッグディールでHFCの面々が造反したのは、ライアン議長など下院共和党指導部の提示した案が撤廃とはほど遠い内容と考えたためだ。

 代替法案では批判の多かった個人や従業員の健康保険加入の義務付けを撤廃、低所得者向けの補助金に替わるものとして、年齢や収入をベースにした税額控除も盛り込んだ。だが、払い戻す形での税額控除は補助金と替わらないと反発を強めた。

 下院共和党は定数535議席中、過半数を超える237議席を抑えている(空席が5議席)。ただ、下院で法案を可決させるには空席を考えると216票が必要で、22人が反対すれば、法案は通らない。

共和党の穏健派は無保険者の増大を懸念

 一方で、共和党の穏健派は代替法案によって想定される無保険者の増大に懸念を強めた。

 オバマケアによって2000万人以上の無保険者が健康保険に加入することが可能になった。既存保険者の保険料アップやオバマケアに伴う増税には強い批判があるが、既にオバマケアは制度として定着している。オバマケアの撤廃と置き換えで無保険者が増加すれば、次の選挙で自身の首が危うい。

 実際、2月の議会休会中に各議員が地元で開催したタウンホール・ミーティングでは、自身の保険内容が劣化するのではないかと不安に感じた有権者の批判が相次ぎ、各所で炎上した。中立的な議会予算局(CBO)も、「代替案を施行すれば、現行制度を継続させた場合と比べて無保険者が2016年に2400万人増える」という衝撃の試算を発表している。

 撤廃しなければ公約違反だが、撤廃後、無保険者が増えても政治的打撃が大きい。中道派の共和党議員は極めて難しい立場に置かれた(参考 2017年2月28日配信記事「共和党に回り始めたオバマケアの『毒』」)。

HFCのメンバーをボーリングに招待したりしたが…

 トランプ大統領は保守強硬派や立場を決めていない議員を懐柔するため、「代替法案に賛成するか、さもなくば(2018年秋の)中間選挙で落選するか」という脅しに近い圧力をかけた。同時に、HFCのメンバーをボーリングに招待したり、賛否未定の議員をエアフォースワンに同乗させたり、執務室で記念写真を撮ったり、硬軟織り交ぜて説得に当たった。だが、結果はご存じの通りである。

 大統領令を連発するなど就任直後は活発に動いた感のあるトランプ政権だが、その後は側近の辞任やロシアを巡る疑惑など足元はふらついている。肝心の政策も、イスラム圏からの入国制限を企図した大統領令は連邦裁判所によって二度にわたり差し止め命令が出された。各省庁の政治任命スタッフは指名さえされていないケースが大半で、「政権の体をなしていない」という声も漏れる。今回の挫折は混乱が続く政権には大打撃だろう。

 さらに、オバマケア撤廃の頓挫によって、今後予定される抜本的な税制改正にも暗雲が垂れ込める。

 下院共和党はオバマケアの撤廃・置き換えを完了させた後、税制改正に取り組む意向を示しており、代替法案の撤回によって税制改正の時期が繰り上がった格好だ。もっとも、下院共和党指導部はオバマケアの撤廃で削減される公的支出を法人税減税や個人所得税引き下げの原資に考えていた。これまで財政タカ派は税収中立を訴えており、大規模減税を実現するには別の財源を見つけなければならない(一方で「完全な税収中立は求めない」という声も上がり始めた)。

「税制改正」はトランプ大統領に可能か

 財源確保のウルトラCとして下院共和党指導部は「国境調整」の導入も視野に入れるが、こちらも大きな影響を受ける小売業界やエネルギー業界の反対が強く、共和党の上院議員を中心に反対の声が広がっている(国境調整とは:参考 2017年2月7日配信記事 「トランプ政権は言われるほどひどくない」)。10年間で1兆ドルとささやかれる国境調整の税収がなければ、トランプ大統領の提唱する法人税15%はともかく、ライアン議長の20%も難しいが、議会の批判もあり、導入の可能性は低いという声が大半だ。

 「ヘルスケアはとても複雑なイシューだが、ある意味で税制改正はオバマケアよりもシンプルだ」。ムニューシン財務長官はこう述べるが、オバマケアの顛末をみていると、再びHFCが抵抗勢力になる可能性は否定できない。

 今回の税制改正では税率の引き下げだけでなく、ワールドワイド課税(米国外で稼いだ利益を配当で持ち帰る際に課税される制度)の見直しなど、1986年のレーガン改正以来の大規模な税制改正になることが期待されている。だが、カオスの中で政治資本を浪費しているトランプ大統領に、そして凄腕のディールメーカーとしての看板が色あせつつあるトランプ大統領に可能なのか。懐疑の目が向けられている。

 日経ビジネスはトランプ政権の動きを日々追いながら、関連記事を特集サイト「トランプ ウオッチ(Trump Watch)」に集約していきます。トランプ大統領の注目発言や政策などに、各分野の専門家がタイムリーにコメントするほか、日経ビジネスの関連記事を紹介します。米国、日本、そして世界の歴史的転換点を、あらゆる角度から記録していきます。

このコラムについて

トランプのアメリカ〜超大国はどこへ行く
1月20日に第45代米大統領に就任したドナルド・トランプ氏。通商政策や安全保障政策など戦後、米国が進めてきた路線と大きく異なる主張をしているトランプ大統領に対する不安は根強い。トランプ氏は具体的に何を実施し、何を目指しているのか。新大統領が率いるアメリカがどこに向かうのか。それをひもといていこうというコラム。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/012700108/032700018
http://www.asyura2.com/17/kokusai18/msg/757.html

[経世済民120] 個人消費に変調か、ファミレス客単価に失速感 週1回で月謝7000円、貧困生徒を救う格安塾 記者の眼 教育の機会を十分
個人消費に変調か、ファミレス客単価に失速感

上野泰也のエコノミック・ソナー

「フィットネスクラブ売上高」も前年割れ寸前
2017年3月28日(火)
上野 泰也

ファミレスの客単価の伸びが明らかに鈍っている。(写真:PIXTA)
身近な経済指標に変調のシグナルが

 個人消費が変調していることを示すシグナルが、筆者が長くウォッチしている身近な指標の1つに出てきている。

 経済産業省が3月10日に発表した1月の特定サービス産業動態統計速報で、「フィットネスクラブ売上高」が前年同月比▲0.7%になった。マイナスは2012年1月以来、実に5年ぶりのことである。その後、22日に発表された確報では同+0.2%に上方修正され、マイナス圏への転落はかろうじて免れたものの、失速感があることに変わりはない<図1>。昨年がうるう年だったというテクニカルな要因も寄与してくるので、次回2月分では確報段階でもマイナスになるのではないか。

■図1:フィットネスクラブ売上高

(出所)経済産業省
 売上高の内訳を見ると、会費収入計はフィットネスクラブが前年同月比+0.9%で、スクールが同+1.8%。利用料金収入は同+8.4%。顕著に減少したのは食堂・売店売上高(直営のもの)で、同▲24.0%である(9か月連続の減少で、マイナス幅は1月に急拡大)。

消費者の支出絞り込みがワンステップ進んだ?

 フィットネスクラブへの支出は、生活必需品的な基礎的支出ではなく、カテゴリーとしては、選択的支出に含まれる。けれども、高齢化が着実に進む中で従来以上に広がってきている健康志向から考えて、支出を絞り込もうとする際にも最後までそのまま残されやすいものではないかと考えられる。したがって、その変調に持続性があるのなら、消費者の支出絞り込みがワンステップ進んでしまったことが示されている可能性がある。次回2月分以降のデータを注視する必要があろう。

 個人消費の変調ないし停滞シグナルと考えられる身近な指標としてもう1つ、上がりにくくなっているファミリーレストランの客単価を見ておきたい。

 2月27日に日本フードサービス協会から発表された1月の外食産業市場動向調査で、外食売上高(全店ベース)は前年同月比+2.4%になった。プラスは5か月連続で、個人消費は持ち直しているのではないかという印象を抱く向きもあろう。

客単価の伸びが明らかに鈍っている「ファミレス」

 しかし内訳を見ると、目立って堅調だったのは相対的に価格が安い上に店舗の数が多い「ファーストフード業態」である(前年同月比+4.2%)。

 また、この月は利用客数が前年同月比+2.1%という高い伸びを記録し、売上高を持ち上げる主因になったのだが、これには天候要因も寄与したと考えられる。1月の雨天日数は、東京都で2日、大阪府で1日、前年同月よりも少なかった。

 景気動向を探る身近なインディケーターとして筆者が以前より注視しているのは「ファミリーレストラン業態」に限った売上高である。1月は前年同月比+0.8%という小幅の増加にとどまった。それ以上に重要なのは、消費者のマインドが良好であれば上がってくると考えられる客単価の伸びが、この業態で明らかに鈍っていることである<図2>。

■図2:外食売上高「ファミリーレストラン」 客単価と利用客数の売上高への寄与度

注:全店ベース。店舗数の寄与度は表示していない。
(出所)日本フードサービス協会
 2014年4月の消費増税前後から2015年11月まで、この業態の客単価は同+2〜4%台で、しっかりと伸びていた。円安などによるコスト増加分の上乗せ、付加価値をつけたワンランク上のメニュー提供という供給側の工夫がうまく運んでいた時期だったと言えるだろう。

 ところが、客単価はその後はなかなか伸びなくなっており、2016年8月と9月はマイナス。10月からは4か月連続の上昇を記録したが、最も高い2017年1月でも前年同月比+1.3%止まりである。

日本経済の安定感が欠如

 より包括的な統計からも、個人消費の直近の状況を見ておきたい。

 3月8日に内閣府から発表された昨年10〜12月期のGDP(国内総生産)2次速報で、民間最終消費支出(個人消費)は前期比+0.0%にとどまった。1次速報の同▲0.0%からは上方修正されたものの、ほとんど伸びていない。日本経済は昨年後半、2四半期続けて純輸出(外需)主導の成長パターンになったのだが、海外経済や為替相場の動き、さらには主力である電子部品ではスマートフォンなど完成品の需要サイクルに振り回されやすいため、安定感が欠如していることは否めない。

 また、GDPデータを加工して作成することができる統計のうち、単位労働コスト(名目雇用者報酬÷実質GDP)を見ると、10〜12月期は前年同期比+0.5%にとどまった。2016年1-3月期の同+2.3%がピークで、増加率は3四半期連続で鈍化してきており、これは個人消費にとり、ネガティブな動きである。

家計消費の面で、世帯の生活水準は切り下がっている

 月次で発表されている個人消費の関連統計も、概観しておきたい。内閣府の消費総合指数、および日銀の消費活動指数は、ともに直近レンジの近辺での上下動にとどまっている。

 また、家計調査の消費水準指数(世帯人員及び世帯主の年齢分布調整済)を見ると2015年から低下基調となっており、家計消費の面で、世帯の生活水準は切り下がっている。

 現金給与総額(雇用者1人当たりの名目賃金)は伸びが限られており、物価上昇を勘案した実質賃金は2010〜2013年頃に推移していた水準から5%ほど切り下がった状態である。

勤労者世帯の平均消費性向は低下、背景に「長生きリスク」

 雇用者の数は伸びているため、1人当たり名目賃金と掛け合わせた総雇用者所得は上向いている。だが、家計調査を見ると勤労者世帯の平均消費性向(可処分所得に占める消費支出の割合)は低下しており、マクロでの所得増加が消費増加には直結しない構図になっている。そして、その背景として指摘する声が多いのが、若年層から中高年まで幅広い層により意識されている、将来不安(長生きリスク)の存在である。

 国内景気に関する筆者の基本認識は、2014年4月の消費税率引き上げの前からほとんど変わっていない。すなわち、持続的で力強いけん引役、野球の試合に例えれば、安心して任せられる「エースピッチャー」が見当たらないため、その「試合運び」は本質的には常に不安定であり、「風頼み」「風任せ」という側面がある。

 すでに述べたように、純輸出が昨年後半は予想外に好投したわけだが、電子部品の輸出に一巡感が今後出てくることが十分予想される上に、自動車の輸出では「トランプリスク」が警戒されるため、今後に大きな期待をかけるのは難しいだろう。

円高ドル安方向に大きく動くと、景気全体の腰折れリスクが浮上

 2016年度第2次補正予算で公共事業が上積みされており、今年4〜6月期と7〜9月期には公的固定資本形成(公共投資)が景気を下支えすると見込まれるものの、これは一時的な下支え以上の期待はしにくい需要項目である。

 そうした中で、仮に為替相場が円高ドル安方向に大きく動くようだと、企業収益さらには景気全体の腰折れリスクが、たちまち浮上する。安倍内閣の大番頭である菅義偉官房長官が為替リスクの管理を重視した発言をしているゆえんである。

 長いイニングを投げさせても安心して見ていられるような「エースピッチャー」が現れそうにないため、国内景気の持続的で力強い回復は期待できず、先行き不透明感は強いというのが結論である。


このコラムについて

上野泰也のエコノミック・ソナー
景気の流れが今後、どう変わっていくのか?先行きを占うのはなかなか難しい。だが、予兆はどこかに必ず現れてくるもの。その小さな変化を見逃さず、確かな情報をキャッチし、いかに分析して将来に備えるか?著名エコノミストの上野泰也氏が独自の視点と勘所を披露しながら、経済の行く末を読み解いていく。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/248790/032300087/

 
週1回で月謝7000円、貧困生徒を救う格安塾

記者の眼

教育の機会を十分に得られない子をなくすために
2017年3月28日(火)
西 雄大
 先日、国公立大学の後期日程の合格発表があった。受検勉強の努力が実って志望校に合格した人もいるだろう。4月からの新生活に心を躍らせる人が多い時期だ。

 だが残念ながら、家庭の貧困が原因で教育の機会を十分に得られていない子供が約300万人もいる。

 子どもの貧困率は、景気変動などの影響を受けて若干の上下を伴いつつも、1980年代からほぼ一貫して上昇傾向にある。2012年には16.3%に達し、約6人に1人が貧困状態にある。他国と比較しても、米国やポルトガルなどに次いで高い水準にあり、この10年ほどで貧困率の上昇幅が大きい国となってしまった。

 この問題は貧困家庭の子どもたちだけの将来にとどまらない。三菱UFJリサーチ&コンサルティングと日本財団が共同で試算したところ、子供の貧困を放置しておくと、所得が42兆9000億円失われるとともに、財政収入が15兆9000億円減ってしまうという。

 さらに政府は生活保護などの社会保障などで約1兆1000億円の財政負担が発生する。本人だけでなく国の財政にも大きな影響があるのだ。

 この社会的損失を小さくするために欠かせないのが教育格差の是正だ。貧困世帯の子供は、全世帯と比較して進学率が低く、中学や高校卒業後に就職したり、中退してしまったりする割合が高い。例えば、全世帯の大学(専修学校含む)などへの進学率は73.3%だが、児童養護施設で暮らす子どもは22.6%にとどまる。生活保護を受給する家庭も32.9%と低い。子どもの教育機会を確保すれば、高校や大学への進学率が向上する。そして職業選択の幅が広がり、貧困から抜け出せる可能性がある。

 学力向上に欠かせないのが、学習塾へ通える環境を整えることだ。裕福な家庭の子供は学校教育だけでなく、学習塾や家庭教師など学力向上のために資金を投じてもらっている。家庭環境によって大きな差が生じている。最近、従来よりも低価格に抑えた学習塾が増えてきた。そのひとつが葵(東京・新宿、石井貴基社長)だ。

スマホで無料授業


アオイゼミは毎晩無料で授業を放送している
 葵が運営する「アオイゼミ」はスマートフォンさえあれば、無料で授業を受けられる。中高生向けに授業を生放送しているが、メールアドレスなどを登録すれば無料で視聴できる。講師も大手予備校経験者を揃え、中高生向けに9科目の授業を配信するなど一般的な学習塾の授業内容とそん色がない。放送中に質問をしたり、ほかの生徒と交流したりもできるなどIT(情報技術)を活用したサービスも受けられる。

 さらに月額3500円のプレミアムコースになれば、過去の授業4000本以上を好きな時間に授業を受けられるほか、テキストもダウンロードできる。プレミアムコースでも、授業料は一般的な学習塾の4分の1程度で済む。

 アオイゼミは教室をもたず、放送設備しかない。固定費を抑えることで低価格を実現できた。石井社長は「『塾に行ける経済的な余裕がなかったが国立大学に合格できた』という報告もきている。学習意欲さえ高ければ、所得格差も地域格差も乗り越えられる」という。アオイゼミには2017年も国公立大学や有名私立大学への合格報告が届き始めている。

圏外の立地でコスト削減

 ほかにも貧困家庭でも受けられるよう授業料を抑えた学習塾がある。コラボプラネット(福岡県糸島市、西原申敏社長)は出店戦略で低価格を実現した。授業料は週1回で月7000円。一般的な学習塾と比べ半額程度に抑えた。


コラボプラネットが運営する学習塾。空きスペースを活用して固定費を削減
 出店戦略はどの企業も重要だが、同じ計算式で使うと同じような場所に進出してしまう。

 多くの学習塾は駅前に出店し、近くに2〜3つの学校がある地域を探す。さらに教師を集めるため、近隣に大学がないかも確認する。近隣にある2〜3の学校から200人を集めて、大学生のアルバイト教師を見つけられれば十分収益があがるものだ。各社は地図情報システムを駆使して、候補地を探す。そのため同じような場所に教室を開いてしまう。

 コラボプラネットはあえて他社が圏外だと考えた場所を狙う。西原社長は「最後発で同じことをしたら収益があがらない」と考えた。

 圏外であれば競争相手は少ない。だがそうした地域でも、子供の教育に熱心な家庭は都市部まで送り迎えをしていることが多い。ただでさえ子供は少ないうえに見込み客となりそうな人は既に別の塾に通っている。

 そこで西原社長は授業料を低価格に抑えれば貧困家庭にも対象顧客が広がり、需要を掘り起こせると判断した。「勉強の楽しさを教えれば成績はあがる。20点しか取れなかった生徒が60点程度に上げられている」(西原社長)。

 圏外の場所でも採算を確保できるように固定費を削減した。学習塾の主な固定費は家賃と人件費だ。開講時だけ費用がかかるようにした。

 商工会議所や寺院などを間借りし、教室を開いている。教材はイーラーニングで用意し、教師はいない。その代わり、施錠や出欠管理といった教室の管理人の業務を担う支援アドバイザーを時給制で雇う。圏外の地域は雇用も少ない。コラボプラネットが進出することで、雇用も創出できるというメリットもある。

 冒頭の試算のように子供の貧困は社会的な損失も大きい。こうした安価なサービスを活用できれば、学力が向上する可能性を秘める。

 ただ学力を伸ばす前提条件として必要なのが動機づけだ。夢や目標がないと学習意欲はわかない。ここは大人の出番だ。自分の仕事の魅力を伝えることで、子供は目標としてとらえられるかもしれない。貧困層の子どもたちの親はギャンブルやアルコールなどに依存した生活を送るなど、働き方に問題がある人が少なくない。異なる世界を見せることで希望を見出し、学習意欲が高まる可能性がある。多くの大人が参加できる身近なボランティアになるとも感じた。


このコラムについて

記者の眼
日経ビジネスに在籍する30人以上の記者が、日々の取材で得た情報を基に、独自の視点で執筆するコラムです。原則平日毎日の公開になります。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/221102/032400432

 


週1回で月謝7000円、貧困生徒を救う格安塾

記者の眼

教育の機会を十分に得られない子をなくすために
2017年3月28日(火)
西 雄大
 先日、国公立大学の後期日程の合格発表があった。受検勉強の努力が実って志望校に合格した人もいるだろう。4月からの新生活に心を躍らせる人が多い時期だ。

 だが残念ながら、家庭の貧困が原因で教育の機会を十分に得られていない子供が約300万人もいる。

 子どもの貧困率は、景気変動などの影響を受けて若干の上下を伴いつつも、1980年代からほぼ一貫して上昇傾向にある。2012年には16.3%に達し、約6人に1人が貧困状態にある。他国と比較しても、米国やポルトガルなどに次いで高い水準にあり、この10年ほどで貧困率の上昇幅が大きい国となってしまった。

 この問題は貧困家庭の子どもたちだけの将来にとどまらない。三菱UFJリサーチ&コンサルティングと日本財団が共同で試算したところ、子供の貧困を放置しておくと、所得が42兆9000億円失われるとともに、財政収入が15兆9000億円減ってしまうという。

 さらに政府は生活保護などの社会保障などで約1兆1000億円の財政負担が発生する。本人だけでなく国の財政にも大きな影響があるのだ。

 この社会的損失を小さくするために欠かせないのが教育格差の是正だ。貧困世帯の子供は、全世帯と比較して進学率が低く、中学や高校卒業後に就職したり、中退してしまったりする割合が高い。例えば、全世帯の大学(専修学校含む)などへの進学率は73.3%だが、児童養護施設で暮らす子どもは22.6%にとどまる。生活保護を受給する家庭も32.9%と低い。子どもの教育機会を確保すれば、高校や大学への進学率が向上する。そして職業選択の幅が広がり、貧困から抜け出せる可能性がある。

 学力向上に欠かせないのが、学習塾へ通える環境を整えることだ。裕福な家庭の子供は学校教育だけでなく、学習塾や家庭教師など学力向上のために資金を投じてもらっている。家庭環境によって大きな差が生じている。最近、従来よりも低価格に抑えた学習塾が増えてきた。そのひとつが葵(東京・新宿、石井貴基社長)だ。

スマホで無料授業


アオイゼミは毎晩無料で授業を放送している
 葵が運営する「アオイゼミ」はスマートフォンさえあれば、無料で授業を受けられる。中高生向けに授業を生放送しているが、メールアドレスなどを登録すれば無料で視聴できる。講師も大手予備校経験者を揃え、中高生向けに9科目の授業を配信するなど一般的な学習塾の授業内容とそん色がない。放送中に質問をしたり、ほかの生徒と交流したりもできるなどIT(情報技術)を活用したサービスも受けられる。

 さらに月額3500円のプレミアムコースになれば、過去の授業4000本以上を好きな時間に授業を受けられるほか、テキストもダウンロードできる。プレミアムコースでも、授業料は一般的な学習塾の4分の1程度で済む。

 アオイゼミは教室をもたず、放送設備しかない。固定費を抑えることで低価格を実現できた。石井社長は「『塾に行ける経済的な余裕がなかったが国立大学に合格できた』という報告もきている。学習意欲さえ高ければ、所得格差も地域格差も乗り越えられる」という。アオイゼミには2017年も国公立大学や有名私立大学への合格報告が届き始めている。

圏外の立地でコスト削減

 ほかにも貧困家庭でも受けられるよう授業料を抑えた学習塾がある。コラボプラネット(福岡県糸島市、西原申敏社長)は出店戦略で低価格を実現した。授業料は週1回で月7000円。一般的な学習塾と比べ半額程度に抑えた。


コラボプラネットが運営する学習塾。空きスペースを活用して固定費を削減
 出店戦略はどの企業も重要だが、同じ計算式で使うと同じような場所に進出してしまう。

 多くの学習塾は駅前に出店し、近くに2〜3つの学校がある地域を探す。さらに教師を集めるため、近隣に大学がないかも確認する。近隣にある2〜3の学校から200人を集めて、大学生のアルバイト教師を見つけられれば十分収益があがるものだ。各社は地図情報システムを駆使して、候補地を探す。そのため同じような場所に教室を開いてしまう。

 コラボプラネットはあえて他社が圏外だと考えた場所を狙う。西原社長は「最後発で同じことをしたら収益があがらない」と考えた。

 圏外であれば競争相手は少ない。だがそうした地域でも、子供の教育に熱心な家庭は都市部まで送り迎えをしていることが多い。ただでさえ子供は少ないうえに見込み客となりそうな人は既に別の塾に通っている。

 そこで西原社長は授業料を低価格に抑えれば貧困家庭にも対象顧客が広がり、需要を掘り起こせると判断した。「勉強の楽しさを教えれば成績はあがる。20点しか取れなかった生徒が60点程度に上げられている」(西原社長)。

 圏外の場所でも採算を確保できるように固定費を削減した。学習塾の主な固定費は家賃と人件費だ。開講時だけ費用がかかるようにした。

 商工会議所や寺院などを間借りし、教室を開いている。教材はイーラーニングで用意し、教師はいない。その代わり、施錠や出欠管理といった教室の管理人の業務を担う支援アドバイザーを時給制で雇う。圏外の地域は雇用も少ない。コラボプラネットが進出することで、雇用も創出できるというメリットもある。

 冒頭の試算のように子供の貧困は社会的な損失も大きい。こうした安価なサービスを活用できれば、学力が向上する可能性を秘める。

 ただ学力を伸ばす前提条件として必要なのが動機づけだ。夢や目標がないと学習意欲はわかない。ここは大人の出番だ。自分の仕事の魅力を伝えることで、子供は目標としてとらえられるかもしれない。貧困層の子どもたちの親はギャンブルやアルコールなどに依存した生活を送るなど、働き方に問題がある人が少なくない。異なる世界を見せることで希望を見出し、学習意欲が高まる可能性がある。多くの大人が参加できる身近なボランティアになるとも感じた。


このコラムについて

記者の眼
日経ビジネスに在籍する30人以上の記者が、日々の取材で得た情報を基に、独自の視点で執筆するコラムです。原則平日毎日の公開になります。
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http://www.asyura2.com/17/hasan120/msg/505.html

[原発・フッ素47] 22年間で稼働250日、もんじゅ廃炉は断腸の思い 証言 青砥紀身氏[高速増殖原型炉もんじゅ所長] 
22年間で稼働250日、もんじゅ廃炉は断腸の思い

証言

青砥紀身氏[高速増殖原型炉もんじゅ所長]
2017年3月28日(火)
高速増殖炉原型炉「もんじゅ」の廃炉が昨年末、決まった。稼働から22年、事故や不祥事が相次いだ。 発電しながら消費した以上の燃料を生み出す「夢の原子炉」と期待されたが、稼働したのはたったの250日。 近年では点検漏れが頻発。現場は再生に向けて努力を続けてきたが、その思いがかなうことはなかった。

[高速増殖原型炉もんじゅ所長]青砥紀身氏

(写真=北山 宏一)
1954年生まれ。84年、東京大学工学部原子力工学科修了後、動力炉・核燃料開発事業団(現日本原子力研究開発機構)に入社。同機構次世代原子力システム研究開発部門長などを経て2014年10月から現職。15年4月、理事に就任。
もんじゅ廃炉の概要
発電しながら使った以上の燃料を生み出す高速増殖炉原型炉の「もんじゅ」(福井県敦賀市)。国立研究開発法人の日本原子力研究開発機構が運営する。建設、運営費に1兆円を投じたものの事故や点検漏れなどの不祥事が相次ぎ、稼働日数は22年間でわずか250日にとどまった。2016年12月、政府はもんじゅの廃炉を正式に決定した。

福井県敦賀市にある高速増殖炉原型炉のもんじゅ。2010年に運転を停止して以来、再稼働に対する地元の期待もあったが、廃炉が決まった(写真=共同通信)
 昨年12月、高速増殖炉原型炉もんじゅの廃炉が正式に決まりました。所長のミッションは当然ながら「もんじゅ再生」でした。2010年8月の事故以来、運転を停止した状態でしたから。

 ですが、最終的にそれが成し遂げられなかった。そのふがいなさには自分自身、腹が立ちます。廃炉は断腸の思いで、残念としかいいようがありません。廃炉決定からしばらく時間はたちましたが、当時から私のこの思いは変わっていません。

 日ごろから懇意にしていただき、もんじゅの再稼働を期待してくださった地元の方々、特に福井県敦賀市白木地区周辺の方々には大変、申し訳ないと思っています。

規制委にはしごを外された

 昨年12月21日、関係閣僚会議で廃炉の方向性が決められ、その日のうちに松野博一文部科学相から指示書が渡されました。(もんじゅを運営する日本原子力研究開発機構の)理事長、副理事長とともに私もその場におりました。私の個人的な気持ちはどうあれ、従うべきものでした。

 もんじゅの廃炉については、以前から様々な報道がありました。そうした報道を見ながら「単なる風聞もある。廃炉を唱える人も当然いるだろう」というレベルで見なしていました。

 状況が変わったのは昨年9月16日、自民党の茂木敏充政調会長が「廃炉は不可避」との考えをメディアのインタビューで表明したことです。同月21日には関係閣僚会議で「廃炉を含めて抜本的に見直す」という話が出ました。これは、廃炉が正式に決まる事前の出来事としては大きなショックでした。

 もちろん、それまでも、「廃炉までは議論が進まないだろう」と能天気に構えていたわけではありません。

 15年11月、原子力規制委員会が当時の馳浩文科相に対してもんじゅの運営主体を日本原子力研究開発機構から変更するよう勧告をしました(編集部注:規制委は「機構に代わってもんじゅの出力運転を安全に行う能力を有すると認められる者を具体的に特定すること」「もんじゅの出力運転を安全に行う能力を有する者を具体的に特定することが困難であるのならば、もんじゅが有する安全上のリスクを明確に減少させるよう、もんじゅという発電用原子炉施設の在り方を抜本的に見直すこと」の2項目について半年をメドに措置を求めた)。

 これは極めて厳しい内容でした。いわば、私たち運営者は「舞台から出ていけ」ということですから。

 当時、この勧告について私は「はしごを外された感がある」と報道陣の取材に答えました。所長に就任以来、現場の改善、改良を進めてきました。勧告が出る数日前、新たな改善計画を規制委にも説明をしました。さらに一歩、進めようとしていた矢先のこと。「成果を待ってはいただけないのか」との思いから、正直に感想を述べました。

 確かに15年、四半期ごとの規制委の保安検査で点検不備などによる保安規定違反が続きました。しかし、それもしっかり手を打っていけば改善できると考えていました。

 勧告が出ていろいろとお叱りを受けながらも、自分たちがやるべきこと、つまり、もんじゅ再生に向けた作業を続けてきました。改善計画を実行し、昨年8月にはその成果を報告書にまとめました。

 ですからその直後の9月にもんじゅの見直しの方向性が出されてからは、再稼働の必要性や得られるだろう成果について、技術的な側面を含めて関係者には説明を続けてきました。最後の最後まで説明していこうという思いでした。しかし、残念ながらもんじゅの再生は最終的にかないませんでした。

 資源を繰り返し使える原子力システムの原型炉としてもんじゅは1994年に初臨界しましたが、翌95年12月にナトリウム漏洩事故が起き、運転を停止しました。その後、2010年に運転再開するものの、装置の落下事故で再び運転を停止しました。22年間で稼働したのは250日間のみでした。

最初の失敗を引きずった

 この22年間の時間の費やし方を振り返ってみると非常に残念でした。多くの関係者にとって後悔があると思います。1995年の事故後、再稼働まで14年がかかった。本来であれば、もっと早く稼働して、何か問題があれば検証して再稼働させる。そのために時間を費やすべきでした。

 例えばロシアの高速増殖炉はナトリウム漏洩事故を何度も起こしていますが、長くても数カ月で復旧して技術と経験を蓄積していきました。

 もんじゅでそれができなかったのは当時「事故を事件に変えてしまった」といわれたように、事故を隠蔽して社会的な信頼を失ったことなど、世の中の動きを読めなかったからです。訴訟もありました。(日本原子力研究開発機構の前身である当時の動力炉・核燃料開発事業団は)社会との関わり方が下手で貧弱な組織だったと認めざるを得ません。

 2回目の事故から復旧するため補修工事を終えた2011年、東日本大震災が発生し、福島第1原子力発電所事故が起きました。もんじゅの再稼働は中止。12年には約1万点の機器で点検漏れが発覚しました。

 点検ミスについては、現場の甘えがありました。問題が起きてから修正すればいいという甘さがまずあり、そのサイクルを回す前に点検の期限を超過してしまった。さらに、職員がシステムを理解せず、放置してしまった。

 私はもんじゅ自体に致命的な技術的な困難さがあったとは思っていません。ですが、最初の失敗を引きずり、世間の不信感を払拭することができぬまま今に至ってしまいました。

 廃炉には長い年月がかかります。これまでと方向は違いますが、私たちがやるべき次の仕事で、その意味では、何も変わることはありません。

 「日本の50年後、100年後のエネルギー供給で、一つの確立したシステムとして資源を繰り返し使える原子力を提示したい」という思いが揺らぐことはありません。

事故や不祥事が続いた
●もんじゅに関する主な出来事

(日経ビジネス2017年3月27日号より転載)


このコラムについて

証言
時代を切り拓き、その先に見えるものを。誰もが忘れ去ろうとしているものを、今なお思い起こしつつ。あるいは、わずかな人だけが見ることのできる地平に立ち、その眼に映るものを。語り得る人たちのその言葉を、問わず語りで、ありのままにお伝えします。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/interview/15/279177/032700020
http://www.asyura2.com/16/genpatu47/msg/714.html

[社会問題9] アドラー心理学、「部下をほめてはダメ」の功罪 キーパーソンに聞く 心理学者の早稲田大学教授・向後千春さんに聞く 
アドラー心理学、「部下をほめてはダメ」の功罪

キーパーソンに聞く

心理学者の早稲田大学教授・向後千春さんに聞く
2017年3月28日(火)
柳生 譲治
 『嫌われる勇気』(2013年刊)の出版・大ヒット以来、アドラー心理学のブームが今も続いている。アドラー心理学の冠がつけられた多様な書籍が出版されているほか、今年1月からはフジテレビ系列で同書籍を原作とするドラマ「嫌われる勇気」が放映された(〜3月16日まで)。しかし、テレビドラマについてはその内容が適切でないとして「日本アドラー心理学会」からの抗議文がテレビ局に送られるなど、アドラー心理学について一部誤解されたり、正確とは言えない内容が流通している部分もあるようだ。
 このため今回は、アドラー心理学について長く研究をつづけ、『嫌われる勇気』の著者の岸見一郎さんと兄弟弟子(ともに日本におけるアドラー心理学の草分けである精神科医・野田俊作氏の弟子)の関係でもある、早稲田大学の向後千春教授に、アドラー心理学の効用や、同心理学についての誤解などについて語っていただいた。

向後千春(こうご・ちはる)氏
早稲田大学人間科学学術院教授
1958年、東京都生まれ。早稲田大学第一文学部、同大学院文学研究科で心理学を学び、東京学芸大学で博士号取得(教育学)。早稲田大学助手、富山大学助教授等を経て、2012年から現職。専門分野はアドラー心理学、教育工学、教育心理学。『幸せな劣等感: アドラー心理学〈実践編〉』『人生の迷いが消える アドラー心理学のススメ』『アドラー“実践"講義 幸せに生きる』『上手な教え方の教科書』など著書多数。
日本アドラー心理学会からテレビ局への抗議

アドラーブームが続いている中、今年1月フジテレビ系列で放送された「嫌われる勇気」の内容について、2月に「日本アドラー心理学会」から「ドラマには極めて重大な問題がある」と“物言い”がついてしまいました。「ドラマのアドラー心理学理解は日本及び世界のアドラー心理学における一般的な理解とはかなり異なっている」といった抗議内容でした。(※ 日本アドラー心理学会による抗議の全文)

向後:そうみたいですね。テレビドラマは娯楽ですし、私はそんなに目くじら立てなくてもよいのではないかと思いますけれども。テレビで放送されることをキッカケとして、アドラー心理学を知ってくれる人は増えるでしょうからね。

ドラマの原作の『嫌われる勇気』は2013年の発売以来、シリーズ累計180万部超の大ヒットとなり、現在に至るまでアドラーブームが続いています。翻訳版は韓国や台湾などアジアを中心とする海外でもヒット。岸見さんはかなり以前からのお知り合いだそうですね。

向後:日本におけるアドラー心理学の第一人者である精神科医の野田俊作先生に、岸見一郎さんも私も教わっていたのです。1980年代後半頃からです。だから岸見さんは私の兄弟子ということになります。

岸見一郎さんの『嫌われる勇気』については、向後先生はどのようにお読みになりましたか? 書籍の『嫌われる勇気』は、「哲人」と相談者である「青年」の対話形式でアドラー心理学を分かりやすく紹介している本ですが、相談者である青年への哲人のアドバイスが、ふつうの人の常識を覆すような内容で、読者からすると「そこまで言うか」というような厳しい指摘がなされます。向後先生の近著『幸せな劣等感 アドラー心理学<実践編>』などと比べると、かなりトーンが異なりますよね。

書籍の『嫌われる勇気』は、岸見さんとライターの「共著」

向後:書籍の『嫌われる勇気』は、岸見一郎さんとライターの古賀史健さんという方との共著の読み物ですよね。本づくりには腕利きのある編集者が関わったと言われています。編集者や共著のライターが、本を万人の手にとってもらうことを目的として、また内容を分かりやすくするために、アドラー心理学の一部を強調したり脚色したりした側面はあるのではと見ています。

(編集部注:岸見一郎さんや向後先生の師匠である野田俊作氏も、自身のホームページで「アドラー・ブームの火付け役である岸見一郎氏の『嫌われる勇気』は、『課題の分離』ばかり強調して『協力』に関連する考え方をあまり含んでいないので『名目アドラー心理学』だと思っていた」などと記述している。)

あえて人に嫌われる必要はない

要するに、岸見さんの著作ではあるけれども、どちらかというと、実際の執筆を行った古賀史健さんや編集者の影響が強い本ではないか、というお考えですね。

向後:そうです。例えば、タイトルについて言うと『嫌われる勇気』という言葉は刺激的なフレーズですが、アドラーの言葉ではありませんし、アドラー心理学の中心的なアイデアでもありません。それは岸見さんもご存じのはずで、キャッチコピーのようなものと私は考えています。

 岸見さんと古賀さんの訴えたいことは、「自分の信念に従って生きるために人から嫌われたとしても、それは問題ではない」ということであろうし、私もその考え方に賛同します。しかし、あえて人に嫌われる必要はないのは言うまでもありません。ただし、本のタイトルとして用いた場合、結果である「嫌われてもいい」という部分が前面に出過ぎて、勘違いをする読者がもしかしたらいるのではないかとは思いました。

 岸見さんの別の著作『アドラー心理学入門』(1999年刊)を読んでいただくとわかりますが、こちらは『嫌われる勇気』に比べると温かい語り口です。この本は古賀さんが岸見さんのアドラー研究に興味を持ったきっかけになった本とも言われています(参考記事 ケイクス「祝58万部突破!なぜアドラーの思想が絶大な支持を集めたのか?」)が、『嫌われる勇気』と『アドラー心理学入門』は同じ著者とは思えないですよね。『アドラー心理学入門』の内容の方が、本来の岸見さんではないかと私は思っています。

 もちろん岸見さんの考え方が変わったのではなく、例えば「SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)」などにおいて、他者から嫌われることを極度に恐れる人が増えた現代に対応した内容にするために『嫌われる勇気』では、アドラー心理学の要素の一部を強調したということだと思います。

「課題の分離」を強調するのは、個人主義が根づいていないから

『嫌われる勇気』には読者をひきつけるための、オーバーな表現が少なくありません。相談者である「青年」(=読者)に対して厳し過ぎやしないかという印象があり、一読した時、自分にはなじめない感じがありました。それが最も端的に出ているのが、「他者の課題」には踏み込まないことを強調した部分ではないかと。

向後:「課題の分離」の部分ですね。

書籍『嫌われる勇気』には、「他者の課題を切り捨てる」という章があって、「課題の分離」について詳細に解説しています。例えば、子供が勉強するのかしないのか、あるいは友達と遊びに行くのかいかないのか、これらは「子供の課題」であって、親の課題ではない。親が「勉強しなさい」などと命じるのは、いわば他者の課題に対して土足で踏み込むような行為──などと書かれています。
 テレビドラマの「嫌われる勇気」でも、「先輩」という呼び名はやめてくれと主人公が言い、困惑した後輩が「では、なんと呼べば?」と返すと、「それはあなたの課題です」と言い放ちます。主人公は「私とあなたは上下関係にありません」とも言っていたので、後輩と(アドラー心理学でいう)「縦の関係(支配と依存の関係)」になるのをおそらく嫌ったのでしょうが…初対面の先輩からこんな風に言われた後輩は、ちょっとキツイのではと…。

向後:確かに『嫌われる勇気』に書かれているような「課題の分離」を現実社会でいきなり実行すると、かえって生きづらくなるかもしれませんし、問題が起きる可能性はありますね。私個人としては、「あなたの課題」「私の課題」とわざわざ切り分けなくても、各人のプライベートセンス(私的感覚、その人が「正しい」と思っていることや「良い」と思っていることの集合体)はそれぞれ違うということを相互に認め合えば、誰の課題であるかは自然に分離されると思っています。このため、自分が書いた『幸せな劣等感』では、課題の分離には一切、触れませんでした。

 人それぞれ違うところは認め、各人で共通できるところは合意できる感覚(=「コモンセンス」)として共有する。合意できないところは、そのまま放っておこうと。つまり「相手を変えようとはしない」こと。この心がけがとても重要です。相手を変えようとしたり、自分の私的感覚を相手に押しつけようとしたりするから問題が起こるのです。

 実は、個人主義の欧米では一般的に「課題の分離」を強調する必要はありません。親子の間であっても、親は親、子供は子供と、別人格であるのが当然の社会で、もともと課題の分離がなされているからです。一方、日本など東アジアでは、いまも家族主義的であり個人主義はまだ浸透していません。家を中心に親や子の課題がくっついてしまっているのが現実なのです。

 ビジネスの世界でも同様で、会社の中で上司の課題と部下の課題がくっついてしまっています。「君を見ていると、心配なんだよ」「おまえのためを思って指導しているのだ」などという言葉によって、部下を支配してしまう。これは問題です。

 だから、岸見さんと古賀さんは、こういう背景をふまえ、日本の事情に配慮し、課題の切り分けを強調されたのかもしれません。課題の分離を強調した『嫌われる勇気』が日本のほかにも、韓国や台湾など、個人主義が浸透していない東アジアで大変な人気なのも、この地域の社会の背景にあるものを考えると、もっともな感じがします。

心配するという行為自体は私の課題、心配を相手に押しつけない

「課題の分離」とは、つまり向後先生の場合で言うと、ゼミや研究室の学生さんがたとえ単位を落とたり卒業できなかったりしても、放っておくという姿勢ですよね。それは「学生の課題」であると。

向後:学生が単位を落としたり、進級できなかったり、就職できなかったりすると私でも心配ですよ。でも心配するという行為自体は「私の課題」ということです。「自分はこんなに心配しているのだぞ。だからお前、がんばれよ」などと、その心配を相手に押し付けることはしません。

 ちなみに、心配する延長線上で「この学生のために自分は何ができるだろうか」と考えることは、アドラーのいう「共同体感覚」というものに近づくことだと思います。共同体感覚とは、簡単に言えば、人とつながっている感覚、相手のために何ができるかという感覚です。

「対等の関係」がでできれていれば、ほめたっていい

向後先生は、学生をほめるということも普段しないのですか? アドラー心理学の教えの一つである、子供や部下を「ほめてはいけない」という部分に自分は心理的抵抗を感じ、これまでアドラー心理学になかなかなじめませんでした。

向後:アドラー心理学には「勇気づけ」という重要な概念があります。相手が自分自身を信じ、困難を乗り越えられるような言葉をかけてあげることです。しかし、勇気づけの際にアドラー心理学が推奨するのは、相手をほめたり、励ましたりするということではありません。ほめると、相手と自分の関係が、支配と依存の関係になってしまう可能性があるためです。

 とはいえ、ほめたって別にいいのですよ。「アドラー心理学では、人をほめてはいけない」という概念だけが何か先行してしまっているような感じですが、私も人をほめることはあります。アドラー心理学の意図は、ほめることで「上下の関係」「縦の関係」(支配と依存)をつくってしまうことを危惧するということです。「先生が生徒をほめる」「上司が部下をほめる」──そのときに、ともすると縦の関係が発生してしまいがちです。縦の関係とは、一方が一方をコントロールしてしまう関係です。

 相手との関係が支配・服従の「縦」の関係ではなく、対等の「横」の関係であることが何よりも重要であることをアドラーは説いています。親子の関係であっても、上司・部下の関係であっても、横の関係であることが大切です。横の関係とはそれぞれの人が対等であり、自分らしくいて、相互に協力し合える関係です。

「成長を促す魔法の言葉」など、ない

向後:横の関係が既に両者の間にできあがっていさえすれば、ほめても構わないと私は思います。繰り返しになりますが「ほめてはいけない」というのは、例えば「よく頑張ったな」などという言葉によって縦の依存と支配の関係がつくられ、ほめ言葉によって相手を支配するといった“悪用”が簡単にできてしまうためです。横の関係ができあがっているのであれば、その心配はないので、ほめたっていい。横の関係の人からの言葉には人は自然に耳を傾けるものです。逆に言えば、縦の関係であるときや、そもそも両者の間の関係ができていないときに、いくらほめても「勇気づけ」の効果はないでしょう。

 ちなみに、「成長を促す魔法の言葉」といったたぐいの書籍が巷にはたくさん出版されていますが、言葉だけで相手を成長させるということはありません。それよりも重要なのは相手との関係性です。相手との横の信頼関係があれば、相手の眼をみてニッコリするだけで勇気づけになることもあります。魔法の言葉など存在しない以上、そのときの自分と相手との関係性の中で、最適な言葉や態度を考え出していくしか方法はありません。

「ここにいていいのだ」という感覚があれば、やっていける

アドラー心理学の中にある「他者に承認を求めない」という考え方については、私も納得しました。誰かの期待を満たすように生きていたら、消耗してしまうのは間違いないですからね。とはいえ、誰かに認められたいという気持ちは、かなり根源的な欲求のようにも思います。承認を求めない姿勢を続けるのは、なかなか難しいとも思います。

向後:承認欲求は誰しもが持っているもので、それ自体が悪いものではありません。ただ、承認されたいがために何かをするという目的設定は不適切です。たとえ、自分に欠点があり、承認を得られないとしても、欠点も含めて自分を受け入れる「自己受容」がまず必要であり、他者による承認の前にまず、完璧でない自分をそのまま100%自己受容できていること、自分を好きでいることがまず重要です。

 少し脱線しますけれども、じつは「承認欲求」という用語はそもそも、アドラーより40年近く後の世代の心理学者、マズローの用語で、アドラー心理学では「承認欲求」という用語はあまり使いません。書籍『嫌われる勇気』の中に「承認欲求を否定する」という項目があり、「アドラー心理学では、他者から承認を求めることを否定します」と書いてありますから、読者の方々にはその印象が強いのかもしれません。

 アドラー心理学では、「承認」ではなく、むしろ「所属」を大きなテーマに掲げていると私は考えています。所属とは、言い換えるならば、自分の「居場所」であり、周りの人にどのように受け入れられるかです。「自分はここにいていいのだ、ここにいればやっていける」という感覚があれば、所属がうまくいっているということです。所属の問題は、人生の始まりから終わりに至るまで常に重要な問題です。


アルフレッド・アドラー(1870年〜1937年)。写真撮影は1930年。アドラー心理学は、人間性心理学のアブラハム・マズロー(1908年〜1970年)など後年の心理学者に大きな影響を与えた。実際に、マズローはニューヨークでアドラーのもとに通って多くのことを学んでいる。マズローは「私にとって、アルフレッド・アドラーは、年がたつにつれてますます正しいものになる」と書いている。(写真:IMAGNO/アフロ)
「所属」の感覚がないと、椅子はあっても居場所がない

「所属」の感覚が得られないと、どのようになりますか。

向後:例えば学校で「所属」の感覚がうまく得られないと不登校になるかもしれませんし、職場では出社拒否になるでしょう。言ってみれば、椅子はあっても居場所がない状態だと言えます。

 クラスでも職場でも共同体の中では、自然にそれぞれの人の役割は決まっていきます。例えば、仕事はあまりできないけれど、人を笑わせることでよいムードをつくる「道化師」役の人も職場にはいるかもしれません。自然とそういう役割が決まり、役割のある人には問題は起こりません。

 一方、役割や居場所がないと、精神的に不安定になってしまう懸念があります。役割を見出すことができず、居場所がないのはつらいものです。企業の管理職は、各人を競わせて誰が高いパフォーマンスを発揮するかを見るのではなく、各人の役割や所属感覚に気を配るべきなのです。

 現在、インターネット上でSNSが全盛を極めているのも、アドラー流にいえば「所属」の感覚を、マズロー流に言えば「承認欲求」を必死で求めていることが背景にあります。みな所属や承認を求めてフェイスブックやインスタグラム、ツイッターなどの投稿をしますが、ネット上ではネガティブな反応が返ってくることもありますね。すると、「自分は受け入れられていない」という感覚を持ったり、傷ついたりすることになります。

ほかの人を超える優秀性を発揮する必要はない

向後:ほかの人を超える優秀性を発揮しなければ「所属」の感覚が得られないというわけではないのですけれどもね。なぜなら、アドラーが人類の最大の発明であるという「分業」が社会構造の中には存在するから。つまり、自分に与えられた役割の中で共同体に貢献できればよいのです。

 「所属」の感覚を持っていれば、精神的に安定するということはいえるのですが、所属の感覚がないともう生きていけないのかといえば、必ずしもそうではないと思っています。なぜなら、家族という共同体を除いて、私たちは自分が所属する共同体を選ぶことができるからです。もし、あなたがある共同体に所属しているけれど「所属」の感覚が持てなかったり、そこから排除されようとしたりしているならば、そこを去ればいいだけですし、そこを去ったとしても人生に大きな影響はありません。私たちは、所属できる共同体が、せいぜい2、3個あれば安心して生きていけるのです。それは覚えておいていただきたいと思います。

アドラー心理学が正しいという保証はない、採用するのは自由

アドラーの心理学では、このほかにも、「目的論」や「ライフスタイル」「仮想論」「共同体感覚」といった、実生活に役立つ実用的なコンセプトがありますね。そうした概念や理論体系を知り、日常生活で実践するには、やはりテレビドラマを見ただけでは不十分で、書籍を読んだりして勉強しないとなかなかわからないと思います。本を読んで独習する上で、なにかアドバイスはありますか?

向後:アドラー心理学は非常に実践的な内容なので、アドラー心理学の本を読んで一つ学んだら、実際に使って確かめてみることをお勧めします。「アドラー心理学は使えそうだ」と思ったら、それをポケットに入れて日々を過ごしてみてください。たくさんある悩みも、徐々に晴れていくのではと思います。

 ただ一方で、アドラー心理学も、人生や世界に対する一つの考え方に過ぎないということも知っておいていただきたいと思います。アドラー心理学を応用することで、読者自身がもうひとつ別の新しい生き方へのヒントをつかむことができるのではないかと私は信じていますが、アドラー心理学が正しいという保証はありません。自分に合わないと思えば捨ててほかの考え方を導入すればいいと思います。アドラー心理学の見方を受け入れるかどうかは、読者自身が決めていいのです。「あなたはあなた自身で自分の生き方を決めることができる」とアドラーが言ったように、アドラー理論を採用するか否かも、あなた自身の自由であり、あなたの決断次第なのです。


このコラムについて

キーパーソンに聞く
日経ビジネスのデスクが、話題の人、旬の人にインタビューします。このコラムを開けば毎日1人、新しいキーパーソンに出会えます。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/interview/15/238739/032600247
http://www.asyura2.com/12/social9/msg/779.html

[経世済民120] 家で仕事ができる時代、職場に来る理由は何か? ロボットに自ら考える知能を SWOT 窮地のクラッシャー上司は、あの言葉を
家で仕事ができる時代、職場に来る理由は何か?

これからの働き方と仕事の視点

ヤフー・宮坂学氏 × グライダーアソシエイツ・杉本哲哉氏
2017年3月28日(火)
楠本 修二郎
 「一億総活躍社会」の実現に向け、日本の企業や暮らし方の文化を変えるものと政府が位置づける「働き方改革」。昨今、この言葉を新聞や雑誌で目にする機会も増えた。しかし、政府がこの言葉を使い始める前から、従来の会社組織や形骸化した制度に捉われず、多様な働き方を模索し、新たな社内制度や体制づくりにチャレンジしている民間企業もあった。


 本企画は、2001年にカフェ・カンパニーを創業して現在、国内外で100店舗以上を展開、他社とのコラボレーションによる商業施設の企画や地域創生、政府主導の「クールジャパン戦略事業」にも携わる楠本修二郎が、いま“気になる人”たちと一緒に毎回、未来の企業、働き方、生き方などのテーマについて語る鼎談企画(全6回)だ。

 第1回の今回の鼎談のきっかけは、かつてヤフーの宮坂学社長から、「会社をカフェにしたいんですよね」という話を聞いたことから始まる。ヤフーは日本を代表するインターネット企業であり、約6000人の従業員を擁する一大企業。

 なにゆえにカフェ? 会社組織とカフェに接点があるのか?

 これをテーマに話をするのも面白そう。ならばネットビジネスの社長にもう1人参戦してもらいたいと考え、ご招待したのがグライダーアソシエイツの杉本哲哉氏。現在、キュレーションアプリ「antenna*」の開発と運営を手がけ、同社では社長を務めている。連載第一回は、この3人でいまの「会社」の在り方や「働き方」について語る。

左から、グライダーアソシエイツ社長の杉本哲哉氏、ヤフー社長の宮坂学氏、筆者(楠本修二郎)。(写真:的野弘路)
「カフェ的な会社をつくろう」

杉本:今回の鼎談のテーマは「カフェと会社」。そもそも楠本さんの考える「カフェの良さ」って、どういうものなんですか?

楠本:僕は常々「カフェ的な会社をつくろう」という考えをもって経営に携わっているのですが、まずカフェの良さって「多様性」だと思っているんです。いろいろな人たちが、それぞれ自分の価値観を持って、いろいろなスタイルで、いろいろな生き方を持って来る場。会話もしやすいから、フラットにつながることができる。

杉本:カフェのエネルギーとか活力みたいなものを職場に持ち込めたら、それは理想なんだと思います。実際、カフェで仕事すると新しい発想が生まれる時もあるし、カフェに行ったからこういうアイデアが出たという経験は、確かにあります。

 だけど、それは最初からそこがカフェだからであって、会社をいくらカフェっぽく設(しつら)えたとしても、そうなるとは思えない(笑)。だから僕は、それがうまく成立するためには、そこに集う人、1人ひとりが相当優秀じゃないとムリだと思っているんですが…。


杉本哲哉(すぎもと・てつや)氏
グライダーアソシエイツ社長
1967年8月神奈川県横浜市生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後、リクルートへ入社。2000年にインターネットを活用した市場調査を行なうマクロミルを設立し、2005年東証一部上場。2012年に設立したグライダーアソシエイツからキュレーションアプリ「antenna*(アンテナ)」をリリース、好評を得ている。表参道にあるコミュニティ型空間の「COMMUNE246」で期間限定店舗「antenna*<>Wired Cafe」をカフェ・カンパニーと共同運営(〜2016年12月)。
楠本:確かにデザインがカフェだったらカフェになるかというと、僕もそうではないと思っています。だから「カフェのような会社」というのは、会話やアイデアなどが生まれるきっかけをつくる環境であり組織づくりだと思っているんです。

 例えば、カフェ・カンパニーではスタッフの個性を伸ばすために「スジコ組織」というのを提唱しています。組織の上長への報告、相談という縦ラインだけでなく、横ラインと斜めラインをつくっている。斜めのラインとは、近所にいる世話好きのおじさん、おばさんみたいな存在。メンターというか擬似家族にしちゃうんです。そうした組織を作ることによって、スタッフ各々の個性を、1人の上長だけの判断ではなく、みんなで伸ばせるような仕組みを敷いています。


「スジコ組織」は、社員はパズルのピースではないという発想から生まれている。パズルの場合、ピースが全部そろって会社の組織が完成する。もしひとつの部品が欠けたら、同じスペックを調達して当てはめるだけ。しかし、スジコ型なら一つひとつのイクラの形も大きさもどうとでもなる。新しい個性の粒が入ってきたら、全体の形も変わることになる。つまり、社員一人ひとりの個性を活かした形に組織全体が変わっていく。
 そのうえで、店舗のマニュアルはあえて作っていません。100店舗あってもマニュアルがない会社って大変なんですが…。マニュアルを作ると虎の巻になり過ぎてしまい、そこだけに答えを求めてしまう状況を避けるためです。マニュアルは、安心は担保できるけど、逆に人の感性や組織が硬直化してしまう可能性があるから。そういう組織になりすぎると、会話も減ってしまいます。できる限り「会話する会社」にしたいですし、「会話がはずむような組織」をデザインすることがカフェ的な会社なのだと思いますね。

6000人でも「カフェ的企業」は成り立つのでしょうか?

杉本:いまの話、ヤフーさんのような大きな組織でも成り立つと思いますか?

宮坂:うちも今わりと、楠本さんに近い方向を目指しています。多様な人たちの集まる場所づくりを、試行錯誤中です。もちろん、できているとは言い切れない。大きな組織ゆえのジレンマもあります。もっともっと権限委譲をしていこうと考えています。うちの場合、サービス分野が幅広い。ゲームを作っている部門がある一方で、金融(フィンテック)をやっている部門もあるわけです。だから、これを同じ1つの組織文化でどうつくっていくかというのが、凄くチャレンジングなことだと思っているんです。

杉本:そもそも、ヤフーさんの場合、文化を1つにする意味がないかもしれないですしね。

宮坂:極力、分けていく方向にしたいとは思っています…。あとは、楠本さんと同じく、できるだけマニュアルも減らしたい。会議より会話。僕が「カフェ的な会社」にしたいと考えている理由の1つは、いつも同じ人としかしゃべらない生活が嫌だからなんです。

 会社に来て、半径約10メートル中の人間関係だけで、お昼ご飯は毎回同じ人と行ったり、同じ人としゃべる…。下手すると晩飯も一緒で、会っているお客さんも一緒になってしまう状況を避けたい。そういう状況を続けていくと、オペレーションの効率が一時的には上昇し、作業的にも楽なのかもしれませんが、果たしてクリエイティブなのだろうか?と思ってしまいます。

 違う人と会うことが、無駄になることもたまにはありますが、でもやはり半径10メートル外の人との会話がある会社にしたいと考えていたら、行き着いた答えがカフェのイメージだったんです。

楠本:制度や組織の側面で、カフェと共通するものってありますか。

宮坂:カフェには会話があるけど会議はないですよね。会社に会話を増やしたいです。カフェみたいに会話がいっぱいあって、会議が少ない会社にしたいです。あと、横のつながりをどう維持するか、というのが課題になってくると考えています。楠本さんは、横のつながりをどうやって活性化させているのでしょう?


宮坂 学(みやさか・まなぶ)氏
ヤフー社長
1967年11月生まれ、山口県出身。1991年同志社大学経済学部卒。編集プロダクションを経て、1997年に53番目の社員としてヤフーに入社。2002年メディア事業部長、2009年執行役員コンシューマ事業統括本部長。2012年4月に最高経営責任者、6月に社長就任。バックカントリースキー、ロードバイクなど自然と向き合うアウトドアスポーツ全般が趣味。
マニュアルは状況が変化した時にリスクにもなる

楠本:横の関係や斜めの関係をつなげるためには、キーワードというか、共通の理念が必要だと思うんです。

杉本:ただ、大企業の場合はやはり大きな方針なり、逆にこれはやらないというタブーのようなものも、ある程度決めておかないと大変なことになるでしょう。

 マニュアルなしでもできるのは、例えば「ワイアードカフェ」という1つのアイコンがあるじゃないですか。既に「ワイアードカフェはこういうものである」ということを理解しているお客さんがいて、通い詰めた人がアルバイトに入ってきたりしているからマニュアルがなくともできるのでは、と思うのですが。

楠本:確かに。ただ、マニュアルはないんだけど、僕は会社の存在意義は社員にはしつこいぐらい言っていますよ。

宮坂:文化ですよね。マニュアルは形骸化しますし、状況が変化した時に逆にリスクにもなってしまいます。手っ取り早いのはマニュアルですが、より強力なのは文化によって、みんなの行動規範が決まっていくことだと思います。

 僕が飲食業が羨ましいと思うのは、目の前にお客さんがいるということです。僕らネットの会社では、お客さんのことを知ろうとデータを見るんですが、お客さんが喜んでタップしているのか、怒ってタップしたのか、お客さんの表情が分からないんです。ページビューが20%増えれば2割喜んでいるだろうみたいなことは考えるのですが、それでは何か抜けているんですよね。お客さんの素直な反応って、素直に共有できるテーマだと思うんです。

楠本:ネットビジネスの方々の話をしていて羨ましいと思う部分もありますよ。僕ら飲食業の場合は、1週間、2週間で飽きられるメニューを作っていたら商売にならないんです。なので、新しいお店をオープンしたその日から既に、メニューの見直しが始まる。時間との戦いです。

 ネットビジネスはそれよりもレンジが長いのかな。だいたい「失敗してもいいから、新しい企画を上げよう」と言ってから、どのくらいの猶予があるものですか。トライ&エラーを繰り返す時間的な余裕はどれくらいあるのか。もちろん事業規模にもよるでしょうが…。

杉本:僕の場合は、1カ月とか四半期毎に顧客のログを見て判断しています。そこからプロモーションをもう1回入れ直すかどうかとかの議論をしているので、我慢の時間は楠本さんよりも長いかもしれない。でも、先ほど宮坂さんもおっしゃっていたように、楠本さんの商売は直接お客さんの反応が見える。リアルな空間があるから、その時その時の結論が見えると、1週間で何となく分かるじゃないですか。これって全然受けてないなとか。この場所だとダメなんだなとか。

楠本:でも、その場所が仮にダメだったとしても簡単に逃げられない(笑)。ネットだと、「じゃあこのサービスをやめて次はこれやってみよう」とか切り替えはやりやすいように見えますけど。

杉本:いや、実は結構時間が掛かかるんですよ。

宮坂:うん、なかなか簡単にはできない。

人は人間関係を維持するための努力をしない?

楠本:業種は違うけど、誰だって失敗はしたくないですよね。そこで社内での会話の機会を増やすことで、擬似的にトライ&エラーを増やせる、ということはないでしょうか? 会議だと意思決定することが目的になっちゃうので、その前の段階の会話を増やすことが重要だと思うんです。

宮坂:ある経営者のインタビューで「会議というのは、基本的にアイデアを潰すためにあるんだ」と言い切っている人がいて、「これって結構、名言だな」と思ったんです。 “前向きな反応”というのは会社から失われやすいものなので、意図的に、そうならない仕組みをつくらないといけない。その1つとして会話が弾む場づくりなんです。

杉本:ヤフーさんだって、最初は昔の日本企業的な職場でしたよね。デスクが全部フラットでしたし、テーブル4つに電話が1個真ん中にポンと置いてある感じでした。2000年くらいだったと思いますが、パーティションで各デスクを囲う全員「個室タイプ」が主流になり、「最初は凄いなぁ」と思っていたんですが、実際には、あれって社員が自分の世界に入ってしまって…一気に会話がなくなった。そしていまは、パーティションスタイルも流行らなくなった。うちも置いてないです。

宮坂:僕らも撤去しています。

杉本: 300人ぐらいいるフロアだと、パーティションがなくてもコミュニケーションは意外と生まれないんです。ちょっと自分の席と離れた他のメンバーの動向が分からない。歩き回っている人もいなくて…。結局、僕が一番歩き回っていたりとかするんです(笑)。だから、パーティションをなくすとか、フラットなフロアだけでは解決しない。

宮坂:そのために、コミュニティーをつくることも考えています。人間関係って、少しの間、話さないだけですぐに関係性が切れてしまいます。フェイスブックができてもう1回つながって、今度はちゃんと維持しようと努力しているんですが、あっという間に切れてしまいます。やはり人は人間関係やコミュニティーを維持することに対して時間をあまり割かないのだと思います。

 もっと意図的に隣の人に声を掛けることや、前の部署で繋がっていた人と月に1回はご飯に行くとか…。そういう努力をすることが大切なんだと思います。

 例えば、週に1回お昼ご飯を隣の部署の人と食べると決めてしまえば、1年間に50回は他部署の人と食べられる。週に10人とランチをすれば500人になり、相当豊かな財産になる。別にリターンを求めてやるわけではないんですけど、ある種の習慣化は必要かなと思います。

楠本:会社として、それを制度化するのはどうでしょうか。

宮坂:違う部門間のランチには奨励金を出す、という会社もありますよね。最近は、社員食堂をすごく充実させる会社もある。会社は会社でそこはいろいろと悩んで、ハードや制度でできることを一生懸命やっているんだと思います。ただ、杉本さんの言われたように、社員食堂をつくっても、いつものメンバーと同じテーブルにいることになるのであれば意味がない。もうひとひねり必要なんです。

 米国のネット系の会社ってみんなオフィスをつくるのに工夫しています。ある意味、オフィスが最大の企業文化を表す装置であり、最大の社内報的な存在になっている。グーグルやフェイスブックもそれぞれ、「自分たちらしさ」というカラーがすぐに分かる仕掛けを組み込んでいるでしょ。それを形容するとしたら「カフェ」という言葉が浮かんだんですね。

日本なら、一軒家や廃校をオフィスにする?

楠本:企業が大きくなると難しいかもしれませんが、職人的な物づくりをしていく場としても、会話が弾むカフェっぽい場としても、どちらでも成立するとしたら…、日本だったら一軒家のようなオフィスがあるかもしれない。

宮坂:日本の場合やはり土地が狭くてオフィスビルが中心になるんですが、オフィスビルでは人は縦に動く必要があります。人は横の移動はできるけど、階段の上下移動って途端に面倒くさくなるのが欠点。横に50メーターは動けますが、上に5メーターは非常に億劫になるんです。そう考えていくと、使われなくなった学校の再利用がいいかな。「キャンパス」と言うじゃないですか。あれだったら、社内を歩き回るかな…(笑)。

楠本:最近、廃校になるところをオフィスにしたいという企業が出てきていますよ。学校に注目する流れはあります。

杉本:ただ、廃校になっている場所はへんぴなところが多いんです。駅前とかには学校を造れませんから。そこが課題ですかねぇ。

会社に行く必要はあるのか?

宮坂:昨年、オフィスの引越しをしたのですが、次はもう移転したくないと思っているんです。

 僕自身、「何で会社に行かないといけないんだ?」と思っていました。そう強く思ったのは震災の時。当時、家で仕事をしていいと言われたのですが、全然困りませんでした。リスクさえコントロールすれば問題ない。ただ、そう思う一方で、みんなと会話はしたいんです。会議はスカイプなどでできますが、同じ空間で会話することがしたいとも強く感じました。

杉本:人には会いたいんですよね。

宮坂:そう。会ってワーっと勢いを持ってアクションするのがやはり良い。会社というのはサロンに近くて、みんなが集まってワァワァと話し合う、そういう場だよなと思ったんです。仕事の実作業は別にどこだってできるようになりましたしね。

 だから、何で人がオフィスに行かないといけないのかというと、純粋に人と会うため。唯一、社員が会社に来てくれないと困るのは管理職と社長だけです(笑)。

杉本:実際、本当に社員のみんなが会社に来なかったら、ちゃんと所定の業績をおさめられるのでしょうか? やってみないと分かりませんが。

宮坂:いま、月5回の「どこでもオフィス」というのを試験的に実施しています。みんな自宅とかで仕事をやっているんですが、リクルートさんは毎週、無制限にそれを承認しているそうですね。

杉本:仕事はどこでもできるけど、同じ空間、場を共有しているとか、一緒にご飯を食べることがますます大事になってくる。

宮坂:そのためには、オフィスの雰囲気も施設としても、行きたくなる環境をやはり会社側が用意しないといけません。これからは、社員に来ていただくという感覚が必要なんだと思います。街中のカフェの方が近いし、その方が楽だから社員は来なくなってしまいます(笑)。

杉本:楠本さんの会社には、滑り台もありますからね。うちも航空機やカフェカウンターを置きました。


グライダーアソシエイツの社内。エントランスには、航空機のボティが横たわっている。(上段) フリーアドレスのデスクと並んで、フィアットの自動車を模した冷蔵庫も。そのうしろ、木が生えているところがカフェカウンター。(下段)
滑り台で降りると、みんなにっこりしている

楠本:僕もそうなんですけど、眉間にシワが寄っていても滑り台で降りると、みんなにっこりしているんです(笑)。物理的に何かを仕掛けるというのはいいですよ。


カフェ・カンパニ−のオフィス内にある滑り台。
杉本:カフェのコーヒーの香りが普通に漂ってくると、単純に何かちょっとアガる感じもありますね。

宮坂:そう。嗅覚も大切。会社にいると風も感じませんし、パソコンに向かっていると、五感の一部である目だけが妙に疲れ切ってしまいます。第六感も含めて、いろいろなものを開いていない状態。それで、匂いや視覚による居心地の良い刺激が、その感覚を少し開いてくれるのではないでしょうか。

楠本:仕事中というのは交感神経がフル回転している状態。そこにコーヒーの香りのようなもので、副交感神経が動く瞬間を意図的につくれればアイデアが生まれる可能性は高くなると思います。

宮坂:昨年移転した新しいオフィスをつくる際には、社員の心技体のサポートをして欲しいとプロジェクトチームには依頼していました。ビジネスマンだって世界で戦っているわけですから、オリンピック選手と変わりないんです。アスリートは睡眠から食べ物から完璧に管理して、不注意で風邪なんかひかないようにしているわけです。同じように、ビジネスマンが「前の晩、飲み過ぎて、今日はパフォーマンスが上がらない」なんという言い訳は、もうプロとは言えないわけです。

 ですから将来的には、会社へ来たら、自分の体のコンディションを調べて、「今日は悪いから早めに帰れ」とか「今日、お前は絶好調だから、まだまだ頑張れる」とか、データに基づいたサポートができるといいなと思っています。管理じゃなく、サポート。

楠本:次世代のオフィスでの働き方は、「LABOR」から「ACTION」へと変わっていくのだと思います。単純労働ではなく、人としてのミッションを持って「こう生きていきたい」という個人のアクションが増えてくるのが、いい働き方であり、いいオフィスのあり方ですよね。“オフィスのカフェ化”というのは、そういうポジティブなライフスタイルとワークスタイルをつくっていくことなのではないかと思います。

執筆者/楠本 修二郎(くすもと・しゅうじろう)
カフェ・カンパニー社長

1964年福岡県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、リクルートコスモス入社。1993年大前研一事務所入社、平成維新の会事務局長に就任。その後、渋谷・キャットストリートの開発などを経て、2001年カフェ・カンパニーを設立、社長に就任。2014年11月、カルチュア・コンビニエンス・クラブの関連会社と合弁会社スタイル・ディベロップを設立、社長に就任。2016年11月、アダストリアとの合弁会社peoples inc.の設立に伴い、社長に就任。一般社団法人「東の食の会」の代表理事、東京発の収穫祭「東京ハーヴェスト」の実行委員長、一般財団法人「Next Wisdom Foundation」代表理事、一般社団法人「フード&エンターテインメント協会」の代表理事を務める。

日本の文化・伝統の強みを産業化し、それを国際展開するための官民連携による推進方策及び発信力の強化について検討するクールジャパン戦略推進会議に参加している。 著書に『ラブ、ピース&カンパニー これからの仕事50の視点』がある。


このコラムについて

これからの働き方と仕事の視点
カフェを中心に100店舗以上を展開するカフェ・カンパニーの創業者・楠本修二郎氏と各界のキーパーソンとの鼎談連載。食や組織づくり、ビジネス、地域社会など、毎回いくつかのテーマについて話をしていきます。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/121700019/030200001


 


 
MUJIN、産業ロボットに自ら考える知能を付与

企業研究

ロボット自身が考え、動くことを可能に
2017年3月28日(火)
藤村 広平
 事前に動作を教え込まなくても動く産業用ロボットの「頭脳」を開発する。様々な製造業や物流の現場で、生産効率を高めるために活躍し始めている。

(記事中の情報は、「日経ビジネス」2017年1月30日号に掲載した時点のものです)
自分で見て、考え、動く

無造作に詰め込まれた物体でも、自ら計算して効率よい拾い上げ方・運び方を割り出す(中央は動作確認に当たる滝野CEO)(写真=藤村 広平)
 レトルトカレー、コーヒー、プリンターのインクカートリッジ…。ロボットが、コンテナの商品を発送用のケースへと次々に移し替えていく。通販大手アスクルが2016年末、横浜市の物流センターで稼働させた自動ピッキングラインの様子だ。

 対応する商品は約1000種類。商品パッケージは大きさも形もバラバラだ。拾い上げる条件も、商品がコンテナの真ん中に置かれていたり端に寄っていたりと毎回違う。それでもロボットは、1時間に約500アイテムというスピードでケース詰め作業を迅速にこなす。

 「ネット通販市場の拡大で、物流センターで働くスタッフの負荷が高まっている。ロボットの活用は、問題解決のイノベーションになる」。アスクルの池田和幸・執行役員はこう期待する。

自分で考えて動くロボット


 この物流センターで活躍するロボットの頭脳を開発するのが、産業用ロボットを「知能化」する制御機器(コントローラー)を手掛けるMUJIN(東京・文京)だ。「自分で見て、自分で考え、自分で動く。人間には当たり前のことを、ロボットでも実現したい」。滝野一征CEO(最高経営責任者)は強調する。

 既に製造業の現場で活躍する産業用ロボット。あらかじめ教え込まれた動作を正確に繰り返すことにおいては、質・量ともに人間の手作業を圧倒する。


目指すのはロボットの頭脳。客先には「MUJIN インサイド」と書かれたステッカーを配っている
 逆に言えば、教え込まれた作業以外は苦手だ。それに「動作を教え込む」のはかなり骨の折れる作業。従来は専門のオペレーターが自身の経験や勘を頼りに、ロボットの動作を関節単位で調整し、プログラムしていた。

 例えば、箱に無造作に入れられた何百ものネジから、1つを拾い上げる作業。人間なら幼児でもこなせる簡単な作業だが、ロボットには難しい。

 ひっくり返っていたり、ほかのネジとの間に埋まっていたりと状態は千差万別。全ての場合を想定したうえで適切な動作をさせるには、膨大な量の動作パターンをプログラムしておく必要がある。この作業を「事前に教え込むためには何カ月もかかる」(滝野CEO)。

 MUJINのコントローラーは動作を事前に教え込むのではなく、最適な動きをその場でその都度、自動設定する。

 この手法の最大の課題は、対象物の形状や位置を正確に認識してロボットを動作させるために複雑で膨大な量の計算が必要なこと。ここで生きるのが、MUJINのCTO(最高技術責任者)で共同創業者のデアンコウ・ロセン氏が2006年、米カーネギーメロン大学のロボット研究所に在籍していた頃に編み出した計算アルゴリズムだ。

 計算量を大幅に減らせ、最適な動作プログラムを瞬時に生成できる。同大学のロボット工学の権威、金出武雄氏に師事したロセン氏の研究成果は当時、世界中で驚かれた。大手も事前の教え込みをなくすのがロボット知能化のカギとは気付いていたはずだが、計算の遅さがネックであり続けてきたからだ。

 もちろん、アルゴリズムだけでロボットを知能化できるわけではない。「障害物を避ける」「ロボットの関節を曲げすぎない」など、現場で求められる条件はまだまだある。

世界の頭脳を集めて開発

 こうした条件を一つひとつクリアできるのは、世界中から集まった優秀な技術者がいるからだ。滝野CEOが主導し、MUJINは国内外の大学や研究機関を訪問。「知能化ロボットで世界をリードする仕事をしないか」と、博士号を持つ研究者らを口説き続ける。

 現在、MUJIN社員の30人弱のうち約6割は日本国外の出身者が占める。「中国一のロボットコンテストで優勝」「欧州のプログラミング大会で入賞常連」…。7カ国・地域からロボット工学の俊英が集まるMUJINのオフィスは、日本にいることを忘れるような、独特の雰囲気に満ちている。

 もちろんファナックなどの大手メーカーも自ら考えて動く知能ロボットの開発を急いでいる。だが、MUJINのコントローラーは既に製品化済みで、多くのメーカーのロボットに対応していることが強みだ。デンソーや安川電機、三菱電機など多様なメーカーのロボットに後付けで実装できる。

 「誰でも簡単に知能化ロボットを使える世界をつくりたい」。そう語る滝野CEOの脳裏には、携帯電話業界の教訓がある。携帯は、かつて日本メーカーの得意分野だった。だが米IT(情報技術)企業がソフトを主体に携帯のあり方を再定義し、日本勢は輝きを失った。なかでも米グーグルは汎用性の高い基本ソフト「アンドロイド」を武器に、業界で不動の地位を築いた。「ロボット大国ニッポンは今、携帯と同じ道をたどるか、もう一花咲かせられるかの瀬戸際に立っている」(滝野CEO)。

急成長が見込まれている
●MUJINの売上高推移

 「MUJINインサイド」。コントローラーの納入に当たり、同社が顧客企業に配るステッカーにはそう書かれている。言うまでもなく、半導体で高いシェアを誇る米インテルを意識したものだ。インテルの半導体はその存在こそ地味だが、あらゆるブランドのパソコンに搭載可能。パソコンメーカーも、インテルを採用している事実が製品の性能の高さを示す売り文句になる。

 長年の信頼や実績がモノをいう製造業に身を置きながら、MUJINは既に日産自動車やホンダ、コマツにキヤノンといった大手メーカーに納入を始めている。産業用ロボットの革新は、日本の基幹産業である製造業の革新を意味する。創業6年の新鋭企業は、その立役者となれるか。

(日経ビジネス2017年1月30日号より転載)


このコラムについて

企業研究
『日経ビジネス』に掲載された、企業にフォーカスした記事の中から読者の反響が高かったものを厳選し、『日経ビジネスオンライン』で公開します。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/278209/032700110


 


 
SWOT分析の結果「まず行動」って…君らアホか?

横山信弘の絶対達成2分間バトル

2017年3月28日(火)
横山 信弘

 強み・弱み・機会・脅威に分けて会社の内部環境と外部環境を検討する「SWOT分析」は戦略を考える上で有用なツールです。

 しかし、このような分析をしても、あまり意味のない組織があります。豪傑寺部長と鷲沢社長の会話文を読んでください。

○鷲沢社長:「先日の社内勉強会でSWOT分析のレクチャーがあっただろう。当社のSWOTについてどう考えた」

●豪傑寺部長:「はい。強みのSは品質です。弱みのWは差別化、機会のOは東京オリンピック。脅威のTは外資系企業の新たな参入。私はこう書きました」

○鷲沢社長:「なるほど。いい線をいっているじゃないか。で、営業部長の君としてはどうする」

●豪傑寺部長:「私ですか? 目の前の仕事を大事にして一歩一歩やり遂げよう、このように思っています」

○鷲沢社長:「そうだろうな、だいたいそんなもんだ」

●豪傑寺部長:「社長、何か仰りたいことがあるのでしょうか。私が目の前の仕事をきっちりこなそうとしていることに問題があるとでも?」

○鷲沢社長:「問題とは言っていない。ところで君自身のSWOTは何だ」

●豪傑寺部長:「私自身……ですか? うーん、即興で言いますけれど、強みのSは……あえて挙げれば経験でしょうか。弱みのWはクロージング力、機会のOは勉強会の講師に今年抜擢されたこと。自分の知識を生かしてキャリアアップできそうです。

 脅威のTは後輩の課長ですかね。成績を伸ばしているのが数人いますので、私の部長の座も安泰かどうかわからないってところでしょうか」

○鷲沢社長:「なるほど。君の機会は講師に抜擢されたことか」

●豪傑寺部長:「そうです。私にはチャンスだと思ってます。新たな経験が積めますから」

○鷲沢社長:「勉強会の講師をこれまでやったことがないのか」

●豪傑寺部長:「ええ。初めてです」

「ははは。あーバカバカしい」

○鷲沢社長:「じゃあ、いい“機会”になるかもしれんな」

●豪傑寺部長:「そうなんです。今期の新しいチャレンジですよ」

○鷲沢社長:「はは。何事もチャレンジだな」

●豪傑寺部長:「チャレンジ精神を忘れてはいけませんね。社長」

○鷲沢社長:「ははは」

●豪傑寺部長:「……」

○鷲沢社長:「あーバカバカしい」

●豪傑寺部長:「え?」

○鷲沢社長:「君自身のSWOTを考えたわけだが仕事にどう生かせるかな」

●豪傑寺部長:「仕事に? ですから目の前のことをきっちりこなしていく、それが大事だと思っています」

○鷲沢社長:「ははは。やはり、そうだよね」

●豪傑寺部長:「……社長?」

○鷲沢社長:「本当にバカバカしいな」

●豪傑寺部長:「社長、含みのある言い方をずっとされてますけれど……。はっきり言ってくれませんか。聞きますよ」

○鷲沢社長:「我が社のSWOT分析をしたとき、君は外資系企業が攻めてくることが脅威、ところが我が社は差別化が弱い、と分析している。さすが営業部長、的を射ている。そうなると強みである品質をもっとアピールしなくてはならない。そうなるな」

●豪傑寺部長:「ええ、その通りです」

○鷲沢社長:「では君がすべきことは何だ。強みである経験を増やすことか。それとも弱みであるクロージングの力を鍛えることか」

●豪傑寺部長:「……。行動、だと思います」

○鷲沢社長:「行動か」

●豪傑寺部長:「そうです。行動がまず先決かと。やるべきことをきっちりやる。それが大事かと思います」

○鷲沢社長:「SWOT分析から導き出した答えがそれか」

●豪傑寺部長:「うーん……。勉強会の後、営業部全員で飲みに行きましたが、結局は『目の前のことをやらないといけない、まずはそれからだ』みたいな話になりました」

○鷲沢社長:「それってSWOT分析をしなくても行きつく答えじゃないのか」

「どいつもこいつも分析結果を眺めているだけだ」

●豪傑寺部長:「そ、そりゃあそうですが」

○鷲沢社長:「だったらSWOT分析なんて意味があるのか。強み・弱み・機会・脅威をそれぞれ整理しても、誰もそこから前に誰も進もうとしない。分析結果を眺めているだけだ」

●豪傑寺部長:「眺めているだけ、というわけでは」

○鷲沢社長:「『やはり、まずは行動です』、こうじゃないか。それは眺めているだけだ。だったら、SWOT分析などやっても意味がない」

●豪傑寺部長:「それを言ってはおしまいかと」

○鷲沢社長:「なんでSWOT分析をやっても意味がないのか、わかるか」

●豪傑寺部長:「恥ずかしながら、わかりません」

○鷲沢社長:「行動力がないからだ!」

●豪傑寺部長:「ええっ」

○鷲沢社長:「普段の行動が足りているのだったら、『やはり、まずは行動することだ』なんて、アホな結論は出てこない」

●豪傑寺部長:「う……」

○鷲沢社長:「SWOTに限らない。どんな分析をしても、どんな調査をしても、『いろいろ分析してみて、とにかく目の前の仕事をきっちりこなすことが何よりも先決』という表現で締めくくられるだろう」

●豪傑寺部長:「な、何も言えません」

○鷲沢社長:「去年、私が来る前に、バランスドスコアカードを導入しようとしたらしいな。結局定着せず、『まずは目先の問題から片付けよう』という話になっている。議事録にそう書かれていた」

●豪傑寺部長:「申し訳ありません」

○鷲沢社長:「行動力がないなら、勉強会をどれほど開いても無駄だ。それなら早く帰って寝たほうがいい」

これまでのやり方を変えずに堂々巡りを繰り返す

 SWOT分析以外にも様々な分析ツールがあります。私はそれらを否定しているわけではありません。

 しかし、どんな分析結果が示されようとも行動を起こさないのであれば、分析する意味がありません。

 「現状維持バイアス」がかかっている組織はこれまでのやり方を変えようとせず、堂々巡りを繰り返すのです。

 行動力を付けない限り、すべての分析ツールや経営理論は机上の空論に終わるでしょう。気をつけたいですね。


このコラムについて

横山信弘の絶対達成2分間バトル
営業目標を絶対達成する。当たり前の事です。私は「最低でも目標を達成する」と言っています。無論、そのためには営業目標に対する姿勢を変え、新たな行動をし、さらに上司がきちんとマネジメントしていかないといけません。本コラムで営業目標を絶対達成する勘所をお伝えしていきます。私は「顧客訪問を2分で終える“2ミニッツ営業”」を提唱しており、そこから題名を付けました。忙しい読者に向けて、2分間で読めるコラムを毎週公開していきます。毎回一つのテーマだけを取り上げ、営業担当者と上司と部下の対話を示し、その対話から読みとれる重要事を指摘します。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/258310/032300082

 

窮地のクラッシャー上司は、あの言葉を繰り返す

河合薫の新・リーダー術 上司と部下の力学

『クラッシャー上司』著者・松崎一葉さん×河合 薫 特別対談(2)
2017年3月28日(火)
河合 薫

 話題の新書『クラッシャー上司 平気で部下を追い詰める人たち』(PHP新書)。部下を精神的に潰しながらどんどん出世していくパワハラ上司の事例が次々と登場し、「うちの会社にもいる」と思わせる「いるいる感」に引き込まれて読み進むことになる。

 著者の松崎一葉さんは、筑波大学医学医療系産業精神医学・宇宙医学グループ教授で、産業医でもある。クラッシャー上司の話はちょっと怖いけど、「松崎先生には会いたい」との河合薫さんの熱望で実現した二人の対談。

 松崎さんによれば、クラッシャー上司は、自らの言動を責められると、一様にある言葉を発するそうです。その言葉に、クラッシャー上司たるゆえんがあるのです。

(編集部)
前回(クラッシャー上司、口癖は「お前のため」)から読む

「人の守護霊になる」ってどういうこと?


松崎 一葉(まつざき・いちよう)さん
筑波大学医学医療系産業精神医学・宇宙医学グループ教授。1960年茨城県生まれ。1989年筑波大学大学院博士課程修了。医学博士。産業精神医学・宇宙航空精神医学が専門。官公庁、上場企業から中小企業まで、数多くの組織で精神科産業医として活躍。またJAXA客員研究員として、宇宙飛行士の資質と長期閉鎖空間でのサポートについても研究している。「クラッシャー上司」の命名者の一人。
河合:人の守護霊になるとは、距離感の問題ということでしたが、これは上司と部下の物理的な距離感ですか? それとも心と心の距離感ということでしょうか?

松崎:両方です。つまり、部下が「河合さん」と呼んだときに、その声が届くところにいてくれて、「どうした?」と来てくれて、「おお、そうかそうか」と話を聞いてくれるイメージです。

河合:今の時代にはやっぱりちょっと、ハードルが高い気がするのですが……。

松崎:確かにそうかもしれません。ただね、大切なのは上司がそういうイメージをもてるかどうかなんです。別にいつも「どうなの? どうなの?」とか、「キミの気持ち分かりますよ」とか、「悩みは何?」とか、御用聞きに行くことじゃない。

河合:そんなウザい上司がいたら、逆に部下はどん引きしちゃうかもしれませんけど(笑)

 先生のおっしゃてっていることはわかるんですが、上司も上司だけをやっているわけじゃなく、プレイイングマネジャーがほとんどなので、部下にかまっていられない場合も多い。

松崎:そうですね。それはわかる。

河合:でも、ちょっとだけ、一日一回でもいいから「部下を思い出してみろ」ってことでいいんですかね?

松崎:はい、まさしくそれが「守護霊」です。

河合:私はよく「傘の貸し借りができる、心と心の距離感を持つことが大切だ」と話すんですね。

松崎:ストレスの雨をしのぐ傘ですね?

河合:はい、そうです。「最後はあの人の傘を借りることができる」という確信を持てる関係性が重要なんです。部下にとって、それは上司で。「SOSを出せる。出していいんだ」という確信があれば、ギリギリまで踏ん張ることができて、火事場の馬鹿力じゃないですけど、自分でも思いもしなかったような力が出ちゃうことってあるんですよね。私も結構そうやって生きてきたんで。

松崎:河合さんにも、やはりそういう人が必要ですか? ひとりで何でもできるかと思いましたよ。

河合:ムリです(笑)。こんなこと言うと失礼ですけど、先生だって先生の力だけで、今があるわけじゃないですよね? 人間ってそんなに強くないし。もし「私はひとりきりでがんばってきました!」なんて胸を張る人がいたら、それはおごりだと思うんです。

松崎:確かに。そうなんですよね。うん、そうそう。クラッシャー上司の甘えは、河合さんがいうところの「おごり」と根は同じなのかもしれませんね。おごりがあるから、周囲にも許してもらえる、甘えてもいい……って考える。

河合:私は上司も部下の傘を借りてくださいって、言ってるんですね。「お前たちの力を貸してくれ」って言える上司部下関係があれば、心強いでしょ」と。

 ところが、上司の中には本当は傘を借りたいけど、それをやったらかっこ悪いって思ってる人もいる。それで結果的に、雨にやられちゃう。だから、「勇気を出して部下の傘も借りてください」って。それと、雨にびしょ濡れになっている人を見たら、傘を差し出す勇気を持ってくださいって。

松崎:濡れてる人に傘を差し出すのが、守護霊です。

「いつでも相談に来いよ」というのは最低


河合:ですね。これまでインタビューしてきた人たちの中には、パワハラに遭ってウツになってしまったり、会社を辞めた人たちもいました。その人たちが共通して言っていたのが、「最初はパワハラを受けて悔しいとか、ひどいとか、すごい思った。お前は何でこれができない、なんてダメなヤツなんだ、と否定され続けていると、パワハラを受けているという感覚が段々となくなって、最後には自分が悪いんじゃないかと思うようになった」と。

 雨に慣れちゃう。SOSを出さないんじゃなくて、出せなくなる。気が付くと「上司の奴隷」になってしまうんですよね。

松崎:それ、すごくわかります。クラッシャー上司につぶされた部下たちにも、そういった感じがありました。

 僕はね、いつもロジャース流の受容と傾聴と共感の3ステップの中で、共感というのは受容と傾聴の末に自然に発生してくるものだというふうに言っているんですよ。

河合:現代カウンセリングの祖と呼ばれる、カール・ロジャースですね。

松崎:はい。カウンセリング理論にはいくつかあるんですが、日本では一般的にロジャース流に基づいています。カウンセリングっていうとね、なんか特別のように思うかもしれないけど、上司部下関係も同じなんです。

 部下に「ちょっと相談があるんですけど」とオファーされたら、まずは受容する。「おお、いいよ」と言って、そこで自分の時間枠を明確に提供する。この行為が受容なんです。ところが、おおかたの人たちは、それができない。

河合:上司も時間的余裕がないですからね。

松崎:でもね、そこで具体的に日時を決めなきゃ共感にならない。「おお、今度な」と先送りするのではなく、まず手帳を開いて予定を確認して、「今日はちょっと無理だけど、明日の10時から10時半までどうだ」と、自分の時間枠を明確に提供する。

河合:それだけで部下はホッとしますね。

松崎:僕はね、「いつでも相談に来いよ」というのは最低だと思ってるんですね。

河合:メディア業界では「やりましょう!やりましょう!」っていって、永遠に「やる」が来ないのは日常茶飯事ですが(笑)

松崎:業界の“外交儀礼”ってやつですね。

河合:でも、先生がおっしゃるように仕事でも、「じゃあ、いついつ、これで」ってなると、それだけで何か一歩進んだような。っていうか、実際に会って仕事につながらなくてもいいんです。その人とつながる。それだけで十分。

松崎:自分が困ったときに「この人は自分に時間を提供してくれるな」という信頼感が、芽生える。まさしく守護霊です。

河合:あああ、なんかこの辺(肩のあたり)にいろんな守護霊がいる気がしてきました。

松崎:(笑)いいですね、その感覚。

彼らは一様に、「心外だ」を繰り返す

河合:ただ、部下の守護霊でありたいと思っても、ビビって躊躇する上司も多いように感じます。「こんなこと言ったら、パワハラになるんじゃないか」とか、「これをするとセクハラになるんじゃないか」って。

 実際にあったんです。部下が辞めることになって、その理由を人事部が本人に尋ねたら「上司にセクハラされた」って。上司は確かにご飯を食べに行ったり、会議室で相談に乗ったこともあった。でも、それは部下が「相談がある」と言ってきたからやっただけだった。

 とかく今の会社は、部下オリエンテッドなので、結局、その人は左遷されてしまったんです。

松崎:なるほど。部下も都合が悪くなると、上司を売ることがあるかもしれないですね。

 僕はもっと割り切ればいいと思うんです。つまり、共感は単なるスキルだと。いやらしいといえばそうなんですけど、初めからスキルとして管理職に教育していかなきゃいけないんです。

河合:じゃ、スキルだと考えると、逆に自分が「クラッシャー上司になっているかどうか」のセルフチェックってできますか?

 先生のご著書を読んで「もしや自分も?」とヒヤッとした人は、問題ないと思うんですね。ここまでの先生と私の話を聞いて、なにがしか心に刺さるものがあるはずで、それがなんらかの行動につながっていくと思うんです。

 問題は「あ〜、いるいるこういうひどいヤツ」とまるで他人事の人。そういう人向けに「これをやっていたらアナタもクラッシャー!」みたいなセルフチェックリストがあれば、教えてください。

松崎:そうね〜、セルフチェックね……。あのね……よく「心外だ」って言う人。

河合:心外、ですか?

松崎:そうです。僕ね、何人かの本当のクラッシャー上司に対して、「あなたはクラッシャー上司ですよ」と指摘して、「あなたがやっていることは、こういうことなんですよ」って言ったことがあるんです。

 そうしたら彼らは一様に、「心外だ」と言っていました。私は部下を育てようと正しいことをやっているのに、何でそんなことを言われるんだって。僕が証拠を突きつければ突きつけるほど、「心外だ」と繰り返す。


河合:チェックポイントその1。「自分の言動を責められると『心外だ』とつい言ってしまう」。

松崎:河合さんのコラムのコメント欄にも、コラムの本筋とは全く関係なく「アンタはフリーランスだから組織のことまるでわかってない」とか、「アンタは女だからいつもそういう風に書く」とか書き込む人いるでしょ? ああいうタイプは意外と「心外だ」チェックに当てはまるかもしれないですね。

クラッシャー上司って、メタ認知を全然持てない


河合:ってことは、私のことを「育ててやろう」って思ってくれてくれている読者が、多いということですかね(苦笑)

松崎:自分勝手な解釈でね。つまり、クラッシャー上司って、メタ認知を全然持てない。

河合:自分の思考や行動を客観的に把握したり認識できないということですね。だから、自分が悪いことを言ったりやっているという自覚がない。言われた方は結構、凹むんですけどね。

 チェック項目はほかにもありますか? 外見とか。例えばちょっとイケメンだとか、ちょっとおしゃれだとか、何かそういうのはあるんですか。

松崎:ちょっと「変なスノッブ」が多いかもしれない。

河合:変なスノッブ??

松崎:彼らは何においても承認されたいタイプです。だから持ち物一つについても、「それは何とかのペンですね」とか、「それってイタリアのアレですね」みたいなことを言ってほしくてしょうがない。

河合:ヤバッ。私の財布、一見、渋谷の109とかで売ってそうなやつなんですけど、実はプラダなんです。それで、マルキューと思われたくないから、プラダのマークをいつもこうやって表にしているんです。私、クラッシャータイプですかね(笑)

編集Y田:河合さん、危ないな……(笑)

松崎:それがね、例えばルイ・ヴィトンでいえば、モノグラムではなくタイガを選ぶっていうか……。ブランドのロゴなどが前面に出ている「いかにも」ってものは好まない。イメージ的には、百貨店とかにある、目利きのバイヤーが選りすぐってきた商品。

河合:ん?

松崎:優れたバイヤーが、パリとミラノのマニュファクチャリングのところに行って、直接仕入れたこだわりの品って感じのもの。そんなに大量には輸入できなくて、「ここだけで販売しますよ」といったセリフでアピールする。「分かる人には分かる」がウリの、オシャレ感の高いヤツって感じなんですが。

河合:あっ……なるほど。クリエーターの方がよく持っているような。あ、クリエーターのみなさま、これまたすみません(笑)

 チェックポイントその2。目利きバイヤーの選りすぐり商品が好き。ああ、これを読んだ人たち、いきなり自分の身の回りのものをチェックしますよ(笑)

松崎:ただ、今の話、あくまでもちょっとした傾向なので……。みんながみんなそうではないですし、「そうしたものが好きな人=クラッシャー上司」ということでは決してないので、その点は誤解しないでください。

河合:まぁ、あくまでも「セルフチェック」の一項目ですからね。他にはどうですか? 基本的に体力があるとか、大食漢であるとか。

自分がルールだから、自覚がない

松崎:基本的にタフですよ。人をクラッシュしていくんだから。

 クラッシャー上司って「仕事ができる」から、パワハラしても、その上の上司も見て見ぬふりをしてしまう。で、部下を執拗に責め、クラッシュさせるスタミナもある。基本的には能力が高く、エネルギーにあふれています。

河合:朝からスポーツジムに通って、夜遊びしても全くオッケー、24時間働けます!という、ハイスペックな人ってイメージですか?

松崎:そういうタイプもいますね。

河合:ただし、そういうタフな人でも、「自分の外にある傘」を使える人は、クラッシャー上司とはちょっと違いますよね?

松崎:「外にある傘」とは?

河合:外的資源です。ストレスという雨に対峙する傘の置き場は2カ所あって、ひとつは自分の心の中(=内的資源)。もうひとつは自分をとりまく環境(=外的資源)。外的資源でいちばん大切な傘が、先ほどお話しした、「傘を貸してください」と言える心の距離感の近い人です。

松崎:なるほど。どんなにタフでも、自分ひとりではできないことがあると認められる人ですね。

河合:はい、そうです。所詮、人間なんてひとりじゃ何もできないし、自分の能力にだって限界がある。それを素直に認めて、他者の傘を借りる勇気を持てる人はクラッシャー上司にはならないように思うんです。一方、内的資源だけで生きてる人、要するに自信満々で、自尊心も自己効力感も高過ぎる人が行き着くのは、「自分がルール」です。

松崎:そうそう。おっしゃるとおりです。自分がルールだから、自覚がない。

河合:ただ、そういう人って、実は弱い、というか、自分の心の中のリソースだけで乗り切れないことに遭遇すると、ポキリと折れちゃう。

松崎:ええ、そう思いますよ。クラッシャー上司は、承認がもらえなくなった瞬間にエネルギーが補給できなくなるので、そこで前進が止まっちゃうんです。

 僕が「クラッシャー上司」の中で書いた、事例の5番目。メーカーで地方営業所次長を務めていたDは、営業の結果は出してくるが、部下を2人をつぶし、家庭でもDVをふるう「クラッシャー」でした。その彼は、奥さんと子供が“夜逃げ”したのを機に、うつ病になってしまう。「妻の不満には全く気付かず」「部下に厳しかったのは確かだが、それもよかれと思ってやっていた」と話していました。

河合:そうですか……。

松崎:また、本で紹介した事例1のクラッシャー上司Aは、本の中では詳しく触れていませんが、最後は本人がメンタルに不調を来してしまった。何でうつになっちゃうかというとね、彼がクラッシュした若い女性社員の次に来たのが、帰国子女だったから。

河合:帰国子女が原因???

松崎:仕事はとてもできたそうです、ただ、帰国子女である彼女には、日本的な同調圧力だとか、あうんの呼吸が分からない。それで彼は余計頑なに、「お前のために鍛えてやっているんだよ」みたいな言い方でかかわろうとするわけです。

 するとね、「えっ、いや、別にいいです」みたいな反応で。帰国子女だから。「暖簾に腕押し」で、その部下の業務を自分で担うようになってオーバーワークになり、最終的にはメンタルを壊したんです。

河合:そうですか……。私もそうやって、おじさんたちを何人も泣かせてきました。「クラッシャー上司対策には、河合薫を」とでも言っておきましょうか(笑)


*3月29日公開予定「クラッシャー上司が「社員は家族」を好む理由」へ続く

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このコラムについて

河合薫の新・リーダー術 上司と部下の力学
上司と部下が、職場でいい人間関係を築けるかどうか。それは、日常のコミュニケーションにかかっている。このコラムでは、上司の立場、部下の立場をふまえて、真のリーダーとは何かについて考えてみたい。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/200475/031600097
http://www.asyura2.com/17/hasan120/msg/506.html

[政治・選挙・NHK223] 17年度予算成立、子供・女性に支援厚く高齢者は負担増 景況感連続改善、輸出好調 過労自殺対策強化、長時間労働是正 
17年度予算成立、子供・女性に支援厚く
高齢者は負担増
2017/3/27 21:04日本経済新聞 電子版
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 2017年度予算と税制関連法が27日、成立した。国による支援の重点を高齢者から子ども・女性に移したのが特徴だ。「高所得」を切り口に高齢者への医療費など負担増を求めた。その代わり、専業主婦世帯を優遇する税制見直しや子育て世代を応援する給付型奨学金を創設し、安倍政権が提唱する「一億総活躍社会」を演出した。ただ、今年度も財政健全化への抜本改革に手を付けられなかった。

 予算は“シルバー民主主義”で歯止め…
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS27H4M_X20C17A3EE8000/


 


 

17年度予算が成立、過去最大の97兆4547億円
2017/3/27 19:54
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 2017年度予算が27日、参院本会議で自民、公明両党などの賛成多数で可決、成立した。一般会計の歳出総額は97兆4547億円と5年連続で過去最大を更新。高齢化で医療や介護など社会保障費が膨らみ、防衛関係費も過去最大の5兆1251億円になった。安倍晋三首相は国会内で記者団に「経済の好循環を力強く回し、デフレからの脱出速度を上げていきたい」と語った。

参院本会議で17年度予算が可決、成立し、一礼する安倍首相ら(27日午後)
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参院本会議で17年度予算が可決、成立し、一礼する安倍首相ら(27日午後)
 27日の予算成立は12年に第2次安倍政権が発足して以降、14年度予算に次ぐ早さ。2月27日に衆院を通過。憲法の衆院優越規定で、参院が議決しなくても参院送付から30日後に自然成立する期限が28日に迫っていた。

 17年度予算は16年度当初予算と比べ7329億円増えた。歳出の3割超を占める社会保障費が16年度比で4997億円増え、32兆4735億円になった。社会保障費の伸びを年平均5000億円に抑える政府目標は達成したが、高齢化の進展で医療は2.0%増の11兆5010億円、年金は1.5%増の11兆4831億円にそれぞれ膨らんだ。

 防衛関係費も16年度より1.4%(710億円)増えた。増額は5年連続。北朝鮮の弾道ミサイル発射や東シナ海での中国との緊張関係を背景に、自衛隊の艦艇や航空機などの修繕費、装備品の購入費が膨らんだ。

 税収は57兆7120億円と見積もった。景気の足踏みを反映し、1080億円増にとどまる。一方で、税外収入は16年度から6871億円多い5兆3729億円。外国為替資金特別会計から歳入への繰入額を8583億円増やした。新規国債発行額は16年度より622億円少ない34兆3698億円で、7年連続で減った。減額は税外収入の活用によるところが大きく、減額幅は第2次安倍政権発足後で最も小さくなった。

http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS27H51_X20C17A3MM8000/


 

 

生保、死亡保険料下げ 長寿化受け11年ぶり
18年春にも
2017/3/27 23:29日本経済新聞 電子版
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 生命保険各社が2018年4月にも、死亡保障など主力商品の保険料を全面改定する見通しだ。平均寿命の延びを映し、「標準死亡率」を算定団体が11年ぶりに下げるため。各社はこれを参考に保険料を決める。10年定期の死亡保険料は5〜10%程度下がる見込みで、利益を契約者に還元する。逆に長生きがコスト増要因となる医療保険は一部値上げの可能性もある。

 標準死亡率は算定団体の日本アクチュアリー会がつくる。同会は0…
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGC25H05_X20C17A3MM8000/

 


 

厚労省骨子案、過労自殺対策を強化 長時間労働是正など
2017/3/27 21:31
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 厚生労働省は27日、自殺対策の国の指針となる「自殺総合対策大綱」の見直しに向けて、過労自殺対策の推進などを盛り込んだ報告書の骨子案を有識者検討会に提示した。学校教育を通じた若者の自殺対策を加速していく方針も示した。4月に報告書を取りまとめ、今夏に新たな大綱を閣議決定する。

 厚労省によると、2016年の自殺者数は2万1897人と7年連続で減少したが、骨子案では「依然として年間2万人を超えるという深刻な状況」と指摘。国際的にみて、日本の自殺死亡率が高いことを踏まえ、今後10年間の目標として「先進諸国の現在の水準を目指すべきだ」とした。

 個別対策では、長時間労働の是正やメンタルヘルス対策の強化などを通じて過労自殺を防ぐ。また若者の自殺対策として、学校で「SOSの出し方教育」を推進していくことを明記。いじめなどに悩む子供への相談対応として「スクールソーシャルワーカー」の配置を進めていく。

 自殺総合対策大綱は、06年施行の自殺対策基本法に基づき、07年に初めて策定。12年に新たな大綱を閣議決定した。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG27H9Q_X20C17A3CR8000/


 


 

景況感、2期連続改善へ 3月民間予測 輸出好調で
2017/3/27 21:26日本経済新聞 電子版
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 QUICKは日銀が4月3日に公表する3月の全国企業短期経済観測調査(短観)について、民間の金融機関やシンクタンク12社の予測をまとめた。注目度が高い大企業製造業の景況感は2四半期連続で改善する見込みだ。世界経済の好調で輸出と生産が伸びているため。ただ米経済対策などの行方が不透明で、先行き懸念は拭えない。

 27日時点の集計によると、大企業製造業の業況判断指数(DI)は3月分が予測中心値でプラス15…
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGF27H0L_X20C17A3EE8000/

http://www.asyura2.com/17/senkyo223/msg/201.html

[経世済民120] 米経済見通しとドル・円相場が日本株を再び支配か−強気派には打撃、119台から下げ幅縮小 黒田総裁に残された3つの課題

 
米経済見通しとドル・円相場が日本株を再び支配か−強気派には打撃
Min Jeong Lee、竹生悠子
2017年3月28日 10:03 JST
日本株が再び米経済成長見通しとドル・円相場に動かされつつある。米国で下院共和党がヘルスケア法案への支持が十分に集まらなかったために採決を断念したことから、トランプ米大統領の政策実行能力に対する懸念が高まり、27日のTOPIXは1%を超える下げとなった。円が1ドル=110円に向け上昇したこともあり、TOPIXは年初来の上げを大きく失った。
  米連邦準備制度理事会(FOMC)が利上げを進める中で、日本銀行の刺激策が支えとなるTOPIXは独自の道を歩むとみる日本株の強気派にとって打撃だ。企業の増益率が17%を超えるとの見通しも、円高と米経済を巡る地合いを克服できていない。
 
  SBI証券の鈴木英之投資調査部長は、トランプ大統領の公約に潜んでいたリスクが表面化しつつある今、適切なバランスをどこで見いだすかが問題になっていると話す。
  大和住銀投信投資顧問・経済調査部の門司総一郎部長は、投資家は景気や企業利益などのファンダメンタルズに焦点を絞るべきだと指摘。4月の企業利益が日米の株式相場の方向を予測する上で最も重要なポイントになり得るとみている。
  フィリップ証券の庵原浩樹リサーチ部長は「ヘルスケア法案を巡り、共和党内の溝が深まってしまった可能性がある」とし、米政権が税制改革に重点方針を転換したとしても、「党内の意見の食い違いを修正できるのかは不透明。トランプ米政権への期待がはく落しただけでなく、市場がこれまで描いてきた青写真の実現が難しくなった」と述べている。
原題:Escape Route Eludes Japan Stocks Still Hostage to U.S. Sentiment(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-28/ONI1MJ6KLVRS01


 


 

黒田総裁に残された3つの課題、まず金利予測公表を−門間前日銀理事
日高正裕、Chikako Mogi、藤岡徹
2017年3月28日 09:00 JST

• 展望リポートには「致命的欠陥」、日銀の物価見通しは「非現実的」
• 将来損失を含めたバランスシートの見通しを明らかにすることが必要

日本銀行前理事の門間一夫氏は、黒田東彦総裁の来年4月の任期終了までの課題として、政策金利の誘導目標の見通しを公表すべきだと提案した。長短金利操作の下、誘導目標の引き上げに神経質になる市場との対話を円滑に進める狙いがある。
  門間氏は24日のインタビューで「日銀が適切なイールドカーブ(利回り曲線)水準をどう判断しているのか、もう少しイメージを持てるような情報発信が必要だ」と説明。市場の関心は長短金利操作に集中しており、説明が不十分なまま金利上昇の思惑が強まれば金利操作は難しくなると懸念を示した。日銀が経済・物価の見通しと整合的だと考える見通しを示せば「市場との議論が深まる」という。 

門間一夫氏

Photographer: Andrew Harrer/Bloomberg
  具体的には、米連邦準備制度理事会(FRB)が公表するフェデラル・ファンド(FF)金利見通しを参考に、四半期の経済・物価情勢の展望(展望リポート)で短期金利(日銀当座預金の一部に適用する政策金利)と長期金利(10年物国債金利)の誘導目標について見通しを公表することを挙げた。
  日銀を昨年5月末に退任し、現在はみずほ総合研究所のエグゼグティブエコノミストを務める門間氏は、金利見通しの公表のほか、高めになりがちな物価見通しの現実的な水準への見直し、金融緩和の出口で生じうる損失を含めた財務見通しの公表−の3点が必要だと指摘した。
誘導目標
  日銀は昨年9月に導入した長短金利操作付き量的・質的金融緩和の下で、長期金利目標を「0%程度」、短期金利を「マイナス0.1%」としている。原油価格反転や円安の影響で、物価上昇率が年内に1%に達するとの見方が強まり、エコノミストからは長期金利の誘導目標を黒田総裁の任期中に引き上げるという見方も出ていた。
  3月の金融政策決定会合の「主な意見」では、政策委員の1人が「長短金利操作の手順や政策反応関数について、今のうちから議論しておく必要がある」と指摘した。
  1月に公表された展望リポートによると、日銀の政策委員の消費者物価(除く生鮮食品、コアCPI)の2017年度の見通しの中央値は前年比1.5%上昇だったが、門間氏は「非現実的」であり、民間の見通しである1%程度が「妥当な線ではないか」と述べた。
  門間氏は日銀のチーフエコノミスト的存在である調査統計局長を長年務めた。展望リポートの物価見通しは物価目標に沿った高めの数値になる傾向が強く、「市場と認識を共有しにくいという致命的な欠陥がある」という。市場の関心が今後の金利動向に移る中、「前提となる経済・物価の見方をなるべくバイアス(偏見)なく発信していくことは市場との対話の第一歩だ」との見方を示した。

https://assets.bwbx.io/images/users/iqjWHBFdfxIU/ineKuEPat7Ck/v2/-1x-1.png

日銀
複数シナリオ
  財務悪化のため、いずれ日銀が国債を買えなくなり長短金利操作ができなくなると懸念する市場参加者もいる中で、バランスシート(貸借対照表)の見通しについてもFRB同様に情報発信が必要だという。日銀が複数のシナリオを提示し、「損失は出るかもしれないが、とてつもなく巨額の損失が発生するのは極めてまれなケースだと説明することで、世の中で不安が広がるような議論を防ぐことにもつながる」と述べた。
  黒田総裁の任期終了まであと1年。市場では、次の日銀の一手は追加緩和ではなく国債買い入れ減額や金利引き上げなど出口方向になるとの見方が強いが、門間氏によれば、今年の利上げは難しく、来年の可能性も高くない。長期的にも「出口に行ける可能性は自明ではなく、むしろ2%になかなか行かず、政策の枠組みを考え直さなければならないということもあり得る」としている。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-28/ONGCC06KLVR401

NY外為:ドル下げ幅縮小、一時リフレ取引再考で4カ月ぶり安値
Dennis Pettit
2017年3月28日 05:22 JST 更新日時 2017年3月28日 06:26 JST

https://assets.bwbx.io/images/users/iqjWHBFdfxIU/igblGCX5Xzoo/v2/-1x-1.png


27日のニューヨーク外国為替市場ではドルが下落。トランプ政権への期待を背景にしたリフレ取引は影を潜めている。ただ、ドルの主要10通貨に対する動きを示すブルームバーグ・ドル・スポット指数は一時4カ月半ぶりの低水準を付けた後、下げ幅を縮小した。
  ニューヨーク時間午後5時10分現在、ブルームバーグ・ドル・スポット指数は前営業日比0.4%安。ヘルスケア法案が24日、採決に至らず撤回されたことから、米財政拡大を基にした世界的なリフレ取引が見直されている。

  この日のドルは逃避需要を背景に対円とスイス・フラン、英ポンドに対して特に下げた。一方、原油と商品の下落から新興市場国通貨に対するドルの下げは小幅だった。
  ドルは対円で0.6%下げて1ドル=110円66銭。対ユーロでは0.6%下げて1ユーロ=1.0864ドルとなっている。
  ドルは幅広く下げているが、対円では大統領選挙後につけた値上がり分のうち半分超を確保している。ドルは心理的に節目となる水準の1ドル=110円を維持し、109円93銭の50%リトレースメントを上回っている。
  公に話す権限がないとして匿名を条件に述べたアジアと欧州のトレーダーは、ドル買い注文が110円付近に仕掛けられていることも、この日のドル安に歯止めをかけたと話す。同トレーダーは1ドル=109円80銭で新たな注文が仕掛けられている可能性があると指摘する。テクニカル分析によると、これは11月18日に記録した安値からの支持線と一致する水準だ。
  ユーロは対ドルで一時1ユーロ=1.0906ドルと、11月11日以来の高水準まで上昇したが、その後上げ幅を縮小した。  
原題:Dollar Pares Decline to 4-Month Low in Reset of Reflation Trade(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-27/ONHP5Q6VDKHS01

 


南ア大統領が財務相に帰国命令、内閣改造観測強まる−ランドが大幅安
Sam Mkokeli
2017年3月28日 01:48 JST
南アフリカのゴーダン財務相はズマ大統領からロードショー(機関投資家向け説明会)を中止するよう指示を受け、ロンドンから帰国する計画だ。ズマ大統領は内閣改造の準備を進めているとの見方が強まった。
  ズマ大統領はゴーダン財務相とジョナス副財務相に英米で1週間行う予定だったロードショーの中止を命じた。これを受けて南ア・ランドが大幅安となった。ズマ大統領の報道官は中止理由については明らかにしていない。
  
原題:Zuma’s Recall of Gordhan From London Sparks Cabinet Speculation(抜粋)

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-27/ONHAA76VDKHX01
http://www.asyura2.com/17/hasan120/msg/513.html

[戦争b19] 中国、人工島への戦闘機配備はいつでも可能=米シンクタンク 南沙の軍事施設ほぼ完成 南シナ海で中国、米分析 軍事利用可能に

中国、人工島への戦闘機配備はいつでも可能=米シンクタンク
 
http://s1.reutersmedia.net/resources/r/?m=02&d=20170328&t=2&i=1178288422&w=644&fh=&fw=&ll=&pl=&sq=&r=LYNXMPED2R040

 3月27日、米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)傘下のアジア海事透明性イニシアチブ(AMTI)は、中国が南シナ海に造成した人工島で進めてきた主要な軍事施設の建設をほぼ終え、戦闘機をいつでも配備できる状態にあるとの見方を示した。写真は南シナ海のファイアリー・クロス礁に造成された軍事施設。CSIS提供。(2017年 ロイター)

[ワシントン 27日 ロイター] - 米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)傘下のアジア海事透明性イニシアチブ(AMTI)は27日、中国が南シナ海に造成した人工島で進めてきた主要な軍事施設の建設をほぼ終え、戦闘機をいつでも配備できる状態にあるとの見方を示した。

AMTIによると、南シナ海のスプラトリー(中国名・南沙)諸島のファイアリー・クロス(永暑)礁、スビ(渚碧)礁、ミスチーフ(美済)礁でレーダーや海軍・空軍の施設の工事が完了しつつある。

中国は南シナ海を軍事拠点化しているとの米国側の指摘を否定している。

米国防総省のロス報道官は、国防総省は情報活動についてコメントしないとし、AMTIの具体的な分析内容に関するコメントを拒否した。その上で、「中国が南シナ海で建設活動を続けていることは、中国が地域の緊張を高め、平和的な問題解決に逆効果となる一方的な行為を続けているという証拠をなす」と語った。

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焦点:THAAD配備で中国が「韓国企業たたき」、次は米国か
EUは崩壊へ、ユーロ巡る交渉は独選挙後に実施=仏極右ルペン氏
http://jp.reuters.com/article/southchinasea-china-spratlys-idJPKBN16Z08X

 
南シナ海の人工島 中国 軍事利用可能に
3月28日 9時08分
アメリカのシンクタンクは、南シナ海で中国が滑走路の整備を進めている3つの人工島すべてで、20機以上の戦闘機を運用できるほどの格納庫やレーダー施設などがほぼ完成し、軍事利用が可能な状態になったとする分析結果を公表しました。
アメリカのシンクタンク、CSIS=戦略国際問題研究所は27日、南シナ海の南沙(スプラトリー)諸島で中国が大型の滑走路の整備を進めているファイアリークロス礁とミスチーフ礁、スビ礁の3つの人工島を撮影した最新の衛星写真とその分析結果を公表しました。

それによりますと、3つの人工島すべてで、滑走路に併設された格納庫がほぼ完成していて、それぞれ20機以上の戦闘機や輸送機、空中給油機など大型の軍用機を運用できるほどのスペースがあるということです。

また、すべての人工島には南シナ海の広い範囲をカバーできるだけの複数のレーダー施設が整備され、最新の地対空ミサイルを格納できる施設も併設されているとしています。

これらの状況からCSISでは、「中国は現時点で戦闘機や移動式ミサイルを含む軍事装備をいつでも展開できる」として、軍事利用が可能な状態になったと指摘しています。

さらに、CSISは中国が南沙諸島の北の西沙(パラセル)諸島にも滑走路を保有していることから、今回の3つの人工島の施設と合わせれば南シナ海のほぼ全域で軍用機の運用が可能になると分析しています。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170328/k10010927141000.html

 

南沙の軍事施設ほぼ完成 南シナ海で中国、米分析
2017.3.28 11:41

http://www.sankei.com/photo/images/news/170328/sty1703280004-p1.jpg

CSISが発表した南沙諸島の人工島、ファイアリクロス礁の衛星写真=9日(ロイター)
CSISが発表した南沙諸島の人工島、スービ礁の衛星写真=14日(ロイター)
【ワシントン共同】米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)は27日、最近撮影された衛星写真に基づき、中国が南シナ海で領有権を主張する南沙(英語名スプラトリー)諸島の三つの人工島で、20機以上の戦闘機を収容できる格納庫やレーダードームなどの軍事施設をほぼ完成させたとの分析を発表した。
 トランプ政権は軍事拠点化をやめるよう要求していたが、中国が既成事実化を一段と進めたことが確実になった。4月上旬に予定される米中首脳会談で米側の出方が注目される。
 CSISは「中国はいつでも戦闘機や移動式ミサイル発射装置を南沙に配備できる」と指摘している。
 人工島のうち、ファイアリクロス(中国名・永暑)礁では戦闘機24機と給油機のような大型機4機を収容できる格納庫が完成。レーダードームも複数設置された。
http://www.sankei.com/photo/story/news/170328/sty1703280004-n1.html
http://www.asyura2.com/16/warb19/msg/842.html

[国際18] ロンドンテロ直後の情けない世相 語るべきは、鈍った心に刺さる思いがけない出来事 宇宙の姿が変わる!私たちはすごい時代を生
ロンドンテロ直後の情けない世相
語るべきは、鈍った心に刺さる思いがけない出来事
2017.3.28(火) Financial Times
(英フィナンシャル・タイムズ紙 2017年3月24日付)

英議会襲撃、新たに容疑者1人拘束 捜査はメッセージアプリに焦点
英ロンドンの襲撃事件の現場となったウェストミンスター橋で、犠牲者に手向けられた花束(2017年3月26日撮影)。(c)AFP/Daniel LEAL-OLIVAS〔AFPBB News〕
 これについて、本当に語る価値のあることなど存在するのだろうか。一時的とはいえ人々を日常から非日常へと追いやったロンドンでの忌まわしい事件の後、日常に戻る過程で見られたのはうんざりしてしまう光景だった。

 まず、ソーシャルメディアにユニオンジャックが現れた。弔意を表すためだが、むしろ、我々英国人がテロの犠牲者というおぞましいクラブに再度加わったことを思い出させる方向に作用するように思われる。また、セキュリティーの「専門家」が続々と登場し、以前語っていたことを繰り返した。

 政治家たちは、国民の決意を強固にしようと、どうしようもない決まり文句を羅列した。ポピュリストや識者たちは、悲惨なほど予測可能でたいくつな反応を示した。事実の概略すら把握せずに、今回の攻撃は自分の指摘が正しかったことを裏付けていると躍起になって主張したのだ。ドナルド・トランプ・ジュニア、英独立党のナイジェル・ファラージ、同党の支援者アロン・バンクス、コラムニストのケイティ・ホプキンス――人々の期待に絶対に届かないことを最も得意とする、何とも風変わりな人たちだ。

 たとえ政治家が適切なコメントをしても、その言葉は繰り返されることですぐに希釈されてしまう。事件が起きた水曜日の夜には、まさにそんな光景が見られた。テリーザ・メイ首相は警察官らに言及し、「ほかの人々には逃げるよう促しながら、自らは危険な場所に向かって駆けていった」と称えた。この対応には筆者も胸を打たれた。

 ところが国防相が繰り返し用いたせいで、翌朝にはこのフレーズは常套句になり、心の深いところに響く言葉ではなく、唱えられるだけの言葉になってしまっていた。国防相はこのフレーズのようには考えていない、と筆者は言っているわけではない。ただ、どのように言えば価値のある発言になるかは自分で考えなければいけない、と言っているだけだ。

 翌日の木曜日は朝から晩まで政治家たちが、キャスターらの求めにとことん応じて同じお題目を口にしていた。テロリストが勝利することはない、我々の暮らし方は変わることなく続いていく、という例の表現だ。これ以外のことを言ってもらえることはないだろう。国民もこの言葉を聞きたがっているし、ほとんどの人はこの通りだと思っている(もっとも、犠牲者の家族はテロリストが負けたとは思わないだろうが)。

 そして、ほとんど時を置かずに始まったのが、ミスをしたのは誰でどんなミスを犯したのか、誰に責任があるのかという追及だ。国民は、警備に何らかの不備があったのだと思いたがっている。もしそうであれば、あらゆる残虐行為を自分の手で防止する可能性が残ることになるからだ。たとえこの事件に、ロンドンまで車を飛ばしてきた1人の男の犯行だとして片付けるわけにはいかない部分が多少残るとしても、だ。

 今回のテロ攻撃が行われるほんの少し前に、下院議員たちがマーティン・マクギネス――英国が生んだ最も悪名高いテロリストの1人――に追悼の意を表していたというのは、かなり皮肉な話だ。野党・労働党のジェレミー・コービン党首は、親しげに「マーティン」とファーストネームで言及することさえした。

 マクギネスは、若かりし頃に暴力に明け暮れた後に政治家に転じ、最終的には北アイルランド自治政府の副首相に上り詰め、ネルソン・マンデラにたとえられるほどになった(南アフリカ共和国と違い、北アイルランドではテロに代わる民主的な方法が認められていたが、そのことを人々は忘れていた)。

 マクギネスが称えられるのはその人生の第2章、すなわち、アイルランド共和軍(IRA)のデリー旅団から正式に身を引いた時代の行動のためだ(ちなみにこの旅団は、1人の男性の家族を人質にとり、その男性に爆発物を満載したトラックを運転させ、そのまま軍の検問所に自爆攻撃させるという「人間爆弾」を開発した)。

 武力闘争に失敗したマクギネスは、IRAを話し合いの場に連れてくる上で重要な役割を果たした。そのおかげで死なずに済んだ何万人もの人々を考慮して発言するなら、多少の追悼の言葉くらいどうということはない。しかし、もし暴力に走っていなかったら、マクギネスが交渉のテーブルに着くこともなかっただろう。これでも、テロリストが勝利することはないと言えるのだろうか。

 では、本当に語る価値のあることとは、どんなことなのか。それは恐らく、先日の水曜日のような日には、人々の鈍った心に刺さる、はっと息をのむような思いがけないことが起こる、ということだろう。それは、走って逃げたいと思ったに違いないのにウエストミンスター橋にとどまり、重傷を負った人々を助けたり元気づけたりしようとした人々がいたことであり、近くの聖トマス病院から看護師や医師が飛び出してきたことであり、トバイアス・エルウッド下院議員の顔に血がたくさんついたりしたことだった。

 外務次官のエルウッド氏は元兵士で、ほかの議員が逃げるように言われている時に外に飛び出し、倒れた警察官の命を救おうとした。エルウッド氏が優秀な次官かどうか筆者は知らないが、勇敢で立派な人物であることを身をもって示した。予想外のことを、予想外に見事にやってのけた。本人は恐らく、たいしたことではないと言うだろうが、筆者にはそうは思えない。

 このように同情の念が示されたり英雄的な行為がなされたりする瞬間、そしてそれほど劇的ではなくありふれてもいるが思いやりのある行動は、心に刺さる。感想を述べるに値するのは、「たいしたことではない」とあっさり片付けられる平凡なことだ。こうした出来事、小さいが非常に大きな意味を持つものこそ、語るに足ることなのだ。

By Robert Shrimsley

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49542

 

宇宙の姿が変わる!私たちはすごい時代を生きている
重力波にヒッグス粒子、少しずつ分かってきた宇宙の秘密
2017.3.27(月) 小谷 太郎
この星空の果てがどうなっているか、少しずつ分かっていくかもしれない。
 筆者がJBpressを介して皆様にこうして記事をお届けするようになって1年経ちました。1年の間には、X線天文衛星「ひとみ」に悲劇的な事故が起きたり、113番元素がニホニウムと命名されたり、熱力学・統計力学の新たな法則が発見されるなどなど、驚きのニュースが相次ぎました。自分の記事の目次を見返して、いろいろあったなあと感慨にふけっております。

 科学のニュースはいつでもどれでも驚きなのですが、実は私たちの宇宙観を変えるほど超重要な発見や衝撃的な報告が、この21世紀に入ってから相次いでいるのです。16%が経過した21世紀に、どんな事件があったか、宇宙の姿がどう変貌したか、最近の件からさかのぼって思い出してみましょう。

2015年、重力波発見

 アインシュタインの一般相対論が予言する、時空のさざ波「重力波」は、検出が極度に困難なため、100年の間、検出は不可能でした。

 しかし2015年9月14日9時50分45秒(世界標準時)、巨大で精密な重力波検出装置LIGO(ライゴ)が、人類史上初めて重力波を検出することに成功しました。太陽質量の36倍と29倍のブラックホールが13億年前に衝突・合体し、その際に放射された重力波が地球に到達し、LIGOをほんのわずかだけ振動させたのです。

 これにより、重力波とブラックホール両方の存在が疑問の余地なく証明され、同時に重力波天文学が創始されました。

 2017年現在、LIGOは2期目の観測を行なっています。今回は何が飛び出てくるのか、楽しみに待ちましょう。

2014年、よその恒星の惑星が1000個を超える

 太陽系には惑星が四捨五入して10個ほどありますが、よその恒星がはたして惑星を持つのかどうかは、数世紀にわたって知りようがありませんでした。なにしろ最も近い恒星でさえ、光の速さでも何年もかかる遠方にあります。そこのちっぽけな惑星を検出するには、すさまじく高度な望遠鏡技術が必要です。

 しかし約500年のたゆまぬ技術開発のおかげで、1995年には太陽系以外の恒星の惑星(系外惑星)が初めて検出されました。太陽系以外にも惑星が存在したのです。

 以来、系外惑星の数は年々増え、特に宇宙機「ケプラー」は、むちゃくちゃな勢いで新・系外惑星を検出していきました。2014年、人類の知る系外惑星の数は1000個を超えました。

 この宇宙は惑星に満ちているのです。中には生命を宿すものもあるかもしれません。夜空を見上げる時、そのことを意識せずにはいられません。星の王子様風に表現すれば、21世紀の星空が美しいのは、どこかに生命を隠しているからなのです。

2012年、ヒッグス粒子発見

 20世紀末から21世紀にかけて、素粒子物理学でも著しい発展がありました。

「トップクォーク」という重い素粒子が発見され、幽霊のような「ニュートリノ」が質量を持つことが確実になり、そして2012年には「ヒッグス粒子」がとうとう発見されました。

 ヒッグス粒子は、50年前に理論的に予言されて以来、検出が待ち望まれてきた素粒子です。そのあいだ、建造される粒子加速器はどんどん大規模になり、世界最大の粒子加速器LHCは全周27kmという途方もない大きさになりました。ヒッグス粒子を合成するのにはこの大きさが必要だったのです。

 これで、存在すると予想された素粒子はあらかた出揃いました。これまでに発見された17種の素粒子は「標準模型」と呼ばれる素粒子理論で説明されます。ここのところ見つかる素粒子は標準模型の予想におおむね従っているし、人類は宇宙のミクロな部分をほぼ理解し尽くしたのでしょうか。

 けれども、宇宙を満たす「ダークマター」や、次に紹介する「ダークエネルギー」は、既知の理論と17種の素粒子では説明できません。標準模型は近いうちに拡張する必要があるようです。

2011年、宇宙の加速膨張の発見にノーベル賞

 20世紀末から、どうも宇宙は加速膨張しているらしいという証拠が出てきました。

 138億年前のビッグバン以来この宇宙は膨張し続けていて、そのため、遠方の銀河を観測すると私たちの天の川銀河から高速で遠ざかっているのが分かります。宇宙の膨張自体は90年ほど前に発見されていて、新発見ではありません。

 20世紀末に始まったプロジェクトは、50億光年以上という、訳が分からないほど遠くの銀河を観測して、距離と速度を精密に測定するものです。そういうことを調べると、宇宙論にインパクトのある結果が出せるんじゃないかと思ってやったら、本当にインパクトがありました。宇宙は加速しながら膨張していたのです。ほとんどの研究者はこんなこと予想しませんでした。ひっくり返るほどの驚きです。

 宇宙膨張は、一般相対性理論に従って起きます。一般相対論の方程式をあれこれいじくると、宇宙の膨張を表す解が得られるのです。そして加速膨張を表す解を得るためには、一般相対論の方程式中の「宇宙項」と呼ばれる定数項を0でない値に設定しないといけません。

 宇宙項は、宇宙空間を満たす「ダークエネルギー」を表すと解釈されています。空っぽで真空の宇宙空間には、実は目にも見えないエネルギーが詰まっていたのです。

 一体このダークエネルギーとは何物でしょうか。量子力学において「零点エネルギー」だとか「スカラー場」と呼ばれる代物が実在したのでしょうか。どう扱えばいいのか、研究者も戸惑っている段階です。この解決は21世紀の課題です。

2001年、ヒトの全DNAが読み取られる

 21世紀の初頭、ヒトの全DNA配列が発表されました。ヒトの全DNAを読み取る「ヒトゲノム計画」は、当初は不可能ともいわれましたが、約10年かけて完了しました。

 ヒトのDNAは約32億塩基対、情報量にして1ギガバイト弱です。これは約2万〜2万5000の遺伝子に相当すると思われますが、そのうち役割が判明し、きちんと解読されたといえるものはごくわずかです。ヒトゲノム計画のおかげで、どういうDNA配列が書いてあるかだけは分かったものの、ほとんどはいかなる機能を持ち何の役に立つのかは不明な状態です。

 この理解は21世紀のサイエンスの主要なテーマであり、生物学、医学、薬学、工業など広い分野に革新をもたらすことは間違いありません。

 ヒトゲノム計画の過程で開発された新技術は、その後ますます磨きがかかり、現在では、ゲノムDNAのサンプルを与えると、その全配列を最短で数時間で読み取るまでになっています。これは生物学の手法を変革しつつあります。生物界におけるヒトの位置付けもどんどん変わっています。

 このように21世紀は、宇宙がどうなっているのか、それはどういうミクロな存在から構成されているのか、私たちヒトはどのような存在なのかといった、この世界を捉える観点が大きく変化している時代です。

 地球創生以来46億年経ちますが、21世紀は地球史(宇宙史?)始まって以来の稀な瞬間です。そういう革命のさなかに居合わせ、その目撃者になれることは、46億分の100ほどの大変な幸運なのです。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49510


http://www.asyura2.com/17/kokusai18/msg/761.html

[経世済民120] 好きで残業している人も早く帰らせるべき理由 アマゾンのドローン配送、ついに米で初の一般公開 規制緩和の兆しか、米連邦航空
好きで残業している人も早く帰らせるべき理由
「インクルージョン」のない多様性は組織の足を引っ張る
2017.3.28(火) 石原 直子
「誰もが早く帰れる組織」はどうやって実現できるか?
?2016年6月に発表された安倍内閣の「ニッポン一億総活躍プラン」では、働き方改革は一億総活躍社会の実現に向けた横断的課題であると明記された。同年9月には働き方改革担当大臣という新しい大臣ポストが誕生し、初代大臣には加藤勝信衆議院議員が任命された。

?働き方に関する課題はそもそも厚生労働省が管轄しているのだから、今回の働き方改革も厚生労働省に音頭を取ってもらうことも検討されたはずだが、新たに大臣ポストを設置したということは、安倍政権が働き方改革を重要課題として位置づけていることの証左であろう。

?また同じく2016年9月からは、安倍首相自身が議長を務める「働き方改革実現会議」が継続的に開催されている(現時点で2017年2月22日の第8回まで終了している)。この会議で検討するテーマは次の通り、9項目となっている。

1 同一労働同一賃金など非正規雇用の処遇改善
2 賃金引き上げと労働生産性の向上
3 時間外労働の上限規制の在り方など長時間労働の是正
4 雇用吸収力の高い産業への転職・再就職支援、人材育成、格差を固定化させない教育の問題
5 テレワーク、副業・兼業などの柔軟な働き方
6 働き方に中立的な社会保障制度・税制など女性・若者が活躍しやすい環境整備
7 高齢者の就業促進
8 病気の治療、子育て・介護と仕事の両立
9 外国人材の受け入れの問題

?テーマは多岐にわたっており、働き方改革の範囲もやや広めに取られている(働き方とは直接的に関係なさそうな項目も見受けられる)ものの、どのテーマも、これまで課題だとは言われながらも、政府が本腰を入れて改革の俎上に載せきれなかったことばかりである。会議は年度内に結論を出すことになっているが、その行方を注視しておきたいものである。

好きで仕事をしているのになぜ悪い?

