EUはヒトラーやナポレオンと同じ、悲劇的結末も−前ロンドン市長
Craig Stirling
2016年5月16日 14:19 JST
ジョンソン氏は英紙サンデー・テレグラフとのインタビューで発言
欧州統合の企ては数千年にわたり広く繰り返されてきたと前市長
英国の欧州連合(EU)離脱推進派として知られるボリス・ジョンソン前ロンドン市長は、EUをヒトラーやナポレオンになぞらえ、欧州を統合しようとする試みは「悲劇的な」結末を迎えることが多いと批判した。
与党保守党の有力政治家であるジョンソン氏は15日付の英日曜紙サンデー・テレグラフとのインタビューで、「失われた黎明(れいめい)期、すなわちローマ帝国の下で平和と繁栄を謳歌(おうか)した黄金時代を取り戻すことを目指し、さまざまな人々や機関が『フロイト的』な強迫観念に駆られたように欧州を統合する企てを数千年にわたり広く繰り返してきた。それが歴史の真実だ。ナポレオンやヒトラーなどさまざまな人々がこれを試みたが、悲劇的な結果に終わった」と主張した。
キャメロン英首相は「欧州諸国間の将来の衝突を避ける必要」があるとしてEU残留を呼び掛ける演説を行ったが、これを批判したジョンソン氏が今度は持論を展開した。EUをナチス・ドイツと同一視するものではないと同氏は強調しているものの、EU離脱の賛否を問う6月23日の国民投票を控えて、議論が辛辣(しんらつ)さを増している状況が浮き彫りになった。
原題:Johnson Invokes Hitler as Brexit Debate Rhetoric Intensifies (1)(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2016-05-16/O795B16JIJUZ01
FX Forum | 2016年 05月 16日 08:07 JST 関連トピックス: トップニュース
伊勢志摩合意へ最大の難所はドイツ説得
唐鎌大輔みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト
[東京 13日] - 安倍晋三首相は、5月26―27日に控えた主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)に向け、欧州外遊を行い、各国首脳との会談を終えた。すでに報じられているように、世界経済の停滞に対し機動的な財政出動を手当てするという国際合意を形成すべく、その地ならしを兼ねた外遊だったとされる。
しかし、一部の国々とは足並みがそろわず、引き続き調整を要する模様だ。安倍首相が「G7(主要7カ国)には機動的な財政出動が求められている。サミットで一段と強いメッセージを出したい」と述べているように、伊勢志摩合意ではG7による財政出動に関し、前向きな意思表明を行うことが希求されている。
名目金利はマイナスになれないという非負制約が日欧で破られ、結果として導入されたマイナス金利政策はその副作用が多く語られるようになっている。このような状況下で、財政出動に期待がかかるのは必然の流れだ。安倍首相の求める方向感は適切なものと言えよう。金融緩和と財政出動のポリシーミックスがヘリコプターマネーとの連想を招きやすくなっている現状は気がかりだが、日欧の中央銀行が追い込まれている姿を見る限り、今後、金融政策だけで閉塞感が打破できるとはとても思えない。
もちろん、財政政策だけで主要各国の地力(潜在成長率)が押し上げられるとも思えず、それぞれの国の事情に応じた構造改革が不可欠であることは自明の前提だ。しかし、後述する貯蓄・投資(IS)バランスの議論でも言及するように、一部の国では財政出動が出し惜しみされ、本来使われるべきはずの資源が放置されているという非効率な状態にあるのも事実である。
<ドイツ説得なくして世界経済の霧は晴れない>
国際的な財政協調を目指す伊勢志摩合意を取り付けるにあたって、一番の難所は周知の通り、ドイツだ。報道によれば、5月4日に行われた日独首脳会談で、メルケル独首相は「私は決して(財政出動の)フロントランナーではない」と述べた上で、「構造改革、金融政策、財政出動の3つを一緒にやっていかなければならない」と財政出動への注力に関し、言質を与えることは避けた。
こうした財政出動へのけん制姿勢は英国も同様だったが、後述するようなドイツの置かれた現状や歴史的な経緯を踏まえれば、同国の健全財政への固執には違和感を覚える。
2月に上海で開かれた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議では財政出動を求める声明文が採択されたが、これにドイツが合意した背景には「難民関連支出によってドイツは結果的には財政出動している」との理屈が持ち出されたとされ、決して積極財政を約束したわけではない。
しかも、ショイブレ独財務相は難民関連支出を踏まえても「2015年に見込まれる黒字により、16年は新たな借り入れを行わなくて済む」(15年11月5日、ロイター)と述べていた経緯がある。結果的に大した支出にならずに済むと見据えているようだ。
