地域の実情に合わせたCO2削減対策が必要だ。

 我々の日常生活(自動車の利用を除く)に伴って排出される家庭部門の二酸化炭素(CO2)は、ガスや灯油などの熱源の利用と電力の消費によって生じます。

 このCO2を削減するためのカギは我々の省エネ行動ですが、それ以外の要因でもCO2は減少します。例えば、人口の減少はエネルギー需要を減らし、CO2を減少させると考えられます。また、太陽光や風力などの再生可能エネルギーによって生じる電力を使えば、CO2は減少します。

 残念ながら日本の家庭部門のCO2は、京都議定書の削減基準年となった1990年以降、増加傾向にあります。一体、何が要因で増加傾向となっているのでしょうか。

家庭部門CO2に影響を与える要因

 日本は少子高齢化が進み、世帯あたりの人数が減る一方で、若者や高齢者を中心とする単身世帯が増加しています。こうした人口動態については、人口集中の著しい都市圏と人口流出に悩む地方の間で差異が生じています。

 また、2011年の東日本大震災を境にほぼすべての原子力発電所が稼働停止し、電源構成はその前後で大きく変わりました。2016年4月に電力小売事業は完全に自由化されましたが、いまだに電源構成は地域ごとの大手電力会社に依存しています。

 こうした地域ごとの人口動態や電源構成の差異は、家庭部門のCO2排出量の変化に影響します。また、地域による気候や慣習の違いもエネルギー利用形態に影響を及ぼします。こうした地域特性による差異を考慮した温暖化対策の議論は進展していません。

 本稿では、都道府県ごとにこれまでのCO2変化要因を解析し、特定された要因の特徴と、その結果に基づく今後望まれる方策についてご紹介します。

要因別寄与度の推計方法

 解析にあたり、1990年から2015年までの5年おきの都道府県別CO2排出量を、以下の6つの要因を表す項の積の式に分解しました。

(a)世帯数
(b)世帯主年齢の分布(例:県内の高齢世帯の割合の増加など)
(c)平均世帯人数
(d)1人あたり家庭内エネルギー消費量
(e)家庭内エネルギー種(例:灯油から都市ガスへの転換など)
(f)単位エネルギーあたりCO2排出量(CO2排出係数)(例:原子力発電所の稼働停止に伴う電源構成の変化など)

 そして、対数-平均ディビジア指数法(LMDI)を利用することで、2つの時点の間における各要因による排出変化の寄与度(%)を推計しました。

(a)〜(c)の項によって少子高齢化を含む人口動態の寄与を、(d)〜(e)の項によってエネルギー利用形態の寄与を、(f)の項によって電源構成の寄与を、それぞれ捉えています。各都道府県のCO2は都道府県別エネルギー消費統計を参照して算出し、エネルギー消費形態および人口動態の算定については同統計と全国消費実態調査、国勢調査を利用しました。

都道府県別CO2の変化要因の特定

 図1に、1990年と比較した家庭部門CO2排出変化(全国)の寄与度を要因別に定量した結果を示します。図1のように、4つの要因(「世帯数」「1人あたり家庭内エネルギー消費量」「家庭内エネルギー種」「単位エネルギーあたりCO2排出量」)は90年よりも寄与率を増加させており、残り2つの要因(「世帯主年齢の分布」「平均世帯人数」)は減少に転じさせています。

図1:1990年から2015年までの全国CO2排出変化の要因別寄与率(1990年比)
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 図2は、家庭部門CO2排出変化(都道府県別)の要因別寄与度を可視化したものです。全体的には図1の全国値の傾向に整合的ですが、各要因の影響力の大きさは都道府県によって異なり、さらに全国と傾向が一致していない結果も表れました。

 例えば、世帯数の変化による排出増加寄与は、いまだに出生率が高く特殊な人口動態を示す沖縄県を除くと、大きい順に滋賀県や埼玉県、千葉県、愛知県など、主に大都市圏やそのベッドタウンを擁する地域で高くなっています。