?さて、本稿では、これらのテーマのなかでも特に3の「長時間労働の是正」のことを考えてみたい。

?2016年以降、多くの民間企業で「働き方改革」の取組みが始まっており、その内容には多くの場合「労働時間の適正化」「長時間労働体質からの脱却」など、長時間労働の是正にかかわる活動が含まれている。

?長時間労働の是正を、と主張すると、意外なほどに働く人自身からの反論が沸き起こる。いわく「今も少ない人数でギリギリの納期に向けて仕事している。労働時間を減らせば即、業績悪化に陥りかねない」「労働基準に反するほどの長時間労働はともかく、好きで仕事をしているのになぜ悪い」などなど。

?あまたの反論のうちで、筆者がもっとも深刻に組織上のリスクにつながると思うのは、「育児や介護など、“事情のある人”の労働時間の配慮はしている。なぜ、“長い時間働ける人”や“残業をしてでも仕事をやり切りたい人”までもが早く帰らなくてはいけないのか」というタイプの意見だ。

?確かに昨今では、ワーキングマザーや介護をする必要のある人などに対しては、時短で働くことや、残業しなくてすむ働き方を選択できるなど、「事情を抱えた従業員のワークライフバランスに配慮」した各種施策は、大企業を中心に整備され、定着しつつある。そうした従業員だけでなく、「働ける人」や「働きたい人」までも巻き込んで、「長時間労働体質からの脱却」に取り組まねばならない理由があるのだろうか。

?筆者の答えは「イエス」である。すべての企業ですべての人が長時間労働体質からの脱却に取り組むべき最大の理由は、組織におけるインクルージョンを実現するためである、と考えるからだ。

?インクルージョンの直訳は「包摂」「包含」などとされるが、いまひとつ分かりづらいかもしれない。筆者は、インクルージョンとは「自分の存在は100%許されていると、すべての人が信じられること」と説明している。

?昨今、欧米企業で多様性に関する話題が出る時には、単に「ダイバーシティ」というのではなく「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」というように、2つの単語をセットにして使われることが多い。

?これについて、ある米企業の人事担当役員は次のように説明してくれた。

「『ダイバーシティ』とは単に『多様である』という状態に過ぎない。多様な人が集まった集団がそれぞれの人を受け入れなかったら、多様であることが組織にとっての力にはなり得ない。多様な人々が大きな目的に向けて力を合わせるために必要なのが『インクルージョン=お互いに尊重し、認め合うこと』である」

「ダイバーシティ」だけでは不十分

?先に述べたとおり、多くの企業では、育児や介護などの事情がある人の働き方には配慮しているかもしれないが、そうでない“普通”の人は残業するのが当たり前、という習慣までは変わっていない。あるいは、変えようと思っていないとも言えるだろう。

?だが、「普通の人は残業している」という“常識”がある限り、普通の人々の心の中から「早く帰る人は、自分たちよりも貢献度の低い人」という意識を拭い去ることはできない。つまり「一軍である自分たち」と「二軍でしかない人々」、コアメンバーである自分たちとそうではない人々、といった区分が、暗黙のうちになされてしまうのである。

?また、同調圧力の強い日本の組織においては、早く帰るという特別な権利を享受している人たちは、別の場面で権利を制限されても仕方ない、という考え方が容易に広まる。「時短で働くからには、人事考課における高評価や昇進は望めないと思ってほしい」「早く帰る人だから、新しい仕事のチャンスを他の人のようにはあげられない」というような理屈がまかり通ることになってしまうのだ。

?かくして、「早く帰れるように」という配慮を受けた人々は、「100%認められる」というところからほど遠いところに、置き去りにされることになる。

?当然ながら、「自分は100%認められている」と思えない人のモチベーションは下がる。ダイバーシティ(多様性)が高まったとして、組織内に増えた「多様な人々」が低いモチベーションでしか働かないのであれば、ダイバーシティは経営の価値になるどころか、経営にとってネガティブにしか作用しない。ダイバーシティとインクルージョンがセットで実現されなければならないというのは必然なのだ。

?もちろん、インクルージョンを阻むのは長時間労働体質だけではないし、長時間労働の弊害は、社員の健康状態の悪化、生産性への意識の低下など他にも及ぶ。

?だが、「残業は仕方ない」「働ける人は働きたいだけ働けばいいではないか」と考える“普通”の人々の感覚こそが、組織を深いところで蝕んでいるかもしれないということには、自覚的であった方がいい。

「誰もが早く帰れる」組織を目指すのは、すべての人から質の高い貢献を引き出すための最初の一歩なのだと心得たい。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49467


 

アマゾンのドローン配送、ついに米で初の一般公開
規制緩和の兆しか、米連邦航空局がアマゾンに協力
2017.3.28(火) 小久保 重信
米国のドローン数、20年までに700万機に 米当局
ドイツ・ハノーバーで開催された情報通信技術見本市「セビット(CeBIT)」で、ドローンの展示ブースの前を通る来場者(2016年3月15日撮影、資料写真)。(c)AFP/John MACDOUGALL〔AFPBB News〕
?米リコード(Recode)や米ザ・バージ(The Verge)などの海外メディアの報道によると、米アマゾン・ドットコムはこのほど、ドローン(小型無人機)を使って商品を配達する様子を米国で初めて、一般の人々に披露した。

完全自立飛行の配送ドローン

?アマゾンは3月20日に、カリフォルニア州パームスプリングスで「MARS 2017」と呼ぶ、機械学習、オートメーション、ロボット、宇宙探査に関するカンファレンスを開催したが、その会場でデモを行ったという。

?ユーチューブで公開された動画には、会場の敷地上空に1機のクワッドコプターが現れ、芝生の上に敷かれた目印のシートに着地後、アマゾンのロゴ入り段ボール箱を下ろして離陸する様子が映されている。

?段ボール箱の中身は、ボトル容器に入った日焼け止め剤で、荷物の重量は1.8キログラムほど。これが果たしてアマゾンのeコマースサイトで実際に注文されたものなのか、あるいは単なるシミュレーションなのかは定かではないが、商品を受け取った人はカンファレンスの参加者だったという。前述のリコードの記事は、このドローンは、アマゾンのソフトウエアによって完全自立飛行したと伝えている。

Prime Air構想とは

?アマゾンは2013年12月に「Prime Air」と呼ぶ、ドローンを使った商品配送システムの構想を発表。同社はこのプロジェクトで、重さ約2.25キログラムまでの商品を注文から30分以内に顧客の元に届けることを目指しており、これまで米国でさまざまな実験を行ってきた。

?だが米国では商用ドローンに関する規制があるため、私有地以外の場所では飛行実験が行えない。そこで、アマゾンは昨年7月、英国運輸省民間航空局(Civil Aviation Authority:CAA)が主導する政府組織と提携。同年12月に、同国で顧客を対象にしたドローン配送実験を開始した。

?英国の実験は、ロンドンから約100キロメートル離れたケンブリッジシャーの町で行われた。顧客が自宅でタブレット端末をタップして商品を注文すると、アマゾンの配送センターでドローンに商品が格納され、その後、台車に乗ったドローンが専用の離陸スペースに移動する。最後にオペレーターがコンピュータ画面をクリックすると、ドローンが飛び立つ。

?その後ドローンはGPS(衛星利用測位システム)を使って飛行し、顧客宅の庭にある目印地点に着陸。荷物を下ろして、再び離陸し、配送センターに帰る。

(参考・関連記事)「アマゾンのドローン実験、ついに顧客に商品配達開始」

アマゾン、米連邦航空局の協力を得る

?しかし、こうした実験は今のところ米国では不可能だ。米連邦航空局(FAA)が昨年6月に公表し、同年8月に施行されたドローン使用に関する運用規則では、飛行が許可されるのは、操縦者から視認できる範囲。1人の操縦者が複数のドローンを同時操縦することも禁じている。

?つまり、今回アマゾンがカリフォルニア州パームスプリングスで行ったデモや、英国の実験のような、完全自立飛行の商用ドローンは米国で許されていない。

?アマゾンのプロジェクト担当者は、今回の飛行デモは、FAAの協力を得て行ったと話している。また米シーネットは、今回の飛行はすべて、パームスプリングス国際空港の管制空域の中で行われたと伝えている。

?こうした状況から考えると、カリフォルニアのデモは、1回限りの特例的な措置によって実現したのかもしれない。ただ、前述のザ・バージの記事は、今回アマゾンがFAAの協力を得た点が非常に興味深いとも伝えている。

?FAAは先ごろ、航空宇宙産業リポートを公表し、米国におけるドローンの実働数は今後5年で急増するとの見通しを示した。その前提条件としてFAAが挙げたのが、規制緩和だ。FAAはリポートの中で規制緩和に関する、具体的なことは述べていない。しかし、今回のアマゾンへの協力が、近い将来における規制緩和を示唆しているのかもしれない。

(参考・関連記事)「商用ドローン、2021年には10倍超に増加」
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49549
http://www.asyura2.com/17/hasan120/msg/516.html

[政治・選挙・NHK223] 時代を憲法に合わせなければいけない 憲法は、国家が失敗しないための「貼紙」

特別対談企画「出口さんの学び舎」

時代を憲法に合わせなければいけない
木村草太(憲法学者)×出口治明(ライフネット生命保険会長)(後編)
構成/菅 聖子

憲法は、国家が失敗しないための「貼紙」
木村草太(憲法学者)×出口治明(ライフネット生命保険会長)(前編)
2017/03/27
構成/菅 聖子

「保険って、憲法と似ていると思うんです」

出口:この対談は、僕がいろいろな先生方に教えを請うという場です。今日は木村先生から「日本国憲法」のお話をうかがうことを楽しみにしてきました。よろしくお願いします。

木村:まずは、日本国憲法というよりも、「憲法とは何か」というところからお話をしましょうか。

 憲法とは、国家権力が過去にしてきた失敗を繰り返さないために、その失敗をリスト化して禁止したもの。言ってみれば貼紙のようなものなんです。

出口:なるほど。

木村:たとえば、小学校には「廊下を走らない」という貼紙がしてありますね。子どもたちが集まると廊下を走り出してしまうのは、人類普遍の原理です(笑)。それを繰り返させないために貼紙をするわけです。

 どんな団体や組織にも失敗しがちなことはあります。たとえば、学校の場合は廊下を走らないですが、国家の場合は「戦争をしないようにしよう」とか「人権侵害をやめよう」とか。憲法は、そのような貼紙だと思えばいいんです。


木村草太さん(左)、出口治明さん(右)
出口:すごくわかりやすくて面白い! 実は僕、恥ずかしいんですが、大学は憲法ゼミだったんですよ。

木村:えっ、そうなんですか?

出口:でも憲法自体は全然勉強しなかった。表現の自由を勉強していたんです。

木村:なるほど、そうでしたか。

出口:僕は単純に考えれば、どんな社会でも権力は必要だと思っています。国家がなぜ作られたかといえば、権力をひとところに集めて治安を維持し、住みやすい世の中をつくるためですよね。そして、ルールを決めていった。連合王国の、マグナカルタ以降の慣習法のように、みんながルールを意識すればいいのですが、近代国家の憲法は、みんなに向けて明文化したほうがいいということですよね。

木村:その通りです。たとえば会社でも、失敗しやすいことや気を付けなければいけないことがあると思うんです。出口さんが会長を務めるライフネット生命はどうですか?

出口:あります、あります。当社の場合、マニフェストという形でパンフレットに書いています。たとえば「生命保険を、もっと、わかりやすく」とか。

木村:それは、非常にいいフレーズですね。保険というのは難しい商品なので、放っておくとどんどんわかりにくくなってしまいますから。ところで出口さんは、子どもたちに保険が大事なものだと伝えるとき、どんな説明をしますか?

出口:うちの会社にはよく小学生が遊びにくるのですが、紙芝居などを作って説明しています。「きみが交通事故に遭ってケガをしたとする。病院に行ったら、薬を塗ったり包帯を巻いてもらったりするよね。そうするとお金を払わなければいけない。入院すればもっとたくさんのお金が必要になる。不時の出費は大変だよね。でも、保険に入っていればそこでお金がもらえるから、普段の生活には変わりないんだよ」などと。

木村:なるほど。

出口:保険の本質は、ロス・ファイナンシングです。社会で生きていると、何かしらロスが起きる。たとえば火事で家が焼けたら、建て直さなきゃいけません。お金持ちなら自分でファイナンスできますが、持っていない人は建て直せません。そのときの手段が保険なんです。

木村:「本当に困ったときのことを想像してみよう」というところから教えているわけですね。

出口:ええ。困らなければ必要のないものですから。

木村:普段は気づかないけれど、いざというとき頼りにできる。そういう意味で、保険は憲法と似ているなあと思うんです。テレビなら買ったその日に見られますが、保険は買ったからといってすぐには使えません。でも、事故や病気など本当に困ったときに、救われるものです。

出口:たしかに憲法も、争いごとなどなくて、社会がうまくいっているときは関係ないですねえ。

木村:憲法のありがたみは、人権侵害されたり、逮捕されたりして初めてわかるんですよ。出口さんが、「困ったときのことを想像してみよう」と伝えているのは、すごく参考になります。憲法も、単に条文を教えるだけではなかなか伝わらない。「憲法って、こういうときに使うんだよ」ということを合わせて教えないと、と思います。

「日本国憲法は標準装備度が高いんですよ」

出口:では、日本国憲法はどのようにとらえたらいいでしょうか。

木村:他国との一番の違いは、できた時代です。フランスの人権宣言やアメリカの憲法は、18世紀の終わりに作られたので、憲法に何を盛り込まなければいけないか、まだよくわかっていなかった時代なんですね。その後、修正や改正を繰り返してようやく、書いておかなくてはいけないものが書き込まれた感じです。


出口:連合王国の慣習法に近いやり方ですね。成文にはしていますが、ちょっとずつプラスして憲法を作っている。

木村:そうです。フランスもアメリカも、どんどん建て増しをしている。一方、日本国憲法ができたのは第二次世界大戦後です。「憲法には、こういうものが必要だ」と、だいたいわかっていた時期ですね。そのため、「軍隊をコントロールする」「人権を保障する」「権力を分立する」「人権保障のために裁判所に違憲立法審査権を付与する」といった立憲主義の基本メニューが最初から装備されています。

 連合王国の憲法は、昔からの慣習法としてあった憲法を修正しながら使っているので、標準装備が整っていないところがある。たとえば、憲法裁判所や最高裁判所による人権を守るための違憲立法審査の仕組みがありません。法律でOKしたことについて、国民は基本的に文句を言えないんです。アメリカでもドイツでも日本でも、人権侵害を侵す法律があった場合、国民はダメだと言えるのに。

 出口さんはロンドンに住んでいたことがあるそうですね?

出口:はい、あります。

木村:私の理解では、連合王国の人たちは「自分たちは自由の祖国である」という意識を強く持っている。非常に人権意識が高い印象ですが、どうでしょうか。

出口:その通りだと思います。

木村:なので、「私たちの議会が人権を侵害するなんて、ないんじゃないか」という考え方だったのです。

出口:議会の歴史そのものが、自由を勝ち取るための戦いだったので、そこに対する信頼感が高い。わざわざそんな仕組みを入れなくても、我々はマネージできるという考え方なんでしょうね。

木村:そうなんですよ。ただ、EU化の流れの中で、連合王国もヨーロッパ人権条約に加入することになりました。加入国の国民は、自国の人権侵害について、ヨーロッパ人権裁判所に訴えることができるんです。連合王国は、この条約に加入するとき非常に楽観的で、「自分たちは自由の祖国なのだから、国民が人権裁判所にお世話になることなどない」とプライドを持っていた。ところが実際は、人口当たりの人権裁判所に出訴した割合と、裁判所で国の側が敗訴した割合が、いずれもヨーロッパワースト1位なんですよ。

出口:ええっ、まったく知りませんでした。

木村:イギリス人としては「こんなはずじゃなかった」というところでしょう。ドイツやフランスなどには、自国内に憲法裁判所、憲法院や違憲立法審査権を持つ裁判所などがあるので、人権問題が起きたらまずそこで訴えます。しかし、連合王国の場合は議会が最高決定者なので、問題が起きたら即座にヨーロッパ人権裁判所に行くんですね。連合王国の自由の歴史はすごく大事ですし学ぶべきところがありますが、標準装備が入ってないがゆえに問題が起きるのです。

出口:そういう面で、日本国憲法は非常に標準装備度が高い、と。

木村:そうです。後からできた方がやっぱり装備が整っていると思いますね。

「憲法9条は、13条や国際法と合わせて立体的に読んでほしい」

出口:次に考えたいのは、日本国憲法の中身です。最も特色があるのは、やはり9条でしょうか?

木村:憲法9条はなかなか難しい条文ですが、改憲派護憲派問わず9条しか読まない人が多いのが、私は不満なんです。

出口:ほう。

木村:現在の国際法では、「武力不行使原則」が確立しています。19世紀までの国際法では、戦争は違法ではありませんでした。それが20世紀に入って、戦争自体を違法とする不戦条約が結ばれました。不戦条約の最初は1904年ですが、「国債を回収するために武力行使してはいけない」というところからスタートしています。逆に言うと、当時は金を回収するために武力行使していたことになるんですね。

 そして、1919年の国際連盟規約、1928年のパリ不戦条約などが積み重なり、第二次世界大戦後に、「武力行使は一般的に違法である」という原則が確立。現在は国連憲章にも書かれています。「武力行使をやめよう」というのは、実は憲法9条に言われるまでもないわけです。

出口:グローバルスタンダードなんですね。


木村:あくまで紙の上では、アメリカ、ロシア、韓国、北朝鮮、中国、ベトナム、タイ、これらの国々全てが国連加盟国である以上、武力行使しないという原則にコミットしています。

木村:ただし、国連憲章には「武力不行使原則を破って侵略する国が現れたときだけは、武力行使をして良い」というルールが定められている。侵略国家が現れた場合には、国連の安保理決議に基づく措置として、みんなで対応するのが原則です。もっとも安保理決議が出るには時間もかかるし、場合によっては拒否権が行使されるなどして、国連が措置を取れないこともあります。そこを補うために、各国が個別または集団の自衛権を行使するというルールです。

 そこで、「憲法9条がどうか」という話です。

 9条1項は「侵略戦争をしない」という趣旨の規定なので、「1項がおかしい」と主張する人は、改憲派にもあまりいません。変える必要はない、むしろ守るべきだという人が多いんです。

 問題は2項です。「軍と戦力を持たない」と書いてある。これを読むと、集団的自衛権はもちろん個別的自衛権も含めて、日本は武力を行使してはいけないということになります。 「9条があらゆる武力行使を禁じている」という点については、ほとんどの人が認める見解ですし、現在の安倍政権含め、日本政府もそう解釈している。

 ただ、法律の条文は例外を認めることがあるんですね。9条についても例外があるのではないか、についての検討が必要になります。

出口:いわゆる、自衛隊合憲説ですね。

木村:はい。日本国憲法13条には、「国民の生命の自由、幸福追求の権利は、国政の上で最大限尊重しなくてはいけない」と書いてあります。外国からの侵略があったとき、その侵略を放置すると、国民の生命の自由や幸福を尊重しているとは言えない。したがって、「武力行使するな」という9条のルールと、「国民の生命を最大限尊重しよう」という13条のルールがぶつかってしまうのです。

 どちらが優先するかは解釈で決めるしかないんですが、日本政府は「国民を守るのはどの国でも最低限の義務だから、9条に対して13条が優先する。つまり、国民を守るという範囲においては、9条の例外として武力行使は許されるし、そのための実力保持も許される」と解釈しているのです。

 憲法9条は、それだけを読むと、両極端な議論で終わってしまうのですが、ぜひ国際法や憲法13条と合わせて立体的に読んでほしいんです。

「自衛隊の海外活動は国民の監視が甘くなります」

出口:憲法13条や国際法など全体の法体系の中で、自衛隊は合憲ということですが、実際に自衛隊は何をしているのでしょう?

木村:自衛隊には仕事が3つ+1くらいあるんです。ひとつは「外国の侵略から日本を守る」。これが一番重要で、13条から導かれるものです。それだけでなく、テロリストや警察の手にあまる犯罪者が出てきたときには、「治安出動」で押さえます。これも非常に大事な仕事です。最後に、「災害から国民を守る」。実際、自衛隊がこれまで出動したのは災害のときだけです。大災害が起きたときにレスキューに行ったり、がれきを除去したりします。

木村:それとは別に、自衛隊は大きな組織でさまざまな技術を持っているので、「国際貢献」を求められることがあります。PKO活動などが典型ですが、外国のインフラ整備や、場合によっては治安維持を手伝うこともあります。たとえばソマリア沖の海賊対策。相手は犯罪者なので、海賊を捕まえたら日本の刑法を適用するため日本に連れてくるのですが、ソマリ語を話せる人が少ないんですよ。

出口:弁護士、裁判官ともに立件が大変ですね。

木村:単純な効率を考えたら、ソマリア周辺国の人たちに治安活動をしてもらう方がいい。でも、「みんなでやっているので来い」と言われて派遣するわけです。

 ただ、自衛隊の国外活動には、注意すべき点もあります。南スーダンのケースを見ても、国外でやっていることはメディアも取材しにくいので国民の関心が高まりにくく、監視が甘くなります。そこが非常に危ないんですね。自衛隊は侵略活動をしているわけではなく、その国の政府に協力するために活動しているのですが、自衛隊員の安全は確保できているかとか、外国政府が自国民を抑圧するのに加担してしまっていないかなど、気をつけなければいけないと思います。

出口:国際貢献をしようと思うと、それなりの装備と技術を持った集団は、自衛隊以外にないですよね。

木村:これも結構微妙なところです。たとえばPKOにもいろいろなやり方があって、文民警察官を配置する場合もある。自衛隊がこれまでやってきたことって、HPを見ると、ほとんどがインフラ整備なんですよ。

出口:道路を作った、学校を作った、橋をかけた、などですね。

木村:どちらかというと、土木事業者のHPみたいになっているんです。出口さんはいろいろな国際交流をされているのでわかると思いますが、こちらの技術をポンと出してしまうことが、その国のために本当にいいかというと微妙ですよね。むしろ重機の使い方を教えて、道路はその国の人たちで作る方が国際貢献になるのでは。

出口:パンを与えるのではなく、魚の釣り方を教えるということですね。

木村:そうです、そうです。道路を作れば誰もが喜ぶし、役立っている感じがしますが、もっとできることがあるのではないでしょうか。自衛隊の国際貢献を考えると、今やっていることが本当にいいのかという視点を持たなければいけないと思います。

*後編へ続く(3月28日公開予定)

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憲法改正、ドイツのやり方は参考になる?

出口:個別的自衛権は「外国の侵略から日本を守る」ということですっきり説明がつきますが、集団的自衛権はどう考えたらいいんでしょう?

木村:まず、これまで日本政府は、日本が集団的自衛権を行使することはできないと考えてきました。憲法13条はあくまで「国民を守れ」ということで、「外国政府を守れ」とは書かれていません。集団的自衛権は外国を守る権利なので、9条の例外を認めることは、今の憲法ではできないというわけです。

 集団的自衛権については、9条以外にも深刻な問題があります。日本国憲法には、外国に自衛隊を派遣するときの基準や手続きが書かれていないのです。たいていどの国でも、自衛隊に相当する軍隊や実力組織を海外に派遣するとき、責任者や手続きの方法、どういう場合に行くか、という基準が憲法でコントロールされています。


木村草太さん
出口:つまり、他の国の憲法は貼紙になっているんですね?

木村:そうです。だって海外に軍隊を送るのは、すごく大事なことじゃないですか。

 国によって「議会の承認が必要」とか「首相や大統領が責任を負う義務がある」とか、きちんと書いてあります。しかし日本国憲法は海外への派兵をしない前提で作られているので、手続きが全く書かれていないんです。今のままでは「議会の承認なんかいらないよね。現場判断でやっちゃっていいよね」と、運用されかねません。大変危険なのでやめておこう、となるわけです。

 2015年の安保法制では集団的自衛権を一部容認したとされますが、条文上は、あくまで13条で説明がつく範囲にしようとしています。国民の生命の自由の権利が根底から覆されるときにそれを守る範囲でだけ使ってもいい、という条文になりました。もちろん、国民の生命を守るためであれば、集団的自衛権である必要はないという批判も非常に強くあります。

出口:なるほど。今、認められている集団的自衛権は、13条に引っかかるほんのわずかな部分だと理解していいんですね?

木村:そうです。ただ、それがどういう範囲なのか、政府の説明がはっきりしていません。ホルムズ海峡云々という話がありましたが、13条の事例を守るためのケースかと言われると、「そうかな?」と思う人が多いでしょう。条文自体の意味がよくわからないんです。9条違反だと議論する前に、「そもそも意味がわからないから憲法違反と言わざるを得ない」というのが私の立場で、国会でも話をしてきました。

出口:もし集団的自衛権を行使するのであれば、憲法を変えなければならないとお考えですか?

木村:はい。やる場合は、きちんとしなければ。単に行使できると書くだけでなく、誰の責任で、どんな手続きでやるのかを書き込まなければいけないと考えます。たとえばドイツでは、「海外派遣をするときは必ず議会が関与する」「集団的自衛権を行使する場合は、守りに行く国とドイツとの間に国際条約の基礎がないといけない」という基準が作られています。

出口:憲法改正を行う場合、ドイツのやり方が参考になるとお考えですか?

木村:そこは非常に難しい部分もあります。憲法ができた時期が同じで、同じ問題意識で作られているので、日本国憲法とボン基本法は構造がよく似ている。ただ、ドイツは憲法に書いてあることが非常に多いんですよ。

出口:なるほど。

木村:憲法というのは、普通の法律よりも改正が難しいのが普通です。どれくらい難しいかは国によって違いますが、ドイツの場合は上下両院の3分の2で改正ができる。日本の場合はそれに加えて国民投票があるので、ドイツに比べてかなり改正が難しいんです。

 改正が難しい国の憲法は、憲法に書いてある事柄が少なくなる傾向です。ドイツは日本と比べると改正が簡単なので、日本では公職選挙法や地方自治法に書かれていることも、憲法に書き込まれているんですよ。

出口:憲法の内容と、改正手続きはリンクしているんですね。

木村:そうです。ですから、ドイツで憲法改正されていることが、直に日本に示唆を与えるかというと、そうでないことも多いんです。

出口:日本とドイツは敗戦国で戦争犯罪を裁かれたので、海外へ派兵する場合の書き方などは参考になると思いますが、どうでしょう?

木村:おっしゃる通り、非常に参考になりますね。ドイツの場合、再軍備のために憲法改正をしましたが、非常に厳しい議会チェックを入れました。ここは日本と非常によく似ていると思います。ただ、日本とドイツの安全保障上の文脈はかなり違います。ドイツはNATO(北大西洋条約機構)の加盟国です。

出口:日本の場合は日米安保ですね。

木村:はい、二国間条約なので、集団的自衛権の必要性も違います。ドイツの場合はNATO諸国のどこかの国がやられたら、守らなければいけないという枠組の中に入っています。

出口:シンプルといえば、シンプルですね。

木村:日本の場合は、幸か不幸かそういう枠組の中に入っていませんし、同盟国とされるアメリカも遠く離れたところにあって、自衛隊基地がアメリカにあるわけでもない。たとえばアメリカが侵略を受けたとき、日本がすぐ助けられるかというと、そういう状況ではないんです。

出口:非常に微妙なところがありますよね。

憲法24条に同性婚を禁じる趣旨はない

出口:憲法はなかなか難しいことがわかったのですが、これを使いこなすためにはどうすればいいでしょう?


出口治明さん
木村:日本国憲法は70年間改正されていないので、「時代に遅れた古い憲法」だと言われることがあります。でも一方で、「70年も経っているのに実現できていないところはないのか」という考え方もあるんです。憲法に書いたからといって、その理念がすぐ実現できるわけではありません。

 たとえばアメリカでは、南北戦争の後に奴隷が解放され、「白人と黒人は平等に扱う」と憲法に書き込まれたのですが、20世紀の半ばまで黒人用小学校と白人用小学校が分かれている州があったし、公衆トイレ、プール、ビーチ、あらゆるところに黒人と白人の分離がありました。この差別的制度は憲法違反だからやめよう、となったのが、憲法改正から100年後でした。

 日本国憲法はまだ70年。できていないことがたくさんあると考えるのが普通です。時代に遅れた憲法ではなく、むしろ時代のほうを憲法に合わせなければいけないという意識が必要ですね。

出口:日本国憲法は原理原則をクリアに書いてあるので、インターネットの時代になっても大事なことは変わらない、と言えるわけですね。

木村:そうなんですよ。

出口:書かれていても、できていないことがたくさんありますね。たとえば子どもの6人に1人が貧困であることも、憲法が実現できていないと言えます。世界的な流れで言えば、同性婚の問題もそうですね。

木村:日本国憲法は、実は同性婚を禁じているわけではないんです。ただ「個人の尊厳に基づいた家族を作らなければいけない」と言っているので、LGBTにも配慮した家族法を作らないと憲法違反だという議論はできますね。

出口:両性の合意、というのは?

木村:憲法24条の「婚姻は両性の合意のみに基づいて成立する」。この条文は「両性の合意」で成立する婚姻、つまり異性婚についての規定で、同性婚については何も言っていないんですよ。

出口:なるほど。

木村:ですから、憲法24条を丁寧に読んでみると、同性婚を禁止しているようには読めないんですよ。

出口:そうか、その視点が僕にはありませんでした。

木村:なぜ、憲法24条ができたかというと、昔の民法では、結婚に戸主の同意が必要だったからです。「戸主の同意はいらない。愛し合っている男女が合意をすれば結婚できます」という条文なので、同性婚を禁じる趣旨はなかったのです。

 あの時代は家庭の中での女性の地位が非常に低く、男女の平等が必要だということで作られた。同性愛者から憲法24条を見ると、「かわいそうな異性愛者のために作られた条文」というふうにも言える。同性婚の場合、家庭の中に男女の不平等などないので、24条のような条文はいらないんですよ。

出口:はあ〜! その解釈は画期的ですね。

 ただLGBTの方の中には「日本の憲法は他国と違って同性婚を認めにくい」という短絡的な意見が多い気がします。

木村:ええ、多いんですけれど、よく読んでみればそんなことはないんです。そういう意味でも24条はとても大事な条文です。

出口:僕もLGBTの方からそういう意見を聞いたら「木村先生のご本を読んで下さい」と言っておきますね。

木村:ぜひ。今後は生命保険の現場でも、同性パートナーの話は出てくると思います。

出口:ライフネット生命では、同性パートナーが受取人になることを認めているんですよ。

木村:それはすごく頼もしいですね。

「個人個人が幸せになる。
それが日本国憲法のもっとも大事な理念です」

出口:今日のお話は、ものすごく勉強になりました。

木村:一般に、憲法はとっつきにくいと言われますが、なくなったら困るものの一つとして考えてもらえたらいいですね。

 私は憲法のことを水道管に例えています。蛇口から水が出るのは当たり前すぎて意識もしませんが、なくなって初めてありがたさがわかります。生命保険もそうですよね。日本の保険システムは非常にすぐれていて、まずは国民皆保険。それに加えて各保険会社が自由競争でいい商品を提供しています。保険システムが発達していない国では、こんなに安くていい保険には入れません。

出口:僕はいつもこう言っています。すごくカッコよくて優しい人がいました。結婚しようという話になったとき、その人が打ち明けた。「実はうちのお父さんとお母さん、健康保険にも国民年金にも入っていないんだ」と。そう言われたらびびりませんか?


木村:ハハハ。まさに皆保険があるから、そういう心配をせずにいられるわけですね。憲法に置き換えると「うちの国、理由もなく逮捕します」とか「拷問もやり放題なので、覚悟して入国してください」というようなもの。そんな国には、普通は入国しません。怖いですもん。だから、自分がその国の国民になるとか、入国するという立場で憲法を読むのがいいかもしれません。

出口:僕は、日本国憲法って割と短いし、日本語としてもそんなに難しくないので、暇なときはみんなで読んでみましょう、とお勧めしたいですね。

木村:そうですね。特に憲法第三章には権利と義務の規定があります。私たちの生活を支えてくれているものなので、そこを読んでみるのがいいと思います。暇なときにね(笑)。

出口:国のカタチですもんね。

木村:日本国憲法のもっとも大事な理念は、個人個人がそれぞれに幸せになることです。個人の尊重、尊厳といいますが、個人は全体の道具ではありません。一人ひとりが世界を持っていて、個人を尊重する。そこに尽きます。

出口:まったく同感です。そういう意味ではレベルの高い憲法ですよね。

木村:一人ひとりが幸福を追求したり、知識を追求したり、自分の宗教観を追求したりするのだ、とも書かれています。国民は「世界を知ろう」とする気持ちが大事だと思いますね。

出口:好奇心とは、世界を開くこと。外に向かっていくことですよね。自分の世界を閉じてしまっては幸せになれません。

木村:閉じてしまうと、選挙のときに「あの候補は悪口を言われているからきっとそうだ」と決めつけたり、自分にとって必要な本と出合えなかったりする。出口さんは、非常に探究心と好奇心を持っておられるので、今日はとても刺激を受けました。だからこそ、新しいものを知ったとき「なるほど!」と言えるんだなあと思います。

出口:新しいものごとを知ると嬉しいですからね。今日はいろいろ教えていただいて、こんな考え方もあるんだ、とワクワクしました。

木村:そのワクワクが大事だから、個人は尊重されなくてはならない。それが日本国憲法だと思います。
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/9172
http://www.asyura2.com/17/senkyo223/msg/206.html

[政治・選挙・NHK223] 「自衛隊員の生命を守れ」というひとはいても、 南スーダンのひとたちのことは話題にしない 日本の安保の「超重大な欠陥
2017年3月27日
 
「自衛隊員の生命を守れ」というひとはいても、
南スーダンのひとたちのことは話題にしない
[橘玲の日々刻々]
 古代エジプトの遺跡をめぐるナイル川クルーズの起点はアブ・シンベル神殿で、アスワン・ハイダムでできたナセル湖のほとりにあります。神殿の入口ではカラフルな民族衣装の男たちが民芸品を売っていて、ガイドは彼らに目をやると、「ちょっと先のスーダンから来てるんだよ」といいました。「あんな国に行くことはないだろうから、関係ないだろうけどね」

 そのスーダンに駐屯している自衛隊の派遣部隊をめぐり、国会が紛糾しました。しかし私を含め、スーダンを訪れたことのある日本人はほとんどいないでしょうし、どこにあるのか知らないひとも多いでしょう。

 自衛隊が国連平和維持活動(PKO)に参加しているのは南スーダンで、2011年にスーダン共和国から独立しました。歴史的には、エジプトが占領していたスーダン北部はアラブ系住民の多いイスラーム圏、イギリスが統治した南部は黒人の多いキリスト教圏で、1956年の独立後も北部と南部の対立はつづきます。1970年代に南部に油田が発見されると20年におよぶ泥沼の内戦が始まり、アメリカの支援を受けた住民投票で南部独立が達成されてからも、大統領派と副大統領派の部族衝突から内戦が勃発しました。この混乱で国連のPKOが秩序維持にあたることになり、11年9月に当時の民主党・野田政権が自衛隊の派遣を決定しました。

 ところがその後も紛争状態は改善せず、16年7月には自衛隊の駐屯する首都ジュバで武力衝突が発生します。国会で問題とされたのは、現地の自衛隊が日報でこれを「戦闘」と記録していたのに対し、防衛相が「衝突」と言い換えて答弁した、というものです。自衛隊が「戦闘」に巻き込まれる恐れが明白になれば、「PKO参加5原則」が崩壊することを危惧したのでしょう。

 この論争(というか、言葉遊び)で不思議なのは、「自衛隊員の生命を守れ」というひとはいても、南スーダンのひとたちのことは誰も話題にしないことです。今年2月、国連事務総長顧問は「大虐殺が起きる恐れが常に存在する」との声明を発表しました。ルワンダのような悲劇を防ぐために各国がPKO部隊を派遣しているのですが、「平和憲法の精神」を説くひとたちは、自衛隊を撤収してジェノサイド(民族大虐殺)の危険のなかに住民を置き去りにすることをどう考えていたのでしょうか。

「アフリカの国のことなんてどうでもいい」とか、「国民同士が殺しあうのは自己責任だ」という“ジャパニーズ・ファースト”の政治的主張もあり得るでしょう。ところが自衛隊撤収を求めるひとたちは、「非軍事の人道支援、民生支援に切り替えるべきだ」などといっています。軍隊ですら危険な地域に出かけていく民間人などいるでしょうか。

 とはいえ、国民の多くが、なぜ自衛隊が南スーダンで危険な任務に就かなくてはならないか疑問に思っている以上、5月末で活動を終了すると決めたことは正しい判断でしょう。そもそも自衛隊は、「戦闘で1人の犠牲者も出してはならない」という世にも奇妙な組織です。それを国際貢献の名のもとに、PKOという「軍隊」として派遣したことが間違っているのですから。

『週刊プレイボーイ』2017年3月21日発売号に掲載

橘 玲(たちばな あきら)

作家。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ヒット。著書に『日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル』『橘玲の中国私論』(ダイヤモンド社)『「言ってはいけない 残酷すぎる真実』(新潮新書)など。最新刊は、小説『ダブルマリッジ』(文藝春秋刊)。

●橘玲『世の中の仕組みと人生のデザイン』を毎週木曜日に配信中!(20日間無料体験中)
http://diamond.jp/articles/-/122738


 

 
日本では議論されない南スーダン「絶望的な現状」〜これが本当の論点
未曾有の人道危機はなぜ起きているか
栗本 英世大阪大学大学院教授
社会人類学、アフリカ民族誌学プロフィール
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51265


 

 


南スーダン自衛隊撤退ではっきりした日本の安保の「超重大な欠陥」
国際社会にバレたら一大事!?
伊勢崎 賢治東京外国語大学教授
紛争屋プロフィール

積み上げてきた「理屈」が崩壊した

2017年3月10日、政府は南スーダンからの自衛隊撤退を表明しました。

僕はこれまで、こういう主張をしてきました。

日本が依然として派遣の根拠にしているPKO派遣5原則(1992年制定)は、「住民保護」が主任務になった現代のPKOでは意味を失っている。

もはや停戦があるかどうかなんて関係なく、治安が悪くなればなるほど、その状況の犠牲となる住民を保護するべくPKOは撤退しなくなる。

昨年の7月の首都ジュバでの大規模な戦闘を受けて、即座に国連安保理がPKO部隊の4000名の増派を決定したことからもわかるように、自衛隊が撤退できないのは安倍政権が「駆け付け警護」をやらせるために無理強いしているからではない。単純にそれを国際世論が許さないからだ。やったら、それは「住民も守るためにもっと戦え」と迫る国際社会の正義を敵にすることになる。

だからこそ、安倍政権の安保法制を政局にするのではなく、そもそも民主党政権時に南スーダンに自衛隊を送った民進党が歩み寄り、現場に小康状態が訪れたら即座に、そして静かに、代替え案をもって撤退させよ。

そう提言し、そのために政党、そして外務防衛関係者へのロビー活動もやってきました。(参照:「南スーダンの自衛隊を憂慮する皆様へ〜誰が彼らを追い詰めたのか?」 http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49799

交戦できない自衛隊は、弾がまったく飛んでこない場所でなら活動できます。そんな「仮想空間」を戦場につくり参加してきたのが、これまでの自衛隊によるPKOです。

それらは、

・「後方支援」(通常の施設部隊=兵站部隊に前方も後方もありません)

・「非戦闘地域」(こんなものが存在したら軍隊は基地を造る必要はありません。基地を一歩出たらそこは戦場です)

・「(武力行使と一体化しない)一体化論」(国連が南スーダンのような受け入れ国と一括して結ぶ国連地位協定をベースに、自衛隊に限らず全ての多国籍の部隊は国連の指揮下に一体化します)

などです。

南スーダンでもこれは成り立ってきました。首都のジュバは、もとは「安全」でしたが、昨年7月に、その「仮想空間」と、それを基に積み上げた「9条に抵触させない」理屈の数々が崩壊し、防衛省、特に陸上自衛隊はかつてない危機感を持ったはずです。

「駆け付け警護」など無意味

実際、今になって、政府は昨年9月から撤収を検討していたと明かしました。でも、そのさなかの11月に「駆け付け警護」の任務を付与したことになる。

そもそも南スーダンの自衛隊は道路や橋をつくる施設部隊ですから、国連司令部が歩兵部隊がやる能動的な警備業務を命じることはありません。当たり前です。そんな専門外の部隊を送ってそこで何か殺傷等の事件が起こったら、上記のように、南スーダン政府に対する地位協定上の責任は国連が負っているのです。

施設部隊に付随する警備小隊はある程度専門的な訓練を受けているでしょうが、歩兵部隊を使い果たした後で施設部隊に警備要請が来る状況というのは、例外中の例外。国連PKOにとって、本当に、壊滅的な状況です。全体で2万以下しかいないPKO部隊がその10倍以上の兵力の南スーダン政府軍とガチンコになり取り囲まれるような状況です。

その際には、PKO主力戦力を提供している周辺各国も当然援軍を送るでしょうから現場は混乱を極め、いくら住民保護のために撤退しなくなったPKOとはいえ、全軍撤退しなきゃならない最終非常事態です。”通常任務”として自衛隊が想定するべきシナリオではありません。

こういう非常事態では、各地に散らばっている人道援助要員を、最後の砦であるPKO基地に、歩兵部隊や国連文民警察特殊部隊(Formed Police Unitと言います)が避難させているはずで、そこに住民が最後の望みを託して大量に庇護を求めて押し寄せる。その中に、悪さする奴らが紛れていて(住民と見分けがつきません)戦闘になる。PKO基地に閉じ籠っている自衛隊は、これを想定すべきなのです。

つまり、「駆け付け警護」ではなく、「駆け付けられる警護」です。その際、もし、誤って住民を多く誤射してしまったらどうするか。これが後に展開する国際人道法違反(=戦争犯罪)であり、国連が真摯に想定してる「法的なシナリオ」なのです。日本は、これを全く考えてこなかったのです。

そもそも、自衛隊だから日本人を助けるというような同国人優先を国連は認めません。当たり前です。現場で働く人道援助要員の国籍は本当に様々です。一つのPKOの部隊は多くて20ヵ国ぐらいですから。

だいいち、世界で日本人の人道援助要員が働いているところは、自衛隊がいない国が圧倒的に多く、南スーダン国内でも自衛隊がとてもいけない危険な場所で彼らは働いているのです。首都ジュバで日本の自衛隊が日本人優先を言い出したら、それよりも圧倒的に多い自衛隊がいない状況で働く日本人が”差別”される理由をつくってしまいます。

「同じ現場にいる日本人を助けられない忸怩」というカンボジアPKO以来の感情論で始まった「駆け付け警護」ですが、もういい加減に止めましょう。

国籍で”トリアージ”するのは国連ではタブーなのです。

つまり、新たに任務付与された「駆け付け警護」は、蓋然性ゼロなのです。(詳しくはこちら「自衛隊『駆けつけ警護』問題の真実」http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48085

NEXT ▶︎ なぜ日報を隠したか
なぜ「日報」は隠されたのか

蓋然性が全くゼロの代物を巡るこれまでの一連の政局は、全く意味がないドタバタのように見えますが、すべては安保法制のためという見方をすれば一貫しています。

昨年7月以降、「仮想空間」の論理は崩れているのに、認めない。そのうえで、安保法制の目玉だった「駆け付け警護」ができる部隊を派遣したという、蓋然性がゼロでも「自衛隊の進歩」の実績を、日本の国内向けだけに、何が何でもつくることに安倍政権にとっての意味があったのです。

「日報」が隠されたのも、そのためです。

「戦」の字が自衛隊の活動とくっついていてはまずい。任務を付与する前に南スーダンにいられなくなる。「憲法9条上の問題になる言葉は使うべきではないことから、武力衝突という言葉を使っている」という稲田朋美防衛相の答弁は、狙いをそのまま言ってしまったものです。

一般論として、海外での軍事活動は常に国際人道法違反(=戦争犯罪)と隣り合わせです。ですから、その疑義の発生時の司法の場で証拠となる「日報」の作成と保管は重要です。

住民の保護のために好戦的になっている現代の国連PKOですが、だからこそ、国連PKO自身が同法違反を犯す可能性を真正面に見据え、1999年に国連事務総長告知として、それを対処する法的な枠組みを、国連史上初めて明文化したのです。

これによって、国際人道法違反の対処は、各兵力拠出国の国内法廷(通常は軍事法典、軍事裁判所)に課されることになりました。当然、日本を含む国連加盟国は、PKO部隊の派遣にあたって、その法整備を義務づけられたことになります。

(参照:「日本はずっと昔に自衛隊PKO派遣の『資格』を失っていた!」http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51058

日本にそういう国内法廷があったとして(後に詳述しますが、ありません!)、その際に軍事行動の正当性を証明する重要な証拠となる「日報」の”破棄”は、日本が国際社会に対して法治国家としての責任を果さない、と宣言しているようなものです。

考えてもみてください。もし日本国内で、米軍が、日米地位協定上日本の裁判権が及ばない公務上の凶悪事件を発生させたとしましょう。その際、米軍の軍法会議に必要なハズの”日報”を破棄していたとしたら? われわれは日本人はどう思うでしょうか?

この「日報」騒動が、海外メディアに報道されないことを祈ります。日本人として恥ずかしい。

自衛隊撤退が生む波紋

撤収発表のタイミングは、今しかなかったのでしょう。

「日報」問題で連日攻められているときに撤収すれば、野党に屈した印象になる。矛先が「森友学園」問題にそれたときを狙ったのです。期せずして「政局にしない」状況が生まれたようです。

シリア軍とイスラエル軍の間の停戦監視の主要任務が、その両軍以外の理由(非合法集団の台頭によるシリア内戦の激化)で治安が悪化したゴラン高原PKOでは、治安悪化で主要任務ができないという主張は撤退の理屈として一応は成り立ちました(それでも、国連は、自衛隊撤退を受けて遺憾声明を出したのです)。

これに対して南スーダンPKOの主要任務は住民の保護です。治安が悪くなって犠牲になるのは住民なのです。治安悪化は撤退する理屈になるわけがありません。だから、国連は、ジュバの戦闘を受けて、逆に増兵を決定したのです。

南スーダンの治安情勢は「安定」はしておらず、軍事力によって辛うじて小康が保たれている、依然、準戦時状態です。

今回の自衛隊撤退の声明にあたってジュバの日本大使館、そして国連本部のあるニューヨークの日本政府国連代表部は、国連が遺憾声明を出さないように相当の根回しをやったハズです。その一つは、PKO司令部要員の継続そしてODA予算の積み上げです。

もともと自衛隊は施設部隊でも危険なところに行けない特殊な存在ですから、国連側にとって自衛隊の撤退で発生する軍事的な穴はほとんどないでしょう。

しかし、「国連外交」的な影響はあります。国連PKOはただでさえ兵力集めと結束が難しい多国籍軍です。自衛隊であれ一国の撤退が他の派兵国のやる気と忍耐に影響することが国連にとって一番痛手なのです。

NEXT ▶︎ PKO派遣をやめても残る問題
もういい加減に現実を見よ

しかし、たぶん今回は国連側から遺憾声明などあまり騒ぎ立てることはしないでしょう。

安保理による4000名の増兵の決定後、兵力を提供する国があるのかと一時は心配されたのですが形を整えつつありますし、去年の戦闘で住民を十分守りきれなかったという国際世論の激しい非難を受けて、PKO部隊全体として士気が高まりつつあるので(それを察してか悪さをする奴らも様子見で現場が小康状態になっている)、それを損なわないために、自衛隊撤退をあえて騒ぎ立てず、シラーっと流すハズです。

何より、いくらなんでも今回は、「仮想空間」が南スーダンのどこにも、一番安全なハズの首都ジュバのどこにも存在しないことを、日本政府は今まで自衛隊を「お客様」として扱ってくれていた国連に説明したハズです。

もはや「仮想空間」がない状況で自衛隊を抱え続けることは、大変大きなリスクになりますから、その理由でもシラーと流すハズです。

もし、自衛隊を巻き込む軍事的過失が起きてしまったら? 繰り返しますが、南スーダン政府に対して地位協定上の責任を負っているのは国連です。

1999年国連事務総長告知で、国連地位協定によって南スーダンのような相手国から犯罪時の裁判権を奪う代わりに、その処理を各派兵国の国内法廷に課しているのに、日本にはそれがない。

ただでさえ、好戦的になっている国連PKOに、偏狭な主権意識を刺激されている南スーダン政府です。国連PKOは進駐軍のような感じで、南スーダン政府との関係は最悪なのです。

もし、そんな中、自衛隊がらみの事故が起きてしまったら、南スーダン政府は、怒り心頭「軍事犯罪の落とし前もつけられない、いい加減な国の軍隊を我が国に入れたのか!」と、国連を糾弾する材料に利用するに決まっているからです。

南スーダン撤退表明後、自衛隊関係者からは、もう部隊としてのPKO派遣はしない。もしくは、住民の保護などの好戦性のないPKO、例えばキプロスの停戦監視ミッションを次の派遣候補に挙げる声が聞こえてきます。

思い返してください。南スーダンに自衛隊を送った民主党政権当時、南スーダンはまだ建国したばかりで、同PKOの主要任務は住民の保護ではなく「国づくり支援」でした。

南スーダン政権は、分離独立したスーダン内戦から成りあがってきた軍閥の集合体のようなもので、いずれは内輪もめが始まり、それが新たな内戦に発展することを国連はしっかり予想していたのです。だから、国づくり支援に見せかけて、こういう危ない連中のお目付役としてPKO部隊を投入したのです。

案の定、すぐに大統領派と副大統領派の確執が内戦化し、それによって犠牲になりだした住民の保護が主要任務になっていきました。

今は、自衛隊にフィットする「仮想空間」があるように見えるキプロス停戦監視PKOでも、いつ事態が悪化して主要任務が切り替わるかわかりません。

その事態が住民が犠牲になるものになったら、PKOの主要任務は住民の保護に切り替わり、その時はもはや、南スーダンと同様に、簡単に撤退できなくなるのです。

もういいかげんに、9条に抵触させないためだけの「仮想空間」探しは、止めにしませんか?

日本が抱える根本問題

今回、南スーダンで「仮想空間」が崩壊することによって、期せずして明らかになった自衛隊の法的な地位の根元的な問題は、単にPKOに部隊派遣を止めればいいという問題ではありません。

その根元的な問題とは、自衛隊が国際人道法違反を犯した時にそれを法治国家として適正に対処する法体系が日本にはないことなのです。

それを普通の国では、軍事法典、軍事裁判所といいますが、日本にはこれがありません。(最近、僕の教え子が、大変意欲的な学術論文を書きましたので、ぜひご参照ください。「日本の軍法の可能性」三浦有機 http://kenpou-jieitai.jp/kenkyuuronbun_miura_yuuki.html )

NEXT ▶︎ 平和憲法の国の思考停止
通常、軍隊で想定される犯罪は、大きく言って二つあります。

一つが「統制犯罪」。

軍隊も一つの官僚組織ですから、それ相当の内規があります。そこで定める服務の違反や組織の名誉を傷つける行為。まあ普通はその内規に沿っての懲戒処分ですが、任務の外で例えば窃盗や殺人を犯せば刑罰を喰らうわけです。これは日本でも現行の自衛隊法、そして刑法で対応できます。

問題は、もう一つの「軍事犯罪」です。任務中における市民への人権侵害や、国際人道法の違反、つまり戦争犯罪です。

例えば、一般の刑法でも、殺人は重犯罪です。そして、破壊行為の中でも放火などは死刑になりうる罪です。軍隊というのは、いわば、そういう殺傷、破壊の技術を日々訓練し、そういう能力に非常に長けた職能集団ですから、被害も通常以上に甚大になるはずで、だからこそ一層重い厳罰を課すのは当然です。

しかし、それが「命令行動」の一環で、それを誠実に履行したものであるのなら、どんなに甚大な被害でも、その刑事性が勘案されるというのが、一般法と軍法が違う大きなポイントです。

日本と同様の十字架を背負い戦後復興したドイツには、常設の軍事裁判所がありません。しかし、「軍事犯罪」を裁く軍刑法があり、事案発生に応じて通常の裁判所で運用します。

そのドイツ軍が、僕がその黎明期に関わったアフガニスタンでのテロとの戦いで、2009年、重大な事故を引き起こしました。これが、上記論文で詳述されている「クンドゥーズ事件」です。

詳細は同論文(第二章/第三節)に譲りますが、あるドイツ人将校の軍事的な判断でNATO軍の戦闘機が民間車を誤爆、なんと102人のアフガン市民が犠牲になったのです。

これは第二次世界大戦以来のドイツ軍が犯した重大な戦争犯罪として、まずドイツ国内で大騒ぎになりました。

ドイツ検察は、約1年間かけて捜査し、事件当時の現場の緊張した状況に照らし合わせれば(だから”日報”の作成と保管は必要なのです!)、限られた情報収集の中で敵への爆撃の判断を下すことは止むを得ず、後になって市民がいたことがわかっても、その将校と部下たちの判断は軍事的には合理的であり、国際人道法にも、ドイツ刑法にも違反しないと、不起訴にしました。

結果、ドイツ政府は被害者の遺族にたいして、空爆の法的責任は認めず、手厚い弔意金を支給したのです。

単に、金で解決した、のではありません。ドイツは、国家が犯した犯罪に、(たとえそれが不起訴でも)法治国家として法的な責任の所在を明らかにしながら、国家として説明責任を果たしたのです。

日本には、その説明責任を生む法体系がありません。あるのは、「統制犯罪」を扱う自衛隊法と、日本人が海外で犯す「過失」は扱えない(国外犯規定)刑法だけです。

日本は遅ればせながらジュネーブ諸条約追加議定書に加盟した2004年に、慌てて「国際人道法の重大な違反行為の処罰に関する法律」という国内法をつくりました。しかしこの中身は、文化財の破壊や捕虜の輸送を妨害するなど、はっきり言って、どうでもいい罪への処罰だけで、肝心の殺傷を生む罪に関するものが一切ないのです。なぜなら、自衛隊がいるところでは「戦闘」は起き得ないからです。

(ドイツのクンドゥーズ事件と対照的に、イラクでアメリカ政府が雇った「民間軍事(傭兵)会社ブラックウォーター社」が17人の一般市民を殺戮した軍事犯罪事件で、地位協定により現地政府に裁判権がないだけなく、正規軍じゃないので米軍法が適応できず、地球上にそれを裁く法がないという「法の空白」を引き起こした2007年の「血の日曜日事件」は、自衛隊の法的な問題が見越すべき先行事例と言えます。詳しくは、同論文第一章/第一節/第二項、もしくは、「自衛隊を活かす会」シンポジウム「戦場における自衛官の法的地位を考える」で僕の発言を参照あれ。http://kenpou-jieitai.jp/symposium_20160422.html

これは憲法の問題だ

「私は自衛隊の最高司令官」、「すべての責任は私にある」というのは首相、そして防衛大臣の言葉です。言うのは簡単です。でも、最高司令官としての彼らの法的な責任を立証し、国内外に説明責任を果たす法体系を、日本は持ち合わせていないのです。

一方で、国際人道法違反=戦争犯罪に一番敏感にならなければならない平和憲法の国の国民が、自らが戦争犯罪を犯す可能性に備えがないことに疑問さえ抱かないのは、なぜか。

NEXT ▶︎ 何が国防の「礎」か
自衛隊は、国際人道法上の「交戦」をすることを想定していない「仮想空間」に生きる存在だと、だから何も問題がないのだと、いつの世でも権力に批判的であるべきリベラルをもが、現場の現実を見ずに自分たちを思い込ませてきたからです。

でも、南スーダンでは、いとも簡単に「仮想空間」が吹っ飛んでしまった。

自衛隊はPKOだけじゃなく、日米地位協定のような二国間の協定によって”駐留軍”としてジブチに駐留しています。(地位協定の問題については、「在日米軍だけがもつ『特権』の真実」http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48780 を参照あれ)

これは、PKOやジブチ、自衛隊が駐留する海外でだけの問題ではありません。日本の領土、領海内に敵が現れ、それに自衛隊が対処する時にも、同様に国際人道法は「交戦」と見なし、同法違反を統制する、ということを忘れるべきではありません。

というか、そもそも国際人道法とは、第一次大戦後のパリ不戦条約そして国連の誕生によって侵略戦争が厳格に違法化されて以来、自衛のための交戦を律するためにあるのです。

でも、9条の自衛隊の”ジャブ”程度の反撃なら、国際人道法上の「交戦」にはあたらないと、日本は”誰の断りもなく”定義し、運用してきました(防衛省HP「交戦権」http://www.mod.go.jp/j/approach/agenda/seisaku/kihon02.html)。

国際人道法違反に対応する法整備がないのですから、これは外から見たら、自衛隊は、国際人道法を全く気にしない、つまり戦争犯罪を全く気にしない野放図な打撃力の主体としか見えません。通常戦力で世界五指(クレディ・スイス2015:ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)とグローバル・ファイアーパワー(GF)で換算)の軍事力の”ジャブ”が、です。

そもそも、自衛権とは、国際人道法に則って徹底的に戦うという意思を、仮想敵に対して、知らしめること。これが、抑止力の「礎」でしょう。

それも、ただ、その意思を大げさにキャンキャン騒ぎ立てるのではなく、何より、自らが国際人道法違反を犯した時にそれを厳粛に対処する法整備をもって、その反撃の意思の”本気度”を、知的に、整然と、国内外に知らしめること。ここに国防の「礎」があるはずです。

この礎なしに、いくら高価な兵器を買おうと、ただのハリボテなのです。というか、これがないから逆に高価な買い物の購買欲が抑えられなくなっているのではないでしょうか。気がついてみれば、日本はすでに軍事大国です。9条の国が、です。

同時に、足元がしっかりしないから「脅威論」ばかりが席巻します。「礎」なき日本は、「安全保障のジレンマ」に最も脆弱な国民性を呈しているのではないでしょうか。

だからこそ「米軍が鉾、自衛隊は盾」で、自衛隊は「交戦」しないで済むのだ、という日米同盟強化の理屈を言う向きもあるのでしょうが、保守の間でもそれをヤキモキする議論がある、どうせどこまで本気かどうかわからない「鉾」でしょう。

貧弱な武器でも「礎」を持つからこそ示せる”凄み”か。それとも、当てにならない「鉾」と「礎」なしのハリボテか。一体、どちらが、抑止力として有効なのでしょうか。

今回の南スーダンからの自衛隊撤退で、期せずして、戦後初めて顕在化した国際人道法と自衛隊の法的地位の問題。これをPKOの問題というだけで幕引するべきではありません。

安保法制でさらに加速することが予想されるPKO以外の海外派遣、そして何より日本領土、領海内での国防に関わる問題なのです。これは、つまり、憲法の問題です。

改憲派/護憲派を超えて、今こそ考えるべきです。

(*伊勢崎賢治氏の過去記事一覧はこちら http://gendai.ismedia.jp/list/author/kenjiisezaki
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48085

 

防衛省・南スーダン日報隠しの「深層」
元凶は、稲田大臣の統率力不足か
半田 滋
プロフィール

かくも軽視されている大臣

南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に派遣している自衛隊の「日報隠し」の背景に、稲田朋美防衛相の統率力不足があるとの見方が防衛省内に広がっている。「仮に防衛大臣が稲田氏でなければ、違う結論になったかもしれない」と話す幹部もいるほどだ。

森友問題も絡んで稲田防衛相の国会答弁は迷走、国政の混乱に拍車をかける中心人物の一人になっている。防衛省内には突然の撤収を発表した安倍晋三政権に対する不信感も浮上。さらに、ある政治家主導で断行した防衛省改革が「裏目に出た」との批判も飛び出し、不穏な空気が流れている。

日報は現地部隊が電子データとして作成し、陸上自衛隊のシステムを通じて海外派遣司令部にあたる中央即応集団に送っていた。担当者が日報をもとに毎日つくるレポートに反映させた後、削除していた。

情報公開請求に対し、昨年12月「廃棄を理由に不開示」としたが、その後、陸海空自衛隊を統合運用する統合幕僚監部のコンピューター内に保管されているのが見つかり、今年2月7日に発表した。野党が「隠蔽ではないか」と追及する中、安倍内閣は今月10日、突然、南スーダンからの撤収を発表、猛追から逃れるような急展開をみせた。

ところが、15日になって日報は陸上自衛隊にも保管されており、統合幕僚監部の幹部の指示で消去していたことなどが次々に報道され、隠蔽疑惑が濃厚に。「ないもの」が「ある」と変わるのは勘違いで済むかもしれないが、「あるもの」を「ない」と言い続けたのだから隠蔽と批判されても仕方ない。

稲田防衛相への省内の対応で奇妙なのは、統合幕僚監部が昨年12月26日に日報を発見しながら、今年1月27日まで一カ月も稲田氏に報告しなかったことだ。担当者は「黒塗りに時間がかかった」と話すが、防衛大臣に見せるのに黒塗りが必要だとすれば、稲田氏はどれほど信用されていないのか。

野党の追及を受けている最中に、陸上自衛隊でみつかった日報を破棄する指示が省内から出されていたわけで、これに稲田氏が関わっていないとすれば、どれほど防衛大臣としての存在を軽視されているのか。

日報とは別問題ながら、稲田氏は森友問題で「籠池氏の事件を受任したこともない」「裁判を行ったこともない」(13日参院予算委員会)と無関係を主張したが、大阪地裁の出廷記録が報道されたのを受けて「夫(稲田龍示氏)の代わりに裁判所に行ったことはあり得るのか」と前言を撤回した。

極めつけは「私の記憶に基づいた答弁であり、虚偽の答弁をしたという認識はない」と開き直ったことである。「記憶」と主張すれば事実に反しても問題ないというのだ。消費税増税を公約しながら二度にわたって延期し、「これまでの約束とは異なる新しい判断だ」と述べ、公約違反を「新しい判断」で上書きした安倍首相と通じるものがある。

稲田防衛相は日報問題を省内の特別防衛監察に委ねると発表した。結論を先延ばしして野党からの追及逃れを図るだけではない。自身が火の粉をかぶらないよう部下を切り捨てる一石二鳥の作戦とみられている。

防衛省幹部は「稲田氏は護衛艦に乗るのにハイヒールで来たり、南スーダンに派遣する部隊の演習視察に白パンツ姿で来たりで常識を疑いたくなる。昨年は沖縄行きや南スーダン行きをドタキャン。何かあると部下に当たるので腫れ物に触るようにしている」と明かす。「お姫様」のやりたい放題が面従腹背を招いているとはいえないだろうか。

NEXT ▶︎ 日報問題に通じる隠蔽の水脈
一種の内部告発だったのか

安倍首相が突然表明した南スーダンPKOからの撤収について、自衛隊幹部は匿名を条件にこう語る。

「安倍首相は去年の9月ごろから撤収を検討していたというが、10月に部隊派遣の延長を決めた際の声明で『7月の衝突後も部隊を撤退させた国はない』と国際協調を前面に押し出し、11月には『駆け付け警護』を新任務として与えた。誰だって当面は派遣を継続すると思う」

半年交代で南スーダンPKOに約350人の隊員を差し出している陸上自衛隊の中で、撤収の発表を知っていたのはごく少数のようだ。それも首相官邸で決め、「事後通告だった」と話す幹部もいる。

陸上自衛隊に日報が保管されていた事実はNHKが第一報を流し、15日のニュースでは内部告発者とみられる人物の証言映像が流れた。幕引きのあり方に対する意義申し立てが防衛省内部からあったと考えるのが自然だろう。

振り返れば、安全保障関連法案を議論した2015年の通常国会でも、河野克俊統合幕僚長が2014年の訪米時、「安保法制は15年夏までに成立する」と米軍首脳に伝えていたとする会談内容をまとめた内部文書や統合幕僚監部が作成した別の内部資料が共産党にわたり、国会で暴露された。憲法違反と批判された同法案に対する省内の不満が噴出したと考えるほかない。

17日になって、陸上自衛隊の三等陸佐が「身に覚えのない(河野氏訪米時の)内部文書の漏えいを疑われ、省内で違法な捜査を受けた」として、国に慰謝料500万円を求める国家賠償請求訴訟を起こした。現職の自衛官が雇用主でもある国を訴えるのは異例である。

訴状などによると、内部文書が国会で暴露された翌日、統合幕僚監部は文書を「秘文書」に指定し、各職員に削除を命じたという。三等陸佐は会見で「隠蔽を図ろうということだと思った」と述べている。隠蔽の水脈は日報問題に通じている。

「日報隠し」の背景に迫る

今回、にわかに注目を集めたのが統合幕僚監部という防衛省の組織である。「日報隠し」の背景に、防衛省改革の一環として行った背広組(ユニフォーム)と官僚組(シビリアン)を一体化する「UC混合」の失敗があるとの見方が浮上している。指揮命令系統が混乱しているというのだ。

UC混合は2015年10月、制服組と背広組の専門性を生かすとして、背広組牙城の内部部局(内局)から運用部門を切り離し、統合幕僚監部に飲み込ませることで実現した。

この結果、統合幕僚監部は幕僚長、副長および各部長の制服組と副長と同格の総括官、参事官という背広組が併存することになった。参事官のもとには国外運用班、国内運用班、災害派遣・国民保護班の背広組約40人がいる。

もともとUC混合は米軍のアフガニスタン攻撃に伴い、海上自衛隊が提供した給油量の取り違えや守屋武昌元事務次官の汚職事件など不祥事の背景に背広組、制服組の「問題意識の乖離」「業務の重複」があるとの名目から、2008年から検討が始まった。

「不祥事の解消と組織改変に何の関係があるのか」と省内外から疑問視する声が上がったが、もちろん狙いは不祥事解消などではなかった。シビリアン・コントロール、すなわち政治による軍事の統制を強めることに狙いがあった。

主導したのは当時の石破茂防衛相である。

NEXT ▶︎ 背広組と制服組の分断
そして分断が生まれた

石破氏は防衛相退任後、筆者の取材に「自衛隊が好きだからこそ口出しする。すると省内から強く反発され、最後は自衛隊が嫌いになって辞めていく大臣が何人もいる」と話し、排他的な組織を改革する必要性を強調した。

その結果、実現したUC混合は、皮肉なことに背広組と制服組の分断を際立たせている。防衛省幹部の一人は「UC混合から一年以上経過したが、制服組は相変わらず部隊の方しかみていない。一方、背広組は防衛大臣の補佐や法律解釈など内局がやってきたことを持ち込んだだけ。統合幕僚監部にもうひとつの内局ができたにすぎない」とあきれる。

防衛大臣の補佐役という役回りから、陸上自衛隊で見つかった日報の削除を指示したのは「統合幕僚監部の背広組」であることは「公然の秘密だ」という。

そんな中、17日の衆院外務委員会で民進党の寺田学議員は稲田防衛相に「辰己(昌良)総括官にお話を聞かれましたか」と統合幕僚監部の背広組トップの辰己氏の名前を出して質問した。

辰己氏は内局の運用企画局事態対処課長や報道官を歴任した人物。国会の委員会で稲田防衛相に想定問答を示したり、自ら答弁に立ったりで目立つ存在となっている。

独り言が多く、事態対処課長だった2009年4月、北朝鮮によるミサイル発射の際は防衛省地下の中央指揮所にいて、発射されてもいないのに指揮命令系統を無視して「発射、発射」と口走り、日本全国に誤報を流すきっかけになるなど奇行が指摘される人物だが、辰己氏は寺田氏の質問には臆することなく答弁した。

「辰己氏が堂々としているのは、陸上自衛隊で見つかった日報の扱いについて、内局のトップクラスと相談しているからではないのか。仮にそうだとすれば、日報問題の根は深い。『組織ぐるみ』でないことを祈りたい」と内局幹部は打ち明ける。

なに、心配はいらない。稲田氏が開始を明らかにした特別防衛監察は過去3回あり、結論を出すまで最長1年2ヵ月もかかっている。仮に同じくらい時間がかかるとすれば、そのころには衆院選挙や内閣改造が行われ、日報問題はすっかり過去の話になっているはずである。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51280



http://www.asyura2.com/17/senkyo223/msg/209.html

[国際18] 若者の「反プーチン」警戒=反政権デモに多数参加―ロシア 核禁止条約交渉、保有国不在、日本不参加、国際分断 南ア財務相解任
若者の「反プーチン」警戒=反政権デモに多数参加―ロシア【3/28 14:26】
【モスクワ時事】モスクワなどロシア各地で26日行われた反プーチン政権デモには、現状に不満を持つ10代の若者が多数参加した。デモの呼び掛け人で、インターネットを駆使して政権批判を展開する野党勢力指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏(40)への支持が若者の間で広がっており、プーチン政権は神経をとがらせている。

リベラルな論調で知られる経済紙ベドモスチは27日の社説で、デモは「政権に対する不満の高さと若者の政治化を示した」と指摘。2011〜12年の反政権デモの時より参加者が若いとした上で、その理由として、インターネット交流サイト(SNS)などを活用するナワリヌイ氏の手法に若者が共感しているとの見方を示した。

今月2日には、ナワリヌイ氏はメドベージェフ首相が違法に豪邸やブドウ畑を所有していると告発する動画をネット上で公開。再生回数は1300万回を超えた。ナワリヌイ氏のツイッターのフォロワーは184万人に達している。

ペスコフ大統領報道官は27日、「若者を欺き、報酬を約束するなどして、(当局が)許可していない集会に参加を呼び掛ける人々をわれわれは尊重しない」と述べ、野党勢力が金を使って若者をデモに動員したと主張した。

プーチン大統領の出馬が見込まれる来年3月の大統領選を1年後に控え、政権は若者のナワリヌイ氏支持が大きなうねりになることを警戒している。26日のモスクワのデモではナワリヌイ氏が拘束され、人権団体によれば、拘束者数は1000人以上と異例の規模の取り締まりとなった。10代の若者も多数拘束されたとみられ、政権側はナワリヌイ氏を支持する動きに厳しく臨む姿勢を示した。

 

年内締結目指し交渉加速=保有国不在で会議開幕―核禁止条約【3/28 16:26】
【ニューヨーク時事】核兵器を法的に禁止する初の条約制定に向けた交渉会議が27日、国連本部で始まった。核軍縮の議論の停滞を背景に、メキシコやオーストリアなどの非核保有国主導で実現にこぎ着けた会議だが、保有国や米国の同盟国の大半はボイコット。「保有国不在」のまま、交渉は年内の条約締結を目指し走りだした。

「非常にシンプルな条約にしたい」。交渉会議に参加したメキシコ外務省のミゲル・ルイス・カバニャス次官(人権・多国間問題担当)は27日、時事通信とのインタビューで強調した。

次官はさらに「何年もかかるような長い交渉プロセスにはしたくない。短く明確で的を射た条約にしたい」と表明。メキシコは、核兵器の禁止という原則を定める簡略な内容とすることで早期締結を実現したい意向で、31日までの会議で各国にこうした方針への理解を求め、6〜7月の次回会議で条約案に合意するシナリオを描く。

27日の交渉会議では、不参加を表明するため発言機会を求めた日本を除く参加各国が、条約の必要性を訴えた。メキシコの方針に支持が広がれば、7月合意の可能性は高まる。

一方、米英仏ロ中の核保有国やインド、パキスタン、イスラエルなどは、会合を欠席した。ヘイリー米国連大使は北大西洋条約機構(NATO)加盟国など約20カ国の代表と共に声明を発表し、「現実的になるべきだ。北朝鮮がこの条約に同意すると思うか」と条約の実効性に疑問を呈した。

 


核禁止条約交渉、日本は不参加=「国際社会の分断深める」と軍縮大使―国連【3/28 11:36】
【ニューヨーク時事】高見沢将林軍縮会議代表部大使は27日、ニューヨークの国連本部で同日始まった核兵器を法的に禁止する条約の交渉会議で演説し、条約交渉について「国際社会の分断を一層深め、核兵器のない世界を遠ざける」と指摘した。その上で、「現状では交渉会議に建設的かつ誠実に参加することは困難だ」と交渉不参加を表明した。

岸田文雄外相も28日の閣議後会見で「今後この交渉には参加しないことにした」と説明。安全保障で米国の「核の傘」に頼る一方、唯一の被爆国として核廃絶を訴えてきた日本は条約交渉への参加を見送った。

27日午前の交渉会議は、オーストリアやコスタリカなどの代表が核兵器の非人道性や条約締結の必要性などを訴えた。これに対し、米英仏中ロなど全核保有国と、米国の同盟国の大半は欠席。さらに、ヘイリー米国連大使が約20カ国の国連大使らと共に条約に反対する声明を読み上げ、核保有国と非保有国との対立を鮮明にした。声明発表に日本は同席しなかった。

高見沢大使は演説で、今回の条約交渉は「北朝鮮の脅威など、現実の安全保障問題の解決に結び付くとは思えない」と指摘。また、核保有国の協力の下で、廃絶につなげるプロセスが「担保されていない」と問題視した。

被爆者を代表して参加した日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)事務局次長の藤森俊希さん(72)=長野県茅野市=は記者団に対し、日本が交渉参加は困難としたことに「全く賛同できない。非常に残念だ」と反発した。
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農産物の直販拡大=コメ9割に―全農改革計画【3/28 17:35】
全国農業協同組合連合会(JA全農)は28日、農家から集荷した農産物の直接販売を増やすと明記した事業改革方針と年次計画を発表した。コメをスーパーや外食チェーンなどに直販する比率を現在の4割から2024年度に9割へ拡大。卸売業者を経由するよりも利益率を高め、農家の収入増につなげる。

政府・与党は昨年秋にまとめた農業改革方針で、全農に事業改革を盛り込んだ年次計画を策定するよう求めていた。全農の成清一臣理事長は記者会見で、今回の改革方針について「かなり意欲的に作ったつもりだ」と強調した。

JAグループの商社機能を担う全農にとって、農産物の販売は、農家への肥料など生産資材販売と並ぶ中核事業だ。年次計画には、コメの直販比率を24年度に9割へ拡大するほか、野菜や果物については55%へ引き上げる目標を掲げた。海外販路も広げ、農産物の輸出額を19年度に15年度の3倍近い340億円へ増やす。

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東京市場サマリー(28日)【3/28 17:34】
【東京株式】反発=円高一服で買い戻し

円高・ドル安の進行が一服し、投資家に安心感が広がった。前日値下がりした銘柄を中心に買い戻しが入り、日経平均株価は前日比217円28銭高の1万9202円87銭、東証株価指数(TOPIX)は20.44ポイント高の1544.83と、ともに反発。銘柄の90%が値上がりし、8%が値下がりした。出来高は19億0013万株、売買代金は2兆4150億円。

【東京外為】ドル、110円台後半=買い戻し優勢

東京外国為替市場のドルの対円相場(気配値)は、前日に下値を試した反動から買い戻しが優勢となり、1ドル=110円台後半に上昇した。午後5時現在110円68〜68銭と前日(午後5時、110円18〜18銭)比50銭のドル高・円安。ユーロは対円で上昇。午後5時現在は1ユーロ=120円16〜21銭(前日午後5時、119円71〜71銭)、対ドルで1.0858〜0859ドル(同1.0865〜0865ドル)。

【東京債券】先物、小反落=長期金利は0.060%

債券先物は小反落。長期国債先物の中心限月2017年6月物は前日比02銭安の150円45銭で取引を終えた。長期金利の指標となる新発10年物国債346回債の利回りは0.005%上昇の0.060%。

【短期金融市場】無担保コール翌日物速報値、マイナス0.047%

日銀が公表した短期金融市場での無担保コール翌日物の速報値は、加重平均がマイナス0.047%(前営業日確報値マイナス0.044%)、最高レートは0.001%(同0.001%)、最低レートはマイナス0.075%(同マイナス0.080%)だった。

【東京原油】中東産原油、円安とWTI高受け3日ぶり反発

中東産原油は3営業日ぶり反発。終値は、中心限月の8月先ぎりが前日比750円高の3万4780円、他の限月は30〜680円高。日中立ち会いは、取引中のニューヨーク原油(WTI)相場が前日の東京市場の大引け時点を上回ったことや、円相場の軟化を眺めて、ポジション調整の買いが先行した。その後もWTIは強含みで推移し、つれて終盤にかけて上げ幅を拡大した。

【東京金】金、NY高受け受け小じっかり

金は小じっかり。終値は、中心限月の2018年2月先ぎりが前日比2円高の4446円、他の限月は1〜4円高。米トランプ大統領の政策運営力への疑念から、前日のニューヨーク市場でドルが売られ、ドル建て金が大幅高となったことを受け、日中立ち会いは続伸して始まった。ただ、その後は追加的な強材料を欠き、戻り売りに押されて伸び悩んだ。

【経済統計】

◆特になし

【要人発言】

◆小林同友会代表幹事:東芝半導体事業の一部売却、米国企業まででブロックを

◆麻生財務相:不確実性高く、為替市場でいろんな動きが出てくるのは予想の範疇

【ニュースから】

◆高浜原発3、4号機の運転容認=差し止め仮処分取り消し―大阪高裁

◆東電と中部電、19年度上期に火力事業を全面統合=国内シェア5割

◆ブリヂストン、市販用タイヤを値上げ=乗用車用で6%

◆日銀、不動産融資を重点検証=17年度の考査方針

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不動産融資を重点検証=17年度の考査方針―日銀【3/28 17:34】
日銀は28日、金融機関の経営状況を調べる考査に関する2017年度の基本方針を発表した。低金利による収益環境の悪化を背景に、不動産向け融資や有価証券投資を積極化させる銀行が増えていることを踏まえ、各行のリスク管理体制を重点的に検証する。

不動産融資では、賃貸住宅の建設資金を貸し出すアパートローンが急増している。日銀は将来的に空室率の上昇で家賃収入が減少し、ローンを返済できなくなる借り手が相次ぐような事態を懸念。考査を通じ、事業の将来性を適切に審査した上で融資しているかを点検する。

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〔シドニー外為・債券〕未入電(28日)【3/28 17:31】
〔東京外為〕ドル、110円台後半=買い戻し優勢(28日午後5時)【3/28 17:29】
28日の東京外国為替市場のドルの対円相場(気配値)は、前日に下値を試した反動から買い戻しが優勢となり、1ドル=110円台後半に上昇した。午後5時現在110円68〜68銭と前日(午後5時、110円18〜18銭)比50銭のドル高・円安。

早朝のドル円は、買い戻しが優勢となった前日の米国市場の流れを引き継ぎ、110円80銭台まで水準を切り上げた。仲値すぎには国内輸出企業のドル売りなどを受け、110円50〜60銭台に軟化。その後は同水準でもみ合う展開が続いた。終盤は米金利の動きに伴い、110円50〜70銭台で上下した。

ドル円は堅調な日経平均株価などに支えられ、買いが優勢だった。ただ、この日の上昇については、「前日下げた分のショートカバーの要素が多い」(FX会社)とのみる向きが大半。「材料が乏しく、前週末に高まった米トランプ大統領の政権運営に対する不透明感が引き続き意識されている。まだトレンドとしては下向き」(銀行系証券)との声も聞かれた。

ユーロは対円で上昇。午後5時現在は1ユーロ=120円16〜21銭(前日午後5時、119円71〜71銭)、対ドルで1.0858〜0859ドル(同1.0865〜0865ドル)。
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南アのズマ大統領、ゴーダン財務相解任の方針を表明−関係者
Bloomberg News
2017年3月28日 16:36 JST
ランドは急落、大統領は協力関係にある共産党に意向を伝えたという
大統領はロンドンに向かったゴーダン財務相に帰国を命じていた

南アフリカ共和国のズマ大統領は、南アフリカ共産党の複数の幹部に対し、ゴーダン財務相を解任する方針を表明した。事情を知る3人の関係者が明らかにしたもので、南ア・ランドは急落した。
  アフリカ民族会議(ANC)議長(党首)であるズマ大統領が27日、ヨハネスブルクでの会議で、ANCと協力関係にある共産党の幹部に解任の意向を伝えたと、同会議に臨んだ関係者が公式の発表がないことを理由に匿名を条件に語った。
  ゴーダン財務相は1週間にわたるロードショー(機関投資家向け説明会)のためロンドンに向かったが、ズマ大統領は同相に対し、英国と米国の投資家との会合をキャンセルして帰国するよう27日に命じていた。
  ANCのジジ・コドワ報道官は、関係者は誤った情報を伝えられたと話した。
  ランドは一時2.9%下落し、ヨハネスブルク時間28日午前8時21分(日本時間午後3時21分)時点で1ドル=13.0043ランドとなった。
原題:Zuma Said to Tell South African Communists He’s Firing Gordhan(抜粋)

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-28/ONIJSN6K50XU01
http://www.asyura2.com/17/kokusai18/msg/763.html

[国際18] 仏経済事情に見るルペン人気の正体 ルペン氏:マクロンは政治の世界のバンダム トランプがあざ笑った「ワシントン政治」の逆襲
FX Forum | 2017年 03月 28日 12:33 JST 関連トピックス: トップニュース
コラム:
仏経済事情に見るルペン人気の正体

山口曜一郎三井住友銀行 ヘッド・オブ・リサーチ
[東京 27日] - ここ最近の欧州政治情勢に関して、市場では懸念がいくぶん後退している雰囲気がある。理由の1つは、15日に行われたオランダ議会選挙で、極右・自由党(PVV)が思ったよりも議席を伸ばせなかった一方、連立与党の1つである自由民主党(VVD)が、議席を減らしながらも第一党の地位を維持したためだ。

もう1つの理由は、20日のフランス大統領選テレビ討論会後の世論調査で、最も説得力のある候補はマクロン氏だったとの結果が発表されたからだ。これらを受けて、ユーロが対ドルで1.06ドル台から1.08ドル台まで上昇するなど、市場ではフランス大統領選に対する懸念がいくらか後退している。

しかし、フランス大統領選において極右政党・国民戦線(FN)のルペン党首が支持率を伸ばしている背景を考えれば、状況はまだ楽観視できない。今年の欧州は選挙イヤーということで、どうしても各候補の政治的主張や世論調査動向に目が向きやすいが、ここで改めてエコノミストらしく、経済を切り口に今後のポイントを論じてみたい。

<フランスの貿易開放度、実は欧州主要国で下から2番目>

ルペン氏に対する高い支持率の背景には、フランス国民の現在の生活や経済環境への不満が存在していると考える。

もちろん、過激派組織による攻撃に対する恐怖や、移民への心情的・社会的不安が大きな影響を与えていることは確かだが、ユーロ圏に属していること、あるいは欧州連合(EU)に加盟していることの恩恵を享受できていない人が数多く存在しており、それらの不満が反EU、反エスタブリッシュメントに向かっているとみられる。

おそらく、移民の存在が自分たちの生活を阻害しているとか、自分たちの生活が良くならないのは現在の政権のせいだと感じるくらい、景気拡大への実感がない点に問題の一因がある。そう考えると、以下の3つの背景要因を指摘できそうだ。

1)フランスは相対的に内需主導の国であり、オランダのような貿易立国と比べるとユーロ圏とEUの恩恵を受けている実感に乏しい

2)人々の景況感に直結するのは雇用情勢だが、失業率は高止まったままで、低下ペースが鈍い

3)恩恵を感じる機会が少ないためか、人々のEUに対する意識は他国と比べて低い

まず1点目から説明しよう。EUという経済同盟を形成し、ユーロという共通通貨を導入している恩恵は、経済における効率的な資源配分という点で見ると、貿易開放度の低い国よりも高い国の方が大きい。

そこで、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、オランダ、ベルギー、オーストリア、アイルランド、フィンランド、ポルトガル、ギリシャの11カ国について、貿易開放度を測る物差しとして、名目国内総生産(GDP)に対する財の輸出入合計額の比率を計算・比較してみると、フランスは実は下から2番目だ(最下位はギリシャ)。

対照的に、オランダは貿易開放度が高く、ベルギーに次いで上から2番目だ。オランダで、国民の一部に反移民、反EUの動きがあっても、それが大きなうねりとならなかったのは、同国にとってユーロ圏とEUの存在が重要と考える国民が多くを占めていたためと考えられる。

<フランス国民の多くにEUが魅力的に思えない理由>

次に失業率について見てみよう。2010―16年のフランスのGDP成長率は平均プラス1.14%とユーロ圏全体の同1.04%を上回っているが、国民が景気拡大を実感する1つのバロメーターである雇用情勢はさえない状況が続いている。

失業率は、足元で若干改善の動きが見られるものの、2016年は10.0%という高い水準にとどまった。ドイツの失業率が4.2%まで低下していること、ユーロ危機で一時14.7%まで上昇したアイルランドの失業率が7.9%まで下げてきていることなどと比べると、フランスの労働市場の改善は鈍い。

加えて、世界銀行が発表しているジニ係数で所得格差の動きを見ると、フランスは、オランダ、ベルギー、ドイツなどよりも所得格差が大きく、これも人々の不満を高めている可能性がある。フランスの方がオランダよりも国民の満足度は低そうであり、足元で国民の1割に達したと言われている移民に不満の矛先が向かうのもうなずける。

こうした環境に置かれているフランス国民にとって、EUは必ずしも魅力的に見えない。これが、前述した、ルペン氏が支持率を伸ばしている3つ目の背景要因だ。

2016年秋に実施されたEUの世論調査(Eurobarometer)にある3つの質問「EUのイメージ」「自分の声はEUに反映されている」「EUの将来」に対する回答を用いて、EU28カ国の国民のEUに対する意識を調べてみた。

各回答における「ポジティブ、同意、楽観」の符号をプラスに、「ネガティブ、不同意、悲観」の符号をマイナスにして足し合わせ、その合計を比較することで、各国民がEUに対してポジティブかネガティブかをつかもうとしたものだが、これによると、最もポジティブなのはアイルランド、最もネガティブなのはギリシャとなる。

フランスは下から6番目であり、EU離脱を決めた英国よりも1つ順位が上なだけだ。一方、オランダはネット・ポジティブで、上から14番目とほぼ真ん中に位置する。

このように見ると、オランダ総選挙で与党の自由民主党が何とか踏みとどまったのは、もちろん各種報道にあるように、最近の自由党がやや右寄りの姿勢を見せていたこと、トルコとの外交衝突で強い姿勢を示したことなどが大きな理由ではあるが、オランダ国民のユーロ圏とEUに対する不満は必ずしも非常に強いわけではなく、国民が一定の恩恵を感じていることが背景にあったと思われる。

翻ってフランスについて考えると、この点は弱い。最近の世論調査では、ルペン氏の支持が低下し、マクロン氏の支持が上昇しているとの評価が聞かれるが、決選投票での支持率がマクロン氏60%前後、ルペン氏40%前後というのは2カ月前と比べてほとんど変わっていない。フランスのメディアやアナリストからは、決選投票の世論調査でこれだけの差があればマクロン氏が勝つだろうとの声が聞かれるが、英国民投票や米大統領選を教訓にすると、安心できるほどの差ではない。

もちろん、フランスもオランダに続いて、内向き志向や反エスタブリッシュメントの流れに歯止めをかける可能性は十分あるが、予断を持たずに情勢を見ていくことが必要だ。ユーロドル相場についても、この先、フランス大統領選までに再び売りを試す局面があると考える。

<経済的切り口で見て危険なのはイタリア>

最後にもう1点加えておきたい。フランス大統領選のあとには、9月にドイツ連邦議会選が控えており、メルケル首相率いるキリスト教民主同盟(CDU)がシュルツ元欧州議会議長を擁する社会民主党(SPD)に勝つことができるかが注目される。

メルケル首相が退くようだとユーロ圏とEUの求心力が弱まるのではないかという点は、現在のようにEU体制に脆弱性が見られる中では大いに心配だが、両党とも親EUであり、反EU、反エスタブリッシュメントという点では、大きなうねりに巻き込まれる懸念は小さい。経済を切り口に見ても、人々の生活に対する不満が爆発する水準にはないと言える。

実は、今回の切り口で見るとより危険なのはイタリアだ。輸出主導のイメージがある同国だが、貿易開放度は辛うじてフランスを上回る程度であり、2016年の失業率は11.7%とフランスを上回る。ジニ係数で見た所得格差もフランスより大きい。

そして、EUへの意識は、ギリシャ、キプロスに次いで、28カ国中で下から3番目だ。与党・民主党(PD)の分裂懸念、ポピュリスト政党・五つ星運動が第一党となる可能性などイタリアでは政治情勢が非常に不透明だが、経済的な背景から見ても同国は危険な状態にある。

民主党の党内混乱もあって、総選挙のタイミングは2018年にずれ込みそうだが、これは選挙イヤーである2017年を乗り越えても安心できない政治イベントが続くことを意味する。

*山口曜一郎氏は、三井住友銀行市場営業統括部副部長で、ヘッド・オブ・リサーチ。1992年慶應義塾大学経済学部卒業後、同行入行。法人営業、資本市場業務、為替セールスディーラーを経て、エコノミストとして2001―04年にニューヨーク、04―13年ロンドンに駐在。ロンドン大学修士課程(金融学)修了。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

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http://jp.reuters.com/article/column-forexforum-yoichiro-yamaguchi-idJPKBN16Y0B9?sp=true

 

ルペン氏:マクロン氏は政治の世界のバンダム−格闘家・俳優に例える
Gregory Viscusi
2017年3月28日 16:29 JST

フランス大統領選挙の極右候補、ルペン国民戦線(FN)党首は、対立候補のマクロン前経済相をベルギー出身の格闘家・俳優、ジャンクロード・バンダムに例えた。言葉が空虚だと指摘した。
ジャンクロード・バンダム
ジャンクロード・バンダム Photographer: Vincent Sandoval/WireImage
  ルペン氏は26日、リールでのキャンペーンで、マクロン氏は「政治の世界のジャンクロード・バンダムだ。何を言っているのか、何をやっているのか、誰にも分からない」と語った。
  4月23日の第1回投票についての世論調査でルペン氏とマクロン氏は3位以下に大きく差を付け、5月7日の決選投票はこの2候補の対決となる見込み。これを意識し、両氏は互いに批判の矛先を向け始めた。
  マクロン氏の方は週末、ルペン氏は「うそをついている」と発言。不法移民をなくすとの公約について述べた。 
  「ブリュッセルから来た筋肉マン」のバンダム(56)は、「妊娠している女性は子供が生まれるということを知っている」や「空気は面白い。空気をなくせば鳥は空から落ちてくる。飛行機もだ。しかし触ることはできない」など奇妙なセリフで知られる。 
原題:Le Pen Likens Macron to Actor Van Damme as Campaign Turns Nasty(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-28/ONIIBV6JTSEB01


 


Column | 2017年 03月 28日 17:21 JST 関連トピックス: トップニュース

コラム:トランプ大統領があざ笑った「ワシントン政治」の逆襲

Gina Chon

[ワシントン 27日 ロイター BREAKINGVIEWS] - ホワイトハウスは、旧来の難解な予算関連法令への対応に苦しんでいる。トランプ大統領と議会共和党は、医療保険制度改革(オバマケア)代替案を撤回した後、税制改革に関心を移しつつある。ただしこれは容易ならぬ課題であり、これまで何度も取り組まれたものの、ここ30年余りでまだ実現できていない。

オバマケア問題と同様に税制改革においても、財政赤字抑制のために定められた分かりにくい法律が足かせになっている。

議会で予算審議の迅速化を図るために導入された「予算調整制度」は、上院における法案を過半数の賛成で成立させることを認めている。これによって議事妨害(フィリバスター)を受ける恐れがなくなった代わりに、制度の乱用を防ぐためのいくつかの条件も設定された。故ロバート・バード上院議員の名にちなんだ「バード・ルール」がその1つで、予算対象とする10年を超える年度で赤字を増やす法案を禁止している。例えばジョージ・W・ブッシュ政権の下で可決された減税が2010年に失効したのは、このルールが適用されたためだ。

バード・ルールは共和党のオバマケア見直しにも影を落とし、トランプ氏が支持していた保険会社に州をまたいで商品販売を認めるという考えを代替法案に盛り込むのを事実上不可能にした。トランプ氏は共和党による代替案撤回後に、「不可解なルール」について多くのことを学んだと述べた。

そして同ルールは、税制改革に際して再び影響を及ぼすだろう。トランプ氏は法人税率を現行の35%から最低15%に引き下げるなど全面的な減税を望んでいるが、国家経済会議(NEC)のコーン委員長は、政権が歳入に中立的な税制改革を目指していると表明している。

保守系のタックス・ファウンデーションの試算では、トランプ氏の公約が実現すると向こう10年の歳入は、ダイナミックスコアリング(政策変更がマクロ経済に与える影響からのフィードバック効果を勘案すること)を用いて計算した間接的な変化を含め、最大4兆ドル減少する。一方共和党内では既に法人税の国境調整が議論されており、これは歳入減の穴埋めに役立つ可能性がある。

オバマケアの下で補助金を削減すれば、抜本的な税制改革はもう少し簡単になっただろう。だが今やバード・ルール達成のハードルは高まっている。トランプ氏は「ワシントンの政治手続き」をあざ笑うかもしれないが、引き続きその枠内で財政をやりくりしなければならない。

●背景となるニュース

・米共和党は24日、オバマケア代替法案の採決にこぎ着けることができなかった。

・共和党は現在、上院の過半数の賛成で法案成立が可能な「予算調整制度」の下での税制見直しに力を注いでいる。この制度を利用すれば、採決において民主党議員の協力を必要とせずに済む。

・予算調整制度に基づく法案は、「バード・ルール」も順守しなければならない。同ルールは、通常は10年とされる予算対象範囲を超える年度で赤字を増やす要因となる法案は認められない。

*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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http://jp.reuters.com/article/usa-trump-taxes-breakingviews-idJPKBN16Z07N?sp=true
http://www.asyura2.com/17/kokusai18/msg/764.html

[経世済民120] 政府、働き方改革実行計画案を提示 実現会議 FTドイツ、英EU離脱交渉を前に姿勢を硬化 ユーロ下げ幅拡大ポンド金上昇
政府、働き方改革実行計画案を提示 実現会議
2017/3/28 17:50
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 政府は28日夕、官邸で働き方改革実現会議(議長・安倍晋三首相)を開き、3月末までに取りまとめるとしていた働き方改革実行計画の政府案を示した。残業の上限を特別な事情がある場合でも最大で月平均60時間・年720時間までとし、違反した企業に対しては罰則規定を盛り込んだ。残業時間を事実上無制限に増やせる「36協定」の適用外としている建設事業は改正法施行から5年後に罰則付き上限規制を設ける。

 ただ建設業では復旧や復興の場合、被災者らの生活再建を優先するため単月100時間未満といった残業の上限規制を当てはめないとしている。同じく36協定の対象外となっている一般自動車の運転業務については改正法施行5年後に年960時間以内とする規制を適用することを盛り込んだ。

 医師に関しては時間外労働規制の対象としたものの、診療行為を求められたときに、正当な理由がない限りこれを拒めないとする医師法に基づく応召義務が課せられていることを考慮。改正法施行後5年をメドに規制の枠組みに加える。医療現場の実態などを踏まえて2年後を目安に具体的な規制や労働時間の短縮策を検討する方針だ。研究開発は引き続き時間外労働規制の対象外とした。〔日経QUICKニュース(NQN)〕
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFL28HE9_Y7A320C1000000/


 

[FT]ドイツ、英EU離脱交渉を前に姿勢を硬化
2017/3/28 17:00日本経済新聞 電子版
Financial Times
 英国のメイ首相が29日に歴史的な欧州連合(EU)離脱の交渉を開始するのを前に、ドイツは同国に対する姿勢を硬化させた。

 昨夏の英国民投票によるEU離脱決定後、メルケル独首相は理解を示す口ぶりだったが、EU離脱時の支払いや交渉の順序などの問題について強硬な姿勢に転じた。背景の一つに、英国は強硬なEU離脱を求めているとの見方が強まっていることがある。

英国のEU離脱に融和的な発言をしてきたメルケル独首相(中央)だが、ここへ来て強硬姿勢に転じた(25日、ローマ条約60周年の首脳会議で)=ロイター
英国のEU離脱に融和的な発言をしてきたメルケル独首相(中央)だが、ここへ来て強硬姿勢に転じた(25日、ローマ条約60周年の首脳会議で)=ロイター
 「我々は英国を罰しても何の利益にもならないが、英国を巡って欧州統合を危険にさらすこともまた何の利益にもならない」と、メルケル氏の盟友であるショイブレ財務相は最近、フィナンシャル・タイムズのインタビューで語った。

 「したがって、心苦しくはあるが、我々の優先事項は英国なしの欧州を可能な限り一体に保つことでなければならない」

 EUで最大の影響力を持つドイツでの強硬ムードの高まりは、英国での販売と投資に懸念を募らせる自動車産業の強力なロビー活動を受けてドイツ政府は姿勢を軟化させるという英政府の期待に反する。

 ドイツの政治的議論が親EUに大きく傾いた背景には、英国のEU離脱を強く支持したドナルド・トランプ氏が米大統領選で勝利したことや、9月のドイツ連邦議会(下院)選挙を前に、欧州統合推進派のマルティン・シュルツ前欧州議会議長がメルケル氏に挑む首相候補として登場したことがある。

 これまでメルケル氏は英国を「できる限り近く」につなぎ留めたいと主張してきたが、移民問題やユーロ圏の経済的緊張、フランスやポーランドの極右勢力によるポピュリズム的なEU批判に直面する中で、ドイツ政府はもろくなったEUの団結の維持を優先課題に位置づけた。

 ドイツ政府は、EUとの新たな関係に関する協議に入る前に英国のEU離脱条件を交渉しなければならないとする欧州委員会の主張を支持している。メルケル氏は、将来の取り決めについて話し合う前に、おそらくは大枠という形で離脱の原則的合意をまとめなければならないという見解だ。

 これは特に英国のEU離脱時の支払いについて当てはまり、欧州委員会はその金額を最大で600億ユーロとしている。ドイツの財務省は、「(リスボン条約)50条に基づく合意には必ず、英国はEU加盟国として引き受けた財政的責任を尊重するという確約が含まれなければならない」と主張している。

 メルケル氏が率いるキリスト教民主同盟(CDU)の法律専門家で、連邦議会のEU問題委員会のメンバーでもあるヘリベルト・ヒルテ氏は、支払金を巡って決裂すれば、将来の英国とEUの関係に関して合意する「可能性は完全になくなる」と言う。他のドイツ政府当局者や政治家も、双方が満足する合意への障害を強調する。連邦議会でCDUの英EU離脱担当報道官を務めるデトレフ・セイフ氏は、こう語る。「我々は全員、困難な状況になると思っている。良い結果が得られたなら、それは奇跡だろう」

 シュルツ氏が率いる社会民主党の英EU離脱担当報道官、ノルベルト・シュピンラート氏は「我々は英国に名誉ある行動を期待している。そうでない場合には、EUは英国を国際法廷に引き出せる」と言う。

 英国のEU離脱を歓迎している唯一の政党である右翼の「ドイツのための選択肢」は、最近の世論調査で支持率が低下している。

■英国との友好関係維持は必要

 とはいえ、ドイツの政府も連邦議員らも、可能であるなら英国との友好的関係は維持されなければならないと論じている。ある議員は、「この不愉快な任務をうまくやらなければならない」と皮肉交じりに言った。

 メルケル氏はいつも慎重な物言いで、英政府に対してより批判的なフランスのオランド大統領やユンケル欧州委員長よりも融和的に見える。

 EU側のある外交官は、ドイツはフランスとポーランドの間に身を置こうとしているのかもしれないと言う。フランスが強硬姿勢なのに対し、ポーランドはEUの見方に懐疑的で80万人の在英ポーランド人の大きな利益もかかっており、英国に同情的になるかもしれない。その中間に立てば、メルケル氏には得意とする合意形成の役割が回ってくる。

 だが、ベルリンでは依然、英国の決定を無謀と考えて怒りが収まらない向きも多い。「彼らはEUの外に出た英国の未来は輝かしいと思っている」と、ある政治補佐官は言う。「欧州の多くの指導者は輝かしいことになるとは思っていない」。ショイブレ氏は、こう語った。「この決定が英国の利益になるとは思っていないが、それは私が決めることではない」

By Stefan Wagstyl

(2017年3月28日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 https://www.ft.com/

(c) The Financial Times Limited 2017. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM28H3I_Y7A320C1000000/


 

ロンドン外為9時半 ユーロ、下げ幅拡大 1.08ドル台前半 ポンド上昇
2017/3/28 17:46
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【NQNロンドン】28日午前のロンドン外国為替市場で、ユーロは対ドルで下げ幅を広げた。英国時間9時30分時点では1ユーロ=1.0845〜55ドルと、前日の同16時時点と比べて0.0035ドルのユーロ安・ドル高で推移している。前日までに広がっていたユーロ買い・ドル売りの利益を確定する目的のユーロ売り・ドル買いが優勢となっている。

 英ポンドは対ドルで上昇している。1ポンド=1.2585〜95ドルと同0.0025ドルのポンド高・ドル安で推移している。取引を手掛ける新たな材料は出ていないもようだが、あすの欧州連合(EU)離脱通知を控え、持ち高整理を目的としたポンド買い・ドル売りが入っている。

 円相場は対ドルで安値圏で小動きしている。1ドル=110円60〜70銭と同20銭円安・ドル高で推移している。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASH2IILM1_Y7A320C1000000/


 
商品先物概況・28日
2017/3/28 17:42
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 金は続伸。27日のニューヨーク市場の値上がりを映した。トランプ米政権への不安感から安全資産とされる金に買いが集まった。その後は強材料を欠き、値上がりは小幅にとどまった。同じ貴金属の銀も値上がりした。

 天然ゴムは反発した。上海相場の値上がりが影響した。

 商品先物納会受渡枚数 3月物=東京小豆が3、大阪堂島の小豆がゼロ。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDJ28H1L_Y7A320C1EN1000/

http://www.asyura2.com/17/hasan120/msg/522.html

[経世済民120] 中国:労働参加率が低下、経済成長の重しに−将来的には好影響 滴滴出行6600億調達ソフ支援 ニトリ世界へ 東芝の信用回復
中国:労働参加率が低下、経済成長の重しに−将来的には好影響も
Bloomberg News
2017年3月28日 13:35 JST

• 労働参加率は2010年の77%強から15年には72.4%に低下−賈氏
• 高等教育の普及を示しており、いずれ生産性向上に−米大の王教授

中国の労働参加率が低下している。労働人口が減る中で、賃金圧力を高め、経済成長の重しとなっている。だがこうした状況を好ましいと捉える人口統計学者もいる。
  中国社会科学院の賈朋氏がまとめた調査によれば、求職者と就業者を16−65歳の生産年齢人口で割った労働参加率は2010年の77%強から15年には72.4%に下がった。中国では12年に生産年齢人口の減少が始まっており、参加率低下は労働市場の逼迫(ひっぱく)に拍車を掛けている。
  全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の常務委員でもある蔡ム・中国社会科学院副院長は、「全ての年齢層で、そして男女共に労働参加率が低下している。引き続き多くの場所で労働力不足が見られるだろう。16年の経済成長率が7%を下回った理由でさえある」と述べた。
  労働参加率の全体的な低下の約35%が16−22歳の参加率低下によるものだと賈氏は説明。ただ労働人口減少と労働参加率低下のダブルパンチに伴う経済への短期的な痛みが、長期的な利益に転じる可能性もあると、一部の人口統計学者は指摘する。
  米カリフォルニア大学アーバイン校の王豊教授(社会学)は、示されているのは高等教育の普及で若者が労働市場に参入するのが遅くなっているということで、将来的には労働生産性向上と収入増に寄与する可能性があると指摘。また、労働移動性が高くなっていることは、潜在的に経済の効率性を上向かせるとの見方も示した。

https://assets.bwbx.io/images/users/iqjWHBFdfxIU/iIYRaZwQTcQs/v4/1200x-1.png
原題:China’s Falling Labor Participation Rate Adds to Growth Squeeze(抜粋)

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-28/ONI7D06S972D01

 


平成不況勝ち抜いたニトリHD、安さと品質で世界へ−イケア追う
堀江政嗣、黄恂恂、ジェイソン・クレンフィールド
2017年3月28日 06:00 JST 更新日時 2017年3月28日 17:23 JST

今後の成長の柱は中国、日本での成功再現へ当面は出店強化
30期連続増収増益へ、札幌の家具店から時価総額国内小売3位に


バブル崩壊から日本経済が坂道を転げ落ちるように悪化した平成の世において一貫して成長を続けてきた企業がある。「お、ねだん以上。」のキャッチフレーズで知られる家具・インテリアチェーンのニトリホールディングス(HD)だ。
  ニトリHDは28日、前期(2017年2月期)の決算で30期連続での増収増益を達成したと発表した。大手金融機関の破綻やテロ、大規模自然災害など暗い出来事が相次いだ時代に持ち前の明るさで事業をけん引してきた創業者、似鳥昭雄会長(73)の目はいま、さらなる成長を求めて世界に向かう。その視線の先には業界の巨人、イケアの後ろ姿をもとらえている。

似鳥昭雄会長

  東京都北区にあるニトリ赤羽店。国道沿いの店舗敷地には十分な駐車スペースが用意され、自由に車で出入りできるようになっている。ニトリHDの急成長を支えてきた郊外型店舗の典型的な光景だ。
  「品質が良く、安い」。近所に住み、自転車で来店した会社員、海沼香織さん(43)はニトリを選ぶ理由をこう説明した。板橋区から息子夫婦と車で来店した主婦、佐藤トミさん(67)は、「商品の数と値段が気に入っている。1回の買い物で全部そろうのがいい」と話す。最近、息子夫婦が新築の家に引っ越した際はカーテンや食器棚、孫のベッドや机などほぼニトリでそろえ、20万円以上は使ったという。

低価格で高品質

  ニトリHDの成長を支えてきたのは、不透明な経済情勢が続いた日本で少しでもいい物を1円でも安く、と厳しい目で買い物をしてきたこういう人たちだ。赤羽店の1階部分は寝具類や日用品が陳列されている。そのありふれた風景の裏にもニトリHDの強さの秘密が隠されている。
  似鳥会長は2月のブルームバーグとのインタビューで店舗の商品を毎年半分は入れ替え、その際に価格を下げるか品質や機能を高めるかのどちらかを条件にしているため「年々商品力がアップしている」と話した。品質や機能を上げる一方で価格を下げ、「その差を広げる」ことに注力してきたことが消費者に受け入れられたと分析する。
  リーマンショックがあった08年から12年にかけて計12回の値下げを実施、アベノミクスの効果で消費意欲が高まったこの数年は比較的、高価格帯の商品の品ぞろえも充実させた。昨年は消費の勢いに陰りが見え始めたと判断するや安易な値上げはしない方針を打ち出すなど、臨機応変の対応で成長を維持してきた。
  岩井コスモ証券のアナリスト岩崎彰氏は、同社が製造から小売りまでを手掛けたことで「他社と雲泥の差」となり追いつけない状況になっていると指摘する。さらに年収400万ー500万円の世帯をターゲットに低価格の家具の製造を続けたことで、「日本の世帯所得の平均がどんどん低下する中で、そのターゲットがどんぴしゃになった」との見方を示した。

北海道から全国へ

  サハリン(樺太)に生まれた似鳥氏は終戦後、3歳のときに北海道に移り住んだ。両親と3人の8畳一間暮らしで生活は貧しかったという。家具のない部屋で、大工だった父が自ら食器棚を作った。似鳥氏の著書によると、同氏は少年時代に勉強が得意でなく、地元の大学を卒業後に就職した会社でも営業職が向かずすぐに解雇された。生計を立てるため商売を始めようと、衣食住のうち近所で競合がほとんどなかった家具販売を選んで67年に起業した。
  27歳のころに業界団体の視察旅行で訪れた米国で、家具が周囲の調度品とセンスよくコーディネートされ、日本の3分の1の価格で売られていることを知った似鳥氏は「日本でも米国の豊かさを実現したい」との使命に目覚めたという。帰国後、積極的なチェーン展開で購買力を高めて安さの追求にまい進するようになり、軌道に乗り始めたと明かす。
  30年間にわたる成長を経て、北海道の地方企業にすぎなかったニトリHDの業容は大きく拡大した。店舗網は全都道府県に広がり、時価総額で日本の小売業でもセブン&アイ・ホールディングス、ファーストリテイリングに次ぐ3位に。ブルームバーグ・ビリオネア指数によると似鳥氏は個人資産約30億ドルの国内有数の富豪だ。
円高、デフレが追い風に
  似鳥氏は長く続いたデフレが「追い風だった」と認める。円高基調のなかでインドネシアやベトナムで家具の自社生産に着手。長期にわたって成長を続けられた最も大きな要因として、為替の動向にかかわらず一貫して「海外からの輸入比率を上げてきた」ことを挙げる。
  円安で輸入の採算が合わなくなり、競合他社が国内調達を増やした局面でも海外からの調達にこだわり続けた。似鳥氏は円安は長く続かないとみて、「採算が合わなくても採算が合うようにするのがわれわれの仕事」と商品をいかに安くできるかの手だてを考えてきたという。
  家具小売りの世界最大手はスウェーデンのイケアだ。世界各地で事業を展開する同社の16年8月期の連結売上高は351億ユーロ(約4兆2000億円)と、日本を中心に事業展開するニトリHDとは10倍近い開きがある。だが、2032年に売上高3兆円という目標を達成すれば、イケアの成長分を考慮してもその背中が見えてくる。
イケアと対決も
  似鳥氏はイケアについて、自分たちよりも「圧倒的に上で私たちから見たら巨人」としながら、「やるからにはやっぱり海外に出て、イケアさんの数字を目標としてやっていきたい」とその存在を意識していることを明らかにした。
  似鳥氏が強みとして絶対的な自信を持っているのは品質だ。ホンダから人材を引き抜いて、高い安全水準が要求される自動車業界にならった品質管理手法を導入。新商品は販売前に社内で検査を実施し、合格するまで繰り返す作業を課している。
  その結果、家具業界で標準3%程度とされている不良率が「0.5か0.6、ホームファッションは0.01とか0.02」まで引き下げられ、品質面ではすでに「イケアを超えていると思う」と自信を高めているという。
  価格と品質で欧米のライバルと既に互角以上の戦いができると考える一方で、コーディネートのセンスや提案力では「まだやっぱり50点とか60点」と自己評価は低い。欧米でホームパーティーの文化が根付いているのに対して、日本人は自宅に人を招く習慣がなく、インテリアのセンスが洗練されない要因になっていると分析する。ただ、その分野でも人材が成長しているとし、「もうあと10年かからずに100点」に持っていくと述べた。
無限の需要
  似鳥氏は昨年、白井俊之副社長を後継社長に指名して日々の決済の大部分を任せ、自身は会長として海外事業など長期的な戦略を練ることに専念するようになった。ニトリHDでは32年に向けた長期目標として店舗数3000、連結売上高3兆円を目指している。現状の約6倍の規模となる成長のドライバーは海外市場。中でも中国市場が最も有望で期待をかけているという。
  中国には14年に進出。最初こそ苦戦したもののニトリHDのような家具とインテリア用品の製造小売業が同国では珍しいこともあり、安い賃料での出店要請が増えるなど手ごたえを感じているとし、今期は中国本土に11店を出店する計画だ。これにより店舗数はほぼ倍増し、その翌年も10から20程度の店を出す可能性があるという。
  似鳥氏は「今の勢いだったら中国ではうちが1番手で競争相手はいない」と述べ、32年時点で店舗数は中国だけで1000店を占める計画。中国の人口は日本の約10倍で店の数も日本の10倍ぐらいまで増やせるはずだとし、人材の問題さえクリアできれば「需要は無限にある。店はいくらでも出せる」と語った。
都内のニトリの店舗

大不況に備えよ

  似鳥会長は国内市場についても楽観的な見通しを持っており、成長の余地はあると考えている。多くの経営者を悩ませる少子高齢化の問題についても「関係ないよ、そんなの」と笑い飛ばす。寡占状態になるような高い市場シェアがある場合は別として、「中小企業が少子化なんて何をばかなこと言ってるんだ、となる」と切って捨てた。
  ニトリHDでは最近、銀座や新宿など都心部での出店やベーシックなインテリア用品を主に取り扱う「デコホーム」という別業態の展開も進め、国内では現在より5割以上多い700店舗ぐらいまで拡大できるとみている。28日発表した前期の決算は純利益が前年同期比28%増の600億円、売上高が同12%増の5130億円だった。今期(18年2月期)はそれぞれ14%、11%の増加を見込む。似鳥氏は増収増益の記録については途絶えるイメージは今のところないとし、売上高も利益も当面は最低2ケタ成長を続けていきたいと語った。
  その一方で、似鳥氏は東京五輪が終わる20年以降、日本は「大不況になる」との見通しも持っている。「キャッシュはたまっていく。今そのうちに不景気になるから」。ニトリHDでは業績好調が続くなか、プロ野球球団への出資やホテルチェーンの買収話が持ち上がった際も見送った。必要な投資を行った上でも使い道のない余剰資金が毎年200−300億円が積み上がっているという。
  ニトリHDはかつて不動産価格の異常な高騰を受けて、検討していた首都圏進出を取りやめたことがあるが、結果的にバブル崩壊後に暴落した物件を取得して繁栄の礎を築いた。創業者特有の直感で成功を収めてきた似鳥氏は20年以降の不況では「建物が3割から5割下がる」ほどの経済的インパクトを見込んでいるとしながら、こう話した。「そのときは1000億円以上の金がある」。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-27/ONB49D6KLVR401


 


中国の滴滴出行:6600億円規模の調達検討、ソフトバンク支援−関係者
Lulu Yilun Chen
2017年3月28日 11:50 JST

アップルとテンセントも参加検討、希薄化回避が目的
アリババなど100を超える投資家との利害調整が必要−関係者
 
配車アプリを手掛ける中国の滴滴出行は、ソフトバンクグループが支援する60億ドル(約6640億円)規模の投資を受けるかどうか検討している。既に出資している米アップルなどの既存株式が希薄化する可能性がある。事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。
  情報が非公開だとして匿名を条件に話した関係者によれば、滴滴出行はアリババ・グループ・ホールディングや中国の政府系ファンドなど100を超える投資家との利害調整が必要になる。中国ソーシャルメディアのテンセント・ホールディングス(騰訊)とアップルも持ち株の希薄化を防ぐため、出資に比例した新たな投資に参加すべきかどうか検討しているという。ソフトバンク自体が資金を出すのか、1000億ドル規模のビジョンファンドが出すのかは不明。
  滴滴出行の広報担当者スン・リアン氏とテンセントの広報担当キャニー・ロ氏、アップルの広報担当キャロライン・ウー氏に今回の資金調達報道に関してコメントを求めたが、返答はなかった。ソフトバンクの広報担当、マシュー・ニコルソン氏はコメントを控えた。
原題:Didi Said to Be Weighing $6 Billion SoftBank-Backed Investment(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-28/ONI6LV6JIJVA01

 

中国の紫光集団、2兆円超の資金確保−買収などに充当か
Bloomberg News
2017年3月28日 17:15 JST

国家開発銀行から1000億元、政府系半導体ファンドから500億元調達
紫光は買収や生産能力の増強に積極的
 
中国の半導体メーカー、紫光集団は政府系の2つの事業体から最大1500億元(約2兆4100億円)の投資資金を確保した。買収や世界に通用する半導体産業の育成に向けて資金を活用する可能性がある。
  紫光集団のウェブサイトに掲載された発表文によると、中国の政策銀行である国家開発銀行から2020年までの期間に計1000億元を受けるほか、14年に国内半導体の発展を目的に設立された政府系の半導体ファンドから500億元を調達する。
  紫光は資金の使途を明らかにしなかったが、同社は買収や生産能力の増強に積極的で、中国が海外の技術に頼らずに済むようにする取り組みで主導的役割を担っている。
原題:China’s Largest Chipmaker Secures $22 Billion to Expand Globally(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-28/ONIMHY6TTDS201

 

東芝の信用回復、米原発子会社の破綻処理報道や政府サポート姿勢
呉太淳
2017年3月28日 06:00 JST 更新日時 2017年3月28日 09:40 JST


https://assets.bwbx.io/images/users/iqjWHBFdfxIU/iVhDhGjnh_i0/v2/-1x-1.png


米原発事業で巨額の減損処理を強いられた東芝の信用力は、足元でやや回復している。米原発事業の破たん処理申請が迫っていると報じられていることに加えて、東芝に対する政府のサポート姿勢が見えてきているためだ。
  CMAによると、東芝の5年物CDS(社債保証コスト)は、決算再延期後の16日に479ベーシスポイント(bp)まで拡大していたが、直近では425bpまで縮小した。

  麻生太郎財務・金融相は10日の会見で、米原発子会社ウェスチングハウス(WH)の米連邦破産法11条適用申請について「今月いっぱいに決定しないといけない」と発言。27日付の日本経済新聞朝刊は、WHが28日にも同法11条の適用を申請する方針を決めたと報じた。共同通信によると、世耕弘成経産相は米エネルギー長官との会談後の会見で、「東芝の財務的安定性が重要だ」と言及するなど、政府も支援姿勢を表明している。
  みずほ証券の土屋剛俊シニアエグゼクティブは、WHが同法11条の適用を申請した場合、東芝の連結対象から外れることになるとし、「一定以上の将来的なロスが出にくくなるから東芝にプラスだ」と述べた。また、パインブリッジインベストメントの松川忠部長は、世耕経産相が東芝についてひんぱんに言及していることもあり、「国策的に支えるスタンスが見えているのはクレジット的にプラスだ」との見方を示した。
  東芝は1月に公表した暫定決算で、原子力事業をめぐる減損損失として7125億円を計上、今期末の株主資本がマイナスとなる見通しを示した。東芝広報担当の味岡源大氏は社債やCDSの動きについて「当社から申し上げ立場にありません」と話した。

ラッセル米国務次官補が辞任へ、トランプ政権下で退職相次ぐ
東芝株4600万株をブラックロック貸し出し−市場は空売りに利用か
東芝株が1カ月ぶり高値、筆頭株主に旧村上系ファンド浮上で思惑


クレディS:資本調達選択肢検討、銀行と協議せず-ロンドン1000人減へ
Jan-Henrik Förster、Darren Boey
2017年3月28日 14:57 JST

過去1年でリストラ努力が「大きく前進」したとティアムCEO
スイス部門IPO以外の選択肢を検討できる余裕が生まれたとCEO

スイス銀行2位クレディ・スイス・グループのティージャン・ティアム最高経営責任者(CEO)は、同行のリストラ努力が「大きく前進」した結果、スイス銀行部門の新規株式公開(IPO)という長年の計画以外にも資本調達の別の選択肢を検討できる十分な余裕が生まれたと語った。
  ティアムCEOは28日、ブルームバーグテレビジョンとのインタビューで、過去1年の進展には、住宅ローン担保証券の販売を巡る米司法省の調査決着や自己資本比率の上昇、19億ドル(約2100億円)の経費節減が含まれると発言。追加の人員削減を今年と来年も行うとしながらも、最悪期は脱した可能性を示唆した。
  今回の発言は、最大40億スイス・フラン(約4500億円)の資本不足を穴埋めする選択肢の拡大について、クレディ・スイスの決定をうかがい知るヒントを与えるものだ。事情に詳しい複数の関係者が先週語ったところでは、同行はスイス部門のIPOに代わる30億スイス・フラン余りの増資を検討しているという。
  ティアムCEOは「IPOは資本補強手段であり、それについては2月に明らかにした。非常に多くの進展があったため、他の選択肢も今や検討可能だ」と説明。取締役会が検討している具体案の詳細には言及せず、投資銀行とも協議していないと述べる一方、「市場が答えを求めていることは承知している。われわれは懸命に取り組んでおり、いずれ極めて明確な答えを出すつもりだ」と言明した。
  ティアム氏はクレディ・スイスが約2000人を昨年減らした後、今年はさらに1000人、来年も1000人弱を削減する可能性が高いとしながらも、リストラの完了が視野に入った可能性を示唆した。同氏によれば、ロンドンの行員数は1年前の9200人から現在は約6000人に減っており、今後は5000人体制を目指すとしている。
原題:Credit Suisse Progress Buys Thiam Breathing Room on Capital (1)
Credit Suisse Considering Options on Capital Raising: CEO(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-27/ONGMAH6JTSE901
http://www.asyura2.com/17/hasan120/msg/525.html

[政治・選挙・NHK223] 首相 テロ等準備罪新設の法案成立が必要 犯行訓練も準備行為 維新テロ防止に限定 「共謀罪の源流」「共謀罪」社会 条約口実
首相 テロ等準備罪新設の法案成立が必要
3月27日 13時01分
安倍総理大臣は参議院予算委員会で、共謀罪の構成要件を改めて、テロ等準備罪を新設する法案について、組織的なテロや犯罪を防ぐ国際的な連携を促進するには、条約の締結が欠かせないとして、法案の成立が必要だという考えを示しました。
この中で、共産党の仁比参議院国会対策副委員長は、共謀罪の構成要件を改めて、テロ等準備罪を新設する法案について、「国際組織犯罪防止条約はテロの処罰を義務づけておらず、法案は、国民を欺く姑息(こそく)なやり方だ。一般人か組織的犯罪集団かは警察の認定となるうえ、重大な犯罪の実行に合意しただけで処罰することは、プライバシーを侵害し、憲法違反だ」とただしました。

これに対し、安倍総理大臣は「国連で、テロリズムという言葉の定義がない中、そこにはまってしまうと条約が難破してしまう。このため結果として、条約にはテロに直接言及する規定は設けられなかったが、テロ組織が組織的な犯罪集団に該当する場合、本条約の対象となる」と述べました。

そのうえで、安倍総理大臣は「2014年12月に採択された国連安保理決議では、あらゆる形態のテロリズムを防止するため、国際組織犯罪防止条約をはじめとする国際約束を優先的に批准、加入し、実施することを加盟国に要請し、テロリストが国際組織犯罪から資金を得ることを防止するよう明確に求めている」と述べ、法案の成立が必要だという考えを示しました。

一方、安倍総理大臣は、大阪・豊中市の国有地が学校法人「森友学園」に鑑定価格より低く売却されたことをめぐって「安倍総理大臣夫人の昭恵氏も証人喚問に応じるべきだ」と問われたのに対し、応じる必要はないという考えを強調しました。

また、財務省の佐川理財局長は、安倍総理大臣夫人の昭恵氏付きだった職員が、学園の籠池理事長に送ったファックスの内容に関連して、おととしの11月ごろ、この職員から理財局の国有財産審理室長に対し、制度に関する一般的な問い合わせがあったと説明しました。そして、佐川局長は「こうした問い合わせは、官僚みずからが判断して行うのか」と問われたのに対し、「人それぞれで判断することだろうと思う」と述べました。

さらに、国土交通省の佐藤航空局長は、平成26年10月に大阪航空局がボーリング調査のため学園に土地を貸し付けた際の料金について、担当者が土地の路線価を誤って計算し、4440円とするところを444円と算定していたと陳謝したうえで、今月7日に学園から差額分を徴収したと説明しました。

一方、一般会計の総額が過去最大の97兆4500億円余りとなる新年度(平成29年度)予算案は、27日午後、参議院予算委員会で締めくくりの質疑と採決が行われたあと、参議院本会議で採決され、自民・公明両党などの賛成多数で可決・成立する運びです。
民進・共産など「昭恵氏の証人喚問が筋」
参議院予算委員会の理事会で、民進党や共産党などは、大阪・豊中市の国有地が学校法人「森友学園」に鑑定価格より低く売却されたことをめぐって、「安倍総理大臣夫人の昭恵氏の証人喚問を行うことが筋だ」と主張しました。
一方で、「国会招致を速やかに実現するためには、参考人として呼ぶことも知恵だ」として、昭恵氏と、森友学園の籠池理事長にファックスを送っていた当時の昭恵氏付きの職員らの参考人招致を求めました。

これに対し、与党側は、昭恵氏らの国会招致には応じられないという考えを示しました。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170327/k10010926081000.html


 


 
「共謀罪」、来月6日審議入りを=自民
 自民党の竹下亘国対委員長は28日の記者会見で、「共謀罪」の構成要件を改め「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案について、4月6日の審議入りを目指す考えを示した。同日の衆院本会議で趣旨説明と質疑を行いたい意向で、竹下氏は公明党の大口善徳国対委員長らとの会談でもこうした意向を伝えた。
 ただ、公明党は性犯罪を厳罰化する刑法改正案の審議を優先すべきだとの立場。自公両党は引き続き協議することを確認した。(2017/03/28-18:49)
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http://www.jiji.com/jc/article?k=2017032801064&g=pol

 


「共謀罪」、犯行訓練も準備行為
 共謀罪の構成要件を変えた組織犯罪処罰法改正案を巡り、政府は28日、構成要件となる「準備行為」の例として「犯行手順の訓練」と「犯行の標的の行動監視」を新たに示した答弁書を閣議決定した。

 改正案では準備行為について「資金または物品の手配、関係場所の下見その他」と規定。政府は「その他」の想定を初めて明らかにした。

 対象犯罪が、起訴するために被害者らの告訴が必要となる「親告罪」である場合は、その犯罪の「共謀罪」も同様に親告罪になることも分かった。日本維新の会の丸山穂高衆院議員の質問主意書に対する答弁書。


【共同通信】
http://jp.reuters.com/article/idJP2017032801001729


 

維新、「共謀罪」修正を テロ防止に限定

 日本維新の会の浅田均政調会長は26日のNHK番組で、共謀罪の構成要件を変えた組織犯罪処罰法改正案の修正を求める考えを示した。「テロ防止に限って立法する必要がある。明らかにおかしな点がいっぱいある」と述べた。

 浅田氏は、政府が絞り込んだ277の対象犯罪に著作権法や特許法などが含まれていると指摘し「ここまで法の網をかぶせる必要があるのか疑問に思わざるを得ない」と強調した。
http://www.sankei.com/politics/news/170326/plt1703260004-n1.html

 

 


「共謀罪の源流」(上) 「テロを対象」に日本反対

2017年3月26日 朝刊


国際組織犯罪防止条約起草特別委員会の審議結果を記した「秘」文書。既に秘密指定は解除されている
写真
 三度目の廃案から八年の時を経て復活してきた「共謀罪」法案。その源流はどこにあるのか。政府は「テロ防止」のためにはこの法律を成立させて国連の国際組織犯罪防止条約(TOC条約)を締結しなければならないと説明する。条約はテロを対象としたものなのだろうか。条約ができるまでの過程を探った。
 送付状に「秘 至急(優先処理)」の文字が記された公電がある。二〇〇〇年七月二十六日午後八時三十九分に、オーストリアのウィーン国際機関日本政府代表部の阿部信泰大使名で外務大臣宛てに送られた。
 現地で同十七〜二十八日に開かれた国連のTOC条約起草特別委員会の第十回会合の第一週の記録。条約のとりまとめの最終局面を迎え、対象犯罪にテロ行為を含めるかどうかを巡り、各国による激しい議論が交わされていた。
 エジプトはテロ行為を含めるべきだと強く主張。アルジェリア、インド、メキシコ、トルコと共同で、条約の付属書に盛り込むべき十五項目の対象犯罪リストを提案し、そこにはテロ行為が含まれていた。エジプトやアルジェリアなどではイスラム急進派によるテロが相次ぎ、外国政府が犯人の引き渡しに応じないという事態も起きていた。エジプトの提案は途上国グループを中心に十四カ国の支持を集めた。
 これに対し、カナダが「(国際組織犯罪と)テロリズムは別個の問題なので適当でない」と主張した。フランス大使も「テロリズムには他の多くの条約があり、本条約の対象にテロリズムを含めることはテロに関する既存の条約に悪影響を及ぼしかねない」と指摘。国連ではインドが提案していた包括的テロ防止条約を前向きに検討することになっているので、TOC条約で扱うべきではないと訴えた。ほかに英国、米国、ドイツ、中国、南アフリカなど十五カ国がエジプト提案に反対した。
 日本政府はどう対応したのか。二十一日の会議の最後に、反対を表明した諸国と同様の理由を述べた上でこう主張した。「リスト化には反対する。テロリズムについては本条約の対象とすべきではない」
 最終的に、この年の十一月に国連総会で採択されたTOC条約の付属書には、テロを含む対象犯罪リストはつくられなかった。
 だが、政府の主張は今、百八十度変わった。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201703/CK2017032602000133.html