伊勢志摩サミットにおいても「移民対策は財政出動」とのロジックが持ち出され、ドイツが積極財政を拒否する公算は大きい。「政策総動員」という言葉を使うことでメルケル首相の合意を取り付け、財政出動だけに照準が当たらないよう合意が軟着陸する可能性もある。しかし、それでは金融市場、ひいては世界経済を取り巻く不透明感を払拭(ふっしょく)するには至らないだろう。
<ドイツの貯蓄・投資バランスは異様>
少なくとも昨年末時点のISバランスを見る限り、ドイツ経済の置かれた状況は率直に言って異様だ。現状、ドイツの国内部門は政府も民間も基本的に貯蓄過剰であり、結果として海外部門は圧倒的な貯蓄不足(経常黒字)となっている。これは言い換えれば、国内需要の圧倒的乏しさを海外需要で埋め合わせることで景気が支えられている状況だ。
実際、ドイツだけではなくユーロ圏主要国のISバランスを見ると、多くは企業・家計の両部門が貯蓄過剰に陥っており、これがユーロ圏経済全体の傾向として根付いている感がある。しかし、ドイツ以外の加盟国は政府の消費・投資でこれを埋め合わせる必要性を認め始めており、安倍首相の外遊においても、フランスやイタリアといった国々が財政出動に賛意を示すなど、ドイツの主張と距離がある。
自国の貯蓄に手をつけることなく、外需だけで景気押し上げを図ろうとするドイツの政策運営はこれまでもユーロ圏内でしばしば問題になってきたが、いよいよ国際経済外交の舞台でも主要論点に持ち上がってきた格好だ。問題は徐々に、しかし確実に大きくなっているように思われる。言い換えれば、身内であるフランスやイタリアがいくら諭しても埒(らち)が明かないので、米国や日本といった部外者が説得にかかっているが、これをドイツが固辞し続けているのが現状と見受けられる。
<背景にある「永遠の割安通貨」問題>
ドイツがこれほど外需を取り込めている背景の1つに、周縁国の弱さを映じて安くなった通貨ユーロの存在があることは今さら言うまでもない。2年前のコラム「ユーロ圏の日本化が招く欧米貿易摩擦」でも議論したように、筆者は、このドイツにまつわる「永遠の割安通貨」問題がいつか必ず欧米貿易摩擦に発展すると警戒してきた。
4月下旬、米財務省が公表した為替政策報告書でドイツが「監視リスト」に含まれたことで、やはりその時がやってきたとの思いを禁じ得ない(同時に、なぜ日本が同一視されるのかは理解に苦しむ)。
重要なことは、こうした「永遠の割安通貨」問題について、ドイツが「問題」とは捉えず、全て「実力」であるかのように立ち回っていることだろう。ドイツは他のユーロ圏加盟国にも自国同様の振る舞いを求める傾向が強いが、あくまで「ドイツがドイツらしくいられるのは他の国がドイツではないから」という事実を今一度、自覚すべきだ。
2000年代前半、「欧州の病人」とまで揶揄されたドイツが復活した背景にシュレーダー元首相による労働規制改革があったことは有名だが、理由はそれだけではない。1999年に導入された「永遠の割安通貨」であるユーロと、「ユーロフォリア」とも呼ばれた楽観ムードの中で分不相応な低金利を享受し、バブルに沸いていた周縁国の旺盛な内需が折り重なったからこそ、ドイツは域内向けの輸出を拡大できたはずである。
そして、これが後のユーロ圏の経常収支不均衡(ドイツの経常黒字vs南欧の経常赤字)として2007―08年にピークを迎え、欧州債務危機を招いたのであり、それによる後遺症に苦しんでいるのが現在ということになる。こうした経緯を踏まえれば、やはり今のドイツの姿勢は独善的と見られても致し方ない面があろう。
筋論から言えば、今度は「永遠の割安通貨」で潤った財源を用いてドイツが自国の内需を刺激し、域内経済の浮揚に貢献することが期待されるはずであり、そうなって初めて共通通貨圏として完結するのではないか。文字通り、支え合いの構図である。この点、理想的にはユーロ共同債が再分配機能を果たすはずだが、その議論は当面、たな晒しとなりそうだ。
万が一、「ドイツ以外の国々」がドイツを模範とし、同国のようなISバランス(巨大な経常黒字)を目指した場合、何が起こるだろうか。その行き着くところは外需を奪い合う通貨戦争でしかないはずだ。伊勢志摩サミットはこうした事実をドイツに理解させる重要な節目になり得るものであり、その成功が世界経済の安定に資するだろう。
*唐鎌大輔氏は、みずほ銀行国際為替部のチーフマーケット・エコノミスト。日本貿易振興機構(ジェトロ)入構後、日本経済研究センター、ベルギーの欧州委員会経済金融総局への出向を経て、2008年10月より、みずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。欧州委員会出向時には、日本人唯一のエコノミストとしてEU経済見通しの作成などに携わった。2012年J-money第22回東京外国為替市場調査ファンダメンタルズ分析部門では1位、13年は2位。著書に「欧州リスク:日本化・円化・日銀化」(東洋経済新報社、2014年7月)
*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。
http://jp.reuters.com/article/column-forexforum-daisuke-karakama-idJPKCN0Y40QF?sp=true