 


(インタビュー)「共謀罪」のある社会 神戸学院大学教授・内田博文さん
2017年3月22日05時00分
写真・図版
内田博文さん
写真・図版
 犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ組織的犯罪処罰法改正案が21日、国会に提出された。近年進められた国の権限を強める法整備は、戦時体制を強めていった動きに似ていると指摘される。近代の刑法史に詳しい内田博文・神戸学院大学教授に聞いた。

 ――過去3回、国会で廃案になった「共謀罪」の構成要件を変えた法案が国会に提出されました。

 「共謀罪はじめ近年の法整備などの動きは、戦前をほうふつさせます。国の安全保障に関する情報漏れを防ぐ特定秘密保護法が2013年に成立、14年には集団的自衛権行使を容認する閣議決定がされ、15年には自衛隊の海外での武力行使を可能にする安全保障関連法が成立しました。この流れの中に、共謀罪の制定があります。戦時体制を支えた、左翼思想を取り締まる治安維持法、軍事機密を守る軍機保護法や国防上の重要な情報を守る国防保安法などの戦時秘密法、すべての人的、物的資源を戦争のために使えるようにする国家総動員法、家族や民間団体を統制する戦時組織法制を整備していった戦前に重なるのです」

 ――共謀罪のどこが問題なのでしょうか。

 「『社会に有害な結果を生じる行為がなければ処罰されない』という近代刑法の基本原則に反します。中世の欧州では、思想や宗教、信条といった内心の状態が処罰の対象とされることが多く、市民革命はそれへの反発が契機になって起こりました。フランスの人権宣言も思想、信条は処罰してはならない、として内心の自由を保障しました。明治維新後、お雇い外国人のボアソナードに草案を作らせた旧刑法は、フランスの刑法典を参考にして編纂(へんさん)され、近代刑法の原則を導入していました」

 ――でも、1925(大正14)年に成立した治安維持法で、思想、信条を罰することができるようになりましたね。

 「治安維持法を審議した帝国議会でも、『この法律は思想、信条を処罰するもので、近代刑法の原則に反する』という強い批判が出ました。それに対し、政府側は『社会の敵を対象とするので近代刑法の原則にのっとらなくてもいい』と答弁しています」

 「共謀罪の法案が成立することになれば、行為や結果を中心として処罰してきたこれまでの犯罪観を一変させます。危険性があるとみなされる者を敵として、危険性除去のためには敵の人権が制限されてしかるべきだと考える『敵刑法』の論理によって内心を処罰できることになります」

 ――今回の法案では内心だけでなく、「準備行為」が要件に加わっているから、内心や思想を処罰することにはならないと政府は説明しています。

 「『犯罪実行のための準備行為』といっても、法案が例示するのは『資金又は物品の手配、関係場所の下見その他』といった日常的な行為ですから、歯止めにはなりません」

     ■     ■

 ――かねて「今の状況は昭和3(1928)年に似ている」と指摘されていますね。

 「昭和3年は、公共の安全を守り災厄を避けるため緊急の必要があり、帝国議会閉会中に政府が発布できる緊急勅令によって、治安維持法が改正されました。それまでの取り締まり対象だった共産党に加え、労組なども共産党の『外郭団体』だとして取り締まり対象に加えられました。これ以降、プロの活動家だけでなく普通の人が取り締まられるようになり、拡大解釈で戦争に反対する勢力を弾圧するため使われました。戦況が悪化した昭和18(1943)年以降は、反戦的な傾向がある小規模の新興宗教への適用が目立ちましたが、反戦思想は治安維持法の対象ではなかったので、国体を否定することが口実とされました」

 ――「共謀罪」も拡大解釈が可能ですか。

 「すでに拡大解釈される仕掛けがあるのです。『共謀』という概念について最高裁の判例は、明示的なものである必要はなく、暗黙の共謀でもいいとしています。たとえば、米軍基地建設反対運動をしている市民団体が威力業務妨害罪で摘発された時に、その妨害行為をするための話し合いに参加していなくても、その話し合いがされていることを知っていて黙認した人も『暗黙の共謀』があったとして起訴されるかもしれません。さらに、共謀罪に幇助(ほうじょ)罪が成立するという解釈を採れば、共謀と直接関係のない家族や友人も摘発される可能性もあります」

     ■     ■

 ――他の現行法と結びつくと危険なことはありますか。

 「通信傍受(盗聴)法では、2年以上の懲役・禁錮に当たる犯罪が数人の共謀によるものであると疑うに足りる状況があるときは、裁判所の許可を得て通信傍受ができることになっています。共謀罪はこれに当たりますから、共謀罪の疑いさえあれば盗聴し放題が可能ということになります」

 ――「治安維持法は司法が『育ての親』だった」とも指摘されています。

 「裁判所が捜査当局側の拡大解釈を容認した結果、処罰の対象が雪ダルマ式に拡大しました。例えば、慶応大の学生が大学公認の経済研究サークルで共産主義の研究をしたとして起訴された事件で、大審院は昭和15(1940)年の判決で『思想の研究と運動とは厳に区別すべきだ』という弁護人の訴えを退けました。日本共産党の目的達成に資することを認識しながら研究をしたとして、一般的な研究活動の範囲を超えるとして罪に問いました。これによって左翼思想の研究が事実上封じられることになりました。『普通の人々』の『普通の生活』が処罰の対象とされるようになったのです」

 ――なぜ裁判所は歯止めにならなかったのですか。

 「思想犯の動向については、主に思想犯の取り締まりを担当した思想検事の方が裁判官よりも詳しく、彼らの主張をうのみにしやすい状況がありました。治安維持法以降は格段に検察官の権限が拡大された点も重要です」

 ――現在は、どうでしょう。

 「現在は戦前以上に『検察官司法』が進んでいるのではないでしょうか。確定判決の無罪率は0・03%(2015年)にすぎず、量刑も検察官の求刑に近い判決がほとんどです。戦前でも昭和3年までは無罪率が2%を超えていたのと比べても、現在の刑事裁判は事実上検察官が仕切っているといっても過言ではありません」

 「沖縄県で米軍施設建設の反対活動をしていた平和団体のリーダーが器物損壊容疑などで逮捕され、約5カ月も勾留された例は、明らかに運動つぶしのための予防拘禁に近く、憲法が禁じている正当な理由のない拘禁です。こうした勾留を認めたことからも、裁判所にチェック役を期待するのは難しいかもしれません」

 ――治安維持法は戦後廃止されましたが、戦後の刑事司法に悪影響を及ぼしたそうですね。

 「戦前の刑事裁判では、捜査官が取り調べ時に作成し、被疑者に署名させた自白調書は、自白強要を招くとして、殺人などの重大事件では有罪の証拠としては認められませんでした。治安維持法では重大な戦時犯罪に限って有罪の証拠にできるとされました。この例外的措置は廃止されるべきでしたが、戦後の新刑事訴訟法で、逆に、どの事件でも有罪証拠にできるようになりました。その結果、無理な取り調べでの虚偽自白による冤罪(えんざい)事件が多く起きたのです」

     ■     ■

 ――共謀罪法案が成立すると、治安維持法のように「普通の人々」の「普通の生活」が処罰の対象になりますか。

 「行政の施策への反対やあらゆる権利運動が対象になるでしょう。共謀罪の成立要件とされている『組織的犯罪集団である団体』の活動については、組織的犯罪処罰法では会員制リゾート会社による詐欺的な預託金募集といった企業の営業も対象になると解釈されています。また、偽証罪も共謀罪の対象犯罪とされていますから、例えば弁護士が証人との打ち合わせで、『次回の口頭弁論でこう証言しよう』などと、普通に話し合っただけでも偽証罪を疑われ、共謀罪に問われかねません。戦前、治安維持法違反事件を弁護した多くの弁護士が、同法違反で起訴された事件を思い起こさせます」

 ――法案が成立したら、どのように向き合うべきでしょうか。

 「憲法31条がある以上、対抗の余地はあります。共謀罪は、近代刑法の基本原則を定めた31条に反する『違憲』だと主張するのです。ある行為を犯罪として処罰するには、あらかじめ法律で、犯罪とされる行為と、それに対して科される刑罰を明確に規定しておかなければならないとする原則です。共謀罪はこの『明確性』の原則に反します。思想・信条の自由を保障した憲法19条にも抵触するおそれが強いといえます。ただ、自民党憲法改正草案のように『公益及び公の秩序に反してはならない』といった権利を限定する文言が入れば対抗は難しくなります」

 (聞き手・山口栄二)

     *

 うちだひろふみ 1946年生まれ。専門は刑事法学。九州大学教授などを経て、2010年から現職。著書に「治安維持法の教訓」「刑法と戦争」など。
http://digital.asahi.com/articles/DA3S12852850.html

 
「共謀罪の源流」(下) 理由にテロ対策「政治家動かすため」

2017年3月27日 朝刊


 「国際組織犯罪と闘うための四十の勧告」。日本政府が「共謀罪」創設の根拠とする国際組織犯罪防止条約(TOC条約)の源流の一つとなったものだ。主要八カ国(G8)から国際組織犯罪を担当する省庁の幹部を集めた会合が、一九九六年のリヨン・サミット(フランス)に提出した。以来、この会合は「リヨン・グループ」と呼ばれる。
 「どの国も、マフィアのような犯罪組織が国の根幹を腐らせようとしているという危機感があった」。警察庁国際二課長として「四十の勧告」づくりに携わった小野次郎元参院議員はこう振り返る。
 「四十の勧告」には、銃器や入国管理の情報交換、犯罪組織による不法収益や汚職の対策の強化、司法共助や犯罪人引き渡しなど国際捜査協力を進めるための方策が並び、新規の国際条約作成の可能性を検討することがうたわれていた。しかし「共謀罪」は盛り込まれていない。「テロ」も一切触れられていなかった。
 条約づくりの動きはG8の場だけではなかった。ポーランドがその年、独自の条約案を国連総会に提出すると、米国が対案を作成。国連やリヨン・グループで条約をつくろうという動きが加速していく。九八年十二月に欧州連合(EU)が「犯罪組織への参加の犯罪化に関する共同行動」を採択。犯罪組織への参加を犯罪とするよう義務付ける流れができてきた。これが後に、TOC条約で共謀罪などが義務化されることにもつながっていく。
 国連の正式な起草作業が始まったのは九九年一月。「条約起草に至る過程で、テロ対策は前面に出ていなかった」。国際組織犯罪対策に長く関わった小野氏は明かす。「本来の目的の組織犯罪対策ではインパクトが弱いので、実務者らが政治家を動かすために八〇、九〇年代は『薬物対策』、二〇〇一年の米中枢同時テロ以降は『テロ対策』というインパクトの強い理由を使ってきた。それは日本に限ったことではなく、世界的な流れだった」 
◆「警察なら予備罪で締結する」 
 世界的な組織犯罪対策の動きの背景に何があったのか。警察庁関係者らは冷戦後の国境を越える人・モノ・カネの流れやIT化の進展を挙げる。一九八〇〜九〇年代、中南米の麻薬組織やマネーロンダリング(資金洗浄)への対処が世界的な課題になっていた。
 「バブル経済前後の日本は、来日外国人犯罪の急増や中国の密航請負組織『蛇頭(じゃとう)』の活動への対応を迫られていた」。元警察庁幹部の一人はこう振り返る。
 国際組織犯罪防止条約起草特別委員会は九九年一月に始まった。日本からは外務省、法務省、警察庁の官僚らが参加、共謀罪を巡る議論は法務省が中心になった。第一回会合で、英国は、犯罪の合意を処罰する共謀罪か、犯罪組織への参加を処罰する参加罪の義務化を提案する。
 議論が英国案に傾く中、日本は同年三月、第二回会合で対案を示す。第三の選択肢として、単に組織的犯罪集団に参加するだけでなく、特定の行為を伴っていなければ処罰できないよう限定する案を提案。日本が条約を締結できるよう、要件を厳しくした参加罪を求めるものだった。
 「この提案が受け入れられれば、既存の予備罪や準備罪の形で犯罪化できる可能性がある。何とか妥協できる点はないかと考え、苦しい中でやった」。元法務省幹部は打ち明ける。予備罪、準備罪は犯行に着手する未遂よりも前の準備段階を処罰する犯罪。殺人目的の銃刀類の購入やハイジャック目的の航空券予約などが処罰できるものだ。
 この問題が次に議論されたのは二〇〇〇年一月の第七回会合。政府は突然、第三の選択肢を撤回する。米国やカナダとの直前の非公式会合の結果だった。その後、共謀罪にかじを切った。「非公式会合で何があったのか。日本がなぜ提案を撤回したのか。情報公開で開示された非公式会合の記録が黒塗りになっているのでまったく分からない」。日弁連共謀罪法案対策本部副本部長の海渡雄一弁護士は首をかしげる。
 法務省や外務省は「日本の提案は理解を得られなかった。共謀罪か参加罪のどちらかを選択しなければ条約を締結できない」と説明するが、予備罪や準備罪の範囲を広げれば締結できるという考え方は今もある。
 リヨン・グループの「四十の勧告」作成に携わった元警察官僚の小野次郎氏は「僕らは『とにかく条約を締結して国際捜査協力の輪に入ることが重要なのだから固いことを言っていないで入るべきだ』と思っていた」と振り返る。当時の状況に詳しい別の警察官僚は「法務省はいまだに『予備罪、準備罪があるから締結する』と言わないが、警察ならそう言っていただろう」と話す。 (この連載は北川成史、望月衣塑子、福田真悟、西田義洋が担当しました)
写真
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201703/CK2017032702000124.html


 

「共謀罪」 条約口実許されない

参院予算委 仁比氏が首相追及
 
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(写真)質問する仁比聡平議員=27日、参院予算委
 日本共産党の仁比聡平議員は27日、参院予算委員会で、「共謀罪」創設の口実として国際組織犯罪防止条約(TOC条約)を「テロ対策」だと宣伝する安倍晋三首相に対し、同条約の起草過程で、日本を含む主要国が条約の処罰対象にテロを含むことに反対していたことを示す公電(本紙23日付既報)を突きつけ、「ねじ曲げた説明は許されない」と迫りました。

 首相が同法案について問われるのは、法案の国会提出後、初めて。

 公電は、日本政府交渉団が、2000年7月の同条約起草委員会会合の内容を本国へ報告したもの。同条約の対象犯罪にテロを含むかが議論になった当時、日本政府が他の主要17カ国と共に「テロリズムは本条約の対象とすべきでない」と、反対したことが記されています。

 仁比氏は、「議論の結果、条約はテロを対象とせずに調印された。あたかもテロ処罰を義務付ける条約であるかのように、ねじ曲げるのは許されない」と追及しました。

 安倍首相は「結果としては、テロに直接言及する規定は設けられなかった」と認め、岸田文雄外相も、公電に記された議論があったことを認めました。

 他方で両氏は、「テロとTOC条約の関係は採択時の国連総会でも指摘されている」などと答弁。これに対して仁比氏は、「国連の諸条約は、マフィアを典型とする国際的な組織犯罪とテロは別カテゴリーであることを大前提にしている」と指摘しました。

 仁比氏は、起草過程でテロの対象化に反対した事実を隠してきた政府を批判。起草過程の公式・非公式協議に関する全ての公電を国会に提出するよう強く求めるとともに、「憲法違反の法案は撤回すべきだ」と主張しました。
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik16/2017-03-28/2017032801_03_1.html
http://www.asyura2.com/17/senkyo223/msg/219.html

[国際18] 「シュルツ効果」の力不足露呈、ドイツ総選挙の前哨戦で メルケル与党健闘 社民伸悩む 独政権、安堵の声相次ぐ 総選挙の前哨
News | 2017年 03月 28日 17:20 JST 関連トピックス: トップニュース
焦点:「シュルツ効果」の力不足露呈、ドイツ総選挙の前哨戦で

 3月26日、シュルツ氏(写真)が1月に党首に就いて以来、社会民主党(SPD)の支持率は大きく回復し、「シュルツ効果」が騒がれているが、ドイツ西部ザールラント州議会選でメルケル首相率いる保守、キリスト教民主同盟(CDU)に敗れた。ベルリンで27日撮影(2017年 ロイター/Hannibal Hanschke)

[ベルリン 26日 ロイター] - 26日に投開票されたドイツ西部ザールラント州議会選で、中道左派、社会民主党(SPD)がメルケル首相率いる保守、キリスト教民主同盟(CDU)に敗れた。前欧州議会議長のシュルツ氏を新党首に迎えたSPDは、9月のドイツ連邦議会(下院)選を占う最初の試験に落第した格好だ。

シュルツ氏が1月に党首に就いて以来、SPDの支持率は大きく回復し、「シュルツ効果」が騒がれている。州議会選後の27日、南ドイツ新聞は社説で「シュルツ騒ぎに冷や水」と書いた。

SPDは極左の左派党および緑の党と「赤・赤・緑」連合を組む可能性を示してザールラント州議会選に臨んだが、有権者は極左が政権入りすることに警戒感を抱いた。

SPDと左派党はともに2012年の選挙から得票を減らし、緑の党の得票率は議席確保の最低条件である5%にも満たなかった。

SPDは9月の連邦議会選でも同様の左派連合を組み、メルケル氏を政権の座から追い払う構想を描いているが、出鼻をくじかれた格好だ。ただ、今回の選挙を単純に国政選挙に当てはめて考えるのは無理があるかもしれない。

ザールラント州の有権者数はわずか80万人。CDU側には、「ザールのメルケル」との異名を持つクランプ=カレンバウアー州首相という強力な候補者もいた。

ベルリン自由大学の政治科学者、ハジョ・フンケ氏は、州首相の素晴らしさがシュルツ効果を抑制したが、効果が消えたわけではないと指摘した。

また旧西ドイツ地域と異なり、旧東ドイツ地域の有権者は左派党への拒否反応が小さい。

シュルツ氏は、ザールラント州議会選は特別なケースだと指摘。「国全体について州議会選から導き出せることには限界がある」と述べ、連邦議会選で左派党と組む可能性に含みを残した。

5月には北部のシュレスウィヒ・ホルシュタイン州と、人口の多い西部ノルトライン・ウェストファーレン州でも選挙が控えており、SPDに挽回のチャンスが残されている。世論調査では両州ともSPDがリードしている。

<左傾化>

SPDは今回の選挙で、シュルツ氏の求心力がまだ不十分であることを思い知らされた。

シュルツ氏は、社会正義を掲げて不満を抱く労働者層の支持獲得を目指してきた。メルケル政権下でドイツは強い経済成長と雇用の伸びを享受したが、経済格差も拡大した。

有権者は格差の拡大を感じながらも、南欧諸国が高失業率に喘ぎ、隣国フランスの景気がドイツに比べて見劣りする中で、現在の経済的安定を失いたくないとも考えている。

ベルリン自由大学のフンケ氏は「シュルツ氏は問題を指摘し、育児や教育を無償化すると訴えている。ただ経済・社会問題に関してはCDUは近隣諸国よりずっと良好だと胸を張ることができる」と述べた。

シュルツ氏の課題は、左傾化し過ぎないことを有権者に納得させることだ。22日に公表された世論調査によると、有権者の59%が政権指導部の変化を望むと答えており、今とは別の連立を求めている可能性がある。ただ、「赤・赤・緑」連合を支持するとの回答は19%にとどまった。

(Paul Carrel記者)

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http://jp.reuters.com/article/germany-schulz-effect-idJPKBN16Z0DH?sp=true

 

メルケル与党、地方選で健闘 社民党は伸び悩む

毎日新聞2017年3月27日 22時48分(最終更新 3月28日 00時09分)
国際
欧州
速報
 【ベルリン中西啓介】ドイツ南西部ザールラント州議会選挙が26日、投開票された。州当局の開票速報によると、メルケル首相のキリスト教民主同盟(CDU)が得票の40.7%(前回比5.5ポイント増)を占めて第1党の座を守った。9月の連邦議会総選挙での苦戦を予測する声も出る中、CDUが予想以上の勝利を収めた。

 CDUと国政で連立を組む社会民主党は、シュルツ新党首の就任により世論調査で支持率が伸びて注目されたが、1ポイント減らし29.6%にとどまった。

 ザールラントは2番目に人口が少ない州だが、国政同様2大政党のCDUと社民党が大連立を組んできた。2党に続き、左派党が12.9%を獲得。反難民を掲げる新興右派政党「ドイツのための選択肢」(AfD)も6.2%を獲得し、初めて州議会に進出した。

 世論調査では、リベラル色の強いシュルツ氏が、支持率でメルケル氏を上回るなど社民党の勢いが増している。州議会で社民党が第1党になれば、社民党と左派党とのリベラル連立の可能性が高まり、次期連邦政府の枠組みを占うものとみられていた。だが国政与党の経験がない左派党を含むリベラル連立への警戒感に加え、州行政への充足感などが、CDUに有利に働いた模様だ。

 昨年9月のベルリン市(州と同格)議会選では難民問題対策の不手際などを巡って既成政党への批判が強まり、CDUは議席を減らして与党の座を追われた。

 ただ、ドイツでは州ごとの政治背景が大きく異なっており、地方選の結果だけで、国政選挙の結果や連立協議の行方を予想することは困難だ。
http://mainichi.jp/articles/20170328/k00/00m/030/083000c


 

独政権、安堵の声相次ぐ 総選挙の前哨戦勝利で
2017/3/27 19:06
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 【ベルリン=共同】9月のドイツ連邦議会(下院)選の前哨戦とされる26日の西部ザールラント州議会選で、メルケル首相率いる保守、キリスト教民主同盟(CDU)が勝利したことを受け、メルケル政権の関係者からは「安堵の声」が相次いだ。政権の座を争う中道左派、社会民主党(SPD)の勢いを抑え込むことに成功したためだ。

 SPDは現在、連邦レベルでCDUと連立政権を組んでいるが、下院選では、メルケル氏の追い落としを画策。旧東ドイツ共産党の流れをくむ左派党と、環境政党の90年連合・緑の党による3党連立政権の樹立を模索している。

 しかし、今回の州議会選ではSPDと左派党が伸び悩んだ上、90年連合・緑の党は議席を失い、3党合わせても過半数に届かなかった。CDUのタウバー幹事長は26日の記者会見で「(有権者は3党による)赤赤緑の連立を明確に拒否した」とSPDをけん制した。

 また、DPA通信によるとCDUのブフィエ副党首は、SPDの支持率が首相候補のシュルツ前欧州議会議長の個人的な人気で上昇してきたと指摘。「シュルツ効果は過ぎ去った」とし、SPDの勢いは「そのうち衰えるだろう」と予測した。

 一方、シュルツ氏は9月の下院選まではまだ半年もあり、政権奪取への道のりは「短距離走ではなく、長距離走だ」と強調、挽回を誓った。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM27H5V_X20C17A3000000/

http://www.asyura2.com/17/kokusai18/msg/766.html

[経世済民120] 津波で壊滅的被害、どん底で目覚めた働く意味とは ブレグジット正式交渉スタートでどうなるポンド相場

 


津波で壊滅的被害、どん底で目覚めた働く意味とは
HONZ特選本『奇跡の醤(ひしお) 陸前高田の老舗醤油蔵 八木澤商店再生の物語』
2017.3.28(火) HONZ
本当に読むに値する「おすすめ本」を紹介する書評サイト「HONZ」から選りすぐりの記事をお届けします。
津波による壊滅的被害から奇跡的に蘇った陸前高田の醤油蔵を知っているだろうか(写真はイメージ)
(文:塩田 春香)

 おととし、初めて「ふるさと納税」をした。納税先は、岩手県陸前高田市。「お礼」に届いたのは、ホタテやアワビなどの海産物。その滋味あふれるおいしさに感激し、「この魚介を育んだ陸前高田の広田湾とは、どれほど豊かな海なのだろう」と、まだ訪れたことのないその地に思いを馳せた。

 だが皮肉にも、その「豊かな海」からやってきた津波によって、陸前高田は壊滅的な被害を受けた。本書『奇跡の醤(ひしお) 陸前高田の老舗醤油蔵 八木澤商店再生の物語』に登場する老舗醤油蔵・八木澤商店もその例外ではない。

「こんなにできた経営者」は本当にいるの?

奇跡の醤(ひしお) 陸前高田の老舗醤油蔵 八木澤商店再生の物語
作者:竹内早希子
出版社:祥伝社
発売日:2016-11-01
 八木澤商店は、3.11のあの日、昔の姿を留めた美しい街並みごと津波に呑まれ、200年以上の歴史をもつ土蔵も、150年使い込んだ杉桶も、そして醤油屋の命ともいえる「もろみ」も、製造設備のすべてを失った。

 本書は、八木澤商店の人たちが廃業の危機に直面し、次々に降りかかる困難と対峙しながらも、再び醤油を造り始めるまでの記録である。しかしそれは、一企業の事業再生物語にとどまらない。

 震災から5日目の朝、八木澤商店9代目・河野通洋氏は、社員たちに決意を語った。

“八木澤商店は、大切にしてきた蔵や微生物を失いましたが、一番の宝物は残りました。それは社員の皆さんの命です。必ず、八木澤商店は再建します。何がなんでも再建します。”

 そして、「全員解雇して、失業保険をもらってください」とハローワークに指導される状況にありながら、一人も解雇せず、内定していた新入社員たちも受け入れ、物資の配達や遺体捜索などのボランティア活動にも仕事として満額の給料を支払うと約束したのである。

「八木澤さん、また一緒に商売しようね」と手を握ってくれた、まんじゅう屋のおばあちゃん。泥だらけになりながら避難所を訪ねてきて、「地元の企業、一社も潰しませんから」と涙を流し、その場で借入金の返済凍結を約束してくれた銀行の支店長。原料を無償で提供してくれた、従業員7人の酢造や商売敵の同業者たち。プレミアがついて高値で取引されている未開封の生醤油を送り返してくれた、全国のファン・・・。

本コラムはHONZの提供記事です
 たくさんの人たちに支えられて、ついに津波で失われたはずのもろみが奇跡的に発見され、それが八木澤商店で醤油づくりを再開する大きな力となるのである。

 で、あるのだが・・・正直に白状すれば、悲しいかな「こんなにできた経営者が本当にいるの?」「こんなかたちでもろみが戻ってくるなんて、偶然にしてはすごすぎない?」というひねくれた疑問が、読む私の心の片隅にあったことも否定できない。

傷だらけになって生まれ変わった通洋氏

 でも、読み進めて納得した。八木澤商店の危機は、これが初めてではなかったからだ。

 1997年、アメリカ留学から戻って父が経営する八木澤商店に入社した通洋氏は、当時の経営状態の厳しさも手伝って、社員の気持ちを考えず、「信頼関係などクソくらえ」という態度で利益をあげることだけにやっきになっていた。

 そんな時に参加した、地域の中小企業家同友会の半年間の講座。通洋氏は、銀行からほめられた経営指針と事業計画書を自信満々に発表。その一方で、ほかの受講者たちは自分のふがいなさに涙を流し、経営指針を自社に持ち帰っては社員とぶつかって、苦労しながら変わっていった。

 残り1か月になった頃、「俺だけ、何も変わってない気がするんだけど・・・」とつぶやいた通洋氏に、受講仲間がかけた言葉は痛烈だった。

“おめえんとこの社員は、ほんっとにかわいそうだな(中略)人間は機械やロボットじゃねえんだ。どこの本で読んできたんだかしらねえけどよ、てめえのつくった経営理念は、ぜーんぶ道具だ。なんのために仕事すんのか、目的がひとっつも書いてねえ(中略)銀行に評価されたことが、そんなに偉いのか? 人間の価値、っていうのはそういうもんなのか? ”

 社員たちに言ってしまったひどい言葉の数々、失ったものの大きさにようやく気付かされたものの、社員たちとの信頼関係の修復はほぼ不可能なところにまで行ってしまっていた。話し合おうとしても相手にされない、品質不良の事故は起きる・・・。妻にまで、「まずは自分が悪かった、ってとこに立たなきゃ、なんにも始まらない」と言われてしまう。

 だが、ここで通洋氏は変わった。友人や家族の厳しい言葉は、心から心配してくれている愛情のあらわれである。

“俺には、これができなかったんだ。捨て身で社員と関わってこなかった。自分の保身を考えずに相手と向き合う、人間的な温かさが欠けていたんだ。・・・保身のない言葉は、人を動かすんだな・・・”

 こうして傷だらけになりながら社員と向き合い、危機を乗り越えてきた経験こそが、災害にも負けない再建への強い力となったことは想像に難くない。そして、一見「奇跡」や「偶然」に見えるもろみの発見も、その経緯は人にも仕事にも真摯に向き合ってきたがゆえにもたらされた「必然」だったとしか思えない。

ただ仕事、ではなく「一緒に生きている」

“私たちは、皆でものをつくって「一緒に生きている」という感じです。ただ仕事、というだけじゃない。本気でぶつかるけど、それが強いです。高田の町が、会社の中に小さくできているみたい。この地域に残ってみたいと思ったのは、それを感じたのもあります。生きるということの、大事な部分がここにある、って。”

 これは、震災のとき入社2年目だった社員の言葉である。

――「ブラック企業」という言葉が頻繁に使われ、パワハラが横行し、誰かが助けを求めていても見て見ぬふり。そんな壊れてゆく社会のなかで、本書に登場する人たちの姿は、読む者に自身の生き方を問い、働くことの意味を考えさせ、人を動かすために必要なことを教えてくれる。

 そしてまた、人間とは希望なしには生きられない存在であり、その希望は自分たちの手で創り出さなければならない、ということも。

 昨年末、再び陸前高田にふるさと納税をした。「お礼」は、八木澤商店も関わって開発している地元食材を使ったスープのセット。私が一方的に知っているだけだが、「あの人たちが一所懸命につくってくれた」と思うと、それだけで嬉しくなってくる。

 おいしいスープと一緒に、「人間って捨てたもんじゃないのかも」という喜びを、味わいながらいただいた。


紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている: 再生・日本製紙石巻工場 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
作者:佐々 涼子
出版社:早川書房
発売日:2017-02-09

 待望の文庫版が発売に。成毛眞のレビューはこちら。野坂美帆のはこちら。麻木久仁子のはこちら。


魂でもいいから、そばにいて ─3・11後の霊体験を聞く─
作者:奥野 修司
出版社:新潮社
発売日:2017-02-28

 内藤順のレビューはこちら。


死者が立ち止まる場所: 日本人の死生観
作者:マリー・ムツキ モケット 翻訳:高月 園子
出版社:晶文社
発売日:2016-01-22

 東日本大震災をきっかけに見つめられた、日本人の死生観。レビューはこちら。


喪の途上にて――大事故遺族の悲哀の研究 (岩波現代文庫)
作者:野田 正彰
出版社:岩波書店
発売日:2014-04-16

 日航ジャンボ機墜落事故で遺族のおかれた状況や心の変化を活写。『奇跡の?』で震災の場面を読みながら、この本を思い出していた。レビューはこちら。


塩田 春香
出版社勤務。大学では日本美術史を専攻するも、自然や生きものへの愛情を抑えきれず、自然科学系書籍の編集に3社で合計10年間ほど携わる。好きな作家は井上靖。好きな花はキュウリグサ。最近の関心事は、ミナミコアリクイの威嚇がすごくカワイイことと、家庭菜園を荒らすハクビシンをどうやってとっちめるか。プロフィール画像は「べつやくれい」さんによるもの。

◎こちらもおススメ!
・あなたの「ふつう」をあつらえる 『未来食堂ができるまで』
・美しすぎて、呪われそう!『ときめく貝殻図鑑』最近、「波の音」と暮らしはじめました。
・何が生死を分けたのか? 日本に住むなら知っておきたい『ドキュメント御嶽山大噴火』
・リアル怪談をあなたに『山怪――山人が語る不思議な話』現代版・遠野物語に戦慄!
・嵐の時代が生んだ、奇跡の人間賛歌『園芸家の一年』
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49530

 

2017年03月28日
第252回 
いよいよブレグジット正式交渉スタートでどうなるポンド相場
【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

ドルの上値が重くなってきています。利上げバイアスにある金融政策やトランプ政権の減税、規制緩和などのドル高政策も、すっかりマーケットには織り込まれてしまっており、マーケットに新鮮味はありません。そんな中で、ECBの金融政策もいよいよ出口模索か?!ということで新鮮味があることから、ユーロ買いに妙味あり、と前回のコラムで書きましたが、同様にポンドにもここから買い妙味がありそうです。

今週3月29日、いよいよ英国メイ首相はEU離脱に関する通知を行います。EUの基本条約である「リスボン条約」の中の「EUの加盟・離脱に関する規則を定めた第50条」に基づいたもので、この通知が行われることによって英国のEU離脱(ブレグジット)交渉が正式にスタートします。原則として通知日から2年間、2019年3月までに離脱に向けた様々な条件交渉が行われることとなります。

当たり前の話ですが、EU側としては「英国の勝ち逃げ」にならぬように厳しい条件を突き付けるとみられます。EUを離脱したほうが得だ、というような交渉結果に終われば他のEU加盟国から、ウチも離脱したいという声が上がることが予想されるためです。

@EU予算の分担金

EU加盟国はそれぞれEUの予算へ拠出しています。英国の分担金は最大600億ユーロ(約7兆2,000億円)ですが、英国がEUを離脱してしまうと、EU側は英国からの分担金がなくなってしまいます。そんな勝手は許さない、ということで、EU側は、分担金支払いを保証しなければ、離脱後の通商に関する交渉に応じないという厳しい姿勢を示しています。英国としては離脱するので、今後永続的に支払うつもりはないのですが...。ユンケル欧州委員会委員長は「値引きは無い」と牽制していますが、英国内ではこうした強硬なEU側の態度に強い反発もあり、なかなか話はまとまりそうにありません...。

AEU内の英国人、英国内のEU出身の市民の権利問題

ハンガリーやポーランドなど東欧諸国から英国への移民労働者が多く、彼らの権利問題の優先度が高いとみられています。英国民がEU離脱を決めた背景にはこうした移民問題が大きく、今後の労働環境や年金、社会保障、教育へのアクセス保障などが、これまで同様に受けられるかどうかはわかりません。

議論されるのは離脱の条件だけで、通商協定は含まれないため、別途、通商協定が交渉・批准されるまで有効となる暫定的な取り決めについて交渉することとなっています。つまり、EUと英国との対立する問題をクリアしなければ、通商協定交渉に入ることができません。もし、離脱交渉が決裂した場合、WTOの規定に基づいた関税が用いられることとなり、英国の輸出入の半分を占めるEUとの貿易活動は縮小し、輸入物価上昇を招くリスクがあります。これは通貨ポンドにとって売り材料となると考えられます。

問題なく離脱交渉が進めば、マーケットは金融政策へと焦点をシフトさせるでしょう。3月21日に発表された2月の消費者物価指数(CPI)は、2013年9月以来の大幅な伸びとなる前年比2.3%上昇となりました。英国中央銀行が目標とするインフレ目標2%を上回るのも2013年以来。インフレ加速がポンドを上昇させました。英国中央銀行のインフレ目標は2%で、カーニー総裁は2月、「許容できるインフレ率には限度がある」と発言していたことから、市場では早期の引き締めが意識される結果となりポンドが買われる展開となっています。

また、3月15日の金融政策委員会では政策金利は据え置かれましたが、議事要旨では委員の一人が利上げを主張したことが明らかに。英国もそろそろ利上げが意識され始めています。ポンドの利上げもまた、ユーロ同様、マーケットには新鮮味のある材料。米国利上げはすっかりマーケットに織り込まれ米ドルの上値が重くなってきています。2017年は欧州通貨の反騰が大きくなる1年となるかもしれません。

コラム執筆:大橋ひろこ

フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。

TwitterAccount@hirokoFR
前の記事:第206回 航空便の欠航や遅延への対策 【北京駐在員事務所から】 −2017年03月22日
http://lounge.monex.co.jp/pro/special2/2017/03/28.html


 


http://www.asyura2.com/17/hasan120/msg/533.html

[経世済民120] 孤独な幹部の「燃え尽き」防げ−1人1100万円の手厚いプログラム HFポールソンのP転落死 日本女性キレイに?男は肥満化
孤独な幹部の「燃え尽き」防げ−1人1100万円の手厚いプログラム
rebecca greenfield
2017年3月29日 07:18 JST」

米J&Jは生理学者と栄養士、管理職コーチの3つを組み合わせ
最大級の貢献をしてくれる働き者の幹部を企業は失いたくない

米ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)は経営幹部の燃え尽き症候群への対応策を用意できたと考えている。同社の特別サービスに必要なのは生理学者と栄養士、管理職を指導するコーチ、そして10万ドル(約1100万円)だ。
  J&Jは企業の上級幹部が身体的、精神的、また感情面で最良の状態を維持できるようにするための集中プログラムを発売した。「プレミア・エグゼクティブ・リーダーシップ」というこのプログラムの下、幹部は各分野の専門家から手厚いサービスを受ける。まるで地球に帰還し、医療スタッフに取り囲まれる宇宙飛行士のようにだ。用意されたサービスの中には米メイヨー・クリニックでの腹部超音波検査や、栄養士による自宅訪問などが含まれる。
  プログラムを開発したJ&Jヒューマン・パフォーマンス研究所のロウィン・キビー所長は、「幹部らはスキルとツールの集まりではない。人間だ」とし、「こうした幹部の多くが、健康で回復力を備えた状態を保つ方法を身に着けないまま任務に就く」と話した。
  J&Jはこの1年、自社の経営幹部のうち7人を対象に「燃え尽き症候群」対策プログラムを試験的に実施してきた。最高経営責任者(CEO)が含まれていたかどうかはプライバシーを理由に明らかにしていない。同社はそのテストを経て、他のフォーチュン100企業に同プログラムの販売を開始した。値段は幹部1人当たり10万ドルだ。
  休まず働き続け世界を飛び回って最大級の成果を生み出す幹部を、企業はもちろん失いたくない。しかしこうした幹部は仕事についてのストレスも最大級なので、どうしても燃え尽きて去っていくことになる。CEBの調査によると、幹部の約半数は仕事内容が変わったり昇格した後1年半弱しか持たない。夜遅くや早朝に行われる電話会議による疲れに悩まされるほか、運動する時間も取れず、出張中などに体に悪いものを食べる羽目にもなる。その上、幹部という立場上、自分の問題について話せる相手もほとんどいない。
  プライスウォーターハウスクーパース(PwC)は、米企業でCEOが突然その地位を去り、別の人を後任に就けることになった場合、株主価値が平均18億ドル失われるとのリポートを発表している。
原題:The $100,000 Anti-Burnout Program for CEOs(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-28/ONIJVY6JIJUQ01

 

ヘッジファンド模倣のETF、1−3月は資金流出−成績が指標下回る
Viren Vaghela
2017年3月29日 06:33 JST

「代替」ETFからの資金流出は2014年以来で最大
リターンは中央値で約1%−株は4.7%、債券は1.16%

ヘッジファンドの戦略を模倣する上場投資信託(ETF)から今年これまでに、資金が流出した。リターンが株と債券のベンチマークを下回った。
  ブルームバーグがまとめたデータによると、「代替」と分類されるETFからは今年これまでに、4.5%に相当する約9500万ドル(約105億円)が流出。これは四半期として2014年の序盤以降で最大になる。これらのETFは株ヘッジやマクロ、マネージドフューチャー戦略のファンドを模倣している。このようなETF29本の年初来のリターンは中央値で0.99%。S&P500種株価指数の4.7%上昇やブルームバーグのドル建て投資適格社債指数の1.16%上昇を下回る。
  バンエック・オーストラリアのマネジングディレクター、アリアン・ネアロン氏は「ヘッジファンドを模倣する投資戦略は実績が証明されていない」と指摘。「複雑で不透明」な指数に連動するETFよりも「動きが理解できる主流の資産クラス」に投資家は回帰すると話した。
  ブルームバーグのデータベースで最大の代替ETFであるIQヘッジ・マルチストラテジー・トラッカーETF(インデックスIQアドバイザーズ社)の資産は今年8700万ドル減少した。

原題:Investors Pull Money From Hedge Fund-Type ETFs in Quarter (1)(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-28/ONJ5MU6S972901

 


 

ポールソンのマーフィー氏が死去、56歳−NYのホテルから転落か
Sonali Basak
2017年3月29日 01:48 JST

米ヘッジファンド会社ポールソンのパートナーだったチャールズ・マーフィー氏が死去した。56歳だった。
  創業者で富豪のジョン・ポールソン氏は、「悲報を受け悲しみに耐えない。マーフィー氏は卓越した才能に恵まれた頭脳明晰(めいせき)な人だった。偉大なパートナーであり真の友人だ。ご家族に心からお悔やみを申し上げる」とのコメントを出した。
  マーフィー氏は27日午後にソフィテル・ニューヨーク・ホテルの自室から転落して死亡したと、事情に詳しい関係者が匿名を条件に明らかにした。ニューヨーク警察当局の報道官は、50代の男性が死亡しているのが午後5時ごろに発見されたと認めたものの、遺族への通知がまだなので男性の身元を明らかにすることはできないと述べた。同件についてまだ捜査中だという。
  マーフィー氏は2009年にポールソンに加わり、米保険会社アメリカン・インターナショナル・グループの事業分割を迫る取り組みで重要な役割を果たした。
原題:Charles Murphy, Partner at Paulson’s Hedge Fund, Dies at 56 (2)(抜粋)

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-28/ONJ6ZN6KLVR901
https://www.bloomberg.com/news/articles/2017-03-28/charles-murphy-who-helped-paulson-co-bet-on-insurance-dies

 


米ブラックロック、アクティブ株式運用事業を再編−関係者
Sabrina Willmer
2017年3月29日 11:05 JST
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人員削減やファンド改編、一部手数料引き下げ
一部資産をクオンツ戦略の新「アドバンテージ」ファンドに移す
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世界最大の資産運用会社、米ブラックロックは業績が低迷しているアクティブ株式運用事業の再編を進めている。事情に詳しい関係者が明らかにした。人員削減とファンド改編に加え、一部手数料を引き下げる方針だ。
  この関係者によれば、ブラックロックはファンド再編でクオンツ戦略を採用。従来の株式銘柄選別で運用している2010億ドル(約22兆3000億円)のうち、80億ドルを割安なファンドに移し、その一部手数料を約半額に引き下げるという。またファンドマネジャーやアナリストなど30人強が退社したと同関係者は語った。
  ブラックロックのフィンク最高経営責任者(CEO)やライバル企業の経営者は手数料をめぐり、投資家からの一段と強い圧力に直面している。顧客は手数料の安い指数連動型の上場投資信託(ETF)へと向かっており、これはブラックロックのETF事業にとってはプラスだが、アクティブ運用事業にとっては打撃となっている。運用資産5兆1000億ドルのブラックロックは28日の発表資料で、手数料引き下げによって年間収入は約3000万ドル減少するとの見通しを示した。
  ブラックロックのアクティブ株式運用グローバル責任者、マーク・ワイズマン氏はインタビューで、「技術進歩とETFの目覚ましい成長が続いていることなどが原因となり、米国では手数料が押し下げられている」と説明。「現在の規制環境では従来型のアクティブ株式運用モデルは非常に圧迫される。われわれは守勢ではなく、攻勢に出たい」と語った。
  ブラックロックは資産をアクティブ株式運用事業から、クオンツ・グループが運用する新たな「アドバンテージ」ファンドに移す。アドバンテージは米投資家向けの9本の投信を含み、比較的小さいリスクでリターンを生むだろうとブラックロックは説明した。
  
原題:BlackRock Said to Cut Jobs, Fees in Revamp of Active-Equity Unit(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-29/ONJZ3A6K50YQ01

 

 

 

【第24回】 2017年3月29日 本川 裕 [統計データ分析家]
日本の女性がどんどんキレイになっている理由をデータで確かめる


インターネット・スマホが
大きく変えた日本人の生活時間

 日本人の生活がどう変化しているかを「生活時間」の観点から追ってみよう。図1には、5年おきに実施されているNHKの国民生活時間調査から、2015年までの5年間の最近のトレンドと同年までの20年間の大きなトレンドを両方示した。高齢化や女性就業率の上昇といった構造的な変化の影響を除くため、有職者のみの集計で変化を追っている。

 まず、何といっても目立っているのはインターネットやスマホが日本人の生活を大きく変えている点である。

◆図1 日本人の生活で、どんな活動時間が増え、どんな活動時間が減ったのか
http://dol.ismcdn.jp/mwimgs/2/f/670m/img_2fbc99cbd05f616d9499a55fc8ccfe8b174242.jpg

©本川裕 ダイヤモンド社 禁無断転載 拡大画像表示
 インターネットやスマホの影響で縮小した活動としては、テレビ・新聞・雑誌などの「マスメディア接触」が、20年の大きなトレンドで男女ともに最も減少幅が大きく、この5年では男が17分減、女が13分減というさらに大きな接触時間減となっている。「会話・交際」の時間も程度はマスメディア接触より小さいが、やはり同じように、減っている。ファミレスなどでよく、会話をせずに自分のスマホを見ているカップルをみかけるが、驚くべき変化である。

 他方、仕事や学業以外でのインターネットやスマホの利用が含まれている「レジャー活動」は、男女ともに、大きなトレンドでは最も増加幅が大きい生活行動となっている。最近のトレンドでは、女性は大きなトレンドと同じく首位だが、男性の場合は、むしろ、マイナスとなっている。これは、男性の場合、レジャー活動のうちインターネット利用は増えているが、通常のスポーツ、趣味娯楽など、その他のレジャー活動が大きく減ったためである。

「仕事関連」は、社会問題となっている長時間労働の点から関心を引くが、国民全体としては、大きなトレンド、最近のトレンドの両方で、それほど大きな変化は生じていない。問題があるとすれば特定の層の問題だということが分かる。

 この他では、「睡眠時間」が大きなトレンドでは男女ともに短くなっているのが目立っているが、最近のトレンドでは、男性の減少幅は狭まり、女性はむしろ、反転、増加しており、逆方向への兆しが感じられる。また、「家事」は男性の方が女性より増えて来たのが大きなトレンドであるが、最近もこのトレンドが強まっている(まだ差が大きいとはいえ)。

 さて、これらと並んで大きな変化が生じているのが、「身のまわりの用事」の増加である。大きなトレンドでは、女性の場合は、「レジャー活動」に次ぐ増加、男性の場合はさらに「家事」に次ぐ3番目の増加となっており、最近のトレンドは、これまでと比較して加速している状況である。今回は、大きな変化であるのにほとんど関心が抱かれていないこの生活時間について、注目してみたい。

おしゃれに割く時間の変化
キレイになる中高年女性

 図2で、男女の有職者、および主婦の「身のまわりの用事」(平日)の時間推移を見ると、それぞれ、一貫して増加してきていることが分かる。男性と比べ女性の伸びが著しいのが特徴である。また、男女年齢別の時間を見れば、女性が男性を大きく上回っているだけでなく、年齢による特徴も大きく男女で異なっていることが分かる。すなわち、女性は20代で身のまわりの用事に最も時間をかけており、60代に向けて徐々に減っていくのに対して、男性は20代から60代までほぼ同じ時間である点が大きく異なっている。なお、男女ともに、70歳以上では60代より時間が増えるのは、総じて動作が遅くなるためであろう。

 身のまわりの用事には、トイレや入浴のような生理的な時間が含まれているが、時系列的に増えてきているのは、生きていくのに必要な最低限の生理的な活動というより、身だしなみや清潔化、そしておしゃれに係わる時間であり、また、男女差や60代以下での年齢差を生じさせている部分は、主に、おしゃれに要する時間であると考えることができる。

◆図2 身のまわりの用事(平日)の推移と年齢別構造


©本川裕 ダイヤモンド社 禁無断転載 拡大画像表示
 年代別に、平日における女性の身のまわりの用事時間の推移を1990年から5年おきに追ったグラフを図3に掲げた。

◆図3 女性の身のまわりの用事(平日)の推移


©本川裕 ダイヤモンド社 禁無断転載 拡大画像表示
 全体として上方シフトしている点は一目瞭然である。

 また、1990年や95年の頃と直近の2015年とを比較すると、20代が突出していたのが、年齢ごとにゆるやかに減っていく構造に変化したことが分かる。

 かつて、おしゃれは、恋愛や結婚の適齢期である20代の専売特許であり、30代になると家事や子育てに忙しく、おしゃれどころでなかった。ところが、今では、女性のおしゃれ意識が全般的に高くなるとともに、子どもが生まれるのが遅くなり、人数も減ったので、30代以降、中高年に至るまで身だしなみに力をいれる余裕のある時代に突入したのだといえよう。

 2010年から15年にかけての最近の変化としては、50代までの各年代で大きく時間が増えており、特に50代の大きな増加が目立っている。これはアラフォー、アラフィフ、美魔女といった流行語が登場したことと平行した現象であろう。何か、中高年女性と若い女性がおしゃれを張り合っているような感がぬぐえない。

痩身化の傾向をたどる女性
男性は一貫して肥満化へ

 こうした動きは単におしゃれやファッションに止まるものではない。日本女性は体格の改造に果敢にチャレンジしている。

 戦後一貫して20歳代の女性の体格は痩身化の傾向をたどっている。すなわち身長が伸びた割には体重は増えなかったのである。痩せか肥満かの体格はBMI指数であらわされるが、各年齢層のBMIの動きを見た図4をながめればこの間の事情は明解である。

 戦後直後は、若年層の方が中高年より体つきがよかった。栄養を若い者に優先的に与えようという国民の考えが反映していたともいえる。戦後、日本人の栄養状態がよくなるにつれ、30歳代以上の女性の体格は大きく改善されていった。一方、若い女性はスタイルの良さを優先させ、どんどん痩せていった。

 ところが、30代、40代、50代の女性は、それぞれ、1970年代、1980年代、1990年代から、そして、ついには60代も2000年代から、こうした若い女性の動きに追従するスリム化の方向に転じることとなった。今や気持ち的には全年齢の日本人女性が若い女性となったといえる。こうした動きは、まさに、上で見た身のまわりの用事の、年齢別の所要時間の伸びの動向と軌を一にしているといえよう。

◆図4 日本人の女性体格の変化(BMIの推移)


©本川裕 ダイヤモンド社 禁無断転載 拡大画像表示
 なお、20代のスリム化は痩せすぎの弊害を生み、当人やこれから生まれてくる子の健康の上で憂慮される事態となったため、保健医療関係者や政府が是正へ向けた啓蒙をはじめたこともあり、2000年代には反転の動きを見せ始め、30代もこれにならった動きを示している。

 参考までに図の右半分に男性の動きを示しておいたが、年齢にかかわらず一貫して肥満へ向けての傾向が著しくなっており、これとの対比で女性の動きの特異性がなおさら目立つかたちとなっている。男性だけが、飽食化へ向かう先進国一般の傾向に沿っているのである。

 体格についてこんなに異なる方向のトレンドをたどっているのを見ると、日本人の男女は同じ生物種とは思えないぐらいである。男性と女性で健康志向そのものにそれほどの差があるとは考えられない以上、女性ばかりが痩身化傾向をたどった理由としては、健康志向ではなく、美容志向によるものだといわざるを得ない。

装飾による美でなく
身体の美を目指す日本人女性

 1985年当時30万人だった働く美容師の人数は2015年度末には50万人を越えている。これは、女性の身のまわりの用事の生活時間の増加と平行した現象である。

 1960年代のシームレス・ストッキング導入、ミニスカート・ブームにはじまり、バブル期のワンレンボディコン、ハイレグ水着、1990年代に入って茶髪の普及・浸透、アニマル柄、ネイルアート、21世紀に入って、ローライズパンツ、レギンス、ファストファッション、カワイイものブーム、美魔女とファッションの動きは果てしない。しかもこれは芸能人など一部の特殊階層だけのトレンドではないのである。生活時間や身体測定の統計データにこれだけ明瞭にあらわれる動きであるからには国民全体の動きを示すものだといってよい。

 欧米と比較したデータによると、日本人の服飾費にかける家計支出はそう多くなく、むしろ、身のまわりの用事に費やす時間は長い。装飾による美というより、身体の美を際立たせるためのおしゃれが日本人女性の特徴なのである。

 昔と比べ、道や電車で見かける女性がみんなキレイになったという印象をもつ男性は私だけではあるまい。日本人女性はどこまで身のまわりの用事の時間を増やし続けるのであろうか。日本人女性は、ここまで身体に磨きをかけ、一体、どうしようというのだろうか。

(統計データ分析家 本川 裕)

DIAMOND,Inc. All Rights Reserved.
http://diamond.jp/articles/-/122757


 


サウジアラムコの時価総額、1兆ドル突破も−政府の税軽減措置で
Sam Wilkin
2017年3月29日 11:58 JST
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サンフォード・C・バーンスタインがアナリストリポートで指摘
サウジ政府はアラムコに課す税率を85%から50%に引き下げると発表
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サウジアラビアの国営石油会社サウジアラムコは新規株式公開(IPO)時に時価総額が1兆ドル(約111兆円)を突破する可能性がある。IPOに向けた投資家の呼び込みを狙い、サウジ政府が税負担軽減措置を打ち出したためだ。サンフォード・C・バーンスタインが指摘した。
  サンフォード・C・バーンスタインはアナリストリポートで、税軽減措置がアラムコの税引き後利益を300%押し上げるとともに、株主への現金還元の増加をもたらし、同社の時価総額は1兆ー1兆5000億ドルになる可能性があるとの見通しを示した。
  サウジ政府は27日、アラムコに課す税率を85%から50%に引き下げると発表。アラムコは記録的規模のIPOで、同社全体の最大5%の株式を投資家に提供する準備を進めている。
原題:Saudi Aramco Valuation Seen Topping $1 Trillion After Tax Cut(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-29/ONJZRL6K510801


 
英ダイソン:高額コードレス掃除機が追い風、創業者も驚く急成長
Adam Satariano
2017年3月29日 08:27 JST
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掃除機やドライヤーを手掛ける英ダイソンは2016年に前年比45%という大幅な増収を記録し、高価格帯の掃除機の収益力の高さと成長性をまたしても見せつけた。
  16年の売上高は25億ポンド(約3500億円)。一部のコストを除いた利益は41%拡大し、6億3100万ポンドに達した。この主な原動力となったのが、新しい充電式コードレス掃除機への需要だ。
ダイソンのコードレス掃除機
ダイソンのコードレス掃除機 Photographer: Andreas Rentz/Getty Images
  2年前に最初に投入した際の価格は1台約500ポンド(現在のレートで約7万円)という高価格帯にもかかわらず、創業25年の同社でベストセラーになったこの高性能掃除機は、モーター部品がハンドル部分にあり、通常の直立型掃除機としても、狭い隙間にも入るハンドヘルド型掃除機としても使えるのが強みだ。創業者のジェームズ・ダイソン氏もその普及の速さに驚いている様子で、「目を見張る成長ペースだ」とインタビューで話した。
  ダイソンが注力する分野の一つが電池だ。15年に固体リチウムイオン電池を製造する米サクティ3を買収し、昨年には5年間で関連研究に10億ポンドを投じると発表。これを受け、同社がいずれ電気自動車事業に参入するのではないかとの観測が市場では浮上した。ダイソン氏は長期計画に関するコメントは控え、「自動車市場には数多くの企業が新規参入するだろう」と述べるにとどめた。
  ネット販売業者からの競争を受けて苦戦する大手小売業者に対し、ダイソンは年内にサンフランシスコ、ニューヨーク、中国などに合計25の直営店を出店する計画だ。ダイソン氏は「実店舗はどんどん少なくなっている。人々には技術を実際に見て、試して、とても前向きな体験を持ってもらいたい。従来型店舗でそれは常に可能ではなかった」と話した。 
原題:Dyson’s Latest Cordless Vacuums Drive Sales Past $3 Billion(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-28/ONJDT46VDKHU01
http://www.asyura2.com/17/hasan120/msg/546.html

[経世済民120] 米WHの破産法申請で電力2社の前途多難 高圧経済FRBから日銀へ 米GM株クラス分拒否が賢明 英国とEU円満離婚は望み薄
コラム:
米WHの破産法申請で電力2社の前途多難

 3月28日、米電力会社2社のために建設が進む2カ所の原子力発電所でのコストが想定を著しく上回ったことを受け、東芝傘下の米原発子会社ウエスチングハウス(WH)は、米連邦破産法11条の適用を申請する。写真は建設中のボーグル原発。ジョージア州で2月撮影。提供写真(2017年 ロイター/Georgia Power/Handout via
REUTERS )
Lauren Silva Laughlin

[ダラス 28日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 米電力会社、スキャナ(SCG.N)とサザン(SO.N)の2社のために建設が進む2カ所の原子力発電所でのコストが想定を著しく上回ったことを受け、東芝(6502.T)傘下の米原発子会社ウエスチングハウス(WH)は28日、米連邦破産法11条の適用を申請する。

ただ、債務整理の過程では、契約条件や損失、融資や税金を巡り交渉の長期化が避けられない。たとえ原発が完工したとしても、これらの電力2社には大きな負担がのしかかることが予想される。

サウスカロライナ州とジョージア州で建設が進むこれらの原発は、38年前のスリーマイル島原発事故以降、初の新規建設案件。しかし、一風変わった設計や建設業者のトラブルなどから工期が3年以上延び、費用は制御不能なまでに膨れ上がった。東芝は2月、ウエスチングハウスが63億ドルの減損を計上する見通しを公表し、東芝会長は引責辞任。上場を維持するため傘下の半導体子会社の入札による売却を余儀なくされている。

一方でWHの負債をだれか引き受けてくれるかどうかについての見通しは暗澹としてきた。韓国電力公社(KEPCO)(015760.KS)が先週、WH買収に関心を持っていないと表明したからだ。

もちろんスキャナとサザンは、計画を自ら引き継いで東芝から補償を請求する道もある。しかし、モルガン・スタンレーのアナリストは、今後必要な費用は想定を85億ドル上回る可能性があり、これは両電力会社の株主が織り込んでいる水準の2倍以上の金額だと指摘している。アナリストは、東芝がこの費用の差額分を支払うことができるとは考えていない。ジョージア州にあるサザン傘下の電力子会社はこれまで、資金調達コストだけでも毎月3000万ドルが必要になるとの見方を示している。

計画を中止することにもリスクがある。原発への投資に対するリターンを顧客から回収することが難しくなるからだ。モルガン・スタンレーは、影響額はスキャナの場合、2017年の純利益の38%、サザンでは7%に相当すると分析している。

ゴールドマン・サックスによると、サウスカロライナ州の原発の総事業費のうちスキャナが負担する分は74億ドルと、同社の企業価値の4割を超える規模に上る。この比率はサザンの場合には6%未満にとどまるものの、サザンには別の問題がある。ジョージア州での計画から手を引けば、同社はエネルギー省から借り入れた26億ドルを巡り窮地に立たされることになる。

こうした事情を考えれば、スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が先週、両電力会社の社債格付け見通しを「ネガティブ」へと引き下げたのも当然だろう。WHの困窮が両電力会社の問題に直結しており、他の電力会社の目には、原子力というものがより扱いにくいものとして映る結果となっている。

●背景となるニュース

*ロイターは事情に詳しい関係筋の話として、ウエスチングハウスが28日、連邦破産法11条の適用申請を計画していると伝えた。

*連邦破産法11条の適用申請により、東芝とスキャナ、サザンの米電力2社は複雑な交渉を始めることになる。その交渉には日米両国政府が参加する可能性もある。

*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。


森永製菓と森永乳業の株式売買を一時停止=東証 2017年 02月 24日
コラム:中国の外貨準備高、越えた危険な一線 2017年 02月 08日
黒田日銀総裁、利上げ観測をけん制:識者はこうみる 2017年 03月 24日
http://jp.reuters.com/article/column-westinghouse-bankruptcy-idJPKBN1700AB?sp=true

 

コラム:
高圧経済のバトン、FRBから日銀へ

木野内栄治大和証券 チーフテクニカルアナリスト兼シニアストラテジスト
[東京 29日] - 日銀は3月21日、『「長期停滞」論を巡る最近の議論:「履歴効果」を中心に』と題したレポート(日銀レビュー)を公表した。一般的にはあまり話題とならなかったが、イールドカーブ・コントロール政策の行く末を考える上で重要な示唆があったと思う。なぜなら、イエレン米連邦準備理事会(FRB)議長が昨年触れた高圧経済(High pressure economy)政策に言及があったからだ。

高圧経済政策とは、供給能力を上回る需要の維持を推進する政策で、景気が良くても財政刺激策や金融緩和を継続する政策を指す。需給ギャップがプラスとなるような過熱気味な経済運営は、いずれインフレにつながるはずだ。

しかし、金融危機後や長期デフレなどの低圧経済下では、正規雇用が失われ、設備投資や研究開発投資が停滞した。こうした負の履歴効果(hysteresis effect)が残っている間は、見かけ上の需給ギャップがプラスに転じたとしても、ただちに深刻なインフレにはなりにくい。

なぜなら、就労を諦めた人が労働市場に復帰するので賃金インフレにはなりにくく、先送りされてきた企業の設備投資や研究開発投資が回復し供給能力は増加するので物不足にもなりにくいからだ。つまり、負の履歴効果が残っている間は、イールドカーブ・コントロール政策を継続することが正当化されると言える。

<イエレン議長も昨秋までは高圧経済政策に傾斜>

イエレンFRB議長は、昨年10月の講演で高圧経済政策に触れた際、こう指摘した。「負の履歴効果が存在するならば、政策によって総需要を長期間刺激し続ける高圧経済を維持していけば、逆に、正の履歴効果が起きる可能性もある」(翻訳は前出の日銀レビュー)。

思い起こせば、昨年8月下旬に開催されたカンザスシティー地区連銀主催の経済シンポジウム(ジャクソンホール会議)では、シムズ米プリンストン大学教授の講演で取り上げられた「物価水準の財政理論(FTPL:Fiscal Theory of the Price Level)」が脚光を浴びた。

当時、民主党のクリントン大統領候補はオバマ大統領がサインした5年間で3050億ドルもの陸上交通修繕法(FAST法)に上乗せして、5年間で2750億ドルのインフラ支出を公約していた。同時に、財務長官にはブレイナードFRB理事が就任すると取り沙汰されていた。ブレイナード氏はイエレン議長に近いハト派の筆頭だ。高圧経済政策を開始する布陣の準備が整ったように感じた。

しかし、イエレン議長は11月の米大統領選挙で共和党のトランプ候補が勝利すると、「過熱気味の経済運営を実験的に行うことを推奨しない」と語り、手のひらを返すように高圧経済政策から距離を置いた(2016年12月14日)。

高圧経済には「政策によって総需要を長期間刺激し続ける」必要があるが、トランプ氏の公約はオバマ・クリントン財政のように安定的で予見可能とも思えなかったのだろう。ましてや、イエレンFRBに批判的だったトランプ大統領誕生でFRB議長の座を失う恐れがあり、くぎを刺そうとしたのかもしれない。

結果、FRBの政策は、見かけ上の需給ギャップを前提とする金融政策ルール(テイラールール)に則った方向に舵を切ったのだと思う。ジャクソンホール会議から続いていた財政・金融政策の協調路線の盛り上がりは米国ではしぼんでしまった。

<日銀が引き継いだイエレン議長の問題意識>

ただし、その間、日銀はイールドカーブ・コントロール政策に踏み出し、FRBから高圧経済政策推進のバトンを受け取ったかたちとなった。そうした中での、日銀による高圧経済に触れた前出のレポート(日銀レビュー)には注目せざるを得ない。

履歴効果が残っているということは、本来の潜在供給能力と、現在計測される見かけ上の供給能力にはギャップがあるとの概念を受け入れることになる。本来の供給能力とは、雇用のスラック(余剰)や、研究開発、設備投資の余力を加味した供給能力だ。そして、需要次第で見かけ上の供給能力は変化するとの概念も受け入れることになる。

日銀レビューも「こうした問題意識は、標準的なマクロ経済学が採用している総需要と総供給の(長期的な)二分法を前提とした分析枠組みに対しても疑問を投げ掛けているように思われる」と指摘している。

米国における本来の潜在GDPと現在計測される見かけ上の潜在GDPとのギャップに関し、イエレン議長は他者の研究を引用して7%程度存在している可能性を示唆している。日銀レビューでは15%程度あり得ると示唆している。日銀レビューによると見かけ上の供給能力と需要のギャップが1.5%程度と指摘される中において、別途、かなり大きなギャップが米国では存在していることになる。

<需要の長期刺激が肝要、性急な成長は禁物>

ただ、7%あるいは15%ギャップがあるからといって、トランプ大統領が公約したような性急な経済成長は禁物だ。就労をいったん諦めた人が再び職に就くことや、設備投資や研究開発の進展には時間がかかる。摩擦的とでも言うべきインフレが起きない程度の安定性を持って需要を長期間刺激し続けることが肝要だ。

現在は、イールドカーブ・コントロール政策の手仕舞いはインフレ目標達成がトリガーとなり得ると理解されている。FRBにしてもデータ次第と繰り返してきた。プロセスの観測ではなく結果次第との立場だが、それではトランプ大統領のような性急な経済成長を求めた予見可能性の低い財政政策や、見かけ上の需給ギャップの払底に対し、金融政策は振り回されることになる。

日銀レビューでは、高圧経済政策によって、正の履歴効果が起きる可能性もあると考えた場合、「どの程度総需要を刺激し続ければ、どの程度潜在成長率の回復が期待できるのか、検証していく必要がある」とまとめている。

つまり、達成されたインフレの結果次第ではなく、日本の本来の潜在供給能力をどの程度あると見るか、それを達成するのにどの程度の成長速度で、どの程度の期間総需要を刺激するのかといったプロセスの設計が必要との問題意識だと筆者は思う。

<高圧経済政策はいつまで続けるべきか>

プロセスを観測する点では、イノベーションや設備投資が促されている間は、高圧経済政策を続けるべきだと考える。高圧経済状態とは産業レベルで見れば人手不足状態であり、人手不足はイノベーションを引き起こしているからだ。

例えば、アベノミクス前から人手不足に陥った建設業では「i−Construction」と呼ばれる人手不足対策のイノベーションが広がってきた。結果、「建設現場の生産性を、2025年までに20%向上させるよう目指す」と、安倍晋三首相は明言した(2016年9月12日、第1回未来投資会議)。

9年間で20%とは、単純計算で年率2.22%にあたり、建設業のGDPシェア6.1%(2014年)をかけると、日本全体の潜在成長率を9年間にわたり毎年0.135%程度押し上げる計算となる。日本の潜在成長率は、日銀や内閣府によるとゼロ%台半ばとか0.8%と推計されており、0.135%は無視できない好影響だ。

こうした人手不足対策のイノベーションの例としては、最近では宅配業者が駅などに宅配ボックスの設置を進めており、2割程度を占める再配達の削減が期待されている。

このようにイノベーションや設備投資は高圧経済や人手不足に後押しされており、拡大余地が残されている。雇用のスラックや物価だけでなく、こうしたプロセスにも注目して高圧経済政策の一端を担うイールドカーブ・コントロール政策を続けるべきだ。そもそも、日本においては本来の供給能力と見かけ上の供給能力のギャップは米国よりもかなり大きく、高圧経済政策のベネフィットも大きいだろう。高圧経済政策のバトンを引き継ぐのに日本ほど適した国はない。

高圧経済政策に関するさまざまな議論が日銀レビューをきっかけに盛り上がることに期待したい。

*木野内栄治氏は、大和証券投資戦略部のチーフテクニカルアナリスト兼シニアストラテジスト。1988年に大和証券に入社。大和総研などを経て現職。各種アナリストランキングにおいて、2004年から11年連続となる直近まで、市場分析部門などで第1位を獲得。平成24年度高橋亀吉記念賞優秀賞受賞。現在、景気循環学会の理事も務める。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。


コラム:日本経済の「春」はいつまで続くか=竹中正治氏 2017年 03月 04日
コラム:米国よりも深い欧州「反イスラム」の闇 2017年 02月 13日
コラム:韓国政治混迷で日本に降りかかる「火の粉」=西濱徹氏 2017年 03月 21日

http://jp.reuters.com/article/column-forexforum-eiji-kinouchi-idJPKBN16Z1S7?sp=true


 

コラム:
米GM、株クラス分け提案は拒否が賢明

 3月28日、著名投資家のデービッド・アインホーン氏は、米ゼネラル・モーターズ(GM)に普通株のクラス分けを求めているが、この提案は避けるのが賢明なようだ。写真はGMのロゴ。ミシガン州で2015年10月撮影(2017年 ロイター/Rebecca Cook)
Tom Buerkle

[ニューヨーク 28日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 米ゼネラル・モーターズ(GM)(GM.N)は2009年の経営破綻から立ち直り、昨年は北米で過去最高益を記録。株価も昨年はS&P総合500種を上回るペースで上昇した。しかし2017年の予想利益に基づく株価収益率(PER)はわずか5.6倍と、S&P500種構成企業で最も低い。

著名投資家のデービッド・アインホーン氏がGMに普通株のクラス分けを求めたのはこのためだ。アインホーン氏が率いるグリーンライト・キャピタルは、普通株を2クラスに分ければGMの時価総額は現在の540億ドルから最大380億ドル拡大すると主張している。アインホーン氏はこの提案についてGMのバーラ最高経営責任者(CEO)や取締役会と内々に協議したが物別れに終わり、GMの年次総会に諮る見通しだ。

提案によると、2クラスのうち1つは年1.52ドルの配当が恒久的に支払われ、もう1つには成長によって生まれた追加利益が反映される。

アインホーン氏は5年前に潤沢なキャッシュを抱えるアップル(AAPL.O)にも同じような計画を提案し、拒否された。

アインホーン氏のGMへの提案はある意味で筋が通っている。GMの配当利回りは4.4%で10年物米国債の利回りを2%ポイント上回るが、高い評価は得ていない。利回りを求める投資家をもっと引きつければ、バランスシートを過度に広げることなく企業価値を高めることができるだろう。

ただ、アインホーン氏の提案に懐疑的になるのも無理はない。北米の景気回復は既にかなりの期間にわたって続いている。過去2年間の乗用車と軽トラックの販売は年率換算1750万台近辺と過去最高水準で推移。自動車ローン残高は2010年に底を付けた後、59%増加し、中国の成長もかつての勢いを失った。

景気循環と同様に技術面でも困難が待ち構えている。中国の騰訊控股(テンセント・ホールディングス)(0700.HK)から出資を受けた電気自動車のテスラ(TSLA.O)は、生産台数はGMの1%に達していないにもかかわらず、既に株式時価総額がGMの85%に達している。テスラのイーロン・マスクCEOは自動運転車を開発する方針を示しており、GMが遅れを取らないためには相当の資本が必要になるだろう。

グリーンライトの提案では、GMは業績が悪いときにも配当を支払い続けなければならず、柔軟性が制限される。このためムーディーズは提案に消極的な姿勢だ。これらすべてを考え合わせると、株主は提案を避けるのが賢明なようだ。

●背景となるニュース

*著名投資家デービッド・アインホーン氏が率いるヘッジファンドのグリーンライト・キャピタルは28日、GMに対して普通株を2つにクラス分けして企業価値を上げるよう提案し、GMが拒否したと発表した。

*2クラスのうち1つは既存株主に新たに割り当てられ、配当が支払われる「配当株(dividend shares)」。もう1つは既存の普通株で、全収益と将来の成長分が反映される「資本増価株(capital appreciation shares)」となる。

*グリーンライトは、GMの現在の配当(年1.52ドル)は市場から評価されていないと指摘。配当を狙う投資家向けと成長を重視する投資家向けに株式をクラス分けすることで、両株合わせて43─60ドルの価値を生み出せると主張した。

*GMは、グリーンライトからの提案について取締役会や上級幹部、格付け会社と約7カ月間にわたり協議した結果、「受け入れ不可能なリスクが生じ、株主にとって最良の利益にならない」と判断したと説明した。

*ムーディーズはグリーンライトの提案について、財務面の柔軟性を低下させて信用リスクを高めるとして、GMとその子会社の格付けにとってマイナスの影響があるとの見方を示した。

*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。


コラム:「バフェット信仰」はもうたくさん 2017年 03月 03日
コラム:中国の外貨準備高、越えた危険な一線 2017年 02月 08日
コラム:米国の移民制限でカナダに向かう有能な人材 2017年 03月 23日
http://jp.reuters.com/article/column-gm-idJPKBN1700FI


 

 

オピニオン:英国とEU、円満離婚は望み薄=吉田健一郎氏
吉田健一郎
吉田健一郎みずほ総合研究所 上席主任エコノミスト
[東京 29日] - 英国政府が29日、欧州連合(EU)に対し、EUの基本条約であるリスボン条約50条に基づく脱退通告を行うことで、両者の「離婚協議」が正式にスタートする。

メイ英政権は2年間の協議で脱退協定と新協定を同時にまとめたい意向を示しているが、安易な前例作りを避けたいEU側の意向を考えれば、そのハードルはかなり高いと、みずほ総合研究所・上席主任エコノミストの吉田健一郎氏は指摘する。

現実的には脱退清算金問題など「離婚条件闘争」に時間をとられ、2019年3月末に予定される英国のEU離脱時に、世界貿易機関(WTO)の枠組み以外、両者間に通商協定がない事態もあり得るという。

同氏の見解は以下の通り。

<ボールは英国からEUへ、巨額の「離婚慰謝料」請求も>

英国民投票におけるEU離脱(ブレグジット)選択から9カ月を経て、メイ英首相がトゥスクEU大統領宛てに、リスボン条約50条に基づく正式の脱退意思を通告する。このことは、交渉のボールすなわち主導権が英国側からEU側に移ったことを意味する。

正式の通告がなければ、離脱交渉は始まらないため、これまではEU側もせいぜい口先でけん制することぐらいしかできなかったが、今後は英国めがけて、挑発するような高い内角球をどんどん投げ込むことが可能になる。周知の通り、欧州はフランスやドイツなどの中核国で選挙が相次ぐ政治の年に突入している。EU懐疑政党に対し離脱の道のりがいかに厳しいものかを知らしめるためにも、EUは英国に対して安易な妥協を行わないだろう。

実際、報道から漏れ伝わるEU側の交渉姿勢は、極めて厳しいものだ。例えば、欧州委員会のユンケル委員長は、英BBC放送のインタビューの中で、英国に対し、約600億ユーロもの「離脱請求書(ブレグジット・ビル)」を提示する可能性を示唆している。

根拠は、EU予算の未払い金だ。EUは予算を複数年にわたって組むが、現行予算は2014年から2020年までの7年間をカバーしている。脱退協定が通告から2年後の2019年3月末までにまとまれば、その時点で英国はEUを離脱することになるので、それ以降の予算を拠出する必要はないと英政府は主張するだろうが、EU側は2020年までの分を含めて清算を求める模様だ。

600億ユーロと言えば、英国の国家予算の6―7%に相当し、国防費を上回る。ブレグジットによって浮くEU予算拠出金分を国内投資に充てられるとしていた離脱派のロジックが崩れることになり、到底、満額回答できるものではないだろう。とはいえ、ゼロ回答では、EU側も矛(ほこ)を収めず、いつまでも脱退協定交渉が続き、新協定交渉に進めない可能性がある。

後述するように、EUとの間で新協定がないまま離脱すれば、英国経済の混乱は避けられない。EU側が、新協定をいわば人質にして、巨額の離婚慰謝料のような無理筋の要求をどこまで続けるのか。いずれ双方とも妥協点を探ると思いたいが、EU市民の英国での地位保全問題や、北部アイルライドの国境問題、ジブラルタルの帰属問題など懸案は他にも数多くある。交渉の広さと難しさを考えると脱退協定と新協定をともに2年以内にまとめ上げるという英政府が目指す交渉スケジュールはあまりに短い。新協定がないまま脱退協定のみが締結され、英国とEUがいったん袂(たもと)を分かつ可能性は十分あり得ると考える。

<在英企業が払うブレグジットコストの中身>

では、仮に時間切れになった場合、英国とEUの経済関係はどうなるのか。また、在英企業にはいかなる影響が及ぶのだろうか。

端的に言えば、その頃までに自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)などの特別な計らいが未締結ならば、両者は基本的に世界貿易機関(WTO)の枠組みに基づく「普通の関係」に移行することになる。EU域内市場における「ヒト・モノ・カネ・サービス」の4つの完全自由移動というメリットは、英国・EU間では消失する。

その場合、大陸欧州に製品を輸出している在英製造業は、関税などのコスト負担増に直面する可能性が高い。WTOのアゼベド事務局長は英紙のインタビューで、英国がEUを離脱しWTOの枠組みのみとなれば「年間90億ポンドのコスト増になる」と述べている。中でも影響が大きな品目は自動車や航空機部品などの輸送機器関連、あるいは電気機器などだ。英国内に製造拠点を持つ日系メーカーも当然、負の影響を受けることになる。

カネの面でも、国境をまたぐ子会社間の配当送金に源泉徴収税が課される可能性もある。またサービスの面では、EU域内に適用されるシングルパスポート(単一免許)を英銀や第三国金融機関が喪失した場合の影響が懸念される。ここでも特別な計らいがないとすれば、大陸欧州において新たに現地法人を設立し、シングルパスポートを取得し直す金融機関が続出するかもしれない。英国内でユーロ決済業務を不自由なく行えるかという点にも注意が必要だ。EU離脱により、決済機能の一部が大陸欧州に移ってしまう可能性は否定できないからだ。

なお、EUとの間でFTAが結ばれたとしても、EU側に輸出する際には英国製品であるという原産地証明が必要になり、企業は部品・原材料調達を含むサプライチェーン全体の再考を強いられることになりそうだ(ちなみに、EU・カナダの経済協定では、域内原産割合は50―60%)。こうした取り組みも企業側にコスト負担増として重くのしかかってくる。

このように考えると、企業の英国離れはやはり今後進むとみられ、ブレグジットはボディーブローのように英経済に効いてくる可能性が高い。確かに、ポンド安の支えもあり、ブレグジット決定後の英経済は景気拡大を維持しているが、足元で企業の景況感(PMI)は低下傾向が続いている。

また、ポンド安を背景にインフレが進む一方で、名目賃金が伸び悩んでいる現状は心配だ。実際、個人消費には減速の兆しがある。ブレグジットに伴う経済困難はまだほんの序の口だと考えたほうが良いだろう。

<EUの正念場は次の選挙イヤー「2021―22年」か>

むろん、EU側にとっても、英国との「ヒト・モノ・カネ・サービス」の自由移動を失うことは身を切る選択だ。二重コストを強いられるのはEU側の企業も同じである。

足元でユーロ圏は景気回復が続いているものの、内需主導の自律的な回復とは言えず、米中など域外需要の回復による面が大きい。この局面でのブレグジットは負の影響が大きく、本来ならば、喧嘩(けんか)別れのようなハードブレグジットを避ける経済的インセンティブがEU側にも強く働いておかしくない状況だ。

ただ、EUは政治的な求心力確保を優先し、恐らく自ら譲る姿勢を見せないだろう。前述した通り欧州は政治の季節に投入しており、4月下旬から6月にかけてフランス大統領選・議会選、秋にはドイツ連邦議会選が控えている。イタリア議会選も来年5月までには実施される予定だ。

3月15日のオランダ議会選は既存政党が勝利したが、フランスでは極右政党「国民戦線(FN)」のルペン党首がマクロン元経済相に次ぐ支持を集めている。ドイツでは右派ポピュリスト政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が党内分裂で勢いを失っているものの、イタリアでは反体制派の「五つ星運動」が与党・民主党の分裂を横目に、党勢を盛り返しており、安心は禁物だ。

私は、EUの真の正念場は、次の選挙イヤーである2021―22年に訪れる(今回は辛うじて既存政党が踏みとどまる)とみているが、目前のポピュリズムの嵐を乗り切るためにも、ここで英国に甘い顔を見せるわけにはいかないとEUのリーダーたちは意を決しているのではないだろうか。

(聞き手:麻生祐司)

*本稿は、吉田健一郎氏へのインタビューをもとに、同氏の個人的見解に基づいて書かれています。

*吉田健一郎氏は、みずほ総合研究所・欧米調査部の上席主任エコノミスト。1996年一橋大学商学部卒業後、富士銀行(現みずほ銀行)入行。対顧客為替ディーラーを経て、04年より、みずほ総合研究所に出向。エコノミストとして08年―14年にロンドン駐在。ロンドン大学修士(経済学)。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。


森永製菓と森永乳業の株式売買を一時停止=東証 2017年 02月 24日
コラム:仏経済事情に見るルペン人気の正体=山口曜一郎氏 2017年 03月 28日
〔マーケットアイ〕外為:中国貿易収支は600億元の赤字、輸出伸び悩み 2017年 03月 08日
http://jp.reuters.com/article/opinion-brexit-kenichiro-yoshida-idJPKBN1700CH
http://www.asyura2.com/17/hasan120/msg/549.html

[経世済民120] トランプ相場終わりの始まり、どう逃げる? 一部昇格株の先回買 調達業務は真っ先にロボット 華僑は「考えない」クラッシャー
トランプ相場終わりの始まり、どう逃げる?

市場は「晴れ、ときどき台風」
2017年3月29日(水)
居林 通

居林:前回は「個人投資家は今のマーケットに参加する必要なし」という、刺激的なタイトルでした。その前の回では、「風は吹いているが北風だ」ということも申しあげ、「ここまで言って外したら大恥です」という覚悟でした。繰り返し申しあげているように、個人投資家には市場に参加しなくてもよい期間がある、もっというと「投資機会は均等に存在するわけではない」というマーケットの見方を皆様にご紹介したかったのです。
 で、本日(3月22日)、ぐっと日経平均が下がりました。
居林:日経平均は2017年に入って上げてきた分、だいたいプラス3%が、今日までで、600円の下げでなくなりました。もちろん、個別の銘柄から恩恵を受けた人もいるのかもしれません。しかし、今年の第1四半期は大局観で言えば「我慢して買わない」ことを学ぶ、いい訓練期間になったと思います。マーケットは見続けねばなりませんが、常に売り買いする必要はありません。投資を決定するために必要なものは何かを前もって決めて、もしその条件が満たされなければ「なにもしない」という時期もある。いわゆる「見(ケン)」ですね。
 これは、「トランプ相場の終わり」なのでしょうか。
居林:少なくともトランプ政権への期待に伴う「ハネムーン相場の終わり」ではあるでしょう。もちろん、もしかしたら株価は上に動くのかもしれません。でも、それは、懐かしの「クイズダービー」で、倍率20倍の篠原教授に賭けるようなものでしょう。賭に出なかった人の方が報われる可能性は高いと私は思います。
 それでは、このあとどうなると見ますか。
値動きの小ささは異常
居林:現状では為替相場はドル円で111円、日経平均は1万9000円台。これって、セオリーに合っていませんよね。
 米国(FRB)の利上げにも関わらず、為替は円安には動いていない。一方で、株式市場は崩れない。
居林:そうです。水準が合わない。なぜかといえば、日本銀行が「年間6兆円株式を買う」という特殊要因があるからですね。日銀は今年いっぱいまでは買い続けるでしょうが、すでに11兆円の株式を持っている。いつまで持つのか。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)のポートフォリオは株式の組み込み比率が限度一杯で、これ以上は買えないように見えます。
 あとはトランプ政権への期待値ですが、もう期待だけでは足りなくなっていますね。オバマケアの代替案を議会が通すかどうかだけでこれだけ揉めていて、「トランプ氏の実行力は期待していたほどではないんじゃないか」と疑いが芽生えてきた。
 ここまでが、いわば新聞記事的な要約なのですが、マーケットの専門家として見ますと、現在の日本株市場は「異常なほど動かない」状況です。ドル円がどうだろうが、この3カ月間3%のレンジの中にいて、100円以上動いた日もあまりない。値動きの刻みがとても細かい。非常に珍しいことです。
 それは何を意味するのでしょう。
日経平均の高値と安値の差

暦年ベースで年初来高値と安値の差を平均と比較。出所:UBS
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/020500004/032800011/g1.jpg

居林:これは簡単で、売る人も買う人も決断が難しい、つまり「手がかり難」です。しかも、売れば日銀が買いますから。
 グラフをご覧いただきたいのですが、株式指数というのは年間で安値と高値の差が20%から30%程度あるのが普通です。しかし、今年は年初から3か月たちましたが、まだ4%程度しかありません。
 この後の相場の動きは大きくなりそうです。株価と企業業績予想の重ね合わせグラフからみると、日経平均は19000円を超えた水準では十分評価されているので、下がるときがあるのではないかと思っているのは、昨年末から申し上げている通りです。
 売る方も買う方も積極的な理由がないし、売りが出れば拾われていく。
居林:2月の売買を見ると、外国人が売って、日銀が買って相殺されています。今の日本株市場は外国人投資家が買わないと株価は上がらない。彼らは「上値はこのくらいかな」と思ったから売った。その分を、日銀がETF(Exchange Traded Fund、上場投資信託、現物株を直接購入できない日銀が利用する)の買いで支えたと考えています。
 日本株に限らず、世界的に見渡しても確たる投資テーマがありません。日本は、ちょっと前はインバウンド、コーポレートガバナンス、円安、オリンピック関連と盛りだくさんでしたけれど、今年はテーマが本当に少ない。「働き方改革」のテーマで何を買えばいいのか、難しいですよね。「自社株買い」のテーマがもう少し続くかどうかというところです。
 その中でも「円安で日本企業の業績が上がる」という期待が大きかったわけですが。
居林:ええ。我々は前回お話しした通り、トランプ政権はドル安政策を採るはずと見ていました。現状はそのとおりで、為替相場はいっこうに円安になりませんね。
米利上げもドル円相場には影響なし
 あ、お聞きしちゃいますが「FRBの利上げはない」と仰ってませんでしたか。
居林:はい、2月10日の記事で「米国金利上昇による円安を期待する方もいますけれど、金利を上げれば米国の景気が冷えますから、トランプ政権はそちらには向きにくい」と申し上げました。しかしFRB、より正確に言えば連邦公開市場委員会(FOMC)は、3月15日に3カ月ぶりに利上げに踏み切りました。
 こんなに早く利上げがあるとは見ていなかった。ごめんなさい。でも、アメリカの10年債金利は上がっていない、それどころか逆に若干低下しています。日米金利差は十分開いているので「ドル高(円安)にはならず、アメリカはドル安政策を取る」という予想は変わりません。そして、現状がそれを裏付けています
 実際に景気に対して重要な市場金利、代表例で言えば10年債(米国債)の価格が低下(金利は上昇)してくれば私たちの負けですが、そうはなっていません。市場は利上げを織り込んでいた、ということですね。
 では、なぜFOMCが予想外の早期利上げを行ったかと言えば、雇用統計がよいことなどの条件が整っていて、しかも、利上げにネガティブなトランプ大統領が理事を送り込んでくることを鑑み、「中央銀行として、年内に1回は利上げせねばならない。そしてその責務を果たせるタイミングは今しかない」と判断したんだと思います。これが私たちの見解でありまして、今年、これ以降金利が上がる可能性もありますが、金利、為替、そして株価への影響は小さいと考えます。
 景気への配慮ですね。でも、ということは株価も上がる、あるいは下がりにくいという期待が持てるんじゃないですか?
居林:ああ、これは「あるある」の誤認識ですが、景気と株価の上下はたいして関係はありませんよ。
 え。
居林:「好景気だから株価が上がる」「不景気だから下がる」という常套句は要注意です。「景気が良くて、株価が安いなら上がる」「不景気でも、株価が安ければ上がる」逆ももちろん成り立ちます。
 株価の高い安いは、もちろん居林さんお得意のバリュエーション、予想純利益とPERから弾いた数字に対しての現状ですね(解説した回は「或るプライベートバンカーの株価の読み方」など)。
居林:はい。この関係性について述べることを、かならずと言っていいほどメディアは省略しますね。株価が上がるのは景気がいいから、ではなくて、割安だからなんです。投資家になりたいなら、ここの部分を省略しないでください。実際、株価が上がるのは、景気が悪いときも多かったりしますよ。
いま買っている人はどうしたらいい?
 そうか、割安に評価されやすいし。
居林:2003年には景気が冷え込んでいた中で上がったし、2009年にも上がったことがありました。まあ、割安感が評価されるだけでなく、暗闇に一瞬日が差して、それを勘違いして急上昇することもあるわけですが。一方で、2007年、2008年は景気は決して悪くなかった中、つるべ落としになっています。
 現状の景気がいいとか悪いとか、政策が景気に与える影響とかを考える前に、業績予想を見て、現状と比べないと話になりません。そうしないと、トランプ旋風に乗る羽目になるんです。赤信号を「みんなが大丈夫だから」で渡りはじめちゃダメですよ。みんなで轢かれてしまうんですから。
 まとめますと、この3カ月ほどのトランプ政権期待相場はもう終わりだと考えます。円安以外に企業業績の好転材料がなく、PERは日経平均で16倍とすでに高く、日銀の買い余力も乏しくなっている。日経平均の上値は、あって2万円くらい。ということは、せいぜい5%の上昇ということです。市場のボラティリティが普通でも2割、3割ある(「大荒れ相場? いえ、これって“普通”です。」)中、調整局面があるというリスクを負ってこのリターンでは引き合いません。
 例えば、1万7000円のころに買った方ならば、当時はそこが下値でリスクも小さく、今のレベルでも十分なリターンになりますね。
 なるほど。
居林:申し上げたとおり、今回のトランプ相場では私はずっと「見て」いました。2、3カ月の間、ほぼ我慢の日々でした。しかし日に日にドル円が円高に振れ、いつか調整がはいると確信を強めていたわけです。それが3月22日に現実になった。状況がさらに変化して「波乱」まで行けば新たな投資機会が生まれるわけですが。
 うーむ。じゃ、今まさにトランプ相場に賭けて投資している人はどうすればいいんでしょう。
居林:もちろん私が間違っていることも十分考えられるので、これを読んだ投資家の方の個人責任、という前提でしか言えませんが…わたしなら引きます。ということで、前回お約束した撤退戦のお話もしましょうか。
 撤退戦の戦い方は2通りです。一気に逃げるか、反撃しながら逃げるか。スタイルは人によりますが、共通するのは「引くなら速いほうがいい」。
 私は、一気に脇目も振らずに逃げる派。「間違えた」と思った瞬間に走り出して、全部引いてやりなおします。間違えたときの撤退はすみやかに。逆に、攻める、ポジションを構築するときはゆっくりやります。
 なぜでしょう。
居林:株価は下がるときが速く、上がるときはゆっくりだからです。株価が下がると、誰かが売り投げる。それによって残りの人も影響を受ける。
 第1回でお話しいただいた、1%以下の株主が動いて株価を決めて、99%の人はその影響を受ける、でしたね。
居林:しかも、それまで利益を上げている株主ほど早く売りたくなるので、あっという間にみんな売りはじめる。上がる方はじっくり構えていても間に合うけれど、損切りは速く、すみやかにが、たぶん正しいです。
 私たちは、いま(3月下旬)時点で、「ドル円はもうちょっとだけ円高になるし、日経平均はもう少し下がる」と思っています。そのうえでお聞きいただきたいのですが、今、もし「失敗した」と思われているなら急ぐほうがいい。まだ年初来の3%かそこらの上昇分が相殺されただけですし、市場は指数で20〜30%も動くのですから、リカバリーのチャンスは今後いくらでもあるわけです。あ…。
 どうされました?
撤退戦のあるある、極端なリカバリー策
居林:撤退戦のときにありがちなのが、「極端なリカバリー策」に打って出ることです。
 つまり、敗戦の後、よりリスキーな賭に出る。ああ、ありそうです。
居林:それで取り戻すことができる方もいるでしょう。でも、負けたからといって自分のリスクとリワードの考え方、立ち位置を変えるのはおかしな話なんです。例えば、「自分は株式で6割打者、半分以上は当たる」と思っているなら、それを信じましょう。確率として4割のほうが出続けても、何回でも同じリスクリワードでさいころを転がしましょう。過去、安定して勝てていたなら、いずれ戻ってくるはずです。
 確率上、負けることはあると分かっていても、その時に喰らうダメージがでかいと、つい「極端なリカバリー策」を試したくなりそうですよね。
居林:ええ。でも、前回「統計的に見れば、マーケットは常にプラスマイナス五分五分」と申し上げましたよね。その中で五分五分のうち6割、7割当たると思うのなら、同じやり方でやらないとおかしいんです。リスクウェイトを変えて「もう株はやめた、債券しか買わない」という方もいますが、市場が上がったころに戻ってきます(笑)。
 ちなみに、勝率が五分五分以上にならない方は?
居林:趣味ならもちろんかまいませんが、プロの投資家としては、他人に任せることを考える時期。ですね。この3カ月は、「参加したいけれど、いまは待ち、“見”だ」と、プロとしての心構えを鍛える、格好の基礎トレ期間だったのかもしれません。
 念のため申し上げますが、相場は水物ですので、毎回当たる人はいません。私の相場見通しも逆に行くかもしれません。ここで申し上げたいのは、投資家として最後はご自分の判断で投資を行うようにするということが一番大切だと思います。


このコラムについて
市場は「晴れ、ときどき台風」
いわゆる「アナリスト」や「経済評論家」ではなく、「実際に売買の現場にいる人」が書く、市場の動きと未来予測です。筆者はUBS証券ウェルス・マネジメント本部日本株リサーチヘッドの居林通さん。そのときそのときの相場の動きと、金融市場全体に通底する考え方の両面から、「パニックに流されず、パニックを利用する」手法を学んでいきましょう。

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/020500004/032800011


 

【第2回】 2017年3月29日 v-com2(ブイコムツー)
東証一部昇格株の先回り買いで成功する人・失敗する人の違いとは?
東証一部昇格が期待できる銘柄に先回りして投資する――。人気投資ブロガーで個人投資家のv-com2(ブイコムツー)さんが編み出し、大反響を呼んだ昇格投資法。でも、成功する人、失敗する人がいるのはなぜ? 『運、タイミング、テクニックに頼らない! 最強の株式投資法』を出版したばかりの氏が答えます。
東証一部に昇格しそうな銘柄を
先回りして買い仕込む
 私が出版した第1作目である『昇格期待の優待バリュー株で1億稼ぐ!』(すばる舎)では、主に、東証一部に昇格する銘柄を、その発表前に察知して、先回りして投資するという手法を紹介しました。
 
 東証一部に昇格するには、いくつかの要件を満たさなければなりません。
 そこで、要件を満たすための施策を行っている企業を見つけ出し、詳しく調べて、その企業が東証一部昇格を目指しており、かつ、「優待面、資産面、収益面」のどれかで魅力があるとわかったら、他の人より先に投資して、昇格に伴う株価の上昇を享受する……というのがおおまかなところでした(詳しくは拙著をご覧ください)。
 おかげさまで、本は大変好評をいただき、実際に利益をあげることができたという報告も、たくさんいただいています。
 一方で、筆者の意図とは異なる理解をしている人もいるようです。
 たとえば、「昇格しそうな企業であれば、どんな銘柄でも、いつでも、買いだ」という、安易な考えをしてしまっている人です。
 そういう人たちからは、「昇格投資をしてもうまくいかないじゃないか」という声も聞こえてきました。
 2016年前半の相場環境が、非常に不安定だったことも一因でしょう。
 ただ、うまくいかないという人が行っている昇格投資を見てみると、すごく狭い視点でしか見ていないな、という印象があります。
 昇格するかどうかという1点を研究しただけで、いつでも株式投資で利益をあげられると思うのは甘すぎます。
 東証一部に昇格するかどうかだけでなく、「優待面、資産面、収益面の魅力」を探るという重要な視点や、先回りするという観点を疎かにしてしまっているのです。
 昇格面以外で考慮しなければいけないこととして、たとえば
 ・マザーズ銘柄は割高な場合が多いので、東証二部や地方市場を中心に取引する
 ・どの段階で投資するかはその人次第で、段階的にリスクとリターンの関係は変化し、市場全体の影響も受ける
 ・優待面、資産面、収益面のいずれかで魅力的な銘柄を探す
 などがあります。
 すでに人気化して株価が高くなっているマザーズ銘柄であったり、会社側が昇格申請していることを発表済みだったり……そうした銘柄が東証一部昇格を発表しても、それほど株価は上がりません。
 昇格の正式発表があったら持ち株を売ろうと待ち構えている人が大勢いる状況では、「織り込み済み」ということで、発表後に株価が下がる場合すらあるのです。
 最近でも、アイドママーケティングコミュニケーション(9466)が昇格を発表しましたが、翌日の朝は下落スタートとなっていました。
 なぜなのか? 
 この会社の適時開示をさかのぼってみると、2017年1月に昇格申請をしていることを発表済みですし、その後の立会外分売においても昇格申請をしていることをアピールしています。
 それらを受けて、1月以降、株価は40%近くも上昇していました。昇格を織り込んでの上昇で、正式発表後に売りたい人がたくさん待ち構えていることは明らかです。
 昇格投資が有効になるには、まだあまり目立たない割安な段階で投資をし、人気が高まった所で売るという大前提があり、そこを無視してしまうと、うまくいく可能性は小さくなってしまいます。
 みなさんには、この例をもって、「昇格の発表をしても翌日上がらないから昇格投資なんて無意味」などと単純に考えるのではなく、「それなら、どういう段階で投資をするのが、“織り込み済み”にならずに有利なのか」と考えて、昇格投資の本質をつかんでほしいと思います。
 本質を理解していれば、環境が変わっても、自分で調整できます。
 たとえば、昇格投資の手法が広まってきて、昇格候補の銘柄を買う人が増えてきたというなら、それに対応して、どの時点で投資するのがいいのかなどを微修正します。
 人よりさらにもっと先回りして早い段階で買ってみるとか、割安で業績面も上方修正が期待できるなど、その他の魅力を詳しく探ることを重視するとか、そういった複数の視点から魅力を探して対処ができる人は、今でも昇格投資で十分な利益をあげているのです。
 ときどき私のブログに、成功した方から報告メッセージをいただきますが、成功している人は、自分なりにどうしたらうまくいくのかを考え続けている人だと感じます。
 逆に失敗しているのは、「この銘柄が昇格候補だ」のような雑誌の記事に踊らされて、ほかの要因を自分で調べずに買っているという人ではないでしょうか。
 このようなことをしっかり意識して私が投資をしていた会社に、九州リース(8596)、第一交通産業(9035)、南陽(7417)などがあります。
 福岡証券取引所に上場していたころの、かなり早い段階で先回り買いをして成功した事例です。
優待面、資産面、収益面で魅力はあるか?
 また、昇格だけを見るのではなく、優待面、資産面、収益面のいずれかで魅力があるかどうかを見ることも重要です。
 私の事例では、メディアスHD(3154)やエイチワン(5989)など、先回りには少々遅れたものの、昇格発表が近そうで、業績の上方修正も見込まれる割安銘柄に投資して、昇格発表時には大幅高となり、利益をあげることができたというのがありました。
 
 優待面、資産面、収益面のいずれかで魅力的な銘柄を探す――。
 今回出版した書籍、『運、タイミング、テクニックに頼らない! 最強のファンダメンタル株式投資法』では、おもにこの点を深く掘り下げています
 優待面、資産面、収益面では、どのような特徴があり、何に注目すればいいのか。財務諸表とのつながりで押さえておくべき点も、ピックアップしました。
 一般的な株式投資の本とはちょっと違う視点からの考え方も紹介しています。
 資本政策(増資や立会外分売など)と株価の関係について、詳しく書かれた本があまりないようなので、今回は徹底的にまとめてみました。
 私が過去の投資経験の中で、ファンダメンタル面でもっと早く知っておけばよかった! と感じたものを解説し、初心者だけでなく中上級者にとってもたくさんの発見や、気付きがある本を目指したつもりです。
 企業のファンダメンタル分析や、資本政策が株価へ与える影響を理解することで、より深く、投資先を知るきっかけになると思います。
 「きっかけ」と書いているのは、「これを身につけさえすれば儲かる」などといった短期的な、安易な考え方に陥ってほしくないからです。安易な考え方の例が、「東証一部に昇格する銘柄を買えば儲かる」という単純な発想というわけです。
 投資のベースとなる新たな知識に出会ったときは、現実の市場の中で、本当にその知識が正しいのかどうか、例外はあるのか、どんな時には通用しないのか、どうしたら自分の投資に生かせるのかを、本人が考え続けなければなりません。
 考える習慣を身につけることこそが、投資人生においては最強の財産になると思います。
 今回の本のタイトルである『最強のファンダメンタル株式投資法』とは、そういう投資法が、たった1つあるわけではありません。基礎知識を幅広く身につけた上で経験を積み、自分自身で試行錯誤しながら考え続けられる人が、最強だということなのです。
 そして、自分自身で考えるためには、自分の中に判断基準となる軸を作らなければなりません。その主な軸が、優待面、資産面、収益面です。
 次回は、このうち資産面と収益面のお話をしてみたいと思います。
http://diamond.jp/articles/-/122771

 

調達業務は真っ先にロボットに置き換えられる?

目覚めよサプライチェーン

2017年3月29日(水)
坂口 孝則
 私はかつて製造業で調達・購買業務に従業していた。新卒で入ったその世界は、きわめて奇妙に思えた。調達は、取引先と価格を決め、そして取引先を指導するものだという。しかし、私が見たのは、業務のほとんどを納期調整に追われる先輩の姿だった。

 製造業では、もともと取引先を決める際に、価格だけではなく品質だけでもなく、標準納期を調査する。納期遵守率なる取引先評価尺度があるが、これは、「納期通りに納品された年間注文件数」を、「年間注文総数」で割ったものだ。例えば、0.9であれば、9割の注文品を納期通りに納品いただいたことになる。

 よく使われるこの納期遵守率は、まともにやると、0.2とか0.3とかいった低い数字になる。取引先が悪いわけではなく、多くの場合、発注者側があまりに短納期注文を重ねるからだ。「明日持ってきてくれ」といった注文ばかりが目立つ。あるいは、そんなに早く納品されないとわかっていても、「とにかく早く納品してくれ、と意思表示をするため」といったよくわからない理由で、ありえもしない短納期で注文する。

 新人の私が見た光景は、ひたすら取引先に電話をかけ、一つひとつの注文について納品期日を調整する先輩たちの姿だった。前述の通り、もともとは標準納期をふまえて取引先を決定しているはずであり、生産システムに莫大な投資をしているはずなのに、現実は人間が人間をなんとか籠絡して綱渡りする日々だった。

調達業務におけるソーシングとパーチェシング

 やや専門的になるものの、企業の調達業務を二つに分ければ、ソーシングとパーチェシングになる。前者は契約業務と訳されることもある。つまり、取引先を見つけてきて見積書を入手して価格交渉したり条件調整をしたりする仕事だ。後者は、調達実行と訳され、発注書を出したり、納期調整をしたりする。

 一部の例外企業を除けば、このソーシングとパーチェシングは同一の担当者が担う(自動車メーカーなどでは、この二つの業務を組織として分離している場合がある)。本来は、戦略的な業務であるソーシングの時間比率を上げていくべきだが、現実的には業務のほとんどを後者・パーチェシングが占める。納期管理は、期日に納品してもらって当然だから、付加価値はほとんど生まない。

 会社によっては、生産管理の人員が「納期フォローリスト」を作成し、朝に調達部に持ってくる。調達人員はそれを見ながら、上から順に電話を繰り返す。

 私が入社したとき、調達部員の条件は、腕の力が強いことだ、といわれた。理由は、発注伝票を毎日100枚ほど書くことになるのだが、6枚複写になっているため、とにかく腕が疲れるからだという。そしてもう一つの理由はずっと電話を握りしめるため、電話を離さない握力が必要だからだという(私が入社する前年にシステム化が行われ、私は非力社員1号となった)。

ロボットは助けになるか

 しかし、上記のような光景はそれこそ昔話になるかもしれない。

 米SAP Aribaは先日、AIロボット「Procurement」を発表した。これは先行する米アマゾン・ドット・コムのアレクサ、そして米アップルのSiriのようなものだ。このロボットを使えば、購入者側の意図を拾い、サプライヤー側との連絡が可能となる。

 機械学習を活用することで、発注者側の会社方針も踏まえたうえで処理を行えるという(“Leveraging machine learning, the bot will be able to train and learn about a user's preferences and a company's policies and procedures and guide actions in line with them to reduce errors and speed processing.”)。SAPはこれをインテリジェント・デジタル・アシスタントと呼んでいる。ウェブベースで提供される。

 先ほど私が書いたように、調達の仕事は、納期調整や微細なトラブルに翻弄されている。例えば、取引先からの請求書が間違っているためにプロセスが止まってしまったり、承認が遅れてしまったりする。それらをこのインテリジェント・デジタル・アシスタントは過去の事例から先手を打ち、みずから非効率な時間を削減してくれる。

 そのうち、調達人員がロボットに話しかければ、納期が“怪しげな”注文書を勝手にリストアップしてくれるに違いない。それまでの注文履歴を機械学習すれば、どの注文書に対して注意を払わねばならないかがわかるはずだ。

 そして「この取引先に納期フォローしておいてくれ」と伝えれば、勝手に電話をかけてくれるだろう。もしかしたらメールなのかもしれない。そしてロボットは、もちろん相手側の特徴も機械学習してくれるに違いない。「この営業パーソンは泣き落としが有効だ」。そう判断したらロボットは、浪花節口調で義理と仁義を全面に押し出した交渉をしてくれるはずだ。

そもそも調達人員が不要になる日

 かつて、知人から、このような話を聞かされた。取引先から見積書が届く。それをもとに調達人員が取引先と交渉を行う。そのプロセスを変更した。見積書が届いたら、それをPDFに変換し、中国のBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング〜業務外注先)に送る。それを受け取った中国側は、その見積書の製品が何かもわからないまま、とにかく日本の取引先に電話をかけて交渉するのだ。「○○円をとにかく安くしてください」と。

 多くの人は笑った。「そんなことで価格が下がるはずはない。プロの調達人員が交渉せねばならない」と。しかし結果は1年後にわかった。プロが交渉しても、誰が交渉しても、ほとんど変わらない値引き結果だったと。

 この知人の話は示唆に富んでいる。自分がプロの仕事と自認していたものも、実はたいしたことがないのではないか。新興国の人員にすぐさま取って代わられるのではないか。そういう危機感だけは持っておきたい。

 実際に、このような論文がある。タイトルは「データを使ってコンピュータが判断したほうがはるかに良い調達ができる(Electronic decision support for procurement management: evidence on whether computers can make better procurement decisions)」だ。価格交渉はプロがやる必要はない。必要なのは統計データにほかならない。統計データさえあれば、新人であっても、ベテランの調達人員を超えることが容易なのだ。

 同じような論文は他にもあり、「調達プロフェッショナルという神話〜コンピュータのほうがすぐれた調達が可能(The myth of purchasing professionals’ expertise. More evidence on whether computers can make better procurement decisions)」というものさえある。さらに、経験を積むほどに、勘などが邪魔をしてしまい、むしろコスト削減成績が下がってしまう、とまで述べている。

 なるほど、ベテランになる意味がないのであればロボットで代替したほうがはるかにましというわけか。なお公正に付け加えておけば、挙げた論文はやや難があり、調査データを鵜呑みにすることはできない。ただし、多くの業務がロボット等に代替されるのは、間違いがない。

 納期調整業務がなくなるのは歓迎だろうが、そのうち価格交渉まで代替されるとしたら、もはや戦略構築業務しか残ってはいない。

 あ、もちろん、それもロボットにやらせたほうが良さそうだけれども。


このコラムについて

目覚めよサプライチェーン
自動車業界では、トヨタ自動車、本田技研工業、日産自動車。電機メーカーでは、ソニー、パナソニック、シャープ、東芝、三菱電機、日立製作所。これら企業が「The 日系企業」であり、「The ものづくり」の代表だった。それが、現在では、アップルやサムスン、フォックスコンなどが、ネオ製造業として台頭している。また、P&G、ウォルマート、ジョンソン・アンド・ジョンソンが製造業以上にすぐれたサプライチェーンを構築したり、IBM、ヒューレット・パッカードがBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)を開始したりと、これまでのパラダイムを外れた事象が次々と出てきている。海外での先端の、「ものづくり」、「サプライチェーン」、そして製造業の将来はどう報じられているのか。本コラムでは、海外のニュースを紹介する。そして、著者が主領域とする調達・購買・サプライチェーン領域の知識も織り込みながら、日本メーカーへのヒントをお渡しする。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/258308/032700074


 


 

華僑は「考えない」から要領がいい

華僑直伝ずるゆる処世術

2017年3月29日(水)
大城 太

 働き方改革が叫ばれ、ノマドワークやワークライフバランスなどといった言葉が注目される中、出勤というものに縛られない労働形態が浸透しつつあります。そのような状況ですので、どのような業種・職種でも「生産性」が評価基準で高いウエートをしめつつあります。いわゆる「要領のいい人」が評価される傾向であると言えるでしょう。

 「あいつは要領がいい」という言葉に、サボっているくせにずるい、といった良くないイメージを感じたのは一昔前のことです。今は「要領がいい」と言われたら、うれしく感じる人も多いのではないでしょうか。

 「要領のいい人になりたい」と思ってもなれない人は、「要領がいいとは何か?」を知るところから始めましょう。かくいう私も以前は全く分かっていませんでした。それを思い知らされたのが、華僑から言われた「考えるな」の一言。華僑に弟子入りした当時、いちばん驚いた教えでした。会社員時代は上司から「もっとよく考えろ」と言われていましたし、「まずは自分の頭で考えろ」という叱咤の言葉も社内でよく耳にしていました。

 ですが今では「考えるな」の教えが、恐るべきスピードで財を成す華僑の要領の良さ、生産性の高さとつながっていることを知っているので、私は部下に「考えろ」とは言いません。

 華僑の言う「考えるな」の意味するところは3つです。

@分からないなら考えるな(答えが出るはずがない)
A難しく考えるな(難しく考える時点でスピードが出ない)
Bその場で考えるな(準備不足、弱みの露呈につながる)
 ひとつずつ順番に見ていきましょう。

分からなくてもやってみるほうがいい


 まず、@分からないなら考えるなから。私は華僑から「バカが考えてもバカな答えしか出てこない」と身も蓋もない言い方をされましたが、言われてみれば真理です。中国古典の『荀子』にこんな言葉があります。「疑を以て疑を決すれば、決必ず当たらず」。確信をもたずに確信のない決定を下せば、その決定は必ず当たらないという解釈でいいでしょう。わざわざ間違った答えを出すためにウンウン唸って考えるほど要領の悪いことはありません。

 ではどうすればいいのでしょうか? 自分一人で考えようとせず、経験者に聞けばいいのです。難度の高い仕事に取り組む時などはもちろんのこと、例えば新規プロジェクトに参加する権利が与えられたなど、突然チャンスが舞い込んできた場合も、周囲や知り合いに類似した経験をもつ人がいれば、何も考えず迷わず悩まず教えてもらえばいいのです。

 もっとも、中国古典を熟知している華僑にしてみれば、身近に頼れる人がいるかどうかはさほど問題ではありません。中国古典には古代の先輩先人たちの経験体験からの叡智が詰まっています。中国古典による先輩先人の知恵を拝借すればいいと考えている華僑ですから、ビジネス経験が未熟な人でも「今は分からなくてもとりあえず手を挙げる」という積極性を持っており、そしてこのことが要領の良さを身につけるための基本となります。

 手を挙げなければ可能性はゼロ、得られるものもゼロです。ですが「私がやります」と手を挙げれば、たとえ失敗したとしても失敗経験という貴重な財産を手に入れることができます。また、会社としても何が失敗の原因となったのかといった情報を蓄積できるのですから、アレコレ考えずにチャレンジしたほうが得だと華僑は考えます。

「自分で考えて答えを出せ」は前時代的


 ですから分かっていないであろう部下が、自力でなんとかしようと考えているのを見かけたら、過去の事例などのヒントを与えるか、急を要するなら答えを教えてあげる指導の方が今の時代は正解です。一昔前は自分で考える苦しみが当人のためになる、という風潮が強く見受けられましたが、現代のようなスピードが非常に早い時代において、このような考えはもはや過去の遺産です。

 自分が部下の立場ならば、そのような分からない問題にぶつかった場合、素直に「これは私の現在の知識では手に負えません」と速やかに申し出るのも、一つの処世術です。「手に負えません」と申し出ることで力不足と評価されるのも怖いと思います。しかし、「○○までは私の知識で補えます、△△までをご教授いただけましたら、今後の社内共有のための資料としても役立ちますし、□□さんの実績にも貢献できるようになります」と上司や会社の利益にもなることを合わせてアピールすれば、マイナスに評価されることを避けられるでしょう。

分かっていない人ほど難しく考えたがる


 次にA難しく考えるなです。華僑いわく「世の中がよく分かっていない未熟者ほど難しく考えたがる」。これについては、『呻吟語』に出てくる「ただ道を得ることの深き者にして、然る後に能く浅言す。凡そ深言する者は、道を得ることの浅き者なり」が非常に参考になります。少々超訳になりますが、要領を得ている人ほど話すことが単純で分かりやすく、難しいことを言う人ほど要領を得ていない。そのように理解すればいいでしょう。

 文章も同じです。要点をしっかりと理解している人の文章には、小学生でも分かるような平易な表現が多く見受けられます。一方で、理解が中途半端な人、表面をなぞり丸暗記しているような人の文章は、難解な表現を多用していてスッと頭に入ってこないという特徴があります。理解が浅いから難しく表現してしまう、難しく表現することによって物事を難しく考える思考になってしまう、さらには難しいことをしているという自己満足に陥ってしまう。こう言うと、「未熟者ほど難しく考えたがる」の意味がお分かりいただけるかと思います。そのような人は意思疎通がスムーズでなく、また余計なことに時間を使うので、当然ビジネスのスピードが遅くなります。

 だからこそまずは@の「分からないなら考えるな」なのです。初めは理解が浅くても、経験者の智恵を借りながらしっかりと理解していけば、物事を簡単に考えられるようになり、スピーディーに成果を出せる要領のいい人になれるのです。

 ただし「難しく考えるな」を「難しいことをするな」と読み違えてはいけません。難しいこと(難度が高い課題)にチャレンジするのは素晴らしいことですし、それは自分や組織の成長に欠かせません。ただ、難度の高いことだからといって難しく考えたり、難しいノウハウを使おうとすれば、それはさらに難しいことになり、苦しくなる原因となります。上手くいかなかった時に「やっぱり自分には難しかったのだ」と諦めてしまう理由になったり、向上心を減退させたりする危険性もあります。

 一方、難しいことだからこそいかに簡単にするかを考えれば、気持ちが楽になり、チャレンジ精神を失わずにすみます。人にお願いして智恵や力を借りるのも難しいことを簡単にする方法ですし、上手くいかなければ別の方法を試せばいいという思考を持つことも前進を促します。

要領のいい人は未来の話より過去の話をする


 物事を難しく考える人と、簡単に考える人の違いは、例えばどの時間軸で話をするかにも現れます。今ある課題は未来へ向けたもの、だから上司や取引先などの相手に未来の話をするのが当たり前。この思考の順番は、華僑的には「難しく考えたがるバカ」ということになります。なぜなら未来のことは誰にも分からないからです。未来のことに対して「絶対にそうだ」と言える人はいないですし、未知のことは誰とも共有できないという弱点もあります。

 であれば、過去の話をすればいいということになります。『詩経』に「殷鑑遠からず、夏后の世に在り」という言葉があります(殷王朝が滅びたのは、殷の前代の夏王朝の失政を戒めとしなかったからだという故事に基づいています)。この言葉の解釈としては、つま先立って遠くを見ようと頑張らなくても、ちょっと振り返ればそこにお手本がある、でいいでしょう。

 過去のことは、それが誰の経験であっても(失敗経験でも成功経験でも、自社でも他社でも、自分でも他者でも)既知のこととして共有できます。そこから相手が納得する答えを引っ張り出して発展させるのは「簡単」なのです。

考えなくてもいいことを取り除く


 部下が将来のことを想像して心配していた場合、その心配はする必要のないものであることを伝えてあげるのが大切です。人間の脳は1つのことしかできません。同時に何かに取り組んでいるように見えても、あっちにいったり、こっちにいったりと思考をあちこちに混乱させているだけです。

 そのような特性を考えると、心配をしている状態というのは、何かに取り組んでいるのではなく、心配という思考をしていることになります。心配、不安になっている部下が期待しているような成果物をあげてくることは稀です。「心配や不安というものはまだ起こっていないものに対しての感情であり、既に起こってしまったことに対しての思考が解決だ」ということを伝えればいいでしょう。

 一方で、自分が難しく考えているな、と感じた場合ですが、「これを簡単に説明すると」や「たまたまということは起きない、過去に事例があるはずだ」を口癖にすれば、解決に向かうようになります。そもそも難しく考えていては、簡単に説明できません。簡単に説明する習慣をつけることによって、物事をシンプルに、軸だけブレさせずに考えられるようになっていきます。

 また、「たまたま」というものの確率を考えれば、ビジネスにおいてたまたま過去に事例のない難題が降りかかってくることは限りなくゼロに近いと思えるでしょう。先輩から過去の話を聞くことによって解決の糸口が見つかることがほとんどなのです。

華僑の会社では、何もしていない時に褒められる


 最後にBその場で考えるな。これは言い換えると、「あらゆる可能性を想定して普段から考えておけ」となります。特に、日々さまざまな決断を迫られ、トラブルに対応し、部下の育成もしなければならない管理職には必須の要領スキルといえます。

 「好んで小事を傲慢し、大事至りて然る後にこれに興りこれを務む」(荀子)。解釈としては、人はともすれば些細なことには手を抜いてしまい、大事に発展してからあわてて対策を講じる、でいいでしょう。何か事が起こってから考えていては、うろたえた様子を見せることになり、部下からも上司からもお客さんからも不安がられ、信頼など得られません。仮に今まで信頼を得ていたとしても、準備不足の狼狽した姿を見せてがっかりさせる危険性も大いにあります。

 という理由から、華僑の会社では、前もって考えることをせずに、その場の対応で一日中忙しくしている人は評価されません。私も経験があるのですが、頭が働く午前中にパソコンに向かって見積もりなどを作っていると「何をしているんだ?」と華僑のボスに怪訝な顔をされました。何もせずに綺麗に片付いたデスクでぼーっと考え事をしていた方が、彼の機嫌が良かったものです。

 部下に指示を出した時に、部下がキョトンとした表情をしたり、なんとなく浮かない顔をしたり、想定よりも時間がかかっていたりする場合は、仕事に対しての心構えのところで行き当たりばったりになっている可能性があります。その場その場で考えればいいや、という姿勢でいるのですね。その姿勢は視野を狭めます。何事も短期的・部分的に捉えるため、この仕事はおもしろくない、この仕事が何の役に立つのかわからないなど、仕事や指示に対して不満を抱きやすくなります。そのような場合は、「おもしろくない仕事や役に立たない仕事などはないんだよ。君自身が面白くない仕事のやり方をしているだけ、役に立たないと思ってこなしているだけだよ」と伝え、仕事の取り組み方いかんでいかようにでもなると励ますのがいいでしょう。

 自分自身が場当たり的で想定外に弱いと感じているのであれば、「想定外を経験すればするほど、想定内が増える」と言う事実を知ればいいでしょう。想定内が増えれば、今までたくさんの時間がかかっていたものが、瞬時にできるようになるのはもちろんのこと、新しい発想ができるようになります。新しい発想ができるということは見える景色が変わるのと同義です。発想というものは既知の知識と知識の組み合わせ、体験経験の組み合わせから生まれるものということを覚えておくことをお勧めします。

 時代とともに「要領がいい」という言葉のニュアンスが、やっかみを含んだあまり良くないものから憧れ・賞賛へと変わってきたように、華僑たちがよく口にする「ずるい」が「賢い」に変わる時代がくるかもしれません。ですが、潔しとして尊しの文化の日本では、そのまま「ずるい」=「賢い」にはならないと思いますので、本コラムは少しだけずるい「ずるゆる」なのですね。

課長候補者への“ずるゆる”指南


 それでは、“ずるゆるマスター”の事例を見てみましょう。

 「彼は要領が良くないから課長登用が見送りとは、時代が変わりましたね」と次長のYさんは遠くを見つめるような感じで部長の“ずるゆるマスター” Wさんに話しかけました。

 「そうだよね、僕たちの時代は要領がいい、はある意味嫌味で使われる言葉だったものな。ところが今は、役員も人事部も労働時間の短縮という社会問題や人手不足のあおりで、要領のいい人を求めている。いっちょ、昼からの研修でそのあたりをビシッと言ってくるか」

 Wさんは笑いながら、課長候補の人たちが集まるA会議室に入って行きました。一見クールなW部長の研修ですが、出席者の心を揺さぶります。

 早速、ある出席者から質問が飛びました。

 「部長、ということは部下が分からないことは答えを教えてしまった方が手っ取り早い、ということでしょうか? そのようなことでは自分で考える習慣が身につかないように思いますが」

 「なるほど、それはいい質問だね。『疑を以て疑を決すれば、決必ず当たらず』。荀子という中国古典にある言葉なのだけどもね。ハッキリとした確信がもてないまま進めてしまえば、必ずその歪みはどこかで出てくる。例えば小学校時代の簡単な算数の割り算を思い出して欲しい。割り算を解くには、掛け算の九九を完全にマスターしていないと間違ってしまう。掛け算の九九がうろ覚えの状態で割り算を解いてはいけないのだよ。現代のビジネスはスピードが大きな比重を占めている。基礎となる経験が欠けているようなら、それに対して助け舟を出した方が、上司部下双方にメリットがあるんだ」

 「はい、試してみます」

社内書類を手書きOKに。その狙いは…?


 今度は、社内資料についての質問です。

 「社内書類ですが、今まではパソコンが苦手な課員でもワードやパワーポイント、イラストレーターなどを使って清書して出していたのを、手書きのものをPDF化でOKにするというのは、ちょっと行き過ぎではないでしょうか?」

 「確かに正式な文書として残すのにはなんらかのアプリケーションを使うべきだと思うよ。でも今、私が話したのは途中経過の報告に限ってだよ。『ただ道を得ることの深き者にして、然る後に能く浅言す。凡そ深言する者は、道を得ることの浅き者なり』。呻吟語に出てくる言葉だ。意味としては、分かりやすく簡単な表現を使う方が的を射ていることが多い、反対に難解な言葉をたくさん使ったものは理解が浅く、実戦で使えないもの、という感じで理解してほしい。

 格好良く、難しいことにチャレンジしたように見えるパワーポイントやイラストレーターは、作成者にとっても良くないことなんだ。資料や提出書類というものは見た目の格好よさではなく、その中身、書いてあることに意味があるんだよ。

 パソコンに向かって書類を作る際には、畏まったものを作らなければならないと身構えるし、文章にしても賢く感じられる用語や堅苦しい表現を選びがちだ。平易な言葉でいいのに、あえて難しい言葉を使おうとしてしまう人が多いんだよ。それが良くないというのは、伝わりづらいというだけじゃない。難しい言葉を羅列した資料を作ることによって、作成者自身が物事すべてを難しく考えてしまう、ビジネスの要約能力の放棄を促してしまうという大きな弊害があるからなんだ。サラッと手書きで簡単なラフを考え、それをPDF化することを社内文化として定着させ、さらには、難しく考えることが要領が悪く、格好の悪いことなんだ、という状態にもっていきたい」

 「言われてみると、部長の仰る通りですね。資料や書類というものはそれ自体に価値があるのではなく、そこに何が記されているかですね。また、パワーポイントなどで作り込んだときは何か一仕事を片付けた気分になってしまうかもしれません」

「その場で考えるな」はプライベートを充実させる


 次にこんな質問が飛び出しました。

 「部長、通勤時間の間に10分だけ仕事の段取りや課題について考える習慣をつけよう、と指導するのは、プライベートなことに口出しをすることになり、時代に逆行しているように感じるのですが」

 「うん、言いたいことは分かるよ。命令となれば反発もあるだろう。だからあくまでも経験に基づいたアドバイスの範囲で、だね。事前に考える習慣は部下のプライベートの充実につながるのだよ。仕事で一番やっかいで、プライベートにも影響することは何だろう?」

 「トラブルですかね。時間も体力も気力も奪われますので」

 「その通り。皆も経験済みだと思うけど、トラブル処理というのは心身ともに疲弊させ、思いの外、他の業務へ悪影響を及ぼし、業務効率を著しく下げる。プライベートな時間にも心配の影を落とす。

 そもそも、トラブルというのは想定していないところで起こってくるものだ。『好んで小事を傲慢し、大事至りて然る後にこれに興りこれを務む』。これも荀子の言葉なんだけど、意味としては、人はともすれば些細なことには手を抜いてしまい、大事になってからあわてて対策を講じる、というように覚えておけばいい。

 小さなことを大切にしていれば、大事というものは起こらない。どんな事例でも大事になるのは、必ず小さな予兆があるものなんだ。要領良く業務をこなしてもらって、大事になる前に考える時間を各自がもてるようになるのが、会社にとっても、上司である君たちにとっても、部下である彼らにとってもいいことなんだ」

 「はい、よく分かりました」


 スピーディーに多くの仕事をこなすのに悲壮感もなく、いつも楽しいそうにしているあの人は、@分からないなら考えるな(答えが出るはずがない)A難しく考えるな(難しく考える時点でスピードが出ない)Bその場で考えるな(準備不足、弱みの露呈につながる)、の3つを常に意識している“ずるゆるマスター”かもしれません。

 今回紹介した「考えるな」の他にも、私が華僑から学んだ要領スキルはたくさんあります。それらを要領よく知りたいという方は、ぜひ拙著『華僑の大富豪が教えてくれた「中国古典」勝者のずるい戦略』をご参照ください。


このコラムについて

華僑直伝ずるゆる処世術
 世界各地に移住し、そしてその土地土地で商売を成功に導いている華僑。華僑は日本人ではなかなかマネができない“生き方のコツ”を持っている。“生き方のコツ”と一口に言ってもビジネス、家庭生活、対人関係、子育てなど多岐に渡る。本コラムでは、華僑の師から学び実践して結果を出してきた筆者が、生真面目な日本のビジネスパーソンにぜひ取り入れてほしい成功術を紹介する。華僑のずる賢くもゆるく合理的な処世術(世渡り術)はきっと仕事にも人生にも役立つはずだ。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/022500005/032700029

 


クラッシャー上司が「社員は家族」を好む理由

河合薫の新・リーダー術 上司と部下の力学

『クラッシャー上司』著者・松崎一葉さん×河合 薫 特別対談(3)
2017年3月29日(水)
河合 薫

 話題の新書『クラッシャー上司 平気で部下を追い詰める人たち』(PHP新書)。部下を精神的に潰しながらどんどん出世していくパワハラ上司の事例が次々と登場し、「うちの会社にもいる」と思わせる「いるいる感」に引き込まれて読み進むことになる。

 著者の松崎一葉さんは、筑波大学医学医療系産業精神医学・宇宙医学グループ教授で、産業医でもある。クラッシャー上司の話はちょっと怖いけど、「松崎先生には会いたい」との河合薫さんの熱望で実現した二人の対談。

 松崎さんは、日本企業の経営トップがよく使う「社員は家族」という言葉に潜む危うさを指摘する。一体、どういうことなのか?

(編集部)
(前回「窮地のクラッシャー上司は、あの言葉を繰り返す」から読む)

一家主義による同調圧力から「クラッシャー上司」が生まれる


松崎 一葉(まつざき・いちよう)さん
筑波大学医学医療系産業精神医学・宇宙医学グループ教授。1960年茨城県生まれ。1989年筑波大学大学院博士課程修了。医学博士。産業精神医学・宇宙航空精神医学が専門。官公庁、上場企業から中小企業まで、数多くの組織で精神科産業医として活躍。またJAXA客員研究員として、宇宙飛行士の資質と長期閉鎖空間でのサポートについても研究している。「クラッシャー上司」の命名者の一人。
河合:奥さんに逃げられてうつ病になってしまったり、帰国子女に逆クラッシュされたり。「クラッシャー上司」って意外と打たれ弱いんですね。

松崎:一丸となって一つの価値観の下でやっていかないとダメだって、思っているから。逆に言えば、その考え方があるからこそ、部下を潰してしまうような自分の言動を正当化できる。

河合:私、日本に帰ってきていちばんしんどかったのが、その「みんなと一緒」を良しとする空気です。みんなと同じがいちばん、という。

松崎:つまり、一家なんですよ。「河合組だろ」みたいな。

河合:めちゃくちゃ日本的。日本企業のトップがよく口にする「社員は家族」もソレですよね。自分が社員を大切にしていることを訴えるときの常套句ですよね。

松崎:そのとおりです。一家主義が生むのは、同調圧力なんですよね。僕が「こうだ」といえば下は従うしかない。同一の価値観です。大学の研究室にも一家主義的なものがあるし、日本の企業の経営者って、一丸となってやっていかないとダメだ、といった呪縛から離れられないケースが多いですね。

河合:呪縛なんですか?

松崎:うん、呪縛。僕にもね、そういうところがあった。ところが昨年、博士課程に外国人の女性が入ってきたら、僕が変わってしまった…。

河合:イケイケ教授だったのが、いきなり好々爺になってしまったとか?(笑)

松崎:近いですね〜(苦笑)。なんかね、医局会での一家主義的「こうしようぜ!」発言が、激減してしまったんです。「彼女は日本人じゃないから、こんなやり方には戸惑うだろう」って思っちゃって。

河合:誰かから指摘されたわけでもないのに、先生ご自身で?

松崎:そうです。それまでは一致団結することが、最優先事項だと思っていたわけです。でも、一致団結はあくまでも結果であって、それを目的にして締め付けを強めたりしては本末転倒です。

 やっぱりダイバーシティって、必要なんだなぁって痛感しましたよ。だって、外国人の学生がたったひとり入っただけで、僕の「こうしようぜ!」発言がなくなるんです。外国人が加わることが外圧となって、日本人特有の同調圧力や単一の価値観が否応なしに壊れていくんです。

河合:逆にそれを脅威に感じる人もいるんじゃないでしょうか。「オレたちのやり方、変えるなよ」みたいな。

松崎:それ、河合さんがメルマガでよく書いている「ジジイの壁」ですか?

河合:はい。ジジイの壁は厚いですよ〜(笑)。点じゃなく、面ですから。

 “ジジイ”というのは、会社のためといいながら自分の保身だけに生きている人たち。だからオバさんでもジジイはいるし、若くしてジジイになる人もいます。口癖は「前例がない」とか、「そんなことをやって責任を取れるのか」とか。自分たちのやり方が変わるのを、徹底的に嫌うんです。

松崎:そして、ジジイの壁の向こう側にへ行っちゃう。体の中が壁の向こう側に行っても、大所高所からの判断がきちっとできればいいですけど、そういう見識も持たない人たちは多いですよね。

河合:だから同調圧力が生んだ「俺のルール」を壊すのって、メチャクチャ大変だと思うんです。外圧が女性なら「スカートを履いたオッサン」になるか、そこから退散するか、どちらしかない。

松崎:そうやって組織って末期に向かって行くんですよ。

河合:中途半端にアメリカ産の成果主義とか輸入しちゃったのが、問題なんですよ。バブルが崩壊して自分たちのやり方が行き詰まったからって、「アメリカ=世界基準だから」みたいな感じで安易にマネた。

 そもそも文化も違うし、国民性も違う。そりゃあ、副作用も大きくなりますよね。年下の男性が上司になるのはギリギリ我慢できても、年下の女性が上司になるのは許せない。

「あうんの呼吸」が、相互の信頼感を低下させている

松崎:厄年を過ぎたぐらいから人は基本的には保守的になっていきますし、キャッチアップされる不安って、やっぱり大きいんですよね。あと、“刺される”んじゃないかという、恐怖感です。

河合:さ、刺される?!!(苦笑)

松崎:ええ、そうです。日本人同士だと、あうんの呼吸というか、絶対に俺のことを“刺し”はしないよみたいな安心感が何となくありますから。

河合:なるほど。安心感という言葉か?、刺すって言葉で説明した途端、重みを増しますね。


松崎:実は、そういった多様性の低さによる「安心感」というか、「社会の信頼感」があるからこそ、震災のような危機があったときに、一致団結できて、立ち向かえるという面もある。そういう意味で、日本人のSOCはとても高いと思いますよ、多民族国家に比べたらね。

河合:確かに、SOC理論を提唱したアントノフスキーは、1980年代に書いた著書で「日本人のSOCは高い」と書いています。SOCの土台には、「信頼出来る人たちに囲まれている」という確信が必要です。でも、私は今の日本に、その信頼感があるとは、到底思えません。

松崎:アメリカってコインに刻まれているように、「多様性のなかの統一」を国の理念としている。多様性を尊重したまま統一していくことがとても大事で、そのためのアメリカの第一の命題は自由です。自由の保証。

 でも、日本って統一しないといけないよねなんていう考えは初めからないというか、必要がない。それが社会的な信頼になっているんじゃないでしょうか。

河合:私は全く逆で、それが今の日本社会の信頼感を低下させている、という考えです。

 SOCの構成要素の把握可能感(直面した出来事を説明可能なものとして把握でき、将来をある程度予測できる感覚)は、一貫した経験によって作られます。そういった意味では、日本はSOCを高くする潜在能力はあると思います。

 でも、同種同質であるがゆえに可能となった「あうんの呼吸」が、逆に信頼感を低下させちゃっている。

 私、子供のときアラバマ州という、うちの家族しか日本人がいないようなところに住んでいたんですけど、アメリカ人って、すぐ聞く。なんでも聞くんです。最初の頃なんて英語通じないのに、アレコレ聞いてくるんです。

 例えばキャンプにいきますよね。大抵、教会とかYMCAが主催するんですけど、夜になると宗教の時間みたいなのがあって、「カオルはブディストか?」って聞かれる。食事も、チキンでいいのか、ビーフでいいのかとか。ものすごく聞きまくるんです。

松崎:そうね。確かに、なんでも聞くかもしれませんね。

河合:コミュニケーションの取り方が、日本とは明らかにちがう。知らない人でも「ハーイ」と声をかけるし、買い物をしていると「そのバッグ、どこで買った?」って聞かれたり、「あなたのその靴、すてきね」と褒められたり。

 そういったマメなコミュニケーションをとることで、信頼できるリソースか確かめられるし、信頼感を築くことにもつながると思うんです。

松崎:僕ね、アメリカの大学のラボに入って2〜3週間くらいたったときだったかな。うちのボスのところに「今度お前のところに入ったあの日本人は、感じ悪いな」と言ってきた人がいたんです。

 「え、何で?」と聞いたら、「全然、挨拶しない。あいつ、おかしいんじゃないか」って。でもね、僕はちゃんと挨拶していた。だから「やっていますよ」と言ったの。

 そしたら「それじゃダメだ」って。「Good morning」とデカい声で言うか、もしくは大げさなリアクションでやるか、そうしないと相手はコミュニケートしているとは思わないって。

河合:通販のCMみたいに(笑)

松崎:そう、そんな感じです(笑)。それから必ず僕の方から「Good morning!!」と大きな声をかけてコミュニケーションとるようにしたんですね。そしたらね。不思議なんだけど、それだけで「相手に背中を見せていいんだ」と思えるようになった感覚が生まれました。“刺されない”って、確信が持てた。

河合:守護霊も……。後ろからんにゅ〜っと現れるんじゃなく、「おはよう!」って明るく出てきてほしいですね(笑)(「窮地のクラッシャー上司は、あの言葉を繰り返す」参照)

松崎:そうですね。挨拶は大切ですよね。

河合:元気な会社って、かならず挨拶が飛び交っているんですよね。コレ、本当に。日本人のSOCが高いかどうかは、またじっくり先生とお話ししたいですね。

病欠は人事考査でプラス評価すべき


松崎:是非、お願いします。でも、会社という社会で、ストレスの雨に対峙するために用意されているリソースが上手く使われていないという点は、河合さんと意見が一致してますよね。

河合:外的資源、つまり、会社が社員に提供するリソース。有給休暇のほか、育休や産休といった制度もすべてそうです。例えば、日本の育休制度って、欧米と比べてもかなり恵まれている、とても優しい制度です。でも、そのリソースがうまく使われていない。

松崎:使いにくい空気があるんですよね。有休が代表例です。例えば、メンタル不調を訴える社員に、「1週間ぐらい休んでごらんよ」ってアドバイスするんですね。「うつにはなってはいないけど疲れていて、休息が必要だから診断書を書いてあげようか」って。

 すると人事が「まだ有休が残っているから、有休から処理させましょう」となる。「病欠は、人事考査でマイナスになる」って。これ、おかしいでしょ? 誰だって生きてりゃ病気になるのに、人事考査でマイナスになるって考え方。明かにおかしい。

河合:現役バリバリ24時間働きまっせみたいな人が、スタンダードになっちゃってますよね。

松崎:一生懸命働いていれば、ときにちょっと病むことがあるのは当たり前なんですよ。それがマイナスって……。

河合:先生、そういう会社側のスタンスに、産業医として苦言を呈したりしないんですか? 「戦う産業医」って、社員の最強のリソースになると思いますけど。

松崎:僕が文句を言って、会社が変わる可能性があるならば言いますけど、変わらないんですよ、現実には。本当、残念なことに。

 だからエビデンスを積み重ねて、ミクロではなくマクロの視点から「ホラ!」ってやるしかないんです。

河合:でも、これまた残念なことに、日本の経営者はエビデンスより、自分たちの成功体験で語りたがりますよね。だから、応急処置にしか過ぎない「バンドエイド治療」ばかりが横行する。自分たちが銃弾を放っているのに「ナニ、どうした? 傷ついちゃったか〜。じゃ、バンドエイド貼っておこうね〜」みたいな。

松崎:ただ、まあ大きな問題も起きず、それでやっていけちゃうことも多い。だから、「ハードワークによるうつとか体調不良とかがトラブルになるのは、運が悪かっただけ」と思いがちなんです。

河合:大きな事件がおこると、あたかもその会社だけが特別に問題があったような扱われ方しますけど、ほかの会社では「たまたまおきてないだけ」なんですよね。

 コレ言うと、中間管理職の方たちから「眠れなくなるから止めて」って言われちゃう。職場において実際に問題が生じるのは、経営幹部と当該社員の間ではなく、直属の上司との間ですから。

松崎:上司の力は大きいですね。うつになった患者さんを職場復帰させるでしょう。上司が「何とかして戻そう」と考えるか、内心「厄介だな」と思うかが、職場復帰の成否を決定していると言っても過言ではありません。

河合:上司って、逆上がりを出来なかった人に限るんですよね。

松崎:どういうことですか?

河合:逆上がりって、最初からできる人はあまり考えずともできる。簡単にできちゃったから「どうやったらできるの?」って聞かれても、答えられない。つまり、上司もちょっとくらい病んだ経験のある人のほうがいいです。病欠は人事考査でマイナスじゃなく、プラスにすべきですね。

割り切った働き方をすると、ますます仕事がつまらなくなる

松崎:でしょ? 僕ね、リソースに関してもう1つ河合さんに聞きたかったことがあって。リソースの「使い手」の方の問題なんですが。

河合:はい。

松崎:河合さんが以前、この連載の中でも触れていたウエートレスのおばちゃんの話です(「「罵倒ツイッター」が映す地位に溺れる人々」参照)。彼女は「皿をテーブルに置く時、音ひとつ立てない」と語り、ウエートレスという一見単調な仕事に、自分の意義を見出しているじゃないですか。あれって、SOCの構成概念のひとつ、「有意味感」に近いですよね。


河合:ええ、有意味感は、自分の遭遇した困難に意味を見出す前向きな力です。と同時に、人はそこに意味を見出すから、自分の存在意義、存在する意味を感じることができる。有意味感は、すべての対処的行動の原動力になる部分です。今の日本人にもっとも必要な感覚だと、個人的には思っていますが。

松崎:僕も同じです。あのウェイトレスの女性は、仕事に意味を感じるからああやって前向きに取り組めるんでしょうか。学生とか、企業の若い人たちを見ていると、本来、有益なリソースとなるものが目の前にあるのに、その意味を見出す前に安易に辞めてしまったり、楽なほうに逃げたり、手放してしまっていることが多い印象を受けます。つまり、質のいいリソースが目の前にあるのにそれを使う力が低い。

河合:ウェイトレスの女性の有意味感は極めて高い。ただこれは「個」だけ問題ではなく、「環境」と「個」のかかわり方が重要なんです。「それでいいんだよ。ちゃんと頑張っているね」って、自分にアテンションしてくれる人がいたときに、初めて人は「自分の存在意味」を見出し、仕事を意味あるものにすべく前向きに取り組めます。

 でも、逆も真なりで、どんなたわいもない仕事だと思えても、一生懸命、プラスアルファを加えていく努力をすることも大切。例えば、お茶出しの仕事でも、ただお茶を入れて出すんじゃなくて、自分でお茶の勉強をしたり、ちょっとでもおいしいお茶を出すように工夫したり。そうやっているうちに「うまいな、コレ」なんて言ってもらえると、「やった〜」っと自分の存在意義を感じることができて、有意味感も高まる。「鶏が先か、卵が先か」っていう面はあるんですが……。

松崎:なるほど。鶏と卵ですね。

河合:これ結構あっちこっちで話しているんですけど、私は大学を出た後に、憧れていたいキャビンアテンダントになったんですが、実際のCAの仕事は肉体労働が多くて、初フライトのときに「こんな仕事、意味ないじゃん」ってがっかりしたんです。新人の頃って、特に雑用が多いですから、本当に意味が見出せなくて。なので「だったら、もう適当にフライトをやって、ステイ先で楽しめばいいや」って。

松崎:割り切っちゃえばいいや、って思ったんですね。

河合:はい。でも、そういう働き方をすると、ますます仕事がつまらなくなる。そのときに会社で、「キャビンアテンダントって、大変だろう? 肉体労働だろう? でも頑張れよ」って声をかけてくれた人がいた。その時、「ああ、この人、わかってくれてるんだ」ってちょっとホッとしたんです。

 そしたらなんか、こうエネルギーが充電されるというか、「あ、そうだ。お客さんにサービスするときに、ただお食事出すだけじゃなく、ちょっと話しかけてみようかな」とか思うようになって。それで実際話しかけてみると、結構、楽しくて、それからいろいろな工夫をするようになったんですね。

クラッシャー上司の被害は、独りでは対処できない

松崎:なるほど。僕のところに来るうつ病になった社員、特に20代ですけど、仕事に意味が感じられない、意義が感じられない、それでうつになったという人がすごく多いんです。月に20人ぐらい、そういう人たちの話を聞いています。

 今、河合さんの話を聞いていて、若い時分、御巣鷹のJAL墜落事件の事故の救護に行かれた防衛庁幹部の方の話を思い出しました。そのときの作業は自衛隊の最前線にいる相当タフな人にとっても、本当に厳しいものだった。

 彼は、1日目で「俺には耐えられない。俺には自衛官としての資質がない」って感じて、「このミッションをやり遂げたら、自衛官を辞そう」と決意したそうです。だから2日目からは、何も考えず、無心で厳しい作業に取り組んだそうです。

 そしたら、2日、3日とやるうちに、「この厳しい作業ができるのは、俺しかない」と思うようになったというんです。「これをできるのは、俺たちの部隊しかない」って。その自信と誇りを持って、最後までやり遂げたと言うんですよ。

 だからね、こんな仕事は無理とか、こんな仕事に意味はないとか、絶対に適性はないというふうに思ったとしても、その有意味感が得られない仕事に自分で意味を与えられるようになるかどうかが、1つの壁というか殻であって。

 そこの殻を破るには、とにかくまずは没頭して……、没頭するしかないんですよね。

河合:その通りだと思います。もう本当、目の前にあることを、足元のことを、きちんとやる。それしかないんですよ。今って、こういうこと言うと「精神論だ」とか、「時代が違う」とか批判する人がいますけど、人間の本質って時代で急に変わるものではない。価値観は多少、変わるかもしれません。でも、本質は変わらないんですよね。

 だからこそ、先生が往年の人気ドラマ「岸辺のアルバム」で見たクラッシャー上司が、今もいろんな企業に存在するわけですよね。

松崎:そう、そのとおりです。

河合:上司って、部下に「ちゃんと見てるぞ」というメッセージを送って、有意味感を持たせることが大切だし、ひょっとするとそれくらいのことしかできないのかもしれません。

松崎:だから「守護霊」になることが大切なんですよね。

河合:では、最後に一つだけ。「クラッシャー上司のもとで、逃げ場を失っている人」にアドバイスをいただけないでしょうか?

松崎:そうですね。まずは自分が置かれている状況を、誰かに伝えるということですね。友達でもいいでしょうし、話しやすい人でいい。コレね、実は自分自身にも、上司にも効くんですよ。

河合:人に聞いてもらうだけで、本人がちょっとだけスッキリすることはあると思うんですが、上司にも効くというのは?

松崎:これまで説明してきたように、基本的にクラッシャー上司には悪意がないわけです。「部下のため」「会社のため」にやっているという自己解釈なので。ただ、僕のときがそうだったように、それを聞いた誰かが「今のやり方、よくないですよ」と上司に気付きを与える場合がある。

河合:秘書さんが、先生が准教授に厳しく接しているのを見て恐くなって辞めた、という話ですね(「クラッシャー上司、口癖は「お前のため」」参照)。

松崎:そうです。部下もね、スッキリするだけじゃなく、上司の別の側面を知るきっかけになるかもしれない。

河合:確かに。コミュニケーションって受け手がすべてを決めるので、受け手、つまり部下側の認識が変わると受け止め方も変わりますよね。

松崎:部下側から上司にコミュニケーションをとることで、いい意味での化学反応が起こることもありますから。

河合:でも、先生のご著書『クラッシャー上司 平気で部下を追い詰める人たち』を読むと、簡単には変わりそうもないクラッシャー上司もいますよね?

松崎:ええ、現実にそうした人はいます。その場合は、社内通報の担当窓口でもいいし、ほかの部署の上司でもいいし、ある程度権限をもった部署や人に相談をしてみる。社内通報の利用は心理的にハードルが高いという場合には、部署内のメンバーでもいいので情報をシェアするといった段取りが大事です。

河合:それでもどうにもならない場合は?

松崎:これは1人の力では絶対どうにもならないので、僕たちみたいな産業医に相談してください。産業医への相談内容は完全に守秘されるので、安心して相談して下さればいいと思います。

河合:アドバイスありがとうございます。ただ、読者の皆さん、産業医の先生に相談してもなかなか状況が改善しないときには、私にご連絡を。どこかとおつなぎいたします。

松崎:ん??? どこかって、もしかして僕のところですか?

河合:もしかしたら、そういう場合もあるかもしれません(笑)

松崎:(苦笑)

河合:冗談はさておき、先生、本日は長時間ありがとうございました。勉強になりました!

松崎:こちらこそありがとうございました。


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このコラムについて

河合薫の新・リーダー術 上司と部下の力学
上司と部下が、職場でいい人間関係を築けるかどうか。それは、日常のコミュニケーションにかかっている。このコラムでは、上司の立場、部下の立場をふまえて、真のリーダーとは何かについて考えてみたい。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/200475/032000098
http://www.asyura2.com/17/hasan120/msg/550.html

[戦争b19] トランプ大統領、北朝鮮に「禁断のカード」切るか  核実験準備は「最終段階」6回目験は多重核爆発方式
コラム:トランプ大統領、北朝鮮に「禁断のカード」切るか

 3月24日、ティラーソン米国務長官は今月、北朝鮮に対する「戦略的忍耐」はすでに終わり、同国の核開発の野望に歯止めをかけるために「あらゆる選択肢がテーブルの上にある」と警告した。写真はトランプ大統領。1月、ワシントンの米国防総省で撮影(2017年 ロイター/Carlos Barria)
Peter Apps

[24日 ロイター] - ティラーソン米国務長官は今月、北朝鮮に対する「戦略的忍耐」はすでに終わり、同国の核開発の野望に歯止めをかけるために「あらゆる選択肢がテーブルの上にある」と警告した。その言葉通り、米韓両軍の部隊は幅広い軍事シナリオに向けて準備を進めている。

4月末まで行われる米韓の合同軍事演習には、実に30万人が参加する。1953年に朝鮮戦争が停戦して以来、朝鮮半島ではこうした演習が日常的な光景となっている。近年では、その規模は拡大し、より現実的なものとなった。

少なくともビル・クリントン氏以降の歴代米大統領は皆、北朝鮮の核兵器開発問題に取り組み、その対応として想定される幅広い軍事行動についての提言を受けてきた。

これまでのところ、攻撃実行を決意した大統領は1人もいない。

これは主として、北朝鮮の報復によって朝鮮半島と、恐らくはさらに広い近隣地域を血の海に巻き込む可能性を考えれば、どの選択肢も好ましからぬものだったからだ。さらに悪いことに、かつての朝鮮戦争がそうであったように、半島における武力衝突によって米国が中国との戦争に引きずり込まれる可能性さえある。

だが、金正恩朝鮮労働党委員長が率いる北朝鮮が核弾頭やミサイル実験を進めるなかで、多くの専門家は、米国政府が最終的に軍事行動に踏み切る可能性は徐々に高まっていると考えている。

トランプ大統領は、北朝鮮政府が米国を核攻撃できる能力の開発を許さないと発言している。だが、仮にトランプ氏が北朝鮮の施設への限定的な攻撃を命じたとしても、同国の核開発プログラムは一時的に減速するだけだろう。そして、このような作戦は北朝鮮による残虐な報復を招く可能性がある。北朝鮮の体制打倒という、より大きな目標を定めるとすれば、多大な労力が必要となるだろう。

だとすれば、米国がこれまで、経済制裁やミサイル実験妨害のためのサイバー攻撃といった代替的手段の継続を選択してきたのも無理はない。最近になって地上配備型ミサイル迎撃システムである「高高度ミサイル防衛システム(THAAD)」を韓国と日本に配備したことは、ある程度の備えにはなるはずだが、北朝鮮のミサイルに対してどれだけ有効かは未知数だ。

米国政府がさらに強く出るとすれば、最も可能性が高い行動は、北朝鮮のミサイル・核兵器関連とみられる施設に対する、奇襲による空爆だろう。それも圧倒的な規模で行なわれることが望ましい。

こうした行動によって核開発プログラムを完全に破壊する可能性は小さいが、開発を遅らせることになる。うまく行けば、弾道ミサイルをディーゼル電気推進型の潜水艦に搭載するといった、北朝鮮政府のより野心的な兵器開発プログラムの一部が完了するのを防ぐことができる。

米空軍が保有するなかで最大と考えられている通常爆弾、3万ポンドの大型貫通爆弾「GBU−57」は、まさにこの種の標的を念頭に設計されたものだ。

当初はイランの核施設を破壊することを主目的としてジョージ・W・ブッシュ政権下で開発されたこの爆弾は、各地域の基地や米国本土から発進するB2ステルス爆撃機から投下することが可能だ。

通常のジェット爆撃機と違って、B2はほぼ探知されることなく北朝鮮の空域に侵入できるはずだ。恐らく、より現代的なF22戦闘機ラプター、あるいは、さらに新型で現在東アジア地域に配備されているF35統合打撃戦闘機が何機か帯同することになる。

では、なぜこのような攻撃がこれまで行なわれなかったのか。それは、イランの核施設に対する攻撃が行なわれなかったのと同じ理由だ。多くの専門家は、こうした攻撃によっても多くの施設が無傷で残ってしまい、想定される報復が悲惨な結果をもたらすと考えている。

イランに関して米国政府が懸念していたのは、イラン政府がペルシャ湾岸の石油・天然ガス関連施設や輸送路に報復を加え、ただでさえ不安定なグローバル経済に破滅的とも呼べる影響をもたらすことだった。北朝鮮に関しては、日本やグアムなどにある域内の米軍基地にミサイル攻撃を仕掛け、韓国に対して圧倒的な砲撃を浴びせる可能性を懸念している。

北朝鮮による砲撃の効果について、アナリストらの見解は分かれている。北朝鮮の砲兵部隊は最初の1時間で最大50万発の砲弾を韓国の首都ソウルに撃ち込めるとの声もあれば、より懐疑的な意見もある。

また、北朝鮮が自国のミサイルと弾頭が狙われていると考えた場合、先手を打って発射してくる恐れがある。標的として最も可能性が高いのは日本だろう。

いずれの行動も、米韓両政府による北朝鮮制圧に向け準備されたシナリオの発動を促し、恐らく北朝鮮の現体制は終焉を迎えることになるだろう。

ここ数年、米韓両国軍は、北朝鮮の攻撃を阻止するための演習から、非武装地帯(DMZ)を越える全面的な侵攻作戦の立案へと関心を移している。

これは本格的な作戦行動であり、近年の歴史において米国やそれ以外の国が戦ってきたどんな戦争よりも大規模なものになろう。攻撃部隊は山岳地帯、組織的な抵抗に加え、化学兵器や核兵器、放射線兵器といった潜在的な脅威に立ち向かわなければならない。

いくつかの兆候からすると、米国は単に北朝鮮体制上層部を抹殺することで、戦闘激化を防ごうとするかもしれない。

韓国の聯合ニュースによれば、今月の演習には米海軍特殊部隊シールズの「チーム6」も参加している。2011年にアルカイダの指導者だったオサマ・ビンラディン容疑者の暗殺を実行した部隊だ。引用された韓国軍幹部の発言によれば、チーム6は韓国側特殊部隊とともに、北朝鮮首脳陣に対する攻撃シミュレーションに取り組んでいるという。

こうした選択肢の実行は非常に難しいだろう。北朝鮮の防空網によりヘリで部隊を送り込むのは困難で、金正恩氏は厳重に警護されていると見られている。

今のところ正恩氏は、誰からも妨害されることなく核開発計画を強化していけると考えているようだ。だが米政府としても、それをただ指をくわえて見ているつもりはないかもしれない。

トランプ氏は米国の歴代大統領のなかでも最も予測困難な人物の1人だ。北朝鮮に対する軍事的選択肢を行使するというリスクを冒すような米国の指導者がいるとすれば、それがトランプ大統領だったとしても不思議はない。

厄介な選択だ。行動することが惨事の引き金になる可能性もある。だが、何もやらないままでは、さらに悲惨なものとなるかもしれない将来の紛争を招いたと、非難されることになるかもしれない。

*筆者はロイターのコラムニスト。元ロイターの防衛担当記者で、現在はシンクタンク「Project for Study of the 21st Century(PS21)」を立ち上げ、理事を務める。

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにロイターのコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

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http://jp.reuters.com/article/apps-northkorea-idJPKBN17005W?sp=true

 


2017.3.29 10:10
【北朝鮮情報】北の核実験準備は「最終段階」 米研究機関が分析発表


北朝鮮・豊渓里にある核実験場の衛星写真=7日(デジタルグローブ/38ノース提供・ゲッティ=共同)
 【ワシントン=加納宏幸】米ジョンズ・ホプキンズ大の北朝鮮分析サイト「38ノース」は28日、北朝鮮北東部、豊(プン)渓(ゲ)里(リ)の核実験場を今月25日に撮影した衛星写真から、6回目の核実験に向けた準備が「最終段階」にあるとする分析結果を発表した。

 実験場の坑道入り口に3、4台の車両か運搬用トレーラーが確認された。坑道内から伸びた通信ケーブルが地上に敷設され、トレーラーにつながっている可能性があるという。ケーブルは核実験の開始やデータの収集に使われる。

 坑道から水が排出されていることも確認された。坑道内にある実験の観測や通信に使われる機器の乾燥状態を保つためとみられる。

 同サイトはこうした動きは「実験準備の進展を強く示唆している」と指摘。一方で、北朝鮮が衛星で監視されていることを前提に偽装することもあるため注意が必要としている。
http://www.sankei.com/world/news/170329/wor1703290025-n1.html


北朝鮮が核実験の準備進める 米研究グループが指摘
3月29日 7時51分
アメリカの研究グループは、北朝鮮の核実験場の最新の衛星写真の分析結果を発表し、実験データの収集などに使われると見られるケーブルのようなものが新たに敷かれていて、核実験の準備が進んでいることがうかがえると指摘しました。
アメリカのジョンズ・ホプキンス大学の研究グループは28日、北朝鮮北東部のプンゲリ(豊渓里)にある核実験場を25日に撮影した衛星写真の分析結果を発表しました。

それによりますと、過去に核実験が行われた北側の坑道の入り口付近に、実験データの収集などに使われると見られるケーブルのようなものが新たに敷かれているのが確認できるということです。また、坑道から水を排出する作業が行われていて、実験用の通信機器の設置などのためだと見られるということです。

こうしたことから、研究グループは断定を避けながらも、核実験の準備が進んでいることがうかがえると指摘しました。その一方で、北朝鮮には偽装する能力もあり、実験が差し迫っているかについては慎重な見方が必要だともしています。

また、研究グループは、核兵器の原料となるプルトニウムの抽出につながる原子炉の稼働が再開した可能性が高いと指摘しているニョンビョン(寧辺)の核施設で、今月、放射性廃棄物などの運搬に使うと見られる貨車が確認され、活動が続いているとも指摘しました。
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「北朝鮮 弾道ミサイル発射 “新たな段階の脅威”」(ここに注目)解説委員室ブログ 3月7日
「不透明さを増す北朝鮮情勢」(時論公論)解説委員室ブログ 2月27日
NHKスペシャル スクープドキュメント 「北朝鮮“機密ファイル” 知られざる国家の内幕」NHKオンデマンド
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170329/k10010928771000.html


 


北朝鮮 6回目の核実験は多重核爆発方式か=専門家が分析

2017/03/29 15:18文字拡大 文字縮小 印刷 twitter facebook
【ソウル聯合ニュース】北朝鮮が6回目の核実験を準備している兆候が相次いで捉えられている中、実際に核実験を行う場合の爆発の威力や方式に関心が集まっている。

http://img.yonhapnews.co.kr/etc/inner/JP/2017/03/29/AJP20170329002100882_01_i.jpg

核起爆装置とみられる物体の前で指示を下す金委員長(資料写真)=(聯合ニュース)
 韓米情報当局は、北朝鮮が北東部の咸鏡北道・豊渓里の核実験場で6回目の核実験の準備を進めてきたことを把握している。金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の命令が下されれば数時間以内に核実験が可能だというのが当局の見解だ。

 情報当局筋は29日、「現在、豊渓里の動向は北が過去に準備してきた核実験の最終段階のパターンと類似している」とし、「事実上全ての準備がほぼ終わったと評価できる」と述べた。ただ、北朝鮮は内外の環境を考慮した上で、結果を最大化できる時点を選んで核実験を行うとみられるという。

 北朝鮮が過去5回の核実験を準備した際は、坑道の入り口に偽装幕を張り、核兵器を運搬して組み立てた後、放射能や人工地震波探知などの計測装置を設置し、坑道の中の計測装置と地上の統制所を結ぶ数百メートル〜数キロのケーブルを敷く手順で作業が行われた。

 韓米情報当局は、現在豊渓里の核実験場ではここまでの作業が完了したと推定している。

 最終的には計測装置と地上統制所の間のケーブルを連結し、土や小石、砂、石こう、コンクリートなどを利用して坑道の入り口を封鎖する。ここまでの作業はまだ行われていないとみられるが、このような最終作業はすぐに終えることができる。

 専門家は、今回北朝鮮が核爆弾数発を同時に爆発させる多重核爆発、またはウランを利用して威力を増加させる増幅核分裂弾、プルトニウムとウランを混合した核爆弾の実験を行うと観測している。

 このうち、核爆弾3〜5発を同時に爆発させる多重核爆発実験の可能性が高いとみられる。核爆弾1発を爆発させる実験では核兵器を最適化させる正確なデータを抽出するのが難しいため、ウランの比率や起爆装置を変えて複数発を爆発させることで実験の信頼性を確保するというものだ。

 6回目の核実験の爆発の威力も注目される。

 北朝鮮研究で知られる米ジョンズ・ホプキンズ大韓米研究所は11日、北朝鮮の坑道の掘削作業の規模からみて、核実験の威力は5回目の実験の10キロトン(1キロトン=TNT火薬1000トンの爆発力)の14倍に及ぶと推定した。

 韓国科学技術政策研究院の李春根(イ・チュングン)研究委員も「北はすでに自ら核兵器の小型化を実現したと主張しているだけに、今回は威力増幅型核爆弾を実験する可能性がある」とし、「爆発威力は150から200キロトンの間になるとみている」と話した。

 北朝鮮の核実験爆発威力は、1回目(プルトニウム)が1キロトン以下、2回目(プルトニウム)が3〜4キロトン、3回目(高濃縮ウランと推定)が6〜7キロトン、4回目(北朝鮮は水爆と発表、増幅核分裂弾)が6キロトン、5回目(増幅核分裂弾)が10キロトンだった。

ynhrm@yna.co.kr

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http://japanese.yonhapnews.co.kr/headline/2017/03/29/0200000000AJP20170329002100882.HTML

http://www.asyura2.com/16/warb19/msg/853.html

[政治・選挙・NHK223] 北朝鮮の脅威と日本の不可解な対応 解決に日本モンゴル外相連携 米軍厳戒態勢  ロ仲介 外貨稼ぎ「包囲網」 多重核爆発実験
北朝鮮の脅威と日本の不可解な対応  (丹羽宇一郎氏の経営者ブログ)
(1/2ページ)2017/3/29 6:30日本経済新聞 電子版
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 北朝鮮の脅威が再び高まっています。相次ぐ示威的な行動に対し、米国など国際社会も強硬姿勢を示しています。なんともきな臭い空気が漂う中で、どうしても首をかしげたくなる動きがあります。日本政府の一連の対応です。

 北朝鮮は2月には日米首脳会談に合わせたかのようにミサイルを発射。3月にも6日に4発の弾道ミサイルを発射し、うち1発については能登半島沖わずか200キロメートルの海上に落下したといいます。北朝鮮…
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO14449800U7A320C1000000/


 


 
北朝鮮の問題解決に向け連携 日本・モンゴルの外相が確認
3月29日 14時45分
岸田外務大臣は、北朝鮮と国交があるモンゴルのムンフオルギル外相と会談し、北朝鮮の核やミサイルの開発は新たな段階の脅威だという認識を共有し、問題の解決に向けて日本とモンゴルが連携していくことを確認しました。
この中で岸田外務大臣は、「北朝鮮の核やミサイルの開発は、新たな段階の脅威だ」と述べ、モンゴルのムンフオルギル外相も同様の認識を示しました。

そのうえで、両外相は北朝鮮に対して核やミサイルの開発を完全に放棄し、国連安全保障理事会の決議を順守するよう求めるなど、問題の解決に向けて日本とモンゴルが連携していくことを確認しました。

また、岸田大臣が拉致問題の解決への協力を求めたのに対し、ムンフオルギル外相は日本の立場を支持する考えを示しました。

会談のあと両外相は、国連安保理の改革やモンゴルの人材育成などで協力することを盛り込んだ今後5年間にわたる「中期行動計画」に署名し、幅広い分野で両国の連携を強化することを確認しました。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170329/k10010929051000.html

 


 
【国防最前線】
迫る北朝鮮危機、米軍が厳戒態勢 自衛官「日報」問題で消耗は狂気の沙汰
★(2)

3.29

 能力を持っていることは分かっていたが、北朝鮮が今月初め、日本の米軍基地を攻撃対象とする「意図」を明確にしたことは深刻に受け止めなければならない。米軍施設でも、国会議事堂でも、わが国が自衛権を発動する事態になるからだ。

 一方で、日本人の頭の中から、相変わらず抜け落ちていることがある。テレビは、基地近隣住民の「間違って、うちに落ちてきたら恐ろしい」というインタビューを流していたが、最も危機にさらされているのは基地で暮らし、異国の地でミサイルの標的となっている米軍人家族だ。

 米軍がいるから巻き込まれる−というのが反対派の主張だが、見方を変えれば、米国民が暮らしていれば、米国は必ず彼らを守る。在日米軍基地は、米国による日本防衛の大事な要素でもある。

 さらに言えば、朝鮮半島有事が濃厚となれば、在韓米軍基地に住む家族などを脱出させることが喫緊の課題となる。

 CNNによると、在韓米軍は今年1月、沖縄への家族脱出避難訓練を実施し、60人が参加したという。これほどの本格的な訓練は2010年以来で、訓練では生物テロから12時間身を守れる防護服の装着訓練も行われている。米兵の家族は常に避難用の荷物をまとめておくことが奨励されているという。

 心の準備はできているとはいえ、「夫を残してこなければならないと考えると一番辛い」という妻の言葉は重い。米軍では、それだけ警戒度を上げているということだ。日米における沖縄基地の重要性も示している。

 米国はクリントン政権時代、北朝鮮への爆撃を計画したが、韓国が「ソウルが砲撃を受け、火の海になる」と猛反対し、実行に至らなかった。中国は、北朝鮮が体制崩壊で民主化することは避けたいことから、中韓とも米国の強硬策には慎重な構えだった。

 ところが、韓国は大統領弾劾で機能不全で、中国も、金正男(キム・ジョンナム)氏暗殺で、北朝鮮の「首のすげ替え許すまじ」という決意を見せつけられた。

 こんな状況下で、これまでの常識とは異なる感覚のドナルド・トランプ米大統領がどのような判断をするのか。これが予想できず、最大の難問となっている。

 韓国に「反米・反日」政権が生まれる可能性が高いことも懸念材料だ。朴槿恵(パク・クネ)政権は、日韓合意と日韓GSOMIA(軍事情報包括保護協定)で、「日本と手を結んだ」と国内の反感を買い、追い込まれたという見方もある。慰安婦問題では、ある程度の反日的な顔を残して政権を維持させるべきだった、という考えもある。

 いずれにせよ、日本がすべきことは何かだ。

 少なくとも、同じ日本人が、南スーダン国連平和維持活動(PKO)部隊の「日報」問題で、自衛官をいたずらに消耗させるなど、狂気の沙汰である。国民が本当に知りたいのは、そんなことではないだろう。

 ■桜林美佐(さくらばやし・みさ) 1970年、東京都生まれ。日本大学芸術学部卒。フリーアナウンサー、ディレクターとしてテレビ番組を制作後、ジャーナリストに。防衛・安全保障問題を取材・執筆。著書に『日本に自衛隊がいてよかった』(産経新聞出版)、『自衛隊の経済学』(イースト新書)など。

http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20170329/plt1703291130004-n1.htm

 

 
ロシアが北朝鮮と米国の交渉の仲介役になる? © AP Photo/ Wong Maye-E
オピニオン
2017年03月29日 16:44(アップデート 2017年03月29日 18:51) 短縮 URL
タチヤナ フロニ
227352
北朝鮮がロシアのウラジーミル・プーチン大統領に対して、ドナルド・トランプと金正恩の米朝首脳会談の実施に協力してくれるよう依頼する可能性がある。米国の「Radio Free Asia (RFA)」が、米専門家の見解として伝えた。他のメディアも、平壌がモスクワに仲介を依頼したと指摘している。

スプートニク日本

周知の通り、ドナルド・トランプはかつて、金正恩と会談したい、一緒にハンバーガーを食べ、歓談の中で北朝鮮の核問題を解決したいという希望を表明していた。しかし、最近の米政権は北朝鮮への予防攻撃や戦術核兵器の韓国と日本への配備を口にするなど、北朝鮮に対して強硬なアプローチをとっている。そのため、平壌は今、ワシントンとの対話構築の道を模索しているのだ。RFAは米国専門家の見解として、このように伝えた。

今のところ米国のミサイル防衛システムは韓国を守らず、巨大な損失を負わせているだけ
© AFP 2017/ JUNG YEON-JE
今のところ米国のミサイル防衛システムは韓国を守らず、巨大な損失を負わせているだけ
スプートニクはロシアの主要な朝鮮専門家に、「Radio Free Asia」の提案に対するコメントを依頼した。
ロシア科学アカデミー極東研究所・朝鮮研究センターの専門家コンスタンチン・アスモロフ氏は言う:「私は、この情報源(編集部注:「Radio Free Asia」)から発出される情報はすべて、どこかひとつでも他の通信社の確認が取れるまでは、警戒して受け取らなければならないと思っています。」

著名なアジア研究者でBRICs研究国家委員会の専務理事、ポストソビエト研究センター・東アジア諸国部長のゲオルギー・トロラヤ氏も、先の専門家、コンスタンチン・アスモロフ氏の意見に同調し、RFAの情報には強力な確認が必要だとしながらも、次のことは否定できないと述べた。

ゲオルギー・トロラヤ氏は言う。「国際舞台でのロシアの役割は高まっており、ロシアが重要な仲介役を作り出す可能性はあります。しかし、この点についての具体的な計画は、当然ながら、明らかになっていません。こうした計画は、事後になってからしか知ることができません。なぜなら、こうした問題は舞台裏で波風を立てることなく決定されるからです。」

金正男
© AFP 2017/ TOSHIFUMI KITAMURA, ED JONES
誰が、なぜ、金正男氏を殺害したのか?
そんな中、月曜日には、平壌が南北関係を担当する韓国統一省の解散が必須だと考えていることが明らかになった。北朝鮮の祖国平和統一委員会の代表が月曜日に発表した声明には「ならず者の集まりであるこの機関は南北間の対立激化を促しているだけであり、解散するに値する」と記されている。
ゲオルギー・トロラヤ氏によると、北朝鮮に隣国の行政機構に介入する権利はないが、北朝鮮の不満の理由も理解できるという:「北朝鮮は、朴槿恵と韓国統一省の路線は南北関係の改善よりも、諜報と実質的な北朝鮮の吸収を方針としていたと考えています。しかし、私はこの発言を特に重要視はしていません。なぜなら、統一省は大きな仕事をしており、同省には極めて高い能力を持つ北朝鮮専門家が集まっているからです。唯一この機関に足りないのは、他国の専門家との国際交流です。そして、北朝鮮のこの声明は、単なる心理戦争のひとつであり、ソウルの南北政策に対する不満に過ぎません。これはまた、5月の選挙後に政権に就く韓国新政府に対して、南北関係へのより建設的なアプローチの策定を促そうとする試みでもあります。」
https://jp.sputniknews.com/opinion/201703293485167/


北朝鮮の外貨稼ぎ、狭まる東南ア「包囲網」
(1/2ページ)2017/3/29 6:30日本経済新聞 電子版
インドネシア 北朝鮮 マレーシア ASEAN
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 北朝鮮の外貨稼ぎが、東南アジアで苦境に陥っている。ジャカルタで事実上直営するレストランが閉店に追い込まれ、マレーシアでは不法滞在の鉱山労働者が国外退去処分となる見通しだ。金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の異母兄、金正男(キム・ジョンナム)氏が2月にマレーシアで殺害された事件に関与した疑いが強まり、北朝鮮の伝統的な友好国が多い東南アジアで急速にイメージが悪化したことが背景にある。北朝鮮は…
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO14548500X20C17A3000000/


 


トランプ大統領、北朝鮮に「禁断のカード」切るか  核実験準備は「最終段階」6回目験は多重核爆発方式 -
http://www.asyura2.com/16/warb19/msg/853.html
http://www.asyura2.com/17/senkyo223/msg/277.html

[不安と不健康18] 運動中の水は身体能力を下げる? 私の「カラダ資本論」 「飲んではいけない」から「飲まなきゃいけない」時代に[青島健太
[青島健太]
運動中の水は身体能力を下げる?

私の「カラダ資本論」

「飲んではいけない」から「飲まなきゃいけない」時代に
2017年3月29日(水)
青島健太
 仕事においては、やはりカラダが資本。多忙な中でも最高のパフォーマンスを発揮し続けるには、日ごろからの健康管理が欠かせない。一流人が実践する健康マネジメント術を紹介する本コラム、今月は元プロ野球選手で、現在はスポーツライター、キャスターとして活躍する青島健太氏にご登場いただく。第1回はスポーツには欠かせない「水分補給」にまつわる思い出を語っていただきました。

 現在はどんなスポーツでも、のどの渇きを覚える前に水分補給をすることが、もはや常識となっています。最高のパフォーマンスを発揮するためにはもちろんのこと、発汗による脱水症状など身体へのダメージを抑えるためです。

 ところが、私の高校時代の野球部はもちろん昭和の頃は、「練習中は水を飲むな」が常識でした。高校は埼玉県立春日部高等学校という公立の進学校で、練習は放課後の2〜3時間程度。夏休みには1日中の練習がありましたが、いずれも練習中には、水を飲ませてもらえませんでした。それでも、隠れて水を飲んでは叱られたものです(笑)。当時は大真面目に「水を飲むとパフォーマンスが下がる」と思われていたんですね。


慶応大野球部では氷水と塩を用意

 一方、慶応大の体育会野球部では、練習の合間に自由に水が飲めた。これには「大学はさすがに違うな」と驚きました。今から思い返しても、当時にしては先見性があったのではないでしょうか。

 グラウンドのダッグアウトに、直径80cm程度の特大ポリバケツに入った氷水と柄杓(ひしゃく)が用意されていて、その脇には塩も置いてありました。その塩をなめて、柄杓ですくった氷水を飲んだりすると、生き返ったように力が湧きましたね。

 練習中は水分補給も楽しみでしたが、そのための氷を買いに行く時間はさらに心待ちにしていました。グラウンドから歩いて10分ほどのお米屋さんに、リヤカーを引いて数貫の氷を買いにいくのは、1年生の役目。この当番が、10日に1度は回ってくるのです。

 リヤカーを引いて氷を買いにいくなんて、面倒じゃないかと思われるかもしれませんが、お米屋さんのおばさんが、当時は米屋でしか買えなかった清涼飲料水「プラッシー」をくれたんですよ。それを飲みながら、「どこから来たの?」と聞かれて出身地の話をしたり、「最後まで頑張って続けなさいね」と励まされたりするのが、何よりの安らぎでした。というのも、志半ばで辞めてしまう新入部員が多いことを、おばさんは知っていたからでしょう。私の代でも、35人が入部して、10人が途中で去って行きました。

合宿所は夜10時門限、その後にも練習が

 大学では野球漬けの毎日でした。厳しい練習でヘトヘトになったあとに、200メートルダッシュを20本。グラウンドにボールが落ちていようものなら、ペナルティとしてオートバイに乗った監督の先導のもと、朝から夕方まで50〜60km走ったこともありました。


東京六大学野球の試合で打席前に素振りをする青島さん
 ただ、新入部員が辞めてしまうのは、そうした練習の厳しさが理由ではなかったと思います。大学の体育会で野球をやる連中は、それくらいのことは覚悟して入部しているはずですから。辞める理由は人それぞれですが、下級生(1〜2年)時代は「365日我慢の連続」という生活に耐えらないことが、大半を占めていたのではないかと思います。

 例えば、合宿所暮らしで、外部との連絡手段は、据え置きの電話が1機あるだけ。大抵は上級生に占拠されているので、1年生は使えません。本拠地の日吉(横浜市港北区)以外の街に出るときは、学ラン着用が必須。たまに女子大生との食事会などに誘われて顔を出しても、夜10時が合宿所の門限で、それから1時間ほど練習がある。

 都内の六本木などで盛り上がっていても、8時半には「先に帰ります!」と言って出ないといけない。そんな状態でしたから、集まった女の子たちよりも先に帰る(笑)。そうした憧れの大学生活とはかけ離れた現実に、ギャップを感じて呆然としてしまう。それが、当時の1年生が辞めてしまった大きな理由の一つでしょう。

水分補給には弱アルカリ性飲料を

 東芝野球部、ヤクルトスワローズでプレーする頃にはもう、水分補給の仕方は一変。「飲んではいけない」という風潮はなく、むしろ「飲まなきゃいけない」が常識になりました。現在のスポーツ界では、水分やミネラル補給の重要性が浸透して、各種目ごとに適切な給水のタイミングが考えられています。


 例えば、野球の場合は毎イニング、守りが終わってベンチに戻ると水分を補給します。サッカーではピッチ脇に飲料ボトルを並べておき、アウトオブプレーの際に飲むことができます。さらに、近年の気候変動を考慮して、一定条件を満たす猛暑下で行われる試合では、「給水タイム」も導入されています。2014年のFIFAワールドカップ ブラジル大会では、決勝トーナメントの1回戦、オランダ対メキシコ戦で給水タイムが実施されました。JFA(日本サッカー協会)でも2016年に「熱中症対策ガイドライン」を策定するなど、積極的な水分補給が奨励されています。

 マラソンでも、後半の30〜35km以降を制するには、水分やエネルギー補給の仕方がカギを握るといわれます。ゴルフではラウンド中にこまめに水分を取るだけでなく、ティーショットを待つ間などに、バナナなどを口にする選手も多くいます。

 水分補給には、体液に近い弱アルカリ性の飲料が、体への浸透力が高いという理由で適しています。私の場合は、運動で疲れると、糖分のある甘めのスポーツドリンクが飲みたくなります。弱アルカリ性のミネラルウォーターや、さっぱりした味のスポーツドリンクが好みという人もいますし、マラソンランナーでは蜂蜜入りの紅茶を、プロのアスリートでは炭酸の抜けたコーラを飲むという人もいます。運動をするときは、自分好みの飲みやすい飲料を、こまめに補給する習慣を持つといいですね。


(まとめ:田村知子=フリーランスエディター/インタビュー写真:村田わかな)

青島健太(あおしま・けんた)さん
スポーツライター、キャスター
青島健太(あおしま・けんた)さん 1958年新潟市生まれ。77年埼玉県立春日部高等等校、81年慶応義塾大学法学部を卒業後、東芝を経て、85年ヤクルトスワローズに入団。5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を務める。帰国後、スポーツライター、テレビキャスターとして活躍。著書に『メダリストの言葉はなぜ心に響くのか?』(フォレスト2545新書)、『“オヤジ目線”の社会学』(日経BP)など。

このコラムについて

私の「カラダ資本論」
仕事においては、やはりカラダが資本。多忙な中でも最高のパフォーマンスを発揮し続けるには、日頃からの健康管理が欠かせない。一流人が実践する健康マネジメント術について、「食事」「運動」「スポーツ」「睡眠」「ストレスマネジメント」「やりがい」など様々な切り口で紹介する。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/102500077/032800016
http://www.asyura2.com/16/health18/msg/448.html

[国際18] 欧州の「取り込み」狙う中国、トランプ政権の保護主義に対抗  トランプが中国と欧州を UBS中国依存を見直し 中国規制戦恐
欧州の「取り込み」狙う中国、トランプ政権の保護主義に対抗

 3月29日、トランプ米政権の発足後、中国は欧州連合(EU)との関係強化に向け、様々な戦略に出ているようだ。写真はユンケル欧州委員長(左)と中国の習近平国家主席(右)。2016年7月代表撮影(2017年 ロイター)
[ブリュッセル/北京 29日 ロイター] - トランプ米政権の発足後、中国は欧州連合(EU)との関係強化に向け、様々な戦略に出ているようだ。米大統領が掲げる「米国第一主義(アメリカ・ファースト)」でグローバル化が弱体化するとの懸念が広がる中、そうした流れに対抗するため中国は同盟国探しに必死なようだと外交筋は指摘する。

中国の習近平国家主席は今年1月に開かれた世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)での講演で、グローバル化や自由貿易の重要性を強調した。

保護主義は自ら暗い部屋に閉じこもるとともに、部屋から光や空気を奪うようなものだと指摘。他国を犠牲にして自国の利益を追求すべきではないと述べ、トランプ氏を名指しこそしなかったものの、同氏の言動を暗にけん制した。

北京のある外交筋は、世界貿易や温暖化対策など、トランプ政権が大きな政策転換を目指す分野で中国が欧州に理解を示していることを挙げ、「トランプ大統領が中国と欧州を近づけている」と述べた。

トランプ氏が中国の計算を狂わせたとの見方もある。トランプ大統領は昨年の選挙選から、中国が意図的に自国通貨を低水準に抑え、自国製品の輸出競争力を高めているとし、それにより米製造業の雇用が中国に奪われていると批判していた。

一方、EU当局者は、今後中国との間で投資拡大に向けた協定も含め、これまでなかなか進まなかったビジネス案件で大きな進展があると見込んでいる。

ただ、中国で事業展開する欧州企業の不満は根強い。在中国のEU商工会議所は3月7日、中国の製造業振興策「中国製造2025(メイド・イン・チャイナ2025)」について、「極めて問題」があり、海外企業の差別につながりかねないとの報告書をまとめた。
http://jp.reuters.com/article/china-eu-idJPKBN1700VD

 
UBS:過度の中国依存を見直し、アジア全体に照準−ケンドール氏
Cathy Chan
2017年3月29日 14:31 JST
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中国ビジネスの強みを生かし、アジア地域における有力な投資銀行となったスイスのUBSグループは、一つの市場に過度に依存することは良くないと今は考えている。
  UBSのアジア投資銀行の責任者に昨年昇進したサム・ケンドール氏(46)は、アジア全体に照準を合わせるバンカーを増やし、中国市場の健全性と直接リンクしない取引を追求するよう促している。
サム・ケンドール氏
サム・ケンドール氏 Photographer: Justin Chin/Bloomberg
  ケンドール氏は最近のインタビューで、中国がUBSにとってなお極めて重要な市場だと強調する一方、同行がアジアの他の地域に十分目を向けてこなかったことを認めた。
  同氏は「われわれは100%中国に集中していた。中国が本当に好調な時はよいが、そうでない時には、ビジネスで必ずしも機敏に動けないことをそれは意味する」と述べた。
  ブルームバーグのデータによれば、中国を除くアジアでの株式・株式関連発行の引き受けでUBSは昨年8位。野村ホールディングスとモルガン・スタンレーが上位を占めた。
原題:UBS Veteran Says Excessive Focus on China Banking Came at a Cost(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-29/ONK7QS6K50XS01


 


商売繁盛でも中国の規制に戦々恐々−本土からの送金支援ビジネス
Justina Lee、Fox Hu
2017年3月29日 12:56 JST
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本土からの2月の送金が16年末と比べ10−20%増えた−PFCE
中国から15年初めから17年1月末までに推計1兆8000億ドル流出
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商売は繁盛しているが、ディクソン・チャン氏は戦々恐々としている。
  同氏が勤める香港の両替商プロフェッショナル・フォーリン・カレンシー・エクスチェンジ(PFCE)では、中国本土からの2月の送金が2016年末と比べ10−20%増えた。
PFCEの店舗
PFCEの店舗 Photographer: Anthony Kwan/Bloomberg
  中国本土・香港間の銀行口座を通じた送金を手助けする同社が銅鑼湾(コーズウェイベイ)に置く店舗で働くチャン氏は、「中国政府が資本規制をさらに強化し、人民元の一段安を望んでいると誰もが感じている。それで多く顧客がより素早く香港に資金を移そうとしている」と話す。
  「中国政府がこの事業を禁止する何らかの規制を打ち出すのではと心配している。まだ大丈夫だが、別の通貨からの収入を増やすことを図っている」という。
PFCEの店舗で紙幣を数える従業員
PFCEの店舗で紙幣を数える従業員 Photographer: Anthony Kwan/Bloomberg
  香港両替商を見れば、中国当局の守備範囲とその力の限界が分かる。本土側がこの種の送金に対する取り締まりを決意すれば、この業界を危機に陥れるかもしれない。
  ただそうした対応は本土の住民を動揺させ、本土からの資金流出圧力を悪化させる恐れもある。本土からの資金流出は3年に及ぶ元安を招くとともに、世界の市場を動かし、各国・地域の金融政策に影響を与え、香港からカナダのバンクーバーに至る各都市の資産価格を押し上げた。 
  アジア一の経済大国、中国から15年初めから17年1月末までに推計1兆8000億ドル(約200兆円)が流出。人民元は10%近く値下がりし、経済成長鈍化の中で本土資産のリターンが落ち込んだことが響いた。
PFCE店舗のモニターで為替レートを調べる顧客
PFCE店舗のモニターで為替レートを調べる顧客 Photographer: Anthony Kwan/Bloomberg
  資金流出に歯止めをかけようと当局は住民の外貨購入に対する検証を強化し、香港での保険商品購入を制限。だが香港の両替商はこうした規制をくぐり抜けるやり方を提供しており、中国の特別行政区である香港にいったん資金が移れば、本土当局の資本規制はなく、その資金はほぼどこへでも行くことが可能だ。
原題:China’s Underground Bank Crackdown Risks Hong Kong Headaches (1)(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-29/ONK3JA6JIJUP01
http://www.asyura2.com/17/kokusai18/msg/773.html

[国際18] 慰安婦像前で米下院議員が追悼 中韓主張通りに日本批判 アダム・シフ グレンデール慰安婦像献花  
慰安婦像前で米下院議員が追悼 中韓主張通りに日本批判

アダム・シフ グレンデール慰安婦像献花


 【ロサンゼルス=中村将】米下院のアダム・シフ議員=民主党、カリフォルニア州=は22日(日本時間23日)、同州グレンデール市の韓国系住民らが設置を進めた「慰安婦」像を訪れ、今月10日に87歳で亡くなった中国の元慰安婦に対し、献花し線香を手向けた。米国での慰安婦問題は中韓共闘で追及していく姿勢を強調したもので、今秋に改選を控える有力下院議員がこれに乗っかった形だ。

 今回の「追悼」を主催した韓国系関係者によれば、亡くなった元慰安婦は1995年に日本政府を相手取り、訴訟を起こした中国人女性の一人。慰安婦像前には遺影が飾られ、シフ氏はひざまずきながら献花し、線香を供えた。

 シフ氏は「何十万人もの女性が戦時中に性奴隷とされた事実を、日本の中には軽視してきた人々がいる」と中韓の主張通りに指摘し、「慰安婦の生存者は何十年も恥や怒りとともに生きてきた」と日本政府の対応を一方的に批判した。

 シフ氏は元慰安婦への日本政府の謝罪を求めた2007年の米下院決議の共同提案者の一人で、今年1月には慰安婦碑が設置されているニュージャージー州選出の議員らと連名でケリー国務長官に、日本側に謝罪するよう働きかけることを求める書簡を送っている。

 シフ氏は、オバマ米大統領の訪日のタイミングで慰安婦像を訪れたのかとの報道陣の問いに、「偶然だ」と返し、「慰安婦像の撤去を求める訴訟も起きているが、提訴した人たちの意見は日系社会の少数意見」と述べた。

 像の撤去を求めて今年2月、在米日本人らがグレンデール市を提訴して以降、韓国系と中国系は連携を強化。慰安婦像には、下院外交委員長のエド・ロイス議員=共和党、カリフォルニア州=も1月に訪れており、議員らが11月の中間選挙を意識して活動しているとの見方もある。msn産経ニュース2014.4.23
http://sankei.jp.msn.com/world/news/140423/amr14042311470006-n1.htm

(それはアメリカ国民にとっても不幸なことでは....?)
タグ :アダム・シフエド・ロイスグレンデール古森義久ロー・カンナマイク・ホンダ世界抗日戦争史実維護連合会Global-Alliance

http://blog.livedoor.jp/aryasarasvati/tag/%E3%82%A2%E3%83%80%E3%83%A0%E3%83%BB%E3%82%B7%E3%83%95
http://www.asyura2.com/17/kokusai18/msg/774.html

[政治・選挙・NHK223] 「こども保険」で保育の負担軽減へ自民小委が構想 「こども保険」に感じる違和感 エンゲル係数上昇は高齢化 大学教育無償欺瞞
「こども保険」で保育の負担軽減へ 自民小委が構想
3月29日 0時08分
子育て世帯を支援するため、今の公的年金の仕組みのように、働く人や企業から保険料を徴収して児童手当などとして給付し、保育や幼児教育の負担を減らす新たな社会保険制度の構想を自民党の小委員会がまとめ、実現を目指すことになりました。
この構想は、高齢者に対する「公的年金」や「介護保険」の仕組みのように、保険料を徴収して社会全体で子育て世代を支援する新たな保険制度を作ろうというもので、自民党の若手議員を中心とする小委員会がまとめました。

構想では、新たな制度を「こども保険」と名付け、今の厚生年金や国民年金の保険料に上乗せする形で、働く人や企業などから幅広く徴収します。徴収した保険料は、小学校入学前の子どもがいる世帯に対して児童手当を増額する形などで給付し、保育や幼児教育の負担を減らすことにしています。

小委員会では、年収400万円で入学前の子どもが2人いる30代の世帯では月間240円の保険料の負担で1万円、児童手当を増額するなどとしています。

小委員会は29日、会合を開いてこの構想を公表し、実現を目指すことにしていますが、小さな子どもがいない世帯にとっては、保険料の負担だけが増えることになるため慎重な意見も予想されます。

自民党内には、教育の無償化に向けて使いみちを教育に限定した新たな借金=「教育国債」を創設する案が出るなど、子育てや教育を支援する費用をどのように賄うべきか議論が活発になっています。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170329/k10010928531000.html


 

幼児教育の無償化を…「こども保険」創設を提言へ
テレビ朝日系(ANN) 3/29(水) 10:30配信
 自民党の小泉農林部会長ら若手議員で作る委員会は、教育の無償化など子育て世代の負担を軽減するため、新たに「こども保険」の創設を提言することが分かりました。

 こども保険は社会保険料に上乗せして徴収し、小学校入学前の子どもを対象に幼児教育・保育の無償化を目指します。上乗せ分の保険料は当面、0.1%とする方針で、将来的には0.5%にして1.7兆円規模の財源を確保したいとしています。年金や介護など高齢者の負担軽減に向きがちな保険制度に、新たにこども保険を創設することで少子化対策にもつなげたい考えです。委員会では、政府が6月に取りまとめる「骨太の方針」に盛り込みたいとしています。
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トランプ大統領の支持率36% 就任以来最低
スマホ、マイナンバー証代用 再来年の実用化目指す
最終更新:3/29(水) 13:34テレ朝 news

https://news.yahoo.co.jp/pickup/6234763


 

「こども保険」に感じる違和感
島澤諭 | エコノミスト
3/29(水) 10:10
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(写真:アフロ)
はじめに
先日、教育国債という奇策を提言した自民党若手からなる2020年以降の経済財政構想小委員会(事務局長 小泉進次郎氏)は、今度は、こども保険を提言したようです。

子育て世帯を支援するため、今の公的年金の仕組みのように、働く人や企業から保険料を徴収して児童手当などとして給付し、保育や幼児教育の負担を減らす新たな社会保険制度の構想を自民党の小委員会がまとめ、実現を目指すことになりました。

出典:「こども保険」で保育の負担軽減へ 自民小委が構想(NHK)
こども保険は、先の教育国債同様、いくつかの問題点を抱えていると思いますので、それを指摘してみたいと思います。

こども保険の対象とするリスクは何か?
こども保険とはその名の通り社会保険の一種と考えられますが、社会保険は社会保障の一つであり、社会保障は、(1)社会全体でリスクに備える機能(リスク・プーリング機能)、(2)リスクの発生そのものを軽減する機能(リスク軽減機能)、が期待されています。

例えば、医療保険は病気にかかった場合のリスクに備える(リスク・プーリング機能)ために存在しますが、政府は公衆衛生により国民が病気に罹患するリスクそのものを軽減する(リスク軽減機能)のに努めているということです。

さて、ここで問題になりますのは、こども保険はどういうリスクに対応するためにわざわざ新たに導入されるのかということです。

まず一つ考えられるのは、子育て自体がリスクであるとみなすという考え方ですが、深く考えるまでもなく、子育てはリスクなどではありません。もし、自民党の若手先生方が、子育てはリスクであるとお考えだとしたら不見識も甚だしいでしょう。

次に考えられるのは、子育て中(何歳までを考えるかにもよりますが)はそもそも働きたくても働けなかったり、短い時間しか働けない場合も多いですので、そうした労働に関するリスクを補てんするという考え方もあるでしょう。

しかし、先のNHKの報道では、「保育や幼児教育の負担を減らす新たな社会保険制度」とありますので、どうやら一定期間労働できない事象に対する保険ではなさそうであります。

そもそも、保育(サービス)や幼児教育の負担はリスクでも何でもないわけですし、これまでは主に税収(消費税)で賄われてきたという現実とどう折り合いをつけるのでしょう?

結局、こども保険は、どういうリスクに対して備えるための保険なのか、まずその理念が極めて曖昧であるという問題点を指摘できます。

高齢者の意向を忖度
社会保険は、医療保険・介護保険・公的年金のように、原則として、加入者の責任においてその給付が賄われる制度である、つまり、社会保険の予算制約式を考えます場合、保険料で給付が賄われる原則となっているということですから、原理原則で考えますと、これから子育てリスクに直面するであろう世代が加入者となり給付者となるはずの制度です。

しかし、今回提案されている「こども保険」はNHKの報道によりますと、「保険料を徴収して社会全体で子育て世代を支援する新たな保険制度を作ろう」という趣旨となっていまして、保険料の負担者と給付を得る受益者とが一致しないという、そもそも保険原理から逸脱している点を問題として指摘できます。

さらに、「社会全体で子育て世代を支援する」はずなのに、「今の厚生年金や国民年金の保険料に上乗せする形で、働く人や企業などから幅広く徴収」するということにされているわけですから、社会全体の中からどういうわけか高齢世代がきれいにすっぽり完全に抜け落ちてしまっています。

自民党の若手先生方は高齢世代は社会の構成員の一部をなすとは考えていないのでしょうか?高齢世代に対して甚だ失礼な接し方と言えるのではないでしょうか?

もちろん、おそらく自民党の若手先生方も、高齢世代が社会の構成員ではないと考えているのではなく、高齢世代に負担を求めるのは高齢世代の反発を招くでしょうし、ひいては選挙結果に影響を与えるかもしれない、それでは困るので、高齢世代が嫌がる負担増は回避しようとの意識・本能が働いたと考えるのが自然でしょう。

高齢世代の負担を外すことは、自民党の若手先生方が、高齢世代の意向を勝手に忖度した結果と言わざるを得ません。高齢世代も、社会の一構成員でありますし、社会のために役立ちたいと当然お考えのはずですから、これはこれで大変失礼な忖度ではないでしょうか?

まとめ
今回、自民党の若手議員の先生方が検討されている「こども保険」は、
なんのリスクに備えるのかが不明
負担者と受益者が一致しない
高齢世代を社会の構成員とみなしていない
高齢世代の意向を勝手に忖度しわざと負担させない
という問題点があり、問題点1・2からはそもそもこども保険は保険ではないという懸念があることを指摘致しました。

自民党の若手議員と言えば、将来の総理候補とされる小泉進次郎先生をはじめとして今後のニッポンを導く責任ある先生方なわけですから、将来のニッポンを支える次世代の育成に関して、こども保険などという奇策に頼るのではなく、真正面から、社会保障制度の財源構成のアンバランスに切り込み、必要に応じて、巷間喧しいシルバー・デモクラシーを超克して、政策の王道を行ってほしいと切に願っております(なぜか上から目線で大変恐縮でございます...)。

そもそも、やれ国債だ、やれ保険だ、では際限なく政府の規模が大きくなっていきますね。そうではなく、やはり政府の守備範囲をどうするか、そしてそれに見合った負担の大きさ、財源構成という国家としての根本に立ち返って将来のニッポンのあり方を考え、そうした文脈の中で教育政策や子育て支援策を考える必要があると思います。

それができれば、「すごーい!先生方は改革できるフレンズなんだね!」と言われるとか言われないとか...。

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島澤諭
エコノミスト
富山県魚津市生まれ。内閣府(旧経済企画庁)、大学教員等を経験。少子化、高齢化が経済・社会・政治に与える影響について研究しています。
mzako2017
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https://news.yahoo.co.jp/byline/shimasawamanabu/20170329-00069258/

 


エンゲル係数の趨勢的な上昇は高齢化が原因であり、アベノミクス失政は脇役に過ぎない
島澤諭 | エコノミスト
2/22(水) 4:00
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(写真:アフロ)
急上昇するエンゲル係数
エンゲル係数が急上昇しています。

29年ぶりの高水準 16年25.8%(2017年2月17日 毎日新聞)

図1で確認しますと、1963年には38.7%だったエンゲル係数は、日本の経済発展とともに傾向的に低下を続け、2005年には最低の22.9%を付けます。翌2006年以降基本的には上昇を続け、昨年の2016年には25.8%と、1987年の26.1%に匹敵する数値となりました。いろんな分野でバブル前の数値水準に戻りつつあるのと軌を一にしているようで、大変興味深いです。

図1 エンゲル係数の推移(データ出典 総務省統計局「家計調査報告」)
図1 エンゲル係数の推移(データ出典 総務省統計局「家計調査報告」)
それはさておき、今問題となっている(問題とされている)エンゲル係数は、家計(消費)に占める食料費支出の割合を示すもので、一般的にその割合が大きいほど生活に余裕がなく、小さいほど生活に余裕があるとされ、プロイセンのエルンスト・エンゲルが1857年の論文で指摘しました。

安倍内閣の経済失政の象徴としてのエンゲル係数の上昇?
先ほどの図1を見ると、確かに、エンゲル係数は足元で上昇してきていますので、平均的な日本人の生活が苦しくなってきている(余裕がなくなってきている)証拠と言えそうです。しかも、ほぼ30年前の水準に戻ったわけですから、失われた10年、20年どころではなく、失われた30年!なわけですから、これは経済政策の失敗の象徴であり、安倍内閣は非難されてしかるべきだと考える人も多いことでしょう。ただし、エンゲル係数の上昇はアベノミクス開始の遥か10年前から続いています。

それとは関係なく、赤旗さんはここぞとばかり政権への攻撃を強めています。

エンゲル係数上昇 国民生活の悪化放置できない(2017年2月21日 赤旗)

エンゲル係数上昇の背景を探る1−時系列変化の要因分解−
最近、日本のエンゲル係数は上昇してきていることを見ましたが、これは図2から分かりますように、家計消費支出(エンゲル係数の分母)の変化率が、食料費(エンゲル係数の分子)の変化率を下回って推移していることにより、エンゲル係数が増加傾向にあることに起因します。

図2 消費支出、食糧費、エンゲル係数の変化率(差)(データ出典 図1に同じ)
図2 消費支出、食糧費、エンゲル係数の変化率(差)(データ出典 図1に同じ)
図3は、このエンゲル係数の変動を、エンゲル係数の分母に当たる消費支出を「消費者物価要因」と「家計購入数量要因」に分解し、また、分子に当たる食料費を「食料品価格要因」と「食料購入数量要因」に分解した結果です。

図3 エンゲル係数の寄与度分解(データ出典 図1に同じ)
図3 エンゲル係数の寄与度分解(データ出典 図1に同じ)
上図によると、足元のエンゲル係数の上昇には主に2つの要因があり、一つは食料品価格の上昇(食料品価格要因:分子【青い棒】)、もう一つは家計消費の減少(家計購入数量要因:分母【紫の棒】)です。つまりは、アベノミクスを端緒とした円安により食料品価格が上昇したこと、アベノミクスもしくは黒田日銀による異次元緩和の先行き不安に対する生活防衛のため消費を削減したことで、エンゲル係数が上昇したと言えそうです。

ただし、エンゲル係数の趨勢的な上昇はアベノミクスが原因であるとの説については、円安が今後も継続的に進行していくのか、消費の削減が今後も続くのか、つまり円安や実質消費の減少が景気循環的な動きではなく、構造的な動きとして定着するのかについては、論者によって判断が分かれるのではないかと思います。

エンゲル係数上昇の背景を探る2−高齢化要因−
図4を見てください。

図4 世代別エンゲル係数の推移(データ出典 図1に同じ)
図4 世代別エンゲル係数の推移(データ出典 図1に同じ)
図4は、世代別のエンゲル係数の動きを示したものです。この図4から明らかな通り、基本的には、若い世代ほどエンゲル係数が低く、高齢世代ほどエンゲル係数が高くなっていることが分かります。高齢世代のエンゲル係数が高くなる理由は、多くの場合、主な収入源が、年金と貯蓄の取り崩しに限られる中、消費支出を切り詰めざるを得ない一方で、生きていくのに必要な食費は、消費支出全体の減少よりは減らない(経済学的には、食料などの必需品は需要の所得弾力性が小さい)ため、エンゲル係数が大きくなって見えるためです。

次に、図5をご覧ください。

図5 エンゲル係数の世代構成(データ出典 図1に同じ)
図5 エンゲル係数の世代構成(データ出典 図1に同じ)
これは各年のエンゲル係数を、世代別に分解したものです。この図から分かりますように、近年、日本のエンゲル係数に占める60歳世代以上(緑色の某+青色の棒)のウェイトが上昇していることが確認できます。つまり、最近のエンゲル係数の上昇には高齢化が影響しているということです。

さらに、図6をご覧ください。

図6 エンゲル係数の世代別寄与度(データ出典 図1に同じ)
図6 エンゲル係数の世代別寄与度(データ出典 図1に同じ)
図6はエンゲル係数の変化に対して、各世代のエンゲル係数の変化の寄与度を示したものです。同図からは、やはり高齢世代、特に70歳世代以上のエンゲル係数の上昇(緑色の棒)が、日本全体のエンゲル係数の上昇をけん引していることが確認できます。

もし、高齢化がエンゲル係数に与える影響が2005年水準のままであれば、他の条件が一定のもとでは、エンゲル係数は順調に低下し、例えば2016年では21.2%とまで低下していたものと、簡単な計算により確かめることができます。

結局、エンゲル係数の趨勢的な上昇をもたらしているのは、高齢化が主要因であり、アベノミクスの影響は(現在のところ)脇役に過ぎないことが指摘できます。

エンゲル係数上昇の背景を探る3−世代別食料費支出要因−
表1は、2015年から2016年にかけての世代別エンゲル係数の変化に対して、どのような食料品項目がどの程度の影響を与えたかを分析したものです。

世代別エンゲル係数の食料品項目分解(データ出典 図1に同じ)
世代別エンゲル係数の食料品項目分解(データ出典 図1に同じ)
表1によれば、2015年から2016年にかけて各世代のエンゲル係数を押し上げた一番の要因は調理食品への支出です。調理食品は、お弁当、お惣菜、冷凍食品、揚げ物等への支出です。これは共働き世帯が増えつつある、あるいは高齢世代では自炊するより出来合いのものを買ってきた方が安く上がる等の結果であると言えるでしょう。

エンゲル係数を引き下げるには
以上見てきました通り、最近のエンゲル係数上昇の背景は、大きく分けると2つあり、1つは趨勢的な原因、もう1つは循環的な要因で、主因は趨勢的要因である高齢化の進行です。今後も日本ではいっそうの高齢化の進行が見込まれていますので、他の条件が一定であるとすれば、エンゲル係数は上昇を続けるでしょう。だからといって、日本が貧しくなっているとは言えません。

もし、エンゲル係数の上昇が問題であるとすれば、それは循環的な要因を原因とするものです。つまり、将来不安による消費支出の削減、食料品価格の上昇です。ただし、こうした循環的要因に対しては対策を講じることができます。

まず、将来不安を取り除いて、安心して消費を増やせる環境を作ること、それには将来不安を生じさせている原因を特定する必要があります。現在は漠然と将来不安の原因として社会保障制度の持続可能性に関する疑いが挙げられますが、きちんとした確認が必要だと思います。

次に、食料品価格の上昇に関しては、円安政策を放棄して円高に誘導することで、輸入食料品価格を引き下げることを挙げることができます。

さらに、農産物の輸入自由化を進めることによっても、食料品価格の引き下げは可能です。

おわりに
経済学では短期的(一時的)な現象と長期的(趨勢的)な現象を峻別するのがとても重要だと教わるわけですが、現在問題とされているエンゲル係数についても同様のことが指摘できるでしょう。つまり、近年のエンゲル係数の上昇は高齢化(あるいはこれまで家の中で仕事をしていた主婦(夫)が家の外で働くようになった結果、お惣菜や弁当といった調理食品を購入せざるを得なくなったこと)に伴う構造的な(長期的な)要因が主因であり、それにアベノミクスによる円安での輸入食料品・素材の価格上昇等の循環的な(短期的な)要因が絡み合って生じていると言えるでしょう。

そうでなければ、アベノミクスが始まるより以前の2006年からエンゲル係数が傾向的に反転に転じている理由及び本格的に円安が進行を始めた2012年からではなく2014年からエンゲル係数が急上昇した理由を説明できません(おそらく2014年からの急上昇については消費税率の引上げが影響しており、物価が上がった割には所得水準が向上しておらず、またアベノミクスの行方にも不確実性が増したため、消費支出を切り詰めるなどの生活防衛が作動し始めた点を指摘できます。蛇足ですが、エンゲル係数は、その定義上、所得が上昇していても、将来不安に備えるため等の理由から、消費水準を切り詰めればエンゲル係数は上昇します)。

したがって、近年、日本のエンゲル係数が上昇したのは、生活防衛のための消費切り詰めがあるにしても、日本人の生活水準が趨勢的に低下したからではなく、基本的には日本人が高齢化した結果に過ぎず、殊更大騒ぎするほどのもではないと言えると思います。

本記事の最期の蛇足ではありますが、個人的には、今回のエンゲル係数の上昇の取り上げられ方は、かつて橘木俊詔先生がジニ係数の上昇を日本における格差拡大と指摘した一連の騒動を想起してしまいます。実際には大竹文雄先生によりジニ係数上昇の背後には高齢化が存在し、その時点では見せかけの格差拡大に過ぎないことが指摘されましたが、現実あるいは政治的にはそうしたアカデミックな研究結果は一顧だにされませんでした。表面的な現象ではなくその背後にあるエビデンスにこそ目を向けるべきであり、エビデンスに基づいた情緒に流されない議論こそ必要不可欠だと思います(政治的な思惑は知りません)。
https://news.yahoo.co.jp/byline/shimasawamanabu/20170222-00067943/


 


大学教育無償化という欺瞞
島澤諭 | エコノミスト
3/17(金) 4:00
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(ペイレスイメージズ/アフロ)
大学教育無償化
報道(「焦点:自民特命チームが「教育国債」有力視、5-10兆円案も」 ロイター 2017年 03月14日 14:31 JST)によりますと、自民党特命チームは、幼児教育から大学教育までの無償化を検討しているとのことです。教育無償化!という呪文を唱えればすんなり全ステージでの教育が無償化されるわけではもちろんなく、教育無償化に必要な財源をどう確保するかが問題となります。

実際、教育無償化に必要な財源は
文部科学省の試算によると、幼児教育から大学まで授業料無償化に必要な年間予算額は、幼児教育が7000億円、私立小中学校分が数百億円、高校が3000億円、大学が3.1兆円の合計4.1兆円。(出典)同上

自民党教育再生本部の幹部は「5兆円規模では全く不足」と指摘。政府関係者の1人は「10兆円程度との案もある」と述べている。(出典)同上

だそうです。

教育無償化にかかる新たな財源として、
恒久財源の検討対象として教育国債と税制改正、消費税拡大、こども保険の4つの案に意見集約(出典)同上

が検討されているそうです。

今回の記事では教育無償化に必要な財源問題については触れずに、大学教育が無償化された場合に生じるメリット・デメリットについて検討してみたいと思います。

学歴が高くなるほど高くなる生涯賃金
一般的に、教育投資(より高次の教育)は人的資本を高め賃金稼得能力を高めます。つまり、職につく際の最終学歴が中学卒よりも高校卒、高校卒よりも高専・短大卒、高専・短大卒よりも大学・大学院卒の方が生涯賃金が高くなるということです。

実際、独立行政法人労働政策研究・研修機構「ユースフル労働統計2016」より、男性の学歴別生涯賃金を図1で見ますと、中学卒(2.2億円)→高校卒(2.4億円)→高専・短大卒(2.6億円)→大学・大学院卒(3.2億円)の順で生涯賃金が高くなっていることが確認できます。

図1学歴別生涯賃金(男性)(データ出典)独立行政法人労働政策研究・研修機構「ユースフル労働統計2016」
図1学歴別生涯賃金(男性)(データ出典)独立行政法人労働政策研究・研修機構「ユースフル労働統計2016」
重い教育費負担
当然、より高次の教育を受けるためには、相応の費用が必要となります。この教育費は、下の表1によれば、公立・私立、各段階問わず、年収の低い家計ほど重くなっていることが分かります。

表1 年収別教育費の負担割合(%)(データ出典)文科省「平成26年度子供の学習費調査」、日本学生支援機構「平成26年度学生生活調査」
表1 年収別教育費の負担割合(%)(データ出典)文科省「平成26年度子供の学習費調査」、日本学生支援機構「平成26年度学生生活調査」
なお、大学教育にかかる国公私立別学費の内訳については下記の参考表をご覧ください。

参考表 大学教育費の内訳(出典)日本学生支援機構「平成26年度学生生活調査」
参考表 大学教育費の内訳(出典)日本学生支援機構「平成26年度学生生活調査」
つまり、高所得層ほどより高い教育投資が可能となり、それがより高い賃金をもたらし、さらにより高い人的資本投資が可能となり、・・・無限ループ・・・、結局、所得格差を固定化し、次世代へと受け継がれていくのです。教育水準の格差は生涯賃金の格差につながるわけですから、親の収入の多寡により子の教育水準に格差が生じてもよいのか、という問題提起が生まれるのは自然な成り行きだと思います。

所得再分配の手段としての教育、あるいは大学教育無償化のメリット
そのような問題提起に対して最近提案されている解決策が大学教育の無償化であると言えるでしょう。これまでの一連の流れから言うと、まず奨学金滞納問題があり、それへの対応策としての給付型奨学金の拡大、そして今回の大学教育無償化です。

つまり、大学教育の無償化という政策は、所得格差是正策として、所得再分配の手段として提案されているのです。上で見ましたように、大学教育費は家庭の負担だけでも平均119.4万円(ちなみに、授業料の平均は91.6万円)となっているわけですから、低い所得層ほど負担が重く、授業料が施策により無償化されれば、家庭の負担は年間20万円弱へと大きく低下し、一気にハードルが下がることになります。そして高校までで教育を断念していた場合に比べて、生涯賃金が上昇する可能性が非常に高くなるのです。

そうなれば、下の所得階層から上の所得階層に移れるチャンスが増えますし、国民全体の所得の底上げにつながれば税収も増えますので、(大学)教育無償化に投じられた税金の回収も夢ではないかもしれません。

無償化の問題点
大学教育の無償化は、所得格差の是正、所得底上げに伴う税収増等のメリットをもたらすと考えられます。一方で、大学教育無償化のデメリットにはどのようなものがあると考えられるでしょうか?ここでは次の4つについて取り上げてみたいと思います。

(1)ゾンビ大学の出現
大学教育の無償化は、直接大学に入金されるにしても、学生を通じて入金されるにしても、実質的には、大学への補助金としての機能を果たします。このとき、問題になるのは、大学という看板を掲げてはいるものの、大学にふさわしい教育水準を提供しない大学、極端な職業訓練学校化した大学、補助金がなければ倒産していたであろう大学が生き延びてしまって、いわゆるゾンビ大学化してしまうことです。

こうした状況を防ぐには、大学の看板にふさわしい教育を行っているかをチェックする必要があり、学部毎に全大学共通の卒業認定試験を導入することで、卒業(予定)生の質を担保する仕組みが欠かせません。

(2)学校外教育の過熱化
大学教育の無償化は、大学への入学希望者数を増やします。そのため、より高い所得層の子供ほどよりよい大学(日本の文脈で言えばより偏差値の高い大学)に入学できるチャンスが高まり、結局、大学教育無償化の効果がそがれる可能性が生じてしまいます。具体的には、下記のような場合です。

(ア)いままで大学進学をあきらめざるを得なかった層が大学入試に参入することにより、受験が激化します。そうなれば、当然、学校での教育以外の教育、つまり塾・予備校に子供を通わせることで、入試突破の可能性を少しでも引き上げたい家庭が出てくるのは避けられず、結局は、より多くの金額を塾等に注ぎ込める所得の高い層が有利になります。つまり、大学教育無償化により、学校外教育の費用負担が増加することで、結局、親の所得の多寡が子供の大学進学に影響を与えてしまうことになってしまい、この場合、政策目的は達せられないことになります。

(イ)また、国公立・私立、学部を問わず無償化となる場合には、医学部の人気が異常に高まってしまうと考えられます。医学部は医師を養成する学部であり、医師は平均すれば高い生涯賃金が見込めます。したがって、現状でさえ過熱化している医学部人気がさらに高まることとなり、医学部定員が現在と変わらないとすれば、医学部入試の超難化は容易に想像できます。その結果やはり学校外教育費(塾)の増加し、先ほどと同じく富裕層有利となってしまい、政策目的は達せられないことになります。もしかすると、塾無償化という施策も提言される時代がやってくるかもしれませんね。

(ウ)以上のように、大学入試の競争激化・難化が予想されれば、より早い段階から入試を突破する学力等を身に付けささせようと、幼稚園受験、小学校受験、中学受験といった各段階での競争が激化することが容易に想像できますので、やはり受験対策の塾への支出が増加することになり、それを賄える所得階層が有利になります。

(ア)から(ウ)、いずれの場合においても、受験戦争が激化し、学校外教育におカネをかけられる層が有利になってしまいます。

(3)大学の偏在
ご存知の通り、偏差値の高いつまり日本の言い方では学歴の高い大学に合格できれば、より高い賃金を稼得できる企業に就職することが可能となりますが、そうした大学の多くは大都市に偏在しています。それだけではなく、地方の場合、自分の目指す学部が存在していなかったり、レベルが合わなかったりする場合も多くあります。その場合、実家を離れて一人暮らしをすることになるわけですが、当然、この場合、一人暮らしのコストが追加的に発生します。こうしたコストもばかになりません。

表2 自宅生と下宿生の生活費の違い
表2 自宅生と下宿生の生活費の違い
上の表2は、自宅生と下宿生の生活費の違いです(出典は表1、参考表と同じく日本学生支援機構「平成26年度学生生活調査」)。同表によりますと、国立大学生では自宅生38.8万円、下宿生109.1万円、私大生では自宅生40.0万円、下宿生101.6万円となっていまして、国立大学生では70.3万円、私大生では61.6万円、下宿生の方が生活費が余分にかかっていることが分かります。

つまり、大学授業料を無償化しても、自宅生と下宿生とでは生活面でのコスト増が厳然として残ってしまいますので、良い大学が少ない地方の子供たちほど、メリットはあまり享受できないと考えられます。

(4)若年労働力不足
派生的な問題としては、大学進学率が上昇すれば、当然若年労働力が減少することになりますので、労働力不足が一層過熱化することは確実です。したがいまして、大学教育無償化と(若年)労働力不足対策はセットで行わなければなりません。

(5)財源の肥大化
さらに派生的な問題としまして、もちろん、大学教育無償化の制度設計にも依存しますが、大学教育無償化の対象を特に限定しない場合、つまりすべての日本国民が対象とされる場合、大学への補助金は際限なく膨れ上がっていく懸念が生じる点も懸念されます。より質の高い教育により人的資本が高まり社会に還元できる場合ー例えば税収増等としてーは問題も幾分和らぎますが、例えば、すでに労働市場から退出してしまっていたり、労働市場に参入するつもりのない人々が、純粋に教養を高めたいという理由で大学を目指す場合(これは大学として本来あるべき機能の一つではあるのですが)はどうするのでしょうか?

そもそも、大学教育への投資は再分配手段として万能なのか
図1で、教育水準が上がると、生涯賃金が上がることを確認しました。このことこそが、教育無償化を所得再分配ツールとして活用する一つの根拠となっていると考えられます。

しかし、単に大学を出たからと言って、自動的に職にありつけるわけではありません。いわゆる就職活動を経て企業や官庁に就職できるわけです。逆に言えば、就職できなければ大学を出たからと言って高い所得が得られるわけではありません。いまだ日本は新卒至上主義や年功序列の残滓が残存していますので、新卒で就職を逃すとその後の賃金水準がそうでない場合に比べて低くなってしまいます。あるいは、大企業への就職はとてつもなく狭き門で、大企業に比べて賃金水準が低い場合が多い中小零細に就職する場合、やはり賃金水準が低くなってしまいます(大学が立地している地域や出身地にも依存しますが)。

以上のことを確認するため、企業規模別の学歴別生涯賃金の違いを見てみましょう(図2)。

図2 企業規模別学歴別生涯賃金(男性)((データ出典)図1に同じ)
図2 企業規模別学歴別生涯賃金(男性)((データ出典)図1に同じ)
図2によれば、従業員が1000人以上の大企業の大・院卒(368.9百万円)は他の規模の大・院卒よりも生涯賃金が高いことが確認できます。さらに、従業員が100人から999人までの中企業の大・院卒者の生涯賃金は293.6百万円ですが、この水準は大企業の高卒299.8百万円、高専・短大卒の302.6万円を下回る水準となっています。また、従業員の規模が99人以下の小企業の場合は、大・院卒者の生涯賃金は245.4百万円であり、大企業の中卒(276.1百万円)、中企業の高専・短大卒(245.5百万円)を下回っています。

日本のローカル化を避けよ
以上から、生涯賃金の面だけで言えば、中・小企業に就職すると、語弊があるかもしれませんが、大学の教育歴が無駄になってしまうのです。つまり、いついかなる場合も大卒者の生涯賃金がそれ以外の学歴者の生涯賃金を上回るわけではなく、逆に言えば、大卒者の生涯賃金が他の学歴者の賃金を下回るケースも十分考えられ、大学を出たからと言ってそれだけで所得格差が是正されるわけでもないという事実にも目を向けておく必要があるでしょう。あるいは、所得再分配の手段として教育を利用しようと考えている政治家は、大学教育を無償化すれば突然国民にバラ色の生活が約束されるわけではないことを肝に銘じておく必要があります。

そもそも、大学教育の無償化により国民の所得の底上げを図るには、結局高付加価値産業の創造が必須であって(そうでなければ教育水準が上がるほど高い賃金を約束できません)、単に大学教育の無償化だけを声高に主張するのは、産業の高付加価値化という難問から目をそらしているだけと受け取られても仕方ないと思います。また、高付加価値産業の育成を怠って大学教育に見合った賃金水準が日本で得られないとなれば、日本国民の税金で高度な教育を施した人材が国外に流出してしまうブレインドレイン(頭脳流出)が大規模に発生する可能性もあります。そうなれば日本にとっては税金の流出と優秀な頭脳の流出という二重のショックに見舞われることになります。

横道にそれますが、ブレインドレインの大規模化は、中国の台頭でアジアのなかでも、もちろん世界のなかでも、日本という国のいっそうのローカル化が進展していくことと同値です(日本における都市部と地方の関係(地方が教育を施した人材が都市に流出してしまっている状況)を想起してください)。

目をそらしてるだけと言えば、所得再分配の王道は税を用いた施策であるはずで、そうした政治的に抵抗が大きい課題から逃げ、(大学)教育無償化という給付のバラマキに走るのはやはり問題のある姿勢と言わざるを得ないと思います。また、大学教育無償化の場合には、大学に進学する人とそうでない人の間の公平性が担保されないという問題も指摘できます。

大学教育無償化が意味を持つのはそれとセットで高付加価値産業の育成がなされた場合のみですし、所得再分配は、大学教育無償化によってではなく、高付加価値産業の育成と税制変更によって行うのが適切です。しかし、そうした正攻法とは異なる大学教育無償化のみによる所得再分配は欺瞞であると断ぜざるを得ません。

大学教育は、確かに、人的資本を高めてよりよい賃金を得る手段であることは否定しませんが、ヤン・ウェンリー風に言えば、教育は自分の運命を動かしていけるだけの選択肢を持つための手段です。つまり、大学教育は、より高い賃金のためだけではなく、よりよい人生を送るための手段なのではないでしょうか?

めぞん一刻の三鷹瞬ではありませんが、結局、

教育じゃ人生は買えないけれど、教育があった方が人生が潤う。

のだと思います。

まぁ、それはさておき、大学教育無償化は、美しい名目ではありますが、結局、バラマキに過ぎません。次世代に対してやるべきことは、バラマキではなく、右肩上がりの時代に作られた緒制度を、強い意志と覚悟をもって、あらゆる政治的抵抗を排しながら、現在の、そしてこれからの時代にあったものとすることだと思います。
https://news.yahoo.co.jp/byline/shimasawamanabu/20170317-00068754/

 


待機児童(待機園児)はいても、待機小学生も待機中学生もいない
島澤諭 | エコノミスト
3/1(水) 4:00
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(ペイレスイメージズ/アフロ)
本日のポイント
保育サービスを増やすための2つの代替的施策
1.国が供給責任者となることで全ての需要者に保育サービスを供給
メリット:保育サービスを需要できない者はゼロ(公平性に配慮)
デメリット:社会的コストが膨大となる
2.価格メカニズムを利用しニーズの高い需要者から保育サービスを供給
メリット:社会的コストが節約される(効率性に配慮)
デメリット:保育サービスを需要できない者が発生

はじめに
おはようございます。最近、生来のひねくれた物の見方に拍車がかかってきた感じで、老いを感じています。

今回は、新年度開始を翌月に控え、待機児童解消対策はどこ吹く風、いっそう深刻さを増す待機児童の問題について、取り上げてみたいと思います。

保育所運営コストに占める利用者負担額は2割弱
保育所の運営に必要な経費(保育所運営経費)は、 利用者、自治体、都道府県、国の4者で負担することとされています。つまり、利用者の保育料(利用者負担金)と行政からの補助金により保育所の運転資金が賄われていることになります。

ざっくりいうと、利用者が負担する保育料、つまり市町村が提供する保育サービスに対する料金は、まず、国が想定する保育所運営必要経費の40%とする国基準額があり、次に、その国基準額をもとに、一般的には市町村独自の軽減策を加味することで、決定されます。なお、具体的な保育料は、利用者(世帯)の市町村民税額(所得割)や子供の年齢(兄弟姉妹での利用の有無)等によって決まりますが、保育料には上限額が設定されています。その結果、保育所運営経費に占める保育料の割合はおおむね2割弱となっています。

例えば、小金井市を例にとると、表では、利用者の保育料負担は運営費総額の14%となっています。

表 小金井市の運営費の状況(平成27年度決算)
表 小金井市の運営費の状況(平成27年度決算)
(出典)小金井市HP

待機児童問題とは保育サービス市場における超過需要問題でもある
世間的には、保育所(保育サービスの供給量)が足りない前提で議論が進められることも多いのですが、利用者負担額、つまり保育サービスに関して需要者が認識する費用(価格)に着目しますと、現在の保育サービス市場では、価格メカニズムが働かない(働かせない)仕組みになっています(いわゆる待ち行列や割り当て)ので、(経済学的に見て)緊急度の高い人から順に保育サービスが割り当てられる仕組みにはなっていませんから、超過需要すなわち、待機児童問題が発生するのは当然です。

超過需要が発生する原因としては、供給側に問題が発生する場合と、需要側に問題がある場合に分けられます。

したがいまして、よく指摘されていますが、保育サービス市場においては、保育所が足りないとか、保育士さんが足りないといった供給側の問題に加えて、経済学者以外は余り指摘しませんが、価格メカニズムが正常に機能していない結果、需要側においても超過需要としての待機児童問題が生じているという視点を指摘しておくことは重要だと思います。

待機児童問題の解決策を考えよう
さて、保育サービスを利用する事情は様々ですが、行政が価格メカニズムを敢えて無視している結果、利用できない方々が出てくるのは当然であって、保育サービスの供給量を責任もって行政に増やさせる方向で抗議活動が行われているのも当然と言えば当然の成り行きです。

しかし、日本は市場原理に立脚した経済・社会体制を採用しているので、また社会的にリソースの総量が決まっていることもあり、そうした中では、一般的には、価格が割り当ての順序付の基準として作用するので、価格メカニズムを無視したサービス(あるいは「利用者本位」の低価格に抑えつけたサービス)の供給は、行政が供給責任者として決意をもって行動しない限り、機能不全の市場に任せておくだけでは、保育サービスの供給は後回しにならざるを得ません。

だとすれば、解決策はある意味単純明快で、一つは、現在の抗議活動が実際に行っているように、国や自治体といった保育サービスの供給責任者に圧力を加えて十分な供給量を市場外の力、つまりは政治的な圧力によって確保させること、もう一つは、価格メカニズムを活用することで、保育サービスの需要と供給を一致させることです。

(1)案1:国が供給責任者となり保育サービスを供給する
突然ですが、小中学校の義務教育は、日本国憲法でも規定されていることもあり、相応の年齢に達した児童生徒を全員収容できる仕組みが確保されています。待機小学生とか待機中学生って聞いたことありませんよね。

安倍内閣では女性が家庭外での仕事に就くことを奨励している訳ですから、その国策を達成させるため、保育サービスについても、義務教育に類似するものとして、義務教育同様、国や地方公共団体が責任もって、そのサービスを受けたいすべての者(最後の一人まで)に対して、もれなくサービスを行渡らせるよう義務付けるのです。図では保育サービス需要曲線(赤い線)と横軸との交点(赤い点)がそれにあたります。当然、この場合は待機児童の発生はありません。

もちろん、こうした施策には、相応のコスト負担が必要となりますので、それについての社会的合意を得る努力が欠かせませんし、幼稚園サービス需要者(すなわち、家庭内での仕事に従事している専業主婦(夫))との公平性に配慮する必要も出てくるでしょう。さらに、通常、効率的な水準を超えて保育サービスが供給(需要)されることになってしまいますので、社会的に見ればその分資源の無駄遣いが発生していることになります。

またより深刻なのは、待機児童解消で出生率が上がり子供の数が増えればよいのですが、そうならなかった場合、せっかく作った施設が無駄になってしまうというリスクがあるのも見逃せません(だからこそ、政府の様々な施策に対しても、反応が薄いという事情もあります)。

(2)案2:価格メカニズムを利用する
もう一つは、保育サービスの(実質的な)規制価格を撤廃し、価格メカニズムを利用することでニーズの高い需要者から順に保育サービスを供給するものです。経済学では、より高い価格でその財・サービスを需要する意思があり実際に需要できる者ほど、その財・サービスを需要する優先度が高いとみなします。したがって、市場で決定される価格水準よりも高いか同等まで支払うことのできる者は保育サービスを需要でき、その価格水準を負担できない者は保育サービスを需要できないので、そもそも超過需要は発生せず、当然待機児童問題も生じません。図では保育サービス需要曲線(赤い線)と保育サービス供給曲線(緑の線)との交点がそれにあたります。

ただし、この場合、市場で成立する保育サービス価格を負担できない者は、家庭外では働きたくても働けず、社会全体で見た資源の効率的な利用は実現できたとしても不公平感は残ってしまいます。

図 保育サービスの供給曲線と需要曲線(模式図)
図 保育サービスの供給曲線と需要曲線(模式図)
(出典)筆者作成

おわりに
現在、待機児童を抱える家庭では、国や地方公共団体に対して、もっぱら保育サービスの供給量の確保を強く要望しています。しかし、本記事でも検討しましたように、待機児童を解消させる方策は保育サービスの供給量を増やす施策に限らず、保育料設定を自由化することで保育サービスの需要と供給を一致させることでも可能です。もちろん、この場合、保育料負担は跳ね上がるでしょうし、条件によっては、家庭の外での仕事を断念せざるを得なくなる可能性もあります。その場合、文字通り死活問題となる世帯も多いことでしょう。

しかし、待機児童がゼロになるまで資源を投入するとなれば、それはそれで社会に歪みを与えることになるのもまた事実です。

待機児童解消のため、どの程度の資源を投入するのが適切かは、そもそも、何のために待機児童解消を目指すのかにも依存します。待機児童解消の目的は、所得を得るためでしょうか、あるいは安倍内閣が目指す名目GDP600兆円達成のためでしょうか、それとも労働力不足解消のためでしょうか。目的が、名目GDP600兆円達成の場合や労働力不足の解消という時の政権や行政側の都合であれば、貴重な資源をやみくもに待機児童解消に投入する必要はなく、例えば、家庭内労働の価値を名目GDPの計算に含めるとか(専業主婦(夫)は社会のお荷物なのか)、外国人労働力を導入するといった代替的な施策も考えられます。

問題は、収入確保の場合で、この場合は、価格メカニズムを保育サービス市場にも適用するだけでは、はじき出されてしまう世帯が大いに出てきてしまう可能性が高く、国が待機児童がゼロになるまで保育サービスを供給する責務を負うことが正当化される可能性があります。

ただし、この目的においても、価格メカニズムを利用して待機児童の解消を図りつつ、そこから溢れる世帯に対しては、そうした世帯の待機児童解消に必要となる総費用の大きさとそうした世帯が得る所得総額とを比較衡量して、前者が後者を上回る場合には、待機児童解消を目指さず、家計に直接給付を行う(例えば、ベーシックインカムでもなんでもよい)方が効率的であるとも言えます。

あるいは、いきなり家計への所得の直接給付まで行かなくても、市場価格が高過ぎて保育サービスからはじき出される世帯に対してはバウチャー支給による直接補助で対処するという選択肢も考えられると思います。

最後に、私としては、実は、案1でも案2でも社会的合意が得られればどちらでも構わないと思っています(実際には、どちらかと言えば案1推しですが)。

ただし、この4月からの保育園が決まっていない世帯のみなさんにとってみれば、社会的合意とか悠長なことは言ってられない差し迫った問題であるのも事実でありまして、例えば、地域型保育事業(家庭的保育事業、小規模保育事業、居宅訪問型保育事業、事業所内保育事業)を3歳児以降にも拡大し受け皿としていくというのも、ちょっとした制度改正で実施できると思われますし(言うは易く行うは難し?)、効果的な案だと思いますが、いかがでしょうか。

そうした一時的な止血策を講じつつ、保育・幼児教育サービスについては、義務教育に準じた仕組みを構築することで、子育て世帯であっても、そうでなくても、国家や社会のためではなく、自分や家族のため、家庭の外で働きたい者は誰でも働ける社会の実現こそ、少子化、高齢化、人口減少という人口変動の嵐の真っ只中にある日本に求められているのだと思います。
https://news.yahoo.co.jp/byline/shimasawamanabu/20170301-00068208/

 
「小1の壁(待機学童)」問題を考える
島澤諭 | エコノミスト
3/23(木) 4:00
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(写真:アフロ)
小1の壁
育児休業を終えた共働き家庭がいざ仕事に復帰しようとする場合に直面する第一関門が、子供を預ける保育園が確保できない待機児童の問題であるとすれば、第二関門と言えるのは、小学校放課後に子供を預ける放課後児童クラブ(学童保育サービス)の確保でして、一般には、小1の壁と呼ばれています。

未就学児(保育園)の場合、多くの企業では短時間勤務制度が整備され早めに子供をお迎えに行けますし、行けなかったとしても、保育園の多くが19時以降まで預かる体制(延長保育)を整えているのに対して、学童保育の場合は、厚生労働省の資料によりますと、その48%程度が18:30までには終わってしまいます。つまり、学童保育の場合、預けられなかった場合には、小学生とはいえ、特に低学年の場合、まだ幼い子供を自宅に1人で置いて危険にさらさざるを得ない状況が生じる可能性がある一方、たとえ首尾よく預けられたとしても、クラブによっては閉所時間が早いため、就学児童に対する短時間勤務制度が整備されている企業はまだ少数派ですから、やはり、子供を危険にさらしてしまうことになりかねません。

いずれにしても、子供の安全・安心が大いに脅威にさらされている昨今、親御さんにとっては、不安の中働かざるを得ず、ストレスが半端なく高まってしまいます。最悪の場合、仕事を辞めざるを得なくなる事例もしばしばで、家庭にとっても、企業にとっても、社会にとっても、もしかすると、女性が輝ける社会の実現を標榜している政府にとっても、非常に大きな痛手だと考えられます。

待機学童数の推移
政府は、安倍総理のリーダーシップのもと、「放課後子ども総合プラン」と「ニッポン一億総活躍プラン」によって、2018年度末までに学童保育約122万人(30万人のサービス増)整備を目指していまして、実際、2016年度までの2年度間で約16万人分の受け皿増加を達成してはいます。

そうした施策の効果もあって、待機学童は大幅に減少したかと言えば実はそうでもなく、逆に、2015年の16,941人から2016年には17,203人とやや増加しています(図1)。

図1 待機学童数の推移
画像
(出典)厚生労働省「平成28年放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)の実施状況

都道府県別では、東京都、埼玉県、千葉県、静岡県で1,000人以上と深刻になっています(図2)。

図2 都道府県別待機学童数
画像
(出典)図1に同じ

サービスが供給されればそれと同等かそれ以上にニーズが顕在化してしまっている状況は、まさに待機児童と同じ構図でありまして、つまり、サービスの絶対供給量が潜在的な需要量に比べて少ないことに問題があると考えられます。全国学童保育連絡協議会によれば、放課後児童クラブの整備が遅れているため、クラブを利用したくても利用できない「潜在的な待機児童」(低学年でも推定40万人以上)がいると推定されています(2013年時点)。

解決策(案)
それでは、待機学童の解決策はどういうものが考えられるでしょうか。ここでは、働き方改革が必ずセットで実施されるとの前提で、下記の2つの案を考えてみます。

案1(量的解消策)
以前の記事、待機児童(待機園児)はいても、待機小学生も待機中学生もいないでも指摘しましたように、小学校や中学校の義務教育課程においては、小学校や中学校の不足から、入学に待ったをかけられる待機小学生や待機中学生はいないわけですから、国の責任において、法令等で、学童保育サービスを必要とする家庭が存在する限り、すべての小学校に必要なだけ放課後児童クラブの設置を義務付けることが考えられます。小学校高学年は進学予定の公立中学校に放課後児童クラブを設置する手もあるかもしれません。ちなみに、放課後児童クラブの設置は、現状では19,655小学校区(公立小学校数の総数)に対して16,472小学校区(全体の83.8%)にとどまっています(資料は前掲に同じ)。

その上で、現在でも、18:30で閉所してしまうクラブが全体の48%程度を占める一方で、短時間勤務制度の対象は未就学の子を持つ社員に限定される状況がまだまだ一般的であることに鑑み、放課後児童クラブの時間外はファミリーサポートクラブやシルバー人材センターの方々の助力を得て、対応することが考えられます。もちろん、そうしたファミリーサポートクラブやシルバー人材センターに対しては補助金を出すことも十分考えられるでしょう。

案2(価格的解消策)
学童保育市場全般に対して、市場メカニズムを適用することで、優先順位の高い利用者、つまり、所得の高い利用者から順に需要を満たしていき、そこから漏れる者に対しては、所得再分配政策の一環として、バウチャーを配布するなどなんらかの援助を行うことが考えられます。

この場合の利点としては、相応の対価の徴収が可能となることで、当局の財政負担に一定の制約がかかるなか、学童保育サービスの供給が進むことが指摘できます。設置場所として、学校の余裕教室や学校の敷地等を民間事業者に対しても広く開放することで、空いた学校施設の有効活用とともになにがしかの収入が自治体に期待できます。

おわりに
待機児童の問題でも述べましたが、社会の流れとして、戦後昭和期のように女性が家計補助的な仕事に留まららなくなった平成の世の中で、あるいは、国策として、女性の家庭外での就労を促進する政策をとっているにもかかわらず、もっぱら男性が家庭外で就労していた時代と同じような働き方を強いていたり、政策もそうした時代の延長線上で立案していては、社会の不満は高まるばかりなのは明らかで、そうした不満を解消するには、思い切った政策を実現する以外ほかに手段はないでしょう。

それから、保育・学童分野にしろ、介護分野にしろ、統制経済的な施策は、サービス供給量も過少ですし、それを担う人材である放課後児童支援員の対価も他の分野よりも著しく低く(全体の平均で274.1万円、常勤では283.7万円、非常勤では215.5万円とワープア水準)慢性的な人手不足な訳ですから、政策の基本路線が間違っている証左のような気がしてなりません。

国会での議席数でも、自民党内でも、強い基盤を持ち、強い内閣を実現されている安倍総理には、是非とも、働き方改革や、待機児童問題、待機学童問題で強いリーダーシップの発揮を切にお願いしたいと思います。所管官庁官僚による忖度なんてないわけですから。

そうすれば、苔むした昭和モデルから脱却し、燦然と輝く平成モデルを確立した名宰相として、後世に語り継がれていくことになると思います。
https://news.yahoo.co.jp/byline/shimasawamanabu/20170323-00069001/
http://www.asyura2.com/17/senkyo223/msg/295.html

[経世済民120] ユニオン「反日左翼カルト集団」説に反論する! 職場を生き抜け! 東京管理職ユニオンの鈴木剛さん、設楽清嗣さんに聞く
ユニオン「反日左翼カルト集団」説に反論する!

職場を生き抜け!

東京管理職ユニオンの鈴木剛さん、設楽清嗣さんに聞く
2017年3月30日(木)
吉田 典史
 今回は、労働組合・東京管理職ユニオン委員長の鈴木剛さんと、アドバイザーの設楽清嗣さんに取材を試みたやりとりを紹介します。

 テーマは、「東京管理職ユニオンこそ、カルトではないのか?」

 2月16日に、鈴木さんを取材した記事「超キモイ会社には、ゲシュタポがいっぱい」を掲載しました。読者からの投稿の中には、鈴木さんや東京管理職ユニオンに批判的なものがありました。ネット上を検索しても、それに近いものがあります。

 そこで今回は、鈴木さんと、1993年に東京管理職ユニオンが結成されたときから書記長を長く務めてきた設楽清嗣さんに話をうかがいました。

 東京管理職ユニオンは、全国に多数あるユニオンのパイオニア的な存在であり、今や労働運動の一翼を担っています。

 なぜ、その一翼にすぎない彼らは批判を受けるのか。なぜ、東京管理職ユニオンは「反日左翼カルト集団」と非難を受けるのか。そこに焦点を絞り、聞いてみました。


労働組合・東京管理職ユニオン委員長の鈴木剛さん(左)と、アドバイザーの設楽清嗣さん(右)
前回の記事以降も、「反日左翼カルト集団」と批判を受けていますね。

鈴木:あの記事に私が取り上げられた頃、出版社・青林堂での、パワーハラスメント事件(※)の記者会見をしたのです。ネットではもともと、我々に対し、「反日左翼カルト集団」などと誹謗・中傷があります。

 ところが、この一件では我々の組合員であり、パワハラ事件の被害者である男性を擁護する書き込みが多かったのです。事実にもとづいてきちんと抗議をしていると、伝わるものなのだなと思いました。

パワーハラスメント事件(※)
出版社「青林堂」の社員が、労働組合を作ったところ、解雇された。その後、和解して復職。しかし、さらにパワハラを受けたとして、会社に対して2000万円余の損害賠償を求める訴えを東京地方裁判所に起こした。
「自分たちの会社の問題に声を上げないのは、なぜだ!」

AV監督だった村西とおるさんも、ご自身のツイッターでユニオンへの厳しいつぶやきをしています。2017年2月14日に、こうあります。

「青林堂を告発するユニオン。取り上げるメディアは一方的に青林堂を悪者に。問題の社員が解雇されたのは本人の能力不足と怠慢な勤務態度。企業は慈善事業をしているわけではない。使用パソコンをネットにつながなかったのはデータ流出の疑念から。青林堂を叩いて溜飲を下げている左巻きのチンカス集団」

鈴木:左巻きのチンカス集団…(笑)。私も、それを見ました。私は、あの方と仕事をしたことがあるのですが、もう、忘れているのでしょうね。事実ではないことを書いておられるから、残念でした。

 これは会社側、つまり、青林堂の言い分を鵜呑みにしているつぶやきです。パワハラ事件の被害者である我々の組合員は能力不足ではないし、勤務態度が怠慢でもない。東京地方裁判所で、会社側のこの言い分は全部否定されています。そのソース(情報の出所)をきちんと読まないで、あんなことを書く。もはや、デマですよ。

村西さんの真意はわかりかねますが、一般的には、ユニオンのあの強烈な抗議活動に疑問を感じている人はいるかもしれません。例えば、会社の前でデモをしたり、ビラをまいたり、拡声器で社長や役員をなじりますね。

設楽:組合員が不当解雇にされたり、パワハラなどの不利益になったことを防衛するためには、状況いかんでは抗議をせざるを得ない。ほかに方法がない。会社側が、我々との話し合いに応じるなら、そのようなことはしません。しかし、応じない場合がある。我々のような外部の組合であろうとも、会社には団交に応じる義務があります。

鈴木:会社側が我々と合理的な話し合いをしているときは、抗議活動をしたことはありません。何でもかんでも押し掛けて、お金を脅し取るなんてない。ありえない。それは、断じてない。

ユニオンは通常、その社員が自分たちの労組に入ったことを知らせる「組合加入通知書」を会社に送る。そのうえで「団体交渉申し入れ書」を送ることがある。その意味では、正当な手続きをとっているのでしょうね。そのプロセスを、多くの人は正しくは知らないのかもしれません。

鈴木:我々は基本的には、まず、団体交渉で話し合いをしようとしているのであり、それをしようとしない側にこそ、問題があるのです。

設楽:もっと言っておきたいのは、例えば、東芝や三菱自動車、電通などの大企業が不祥事を起こしています。ところが、そこの社員の声を聞いたことがない。実に、だらしない。そんなサラリーマンが、我々に違和感を持っているならならば、私のほうが大いに違和感を持ちますよ。「自分たちの会社の問題に声を上げないのは、なぜだ!何をやっているんだって!」と。

「おとなしい波平さんも決起するんじゃないか」

ユニオンが、会社に対して「市民感覚」を持ち出してくる発想そのものがおかしい、と批判する会社員もいますね。

設楽:それは、会社を不可侵なものだと思っている人の考えでしょう。会社が外に向けて開かれていない。だから、会社がどんどんと問題を起こしている。それこそ、カルト会社だと私は思います。そこにいながら、声を上げないことが普通だと考えているならば、まさしく、カルト社員です。


鈴木:カルト社員は、「異議あり!」と我々のように声を上げること自体が、カルトだと思っているのかもしれない。しかし、カルト社員は結果として、会社の不祥事や不当な行為に加担しています。例えば、電通事件などは、その一例でしょう。

設楽:彼女は、職場で孤立していたのだろうね…。

鈴木:周囲の社員たちは、結果としてそれを見殺しにしたわけでしょう。私は言いたい。「あなたたちこそ、いなくなれ!」と。彼女をさんざんに苦しめておいて。

設楽:これは強く言っておきたいのですが、会社に「市民感覚」を持ち込まないと、会社はよくならない。労働者は救われない。ところが、会社の利益を守るために、会社員は会社共同体の網を引くことで、組織を守ろうとする。

鈴木:市民感覚を受け入れようとしなかった東芝は、もう、“死に体”じゃないですか! かつては、テレビ番組のスポンサーとしてCMを大量に流していました。東芝日曜劇場では、「明日をつくる技術の東芝がお送りします!」…って。同じくメーンスポンサーだった「サザエさん」は国民的番組ですよ。今の東芝のだらしない姿を見て、おとなしい波平さんも決起するんじゃないか。

設楽:愚かだよね。会社が破綻して初めて気が付くサラリーマン…。90年代後半の金融不況の頃も、銀行や証券会社が次々と破たんした。4大証券の一角を占める、山一証券がつぶれるなんて、ほとんどの社員は想像すらしていなかったはずです。信じ込んでいるのですね。いつまでも会社を…。

当時、山一証券の企業内労組の役員がテレビの報道番組で、「我々は前々から、会社がおかしくなることは分かっていた」と言っていました。

鈴木:そんな言い分は通らない。その発言を認めたら、ダメ! 日本のような企業別組合は、世界でもまれな存在です。市民感覚からかけ離れた存在であり、不祥事を起こしても、不当な行為をしても常に会社と一体になっている。

設楽:企業内労組は会社の一員として、会社をかたくなに守ろうとします。だから、我々、ユニオンに相談に来た人が「異端者」になるのです。揚げ句に、企業内労組や会社員の中には、ユニオンのことを「反社会的集団」とレッテルをはる人もいます。

鈴木:最近ではネット上で、「東京管理職ユニオンにこそ、共謀罪を適用せよ!」と書かれます。実際、政府・与党が推し進める共謀罪の議論を見聞きしていると、我々のこともその処罰の対象として想定しながら国会で答弁をしている、と思えます。光栄ですよ、ホントに…(笑)

ユニオンが守る労働者の中には、「ひどい奴」もいませんか?

1990年代後半から、東京管理職ユニオンを取材者のまなざしで見てきました。当時、ユニオンが労働組合・連合に加盟するか否かを東京管理職ユニオンの機関誌上で組合員たちが激しく議論をしていました。賛成・反対にわかれ、誌面に論文などを載せて、意見を闘わせる。

 あの「ボトム・アップ」の試みができるのは、強い組織です。多くの会社や労組ではできない。構成員の意識を高めるために不可欠でありながら、できない。あの試みがきちんとできると、構成員の意識が爆発的に高くなる。大衆運動などに発展していくエネルギーが、あそこでつくられる。

 実は、会社に市民感覚が浸透せず、カルト化する大きな一因は、このあたりにあるように私は思っています。つまり、現場レベルで会社のあり方などを激しく議論することができない。常に、上からの指示・命令に従わせる。それに従わないと、排除される。

設楽:そのようになってしまうのは、会社が利益追求集団としての一致点を強靱に上から、つまり、社長や役員からつくるからです。だからこそ、電通のようになる。

 現場で深刻な問題が起きているのに、誰も声を出さない。あれほどに世間から叩かれても、現場は立ち上がれない。下から組織をつくっていなかったから、いざとなったときに皆がどうするべきか、わからない。

しかし、ユニオンが守る労働者の中には、「ひどい奴」もいませんか?「こんな人をなぜ、守るの?」と聞きたくなる人がいるように思います。

設楽:たしかに、ダメな社員はいます。だから、団体交渉の場で会社にお願いをすることがあるのです。「この人の駄目さ加減を確認したうえで、今後、再生して生きていけるように何とかしてあげてください」と。

鈴木:そのような場には、私が行くときもあります。もう、土下座団交ですよ。ユニオンは会社に押し寄せて怒鳴るだけではない。実は、団体交渉の半分以上は、落ち着いたトーンで双方が話しているものなのです。

 ダメな人であろうとも、守らないといけない。民主社会では、どんな悪事をした人であっても、ディフェンサーとしてその主張や経過を聞いて、弁護する人がいないといけない。そうでないと、江戸時代のように果し合いや殺し合いになりますよ。

設楽:少数かもしれないが、ただ1人なのかもしれないが、民主主義社会には、社会全体に合わない人は必ず発生する。会社の中にも、絶対にいる。その人を防衛することも民主主義の基本原則であり、我々がするべきことなのです。

「異質を認めない組織の行き着き先が、カルトです」

なぜ、そこまでして少数派の側に立つのでしょうか?

設楽:「反日」や「左翼」である人も必要ではないですか! 戦前は、反日や左翼は声を出せなかった。だから、侵略を繰り返し、最後は負けた。

 いつの時代にも、「戦争反対」を唱える人や、「反日」的なことを言う人、「反戦」を唱える人は必要です。その人たちを防衛することは、絶対に必要なのです。

鈴木:社会観の違いでしょうね。つまりは、民主主義社会をどうとらええるか。集団は、同質的なものだけ構成したほうがいいのか、それとも異質なものもいたほうがいいのか…。私は、後者の立場です。そこに確信を持っている。

設楽:異質の者が、いっぱいいる組織は強い。東京管理職ユニオンには、国粋主義的な考えの人や、民族派右翼もいます。彼らは抗議行動に行くと、行動の最先頭に立ちます。「ふざけてやがる、この会社は!」と。

鈴木:右翼の組合員も、ばっちりいますよ…!

設楽:右翼がいて、反日がいて、左翼がいる。そのような組織は強靱です。軟らかくて、しなやかに強い。


鈴木: 社会全体の窒息状況や会社のカルト化の大きな理由は、そこにあるのでしょうね。異質を認めない組織は必ず、弱くなります。その行き着く先が、カルトなのです。

 二人は、「村西とおるさんと会いたい」と話しています。ツイッターのつぶやきへの抗議でありません。理不尽な社会と共闘できる同志として、村西さんと一緒に問題提起をしていく機会を求めています。

 実は、二人は村西さんのファンなのです。だからこそ、ツイッターのつぶやきに思うものがあったようです。

 次回も、このお二人に「東京管理職ユニオンこそ、カルト!」をテーマに話をうかがいます。


このコラムについて

職場を生き抜け!
「夜逃げした社長」から「総理大臣経験者」まで――。これまで計1200人を取材してきたジャーナリストが、読者から寄せられた「職場の悩み」に答えるべく、専門家、企業の人事担当者への取材を敢行する。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/011600039/032800007
http://www.asyura2.com/17/hasan120/msg/559.html

[国際18] 「トランプの壁」建設の入札に群がる企業の思惑 「FBIと大統領の喧嘩」の悪夢 オバマの罪と罰
「トランプの壁」建設の入札に群がる企業の思惑

The Economist

登録企業の約1割はヒスパニック系オーナー
2017年3月30日(木)
The Economist


メキシコ国境の壁にペンキを塗ることで抗議する人々(写真:AP/アフロ)
 米大統領選のさなか、ドナルド・トランプ氏の支持者が何より熱狂的に叫んだスローガンは「国境に壁を!」だった。そして今、建設業界はそれに負けないくらいの熱気に包まれている。

 3月下旬、米国税関・国境警備局(CBP)はメキシコ国境に建設する予定の壁について、入札希望業者向けに2件の提案依頼書を公開した。この壁の建設費用は120億〜250億ドル(約1兆3300億〜約2兆7600億円)にのぼると見込まれている。設計案の提出期限は3月29日。

 依頼項目の1つは堅固なコンクリート製の壁、もう1つは強化コンクリートに代わる「代替資材」を使った壁だ。使用する建設材を何にするかについて、政府はどうやら最終的な決定を下していないようだ。

ヒスパニック系がオーナーの地元企業も参加へ

 この事業の請負契約を勝ち取ろうと、700を超える企業が登録を終えた。その範囲は大手ゼネコンから資材販売業者、照明・監視システムを扱うニッチな業者まで多彩だ。驚く向きもあろうが、入札している企業の約1割は、ヒスパニック系がオーナーの地元企業だ。提示された報酬額に惹かれて参加しているのだろう。

 国境の両側に工場を持つメキシコのセメント大手セメックスは、この事業向けにセメントは販売しないと言っているが、以前は入札に関心を示していた。他に小規模なメキシコ企業が1社、照明サービスの提供を申し出ている。

 この他、外国企業として南アフリカのSAフェンス&ゲートやスペインのクイックフェンスなどが入札に参加する。ただし、こうした外国籍の企業は選ばれない可能性がある。なぜなら政府の入札基準は「バイアメリカン法」を優先すると明記しているからだ。

 建設最大手のひとつ、スウェーデンのスカンスカはこの事業に冷淡な反応を見せている。CEOのヨハン・カールストローム氏は「我々はオープンであることと公平であることを重視している」と述べた。

政治信条とビジネスの微妙な関係

 入札に参加する米国大手企業は政治を重視しないという態度をとっている。ノースカロライナ州に拠点を置く資材大手マーティン・マリエッタのハワード・ナイCEOは、単に「大規模なインフラ事業に一般的興味を持っているだけだ」と主張する。

 トランプ大統領が全国のインフラ事業に1兆ドル(約111兆円)を投入すると公約した結果、同社をはじめとする建設業者の株価は上昇した。こうした事業の計画には遅れが出る可能性もあるが、国境の壁の建設に限ってそれはなさそうだ。

 比較的小さな企業の場合、経営者の個人的な見解が事業に反映することがある。サンディエゴ近くを拠点とする請負業者グリーンフィールド・フェンスのマイケル・マクローフリン氏は、メキシコ国境の壁は「危険な麻薬密輸業者」を米国に入れさせないために必要だと言う。

 壁に関する一般要求事項は、高さが5.5メートル以上で(できれば9メートルが望ましい)、人が登ったりトンネルを掘ったりできない仕様になっていること。そして、「見た目が美しいこと」(少なくとも米国側については)。

 選考過程の第2ラウンドに進む数十社は今後、詳細な図面と技術仕様書とともに、提供しうる最安値価格を提出することになっている。最終的に選ばれる企業の数はまだ不明だが、残った企業はそれぞれが最大3億ドル(約330億円)相当の事業契約を獲得する。

サブコンや付属品業者にもビジネスチャンス

 今回の選考規定は明らかに、大手のエンジニアリング会社や建設会社に有利な内容となっている。例えばキューバのグアンタナモ湾で収容所の建設に貢献したKBR(おそらく応札すると思われる)や、ネブラスカ州のキーウィットなどだ。こうした企業には最高の設計技術と一流の建設管理チームに加え、資材供給業者にごり押しできるだけの力がある。

 だが規模の小さな企業であっても、より大きな元請業者の下請けとなることで利益を得ることが可能だ。サウスダコタ州で家族経営の事業を営むマクダート・エクスカベーションのアンドリュー・ドーフシュミット氏は政府との契約を勝ち取った企業に掘削サービスを提供したいと考えている。

 そのほか、壁そのものの建設には関心がなく、「戦術的インフラおよび技術」として知られる国境の壁向けアクセサリーの販売機会を狙う企業もある。アクセサリーとは照明設備や監視台、遠隔ビデオ監視システムなどのことだ。

 こうした企業のひとつである2020サーベイランスは、完成した壁には60メートルごとに監視カメラが設置されると推測する。カメラ1台あたりの年間ライセンス料が数百ドルだとして、壁の全長分(1610km)に監視サービスを提供する場合、壁が活用される限り業者には毎年1000万ドル(約11億円)の収入が発生する。

立ちはだかる私有地の存在

 潜在的な応札者はこのように強い関心を示している。その一方で、建設のスケジュールについては予測が立たないことも考えられる。一例を挙げると、企業の経営者たちは国境の壁が多くの私有地を横切ることに気づいている。政府は私有財産を政府に強制的に譲渡させる土地収用措置を行使することもできるが、立ち退きを余儀なくされた地主と正当な補償で折り合いをつける作業は、法律面でしばしば頭痛の種となる。

 政府からの支払いを受け取るのにも期間を要するかもしれない。トランプ政権が立案した「スキニー・バジェット(やせた予算)」で予算措置が講じられているのは壁の建設費用のほんの一部分にすぎない。メキシコは建設費を出さないことを決めている。

 支払いの遅れを気にしない者もいるだろう。トランプ大統領が声高に叫ぶこの事業に参加することは、今後も続く巨額なインフラ投資の分け前にあずかる賢明な方法なのだ。壁の建設が実現すればの話だが。

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英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。


このコラムについて

The Economist
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記事は、「地域」ごとのニュースのほか、「科学・技術」「本・芸術」などで構成されています。
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池上×手嶋対談「FBIと大統領の喧嘩」の悪夢

著者に聞く

ジャーナリスト2人がインテリジェンスを語る(前編)
2017年3月30日(木)
清野 由美

 プーチン政権下で帝国化を目論むロシアと、トランプ政権で好戦的な姿勢を強めるアメリカの対立は、ますます複雑、深刻になっています。その背後には海洋大国を目指す中国の存在があり、朝鮮半島では北朝鮮の挑発ぶりがエスカレートしています。緊張が高まるなか、大国に挟まれる日本が、とるべき外交戦略は何か? 手嶋龍一さんと池上彰さん、情報に通じた当代のジャーナリスト二人は、何を語るでしょうか。(文中敬称略)

『汝の名はスパイ、裏切り者、あるいは詐欺師-インテリジェンス畸人伝』(マガジンハウス)
世界のVIPを震え上がらせた「パナマ文書」、告発サイト「ウィキリークス」の主宰者アサンジ、CIAの国家機密を内部告発したスノーデン、詐欺師の父を持ち、スパイからベストセラー作家に転身したジョン・ル・カレ、銀座を愛し、ニッポンの女性を愛した、20世紀最高のスパイ・ゾルゲ…古今東西、稀代のスパイはみな、人間味あふれる個性的なキャラクターばかり。人間味あふれるスパイたちが繰り広げるドラマチックなストーリーは、同時に、今の時代を生き抜くために欠かせない、インテリジェンスセンスを磨く最高のテキストだ。巻末には手嶋龍一氏が自らセレクトした、「夜も眠れないおすすめスパイ小説」ベスト10付。
池上:手嶋さんは最近、『汝の名はスパイ、裏切り者、あるいは詐欺師 インテリジェンス綺人伝』を執筆されました。さすがインテリジェンスワールドを書かせたら右に出る者がいない、と言われるだけあって、大変面白く読みました。手嶋さんはNHK時代の同僚でもあるし、「インテリジェンスのいま」について、ぜひ一度語っておきたかった。いま、ちょうど、アメリカではトランプ大統領が、FBI(米連邦捜査局)やCIA(米中央情報局)ら、自分の国の情報機関と喧嘩していますよね。手嶋さんは、あれをどう見ているか、最初に聞いておきたいのですが。

手嶋:情報の世界は二重底、三重底になっています。トランプ政権の問題を見ていく前に、まず米大統領と情報機関の関係を知っておく必要があるのですが、それを簡潔に、明晰に説明するのがなんとも難しいのです。

そもそも、「トランプ大統領とFBI、CIAとの喧嘩」とは、どのようなものなのでしょうか。

池上:トランプとFBIとの喧嘩の発端は、昨年の米大統領選挙において、ロシアが民主党、共和党双方のメールシステムをハッキングしたことにあります。

 それによって、ロシアは両陣営の候補にとって不利な情報を握ったわけですが、アメリカの大統領選では、民主党候補だったヒラリー・クリントン陣営に不利な内容だけを拡散した。そうやってトランプ当選に恩を売りつつ、トランプが当選した後は、トランプに不利な内容を使って、アメリカの新しい大統領に圧力をかける意図だった、とされています。

 「ワシントン・ポスト」や「ニューヨーク・タイムズ」といった、アメリカの有力紙が報じたことから、問題が表面に浮上しましたが、トランプは「フェイク(嘘)ニュースだ」と、いつものように激怒のツイートを発しました。ところが、3月20日の米下院情報特別委員会では、FBIのコミー長官が、トランプ陣営とロシアとの疑惑について、捜査を進めていることを認めてしまった。

それは異例なのですか。

池上:はい。アメリカのインテリジェンスを司る一角、FBIの長官が、公に、自らの国のリーダーである大統領の疑惑を語る。これは大変異例な展開といっていい。


手嶋 龍一(てしま・りゅういち)
外交ジャーナリスト・作家。1949年、北海道生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。元NHKワシントン支局長。2001年の9.11テロ事件では11日間にわたる24時間連続の中継放送を担当。自衛隊の次期支援戦闘機をめぐる日米の暗闘を描いた『たそがれゆく日米同盟―ニッポンFSXを撃て』、湾岸戦争での日本外交の迷走を活写した『外交敗戦―130億ドルは砂漠に消えた』(共に新潮文庫)は現在も版を重ねるロングセラーに。NHKから独立後の2006年に発表した『ウルトラ・ダラー』(新潮社)は日本初のインテリジェンス小説と呼ばれ、33万部のベストセラーとなる。2016年11月に書下ろしノンフィクション『汝の名はスパイ、裏切り者、あるいは詐欺師-インテリジェンス畸人伝』を発表。(写真:大槻純一、以下同)


手嶋:いまさら池上さんを持ち上げる必要はないのですが、池上さんの説明は正確です。昔から、込み入った事態を前にすればするほど、明晰に解説しないではいられないジャーナリストでしたね(笑)。今日の対談も冒頭から本領発揮です。

池上:いやいや、なんですか、それは。褒めてもらっている気がしませんが。

「インテリジェンス」の訳語がない

手嶋:2010年に「BP(ブリティッシュ・ペトロリアム)」が、メキシコ湾で原油の流出事故を起こした直後のことです。ふたりで環境外交に関する本を編んだのですが、ラジオでその解説を収録した際に、「手嶋さん、いまの説明には二つ傷があります」と、指摘されたことがあります。

 一つ目は、「手嶋さんはBPを英国企業と言いましたが、もはや多国籍企業です」と。二つ目は「『米大統領のオーバルオフィス』なんて言っても、一般の人には分かりません。『ホワイトハウスにある大統領執務室』と表現しなければ」ということで、お叱りを受けました。解説おじさん、畏るべし(笑)。

池上:いやいや、そうでしたっけ。

手嶋:池上さんの指導を受けてからは、ニュースの解説をするときには、「池上さんに合格点をもらえるかな」と自問してやっています。とはいっても、解説魔王のようにはなかなかいきません。

池上:話を本筋の「インテリジェンス」に戻しますと…。

手嶋:はい、でも、これがやっかい。そもそも「インテリジェンス」には、適切な日本語の訳語がないのです。ということは、「インテリジェンス」という考え方が、この日本に根付いていないわけですね。

手嶋:雑多で膨大な「情報」は、英語では「インフォメーション」。「インテリジェンス」とは、その雑多で膨大な情報の海から貴重な宝石の原石を選び抜き、分析し抜き、彫琢し抜いた、その最後のひと滴を指すのです。

 このように、「インフォメーション」と「インテリジェンス」は、似て非なるものですが、日本語にしてしまうと、ともに「情報」になってしまいます。

 「インテリジェンス」とは、一国の指導者が、最後の決断を下す拠りどころになるもので、新聞情報や噂を含めた「インフォメーション」とはその重みがまったく違います。国家の舵を右にとるか、左にとるか、最後は一国のリーダーが孤独のうちに決断し、その責任を取るわけですが、その判断の拠り所となる情報こそ「インテリジェンス」です。

 日本にそうした文化が根付いていなかったのは、戦後長く超大国アメリカに安易に頼ってきたことの、一つの証左なのです。

池上:ちなみにアメリカには17ものインテリジェンス機関があるといわれています。

手嶋:CIA、FBIが有名ですが、ほかにも電波傍受を担当するNSA(アメリカ国家安全保障局)、軍の情報部であるDIA(アメリカ国防情報局)と、様々な分野の情報機関が紡ぎ出す「インテリジェンス」が一つにまとめられ、アメリカ大統領の決断を支えてきました。


池上 彰(いけがみ・あきら)
フリージャーナリスト。1950年生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業後、NHK入局。社会部記者として経験を積んだ後、報道局記者主幹に。94年4月から11年間「週刊こどもニュース」のお父さん役として、様々なニュースを解説して人気に。2005年3月NHKを退局、フリージャーナリストとして、テレビ、新聞、雑誌、書籍など幅広いメディアで活躍中。近著に『僕らが毎日やっている最強の読み方;新聞・雑誌・ネット・書籍から「知識と教養」を身につける70の極意』(佐藤 優氏と共著、東洋経済新報社)『池上彰の「経済学」講義1 歴史編 戦後70年 世界経済の歩み』(角川文庫)『書く力 私たちはこうして文章を磨いた』(竹内政明氏と共著、朝日新書)など。

池上:そのインテリジェンス機関の代表格、かつ、カウンター・インテリジェンス(機密の流出を阻止する)組織であるFBIのコミー長官が、アメリカ議会の下院情報特別委員会という重みのある場所で、トランプ大統領とロシアの関係について捜査していることを認めた。ということは、FBIは「トランプ大統領との対決」に本気になり始めているように見えます。

手嶋:確かにそう見えます。アメリカの情報機関は冷戦期から、対ソ、対ロ強硬路線をとってきた伝統がありますから、不明朗な形でアメリカの政権がモスクワとつながっているとすれば、鉄槌を下したい思いは底流にはあるでしょう。

すみません、FBIとCIAは、情報機関としてどう違うのでしょうか。

手嶋:FBIは、アメリカ国内にスパイやテロリストが浸透してくるのを防ぐカウンター・インテリジェンス機関です。対してCIAは、海外に情報要員を配して機密情報を収集し、分析して、国家の意思決定を支えるインテリジェンス機関です。

池上:所轄は違いますが、大統領の目となり、耳となる、という点では同じです。

マイケル・フリン辞任から歯車が狂いはじめた

手嶋:その通りで、いずれも情報機関の両雄にして重要な組織です。それらを統括し、自らの決断の目となり、耳となるものを、大統領が信用しないとなったら、どうなるか――情報機関の側では、命を賭けて情報を集め、分析しなくなってしまうでしょう。

としたら、どうなるんでしょう。

手嶋:トランプ船長が舵を操る、アメリカという名の巨大なタンカーは、羅針盤もレーダーも故障して、機能していない。極めて危険なことになってしまいます。

池上:そのタンカーとは、同盟国である日本も並走しているわけですから。

手嶋:国家安全保障担当大統領補佐官のマイケル・フリンが辞任したあたりから、歯車が狂い始めましたね。彼が与えられたポストは、ホワイトハウスの側から情報機関を統括する要だったのですが。

池上:トランプ政権の国家安全保障問題担当大統領補佐官に就任する前に、駐米ロシア大使と電話でやりとりをしていたことが、メディアにリークされて、フリンは就任早々に辞任という、ばたばたの結果になりました。

メディアに機密情報をリークしたのは誰なんですか。

池上:普通に考えればFBIでしょうね。FBIが駐米ロシア大使の電話を盗聴しているということは、これはいわば公然の秘密ですから。

 しかし、いくら公然の秘密とはいえ、ロシアに対して「オレたちはお前のところの電話を盗聴しているぜ」と暴露するような振る舞いは、建前としてやってはいけないことです。
 ところが今回、彼らはその禁忌を破り、明らかに盗聴していることを認める形で、フリンとロシアとの接触をメディアにリークした。ということは、トランプをそこまで危険視する人たちが、大統領の目と耳である機関の中にいることを意味しています。

手嶋:アメリカ政府の情報機関が関与していたことは間違いありません。フリンといえば、昨年の11月18日に、安倍晋三首相がニューヨークのトランプタワーにトランプを訪ねました。この日にトランプ次期大統領は、大統領補佐官にフリンを起用し、「我がホワイトハウスの外交・安全保障はこの人が取り仕切る」と、安倍首相に紹介しました。

池上:このときは当然、トランプはまだ大統領に就任していません。これも建前になりますが、次期大統領が政権の座に就く前に、外交、安全保障に触るやり取りをすることは、これまでになかった。あり得ない行為です。


手嶋:ええ、あくまで建前ですが、そのとおりです。アメリカの情報機関は、電話やメールの傍受に手を染めていることは公然の秘密でしたが、その情報をプレスにリークするなど、ぼくらもほとんど聞いたことがない。まさしく異例の事態です。

池上:あきらかに政権中枢に、「トランプが大統領では大変なことになる」と思っている人たちがいるということですよね。だいたい、トランプは大統領選挙の最中に、ヒラリーの私用メール問題でFBIの対応を相当、攻撃しています。ツイッターでFBIのことを、あれだけあしざまに言っていたら、自分がいざ大統領になったとき、内部からの信頼を得るのは難しくなります。

 それなのに当選後も、ホワイトハウスの重要な日課であるインテリジェンスのブリーフィングを、「そんなのは時間のムダだから、週に一度か二度でいい」と切り捨てた。あれでは大統領に対する忠誠心、モラルは落ちますよね。

前大統領オバマの「罪と罰」

手嶋:そう、落ちてしまいます。そして国家を率いていく目と耳を自ら閉ざしていると言わざるをえません。その一方で、ぼくはトランプ当選を、なす術もなく見ていたオバマ大統領の犯した「罪と罰」はもっと問題にされてもいいと思います。

「オバマの罪と罰」とは、どういうことなのでしょうか。

手嶋:すべては選挙期間中から始まっていました。ロシアのGRU(ロシア連邦軍参謀本部情報総局)がサイバースペースを通じて、選挙戦最中に民主党と共和党の中核にまで侵入していた。これはまぎれもない事実です。オバマ大統領は選挙期間中も毎日、インテリジェンスのブリーフィングを受けていたのですから、当然、ロシア関連の情報も受け取っていました。ならば、神聖であるべきアメリカの大統領選挙に、外国の情報機関が介入し、トランプ陣営を援護していることを、なぜ明らかにしなかったのでしょう。この件は、選挙の公正などという建前にこだわった、オバマ大統領という杓子定規な秀才の限界を露わにしてしまいました。

池上:トランプが次期大統領に決まった後にオバマは、ロシアのハッキングが大統領選の結果に影響を与えたと問題視して、国家情報長官に調査報告の取りまとめを命じましたよね。

手嶋:オバマは17年1月に25枚のペーパーを発表させました。ところが、この報告書には、大統領選で実際にロシアの介入があったエビデンス(証拠)が示されていないのです。「ロシアには先進的なサイバー攻撃体制がある」「ロシアはアメリカ政府、軍、外交など各方面で脅威となるサイバー空間の行為主体になっている」といった表現にとどまっています。

池上:それらは、当たり前のことですよね。

手嶋:ロシアのプーチン大統領の指示のもとでハッキングをしたと指摘するなら、その証拠を挙げなければいけないのに、「プーチンの指示と“思われる”」という自信なげな書きぶりです。

池上:記者が自信のないときに、よく「逃げ」で使う手ですが、それですね(笑)。

手嶋:情報世界では簡単に証拠を挙げるわけにはいかないのです。証拠を明示すれば、どんな手段で情報を集めているか、情報源を危険にさらしてしまう側面もある。そこも分かった上で、プーチン大統領のような情報のプロから見ると「ふん、しゃらくさい」と無視して終わりでしょう。

池上:プーチンにとっては痛手でも何でもなく終わった。

手嶋:アメリカという国が、とにもかくにも民主主義のリーダーとして国際社会に認められてきたのは、大統領が公正で開かれた民主的な選挙で選ばれてきたからです。その神聖であるべき選挙に、ロシアの情報機関が介入したのですから、オバマは証拠を挙げて、ロシア側を批判すべきでした。しかし彼は、選挙期間中にその決断ができなかった――オバマ大統領はいずれ歴史の審判を受けざるを得ないでしょう。

池上:ロシアにしてやられ続けた、という経緯も含めて、アメリカ政府の対ロ強硬派は、「このやろう」とロシアとトランプに恨みを溜めて、メディアにリークする。メディアが書き立てると、大統領とメディアとの関係は悪化する。そういう負のスパイラルになっています。

手嶋:いまは北朝鮮の緊張が高まり、軍事的なオプションを検討し始めています。まさに選り抜かれたインテリジェンスが求められる時期に、アメリカ大統領と情報機関の間が険悪化している。これは危険なことと言わざるをえません。

トランプ氏のリップサービスの空虚さ

池上:トランプはインテリジェンスのプロたちに敬意を示さないし、自らも意識が低くて、何かといえばツイッターで状況をダダ漏れにする。フロリダで安倍首相とゴルフをやったときに、「安倍さんから『F35(最新鋭ステルス戦闘機)を安くしてくれてありがとう』と、感謝された」なんてツィートしちゃうわけですからね。安倍さんにしたら、二人だけの話だったのに、それを垂れ流されてしまうと、日本の首相も立場がなくなりますよね。

FBIとうまく行っていないトランプ大統領。海外を司るCIAとの関係はどうなっているのでしょうか。

池上:CIAとトランプの間柄も大統領選から最悪でしたよ。CIAは対ロシア強硬派の拠点みたいなところですから、トランプが選挙期間中に唱えていたロシアとの融和なんて、到底受け入れがたい。CIAが、「トランプはロシアに弱みを握られている」といった情報を流すと、今度はトランプが「我々はナチスの時代にいるのか」と、また激烈にやり返す。

それでも大統領就任の翌日には、CIAを公式訪問して、「あなたたちを100%支持する」と、リップサービスをしていましたよね。

池上:突然CIA本部を訪ねて、入り口に幹部を集めて絶賛したのですが、それも実はハズしているんですよ。

どうしてですか。

池上:CIA本部の入口には、殉職した人に敬意を示す黒い星が飾ってあります。諜報機関だから名前を明かすことができないので、星で表す。一つの星が一人の殉職者なわけです。

手嶋:「国家のために命をかけた人々の名誉とともに」といった碑文が掲げられていてね。CIAにとっては極めて重要な精神の中枢。

池上:その殉職者たちの星を前にしながら、トランプはろくに敬意も払わないまま、「いかにして自分が大統領選で勝ったか」の自慢話をぶってしまいました。

手嶋:小さなことと思われるかもしれません。ですが、この手の機微に敏感なことは、指導者にとって、大変に大事なのです。たとえば国賓としてアメリカに招かれた人は、アーリントン国立墓地を訪れて、そこで必ず頭(こうべ)を垂れます。そうやってアメリカの歴史に敬意を払うことが、外交の重要な儀礼なのです。

 アーリントン墓地には無名戦士の墓もありますが、居並ぶ墓標には、戦争で亡くなった兵士たちの名前がそれぞれ刻まれています。CIAの黒い星は任務上、名前が入っていないのだから、その機関の人たちはなおさら強い帰属意識を共に持っているわけです。そこに鈍感な大統領ということであれば、これはもう、怒りをもって見つめるしかないでしょう。

池上:ですから、CIAは表敬訪問のときから、トランプに情報を出さなくなった、と言われています。これを聞いて、ぼくはウォーターゲート事件を思い出したんですけど。

手嶋:あれも盗聴でしたね。


池上:1972年、やはりアメリカ大統領選挙戦の最中でした。ニクソン共和党大統領の再選を目論んだ人たちが、民主党本部のあるウォーターゲートビルに盗聴器を仕掛けたのですが、盗聴器の具合が悪くて、再調整に行ったところで捕まった。当初は末端の小物によるコソ泥盗聴と思われていましたが、実は背後にはニクソンにつながる大物がいた。

 建前は別にして、インテリジェンスの世界では、盗聴はよくあることです。でも、この事件は、ワシントン・ポストのウッドワードとバーンスタインという二人の記者によって、広く世の中に知られることとなり、有権者の怒りを買ったニクソンは、大統領の任期途中で辞任という前代未聞の身の引き方をせざるを得なかった。ここでもメディアと大統領の緊張関係がありますね。

手嶋:当時、ワシントン・ポスト側に内部情報を提供した「ディープ・スロート」と呼ばれる人物が話題になりました。事件から30年以上たって、事件が「歴史」になったとき、「ディープ・スロート」は当時のFBI副長官だったマーク・フェルトだった、と本人が自ら名乗り出て、明らかになりました。

 要するに「FBIがニクソンのやり方に怒っていた」ということですが、内部情報をリークする際は、出所が絶対に分からない形でしていました。これも大統領と情報機関との関係を示す事件ですよね。

北朝鮮の姿勢は、アメリカのインテリジェンス不調の表れ

池上:いま、時代とともにリークの仕方も変わってきているでしょう。

手嶋:ジュリアン・アサンジが始めたウィキリークスと、元CIAでNSAの仕事もしていたエドワード・スノーデンの暴露、それからパナマ文書。そのいずれもが歴史を塗り変えました。とりわけウィキリークスは、告発する側にとっては極めて安全な装置です。だれがリーク者なのか、その足跡が分かった例はこれまで一つもありません。

池上:アフガンに行った米兵士のヘリ映像を明らかにして訴追された例はありましたが。

手嶋:ただ、あれがは「俺がやった」と、自分で自慢して仲間にチャットしてしまったのです。捜査当局がウィキリ―クスを対象に犯人を突き止めたわけではありません。

池上:ともあれ、インテリジェンスも、まったく新しい時代に入っていることが分かります。

手嶋:ええ。これはぼくの新刊にも書いたのですが、リークする者が安全な手法を手にして権力を告発する、というやっかいな時代に突入したことを意味します。

トランプ大統領とアメリカの諜報機関とのぎくしゃくした関係や、テクノロジーの変化とともにある「インテリジェンスのいま」は、日本にどう作用するのですか。

手嶋:「インテリジェンスのいま」を考えるうえで、現在の北朝鮮情勢は特に重要です。

 北の指導者は、アメリカ大統領の顔色を見ながら、中長距離ミサイルの発射ボタンを押すべきか否か、息をこらしてタイミングを図っています。

池上:その意味で、先日来の連続的なミサイル発射は、トランプ大統領とインテリジェンス機関とがちゃんと噛み合っていない、その悪影響を示す証拠、ということになります。

(後編に続く、進行・構成:清野 由美)


このコラムについて

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[政治・選挙・NHK223] 「ブーメランの女王」辻元清美氏の戦略はどこが間違っているのか アベノミクスへの対抗軸を示す注目の学者・井手栄策の思想BI
「ブーメランの女王」辻元清美氏の戦略はどこが間違っているのか

2017年3月30日 窪田順生 [ノンフィクションライター]

森友学園騒動が、民進党の辻元清美氏にまたもやブーメランとして突き刺さっている。なぜ民進党や辻元氏は、繰り返しブーメラン現象を引き起こすのか。彼らの戦略を分析してみると、1つの大きな誤りに気づく。(ノンフィクションライター 窪田順生)

籠池爆弾が炸裂
またもや民進党にブーメラン

 野党のみなさんが、安倍首相のクビをとるために国会まで引っ張り出してきた「籠池爆弾」が、ここにきて思わぬ方面で炸裂して、被害を広げている。


15年前、小泉純一郎首相(当時)や鈴木宗男氏を舌鋒鋭く批判するも、自ら秘書給与流用で議員辞職に追い込まれた辻元氏は、いわば「ブーメランの女王」。辻元氏、そして民進党の一体何がブーメラン現象を引き起こしてしまうのだろうか? Photo:Natsuki Sakai/AFLO
 籠池泰典氏の妻・諄子氏と、安倍昭恵氏の間に交わされたメールを、自民党の西田昌司参院議員が公開したことで、民進党の辻元清美氏に対して、本件に対する「関与疑惑」が浮上してしまったのだ。

 メールによると、籠池夫人は辻元氏を名指しで、森友学園の幼稚園に「侵入しかけた」と批判。さらに、マスコミの前で工事の不審点を証言した者についても、「さしむけた」「潜らせた」という表現で、辻元氏が関与している可能性を昭恵氏に訴えていたのだ。

 この「疑惑」に対して、民進党は「虚偽」として声明を発表。さらに、辻元氏がホームページで「このようなデマにくれぐれも惑わされないようにお願いいたします」とコメントをした。

 これが「デマ」なのかどうかは、籠池夫人を国会で証人喚問しても明らかにならないだろうが、この段階でひとつだけはっきり言えることがある。それは、民進党と辻元氏の対応が、またしても「例のお家芸」を引き起こしてしまっているということだ。

 籠池氏が国会で「人払いして、安倍晋三からですと100万くれた」と発言した後、昭恵夫人はfacebookで「事実と異なる」とコメントを出したところ、民進党の榛葉賀津也参院国対委員長は記者会見でこんな苦言を呈した。

「昭恵夫人はフェイスブックなどの飛び道具ではなくて、まずはメディアの前に出てきて、自身の口から説明することが大事ではないか」(2017.3.24 産経ニュース)

 もうおわかりだろう。「昭恵夫人」と「フェイスブック」を「辻元氏」と「ホームページ」に置き換えると、きれいな放物線を描く特大ブーメランになっているのだ。

ダブルスタンダードを貫く
懲りない民進党の気質

 辻元氏自身の言動にも、その傾向がみられる。2月24日、民進党の森友学園調査チームの記者会見で、辻元氏は以下のようなマスコミ記者たちがウンウン頷くパワーワードをおっしゃった。

「自分たちの関与がないということも含めて、調査をしっかりしますというのが普通の対応だ」

 この辻元理論でいえば、籠池夫人にここまで名指しで関与の可能性を訴えられている以上、自分の関与がないことを含めて調査をするのが筋なのだが、「デマ」の一言で片付けている。「ないことを証明するのは悪魔の証明だ」と野党の追及をかわす安倍首相の姿と、モロかぶりとなってしまっているのだ。

 民進党の支持者のみなさんからすると、「そんなの屁理屈だ」「安倍政権の回し者の印象操作だ」ということになるのだろうが、なぜこういうブーメラン現象が起きてしまうのかは、ちゃんと理屈で説明できる。

 連日のマスコミ報道をご覧になってわかるように、ここ数ヵ月の「森友学園狂奏曲」で野党がとってきた基本スタンスは、「安倍晋三・昭恵夫婦より籠池夫婦の言っている方が信用できるから、口利きがあったことを認めろ」というロジックである。ならば、信用に価する籠池夫人のメールも、それなりの検証をしなくては論理が破綻する。

 しかしこれまでの民進党の対応を見る限り、政権批判の文脈で登場する時は「信用できる人」で、自分たちに都合の悪い話をしはじめたら「信用できない人」に切り替わる、という「ダブルスタンダード」になっている。

 実はこれこそが、民進党内に蔓延している「ブーメラン気質」の正体でもある。

ブーメランが刺さりやすい人の
特徴とは何か

 民進党議員の多くは、他者を批判をする材料が、自分たちにもガッツリとあてはまるにもかかわらず、どういうわけかその批判は自分たちにはあてはまらない、と過信しているフシがあるのだ。

 たとえば、現在のもうひとつの政権批判イシューである「南スーダン日報問題」。自衛隊の日報に「戦闘」と書かれていた事実を政府は隠蔽したのではないか。辻元氏はそう厳しく批判した。

 しかし、野田政権時代の2012年にスーダンと南スーダンとの間で大規模な武力衝突が発生した際にも、自衛隊部隊の報告書には「戦闘」という表現が使われている。それを安倍首相に指摘され、例によって見事なブーメラン弾を受けた辻元氏は、余裕の笑みを見せてこんなことを言った。

「そうムキにならずにですねえ。おっしゃったことは、全部承知して質問しているんです」

 そんなことはわかっているけれど、「隠蔽」という悪事は自分たちにはあてはまらない、という「ダブルスタンダード」が言葉の端々から感じられる。

 このような現象を見ていると、なんとなく「ブーメランになりやすい人」というものの特徴が浮かび上がってくる。それは一言で言うと、「他者を批判することが習慣になってしまっている」ということだ。

 実は今から15年ほど前にも、辻元氏は超巨大ブーメランが後頭部に突き刺さったことがある。

 当時、辻元氏は一部のマスコミから「社民党のジャンヌダルク」なんて感じでもてはされていた。小泉首相に対して「ソーリ!」を12回も繰り返して厳しく迫る。鈴木宗男氏にも「あなたは疑惑の総合商社ですよ!」とバッサリ。ショートカットで凛としたたたずまいの辻元氏に詰め寄られて、おじさんたちがうろたえる姿は、「スカッとジャパン」みたいで多くの人々のハートをわしづかみにした。

 しかし、そんな「正義のジャンヌダルク」が、ある報道を境に、一転して「ヒール」になってしまう。

「週刊新潮」が、元参院議員の私設秘書の女性の名義を借りて、政策秘書の給与約1500万円を国からだまし取った疑いがあるとスッパぬいたのだ。辻元氏は社民党本部で会見をして事実無根だと一蹴した。

「記事の内容は事実と違い、心外だ。法的措置も含めて今後の対応を検討する」(2002/03/20 東京読売新聞)

「人を責める」戦法だけでは
民進党に成長はない

 だが、残念ながらこれは事実だった。こういう取り繕いもマズいが、もうひとつマズかったのが、秘書給与の流用も認めた辻元氏はこんな釈明をしたことだ。

「私はカツラ代に使った山本さんとは違う。私的流用はない」(2004/03/30 朝日新聞)

「山本さん」とは、秘書給与流用事件で逮捕され、懲役1年6ヵ月の判決を受けて433日の獄中生活を送った元衆議院議員の山本譲司氏。当時、流用した金でカツラを買ったとか妻の服を買ったなどという報道が氾濫したが、実はこれは「デマ」だったのだ。そのあたりを確認しないでなりふり構わぬ自己保身をした、と山本氏は獄中から抗議をしたという。

 頭の回転が速く、次から次へとマスコミ受けする言葉が飛び出す辻元氏が、なぜ「人を引き合いにして自分の正当性を訴える」という、世間がシラける見苦しい釈明をしてしまったのか。ご本人にしかわからぬことだが、個人的には「他者を批判すること」が骨の髄まで染み付いていたことが大きいと思う。

 冷静に考えることができれば、この窮地から脱するためには誠実な説明こそが必要だと思い至っただろう。しかし、常日頃から脊髄反射のごとく「他者批判」を繰り返してきた辻元氏は、「私はあの人よりもぜんぜん悪くないですよ」という釈明が自然と口をついて出てしまったのではないのか。

 このような「批判癖」をあまりにこじらせた人が、「自分は批判されない特別な存在だ」と勘違いをはじめる、というのは実社会でもよく見かける現象だ。つまり、「政権の批判が一番」という気質こそが「ダブルスタンダード」に対する感覚の麻痺を引き起こし、ブーメランのフィーバー状態に入っている可能性があるのだ。

 その後、辻元氏は議員辞職に給与返還はもちろん、逮捕・起訴され、懲役2年の判決で執行猶予5年がついた。ちょうど今から13年前の04年3月28日、大阪府高槻市で催された「辻元清美さんの裁判を支える会」の報告会で、辻元氏は事件から2年後に初めて地元選挙区でこのように謝罪をした。

「私は税金の取り扱いであやまちをした。しかも事実と違ううそを言ってじたばたとごまかそうとした。一度に潔く認めることが怖くてできなかった。おわびのしようがない」(2004/03/30 朝日新聞)

 一方の山本氏は、辻元氏に抗議した後に、以下のように思い直したという。

「その後の週刊誌報道は彼女のプライバシーも何もあったものじゃない。振り返れば、事件発覚のとき自分も自己保身に走った。彼女を責めるのは思い上がっている。自分の中におごりがある。人を責めるがごとく自分を責めよ、自分を許すがごとく人を許せ」(2004/03/30 朝日新聞)

 獄中で政治家とは何かということに正面から向き合った山本氏の言葉から、民進党が学ぶことは多い。

 ここらでダブルスタンダードは止めて、与党を責めるがごとく身内を責めてみたらどうだろう。辻元氏がかつて口にしたように、「一度に潔く認めることは怖い」ものだ。しかし、広報戦略的観点から見ると、敢えてここに踏み込めるかどうかが、その後の世論形成を大きく左右する。

 これをせずに逃げ回ったばかりに傷口が広がり、収拾がつかない事態に追い込まれるという事例は、15年前の辻元氏はもちろん、政治家や企業など枚挙にいとまがない。蓮舫代表に追及される疑似体験ができる「VR蓮舫」なんてゲームを開発している場合ではないのだ。

「他者批判」一辺倒の硬直化した戦略では、残念ながらブーメランを自ら生み出す悪循環を繰り返すだけだ。これでは民進党は与党の座を奪還することはおろか、野党として存在感を出すこともできないだろう。
http://diamond.jp/articles/-/123005


 


【第132回】 2017年3月30日 山田厚史 [デモクラTV代表・元朝日新聞編集委員]
アベノミクスへの対抗軸を示す注目の学者・井手栄策の思想


民進党の新たな動きに重要な役割を演じているのが、若手財政学者・井手英策慶大教授だ Photo:AFLO
 森友学園の騒動に隠れているが、野党第一党の民進党に新たな変化が起きている。

 アベノミクスへの対抗軸を鮮明にしようという動きだ。重要な役割を演じている学者がいる。論壇で注目される若手の財政学者・井手英策慶応大学教授である。

 3月12日、都内で開かれた民進党大会に招かれ、来賓として行った演説が「心揺さぶられるスピーチ」とネットで評判になった。

「民進党が政権を取れば、かつてのような成長を取り戻せるでしょうか。僕はそうは思いません」と突き放し、「経済を成長させ、所得を増やし、貯蓄で安心を買うといという自己責任モデルは破綻した」と言い切った。

 では、アベノミクスへの対抗軸となる政策を井手は、どう語っているのか。

 党大会での井手演説から民進党が目指す新たな道を探ってみた。

なぜ学者の井手英策があえて
特定政党の応援を買って出るのか

「普遍的な真理を追い求める学者が、特定の政党を応援する場に来る。これはとても勇気のいること、いや、むしろ、恥ずべきことでさえあります。だからこそ、僕が迷いを抱えてまで、今日この場に来た理由、想いをお話しさせてください」

 会場で井手教授のスピーチを聞き、「こんなに痛快、そして熱く語る学者がいるとは」と驚いた。

 井手は自分が呼ばれたのは、蓮舫代表が設置した「尊厳ある生活保障総合調査会」のアドバイザーだから、と述べつつ、調査会に参加することを知った友人たちから「もう民進党はダメだ」「あんな政党と関係を持たないほうがいい」と助言されたと明かした。

「勝てる勝負、強者の応援なら誰にだってできます。そんなものは僕にはまったく価値のないことです。一介の学者に向けられた、政治家の熱い思いに応える。強いものに立ち向かおうともがき苦しむ民進党のみなさんとともに、国民が夢を託す『もうひとつの選択肢』を作ることができる。こんなに愉快なことはない。人間には、生まれたことの意味を知る瞬間があります。それはいまです。学者としての命をかけるならここだ、そういう覚悟でいまこの場に立っています」

 学者として考え抜いた理論を現実に生かせるなら、学者の枠からはみ出て、政党と組むことも厭わない。覚悟を語ったのである。

 矛盾に満ちた経済社会への処方箋を考えるのが経済学者だと井手は考える。「強者の応援」は御用学者に任せればいい。興味はない。どん底の民進党だから、現状への鮮明な対抗軸が創れる、というのだ。

「格差放置社会」日本で
もはや自己責任は果たせない

 井手英策は1972年4月生まれの44歳。東大で財政学者・神野直彦名誉教授の指導を受け、「高橋財政の研究、昭和恐慌からの脱出と財政再建への苦闘」(有斐閣)を35歳で書いた。財政・金融と社会を絡めた財政社会学が専門で2015年、「経済の時代の終焉」(岩波書店)で大佛次郎論壇賞を受賞。朝日新聞の論壇委員などを務めている。

 目下の関心は、日本が「格差社会」になっていることだ。

「北欧諸国と並んで平等主義国家と呼ばれた日本でしたが、いまではジニ係数でみても、相対的貧困率でみても立派な格差社会…あえて言えば、『格差放置社会』です」

 多くの障がい者が殺された「やまゆり事件」を例にとり、

「加害者は、職を失い、障がいを持つ社会的な弱者でした。小田原市の問題と同様、弱者がさらなる弱者を痛めつけて喜ぶという、絶望的な事件だったのです」

 小田原の問題とは、福祉課の職員が生活保護者を見下すような文字が入ったジャンパーを着て受給者と接していたことだ。

 小田原に住む井手は、市長に依頼されこの問題を検証する委員会の座長を引き受けた。そこで絶望的状況を知ったという。

 生活保護家庭をまわるケースワーカーは重労働にもかかわらず、仕事の悩みを語ったり事情を理解してもらえる職場環境になかった。「弱者がさらなる弱者を痛めつけて喜ぶ」という出来事がここでも起きていた。

「人間どうしが分断され、生きることが苦痛となるような社会を子どもたちに絶対に残すわけにはいかないのです」

 3児の父親としての主張だ。

 今の日本は「平気で弱者を切り捨てる冷たい社会」という。なぜこんな社会になったのか。「自己責任モデル」の破綻に原因はある、というのが井手の見立てだ。

 経済を成長させることで、個人が所得を増やし、貯蓄を蓄えることで将来の安心を買う。日本は、それぞれ個人の責任で自分や家族の幸せを築くという「自己責任社会」だった。

 前提は「経済成長」だった。成長すれば所得が増える。能力と運に恵まれた人は大きな所得を得る、そうでない人もそれなりに。ところが今はどうか。

「子どもの教育であれ、病気や老後の備えであれ、貯蓄がなければ生きていけない社会なのに、家計貯蓄率は、ほぼゼロにまで落ちました。夫婦二人で働くようになったにもかかわらず、世帯収入はこの20年間で二割近く落ちました。年収300万円以下の世帯が全体の34%を占め、国民の9割が老後に不安を感じると答える。異様です」

 低成長で所得が伸びず、安心を買う「貯蓄」ができない。つまり「自己責任」が果たせない経済になっている。

経済成長に頼らない政策を
アベノミクスの対抗軸に

 処方箋はなにか。主流派の考えは「経済成長を再び」である。アベノミクスもこれだ。首相はことあるごとに「成長戦略」を口にする。

 メディアのアベノミクス批判も「成長戦略がはっきりしない」というパターンが多い。

 エコノミストやTVで経済を語るコメンテーターも「成長論者」がほとんどだ。

 学者では証券エコノミスト出身の水野和夫法政大学教授などが「成長の時代は終わった」と論ずるが、少数派だ。

「成長を諦めるのは敗北主義」と安倍首相は言う。

 成長を取り戻せば日本社会に漂う不安や閉塞感は払拭できる、というのが大方の思いではないか。井手はこの常識に疑問符を投げかける。

「成長率を高めるためには、いくつかのポイントがあります。労働力人口、生産性、国内の設備投資。しかしどれも期待できない。潜在成長率が1%さえ超えられないという現状がそのことを雄弁に物語っています」

「最後の希望は技術革新ですが、政府がイノベーションを生み出せるでしょうか。歴史を見る限り、日本経済が次々と新しい技術を開発し、もっとも高い成長率を記録した時代、それは、政府が景気対策も規制緩和を行う必要のなかった高度経済成長期です」

 もうそんな時代に戻れない。成長を諦める必要はないが、政権党と経済成長を競い合うのでは野党として意味がない。

「経済成長に頼らない政策」をアベノミクスの対抗軸に掲げてこそ野党だ、という提案だ。

「期待できない経済成長に依存せずとも、将来の不安を取り除ける、そういう新しい社会モデルを示してこそ、対立軸なのです。不安に怯える国民が待ち望んでいるのは、このパラダイムシフト、発想の大転換なのです」

 新しい社会モデルは「自己責任」の社会ではなく「分かち合い・満たし合い」の社会に変える。貧しい人だけではなく、あらゆる人びとのくらしを保障する。財政を通じた「再分配」でこれを行う。「オール・フォー・オール」が井手理論の核心だ。

成長の見えざる手による再分配に
代わる「ユニバーサリズム」の思想

「大きい政府」でもある。増税が伴う。

 20世紀末からの思潮を振り返ると、ソ連崩壊で社会主義圏がなくなり、市場原理が時代精神となった。途上国の勃興、旧東側諸国の体制転換。地球丸ごと資本主義で競争は激しさを増し、自己責任を掲げる新自由主義がもてはやされた。

 勝ち組アメリカが史上空前の繁栄を謳歌したが、それもバブルだった。リーマンショックを機に、成長が伸び悩む中でのパイの奪い合いとなり、格差問題を噴出させた。国家間・地域間の格差、豊かな社会の中の貧困。地球規模で分断と対立が激化している。

 成長と見えざる手による再分配、という好循環は崩れた。競争原理と自己責任では「冷たい社会」になる。トランプ政権の誕生は貧困化する没落中産階級の怨念の結晶だ。

 安倍首相が春闘に介入し、働き方改革で「非正規社員」に言及するのも「自己責任モデル」の行き詰まりを示している。

 井手の経済思想は「ユニバーサリズム(普遍主義)」と呼ばれる財政理論である。

 単純化して言えば、1億円の所得があるAさんと、100万円の所得しかないBさんがいるとしよう。ユニバーサリズムは同じ税率にする。税率20%だったら1億円のAさんは2000万円納税する。100万円のBさんにも20万円の税金を払わせる。

 政府が集めた2020万円を、ひとしく分配する。子ども手当のような直接支払いでも、大学無償化というサービスでも、金持ちと貧乏人を区別しない。AさんもBさんも1010円の給付(再分配)を受ける。

 その結果、Aさんは1億円−2000万円+1010万円で再分配後の所得は9010万円。

 Bさんは100万円−10万円+1010万円で1100万円の所得になる。この結果、100対1の格差が、財政による再分配で9対1に是正される。

 ユニバーサリズムの肝は「差別しない」。税率は等しい。金持ちも貧乏人も、同じサービスを受ける。所得制限は付けない。貧困だから、といって特別な計らいをしない。「施されることで傷つく尊厳」に配慮したい、と井手は言う。根底には母子家庭でそだった幼いころの記憶がある。

民進党右派の前原が感銘
増税を掲げての選挙に課題

 この思想に感銘を受けたのが民進党の前原誠二だった。井手が顧問を務める「尊厳ある生活保障総合調査会」の会長は前原だ。

「マニフェストや個別の政策ではなく、あるべき日本の姿、民進党の拠って立つ国家像、社会像を示したい、だから力を貸してほしい、そう熱心におっしゃいました。僕が腹をくくった瞬間でした」

 と井手は言う。前原調査会を舞台に民主党は「ユニバーサリズムに立った国家像」を示すことになるだろう。

 民進党は寄り合い所帯で「国家像・社会像」はモザイクのようにまちまちだ。この政党で統一した社会観が築けるだろうか。しかも増税がセットになった再分配である。

「増税を掲げて野党が戦って政権が取れるのか」という現実論が吹き出るのは間違いない。安倍首相は、消費増税を掲げながら、先送りすることで選挙を勝ってきた。

「耳当たりのいい目先の政策では、どうしようもない状態に日本の政治も財政も陥った」そんな思いは前原と井手も共通している。

 党内右派である前原は「私は社会民主主義者」と対談(岩波書店「世界」)で語るほど前向きになった。党首の蓮舫も同調している、という。

 増税は財政再建のためにやるのではない。安心を得るために財政を変える、当てにならない成長に頼らず、公正な分配が人々の暮らしを明るくする。そんな筋書きの報告書が5月にはまとまるだろう。人々が安心してリスクを取れる社会になれば、結果として成長率が上がるかもしれない。

 どん底の民進党だからこそ大胆な政策提示を期待したい。

(デモクラシータイムス同人・元朝日新聞編集委員 山田厚史)

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[経世済民120] 人口減少が激化する中、マンションを買っても大丈夫か? IT企業になれない銀行は淘汰フィンテックが破壊する金融業 ボストン

ダイヤモンド・オンライン 
2017年3月30日 沖有人 [スタイルアクト(株)代表取締役/不動産コンサルタント]
人口減少が激化する中、マンションを買っても大丈夫か?


2050年には日本の総人口が1億人を割り込み、少子高齢化の真っただ中。長いローンを組んで購入したマンションには、その時点で資産価値があるのか?
 今から35年の住宅ローンを組むと、返済終了は2052年になる。2050年には日本の総人口が1億人を割り込んでおり、今よりも少子高齢化が進んでいる。購入したマンションには、その時点で資産価値があるのだろうか。もし二束三文なら、購入する意味がないのか。またそのとき、資産価値がある物件はどんな条件を満たしているのか。今回は人口減少とマンション購入をテーマに、そんなことを検証してみたい。

日本人口減少はこれから本格化
35年ローンで自宅を買っても大丈夫か?

 2050年には日本の総人口が1億人を割り込み、9700万人になると予測されている。これは厚労省の外郭団体である国立社会保障・人口問題研究所(以下、社人研)による、出生率も死亡率も中位という最も確率が高いと思われる予測となる。すでに日本の総人口は減少しているが、下がり始めは放物線の頂点から緩やかな傾きになる。弱火のなべの中で水からゆでられる蛙のように、少しずつの変化には気づきにくい。人口にはショック療法のようなことは起こらない。

 ただし、2035年以降は毎年マイナス100万人ペースとなり、一気に減少し始める。こんな事態は世界的に見ても前例がない。2015年時点と比較して、ローンの支払いを終える2050年は23%も人口が減っているので、少なくとも「買いたい」という需要はそれに比例して減っていることは間違いがないと考えた方がいい。

◆日本の総人口の予測結果


(出典)国立社会保障・人口問題研究所 拡大画像表示
 持ち家と賃貸のどちらが得かという論争は常にある。自宅を購入するのも、他人が建てた賃貸住宅に住むのも、土地代と建築費は同じコストがかかっている。違いは何かというと、金利と税制になる。以下のように、不動産投資を4つの要素に分けるとこのようなる。

●不動産投資の方程式:収支=利回り−金利±税制±譲渡損益

 住宅ローンの金利は投資よりも低く、持ち家優遇のための税制は自宅の方が圧倒的に有利である。このため、同じ物件に住む前提に立つなら、賃貸ではなく持ち家を選ぶべきということになる。この論争が終わらないのは、終わらないように世論を誘導しているメディア側にあり、終わらせたくないからだ。こうしたメディアにとっては持ち家側も賃貸側もスポンサーであるし、終わらせるとそのネタが使えなくなる。苦肉の策で比較をする際に、立地や面積などの前提条件が違うものを比べ、どちらの可能性もあるように結論づける。至って奇妙で、恣意性があり、全く信用ならない。

 このほか、大規模修繕や管理費を同一条件でなく設定することもあるが、賃貸だけ修繕しないというわけにはいかない。メンテナンスに手を抜いて、資産価値を落としながら住むという選択肢はどちらにもないのだ。

 持ち家の場合、住宅ローンさえ払い終えれば、管理費と修繕積立金だけ3〜4万円を支払えば住み続けられる状況になる。このくらいの住居費であれば、年金で暮らしていくこともできるだろう。持ち家の一番のリスクは途中で家族構成が変化することで、この時点で住み替えを余儀なくされた場合、含み損が多過ぎると引っ越せないことになる。持ち家のリスクを過剰に主張する経済人は家族にもめごとが絶えなかったケースが多い。人一倍そのリスクを感じているからだ。

 住宅ローンの返済を終える35年後は負債がないぶん、中古価格はそのまま資産になる。築1年のマンション価格の下がり方は平均2%/年なので、35年後は7割減になる。新築時の3割程度ということだ。賃料と同額の元利返済額とすると、この資産価値分だけ賃貸よりも有利で、差がついていることになる。

売買市場の主力、30代・40代の
ファミリー層は変わらない?

 新築マンションの購入主体は30代・40代のファミリー層であることは、今後も変わらないだろう。この自宅を買うニーズを「実需」(じつじゅ)と言う。この市場は少子高齢化の中にあって必ず衰退することになる。社人研予測によると、2050年には30代は39%減、40代は40%減でほぼ6掛けになる。単純に買う人が6割になってしまう。

 最近の未婚率の高さと生涯未婚率の上昇から、30代の人口で分析するのはやや楽観的かもしれない。持ち家ニーズの強い世帯は子どものいるファミリーが多いことから、0-9歳の子ども人口で分析すると、41%減とさらにやや高くなる。新築の供給戸数はこの数に準じて減っていくことになるであろう。

 エリアによって変化が生まれるなら、都心に近いエリアは実需層に加えて、住み替え層・セカンドハウス需要・相続税対策需要が存在する。住み替え層で含み益を出しているのは、1998年〜2005年の間にマンション購入した人たちになる。その当時35歳だとすると、現在50歳になり、住み替え世代になる。今後、定年前までに子どもたちが巣立って家族の人数が減っていく中で、部屋数を減らしてでも都心回帰する可能性が高い。この世代のニーズは職住近接などのアクセスの良さ、足腰の衰えを補う駅近立地などを考慮すると、都心に近いエリアだけになってくる。

 ここで再認識しなければならないのが、アクセスの稀少性である。駅から徒歩1分の土地の総面積と、徒歩2分の土地の総面積とでは、二乗になるので4倍違う。これはオフィス集積地に対しての通勤時間も同じで、時間距離の二乗分の物件数が競合物件になると考えた方がいい。こう考えると、少し離れるだけでも競争優位性が急速に減少することがわかってもらえるだろう。

 新築市場では競合する物件の数は非常に限定されるが、中古市場ではストック全体が常に競合物件となっている。その中で、最も重要視されるのは立地、2番目が築年になる。築年は新築に常に負ける宿命にあるが、中古は立地だけなら勝機がある。特に、不動産価格の評価方法が収益還元法になったので、賃料でマンション価格は決まるようになっている。賃料は立地・アクセスで決まることから、その傾向は顕著になっている。

 日本全体の人口が減っても、マンション立地となるような都市圏に若年世代の人口が集まれば、需要は維持されやすいことになる。流入人口が生まれる理由は、そこに仕事があるからというのが最大の理由である。その中でも流入者が多いのは、これも職住近接から都心に近いエリアに集中する傾向があると考えた方がいい。

新たな市場をつくり牽引する
70代、80代以上の相続税対策世代

 一方、マンション購入者としての実需世代は減少するが、増える世代がある。それは70代、80代以上の相続税対策世代である。社人研の予測では、35年後には70代以上は28%、80代以上は57%増える。80代以上の人口は2030年までの15年の間に1.55倍へと急速に拡大する。2015年の相続税の改正で、死亡者における申告者の割合は4%から8%に倍増した。つまり、相続税対策を意識する市場は以前の人口増(1.55倍)×申告者増(2倍)=3.1倍以上になる可能性がある。有望市場だけに、このニーズに応える物件の方が高く売却しやすい。

◆年齢構成別人口の予測結果


(出典)国立社会保障・人口問題研究所 拡大画像表示
 相続税対策の場合、人に貸していることが相続税評価を下げる方法なので、都心の賃貸市場に考察を加えておこう。リーマンショック直後に、都心の高額賃貸市場は空室率が高騰し、賃料も大幅に下落した。しかし、東日本大震災以降は需給バランスが回復傾向を続け、現在は賃料を増額改定する部屋が過半を占めている。市況としては好調を維持しており、空室率はREITの運用の数字である5%程度と低い。

 タワーマンション節税を行う親は子どもが住む家を自分で購入し、子どもに貸すケースも多い。子どもが持ち家を持つと小規模宅地の特例が使えなくなる。これは子どもの持ち家取得の最大のデメリットであるから、これを回避するメリットは十分にある。親は持っているマンションを子どもに貸しているので、貸付事業用小規模宅地の特例(相続税評価額が取得価格の20%程度に減額される)を使うことができ、子どもは家を持たないので、親の自宅を引き継ぐための小規模宅地の特例(相続税評価額が取得価格の20%に減額される)を使うことができ、二重に効果が出ることになる。 

 セカンドハウスは税制上のメリットは少ないが、住宅ローンは充実してきているので、以前よりも所有しやすくなった。これを個人で取得する人もいるが、法人ニーズもある。個人でも法人でもニーズは同じで、オフィスに近い新幹線や飛行機のターミナル(東京・品川・羽田)との接続条件がいいところに集中する傾向にある。ホテルの稼働率が上がり、料金が高く、予約を取り難くなる中で、ホテル代わりのセカンドハウス需要は増えている。

 法人が取得すると 役員社宅として貸すという選択肢も生まれる。この際には、公務員社宅と同じロジックで家賃計算するので、市場家賃の8割減になるケースもある(20万円の市場家賃なら、約4万円の住居費負担で済む)。内部留保が貯まっている法人では、都心不動産は下がりにくく、複数の使い道があるので使い勝手がある。こうした法人ニーズは東京のオフィス市場がある限りにおいて、人口の減少と関係なく存在する可能性がある。

2050年に選ばれる物件とは?
「買い替え」を視野に入れよう

 マンションの耐用年数は47年で、これまで建てられたストックは2050年時点でも存在しているだろう。建て壊すにもコストがかかるし、住み続けている人がすべて建て替えコストを負担できるのはレアケースだからだ。また、現在築35年以上経過して、住みたいと思われるマンションは、広尾ガーデンヒルズなどの一部のヴィンテージマンションに限定される。35年経過したマンションは市場価値がない場合が多いと考えた方がいい。

 マンション価格は「1に立地、2に築年」で資産価値が決まるので、いい立地でも築35年の競争優位性は低いと言わざるを得ない。そう考えると、2050年時点で選ばれるマンションに住んでいるためには、それまでの買い替えが欠かせない。新築や築浅マンションに10年おきに住み替えれば、常に築10年以内に住み続けることができる。

 中古マンションを探す人の多くは築10年以内を望んでおり、需要が安定的にある。持ち家が築10年以内のマンションであれば、問題なく競争優位に立てる可能性がある。そのためには、家族構成が小さくなる中で面積をダウンサイズすることも視野に入れた方がいい。これにより、ダウンサイズしたぶんだけ手元資金も増える。

 35年先のことは漠然と憂うよりも、常に住み替えられる状況を維持することが、何よりも大事なことを肝に銘じよう。

(スタイルアクト(株)代表取締役/不動産コンサルタント 沖 有人)

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2017年3月30日 加藤 出 [東短リサーチ取締役]
IT企業になれない銀行は淘汰
フィンテックが破壊する金融業


スマホ決済が急速に普及する中国において、新聞の1面に掲載された支付宝(アリペイ)の全面広告 Photo by Izuru Kato
既存の金融業とフィンテック(金融とITを組み合わせた技術・サービス)が「ウィンウィン」の関係になることはない。今年1月、スイスで開催された世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)の場で、ビットコインを取り扱うフィンテック企業ブロックチェーンのピーター・スミス最高経営責任者(CEO)は、そう警告した。

 IT企業が既存の金融機関の役割を奪う可能性が高いため、金融機関がIT企業になれなければ生き残りは難しい。そういった趣旨の指摘を彼はしていた。

 フィンテックの普及が世界最速レベルで進んでいる中国と北欧に行くと、その発言のリアリティーが理解できる。

 この原稿は出張中の中国・上海で書いているのだが、数日前に大型ショッピングモールのフードコートで人気の焼き小籠包(4個で8元=約210円)を食べようと思ったところ、現金での支払いを拒絶されてしまった。

 周りの客の大半は、電子商取引大手アリババ集団傘下企業の「支付宝(アリペイ)」か、インターネットサービス大手テンセント・ホールディングスの「微信支付(ウィーチャットペイ)」でスマートフォン決済をしていた。VISAカードも断られたので、結局この店で食べることは諦めた。

 知人によれば、最近別の店で紙幣を出したときに「釣りはないが、いいか」と言われたという。スマホ決済ができない人は今や中国では「決済難民」になりつつある。

 中国紙「新聞晨報(Shanghai Morning Post)」(3月21日)は、「現金やクレジットカードは急速に過去の遺物となった」と報じた。中国のインターネット調査会社アイリサーチによると、中国でのスマホ決済額は、2012年では0.2兆元だったが、昨年は38.5兆元となり、18年には72.1兆元になると推測されている。

 中国では、旧正月のお年玉は紅包(赤い封筒)に入れて手渡される。しかし、今年は微信支付の「デジタル紅包」で460億件のお年玉が送金された。都市部だけでなく、地方(非都市部)でもスマホ決済は普及している。銀行やATM(現金自動預払機)まで遠いからだ。中国人民銀行によると、地方における昨年のスマホ決済額は前年比71%増だった(前掲紙、2月6日、3月18日)。

 ただし、お年寄りの中にはスマホ決済に不慣れな人がまだ多い。支付宝は3月20日の「新聞晨報」の1面に、親から多くのことを教わってきたのだから親に支付宝の使い方を教えよう、との全面広告を載せた。

 金融業界にとって深刻なのは、スマホ決済が、アリババやテンセントといったIT企業に支配されてしまった点だ。中国の銀行では、営業店の人員を減らす動きが出始めているとのうわさもあり、先行きの雇用を心配する声が金融業界から聞こえている。

 一方、北欧では銀行が早くから積極的にスマホ決済への移行を推し進めてきたが、彼らは同時にビジネスモデルも大幅に変革している。現金を扱う店舗をごく少数に限定して警備費用を大幅に削減し、店舗や行員も大胆に減らし始めている。

 コストカットの推進によって、デンマーク最大手のダンスク銀行は昨年のROE(自己資本利益率)をなんと13%台に押し上げた。北欧の銀行はIT企業になりつつあるといえる。既存の金融業の体制や人員を維持したままでフィンテックと共存を図ることは、やはり難しいのかもしれない。

(東短リサーチ代表取締役社長 加藤 出)
http://diamond.jp/articles/-/122508


 

ボストン連銀総裁:FOMCは隔会合で利上げを−景気過熱防止で
Christopher Condon
2017年3月30日 02:35 JST
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米ボストン連銀のローゼングレン総裁は、景気の過熱を防ぐため、金融当局は年内に計4回利上げする準備を整えるべきだとの認識を示した。
  総裁は、今後の経済データによって軌道から外れることがない限り、連邦公開市場委員会(FOMC)は6月、9月、12月に利上げする準備をするべきだと語った。
  ローゼングレン総裁は29日、ボストンで講演。事前に配布された原稿によれば、「毎回のFOMC会合での結果は入手するデータの意味合いに左右されるとの認識があるようだ」とした上で、「私自身の見解は、今年全体を通じて隔会合ごとに利上げするというのがFOMCの既定路線となり得る、そうなるべきというものだ」と語った。
  総裁は、多くのエコノミストによれば失業率は2018年までに4.4%を下回る可能性が高いと指摘。この水準が持続可能だと考えるFOMCメンバーはいないとした。金融当局が注目するインフレ指標は1月に前年比1.9%上昇。ローゼングレン総裁は、多くのエコノミストはこの指標の伸び率が年末までに2.2%を超え、当局の目標2%を上回るとみていると指摘した。
  ローゼングレン総裁は「熱過ぎる景気を作らないことが重要だ。景気が過熱すれば一段と速いペースでの金融引き締めが必要になり、これまで進展してきた景気回復にリスクをもたらす」と述べた。
原題:Rosengren Calls for Fed to Tighten at Every Other FOMC Meeting(抜粋)
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東芝:米WHが破産法を申請、赤字1兆円に拡大−リスク遮断へ
谷口崇子、Pavel Alpeyev
2017年3月29日 16:51 JST 更新日時 2017年3月29日 20:00 JST
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綱川社長、最大規模の赤字に「責任感じる。債務超過解消に全力」
WHは2017年3月期から連結対象外に、裁判所の管理下で事業継続
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東芝は傘下で巨額損失を抱える米原発子会社ウェスチングハウス(WH)が29日に米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用を申請したと発表した。破たん処理に伴いWHは2017年3月期から連結対象を外れる。損失拡大リスクを早期に遮断し経営再建に道筋を付ける狙いだ。
  発表によると、WHとともに米国外の原発事業の持ち株会社も破産法の適用を申請した。破産法申請に伴う負担の増加により、17年3月期の連結損失(赤字)は従来予想の3900億円から1兆100億円に拡大。株主資本も毀損(きそん)し、従来見込みで1500億円だった債務超過は6200億円に悪化する。
東芝傘下のWHが米破産法の適用を申請
東芝傘下のWHが米破産法の適用を申請 Kiyoshi Ota/Bloomberg
  綱川智社長は会見で、WHなどの破産申請は「米原発事業の再建と、海外原子力事業のリスクを遮断するのに不可欠で、健全経営に向けた第一歩だ」と指摘。事業会社で過去最大規模の赤字となる可能性に「責任を感じている」と述べた。今後は主力のメモリ事業売却などにより「債務超過の解消に全力を尽くしたい」と話した。
  原発子会社の破産申請により一時的負担は増えるが、原発事業での損失リスクを限定しやすくなる。2度延期された昨年4−12月期決算の発表は予定通り4月11日までに行う見通しという。東芝は今後、4月に分社化するメモリ事業の売却などで債務超過からの脱却を図るとともに、社会インフラ事業を柱に収益構造の転換を進める。
「新たな損失ない」
  WHは現在、米国で4基の原子炉を建設中。再生手続きの開始によりWHは裁判所の管理下に置かれ、損失が際限なく広がるリスクを断ち切ることができる。また、破産法適用により債務を圧縮し、再建を進めることになるため、WHの売却先を探しやすくなるなどのメリットも期待できる。
  綱川社長は会見で「海外原発事業で新たな損失は発生しないと認識している」と述べた。発表によると、WHグループは再生手続きにのっとり、当面はこれまで通り事業を継続する予定。このため8億ドルのつなぎ融資を確保し、東芝がそのうち2億ドルを債務保証する。
  東芝は先月、海外原発事業からの撤退を表明。海外では今後、機器納入やエンジニアリングに特化しプラント建築のリスクは負わない方針を示した。海外原発事業については韓国電力公社が、要望があればWH再建の支援企業としての役割を検討するとし、英国の原発事業への出資にも関心を示している。
  ジェフリーズ証券のズヘール・カーン調査部長は、「東芝は損失の拡大が底なし沼ではないことを示す必要があるのに、業績予想を出す度に金額が拡大してしまっている」と指摘。その上で「一つ明らかなのは東芝が生き残るには、これまで以上に取引銀行からのサポートが必要だということだ」と述べた。
  東芝は海外原発事業の拡大を目指し、06年にIHIなどと組んでWHを54億ドル(約6200億円)で買収した。しかし、東日本大震災後の規制強化に伴う工事の遅れなどで損失が拡大した。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-29/ONKGII6KLVR401
http://www.asyura2.com/17/hasan120/msg/563.html

[経世済民120] 年度末の波乱に注意 債券上昇か、欧米金利低下の流れ  日本株は小幅下落へ、米長期金利低下、円安も進まず 働き方改革で株買
配信日:2017年3月29日

チーフ・ストラテジスト 広木 隆が、実践的な株式投資戦略をご提供します。
広木 隆が投資戦略の考え方となる礎を執筆しているコラム広木隆の「新潮流」はこちらでお読みいただけます。
広木 隆 プロフィール Twitter(@TakashiHiroki)
年度末の波乱に注意
今日から実質新年度入りである。4月は1年のうちで1月に次いで2番目に株価が上昇しやすい月として知られる。日本の新年度入りでニューマネーが入ってきたり、機関投資家が動きやすくなったりするからというのが一般的な解説である。実際、4月は外国人の買い越し額も年間を通じてもっとも大きい月である。
しかし、この「機関投資家が動きやすくなったりする」というのが、曲者である。その対として「期末を控えて動きにくい」とよく言われるのは、(大組織にありがちだが)その年度の<着地数字>を固めてしまったので、下手に売買して損でも益でも出して数字を狂わせてくれるな、というお達しが出るからだ。
期が明ければもう自由に動ける。だから新年度入りしたあとの相場は、それまでストップしていた売り物が出て波乱含みになりやすい。
特に異常値とも思えるのは、年度末最終日の陰線である。年度末の最終営業日の日経平均について、始値⇒終値の変化を調べると、2000年以降、昨年までの17年で16回がマイナス、すなわち陰線となっていた。その16回の累計は1800円余りで平均すると114円幅になる。
これに次いで名実とも新年度入りする4月第1営業日も陰線になりやすい。同期間では10回陰線となっており、累計額は1650円余り、平均すれば165円幅の陰線である。
ここ数年を振り返っておこう。
昨年2016年は3/30、3/31も大きな陰線を引いた後、4/1に555円幅の陰線を引いて前日比595円安という急落を演じた。昨年は3/29〜4/6まで7日連続安。いったん下げ止まったものの、8日ザラ場で15500円を割り込み、この間の下げ幅は1500円を超えた。3月中にGPIFをはじめとする年金の買いが続き、その「特需」が年度替わりとともに剥落したことが影響していると見られている。
2016年3月末〜4月上旬の日経平均
(出所)Bloomberg
2015年は権利付き最終日からすでに崩れ始めた。3/26と3/27の2日間で460円下落。3/31と4/1で376円安。年度末の3/31は400円近い幅の陰線を出している。
2015年3月末〜4月上旬の日経平均
(出所)Bloomberg
2014年は比較的波乱なく過ぎたが、3/31と4/1の日経平均が陰線だったことに変わりはない。
2013年は3/28〜4/2までの4営業日すべてが陰線でこの間の下げ幅は約400円。2012年は3/29〜4/4まで5日連続陰線だった。特筆すべきは実質新年度入りした3/28から4/11まで、間にわずか26円高という小反発を挟んで下げ続け、その累計額が800円近くに及んだ下げとなったことだ。
平穏に過ぎた年度末〜新年度入りというのは2000年以降では2005年と2006年くらいである。
新年度入り相場が波乱含みになりやすいのは、金融機関から益出しの売りが出るからだろう。いわゆる「期初の売り」が出やすいのは、期間収益が評価対象として重視されやすい機関投資家やファンドマネジャーの心理的な背景が要因と言われる。新年度入りの早い時期に保有株を売却して当期の利益を一定度合い確保しておけば、年度後半に向けて気持ちに余裕が出る。その意味で今年は昨年度末や9月中間期末に比べても3000円程度高く、期初の売りが出やすいと言える。警戒しておくべきだろう。
では年度末最終日の陰線はどういう背景か?邪推かもしれないが、年度末の「お化粧買い」に売りをぶつけているのではないか。あるいは、その反対で、「お化粧買い」を期待して寄り付きから買いで入っても一向に「お化粧買い」が入ってこないのを見て、諦めて投げる短期筋が多く引けにかけて下げ足を速めるのだろうか。
実際のところはわからないが、2000年以降、昨年までの17年で16回の陰線というのは驚く。売りから入れるひとは試してみたらいかがか。無論、投資の成果については自己責任でお願いしたい。
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日本株は小幅下落へ、米長期金利低下、円安も進まず−金融や輸出安い
佐野七緒
2017年3月30日 08:12 JST
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米国債:反発、ECBが政策メッセージ変更に慎重との報道で
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30日の東京株式相場は小幅に下落する見通し。米長期金利が低下し、為替市場で円安が進みにくくなっている。銀行など金融のほか、自動車や電機など輸出関連が下落しそうだ。一方、原油市況の上昇で原油関連などは買われる公算がある。
  野村証券投資情報部の若生寿一エクイティ・マーケット・ストラテジストは「あすの国内外の経済統計集中日を前に手掛かり材料に乏しく、買う動意が薄い」と指摘。「トランプ米政権の政策運営ももたついている。利上げペースが上がらなければ米債券は買われ、ドル高になりにくい。日本株上昇のドライバーが足りない」と話す。
  米シカゴ先物市場(CME)の日経平均先物(円建て)の29日清算値は1万9165円と、大阪取引所の通常取引終値(1万9220円)に比べて55円安だった。
東証内の見学者
東証内の見学者 Photographer: Junko Kimura/Bloomberg
  29日の海外為替市場ではドル・円が一時1ドル=110円72銭と、前日の日本株市場の終値時点111円15銭に対しドル安・円高方向に振れた。ユーロは下落し、対円で一時119円02銭と2月28日以来の安値を付けた。欧州中央銀行(ECB)当局者が6月より前に政策メッセージを変更することに慎重になっていると、ロイターが匿名の当局者による情報を基に報じた。欧米国債は買われ、米10年債利回りは前日比4ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)低下して2.38%。
  29日の米国株市場では、S&P500種株価指数が0.1%高の2361.13、ダウ工業株30種平均が0.2%安の20659.32ドルと高安まちまち。金融株が下げたため、きょうの日本株市場でも金融株が売られる可能性がある。一方、原油相場の上昇を手掛かりに鉱業や石油などは高くなりそうだ。ニューヨーク原油先物は前日比2.4%高の1バレル=49.51ドルと、終値としては3月8日以来の高水準となった。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-29/ONLLXM6K50Y101


 


債券上昇か、欧米金利低下の流れ引き継ぎ買い先行−2年入札を見極め
三浦和美
2017年3月30日 08:02 JST
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超長期ゾーンの底堅さは心強い、カーブフラット気味か−東海東京証
先物夜間取引は150円47銭で引け、前日の日中終値比2銭高
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債券相場は上昇が予想されている。前日の海外市場では欧州中央銀行(ECB)の金融緩和継続観測を背景とした欧州債高に連れて米国債が買われており、こうした流れを引き継ぎ、買いが先行する見通し。この日実施の2年利付国債入札を見極めようとする姿勢も強い。
  30日の長期国債先物市場で中心限月6月物は150円台半ば付近での推移が見込まれている。夜間取引は150円47銭と、前日の日中終値比2銭高で引けた。

  東海東京証券の佐野一彦チーフ債券ストラテジストは、米10年国債利回り低下など「他市場はフォロー」と指摘。「超長期ゾーンの底堅さは心強い。今日の相場は強含み、カーブはフラット気味」と予想する。日本銀行が前日のオペで中期ゾーンの買い入れを減額したことについては、「4月からのそれを先取りしたと考えれば影響は乏しい」とみる。
  現物債市場で長期金利の指標となる新発10年物国債の346回債利回りは、日本相互証券が公表した前日午後3時時点の参照値0.05%付近での推移が見込まれている。佐野氏はこの日の予想レンジを0.05%〜0.055%としている。
  29日の米国債相場は反発。ECBでは複数の政策当局者が6月前に政策メッセージを変更することに慎重になっているとのロイター通信の報道を手掛かりとした欧州債の買いが波及する格好となった。米10年債利回りは4ベーシスポイント(bp)低下の2.38%程度となった。
2年債入札
  財務省はこの日、 2年利付国債の価格競争入札を実施する。表面利率は0.1%に据え置かれる見込み。発行予定額は2兆2000億円程度と、前回の2兆3000億円から減額となる。
財務省
財務省 Photographer: Tomohiro Ohsumi/Bloomberg
  みずほ証券の辻宏樹マーケットアナリストは、「短期ゾーンに関しては減額傾向にある日銀買い入れオペに対する期待がしにくい側面もあり、年度末で薄商いの中、入札に対する警戒感は相応に強そうだ」と指摘。「こうした懸念から同ゾーンには入札に向けた調整圧力がかかる局面もあろうが、長期以降のゾーンについては総じて底堅い展開が続くことになりそうだ」と見込む。
過去の2年債入札結果はこちらをご覧下さい。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-29/ONLMA36JTSEP01


 

アングル:「働き方改革」が株買いに、海外勢はサービス業注目

[東京 29日 ロイター] - 日本の「働き方改革」を投資家も注目している。深刻化する人手不足を逆に好機として、労働時間短縮と業績改善の両立に期待が集まっている。

特にサービス業は国際的にみて生産性が低いことから、改善余地が大きいとみる海外勢も多い。自動化や余暇消費、アウトソーシングの企業などへの物色も目立ってきた。

<残業時間半分でも業績上方修正>

日本電産(6594.T)の残業時間(月間平均、本社全体)は、この1年で約半分に減った。だが、業績は依然好調で1月下旬には、2017年3月期の利益予想を上方修正した。市場もこれを好感、同社の株価は昨年末から5%近く上昇している。

同社は約1万人となる国内従業員の残業時間を2020年までにゼロにするために、1000億円の業務効率化投資を計画している。

フィデリティ投信・ポートフォリオマネージャー、古田拓也氏は、業務時間短縮と業績改善を両立している企業として同社に注目。「会議時間の短縮や、工場自動化で労働時間を下げながら、生産性を向上させる取り組み行っているようだ」と話す。

大和ハウス工業(1925.T)は2004年からロックアウト(社内基準時間以外の事業所閉鎖)を実施。15年度からは人事部による「抜き打ち検査」を実施するなど徹底を図った。その結果、社員1人あたりの年間所定外労働時間は、前年度比44時間減少した。

一方で、17年3月期は売上高、利益とも過去最高となる見通しだ。同社の株価はこの2年で約40%上昇している。ブラックロックは3月22日に同社株を5.08%保有しているという大量取得報告書を提出している。

残業代が減って給料が目減りすれば、労働者にとってデメリットにもなり得る。だが、「大企業は残業代を一律支給し、中小企業は賃金を変えず就業時間の短縮もしくは有給取得の促進」(あしたのチーム総研、佐藤千尋氏)で対応しているようだ。

<低生産性は「改善余地」>

海外投資家が注目するのは、日本のサービス業の生産性の低さだ。日本総研によれば、購買力平価ベースでみた労働生産性水準を国別に比較すると、日本のサービス業(医療・教育・不動産を除く第3次産業)の労働生産性は、米国の半分程度。だが、それをマイナスと捉えるのではなく「改善余地がある」(外資系証券)として受け止めている。

生産性向上の鍵とみられているのが自動化だ。IOT(モノのインターネット)、ロボット、AI(人工知能)、自動化などの関連株は、ここ1年で20%アウトパフォームしているという。

アウトソーシング企業への期待も大きい。「働き方改革で本業に集中する企業が増えている分だけ、アウトソーシングビジネスのニーズは高まっている」(フィデリティ投信の古田氏)という。

企業福利厚生の総合アウトソーシングを手がけるリログループ(8876.T)は11年11月に東証1部に上場して以来、株価は右肩上がり。同じくアウトソーシング事業のプレステージ・インターナショナル(4290.T)の株価も、きょう29日に昨年来高値を更新した。

また、引退世代の増加や、人口減による1人当たり賃金上昇と女性の社会進出拡大による世帯所得の増加を背景に、サービスに対する消費が急速に伸びるとの期待もある。2月にブラックロックはラウンドワン(4680.T)を、フィデリティ投信はぐるなび(2440.T)を、それぞれ5%以上取得している。

<「日本の縮図」ヤマト運輸が値上げへ>

世界最大の資産運用会社、米ブラックロックの日本法人、ブラックロック・ジャパンは今月上旬、投資先の日本企業約400社に働き方改革を求める手紙を送付。働き方改革を通じて、従業員の働き甲斐や満足度を高めることが、長期的な成長には不可欠だと訴えた。

「働き方改革」が日本企業の生産性を向上させることができるか──。28日に働き方改革実現会議が「実行計画」を提示したが、実効性は未知数だ。

ただ、「働き方改革を国を挙げてやることによって、特に生産性の低い非製造業の業務は大きく変化する。物流からIT企業などに広がっていく」(大和証券・シニアストラテジスト、石黒英之氏)との期待もある。

ヤマトホールディングス(9064.T)傘下の宅配便最大手ヤマト運輸では、労働需給の逼迫により人件費が想定を超えて急増。このため基本運賃値上げなどを検討している。

JPモルガン証券・チーフストラテジスト、阪上亮太氏は同社を「日本の縮図」と指摘。「非常に効率的なシステムと非常にロイヤリティの高い従業員を抱えながら、27年間値上げしてこなかった。そういう会社が値上げに追い込まれるというのは、日本が変わる一つのきっかけになる」と話している。

*見出しを修正しました

(辻茉莉花 編集:伊賀大記)

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◎NY外為:ユーロ下落、ECB緩和継続報道と英EU離脱手続き開始で
  29日のニューヨーク外国為替市場でユーロが下落。一時5週ぶりの大幅安となった。欧州中央銀行(ECB)当局者がハト派的なメッセージを変えることに慎重だとの報道が手掛かりとなったほか、英国が欧州連合(EU)離脱に向けて動き出したことも影響した。
  英国のEU離脱手続き開始を手掛かりにユーロは1通貨を除く主要通貨全てに対して下落した。ECBでは複数の政策当局者が6月より前に政策メッセージを変更することに慎重になっていると、ロイターが匿名の当局者による情報を基に報じた。この報道後にユーロは下げ幅を拡大した。
  ニューヨーク時間午後5時現在、ユーロは対ドルで0.4%安の1ユーロ=1.0766ドル、一時は1.0740ドルまで下げた。ドルは対円で0.1%安の1ドル=111円04銭。
  ロイターによれば、ECBの当局者1人が3月9日のドラギ総裁記者会見のメッセージは拡大解釈されていると述べ、ECBは市場に対して異例の支援策はまだ終了していないことを明確に示すことを望んでいると続けた。
  英ポンドは対ドルで100日移動平均付近で推移。一時は1週間ぶりの安値に落ち込んだ。英国のメイ首相はEU離脱のプロセスを正式に開始した。2年後をめどに離脱を実現させ、最大の貿易相手であるEUとの新たな関係を定義するとともに、数十年に及んだ大陸欧州との政治統合深化の流れに終止符を打つ。
  ブルームバーグ・ドル指数はほぼ変わらず。サンフランシスコ連銀のウィリアムズ総裁とボストン連銀のローゼングレン総裁は利上げペースを加速させる必要が生じる可能性を示唆した。
原題:Euro Weakens on ECB Comments as U.K. Triggers Brexit Process(抜粋)
◎米国株:S&P500種は小じっかり、エネルギーに買い−ダウは下落
  29日の米株式相場はまちまち。S&P500種株価指数は小幅上昇した。市場では経済データに注目しつつ、トランプ政権による税制改革などの行方を見極めようとする動きが続いている。
  この日は原油相場が上げを拡大。政府の統計を受けて在庫膨張への懸念が後退した。これを手掛かりにS&P500種株価指数ではエネルギー銘柄が特に上昇した。一方で銀行株は下落。この日の出来高は58億6000万株と、今年3番目に低い水準だった。
  S&P500種株価指数は前日比0.1%高の2361.13。ダウ工業株30種平均は42.18ドル(0.2%)安の20659.32ドル。 
  S&P500種の業種別11指数ではエネルギーのほか、不動産も上昇した。一方で公益事業や金融は値下がり。
  ニューヨーク原油先物市場ではウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物が前日比1.14ドル(2.36%)高い1バレル=49.51ドルで終了。終値としては3月8日以来の高水準となった。
  朝方発表された2月の米中古住宅販売成約指数は前月比5.5%上昇、2010年7月以来の大幅な伸びとなった。ブルームバーグがまとめた市場予想の中央値は2.5%上昇だった。
原題:U.S. Equities Climb on Muted Volume as Oil, Energy Stocks Rally(抜粋)
原題:U.S. Stocks Rise With Oil, Pound Falls on Brexit: Markets Wrap(抜粋)
原題:Pending Sales of Existing Homes in U.S. Rise Most Since 2010(抜粋)
◎米国債:反発、ECBが政策メッセージ変更に慎重との報道で
  29日の米国債相場は反発。ユーロ圏の国債につれて買いが入った。欧州中央銀行(ECB)では複数の政策当局者が6月前に政策メッセージを変更することに慎重になっているとのロイター通信の報道が手掛かりになった。
  ロイターが引用した複数の当局者は債券利回りがこれ以上上昇すれば、ECBにとって問題になると話した。当局者の1人によれば、売りを誘った3月9日のドラギ総裁記者会見のメッセージは拡大解釈されている。
  ニューヨーク時間午後5時現在、10年債利回りは前日比4ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)低下の2.38%。
  米国債はドイツ国債とほぼ同時にこの日の高値を付けた。7年債入札(発行額280億ドル)で最高落札利回りが入札前取引の入札締め切り時点の利回りを小幅ながら下回ったため、米国債は入札後も堅調を維持した。米金融政策当局者2人が利上げペース加速の可能性に言及したものの、相場に大きく響かなかった。
  7年債の最高落札利回りは2.215%。入札前取引の入札締め切り午後1時時点の利回りは2.219%だった。ストーン・アンド・マッカーシーによると、落札利回りが入札前取引の利回りを下回るのは7年債入札としては4回連続。
  間接入札者の落札全体に占める割合は71.17%と、これまでの記録で上位に位置する水準。応札倍率は11月以来の高水準となる2.56倍だった。
  サンフランシスコ連銀のウィリアムズ総裁は今年3回を超える利上げを排除しない考えを示した。ボストン連銀のローゼングレン総裁は今年全体を通じて隔会合ごとに利上げを実施することを支持し、年4回の利上げを示唆した。シカゴ連銀のエバンス総裁は今年あと1回もしくは2回の利上げを支持した。
原題:Treasuries Gain With European Bonds as ECB Said to Be Cautious(抜粋)
◎NY金:小幅安、英EU離脱の不安再燃で四半期では1年ぶり大幅高
  29日のニューヨーク金先物相場は下落。英国の欧州連合(EU)離脱に向けた不安が市場に戻ったことから、金は四半期ベースでは1年ぶりの大幅高となっている。
  シンク・マーケッツUKのチーフマーケットアナリスト、ナイーム・アスラム氏は「英国は交渉を開始するが、経済は順調にいかないとトレーダーらはみている」と指摘。「金への関心は強まりつつある」と述べた。
  ブルームバーグのデータによると、ロンドン時間午後7時9分現在、金スポット相場は前日比0.3%高の1オンス=1008.50ポンド。ポンド建ての金は四半期では29日までの時点で8.5%高と、2016年4−6月(第2四半期)以来の大幅上昇。
  ニューヨーク商品取引所(COMEX)のドル建ての金先物は四半期で9.1%高となっており、昨年3月以来の大幅上昇。金先物6月限は前日比0.2%安。
原題:Return of Brexit Fears Helps Send Gold to Best Quarter in a Year(抜粋)
◎NY原油:続伸、米石油製品在庫の減少と精製活動の高まりで
  29日のニューヨーク原油先物市場ではウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物が続伸。米エネルギー情報局(EIA)が朝方発表した週間統計で市場の予想を上回るガソリン在庫減少と製油所の石油精製量増加が示されたことを受けて買いが入った。2日続伸は約1カ月ぶり。
  ジョン・ハンコック(ボストン)で石油・天然ガス関連のポートフォリオを運用するアダム・ワイズ氏は電話インタビューで、「原油と石油製品を含む総在庫が減り、それが支援材料になった。製油所の稼働水準が高まっていることから、原油在庫の減少が近く確認できそうだ」と話した。
  ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のWTI先物5月限は前日比1.14ドル(2.36%)高い1バレル=49.51ドルで終了。終値としては3月8日以来の高水準となった。北海ブレント5月限は1.09ドル高い52.42ドルで取引を終えた。
原題:Oil Rises as U.S. Fuel Supplies Fall, Refinery Crude Use Spikes(抜粋)
◎欧州株:ストックス600上昇、石油ガス高い−英FTSE100は下げ解消
  29日の欧州株式相場は上昇。原油高を背景に石油・ガス株が買われた。英FTSE100指数は一時の下げを消し、上げに転じて終了した。
  指標のストックス欧州600指数は前日比0.3%高の378.53で終了。米原油在庫が予想ほど増加せず原油価格が上値を伸ばしたことが背景にある。ストックス600指数は月初来では2.2%上げており、このままいけば3月としては2010年以来の大幅高となる。
  FTSE100指数は一時0.4%下げたものの、0.4%高で引けた。メイ英首相が欧州連合(EU)離脱のプロセスを正式に開始し、ポンド安に振れたことが材料視された。
  ストックス600指数の業種別指数で、石油・ガス株指数は1%高と、上昇率首位。銅相場上昇で鉱業株指数は0.9%値上がりした。
  ETXキャピタルの市場アナリスト、ニール・ウィルソン氏はリポートで、「ポンドと英資産は長期的にボラティリティーが高い局面にある。現時点では詳細が全てだ」と指摘した。
原題:Europe Stocks Rise With FTSE 100 as Oil Climbs on Inventory Data(抜粋)
◎欧州債:ドイツ国債、上昇−総裁発言が拡大解釈されているとの報道で
  29日の欧州債市場ではドイツ国債が一時の下げを解消し上昇した。ロイター通信がECB当局者の情報を基に、今月のドラギ総裁の記者会見でのメッセージは「かなり拡大解釈されている」と報じたことが手掛かり。
  ポルトガル国債も買われた。トレーダーによればショートカバーが入った上、取引が限定的だったことが上昇要因。ギリシャ国債は大幅上昇し、2年債利回りは40bp低下。同国政府と債権団の協議が続いており、EU当局者は30日までに合意がまとまると期待している。
原題:Bund Futures Rally on Report on ECB; End-of-Day Curves, Spreads(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-29/ONKTQQ6KLVR401
http://www.asyura2.com/17/hasan120/msg/567.html

[政治・選挙・NHK223] 「国の守り」を放棄する学術会議でいいのか 米国北朝鮮攻撃、ソウル火の海、日本も報復攻撃確実 カジノ法成立で日本はどうなる
「国の守り」を放棄する学術会議でいいのか日本の安全・存続には国を挙げての関与が欠かせない
2017.3.30(木) 森 清勇
欧州版GPS「ガリレオ」測位衛星4基の打ち上げ成功、ESA
仏領ギアナのクールーにある欧州宇宙機関(ESA)基地から打ち上げられる、「ガリレオ」測位衛星4基を搭載したロケット「アリアン5」(2016年11月17日撮影)〔AFPBB News〕
 防衛省が公募する安全保障関連の技術研究に対し、日本学術会議は構成員の総意としての総会ではなく、幹事会で「軍事目的の科学研究を行わない」とした過去の声明を継承するとした。

 しかし、日本の安全を守るためには産業界の協力だけでなく、先進的な科学技術を探求する学界の協力が欠かせない。

 学術会議は戦争に関わることに忸怩たる思いがあるというが、侵略戦争は憲法9条で禁止しており、日本の防衛技術研究はどこまでも戦争抑止や自衛戦争の目的に資するものである。

 また、戦争に反対するのは学術会議の会員だけではない。会員以上に戦争したくないのが防衛省・自衛隊であり自衛官である。また国民のほとんどもそうであろう。

 しかし、日本に脅威を及ぼし、あるいは侵略する国があれば、それを抑止し防衛しなければならない。そうでなければ日本の安全が保障されない。

 憲法9条は、日本が侵略戦争をすることを禁止はするが、外国が日本を侵略することを抑止することはできない。従って、家に戸締りが必要であるように、国にも防衛のための備えは必要である。

かつてあった「戦争と平和」大論争

 1978年9月15日付「サンケイ新聞」の「正論」欄に関嘉彦早大客員教授が「有事″の対応策は当然」という記事を掲載した。この頃は有事立法が争点化しつつあり、栗栖弘臣統合幕僚会議議長(当時)による超法規発言(78年7月)などがあった時代である。

 関氏は、反対論者にはサンフランシスコ平和条約の全面講和論者の声明文や、60年安保改定時の知識人などの反対論と類似の言論が見られ、それらはヒトラーがベルサイユ条約に違反して軍事増強などをしているのを看過した宥和政策に似ていると評した。

 また、「『善意』ではあるが、歴史の教訓に『無知』な平和主義者の平和論がある」として、「平和憲法をもった日本を侵略する国などあるはずがない。海に取り囲まれた日本に対する奇襲攻撃などあるはずがない、といった希望的観測に立った議論」は、水と安全はタダと考える日本人の俗耳に入りやすいが、万一にも政治家までがこうした希望的観測に迎合するようではかえって侵略を招き寄せかねないと警告した。

 そのうえで、人為的災害である侵略などの有事に備えるべきであると主張した。

 また、軍備や非常時の対応策を講ずることが戦争を招き寄せるという考えに対しては、スイスは民兵組織であるが侵略に対してはあくまで戦う決意で準備をしていたので、ヒトラーはスイスを通ってフランスに攻め入るのを断念したという例示で反論した。

 森嶋通夫ロンドン大学教授が帰国便の中で関論文を読み、「何をなすべきでないか」と題する反論記事を「北海道新聞」(79年1月1日付)に掲載する。

 新聞での論争は4回続くが十分な論議が尽くせないとして、その後は『文藝春秋』(1979年7月号)誌上で、「大論争 戦争と平和」の掲題の下、森嶋氏は「新『新軍備計画論』」を、関氏は「非武装で平和は守れない」を、全42ページにわたって展開した。両者は10月号でも同ページの補論を展開する。

 森嶋氏は、英国の宥和政策がヒトラーの攻撃を招いたというよりも、ヒトラーがいる限り戦争は避けられなかったし、スイスを攻撃しなかったのは敵国と交渉する際の通路として利用しようと思っていたからだと述べ、関氏の軍事的備えを批判した。

 森嶋氏は、学ぶべき歴史の教訓は軍事力や民兵組織の必要性などではなく、攻め入られた英国がヨーロッパのほとんどの国を自分の陣営に引き止め、米国やソ連までも参戦させ連合軍としてまとめた政治力である。またスイスの場合は中立国という政治的地位であると述べたのである。

 そのうえで森嶋氏は結論的に、「徹底抗戦して、玉砕して、その後に猛り狂ったソ連軍が来て惨憺たる戦後を迎えるより、秩序ある威厳に満ちた降伏をして、その代り政治的自決権を獲得する方が、ずっと賢明だ」と述べたのである。

 ところで、かつてのソ連に代わり今日、日本の脅威になっている中国はどのような状況にあるのであろうか。

中国の軍事状況

 マイケル・ピルズベリーはニクソン政権以来、30年以上にわたって米国の政府機関で働いてきた中国研究の専門家で、2015年刊の『China2049  秘密裏に遂行される「世界覇権100年戦略」』に中国の軍事状況を子細に記述している。

 孫子の兵法を古来重視してきた中国であり、また米国と軍拡競争して敗れたソ連の失敗からも学び、ICBM(大陸間弾道弾)や核兵器、軍艦、戦闘機などの正面装備の軍事競争はしない。

 こうして表向きは「平和的な台頭」のイメージを世界に与えながら、秘密裏に先進兵器への支出を過去10年間で劇的に増やし続けてきたという。実際に公表する軍事予算は半分以下でしかないようだ。

 ピルズベリーは、米国のような超大国に対抗するうえで必要な戦術として中国が考えているのは、「暗殺者の鎚矛」という意味の「殺手かん(金ヘンに間)」であり、中国人軍事戦略家が1995年に発表した「海上戦の軍事改革」という論文で初めて「殺手かん」という用語を目にしたと述べる。

 「殺手かんは、自国より強い国の急所をついて勝つための非対称兵器」を指しており、米国が戦争を軍事的手段という方向からしか見ないのとは異なり、中国は科学をはじめとして情報、経済、法律、政治、金融など何でもありで、いわゆる「超限戦」の様相を指すようだという。

 また、「中国の殺手かん計画はアメリカでの諜報活動に支えられて進展してきた」とピルズベリーは述べる。

 冷戦下で米国は中国の平和的台頭を信じて、「軍事力増強のパートナーを喜んで引き受け」、「中国への武器輸出と技術譲渡」を惜しみなくやってきたことに加え、中国によるサイバー攻撃での技術窃盗などを指している。

 江沢民主席(当時)は殺手かんの強力な推奨者であったようで、1999年には軍の指揮官たちに、「国の主権と安全を守るために必要な殺手かんを、可能な限り迅速に手に入れる必要がある」「いくつかの新しい殺手かんに習熟しなければならない」と語り、2002年には「大国として世界の覇者と戦うために、いくつかの殺手かん兵器を作るべきだ」などとも述べている。

 「世界の覇者と戦う」ということで、殺手かんが目指すところは「アメリカの弱点を突いて、アメリカを無力にする方法を見つけることに注がれ」ており、中国国防大学の外国軍事研究部門が米国の軍事的弱点を詳述した64人の著者の論文を纏めたとも述べる。

 中国が列挙する米国の弱点は、(1)ハイテク情報システムへの過剰依存(2)宇宙衛星への依存(これは深刻とみる)(3)長距離の供給ライン(シーレーン)の3点である。

「殺手かん」とは何か

 殺手かんとは兵器などのハードウェアなのか戦略・戦術などのソフトウェアなのか分かりにくい。超限戦の様相を意図している点からは双方をミックスしたものというのが正しいであろう。

 米国はあまりにも情報スーパーハイウェイに頼りすぎているため、「電気無力化システムによる攻撃に対して脆弱であり、電力システム、民間航空システム、輸送ネットワーク、海港、テレビ放送局、電気通信システム、コンピューターセンター、工場、ビジネスが妨害あるいは破壊される恐れが高い」とみている。

 このようなことから、殺手かんの開発は、「監視システム、地上配備の電子インフラ、あるいは合衆国の航空母艦を無力化する兵器の開発から始まる」という。これには「核爆発で生じる電磁パルスを増幅させ、広範囲のあらゆる電子装置を動作不能にする電磁パルス(EMP)兵器が含まれる」としている。

 実際、マウス、ラット、兎、犬、猿でEMPの威力を調べ、また敵の電子機器を破壊する高出力マイクロ波兵器の研究も行っているという。

 また、過度の宇宙衛星依存や長距離兵站ライン(シーレーン)も弱点と中国はみなしている。衛星を破壊し、あるいは無力化する殺手かん兵器を中国は過去20年間にわたって作ってきたという。

 その1つは2007年に公開され、3000を超す破片(デブリ)を作り出し、世界の衛星機能を阻害することから国際社会の批判を受けた。

 中国版「スター・ウォーズ計画」であるが、「人民解放軍は、人工衛星からの通信を乱したり消したりする他の兵器や妨害器の開発も進めており、おそらくレーザー、マイクロ波兵器、粒子ビーム兵器、EMP兵器が含まれる」としている。

 シーレーンに対しては「潜水艦、機雷、魚雷、対艦巡航ミサイルといった非対称攻撃に対して脆弱であり、そのすべてを既に備えている」とも言う。

 こうした、研究の走りは1986年頃のようである。同年3月に「高技術研究発展計画」(863計画)を立案し、科学と技術によって国防の遅れを埋め合わせようとする大きな試みを始める。

 それにはバイオ技術やレーザー技術、新素材など民間・軍事両用の技術が含まれ、「自主創新戦略」の基盤となる「国家中長期科学技術発展計画(MLP、2005〜2020年間)」に組み込まれたという。

 自主創新戦略とは、外国のR&D資本、技術譲渡、外国の企業や研究機関での中国人エンジニアと科学者の育成を通して、軍事・民事の両方で活用できる技術力を高めようとするものだそうである。

 近年、中国の指導者は、863計画に投資する資金を大幅に増大し、領域を広げているという。

 MLPは最も野心的な科学技術計画になっており、電気通信、航空宇宙科学など16の「国家的メガプロジェクト」を「最優先中の最優先事項」として発表。MLPと863計画が民間・軍事両用を掲げていることは、中国の長期的軍事計画と民間の科学技術開発が、土台部分で結びつきつつあることを反映しているとも述べる。

学術会議は日本を危険にさらすのか

 ドゴールが「同盟などというものは、双方の利害が対立すれば一夜で消える」と語ったように、米国といえどもTPO次第では同盟をいつ解除しないとも限らない。それどころか敵国にさえなり得る。

 現に冷戦が終わり米国の敵であったソ連が消滅した後、米国は日本とドイツを敵国に見立てた経緯がある。

 米国はともあれ、現在の中国は日本領の尖閣諸島を併呑する動きを示しており、沖縄さえ自国領と称している。「中華民族の偉大なる復興」を明言する中国は「戦争準備」さえ呼号しており、日本が無傷であるはずはない。

 また北朝鮮は、先に4発同時発射したミサイルの目標は在日米軍基地を意図したものであったことを明確にした。

 先述したように、憲法9条を根拠に日本がいくら戦争を忌避しても、状況次第で中国は尖閣諸島の奪取に動いたり、北朝鮮は在日米軍基地にミサイルを撃ち込んだりする危険性がある。

 こうした脅威を抑止し、実際に侵攻やミサイル攻撃が行われた場合には反撃することが日本の安全に資することになる。

 そうした防衛に資するために自衛隊は存在し、自衛隊が兵器・装備を万一使用する場合は、「寸鉄人を刺す」ものでなければならない。

 科学者の代表組織である日本学術会議や一部のノーベル賞受賞者の声高な反対によって、軍事研究をしていなかったばかりに臍を噛むことはないだろうか。後の祭りと悔やんでも学問や言論の自由も人権も、いや生存の保障もなくなることは火を見るよりも明らかではないだろうか。

 政治・外交によって戦争を回避することが最善であることは言うまでもないが、日本の願望どうりに行くとは限りないし、森嶋氏が言うような保証はとても期待できそうもない。

 最終的に、日本の安全は科学技術の粋とも言うべき兵器・装備を保有する軍隊(日本においては自衛隊)によって基本的には保持される。そのためには、国家のあらゆる力を集積する必要がある。即ち国家の安全を維持するのは軍事科学技術を応用した兵器を装備した組織によってであることが実情である。

 当人が研究・開発を忌避するのは自由であるが、賛同する科学者や国家に縛りをかけるのは「軍事研究に協力しない」声明を発した当人の自由や生命さえ奪う結果を招く道理を理解していないからであろう。

 中国の状況を見るだけでも簡単に理解できるわけで、学術会議の決意ほど形容矛盾はないであろう。

 学術会議の会員(今回は幹事たちであるが)たちには、産学官の協力があって初めて日本の安全が留保されるという現実を見つめてほしい。

おわりに

 個人として軍事研究を忌避するのは自由であるが、科学者の中にも日本の安全に関わる軍事研究の必要性を熟知している人士も多いようである。特に今日の科学技術は、両用性(デュアル・ユース)と称され、民生と軍用に有用なものが多いし、判別もし難い。

 かつては軍事用に開発されたGPSやインターネット、さらには戦車の昇降システムなど、軍事技術が民用に供されることが多かったが、今では民用に開発された製品が軍用に供される状況も多い。

 それは第一線で兵士が戦車などで直接戦う様相から、科学技術の進歩で情報・通信・指揮システムなどにダメージを与えて軍隊を機能不全にする様相に移行しつつあるからである。

 また、相手の侵略意図を憲法9条で防止することはできないし、森嶋氏が言うような「秩序ある威厳に満ちた降伏」で「政治的自決権を獲得する」ことなどは、今日の中国や北朝鮮などの状況を見る限り絶望的な夢想でしかない。

 端的に言えば、防衛技術の研究に協力しないで侵略を許したために失う自由や人権蹂躙と、国家の防衛に尽力して今日の日本の姿を維持し続けることとどちらを選ぶかの問題であろう。ここは、真剣な議論で日本の安全に資する方策を導き出してもらいたい。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49555

 

米国で北朝鮮攻撃が議論の的に、日本は備えを急げ
ソウルは火の海に、日本も報復攻撃されることは確実
2017.3.30(木) 北村 淳

http://jbpress.ismedia.jp/mwimgs/3/a/600/img_3af659f79085597e96f5567f535b19b643375.jpg

韓国・ソウルの街並み。米国が北朝鮮に軍事攻撃を仕掛けると、ソウルは北朝鮮から報復攻撃を受けることになる(資料写真)

「先制攻撃にせよ予防攻撃にせよ、北朝鮮を軍事攻撃した場合は直ちに北朝鮮から報復攻撃を受け、第2次朝鮮戦争がスタートすることになる」

先週、韓国紙(英語版「Korea Times」)で、ジョージタウン大学のロバート・ガルーチ教授が警告した。

もともと大学教授であったガルーチ氏はビル・クリントン政権に加わり、アメリカ側の首席交渉官として「米朝枠組み合意」(1994年)の成立に尽力した。その後、再び大学に戻り、現在はジョージタウン大学で外交を教えている(北朝鮮はしばらくの間「米朝枠組み合意」を履行していたが、徐々に困難に直面し2003年に決裂した)。

トランプ政権は「過去20年にわたる北朝鮮に対する“関与政策”は失敗であり、今後は軍事攻撃も含むあらゆるオプションを実施する」といった方向性を打ち出している。それに対してガルーチ氏は、「封じ込め政策」でなく「関与政策」こそが有効であると反論している。

そしてガルーチ氏は上記の警告に続けて、「(北朝鮮を軍事攻撃するからには)アメリカと同盟国は第2次朝鮮戦争に備えねばならない。しかしながら、アメリカも同盟国も戦争には備えていないではないか」と強い懸念を表明している。

在韓米軍は「常に準備万端」

このようなガルーチ氏の懸念に対して、朝鮮半島に戦闘部隊を展開させているアメリカ陸軍関係者は、「我々(アメリカ軍と韓国軍)は、勃発するしないにかかわらず第2次朝鮮戦争には常に備えている」と反論する。

彼らによると、朝鮮半島には「Ready to Fight Tonight!」をモットーとするアメリカ陸軍第2歩兵師団が常駐しており、いわゆる38度線を越えて押し寄せてくる北朝鮮軍に対して常に準備万端なのだという。

北朝鮮軍は、極めて旧式装備とはいえ、兵力110万、戦車4000輛、重火砲15000門を擁する強大な戦力である。だが、近代的装備と優れた戦術情報環境を手にしているアメリカ軍と韓国軍側は、北朝鮮軍に効果的に反撃することができると胸を張っている。

避けられない民間人の犠牲

ただし、そのように主張する陸軍関係者も、準備態勢に問題がないとしているわけではない。

ガルーチ氏が指摘しているとおり、アメリカ軍にせよ韓国軍にせよ、北朝鮮を軍事攻撃した場合には、すぐさま北朝鮮による報復反撃が韓国に加えられることは確実である。とりわけソウル一帯には1時間近くにわたって砲弾やロケット弾が雨あられと降り注ぐことはもはや周知の事実となっている。そのため、極めて多数にのぼる一般市民(韓国市民のみならず多くの外国人も含む)の死傷者が出ることは避けられない。1000万人以上の人口を擁するソウルとその周辺一帯における死傷者数の推計は不可能に近く、死者数万名、負傷者数十万名でもおかしくないといわれている。

今のところ、このような事態を避けることは不可能である。よって、ソウル一帯の壊滅的損害に着目するならば“第2次朝鮮戦争に対する準備が整っていない”と言えなくはないのである。

軍隊が果敢に防戦に努めても、数万名の民間人が犠牲になることが前提では、戦争に対する準備が整っているとは言いがたい。

北朝鮮軍の砲撃訓練
ソウルへの報復攻撃を封じるのは困難

北朝鮮の報復攻撃とそれによって生ずる莫大な数の民間人の犠牲といったこうした悲惨な状況は、ガルーチ氏のように北朝鮮への軍事攻撃そのものに反対を唱える人々だけでなく、北朝鮮に対する予防攻撃は場合によってはやむを得ないと考えている人々にとっても共通してきわめて悩ましい難問である。

「アメリカ本土に達する可能性がある核搭載大陸間弾道ミサイル(ICBM)を北朝鮮が手にする以前に、北朝鮮の核兵器関連施設を破壊しておく必要がある」と考えている戦略家たちの間でも、「ソウル一帯での膨大な非戦闘員の死傷者はどうするのか?」は最大の論点になっている。

多くの軍関係者たちは、北朝鮮に対する軍事攻撃の必要性は認めつつも、実際には極めてハードルが高い軍事作戦になると考えている。なぜならば「ソウルに対する報復攻撃を避けるには、核関連施設だけでなく、国境地帯に展開する北朝鮮軍も一掃せねばならず、それも急襲によって一気に殲滅しなければならない。したがって、とても局所を狙ったピンポイント攻撃といった軍事行動では済まなくなり、第2次朝鮮戦争をこちらから仕掛けざるをえない」からだ。

一方、「北朝鮮がICBMをはじめとする核兵器を手にした場合に生ずる結果を考えるならば、ある程度の犠牲はやむをえない」との考えも見受けられる。

例えば極めて少数ではあるが、「広島と長崎に原爆攻撃を実施する際にも、敵側に多くの民間人犠牲者が出ることに関して議論が闘わされた。しかしながら、原爆攻撃を実施せずに上陸作戦を敢行した場合に予想された我が軍側と日本軍ならびに日本国民の莫大な死傷者数予測を考えた結果、やむを得ず原爆攻撃に踏み切ったのだ」という米陸軍による公式見解を引き合いに出す関係者もいる(ただし、米海軍や海兵隊にはこのような説明に異を唱える人々も少なくない)。

いずれにせよ、最終的な決断を下すのは軍隊ではなく、トランプ政権の専決事項である。したがって軍隊は、攻撃命令が下された場合に核関連施設破壊作戦や金正恩一派排除作戦を成功させる準備を万全に整えておくのが、軍事組織としての責務である。

相変わらず平和ぼけ状態の日本

米軍関係戦略家や外交政策関係者たちの間では、現在、上記のような議論が沸騰している。ところが、日本も当事者にならざるを得ないのにもかかわらず、日本政府・国会においては米軍による北朝鮮軍事攻撃に対する準備はガルーチ教授の指摘の通り「全くしていない」状態だ。

米軍関係者たちの頭を悩ませているソウル一帯での莫大な数の民間人犠牲者の中には、多くの日本国民も含まれている。そのことを日本政府・国会は認識しているのであろうか?

韓国全体には4万名近くの日本国民が在留しているという。それらの人々を救出するのは、アメリカ軍ではなく自衛隊だ。

また、北朝鮮による報復攻撃は、ソウル一帯や韓国内に限らず日本国内の米軍施設や日本の戦略ポイント(たとえば原子力発電所、火力発電所、石油化学コンビナートなど)に対して敢行されることもほぼ確実である。北朝鮮軍は現在も(数年前に比べて在庫は減っているとはいえ)、日本各地を射程圏に納めている弾道ミサイル(スカッド-ER、ノドン)を100発近く保有している。そのため、少なくとも50発の弾道ミサイルが日本に向けて報復発射されるであろう。

北朝鮮の対日攻撃弾道ミサイルの射程圏
http://jbpress.ismedia.jp/mwimgs/7/3/500/img_7397d4da46a4a0d0ae180a38e3736ef9168028.jpg

日本政府・国会は、日本国民に迫り来ている深刻な危機に、いつまでも目を背けていてはならない。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49568

 

 
カジノ法成立で日本はどうなる
2017.3.30(木) 経営プロ
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観光立国日本を後押しする!?

 昨年12月、統合型リゾート推進法が成立した。いわゆるカジノ法案だ。

 統合型リゾート(Integrated Resort 略称IR)とは、カジノを中心に、ホテル、ショッピングセンター、フードコート、アトラクションなどを併設する総合リゾート施設のこと。カジノが合法化されているのは約130カ国だが、IRのある場所としてはラスベガス、マカオ、シンガポールなどが有名だ。

 ちなみに、カジノの形態としては、ほかにホテルや温泉地の建築物内などに造られた小規模なものもあり、モナコのモンテカルロ、イタリアのヴェネチア、フランスのニースなどが知られている。さらに、アメリカのロサンゼルスに点在するポーカー主体のテーブルゲームカジノ場のような形態のものもある。

 しかし、この法律により、すぐにカジノができるわけではない。今年は、法案審議の過程で問題となったギャンブル依存症防止を盛り込んだIR実施法案やIR誘致公募ガイドラインなどの策定が予定されている。そして、IR実施法案の審議・可決後、IR誘致公募ガイドラインに沿って地方公共団体の公募・選定が行われ、さらに地方自治体による民間事業者選定、国による事業者の適格性審査・運営ライセンス供与があり、ようやく、事業者による施設開発・建設ということになる。

 そのため、実際にIRが誕生するのは東京オリンピックが開催される2020年以降とみられている。試験的に1〜2カ所で運営して、将来的には10カ所程度になるようだ。

懸念材料もいろいろ

 当然だが、カジノにはメリット・デメリットがある。メリットとしては、やはり、経済効果だ。

本コラムは「経営プロ」の提供記事です
 アメリカのカジノ運営大手、MGMリゾーツ・インターナショナルのジェームス・ムーレン会長・最高経営責任者(CEO)は、日本にIRが開業できれば、その際にMGMの投資規模は最大1兆円になる可能性があるとの見解を示している。ムーレン氏は、大都市型と地方都市型の2種類のうち、MGMとしては大都市型にフォーカスを当てていて、投資規模は「5000億円から1兆円になるだろう」と述べたのだ。

 また「MGM単体でも全額を確保できるが、運営には日本企業との提携が重要で、彼らも出資をしたいだろう」として、日本企業との提携に前向きな姿勢を示している。ちなみに地方都市型の場合なら、投資規模は1000億〜3000億円になるだろうとのことだ。

 また、2013年夏に米シティグループが発表した試算によると、東京・大阪・沖縄の3都市にカジノリゾートができた場合、東京オリンピックが開かれる2020年には日本がマカオに次ぐ世界第2位のカジノ大国になり、市場規模は推計1兆5000億円にもなるという。先に触れたように、IRのオープンは東京オリンピック以降になりそうだが、それでもかなりの巨大市場になりそうだ。

 政府は、外国人観光客を2020年までに4000万人、2030年までに6000万人にする観光立国政策を掲げているが、IRがそれを後押しする存在になるのも間違いない。周辺の地域に及ぼす経済効果も相当なものになるだろう。

 しかし、良いことばかりではない。懸念材料としてあげられているのはギャンブル依存症や周辺地域の治安悪化だ。

 パチンコに夢中になった親が炎天下の自動車のなかに幼い子供を放ったらかしにしたといった事件はよく聞く。ギャンブルは、人によってはわが子の命すら忘れさせる存在といえるのだ。夢中になって破産する人も出てくるかもしれない。

 また、海外の人たちも大勢やってくることが考えられる。考え方の違いや習慣の違いに、ギャンブル特有の高揚感が加わり、大きな事件が発生する可能性も考えられる。まだまだ、解決しなくてはならない課題は山積みだ。

*本稿は経営・ビジネスの解決メディア「経営プロ」の提供記事です。

*経営プロの関連記事はこちらです。
・休ませ上手は経営上手!?
・【新卒採用】学歴フィルターは悪か
・残業問題における上司と部下の仁義なき戦い
・CS(顧客満足)よりも、ES(従業員満足)を!
・数分の遅刻で30分賃金カットは合法の会社もあり違法の会社もある
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49554
http://www.asyura2.com/17/senkyo223/msg/326.html

[経世済民120] 米金融規制当局の使命ゆがめるトランプ政権 日銀が「市場の支配者」日々のオペ差配  市場離脱通告後に訪れる英国とEUの不幸
Column | 2017年 03月 30日 13:28 JST 関連トピックス: トップニュース

コラム:
米金融規制当局の使命ゆがめるトランプ政権

Gina Chon

[ワシントン 29日 ロイター BREAKINGVIEWS] - トランプ米政権は、金融安定監督評議会(FSOC)の本来の目的をゆがめてしまうかもしれない。金融危機の後に設立されたFSOCは、金融システムに芽生えたリスクを発見する使命を担っているが、今後は規制緩和のための努力に注力するよう強いられる可能性がある。

個々の規制当局がタコつぼ化し、全体像を把握できなくなったことは、2008年の危機を招いた一因とされている。米財務省の指揮下、あらゆる金融規制当局を束ねるFSOCはその欠陥を補うべく、ドッド・フランク法(金融規制改革法)の下で2010年に設立された。FSOCは金融システム全体を監視するほか、特に厳しい監督を要するシステム上重要な金融機関(SIFIs)を指定する権限も持っている。

共和党はFSOCを格好の攻撃目標とし、秘密主義で恣意的だなどと批判してきた。上院銀行委員会の共和党議員10人は27日、ムニューシン財務長官に宛てた書簡で、SIFIs指定の手順を見直すよう求めた。

トランプ政権は規制緩和の一環としてFSOCの役割を検証している。大統領は既に財務長官に対し、FSOCと協議して金融規制を見直し、経済成長に資するものとするよう命じている。FSOCはおそらく、規制緩和の調整役を果たすことになりそうだ。

事情に詳しい筋によると、政府はまた、金融機関が罰金や制裁措置を二重に科されることのないよう、FSOCを通じて各当局に規制執行で協力するよう強いることも検討している。銀行はモーゲージ担保証券の不正販売など単一の不正行為について、複数の規制当局から制裁を科されていると不平を訴えていた。

FSOC批判の一部は当たっているが、その使命を脇に追いやるのは危険だ。規制当局はこれまで、シャドーバンキング(影の銀行)が監視の目をくぐり抜ける恐れがあると警鐘を鳴らしてきた。FSOCは金融規制当局が問題点を協議し、より良く協力していくための場を提供している。模様替えしたFSOCは、脅威の芽を摘むという、持って生まれた使命を果たせなくなるかもしれない。

●背景となるニュース

*共和党上院議員10人は28日、ムニューシン財務長官に書簡を送り、FSOCによるSIFIsの指定手続きを見直すよう求めた。下院金融サービス小委員会に所属する共和党議員らもFSOCを批判している。

*トランプ大統領は2月、財務長官がFSOCと協議して金融規制を見直し、経済成長を促進して米企業の国際競争力を高めるものとするよう命じる大統領令に署名した。

*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。


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コラム:森友学園問題、投資家が考えるべき「キーマンリスク」 2017年 03月 28日
コラム:インテルが自動運転で勝負、ソフト会社買収は前途多難 2017年 03月 14日
http://jp.reuters.com/article/column-trump-regime-dodd-frank-idJPKBN1710BC


 


 
日銀が「市場の支配者」、日々のオペ差配する市場局の一挙一動に注目
日高正裕、藤岡徹
2017年3月30日 12:30 JST
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日銀内からも市場局で毎日金融政策決定会合とやゆする声も−関係者
日々のオペが「先行きの政策スタンスを示すことはない」と黒田総裁
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日本銀行が昨年9月に長短金利操作を導入して以来、市場の関心は、金融政策を企画・立案する企画局から、金融市場オペレーションを差配する金融市場局に移っている。日銀に対して、金利の変動や適正と考えられる水準まで管理する「市場の支配者」と指摘する声も出ており、その実働部隊である金融市場局の一挙手一投足に注目が集まっている。
  金融調節方針の現状維持が続く中、ごく少数の担当者が決定するオペの方針が市場を動かすケースが増えている。23日には午後5時に日銀が突如発表した一枚の通知により、国債を貸し借りするレポ市場の金利が急上昇した。月末に金融市場局が公表する長期国債買い入れの運営方針に対する注目は回を重なるたびに高まっており、日銀は2月末にオペ日程の公表に踏み切った。
日本銀行
日本銀行 Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg
  日銀の黒田東彦総裁は当面政策変更は必要ないとの立場を繰り返しており、エコノミストの多くも黒田総裁の任期中は追加緩和は予想していない。正副総裁と6人の審議委員からなる政策委員会メンバーが様子見姿勢を続ける中、金融市場局の奥野聡雄市場調節課長と上司である清水誠一局長が日々のオペ方針を決定している。
  ニッセイ基礎研究所の徳島勝幸年金研究部長は22日付のリポートで、「日銀は単なる最大の投資家であるだけではなく、金利の上下動や適正と考えられる水準までもコントロールしてしまっている市場の支配者である」と指摘する。
毎日開かれる決定会合
  日銀は昨年9月、金融市場調節方針の操作目標をマネーの量から金利に転換して長短金利操作を導入。短期金利を「マイナス0.1%」に、長期金利目標は「0%程度」に設定した。これと整合的な形で適切なイールドカーブが形成されるように国債買い入れを運営しているのが、金融市場局の奥野課長が率いる数人規模の部隊だ。
  複数の関係者によると、日銀内では金融市場局が陣取る4階の一室で毎日金融政策決定会合が開かれているとやゆする声も上がる。奥野課長の部隊は債券ディーラーに毎日電話して情報収集を行うが、ディーラーは自らに有利に働く情報の提供をしがちなため、できるだけ客観的な分析を行うことが重要だ。奥野課長が判断した方針は清水局長、金融市場局を担当する雨宮正佳理事に報告され、最終決定に至る。
  2013年4月の異次元緩和導入以来、金融調節方針の主役だった長期国債買い入れ(保有残高の年間増加額)の規模は「めど」に格下げされており、現在の「約80兆円」が実際にどの程度の規模に変動するかは、この部隊のさじ加減にかかっている。
  黒田総裁は24日に都内で行った講演で、「日々のオペ運営によって、先行きの政策スタンスを示すということはない」と繰り返した。しかし市場関係者の多くは「約80兆円」のめどがいつ減額されるか、長期金利の誘導目標がいつ引き上げられるか、日々のオペから読み取ろうと躍起になっている。
市場は右往左往
  実際、金融市場局のオペにより市場は右往左往している。日銀は2月3日午前、残存5年超10年以下の長期国債買い入れオペ4500億円を提示。前月末に公表した予定額(4100億円程度)を上回る規模だったが、このところの金利上昇を受けてより大幅な増額を期待していた債券市場で失望感から売りが加速。長期金利(10年物国債金利)は一時0.15%と昨年1月以来の水準に上昇(価格は下落)した。
  市場の動きを受けて、日銀は同日午後、0.11%で長期ゾーン初の指し値オペを実施。長期金利は一時0.09%まで低下した。同日のドル・円相場は長期金利が上昇したことを受けて日米金利差が縮小するとの見方から円が買われ 、一時1ドル=112円台半ばまで上昇した後、昼過ぎの指し値オペをきっかけに113円台まで下落するなど、日銀のオペで乱高下する展開となった。
  JPモルガン証券の山脇貴史チーフ債券ストラテジストは「市場局の一挙一動に非常に高い注目が集まっている」と指摘。「日銀の政策決定は柔軟性を保つため意図してあいまいなものになっていることから、市場でさまざまな解釈を生む。債券関係者は日銀のオペの発表に注目をせざるを得なくなる」と語る。
80兆円の「めど」も注目
  日銀は昨年9月の枠組みの変更時に長短金利操作のために新たなオペ手段を2つ導入した。既に昨年11月と今年2月に発動した指し値オペと、最長10年の固定金利の資金供給オペレーションだ。後者はまだ一度も利用されていない。
  現状では、日銀が水準を示していない年限の金利についてどの程度の水準が適正と考えているかは明らかでなく、明示されている年限の許容幅も定かではない。ニッセイ基礎研究所の徳島氏は「日銀によるオペの状況を見て推測するしかないが、当然、為替や経済環境によって適正と考えられる水準も変化する可能性が高い」と指摘。「結局のところ、日銀の動きを観察するしかないだろう」という。
  金融市場局が「約80兆円」をめどとしている長期国債買い入れ(保有残高の年間増加額)をどの程度減額するかにも注目が集まっている。ブルームバーグが行った試算では、2月28日公表の3月購入額をその後の11カ月も継続した場合、1年間での購入規模は66兆円となり、年間80兆円の保有拡大目標を18%下回る。
数ベーシスの世界
  JPモルガン証券の山脇氏は、現状では「日銀が言うおよそ80兆円がどれくらいのレンジを伴うものなのか考えなければいけない」と指摘。80兆円が多少前後しても、「経済全体にとって重要ではないということは分かるが、市場関係者は数ベーシスポイントといった小さな変化のところで生きている」と語る。
  午前10時10分と午後2時のオペで金融市場局がどのような手を繰り出すのか、債券市場関係者は連日、身構えている。31日午後5時には来月の長期国債買い入れ方針も発表される。
  前日銀理事の門間一夫みずほ総合研究所のエグゼグティブエコノミストは24日のインタビューで、市場の関心は長短金利操作に集中しており、説明が不十分なまま金利上昇の思惑が強まれば金利操作は難しくなると指摘。そうした事態を避けるために、「日銀が適切なイールドカーブ(利回り曲線)水準をどう判断しているのか、もう少しイメージを持てるような情報発信が必要だ」と述べた。

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-30/ONKFH26TTDS501

 


 

FX Forum | 2017年 03月 30日 16:22 JST 関連トピックス: トップニュース
コラム:離脱通告後に訪れる英国とEUの不幸

唐鎌大輔みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト
[東京 30日] - 英国政府は3月29日、リスボン条約第50条に基づき、欧州連合(EU)に対する離脱通告を行った。これを受け、EU側は48時間以内に離脱交渉に向けた方針案をその他加盟国に配布することになっている。

この方針を採択する臨時のEU首脳会議が開催されるのが4月29日だ。その後に加盟国の外相から構成されるEU閣僚理事会が交渉開始を承認し、詳細な内容に関する交渉指令を検討し始める。この指令が承認されて初めてEUはバルニエ首席交渉官の下で離脱交渉に着手できるようになる。

交渉完了期限である2019年3月末というタイミングは、同年6月に欧州議会選挙があるEU、翌20年5月に総選挙を控える英国の双方にとって悪いものではない。だが、2年間で両者の「新たな関係」にまつわる交渉が完了すると考える向きは少ない。

1月、英政府との「感情的な対立」を理由として駐EU大使を突然辞任したアイバン・ロジャース氏は「EUと新しく結び直す貿易協定の締結には10年かかる」と述べていた(これに対し英政府報道官から「2年で十分」と一蹴されたことが辞任の一因となったと報じられている)。

現実問題として、残された時間はかなり少ない。まず9月に実施されるドイツ連邦議会選挙の終了まで交渉は進展しないとの見方は多い。とすれば、残された交渉期間は1年半というイメージになる。さらに、離脱に関する加盟国や欧州議会の承認手続きに6カ月程度の時間が必要とも言われている。つまり、実質的な交渉期限は18年9月であり、1年程度の期間しか残されていないことになる。

そのため、現実的には19年3月までの2年間は離脱協定の締結(離脱に際し、英国がEUに支払うべき費用やEU圏内に居住する英国人の処遇など)を済ませる「離婚協議」にしかならず、「新たな関係」を巡る交渉は19年4月以降に持ち越しとの見方が多い。

<懸念されるアイルランドへの悪影響>

離脱へのカウントダウンが始まるに伴ってEU加盟国に与える詳細な影響も方々で議論されることになろう。厳密には「新たな関係」が定まらないことには何とも言えないが、離脱通告日の正式決定に合わせ、英金融街シティと大手金融機関の関係がどうなるのかについて改めて注目が集まっている。EU離脱により英国がシングルパスポート(単一免許制度)を喪失する以上、在英金融機関は善後策を考えなければならない。

すでにいくつかの大手金融機関は英ロンドンの代替としてアイルランドの首都ダブリンを欧州拠点とする方針を示唆しているが、いくら英語圏で地理的に近いからと言っても、長年培われてきた国際金融センターとしての機能がダブリンで完全に代替されるとは思えない。3月に入ってからZ/Yenグループが公表した国際金融センター指数によれば、ロンドンは依然1位であり、ダブリンは33位である。

また、ロンドン凋落の裏で独フランクフルトや仏パリなども「漁夫の利」を得る可能性が指摘されており、実際にそれらの都市への業務移管を検討している大手金融機関もあるようだが、本当に重要なことは域内の拠点分散や再編で「欧州における金融業のコストがかさむ」という事実だろう。

「勝者はダブリンか、フランクフルトか」といった見方は狭量なものであり、国際金融センターとしての地位が底上げされる可能性があるのは常にロンドンとその地位を競ってきた米ニューヨークと考えるのが自然ではないか。この点、EUにとって最初の離脱国が英国であったことの不幸と言える。

なお、英国のEU離脱によって経済的な影響を受けそうな加盟国を見ると、アイルランド、オランダ、ベルギーなどの名前が挙がる。輸出先としての英国や直接投資の拠出国としての英国、移民供給元としての英国などの観点で評価した場合、どの項目も目立って大きいのがアイルランドだ。

例えば、各国輸出に占める英国の割合(15年)で見ると、ベルギーの約9%、オランダの約10%に対してアイルランドは約14%。英国から受け入れている直接投資(対GDP比、12年)で見ると、ベルギーが約13%、オランダが約26%であるのに対してアイルランドは約31%だ。

さらに、移民供給元としての英国という観点では受け入れ国の対人口比でアイルランドは約5%を占めており、これはEU加盟国の中では2位のスペイン(0.67%)を突き放している。こうした数字を見ると、ダブリンがシティの「おこぼれ」を享受できたとしても、実体経済への下押し圧力で相殺される経路を懸念すべきだろう。

<離脱通告後のポンド買いは危険な賭け>

離脱通告後のポンド相場はどう見るべきか。コンセンサスが揺らぎやすい為替市場において、過去1年、「英ポンドとメキシコペソは買えない」という論点は変わらず、結果的に見れば、それは正しい見方だった。だが、そうした流れが変わる雰囲気も出始めている。

3月16日にイングランド銀行(英中銀)が開催した金融政策委員会(MPC)ではフォーブス委員が0.25%の利上げを主張した上で、その他メンバーも緩和の早期終了を示唆したことが判明し、ポンド相場が急騰した。こうしたMPCの雰囲気は、昨年来の物価上昇について、必ずしもポンド安要因だけではなく、内需の復調も受けたものであるとの評価を反映している模様だ。筆者はそうした見方に同意しかねるが、確かに物価尺度から見たポンド相場は「底」に近づいているようにも見受けられる。

例えば、ポンド/ドル相場に関し、購買力平価(PPP、生産者物価指数を用いた2000年第1四半期基準)を見ると、3月時点で1.44程度であり、実勢相場(1.25程度)はPPPに対して15%程度の下方かい離(過小評価)となっている。20%が1つの下値めどとなってきた歴史的経緯を踏まえれば1.15程度までの下落は警戒したいが、昨年来続いてきた底割れ相場に終わりが見え始めたと考えることもでき、離脱通告を「あく抜け」として買い戻す向きが出てきても不思議ではない。

こうしたMPCやPPPの状況に照らして、対ドルでのポンド買い戻しを模索する向きは今後少しずつ増えてくるかもしれない。だが、それはまだ危険な「賭け」に思われる。

英国の実体経済の帰趨(きすう)を握るだろう包括的な自由貿易協定である「新たな関係」について、EU側から譲歩する意思や道理は全くない。むしろ、二度と同じようなまねをする国が現れないように英国を「見せしめ」にしたいという思いがEUには強そうであり、メイ首相が夢想する「オーダーメードで、いいとこ取り」の協定にはまずなるまい。

「新たな関係」がどのようなものになるにせよ、英国の財・サービス輸出入の半分を占めるEU向けについて今後は関税が発生するようになり、金融機関を筆頭に一定数の雇用が国外流出するという展開は不可避と思われる。

EUの(離脱派に言わせれば無駄な)規制を撤去することで、それらの悪影響を跳ね返すことができるのか否かは現状では定かではない。だが、多くの予測機関の見通しにおいて、EU在留ケースに比べ、経済が下振れるとの見方が支配的になっていることを軽視すべきではない。

「新たな関係」は英経済にとって「不確実だが、恐らく下押し要因」との見方が通説となっている中、ポンドを積極的に買い戻すのはやはり勇気が要る。今、ポンドを買う理由があるとすれば、「売られ過ぎたから」くらいしか思い浮かばない。

*唐鎌大輔氏は、みずほ銀行国際為替部のチーフマーケット・エコノミスト。日本貿易振興機構(ジェトロ)入構後、日本経済研究センター、ベルギーの欧州委員会経済金融総局への出向を経て、2008年10月より、みずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。欧州委員会出向時には、日本人唯一のエコノミストとしてEU経済見通しの作成などに携わった。2012年J-money第22回東京外国為替市場調査ファンダメンタルズ分析部門では1位、13年は2位。著書に「欧州リスク:日本化・円化・日銀化」(東洋経済新報社、2014年7月)

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)


コラム:中国の外貨準備高、越えた危険な一線 2017年 02月 08日
コラム:韓国政治混迷で日本に降りかかる「火の粉」=西濱徹氏 2017年 03月 21日
コラム:日米金利差拡大で円安再始動は本当か=亀岡裕次氏 2017年 03月 27日
http://jp.reuters.com/article/column-forexforum-daisuke-karakama-idJPKBN16Z20C
http://www.asyura2.com/17/hasan120/msg/574.html

[国際18] 道筋なきEU離脱へ、火種抱えるメイ英首相の胸中 英独取引所合併破談、真の敗者は経営陣のみ 人員削減、資産運用業界に低手数
Column | 2017年 03月 30日 14:34 JST
関連トピックス: トップニュース
コラム:
道筋なきEU離脱へ、火種抱えるメイ英首相の胸中

 3月28日、英国のメイ首相が29日リスボン条約第50条を発動し、いよいよ2年にわたる欧州連合(EU)離脱プロセスが正式に始動する。写真は29日、ロンドンの首相官邸を出る英国のメイ首相(2017年 ロイター/Stefan Wermuth)
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Peter Apps
[28日 ロイター] - 英国のメイ首相が29日リスボン条約第50条を発動し、いよいよ2年にわたる欧州連合(EU)離脱プロセスが正式に始動する。
今のところ、そのプロセスがどのようなものになるのかはほとんど分かっていない。2007年12月に加盟国がこの条約に署名したときには、どこかの国が離脱するような状況は誰も想像していなかった。
極端な可能性としては、貿易や移民その他の重要な問題について何の協定も結ぶことなく、英国がEUと決裂するかもしれない。あるいは、EU諸国からの移民流入を制限する権利を取り戻す一方で、欧州単一市場へのアクセスを失うという、「ハード・ブレグジット」に合意する可能性もある。
また、ブレグジットがスコットランドと北アイルランドの離反を促し、「英国」自体が解体される可能性もある。どちらの地域も圧倒的にEU残留を支持しており、スコットランド自治政府のスタージョン首相は、ブレグジットが「ハード」なものになればなるほど、英国政府からの反対があろうと、スコットランドは独立の是非を問う2回目の住民投票に突き進むことになると明言している。
他方、実際にはほとんど何の変化も起きない可能性もある。今月初めには、英国当局者が、第50条に定められた2年間の離脱手続を延長し、現行の貿易・移民に関するルールを10年間固定するという暫定協定に取り組んでいると報じられた。
こうした方法には経済的ショックを回避するという利点があり、離脱プロセスを際限なく引き延ばすことになるかもしれない。しかしこれでは、離脱派・残留派の双方から多くの怒りを買うことになろう。
最終的に、ブレグジットをどのようなものにしていくか判断するのはメイ首相だ。首相は慎重な実務家で、政治的に賢明だと首相自身が考える基準に従って動く可能性が高いだろう。だが、何しろ有権者が何を望んでいるかが明らかでないだけに、その判断は難しい。
3月21日に行なわれた英世論調査では、「明日もう一度国民投票が行なわれたら」という質問に対して、回答者の44%が「離脱」と回答したが、「残留」も同じ比率だった。約12%が「分からない」と回答。これらの比率は昨年夏以来ほとんど変わっていない。
25日にブレグジットに対する抗議デモに参加した数千人のように、熱心なEU支持派の一部は、離脱決定を覆せるのではないかとまだ期待している。現在、国民投票を再度行なうべきだと考える人は「残留」派有権者の3分の2に達しており、12月の時点から大幅に増えている。もっとも、少なくとも今のところは再投票が行なわれる可能性は低いようだ。
メイ首相が実際のところブレグジットについてどう考えているのか、英国政界では憶測が飛び交っている。公式には、メイ氏は「残留」派陣営に属していたが、陣営のメンバーによれば、彼女は主だった役割を果たすことに消極的だったという。
内務大臣だったメイ氏は移民に対して厳しい姿勢をとっていたが、英国がEUに加盟しているため、欧州内からの移民の流入については何も統制できなかった。現在メイ首相は、「離脱」票を支えた主要な動機は、英国への移民流入を抑制したいという願望だったと考えているようだ(それは恐らく間違っていないだろう)。
とはいえ、そのバランスは難しい。英国内の外国人労働者は、経済のあらゆる分野で不可欠な存在となっている。その多くは、2004年に国境が開放された後、EU域内から流入してきた労働者だ。
ここには、基本的な政治上の計算もある。メイ首相が率いる保守党支持者のうち、「離脱」を選んだのは過半数をわずかに超える程度だが、ここ数年、保守党は反EUを掲げる英国独立党(UKIP)に議席を奪われている。UKIPが党内の政治抗争に悩んでいる今、メイ首相としては、ブレグジットを推進して支持者を取り戻すことで、この劣勢を逆転させるチャンスがある。
だが問題は、国民投票の時点で、ブレグジットが持つ意味は人によってバラバラだったという点だ。国民の52%が「離脱」を選んだものの、彼らが期待していたことは非常に多様だった。そのうちどれが実現しようと、不満を抱く人はいるかもしれない。
メイ首相にとって好ましい道、つまり「移動の自由」をある程度制限しつつ、「自由貿易へのアクセス」を維持するという選択肢を採用できる可能性は低い。欧州各国の首脳は、この双方が欧州プロジェクトの中心であり、英国がどちらか一方だけを享受することはできないと発言している。
比較的「ハード」なブレグジットへと傾いているメイ首相自身も含め、こうしたスタンスによって交渉開始の立場が決まってくるが、変化する可能性はある。英国にとって心配なのは、欧州各国の首脳が、将来的に英国に続いて離脱をめざす国が出てくることを防ぐため、ブレグジットの代価を吊り上げたいと考えるのではないかという点だ。
スコットランドという要素も非常に重要になってくるかもしれない。英国を解体した人物として歴史に名を残すことを望む首相は誰もいないため、メイ首相には、スコットランドを引き留めるためにブレグジットを骨抜きにするというインセンティブが生じるかもしれない。
ブレグジットが思ったほどひどいものにならないという兆候もある。経済が崩壊するのではないかという不穏な予測のいくつかは、国民投票から50条発動までの9カ月のあいだに沈静化した。株式市場は依然として活況を呈しており、失業率は低下している。もっとも、ポンド安のためにインフレが進み、生活にかかる費用は高くなっているが。
だが、不確実性という感覚が続いていることで、現実的な悪影響も生じている。
英国内で暮らす欧州各国の市民、そして欧州各国で暮らす英国市民を中心に、何百万もの人々が途方もない不確実性に直面している。
英国内で暮らす約300万人の欧州市民は、わずか2年先に自分がどのような立場にあるのかも明白には分からないまま、仕事や住居、人間関係、その他たくさんの事柄について判断を強いられている。
同じことは雇用する側にも言える。金融サービス部門を中心に、いくつかの企業は、市場へのアクセスを失うことを懸念して、欧州大陸に雇用を移転させることを検討している。
メイ首相は党首として選挙に勝利したことは一度もないし、ブレグジットが片付くまで、つまり恐らくは2020年まで、選挙に踏み切るつもりもない。
彼女は、キャメロン前党首が有権者から受けた負託を引き継ぐことになる。キャメロン氏はEU離脱を問う前代未聞の国民投票を実施すると約束して勝利を収めた。しかし彼は同時に、離脱が選択されたら大惨事になるとも断言していた。
キャメロン前首相は最初の約束を果たした。メイ首相としては、2番目の約束が実現することを全力で防がなければならないだろう。
*筆者はロイターのコラムニスト。元ロイターの防衛担当記者で、現在はシンクタンク「Project for Study of the 21st Century(PS21)」を立ち上げ、理事を務める。
*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)
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http://static.reuters.com/resources/media/editorial/20170330/countdown-to-brexit.gif

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• 24日の主な自社株買い・消却、株式分割など一覧 2017年 02月 24日
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http://jp.reuters.com/article/brexit-britain-column-idJPKBN17109N

 

 

Column | 2017年 03月 30日 13:45 JST 関連トピックス: トップニュース

コラム:英独取引所合併破談、真の敗者は経営陣のみ

George Hay

[ロンドン 29日 ロイター BREAKINGVIEWS] - ロンドン証券取引所グループ(LSE)(LSE.L)とドイツ取引所(DB1Gn.DE)の合併計画が、欧州連合(EU)欧州員会から正式に却下された。これによって多くの人々が悲しみにくれているようだ。

合併を認めなかった当の欧州委員会は、LSEが傘下のイタリア債券取引プラットフォーム「MTS」売却を拒否したことを嘆かわしく思っている。MTS売却で競争上の懸念が和らぐと期待していたからだ。逆にLSEとしては、欧州委が最初からMTS売却に固執したのが残念でならない。一方、ドイツ取引所は、欧州最大となる時価総額約300億ドル規模の取引所誕生がなくなったことが悲しい。

合併が破談になったのはだれの責任かを正確に解明するのは難しいが、LSEのロレット最高経営責任者(CEO)にはその一部が帰せられる。欧州委のベステアー委員(競争政策担当)が、LSEが当初申し出ていた清算機関LCHクリアネットの売却だけでは競争問題解決に不十分だとの考えをはっきり示していたのに、ロレットCEOはMTS売却を断った。LSE側の重要資産を手放すには時間が足りないという主張にはある程度根拠があるとはいえ、乗り越えられない壁ではなかったはずだ。

だが結局のところ、破談になったからといって涙する必要はない。計画が進んでいれば相当なシナジー(相乗効果)を生み出すことが可能だった。しかしドイツの規制当局や政治家は、統合後の本社をロンドンに置くという決定をまるで相手にしなかった。ドイツ取引所のケンジェターCEOにインサイダー取引の疑いで捜査の手が伸びた点に関して、LSEが懸念を抱いていなかったとすれば奇妙な話になる。さらにブレグジット(英国のEU離脱)問題があった。

ブレグジットの影響は、両社の雇用削減についてのすべての決定に影を落とし、コスト節約の取り組みは損なわれるだろう。同じ理由で「清算取引を行う顧客が差し入れる証拠金を減らす好機」という合併計画の本来のアピール要素も、実現の可能性がどんどん減少しているようだ。恐らくは、LSEのLCHクリアネットとドイツ取引所のユーレックスはどちらかがどちらかに事業を譲る必要が出てくる。

このように合併に伴うマイナス材料がそろっているからこそ、破談を受けて両社の株価は小幅ながらも上昇した。投資家は、シナジーなど達成できないとずっと前から判断していたのだ。合併を発表した2016年2月直前と比べると、いずれも株価は上がっている。株主が数百万ユーロを手数料の形で支払うという事実を別にすれば、今回の件で真の敗者と言えるのはロレット、ケンジェター両CEOとそれぞれの経営陣だけだ。彼らは、初めから明らかだったリスクに目を向けようとしなかったのだから。

●背景となるニュース

*欧州委員会は29日、ドイツ取引所とLSEの合併計画を正式に却下した。

*欧州委は、合併で債券商品の清算事業が事実上独占状態となり、決済や証券保管、担保管理などにも影響が波及すると指摘。LSE傘下の清算機関LCHクリアネット売却提案については、個別株デリバティブを巡る懸念を払しょくできるが、債券清算に対する問題解決にはならないとの見解を示した。

*また欧州委は、MTSの売却という提案が実現しても、LSEは統合後の収入や時価総額に比べて失う資産は小規模だったと付け加えた。

*LSEは声明で、2億ポンドの自社株買い計画を発表した。

*ドイツ取引所は、欧州委の決定により欧州を拠点とする世界的な市場インフラを提供する機関が生まれる機会を失ったことに遺憾の意を表明した。

*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。


コラム:中国、通商駆け引きでトランプ氏にささいな贈り物 2017年 03月 10日
アングル:インタビューの達人L・キング氏が語る人生の教訓 2017年 03月 20日
働き過ぎ、初の法規制 2017年 03月 28日
http://jp.reuters.com/article/lse-m-a-breakingviews-idJPKBN1710CV?sp=true


 

 
レッグ・メイソンも人員削減、資産運用業界に低手数料化の波
John Gittelsohn
2017年3月30日 16:13 JST

米レッグ・メイソンは管理部門のほぼ3%に相当する30人前後を減らす。手数料の低い商品への需要のシフトに対応する。
  広報担当のメアリー・アスリッジ氏は29日の電子メールで、「資産運用業界が大きな変化に見舞われている中でレッグ・メイソンは資源の再配分を進めている」と説明。業界への圧力に対応するため「人員削減を含めて営業費用をさらに削減した」という。
  アクティブ運用を手掛けるファンド会社は手数料が安いパッシブ運用の指数連動投信に特化した運用会社との競争に直面している。世界最大の資産運用会社、ブラックロックも株式のアクティブ運用部門で30人余りを削減すると関係者が述べていた。
  レッグ・メイソンの削減については先に米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)が報じていた。
原題:Legg Mason Cutting Jobs as ‘Disruption’ Hits Fund Industry(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-30/ONM86U6K50XV01

http://www.asyura2.com/17/kokusai18/msg/782.html

[政治・選挙・NHK223] 東大出ばかりでは日本が滅びる 森友疑獄与党の丸腰 日本を数学大国にしたミリオンセラー『塵劫記』 「無用」な努力のススメ 
東大出ばかりでは日本が滅びる

一橋、東工大、慶応、早稲田が果たしてきた重要な役割
2017.3.30(木) 伊東 乾

安倍首相、学校法人への国有地格安売却問題で関与を否定

衆院予算委員会で麻生太郎財務相(左)と話す安倍晋三首相(右、2017年2月24日撮影)〔AFPBB News〕

森友疑獄の国会証人喚問は与党の丸腰ぶりと戦略の拙劣さをただただ見せつけるだけに終わったように見えます。今後どのように事態が推移するか、見守るしかありませんが、こういう能無しぶりと「教育勅語」は浅からぬ関係にあります。

今回は少し脱線して、健全な対抗勢力、批判的知性がいかに大切か、というお話をいたしましょう。

米国における二大政党制が端的と思います、カウンターカルチャー同士が互いに妍(けん)を競って、より優れた行政であれ司法であれ、立法であれ文化であれ、育てていくのが本来の形と思います。

で、現下の日本の情けないモノポリぶりはどうでしょう?

メディアを統制して一元化するといった拙劣は、悪事の隠蔽などには適していますが、真の意味での強さを生み出すのとは正反対、あまやかされ、スポイルされて、本当の実力は身につけ損なった2世3世が考えるインチキの典型と言わざるを得ません。

そんなお飾りばかり、ひな壇に並べて、軽い神輿は担ぎやすい、というのも情けない話であって、結局そういう組織の内在論理、端的に言って腐敗と空洞化、どこかの市場の地下空間みたいな国にしてしまったから、こんなお粗末な体たらくになっている。

「肝の据わった反骨はないものか?」という現実を、近代日本に求めるとき「親藩・幕臣」あるいは「土佐・肥前」といった<負け組>の強烈な批判的知性が浮かび上がってくるのです。

一橋・東工大〜カウンターインテリジェンスの系譜

話が突然変わるようですが、東京大学が官学の最たるものだとして、京都大学が批判的知性に見えることがありませんか?

ノーベル賞も初期は京大ばかりで、自由な知性を印象づけた面があります。

また、東大、京大などの「七帝」(北海道・東北・東京・名古屋・京都・大阪・九州)が「官学・帝大」であるのに対して、東京工業大学や一橋大学が、これらに対抗する批判的知性として、鮮やかな切れ味を見せることがないでしょうか?

白川英樹先生を筆頭に、ノーベル賞級の業績をコンスタントに上げ続ける東工大。また都留重人、阿部謹也などのリベラルな学風とビジネス前線での切れ味で知られる一橋。

思想家で考えれば東工大では鶴見俊輔が教鞭を執り(白川先生は在学中、鶴見助教授に教えを受けています)、吉本隆明が学び、吉本の師には数学の遠山啓らそうそうたる人物が並び、保守サイドでも一線を画す論客であった江藤淳こと江頭淳夫などが教鞭を執っている。

また東大、京大、一橋、東工大が国立大学であるのに対して、慶應義塾や早稲田大学が私学の雄としてカウンターインテリジェンスとみなされることがあると思います。

この一橋・東工大、また早稲田・慶應に共通する「ある起源の特徴」があるのです。関西で言えば同志社、関西大学(一部、立命館にも重なる面があると思います)などが典型的にこれらと重なる、その特徴とは・・・。

「反薩長閥」旧幕臣・親藩、あるいは土佐・肥前などの薩長以外の雄藩という「政治的負け組」が、反骨の志を懐に、堕落した長州閥あたりの思考停止と完全に一線を画した人材育成で天下国家・経世済民・殖産興業などを堂々と論じる面を、指摘できると思います。

立命館は西園寺公望に代表される国際派公卿という特殊な背景を持ち、西園寺自身は長州・伊藤博文の腹心でもありましたが、閥と一線を画する意味で重なる面があるかと思います。

ここで「長州閥」という言葉が現実味を帯びて見えなければ、以下すべてこの文字を「安倍政権」と読み替えても、だいたい同じ意味で通じますので、そのようにお覚えください。

連載の文脈としては「ハワイ王国滅亡」を扱う順番ですが、実は明確な関わりがありますので、今回はこの中で「東工大」と「一橋」に焦点を当ててみたいと思います。

一橋や東工大のような知性こそが、しっかりと日本をただしていくべきだと思うのです。

手島精一と矢野二郎:東工大・一橋と幕臣の反骨

東京工業大学の起源は、1874(明治7)年に設立された東大の前身「開成学校」内の「製作学教場」にあるといわれます。

ここから発展して1881(明治14)年「東京職工学校」が建学され、1890年に「東京工業学校」1901年に「東京高等工業学校」と発展的に改組、関東大震災を機に現在の大岡山キャンパスに移り、1929年旧制東京工業大学となり、今日に続く伝統が形づくられました。

この東京工業学校を実質1人で立ち上げ、支えたのが手島精一氏(1850-1918)であると言って、大きな反対意見は出ないと思います。

1890年、40歳で「東京職工学校」校長に就任して以降、1916年に東京高等工業学校長を引退するまで、生涯を東工大の基礎固めに捧げました。

この手島氏は親藩・沼津藩の出身で、藩校で学んだ洋学に長けていたため、維新後は選ばれて年若くして岩倉遣外使節団(1871−73)の通訳官を務めたのち、官界での栄達といったことには一切関心を払わず、ただただ日本の工業の発展と、若い世代の育成に全力を尽くしました。

東工大の原点、1874年の「製作学教場」設立とほぼ同じ時期、もう1つ別の動きがありました。

前後する1875(明治8)年、駐米公使だった森有礼が帰国後、福沢諭吉らの薦めで、東京にとある私塾を作ります。「商法講習所」と名づけられました。翌明治9年には東京府に移管され、官立施設となります。

このとき森有礼が駐清公使として在外となったため、米国駐在中に森のもとで代理公使も務め、設立以来「講習所」の教壇に立っていた矢野次郎氏(1846-1906)が「商法講習所」の経営に責任を持ちます。

読者はだいたい想像がつくと思います、この矢野氏が開国派の幕臣だったわけです。

矢野二郎は1863年、一度開港した横浜を再び鎖港するべく、江戸幕府が派遣した「横浜鎖港遣欧施設団」に随行を命じられ、英語・フランス語を駆使する通訳として活躍します。

このとき矢野は満17歳、高校2年生で幕府の対仏交渉の通訳全責を担うという経験をして、人が伸びないわけがありません。

実は矢野はこれに先立ち、1861年、英国公使ラザフォード・オールコックが水戸藩士の攘夷打ちに遭うと、事後談判の通訳として幕府と英国側との交渉一線に立たされています。

16歳、高校1年で対英交渉の通訳全責を担い、続いて発生した「生麦事件」と併せて賠償交渉を取りまとめた経験を買われて17歳にして渡仏交渉に臨んだわけです。

帰国後、幕府のフランス式兵制整備に参加しますが、維新時の戊辰戦争(1863年)には参加せず、官を辞して潔く下野してしまいます。

このとき矢野二郎23歳。現在なら新卒大学生が社会に出る齢、矢野は最初の人生を終えて幕臣を引退、横浜に通訳事務所を開いて、これまた圧倒的な成功を収めます。

しかし新政府はこれだけの人材を放っておきません。明治3年、再び今度は新政府に三顧の礼で迎えられ、ワシントンに赴任して代理公使として対米交渉の責任を負います。このとき25歳。すごい人生です。

明治8年、米国から帰国した矢野は、先立って日本で設立されていた「明六社」=森有礼、福沢諭吉、西周ら開明的知識人は出自を超えて集まった現在の日本学士院の原型ですが・・・で議論されていた洋楽拡充・殖産興業の流れの中で「商法講習所」への参加を求められ、再びすべての官を辞してこれに参加しました。このとき30歳。

こののち商法講習所は度重なる経営難を矢野の巧みな手腕で乗り越え、農商務省、文部省と移管を繰り返し、1887(明治20)年、日本初の官立高等商業学校「東京商業学校」として確立されます。

東京市神田区一橋通町1番地、現在の千代田区一橋通り2丁目にできたこの学校の後身が何であるか、いまさらいう必要もないでしょう。

関東大震災に伴って一橋大学は国立に移転、現在に至りますが、故地である神田一橋に現在、国際的なビジネススクールが先祖返り的に展開しています。

矢野二郎氏はハイティーン時代、旧幕臣として、水戸浪士やら何やらが英国人を斬り殺す事件の交渉で一国の責任を持ったような出自ですから、それはまあ、筋金入りもいいところだった様子です。

硬骨漢でワンマンの矢野はすっかりぬるくなってしまった明治20年代の東京高等商業学校の学生やスタッフとそりが合いません。三権分立など存在しない江戸幕府時代の日英・日仏交渉での通事ですから即断即決が普通だった人です。

大変な胆力ではありますが「専権的」との批判を受けて学校騒動に発展、大量の退学者を出すとともに明治26=1893年、責任を取って校長職を辞します。48歳、人生50年とすれば、ここまでで一通り燃焼し切ったと言えるかもしれません。

東京高商、現在の一橋大学が持つ合理的批判精神や一本筋の通った気骨は、善し悪しと別に明らかに、矢野二郎という個人の確信と精神とを強烈に受け継いでいると思います。これは東京工業大学が手島精一の精神に貫かれているのと、完全に同一の基礎を持つものと思います

「国内の閥族同士の争いなどで右往左往していては、世界の第一線では全く通用しない!」

「長州あたりの田舎侍の了見で、万国に通じる天道が実現できるか!?」

明六社、慶応義塾、東京工業大学そして一橋に通底する、このような確信が、当時の当事者の精神の背骨にしっかりと一本、筋を通していました。現下の情けない政権の右往左往にそれと同じことを指摘しないわけにはいきません。

私の対案もまた同様で、井の中だけで通用するアホみたいな了見で、右だ左だ猿だ犬だと吼えてみても、下手の考え休むに似たり、そんなことでは我が国の3年5年先も危なっかしくて見ていられない、という話を、今回は対EU学術外交で滞在中のミュンヘンから出稿しているわけです。

間違っても「反日」の何のという寝言は混ぜ込まないでいただきたいと、一応釘を差して、まとめとして「ハワイ王国滅亡」と「教育勅語」などとのつながりを記しましょう。

「条約」で国は滅ぶ〜死ぬか生きるかのインテリジェンス

手島精一、矢野二郎といった人の事績に、やや思い入れをもって長文を記したのは、欲も悪しくもこの人たちの確信と仕事がなければ、現在の私個人の仕事もないからにほかなりません。

森有礼から引き継いで矢野二郎が経営を始めた「商法講習所」に、箕作秋坪、津田真道、箕作麟祥ら津山藩出身で幕府の蕃書調所で外事に携わった明六社メンバーの薦めで、岡山の田舎から出てきて学んだ中に私の曽祖父がありました。

母の祖父、藤田敏郎は津山の田舎から東京に「留学」、東京府管理下の商科学校でこのモーレツ矢野二郎に親しく教えを受け、卒業後は結婚、長男も生まれ、津山藩OBの共同運輸会社で禄を食んで骨を埋めようと決意していた22歳のとき、ハワイ王国・カラカウア国王の来日で急遽決まった公式移民団とともに、外務省出仕。

ホノルル着任を余儀なくされ、そのまま終生、外交官の生活を送ることになります。井上馨から人材を求められたワンマン、矢野二郎の差配でした。

水戸藩士、薩摩藩士らによる「オールコック襲撃事件」「生麦事件」などの「攘夷討ち」に対して、「何たることをしでかしてくれたんだ!!この世間知らずの田舎侍共めが!!!」と思いつつ、高校生の年齢で幕府を代表する英語ベースでの平和裏の交渉を、決死の覚悟で進めたティーン・エイジャーだった矢野二郎から、曽祖父がどのような指導を受けたか、今となって詳細は分かりません。

しかし、貿易会社から転じて外交官としてのホノルル着任、直前まで駐米代理公使として条約改正の下交渉にあたっていた矢野の薫陶と影響は明らかで、曽祖父は相次ぐ「不平等条約」で国を壊され、「押しつけ憲法」で保護国化されてしまったハワイ王国の国難を、幕臣から岩倉使節団、駐清領事を経てハワイに送られた安藤太郎氏の右腕として、安東氏ともに日本に送り続けた。

「不平等条約」や「条約改正」を、何かピンポイントの軽いことと誤解している読者コメントを目にします。

よろしいですか。不平等な条約で国は滅ぶのです。「保護国化」も条約、「日韓併合」も不平等条約、「ハワイ併合」も、経済と武力を背景に次々と無理難題を押しつけ、一方的な条約を無理やり結ばせた末に決めたこと。

条約で国は滅ぶのです。

日本が「関税自主権」を回復するのは、やはり経済力と武力を背景に、朝鮮という植民地を得て、初めて列強から「その一」と認められた1911年になってからのことです。

44年間、明治時代のほぼすべてを通じて、半植民地化の危機と常に相対していたことを、紙の上の歴史のお勉強ではなく、多くの日本人、とりわけ若い世代に、祖国の現実として理解されたく思います。

少なくとも我が家では、その種の常識や外交マナーを家の中でガキの時分から、かなり徹底して教え込まれました。

曽祖父が祖父にこれをやり、祖父が母にこれを徹底して増幅、母はインターナショナルスクールで学んでさらに度合いを極端にして、生れ落ちた直後からこれをやられてしまいましたので、私自身、こんなになってしまいました。

今まで表に書いたことのない話ですが、昨今の状況はあまりに見ておられず、自身のルーツに由来する確信として、今回銘記することにしました。

この時期に準備されたのが大日本帝国憲法であり、教育勅語であったのは前回も触れたとおりです。

駐清領事の北京在勤からハワイ勤務を命じられた領事の安藤太郎氏(この人事だけからでも、何を考えていたか露骨に分かるでしょう。で帰国後に憲法と勅語が制定され、藩閥は日清戦争を仕かけました)は、10年前 岩倉使節団の通訳として東工大=東京高等工業建学の父、手島精一氏と同僚でした。

のちに藤田敏郎は、シカゴで育った長男がエンジニアを志望した際、手島氏にも相談してデトロイトのミシガン大学に進学させ、草創期にあった自動車産業の第1世代に送り出すことになります。この長男、つまり私の祖父と、そしてその末娘だった母を通じて

「田舎侍」

という言葉を、私自身幼時からどれだけ聞かされてきたか分かりません。

ここには2つの意味が籠められていました。外交官の曽祖父が「世界を知らない田舎侍が!」というのが1つ。

それから、第1次大戦中のゼネラル・モーターズ(GM)のエンジニアとしてスタートした祖父が、昭和期に帰国して、またしても国際社会の第一線を知らない閥族とりわけ軍閥を指して吐き捨てるように言ったという「田舎侍」。

いずれも、山県有朋あたりを筆頭とする世界を知らない、また理解する能力も気力もなく、国内の利権でお腹いっぱい、得意満面コンプレックス満載の長州閥やら軍閥やらを見て、

あえて、家の中で使われてきたとおりの言葉、今日メディアで使わない用語ですが、を明記すれば、

「土人やシナじゃあるまいし国粋主義高山彦九郎、田舎侍三跪九叩頭」

「陸軍の乃木さんが凱旋すスズメメジロロシヤ野蛮国クロキンキンタママカローフフンドシ締めたタカジャッポ」

「ポンやりりり李鴻章のはーなぺちゃちゃんちゃん坊主の首とって帝国万歳大勝利・・・」

後半は当時の子供の間に流行ったしりとりの歌で陸軍「の」「のきさんが」「がいせんす」「すずめ」・・・と続きます。

このあたりがメディアに書ける限界と思いますが、それはまあ、家の中では言いたい放題で、合理的な思考の欠如した、ああいうバカにだけはなってはいけない、と自分の子供には教え続けた。

私は幼児期に母親からこれを「キンタマ」だけ「キンマ」と変えて教わり、のちに母の兄である伯父(桐朋学園創設に尽力した藤田英雄)から「キンタマ」と訂正されて焼印を捺されました。

どちらもシカゴ育ちの祖父の子ですが、大正2桁の世代で、当然日清日露戦争期などは知りません。教えられて覚え、それを私にも教えた。これを半世紀近く私自身もずっと記憶していますが、

例えば

「フンドシ締めた高シャッポ」

「ポンヤリ」

している、というのが何であるか、読者にご想像いただければと思います。私は「ある解釈」でこれを 刷り込まれました。

のちに人為的に作られた「教育勅語」の擬似宗教化、過剰な天皇崇拝と思考停止にしても、幕臣外交官はかなり冷ややかに観察していました。

この1つの表れに、旧幕臣系外交官が軒並みクリスチャン改宗した経緯が挙げられます。

政教一致型の天皇崇拝が危険であることは、幕末維新を生きた人、特に負け組となった人々は誰もが基本的に了解しており、そこから様々な動きも出てくるのですが、紙幅も尽きたのでひとまずここまでとします。

次回は相次ぐ不平等条約の押しつけでハワイ王国を丸裸にし、ついには併合してしまった19世紀末年米国の太平洋侵出に話を戻しましょう。

安政の修好通商条約締結から桜田門外の変、浪士たちによる「攘夷討ち」尻拭いの和平交渉にあたった当事者が維新前後を一貫してどのように日本を立ち上げ、日本を守ってきたか。

「田舎侍」の了見では到底無理な話でした。残念ながらそのレベルの落書きが、ネットの日本語でやたらと目につきますが、井戸の中を半歩出れば、世界で到底通用しません。

学術に引きつけてまとめるなら、東大あたりの中でだけ通用する、田舎侍の了見では、世間やお天道様に照らしてまともな仕事になるか、はなはだ心もとない。

さらにそれが、フンドシしめた高ジャッポのポンヤリのご機嫌取ることばかり考えて「全く問題ない」閣議決定などヨイショしていた日には、いったいどんなことになることか、知れたものではありません。

で、トーダイ出身者は、それが正解と丸暗記してしまうとその方向にドッと押し寄せる、露骨な悪傾向が観察される。残念ですが、これがここ140年来の東京大学の事実にほかなりません。

そう言えば今年、2017年は東京大学建学140年目にあたるのに 、いま気がつきました。

紛れもなく東大出身で東大在任も20年になる小生が書いてるんですから、信用してもらってよいと思います。

建学以来の東工大、一橋の精神、批判的建設的なカウンターインテリジェンスがあったからこそ、近代日本の栄光がありました。

これを失えば、日本に未来はないでしょう。必須不可欠の叡智と思います。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49574


 

日本を数学大国にしたミリオンセラー『塵劫記』
江戸時代に庶民がこぞって読んだ驚異の数学書の正体
2017.3.30(木) 桜井 進

中米エルサルバドルの首都サンサルバドルでコンピューターの画面を見つめる生徒たち〔AFPBB News〕
江戸時代から続く数学ブーム
今から約400年前の1627年、1冊の数学書が誕生しました。『塵劫記』は一気に全国に広まり、子供から大人まで空前の数学ブームを巻き起こすことになりました。 
はたして、現在までそのブームは続いています。私が審査委員を務める「塩野直道記念算数・数学自由研究作品コンクール」は今年で第5回になりますが、小学校1年生から高校3年生までの応募数は1万5000人を超える盛り上がりを見せています。 
主催であるRimse(一般財団法人 理数教育研究所)の ホームページ上で受賞作品を閲覧することができます。ぜひ我が国の子供たちの受験数学を超えた数学力を見てください。
もう1つ私が審査委員を務めるのが数学甲子園(全国数学選手権大会、主催公益財団法人日本数学検定協会)です。 
昨年は全国196校(中学校・高等学校)415チームが参加。今年で10回目を数えます。「問題解決力」「チームワーク力」「プレゼンテーション力」「問題作成能力」など、受験数学を超えた数学力のコンペティションです。 
高度経済成長期とベビーブーム、受験戦争が熾烈を極めた時代、学校での数学は受験のための数学 でしかありませんでした。現在も学校での数学は受験のためだけの数学になってしまっている現状は大方変わりありません。
しかし、学校の外で変化が起きつつあります。 
それが上記で紹介したような受験を超えた数学に子供が青春を懸けて挑戦している風景です。このような子供を応援する教師と保護者にも変化が起き始めています。 
考えてみれば明らかなことなのですが、数学は受験のためにあるのではないということです。私が著者になって作り上げた高校数学教科書『数学活用』(啓林館)の最初のページは「世界は数学でできている」の見出しで始まります。 
身のまわりを数学の視点で見つめれば、至る所に数学が隠れていることが分かります。受験数学のゴールは100点で終わりです。しかし、本来の数学にゴールなどありません。人の世が続く限り数学も続きます。『数学活用』の基本コンセプトは「人とともにある数学」です。 
現代に必要とされているスキルに統計学とコーディングが挙げられます。AIおよびITのシステムはすべてこの2つなしには形になりません。統計学とコーディングのベースになるのが数学と数学的思考です。 
受験数学によって確かに効率よく数学を学習できます。しかし、そのコースの流れに乗ることができない子供を大量に作り出してしまうデメリットがあります。これは国家レベルで見た時に大きな損失です。 
すべてを学校に任せることは不可能です。数学も例外ではありません。私が学校の外で数学をする機会を作っているのはそのためです。 
10代までに受験数学と並んで「世界は数学でできている」ことを実感して、数学と生涯に渡りつき合っていくことができるようにとの思いからです。 
ベビーブームが終わり、受験戦争が沈静化したおかげでようやく本来の数学の姿に向き会えるようになってきたとはいえ、いきなり子供が数学で盛り上がる状況はできません。 
我が国に数学を学ぶ環境(学校、教師、教科書)がこれほど充実するためには長い時間が必要でした。ローマは1日にしてならずです。 
ミリオンセラー『塵劫記』の魅力
日本が数学大国になる礎となったのが『塵劫記』と言えます。室町時代にはかけ算すらできない人が大多数であったのが、『塵劫記』の普及により江戸時代の中頃にはそろばんを使い、九九を覚え、割り算もでき、大きい数から小さい数まで自由に使いこなす一般の人々が大勢あらわれてきました。 
数学の問題を解く魅力をこれほどまでに庶民に紹介し成功したテキストは他に類を見ません。『塵劫記』により日本人の数学センスは劇的に向上していったのです。 
江戸時代、数学の大衆化に貢献した『塵劫記』の最大の特徴は、実に多くの実用問題・数学パズルそして見事なイラストの豊富さにあります。 
はたして、子供から大人までを魅了することに成功し、大正時代まで全国の印刷所で海賊版・類似書が約400タイトルも出版されたロングセラーでした。 
その内容のいくつかをイラストとともに紹介してみましょう。 
(*配信先のサイトでこの記事をお読みの方はこちらで本記事の図版をご覧いただけます。http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49573
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一、十、百、千、万、億、兆、京、垓、秭(後の𥝱)、穣、穣、溝、澗、正、載、極、恒河沙、阿僧祇、那由他、不可思議、無量大数とあります。 
かけ算の九九

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上記の塵劫記では1の段から始まり、a×bは「abの」と発声します。 4の段からは「の」がなくなっています。また、九九の組合せはa≧bだけを載せているのが特徴です。 
次の塵劫記では1の段も削除されて36通りだけになっています。 

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わり算の九九
塵劫記はそろばんのマニュアル書として重宝されました。その中にわり算の九九がそろばんの珠の動かし方とともに説明されます。割り声(わりごえ)、割り声(わりせい)とも呼ばれます。 

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右ページが2で割る割算九九です。「二一天作五」は、「にいちてんさくのご」と読み、 10を2で割れば商が5のことで、そろばんでは十の位の一の珠をはらい、桁の上の珠を1つ降ろして五とおくことを表します。 
「(逢)二進一十」は「にっちんがいっしん」と読み、 20を2で割れば、商が10であること。 
左ページは3で割る割算九九です。「三一三十一」は「さんいちさんじゅうのいち」と読み、10を3で割れば商が 3で余りが1のこと。 
「三二六十二」は「さんにろくじゅうのに」と読み、20を3で割れば商が6で余りが2のこと。「(逢)三進一十」は「さんちんがいっしん」と読み、30を3で割れば商が10のこと。 
絹盗人算

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「何人かの盗人が橋の下で盗品の反物を分配している。橋の上で、その様子を聞いていると、一人に一二反ずつ分けると一二反余り、一四反ずつ分けると六反不足するという。盗品の反物の数と盗人の人数を求めなさい」 
現代の私たちであれば、xとyを使って方程式を立てて解くのがスマートでしょう。 
反物の数をx、盗人の人数をyとすれば、反物の数をxについて次の2つの式が成り立ちます。 
x = 12y+12、x = 14y-6
したがって、12y+12=14y-6となり、y =9が得られます。x = 12×9+12=120ですから答は、盗人九人、反物一二〇反です。 
ねずみ算

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「正月にねずみの夫婦がいる。この夫婦が正月に子を 12匹生む。親子合わせて 14匹になる。この 14匹が 2月には 7組の夫婦になって、それぞれ 1組が子を 12匹ずつ生む。合わせて 98匹になる。このように毎月子を生むとすれば、 12月の終わりには全部で何匹になるか」 
かけ算ができれば解ける問題ですがいかがでしょうか。1月は親ねずみ2匹から子ネズミが12匹産まれるので計14匹つまり7組の夫婦がいます。 
2月の月初めには7組の夫婦がそれぞれ子ネズミを12匹産むので7×12=84匹が産まれます。月初めにいた14匹のねずみとあわせ2月末には14+84=98匹(49組の夫婦)のねずみがいることになります。 
同様に考えると、3月の月初めには49組の夫婦がそれぞれ子ネズミを12匹産むので49×12=588匹が産まれます。月初めにいた98匹のねずみと合わせて3月末には98+588=686匹のねずみがいることになります。 
こうして1月末14匹、2月末98匹、3月末686匹となりますが、これらの計算はそれぞれ、14×7=2×7×7=98、98×7=2×7×7×7=686です。 
これから12月末のねずみの数は2×7×7×7×7×7×7×7×7×7×7×7×7(2に7を12回かける)であることが分かります。 
この結果は27682574402。答は、276億8257万4402匹となります。いわゆる「ねずみ算式に増える」「ネズミ講」というのはこの問題からきています。 
木の高さを測る法

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「正方形の鼻紙を斜めに折り三角形にします。これに小石をふ゛らさけ゛て、立て た辺か゛地面に垂直になるように保ちつつ、斜辺の延長上に木の頂点か゛見える 位置まて゛移動しました。この場所か゛木の根から7間の距離た゛った場合、木の高さは何間て゛しょうか。鼻紙は地面から0.5間の高さに持っているとします」 
次のように図を描いて考えればすぐに分かる問題ですが、実用的な問題であるところが面白いです。 

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直角二等辺三角形の2辺の関係から鼻紙の角から木の根本までの長さと木の根本からてっぺんまでの長さが等しくなります。地面から木の根元までの高さ=地面から鼻紙までの高さ(0.5間)なので、木の高さ=7間+0.5間=7.5間となります。 
目付字

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図の右下にある一、十、百、千、万、億、兆、京、垓、杼、穣、溝、澗、正、載、極、恒(恒河沙の略)、阿(阿僧祇の略)、那(那由他の略)、不(不可思議の略)、無(無量大数の略)から1つ相手に選んで覚えてもらいます。 
そうしたら、図の下の枝から順に、その枝では覚えた字が花の方にあるか、それとも葉の方にあるかをたずねていきます。 
その返答から、相手が選んだ字を言い当てるゲームです。枝に下から順に一、二、四、八、十六という数が書かれてあるのがポイントです。 
相手が「花の方にある」と答えた枝についている数だけを加えます。その合計数が相手の覚えた文字が何番目のものかを表しています。 
例えば、「億」を選んだとしたら、花に「億」があるのは「二」と「四」の枝です。2+4=6と計算し、一から6番目の億と分かるということです。目付字は2進法を利用したゲームです。 
『塵劫記』の著者・吉田光由が師事した毛利重能と角倉素庵
このような魅力的な『塵劫記』は突然出来上がったのではありません。そのルーツを少しだけ探ってみましょう。 
数学者・吉田光由(1598-1673)は京都の豪商角倉家の一族として生まれました。 
吉田光由が最初に師事したのが江戸初期の数学者・毛利重能です。1622年、毛利は『割算書』を著しています。著者名が分かる数学書として現存日本最古のものです。 
毛利は京都で塾を開き数学を教え、数百人の弟子がいたといいます。中でも有名なのが吉田のほかに、『竪亥録(じゅがいろく)』(数学公式集)の著者今村知商そして算聖・関孝和を育てた高原吉種です。 
吉田光由、今村知商、高原吉種は毛利の三高弟と呼ばれます。まさに毛利重能は近代日本数学の開祖とも言うべき指導者でした。 
『割算書』よりも古い著者不明の数学書に『算用記』があります。体積の計算法、金利計算、測量など日常的な内容です。毛利はこの『算用記』の内容を敷衍し、そろばんでわり算を行う方法、絹布や米の売買、金銀貸の両替、借銀利子、検地、測量、面積、体積の計算方法などを加えて『割算書』を作り上げました。 
そして、吉田が次に師事したのが角倉素庵(すみのくらそあん、1571-1632)です。 
素庵は嵯峨を本拠とした角倉(本姓吉田)了以の長子として生まれました。吉田一族は、医者と土倉業を生業として栄えた豪商です。その環境のもとで育った素庵は海外貿易・土木事業を行う一方で、儒学者、能書家、角倉流書風の始祖という多彩な文化人でもありました。 
そして素庵は、『史記』の刊行を始めとする数々の古典そして豪華な嵯峨本の出版も行いました。 
こうして吉田は2人の師の大きな影響を受けて『塵劫記』が完成していきました。吉田は寛永4年から18年までに6回の改版を続けました。 
吉田に続く伝統があって始めて『塵劫記』が内容、装丁、印刷技術すべてにおいて最高レベルの本に仕上がったということです。 
冒頭で紹介した子供たちの数学の盛り上がりは、このような伝統の中で醸成されてきたと言えるわけです。 
現在、『塵劫記』の画像を以下のようなデジタルアーカイブで閲覧することができます。ぜひ覗いてみてください。 
国立国会図書館デジタルコレクション『新編塵劫記』
東北大学附属図書館和算資料データベース「塵劫記」を検索すると499件ヒットします。
早稲田大学図書館古典籍総合データベース『塵劫記』(1627)

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49573

 

「無用」な努力のススメ
今フレクスナーのエッセーを読み返すべき理由
2017.3.30(木) Financial Times
(英フィナンシャル・タイムズ紙2017年3月25/26日付)

米大統領、温暖化規制見直し令に署名 「対石炭戦争」終結を宣言
米首都ワシントンの環境保護局で、炭鉱労働者らに囲まれてエネルギー政策に関する大統領令に署名するドナルド・トランプ大統領(2017年3月28日撮影)。(c)AFP/JIM WATSON〔AFPBB News〕
今から80年近く前、米国の教育家のエイブラハム・フレクスナーは「無用な知識の有用性」と題したエッセーを発表した。その中で、最も強力な知的、技術的ブレークスルーは多くの場合、当初は「役に立たない」ように見える実生活とあまり関係がない研究から生じたと論じた。

そのため、たとえ即座に見返りを生まなくとも、こうした「無用」な努力を支援することが極めて重要だ、さもないと次のイノベーションの波が生まれないからだとフレクスナーは唱えた。「役に立つものに結実するかもしれないし、しないかもしれない好奇心は、恐らく近代思考の傑出した特徴だ」と氏は断じた。「これは目新しいことではない。ガリレオやベーコン、アイザック・ニュートンにさかのぼるものであり、絶対に邪魔してはならない」

これはじっくり考えるべき力強い主張だ。ドナルド・トランプ米大統領の新政権が仕事に取り掛かり始めた今は特にそうだ。

フレクスナーは1939年にこうした言葉を書き記したとき、自分が革新的な時代と向き合っていることを知っていた。何しろ、米国は当時、長い恐慌を経験したばかりでなく、欧州は戦争の瀬戸際に立っていた。

無理からぬことだが、こうした状況すべてが「くだらない」研究にお金をかけることを正当化するのを難しくした。だが、フレクスナーはこの大義にコミットしていた。1929年には、米国の裕福な一族であるバンバーガー家を説得し、その莫大な資産の一部を使い、まさにこの種の「目的を定めない」研究を支援するためにプリンストン大学高等研究所(IAS)の創設費用を寄付してもらった。

この取り組みは成果を上げた。アルベルト・アインシュタインなど、ナチスドイツから逃れてきた聡明なユダヤ人科学者がIASに集い、自由なアイデアを追求した。初期の相対性理論を発展させるアインシュタイン自身の研究など、その一部は当初、価値があるようには見えなかったが、多くはやがて、(数十年後のこととはいえ)強力な有用性を生み出した。

「アインシュタインの理論がなければ、我々の全地球測位システム(GPS)追跡装置は7マイルほど不正確だった」。現在IAS所長を務めるロベルト・ダイクラーフ氏は、新たに出版されたフレクスナーのエッセーの復刻版の序文で、こう書いている。量子力学や超電導といった概念も、最初はかなり無用に思えたが、後々、莫大な配当を生んだ。

この主張はなじみがあるように思えるかもしれない。昨今のイノベーションに関する書籍の大半は、既成概念にとらわれない独創的な発想とセレンディピティ(予想外の発見)の重要性を強調している。例えば、筆者の同僚のジョン・ケイによる『Obliquity』を見てみればいい。しかし、IASが今になってフレクスナーの論文を再出版している理由は、ダイクラーフ氏のような科学者が、この中核的な原理原則が次第に脅かされていると感じているからだ。

彼らがそうした不安を抱く理由の1つは、トランプ政権が、芸術、科学、教育機関への資金援助を削減しかねない予算予測を発表したためだ。だが、予算の圧縮――そして懸念――は、トランプ時代より前にさかのぼる。1964年当時、米国の連邦研究開発予算は国内総生産(GDP)比約2.1%だったとダイクラーフ氏は指摘する。昨年は同0.8%程度で、その半分が防衛費に割り当てられていた。一方、米国立衛生研究所(NIH)の予算は過去10年間で25%もカットされた。

右派の論客の一部は、これは悪いことではないと主張するかもしれない。共和党の多くは、研究というものは、政府よりも企業や慈善家から資金を受けたほうが好ましいと考えている。だが、過去1世紀に関する目覚ましい事実は、どれほど多くの米国のイノベーションがNIHと各種連邦プロジェクトから発生したか、という点だ。例えば、国の支援がワールド・ワイド・ウェブ(WWW)の開発を可能にしたという事実がなければ、シリコンバレーは決してこれほど栄えなかったろう。

現在、企業がこの穴を埋める兆候はほとんど見られない。それどころか、企業は近年、基礎研究に対する米国の支出の6%しか担っていない。1つには、株主の圧力のせいで、企業が迅速な成果を生まない研究にお金をつぎ込むのが難しいからだ。

一部の科学者は、フレクスナーの時代のように、民間の篤志家が関与することを期待している。現に何人かの大富豪が飛び込んでいる。例えばビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団が医療研究を支援している様子を見てみればいい。

だが、篤志家は多くの場合、具体的な研究目標に自分のお金の用途を限定し、特定の問題や課題(例えば、ある特定のワクチンやクリーンエネルギーの開発など)に研究を振り向けたがる。そして大学は次第に、境界を打破する研究に慎重になる傾向がある。今日の学界では、助成金と終身地位保証を獲得したいのであれば、科学者は厳正な学問領域に特化しろという圧力にさらされているのだ。

これが、政府関係者と企業経営者のみならず、科学者と有権者もフレクスナーの論文を読み返さなければならない理由だ。一見「無用」な研究を正当化するのは決して容易ではない。今日の資金不足の世界では、とりわけ困難だ。今、公共心を持った大富豪はかつてないほど、流れに逆らって泳ぐ必要がある。そして、この戦いを進めるために、現代のアインシュタインを何人か採用したほうがいいかもしれない。

By Gillian Tett

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49576
http://www.asyura2.com/17/senkyo223/msg/329.html

[政治・選挙・NHK223] 失業率2月2.8%、22年ぶり低水準 鉱工業生産2%上昇 非正規10万人減、正社員数は3397万人と前年同月比51万人増
失業率2月2.8%、22年ぶり低水準 鉱工業生産2%上昇
2017/3/31 11:41
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 雇用が一段と改善している。総務省が31日発表した2月の完全失業率(季節調整値)は2.8%と前月に比べ0.2ポイント低下した。1994年6月の2.8%以来22年8カ月ぶりの低水準。同日発表の有効求人倍率は1.43倍(季節調整値)と前月と同じだが、四半世紀ぶりの高さだ。運輸、製造業など幅広い業種で人手不足が続いている。


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 失業者が減り、就業者が増えたことが指標の改善につながった。失業者(原数値)は188万人と前年同月に比べ25万人減った。自営業を含めた就業者は6427万人。働き始める女性や高齢者が増え、51万人増えた。

 雇用者のうち正社員は51万人増加した。非正規社員は15カ月ぶりに減少に転じ、10万人減った。企業は人材確保のため、待遇の良い正社員の採用を増やしている。

 人手不足は深刻だ。厚生労働省発表の有効求人倍率は1.43倍だった。新規求人数(原数値)をみると、製造業(前年同月比10.7%増)や運輸・郵便業(5.6%増)などで増加が目立った。


画像の拡大
 生産活動も世界経済の回復を受けて活発になっている。経済産業省が同日発表した2月の鉱工業生産指数(2010年=100、季節調整済み)速報値は前月比2.0%上昇の102.2だった。上昇は2カ月ぶり。自動車産業が春先に投入する新車を増産したほか、機械や化粧品関連も全体を押し上げた。同省は基調判断は前月と同じ「持ち直しの動き」とした。

 全15業種のうち9業種で前月水準を上回った。普通乗用車やエンジンなど輸送機械が全体をけん引、4.7%上昇した。はん用・生産用・業務用機械は前月水準を4.9%上回った。一方、メモリーや液晶部品など電子部品・デバイスは1.6%低下し、5カ月ぶりに前月を下回った。

 メーカーの先行き予測をまとめた製造工業生産予測調査によると、3月は2.0%低下するものの、4月は8.3%の大幅上昇を見込んでいる。


過去の統計データがご覧いただけます。
https://vdata.nikkei.com/economicdashboard/macro/

 

2月の完全失業率2.8% 3%下回るのは22年2か月ぶり
3月31日 8時35分
2月の全国の完全失業率は2.8%で、前の月に比べて0.2ポイント改善し、およそ22年ぶりの低い水準となりました。
総務省によりますと、2月の就業者数は6427万人で、前の年の同じ月に比べて51万人増えて、50か月連続で増加しました。
一方、完全失業者数は188万人で、前の年の同じ月に比べて25万人減り、81か月連続で減少しました。

季節による変動要因を除いた全国の完全失業率は2.8%で、前の月に比べて0.2ポイント改善しました。
全国の完全失業率が3%を下回って2%台になったのは平成6年12月の2.9%以来で、22年2か月ぶりです。

これについて、総務省は「有効求人倍率が高い水準で推移しており、人手不足を背景に、多くの人の就業に結びついているのではないか。雇用情勢は着実に改善している」としています。

さらに、パートや派遣社員、アルバイトなどの非正規労働者は前の年の同じ月に比べて10万人減って2005万人でした。
高市総務大臣は、閣議のあと記者団に対し、「完全失業率が3%を切ったのは、平成6年12月以来で、とてもうれしいことだ。安倍内閣になってから、正規の労働者が非常に増えてきている。これからも雇用環境がよい形で改善していくといいと思う」と述べました。

塩崎厚生労働大臣は、閣議のあと記者団に対し、「完全雇用状態であることが確認されたが、経済成長率はまだ実質2%の目標を達成できていない。潜在成長率をどう上げていくのか、しっかりと考え、日本経済の成長率で実質2%、名目3%が現実にできるようにしていかなければいけない」と述べました。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170331/k10010931911000.html


 

2月失業率2.8%=22年ぶり低水準、人手不足加速−求人倍率、横ばい1.43倍

http://www.jiji.com/news/kiji_photos/20170331ax08_p.jpg

 総務省が31日発表した労働力調査によると、2月の完全失業率(季節調整値)は前月比0.2ポイント低下の2.8%と、2カ月連続で改善した。1994年6月に並ぶ22年8カ月ぶりの低水準で、3%を下回るのは94年12月以来。総務省は「人手不足から求人が多く、求職者の就業に結びついている。雇用情勢は着実に改善している」(労働力人口統計室)と分析している。

 厚生労働省が同日発表した2月の全国の有効求人倍率(季節調整値)は1.43倍となり、3カ月連続で同じ水準だった。都道府県別の求人倍率は、企業の求人票を受け付けたハローワークの受理地別、実際に働く就業地別ともに全都道府県で1倍以上となった。

 失業者数は前月比8万人減の190万人と、94年12月以来の低水準。自己都合による離職者は10万人、会社都合や定年による離職者は3万人それぞれ減った。

 季節調整前の原数値で、正社員数は3397万人と前年同月比51万人増加。一方、非正規社員数は10万人減の2005万人と、15カ月ぶりに減少した。総務省は「企業が人材確保のため、非正規社員を正社員に転換する動きが進んでいる」(同室)とみている。
 求人倍率は、ハローワークに申し込んだ求職者1人当たりの求人数を示す。2月は求人数が0.7%減少し、求職者数も0.5%減った。正社員の求人倍率は0.92倍。
 新規求人を業種別で見ると、製造業が2桁増となるなど、引き続き堅調だった。受理地別の求人倍率は、最高が東京の2.04倍、最低は沖縄の1.02倍。(2017/03/31-11:00)
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短時間労働増が成長抑制=ミニ経済白書
http://www.jiji.com/jc/article?k=2017033100375&g=eco

http://www.asyura2.com/17/senkyo223/msg/358.html

[経世済民120] トランプノミクスまたの名は「口先介入」株反発、国内外景気良好や円安好感 消費者物価2カ月連続上昇 短期国債、日銀降板後は
トランプノミクス、またの名は「口先介入」−QuickTake
Brendan Greeley
2017年3月31日 08:24 JST

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ドナルド・トランプ氏は次期大統領として最初に行った記者会見で、高額な薬価により「殺人罪を犯していながら罰せられていない」と製薬会社を批判し、米国内での薬価決定に入札を導入する方針を表明した。これを受けて製薬会社の株価指数は大きく下落した。典型的なトランプ節であり、エコノミストの言う「口先介入」、すなわち将来の行動で脅迫して今の市場を動かす行為だ。

  米国の大統領と連邦準備制度理事会(FRB)議長は口先介入を行ってきたことがあるが、通常は舞台裏での発言や慎重に作成された声明の中でのことだ。だが、トランプ大統領は新たな大統領専用機「エアフォースワン」のコスト削減や、企業による雇用の海外移転の阻止を思いつくとツイッターで攻撃し、強要し、脅迫する。週ごとに政策は変化し、明らかに標準的な経済の型にはまらない。より不透明なのは、こうした場当たり的なアプローチが大統領の宣伝する結果を生むのかという点だ。以下にトランプノミクスの基本的な要素の一部を紹介する。

雇用
  トランプ大統領は他の共和党議員同様、経済成長が雇用を創出すると時折口にする。だがそれ以上に、世界の雇用には決まった数があるかのような主張をする。他国によって雇用が「奪われ」、交渉によって取り戻すと訴える。海外の工場への投資計画を中止するよう企業を丸め込む際には、ディリジズム(経済統制政策)として知られる典型的な欧州型アプローチを利用する。国の利益を雇用者の利益や自由市場の原理に勝るものと位置付けて企業の投資に影響を与える手法だ。この口先介入は結果を生んでいる。1億5200万人を雇用し、定期的に1カ月に15万人以上の新たな雇用を生み出している経済では取るに足らない影響かもしれないが、大統領選以降フィアット・クライスラー・オートモービルズ、ウォルマート・ストアーズ、ロッキード・マーチン、スプリントや他の数社の大手企業が20万人超の規模で米雇用を増やすと約束している。これに対し批判的な向きは、大統領の機嫌取りの手段としてトランプ氏が功績を主張できるものへと企業が既存の計画を作り変えているのが実情であり、こうした数字は幻想にすぎないとしている。

貿易
  トランプ大統領は貿易には保護主義の立場だ。大統領就任後最初の1週間で、オバマ前大統領が何年もかけて交渉してきた環太平洋連携協定(TPP)からの離脱を通告した。欧州連合(EU)との自由貿易協定も同様の結果に終わる可能性が高いが、大統領の側近によると、英国との二国間交渉には前向きなようだ。北米自由貿易協定(NAFTA)を「米国がこれまでに結んだ中で最悪の貿易協定」と評した大統領は、協定見直しに向けてカナダ首相とメキシコ大統領をワシントンに招待した後、メキシコ側が国境の壁建設の費用負担を拒否したことを理由に同大統領との会談を中止した。また中国については、製品を米国に安く売ろうと為替を操作している為替操作国であると認定するよう財務長官に指示すると言っていた。中国は今のところ影響を感じていないようで、まだ何の譲歩も示していない。

財政政策
  トランプ大統領は社会保障制度やメディケア(高齢者向け医療保険制度)の手当を維持する意向を示しており、給付金制度の点では共和党より民主党寄りだ。また、最大1兆ドルをインフラ投資に向けるとの方針も典型的なリベラル派のアプローチであると同時に、大統領選での勝利に貢献したブルーカラー労働者に報いる一つの手段でもあり、共和党の財政タカ派と一線を画す。大統領はこのインフラ投資を実現するために金利が低水準にある間に借り入れを行うとの見通しを時々示しているが、大統領顧問は税額控除を通じてこれが実現できると述べている。トランプ氏は経済成長刺激のために減税を行うという共和党の標準的な方針は堅持しており、独立系アナリストによると大統領の目指す所得税および法人税の減税計画によって今後10年間で少なくとも4兆ドル、最大で6兆ドル赤字が膨らむ見込み。この財源としてトランプ氏は議会共和党のように成長促進を通じた税収増を織り込む「ダイナミック・スコアリング」を選好する考えを示している。

金融政策
  トランプ大統領は大統領選挙期間中にしばしば冷笑の対象としてFRBを名指しして、イエレンFRB議長がオバマ前大統領の雇用面での実績を高めるために金利を「人為的に低く」抑えていると非難した。大統領のこうした意見は、不動産開発業者としての個人的経験に影響を受けたものと思われる。1980年代と90年代に今よりもっと高い金利で資金を借り入れていたトランプ氏は、そうした高金利が当たり前だった世代の人間だ。イエレン議長の下でFRBは、自然利子率が歴史的な水準よりずっと低い、恐らくはゼロを下回るレベルですらあるとの見解にたどり着いている。トランプ氏は金融政策に関して時にリバタリアンの資質を見せ、政策審議の監査を定期的に行い中央銀行の独立性を弱める法律の制定を支持している。

ドル
  大統領選挙の結果判明からトランプ氏が大統領に就任するまでの間に、ドルは主要10通貨のバスケットに対し5%近く上昇した。新大統領が法人税率を引き下げ巨額のインフラ投資を行い、多数の規制を緩和するとの期待がドルの押し上げ要因となった。だが、ドル高は米国の製造業企業の活性化を通じて何百万もの新たな雇用を生み出すとするトランプ氏が掲げたもう一つの公約の実現を阻む。これには、輸出業企業が国外でより多くの製品を売ることができるようドルを下落させる必要がある。就任前のウォールストリート・ジャーナル紙とのインタビューでは為替安誘導を狙ったトランプ流の口先介入が行われ、ドルは「強過ぎる」との発言にドル相場は型通り若干下落したが、それも一時的かもしれない。大統領の公約通り減税と歳出拡大が功を奏して景気が過熱すれば、FRBは想定している以上に積極的な利上げを迫られる可能性があり、その結果、ドルの投資家を呼び込みドル高がより進行する。トランプ氏にとってさえ資本の流れを思うままに動かす口先介入は困難であり、歴代の大統領が通貨への言及を回避しようとするのはこのためだ。
原題:Trumponomics Is Jawboning by Another Name: QuickTake Scorecard(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-30/ONGKW06KLVR401

 

 

日本株は反発、国内外景気良好や円安を好感−金融や素材関連高い
佐野七緒
2017年3月31日 08:09 JST 更新日時 2017年3月31日 12:05 JST
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日本株とドル・円の動き
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Japanese 10,000 yen and U.S. 100 dollar banknotes are arranged for a photograph in Tokyo, Japan, on Monday, June 20, 2016. Japanese shares fell, with the Topix index dropping for the first time in three days, as the yen rose ahead of the U.K. decision on European Union membership and investors awaited testimony from Federal Reserve Chair Janet Yellen. Photographer: Tomohiro Ohsumi/Bloomberg
ドル・円は上昇、米株・金利上昇で約1週間ぶりに112円台を回復

消費者物価が2カ月連続上昇−失業率22年ぶり2%台


https://assets.bwbx.io/images/users/iqjWHBFdfxIU/ir8wG7y3JEko/v2/-1x-1.png


米10−12月GDP確定値は年率2.1%増に上方修正、予想上回る
円は下落し1ドル=112円台に乗せる

31日の東京株式相場は反発。国内外で良好な経済指標が相次ぎ、為替が円安方向に振れている。米長期金利の上昇を受けた銀行や保険など金融、鉄鋼や非鉄金属など素材関連、電機や自動車など輸出関連が高い。
  TOPIXの午前終値は前日比10.68ポイント(0.7%)高の1538.27、日経平均株価は125円61銭(0.7%)高の1万9188円83銭。日経平均は一時147円高まであった。
  野村証券投資情報部の小高貴久エクイティ・マーケット・ストラテジストは、国内の鉱工業生産指数は良く「中国景気は復調、米景気には安心感がある。国内景気は輸出主導による復調が視野に入ってきた」と指摘。「円高リスクは軽減されている」とみる。
東証内
東証内 Photographer: Tomohiro Ohsumi/Bloomberg
  米商務省が30日に発表した昨年10−12月の実質国内総生産(GDP)確定値は前期比年率2.1%増と、改定値の1.9%増から上方修正され、市場予想の2%増を上回った。個人消費も3.5%増と3%増から修正された。大和証券投資戦略部の石黒英之シニアストラテジストは、米国では「トランプ相場の株高による資産効果が消費にプラス影響を及ぼしているようだ」と指摘した。
  取引開始前に発表された2月の鉱工業生産指数は前月比2.0%上昇と、市場予想の1.2%を上回った。ソシエテ・ジェネラル証券の会田卓司チーフエコノミストは、実質輸出は6.5%増と極めて強く、グローバルな生産・在庫循環の好転と円安を背景とした回復がより見えやすくなってきたとリポートで指摘した。中国国家統計局が発表した3月の製造業購買担当者指数(PMI)は51.8と、約5年ぶりの高水準。
  きょうの為替市場ではドル・円が1ドル=112円10銭台に乗せ、前日の日本株取引終了時点の111円19銭からドル高・円安が進んだ。「米長期金利はトランプ政権への不透明感から下振れていたが、実体経済を見ればここから下がるとは考えにくく、景気回復が加速するなら上げ方向。ドルも110円10銭台で底をつけたようだ」と野村証の小高氏はみる。

  30日の米10年債利回りは前日比4ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)上昇し2.42%となった。米国株市場は金融株がけん引し、S&P500種株価指数が0.3%上昇した。
  東証1部33業種別では、保険や銀行など金融、鉄鋼や非鉄金属など素材、ゴム製品のほか、三菱UFJモルガン・スタンレー証券が投資判断を上げた東京ガスなどの電気・ガスや小売、建設、陸運など28業種が上昇。海運、食料品など5業種は下落。
  売買代金上位では、三菱モルガンが強気の投資判断で調査を開始した良品計画が高く、東芝やマツダ、オリエンタルランド、TDK、東洋ゴム工業、カルビーも上昇。半面、経営統合を見送る森永製菓と森永乳業が大幅安。ブイ・テクノロジー、トクヤマ、資生堂も安い。
東証1部の午前売買高は8億5599万株、売買代金は9261億円
値上がり銘柄数は1360、値下がりは519
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-30/ONNGIY6KLVR401

 


 
ドル・円は上昇、米株・金利上昇で約1週間ぶりに112円台を回復
池田 祐美
2017年3月31日 12:02 JST
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円とドル Photographer: Tomohiro Ohsumi/Bloomberg
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消費者物価が2カ月連続上昇−失業率22年ぶり2%台

一時112円15銭まで上昇し、21日以来のドル高・円安水準
ドル・円、米国株が自律反発し米金利も上昇したことが重要−野村証

https://assets.bwbx.io/images/users/iqjWHBFdfxIU/ipTl0_i7Iks4/v2/-1x-1.png


31日の東京外国為替市場のドル・円相場は上昇。前日の米国市場で良好な経済指標や金融当局高官発言などを背景に株価・金利が上昇し、ドル買い・円売りが優勢となった流れを引き継いでいる。
  午前11時52分現在のドル・円は前日比0.1%高の112円06銭。金融機関からの仲値公表が集中する午前10時前後にかけては112円15銭まで上昇し、21日以来のドル高値を更新した。主要10通貨に対するドルの動きを示すブルームバーグ・ドル・スポット指数も一時1225.37と高水準を付けた。
  野村証券の池田雄之輔チーフ為替ストラテジストは、ドル・円の上昇について、「米国株が自律反発して米金利も上昇したことが重要。先週21日に米国株が急落したのは、減税策発表が遅くなりそうとの見方から、利食い売りが出たためだが、自然反発した。短期筋がドル・円ショートになっていた可能性が高く、踏み上げられて上昇時は速い」と指摘。「週足一目均衡表の雲の上限111円39銭程度を上抜けてきたので底固めに近いイメージ」と語った。

  ニューヨーク連銀のダドリー総裁は30日の講演で、財政刺激策の見通しで成長・物価のリスクは上振れと指摘。またサンフランシスコ連銀のウィリアムズ総裁は、今年は3回、もしかしたら4回の利上げが適切との見解を示した。ダラス連銀のカプラン総裁も、講演後の質疑応答で、年内にあと2回の利上げは基本ケースとして良好だが、経済動向にさらに左右される可能性があると発言した。
円とドル
円とドル Photographer: Tomohiro Ohsumi/Bloomberg
  野村証の池田氏は、「米連邦公開市場委員会(FOMC)の中心メンバーは、今年は年3回の利上げで一致しているのは明らか。今年3回であと2回の利上げで腹を固めている。米利上げで6、9、12月のうち6月をスキップする可能性は低い。選択肢を確保するには、6月利上げして、景気動向みながら9、12月のどちらかを飛ばすのではないか。6月の米利上げは半分程度しか織り込まれていないので、まだ上がる余地はある」と分析。
  ドル・円については、「来週には米雇用統計があるが、フランス大統領選が終わるまで大きな動きは出ないのではないか。じりじりと113円ぐらいまで上げるだろうが、115円台を付けるのは、5月7日のフランス大統領選の決着が付いてから」と見込んでいる。
  31日の米国では、2月の個人所得・支出や3月のシカゴ製造業景況指数などが発表される予定。ブルームバーグ調査によると、所得は前月比0.4%増加(1月は0.4%増加)、支出は0.2%増加(1月は0.2%増加)、シカゴ製造業景況指数は56.9(2月は57.4)が見込まれている。
  三井住友銀の柳谷氏は、「個人所得が注目になってくるだろうし、インフレにつながる話には多分一番反応しやすいと思う。GDPの個人消費もそうだが、インフレを想起させるというのが市場としては今一番飛びつきやすいネタではあると思うので注目」と語った。
  ユーロ・ドル相場は同時刻現在、0.1%高の1ユーロ=1.0681ドル。前日には一時1ユーロ=1.0672ドルと15日以来のドル高・ユーロ安水準を付けた。3月のドイツ消費者物価指数(CPI)速報値が前年比1.5%上昇となり、市場予想(1.9%上昇)を下回ったことが重しとなった。31日には3月のユーロ圏消費者物価指数が発表される。ブルームバーグ調査によると、前年比1.8%上昇が見込まれている。2月は同2.0%上昇だった。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-31/ONNOYF6JTSE801


 


 


短期国債ストーリー、日銀が降板した後の気になるキャスティング
船曳三郎、Chikako Mogi
2017年3月31日 08:23 JST 更新日時 2017年3月31日 12:07 JST
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日銀の短期国債の買い入れ残高、おおむね毎月2兆円前後で減少
残高がすべて落ちるとなれば海外投資家だけでは拾いきれず−東短リ
 
日本銀行と外国投資家という大物役者が支えてきた市中発行残高100兆円を超える短期国債市場。日銀がその市場から手を引いたらどうなるのだろうか。市場関係者は、黒田東彦総裁が進める金融緩和策の軸足が「量」から「金利」に移ったことを再認識することになるかもしれない。
  黒田総裁が昨年9月に長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)付き量的・質的金融緩和の導入でマネタリーベース目標を撤廃して以降、日銀による短期国債の買い入れ残高の減少傾向が鮮明になっている。発表資料を基にブルームバーグが算出したところによると、おおむね毎月2兆円前後のペースで減少しており、3月の減少幅は4兆円弱に達した。この結果、3月末の残高は32兆円台と、政策を導入してからの半年で12兆円程度縮小した計算になる。

  東短リサーチの寺田寿明研究員は、日銀の短期国債買い入れ残高について、今のペースで減り続け、1年半ぐらいでゼロになると予想している。「残高がすべて落ちるとなれば海外投資家だけでは拾いきれず、国内投資家の買いも必要になる。いずれにしても利回り上昇は間違いない」と言う。
  日銀が手を引いた場合の受け皿は誰になるのか。日銀の資金循環統計によると、短期国債の保有者は現在のところ、外国人投資家の存在が際立っている。2016年12月の外国人による短期国債の保有比率は51%と初めて全体の半分以上を占めた。一方、国内銀行は2%と小さい。いずれにせよ、日銀が保有する4割程度の短期国債の行き先は海外勢と国内勢のどちらかになる。
海外投資家
  海外勢がこれまで日本の債券を積極的に購入できた背景にあるドル・円ベーシススワップ。3カ月物のスプレッドは昨年11月にマイナス90ベーシスポイント(bp,1bp=0.01%)台まで拡大した。元手のドル資金を円資金に換えることで、実際の債券利回りよりも多い上乗せ金利をもらえる絶好の機会と映ったはずだが、足元の同スプレッドは20〜30bp程度にまで縮小している。  
  バークレイズ証券の押久保直也債券ストラテジストは、「ベーシススワップのスプレッドはもう少し戻すだろうが、昨年11月ほどは拡大しないだろう。外国人にとっての妙味がそのスプレッドにある以上、短期国債の買い意欲もピークアウトしている」と指摘する。財務省が発表した対外・対内証券投資によると、外国人による日本の短期債投資は2月下旬から3月上旬にかけて大きく売り越している。
  一方、海外勢の日本債券に対する興味は根強く残っているとの見方もある。みずほ証券の山内聡史マーケットアナリストは、ドル建てベースで日米独の3カ月物短期債利回りを比べると、ドルヘッジ付きの日本の短期国債利回りが最も高く、「日銀の穴埋めをするのは海外投資家」と言う。
  海外投資家は16年12月時点で53.1兆円相当の長期国債を保有していた。こうした長期国債を処分して、対象期間が比較的に短いベーシススワップ取引を絡めて「短期国債と組み合わせた方が本来はシンプルだ」と、東短リサーチの寺田氏は指摘する。 
3月の国内投資家
  3月の短期国債市場では、日銀が買い入れ残高を大きく落とす中で3カ月物利回りは低下した。9日の3カ月物入札では落札利回りがマイナス0.45%と過去最低を更新するなど、短期国債に対する需要が健在であることが示唆された。
  「日銀がこれだけ買い入れを減らしているにもかかわらず、利回りが低下したのはやはり需給。誰が買ったかと言えば、外国人と言うよりむしろ邦銀だった可能性がある」と、SMBC日興証券の竹山聡一金利ストラテジストは指摘する。その理由は「決算期末に向けて、長くなり過ぎた保有債券のデュレーションの短期化に使われたのではないか」とみているためだ。
  利付国債が四半期ごとに大量償還を迎えることも重なり、債券を貸し借りするレポ市場では先週からしばらく国債需給が逼迫(ひっぱく)した。深刻な国債不足に伴い、3月期末をまたぐレポレートは過去最低を更新した。日銀は年度末に向けて短期国債の買い入れを取りやめ、国債を一定期間売却する異例の対応に追われた。
  東短リサーチの寺田氏は、こうしたモノ不足が国内勢の短期国債に対する需要を回復させるとみている。「利回りがマイナス0.2%を上回ってくれば、買いが出てくるのではないか。日銀当座預金の付利マイナス0.1%を上回ればいくらでも買い手は出てくるが、そこまで上昇する過程で日銀保有分の減少を補う需要の壁がどのくらい厚いかで水準が決まる」と言う。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-30/ONNGRG6JTSF501

 

 


 

 


 


消費者物価が2カ月連続上昇−失業率22年ぶり2%台
日高正裕
2017年3月31日 09:13 JST 更新日時 2017年3月31日 12:00 JST
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物価目標への道のりは遠く
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生鮮食品とエネルギー除くCPIは0.1%上昇、前月は0.2%上昇
「持続性が伴わない可能性が高い」−みずほ証の上野氏


総務省が31日発表した2月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除くコアCPI)は2カ月連続で上昇した。エネルギーがプラスに転じ、全体を押し上げた。失業率は22年ぶりの2%台まで改善した。
キーポイント
全国コアCPIは前年比0.2%上昇(ブルームバーグ調査の予想中央値は0.2%上昇)−前月は0.1%上昇
生鮮食品とエネルギーを除く全国コアコアCPIは0.1%上昇(予想は0.1%上昇)−前月は0.2%上昇
家計調査は実質消費支出(2人以上の世帯)が1世帯当たり26万644円と前年同月比3.8%減少(予想は1.7%減)
完全失業率は2.8%と改善(予想は3.0%)ー1994年6月以来の水準、2%台も同年12月以来
有効求人倍率は1.43倍(予想は1.44倍)
鉱工業生産指数は前月比2%上昇(予想は1.2%上昇)

背景
  消費者物価指数が13カ月ぶりにプラスに転じた前月に続いてプラスになったのは、ガソリンを含む石油製品の押し上げ効果が強まったことが主因。エネルギー価格は前年比1.6%上昇と2014年12月以来のプラスに転じた。市場ではエネルギーの押し上げ効果や円安の影響により、年内に1%に達するとの見方が出ている。2月まで1ドル=55ドル前後で推移していたドバイ原油は足元で50ドル前後に下落しており、先行き不透明感も根強い。
  日本銀行の黒田東彦総裁は16日の定例記者会見で、生鮮食品とエネルギーを除くベースでみると、「このところは一進一退の動き」となっており、2%の物価目標に向けたモメンタム(勢い)は「なお力強さに欠けている」と指摘。今年後半にかけてコアCPIやコアコアCPIが前年比1%近くになったとしても、「直ちに、機械的に長期金利の操作目標を引き上げていく、という考え方はとっていない」と述べた。
エコノミストの見方
みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミストは発表後のリポートで、今回の結果が「『エネルギー頼み』の上昇であることは明確」と指摘。「持続性が伴わない可能性が高い」と分析した。全国CPIコアは今後、プラス幅を拡大すると見込まれるものの、日銀の物価目標2%の半分にあたる1%にも届かず「頭打ちになるだろう」とみている。
東海東京調査センターの武藤弘明チーフエコノミストは、失業率が「3%を割り込んできたのは象徴的」としつつ、「賃金上昇に結びついてきてない」と指摘した。理論上は需給や失業率によって賃金が決まるはずだが、最近の日本では「生産性や潜在成長率と賃金が連動している」という。
日本政策投資銀行の田中賢治経済調査室長はリポートで、鉱工業生産の「持ち直し基調は継続」しているという見方を示した。だが内需の回復力は弱く、「円安株高が崩れた場合のマインド悪化が不安材料」だという。
詳細
全国総合CPIは前年比0.3%上昇(予想は0.2%上昇)ー前月は0.4%上昇
東京都区部(3月中旬速報)コアCPIは0.4%低下(予想は0.2%低下)と13カ月連続マイナスー前月0.3%低下から下落幅が拡大
生鮮食品とエネルギーを除く東京都区部(同)コアコアCPIは0.2%の下落(予想は0%)と3カ月ぶりの下落
完全失業者数は188万人、非正規労働者数は前年同月比10万人減の2005万人と1年3カ月ぶりに減少
製造工業生産予測指数は、3月は前月比2.0%低下、4月は同8.3%上昇の見込み。経産省は4月について「ここ数年にない高い水準」と分析
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-31/ONGIHA6JTSE801
 


http://www.asyura2.com/17/hasan120/msg/589.html

[政治・選挙・NHK223] ふるさと納税、返礼上限3割に 総務省が4月通知 東京23区長見直し要望、住民サービスに支障 より厳しい上限提言 自民議連
ふるさと納税、返礼上限3割に 総務省が4月通知
2017/3/31 10:57
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 総務省は31日、ふるさと納税の返礼品の価格について、寄付額の3割までに抑えるよう全国の自治体に要請すると発表した。自治体が競って豪華な返礼品をそろえたことで住民サービスに十分なお金が回りにくくなっているため、初めて金額の目安を設ける。商品券や家電製品といった返礼品は換金しやすさや地元産かどうかを問わず、全面的に控えるよう求める。

 4月1日付で自治体に通知し、速やかに返礼品の見直しを求める。ふるさと納税は自分の好きな自治体に寄付すると、寄付額から2000円を引いた分の税負担が減る仕組み。多くの自治体からは寄付額に応じた返礼品も受け取れるため、2015年度は全国で1653億円の寄付が集まった。

 総務省の調べでは、全国の自治体は1万円の寄付に対し平均約4000円分の返礼品を贈っている。4月以降はこれを3000円以下に抑えるよう求める。平均3000円を超えている自治体は15年度に500団体以上あるという。

 通知に強制力はないが、明らかに3割を超える返礼品を贈る自治体には、総務省が個別に見直しを求めることで改善につなげる。住んでいる自治体に寄付した住民には、返礼品を贈らないよう求める。
 

高額返礼品、自粛の通達 ふるさと納税 中国自治体割れる対応 (2017/3/11 6:02) [有料会員限定]

はい上がる自治体 財政、危機モードに幕 (2017/3/29付) [有料会員限定]

肉と焼酎が最高 ふるさと納税全国一の街 (2017/3/31 5:40)
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS31H0Z_R30C17A3EAF000/

 


ふるさと納税「本来の趣旨逸脱」 東京23区長が見直し要望
2017/3/13 19:07
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 東京23区の区長でつくる特別区長会は13日、急拡大するふるさと納税の制度見直しを求める要望書を総務省に提出した。過剰な返礼品目的の寄付が増え、愛着のある自治体を応援するといった「本来の制度の趣旨から逸脱している」と指摘。税収減の影響が広がり「このままでは公共サービスの持続に支障をきたす」と懸念を示した。

 2016年度の特別区民税の減収額の合計は129億円と前年度の5.4倍に膨らんだ。要望書によると、100人規模の区立保育所109カ所分の年間運営費に相当する。ふるさと納税制度の趣旨に賛同する一方、返礼品には制限を設けるべきだとの意見も出ていると付け加えた。

http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS13H38_T10C17A3EE8000/
 


 


返礼品、寄付の3割まで 商品券、家電は全廃要請 ふるさと納税で総務省
 総務省は31日、ふるさと納税の返礼品競争に歯止めをかける対策を公表した。自治体が贈る返礼品の調達額は、寄付額の3割以下とする目安を初めて設定。商品券や家電は、転売対策の有無や地域への経済効果に関係なく全廃を求めた。強制力はないが、総務省は見直し状況をチェックして自治体、仲介業者らに改善を促していく。4月1日付で全国の自治体に通知する。

 総務省によると、2015年度に返礼品調達の総額が寄付額の3割を超えていた自治体は500余り。高市早苗総務相は記者会見で「過度な競争の改善につなげたい」と説明。3割を妥当な水準とする趣旨ではなく、割合の高い返礼品を贈っている自治体に見直しを求めるのが目的と強調した。

 通知は、地方を応援するという趣旨に反する返礼品は制度全体に対する国民の信頼を損なうと強調。「責任と良識のある対応を厳に徹底するよう求める」としている。

 返礼品の調達額は現在、平均で寄付額の4割程度。自治体によっては7割を超える。通知は、調達にかかる経費などが膨らむと、住民向けの施策に充てる財源が実質的に減少すると指摘。調達額を速やかに3割以下とするよう求めた。住んでいる自治体へ寄付をした人に、返礼品を贈らないことも盛り込んだ。

 昨年4月の通知に続き、金銭に類似する商品券や、資産になりやすい家電などは贈らないよう重ねて要請。具体的な品目として、新たに家具と時計、宝飾品、カメラ、楽器を追加した。

 商品券やポイントは対象地域や期間が限定されていても認めない。ポイントは、寄付額に応じて自治体が発行してカタログの特産物などと交換するものと、インターネットで寄付を仲介する「ポータルサイト」の運営業者が付与し、買い物などに使えるものがある。

 ふるさと納税は、都市部と比べて税収の少ない地方を応援するのが本来の趣旨。しかし、豪華な返礼品で寄付を集める競争が過熱し、総務省は自治体や有識者の意見を聞きながら改善策を検討していた。
[ 2017年3月31日 10:29 ]

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ふるさと納税総務省
http://www.sponichi.co.jp/society/news/2017/03/31/kiji/20170331s00042000115000c.html


 

ふるさと納税、返礼品は寄付額の3割以下に 総務省要請
2017年3月31日12時32分
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 高市早苗総務相は31日午前の閣議後の記者会見で、ふるさと納税の返礼品の価格について、寄付額の3割以下に抑えるよう全国の地方自治体に要請すると発表した。総務省から4月1日付で通知を出すほか、改善が見られない自治体には個別に働きかける。自治体間で過熱する返礼品競争に歯止めをかけるのが狙いだ。

特集:ふるさと納税、被災地にエール
特集:ふるさと納税
 通知に強制力はないが、寄付額に対する返礼品の価格の割合について「社会通念に照らし、良識の範囲内のものとする」とし、「3割を超える返礼品を送付している地方団体は、速やかに3割以下とすること」を求める。これまでも、家電や貴金属など資産性の高いものは返礼品としないよう求めていたが、家具や時計、カメラなども控えるよう具体例を追加。自粛を要請していた商品券は、使用地域や期間が限定されているものであっても取りやめるよう念押しする。

 高市氏は会見で、「過度の返礼品競争を改善し、制度の健全な発展が図られるよう努めていく」と述べた。総務省によると、寄付総額に対する返礼品の割合は、2015年度の平均で4割を超えた。3割を超える自治体は約500にのぼった。

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http://www.asahi.com/articles/ASK303DMMK30UTFK008.html

 


ふるさと納税返礼品 より厳しい上限を提言 自民議連
3月29日 21時21分
ふるさと納税をした人に自治体が贈る返礼品について、総務省が寄付額の3割以下に抑えるよう要請する方針を検討する中、自民党の議員連盟は制度の趣旨を徹底すべきだとして、より厳しい上限を示すことなどを高市総務大臣に提言しました。
ふるさと納税をめぐっては、自治体間の競争が過熱し、一部では制度の趣旨に反して高額すぎるものが送付されていることが課題となっていて、総務省は寄付額の3割以下に抑えるよう、近く全国の自治体に要請する方向で検討しています。
こうした中、自民党の議員連盟「ふるさと納税の拡充を目指す議員の会」の代表世話人の川崎元厚生労働大臣らが、29日に総務省を訪れ、ふるさと納税制度の本来の趣旨を徹底すべきだとして、より厳しい上限を示すことなどを高市総務大臣に提言しました。
また、提言では、各自治体に対し、まちづくりのためのプロジェクトに使うなど、使いみちを工夫することで、寄付をする人たちの共感を得るようにすることも求めています。
川崎氏は記者団に対し、「過剰な返礼品で寄付を誘うのはおかしい。礼状などを送るだけで済ませている自治体を評価するような仕組みにすべきだ」と述べました。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170329/k10010929761000.html?utm_int=detail_contents_news-related-auto_001


 


 
総務省 ふるさと納税返礼品「寄付の3割以下」通知へ
3月31日 11時03分
総務省は、ふるさと納税をした人に自治体が贈る返礼品について、一部の自治体で高額すぎるものが見られるとして、調達価格を寄付額の3割以下に抑えるよう、4月1日付けで、全国の自治体に向けて通知を出すことになりました。
ふるさと納税をめぐっては、自治体間の競争が過熱し、一部では制度の趣旨に反して、高額すぎるものが送付されていることが課題となっています。

総務省は、こうした状況が続けば、寄付を地域活性化に役立ててもらおうという制度全体への国民の信頼を損ねかねないとして、返礼品の調達価格を寄付額の3割以下に抑えるよう、4月1日付けで、全国の自治体に向けて通知を出すことになりました。

通知では、商品券やプリペイドカードなど換金性の高いものや、電子機器や貴金属、時計など資産性の高いものを返礼品としないことや、寄付を募集する際、返礼品の調達価格などを表示しないようにすることも、合わせて要請することにしています。

通知に強制力はありませんが、総務省は従わない自治体には、今後、見直しを個別に働きかけることで実効性を担保していくことにしています。

高市総務大臣は閣議のあと記者団に対し、「自治体には良識ある対応を徹底するようお願いしたい。制度の趣旨に沿った取り組みをする自治体がばかを見ることのないよう、総務省としても対応していきたい」と述べました。
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ふるさと納税返礼品 より厳しい上限を提言 自民議連3月29日 21時21分
ふるさと納税の返礼品 寄付額の3割以下に抑制要請へ3月25日 4時26分動画

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170331/k10010932041000.html

http://www.asyura2.com/17/senkyo223/msg/370.html

[経世済民120] ナスダック上場の中国株、謎の4500%急騰−時価総額1兆 日本株は続落、米政策への不透明感根強い−金融、輸出など広く売り

ナスダック上場の中国株、謎の4500%急騰−時価総額1兆円突破
Lily Katz、Zeke Faux
2017年3月31日 12:32 JST

ウィンズは中国で企業向けに融資保証・機器リースを手掛ける
元役員のブラッドリー・ライフラー氏にインタビューした
 
https://assets.bwbx.io/images/users/iqjWHBFdfxIU/i7RLmhHG59Fw/v2/750x-1.png

米国の株価指数に連動するファンドに資金を投じる投資家は普通、サプライズを求めない。だが、ラッセル2000指数連動のファンドで最近それが起きた。ほとんど知られていない中国企業の株価がはっきりした理由もなく急騰したのだ。
  中国で小規模企業向けに融資保証・機器リースを手掛けるウィンズ・ファイナンス・ホールディングス(穏盛金融)は2015年のナスダック上場後、最大4555%値上がり。時価総額が今年2月、90億ドル(約1兆100億円)を突破し、米オンライン融資会社レンディングクラブの約4倍となった。同社の収入はウィンズの50倍あるにもかかわらずだ。
  ウィンズの株価はナスダック総合指数の構成銘柄として過去1年で最大の上昇率を記録したが、同社は株価急騰の理由は分からないとのコメントを発表した。

  ウィンズの筆頭株主である王宏氏はどのように、少なくとも帳面上、巨額の富を得たのだろうか。疑問は解決されていない。
  米証券取引委員会(SEC)への届け出によれば、ウィンズ米国本社の住所はニューヨークのタイムズスクエアにある高層ビルの37階。そこで同社の事業が行われている形跡はなく、代わりに入居しているのは元ウィンズ役員のブラッドリー・ライフラー氏が設立した金融サービス会社、フォアフロント・キャピタル・アドバイザーズだ。
  ライフラー氏はウォール街ではパリ・キャピタルの共同創業者として知られている。同氏は08年ごろにパリを辞めたが、パリの親会社はその後、破産申請している。
  ライフラー氏は今年1月、自己破産を申請し、今はニューヨーク圏北部の広大な農場で生活している。同氏は昨年、ウィンズ役員を辞任。ウィンズが米国での融資事業を検討していた時期で、フォアフロントの融資事業との利益相反を避けたかったからだと今年2月のインタビューで説明。同氏は、届け出書類でウィンズの会長兼共同最高経営責任者(CEO)とされている郝建明氏と最近、昼食を共にしたことを明らかにしたが、誰が今ウィンズを経営しているのかは知らないと話した。
  ウィンズの北京本社を取材したところ、受付で同本社の従業員はわずか数人だとの説明を受けた。受付係は人事に問い合わせたが、人事担当の女性は旅行中だという。取材での訪問前、その女性は米国に電話するよう勧めていた。
  同社がニューヨークに持つ電話番号に電話した際に応対したニール・ゴン氏と名乗る人物は、取材のスケジュールについては中国の幹部に尋ねる必要があると繰り返し述べた。インタビュー取材は実現していない。ウィンズの弁護士、ジョバンニ・カル−ゾ氏(ニューヨーク在勤)はコメントを控えた。
原題:This Chinese Stock Soared 4,500% on Nasdaq and No One Knows Why(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-31/ONNMND6KLVR401


 

日本株は続落、米政策への不透明感根強い−金融、輸出など広く売り
(記事全文はこちらをクリックしてご覧下さい)
  東京株式相場は続落し、日経平均株価は4日ぶりに1万9000円を割れた。米政策の先行き不透明感が根強く、午後に先物主導で崩れた。銀行や保険など金融、輸送用機器など輸出、医薬品など幅広い業種が安い。
  TOPIXの終値は前日比14.99ポイント(1.0%)安の1512.60、日経平均株価は同153円96銭(0.8%)安の1万8909円26銭。TOPIXは2月2日以来、日経平均は2月9日以来の安値となった。
  アムンディ・ジャパンの浜崎優市場経済調査部長は「欧米ともに政治の先行き不透明感が強い」と指摘。「米国ではオバマケア代替法案の採決撤回後の混乱があり、英国ではEU離脱の通知があったばかり。実質新年度入りで、今後を見据えると手掛けにくい」と話す。
  東証1部33業種別では、鉱業や卸売、海運、化学、医薬品、食料品、銀行など32業種が下落。三菱UFJモルガン・スタンレー証券が投資判断を上げた東京ガスを含む電気・ガスのみ小幅高。
  売買代金上位では、三井住友フィナンシャルグループなどメガバンクやKDDI、ファナック、武田薬品工業、SUMCO、花王が安く、経営統合を見送る森永製菓と森永乳業は大幅安。三菱モルガンが強気の投資判断で調査を開始した良品計画のほか、東芝、ファーストリテイリングは高い。
東証1部の売買高は22億2223万株、売買代金は2兆5882億円
値上がり銘柄数は270、値下がりは1677
●長期金利2週間ぶり高水準、日銀オペ方針警戒や10年入札に向けた売り
(記事全文はこちらをクリックしてご覧下さい)
   債券相場は下落。長期金利は2週間ぶり高水準を付けた。日本銀行が夕方発表する4月の国債買い入れ運営方針で購入金額のレンジが引き下げられることへの警戒感に加えて、来週の10年債入札に向けた売りが相場の重しとなった。
  長期国債先物市場で中心限月6月物は、前日比1銭安の150円36銭で開始。直後に150円38銭を付けた後、徐々に軟化して150円26銭まで下落。結局は9銭安の150円28銭で引けた。
  岡三証券の鈴木誠債券シニアストラテジストは、「今日はオペの運営方針発表を控えてちょっと慎重なようだ。買い入れレンジを下げることに対する警戒感と、来週の10年債入札に対する警戒感から若干甘い展開だ」と話した。
  現物債市場で長期金利の指標となる新発10年物国債の346回債利回りは、日本相互証券が公表した前日午後3時時点の参照値より0.5ベーシスポイント(bp)高い0.065%で始まり、その後0.07%と17日以来の高水準を付けている。4月4日に10年債入札が実施される。発行額は前回から1000億円減額の2兆3000億円程度となる。
  2年物375回債利回りは1.5bp高いマイナス0.19%と、新発債として2カ月ぶりの水準まで上昇した。新発5年物131回債利回りは1.5bp高いマイナス0.12%と、約2週間ぶりの水準まで売られた。
●ドルは一時112円台回復、米景気楽観−米政権運営に不透明感残る
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  東京外国為替市場のドル・円相場は一時、約1週間ぶりに1ドル=112円台を回復した。前日の良好な米経済指標や金融当局高官からの発言がドル買いを支えたが、トランプ米政権運営への不透明感が根強く残る格好となった。
  午後3時53分現在のドル・円は前日比0.1%安の111円84銭。朝方に付けた111円70銭から正午過ぎに一時112円20銭まで上昇し、21日以来のドル高値を更新した。その後は伸び悩み、111円台後半に下げた。主要10通貨に対するドルの動きを示すブルームバーグ・ドル・スポット指数も一時0.1%高の1225.37と1週間ぶりの高水準を付けた。
  東海東京証券金融市場部外貨管理グループの吉田幹彦グループリーダーは、ドル・円の上昇について、「今週にかけて売り込み過ぎていた分のリバウンドが続いている印象。110円割れを失敗したことを契機としたショートカバー(売り建ての買い戻し)が強まっている」と説明。「目先的には3月末を112円台で引けるかが焦点。その上で、向こう2、3日は新年度期待で113円を取れるかどうかといった展開になる」と見込んでいる。
  ユーロ・ドル相場は同時刻現在、0.1%高の1ユーロ=1.0679ドル。前日には一時1ユーロ=1.0672ドルと15日以来のドル高・ユーロ安水準を付けた。3月のドイツ消費者物価指数(CPI)速報値が前年比1.5%上昇となり、市場予想(1.9%上昇)を下回ったことが重しとなった。31日には3月のユーロ圏消費者物価指数が発表される。ブルームバーグ調査によると、前年比1.8%上昇が見込まれている。2月は同2.0%上昇だった。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-31/ONNXFI6TTDS201


 

http://www.asyura2.com/17/hasan120/msg/594.html

[政治・選挙・NHK223] 森友事件と南スーダンとの共通項 下世話な理由 安全保障独自技術がないと世界で足元 稲田防衛相に見る「出世女子」の未来
森友事件と南スーダンとの共通項

著者に聞く

ジャーナリスト2人がインテリジェンスを語る(後編)
2017年3月31日(金)
清野 由美

(前編から読む→こちら)

現在、北朝鮮の挑発がいよいよあからさまになっています。<前編>では、トランプ大統領とアメリカの情報機関とのぎくしゃくした関係が、現下の事態に影を落としているということでした。それはどういう意味なのでしょうか。(文中敬称略)
手嶋:本来、超大国アメリカが戦略正面としてきたのは、中東と東アジアの二つ。同盟国である日本の立場からすれば、東アジアにも十分な抑止を効かせてもらわなければいけません。しかし、2001年9月11日の同時多発テロ事件をきっかけに、アメリカは持てる外交、情報、軍事のすべての力を中東に注いで、アフガン戦争からイラク戦争へと突き進んでいきました。

池上:ジョージ・ブッシュ政権の下で、9.11の翌月にはアフガニスタンへの軍事介入が始まり、イラク戦争へと向かっていきましたね。2006年にフセインを処刑し、2011年にオバマが戦争の終結を宣言はしましたが、その禍根はISといった新たな形となって、今日に至っています。


手嶋 龍一(てしま・りゅういち)
外交ジャーナリスト・作家。1949年、北海道生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。元NHKワシントン支局長。2001年の9.11テロ事件では11日間にわたる24時間連続の中継放送を担当。自衛隊の次期支援戦闘機をめぐる日米の暗闘を描いた『たそがれゆく日米同盟―ニッポンFSXを撃て』、湾岸戦争での日本外交の迷走を活写した『外交敗戦―130億ドルは砂漠に消えた』(共に新潮文庫)は現在も版を重ねるロングセラーに。NHKから独立後の2006年に発表した『ウルトラ・ダラー』(新潮社)は日本初のインテリジェンス小説と呼ばれ、33万部のベストセラーとなる。2016年11月に書下ろしノンフィクション『汝の名はスパイ、裏切り者、あるいは詐欺師-インテリジェンス畸人伝』を発表。(写真:大槻純一、以下同)
手嶋:その結果として、もう一つの戦略正面である東アジアには、巨大な力の空白が生じることになりました。そのことを、もっともよく分かっていたのが、北朝鮮の独裁者です。金正恩委員長の見立ては、まことに怜悧で精緻としかいいようがありません。

つまり、アメリカの弱点を見抜いている。

オバマ政権の「戦略的忍耐」の結果

池上:実際、3月に入ってからも次々とミサイルの発射実験を行っています。22日の1発は失敗しましたが、それに先立って6日に行った4発の弾道ミサイルのうち3発は日本の排他的経済水域に達しました。ミサイルの小型化や射程の精度も徐々に上がっています。

手嶋:国連安保理の非難決議など、正恩にとってみたら、蚊に刺されたようなものです。

そんなことでいいのでしょうか。

手嶋:よくありません。東アジアにこんな事態を作り出してしまったのは、超大国アメリカの責任です。とりわけオバマ時代。「戦略的忍耐」などと言い訳をしていましたが、何もしないことを、外交的な修辞でごまかしていたにすぎません。

池上:中国が南シナ海を埋め立てて島を作って、軍事基地化をあからさまにしたのも、オバマ時代ですからね。

手嶋:軍事力の行使という伝家の宝刀など抜かないほうがいいに決まっています。しかし、オバマ時代のアメリカは、伝家の宝刀が懐にないことを北の独裁者に見透かされてしまっていたのです。

情報機関は「政権が求める情報」を出しがち

アメリカの大統領がオバマからトランプに代わったのは、日本にとってマシな方向だったりするのでしょうか。

池上:前編でお話したように、トランプ政権は運営面で問題が山積みです。とりわけインテリジェンス方面では、大統領と情報機関のいがみあいが、かつてないほど深まり、また表に出てしまっている。それは、日本にとって、まったくいいことではありません。

手嶋:インテリジェンスの鉄則を言いますと、情報機関は「指導者の決断を誘導するような情報操作をしてはならない」ということが第一にあります。意思決定をする人と、情報を収集・分析する組織は、厳格に隔てられているべきです。情報機関が恣意的に機密情報を権力者にあげて、決断のあり様を操る、などということはあってはならないからです。

情報に色を付けるべきではない。建前としては分かりますが、守れるものなのでしょうか?

手嶋:ここは守らなければ国を誤ります。イラク戦争がその悪しき例です。ブッシュ大統領は、イラクが大量破壊兵器を保有しているという誤った情報を導かれて、イラクと戦端を開いたのですから。

池上:実際、ブッシュ大統領がイラク戦争に踏み切るきっかけになった、イラクの大量破壊兵器保有の情報は、報償に目がくらんだ情報提供者「カーブボール」の狂言だったことが明らかになっています。

 「カーブボール」という暗号名が付けられた人物は、当初はドイツの情報機関が事情を聴いていたんです。その結果、「情報が正確かどうか疑義が残る」という注釈を付けてアメリカに引き渡したのですが、アメリカは信じてしまった。

はあ…。


池上 彰(いけがみ・あきら)
フリージャーナリスト。1950年生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業後、NHK入局。社会部記者として経験を積んだ後、報道局記者主幹に。94年4月から11年間「週刊こどもニュース」のお父さん役として、様々なニュースを解説して人気に。2005年3月NHKを退局、フリージャーナリストとして、テレビ、新聞、雑誌、書籍など幅広いメディアで活躍中。近著に『僕らが毎日やっている最強の読み方;新聞・雑誌・ネット・書籍から「知識と教養」を身につける70の極意』(佐藤 優氏と共著、東洋経済新報社)『池上彰の「経済学」講義1 歴史編 戦後70年 世界経済の歩み』(角川文庫)『書く力 私たちはこうして文章を磨いた』(竹内政明氏と共著、朝日新書)など。
池上:人はおもねるし、また反対にトップがおもねりを要求すれば、重要な情報が上に挙がらなくなる。トランプがCIAとのブリーフィングを「ばかばかしい」と公言して手を抜いているおかげで、大統領が情報不足の中で決断する、という大きなリスクが生まれています。

手嶋:温厚でやさしい池上さんですら、トランプ大統領にはこんなに厳しい。トランプ政権はある種の四面楚歌状態にあるといえますね。そうした危険な状況下で、トランプ政権は、北朝鮮に対していくつかの軍事的なオプションを検討しはじめています。

どんなものなのですか。

手嶋:アメリカが大がかりな地上軍を派遣すれば、文字通り第二次朝鮮戦争が勃発してしまいます。いまの段階ではその可能性は高くありません。武力衝突が起きるとすれば、外科手術的な空爆と、サイバー攻撃の二つが可能性として挙げられます。

池上:その二つのオプションのうち、サイバー攻撃は、あの国に対しては、あまり効き目がないんじゃないか、と言われています。

手嶋:そもそも、北朝鮮は情報系のインフラが整っていませんからね。

池上:何といったって、あそこはいまだに有線連絡の国ですからね。北朝鮮では本当に大事な伝達事項の場合は、伝令が走る。それが一番秘密を守ることになるから。

手嶋:アナクロな伝令が、いまの世界では実に有効で、サイバー攻撃には強い。まったく皮肉なことです。

池上:サイバー攻撃はそう効果がないとすると、巡航ミサイルのトマホークで、となるのですが、金正恩は地下深くに作った複数の建物を移動しながら暮らしているというので、バンカーバスター(地中貫通爆弾)でないと効果はないでしょう。でも、どこにいるか正確な情報がないと、ピンポイント攻撃もできません。

人気欲しさに決断する恐れも

手段はさておき、アメリカは本当に実力行使に踏み切るのでしょうか。

手嶋:最終的な決断はまだ下していないのでしょう。ただ、四面楚歌状態のトランプ大統領の心中を忖度すれば、北朝鮮を巡航ミサイルで攻撃したいという誘惑に駆られ始めているはずです。

池上:現在の北朝鮮が相手ということでしたら、民主党だって「これはダメだ」とは言いにくいでしょう。米軍の先制攻撃だけであれば、アメリカ議会の承認はいりませんし。

手嶋:我がニッポンだって、リベラルなメディアは「みんなで平和を祈りましょう」と社説では主張するかもしれません。でも本心では、日本への脅威が取り除かれて、安堵する向きもあるはずです。池上さんだって朝日新聞の"斜め読み"で手厳しい批判はしないでしょう。北朝鮮の核施設への攻撃に内外でそれほど厳しい批判は出ないはずだ、とトランプ政権は判断する可能性があるのです。

池上:むしろ人気取りに使えそう。

手嶋:となると、トランプ大統領はいよいよ伝家の宝刀を抜く誘惑に駆られても、おかしくはない。伝家の宝刀を抜けば、必ず支持率が跳ね上がることを、大統領は本能的に知っています。だから恐ろしいのです。

池上:国内の支持率を上げるために決断しそうですね。軍事介入のリスクとベネフィットなど、たいして考えもせずに。

手嶋:ぼくは二度にわたって十数年もNHKのワシントン特派員を務めたのですが、その間、おびただしい数の「力の行使」に付き合ってきました。確かに力を行使すれば必ず支持率は上昇しました。

池上:9.11のときも、ワシントンにいた。

手嶋:パナマ侵攻からグレナダ侵攻、第一次湾岸戦争、そしてイラク戦争と、伝家の宝刀をいとも簡単に抜く国家なのです。そして、いつ、いかなる場合でも、抜いた瞬間に、政権への支持率はぴーんと高まる。だからトランプ大統領は「やりたい」はずです。

話を少し変えまして、金正男の暗殺については、どうお考えでしょうか。

手嶋:あれは、オレオレ詐欺の類推が分かりやすい。

オレオレ詐欺?

池上:まあ、北朝鮮の手口も、お手軽になった、ということですよね。

手嶋:1987年の大韓航空機爆破事件では、時間もコストもかけて、金賢姫というエリート工作員を、自国内で訓練する“余裕”がありました。でも、いまや大きな方向転換をしたのです。オレオレ詐欺と同じで、「出し子はアウトソーシングすればいい」と、現地でスカウトをするようになった。出し子クラスがいくら捕まっても、北朝鮮はなんの痛痒も感じないはずです。

池上:あの事件では、現地でオペレートしている人間にすら、情報を与えていないでしょう。

手嶋:手口はお手軽ですが、暗殺にVXガスを使っている。国家の介在はあきらかですよ。コンビニ一つ作るにも独裁者の裁可が必要な国なのです。だから、最高権力者の許可なしにその兄を暗殺することなんて、できるわけがない。しかし、この事件はこのまま迷宮入りしてしまう可能性があります。

金正男来日事件で見せた日本の稚拙さ

池上:金正男といえば、2001年に彼が日本に来たときに、当時の政府が取った対応は、ものすごく稚拙でした。

手嶋:ぼくはワシントンにいたので、直接、現場で取材はしていないのですが、事件当時、アメリカのその筋が、「なんで日本はすぐに帰しちゃったんだ。我々は怒っている」と、と憤懣やるかたない様子でした。

池上:当時の外務大臣だった田中真紀子がパニックに陥って、「早く返しなさい」ということになってしまったんですよ。このとき、正男の一行はシンガポールから日本に入りましたよね。その情報は、イギリスのMI6から日本の公安調査庁に連絡があったのですが、同じ法務省の入国管理局に伝達された。


 実は成田空港では、独自に日本国内で情報を得ていた警視庁の公安が待ち構えていたのです。それこそ正男が東京の赤坂や新宿で、どんなところに出入りして、どんな人たちと会っているのかを知るのに、またとないチャンスじゃないですか。公安は北朝鮮とつながる場所や組織を全部見てから、出国時に捕まえるつもりだった。ところが、いつまでたっても正男は空港の外に出てこない。

手嶋:あれ、外務省のアジア局のナンバーツーがエスコートして飛行機の席まで用意して、帰しちゃったんです。金正男の指紋は採ったけれど、DNAは採取しないまま。その翌年に、小泉純一郎首相と金正日委員長による「日朝平壌宣言」を発表する交渉が、水面下で進んでいました。当時の日本の外交当局は、北朝鮮側を腫れ物に触るように扱っていた。そうした誤った宥和主義の果てに、正男を送り返してしまったんです。その責任は重いと思います。

池上:DNA情報などは、インテリジェンスにとって、ものすごく有利なカードですからね。今回だって、その情報があれば「これは間違いなく金正男本人か」を、日本のカードだけで確認することができて、国際社会に恩義を売ることができた。

そもそも日本のインテリジェンスは、弱いのですか。それとも意外に強いのでしょうか。

手嶋:G8の中で対外インテリジェンス部局がない唯一の国が日本です。

ということは、弱い。

池上:極めて弱いです。

手嶋:その中で、外務省と警察がインテリジェンスを担っています。しかし外務省は非合法やグレーゾーンでは動けません。ということは、インテリジェンスとして機能するわけがない。海外で活動する場合は、そもそも、どこがグレーゾーンなのか、それすらはっきりしない世界なのですから。

池上:それはまずいということで、日本はインテリジェンス要員を育てようとしているのですが、そこでまた、外務省と警察庁が主権をめぐっていがみ合っています。
 お互いに近親憎悪みたいなものがあるんでしょうね。インテリジェンス機関を作りたい、ということになった途端、関係者が私のところに、「ご説明にうかがいたい」とか言ってくるんです。

何を目的に。

池上:世論工作ですね(笑)。

手嶋:でも、ぼくは、池上さんこそ最もインテリジェンス要員にふさわしいと思っているんです。なにもスパイになれと言っているわけじゃありませんが。

池上:なんですか、それは。

手嶋:公開情報を幅広く分析し、これはという情報の宝石、つまり貴重なインテリジェンスを見つけ出すことに秀でている、ということです。池上さんがかつて担当していた「週刊こどもニュース」は、本当にすぐれた情報番組でした。あの番組は、ワシントンでも見ることができたので、貴重な日本の情報分析として、いつも拝見していましたよ。

 池上さんという人は、込み入った事象を前にすると、本能的に解説したくなる。そんな断ちがたい衝動を内に秘めていると、ぼくはNHK時代から睨んでいました。それは、ほとんどビョーキに近い才能なのですが。

池上:褒めているんですか。それとも、けなしているんですか。

ヒューミント要員育成という難題

手嶋:そんな池上さんは、日々、膨大な情報に接していると思うのですが、そこからどうやって真のニュースをつまみ出していますか。すこしは手の内を明かしてください。

池上:いや、いくら本を書いても、文字化できないものってあるでしょう。日々、何となくやっていることなんだけど、人に説明できないという。

手嶋:インテリジェンス活動で得る情報は、人間を介した情報の「ヒューミント」と、傍受情報の「シギント」に大別されますが、日本はとりわけヒューミント畑の人材育成が急務だと思います。


 たとえば、その筋の人が池上さんと接触して、いろいろな素材を置いていく。そうすると、池上さんがそれに粉にまぶして発信する。それが、いわゆるリークであり、ヒューミント活動です。情報をもたらす人は、もたらした先が発信しないと、リークしてくれなくなります。人間関係の機微が関わることですが、実際、こちらが二度続けて記事にしなかったら、もうそれ以上のリークはないですからね。

 そのような情報提供者とメディアの関係を知った上で言いたいのですが、日本はいまこそヒューミントに秀でた人材の育成が急務です。

日本はなぜヒューミントの育成が遅れているのでしょうか。

手嶋:どうしてか。それは、つまり、アメリカが、そういう能力を日本に持たせなかったからです。太平洋戦争が終わって、占領下に入ったときに、「日本の代わりに、アメリカがやってあげますよ」と、なってしまったんです。

池上:でもアメリカは、日本ではなくアメリカの国益のために、諜報活動をやっているわけですからね。

手嶋:先ほどお話した、イラク戦争の根拠となった、イラクの大量破壊兵器保有情報についていえば、当時の日本政府もCIAに騙されていたわけですよ。

池上:小泉内閣のときですね。

手嶋:日本との交渉には大抵、CIAの副長官がやってくる。それで、首相のそばでインテリジェンスをやっている人と話す。あのときは「官邸のラスプーチン」と呼ばれた飯島勲さんが、内閣総理大臣秘書官でした。

池上:佐藤優氏ではない、もう一人のラスプーチンですね。

手嶋:CIAの副長官は、飯島さんにこう持ちかけました。「あなたを男と見込んで、見ただけで目が潰れちゃいそうな極秘情報をお見せしましょう」って。そう来られたら、誰だって感激します。それで飯島さんも、アメリカ側にまんまと取り込まれてしまった。

池上:今の手嶋さんの話を解説しますと、だから日本も自前のインテリジェンス要員を充実させるべきだ、ということです。

手嶋:その通りです。

それは現在、問題となっている特定秘密保護法とも関係のある話なのでしょうか。

池上:本質的なところは、日本は自らの独自情報を持つのかどうか、ということであって、秘密保護法があるからインテリジェンスへの意識や能力が促進される、ということではありません。

南スーダンと森友事件に見る共通項

手嶋:日本は現行法の下でも、ある種の情報コントロールがなされている国です。いい例が防衛省の南スーダンPKOの日報事件ですよ。内部の人間というものは、たとえば情報の開示請求があった段階で、アブナイものを全部消してしまおうとする。

 防衛省で言うなら、外交機密、防衛機密がある、と外に分かってしまうと、整合性の観点から、それを国会答弁のような公の場でも言わなければならなくなります。だから「ない」ことにする。

なるほど…。

手嶋:一連の森友学園の問題もそうです。不明瞭な経緯はあるけれど、それは公には言えない。じゃあ、あることを、ないようにするためには、どうすればいいか。情報開示の前段階で、記録をシュレッダーにかけて、消してしまう。実に姑息であり、これは誠に国家的な犯罪ということができます。

池上:手嶋さんは、そのことをずっと言い続けていますよね。『ウルトラ・ダラー』(2007年)の中では、フィクションの登場人物の口を借りて、激しく批判をしています。

手嶋:日本の官僚たちは、日米安保に関する文書の研究会なるものを作って、情報の開示請求に先手を打って、機密文書を処分していったのです。核持ち込み時の機密文書などがその典型です。ああいう文書は、戦後の日本外交のエッセンスなのです。にもかかわらず、官僚たちは「残しておくとあぶない」と判断し、地上から歴史の第一級資料を抹殺していった。官僚としてもっとも恥ずべき犯罪です。どの書類をシュレッダーにかけるか、ということを、官僚に決めさせてはなりません。

池上:森友学園の問題も、財務省に記録がないなんてあり得ないですよ。国有地をヤバい形で売却する場合、役人は自己保身のために必ず記録を取っているはずです。

縄張り争いで瓦解した日本のインテリジェンス

手嶋:無理やりに対談のテーマにこじつけると、そのあたりにも日本の情報に対する怠慢、そしてインテリジェンスの感度のなさが表れているんです。

 歴史を振り返ってみると、戦前は陸軍中野学校と外務省が諜報の縄張り争いをして、たこつぼ化に陥りました。そのあたりから、もうおかしくなっています。 

池上:日本のインテリジェンスは中野学校が一大勢力だったわけですが、その陸軍にとって最大の敵は外国ではなくて、日本の海軍だった。そういうムラ社会の体質を、ずっとひきずっていますね。

世界のインテリジェンス地図で強い国といったらどこになるのでしょうか。


『汝の名はスパイ、裏切り者、あるいは詐欺師-インテリジェンス畸人伝』(マガジンハウス)
世界のVIPを震え上がらせた「パナマ文書」、告発サイト「ウィキリークス」の主宰者アサンジ、CIAの国家機密を内部告発したスノーデン、詐欺師の父を持ち、スパイからベストセラー作家に転身したジョン・ル・カレ、銀座を愛し、ニッポンの女性を愛した、20世紀最高のスパイ・ゾルゲ…古今東西、稀代のスパイはみな、人間味あふれる個性的なキャラクターばかり。人間味あふれるスパイたちが繰り広げるドラマチックなストーリーは、同時に、今の時代を生き抜くために欠かせない、インテリジェンスセンスを磨く最高のテキストだ。巻末には手嶋龍一氏が自らセレクトした、「夜も眠れないおすすめスパイ小説」ベスト10付。
池上:イスラエルのモサド、イギリスのMI6、中国国家安全部、パキスタンのISI、それからドイツ、ロシア、フランス、インド、といった諜報伝統国の存在感があります。トルコも同じトルコ系住民のいる中央アジアに関して精力的に情報収集をしています。

手嶋:アメリカについては、組織は大きいのですが、インテリジェンス大国とはいえません。アメリカは、たとえ情報が誤っていても、圧倒的な軍事力を持っているため、力で決着をつけることができる。イラク戦争がその悪しき例です。超大国は必ずしも情報大国にあらず。しかもアメリカの力は、あきらかに弱まっています。戦後の半世紀は、アメリカ頼みでも済みましたが、中国が海洋に競り出し、安全保障環境が変わった現在、日本もいまのままでは生き抜いていけません。

池上:いや、日本にとってインテリジェンスは喫緊の課題です。新しい体制を早く作らないとダメですよ。

(進行・構成:清野 由美)


このコラムについて

著者に聞く
「著者に聞く」の全記事
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/book/15/101989/032900024


 


安全保障、独自技術がないと世界で足元見られる

「軍民両用技術」の曲がり角

防衛ジャーナリストの桜林氏、装備庁制度に理解
2017年3月31日(金)
寺井 伸太郎
防衛装備庁の「安全保障技術研究推進制度」に関する議論が学会を中心に活発化する中、 防衛産業や自衛隊の実情に詳しいジャーナリストの桜林美佐氏は「イデオロギーに基づく反対論が多い印象」と指摘する。

防衛ジャーナリストの桜林美佐氏(写真:大槻純一、以下同)
日大芸術学部卒。フリーアナウンサーなどを経て、防衛ジャーナリストに。「自衛隊と防衛産業」「武器輸出だけでは防衛産業は守れない」「誰も語らなかった防衛産業」などの著作がある。
デュアルユース技術をどのようにとらえていますか。

桜林:辞書的には、確かに軍事にも民生にも両方使えるという意味だと思います。ただ、それだけではちょっと説明しきれない部分があります。

 防衛装備品は極めて厳しい要求であるミリタリースペックを満たすものでなければいけません。デュアルユースと一口にいっても、民生品に使っているものを、そのまま簡単に防衛装備品に転用できるわけではありません。技術の根っこは同じでも、防衛装備品に仕立てていくには、実はものすごい壁がある。そして、最終的に防衛装備品に具現化するのは防衛産業や防衛省の技術者ですね。

 ですから、両方の用途に容易に使えるということを前提にしてしまうと、ちょっと違和感を覚えます。

 そのうえで、大きな理解としては、デュアルユース技術は使いようだと思いますね。現在は、民生品で使われている技術を、軍事のレベルに上げていく「スピンオン」の方向が増えています。従来は、軍事のために開発されたものを民生品に生かす「スピンオフ」が主流でした。様々な技術がスピンオフとスピンオンを繰り返し、積み上げてきたものが混在しているのが現在の状況です。デュアルユースと一言でくくるよりも、スピンオフ、スピンオンと丁寧に言い分けるのが正しいと感じています。

デュアルユース技術は米国が熱心に取り組んでいるイメージがあります。

桜林:軍事関連の技術開発を国全体で強化する。それをスピンオフにつなげ、自国の民間産業にその恩恵をもたらす取り組みを、国防高等研究計画局(DARPA)という組織が象徴的に進めています。

 国全体の科学技術の力、つまり国力を上げていくためには、最高峰・究極の水準にある軍事の技術力を高めて、それを国全体に波及させるという発想だと思います。

イデオロギーに基づいた印象の反対論

日本では防衛装備庁が進める安全保障技術研究推進制度に対して学会がネガティブな反応をしています。

桜林:確かに日本学術会議では反対意見に勢いがあります。「軍事研究を戦時中にやっていたトラウマだ」との理由がつけられていますが、私はそれよりも、政治的というか、イデオロギーの問題であるとの印象を受けています。

 現在はスピンオンとスピンオフが世の中に混在している状況です。スマホをはじめ、民生品全般がIT化されている。これはもうすべて軍事にも転用可能です。この現実を学術会議の人たちが知らないはずはありません。

 したがって、安全保障技術研究推進制度に対する反対は、「軍事研究をしている、イコール防衛省からお金をもらっている。防衛省は軍だ、軍は他国を侵略するものである」という流れの思想に基づいている気がします。いろいろな意図が入っていますから、デュアルユース技術そのものが否定されているわけではないと考えます。

デュアルユース技術そのものが悪ではない、ということですか。

桜林:インターネット、GPSなど軍事に由来する技術は今や身近に溢れています。一方で、100円ショップやホームセンターで簡単に買える民生品を使ってテロだって起こせるわけですね。軍事由来のGPSは悪で、ホームセンターで手に入る民生品の圧力鍋は善、みたいな区分がもう成り立たない世の中になっているわけです。そこをまず理解しなくてはいけません。

 仮に「デュアルユース技術」という表現から「科学者が善かれと思って取り組んだ研究が、意図とは異なり軍事に使われる」という誤解を招くのでれば、この言葉は使わない方がいいのではないか――関係者の間ではこうした話も出ています。

おカネの出所で軍事研究と断定

特定の技術、特定の研究に対して、軍事と結び付けてネガティブな評価をするのは難しい。

桜林:そうです。そもそも、様々な研究を民生と軍事に区分けすること自体が難しいわけです。船が転倒するのを防ぐ研究、手のひらに乗るロボットの研究、それは軍事なのかどうか?

 見極めがつくのはおカネの出所でしょう。もし文部科学省の予算からの支出ならば軍事研究ではないとくくられることになる。


学術会議の声も生かし運用改善を

安全保障技術研究推進制度について、どう評価していますか。

桜林:この分野で先行する米国では国防総省を中心に同様の取り組みをやっています。米国と比べて日本は非常に縛りがきつい部分があります。例えば最初から一定のテーマありきで募集をかける点です。その後にやや神経質な進捗管理が入る点もあります。もう少し自由度を上げてもよいのではと思いますね。

 研究者から見れば、防衛装備庁に「やらされている」感が否めない。学術会議が問題視するのも無理のない制度になってしまっている面もあります。

 国民の税金を使うため、現在の運用で進めているわけですので、今後見直していけばいいのかなと思います。見直しは、例えば学術会議の方を巻き込んでもいいですし、いわゆる委員会みたいなものを立ち上げてやってもよいでしょう。

 制度が始まったことに関しては、大変評価しています。これまで産官学の協力といっても、「学」の世界とはすごく距離がありました。

 「防衛省は開発力に限界を感じて、大学に頼らざるを得なくなったのですか」と聞かれることがありますが、そういうことではありません。防衛装備関連の研究開発はもともと、防衛省の研究機関と防衛産業の2者でやってきました。この仕組みは、陸・海・空3自衛隊のニーズがまずあって、その要望に基づいて防衛産業が進めるというプロセスでしたから、その枠を超える自由な発想には至らない弱点がありました。安全保障技術研究推進制度はこれを埋めるためのものです。

防衛産業の自主性だけでは研究に限界

研究が自衛隊の求める内容に偏っていたと。中長期的に必要かもしれない研究の幅の広さがやや欠けていたわけですね。

桜林:そうですね。予算には限界がありますし。自衛隊が関心のある直近のニーズ以外の部分、先進的なことは企業が自主的にやっていましたが、リーマンショックが起きて事情が変わりました。企業の研究開発費は非常に抑制的になる中、防衛事業部門も先進分野の研究まで負担するのは非常に厳しくなりました。もともと企業内で非常に肩身が狭い事業分野ですから。

 ちょっと話がそれますが、今、関係者の間ではレールガンが注目されています。日本では、企業の一部の研究者が数百万円ぐらいの予算で昔から研究に取り組んでいた分野です。お小遣いみたいなお金の範囲でやってきたので、なかなか発展しない。その間に、米国がどんどん進んでいきました。こうした分野がほかにも結構あります。

 このように企業が自主的にやってくれていた部分に防衛省が甘えていた部分があります。ただ、なかなか表に出しにくい話なのであまり語られてきませんでした。もっと幅広い発想に立った基礎研究を広くすくい上げたい、という発想は元からあったと言えます。

 ただ、学術の世界は、防衛省、自衛隊に対する拒絶反応がもともと極めて強くて、人事交流も限定的です。こうした経緯を考えると、安全保障技術研究推進制度への拒絶反応が起きるのは全くの想定内のことです。

安全保障技術研究推進制度がスタートして2年たちました。応募状況や運用成果などをどう評価しますか。

桜林:米国のDARPAは大変自由な発想で研究を任せており、すぐに成果を上げることを必ずしも期待していない。そういう環境でうまくやっています。日本で成果がすぐに表れるかどうか分かりませんが、私は短期的な成果はあまり気にしていません。むしろ学会との長い断絶を埋めるプロセスの第一歩だと、おおらかな目で見ています。

日本学術会議の「安全保障と学術に関する検討委員会」が作成した声明案は、安全保障技術研究推進制度への応募に慎重姿勢を求める内容です。

桜林:拘束力のない声明ですから、個々の研究者が粛々と応募すればいいのではないかと思います。

 ただ各大学によるチェック機能の強化はネックになる可能性があります。学術会議の声明が個々の研究者に対して強制力を持つものではないとしても、声明を受けて、大学や研究者の側で自主的な抑制が強まることが懸念されます。

 学術会議での議論が今回これだけ報道され、自衛隊と大学が冷たい関係にあることが広く知られる契機となりました。自衛隊に対する理解がこれだけ深まっているといわれる中で、学術会議の姿勢に世論がどう反応するかは興味深いところです。

独自技術がなければ米国に足元を見られる

そもそも論ですが、安全保障と科学技術の関係性をどう考えますか。

桜林:日本が直面している喫緊の問題はミサイル防衛です。まず北朝鮮のミサイル、あるいは中国のミサイル、これらに対する防備をしなければいけない。これは、かなり差し迫った課題です。

 そこで防衛費を増やし、ミサイル防衛システムを米国から買おうというのが今の方向性です。トランプ政権との関係を構築するためにも米国の防衛装備品を導入しようと。

 ただしミサイル防衛の装備は高額ですから、日本の財政を圧迫していきます。初期費用はもちろん、長期的に維持コストもかかります。突然値上がりすることもあるでしょう。実は大きなリスクを抱えた問題です。単に買うだけだと米国に足元を見られてしまいます。

 それを避けるためには、日本が独自の技術力を持つことが大事です。日本の技術を活用した共同開発を持ちかけるなど、交渉力の強化につながります。科学技術を発展させることは、単なる「買い物国家」にならないために非常に重要です。


このコラムについて

「軍民両用技術」の曲がり角
 防衛用にも民生用にも使える軍民両用技術「デュアルユース」。ロボットやAI(人工知能)などの最先端分野を中心に、軍民の境目は薄まりつつある。防衛装備庁は2017年度、デュアルユースの活用に向け、有望な研究を手掛ける大学や企業などに提供する資金を大幅に拡充。だが「軍事」への警戒感を持つ研究者らが反発し、激しい議論が起こっている。有識者へのインタビューを交えつつ、現状をリポートする。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/031500046/032900004


 

森友学園報道が下世話な理由

小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 〜世間に転がる意味不明

2017年3月31日(金)
小田嶋 隆

 連日メディアを騒がせている森友学園関連のニュースに、果たして、どんなスタンスで向き合ったら良いのかについて、この10日間ほど、あれこれ考えていたのだが、いまだに結論が出ない。

 たぶん、うまい答えは見つからないのだと思っている。
 とりあえず、今回は、この事件がどうしてこんなに騒がれているのかについて考えてみることにする。

 森友事件については、当初から

 「あからさまな人格攻撃じゃないか」
 「とてもじゃないがマトモな政治報道とは思えない。ただのスキャンダリズムだ」
 「登場人物のキャラが立っているから、テレビ用の画面(え)になりやすいというだけのことで、ニュースとしてはベタ記事レベルのネタに過ぎない」
 「こんな事件を掘り下げるより、もっと人員と予算を割り当てるべき取材先はほかにいくらでもあるんじゃないのか?」
 「北朝鮮が大変なことになっているのに、こんなことに時間を費やすなど正気の沙汰ではない」
 「国会議員にしても、こんな水掛け論にアタマを使うのではなくて、まっとうな政策論争をたたかわせるために選ばれたはずの人間で、だからこそ選良という言葉があったと思うわけだが、オレのこの見方は間違ってるか?」

 といった感じのツッコミの声が、各方面から多数寄せられていた。
 いちいちごもっともだと思う。

 たしかに、この事件についての報道は、はじめから、インパクトありきの、扇情的な画面構成がリードするテの、いかにもワイドショー好みな、曲馬団見世物小屋ライクな、どうにも品の無い、客引きのオヤジのダミ声が聞こえてきそうな劇場型スタジオライブバラエティとして視聴者に供給されていた。

 その意味では、森友関連報道は、第一に下世話だし、第二にスキャンダリズム横溢だし、以下順に、興味本位だし、扇情的でもあれば、覗き趣味でもあって、総体として、テレビの報道の悪いところをすべて集約したニュースであると決めつけて差し支えのない、稀代のゲテモノだった。

 ただ、私自身は、このニュースを伝えるメディアの伝え方に品が無いのはその通りなのだとして、だからといって伝えることそのものに意味が無いとは思っていない。

 むしろ、このニュースの真骨頂は、その下世話さに宿っているのではなかろうかと思っている。
 理由は、以下順次説明する。

 思うに、このニュースの伝えられ方が下世話なのは、ニュース番組を制作している記者やディレクターが品性下品であったり、視聴者が悪趣味であるからというよりは、テレビカメラの向こう側で起こっていること自体が、どうにもこうにも俗悪であることの反映なのであって、とすれば、ありのままを映すというテレビの文法からして、俗悪で陋劣で野卑で下劣な出来事は、やはり真正直に、下品かつ下衆かつ低俗な手法で伝えるほかにどうしようもないはずなのだ。

 上品ぶっていれば済むというお話ではない。
 きれいなカメラで撮ればゴミの山がイケてるイメージ映像に化けるわけではないし、高級な皿に載せることで腐った刺身がよみがえるものでもない。

 やはり、汚いものは汚い言葉で伝えなければならない。
 その意味で、森友報道は、おおむね適切な伝えられ方で伝えられている。

 ついでに言えば、このような下世話なニュースに視聴者の関心が集まっているのは、現在の政局を動かしているものが、真摯な政策論争や高尚な文化的議論ではなくて、えげつなくもいやらしい権力闘争やいじましくもみみっちい揚げ足取りの応酬であることを視聴者があらかじめ知っているからで、だからこそ、森友学園をめぐる一連の出来事の行間にあらわれている了見の狭さやケツメドの小ささに、私たちは、人が人を小突き回す営為たる政治のリアルを感じ取らずにおれないのであり、また、この胸が悪くなるような俗悪なコンテンツを直視し続けることの先にしか、自分たちの置かれている現実を把握する方法が無いことを、直感として理解しているわれら視聴者は、どうしてどうしてなかなかその視聴者を視聴している腐れインテリが思っているよりはずっと賢いのである。

 いまから半月ほど前の、事件を伝えるメディアの声のトーンがまだそれほどカン高くなる前の3月14日の時点で、政府は民進党からの質問主意書に答えて「首相夫人は公人ではなく私人である」とする答弁書を閣議決定している。

 私は、この時の閣議決定が、この後のニュースの伝えられ方に大きな影響を与えたのだと考えている。

 もちろん、これは、後知恵で気づいたことで、閣議決定が発表された時点では、

 「なんとまあ奇妙なことを言い出したものだ」

 ぐらいにしか思っていなかった。

 それが、冷静に評価するだけの時間を経過したいまの時点から振り返ってみれば、現在、森友学園についての報道が、こんなふうにヒステリックな色彩を帯びているのは、あの時の閣議決定の強弁が招いた結果であるということに思い至るのである。

 「首相夫人は私人である」

 という閣議決定は、意地になった安倍さんの感情の亢進を感じさせる閣議決定だった。
 というよりも、閣議決定として通用させるにはあまりにも無理筋な「強弁」に見えた。

 首相夫人は、「公人」であるとか「私人」であるとかいった形で、きっぱりと一方の側に定義できる立場の人間ではない。

 普通に考えれば、誰にだってわかることだ。
 場面によっては公人だし、そうでない時は私人だろう、と、そう考えれば良いだけの話だ。

 公費で雇われた首相夫人付きの公務員を伴って、公的な肩書を名乗って公務に随伴する仕事に従事する時は、当然「公人」と見なされるだろうし、プライベートの時間に買い物をしていたり、私的な友人とお茶を飲んでいる時は、「私人」としてふるまっているという、それ以上でも以下でもないではないか。

 政治家にしても同じことだ。
 公人としてふるまう時もあれば、私人としてくつろいでいる瞬間もある。

 ちなみに言えば、この議論は、ずっと昔から何度も繰り返されてきた定番の水掛け論でもある。
 よく蒸し返される話題としては、靖国神社に政治家が参拝する際に、私人として参拝したのか、公人として参拝したのかが、ずっと争われてきた。

 その際、どんな肩書で記帳したのかが話題になり、玉串料を私費から出費したのか公費から出したのかが問われたりした。

 この議論の前提になっていたのは、政治家のようなおおむね公人として分類されている人間であっても、その構えや立場や取り組み方や状況次第で、「公人」と見なされる場合もあれば「私人」と見なされる場合もあって、一概にその肩書だけでその人間の機能や内実を判断することはできない、ということだった。

 だからこそ、「公人」か「私人」か、という議論は、その都度、ケースバイケースで、場面ごとに、シチュエーションを限定した上で議論されてきたのである。

 今回の安倍昭恵さんのケースでも、彼女が、どの場面で「公人」であり、どんな時に「私人」であるのかは、その時々の、安倍昭恵さん自身のその場への関与の仕方や、周囲の人々との関係や、出費されている金銭の出どころや、関わっている時に名乗った名前や肩書によって、それぞれに違ってくるはずで、どっちにしても、首相夫人が「あらゆる場面で公人」であったり「すべての機会において私人」であるといったような主旨の主張は、いくらなんでもあまりにもスジが悪すぎて、本来なら、大人同士が話をする場所には、持ち込むことさえ許されない話なのである。

 その意味で、首相夫人を「私人」とする閣議決定は、議論の前提のちゃぶ台をいきなりひっくり返すお話で、到底公的なチャンネルから出てきたお話とは思えない。

 安倍昭恵さんが、森友学園を訪れて講演した時に「公人」であったのか「私人」であったのか、というピンポイントの議論をするなら、そこには、当然のことながら、議論の余地がある。

 つまり、昭恵夫人が私人として、森友学園を訪問し、私人として講演したという主張は、困難ではあるものの不可能ではないし、仮に閣議決定するのでも、この点に限っての判断を(つまり、「首相夫人は私人として講演をした」と)言い張るなら、それはそれでまるっきりあり得ない話でもなかった。

 ところが、政権は、「首相夫人は(どんな状況下でも)私人である」という恐れ入谷の強弁を閣議決定というのっぴきならない形で押し出してきた。

 閣議決定とは、内閣の最高度の意思決定会議(=閣議)によるもので、意思統一を示すために全員一致が原則で、もし異論があればその人を罷免して採択、という、大変位取りが高いものだ。決定内容は皇居にも送られるという。

 この場合は、野党の質問主意書に答えるためのルールとして、閣議決定が必要になるのだが、そんな、これ以上はないくらい重たい会議で、安倍さんは閣僚全員にこんな無茶な言い分を認めさせて、「これが統一見解だ」と出してきたわけだ。

 となれば、それを聞かされた方としても、ものの言い方が違ってくる。
 つまり、一方が強弁で来るなら、それを押し付けられた方は、揚げ足を取りに行くということだ。

 「ええええ? 私人なんだとすると、どうして専用の公務員が補佐してるんでしょうかねえ」
 「5人もお付きが付く『私人』って、いったいどこのマリー・アントワネットだ?」
 「ご自身のフェイスブックで、首相夫人付きの公務員を『秘書』と呼んでるけど、秘書として使役するつもりなら私費で私設秘書を雇用するのがスジだぞ」
 「っていうか、百歩譲って『私人』なのだという主張を飲み込んであげるのだとして、でも、そこのところを前提にすると今度は『どうして私人が私用で出かける大阪出張に公務員が随伴しているのか』という問題が出て来るぞ」
 「さらに百歩譲って『全面的に私人だけど、いろいろと公私混同している私人でしたテヘペロ』ってなことで理解してあげても良いんだけど、でも、お付きの公務員の首相夫人への随伴自体は『公務』だったことからは逃れられないんじゃないかな」
 「夫人付きの公務員というのは名ばかりの肩書で、実際はマブダチでしたと考えればすべてに説明がつくぞ。マブダチなら自腹休日ツブしで付き合うのが当然なわけだから」

 すまない。つい調子に乗った。
 何を言いたいのかというと、この度の森友関連報道が、重箱の隅をつつくような底意地の悪さと、あれこれと細かい食い違いや言い間違いを拾い上げてはネチネチと疑問を数え上げる揚げ足取りの報道に終始しているのは、そもそも、政府の側が、保管してあるはずの書類を「廃棄した」と言い張ったり、確認を求める野党議員の質問に「個別に確認をすることは差し控えさせていただきます」と木で鼻をくくったような答弁を繰り返してきたことへの反作用なのであって、つまり、一連の報道のタチの悪さは、政府の側の対応の悪さが招いた当然の帰結だということだ。

 3月28日になって、政府は、

 「安倍晋三首相の外遊に同行する昭恵夫人に対し、公用旅券である外交旅券を発給している」

 という主旨の答弁書を決定している。

 どうしてこんな閣議決定が唐突に出てきたのかというと、「私人」であるはずの首相夫人に、政府の公用旅券である外交旅券(←主に外交官などに発行されるパスポート)を出していることが明らかになったためで、これなどは、そもそも「首相夫人は私人だ」という強弁をしていなかったら、わざわざ説明するまでもない話だし、そもそもニュースにさえならない話題だ。

 というのも、首相に同行する首相夫人に外交旅券が発行されることを不自然に思う国民は、ほとんどいないはずで、なんとなれば、首相の外遊にファーストレディーとして随伴する首相夫人が「公人」であることは、誰もが普通にそう思っているごく自然ななりゆきだからだ。

 ところが、14日の閣議決定で、「首相夫人は私人だ」というあり得ない断定をやらかしてしまったおかげで、こんな当たり前なことに、わざわざくだくだしい説明をせねばならなくなった。

 「政府は、総理大臣夫人について、公務員としての発令を要する公人ではないとしていて、安倍総理大臣の夫人の昭恵氏も、サミット=主要国首脳会議への同行など総理大臣の公務を補助する活動を私人として行っているという見解を示しています。」

 と、NHKのニュースは、この間の事情を説明している(こちら)。

 つまり、首相夫人はあくまでも「私人」なのだが、「私人」として首相の「公務」を補助していて、その私人としての公務の補助のために旅券が必要なので外交旅券を支給しているというお話だ。

 二重にも三重にも苦しい説明だ。

 「公務を補助するのって、公務じゃないの?」
 「外交旅券って、公務に携わる公人だからという理由で支給される公用旅券の一種だったんじゃないの?」

 という疑問に対して、無理矢理な論駁をした結果が、この閣議決定だということになる。

 なお、この日の閣議では、あわせて「大阪市の学校法人との関係を否定する」内容の答弁書も閣議決定している。
 これも、アタマがどうかしているとしか思えない。

 「首相夫人は私人である」という、「見解」は、それがどれほど素っ頓狂であっても、実態とかけはなれていても、「見解」である限りにおいて、「閣議決定」ないしは「政府見解」の範囲で扱うことのできる話だ。

 われわれの政府は、今後、誰がなんと言おうと首相夫人を「私人」として遇し、「私人」の立場で扱い、「私人」として処遇する決意であると受け止めれば、それは大変だろうなあとは思うものの、一応、彼らの意図を汲むことが不可能なわけではない。

 ところが、
《「森友学園」への国有地払い下げなどを巡り、財務省、国土交通省、文部科学省に対する政治家からの不当な働き掛けは「一切なかった」》
 というのは、これは、「事実」を争う問題だ。

 働きかけがあったのか無かったのかは、現在国会でその有無が争われており、メディアの中でも見方が分かれている、まさにその核心だ。

 これに対して、政府が
 「無かった」
 と言い張れば、公式に無かったことになるとか、そういう問題ではない。
 「われわれは無かったと考えている」
 ということだとしても、そう閣議で決定することに何か意味があるんだろうか。

 「あるのかと聞かれたので、なかったと答えたんだ」
 というだけのことなのかもしれないが、そんな閣議決定に意味があるのだとしたら、

「政府はこの件について働きかけが無かったという公式見解を押し通すことにしたので、今後、政権内の人間は絶対にこの点から外れたコメントをしないように」

 と、政権内部に対して引き締めをはかる意味ぐらいだろうか。
 とすれば、これは、首相が閣僚に対して
 「オレの言いなりになれ」
 ということを宣言しただけの話になる。

 そもそもの話をすれば、籠池泰典森友学園前理事長が受け取ったとしている安倍昭恵首相夫人からの寄付金の100万円についての話も、いま、こんなに大げさに騒がれているのは、首相自身が国会の答弁の中で、

「私や妻がですね、認可あるいは国有地払い下げにですね、勿論事務所も含めて一切関わっていないということは明確にさせていただきたいと思います。もし関わっていたんであればですねこれはもう私は総理大臣を辞めるということでありますから、はっきりと申しあげたいとこのように思います」

「いずれに致しましてもですね、繰り返して申し上げますが私も妻もですね、一切認可にもですね、あるいは国有地の払い下げにも関係ないわけでありまして(中略)繰り返しになりますが私や妻が関係していたとなればこれはもう、まさに総理大臣も国会議員も辞めるということははっきりと申しあげておきたい」

 と、大見得を切ってしまったからだ。

 寄付をしていないのならしていないで、普通に昭恵夫人なり夫人付きの官僚なりの口から説明(記者会見になるのか、参考人ないしは証人として国会で証言することになるのかはともかくとして)させれば良いことだし、万が一寄付をしていたのだとしても、その旨を正直に申告すれば、それほど大きな問題にはならなかったはずだ。

 というのも、寄付自体は違法ではないし、そのことで政権が飛ぶような話ではない。

 あの非常に評判の良くない学校法人に個人的に寄付をしていたということになれば、当然、首相個人の印象が悪化することは避けられないとは思う。

 でも、そのことを言うのなら、既に、首相夫人が新設するはずの小学校の名誉校長に就任し、首相ご自身も一度は講演を引き受けていることで、十分に印象をそこなっている。この上、寄付の有無が致命的な問題になるとは思えない。

 ところが、首相は、寄付の話を否定する流れで、土地取引への関与が発覚したのであれば、総理を辞めるということを口走ってしまった。
 だから、こんな騒ぎになっている。

 一般のテレビ視聴者は、個々のやりとりの中で争われている言った言わないの事実関係や、私人公人の線引きの細部をつつき回す報道そのものに注目しているのではない。

 視聴者が森友劇場に魅了されているのは、ムキになって否定したり白々しく知らぬ存ぜぬを繰り返したり露骨に隠蔽したり資料を廃棄したりしている側と、重箱の隅をつつきにかかっている追及側の感情をむき出しにした争い、それ自体が面白いからで、それというのも、そもそも政府の側の隠蔽と強弁に、感情的な反発を抱いているからだ。

 冒頭で指摘した通り、このニュースは、全体として感情的な反応に終始しているところのものだ。

 というよりも、森友学園をめぐるあれこれは、報道に限った話ではなく、その発端から結末に至るまでのほとんどすべての出来事が、あからさまな感情の発露だったのかもしれない。

 大切なのは、いまわれわれが熱中している扇情的な報道の根っこのところにある「感情」を呼び覚ましたのが、政権の中枢にいる人たちであることだ。このことはつまり、テレビのしつこさと疑り深さと下世話さと、揚げ足の取りっぷりの醜さは、そもそも政府の上の方にいる人たちが質問者をバカにした態度と、国民への説明を鼻で笑うマナーから派生したものだということでもある。

 これらの事情に加えて、さらに、縁故主義(ネポティズム)にまみれて見える行政の進め方の怪しさが、テレビ視聴者の間に広がる「感情的」な反応の取水源になっている。

 私個人は、なるべく感情的に振る舞わないように心がけようと思っている。
 ただ、感情的に判断することからは逃れられそうにない。
 というのも、感情を抜きで評価してみると、この騒動には中味が無いからだ。

(文・イラスト/小田嶋 隆)

上が無茶な“正論”を通して、現場の“運用”が苦労する。
大変そうだね、と、自分と二重写しで見ているような気もします。

 当「ア・ピース・オブ・警句」出典の5冊目の単行本『超・反知性主義入門』。相も変わらず日本に漂う変な空気、閉塞感に辟易としている方に、「反知性主義」というバズワードの原典や、わが国での使われ方を(ニヤリとしながら)知りたい方に、新潮選書のヒット作『反知性主義』の、森本あんり先生との対談(新規追加2万字!)が読みたい方に、そして、オダジマさんの文章が好きな方に、縦書き化に伴う再編集をガリガリ行って、「本」らしい読み味に仕上げました。ぜひ、お手にとって、ご感想をお聞かせください。

このコラムについて

小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 〜世間に転がる意味不明
「ピース・オブ・ケイク(a piece of cake)」は、英語のイディオムで、「ケーキの一片」、転じて「たやすいこと」「取るに足らない出来事」「チョロい仕事」ぐらいを意味している(らしい)。当欄は、世間に転がっている言葉を拾い上げて、かぶりつく試みだ。ケーキを食べるみたいに無思慮に、だ。で、咀嚼嚥下消化排泄のうえ栄養になれば上出来、食中毒で倒れるのも、まあ人生の勉強、と、基本的には前のめりの姿勢で臨む所存です。よろしくお願いします。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/174784/033000088/?

 


稲田防衛相に見る「出世女子」の未来

遙なるコンシェルジュ「男の悩み 女の嘆き」

愛され女子から憎まれ女子へ、脱皮のススメ
2017年3月31日(金)
遙 洋子

ご相談

この4月から部長職に就きます。前任者からの引き継ぎ、関係者との打ち合わせなどを始めましたが、見事なほどに周囲は男性ばかり。分かっていたこととはいえ、実際に自分が前面に立つと改めて「まだまだ男性社会」を実感します。「任された責任を感じつつ、自分らしさも失わず」……と決まり文句で挨拶しつつ、さて、自分らしさとは何だろうと改めて考える春です。(40代女性)

遙から

 「社長になるか、社長夫人になるか、それが問題だ」

 
 斎藤美奈子著『モダンガール論』の「女の出世」に関する一節である。

 どちらを選ぶかによって磨くべきスキルが違う。そこに費やすであろう歳月を考慮すれば、スタート地点での選択は女性の未来をそのスタートの段階で振り分けかねない。

 そして、第三の選択肢もある。“出世女子”だ。

総理でもなく、総理夫人でもなく

 その象徴が稲田朋美防衛相だと私は見ている。社長でもない。つまり総理ではない。また、社長夫人でもない。つまり昭恵夫人でもない。第三のポジション。それは、社長に大事にされる幹部職、だ。その地位が目標だったならまさに大出世。万歳でその人生を祝いたい。

 だが、「南スーダン日報問題」や「森友問題」などの国会答弁以降の世論を見ていると、稲田防衛相への風当たりは強い。“泣いた”とか、“虚偽です”の言いきりから“記憶にありませんでした”への変更とか、苦戦に映るニュースが次々と流される。

 出世女子の力が試される光景だ。

 その対極に位置するのが小池百合子東京都知事だ。総理をはじめとする権力中枢の男性たちからの“愛され女子”の地位を自ら捨てた。“憎まれ女子”にあえて位置することで政治不信の都民の力を得た。やがて、それを無視できない権力構図にまで持ち込んだ。あっぱれだ。いわゆる“叩き上げ女子”の出世の方程式だ。

 あくまで最初は、笑顔の素敵なニュースのお姉さんという“愛され女子”からのスタートだったことを忘れてはいけない。いつのまにか、“憎まれ女子”で都民を魅了する権力者として出世した。彼女のノウハウは“変遷”そのものにある。

 そこで今、稲田防衛相に問われるのは、小池都知事をロールモデルとして参考にするならば、いかに変遷するか、にある。泣くことといい、違うと思ったことをすぐ違うと声に出して言ってしまうことといい、私はお会いしたことはないがおそらく“いい人”なんだと思う。

 世論はその“いい人”ぶりが気に入らないのではないか。国の防衛という重責を担うにあたり、そこを頼りなく感じているのではないか。ここはひとつ、“おぬしやるな”的な“悪い人”をしっかり演じなければならない、と勝手に思っている。

うっかりさんでは困るのだ

 国家の安全を背負って自衛隊を指揮する立場なわけだから、失言するような“うっかりさん”だと困るのだ。と、そう世間は思っている。

 この緊迫した時代においてなぜこの女性でなければならないのか、に、苛立っている人がいる。

 そもそも稲田氏がなぜ防衛相にまで登りつめたかには、いわゆる「女性活躍」への総理の期待やアピールの意味合いがあるだろう。

 そしてそれはこれまでなら、“少子化大臣は女性にまかせるのがよろしい”といったみんな安心的レールが敷かれていたが、今回は、“戦う=男性”という役割意識を揺さぶる点が異なる。

 100%男性領域、と、皆が信じてやまない領域を女性にまかせる。そこには、何より性別を超えた”強さ”が求められる。抜擢するにあたっては、彼女がそれに足ると考えたのだろう。

・・・というのが理屈だが、現状を見るに、お前、弁護士だし、いい奴だから、頑張れよ的な、愛され人事の匂いを私は嗅いでいる。

 といって、その愛され人事についてねちねち攻めるつもりはない。問いたいのは、稲田さん、いつまで“愛され”キャラでいきますか?ということだ。

 いつか、“おぬしやるな”的、“憎まれ”キャラに脱却せねばならない時がくる。

 いつ、どうやって、その時を迎えますか? が、稲田氏に問われている。

 いつまでも愛されキャラではなく、メガネも網タイツもかなぐり捨てて、育ててもらった男性たちを真っ向から敵にまわす腹のくくりが必要だ。

冷徹で行こう

 それがいつか、の前に、足元をすくわれてもよくない。まず、泣いちゃだめだ。

 失言もダメだ。あくまでクールに、鉄の女として、ひとつひとつの批判に向き合わねばならない。

 男性も女性も、出世の前には時の権力者に愛される、あるいは、あなどられないからその地位につける。愛されてその地位を確保する。それはそれでよいとして、愛されていることを、追及する側の野党や、眺めている我々側にわざわざ伝える必要もない。冷徹な女、でいいのだ。まずはそこからスタートではないか。

 防衛相を小池百合子氏も一時期担当した時が、過去あった。ソツなくこなしたイメージが残っている。そこで、実は私はこういう性格で・・・なんていうことを伝える意味はない。小池氏の手腕を見ていると、いつ世論がブチ切れるのか、あるいは今の賛同を維持するのか、ギリギリのところにいる。

 決して、小池知事安泰、という時代ではない。「実は豊洲市場への移転には致命的な問題はなかったのに、真相解明と唱えながら無駄な時間と出費を重ねた」という追及にさらされかねない地雷の中で、説得材料のためにいくつもの専門部会を設置している。世論を説得するには事実しかない、という方程式を小池知事は一歩も譲らない。もはやそこに女だとか男だとかは関係ない。追及と批判が来ることを前提に小池氏は生きている。これでやっと、男女共同参画時代の女性活躍だと、その壮絶な戦いを目の当たりにしながら、いいロールモデルができたものだと眺めている。

 そして、そのスタート地点に立たされているのが、稲田防衛相だ。

 女子の出世など、総じて乱暴な言い方をすれば、もれなく“泣く”ところから始まると言ってもいい。

 そうやってひとつひとつ、成長をしていくのだと思う。

 それは泣くほどの地位を手に入れた、ということでもあり、どうこなしますか、という次の道への試験でもある。かの田中真紀子氏も泣いたのを覚えていますか?

嫌われる覚悟

 女性の出世とは、男性の聖域と言われる場所への進出のことだと思う。

 つまり、そこに進出するだけで感情的な暴風雨にさらされる。私が「日経ビジネス」にコラムを書かせていただくことになった20年近く前もそうだった。

 日経ビジネスもまた、経済誌である以上、経営人、会長や社長という人々にとっての聖域だった時代がある。そこに登場した私への風当たりの強さは今でも忘れない。

 私がそこで最初に捨てたものは、男性読者から“愛される”ことだ。

 “憎まれる”原稿を書く。それを面白がってくださる読者こそが私の読者で、怒るばかりの読者は勝手に怒っていればいい、と、腹をくくった。

 そうこうしているうちに、時代が女性読者をも増やし、オンラインに場を移すことで、さらに幅広い世代の方々にお読みいただくに至ったわけだが、最初は憎まれ、嫌われることから始まった、ということを伝えたい。

 女性総理はまだ実現するには時代が成熟していない。が、女性の幹部職は実現している。

 時代は変わる。“愛され出世”を願う女子は、まず、今の時代は男性権力者に愛され、まずは出世し、次は、あらゆる男性たちから嫌われる手のひら返しが必要だ。

 嫌われる覚悟。そして、そのあなどれなさを見た時に、世間というのはまた手のひらを返したようにあなたを認めるだろう。小池氏のそれのように。

 “愛され出世”した女子は、小池氏と稲田氏の両者の答弁をよく観察していただきたい。

 そこにある差。そこにある反響。それらすべてが、これからの出世女子たちのヒントになるに違いない。

正しい嫌われ方とは

 注意してほしいのは、ただ嫌われて孤立している男女平等主義者の女性キャリアもいる。

 これとは全く違う。最初から皆に嫌われているようでは、出世などできようはずもない。

 愛されることなど、ほんのスタートダッシュのためのエネルギーだと理解してほしい。

 愛され続けて60歳、というキャリア女性もいるが、これも違う。

 ぶりっ子を続ける60代女性も、私はとても残念でならない。変遷をしそこなった出世女子だ。愛されて、出世したら次は、嫌われる。嫌われてもなお、引きずり降ろせない足腰の強さを身につけるのだ。それまでため込んだ実力が試される、その時のために。

 小池氏の実力は豊洲問題で試されている。

 同様、森友学園問題、自衛隊問題など、その答弁において稲田防衛相も試されている。

 男性の聖域に入り込む、ということは、感情的な嵐の中で、いかに自分を防衛できるかにかかっている。まず防衛し、そして、攻撃する。

 そう。

 出世女子とは、それ自体が、防衛相なのだ。

 どの職域であれ、自己を防衛し、同時に、未来への根拠を積む。そこに女も男もない。事実のみが、あらゆる批判に反論できる武器であり、うわべばかりの愛されキャラに固執するばかりでは、やがて反発を買いこそすれ、永遠の武器になどならないことを知ってほしい。

 つい、使い続けた武器は、手放すには惜しいのはわかる。まだ使えるやん!という時もあるだろう。だが、使っちゃいけない。今、その波間で揺れているのが今の稲田防衛相のあり様だ。よーく観察してほしい。稲田防衛相の出世女子としての成功を願いたい。


(写真:つのだよしお/アフロ)
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このコラムについて

遙なるコンシェルジュ「男の悩み 女の嘆き」
 働く女性の台頭で悩む男性管理職は少なくない。どう対応すればいいか――。働く男女の読者の皆様を対象に、職場での悩みやトラブルに答えていきたいと思う。
 上司であれ客であれ、そこにいるのが人間である以上、なんらかの普遍性のある解決法があるはずだ。それを共に探ることで、新たな“仕事がスムーズにいくルール”を発展させていきたい。たくさんの皆さんの悩みをこちらでお待ちしています。
 前シリーズは「男の勘違い、女のすれ違い」
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/213874/032900045/
http://www.asyura2.com/17/senkyo223/msg/379.html

[経世済民120] 経常収支が赤字だと景気がいい? 地価上昇、資産デフレ脱却 老後不安なら老後を無くせ 自分にがっかり 電力市場JERA次第
日経ビジネスオンライン
「経常収支が赤字だと景気がいい?」

「日経ビジネスベーシック」から

今回のキーワード:貿易収支・経常収支
2017年3月31日(金)
飯田 泰之
体系的に理解しよう! とすると、なかなか手強いのが経済学(エコノミクス)。とりあえず、耳にしたことがある経済学用語の定義だけでも、「なるほど」と腑に落ちる形で学んでみませんか。テレビでもお馴染みの、明治大学政治経済学部准教授の飯田泰之さんが、ちょっと他所では読めない角度から、経済学のキーワードを読み解きます。

飯田泰之(いいだ・やすゆき)
明治大学政治経済学部准教授
1975年東京生まれ。マクロ経済学を専門とするエコノミスト。シノドスマネージング・ディレクター、規制改革推進会議委員、財務省財務総合政策研究所上席客員研究員。東京大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。著書は『経済は損得で理解しろ!』(エンターブレイン)、『ゼミナール 経済政策入門』(共著、日本経済新聞社)、『歴史が教えるマネーの理論』(ダイヤモンド社)、『ダメな議論』(ちくま新書)、『ゼロから学ぶ経済政策』(角川Oneテーマ21)、『脱貧困の経済学』(共著、ちくま文庫)など多数。
 ちょっと唐突にはじめます。
 今日の意味での経済学は「重商主義批判」から生まれました。

 ここで少々注意を。「重商主義」というと、商業を重視した、または経済を重視した政策運営全般を指すものと考えてしまうかもしれませんが、それは大きな間違いです。

 本来の意味での重商主義(mercantilism)とは、税や補助金を用いて輸出を奨励し、関税や貿易制限によって輸入を抑えることで国を豊かにすることが出来るという政策思想のことです。簡単に言うと、「貿易黒字・経常黒字は善!そして赤字は悪!」という考え方、と言ってもよいかもしれません。これに対して、「対外赤字・黒字を気にすることなく自由な貿易を行うことこそが国を豊かにするのだ」というのが、黎明期以来の経済学の基本的主張です。

 ここまで聞くと、「そりゃ黒字は良いことだし、赤字は悪いことなのだから、重商主義は正しいのではないか」と思われるかもしれません。

経常収支が赤字のときのほうが景気がいい?

 しかし、これは全くの誤解です。

 ここ数十年の日本ではむしろ経常収支が赤字の時期に景気は良く、黒字のときに景気が悪い傾向が普通になっています。

 なぜこのような現象が生じるのか……ここでは経済統計のルールに立ち戻って説明していくことにしましょう。

 その前に、「貿易収支」と「経常収支」の違いをご存知でしょうか。

 自動車や小麦など、形ある財を記録したものが貿易収支ですが、現代の経済で取引されるのはこのような形あるものばかりではありません。運輸や金融といったサービス、投資の配当や賃金支払いも国境を越えて行われるようになっています。

 そのため、以下では財・サービス・所得の出入りを総合した「経常収支」について説明していきます。ちなみに2015年度の貿易黒字は6000億円ですが、サービス収支は1.2兆円の赤字、所得収支は18兆円の黒字。これらを合わせた経常収支は約17兆円の黒字です。

 ここでもっとも単純なケースとして、世界には日米の2カ国しかなく、両国の間での今年の取引は「100万円の日本車1台が米国に輸出された」という1件だけだったとしましょう。この時、日本の経常収支は100万円の黒字(仮に1ドル=100円とすると米国は1万ドルの赤字)ということになります。

 しかし、よく考えてみて下さい。この自動車の代金を米国(の企業か個人)はどのようにして支払ったのでしょう。

 仮に、米国で自動車を販売して得た1万ドルを日本企業が米国内の銀行に預金すると、日本は自動車を輸出した裏側で「預金という資産」をアメリカから購入したということになるでしょう。銀行に預金するのではなく、米国内で株や債権などを購入した場合も話は同じです。

 そう、財の輸出の裏側には資産の輸入があるのです。このような資産の購入・出入りをまとめたものを資本収支と呼びます。経常収支がプラスになる取引の裏では、必ず資本収支が赤字(いわば「資産の輸入」の方が多い状態)になる取引が行われています。

 じゃあ、自動車を販売した企業がすぐに為替市場でドルを円に交換した場合には?

 それでもこの関係は維持されています。為替市場で日本企業の持ち込んだドルを円に交換した人がいるからです。

 この人は、自動車会社のドルを円に交換するために、その前に自分の日本国内の預金から円を引き出しています。ドルに交換した後は、結局、そのドルを米国内で運用することになるわけです。途中の段階が増えるだけで、「自動車という財の米国への輸出(貿易収支の黒字)」と、「ドル資産の輸入(資本収支の赤字)」という全体像は変わりません。

 唯一の例外は「ドルを買ったのが日本銀行の場合」です。日本銀行が保有するドルは外貨準備と呼ばれ資本収支から外れます。

 以上から、国際収支の間には、

 貿易収支+サービス収支+所得収支≡経常収支
 経常収支+資本収支+外貨準備高増減≡0

経常収支の黒字は何を意味するか

 外貨準備高にそれほどの変化がないならば、経常収支の黒字≒資本収支の赤字ということになります。これはどのような状態でしょう。

 経常収支が黒字ということは、1)多くの財・サービスを販売している一方で、あまり財・サービスを買っていない、2)利子・配当・賃金を受け取っているがそれを使っていない、ということです。海外の財・サービス「のみ」を買わなくなるという状況は、現在の経済では考えづらいですから。ということは、これは何を意味するのか?

(ちょっと考えてからスクロールしてみてください)

 答えは「国内で消費・投資の意欲が停滞している」ことの証左になり得る、です。

 さらに、経常収支が黒字=資本収支が赤字、というのは、資産をたくさん「輸入」していることです。ということは、国内の企業・個人が、資産を、国内ではなく海外で保有しようとしているということです。資産運用を海外で行おうとするということは、国内経済への自信のなさの表れ、と解釈できるでしょう。

 一国経済の黒字・赤字を企業のそれと同一視してはいけません。

 経常収支の黒字は、国内の需要不振や自国経済の先行きに対する自信喪失の裏返しである場合も少なくないのです。

 貿易収支や経常収支は、どこかの大統領のように「黒字を目指す、赤字を避ける」という、目標として使うのではなく、「いまの自分の国の経済の状況を知る指標」として考えるのが、正しい使い方なのです。たとえば「国内の景気対策がうまく効いたから、経常収支が赤字になった」というふうに。

[3分で読める]ビジネスキーワード&重要ニュース50

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 今さら聞けないけど、今、知っておきたい――。ネットや新聞、テレビなどで日々流れている経済ニュースを読みこなすための「ビジネスパーソンのための入門編コンテンツ」がムックになりました。

 新進気鋭のエコノミスト、明治大学政治経済学部准教授・飯田泰之氏による「2017年の経済ニュースに先回り」のほか、「ビジネスワード、3ポイントで速攻理解」「注目ニュースの『そもそも』をすっきり解説」「日経会社情報を徹底活用、注目企業分析」「壇蜜の知りたがりビジネス最前線」などで構成されています。

 営業トークに、社内コミュニケーションに、知識として身につけておきたい内容が、この一冊に凝縮されています。


このコラムについて

「日経ビジネスベーシック」から
このコラムでは、「日経ビジネスBasic」に掲載した記事の一部をご紹介します。日経ビジネスBasicは、経済ニュースを十分に読み解くための用語解説や、背景やいきさつの説明、関連する話題、若手ビジネスパーソンの仕事や生活に役立つ情報などを掲載しています。すべての記事は、日経ビジネスの電子版である「日経ビジネスDigital」を定期購読すれば無料でお読みいただけます。詳しくはこちらをごらんください。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/041300033/033000021/

 

いよいよ地価上昇、「資産デフレ」から脱却へ

磯山友幸の「政策ウラ読み」

豊かさ追求へ「ノンリコース・ローン」導入の好機
2017年3月31日(金)
磯山 友幸

東京都では、商業地(都全体)で4.7%上昇。銀座のある中央区が9.8%上昇。(写真:Motoo Naka/アフロ)
 ついに地価の下落が止まった。国土交通省がこのほど発表した2017年1月1日時点の公示地価で、「全国の住宅地」が9年ぶりに上昇に転じた。上昇率は前年比0.022%とわずかだったが、それでも上昇に転じた意味は大きい。「全国平均の全用途」では0.4%プラスと2年連続での上昇となっており、「資産デフレ」からの脱却が鮮明になってきた。

 2012年末に安倍晋三内閣が発足して以降、株価は底入れしていたが、全国平均の地価はジリジリと下落していた。大都市圏の商業地は早期に底入れしたが、地方都市の地価は下落が続いていた。

 今回の公示地価では、「全国の商業地」は1.4%上昇した。上昇率は前年の0.9%から拡大しており、商業地の地価上昇が鮮明になった。札幌、仙台、広島、福岡の地方中核4市の上昇率が6.9%と、三大都市圏の3.3%を大きく上回ったのが目を引いた。観光などに訪れる訪日外国人の大幅な増加が、地方中核都市にも広がり、不足が目立つホテル建設などが相次いでいることが商業地上昇の背景にある。一方で、地方でも都市部以外の地価は下落が続いており、二極化が進んでいる。

新規の住宅着工戸数が増加へ

 そんな中でも住宅地が全国平均で上昇に転じた意味は大きい。住宅価格が上昇に転じてきたことで、買い替えが容易になり、新規の住宅建設に結びつく。すでに大都市圏では中古マンションの価格上昇などをきっかけに、新築マンションの建設ブームが続いている。地価の下落が止まることで、戸建て住宅でも新規建設の増加が鮮明になりそうだ。

 実際、新たに建設する住宅の着工戸数は増加に転じている。国土交通省が毎月発表している新設住宅着工戸数は、2016年7月以降、7カ月連続で前年同月比で増加。1月は7万6491戸と、前年同月比12.8%の大幅増だった。

 新設住宅は、消費税増税前の2013年に駆け込み需要で大幅に増えた。2016年は春から、駆け込み需要に迫る建設ラッシュが続いていた。秋以降も腰折れしていないことから、住宅建設ブームが定着しつつあるとみてよさそうだ。

背景にあるのは「マイナス金利」

 地価上昇の背景にあるのは「マイナス金利」。2016年2月に日本銀行が導入したが、その後、住宅ローン金利が歴史的な低水準になるなど、その効果がじわじわと広がっている。

 金融界にはマイナス金利政策を批判する声が根強いものの、着実にその効果が表れていると言ってよさそうだ。新設住宅着工でも「貸家」の伸びが大きくなっており、低金利と地価の上昇を背景に、空き地に賃貸マンションを新築したり、老朽化したアパートを建て替える例が増えている。不動産投資が活発化しているのだ。

 日本銀行は昨年11月の政策委員会・金融政策決定会合で、マイナス金利政策を継続したうえで、長期金利をゼロ程度に誘導する方針を示した。さらにJ−REIT(不動産投資信託)の買い入れも引き続き行う方針を決めた。こうした政策によって不動産投資が後押しされることになりそうだ。

全国の商業地の平均地価は、リーマンショック前の8割

 もっとも、日本銀行はマイナス金利政策について本腰を入れているわけではない。市中銀行が日本銀行に持ち込んだ当座預金二百十兆円には今でも年利0.1%という、普通預金金利からみたらかなり高利の金利が付いている。この全部もしくは一部をゼロ金利にするだけでも、資金の追い出し効果はあるはずだが日銀は慎重だ。「マイナス金利政策を拡大すればバブルが起きる」(日銀幹部)というのである。

 もっとも、今回公表された公示地価でも、全国の商業地の平均地価は、リーマンショック前の2008年の8割の水準にとどまっている。まだまだ「不動産バブル」というほどの水準には達していない。

保有資産の価格上昇で、消費者の財布が緩む

 地価、とくに住宅地が上昇に転じてきたことは、デフレに苦しんできた日本経済にとって画期的なことといえる。住宅ローンを抱えている一方で、住んでいる家の地価下落が続いていれば、ローン返済ができなくなった時にローンだけが残るリスクが生じる。将来への不安から消費にもブレーキがかかる。

 逆に保有する住宅の価格が上昇すれば、家計が「含み益」を抱えることになり、前述のように転売が容易になるばかりでなく、いわゆる「資産効果」による消費増につながる期待も生じる。保有資産の価格が上昇することで、将来不安が薄れ、消費者の財布が緩むわけだ。

 資産効果だけではない。地価の上昇によって買い替えが進み、新設住宅着工が増えることで、消費の「実需」も大きく増える可能性がある。

消費の底入れを期待

 住宅を建設した場合、それに付随して生まれる消費は大きい。住宅を建てれば、家具やインテリア用品、家電製品、食器などの家庭用品など、様々なモノの買い替えにつながる可能性が出てくる。家の新築に合わせて自動車の買い替えなどを行う例も増えるとされる。つまり、住宅建設が、低迷を続けている日本の消費を底入れさせる期待が出てくるのだ。新設住宅着工が目に見えて好転し始めてそろそろ1年。続々と住宅が完成するタイミングに来ている。そろそろ消費の低迷に底入れ感が出てくる可能性がありそうだ。

 地価の上昇は「担保価値」を増すことにもつながる。地価下落が続く中では、金融機関も不動産向け融資には慎重にならざるを得なかった。担保にとった土地の価格が下落した場合、担保不足になるリスクがあったからだ。マイナス金利によって金融機関が資金を当座預金などとして抱え込むメリットが薄れたこともあり、不動産投資などへの融資がさらに広がってくることになるだろう。

先行投資を促進、事業に必要な土地取得に動く

 地価の上昇は不動産会社などの先行投資を促す役割も果たす。少しでも地価が上昇する前に土地を確保しようという動きが加速するためだ。マイナス金利によって、現預金などで不動産会社が資金を抱え続けるよりも、将来の事業に必要な土地の取得に動くことになるわけだ。

 とはいっても、個人の住宅需要はなかなか大きくならない。人口減少が鮮明になっているからだ。そもそも住宅を新規に必要とする人の数が減っているのである。

 そんな中で、需要を増やすにはどうするか。

担保を超える返済は求めない「ノンリコース・ローン」

 より広い、大きな家への住み替えを促進することがひとつのカギだろう。政府の戦後の政策は不足する住宅を補い、持ち家比率を上げるために、買いやすい小規模な住宅の取得を優遇することだった。日本人の家が「うさぎ小屋」と海外から揶揄されて久しい。より広い住宅への住み替えを後押しするような政策が必要だろう。

 そのひとつの具体策が、ノンリコース・ローンと呼ばれるものだ。土地を担保に住宅ローンを借りた場合、仮に地価が下落した時に、担保の土地を手放せば住宅ローンが免除されるローンの仕組みだ。欧米では当たり前の制度として定着している。日本の場合、地価が下がると、返済ができなくなった場合、不動産を売却してもローンだけが残ることになる。ローンの仕組みがノンリコースに変われば、将来の不動産価格の下落リスクを消費者が負わないで済むようになり、より気軽に住宅取得ができるようになる。

不動産投資を拡大させる政策を本格化させよ

 実は、ノンリコース・ローンの導入は民主党政権下などで検討されたことがある。だが当時は地価の下落が続いており、金融機関側が導入に難色を示した。当然である。地価下落のリスクを金融機関が負うことになるからだ。

 逆に言えば、地価が上昇に転じたことで、ノンリコース・ローンを導入する好機が到来したともいえる。アベノミクスの効果がなかなか出ないと言われる中で、不動産投資を拡大させる政策を本格化すべきだろう。より大きな住宅を多くの国民が手に入れることは、日本人の生活をより豊かにするだけでなく、日本の文化を磨くことにもつながるはずだ。


このコラムについて

磯山友幸の「政策ウラ読み」
重要な政策を担う政治家や政策人に登場いただき、政策の焦点やポイントに切り込みます。政局にばかり目が行きがちな政治ニュース、日々の動きに振り回されがちな経済ニュースの真ん中で抜け落ちている「政治経済」の本質に迫ります。(隔週掲載)
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/238117/033000045/

 


 


老後が不安なら“老後”を無くせばいい

「定年男子 定年女子」の心得

いかに自分の未来に正対し、対策を取るか
2017年3月31日(金)
大江 英樹

大江英樹(おおえ・ひでき)氏
経済コラムニスト。1952年、大阪府生まれ。大手証券会社で個人資産運用業務、企業年金制度のコンサルティングなどに従事。定年後の2012年にオフィス・リベルタス設立。写真:洞澤 佐智子
 老後は誰にとっても不安です。健康、お金、孤独などなど、不安の要素はたくさんあります。なぜ老後が不安なのかという最大の理由、それは誰もが老後を経験したことがないからです。「私はかつて75歳だったことがある」などという人はひとりもいません。「自分の老後」は全ての人にとって、これから訪れる未知のことなのです。経験したことがなければ何が起こるかわかりません。せいぜい自分の親や先輩の姿を見て推測するしかないわけです。

 実際、齢をとると、次々と嫌なことが襲ってきます。
 健康面で考えると、私は50歳になった時に明らかに体力の衰えを感じました。40代までは多少衰えたとは言え、徹夜も平気でしたし、睡眠時間3時間ぐらいの日が続いても土日に寝だめすれば回復していました。20代、30代の頃と比べてさほど違いはなかったのです。

 ところが50歳になったとたんに、急激な体力の衰えを感じました。更に60歳になると具体的に体の悪い箇所が出てきたのです。健康状態は人それぞれですから誰もが同じではないですが、加齢による身体能力の低下は避けようがないと言ってもいいでしょう。

 お金についても多くの人は将来のお金の「入」と「出」、すなわちキャッシュフローをあまり理解していません。面白いことに「老後は不安」であるにも関わらず、「関心がない」のです。おそらくは心のどこかに「何とかなる」という気持ちを持っているのかもしれません。確かに何とかならないわけではありません。

 一番大きいのは、公的年金の存在です。リタイアしてから死ぬまでずっと支給される公的年金は、たとえるなら国から支給されるお弁当のようなものです。但し、一日一食しか支給されません。サラリーマンや公務員と違って基礎年金のみの自営業・フリーの場合は、おかずなし・白飯のみの一日一食といっていいかもしれません。

 したがって公的年金だけでは、飢え死にすることはないものの十分満足のいく生活をおくるのは難しいのです。そのうえ、その公的年金の額すら自分で把握していない人も多いのですから、これは不安になるのは当然だと思います。


イラスト/フクチマミ
 では、老後不安を解消するにはどうすればいいのか?勉強して知識を得る、現役時代からお金を一生懸命貯める、コツコツと投資を続けて資産形成を図る、日々食事に気を付けて運動を欠かさないようにするなど、老後対策と言われているものを数え上げるとキリがありません。しかしながらどれよりももっと簡単に老後不安を無くす方法があります。

 それは“老後をなくすこと”です。

働くことを止めた時から“老後”が始まる

 唐突にそんなことを言われてもきっと戸惑うことでしょう。「老後をなくす」って一体どういう意味なんだ、と思われる方も多いと思います。私が自分なりに定義している「老後」は単純な年齢ではありません。働くことを止めた時から老後が始まると考えているのです。つまり「老後をなくす」というのはできる限り働き続けるということです。

 
 実際、働き続けることで俗に言う「老後の三大不安」はかなりの部分で解消されます。まずお金ですが、働き続ければいくばくかのお金は入ってきます。年金だけで生活するよりは豊かな暮らしができるでしょう。健康面を考えても何もせずにじっと家に閉じこもっているよりは、外に出て活動しているほうがはるかに健康にも良いし、体調管理もしやすくなります。孤独ということを考えると、働くことによって程度の差こそあれ人と接する機会は多くなりますし、社会と関わり続けるわけですから、そうそう孤独に陥ることもありません。このように、働くことで老後の問題の多くが解決されるのです。

 ところが“働き続ける”とか“生涯現役で頑張る”というと、「何で60歳を過ぎてまで働かなきゃいけないんだ。いい加減早く引退したいよ」と言う人は多いでしょう。なかには頑張って働いて投資で資産を作り、アーリーリタイアメントを目指しているという人もいます。人それぞれですからどういうやり方が一番良いということは言えませんが、「齢をとって働くのはまっぴらごめん」という方は、どうもサラリーマンの時の働き方をイメージされているのではないかと思うのです。私も定年までずっとサラリーマンをやってきましたから、あんな仕事をこれからもずっとやらなきゃいけないかと思うとうんざりします。

 サラリーマンというのは自分がやりたいことが自由にできるわけではありません。時に自分の意にそぐわないこともやらざるを得ません。でもそれは当たり前の話です。組織に所属して働くわけですから、組織の意思が優先されるのは当然で、各自が自分のやりたいことをバラバラにやっていたのでは組織は機能しません。自分の意思を殺して組織の方針通りに動かなければならないというのは時に大きなストレスを感じるものです。結果として働くこと=苦役と感じるのはごく普通のことです。

 会社を定年で辞めた後は、そういう働き方を見直し、自分の好きなことを仕事にすれば良いのです。若い頃と違い、いくばくかの蓄えもあるでしょうし、公的年金も65歳からは出ます。おまけに退職金もあるとすれば、たちまち生活できなくなるということはありません。

 前のコラムにも書きましたが月に3万円とか5万円程度のお小遣い稼ぎという程度の収入でも十分なのです。サラリーマン時代のようなストレスにまみれた仕事とは離れ、自分がやりたいこと、やりたかったことを妥協せずにやれば良いと思います。私も60歳で会社を辞めた後、自分のやりたい仕事にこだわったので最初の1年ぐらいは何も仕事がありませんでしたが、それほど深刻には考えませんでした。今は有償無償を問わず、様々な仕事やイベントがあるため、全く仕事をしない休みの日は年間3〜4日ぐらいしかありませんが、サラリーマン時代とは違って全く苦になりません。

 だからと言って全く無理はしていません。睡眠時間だって一日8時間はたっぷりとっています。何よりもサラリーマン時代との最大の違いは全ての仕事の時間を自分のために使えるということです。会議もなければ上司への説明も不要、部下の指導や評価といった“ねばならない”仕事がない、これが会社を辞めた後、マイペースで働くということの大きなメリットだろうと思います。

波平さんは藤井フミヤと同い年

 漫画「サザエさん」に出てくるサザエさんのお父さんである磯野波平さんは一体何歳かご存知ですか?実は54歳なのです。「サザエさん」が全国紙で連載が始まった昭和26年当時、定年は55歳でした。さらにその頃の男子の平均寿命は約60歳です。つまりあの波平さんは定年1年前のサラリーマンであり、そして定年を迎えてから5年で平均寿命に到達するというシチュエーションにいる人なわけです。

 ただし、その頃はまだ戦後間もない頃なので、平均寿命には戦争で若くして亡くなった人の影響もあったでしょう。実際には恐らく55歳時点での平均余命は、10年ぐらいはあったと思います。それでも65歳です。つまり仕事をやめてから10年ぐらいしか余生がなかったということになります。別な言い方をすれば「波平さんの老後」は10年間だったわけです。


イラスト/フクチマミ
 ところが現在、男子の平均寿命は80.8歳です。(厚生労働省:平成27年簡易生命表より)60歳でリタイアすると老後の期間は約20年、実際には60歳時点での平均余命は23.55年ありますから83〜84歳ぐらいで生きるとして老後期間は24年近くになるのです。これでは老後が長すぎて不安になるのは当たり前と言えるでしょう。
波平さんの時代の働き方を現代に置き換えて考えてみましょう。働くのをやめてから亡くなるまでの人生を10年程度とすると、80〜84歳まで生きる現代人は70〜74歳まで働いても別に不思議ではありません。

 ちなみに波平さんの年齢と同い年の54歳と言えば、歌手の藤井フミヤさんや俳優の風間トオルさんになります。どう見ても彼らには“波平感”はありません。要するに現代の54歳とはかくも若々しい存在なのです。では70歳の人たちは? 俳優の岸部一徳さんや高田純次さん、井上順さん等はみんな70歳です。彼らをお年寄りとか高齢者と言うのは違和感があります。彼らには老後はないのです。

 誰にでもわかりやすくイメージするためにたまたま、芸能人の名前を出しましたが、私の知人で70代でも現役で働いている人や経営をしている人たちはいずれも一様にとても若々しく見えます。彼らは元気だから働いているのではなく、働いているから元気なのです。要は、いつまでも働き続けることで「老後」は短くなるということです。そのために、楽しく働けるようにするための準備を50代から始めることがとても大切と言えるのではないでしょうか。


本内容をもっと詳しく知りたければ…
『定年男子 定年女子 45歳から始める「金持ち老後」入門!』

 「定年後は悠々自適神話」は崩壊。65歳まで働くことを覚悟している現役世代がほとんど。
しかし勤務先で再雇用されても仕事のやりがい、給与ともに大幅ダウンし、職場の居心地はひどく悪いのが現実だ。

 さらに65歳で会社を「卒業」し、年金収入だけになったら、本当に暮らしていけるのか…。 親や自分の介護にかかるお金は? 60代からの就活ってどうやればいい?

 人生100年時代に、経済的にも精神的にも豊かな定年後を送るために現役時代から準備すべきことを、お金のプロであり、リアル定年男子&定年女子のふたりが自らの経験と知識を総動員してガイドする。

定年男子 定年女子、トークイベントを開催!
『3月31日(金)、紀伊國屋書店大手町ビル店 紀伊茶屋にて!』

このコラムについて

「定年男子 定年女子」の心得

STOP! 老後破産。定年男子こと、元金融マンで経済コラムニストの大江英樹氏が本音で語る「金持ち老後」入門コラムです。「不安な未来」に向けて、何をどう備えるべきか。定年退職時に預金150万円しかなかったという自らの体験を基に、優しく解説します。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/030600122/032900006/

 


40を過ぎ、自分にがっかりする春がまた訪れる

ここでひと息 ミドル世代の「キャリアのY字路」

2017年3月31日(金)
山本 直人

 春という季節は、気持ちをタイムスリップさせるようなところがある。3月の卒業シーズンでは学生時代を思い起こし、4月に配属された新入社員を見れば自分の駆け出しの頃の記憶が蘇る。

 それを、ただ懐かしむのか、それとも気持ちを新たにするのか。社会に出て時間が経てば、入社した時の初志はついつい忘れがちになる。しかし、どんな人も自分なりの未来像を持って、あの春を迎えたはずだ。

 だが、現実のキャリアは、思うようには描けない。入社後に希望した通りの仕事につき、成果も出し、その後も自分のデザイン通りに順調にステップアップいく人もいないわけではない。ただ、紆余曲折を含め、最終的に初志貫徹に近い道程を歩んだ人を含めたとしても、そうした恵まれた人は全体から見ればごく少数だろう。

 大半の人は、自分の希望通りの職種・職場に配属されなかったり、されたとしても自分の予想とは違って苦戦を強いられたり、順調な歩みの途中で思いがけない出来事に足元をすくわれたり、思い切った決断ができないまま昨日の延長線上で今日を過ごしていたり…。

 「初志」との間で上手に、もしくは致し方なく折り合いをつけながら、人生を歩んでいるのではないだろうか。

 だが、そうした「ごく普通」の人であっても、新人を迎える春は、やはり“むずむず”する季節だ。それは、40代・50代のミドルであっても例外ではない。

 「本当にやりたかったこと」への思いを心のどこかに秘めつつも、今の仕事に取り組んでいるからだろう。啓蟄(けいちつ)ではないが、心の中に置きっぱなしにしていた忘れ物が、春という「変化の季節」に誘われて這い出てくるのだ。

やっぱり「自分で会社を興したい」

 Pさんは、40歳を過ぎてから、「初志貫徹」で起業した。

 インターネットの黎明期に社会に出たPさんは、いち早く新しい技術の可能性に着目していた。就職した先は、今では誰もが知るIT系の企業だったが、当時はまだ無名だった。

 その企業で実績を上げて、さらに2つの会社で働いた。傍から見れば、時代の流れに乗った羨望の対象ともいえるキャリアだが、必ずしも満足していたわけではなかった。

 Pさんは、大学時代の研究室の教授が薦めてくれたにもかかわらず博士課程への進学は選ばず、修士課程を修了した後に就職した。当時、研究していたテーマは性に合っていたが、それを振り切るようにして社会に出たのは、「自分の会社を興したい」という気持ちが強かったからだ。

 それは、Pさんの生まれ育ちと関係があるかもしれない。Pさんの父は、祖父の興した会社を継いでいた。「サラリーマンよりも自分で仕事を」という家風だったが、その会社はPさんの兄が継ぐことになっていた。起業家の多いインターネットの世界に飛び込んだのは、そうした環境で育った影響も大きかったようだ。

 最初に入った会社で数年修業を積めば、起業のチャンスは自然と来ると思っていた。ところが、いい意味で想定外だった。仕事が面白いうえに、より条件の良い他社からの誘いがあったりしたことで、勤め先は変わりつつも、会社勤めのまま時間が経っていった。

 そうした「悪くない時代」に区切りをつけるきっかけになったのが、新入社員の存在だった。時代の流れにうまく乗り、それなりの実績を上げてきたPさんは、この世界では知る人も多い。新社会人は、そんなPさんを前に、目を輝かしていろいろと夢を語る。そして、Pさんのこれまでのキャリアや、さらには学生時代の夢の話まで聞きたがる。

 彼らの目が、彼らの表情が、Pさんの「むずむず」を刺激した。

 いまの仕事も十分に楽しいが、「最初の気持ち」は捨て難かった。また、年齢的にも「最後のチャンス」を迎えつつあるという思いもあった。さらに、兄が正式に父の会社を継いだこともPさんの背中を押した。結局、50歳を前に、独立を決心した。

「これで一人前になった気がする」

 Pさんはそう言った。

忘れていた、金融機関への志望動機

 Qさんは大手の金融機関に勤めている。入社したのは、90年代の半ばだった。バブル経済は崩壊し、その一方で金融機関をめぐるスキャンダルや経営不安も目立ち始めた時代である。

 つつがなく仕事をこなしてきたQさんだったが、40歳を過ぎてから、気持ちに変化が生じた。きっかけは、2011年の東日本大震災である。

 Qさんは北関東出身だが、親族が阪神・淡路大震災を経験したこともあり、その頃、卒業間際のQさんはボランティアにも行った。そのQさんにとって、東日本大震災のインパクトは大きかった。

 Qさんの会社ではボランティアのための休暇制度もあり、自分の有休も利用して被災地に何度か通った。東北地方には地縁のなかったQさんだが、自分が想像した以上にボランティアにのめり込んだ。

 ことに阪神・淡路の経験を生かしたうえでのアドバイスは、地元の人にも喜ばれ、またボランティア仲間からも一目置かれた。また、その際の経験は、Qさんにとって、自分自身を見直す機会にもなった。

 そして、Qさんも「最初の気持ち」を思い起こすことになった。

 なぜ、金融機関を選んだのか。当時は、「世の中のため」という気持ちが、Qさんには強かった。

 就職活動の頃、金融不安も強く、就職先として金融機関の人気はあまり高くなかった。しかし、金融機関はそもそも、社会性の高い業務を担う。おカネを通じて、事業の成長や個人の生活、社会の整備に貢献する大切な仕事のはずだ。Qさんはそこに魅かれた。

 そんなことを面接で熱っぽく語り、複数の内定を得た。

 しかし、つつがなくキャリアを重ねていく中で、いつしか就職当時の気持ちも薄れていった。どの仕事ももちろん、「世の中のため」ではあるけれど、その一方で、目標である収益を達成することがアタマの大半を占めていく。

 震災後のボランティアは、もう一度当時の気持ちを蘇らせた。一方で、現在の自分の仕事に対しての疑問も高まる。そうした葛藤の中で、人事異動に関する自己申告の機会が来た。

昇進しても、どこか晴れない気持ち

 Qさんは、会社が運営するある財団への出向を希望した。その財団は主に、若い人への教育を援助したり、研究を応援したりするものだ。

 会社は困惑した。人事からは「何かあったのか?」と心配され、また上司からは、「期待してるんだから、変な気を起こさないでくれよな」と強く言われた。

 Qさんは、その後の異動でさらに昇進した。同期の中でも早い方で、周囲からは「おめでとう」と言われるが、まだ心のどこかに引っかかりがある。

 どこかの地方の企業で、自分の力を生かして「世の中のため」に何かできないのか。休みの日などは、そんな求人情報や、自分がイメージするような転職に関するいろんな記事を読んでみるが、まだ踏ん切りはつなかい。

 そんなことより、いまの仕事に全力を挙げることが「世の中のため」になるのかもしれない。夢を語りながら入社してくる新人を迎える春になると、Qさんの悩みはより深くなる。

 そう簡単には答えは出ないかもしれない。だが、30代後半から40代くらいにかけては、自分の足元を見直すべき時だと言える。

 この頃になれば「仕事の大きさ」も相応になり、会社におけるポジションも固まってくる。管理職としての責任が増し、新たなことに挑戦する心理的・時間的余裕を持ちにくい。また、この年代は、自分のキャリアの終着点が、おぼろげながら見えてくる時期でもある。自分と向き合う機会を意識して作らないと、漫然と月日だけが流れてしまい、新たなスタートを切ろうにも時期を逸してしまいかねない。

 そして、「足元を見直す」という作業を行う上で、大切なことの一つが、社会に出た時の初志、いわゆる「最初の気持ち」を思い起こすことだ。

 もちろん、「初志」は「貫徹」すべきなどと、偉そうなことを言うつもりはない。ただ、社会人としての自分のキャリア、個人としての生き方を見直すには何らかの「視点」が必要となる。そうした判断基準がなければ、結局、漫然と後ろ向きの「折り合い」をつけながら、日々を過ごすことになりかねない。

 最終的には、あきらめてもいいだろう。人生は、初志を貫くか否かといった単純な選択肢の上にあるわけではない。ただ、初志との間で、自分なりのケリはつけておいた方がいい。前向きな「折り合い」を付けるための、大切な通過儀礼となるはずだからだ。

 ときに痛みを伴う、“むずむず”する春が今年もやってくる。

■今回の棚卸し
 「これが天職だ!」と満足して日々を過ごしているような人は別として、多くの人は、「自分だって本当は……」という気持ちにふたをしながら、目前の仕事に精力を傾けて過ごしているのではないだろうか。

 これは、どの年代にとっても日々の現実だろう。ただ、ミドルともなれば、ときに封印した「初志」と向きあい、自問する作業も大切だ。残された時間は、それほど多くない。今の自分を見直すことで、新たな道に進むきっかけになるかもしれないし、現在の仕事をより充実させる結果にもなり得る。

 春は変化の季節。新年度の始まりに、初志を思い出してみてはどうだろうか。

■ちょっとしたお薦め
 観阿弥の言葉を世阿弥が編した『花伝書』は、能楽のための芸術論であるが、「人の生き方」についても多くの示唆を与えてくれる。たとえば、「年来稽古条々」という章では、若い頃から老年に至るまでの歳に応じた心得が書かれている。

 いわば、「年代に応じた行動と勉強」を説いたものであるが、その内容は、現代の私たちが読んでも新しい発見がある。注釈や現代語訳がついている版もある。一読してみてはいかがだろうか。

このコラムについて

ここでひと息 ミドル世代の「キャリアのY字路」
50歳前後は「人生のY字路」である。このくらいの歳になれば、会社における自分の将来については、大方見当がついてくる。場合によっては、どこかで自分のキャリアに見切りをつけなければならない。でも、自分なりのプライドはそれなりにあったりする。ややこしい…。Y字路を迎えたミドルのキャリアとの付き合い方に、正解はない。読者の皆さんと、あれやこれやと考えたい。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/032500025/032800026/

 

日本の電力市場、生かすも殺すもJERA次第

From 日経エネルギーNext

東電・中部電が火力完全統合に合意、シェア5割の巨大会社誕生へ
2017年3月31日(金)
山根小雪=日経エネルギーNext
 東京電力・福島第1原子力発電所事故は、日本の電力ビジネスに構造転換を迫った。今、誕生しようとしている巨大企業は、まさに原発事故の申し子だ。そして、日本の電力市場の行く末を左右する鍵を握っている。

 東京電力ホールディングスと中部電力は3月28日、燃料・火力事業の全面統合へ向けた基本合意書を締結したと発表した。両社の共同出資会社JERA(東京都中央区)に既存の国内火力発電事業を統合する。2017年度上期に合弁契約を締結。その後、発電設備などのデューデリジェンスを実施し、2019年上期までに統合する計画だ。

 日本最大の電力会社である東電と、第3位の中部電の火力発電事業を統合するため、当然ながら日本最大の発電会社となる。保有する発電設備(出力)の国内シェアは約5割だ。


布石は火力発電所の新設だった
東電と中部電が共同で石炭火力を新設中の常陸那珂火力発電所
 東電と中部電は2015年4月にJERAを設立後、同年10月にstep1として燃料輸送・トレーディング事業を統合。2016年7月にstep2の燃料調達や海外発電事業を統合した。そして、今回発表したstep3の国内既存火力発電事業の統合をもって、東電・中部電の燃料・火力事業はJERAに完全統合する。

虎の子の火力発電の切り出し、それでもぶれなかった中部電

 JERA誕生の契機は、原発事故による東電の経営危機だった。単独では成長戦略を描けなくなった東電は、アライアンスに活路を見出そうとした。最大の需要地である関東を営業エリアとする東電とのアライアンスには、東京ガスをはじめ複数のエネルギー企業が食指を動かした。東ガスが本命とささやかれた時期もあったが、東電を射止めたのは中部電だった。

 JERA設立は2015年4月だが、アライアンスの伏線はその前にあった。東電・常陸那珂火力発電所(茨城県那珂郡東海村)における石炭火力発電所の新設である。

 東日本大震災後、電源不足に陥った東電は火力発電の増強に走った。その際、常陸那珂火力発電所の敷地内で65万kWの石炭火力を中部電と共同で新設することを決めた。現在、2021年の営業運転に向けて建設工事を進めている。

 中部電関係者は、「常陸那珂で東電との人脈も含めて関係を構築できたことが今につながっている」と明かす。その後、中部電はJERA設立、そして完全統合へ向けて調整を重ねてきた。

 最も大きなハードルは「福島リスクの遮断」だった。JERAの収益を上限なく廃炉や賠償に投じることになれば、中部電にとってのアライアンス効果は損なわれる。だが、昨年秋からの経済産業省の議論、そして3月22日には東電の再建計画「新々総合特別事業計画」の骨子が公表されたことで、福島リスクの遮断は一定、担保された。(「サプライズなしの東電・新計画、発表遅れの理由」参照)。

 会見に登壇した中部電の勝野哲社長は、東電の再建計画などを踏まえ「(福島リスクは)JERAの企業価値を高める面での制約はない。懸念は排除できた。過度な配当要求が出ないよう、合弁契約の締結までに配当ルールを詰めていく」と説明した。

 既存火力の統合に至るまでには、東電・中部電の内部から反対の声が聞こえることもあった。王者東電の内部には、JERAに燃料・火力部門を切り出すことに対して、「会社がバラバラにされると嫌悪感を持つ人も少なからずいた」(東電関係者)。


3月28日、ついに東電と中部電がJERA完全統合を発表した
東京電力ホールディングスの廣瀬直己社長(左)、東京電力フュエル&パワーの佐野敏弘社長(中央)、中部電力の勝野哲社長(右)
 他方、中部電にとって火力発電は虎の子だ。1960年代以降、他の電力会社が原発新設に奔走する中、中部電は原発の新設に苦戦。中部電の原発は浜岡原発(静岡県御前崎市)しかない。原子力による安価な電力が大手電力の競争力の源泉と言われる時代、原発の保有規模で見劣りする中部電が活路を見出したのが火力発電だった。

 その火力を切り出し、業界トップの東電と統合する。このシナリオに中部電内部の不協和音が報じられたのは、一度や二度ではない。だが、いま振り返ってみれば、JERAへの完全統合に向けて、中部電幹部陣の意思にぶれはなかったと感じる。

「日本の火力発電市場は縮小する」という危機感

 東電、関電に次ぐ業界第3位、三男坊の中部電はかねて「やんちゃ坊主」だった。だが、2006年の「壺事件」を契機に、経営陣を刷新。近年では他の大手電力関係者に、「中部電は何をしようとしているのか読めないから恐い」とささやかれる存在になっている。(「東電が中部電と新会社設立へ」参照)。

 その中部電がJERAへの完全統合を結実させた背景には、並々ならぬ危機感があった。ある中部電幹部は言う。「どう考えても、今後日本の火力発電市場は縮小する。一定の規模を維持するためにはJERAへの統合が必須だった」。

 少子高齢化や省エネの進展によって、日本の電力需要が減少していくのは自明だ。さらに、再生可能エネルギーの普及は今後も続く。ある大手電力幹部は、「大手電力の発電電力量が半分になったっておかしくない」(大手電力幹部)とすら言う。

 しかも、発電所それぞれの競争力も重要になってくる。電力システム改革によって、大手電力を支えていた地域独占がなくなったことで、大手電力各社の発電所は地域内に電力を供給するだけでなく、他の地域にも供給するようになっていくだろう。これは全国大で発電所の競争が始まることを意味している。

 国内での競争に打ち勝つためには、強い発電所を持つことが第一条件だ。ここに規模が効いてくる。火力発電所は2〜3年に1度、定期点検のため3カ月程度停止する。発電規模が大きくなれば、定期点検による発電量の減少、すなわち売電収入の減少による売上の変動が小さくなる。また、発電所の更新による長期の売電量減少にも堪えられる。

 勝野社長は会見で、「国内の発電所のスクラップ・アンド・ビルドを進め、最適な電源ポートフォリオを構築する」と説明した。老朽化した火力発電所を必要に応じて更新する。既にJERAがリプレース計画を発表している横須賀火力発電所(神奈川県横須賀市)が、燃料を石油から石炭に切り替えるように、燃料価格や国のエネルギー政策などをにらみ、望ましい電源ポートフォリオに近づけていく。

 そのうえで、世界最大規模となったLNG(液化天然ガス)の調達量を生かし、安価な燃料を活用する。単純に輸入するのではなく、海外における燃料トレーディング機能を織り込むことで、翻って日本向けの調達コストを押し下げようというわけだ。

 こうした考え方は、「アセット・バック・トレーディング」と言われる。JERAは海外での発電所保有も進める方針だ。国内の発電事業の縮小が見込まれるなか、調達した燃料を消費するための発電所を海外にも保有することで、調達の柔軟性を高め、リスクを低減する。

国内外の発電事業と燃料調達、燃料トレーディングを三位一体で

 今後、電力需要の減少に伴って火力発電所は余っていくだろう。卸電力価格が低迷し、収益性が悪化する懸念もある。「JERAは燃料から発電のバリューチェーンを押さえ、国内外の発電事業と燃料調達、トレーディングに三位一体で取り組む。JERAへの完全統合で事業規模を一気に拡大し、バリューチェーン全体で効率化して、ようやく現状の東電単体の発電事業の規模を維持できるかどうか」。あるJERA関係者はこう予測する。

 「現状の東電単体の規模を維持できるかどうか」という言葉には、JERAが現状の中部電の発電事業に相当するビジネスを失うことを織り込んでいる。今後の火力発電市場の縮小を、どれだけ深刻に受け止めているかがうかがえる。

 日本の火力発電事業は厳しい時代に突入しようとしている。大手電力の大半は、未だ原子力の再稼働を経営目標の一丁目一番に掲げる。「再稼働さえすれば経営は安定」と言わんばかりだ。だが、果たして本当にそうだろうか。中部電にJERA完全統合を完遂させた将来の危機は、一歩ずつ近づいてきているのではないだろうか。

卸電力市場はJERAのふるまい1つで行く末が変わる

 ただし、JERAの今後の経営によっては、日本の電力市場が深刻なダメージを受ける可能性があることも忘れてはいけない。

 既存火力の統合によって、JERAは日本の発電設備の5割を保有する巨大発電企業となる。海外の電力市場に詳しい有識者は、「独禁法上の観点から、海外ならJERAの誕生は当局が認めないだろう」と指摘する。JERAも「合弁契約の締結までに公正取引委員会などに説明する」(東電フュエル&パワーの佐野敏弘社長)と言う

 公取に判断を仰ぐ必要があるほど、JERAの市場支配力は大きい。JERAへの既存火力統合は、日本の卸電力市場に新たな寡占企業が誕生したことを意味する。

 だからこそ、JERAの取引実態を注視していく必要がある。JERAが“普通の電力取引”に邁進すれば、日本の卸電力取引の世界は桁違いに活性化する。他方、JERAがこれまでの大手電力の発電部門と同じように閉鎖的な取引に終始した時には、日本の電力市場は成長の道を絶たれるだろう。

 つまり、日本の最大発電事業者となるJERAの意思1つで、日本の卸電力市場は大きく揺さぶられることになる。ポイントは、「発販分離」だ。

 これまで日本の電力市場は、大手電力会社の小売部門が主導権を掌握してきた。大手電力各社の発電部門が発電した電気は、ほぼ100%、自社の小売部門が引き取る。こうして大手電力の小売部門は圧倒的な電源調達力を誇り、小売ビジネスで新電力を圧倒してきた。新電力の競争力が大手電力に依然として劣後する理由は、つまるところ電源の大半を大手電力が握っていることにほかならない。

 大手電力の発電部門と小売部門を分離し、発電部門が自社小売部門のために発電するのではなく、発電事業単体としての最適化を進める。そうすれば、自社小売に全量を販売するのではなく、より高く買ってくれる他の小売事業者へ販路を拡大していこうとなっていくはずだ。JERAはその先兵となるべきだ。

 JERAが、「事業の安定性から長期相対契約で電力を買ってもらいたい」(中部電・勝野社長)というのは、発電事業者として当然の発想だろう。ただ、長期相対で電力を購入するのが東電や中部電の小売部門だけかといえば、それは違う。電力小売りの全面自由化によって、国内には現在、400社に上る新電力が存在する。大手ガスや石油元売り、通信事業者など販売電力量を急速に拡大している新規事業者もある。そして、その多くが長期にわたり安定した電源の調達先を探している。

電源確保の不平等が電力ビジネスの競争を阻害している

 新電力と大手電力が公正な競争をするためには、電源確保の不平等を是正していくことが不可避だ。大手電力において、小売部門は長年、圧倒的な権力を有してきた。だからこそ、大手電力の小売部門は依然として安価な電源を調達し、新電力には太刀打ちできない低価格で販売している。

 国内最大の発電会社となったJERAが、両親会社の小売部門との軛を断ち切り、「公正な電力取引によって、高く買ってくれる人に売る」というビジネススタイルを取るようになれば、日本の電力市場は多いに活性化するだろう。

 JERA関係者からは、「今後は市場対応型のビジネスモデルにしていく」という言葉が聞こえてくる。東電と中部電の発電部門にとって、自社小売りとの強固な関係から、ある意味解放されるJERAへの統合は商機になるはずだ。JERAがより自律的に経営を進めることに期待したい。

 燃調調達の規模とトレーディング機能を駆使し、日本に安価な燃料を持ち込む。さらに、老朽火力のリプレースや廃止を進め、発電設備自体の競争力を高める。こうして発電した安価な電力を、親会社の小売部門以外の小売事業者にもフェアに供給する。JERAがこうした過程を経ることで、大手電力以外の事業者の競争力が高まれば、これまでの電力業界からは生まれなかった新たなサービスや魅力的な料金が生まれるだろう。もちろん、国内への安定供給という責務は変わらず果たされる。

 積年の課題であった大手電力による電源の独占に、風穴を空けることができるかどうか。また、縮小する日本のインフラ産業で新たなビジネスモデルが花開くのかどうか。完全統合を迎えるJERAの行方は、日本の電力ビジネスの今後を占う試金石となりそうだ。

日経エネルギーNext、紙からデジタルへ
エネルギービジネスの専門情報を発信する日経エネルギーNextは、2017年春、デジタルメディアとして再始動します。Webサイトのオープン情報や最新の記事は、メールマガジンにてお知らせ致します。ご登録はこちらからどうぞ。

このコラムについて

From 日経エネルギーNext
 電力・ガスの全面自由化を迎え、日本のエネルギー市場は新たな局面を迎えた。王者・東京電力は原子力発電所事故の賠償や廃炉の責任を背負い、大規模な合従連衡が進もうとしている。数多くの新規参入企業が虎視眈々と商機を狙い、まさに戦国時代の様相だ。電気やガスの料金は本当に下がるのか、魅力的なサービスは登場するのか――。エネルギービジネスの専門誌「日経エネルギーNext」が最新ニュースを解説する。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/022700115/032900009
http://www.asyura2.com/17/hasan120/msg/598.html

[国際18] 史上初「マイノリティ・プレジデント」の憂鬱 イアン・ブレマーが占う英国EU離脱後の世界 迫りくる「先進国リスク」    
史上初「マイノリティ・プレジデント」の憂鬱 
2017/03/31
斎藤 彰 (ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長)
 トランプ大統領にとって首都ワシントンのホワイトハウスほど居心地の悪い住宅環境はないだろう。就任以来、2階のベッドルームから見下ろすペンシルバニア大通り周辺では、連日のように騒々しい「アンチ・トランプ」集会やデモが繰り返され、ウェスト・ウィング(西館)大統領執務室で取り組む内外政策は思うように進まず、八方ふさがり状態だ。その背景に、いまだに多くの国民の支持が得られない厳しい現実がある――。


(GettyImages)
 ワシントン政界を敵視し、「アウトサイダー」の看板を掲げて鳴り物入りで登場したトランプ大統領。だが、今後の成否を占う上でもうひとつ無視できない特異性がある。すなわち米国史上前例のない「マイノリティ・プレジデント」であるという事実だ。

 「マイノリティ」とは、白人が主流を占めるアメリカ社会では通常、黒人、ヒスパニック、アジア、アラブ系などの「少数民族」をさすが、トランプ氏の場合は、「マジョリティ」(多数派)でなく「マイノリティ」(少数派)の支持しか得られていない大統領であることを意味している。

 トランプ政権発足以来の各種世論調査機関が随時公表してきた大統領支持率が、そのことを示している。 とくに、草分け的存在であるギャラップ社が、就任式以後、毎日一貫して実施してきた、有権者1500人を対象とした大統領支持率追跡調査Daily Trackingのデータは注目に値する。

 それによると、初日の1月20日では「支持」「不支持」が共に45%でまったくの互角だったが、翌日調査では「不支持46%」が「支持45%」を上回った。その後、3日目、4日目にいったん「支持46%」「不支持45%」と逆転したものの、以後、60日以上も連続して「不支持」が「支持」を上回ってきており、3月26日には「不支持57%」「支持36%」と、大統領を「支持しない」と答えた人が21%もの差をつける結果となっている。

 しかも、連日発表される数字には多少の変動こそあるものの、特筆すべきは、支持率は就任以来、今日に至るまで1日たりとも過半数を超えたことがないことだ。米議会調査局(CRS)の長年の知人は、「彼こそまさに歴史に残るマイノリティ・プレジデントだ」と言い切る。

 実際、歴代大統領の場合を見ると、少なくとも就任後100日間の「ハネムーン(蜜月)期間」の支持率は、近年のクリントン(1993年)、ブッシュ(2001年)、オバマ(2009年)各大統領は言うに及ばず、建国以来まで遡っても、誰もが60〜80%台の高い支持率を記録してきた。つまり、過去のどの大統領も「マジョリティ・プレジデント」だった。就任以来、1日たりとも50%をクリアできない「マイノリティ・プレジデント」はトランプ氏が初めてだ。

 このことは、ホワイトハウス入り前から本人が十分自覚していたはずだ。昨年11月の選挙で選挙人の数でこそ多数を制したものの、投票総数では民主党のヒラリー・クリントン候補に280万票もの差をつけられる結果だったからである。トランプ氏には“illegitimate(正当性を欠く)President”とのレッテルさえ貼られている。

大統領令の連発

 そこで彼が人気挽回策として就任直後から矢継ぎ早に打ち出してきたのが、オバマ前政権がスタートさせた国民医療保険制度「オバマケア」の撤廃、環太平洋経済連携協定(TPP)からの脱退宣言、イスラム諸国からの移民・旅行者入国禁止、メキシコ国境沿いの不法入国者阻止のための「壁」建設構想など、一連の大胆ともいえる大統領命令だった。   

 ところが、選挙公約の目玉としていたオバマケアの撤廃とそれに代わる共和党代替法案は、下院共和党内の多数の造反と民主党の反対で撤回となったほか、入国禁止令もハワイ、ワシントンなどの連邦地裁で差し止められ、巨額の費用を要する「壁」建設計画も、メキシコ政府の反対にあい具体的な実現のめどが立っていない。

 それでもトランプ氏は少なくとも表面上は、強気の姿勢を崩さず、「オバマケア撤廃は一時棚上げでも、次は大幅減税に着手する」とホワイトハウス執務室で報道陣を前に大見えを切って見せた。しかし、米議会法案審議に詳しい政界筋は「代わる財源確保のめどがたたないまま法人税などを大幅カットすれば財政赤字はふくらむだけであり、共和党内の反発も少なくなく、下院可決はオバマケア代替法案以上に難しい」と指摘する。

 一方、昨年以来マスコミで取りざたされてきたロシア諜報機関の米大統領選介入疑惑をめぐり、連邦捜査局(FBI)、米議会における真相解明の動きも、トランプ政権にとっては気がかりだ。

 すでにコーミーFBI長官が3月中旬、下院情報特別委員会での証言で、ロシア政府が選挙期間を通じ、プーチン大統領に批判的だった民主党のヒラリー・クリントン候補の当選を阻止するため違法性の高い対米諜報工作に乗り出していたことを事実上認めたほか、現在すでに、トランプ陣営がロシア側と共謀した可能性も含めて捜査中であると明言した。

ウォーターゲート事件並みの超党派の議会特別調査委員会設置

 これとは別に、共和党の重鎮ジョン・マケイン上院軍事委員長らを中心に、ロシアとトランプ陣営との共謀疑惑解明のため、ウォーターゲート事件並みの超党派の議会特別調査委員会設置の動きも見逃せない。そしてもし調査の進展具合で、大統領自身もこれに関与していた疑惑が出てきた場合は、最悪の場合、弾劾に追い込まれる可能性も否定できなくなりつつある。

 トランプ大統領は、就任以来、週末はワシントンではなく、南フロリダの自慢の別荘「マー・ア・ラーゴ」でメラニア夫人と過ごすことが多くなった。その回数は3月半ばまでの間にすでに5回にも及んでいる。そしてかたや、自らの出身選挙区かつ“郷里”でもありながら、大統領選ではクリントン候補に大敗したニューヨーク市。今なお断続的にトランプ批判デモが続くその中心部マンハッタンの一等地にある豪華絢爛たる自分のトランプ・タワーでは、夜も落ち着いて眠れないというのだろうか。
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/9247


 


イアン・ブレマー氏が占う英国EU離脱後の世界

インタビュー

「Gゼロ」の混乱、10年は続く
2017年3月31日(金)
3月29日、英国はEU(欧州連合)に対して正式に離脱を通知した。英国の離脱は、大国主導の統治体制からリーダー不在の時代への突入を意味する。『日経ビジネス』では、英国が国民投票によりEU離脱を決定した後の2016年7月に、国際政治学者イアン・ブレマー氏に話を聞いた。同氏が予測する新しい世界の姿とは。

イアン・ブレマー(Ian Bremmer)氏
米国際政治学者。1994年米スタンフォード大学で博士号を取得。25歳で同大学フーバー研究所の史上最年少研究員に。98年にシンクタンク、ユーラシア・グループを設立し、政府系機関や金融機関、多国籍企業など約300の顧客を抱える。(写真=Mayumi Nashida)
英国のEU離脱をどう位置付けていますか。

イアン・ブレマー氏(以下、ブレマー):私がシンクタンクを設立した1998年以来で最大の地政学リスクだと考えている。戦後、世界は米国1極の『G1』から、先進国の『G7』、中国やインドを交えた『G20』体制へと極を分散させてきた。そして今や世界に圧倒的なリーダーが存在しない『Gゼロ』の時代に入った。英国のEU離脱はその象徴的な出来事だ。

 2001年に米同時多発テロが起きた当時、米国はまだ世界への影響力があり、リーダーシップを発揮してテロ対策を先導した。2008年の金融危機時も、力は弱まりつつあったが、米国を中心に国際的に連携し、金融・財政の両面で対策を打った。

 今回は事態を収束する国が見当たらないどころか、英国に続こうとする勢力が増えている。金融市場や世界経済のマイナス要因だけと考えず、欧州全体が長期間にわたって脆弱な状態に陥る、地政学リスクとして捉えるべきだ。すぐに効き目の出るような対策は存在しないため、この先5年、10年はかかる息の長い対応が求められることになる。

欧州は解体の道へ向かっているということでしょうか。

ブレマー:残念ながら国家を超えて共通の価値観でまとまるという実験は失敗に向かっている。今や大欧州の崇高な理念は風前のともしびであり、もう元には戻らないだろう。

 一方で、経済面での結びつきが弱まることはない。EUの単一市場はなくならないだろうし、経済統合プロセスは今後も続くだろう。

 EUは拡大を急ぐあまり、ロシアやトルコに拙速に近づきすぎた。EUと彼らでは政治理念や経済価値が違いすぎる。そのひずみが、中東から大量に押し寄せる難民問題や、欧州各国で頻発するテロとなってEUを混乱させた。

再び大国がリーダーシップを発揮する時代が来る可能性はありますか。

ブレマー:有力候補はやはり米国と中国だ。中国はアジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立を主導し、自前の製品開発力を高め、サプライチェーンも構築している。アジアの一部の国にとって中国は既にリーダー国となっている。ただ、中国はかつての米国のように、世界の警察になるつもりはない。世界の貿易を振興しようという考えもないだろう。

 米国も多方面で貿易関係を構築することよりも、特定の国との緊密な関係を選ぶようになった。そこに長期的な外交戦略はなく、より商業的な価値や自国のセキュリティーが優先され、保護主義的な意味合いが強くなっている。これは次の大統領が誰になっても変わらないだろう(※このインタビューが行われたのは、米大統領選挙でトランプ氏が当選する前だった)。

 ただ、米国も中国も経済、地政学の両面で安定した欧州を望んでいる点で利害関係は一致しており、今後はつながりが強まる可能性もある。

大国のリーダーシップが失われつつある一方、各国には大衆迎合主義(ポピュリズム)が台頭しています。

ブレマー:グローバル化によりわずかな富裕層が多くの富を抱え込む構造が定着した。それでも、世界経済が成長している間は、中間層の所得が上昇し、国が豊かになっていた。しかし金融危機以降に成長が停滞し、中間層はかつてのような収入増は見込めず、富裕層は租税回避地などを利用して所得を防衛するようになった。

 広がる格差は多くの中間層や低所得層にとって国家に対する不信感と不満につながり、ポピュリストはそれを巧みにあおる。『我々のことを考えない政治エリートに罰を与えよう』と。

 英国では移民問題や経済への影響が争点になったと言われるが、それは表層的な理由だ。その裏にある、大多数の国民が政治的なエスタブリッシュメントに抱いていた不満が大きかった。この状況は、英国だけでなく欧州各国や米国で見られる現象だ。

政治的な指導力を発揮することがますます難しくなっていると。

ブレマー:その一方で、興味深い動きもある。ローマ法王のような、国家を超えた組織の指導者が重要なリーダーシップを果たしていることだ。ローマ法王は、今や世界を二分するようなテーマに積極的に関わっている。非科学論争や避妊、同性婚の問題など、センシティブだがどれも極めて大事なイシューだ。

 昨年、地球温暖化防止を議論したパリ会議でも、陰で影響力を発揮したのは、ビル・ゲイツ氏やイーロン・マスク氏といった企業家だった。国家の影響力が相対的に衰える中で、こうした新しい形のリーダーシップは今後さらに重要性を増すだろう。

(日経ビジネス2016年7月25日号より転載)

【4月13日開催!】イアン・ブレマー氏 来日記念セミナー
“迫りくる「先進国リスク」に、企業としていま何をすべきか”
 欧州問題を早くから提言していたユーラシア・グループ代表のイアン・ ブレマー 氏(政治学博士)が来日。さらに企業経営者やPwC Japanグループ のブレグジット・アドバイザリー・チームに登壇いただき、今後想定される 主要国の政策シナリオ、ならびにその政策シナリオに基づいた各企業として の対応策を検討する上でのポイントを解説します。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/interview/15/230078/033000080


 
イアン・ブレマー氏 来日記念セミナー 迫りくる「先進国リスク」に、企業としていま何をすべきか」
 英国のEU離脱や米国のトランプ新政権誕生によるナショナリズムの台頭に伴う先進国における地政学リスクが高まっています。その影響は日々の為替、株式・債券市場はもちろん、企業の運営や投資活動、さらに各国の経済政策、TPPなどの通商政策にも及ぶのは必至です。それに伴い日本企業も海外拠点の対応やオペレーション、通貨・財務運営の見直し、さらに長期的な経営・投資戦略までの検証と備えが欠かせません。
 本シンポジウムでは、欧州問題を早くから提言していたユーラシア・グループ代表 イアン・ブレマー 氏(政治学博士)を迎え、さらに企業経営者やPwC Japan グループのブレグジット・アドバイザリー・チームに登壇いただき、今後想定される主要国の政策シナリオ、ならびにその政策シナリオに基づいた各企業としての対応策を検討する上でのポイントを解説いたします。
(同時通訳にて御聴講いただけます)
開催概要
日時
2017年4月13日(木) 13:00〜17:15 (12:30開場予定)
会場
ベルサール東京日本橋 B2 ホールC
(〒103-0027 東京都中央区日本橋2−7−1東京日本橋タワー)
主催
日経ビジネス
特別協賛
PwC Japan グループ
受講料
一般      :33,000円(税込)※「日経ビジネスDigital版セット」半年間購読付
日経ビジネス読者 :25,000円(税込)
※PwC Japan グループと同業者さまの御登録はお断りさせていただいております
(事前登録制)
プログラム
※講演者や講演時間など、プログラムは変更になる場合がございます。予めご了承ください。

12:30〜
開場

13:00〜14:30
基調講演
「迫りくる「先進国リスク」 本格的なGゼロ時代の地政学リスクを読み解く」

ユーラシア・グループ代表
イアン・ブレマー 氏(政治学博士)
※13:45分からQ&Aセッションを実施 
14:30〜15:15
【講演1】
「英国のEU離脱で揺れる欧州政治動向 欧州内の選挙動向から今後の地政学シナリオを考える」

ユーラシア・グループ ヨーロッパ マネージングディレクター
ムシュタバ・ラーマン 氏
15:15〜15:30
休憩

15:30〜16:15
【講演2】
「英国のEU離脱シナリオ、ならびに米国の外交・経済政策に向けた日本企業の課題と対策」

PwCアドバイザリー合同会社 ブレグジット・アドバイザリー・チーム
舟引 勇 氏
16:15〜17:15
【パネルディスカッション】
「ブレグジットならびに米国の外交・経済政策に向けて、企業としていま何をすべきか」

日本企業 海外担当役員(調整中)
PwC コンサルティング合同会社 ストラテジーコンサルティング(Strategy&)
尾崎 正弘 氏
PwC税理士法人
小林 秀太 氏
モデレーター:日経BPビジョナリー経営研究所 研究員 酒井耕一
http://ac.nikkeibp.co.jp/nb/0413eu/

http://www.asyura2.com/17/kokusai18/msg/791.html

[国際18] 3年で400人死亡?広東ホームレス収容所の劣悪  利益急増の裏で「家畜同様の扱い」各地で横行か 世界鑑測 北村豊の「中国
3年で400人死亡?広東ホームレス収容所の劣悪

利益急増の裏で「家畜同様の扱い」、各地で横行か


世界鑑測 北村豊の「中国・キタムラリポート」
2017年3月31日(金)
北村 豊
 2003年3月に広東省“広州市”で、就職のために故郷の湖北省から広州市に到着したばかりの26歳の青年“孫志剛”が、身分証を持たずに外出して“流浪人(ホームレス)”と間違われて収容所へ送られ、取り調べ中に暴行を受けて死亡した事件(通称:孫志剛事件)が発生した。この事件を通じて、収容所におけるホームレスや物乞いに対する非人道的な扱いが明るみに出たのを契機として、都市のホームレスや物乞いを収容して故郷の農村へ送り返すことを目的とした法律『“城市流浪乞討人員収容遣送辦法(都市ホームレス・物乞い収容弁法)”』が廃止された。

 孫志剛事件からすでに14年の月日が経過したが、同じ広東省の“韶関(しょうかん)市”にあるホームレスを一時的に収容する“托養中心(養護センター)”で、今年1月1日から2月18日までのわずか49日間に20人もの収容者が死亡していた事実が明らかになった。3月21日に中国メディアがこの事件を一斉に報じると、中国国民は大きな衝撃を受け、真相究明を求める声が全国から沸き上がった。この事件が発覚する端緒となったのは、自閉症で知的障害を持つ15歳の少年の失踪だった。事件の概要は以下の通り。

きっかけは、15歳少年の失踪

【1】2016年8月8日、朝6時に目覚めた“雷洪建”は、隣のベッドに寝ているはずの息子、“雷文鋒”の姿がないことに気付いた。部屋の扉は施錠されていたから、雷文鋒が部屋を出る時に外から施錠したものと思われたが、熟睡していた雷洪建は雷文鋒がいつ部屋から出て行ったのか知らなかったし、息子が外から扉に施錠する音も聞いていなかった。3年前に息子の雷文鋒を連れて、故郷の湖南省から広東省“深圳市”へ出稼ぎに来た雷洪建は、ある電子製品工場で働くようになり、同工場の従業員宿舎の1室に息子と一緒に住んでいた。

 
【2】従業員宿舎の1階に設置された監視カメラの映像には、早朝の4時6分に宿舎の門を出て、“観瀾大富工業区”のゲートの方向へ歩いて行く雷文鋒の姿が映っていた。雷文鋒はえんじ色の半袖シャツを着て、黒色の半ズボンをはいていた。雷文鋒は自閉症で知的障害があり、すでに15歳であるにもかかわらず、簡単な足し算・引き算すらもできない。彼が記憶しているのは自分と母親の名前だけで、電話番号も記憶できないし、“普通話(標準語)”も話せず、表現できる単語は限られていた。彼ら父子は宿舎の1室に同居しているが、雷文鋒が1人で外出することはなく、週末に雷洪建と一緒に遊びに行くとしても、それは深圳市内に限られていた。

【3】雷文鋒はどこへ行ったのか。雷洪建は工業区のゲート周辺を探し回ったが、すでに数時間が経過していたし、早朝4時では目撃者もおらず、雷文鋒の行方を捜す手掛りは全く見付からなかった。雷洪建は専門業者に依頼して雷文鋒の顔写真入りの“尋人啓事(尋ね人広告)”を超特急で作成し、工業区内や周辺地域の柱や壁に貼って回った。当該尋ね人広告の内容は以下の通り。

“尋人啓事(尋ね人広告)”
雷文鋒、男、15歳。知的障害あり、自閉症、発音不明瞭、“普通話(標準語)”話せず。
2016年8月8日、深圳市内“観瀾大富工業区”で失踪。上半身はえんじ色の半袖シャツを着て、下半身に黒色の半ズボンをはいていた。身分証明書もカネも持たず、家族は非常に気をもみ、ずっと探しているが何の手掛りもない。どうか、心ある人はこの広告を心に留め、情報がありましたら電話18926045291へ連絡ください。
感謝、“好人(善人)”が一生平安であることを祈ります。
【4】雷洪建は尋ね人広告を周辺地域に貼って回ると同時に、携帯電話でSNS“微信(Wechat)”の“朋友圏(モーメンツ)”に尋ね人広告を投稿して情報提供を呼び掛け、その日のうちに地元の“観瀾派出所”へ雷文鋒の行方不明を通報した。1日目は何の収穫もなかったが、2日目(8月9日)の午後3時頃に、M338路線バスの運転手から雷洪建に電話が入り、バスに搭載されている監視カメラに終点の“清湖地鉄公交接駁站(清湖地下鉄・公共バス乗換駅)”(以下「乗換駅」)で下車する雷文鋒の姿が映っていたと連絡があった。乗換駅は彼らが住んでいる場所から約12kmの距離にある。

地下鉄1駅ごとに尋ねたが…

【5】電話を終えた雷洪建はすぐに乗換駅へ出向き、駅の保安係に尋ね人広告を示して雷文鋒を見なかったか聞いて回ると、ある保安係が見かけたと言った。そこで乗換駅を管轄する“清湖派出所”の監視カメラをチェックしようとしたが、あいにく壊れていたので、付近にある別の監視カメラを見せてもらうと、幾つ目かの監視カメラに息子の雷文鋒の姿が映っていた。映像の中の雷文鋒は地下鉄4号線に乗って香港との境界にある“福田口港(福田検問所)”の方向へ向かっていた。雷洪建は地下鉄4号線に乗り、1駅毎に下車して駅員に雷文鋒を見かけなかったか聞いて回ったが、雷文鋒を見かけた駅員は誰もいなかった。しかし、終点の“福田口港站(福田国境検問所駅)”に来て駅員に尋ねると、1人の保安係が1時間位前に雷文鋒を見かけたという。彼によれば、雷文鋒は他人のすぐ後に付いて改札口を切符なしで出ようとして失敗し、身を翻して駅の構内へ走り去ったという。ここで捜索の手掛りは途絶えた。

【6】雷洪建の妻は湖南省“衡陽市”の実家で雷文鋒の2人の妹を育てていた。下の妹は1歳になったばかりだった。このため、雷洪建は自閉症で知的障害を持つ雷文鋒だけを連れて深圳市へ出稼ぎに来ていたのだ。雷洪建の同僚たちの雷文鋒に対する印象は、気が小さくて静かな子供で、1人で外出することも、見知らぬ人と話をすることもできないというものだった。そんな雷文鋒が8月8日の早朝に父親に何も言わずに外出し、忽然と姿を消したのだった。

【7】雷文鋒が次に姿を現したのは失踪から7日後の8月15日で、その場所は深圳市に隣接する“東莞市”であった。8月15日の午前8時15分頃、雷文鋒は東莞市の中枢に位置する“万江路”の“汽車客運総站(旅客バスターミナル)”内にあるケンタッキーフライドチキン(KFC)の店先に倒れていて、それを見つけた通行人が公安局へ通報したのだった。深圳市の福田国境検問所駅から東莞市の万江路までは83kmの距離があり、不眠不休で歩いても23時間かかる。雷文鋒がどうやってそれだけの距離を移動したのか。

【8】通報を受けて現場へ急行したのは、“東莞市公安局万江分局”に属する“車站派出所(旅客バスターミナル派出所)”の警官“単福華”だった。単福華によれば、当日は小雨が降っていたが、雷文鋒はKFCの店先に横たわり、その衣服は非常に汚れ、彼の腕にはいくつかの擦過傷があり、顔色が悪く、何を聞いても無反応だったという。単福華が雷文鋒を“東莞市人民医院”の救急科へ搬送したところ、雷文鋒は医師から1週間の入院治療を命じられた。この期間中に医師は入院患者から「雷文鋒」という名前を聞き出し、それを単福華へ電話で連絡してきた。単福華はこの「雷文鋒」という名前を上部組織である万江分局へ報告したが、万江分局はこれを放置し、雷文鋒の戸籍を調べることも、家族に連絡を取ることもしなかった。後にこの点について弁明した万江分局の副分局長は、全国には同姓同名が無数にあり、名前だけから雷文鋒の戸籍を調べることは不可能だったと述べている。

尋ね人広告は救助施設近くに配布されたが…

【9】8月24日、雷文鋒の身柄は旅客バスターミナル派出所から東莞市の“救助站(救助ステーション)”へ移されたが、身柄引渡書の名前の欄には「“無名氏(氏名不詳)”」と書かれていた。救助ステーションに収容された雷文鋒は、その翌日に東莞市内の“東城医院”で診察を受けたが、足裏に3カ所の潰瘍が見つかり、その傷口が化膿し、皮膚の一部が壊死してることが判明した。このため、雷文鋒は8日間の入院治療を命じられて、9日目に再診を条件に退院したが、その後に雷文鋒が東城医院を再診のために訪れることはなかった。

【10】退院して救助ステーションに戻った雷文鋒は、1か月半を同ステーションで過ごした。この間に雷文鋒を探す尋ね人広告が同ステーションに配布されたが、雷文鋒が収容される際に記入された『救助申請書』には「1991年生まれ」と実際よりも9年も早く書かれていたので、100kgを超える肥満体で身長168cmの雷文鋒は24歳と思われ、広告に記載された16歳の少年とは別人と考えられた。また、雷文鋒は日焼けと激やせで顔つき変わっていたから、誰も写真の男と雷文鋒が同一人物とは考えなかった。こうして、尋ね人広告が身近に配布されたにもかかわらず、雷文鋒が発見されることはなかった。

 
【11】2016年10月19日、24歳の成人と見なされた雷文鋒は、東莞市の救助ステーションから178km離れた広東省北部の“韶関市”に属する“新豊県”にある“練渓托養中心(練渓養護センター)”へ送られた。練渓養護センターは東莞市の委託を受けてホームレスを収容する施設である。東莞市がホームレスの収容を委託する先は公開入札で決定されるが、入札条件には東莞市が委託先に支払う費用は収容者1人当たり毎月1066元(約1万7600円)を超えない範囲と規定されている。これは1か月を31日で考えれば、1人当たり1日34.4元(約570円)になるが、委託先がこれから利益を出そうと考えるなら、収容者の食事や待遇は家畜並みとならざるを得ない。

【12】練渓養護センターの職員によれば、雷文鋒が到着した時には、身体が弱っているように見えたが、収容時に行う身体検査では何の異常も見付からなかった。同職員の印象では、雷文鋒は物静かで、知的障害はあるものの、いつも騒ぐことはなく、粗暴な振る舞いもなかった。収容から1か月が過ぎた11月24日、雷文鋒は食事を取らなくなったとして、“新豊県人民医院”へ送られて入院した。同医院の担当医師によれば、入院時に雷文鋒は激しい下痢の症状を示し、非常にやつれていたので、点滴を行ったという。入院2日目に血液検査を行った結果、雷文鋒は腸チフスに感染していることが判明した。医師はこの腸チフス感染は雷文鋒が不衛生な物を食べたことに起因すると言明した。

半数近くのホームレスが死亡

【13】入院9日目の12月3日、雷文鋒は医師によって死亡宣告を受けた。8日後に雷文鋒は16歳の誕生日を迎えるはずだった。医院の死亡記録によれば、雷文鋒の死因は消化管がんとサルモネラ菌感染による腸チフスの併発によるショックあった。その後、新豊県の“殯儀館(葬儀場)”へ運ばれた雷文鋒の遺体が間もなく火葬されようとしている時、父親の雷洪建が葬儀場に現れた。雷洪建は練渓養護センターから運ばれた3体の遺体の中から雷文鋒の遺体を見つけ出し、悲しい対面を行った。雷洪建は東莞市バスターミナル派出所の警官である単福華から「雷文鋒」という名前の少年に関する情報を聴取し、東莞市救助ステーションを経て練渓養護センターにたどり着いたが、時すでに遅く息子の雷文鋒は死亡していたのだった。

【14】葬儀場で雷文鋒が火葬されようとした時、葬儀場の職員が雷洪建を慰めようと、「練渓養護センターから1年間に運ばれて来る遺体の数は非常に多いが、家族が見付かる遺体は2〜3体しかないから、あんたは子供に顔向けができるさ」と述べた。この言葉を聞いて奇異に感じた雷洪建がメディアの記者に事態を告げたことから、今回の事件が明るみに出ることになった。新豊県の練渓養護センターで多数の死者が発生していることの真偽はネット上でも議論を呼び、大きな話題に発展したが、新豊県政府は公式に多数の死者の存在を否定した。

【15】しかし、3月10日に北京紙「新京報」の記者が新豊県葬儀場を取材して、葬儀場の遺体受入記録を調査した結果は、2017年1月から2月18日までの49日間に、練渓養護センターから受け入れた遺体は20体に上っており、その内訳は、“広州市”:15人、東莞市:3人、韶関市:1人、“連州市”:1人となっていた。一方、同記者が広東省の某救助ステーション関係者から聴取した話では、当該救助ステーションが練渓養護センターへ送り込んだホームレスの数は、2011年から今日までに200人以上だが、今年3月までの6年間で100人近い人数が死亡しているという。同人は、「救助ステーションから送り出す時点では基本的に健康だったのに、半数近い人数が死亡するとは、練渓養護センターの衛生環境がいかに劣悪か」と語り、彼の統計では数十人の死因は肺炎だったと述べた。

【16】資料によれば、練渓養護センターは2010年の営業開始から6年を経ている広東省認定の“民辦非企業単位(民営非企業組織)”<注>で、元“新豊県社会福利院(新豊県老人ホーム)”の職員だった、現在39歳の“羅麗芳(女)が法定代表として運営している。当初は新豊県政府と羅麗芳間の請負契約に基づき、他地域の老人ホームから新豊県老人ホームが引き受けた老人を収容して養護を行っていたが、現在では業務範囲を拡大して広州市、深圳市、東莞市などで行われる入札に参加し、落札した各地の救助ステーションが収容しているホームレスの一時預かり業務を行っている。

<注>中国政府の各行政部門が独自の裁量で許可した民間が運営するサービス組織、1996年に“民辦非企業単位”という名称が規定された。

背景に利益第一主義と賄賂強要

【17】2015年7月、練渓養護センターは東莞市救助ステーションからホームレス一時預かり業務を2年契約で受注していた。雷文鋒が練渓養護センターに収容されたのは、この契約に基づくものだった。練渓養護センターの収容人数は、設立当初は数十人だったが、2016年には600人前後に増え、2017年3月時点では733人になっていた。広東省の民政部門や救助管理機構は、定期的に練渓養護センターの運営状況を確認するために立ち入り検査を行っていたが、検査日を事前に通知していたため、練渓養護センターは収容者に対する劣悪な待遇を隠蔽し、常に検査結果は「食事もサービスも良好」で何の問題なかった。

【18】羅麗芳の親類が記者に語ったところでは、練渓養護センターは2015年から利益が急増し、1年に200万元(約3300万円)の利益を上げるようになったという。これが事実とすれば、利益第一主義で、収容者に対するサービスを低下させ、食費も切り詰めていたものと思われ、雷文鋒のように不衛生な食事を取ったことにより病を得て死亡した収容者が増加したことが容易に想像できる。

【19】事件が明るみに出ると、広東省政府は検察、公安、民政、衛生などの各部門から成る特別調査チームを編成し、練渓養護センターの立ち入り検査を行い、投資者の“劉秀玉”、法人代表の羅麗芳、職員2人の計4人を刑事拘留した。また、練渓養護センターから管理費と称して賄賂を受け取っていた新豊県の前民政局長で現県党委員会常務委員の“李翠瓊”(女)と中小企業局長が反党行為の審査処分、現職の民政局長と副局長並びに前新豊県の民政担当副県長が停職となった。

 以上が事件の全貌だが、孫志剛事件から14年が経過した現在もなお、ホームレスや物乞いを収容する施設が、収容者に対して家畜同様の扱いをしている事例は中国国内に多数存在し、練渓養護センターはその一例に過ぎないと識者は述べている。練渓養護センターでは、わずか15m2の部屋に十数人の収容者が押し込められ、トイレの臭気がふんぷんと漂う中での生活を余儀なくされていた。あるメディアは練渓養護センターでは過去3年間に400人以上の収容者が死亡していると報じ、その悲惨さはナチスドイツのユダヤ人収容所に匹敵すると述べている。その背景にあるのは、収容施設の利益第一主義であり、施設を管理監督する立場の役人による賄賂の強要である。

このコラムについて

世界鑑測 北村豊の「中国・キタムラリポート」
日中両国が本当の意味で交流するには、両国民が相互理解を深めることが先決である。ところが、日本のメディアの中国に関する報道は、「陰陽」の「陽」ばかりが強調され、「陰」がほとんど報道されない。真の中国を理解するために、「褒めるべきは褒め、批判すべきは批判す」という視点に立って、中国国内の実態をリポートする。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/101059/032900094/

http://www.asyura2.com/17/kokusai18/msg/792.html

[経世済民120] インバウンド支える日本人の「腰」 お寺やお布施は誰のためにある? 無葬社会―彷徨う遺体 変わる仏教「多死社会と葬送」 
インバウンド支える日本人の「腰」

記者の眼

「爆買い」を運ぶ裏方の工夫と技術
2017年3月31日(金)
大西 孝弘
「この数年、荷物が重くなった」
 関西国際空港でグラハン(グランドハンドリング)業務を担う担当者は言う。

 グラハンとはカウンター業務やラウンジ業務のほか、航空機の誘導や荷卸しなど空港での地上業務を指す。カウンターや荷卸しなどで大きな荷物を扱うことが多い。

 荷物が重くなった要因の1つとして、訪日外国人(インバウンド)の急増とその荷物の増加を挙げる人が多い。

 確かに最盛期の勢いは衰えたとはいえ、今でも空港では“爆買い”で大きな荷物を抱える外国人の姿を良くみかける。特に関空はアジアの玄関口として外国人の利用客が増えている。

 同空港のグラハン業務の多くは日本航空やANAホールディングスではなく、物流会社の鴻池運輸グループが担っている。

 同社は1994年の関空の開港と同時に空港貨物の取り扱い業務に本格参入した。JALが経営破綻した2010年には、JAL系のグラハン会社の3社を買収し、業容を拡大した。


関西空港に着陸した航空機

航空機に乗り込み、中腰を保ったまま荷物を取り出していく
 同社は腰痛対策に物流会社ならではのノウハウを生かしている。航空機から荷物を取り出す業務では腰に大きな負荷がかかるからだ。

 以前はジャンボ機が多かったが、近年はLCC(格安航空会社)の台頭や細かな需要に柔軟に応えるという理由から小型機が増えている。大型機は荷物の出し入れなどに機械を使えたが、小型機は形状などが千差万別で、手作業が必要になる。

 1月中旬にグラハンの現場を取材すると、さっそく小型機が着陸してきた。鴻池運輸の作業員たちの誘導に従って航空機が所定の位置に止まると、さっと航空機の下部に作業員が入り、手際よく荷物を取り出し始めた。中腰で荷物を運ぶため腰を痛めやすい。

サイボーグ型ロボットの活用も

 そこで取り出したのが、運送作業用に使う「スライダーボード」だ。プラスチック製の製品で表面の接触面積を少なし、摩擦抵抗を減らしてある。
 裏面はグリップが利いて固定できる半面、表面は荷物が滑りやすい。この上で荷物を滑らせて、持ち上げる作業を減らし、腰の負担を和らげているのだ。

 荷物を滑らせたいところにボードを敷いて使う。倉庫からトラックに荷物を運ぶ際などに用いられており、これを空港のグラハンでも利用している。

 社外でも好評であることから、鴻池運輸はグループ会社を通じてスライダーボードの外販もしている。


主に運送現場で使われるスライダーボード。見た目は変哲のないボードだが、作業負荷低減に役立つ
 空港のチェックインカウンターでも腰に負担がかかる。主に女性が手荷物をコンベアーに移動させたりしてため、腰を痛める人が多い。そこで様々な対策を講じている。

 始業前のラジオ体操やストレッチ運動はもちろんのこと、医学博士が職場を巡回し、腰痛に繋がる職場施設や社員の動作などの問題点を洗い出し、作業手順を見直している。また管理職が腰痛持ち社員を把握し、作業負荷を軽減させている。

 空港のグラハン業務で日本の最新技術を使う動きも出てきた。

 全日本空輸は4月から成田空港で作業支援ロボットの試験導入を拡大する。導入するのは、筑波大学発ベンチャーのサイバーダインが開発した「HAL作業支援用(腰タイプ)」。腰の周りに装着し、荷物を運ぶ際の動きをサポートする。


サイバーダインが開発した「HAL作業支援用(腰タイプ)」。荷物を運ぶ動きをサポートする
 HALは身体機能を補助できるサイボーグ型ロボットである。脳や神経系からの指令信号を読み取り、人間の意思に従った動作を補助する。

 昨年11月から2台導入し、手荷物の取り扱い業務で活用していた。作業負荷低減の効果を確認できたので4月から25台を導入し、グラハン業務で幅広く活用する。

4000万人の荷物を運ぶ人がいる

 インバウンドの増加によって、荷物の量や重さが増しており、腰痛などの労働災害のリスクが高まっている。人力のみに頼ると、重量物の運搬ができる人が限られてしまう。実際、重労働を嫌ってグラハン業務を敬遠する人もいる。

 ANAはロボットの活用で、作業負荷の低減や作業性の向上を実現し、女性やシニア層など多様な人材が働きやすい職場にすることを狙う。

 政府は2020年までにインバウンドを4000万人に増やす計画で、経済活性化の起爆剤として期待している。モノを買えば、それを運ぶ人がいる。モノを運ぶ空港の裏方でも進化が求められている。


このコラムについて

記者の眼
日経ビジネスに在籍する30人以上の記者が、日々の取材で得た情報を基に、独自の視点で執筆するコラムです。原則平日毎日の公開になります。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/221102/033000436/

 
お寺やお布施は誰のためにある?

無葬社会――彷徨う遺体 変わる仏教

特別鼎談「多死社会と葬送」最終回
2017年3月31日(金)
鵜飼 秀徳
かつてない多死社会を迎えている日本で、葬送はどう変わっていくのか。先月14日、東京・増上寺で行われたシンポジウム「多死社会と葬送」の最終回レポート。新刊『骸骨考』を出版するなど、遺骨や葬送に関しての造詣の深い養老孟司さん、浄土宗の僧侶でホームレス支援団体の事務局長を務める吉水岳彦さん、そして著者の鵜飼秀徳が名和清隆さんの司会のもと、人口減少と都市化が進む中で、寺はどんな役割を担っていくのかについて語った。
都市に集まる献体


左から、名和清隆さん(淨念寺副住職、浄土宗総合研究所研究員、亜細亜大学・淑徳大学講師)、鵜飼秀徳(京都・正覚寺副住職、日経おとなのOFF副編集長)、養老孟司さん(東京大学名誉教授)、吉水岳彦さん(ひとさじの会事務局長、光照院副住職)。写真は大高和康。
司会(名和清隆さん、以下、司会):吉水さんは、「ひとさじの会」というホームレス状態の方や生活困窮者の支援団体の事務局長をされていますね。路上生活者の葬儀や法要もしていらっしゃいます。

吉水岳彦さん(以下、吉水):きっかけは、貧しい人たちのためのお墓を建ててほしいという相談を受けたことです。ホームレス状態の人たちに話を聞いたら、俺たちはどうせ生きていたって野垂れ死になるか、無縁仏になるだけだと言います。そして、路上に出るまでに、いろいろな人とのつながりが切れてしまっているけれども、新たにつながった仲間と一緒の場所に死んだ後もいられると思えたら、もっと一生懸命に生きていけるんだと。そんな話を聞かせていただいて、これは僧侶の大切な役割だと教えられました。

 毎年お盆には、山谷や池袋などでホームレス状態の方も一般の方も一緒に集まって夏祭りを行い、そのなかで追悼法要も行っています。みんな真剣に手を合わせて、中には泣きながら、亡くなった方の名前を呼びながら手を合わせている方もいて、死を悼むという行為がお金の有無ではないことを強く意識させられました。

養老孟司さん(以下、養老):毎年供養するというのが大事な気がしますね。東大は始まって以来、伝統的に谷中の天王寺で、献体された方の慰霊祭を毎年やっています。

 ある時期には憲法違反だとか言われたこともありましたが、頑としてやっておりまして。今そこに千年怩ェ2つあって、引き取られた方以外は献体された方のお骨は全部お預かりして、記録も残すようにしています。これも1つの社会的なグループのお墓ですから、こういうものがこれから先あってもいいのではないかという気がしています。

司会:鵜飼さんの本で献体の数がものすごく増えていると紹介されていました。背景には、お墓や葬儀で子どもに迷惑を掛けたくない、そういったメンタリティーがもとになっているという指摘もあります。

養老:確かに私が現職だったのは20年前ですが、そのころでもすでに献体した方があとあと面倒がないからという人もいました。火葬場の手続きから何から全部私どもがやりますので。ただ地方の大学ですと、やっぱり献体が少ない。それじゃ都会の献体を回すことができるかというと、これはできないんですね。余り気味になるところと、不足気味になるところが出てきた。お墓と似たような問題が起きています。

仏教界に激震を呼んだ法要の出前サービス

司会:都心で遺体ホテルができ、巨大納骨堂ができる一方で、地方では檀家制度が崩壊しかねない節目にきている問題があります。これらには共通するところがありますね。鵜飼さんは前作『寺院消滅』で、地方から寺院や宗教が消えゆく実態をルポしています。

鵜飼秀徳(以下、鵜飼):現在、全国に約7万7000の寺院がありますが、そのうち住職不在の無住寺院は最大約2万に達しています。地方では高齢化と人口減少が進み、寺院専業では食べて行かれない、後継者がいない。さらに都会にでて菩提寺との関係が薄いまま過ごした世代が、墓じまいをしたり直葬をしたり、ますます寺と檀家との関係は希薄になっています。

司会:そんな中、「Amazon」の「お坊さん便」が登場し、仏教会に激震が走りました。

鵜飼:民間葬祭業者みんれびが始めた「Amazon」のネット上で決済できるお坊さんの出前法要です。待ち合わせ場所を指定して、葬儀や法要をしてもらうという仕組みで、例えば火葬場で待ち合わせをして1回お経を拝んで5万5000円、一周忌などの法要なら3万5000円です。

 直葬が増えてきたから「Amazon」の「お坊さん便」も支持されているのだと思います。これに対して全日本仏教会は、「布施の理念に反する」としています。金額を設定するとは何事か、それを払えない人はどうするのか、そもそもお布施は払う側が決めるのであって、もらう側が決めるものではないと。しかし、都会の人には非常に受け入れられている現実があるわけです。仏教会と社会が二分されてしまっているような状況です。

和顔愛語、布施が脳にも喜び生む

司会:確かに私の寺でも、お布施にいくら包んだらいいですかと聞かれる場合も多いですし、聞くのもちょっと聞きづらいという雰囲気を感じることもあります。吉水さんはどうお考えですか。

吉水:お布施の理念を言いましてもそれが説得力を持たない理由もあるとは思います。インターネットで調べれば、さまざまな本山に料金が明示されているわけですね。お寺側がそもそも料金を明示していて、経済的な活動としてお布施を考えているじゃないかと言われても仕方がないように思います。

 布施という言葉が日本においてだけ、経済行為としてしか使われなくなってきてしまった背景には、宗教行為として知らしめるような、行いで見せることが足りてこなかったことがあるのかなと感じています。

司会:そもそもお布施とはなんでしょう。

吉水:私は自らが他者に何かをさせていただくことであると思います。お金の掛からないお布施としては笑顔で接するとか、優しい言葉を掛けるというようなものもある通り、決してお金を渡すということだけではないですし、施米のように、お米など食べ物をお布施することだって伝統的に行われてきています。他者に対して、宗教者に対して差し上げることが、自分の身から財物を離す修行になるということが基本にあります。

 でも、お坊さんたちがいくら口で説明しても説得力がないのは、その布施を行うことが、どれだけ素敵なことかを行為で示せていない仏教者の責任もあるかと思うのです。布施の功徳の別名を幸福の田んぼと書いて、福田(ふくでん)と言います。つまり、私たちがどうやったら幸せになるのかといったら、自ら他者が望むことをさせていただくことが、かえって自らを豊かにさせていく、そういう循環があることを私自身、仏教者自身がもっと自ら行っていかなければ、布施の意味がなかなか伝わっていかないのではないかと思っています。

養老:脳科学で言いますと、人間は人に役立つことをしたり、いいことをすると、脳がひとりでに報酬を出します。だから人は人に親切にしたいんですよね。

子どもたちが走り回る境内が森を守り、寺の未来をつくる

司会:先生にとってお寺とはどんな存在でしょう。

養老:私にとって寺はあまり客観的なものではないわけです。あって当たり前みたいな存在で。子どものころは本堂の周りの庭を走り回ってよく怒られたりしていました。僕は虫取りをやっていますから分かるのですが、日本の自然はお寺と神社で保たれているものが大きいんです。

司会:仏教やお寺にどんなことを期待されますか。

養老:葬送が簡単になっていったことについては理由があると思うんです。1つには都市化が大きく関係していると思います。人が交換可能な存在になってしまった。会社をお考えください。誰かが辞めても会社は困らないんじゃないでしょうか。ほかの人が埋めます。人生そのものや死が、軽く扱われるようになった結果が無葬社会なのです。そんな中で、お寺は本気でやってほしいなと思いますね。宗教って生死とか人生の一番基本的なことを考えるものですから、かなりラジカルでいいはずだと思っています。

鵜飼:都市化してお寺が門や塀をつくって一族だけの場になってしまっていますが、私の小さいころには自由に地域のお寺に出入りできましたし、先ほど先生がおっしゃったように、寺が自然を保全していた側面があります。吉水さんの活動にもつながると思いますが、そういう公益性や公共性がこれからのキーワードではないかと思います。

 私の地元の京都では地蔵盆が夏にあります。お盆の頃に、町内会でお寺に集まって、お念仏を唱えたり映画を見たり、子どもたちはお菓子をもらったりするのです。地蔵盆の考え方が日本にこれからどうしたら広がっていくか、子どもたちがお寺に自由に行き来できるようなことが年何回かでもできれば、お寺と社会との関係性が少しずつ変わっていくのではないかと思います。

(構成/中城邦子)

『無葬社会――彷徨う遺体 変わる仏教』

(鵜飼秀徳著、日経BP、1836円)
 日本は多死社会に突入した。既に「死の現場」では悩ましい問題が起きている。長期間火葬を待つ遺体が増え、「遺体ホテル」と呼ばれる新ビジネスが登場。都会では孤独死体が次々と見つかり、電車の網棚やスーパーのトイレには遺骨が置き去りに――。万人が避けられない「死」。その最前線をルポし、供養の意義、宗教の本質に迫る。

このコラムについて

無葬社会――彷徨う遺体 変わる仏教
「多死時代」に突入した日本。今後20年以上に渡って150万人規模の死者数が続く。
遺体や遺骨の「処理」を巡って、いま、“死の現場”では悩ましい問題が起きている。
首都圏の一部の火葬場は混み合い「最長、火葬は10日待ち」状態。
遺体ホテルと呼ばれる霊安室ビジネスが出現し、住民運動が持ち上がっている。
都会の集合住宅では孤独死体が続々と見つかり、スーパーのトイレに遺骨が捨てられる――。
原因は、地方都市の「イエ」や「ムラ」の解体にある。その結果、地方で次々と消える寺院や墓。
地方寺院を食う形で、都市部の寺院が肥大化していく。
都心では数千の遺骨を納める巨大納骨堂の建設ラッシュを迎えている。だが、そこに隠される落とし穴――。
日本を覆い尽くさんばかりの「無葬社会」の現実。
現代日本における死のかたちを通して、供養の意義、宗教の本質に迫る。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/book/16/102400002/033000010/
http://www.asyura2.com/17/hasan120/msg/601.html

[経世済民120] 「できない理由」を探すバカ  イノベ簡単には起こらぬ 日本企業9の問題 犯罪寸前モンスター顧客 部屋を片づけられない新妻
【第17回】 2017年3月31日 新谷学
「できない理由」を探すバカ

つねに世間を賑わせている「週刊文春」。その現役編集長が初めて本を著し、話題となっている。『「週刊文春」編集長の仕事術』(新谷学/ダイヤモンド社)だ。本連載では、本書の読みどころをお届けする。
(編集:竹村俊介、写真:加瀬健太郎)

糸口を見つけたら、すぐに一歩を踏み出す

 企画の発端は、雑談から始まることも多い。そこで大切なのは「おもしろい」と思ったら、すぐに一歩を踏み出してみることだ。そのままにしておかない。「実現できたら、おもしろいな」と思ったら、まずやってみることが大切だ。


新谷学(しんたに・まなぶ)
1964年生まれ。東京都出身。早稲田大学政治経済学部卒業。89年に文藝春秋に入社し、「Number」「マルコポーロ」編集部、「週刊文春」記者・デスク、月刊「文藝春秋」編集部、ノンフィクション局第一部長などを経て、2012年より「週刊文春」編集長。
 現在バチカン大使を務める中村芳夫さんが経団連副会長だった頃、テレビ朝日の経済部で財界担当だった出町譲君と3人で昼飯を食べた。その席でリーダーの言葉が話題になった。「今、政治家の言葉が軽いのではないか」と。そこで「どういうリーダーの言葉なら、国民に届くのか」について語り合った。

 中村さんは「僕にとってはやっぱり土光敏夫さんの存在は大きい」とおっしゃった。土光さんが経団連の会長だった頃に、中村さんはずっと秘書をしておりスピーチライターも務めていたという。その経験から「土光さんの言葉は、本当に重かった」とおっしゃるのだ。出版部にいた私は「それ、おもしろいですね。『土光さんの言葉』という企画は、今このタイミングで世に出したら、結構読まれそうですね」と言った。そこでふと思いつきで、大学で同級生だった出町君に「書いてみたらどう?」と提案した。

 そのときは出町君も「そうかな」などと言っていたのだが、その後がすごかった。彼は土日に経団連の図書館に通って資料を集め、土光さんの言葉について原稿を書き始めたのだ。ほどなくして「ちょっと書いてみたんだけど」と原稿がメールで送られてきた。私は「本当に書いたのか」と驚いた。読んでみるとなかなかおもしろい。

 私は『土光敏夫100の言葉』とタイトルを付け、本にまとめた。ちょうど東日本大震災の後のタイミングだったため「清貧と復興」というサブタイトルを大きくして、「今こそ、土光さんの言葉に学べ」「日本が立ち直るためにはこの本が必要だ」といった宣伝文句で新聞やテレビの知り合いにも協力を依頼した。ハードカバーの単行本だったが、8万部くらい売れた。

 出町君が、何気ない雑談を大切にして、すぐに行動に移したからこそヒットは生まれた。大切なのは、思いつきをそのままにしておかないということなのだ。

 もちろん売れるかどうかはハッキリ言ってわからない。ただ、おもしろいと思ったらやってみることが次につながる。話題にならなかったら、また違うものを考えればいいではないか。

 大切なのは“The Show Must Go On”(とにかくやり続ける)の精神だ。理屈をこねて、できない理由を探すほどバカなことはない。
http://diamond.jp/articles/-/123045

 

 
【第9回】 2017年3月31日 岩瀬大輔 [ライフネット生命保険株式会社 代表取締役社長]
仕事は「50点」でいいから早く出せ!

いよいよ4月から会社員生活がスタート!
必要な準備はできているか、気になっている新入社員の方も多いようです。
そんな「来週から入社1年生」のみなさんに、
36万部突破のベストセラー『入社1年目の教科書』著者・ライフネット生命保険社長岩瀬大輔氏が、
入社する前に前に意識しておくといい、学生時代と大きく異なる仕事の原則についてお話します。


「入社1年生」が知っておきたい、学生時代とは異なる考え方とは? Photo:milatas-Fotolia.com
仕事における3つの原則とは?


岩瀬大輔 ライフネット生命保険(株)代表取締役社長。1976年埼玉県生まれ。東京大学法学部在学中に司法試験に合格。1998年卒業後、ボストン・コンサルティング・グループなどを経て米国に留学。2006年ハーバード経営大学院(HBS)を日本人4人目のベイカー・スカラー(成績上位5%表彰)として修了。帰国してライフネット生命保険設立に参画。撮影/佐久間ナオヒト
 いよいよ週明けから新生活がスタートする。新入社員のみなさん、準備はできていますでしょうか。
 今回は、会社に入る前に知っておくといい「3つの原則」の原則2「50点で構わないから早く出せ」についてお話しします。この原則2が、学生時代との一番の違いかもしれません。
私が入社1年生対象の講演会などでいつもお伝えしていることですので、すでに聞いたことがあるという人も、新年度を迎えるための「準備」として、改めて押さえていただければと思います。

 書籍『入社1年目の教科書』で紹介している「仕事における3つの原則」は、次のとおりです。

1.頼まれたことは、必ずやりきる
2.50点で構わないから早く出せ
3.つまらない仕事はない

 今回は、原則2「50点で構わないから早く出せ」について説明したいと思います。

 仕事は「持ち込み可」のテストと同じ

 この原則2は、原則1「頼まれたことは、必ずやりきる」と実はつながっています。
 一言で言えば、「100点の状態にしなくてもいいから、必ずやる」ということです。

 上司や先輩などから頼まれた仕事に対し、新入社員のうちは完璧にこなせることは少ないと思います。だからこそ、「完璧ではなくていいから、とにかく早く出す」ことを意識するのです。もちろん、仕事の質や種類にもよるとは思いますが、ほとんどの仕事は、「質」より「スピード」のほうが、新入社員には大事だと思います。

 たとえば、何かのレポートを書くよう頼まれたとします。
 どのような形で提出するのがいいでしょうか。

Aさん:100点満点のものを1週間かけて作成する
Bさん:1日で50点くらいのものを出して、上司に赤ペンを入れて修正してもらう

 当然、評価されるのはBさんのほうです。
「早くやる」というのは、「早い段階で上司に赤ペンを入れてもらって、レポートをどんどんアップグレードさせていく」ということなのです。

 頼まれたレポート作成は、50点レベルのざっくりしたものを急いで作って上司に提出し、上司に修正してもらう。こんな風に言うと、次のような不安にかられる人もいるでしょう。

「え、仕事を頼まれたのは自分なのに、上司にやってもらって大丈夫なの?」

 そこで、たとえを変えてみましょう。

 私は大学時代法学部で、在学中に司法試験に合格しました。
 司法試験は六法〈憲法・民法・刑法・商法(会社法)・民事訴訟法・刑事訴訟法〉を参照しながら受験できます。なぜなら、弁護士になれば、六法を使って仕事をするからです。もちろん、六法そのものは膨大な情報量ですから、ある程度「どこに何が書かれているか」を把握していないといけませんが、一字一句丸暗記する必要はありません。参照可能なのですから。

 仕事も同じです。あなたに求められているのは、「成果」です。
 あなた自身が持っている能力を試すものではありませんから、人の力を使ってもいい。上司も先輩も専門家も「持ち込み可」です。
 大切なのは、誰の助けも借りずに、何も見ずにやることではなく、すべてのリソースを総動員して、より速くアウトプットを出すことなのです。むしろ、自身の能力がないうちは、積極的に上司の力をうまく使いながら、仕事を進めていくことが不可欠でしょう。

 よくこの話をするのですが、新入社員の頃、私が上司によく言われた言葉があります。

「岩瀬ほど、しょっちゅう俺のとこに来るヤツいないよ」

 仕事を頼まれると、頻繁に上司のところへ行き、その都度フィードバックをもらっては再提出を繰り返していたのです。

 転職した2社目の上司からも、同じようなことを言われました。

「岩瀬は、自分の書いたレポートを真っ赤にされると喜ぶ」

 自分の「できないこと」を理解していれば、人の力を借りれる

 なぜ私は、50点の段階で上司に見せて、赤ペンで修正されては喜んでいたのでしょうか。
 それは「早く完成に近づくことがうれしい」と、私が思ったからです。

 私は、自分のできることとできないことを理解しています。
 ここまではできるけれど、この先はできない。その境界線どこにあるのか、理解しています。
 もっとよくするためには、上司のフィードバックをもらったほうが、早く確実に前に進められる。自分のできる範囲で考えたり調べたりする→上司に赤ペンを入れてもらう→再び自分なりに考えながら、修正する→上司に再提出する。
 このサイクルを高速で回すことで、仕事がどんどん前に進むのです。
 わからなかったことが上司のアドバイスによってわかるようになり、仕事が少しずつ完成形に向かっていく。このプロセスが楽しいのです。

もし上司が忙しそうにしていたら…

「そうは言っても、上司が忙しそうにしていたら、どうしたらいいんですか?」

 この質問もよく受けます。

 答えは明快、気にせず聞けばいいのです。
 そもそも上司の仕事は、部下の力を引き出して、いいものを生み出すことです。
 あなたにフィードバックすることは、上司としての仕事なのです。

 もちろん、声のかけ方には気をつけます。
「5分ほどお時間いただけますか?」などと、謙虚かつ臆することなく上司にお願いをし、「この箇所について悩んでいます」とか「この点が不明なので教えていただけますか」と、質問のポイントを明確に伝えます。

 どんなに忙しくても、「ちょっといいですか?」と部下から言われたら、上司はいったん手を止めます。
「ちょっときみ、それぐらい自分で調べなさいよ」はダメです。
 自分でできることは全部やって、行き詰まったところに早く助けてもらうのがセオリーです。

 あと、抜けがちな発想としては、頼るのは直接の上司以外でもいい、ということ。いろいろな部署の人に教えてもらえばいいのです。経理部長だったり総務部長だったり、隣の部署の先輩だったり。

 ビジネスは総力戦です。
 だからもう、あらゆるものを総動員していいのです。
 持ち込み可のテストだとわかっていたら、何を持ち込み、誰に質問すればより早く回答が得られるか。そういう視点で周囲の力をフル活用すればいいのです。
 何ひとつ難しいことはありません。
 ちょっとした心がけの違いで、成長と評価が得られるか、大きな違いが生じるのです。

 次回は原則3.つまらない仕事はないについて、お話したいと思います。
※次回は4月3日(月)更新予定です。
http://diamond.jp/articles/-/122011


 
【第10回】 2017年3月31日 中室牧子、津川友介
勉強ができる友人と付き合うことになっても
自分の子どもの学力は上がらない?

受験シーズンも終わり、自分の子どもの進路が決まった人も多いだろう。多くの親が自分の子どもを少しでも偏差値が高い学校に入れさせたいと考える背景には、「学力が高い友人と一緒に生活を送ることで、いい影響を受けて、願わくばそれによって自分の子どもの学力も上がってほしい」という願望があるのではないか。

しかし、『「原因と結果」の経済学』の著者である中室牧子氏と津川友介氏によれば、「学力の高い友人と付き合っても自分の学力は上がらない」という。どういうことか、詳細を聞いた。

学力の高い友人と付き合うと
自分の子どもの学力も自然に上がる?


(写真はイメージです)
 受験の時期が近づいてくると、わが子には少しでも偏差値の高い学校に滑り込んでほしい、と願う保護者は多いはずだ。

 偏差値の高い学校には、学力の高い生徒たちが集まっているだろうから、自分の子どもにとっては少々実力不相応な学校でも、学力の高い友人たちとともに学校生活を送れば、子どもの学力も自然と上がっていくだろう、などと考えているのではなかろうか。

 実際に、「生徒の学力が高い」と言われる学校周辺の住宅価格や地価は高くなる傾向にあるという。

 経済学では、友人らから受ける影響のことを「ピア効果」と呼ぶ。保護者は、このピア効果が、自分の子どもの学力にプラスの影響があると考えているというわけだ。

 しかし、これは慎重に検討する必要がある。「学力の高い友人と付き合うから自分の学力が高くなる」(因果関係)のか、「学力が高い子ほど学力の高い友人と付き合っている」(相関関係)だけなのか、どちらだろうか。

因果関係……2つのことがらのうち、片方が原因となって、もう片方が結果として生じる関係のこと。「友人の学力」と「自分の学力」の関係が因果関係の場合、学力が高い友人と付き合うと自分の学力が上がる。
相関関係……一見すると片方につられてもう片方も変化しているように見えるものの、原因と結果の関係にはない関係のこと。「友人の学力」と「自分の学力」の関係が相関関係にすぎない場合、学力が高い友人と付き合っても自分の学力が上がることはない。
 この問題に取り組んだのが、マサチューセッツ工科大学のヨシュア・アングリストらである。

 ボストンとニューヨークには、大学受験を目指す生徒のための特別な公立高校がそれぞれ3校の計6校ある。ただし、この学校には日本のように入試があり、合格しなければ入学を許可されない。いわば「エリート高校」だ。

 このエリート高校の入試に落ちてしまった生徒たちは、ほかの公立高校に通うことになる。もちろん、入試で選抜が行われるエリート高校に比べると、ほかの公立高校の生徒の平均的な学力は圧倒的に低くなる。

 アングリストらは、入試の合格ラインぎりぎりのところで合格したエリート高校の生徒たち(「介入群」と呼ぶ)と、ぎりぎりで落ちてほかの高校に行くことを余儀なくされた生徒たち(「対照群」と呼ぶ)は「比較可能」であると考えた。

 介入群の生徒と対照群の生徒は、自分の意思でエリート高校を受験したものの、自分の意思で合否を決めたわけではない。また、合格ラインぎりぎりの生徒なので、学力はほとんど同じだと考えられる。

 そうなると、「その後入学する高校の友人の学力」以外に、「自分の学力」に影響を与えそうな要素が似たもの同士になり、両者は比較可能になるのである。

 この状況で、介入群と対照群の生徒の学力を比較する。そうすれば、学力の高い友人とともに高校生活を送ることが、生徒本人の学力に与える因果効果が明らかになる。

学力の高い友人に囲まれても
自分の学力は上がらない

 アングリストらが示した結果によると、ボストンとニューヨークの学校で、その後の学力に差は見られなかった。

 「ピア効果」が存在するのかどうかについてはいまだ諸説あるものの、アングリストらと同様に、学力の高い友人と付き合う因果効果に迫った研究では、同様の結論にいたっているものも多い。

 たとえば、全米経済研究所(NBER)のジェフリー・クリングらの研究では、アメリカ政府が実施している「チャンスのあるところへの引っ越し」という大規模なランダム化比較試験(第3回を参照)に注目した。

 これは、子どものいる貧困層の家庭を対象に抽選をし、当選すると貧困率の低い地域に引っ越せるクーポンを受け取ることができるという政策のことだ。

 当選した家族の子どもたちは、引っ越し先で自分たちよりも学力の高い友人たちと学校生活を送ることになるのだが、抽選に外れてもとの地域で生活していた子どもたちの学力と比較しても、統計的に有意な差がなかったことが報告されている(「統計的に有意な差がなかった」とは、その差は偶然の範囲で説明できる差であるということである)。

 残念ながら、多くの保護者の期待を裏切って、勉強のできる友人に囲まれて高校生活を送っても、自分の子どもの学力にはほとんど影響がないということのようだ。自分の努力を棚に上げて、周囲の友人に過剰な期待をしてはならないということなのかもしれない。

参考文献
Abdulkadirŏglu, A., Angrist, J. and Pathak, P. (2014) The Elite Illusion: Achievement Effects at Boston and New York Exam Schools, Econometrica, 82 (1), 137-196.
Kling, J. R., Liebman, J. B., and Katz, L. F. (2007) Experimental Analysis of Neighborhood Effects, Econometrica, 75 (1), 83-119.
http://diamond.jp/articles/-/122934

 

イノベーションなんて簡単には起こらない
特別対談:高岡浩三×伊賀泰代【最終回】
高岡 浩三,伊賀 泰代:ネスレ日本 代表取締役社長兼CEO
2017年3月31日
『生産性』の著者、伊賀泰代氏とネスレ日本の高岡浩三社長との対談は今回が最終回。話は、働き方から、イノベーションが起こらない組織の問題の本質について。お二人の考えが見事に一致する。(構成/田原寛、撮影/鈴木愛子)
※バックナンバーはこちら[第1回][第2回][第3回]


一番のヒット商品はイノベーションアワード

高岡浩三(以下、高岡):ネスレ日本のヒット商品というと、「キットカット」の期間限定商品や「ネスカフェ バリスタ」などが社外では有名ですけど、私の中での一番のヒット商品は何かと考えると、実は「イノベーションアワード」かもしれません。

伊賀泰代(以下、伊賀):社内表彰的な制度ですか?


高岡 浩三(たかおか・こうぞう)
ネスレ日本 代表取締役社長兼CEO
1983年、神戸大学経営学部卒。同年、ネスレ日本入社(営業本部東京支店)。2005年、ネスレコンフェクショナリー代表取締役社長に就任。2010年、ネスレ日本代表取締役副社長飲料事業本部長として新しい「ネスカフェ」のビジネスモデルを構築。同年11月、ネスレ日本代表取締役社長兼CEOに就任。著書に『ゲームのルールを変えろ』(ダイヤモンド社)、『ネスレの稼ぐ仕組み』(KADOKAWA)、『マーケティングのすゝめ』(共著、中央公論新社)、『逆算力』(共著、日経BP社)がある。
高岡:そうです。2011年に始めた制度です。今はほぼ全て正社員になりましたが、始めた当時はまだ派遣社員や契約社員もいました。そういう人たちも含めて、イノベーションを起こせる組織にしたいと思って、全社員からビジネスに貢献するアイデアを募ったんです。

 この表彰制度の肝は、アイデアを出すだけじゃなくて、自分で実行、検証すること。そして、優秀な成果を上げた人には賞金100万円を贈呈する。

伊賀:えっ、100万円!? それはすごい。しかも年齢とか役職とか関係なく、全社員が対象なんですね。

高岡:敢えて、そうしました。人事評価とイノベーションって関係あるのかなという私自身の疑問があったので。実際にやってみると、人事評価とイノベーションアワードでの評価にはまったく相関性がなかった(笑)。

 この制度をトップダウンではじめて、実際に小さなイノベーションが生まれてきた。顧客が気付いていない問題への解決策を考えて、自分で仮説を立て、実際にやってみて検証する。これを6年間続けてきたことで、日々の仕事のやり方にもかなりのインパクトを与えたと思います。

伊賀:日本人はイノベーションというと技術の話だと思いがちですが、全社員を対象としたアワードなら、人事や経理部門から非技術的なイノベーションの提案がでてくる可能性もありますね。しかもその活動が社内で紹介されれば、みんな「自分の部署でもできそうだ」と思うようになる。そこに価値があると思います。

高岡:受賞対象となったアイデアは、次の年に組織的に実行します。


伊賀 泰代(いが・やすよ)
キャリア形成コンサルタント
兵庫県出身。一橋大学法学部を卒業後、日興證券引受本部(当時)を経て、カリフォルニア大学バークレー校ハース・スクール・オブ・ビジネスにてMBAを取得。1993年から2010年末までマッキンゼー・アンド・カンパニー、ジャパンにてコンサルタント、および、人材育成、採用マネージャーを務める。2011年に独立し、人材育成、組織運営に関わるコンサルティング業務に従事。著書に『採用基準』(2012年)『生産性』(2016年)(ともにダイヤモンド社)がある。
ウェブサイトhttp://igayasuyo.com/
伊賀:それくらい現実的な課題について考えろってことですね。

高岡:最初の年は70件程度のエントリーでしたが、年々応募が増えてきて、去年は社員数より多い4000以上のエントリーまで拡大しました。レベルも上がってきたので、賞を取ったアイデアを会社として実行すると、売り上げが上がったり、必ず何らかの成果が出るようになった。

 今はエントリーの数が増えたので、それぞれの役員が担当部門のトップ10を決めて役員会に持ち寄り、全員で審査するんですけど、最初の3年は数も多くなかったので私も全エントリーに目を通していたんです。それでおもしろかったのは、私が選ぶものとほかの役員が選ぶものがまったく一致しなかったこと(笑)。

伊賀:どう違ってたんですか。

高岡:そのころはまだ、顧客の気付いていない問題を解決することがイノベーションだという定義もできていなかった。ただ、私は直感的にわかってきたので、「これはおもしろい、芽があるな」と思うものを評価するんですが、ほかの役員はそつのないアイデアを選ぶ。

伊賀:改善や効率化みたいな話と、イノベーションの違いがわからなかったということでしょうか。

高岡:最近はそういうことがなくなってきましたが、別の問題もありました。何人かの役員が、「うちの部門からあまりいいアイデアがなくて」と言うんです。私は、「それは違うだろう」と。そんなすごいアイデアが一般社員からいきなり出てくるわけがない。「イノベーションの芽を見つけて、それを磨いて大きく育てるのが上司の仕事だろう」と言ったんです。

伊賀:わかります。それはたしかに上司の問題でしょう。

高岡:上の人間がイノベーションとは何かということを理解していないと、アイデアの芽を簡単につぶしてしまう。

伊賀:イノベーションって何かを大きく変えることにつながるので、なんであれ過去の否定につながります。だから過去のやり方で実績を上げてきた人には抵抗感が強い。何を聞いてもまず「そんなの無理だ」というところから入ってしまう。できない理由はいくらでも見つけられるから。

高岡:ネスレもグループ全体でイノベーションを起こしていくために、日本にならってイノベーションアワードを海外でも始めたんです。アフリカを含めて7、8ヵ国でやっています。賞金は1万ドル。

伊賀:生活費の安い新興国で1万ドルはすごくないですか?

高岡:私もビックリしました。ガーナでも1万ドル渡しているらしいですが、日本でいえば1000万円ほどの価値はあるんじゃないかと。

上司がイノベーションをつぶす

伊賀:イノベーティブなアイデアが組織の中で潰されてしまうのは、構造的な問題なんです。何かを大きく変えようとすれば、リスクは必ず大きくなる。そのリスクをとるべき理由がなければ、誰もリスクをとろうとはしません。


 私は、その理由になりえるのが生産性だと思っているんです。従来のやり方を続けていればリスクはほとんどない。でもそれでは生産性は上がらない。生産性をどーんとあげようと思うと、いくらリスクが高くてもイノベーティブなことにチャレンジしなくちゃならない。

「これがうまくいけば生産性は倍になる。だったらリスクがあってもやってみようじゃないか」という気持ちになることが必要で、つまり目的側に大きなジャンプを求めないと、どうしてもリスクを取るのはやめようという話になってしまうんです。

高岡:そうですね。

伊賀:マッキンゼーで採用グループのマネージャーだったころ、年末の人事考査では「あなたの部署の生産性を上げるために、今年はどんな新しいことをしたか」と問われるんです。方法論を指示されることはないので、毎年、何をしたら生産性が上がるか、自分で考えなくちゃいけない。考えるための時間の確保も必要だし、トライ&エラーの時間も必要。その時間を確保しようと思うと、まずは作業的な部分の生産性を上げるしかない。

 でもそういうプレッシャーがなければ、私も毎年粛々と「去年と同じこと」をやっていたかもしれない。今までやってきたことを否定して新しいことをやる。そういうのって誰にとっても面倒で怖いことだから。あちこちから文句も言われますし。

高岡:軋轢がある。

伊賀:軋轢もあるし、とにかく「変わるのが嫌い」という人もいますよね。変化を嫌う人が多いことは、イノベーションが生まれない理由でもあるし、生産性が上がらない理由でもあると思います。

大きなイノベーションは数世代起こらない

高岡:イノベーションは簡単には起こらないんですよね。弊社の看板商品の「ネスカフェ」も、80年以上前にできた商品です。コーヒーを飲むのが大変だった時代に、誰でも手軽に飲めるコーヒーを世に出した。でもその後、革新的な一杯抽出型のコーヒーマシンが誕生するまでは、長期にわたり品質の改良というリノベーションを続けてきました。


 テレビもそうです。テレビができる前は、動画を見るには映画館に行かなければいけなかった。その時代に、アンケート調査しても、誰もテレビが欲しいなんて答えませんよね。テレビの存在を知らないし、自宅で動画を見たいという自分のニーズにも気付いていない。だから、テレビの誕生はイノベーションだと思うのですが、その後、白黒がカラーになったことも、薄型になったことも、イノベーションではなくて、リノベーションなんです。

伊賀:そうですね。

高岡:それほど、イノベーションは簡単なことではないということです。社長もイノベーターとリノベーターに分けて考えてみると、ほとんどがリノベーター。私が尊敬する小倉昌男(ヤマト運輸の宅急便事業創始者)さんのようなイノベーターは、ごく僅かです。

 会社を大きくしたオーナー経営者が、なぜ簡単に引退できないかというと、自分の後を継ぐイノベーターなんて、簡単に育てられないし、見つけられないからです。

伊賀:創業経営者の方々は本当、簡単には引退できないですよね。体が続くまでトップとして牽引し続けるのは、もはや宿命的なのかもしれない。


高岡:そう宿命的。この話はフィリップ・コトラー氏ともしたんですが、「グローバルに見ても、イノベーターによる経営が2代続いた例は見当たらない」と言っていました。

伊賀:いったんは後継者を指名しながら引退できなかった柳井正社長や孫正義社長も、きっとそういう思いなんでしょうね。

高岡:それもあって、私はイノベーションアワードを始めました。ネスレ日本で次のイノベーターを育てたい。それは私の後継者ではなくて、2代後か、3代後かわかりませんが、私は見届けられないかもしれない。それでも、育てる準備だけはしておきたかった。経営学にも、経営者がいかに次のイノベーターを育てるかについて解き明かしていません。誰も理論化できていないのです。私はそれを自分でできればと思っています。これこそ、イノベーティブな挑戦ですね(笑)。

【著作紹介】


生産性―マッキンゼーが組織と人材に求め続けるもの
(伊賀泰代:著)

「成長するとは、生産性が上がること」元マッキンゼーの人材育成マネジャーが明かす生産性の上げ方。『採用基準』から4年。いま「働き方改革」で最も重視すべきものを問う。

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http://www.dhbr.net/articles/print/4752


 

 
2017年3月31日 莫 邦富 [作家・ジャーナリスト]
中国人が辛辣指摘「日本企業9つの問題点」に知日派も喝采


日本人は「一生懸命働いているようだが、実際は、なかなか成果を出さない」といった指摘が中国でもされ始めた
 文化大革命の悪夢をもたらした毛沢東時代に決別し、新しい国作りの道を歩み始めた中国の改革・開放路線は1978年から始まったものだ。当時の中国では、窓を開けて外の世界を見ようというスローガンが流行っていた。ドアを開けて外国を受け入れる勇気も心の準備もできていなかった時代だったのだ。

 その頃の中国にとっては、その外の世界は西側の国々だった。日本は中国に一番近い「西側の国」として、中国国民から長い間仰ぎ見られていた。戦後の廃墟から日本を世界2位の経済大国にまで復興した世代の日本人と日本企業に畏怖の念を抱いている中国人が多い。今の60代や50代の中国人には、この傾向が特に顕著だ。

 しかし、それ以降の世代になると、かなり違ってくる。インターネット時代を迎えてから、日本の企業文化や社会事情に関する情報が非常に入手しやすくなり、その分、日本企業を見る目もかなり厳しくなってきた。

激しく体を動かすが
決して前進しない踊りのよう

 例えば、最近、私は日本の中国語メディアに、日本の会社員の習性を取り上げて批判した記事を載せた。これらの日本人は「一生懸命働いているようだが、実際は『〓秧歌』(〓は扌に丑:ニウヤンコー)と同じだ。まったく前進はしない」と批判した。

「〓秧歌」とは、田植えに起源が求められる歌踊りで、中国の北方では広く親しまれている。その特徴は激しく体を動かすが、前方へ進むように移動することはほとんどないということだ。忙しそうに働いているが、なかなか成果を出さない日本人社員を私は「〓秧歌社員」と名付けて批判している。こうした「〓秧歌社員」を量産している日本企業と企業文化に対しても、砲火を浴びせた。

 その記事がネットにアップされると、日本企業で働く多くの中国人社員や日本企業と取引のある中国企業の関係者から賛同のコメントが送られてきた。

 また、友人の一人は、ある日本企業とその企業文化を批判する辛辣な記事を紹介してくれた。一読した私は日本の読者に紹介する必要があると思い、このコラムのネタにすることにした。

「日本人の骨に染み込んだ9つの問題点」と題するこの記事は、日本企業の敗北は技術や経営とはあまり関係なく、日本人にその問題の所在を探し求めるべきだと主張しているのだが、実際は、日本企業の問題点を指摘している。

日本人の骨に染み込んだ
9つの問題点

1. 第一の問題点は、技術に対しては、日本企業は病的な完璧主義者で、度の過ぎたイノベーションを求めすぎる。

  性能をさらに1%向上させるために、惜しみなく30%のコストを注ぎこんだため、価格の面では国際的競争力を失ってしまうのだ。

2. ユーザーの立場に立って物事を考える意識や販売を促進しようとする意欲も薄い。

  市場よりも技術を重視し、技術を武器にすれば市場を切り開くものだ、と妙な自信をもっている。しかし、技術への過度な依存と自信が販売へ力を注がない問題をもたらしている。小米、魅族、楽視など中国の電子製品メーカーの華やかな販売作戦の前に、日本企業は敗北の坂を転がり落ち続けている。

3. 終身雇用制が日本企業にとって耐えがたい負担となりつつある。日本企業、特に大手企業がかつての中国の国有企業の病にかかっている。上司の言いなりに行動する、自分では物事を考えず、積極的に行動もしない現象は普遍化している。社員を解雇することも困難だが、社員が進んで転職するのもなかなか難しい。やる気のある社員でもそうこうしているうちに、仕事への情熱を失ってしまうのだ。

4. 対中国戦略の失敗。特に家電メーカーの中国戦略は最初から間違っている。中国企業との合弁を嫌がったため、ハイアール、長虹、康佳、TCLなどの家電産業の勃興を許し、中国企業とともに成長していく機会を失ってしまった。

  もう一つの失敗は、中国をコストの安い製造基地として捉え、短期的な利益を求めるだけで、長期的な視点において企業の対中国戦略を考えていなかった。2000年までは、中国の市場としての消費力を低く見すぎたが、2000年以降は、中国市場のリスクを誇張しすぎた方向に走ってしまった。だから、日本の家電メーカーの中国での存在感がますます低下していったのだ。

5. 創業を奨励する文化は日本では国家的に形成されていない。

  インターネット分野で、アップル、Facebook、Google、アマゾンのような大手企業と競争できる大手企業は日本で生まれていない。

6. 日本企業が長年保ってきたイメージが近年、崩れている。

  不正会計問題を巻き起こしている東芝やオリンパスのような企業が増えている。

7. 現状に甘んじて進歩を求めず、戦略的な選択と投資を怠った傾向が強い。パナソニック、シャープ、ソニーなどの家電の王者の失敗は、時代の流れにうまく乗れなかったところに原因が求められる。

8. 長期的な低価格競争に耐えられない。中国の家電メーカーの低価格作戦に日本企業は対抗できなくなっている。

9. 上層部が無能で、部下は無原則に従う。サラリーマン社長は3〜4年の任期内では、大過なく過ごせるのを是としている。会社の重役たちは社内政治に長けているが、市場競争にはあまり戦力をもっていない。この点は中国政府の内部に似通う。

 以上のようなかなり辛辣な指摘だが、案外、的中しているところがある。この記事も中国のSNSでは多くの喝采を得ている。とくに、日本企業に長年勤めている中国人幹部社員、中には中国現地法人の社長を務める中国人幹部たちからも「その通りだ」「その批判は痛快だ」と拍手が送られている。憂慮すべき問題ではないかと私は考え込んでしまう。

(作家・ジャーナリスト 莫 邦富)
http://diamond.jp/articles/-/123003

 
2017年3月31日 池田園子
「モンスター顧客」犯罪寸前クレーマーたちの事件簿


「お客様は神様です」の本来の意味を知っているのか知らないのか、自分の行動を正当化するための文句として使おうとするモンスター顧客。関わる従業員の心身にストレスを与え、ときに店や会社に損害を与えることも……。20〜40代男女が「怖い」「おかしい」と感じた、絶対に関わりたくないモンスター顧客の事例を集めた。(取材・文/池田園子、編集協力/プレスラボ)

「お客様は神様です」を
振りかざして大暴れ

「お客様は神様です」という有名な言葉がある。昨今、モンスター顧客、もっと一般的な表現で「クレーマー」について語るときに、よく用いられる言葉であるが、真意とは異なる意味として捉えられ、広まってしまっているようだ。

 この言葉が生まれたのは1960年代。浪曲師で演歌歌手の三波春夫さんがステージに立っているときに、司会を務めた宮尾たか志さんから「三波さんは、お客様をどう思いますか?」と問われ、「お客様は神様だと思いますね」と答えたのが始まりだとされる。

 三波さんの言う「お客様」とはステージを観にきた聴衆のこと。聴衆がいなければ歌手の商売は成り立たないわけで、本来は客席にいるお客とステージに立つ演者の関係性からできた言葉なのだ。決して飲食店や小売店に来るお客のことを指しているわけではない。また、客側が自分で言う言葉でもない。

 しかし、昨今はモンスター顧客が自身のひどい言動を正当化するために「お金を払って(サービスを受けたり、モノを買ったりして)いるんだから、もっと丁寧な対応をしてよ。『お客様は神様』でしょ!?」と恫喝するような形で使うことがある。もともとの意味を勘違いし、「客がどんなことを言っても受け入れるべき」と当然の権利のように思っているような場合もある。

「お客様は神様です」を振りかざし、暴れまわるモンスター顧客は、対応する従業員の心身にストレスを与えるだけではなく、その言動がエスカレートしてしまうと、店や会社に損害を与える恐れもある、と知っておきたい。

 筆者は、これまでダイヤモンド・オンラインで、「モンスター○○」を度々取り上げ、実録として紹介してきた。今回は、通常の感覚では理解しかねるような「モンスター顧客」の事例を20〜40代男女に聞いて集めてみた。こんなモンスター顧客と関わったことはないだろうか。

体調不良を装って女性店員に
介抱されたがるセクハラ顧客

 まずは、セクハラ顧客と極端な冷やかし客の事例から。

「家電量販店に勤めています。都心にある大型店舗なので、本当にいろいろなお客さんが来ます。店内で体調が悪くなった風を装って、女性店員に介抱してもらおうとする男性客はときどきいますね。

 決まって新卒から勤続2〜3年目の若くてかわいらしい女性店員が標的になります。特定の女性店員を気に入ったのか、同じ男性客が2週間後にやってきて、同じように体調不良を装って同じ女性店員に抱きついたことがあり、さすがに『お客さま……』と呼びかけました。

 他にも前に勤めていた店舗で遭遇したんですが、暇つぶしなのか、何か恨みがあるのか、商品について片っ端から店員に解説させて、何も買わずに帰るお客もいました。そのお客は“常連”でしたね。ただ、“買わないのに常連”というたちの悪い人ですけど」(40代男性)

 セクハラ顧客は店自体には被害を与えていないと思う人もいるかもしれない。しかし見ず知らずの男性から抱きつかれた女性店員としては、まったくもっていい気はしないだろう。精神的に傷ついている可能性も高く、もし「こういうことがあるならもう働きたくない」と辞めてしまったら、店としては損害を被ったことにもなる。

真昼のファミレスでキレまくり!
店の教育方針をネチネチ指摘する顧客

 「ファミレスでパートをしています。お客としてファミレスを使っていた頃には全然気づかなかったんですが、ファミレスで働き始めてから『ここにはモンスター顧客がウヨウヨいる』と気づきました。

 たとえば『(バイトの子が)注文を復唱しなかったのは、教育がなっていないだろう』とか『コーヒーのお代わりにもっと気を配らないとダメだ』などと、店長を呼びつけて延々と説教する男性客には困りましたね。店中に響き渡るくらいの大声で喚いていて、店に入ってこようとしていたお客さんの中には、その剣幕を見て帰ってしまう人もいました」(40代女性)

 自分自身のイライラやストレスをファミレスの店員にぶつける、単なる八つ当たりとしかいえない行為。各店舗に売上ノルマというものはあるだろう。来店しようとしていた客を逃したり、「この店には悪質なモンスター顧客がいる」と周囲の客に思われ、客離れが起きたりすることを考えると、明らかに店ひいては会社に損害を与えていると言わざるを得ない事例である。

数量限定商品なのに大量買い
営業妨害する顧客

 続いての事例を見ていこう。

「自分が新卒で入社・配属されたスーパーマーケットは、クレーマーというかモンスター顧客が西日本エリアで一番多い、という噂の名物店舗でした(笑)。社員の左遷先としても有名で、やっぱりモンスター顧客との遭遇率は高かったです。

 たとえば、タイムサービスの数量限定商品(ひとり当たりの購入可能数が決まっている)を、規定の個数を無視して大量買いしようとする客は珍しくなかったです。『おひとり様◯個までです』と断ると、こちらが折れるまで何時間でも大声で騒ぐ悪質な客も……。

 毎回警察沙汰にすると店のイメージが悪くなるので、そういう場合は仕方なく売っていましたね。この手の目玉商品は原価割れしていることが多く、普通に仕入れるより安いので、ネットなどで転売して利益を得ていたようです。そこまでして得られる額なんてたかが知れているのに。

 他にもひどい客はたくさんいました。たとえば、不要なレシート入れから高額商品の載ったレシートを盗んで、店内で万引きした商品を持って返金を求めにくる客……こちらの想像を超えた、普通なら考えつかないことをやってのけるのが彼らです。『該当日時の監視カメラの映像を確認します』と言ったら撃退できました。

 モンスターが跋扈している店に勤めたことで、ある意味で鍛えられましたが、人間としての底辺を見てしまったな、という感想も持ちましたね」(30代女性)

 店側としては件のモンスター顧客の対応に時間をとられ、店全体のオペレーションに不都合が生じることになる。人件費を考えると営業妨害になっていることは間違いない。万引き×詐欺のコンボで攻めてくる2つめの事例はもはや犯罪である。

当事者ではなく“第三者”が怒鳴り込み
美容室で彼女の代わりに大暴れする顧客

 衝撃のモンスター顧客エピソードはまだまだ続く。

「美容師をしています。後輩美容師が数年前、ものすごいモンスター顧客に当たって、そのストレスで辞めていったことがありました。お客さんは女性で一見おとなしそうなタイプに見えました。黒いロングヘアで『ミディアムにしてパーマをかけてください』というオーダーで、後輩美容師はその通りにしたのですが、気に入らなかったみたいで……。

 当日は『切りすぎだと思います。もう2cmは長いほうが良かった』『パーマが強くかかりすぎな気がする』などと、静かに文句を言っていましたが、まさか翌日になって強面のヤンキー風な彼氏が怒鳴り込みにくるとは想像もしませんでした。

 女性は一歩後ろに下がって何も言わないんですが、彼氏のほうが『こいつ(彼女)昨日変な髪になってもーたって泣いてたんやで』『誰が担当したんや?』『美容師免許本当に持っとんか?』『下手すぎるやろ』『金返せや!』『訴えたろか』など、関西弁風の口調で暴言を吐き続けて、美容室全体がシーン……。

 店長が出てきてなだめても、返金対応をすると言っても、1時間以上居座って延々とキレ続け、明らかに営業妨害でしたね。ほかのお客さんも怯えていましたし。その後、お店宛てにメールもしつこく届いて、結果的に後輩は退職してしまったんです。がんばっていたのに残念でした」(30代女性)

 まさか当事者のパートナーと思われる人間が、当事者の不満を代弁するために翌日来店するとは、思いもよらなかったことだろう。しかも、1時間以上も美容院で怒鳴り続け、その後もメールでネチネチと文句を書き送ってくる……その執念には背筋が寒くなる。

 美容室側は謝罪し、返金する旨を伝えても、この人物は折れることなく、美容室は最終的に若い貴重な人材をひとり失っている……。

「不良品売りやがって」とキレて
商品を投げつける顧客

 最後は、傷害罪では?と思われる驚愕の事例を見て締めたい。

「某大手おもちゃ屋に正社員として勤めていたときの話です。『買ったものが不良品だった!」とキレて怒鳴り込んできた客が、その商品をバイト店員に思いっきり投げつけたことがありました。

 その商品は子ども用のクルマ型の乗り物で、けっこうな大きさと重量感がありました。一歩間違うと大怪我を負いますし、暴力行為に他ならないですよね。何よりも疑問だったのは、その客の暴れっぷりを目にしても、毅然とした対応をとってくれない店長でしたが……。

 とはいえ、店長が怯え気味だったのにも一応理由はあって、その気持ちはわからなくもないんです。店舗の近隣に反社会的勢力の人が多く住んでいて、治安も良いとはいえない地域で、ガラの悪い客がとにかく多かったんですよね。暴れた客はおそらく普通の人ですが、怖そうな外見や話し方をする人でした」(30代男性)

 本来、子ども用のクルマ型の乗り物とは、子どもが乗って楽しむおもちゃである。使い方を明らかに誤っている。「それを人間に向かって力いっぱいぶつけていいですよ」と教えた教科書や参考書などは存在しない。「そんなこと、しちゃう!?」とたまげるしかない、常識を超えた使い方をするモンスター顧客も中にはいるのだから恐ろしい。

もし、あなたが業務中に
モンスター顧客に遭遇したら?

 身も蓋もない言い方をすると、モンスター顧客は避けようがない。本シリーズの中で繰り返し言っているが、世の中には実にいろいろな人間がいる。極端な話、自分の常識は他人にとっての非常識である。自分が思いもよらぬ行動に出る人間がいても何らおかしくはないのだ。

 ただ、モンスター顧客の発生率が他と比べて高い立地や場所、というのは存在するだろう。とはいえ、一介の従業員が、その店舗を自らの意思で避けようとしても難しい。配属先や転勤・異動先は会社が決めることである。

 では、どうすればモンスター顧客の被害を最小限に食い止めることができるのか。最も手軽にできることは、“傷口”が広がるのを抑え、流す“血”を極力少なくすることではないだろうか。

業員側に非はないのに、モンスター顧客が起こしたトラブルの模様が、SNSやネットの掲示板などで広まり、店が閉店に追い込まれた事例もある。あまりにも理不尽すぎる……と絶望的な感情を抱いてしまうが、その類の無用な情報拡散を防ぐことが、モンスター顧客と対峙した際、店側に求められるリスク管理策ではないだろうか。

 できることなら縁を持ちたくない、関わりたくないモンスター顧客だが、もしものときの対応を個別に考え、用意しておきたいものだ。
http://diamond.jp/articles/-/123157


 

 
【第22回】 2017年3月25日 木原洋美 [医療ジャーナリスト]
新妻が部屋を片づけられないのは「ある病気」が原因だった


足の踏み場もない汚部屋で
片づけられない妻に切れる

 (こんなはずじゃなかった)

 足の踏み場もないほど散らかった室内を見ながら、実さん(仮名・35歳)は暗澹たる気持ちでいた。

 妻、愛美さん(仮名・30歳)とは社内恋愛の末、1ヵ月半ほど前に結婚したばかり。

 時間にルーズで忘れっぽいが、好奇心旺盛で面白い発想をする頑張り屋さん。おっちょこちょいで、些細なことでパニクっている様子も愛くるしい。

(この子は僕がいなきゃだめなんだ。守ってあげたい。結婚したらきっと、健気に尽くしてくれる可愛い奥さんになるだろうな)

 実さんは、そんなふうに思っていた。

 探究心旺盛で努力している姿勢は見える。しかし飽きっぽい。

 何より、ここまで片づけられないというのは、まったくの想定外だった。

 目の前の惨状は、まさに「汚部屋(おへや)」であり、テレビのニュースやバラエティ番組に登場する「ゴミ屋敷」そのものだ。

 しかも、純粋に「ゴミ」だけならまだいいのだが、困ったことに「大切なモノ」が混在している。

 結婚前に実さんが贈ったバッグも、愛美さんのお気に入りの服も、新婚旅行のお土産も、銀行印や重要書類も、全部が全部、この山のどこかに埋もれているのだ。

 そのため休日である今日も、実さんは、探し物をする愛美さんを待っている。

「2人で映画を観て、外食しよう」

 約束していたのだが、財布がない。財布が見つかったと思ったら今度はバッグがない。恐らく、次は鍵を探し始めるのだろう。

「堆積物」のなかを這い回る愛美さんを見ながら、(彼女の頭の中も、この部屋と同じようにごちゃごちゃなんだろうな)と想像する実さん。

 まだ新婚ほやほやだというのに、結婚生活を続けて行く自信がぐらぐらとゆらぐ。

「いい加減にしろよ。なんで普段からもっと片づけないんだい。だらしなさすぎるよ、女のくせに」

 ぶち切れて叫ぶと、たまらず外に飛び出した。

原因はADD/ADHD
生きづらい「障害」

 専門医の診断を受けない限り断定はできないが、愛美さんはADD(注意欠陥障害)もしくはADHD(注意欠陥・多動性障害)の疑いがある(うつ病、統合失調症など、ほかにも片づけられなくなる病気・障害はあるので要注意)。

 いわゆる発達障害だ。

 両者に共通する症状は、大きく分けて3つある。

 第一に「注意力が不安定で、変動しやすい」こと。気が散りやすく、集中力を維持できない。反面、「アイディアに富み、好奇心旺盛」といったプラス面もある。

 第二には、「活動のレベルをコントロールできない」こと。極端に活動的(多動)なこともあれば、極端に非活動的(寡動)なこともある。

 第三には、「衝動的」なこと。根気が続かず、すぐに別の作業をやりだしたり、人生を突然リセットしたりする。

 ADHDは、多動性障害があるため、せかせかと動き回り、落ち着きがなく、衝動的に行動するのが特徴。

 一方ADDは、ぼんやりしている傾向があり、のんびりやさんに見える。

 こうした傾向は、子ども時代には誰にでも見られるが、成長するにつれ、改善されていくのが普通だ。しかしADDまたはADHDの場合は、大人になっても改善されず、社会生活に支障を来している場合がある。

「時間や金銭にだらしない」「感情的になりやすく、失言が多い」「本来の実力が発揮しきれず、周囲の評価と実力が見合わない」「自分に自信がない」「対人関係を上手く築けない」「鬱になる」などと評価され、女性の場合は何より、「片づけられない」ことが大きな悩みになってしまう。

 世間の評価として「片づけられない」は、イコール「家事能力の欠如」「女性失格」と考えられてしまいがちだからだ。一時期、「片づけられない症候群」という言葉も注目された。

 実さんと愛美さんの場合も、片づけられないのが夫の方であれば、まったく問題にはならなかっただろう。

 もっとも男性の場合は、「仕事が長続きしない」「失言が多い」は女性以上に致命的なため、男女の別なくADD/ADHDが生きづらいことに変わりはない。

本人のせいではない
神経伝達物質の不全

 ADD/ADHDの原因は、主に脳の「前頭前野(ぜんとうぜんや)」と「側坐核(そくざかく)」が上手く働いていないためと言われている。

 前頭前野は脳の司令塔に当たり、(1)顔の表情や声の様子から、人の気持ちを推し量る、(2)ものを覚えようとする気持ち、(3)やる気、(4)やってはいけないことはしない自制心、(5)感情のコントロール、(6)集中力、(7)さまざまなものごとを同時進行する等々、人間ならではの能力に関係している。

 また側坐核は、脳のほぼ真ん中にあり、「やる気」を刺激する脳内物質を分泌する、「やる気スイッチ」のような存在だ。

 この2つの領域で神経伝達物質が安定して機能しないことが、ADD/ADHDを引き起こしていると今のところ考えられている。

 つまり、性格に問題があるわけでも、心理上の問題でもなく、本人のせいでもない。さらに、脳そのものに問題があるのではなく、頭が悪いわけでもない(むしろ頭の良い人が多いと言われている)。ただ、脳の中で情報をやりとしている神経伝達物質が何らかの理由で上手く分泌されないだけ、ということらしいのだ。

「要するに、罪を憎んで人を憎まず“的”な捉え方が必要です。片づけられないのは、だらしないとか、愛情が薄いとかではなく、脳がそういう状態にあるということで本人のせいではないんです」と、発達障害の専門医は強調する。

 ちなみに、脳がそうなってしまう原因は、遺伝や外傷、虐待、学習障害など、多種多様な理由が挙げられている。

一緒に掃除するなど
発想の転換が必要

 ADD/ADHDは、全人口の5%は存在しているといわれ、治療法には、薬物療法、コーチング(生き方指南的な)、カウンセリングなどがある。だが、恐らく、実際に治療を受けているのは少数派で、大多数は家庭や職場の「困ったちゃん」と思われることはあっても、それなりに、普通に生活しているはずだ。

 というのも、愛美さんほど極端じゃないにしても、「それっぽい人」は、いくらでもいるため、なかなか障害と認識するのは難しいからだ。

 では、実さん、愛美さん夫妻はどうしたらいいのか?

「一番いけないのが、女のくせに、と責めることです。それは本人が一番苦しんでいますから、うつ病に追い込んでしまいかねません」

 前述の専門医は言う。

「ご主人はまず、家事は妻がするものという思い込みを捨てるべきです。奥さんが上手くできないのであれば、一緒に片付けようとか、僕が掃除するよとか、考えてみてはいかがでしょう。障害ではなく、脳の癖、あるいは個性と考えた方が上手く行きますよ。

 ご主人自身も片づけが苦手でしたら、月に数回、お掃除サービスを利用するのもお勧めです。お互いに魅力を感じたからこそ、結婚したのですよね。お掃除をしてもらうためではないと割り切って、一緒に快適に暮らすための発想の転換をしていただきたいですね」

 妻が片づけられないのは「愛の試練」と捉え、夫妻にはぜひ、末永く幸せに暮らしていただきたい。

(医療ジャーナリスト 木原洋美)
http://diamond.jp/articles/-/122621
http://www.asyura2.com/17/hasan120/msg/602.html

[国際18] トランポノミクスが不動産・住宅ローン金利に及ぼす影響は? コロンビア大黒人名物教授「ドラッグの非犯罪化」による黒人の救済
【第20回】 2017年3月31日 村上尚己
トランポノミクスが不動産・住宅ローン金利に及ぼす影響は?

「トランプ大統領の経済政策によって日本経済は再浮上する」との見方を提示してきた村上氏。もしこの予測が現実のものとなり、円安か株価上昇が進むとなると、気になってくるのが住宅ローンなどにも影響し得る金利や不動産の状況だ。「トランプ相場」の到来を的中させた村上氏は、これについてどう考えるのか? 最新刊『日本経済はなぜ最高の時代を迎えるのか?』から一部をご紹介しよう。

住宅ローン金利は急上昇しない

これまでの連載で見てきたとおり、トランプの経済政策は日本経済にプラスの影響をもたらす可能性が高い。しかし、今後景気が上向いてくるとなると、住宅ローンなどを抱えている人は、2017年以降の株高・円安が金利にどう影響するかが気になるかもしれない。今回はこれについて見通しをお伝えしておくことにしよう。

※参考
なぜ「トランポノミクス」が日本経済の追い風になり得るのか?
http://diamond.jp/articles/-/116556

たとえば米国では、トランプ氏当選で株高が起きたのと同時に、10年物国債の金利は約1ヵ月で1.8%前後から2.5%台まで大きく上昇した。経済成長率とインフレ率が今後高まるという見通しが強まったことが大きな要因である。

日本でも2017年度からはインフレ率と経済成長率が高まっていくと予想される以上、このままいけば米国と同様に、長期金利の上昇が起きていくのが自然である。「だとすると、住宅ローン金利も上がってしまうのではないか?」などと心配する人もいるかもしれない。

しかし、ここで指摘しておきたいのは、日銀が2016年9月に、YCC(長短金利操作付き量的・質的金融緩和)、すなわち、長期金利をゼロに誘導する新たな政策フレームを打ち出していることである。この政策は当面続くため、たとえば2017年に景気回復がはじまっても、長期金利は現状と変わらないまま、ほぼゼロ近傍に抑制されて推移するだろう。

※参考
「日銀=手詰まり」論は誤り。注目すべき2政策とは?
http://diamond.jp/articles/-/116547

長期金利が上昇しはじめるとすれば、それは、日銀がこの政策フレームを変更し、10年物国債金利の誘導水準を上昇させるとの思惑が市場内に浮上したときだ。2018年以降は、インフレ率が1%を超えて、2%台に向かって上昇していくと予想される。そうなってくると、日本銀行も長期金利のゼロ誘導政策を縮小し、ある程度の金利上昇を容認するだろう。

ただし当面は、株高・円安が起きても2016年末と同様の、きわめて低い金利水準が保たれると予想される。また、日銀が長期金利をコントロールできる以上、家計や企業経営を過度に圧迫するような急速な上昇は回避される。たとえ住宅ローン金利が上昇するとしても、ごく緩やかなものにとどまるだろう。

特定層に「大人気」の国債暴落論だが…

多くの人が「金利上昇」というときに考えるのが、いわゆる国債暴落による急激な金利上昇だろう。国債暴落論は、一部の論者がメディアで長年にわたり警鐘を鳴らしていることもあり、一定層の固定ファンを持つ「人気コンテンツ」になっているような感がある。

私が一般の方向けに講演の機会をいただく際にも、最後には決まってこの種の質問を頂戴する。とくに、老後のために多くの金融資産を保有している方ほど、「財政破綻」「国債暴落」「円急落」といったテーマの本や記事を読んで、この危機シナリオをたくさん勉強されており、あれこれと真剣に心配されている印象だ。

これらの議論の根本にあるのは、財政状況に対する懸念である。たしかに、日本の財政赤字や公的債務残高が膨らんでいることは事実だ。私が普段接している金融関係者たちのなかにも、「国債暴落? そんな可能性はまずないよ!!などと言いながらも、心のどこかでは不安を抱いている人がけっこう多い。とはいえ、彼らも明確なロジックを持っているわけではなく、いろいろな場面で各方面から危機シナリオを何度も聞かされるうちに、「いまは大丈夫だが…いつかはひょっとすると、ひょっとするかもしれないな……」と感じているに過ぎない。

「日本はすでに財政破綻寸前の状態にあり、今後、国による国債償還(返済)が滞ったりすれば、国債価格が大暴落、急激な金利上昇が起きる可能性がある」というのがその大枠のストーリーである。

さらに、日銀が大量に国債を買い入れる「異次元の金融緩和」がはじまって以来は、「これ以上の金融緩和を続けていると、突然、急激な金利上昇・円安・インフレ加速などが訪れる。すると、ハイパーインフレによって預金が紙くず同然になり、金融機関が預金封鎖を行うため、私たち日本人は資産を失って路頭に迷う」というシナリオが一部でコアな人気を保っているようだ。

金融緩和したほうが、財政赤字は減る

ただ、プロの投資家たちと普段議論している私からすれば、やはり国債暴落論はあまりにもナイーブであり説得力に乏しい。真っ当な経済予測をせずに、「起こる可能性がきわめて低い危機シナリオ」ばかりをエコノミストらが強調するのは、そのほうがメディア受けがよく、露出を確保できるからに過ぎない。

メディアでは、「中央銀行が金融緩和によって国債購入を拡大すると、それが財政規律を損ない、財政赤字を拡大させ、金利上昇をもたらす」といった通説がまかり通っている。しかしこれは、金融緩和の本質を見ていない議論だ。

金融緩和によって経済を成長させ、税収を増やすほうが、財政収支は改善するつまり、歳出を減らすのではなく、歳入を増やす発想が必要なのだ。先進各国では、金融緩和を徹底することで財政赤字を減らしてきたという実証データもある。


日本の税収と財政赤字の推移
上図を見ればわかるとおり、日本の財政収支は、名目GDPで規定される税収と連動している。つまり、日本で1990年代から財政赤字が拡大した主たる要因は、日銀によるデフレ放置という失政にあるのだ。

ところで、「金融緩和に効果はない。インフレ率を高めることなどできない」といつも主張している論者たちが、他方では「金融緩和を続けていると、ある日突然、極度のインフレが起こる」と煽り立てるのは、ひどく矛盾しているように思えないだろうか?

これは「そんなことをいくらやっても、この岩石を動かすことはできない。ただ、もしも転がり出せば誰にも止められない」という奇妙なロジックであり、金融岩石理論どと呼ばれている。

日本のデフレ放置の根幹には、この金融岩石理論が一種のドグマとして横たわっている。これを検証した書籍『アベノミクスは進化する―金融岩石理論を問う』(中央経済社)のなかで、私は「金融緩和が財政赤字拡大をもたらす」という主張に対する徹底的な批判を行っているので、そちらも参照されたい。

不動産のアベノミクス相場、再来は?

持ち家やマンションをどのタイミングでどれくらいの価格で購入するかは、個人の人生設計上、大きなイベントである。日本銀行の政策フレームワークを踏まえると、景気回復が続きインフレ率が上昇しても、長期金利はきわめてゆっくりとしか上昇しないとお伝えしたが、低金利のうちに住宅購入検討したい人もいるかもしれない。

また、インフレ期待が高まるなかで、一部では「サラリーマン大家さんブーム」が再燃し、不動産投資はじめる人も増えている。物件の追加購入を検討するにしても、ある時点での売却を考えるにしても、不動産価格の動向が気になる人も多いのではないだろうか?

アベノミクスが発動した2013年以降、株価上昇に遅れるかたちで、不動産価格の上昇が続き、それが経済メディアを賑わしていた。とはいえ、価格上昇が見られたのは、東京・大阪などの都市部・商業地の地価、そしてマンション価格などに限られる。住宅を含めた全国の地価(基準地価7月1日時点)は、2013年から2016年までずっと対前年比でマイナス、つまりわずかながら下落が続いているのが実情なのだ。

一方、都市と地方とでは地価の状況はまったく異なり、東京圏の住宅地の地価は2014年以降、3年連続で上昇している。とはいえ、各年の上昇率はいずれも0.5%程度に過ぎず、この住宅価格上昇を支えているのは、投資対象となっているハイスペック・マンションなどの高額物件である。株高などによって拡大した家計や企業の金融資産が、これらの物件に流入しているということだ。

そのため、2015年夏場をピークに日本の株式市場で下落局面が続くと、不動産市況にも陰りが見えはじめた。さらに、タワーマンション高層階の購入による抜け穴的節税策について、税務当局が対応措置を講じると、一部でミニブーム的に活況を呈してきた不動産価格も2016年に入ってピークアウトした。

「上昇要因あり」の不動産、注意点は?

では、もう不動産価格の押し上げ要因がないのかというと、そんなことはない。2017年からはじまった円安・株高によって経済成長率が高まり、同時に低い金利水準が維持されれば、当然ながら不動産市況は持ち直すろう。

また、小池百合子東京都知事の就任後、設備やインフラへの投資に対する見直しが進んでいるものの、2020年東京オリンピックに向けて、首都圏の不動産関連投資需要は増え続けるはずだ。さらに、安倍政権が2016年から拡張的な財政政策に転じたため、公共投資が再び増えることにもなる。そのなかで、2011年の東日本大震災以降続いている、建設業での人手不足・資材不足の問題はますます鮮明になっていく。ヒトや材料の不足は建築コストの上昇を招き、当然、不動産価格を押し上げる要因になると予想される。

ただし、不動産市況は全国一律に動くわけではない。ブーム的に活況を呈するのはまずは首都圏の商業地であり、それが波及するとしても、大阪・名古屋などの地方都市の中心部までだ。今後、ある程度の住宅価格の上昇があったとしても、1980年代後半のバブル期のような状況は訪れないだろう。「これからは価格上昇が起こって住宅が安く買えなくなる」などのセールストークを真に受けて、持ち家やマンションを買い急ぐ必要はない私は考えている。

投資用物件についても同様だ。投資目的で取引されているワンルームマンションなどの多くは、すでに「サラリーマン大家さんブーム」で相当に価格が上昇している。収益の源泉となる家賃と比較しても、かなり割高な価格水準で取引されているケースがほとんどであり、セールスマンに騙されてうっかり高い物件をつかまされないよう注意したほうがいいだろう。

村上尚己(むらかみ・なおき)
アライアンス・バーンスタイン株式会社 マーケット・ストラテジスト。1971年生まれ、仙台市で育つ。1994年、東京大学経済学部を卒業後、第一生命保険に入社。その後、日本経済研究センターに出向し、エコノミストとしてのキャリアを歩みはじめる。第一生命経済研究所、BNPパリバ証券を経て、2003年よりゴールドマン・サックス証券シニア・エコノミスト。2008年よりマネックス証券チーフ・エコノミストとして活躍したのち、2014年より現職。独自の計量モデルを駆使した経済予測分析に基づき、投資家の視点で財政金融政策・金融市場の分析を行っている。
著書に『日本人はなぜ貧乏になったか?』(KADOKAWA)、『「円安大転換」後の日本経済』(光文社新書)などがあるほか、共著に『アベノミクスは進化する―金融岩石理論を問う』(中央経済社)がある。

http://diamond.jp/articles/-/116563


 
2017年3月30日 橘玲
コロンビア大学黒人名物教授が提言する
”「ドラッグの非犯罪化」による黒人の救済”
[橘玲の日々刻々]

 今回は名門コロンビア大学の名物教授カール・ハートの『ドラッグと分断社会アメリカ』(早川書房)を紹介したい。

 ハートがなぜ「名物」なのかというと、本人も認めるように、彼がアメリカの黒人のなかではきわめて数少ない心理学教授だからだ(同様に経済学の教授も少なく、数学や物理学などではもっと少ない)。

 そのうえハートはレゲエミュージシャン、ボブ・マーリーのような奇抜なドレッドヘアでテレビなどにも積極的に登場し、きわめて過激な主張をしている。それは「マリファナなどソフトドラッグだけでなく、コカインのようなハードドラッグも非犯罪化すべきだ」というものだ。

『ドラッグと分断社会アメリカ』はふたつのパートから構成されている。ひとつはフロリダの典型的な黒人居住区に育ち、バスケットボールとラップに夢中の10代を過ごしたハートが、友人たちが次々とギャングスターになっていくなかで、いかにしてアカデミズムで成功したかを回顧した半生記、もうひとつはハートの専門である神経精神薬理学の知見から「根拠に基づいた」薬物政策への提言だ。

 アメリカにおいては、子ども時代にどんなに賢くても黒人が社会的に成功することは容易ではない。そんななかでハートは、高校卒業後、軍隊に志願したことで大学入学資格を得、数々の差別に耐えて学問の世界に踏みとどまった。その体験は興味深いが、それは本をお読みいただくとして、ここではドラッグに対するハートの主張に焦点を当ててみたい。

喫煙により摂取できる「クラック・コカイン」

 ハートが本書で取り上げるドラッグは、日本ではあまり馴染みのない「クラック・コカイン」だ。これは化学式では「粉末コカイン(コカイン塩酸塩)から塩酸を除去したコカイン塩基だけの化合物」と説明される。

 粉末コカインとクラック・コカインは化学構造がほぼ同じで人体に対する効果も変わらないが、使用方法が大きく異なる。

 神経精神薬(ドラッグ)が効果を及ぼすためには、血管に注入された化学物質が脳に到達する必要がある。このとき、薬物が早く脳に到達するほど強い薬理作用が現われる。

 南米にはコカの葉を噛む風習があるが、こうして摂取された少量のコカインは小腸の壁を通って血流に入る(アルコールと同じく、満腹では薬物の吸収が遅れるので薬理作用が現われるのも遅くなる)。小腸から吸収されたコカインはその後、肝臓を通過することになるが、肝臓は口から入った毒物を解毒し脳を保護するための酵素を生産している。その効果でコカインが分解され薬理作用が大幅に弱められるのが「初回通過代謝」で、ドラッグユーザーはこの効果を知っていて薬物を錠剤やカプセルとして経口摂取することを好まない。

 一方、鼻から吸引されたコカインの粉末は肝臓を迂回することができる。アメリカ映画では粉末コカインを細かく砕いて鏡などの上に線(ライン)を引き、ストローなどで吸引する場面がよく出てくるが、これだと薬理作用を感じるまでに5分くらいしかかからない(口から摂取すると30分ほどかかる)。

 鼻からの吸引よりももっと効果が高いのは静脈注射で、血液中に注入されたコカインは心臓を通過してすぐさま脳に運ばれるためほぼ即座に精神高揚作用が現われる。だが静脈注射は心理的にハードルが高いし、汚染した注射器や減菌していない器具の使いまわしによってエイズなどに感染する恐れもある。

 それに対してコカインを喫煙できれば、血管を介して病気に感染する危険を避けつつ、静脈注射と同じくらい早く薬物を脳に到達させることができる。肺は表面積が大きいので、喫煙するとたくさんの血管によって薬物が血中からすばやく脳に運ばれるのだ。

 粉末コカインを喫煙できるまで過熱すると、分解して効果がなくなってしまう。だが塩酸を除去したクラック・コカインは気化する温度でも安定しており、喫煙によっても粉末コカインを注射したときと同じくらい効果的な作用が得られる。

 それまで粉末コカインは、ウォール街などの金持ちの白人(ヤッピー)の嗜好品とされ、黒人はほとんど手を出さなかった。だがマリファナと同じように喫煙できて効果の高いクラック・コカインは、ラップやヒップホップを通じて黒人の若者たちのあいだに急速に広まっていく。

 クラック・コカインが登場するのは1980年代はじめだが、当時は科学者もその薬理作用を正確に理解しておらず、新奇な薬物の蔓延を目の当たりにしてアメリカ社会はパニックに陥った。こうして「クラック・コカインの悪魔視」が始まったのだとハートはいう。

「クラック・コカインの悪魔視」

 1914年の『ニューヨーク・タイムズ』には、「コカイン『中毒』の黒人は南部の新たな脅威」と題された、医師が執筆した次のような記事が掲載されている。

 黒人のほとんどは貧しく、読み書きができず、怠惰である……いったん薬物の常用癖ができてしまったら、更生の見込みはない。黒人を薬物に近づけない唯一の方法は収監である。ただし、これは一時しのぎの策にすぎない。なぜなら、釈放された黒人は、かならずまた常用するからだ。

 [コカイン]はほかにも、「中毒者」をとくに危険な犯罪者に変えるいくつかの病的状態を生じる。このような病的状態のひとつが、ショックに対する一時的な免疫である。「強烈な一撃」、つまり致命傷に対する耐性ができるのだ。正気の人間は、弾丸が急所に当たったらその場で倒れるのに、「中毒者」は弾丸でも阻止できない。

 コカインは黒人を凶悪な「ゾンビ」に変えるのだから、中毒者を射殺するには威力のある弾丸が必要だと保安官たちは断言した。専門家たちは議会で「南部の白人女性に対する攻撃のほとんどは、コカインの乱用で異常な精神状態をきたした黒人による直接的な結果だ」と証言した。その結果1914年に、実質的に薬物を禁止する「ハリソン麻薬税法」が成立する。

 これと同じことが70年後に、今度はクラック・コカインで起こったのだとハートはいう。だがそこには、ひとつ大きなちがいがあった。1910年代は白人がコカインを使う黒人を悪魔視したが、1980年代は白人と黒人がともに、クラック・コカインを悪魔視したのだ。

 1986年6月、大学バスケットボールのスター選手レン・バイアスがクラック・コカインの喫煙によって死亡したと報じられると、集団ヒステリーはさらに激しくなった。だがこの22歳の選手は、じつが粉末コカインを使っていたことがわかった。

 同じ月に全米プロフットボールリーグ(NFL)クリーヴランド・ブラウンズのディフェンシブバックで23歳のドン・ロジャーズが死亡し、やはりコカインが原因とされた。2人の若いスポーツ選手が絶頂期にあいついで亡くなったことで、一般市民はコカインの影響は恐ろしいほど予測がつかないと思い込むようになった。

 黒人の公民権活動家ジェシー・ジャクソンは、バイアスの追悼演説で「われわれの文化は、娯楽や気晴らし、逃避のかたちとしての薬物を拒絶しなくてはなりません……クー・クラックス・クランのリンチよりも薬物のせいで多くの命が失われているのです」と語った。

 こうして黒人自身が、より多くの警官やより長期間の刑罰を求めはじめ、クラック・コカインを、わが子を手の施しようのない怪物に変貌させる元凶とみなすようになった。これが、クラック・コカインに対する厳罰化の始まりだ。

 1986年に制定された反薬物乱用法は、ハーレム出身の黒人でニューヨーク選出の下院議員の旗振りで成立したが、5グラムのクラック・コカインを密売したとして有罪判決を受けた者は最低でも5年間服役しなくてはならない。粉末コカインの売買では同等の期間の刑が申し渡されるのは500グラムで、量刑に100倍もの格差がある。

 この反薬物乱用法のもとで投獄されたのは、黒人が圧倒的に多かった。たとえば1992年にはその割合は91%、2006年には82%を占めている。

 クラック・コカインの影響が過大に報じられたことで黒人社会に恐怖が植えつけられ、黒人政治家の主導で厳罰化が進められた結果、多くの若い黒人が刑務所に送られることになった。皮肉なことに、黒人の若者を犯罪から守ろうとして、黒人コミュニティは崩壊の危機に瀕してしまったのだ。そしてこれは、本来であれば不要なことだったとハートはいう。なぜなら粉末コカインとクラック・コカインは、薬理学的な効果としてはまったく同じものなのだから。

「薬物依存は犯罪を増やす」という定説も疑わしい

 ドラッグ中毒(ジャンキー)で私たちが真っ先に思い浮かべるのは、脳の快楽中枢に電極を埋め込まれ、ドーパミンの放出を求めて食事もせずにひたすらレバーを押しつづけるラットだろう。だがこのあまりに有名な「快楽=ドーパミン仮説」は、科学的には正確とはいえないとハートはいう。

 まず、ドーパミンは心地よい状況でのみ放出されるのではなく、ストレスのたまる経験や、嫌な経験をしているときにも放出されることがわかった(電気ショックや、痛みや嫌な体験の前兆となる合図で動物にストレスを与えると、ドーパミンの濃度が上がる)。

 さらに、ドーパミンを遮断すると、動物はコカインなどの薬物の自己投与をやめるが、ヘロインはやめない。もしドーパミンが脳における唯一の快楽の源なら、ヘロインをはじめ快楽を産むどんな薬物の自己投与もやむはずだ。

 アンフェタミン(覚醒剤)の化学式をすこし変えるとメタンフェタミンになり、ドーパミンの放出を増やし活力を増進して注意力や集中力を高める効果があるが、この薬理作用はADHD(注意欠陥多動性障害)やナルコレプシーの治療薬として広く使われている。そして患者の大多数は、依存症にならない。――もしドーパミンの濃度上昇をともなう快感のみが依存症を引き起こすならば、「リタリン」などの商品名で処方されるメタンフェタミンを服用した患者がなぜ依存症にならないかを説明できない。脳の活動はきわめて複雑で、まだわかっていないことのほうが多いにもかかわらず、それを過度に単純化することで非科学的な誤解が広まるのだ。

 さらに、「薬物依存は犯罪を増やす」という定説も疑わしい。

 たしかに薬物依存と犯罪には関係があり、住居侵入や窃盗、強盗といった犯罪にかかわる者は、そのような罪を犯さないひとより薬物依存症である可能性が高い。しかし薬物依存者の半数はフルタイムで雇われており、多くの者が薬物に関連する罪をいちども犯さないことも統計的に確かめられている。

 アメリカ司法省司法統計局が受刑者における薬物と犯罪のつながりを1997年から2004年までのデータで分析したところ、薬物の影響下で罪を犯した者は3分の1にすぎず、薬物依存者もやはり3分の1程度だった(大半の受刑者は、罪を犯したときは素面だった)。薬物を買う金ほしさに犯行に及んだ者は受刑者のうち17%で、暴力的な犯罪者の方がそれ以外の者より多く、投獄される前の1カ月間に薬物を使った者は少なかった。

 またニューヨーク市で1988年に起きた2000件ちかいすべての殺人事件を調査したところ、逮捕者の76%でコカインの陽性反応が出たものの、殺人事件の約半数は薬物とまったく関連がないことが判明した。依存者がクラック・コカインを買おうとして殺人を犯したのはわずか2%で、犯行前に薬物を使った者が殺人を犯したのは1%にすぎなかった。

 これらのデータからハートは、薬物と暴力犯罪のほんとうのつながりは薬物取引で生み出される利益にあると考えた。1988年にニューヨーク市で起きた殺人の39%はたしかに薬物取引と関連があったが、ほとんどは薬物販売の縄張り争いや売人間の強盗によるものだったのだ。

 クラック・コカインが「非暴力的だった人間を凶暴な殺人者に変貌させる」という巷間に流布したイメージは、過剰な報道による恐怖が生み出した幻想なのだ。

「ドラッグに手を出したひとの多くは依存症にはらない」という仮説

 ここからハートは、さらに過激な方向へと議論を進める。「多くのひとは、コカインなどのハードドラッグを使用しても依存症になることはない」と主張するのだ。しかし、ドーパミンの快楽を得るために狂ったようにレバーを押しつづけるラットはどうなるのだろうか。

「それは、ラットをケージのなかの特殊な環境に置いているからだ」とハートはいう。人間に似てラットはきわめて社会的な動物なので、独りぼっちにされると強いストレスを受ける。こうした孤独な状態が、薬物研究で用いられるラットの「通常」の条件なのだ。

 では、ふつうに生活するラットは薬物に対してどのような反応を示すのだろうか。カナダの心理学者ブルース・アレクサンダーはこの疑問にこたえるために、ラットパークをつくってみた。そこには社会的接触や交尾の相手となるラットがたくさんおり、探索しがいのある場所や運動玩具、落ち着ける暗い場があり、モルヒネ入りの甘い水も置かれている。

 ラットパークのラットと通常の孤立したケージのラットを比較すると、孤立したラットはすぐにモルヒネ水を飲むことに没頭したが、ラットパークのラットははるかに少ない量しか飲まなかった。――条件によっては、孤立したラットは社会生活を送るラットの20倍もモルヒネ水を飲んだ。

 コカインやアンフェタミンについても同じような結果が出ているとしたうえでハートは、「社会的な接触や性的接触、快適な生活環境といった自然な報酬――「代替の強化刺激」――が手に入るばあい、健康な動物はたいてい代替の強化刺激を好む」という。動物でも人間でも、薬物ではない代替の強化刺激に手が届けば薬物使用が減る証拠がいまでは数多く得られているのだ(94%のラットが、コカインの静脈注射よりサッカリンで味をつけた甘い水を好んだ。アカゲザルを用いた実験では、コカインの代替報酬として提供される食べ物の量に応じてコカインを摂取する選択回数が減った)。

 しかし動物実験をどれほど繰り返しても、「ドラッグに手を出したひとの多くは依存症にはらない」という仮説を証明することはできない。そこでハートは、人間にドラッグを投与して、環境と依存症の関係を調べることを思いつく。しかし、こんな人体実験が許されるのだろうか。

 ハートはまず、ニューヨークの情報週刊紙『ヴィレッジ・ヴォイス』に広告を出してクラック・コカイン常習者を募集した。そのうえで彼らが、コカインと他の報酬(5ドルの現金引換券か商品引換券)を比較して、どのような条件でコカインを選択するかを調べた。

 参加者がコカインか引換券をもらうためには、パソコンのキーボードのスペースキーを200回押す必要があった。だがこのとき「ジャンキー」と呼ばれる彼らは、脳の「快楽中枢」に電極を埋め込まれたラットのように、コカインの誘惑のために狂ったようにスペースキーを叩きつづけるようなことはしなかった。

 ハートはこの実験結果を、おおよそ次のようにまとめている。

(1) 報酬としてのコカインの量が多いときは、薬物常用者はほとんどの場合、引換券よりもコカインを選択した。
(2) 報酬のコカインの量が少ないときは、薬物常用者はしばしば引換券を選択した。
(3) 引換券が商品ではなく現金の場合、コカインを選択した回数が平均で2回少なかった。

 この結果からハートは、人間の行動はおおかた、自分の環境のなかでどんな報酬を得るかによって決まり、薬物常用者も一般人と同様に、ごくふつうの生活環境ではドラッグとそれ以外のインセンティブを比較し合理的に選択していることを発見した。

 当然のことながら、この主張はアメリカで大きな論争を引き起こした。ドラッグの害は一般に思われているよりも軽微で、多くのひと(約9割)はドラッグを使っても依存症にならず、依存症になったとしても、他の強化刺激を与えるなどの心理療法によって治療可能だ(実験では、適切な介入を受けた被験者の68%が8週間にわたって薬物に手を出さなかった)というのだから。

「ドラッグの売買を罪に問わない」ことで黒人の若者が救われる

 ハートによれば、薬物依存のリスクがもっとも高い集団であるティーンエイジャーでも、クラック・コカインの使用者はこれまで5%以下にとどまっている(薬物を入手できる環境でも、95%の若者は手を出さない)。依存症になるリスクは、大人になってから薬物を使い出した場合よりも、青年期初期に使い出した場合の方がはるかに高いが、高校最上級生でもコカインを日常的に使う割合が0.2%を超えたことはない(ドラッグを経験した若者のうち、常用者になるのはわずかしかいない)。

 それにもかかわらず、「科学的には間違った前提にもとづいて」クラック・コカインに過剰な刑罰を課したために、ドラッグの密売を手がける黒人の若者が壊滅的な被害を被っている。

 アメリカのある大規模な研究では、1990年から2005年までにはじめて少年司法制度にかかわった10万人ちかいティーンエイジャーのうち、57%が黒人だった。男性が圧倒的に多く、平均年齢は15歳で、ほとんどは薬物がらみの犯罪か暴行の容疑で逮捕されていた。

 この研究によれば、初犯内容の凶悪さに関係なく、投獄されたティーンエイジャーのほうが、同種の犯罪をおかしても投獄されなかったティーンエイジャーよりも、大人になってからふたたび投獄される可能性が3倍あった。カナダの同様な大規模研究では、ティーンエイジャーのときに実刑判決を受けた者は、似たような罪を犯しても投獄されなかった者に比べて、大人になってから逮捕される可能性が37倍もあった。

 こうしてハートは、「問題を抱えたティーンエイジャーたちをまとめて、両親もそばにおらず、スポーツ界や学術界で成功することをめざす同世代の仲間もほとんどいない環境に隔離することは、彼らをさらに悪い犯罪行為に走らせる傾向がある」との結論に達した。「不良」の烙印を押されたうえ、犯罪行為にかかわることでしか男らしさやアイデンティティを確認できないと感じる仲間とつき合うことで、将来に犯罪を引き起こす危険性は大幅に増すのだ。

 こうした理不尽な事態に対して、冒頭に述べたように、ハートは「ドラッグの非犯罪化」を提言する。ドラッグの売買を罪に問うことがなくなれば、黒人の若者の多くが収監を免れ、人生を棒にふらなくてもよくなるし、社会にとっても将来の犯罪者が大幅に減るという利益を享受できるのだ。

 ハートの提言に納得できるかどうかは別にして、これがドラッグに対する旧来の常識を覆す興味深い指摘であることは間違いないだろう。もっとも、ドラッグ=悪という常識が固定化した社会でドラッグの非合法化を唱えれば、強い批判を浴びることも間違いない。

 だったらなぜハートは、有名大学の教授職にありながら、このような茨の道を歩むのだろうか。

 じつはハートは、15歳のときに16歳のガールフレンドを妊娠させている。ハートはそのことをまったく忘れていた(あるいは気づいていなかった)が、ハートが有名人になったことを知って、そのガールフレンドが父親の責任を問う訴訟を起こした。

 こうしてハートは、21歳になる「見知らぬ息子」と対面することになる。

 ぎこちない対面のあと、ハートは息子に「それで、なんの仕事をしてる?」と尋ねた。

「笑わせんなよ。知ってんだろ」と息子はいった。「薬を売ってんのさ」

橘 玲(たちばな あきら)

作家。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ヒット。著書に『日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル』『橘玲の中国私論』(ダイヤモンド社)『「言ってはいけない 残酷すぎる真実』(新潮新書)など。最新刊は、小説『ダブルマリッジ』(文藝春秋刊)。

●橘玲『世の中の仕組みと人生のデザイン』を毎週木曜日に配信中!(20日間無料体験中)
http://diamond.jp/articles/-/123100
http://www.asyura2.com/17/kokusai18/msg/794.html

[政治・選挙・NHK223] 築地も汚染あるでしょ 敷地全体に土壌汚染 築地健康に影響ない、小池知事 自民のネガティブキャンペーンは陰湿、築地女将の会
築地も汚染あるでしょ
豊洲は客観的に検討して安全と結論が出ているでしょうに。
http://ttakumattaku.hateblo.jp/entry/2017/03/31/105124


 
都PT座長、築地建て替え私案提示 豊洲移転案も作成へ
2017/3/29 23:19
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 築地市場の移転問題を検証する東京都の市場問題プロジェクトチーム(PT)が29日開かれ、小島敏郎座長(青山学院大学教授)が豊洲市場に移転せず築地市場を建て替える私案を提示した。PTは築地の建て替え案のほか、豊洲移転案もまとめて課題を整理する。

 建て替えの私案は設計に1年、工期に6年をかける内容で、工事費用は500億〜800億円と見積もっている。豊洲市場の地下水調査で飲み水の環境基準を超えるベンゼンなどが検出された。豊洲市場は開業後、多額の赤字が出るとの試算もあり、小島氏は移転に慎重な考えを示していた。

 豊洲への移転では赤字解消策として(1)市場業者の使用料の引き上げ(2)豊洲以外の卸売市場の順次閉鎖、土地の売却(3)都税の投入――を提示。PTは次回以降の会合で具体的に議論する。

 小池百合子知事は豊洲に移転するかどうかは明言していない。小島座長の私案は都議会自民党が豊洲移転の主張を強める中、巻き返しを狙った動きとの見方もできる。

 ただ私案の実現性については、都庁内から「工事費、工期とも見込みの範囲では済まない」との指摘が出ている。築地市場には戦後に進駐軍のクリーニング工場があり、都は土壌汚染の恐れがあるとみているが、今回の私案では対策工事に触れていない。

 築地市場の建て替えはかつて都が取り組んだものの実現しなかった経緯がある。1990年代に着工し、400億円を投じたが、営業中の工事に水産仲卸業者らが強く反発して頓挫している。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG29H6F_Z20C17A3CR8000/

 

【豊洲問題】築地も土壌汚染の恐れ 8工事で義務付け履歴調査怠る…他8市場20件前後の工事でも


築地市場=17日午後、東京都中央区築地(本社チャーターヘリから、桐原正道撮影)
 豊洲市場(東京都江東区)の移転問題をめぐり、築地市場(中央区)の敷地が土壌汚染されている可能性があるとの報告を都がまとめていたことが28日、都への取材で分かった。報告では、築地の敷地に戦後、ドライクリーニング工場が建てられ、有害物質を含む有機溶剤を大量に使ったとみられるため、土壌汚染の可能性があると指摘。都は今後、築地の土壌汚染の有無を調べるが、小池百合子都知事の移転判断にも影響を与えそうだ。

 平成13年10月施行の都環境確保条例では、3千平方メートル以上の敷地がある土地を改変する場合、土地利用の履歴を調査して届け出るとともに、汚染の恐れがある際は調査を義務付けている。築地では施行以降、条例対象の工事が8件行われたが、担当部局の中央卸売市場はすべての工事で履歴調査を怠っていた。

 都は今後、工事があった8地点の土壌調査を行う。築地とは別の都内8市場でも、20件前後の工事で履歴調査を怠った疑いがある。

 築地では仮設建築物35棟の使用許可を更新せず、違法状態で放置していることが判明したほか、耐震強度不足の建物が6棟あることも確認。市場当局の管理体制のずさんさが改めて浮き彫りとなった。

 都建設局は幹線道路の環状2号建設に向けて、築地市場の道路予定地の履歴を調査。ドライクリーニング工場で有機溶剤の「ソルベント」が大量使用された疑いがあり、その後も給油所や車両整備工場があったことが確認された。昨年3月に建設局から報告を受けた都環境局が、土壌汚染の可能性があると結論づけた。

 豊洲では地下水モニタリング調査で環境基準を超える有害物質のベンゼンなどを検出。築地の汚染可能性が指摘されたことで、移転判断に向けては今後、それぞれの安全性の比較が必要になるとみられる。

 小池氏は代表質問終了後、報道陣に「築地はコンクリートなどでカバーされ、基本的に汚染の問題は無いという認識。(モニタリング問題を抱える)豊洲と同じ観点で見るわけにはいかない」と述べた。
http://www.sankei.com/life/news/170228/lif1702280053-n1.html

 

築地「健康に影響ない」 小池知事、土壌汚染巡り答弁
2017年3月2日23時37分
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 東京都の築地市場で土壌汚染の可能性を都が指摘していた問題について、小池百合子知事は2日の都議会一般質問で「人の健康に影響を与えることはないと考えている」と述べた。

築地市場「敷地全体に土壌汚染の恐れ」 都が公表
特集:築地市場の豊洲移転問題
 自民の川松真一朗都議の質問に答えた。小池氏は「コンクリートやアスファルトで覆われており、土壌汚染対策法などの法令上の問題もない」とも述べた。

 一方、小池氏の見方について、自民会派内では「(汚染問題で揺れる)豊洲市場もコンクリートで覆われており、築地と同じだ」との議論があった。築地と豊洲の安全基準が異なるようにもとれ、高木啓幹事長は2日、報道陣に対し、「豊洲では(有害物質が検出された)地下水の使用は全く想定されていない。豊洲についても科学的知見をベースに判断するべきだ」と述べた。

 豊洲市場の安全性を検証している都の専門家会議の平田健正座長は、豊洲も築地と同じく、市場の敷地がコンクリートで覆われているなどの理由で「科学的には安全」としている。一方で、「科学的な安全と、人の心の安心は違う。(現状では)一般の消費者が納得してくれない面はある」とも認める。
http://www.asahi.com/articles/ASK3256Q4K32UTIL027.html

 

築地女将の会、自民のネガティブキャンペーンは陰湿
[2017年3月30日19時58分]
TL
会見で意見を述べる「築地女将の会」会長の山口タイさん(右端)(撮影・松尾幸之介)
会見で意見を述べる「築地女将の会」会長の山口タイさん(右端)(撮影・松尾幸之介)
 築地市場で働く女性46人で構成される「築地女将(おかみ)の会」は30日、都庁で会見を開き、同市場の豊洲移転を中止し、築地市場を再整備して継続使用していくことを要求した。

 山口タイ会長(74)らが出席。豊洲市場の安全性が確保されていないことを指摘し、築地市場の土壌汚染などを強調するような一部の意見に強く反発した。

 19日の「豊洲市場における土壌汚染対策等に関する専門家会議」の発表内容を受け、山口会長は「一部メディアで豊洲市場の安全が確保されたかのように報じられました、資料をよく精査すれば、それが限定された安全であることが分かります」と主張。「同会議が無条件に(豊洲市場の)安全を宣言したものではない」と訴えた。「築地市場の土壌も汚染されている」などという一部の指摘については、「憤慨している」と強調した。

 瀬古知佐子副会長(73)は「都議会最大勢力の自民党によるネガティブキャンペーンは執拗(しつよう)かつ陰湿で、これ以上看過できるものではない」と力を込めた。自民党が築地市場を訪れ、施設の破損箇所などを撮影していたことにも触れ、「あえてそういうところだけを写して、消費者に知らせている。明白な営業妨害」と反発した。

 山口会長は「こういうことを続けられると、いずれ商売にも差し支えが出てくる。これが世界に発信されたら恥ずかしい」と声を震わせた。同会は築地市場内の米軍クリーニング施設跡の土壌汚染や、老朽化などについては認めつつ、「汚染が心配される箇所は局所的で、法に基づいて処理・対策がされれば、問題が生じるとは思えない」と指摘。豊洲市場については「世界一の石炭ガス工場の跡地で、その汚染の濃度、規模からも、普通の土壌汚染ではない」と分析した。

 小池百合子東京都知事への期待を問われると、「ぜひ築地で再整備を行ってほしい。世界に誇る市場です。豊洲に行ったら、日本国民として恥ずかしい。皆さんも再整備を求める声を上げてほしい」と希望した。

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【社会】小池氏、ベンゼン基準値100倍「重く受け止める」[2017年3月19日]
http://www.nikkansports.com/general/nikkan/news/1800022.html
http://www.asyura2.com/17/senkyo223/msg/403.html

[経世済民120] なぜ日本人の給料は上がらないのか? 武田教授が暴露する巨大なウソ バブル景気、再開 日本の科学技術力凋落の理由、真犯人は
なぜ日本人の給料は上がらないのか? 武田教授が暴露する巨大なウソ
ライフ2017.03.30 703 by 武田邦彦『武田邦彦メールマガジン「テレビが伝えない真実」』
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「景気が上向かない限り、これ以上の給料アップは願うだけムダ」。このご時世、誰もがそんな風に考えてしまいがちです。しかし、メルマガ『武田邦彦メールマガジン「テレビが伝えない真実」』の著者で中部大学教授の武田先生は、「国や御用学者の嘘を見抜いた上で自分が決意さえすれば、給料は2倍にできる」との驚きの持論を展開しています。いったい私たちは、どんな「嘘」をつかれているというのでしょうか。

決意次第で給料を倍に上げる方法

1960年に池田勇人内閣総理大臣が国会で「所得を倍増する!」と叫んでいるのを見て、当時、学生だった筆者は「そんなこと、できるわけはない。口で言って給料が倍になるなんて、政治家も嘘つきだ」と思ったものでした。

でも、若き筆者は知識もなく、ただ感覚的にそう思っただけでした。事実、それからみるみるうちに日本人の所得はあがり、2倍どころか、1965年から1990年までの長い期間を取ると、実に8.8倍にもなっているのです。

当時は物価も給料もいまとは違う時代ですが、現代風に直すと、22万円の月給が200万円になるのですから、それはずいぶん違います。素晴らしいマンションに住み、車を持ち、好きにコーヒーが飲めるという生活になるでしょう。

そして、それは現代でも夢ではないのです。「自分の給料を2倍にするのは、自分の決意次第」というと奇妙に感じるでしょうが、本当のことなのです。このシリーズでは「わざと自分の給料を上げないようにしている日本人に、『決意さえすれば上がる』という具体的な方法」を示したいと思います。

給料を上げる手段は2段階に分かれます。まず第一段階では、

1.ダマしを見抜いてお金を返してもらう

ということで、その整理ができたら、

2.具体的に給料をあげるようにする

という第二段階に入ります。欺されている状態で給料を上げると、上げた分だけまたダマされて実質的にお金が増えないということになるからです。それでは、はじめます。

財務省や学者がついている「ウソ」とは?

財務省がウソをつけば同じようにウソをつく「御用学者」たち

10年ほど前、テレビで盛んに「子供にツケを回さない」という話がでてきました。その頃のテレビが言っていたのは、「景気が悪く税金が足りない。そこで国は国債を発行して税収の不足を補う」ということが原因で、その結果、「国の借金が1,000兆円にもなるので、国民一人あたり800万円ものツケが残る」と説明され、だから「子供にツケを残さないために、消費税を増税しなければならない」と言われました。

たしかに論理は通っているし、言う人が、財務省だったりNHKのアナウンサーだったりしたので、「それは大変だ。自分達が税金を払いたくないと言って借金し、それを子供たちにツケるわけにはいかない。少しぐらい消費税が増えても我慢しよう」と覚悟をしたのです。それに加えて、ヨーロッパの方で「ギリシャ危機」などが起こり、経済の専門家がテレビで「このまま行くと、日本もギリシャのように財政が破綻してしまう」と脅しました。

財務省、NHK、そして経済専門家の大合唱なのですから、「日本は借金国だ。子供が苦しむ」と考えてもおかしくはありません。まさか、それが消費税増税のための巨大なウソだったなどと考える方が変人だったのです。

でもこんなウソがネットの発達した日本で長く続くわけではないのです。まずは、「日本国」ではなく「日本政府」の借金を調べてみます。これからの説明はおよそ2015年ごろのもので、数字は財務省、日銀などが発表している公的な資料から出したもので、時には高橋洋一先生のような間違いの無い先生が国会などで発表している数値を使っています。

まず、「日本政府単独」の財産状態ですが、「持っているお金(資産)」が、金融関係で500兆円、土地などの固定資産が580兆円で、およそ1,080兆円の資産があります。家庭で言えば、貯金が500万円、土地が580万円というところです。これに対して借金は主として国債で、1,040兆円。差し引き、わずかですが40兆円ほど余っています。

家庭でも同じですが、貯金もあれば借金もあります。若い頃、住宅ローンを借りたときには「借金まみれ」になりますが、老後、家のローンも返したあとは貯金が優先するのも普通に経験することです。政府は大きいので、個人のように簡単に貯金を出したり借金を返したりはできないのですが、それでも実質的に大きな借金がなければ安定しています。

日本がギリシャのようにならない決定的な理由

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また、テレビの専門家がウソをついた一つに「ギリシャのようになる」ということですが、ギリシャの借金は「外国から借りたお金」でそれが返せなくなったのですが、日本政府(日本国ではなく)の借金は日本国民から借りているので、借金の質が違い、「国家が破綻する」こととはまったく無関係なのです。経済専門家はそれはよく知っているのですが、「御用学者」ですから、財務省がウソをつけば自分達もウソをつくという原理原則にそって発言していたのです。

このシリーズの第一の結論、「日本政府は資産と借金がバランスしていて、赤字ではない」ということと、「政府もNHKも経済専門家も平気でウソをつく」、ということです。これをもとに、最終的に私たち国民が豊かになる方法を探っていくことにします。

(次号につづく)

(続きはご登録の上、お楽しみください。初月無料です)

image by: Shutterstock.com

『武田邦彦メールマガジン「テレビが伝えない真実」』
著者/武田邦彦(記事一覧/メルマガ)
東京大学卒業後、旭化成に入社。同社にてウラン濃縮研究所長を勤め、芝浦工業大学工学部教授を経て現職に就任。現在、テレビ出演等で活躍。メルマガで、原発や環境問題を中心にテレビでは言えない“真実”を発信中。
http://www.mag2.com/p/news/244549/3

 

 

やはり日本の「バブル景気」は始まっている!2つのシグナル=児島康孝

2017年3月26日 ニュース

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国交省が発表した公示地価によると、商業地で最も高い銀座4丁目が前年比25.9%上昇の1平米=5050万円に。今の日本には、これ以外にも明らかな「バブルの兆し」が複数見られます。(『ニューヨーク1本勝負、きょうのニュースはコレ!』児島康孝)

押し目は絶好のチャンス。日本は明らかにバブル景気に向かっている

兆候(1)公示地価が商業地で2〜3割上昇も

商業地で最も高かったのは、銀座4丁目の「山野楽器銀座本店」です。前年比25.9%上昇の、1平方メートル=5050万円でした。

また、同じく商業地で価格3位の銀座2丁目「明治屋銀座ビル」も前年比28.9%上昇して、1平方メートル=3700万円。商業地の価格4位の銀座7丁目「ZARA」も27.1%上昇、1平方メートル=3660万円です。
※商業地の価格2位「銀座5丁目」は前年比なし、1平方メートル=4300万円。

こうした高価格の商業地で2割から3割近い上昇というのは、価格のボリュームを伴っていますから、本物です。

また、商業地の変動率だけでみますと、大阪の道頓堀1丁目「づぼらや」が41.3%上昇の1平方メートル=400万円。宗右衛門町46番の「CROESUS(クリサス)心斎橋」が35.1%上昇の1平方メートル=1290万円です。

このように、東京や大阪の商業地で、2割から3割以上の上昇があるということは、バブルの始まりを示しています。

一般庶民には、まだ波及していないが…

一般庶民にはまだバブル景気は波及しておらず、戦後最悪レベルの厳しい経済状態が続いています。ですが、日本経済の方向としては、バブル景気に向かっています。

※2016年参考記事「日本は、バブル景気へと向かう」
※2016年参考記事「日本は、バブル景気へと向かう2」
※2016年参考記事「暴落は、熱狂の中で起き、バブルは不安の中で起きる」

以前、上記のメルマガで書いた時は「本当かな?」と思われたと思いますが、商業地の2割、3割の上昇で、バブル景気は明らかになってきました。これは、超長期の景気サイクルが上昇転換しているためで、大きな経済クラッシュは今後30年程度はないでしょう。

※参考記事「超長期の景気循環、コンドラチェフサイクル」
※参考記事「大きな経済危機は、もう来ない」

誤解がないように補足しますと、超長期の景気が上昇していた1945年〜1990年の日本にも不況はありました。しかし、今後数十年の日本は、山一證券や長銀、日債銀がつぶれたり、リーマンショックがあったような大きな経済危機はないだろうという意味です(もちろん通常の不況期はあります)。

日本では、雇用の派遣労働化や企業の内部留保の問題で景気の上昇が遅れていますが、時間の経過とともに好況が訪れるでしょう。

Next: 兆候(2)あのラーメンの『一風堂』にもバブル景気のシグナルが


兆候(2)『一風堂』の初値2230円、
バブルといえば、新規上場株の初値が高額になるのが特徴です。
先日IPOしたラーメンの『一風堂』(力の源ホールディングス<3561>)は、マザーズ上場初日は買いが殺到して値がつかず、2日目に2230円で初値。公募・売り出し価格が600円なので、約3.7倍。これを単純化しますと、60万円が223万円になった、600万円が2230万円になった、ということです。
もちろん、保有する株式の数によって実際の具体的な金額は異なるわけですが、カネがカネを生みはじめているわけです。

力の源ホールディングス<3561> 15分足(SBI証券提供)
前述の「銀座一等地」は、さすがに売買単位が大きいですが、商業地の売買に比べて金額が小さめの株式売買でも、バブルの兆候がはっきりと現れているのです。
懸念(1)でも、アメリカ経済は大丈夫?
週末の市場は、アメリカでオバマケアの代替案が可決されるか否決されるかが、注目を集めていました。結果は、可決は厳しいとして採決見送りになりました。
オバマケアの代替案の見送り自体は、それほどアメリカの景気に影響はありません。しかし、トランプ政権が今後の景気対策でも難局を繰り返すのではないかと、ニュース報道では危惧されています。
とはいえ、景気対策では共和党も一致してくるでしょうから、景気対策ではあまり危惧する必要はないでしょう。
これまでは反トランプの国民が声を上げていましたが、あまり議会の抵抗が続くと、従来とは逆に、トランプ大統領に政策を進めてほしい国民が声を上げ始める可能性もあります。
アメリカについては、こうして、これから景気が上昇した後、2017年の終わりごろからは、景気が一時的に停滞するという景気サイクルにそった動きとなりそうです。
Next: 一方、日本は明らかにバブル景気に向かっている。直近の注目点は?

結論:日本は明らかにバブル景気に向かっている
日本は、明らかにバブル景気に向かっています。多くの国民にとっては、まだ恩恵はないのですが、銀座の商業地の地価上昇や、新規公開株の高い初値など、特徴ははっきり出ています。
これからは、1990年のバブル崩壊後にその先の不況がどうなるかまったくわからなかったように、景気上昇についても予想外の動きとなりそうです。
つまり、時間の経過とともに、考えられないくらい景気が良くなることがあり得るということです。
ただし、金融機関の貸し渋りが解消してマネーが行き渡るようになれば景気の上昇は早いのですが、まだ不動産取引以外はそうはなっていないので、時間はかかるでしょう。
これまでのデフレ不況があまりにも長かったので、金融機関の貸し渋りと非正規雇用の問題が長引いており、景気回復をなかなか実感できないわけですが、銀座の地価や新規公開株にみられるように、景気上昇のエネルギーとマネーのエネルギーは高まってきています。
マーケットも、短期的な上下の動きはあっても、長期的な景気サイクルの上昇を徐々に織り込んでゆくでしょう。
2017年の年央(6月ごろ)までの予想としては、為替は円高傾向。ドルの「ひっ迫感」が薄れ、ドル安となりやすいためです。株式は上下動。政局が絡むと、株式市場も、期的な振幅が大きくなる可能性はあります。
それでも、その後2017年の年央からは、為替は円安、株価も上昇となりそうです。
【関連】今のトランプラリーはきたる「超大型バブル相場」の前哨戦なのか?=藤井まり子
【関連】逆説の日本復活論。「トランプの関税」は我が国を再びバブルに導くか=児島康孝
【関連】「日本のホワイトカラーは生産性が低い」という都市伝説に騙されるな=児島康孝
http://www.mag2.com/p/money/162869/3 

 
世界に誇る「日本の科学技術力」はなぜ凋落したのか?真犯人
内閣官房参与 藤井聡
2017年3月30日ニュース
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記事提供:『三橋貴明の「新」経世済民新聞』2017年3月28日号より
※本記事のタイトル・本文見出し・太字はMONEY VOICE編集部によるものです
【関連】さらに貧困化する日本人。「エンゲル係数急騰」本当の理由=内閣官房参与 藤井聡
このままデフレが続けば、日本人のノーベル賞受賞者はゼロになる
資源の無い国は「科学技術力」が必要不可欠
資源大国は、その資源を外国に売るだけで暮らしていくことができます。しかし、日本の様な資源の無い国は、それだけでは暮らしていけません。
「海外に輸出」できるだけに十分な「付加価値」を、そして、「輸入品に負けないだけの財やサービスを作り出す」ために十分な「付加価値」を作り出す必要があります。つまり、「海外マーケットのシェアを取るための『付加価値』」のみならず、「日本国内マーケットのシェアを海外勢に奪われないための『付加価値』」を生み出すことが求められているのです。
そして、その「付加価値」を生み出すために必要不可欠なのが「科学技術力」です。「科学技術力」こそが、自動車産業や化学製品産業、家電産業やインフラ産業等の根幹にあり、それが、日本の産業競争力を向上させてきたのです。
わが国は間違いなく、この「科学技術力」については世界一流の水準を維持し続けてきました。下記の図は、各国の科学技術力を表す主要指標の1つである「論文数のシェア」の推移のグラフです。

主要国等における論文数シェアの推移
出典:文部科学省
http://d16tvlksr2me57.cloudfront.net/p/money/wp-content/uploads/2017/03/29210105/170330hujiisatoshi_1.gif

ご覧の様にわが国は80年代、着実に科学技術力を伸ばしていました。そして99年〜2000年ごろにピークを迎えます。この頃、全世界の論文の10%を、たった1億2千万人しかいない日本人が生み出していました。そしてそのシェアは世界2位の位置を占めていました。
しかし、それ以降右肩下がりに下がっていきます。そして、2008年時点でシェアは7%、ランキングも世界5位にまで下がっています。
さらに最新のデータによれば、2008年以降、その凋落に拍車がかかっているとのこと。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170323/k10010921091000.html
2015年次点の日本の論文数シェアは、ついにピーク時の半分である5%を下回る状況に至っています。
http://gigazine.net/news/20170327-japanese-research-decline/
Next: 日本の科学技術力を凋落させた「本当の真犯人」とは?

豊かな国しか科学技術力を進歩させられない
日本の科学技術力の凋落は目を覆うばかりのもの――ですが、この推移、どこかで目にした気がしませんか?
――そうです、「我が国のGDP(名目値)の推移のグラフ」です。
こちらは、GDPのシェアの推移。
http://ameblo.jp/gensinhedge/image-11232044725-11933752817.html
ご覧の様に、1995年をピークに、論文数の推移とよく似た形状で推移していることがわかります。
ちなみに、アメリカや中国の論文数シェアの推移も、このGDPシェア推移とよく似た形で推移しています。つまり、今日の科学技術力は、GDPが増えれば増え、減れば減るというプロセスで決まっているのです(なお、両者の間には、数年の時間遅れ(ラグ)があります。これは、一般に研究をやってから論文にまとまって出版されるまで、数年の時間を要するのが一般的だからです)。
また論文数シェアはGDPシェアに依存しているという実証的知見は、かねてから指摘されているものでもあります。つまり、豊かな国しか科学技術力を進歩させられないという次第。
http://www.asyura2.com/15/hasan101/msg/458.html
なぜそうなっているのかと言えば、現代の科学技術の発展には、「大規模な実験施設や研究組織が必要」だからです。オカネがある国では、いい施設が提供され、十分な報酬の下、多くの優秀な人材が研究界に投入されていき、科学技術も発展していく、という次第。
ただし、それに加えて、科学技術の発展には「それぞれの国の産業界で、その科学技術がどれだけ直接的に需要されているか?」ということが重要であることも主要な理由です。
日本では新しい技術が実業界で活用されない
実際、筆者が科学技術活動に従事している学術分野では、確かに90年代前半までは新しい技術開発は即座に実業界で活用されていく実感があったのですが、日本がデフレ化した90年代後半以降、実業界でそれが活用されるケースが極端に減っていきました。
例えば、「橋梁」の現場では今や、新しい技術開発の需要は低迷し、とにかく旧来型の工法で安く大量生産する風潮が支配的と聞き及んでいます。これでは日本の橋梁技術の進歩が停滞していくのも必然です。
さらには、世界各国の鉄道輸出競争で日本勢の敗北が目立つようになっていますが、それも日本で鉄道建設の現場が減ってきているのが大きな原因です。現場がなければ、技術は磨かれないのです。
筆者の学位研究であった「計量経済分析に基づく都市活動の需要予測技術」についても、90年代前半までは実務適用現場が国内にも多くありましたが、2000年代に入ってから全くと言っていいほど、新規技術が需要されなくなりました。つまり、デフレがあらゆる「技術の現場」を殺し、それを通して、「科学技術力の発展」が停滞していったのです。
しかも、デフレのために税収が減ったあおりを受けて、あらゆる研究現場で予算カットが横行しているにも関わらず、「質の高い成果をより多く生み出すべし」という要求が政府から突きつけられています。結果、ほとんどの大学・研究組織では今、「ポスト削減」と「改革」の嵐が吹き荒れています。そして、大学教員はこの「改革疲れ」のために、研究活動のための時間も予算も、そしてそのための情熱も失いかけているのが実態です――。
そしてこうした流れを受け、少なくとも筆者が関わる様々な「学会」では、2000年代頃から真理やさらなる技術を追究しようという活力が急速に低迷し、ニヒリズム(虚無主義)が蔓延していった様を鮮明に記憶しています。
ですから、今でこそ日本はノーベル賞をたくさん受賞していますが、これは全て過去の遺産。今のデフレが継続すれば、10年後、20年後には、それも見られなくなるのは明らかです。
そして、このまま日本の科学技術力が低迷していけば、日本の衰退は必定です。繰り返しますが、「資源の無い国日本」は、「付加価値」を生み出し続ける力が不可欠であり、その根幹に「科学技術力」がどうしても必要だからです。
Next: 日本のGDPが衰弱した原因は「デフレ」と「緊縮財政」思想だ

日本のGDPが衰弱した原因は「デフレ」と「緊縮財政」思想だ
そもそも、GDPがいま衰弱しているのは、「デフレ」が原因です。そして、その「デフレ」をいつまでも長引かせているのは、90年代後半から我が国政府を支配している「緊縮財政」思想です。そしてその具体的象徴が、支出カットと増税をもたらす「プライマリーバランス(PB)制約」です。
これらを総合的に踏まえれば、次のようなプロセスで、プライマリー・バランス制約に象徴される緊縮財政すなわち「PB緊縮財政」が、科学技術力の凋落と、それを通した「日本を衰弱」をもたらそうとしているのは火を見るより明らかです。
PB緊縮財政 → デフレによるGDPの凋落 → 科学技術力の凋落 → 日本のさらなる衰弱
我が国政府が、目先の論文数の減少に「あたふた」して、木を見て森を見ないままに付け焼き刃的な「改革」を進める愚を避け、マクロ経済も視野に納めた「大局」的な視座から適切な科学技術政策を展開されんことを、心から祈念したいと思います。
※追伸:「現代日本のあらゆる問題の根底に、デフレがある」――という真実にご関心の方は、是非、下記をご一読ください。
https://www.amazon.co.jp/dp/4794968248/
【関連】日本が「中国への技術提供」を今すぐやめるべき3つの理由=三橋貴明
【関連】日本をダメにする、「保護主義」を忌み嫌うパブロフの犬たち=内閣官房参与 藤井聡
【関連】「普通に暮らす」という戦い。日本はあと25年で後進国化する=内閣官房参与 藤井聡
http://www.mag2.com/p/money/164559/3

http://www.asyura2.com/17/hasan120/msg/623.html

[経世済民120] 自分の子や孫を「貧困層」に落とさないために私たちができること 学歴で年収は変わらない 影の支配者の死にほくそ笑むゴールド
 
自分の子や孫を「貧困層」に落とさないために私たちができること
山田健彦

2017年2月28日 ニュース

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教育水準と将来の収入には、高い相関関係があるとされます。自分の子どもや孫が経済的に困窮しないように、と願うのは人情でしょう。ただし、いま議論が活発化している「教育無償化」だけに頼っていては、片手落ちになるリスクがありそうです。(『資産1億円への道』山田健彦)

「我が子の生涯賃金」は何に左右されるのか。最重要の要素とは?

活発化する「教育無償化」をめぐる議論

誰しも自分の子どもや孫が健康でいられると同時に、経済的に困窮しないようにと願うのは世の常だと思います。

さて、教育水準と将来の収入には高い相関関係がある、というのが定説になっています。文部化科学省の調査でも、

両親の収入が高いほど4年制大学への進学率が高くなる
どのような学校段階に進んだかは、卒業後の就業状態や所得に影響を与える
とあります。

貧困により高校、大学、あるいは大学院へ進むことができないのは、本人にとってのみならず、国にとっても大きな損失です。このような社会的問題がクローズアップされて、教育費の無償化をめぐる議論が国会で活発になってきました。

【関連】安倍政権の命取りに?森友学園小学校の地下に眠る「最大のタブー」=近藤駿介

国会での議論がアテにならない理由

国会では教育無償化を実現するにあたって、憲法改正が必要/必要ナシなどの議論があり、かたや財源確保でも各党の主張はバラバラで、一致する点を見いだすのは容易ではなさそうです。

教育無償化は授業料などを免除する政策ですが、その範囲をめぐっては就学前の幼児教育から大学や大学院を含む高等教育までと幅広く、一口に無償化と言っても、その対象をどこで線引きするかによって国の財政負担額は大きく変わります。

現行憲法では「義務教育は無償」とする規定はありますが、就学前の教育や高等教育には何も言及していません。「改憲が必要」とする人たちは、政権が代わっても教育無償化が維持されるために改憲の必要性を主張しています。

必要な費用は、各党の見積もりベースで3.5兆円から5兆円と幅があります。その中で最も高い比率を占めるのが、大学や大学院などの高等教育にかかる負担額。文部科学省などによると、全国の大学や短大が学生から集めている年間授業料が約3兆1千億円に上り、無償化にはこの程度のお金がかかることになります。

安倍首相が1月の施政方針演説で意欲を示したのは、高等教育の無償化です。政府は来年度予算案に大学の給付型奨学金創設で70億円を盛り込みましたが、無償化実現には遠く及ばない金額です。

Next: 「大学の選択=高等教育は将来の賃金に影響しない」米経済学者の主張

将来の年収に影響するのは大学よりも父親?

一方では、反対論もあります。代表的なのは、「大学教育をすべて無料にするとか、返済不要の奨学金を広く用意すると、自分の学費と生活費を親から面倒を見てもらっている人は得をする。対して、家計を支えるために、大学なんぞにいっておれない人々に対しては増税などで負担増を強いるだけではないか」というものです。このように、社会制度が教育制度やその成果に与える影響を研究するのを「教育社会学」と呼ぶそうです。

もう1つ、メディアではほとんど報道されていませんが、「教育経済学」的見地からの議論もあります。慶応大学SFC(湘南藤沢キャンパス)の教育経済学者・中室牧子准教授の研究によると、「どの高校や大学にいっても、将来の年収に影響しない」「父親が勉強を見ると、子どもの学習時間は長くなる」そうです。
※参考:「じつは学歴で年収は変わらない」日本の教育を変えるエビデンス・ベーストとは? 中室牧子さんに聞く ? The Huffington Post

教育社会学と教育経済学の違いですが、中室准教授は「教育社会学は、教育格差や不平等に注目し、親の所得や子どもの学力との関係を分析します」「教育経済学では、子どもが自分で選べない“親”や“遺伝”などの影響を制御したうえで、子どもの学力を上げるために、私たちに何ができるのかを分析します」と言っています。

教育経済学の代表的な成果としては、米国プリンストン大学の経済学者らが「大学の選択は将来の賃金に影響しない」ことを明らかにしています。この結果を踏まえ、米国では高校の進路カウンセラーは生徒に「偏差値で大学を選ばずに、何をやりたいのかで選ぶことが大事だ」とアドバイスしているそうです。

生涯賃金に影響を与えるのは、5歳以下での教育かもしれない

どこの大学に行くのかで将来の収入に影響が出ないのなら、いったい何が影響を与えるのでしょうか。

アメリカでは、「5歳以下の教育や健康への投資が、生涯に渡って大きな影響を与える」という研究が多数報告されているとのことです。子どもや孫に、学習する習慣を身に着けさせることも大事です。

中室准教授の調査によれば、「親が勉強時間を決めて、子どもに守らせる」「親が勉強を見ている」と、子どもが自ら学習する習慣を身につけるそうです。調査では「父親が、机に座って勉強を見ている」場合に、もっとも学習時間が長くなる傾向が見られました。

また親ではなく、大人が子どもの勉強を見た場合でも、子どもの学習時間が増える結果が得られたとのことです。親や大人の行動によって、子どもの学習時間は変わるのですね。

また、中室准教授は「『親の学歴・収入が高いほうが、子どもの学力が高い』という相関関係を明らかにした研究成果とも照らし合わせると、下位層の子どもの保護者の学歴や収入は、高くないと考えられます。貧困の世代間連鎖は、深刻な社会問題です。これを断ち切るために、下位層の子どもたちの学力をどう上げていくかが重要です」と述べています。

どのようにすれば子どもたちの学力が伸びるのかを調べることなく、「教育の無償化」のみに焦点を当てている今の国会の議論には、ちょっと問題があるのではないでしょうか?

なお筆者のブログにも補足で、シカゴ大学のジェームズ・ヘックマン教授(2000年、ノーベル経済学賞受賞)の研究について載せています。

【関連】高等教育無償化の財源に?「教育国債」にひそむ日本の問題点=久保田博幸

【関連】さらに貧困化する日本人。「エンゲル係数急騰」本当の理由=内閣官房参与 藤井聡

【関連】春が来た!「国の教育ローン」を使いこなす11のポイント=新美昌也
http://www.mag2.com/p/money/34826



「じつは学歴で年収は変わらない」日本の教育を変えるエビデンス・ベーストとは? 中室牧子さんに聞く
The Huffington Post | 執筆者: 笹川かおり
メール
投稿日: 2014年06月07日 08時47分 JST 更新: 2016年09月13日 21時32分 JST NAKAMURO
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「どの高校や大学にいっても、将来の年収に影響しない」
「子供の学習時間は、父親が勉強を見ると長くなる」

これまでの常識を覆す、この研究結果を発表したのは、慶応大学SFC(湘南藤沢キャンパス)の教育経済学者・中室牧子准教授(写真)だ。

計量経済学を用いてデータを分析し、効果のある教育政策の実施を目指す、教育経済学。アメリカでは、“科学的な根拠”という意味をもつ「エビデンス・ベースト」(evidence based)を政策に反映するのは一般的だが、日本ではまだあまり馴染みがない。

今後ますます少子高齢化が進む日本。厳しい財政状況のなか、限られた予算で、子供たちに本当に効果のある教育政策を行うには、何が必要か。今回は中室さんに、日本の教育を変える教育経済学の可能性や、これまでの歩みを聞いた。

■データを分析して、最も効果的な教育政策を提案する「教育経済学」

これまで日本では「教育」と「経済」が同時に語られることは、ほとんどなかった。教育経済学とは何か。中室さんに聞いた。

「教育経済学とは、経済学的な理論と手法を用いて教育を分析・評価する応用経済学の一分野です。私の場合は、“インパクト評価”や“プログラム評価”など、データを用いた実証分析を行います。インパクト評価において政策的に重要な指標は、『費用対効果』と呼ばれるもので、1分の時間や1円のお金を投じた場合、どの政策がもっとも効果が高くなるかを明らかにするものです」

日本でよく知られている教育社会学との違いについて、中室さんは「教育社会学は、教育格差や不平等に注目し、親の所得や子供の学力との関係を分析したりしますが、教育経済学では、子供が自分で選べない“親”や“遺伝”などの影響を制御したうえで、子供の学力を上げるために、私たちに何ができるのかを分析します。科学的な根拠という意味をもつ『エビデンス・ベースト』の政策提案は、公教育へ貢献が期待できるのはもちろん、家庭での教育においても有意義な知見を提供できるのではないかと思っています」と語る。

■アメリカでは、科学的に検証された効果に教育予算をつける

データ分析は、ビジネスの世界では当たり前とされているが、日本の教育政策は、これまで個人的な経験をベースに議論されることが多かったという。

「財政・金融政策などを議論する場で、専門家以外の方が発言することは稀ですが、たとえば政府の諮問会議の議事録を読んでみると、教育政策の話題については、じつに様々なバックグラウンドの方が『私の経験では……』と発言されています」

「統計学者の西内啓(にしうち・ひろむ)さんが、ベストセラー『統計学は最強の学問である』の冒頭で、『教育という分野に関しては、まったくの素人といっていいほどの素人でも自分の意見を述べたがるという現象がしばしばおこる』と書かれていました」

中室さんは「もちろん、私も教員なので、現場での教育経験が大事なのは理解していますが、一方で、ひとりが体験できることは限られているのも事実です。経済学は、大規模なデータを分析することで、全体を捉えようとします。現場の知識を集めるのと同様に『どのような教育政策に、どの程度全体の平均を押し上げる効果があるのか(ないのか)』を見ていくことも必要だと思います」と、教育政策におけるエビデンス・ベーストの必要性を説く。

■「英語」「ICT」「奨学金」、日本の教育も検証が必要

中室さんによれば、アメリカでは教育委員会が教育経済学の専門家を雇用しているケースは少なくないという。アメリカでは、教育政策には科学的な検証が必要とされている。

「2002年、ブッシュ政権下で施行された『落ちこぼれ防止法』(No Child Left Behind Act)という法律によって、効果があることが科学的に立証されなければ、連邦予算をつけないという方針に転換されたんです。この法律には、『科学的な調査研究』(Scientifically Based Research)という言葉が、111回も使われていました」

これによってアメリカでは、教育政策の効果を測定するために大規模な社会実験が実施され、研究に基づいて「13?17人の少人数学級の生徒は、22〜25人と比較して学力が高い」といった政策の方向性が決定されている。

中室さんは「日本でも、少人数学級、1人1台タブレット端末教科書などのICT化、グローバル人材育成、奨学金の拡充、高校の無償化……など様々な政策が提案されており、それぞれに“やるべき論”がありますが、限られた予算や資源で、目標を達成するために、何が一番効果的かを見極めたほうがいいと思います」と語る。

「経済学の教えでは、経済では、すべてにおいてトレードオフの関係が成り立っています。小学校に英語の授業を導入すれば、その分、国語や算数の授業を減らさなくてはなりません。本来であれば、小学校で英語を導入すると本当に英語力が上昇するのか、国語や算数の学力は落ちないのか。そうした影響を検証したうえで、政策が議論されるべきだと思います」

■「じつは学歴は年収に影響しない」という研究結果

教育政策にエビデンス・ベーストを取り入れることで、日本の教育は大きく変わる可能性がある。中室さんが発表した「どの高校・大学にいっても、将来の年収は変わらない」という研究結果は、教育政策に様々な気づきを与えるものだ。実際の研究では、教育が賃金と学力に与える効果を推計するために、双子のデータを用いたという。

「よくアニメ『ドラえもん』を例にして説明しています。のび太くん、スネオ、ジャイアン、出木杉くんの4人がいるとします。このまま彼らが、中学、高校、大学と進学すると……出木杉くんは名門大学に進むんじゃないかと多くの人が予想すると思います」

「しかしそれは、もともと彼の持つ能力の高さによるものなのか、それとも彼がその後に辿った中学や高校での教育の効果なのか。これを識別するのは非常に難しいんです。教育の効果をはかるときには、出木杉くんが名門大学に行った場合と、出木杉くんのコピーロボットが、普通のレベルの大学に行った場合を比較して、ふたりの賃金を計測しないといけないのです」

「そこで、私たちの研究では、一卵性双生児のデータを使いました。一卵性双生児は、DNAのパターンも家庭環境も同じですから、双子の兄弟姉妹をコピーロボットのようにみなすことができます。そして、違う大学に進学した一卵性双生児の就職後の賃金の差を見てみました」

双子のふたりに賃金の差は、ほとんど見られなかったという。「同じ大卒であれば、どの大学に行っていても、その後の人生で得られた賃金に、ほとんど差はなかったんです。それならば、と教育段階を下げて、同じ設定で、高校の選択が学力に影響しているかを調べてみました。すると、同じ中学に通い、別の高校に通った一卵性双生児が合格した大学の偏差値にも、差はありませんでした」

調査を行った中室さんは、「大学や高校の選択は、世の中で思われているほど重要ではない可能性がある」と語る。

類似の研究として、アメリカでは、プリンストン大学の経済学者らが「大学の選択は将来の賃金に影響しない」ことを明らかにしている。この結果は、アメリカの教育関係者にもよく知られており、高校の進路カウンセラーが、生徒に『偏差値で大学を選ぶんじゃない。何をやりたいのかが大事だ』などとアドバイスしているという。

■アメリカの定説「5歳以下の教育が、生涯に影響を与える」

高校や大学が、将来の年収に影響しないという結果が出ている今、中室さんは幼児教育の重要性にも注目している。アメリカでは、『5歳以下の教育や健康への投資が、生涯に渡って大きな影響を与える』という研究が多数報告されているという。

厚生労働省が収集した約5万人のデータを用いた研究では、子供からテレビやゲームを取り上げたとしても、子供の学習時間は、ほんのわずかしか伸びないという調査結果が出たという。子供が自ら学習するようになるためには――中室さんの調査によれば、親が「勉強時間を決めて守らせている」「勉強を見ている」ことが重要だという。

「親のコミットメントを、父親と母親に分けて、『勉強したか確認している』『勉強を見ている』『勉強をする時間を決めて守らせている』『勉強するようにいう』の4類型に分けて、子供の学習時間への影響を見ました。すると両親が『勉強を見ている』『勉強する時間を決めて守らせている』場合、子どもの学習時間は長くなる傾向があったんです」

調査では「父親が、机に座って勉強を見ている」場合に、もっとも学習時間が長くなる傾向が見られた。逆に、母親が「勉強するようにいう」のは、子供が女子である場合に、学習時間を減少させた。また親ではなく、大人が子供の勉強を見た場合でも、子供の学習時間が増える結果が得られたという。親や大人の行動によって、子供の学習時間は変わるのだ。

date
(出展) Nakamuro et al (2013)

■国際学力テスト、学力水準の低い子供が増加する日本

世界65カ国・地域の15歳を対象に行われる国際学力テスト(PISA)。2003年や2006年に実施されたテストにおいて、日本の子供たちの学力水準の低下が顕著であることが確認されてから、様々な取り組みを経て今、子供の学習時間は徐々に増加しつつある。一方で、学力上位層と下位層の学力格差は拡大している。

「PISAの結果を見ると、レベル5といわれる学力上位の子供の層は厚いんです。ですが、レベル2、レベル1という学力下位の層も急速に増加してきています。下位層の増加が、全体の平均を押し下げているのです」

中室さんは、この学力下位層の子供たちの学力を上げることが、政策的な課題だという。「『親の学歴・収入が高いほうが、子供の学力が高い』という相関関係を明らかにした研究成果とも照らし合わせると、下位層の子供の保護者の学歴や収入は、高くないと考えられます。貧困の世代間連鎖は、深刻な社会問題です。これを断ち切るために、下位層の子供たちの学力をどう上げていくかが重要です」

エビデンス・ベーストの議論を進めることで、政策的な課題が明らかとなり、より効果的な教育政策を掘り下げることができる。日本で、学力下位層の子供の学力を上昇させるために、中室さんは、これから効果測定が必要としたうえで「放課後教室」などの補習授業に注目している。

「すでにいくつかの自治体で実施されている『放課後教室』です。学習塾などに委託し、公設民営方式をとっているところもあります。また、オンライン学習や映像授業の配信なども、家庭での学習のサポートとして有効かもしれません」

■検証に基づいた教育政策は、子供たちの世代間の不平等を防ぐ

アメリカでは、まず学校・自治体・州といった小さい単位で政策効果を検証し、効果が認められたものを徐々に全体に広げていくという。しかし中室さんは「日本では、アメリカのような広げ方は難しい」と指摘する。

「効果があることが確認された政策を全体に広げていくほうが、予算や資源の無駄遣いが少ないことは明らかです。しかし、教育の効果測定で一般にとられる手法は、いわゆる社会実験ですので、政策の対象になる人とならない人を比較する必要があります。日本では、このことが『教育上の不平等』だと受け止められて、教育関係者にとって著しく評判の悪い調査設計になるのです」

「ですが、世代『内』の不平等にこだわりすぎると、世代『間』の不平等を見過ごしてしまう恐れもあります。たとえば、ゆとり教育とそれ以降の世代をみれば、世代間で差が生じている可能性が高いといえます。日本では、最終年度の3月31日生まれと、その翌年度の4月2日生まれ……誕生日が数日違うだけで、教育制度が大きく異なるのです。しかし、受験や就職活動で、その前後の世代と競争することになるような状況は、不平等ではないのかという疑問が生じます」

今なお、ゆとり教育の影響については様々な議論があるが、定量的に説得力のある研究は多くはないという。この状況について、中室さんは「一番の問題は、全体を対象にした政策は、比較対象がなく、厳密な効果測定というのはきわめて困難なこと」だと語る。

「ある世代の子供たちが、すべてが犠牲になり、予算の膨大な無駄遣いが生じる可能性があります。やはり、効果のある教育政策を明らかにするためには、同じ世代の子供は、平等なければならないという考え方は、必ずしも正しくない」と、中室さんは語る。

「エビデンス・ベーストは、政策だけではなく教育現場でも応用することができます。現場の教員が、効果測定とセットにして、新しい教育を実践して、効果が確認されたものに予算や資源を配分し、学校の内外に広げていくアプローチがあってもいいと思います」

■「エビデンス・ベースト」で効果的な教育の実現を

最近では、中室さんのもとに、自治体や学校、学習塾などからも、効果測定の実施に協力を求める依頼が多く寄せられるようになったという。

公私を問わず、教育機関が教育の効果を測定し、その知見を蓄積していくことが、子供たちにとって効果的な教育の実現につながる。エビデンス・ベーストの教育政策は、日本の教育を変える大きな一歩になるだろう。

※初出時、統計学者の西内啓さんの名前のふりがなを誤って表記しておりました。お詫びして、訂正いたします。(2014/06/07 10:45)


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http://www.huffingtonpost.jp/2014/06/06/makiko-nakamuro-education_n_5457388.html

 

「影の支配者」D・ロックフェラーの死にほくそ笑むゴールドマンの戦略=斎藤満

2017年3月30日 ニュース

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先日101歳で亡くなったデイヴィッド・ロックフェラー氏は、表の世界で大富豪として活躍しただけでなく、実際には「影の支配者」と言われるほど、世界の政治経済に大きな影響力を持つ人物でした。今後、相対的にロックフェラーよりもロスチャイルドの影響力が高まると、さまざまな面で均衡が崩れ、変化が生じる可能性があります。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

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プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

デイヴィッド・ロックフェラー氏の死去で世界はどう変わるのか?

ロックフェラー家当主、101歳の大往生

世界の大富豪で、時に世界の影の支配者とも言われたデイヴィッド・ロックフェラー氏が3月20日、ニューヨークの自宅で亡くなったと報じられました。101歳でした。彼の死は世界に大きな衝撃を与えています。それだけ世界に大きな影響を持つ人物でした。

ロックフェラー家と言えば、ロンドンなど欧州拠点のロスチャイルド家と並んで、世界に大きな影響力を持つ家系です。

もともとはロスチャイルド家の大番頭をしていたといわれるロックフェラー家ですが、ジョン・ロックフェラー1世が石油を発掘し、スタンダード・オイル社を設立し、弟のウィリアムがナショナル・シティ銀行を設立してからロックフェラーが力を増し、いつしかロスチャイルド家と肩を並べる存在となりました。

亡くなったテイビッド・ロックフェラー氏は、このジョン・ロックフェラー1世の、ただひとりの生き残ったお孫さんで、ジョン・ロックフェラー2世の1女5男の兄弟の5男にあたります。この家系、長男がジョン・ロックフェラーを名乗り、テイビッドの長兄がジョン・ロックフェラー3世ですでに亡くなっており、その長男がジョン・ロックフェラー4世で、デイヴィッドの甥にあたります。

テイビッドの2番目のお兄さんにあたるネルソン・ロックフェラーはフォード大統領の下で副大統領を務め、すぐ上のお兄さん、ウインスロップ・ロックフェラーはアーカンソーの州知事をつとめ、甥のジョン・ロックフェラー4世(通称ジェイ)も上院議員を務めるなど、政界でも活躍しています。

経済界にも多大な影響力、ロックフェラー関連企業

また、それ以上にビジネス界での影響力が大きいのも特徴で、ロスチャイルド、モルガンとともに、世界3大財閥とも言われます。

先に挙げた石油のスタンダード・オイル社は今のエクソン・モービルなど、ナショナル・シティ銀行は今のシティ・グループにあたります。デイヴィッドはチェース・マンハッタン銀行の頭取を務めました。

シティやチェースなどの銀行の他、ボーイング、GMやクライスラー、GE、カーギルやモンサント、NBCテレビ、S&Pなどがロックフェラー関連の企業と言われています。

「影の支配」は陰謀論ではない

さて、今回101歳で亡くなったデイヴィッド・ロックフェラー氏は、表の世界で大富豪として活躍しただけでなく、実際には「世界の影の支配者」と言われるほど、世界の政治経済に大きな影響力を持つ人物でした。

一例をあげると、表に出ない影の組織として「ビルダーバーグ会議」というのがあります。これは戦後早い時期に、オランダのビルダーバーグで開催された秘密会議で、その後毎年秘密裏に会議が開催され、世界の政治経済にわたる重要事項が密かに決められていたと言います。

主要国の大統領、首相人事から、中国の人民元切り上げまで、この会議で決められていたとされますが、この会議に創設当初から参加していたのがデイヴィッド・ロックフェラーでした。他に欧州の王侯貴族、ロスチャイルドなどユダヤ系金融資本も参加し、影響力を行使していたようです。

そして近年は、デイヴィッド・ロックフェラーがこの会議の主役と目されていました。

ヒラリー・クリントン敗北の裏で

この秘密組織としてのビルダーバーグ会議、すなわちデイヴィッド・ロックフェラーは、米国の大統領選挙にも大きな力を発揮し、過去にはビル・クリントン、ジョージ・ブッシュ、バラク・オバマ大統領誕生にも、裏で大きな力を発揮したと言われます。

そのビルダーバーグ会議が、去年の大統領選挙ではヒラリー・クリントン候補を推していたと言われただけに、メディアもクリントン氏有利と見ていたのです。

ところがどっこい、実際には僅差ながら、トランプ氏が大統領に選出されたことから、影の支配勢力に何かがあったのではないか、との思惑も見られました。

ビルダーバーグ会議自体が2〜3年前にメディアに嗅ぎつけられ、ロックフェラー氏が会見するなど、秘密のヴェールがはがされてしまったこともありますが、デイヴィッド・ロックフェラー氏も少し前から車椅子姿を見せるようになっていたので、氏の影響力が落ちるような何かが起きたのでは、との思惑も広がっていたのです。

ロスチャイルドとともに、世界に最も大きな力を及ぼす「影の支配者」と見られていただけに、デイヴィッド・ロックフェラー亡き後の世界がどうなるのか、後継ぎが誰になるのか、一部では大きな関心事になっていました。

そこへデイヴィッドの死が報じられたので、いよいよその問題がクローズアップされてきました。

Next: 「ロックフェラーの死」をどう利用?トランプ、そしてゴールドマン

崩れゆく世界の均衡と秩序

ロックフェラー財閥の事実上のトップが亡くなったことで、財閥内の混乱、後継問題がささやかれていますが、これまでロックフェラーとロスチャイルドのパワーバランスで保たれていた均衡が崩れ、世界の秩序が崩れる懸念があります。

デイヴィッド・ロックフェラーの後継者としては、自身の息子さんのデイヴィッド・ロックフェラー・ジュニアもいますが、彼は音楽の道に興味があると言われ、ロックフェラー財閥のビジネスにはあまり関心がなさそうです。

むしろ、甥のジェイがジョン・ロックフェラー4世としての立場もあり、最も自然だと思いますが、生前、デイヴィッドとジェイは金融市場でしばしばぶつかり、険悪な関係とも指摘されました。一時経営が苦しかったシティ・グループを、甥のジェイ率いるゴールドマンが飲み込もうとしたために、叔父のデイヴィッドが激怒したと言います。

後継問題がすんなりいかないと、ロックフェラー・グループにはしばらく混乱が続き、グループの結束が弱まる懸念がまずあります。

トランプ氏、ロックフェラーのライバル・ロスチャイルドと接触か

同時に、相対的にロックフェラーよりもロスチャイルドの影響力が高まると、さまざまな面で均衡が崩れ、変化が生じる可能性があります。

例えば、トランプ政権の誕生ですが、デイヴィッド・ロックフェラーが健在であればなかったかもしれません。彼の死が3月20日に報じられましたが、実際にはもっと前に亡くなっていた可能性もあります。あるいは選挙に影響力を行使しうる状態ではなかったのかもしれません。

トランプ大統領は、IS(イスラム国)への攻撃を本格化するといい、そのためにロシアと協力すると言っています。

しかし、ISはもともとロックフェラー系のモンサント社の傘下の民間軍事会社によって訓練を受けたと言われ、オバマ政権下では、ISへの攻撃は手抜きとも見られる状況があり、しばしば武器が「誤って」IS側に回っていたことも知られています。ISへの攻撃には、事前に通告がなされたともされます。

そのISをトランプ大統領が攻撃することは、ある意味ではロックフェラー・グループに喧嘩を売るような行為とも見えますが、ロックフェラーがトランプ氏でなく、ヒラリー・クリントン氏を推していたことからすれば、わからなくもありません。

【関連】ロックフェラーに喧嘩を売るトランプ。2017年のパワーバランスはこう変わる=斎藤満

トランプ氏は選挙前に英国を訪れ、ロスチャイルドと接触していたとの情報もあります。トランプ大統領の誕生は、すでにロックフェラーよりもロスチャイルドの影響力が大きくなっていたことの表れととれなくもありません。

もっとも、ロックフェラーは大統領選後に、ロスチャイルドと和解を求め、トランプ陣営での影響力を持つようになったとの説もあります。

Next: 高まるゴールドマン・サックスの存在感。ロスチャイルド系企業が優勢に

ロスチャイルド系企業が優勢に

いずれにせよ、ロックフェラー・グループの体制立て直しが遅れると、産業界でもロスチャイルド系が勢力を強める可能性があります。

石油関連では、ロックフェラーのエクソン・モービルやシェール企業に対して、ロスチャイルドにはロイヤル・ダッチ・シェルやブリティッシュ・ペトロリアム(BP)があります。

金融はもともとロスチャイルドの支配産業で、欧州各国の中央銀行から、バークレイズ、香港上海銀行、ゴールドマン・サックス、メリルリンチ、ハリマン、ヴァンダービルトがロスチャイルド系であり、日本では三井銀行系が入ります。因みに、三菱銀行系はロックフェラー系に入ります。

軍事面では、ロスチャイルド系としては、ビッカース、アームストロング、ロッキード・マーチンが、メディアではロイター通信、ニューヨーク・タイムズ、ABC、CBSなどがあります。

高まるゴールドマン・サックスの存在感

金融市場では一時ロックフェラー系のシティ・グループが市場をリードし、利益を独り占めしていた時期がありますが、トランプ大統領の勝利あたりから、ロスチャイルド系であるゴールドマン・サックスの存在感が高まっています。

一例をあげると、大統領選挙の行なわれた昨年11月7日前後の市場の動きにこれが見られます。開票の途中経過が出始めたのは、すでに8日の東京市場が開いた時間です。当初2人の接戦が伝えられましたが、接戦州でトランプ勝利が伝わるたびに米国株の先物が大きく売られ、これを見て日本株もつれ安となりました。

ここで米株の先物を売っていたのがゴールドマン・サックスと言われます。トランプ氏が優勢と伝えられた時には、米国株の先物は800ドル以上の急落となっていました。日本株もつられ、一時1000円も下げています。

ところが、8日の東京市場が閉まるあたりから、米国株の先物が下げ止まり、今度は急ピッチで買い戻され、ニューヨーク市場が開くころにはむしろプラス圏に戻っていました。ここで先物を買い上げたのもゴールドマンと言われます。

その過程では、「トランプ大統領になれば、大型減税、インフラ投資、金融規制改革が期待できる」との宣伝をして買いを誘いました。

現在のトランプ政権には、財務長官など主要ポストにゴールドマン出身者が加わっていますが、すでに選挙結果が決まろうとするその瞬間にも、ゴールドマンが大きな存在感をもって市場を動かしていたわけです。

この時点で、市場の目はシティ・グループからゴールドマンに移りました。以後、市場をリードするのはゴールドマンと見られるようになりました。

デイヴィッドの生前は、その配下のシティ・グループとジェイが肩入れするロスチャイルド系のゴールドマンが主導権争いをする場面も見られましたが、デイヴィッド亡き後は、金融市場でのロスチャイルド系の影響が強まり、やはりロスチャイルドの影響力が強い各国中央銀行とゴールドマンの連携が予想されます。市場も、彼らから目が離せなくなるでしょう。
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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2017年3月30日)
※太字はMONEY VOICE編集部による

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http://www.mag2.com/p/money/164654/3
http://www.asyura2.com/17/hasan120/msg/624.html

[国際18] 黄昏の「パクス・アメリカーナ」ロックフェラー氏逝く ロックフェラー氏の死去で終わった陰謀論 遺した25の言葉 笑むGマン
黄昏の「パクス・アメリカーナ」 ロックフェラー氏逝く ニューヨーク駐在編集委員 松浦肇
2017.4.1 15:15
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 【複眼ジャーナル@NYC】

 忌み名を贈るなら、“ミスター・米国型資本主義”だろうか。先週、米国を代表する銀行家が逝った。富豪ロックフェラー家の三代目当主、デービッド・ロックフェラー氏。篤志家としても有名だった。

 デービッド氏の祖父ジョン・シニアは石油メジャー、スタンダード・オイルの創始者だ。一族の資産は最盛期で米国の国内総生産(GDP)の1割を占めたという。

 ロックフェラー家の資産を運用していた知り合いの紹介で、デービッド氏を取材したことがある。

 摩天楼を見下ろすロックフェラー・センターの事務所には、印象派の絵画が1メートルおきに飾ってあり、美術館に迷い込んだ気分になった。

 芸術を愛で、趣味はヨット。典型的な「大金持ちの子孫」だったが、確固たる信念の持ち主だった。

 1915年、ニューヨーク生まれ。取材当時のデービッド氏はかくしゃくたる老人で、真っ先に自由主義経済の効用を説き始めた。

 経済に行き詰まった国々で共産主義や全体主義が台頭した激動の時代に青春期を過ごした。その反動で、「『個人の自由』が前提になっている市場型経済の信奉者」になったそうだ。

 ハーバード大学で師事した経済学者シュンペーターに「最も影響を受けた」。シュンペーターが説く、「企業家のイノベーション(技術革新)」に資本主義の未来を託した。

 第二次世界大戦への従軍後、本格的に銀行家の道を歩む。米国最大の銀行である米JPモルガン・チェースの前身、チェース・マンハッタン銀行の経営トップに上り詰めた。

 「人材を有効に使う」ため、民間と政治の間を行き来する「回転ドア」や「民間外交」を支持した。デービッド氏にとって、政府と企業は「国力」という名のコインの裏表だ。

 世界各地で事業展開したチェース銀は「ドル本位制」、一族が所有した石油メジャーは米国の「エネルギー権益」を代弁した。ロックフェラー家は米政府と二人三脚で、米国を覇権国家に導いた。

 「昔ながらの米国の強みは?」。こんな質問に対して、デービッド氏が「エネルギーへのアクセス権」と答えたのが印象に残っている。

 金持ちは寄付、大国なら国際貢献。「競争に勝った強者の責任」として「社会還元」を挙げていた。ロックフェラー家は政治家を輩出し、デービッド氏は大学や美術館に寄付した。

 ニューヨークのシンクタンク、外交問題評議会(CFR)の壁には、鼻筋の通ったハンサムな男性の肖像画が掛けられている。デービッド氏だ。米外交の青写真を描くCFRはロックフェラー家の支援を受けて立ち上がり、同氏は最古参の会員だった。

 「グローバリゼーション(国際化)」と高貴な身分の義務である「ノブレス・オブリージュ」。デービッド氏は、米国の力と美徳を体現する人物だった。

 折しも、トランプ政権では米大手銀、ゴールドマン・サックス出身者が経済、スタンダード・オイルの後継企業、米エクソンモービルの前トップが外交の手綱をとっている。民間と政府の二人三脚は相変わらずだ。

 だが、政策の中身はデービッド氏の信念とは正反対である。今の米国は保護主義が台頭し、金持ちは格差拡大に目をつぶったままだ。デービッド氏の死去は「パクス・アメリカーナ」(米国による平和)の黄昏を象徴している。

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http://www.iza.ne.jp/kiji/world/news/170401/wor17040115150014-n2.html

 


 
ロックフェラー氏の死去で終わった「陰謀論」と「アメリカの時代」
国際2017.03.26 160 by 北野幸伯『ロシア政治経済ジャーナル』
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デイヴィッド・ロックフェラーという名前を聞いてピンときた人は、「陰謀論」について詳しいのではないでしょうか。というのも、「ロックフェラー氏は、世界を政治的、経済的に統合して世界統一政府を樹立しようとしている!」というのが陰謀論者の間では定説らしいのです。そのロックフェラー氏の死によって、世界はどう変わるのでしょうか。無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者で、世界情勢に詳しい北野幸伯さんが大胆に推察しています。

デイヴィッド・ロックフェラーの死

ご存知の方も多いと思いますが、デイヴィッド・ロックフェラーさんが3月20日、亡くなられたそうです。

デービッド・ロックフェラー氏が死去 101歳
産経新聞 3/21(火)1:08配信

米国の富豪ロックフェラー家の三代目当主で銀行家のデービッド・ロックフェラー氏が20日、米ニューヨークの自宅で死去した。101歳だった。死因は心不全。ロイター通信などが伝えた。
デイヴィッド・ロックフェラーさんというと、「陰謀論」の主人公ですね。

陰謀論にもいろいろありますが。秘密結社でいえばフリーメーソン、イルミナティ。一族でいえば、ロスチャイルド、ロックフェラー。しかし、ロスチャイルドの場合、あまり「具体名」は出てきません。漠然と「ロスチャイルド【家】が世界を支配している」などと言います。

一方、ロックフェラーの方は具体名が出てきます。そう、デイヴィッド・ロックフェラーが、「世界皇帝」である! と。

デイヴィッド・ロックフェラーが「一つの世界」を作ろうとしていたのは本当か?

デイヴィッド・ロックフェラーの経歴

デイヴィッド・ロックフェラーさん、どんな経歴なのでしょうか?

1915年6月12日生まれ。おじいさんは、スタンダード・オイル創業者で、「石油王」「世界一の金持ち」と言われたジョン・ロックフェラー。父親は、ジョン・ロックフェラー2世。デイヴィッドさんは、5男1女の末っ子でした。

1936年、ハーバード大学卒業。その後、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)で修士号を取得。さらに、シカゴ大学で経済学博士号を取得。

1946年、チェース・ナショナル銀行に就職。1969年〜1981年、チェース・マンハッタン銀行・最高経営責任者(チェース・マンハッタン銀行は1955年、バンク・オブ・マンハッタンとチェース・ナショナル銀行が合併して誕生した。現在は、JPモルガン・チェース銀行)。

デイヴィッド・ロックフェラーは、銀行マンだった時代、世界中に人脈を構築していきました。また、世界の政治に深く関わってきた。たとえば、アメリカでもっとも影響力があるといわれるシンクタンク「外交問題評議会」。1949年、史上最年少34歳で、理事に選出された。1970年〜1985年、議長。その後、名誉会長。

1973年、ブレジンスキーと共に「三極委員会」を創った。世界の超エリートが年に一回集結する「ビルダーバーグ会議」に初回(1954年)から参加していた。これらは、全然秘密でも陰謀論でもなく、デイヴィッド・ロックフェラー自身が『ロックフェラー回顧録』で書いていることです。

もちろん、自分で自分の本を書けば、「美しく書く」に決まっていますが、知らない事実が後から後から出てきて、とても面白いです。是非ともご一読下さい。

本当に興味深い本ですが、もっとも面白いのは、彼が「陰謀論者」への「反論」を書いている部分でしょう。引用してみます。

なかには、わたしたちがアメリカの国益に反する秘密結社に属していると信じる者さえいる。そういう手合いの説明によると、一族とわたしは「国際主義者」であり、世界中の仲間たちとともに、より統合的でグローバルな政治経済構造を、言うなれば、ひとつの世界を構築しようとたくらんでいるという。もし、それが罪であるならば、わたしは有罪であり、それを誇りに思う。
(『ロックフェラー回顧録』下巻)
デイヴィッド・ロックフェラーは、「『一つの世界』をつくろうとしてきたし、そのことを誇りに思っている」と。

ロックフェラーの死で、「アメリカの時代」も終わるのか

 
ロックフェラー陰謀論は下火になる

デイヴィッド・ロックフェラーさんが亡くなった。それで、これからは、「ロックフェラー家が世界を支配している」というような陰謀論は無くなっていくでしょう。

デイヴィッドさんが亡くなった後、ロックフェラー家でもっとも力があるのは、ジェイ・ロックフェラー(=ジョン・ロックフェラー4世)です。彼は、ウェストバージニア州の上院議員。ジェイ・ロックフェラーは、デイヴィッド・ロックフェラーのお兄さん(長男)の子供。とても影響力のある人ですが、「世界皇帝」と呼ばれたデイヴィッドさんほどの力はありません。

そして、ロックフェラー家は、「子だくさん」で、どんどん増えている。ジョン・ロックフェラー1世には5人子供がいた。デイヴィッドさんのお父さんジョン・ロックフェラー2世には、6人子供がいた。デイヴィッドさんにも、6人子供がいる。ジェイさんには、4人子供がいる。

子だくさんは、めでたいことですが、別の言葉で「パワーの源泉」である「資産」が「分散していく」ということでもあります。そして、これだけ増えると、「ロックフェラー家が一体化して○○プロジェクトを行う」ということが、難しい。

デイヴィッド・ロックフェラーと共に終わるのは…

デイヴィッド・ロックフェラーは、「回顧録」でこう書いています。

21世紀には、孤立主義者の居場所は存在しない。わたしたちはみな、国際主義者となる必要がある。
(同上)
ところが、デイヴィッドさんが亡くなった時、アメリカ大統領は、「孤立主義者」のトランプさん。デイヴィッドさん、部下のキッシンジャーをトランプさんに派遣して、トランプ大統領を「承認した」という話があります。

ホントかどうかわかりません。ホントだったとしても、「国際主義者」「グローバリスト」の彼がトランプを承認するのは、本意ではなかったことでしょう。

デイヴィッドさんは、「一つの世界」を目指し、奔走してきた。しかし、その人生の終わりに、祖国アメリカは、「ナショナリズム」「孤立主義」「保護貿易主義」の大統領を選んだ。どんな気持ちだったのでしょうか?

101年生き、「世界皇帝」とも呼ばれたデイヴィッド・ロックフェラーさんが亡くなりました。「一つの時代が彼と共に終わった」と言えるかもしれません。

彼と共に終わったのは……、アメリカの時代……?

image by: Steven Bostock / Shutterstock.com

『ロシア政治経済ジャーナル』
著者/北野幸伯(記事一覧/メルマガ)
日本のエリートがこっそり読んでいる秘伝の無料メルマガ。驚愕の予測的中率に、問合わせが殺到中。わけのわからない世界情勢を、世界一わかりやすく解説しています。

http://www.mag2.com/p/news/243954/3


 


最年長の大富豪ロックフェラーが遺した25の言葉、100年間に学んだ人生の教訓とは


Abram Brown , -
フォーブス共同編集者

デービッド・ロックフェラー・シニア (Slaven Vlasic / gettyimages)

人間は年を取るごとに知恵を得る──。3月20日に101歳で死去した米国の富豪、デービッド・ロックフェラー・シニアは100歳の誕生日を迎える前にフォーブスのインタビューに応え、人生において学んださまざまなことについて語った。自伝「ロックフェラー回顧録」に記されたものを含め、洞察力に優れた彼の25の言葉を紹介する。

1. 利益は事業にも人生にも重要 ─「利益」の魅力が雇用を創出し、富を生み出し、その他のいずれの社会的、経済的システムも成し得なかった方法で人々に力を与える。

2. 離婚と政治にはカネがかかる

3. 仕事を通じて作るのは金と友人

4. ボスは2人より1人がいい ─ 最高経営責任者を2人置く体制は機能しない。気まずい妥協の結果が方針に反映されるからだ。

5. 友人とビジネスを始めるのを迷うことはない ─ 一緒にビジネスをして最もうまくいくのは、相手との間に信頼関係と理解、忠誠心があるときだ。これらは、友人関係に欠かせないものでもある。

6. 資本主義は擁護すべき ─ 金を稼ぐことに罪悪感を持つべき人間などいない。

7. 資本主義に必要なのは政府と市場の協力 ─ 全ての問題を解決し、全ての病気を治すために政府と市場のどちらか一方だけに依存することは、現実的ではない。

8. オフィスの外に出ること ─ (チェース・マンハッタン)銀行の顧客に会うために私が訪れたのは50の州のうち42州。ビジネスのために誰かとした食事は約1万回(ニューヨークでの食事は除く)。取引先や顧客との会議は何千回にも上る。

9. できる限り遠くまで出かけること ─ 私が飛行機で移動した距離は、世界200周分。銀行で仕事をしていた35年間に、103か国を訪問した。

10. 腹立たしいことがあるなら、議員に手紙を書くこと ─ 誰でも議会や政府に自分の意見や懸念を伝えることができなければならない。

11. 名字が「扉を開く」こともある ─ 「ロックフェラー」の名が有利に働くこともある。私からの電話には、誰でも出てくれるようだ。

12. 反対に「閉じる」こともある ─ 一方で、人から疑われたり、皮肉を言われたりすることもある。自分の努力で何かを達成しても、「名前のおかげ」と言われることもある。
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13. 言いたい奴には言わせておけ ─ ほんのわずかでも「出る杭」になる人が、面の皮を厚くしておくことは非常に重要だ。

14. 父親になることが、新しい視点を与えてくれる

15. 家族を大切にする ─ 祖父とパートナーたちは、仕事の上では厳しくやり合うこともあった。だが、それは仕事上に限ってのことだった。

16. 家族のために行動する ─ (兄の)ネルソンの選挙運動に表立って協力することはあまりなかったが、時には一緒に人前に顔を出す義務も感じた。

17. (しかし、)一番驚かせてくれるのは家族だ ─ ネルソンと(二番目の妻となった)マーガレッタ・ハッピーの不倫関係を知ったときには、ショックを受けた。一番近くにいる者が最後まで気付かないというのは、よくあることだ。

18. 趣味を持つ

19. 良き師を見つける ─ 私が歴史に興味を持ち、ずっと関心を失わなかったのは、6年生のときの先生のおかげだ。

20. 人間は自分にないものに引かれる ─ 妻と一緒に過ごす時間は楽しかったが、私たちはそれぞれ異なる関心事を持ち、相手がそれに時間を費やすことを互いに認めてきた。それが、長く幸せな結婚生活を送るためのカギだったのだろう。

21. 分相応に暮らす ─ 簡単に借りられる金は投機に使うこともできるし、手を広げすぎることにもつながる。

22. 冒険心を大切にする ─ 兄のローレンスは、何でも一度は試してみるという考えの持ち主だった。新しいアイデアに対する兄の関心は決して衰えることがなく、ベンチャーキャピタリストとして大きな成功を収めた。

23. 外国について知る

24. 後悔せずに生きる ─ 祖父は後悔のため息をついたことがなかった。(違法だとして解散を命じられた石油トラストの)スタンダード・オイルも、社会に利益をもたらしたと確信していた。

25. 永遠に残るものを作る ─ ビジネスを通じて得ることができる喜びには、永続性と自分自身を超える価値の創出がある。
http://forbesjapan.com/articles/detail/15706/2/1/1

 

自分の子や孫を「貧困層」に落とさないために私たちができること 学歴で年収は変わらない 影の支配者の死にほくそ笑むゴールドマン
http://www.asyura2.com/17/hasan120/msg/624.html

http://www.asyura2.com/17/kokusai18/msg/804.html

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