 一方で、主に若年から壮中年世帯に属する人口流出の著しい地域では、他の地域と比較して世帯主年齢の分布や平均世帯人数の変化による排出減少寄与が顕著に見られます。

 1人あたり家庭内エネルギー消費量の変化は、一部を除いて全て排出増加に寄与していたことが明らかとなりました。減少傾向を示していたのは神奈川県、山梨県、東京都、兵庫県、大阪府、沖縄県、広島県、栃木県の8都府県だけで、これらは1人あたりのエネルギー消費量を減少させることに成功していたことが伺えます。

 家庭内のエネルギー種の変化については、プロパンガスや灯油の使用頻度の減少に呼応して進行してきた近年の電化の影響を反映しています。

 最後に、排出係数(単位エネルギーあたりCO2排出量)の変化は全ての都道府県で排出増加要因となっており、これは原子力発電所の稼働停止に伴う火力発電の稼働増による影響と考えられます。

図2:1990年から2015年までの都道府県別CO2排出変化の要因別寄与率(1990年比)
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都道府県ごとの温暖化目標の差異

 日本政府は家庭部門のCO2に関して、パリ協定目標*1の国内目標値(2030年度に2013年度比26%の削減)より厳しい同年度比39.4%の削減を目指しています。もし全ての都道府県で平等にこの39.4%という目標を達成すると仮定した場合、都道府県ごとに必要な省エネルギーレベルはどれほど違いがあるのでしょうか。

 ここでは、上でご紹介した要因分解に基づき、(d)以外の要因に対応する都道府県別の人口動態*2とCO2排出係数*3の将来値*4を利用することで、この問題を考えてみます。

 図3は、3つの異なる電源構成のケースごとに、2030年に各都道府県で必要となる1人あたりエネルギー消費量の削減率を表します。図中の緑の線(outlook case)は、2030年に政府の試算どおり22〜24%の再生可能エネルギーが導入された電源構成下における削減率を示しています。また、丸(2010 case)とひし形(2015 case)はそれぞれ、仮に電源構成が2010年時および2015年時と同じであった場合に必要となる削減率を表しています。

図3:2030年のパリ協定に基づく排出削減目標に到達するために必要となる、都道府県別の1人あたり家庭エネルギー消費量変化の削減率(2015年比)
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 例えば、緑線が横軸より下にある(0%未満)の都道府県においては、2030年に現状(2015年)と同じ1人あたりエネルギー消費量の水準であっても、2015年からの少子高齢化に伴う世帯・人口減少や排出係数の改善により、家庭部門CO2の削減目標値に到達できることを意味します。

 しかしながら、図中の愛知県から奈良県までの24都道府県については、線が横軸より上にあります(0%以上)。すなわち、これらの都道府県では、将来の電源構成の改善と少子高齢化の進行を見込んでも、現状からさらに1人あたりエネルギー消費量を削減しなければ、目標の達成が困難であることが示唆される結果となりました。

今後の温暖化対策に向けて

 こうした厳しい状況を打開するためには、次のような地域ごとの選択と集中による温暖化緩和策を講じていくことが重要であると考えられます。

 今後の人口流出による排出減少が予想されるものの、1人あたりエネルギー消費量の変化が排出増加に寄与する多くの地域では、LED照明やエネルギー効率の良い家電製品への買い替えを後押しする政策が効果的でしょう。

 都市圏と比較すると高齢の世帯が多く平均賃金も低めの地方においては、エコポイントのような補助金や、東京都が実施している家庭におけるLED交換促進イベントなどを活用し、省エネ製品の普及を促進することも有効でしょう。

 これに対し、1人あたりエネルギー消費量の変化が排出減少に寄与している地域では、機器の買い替え促進以上の省エネ政策が求められます。例えば、ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)のような、住居自体の省エネおよび創エネ設備を優先的に導入することがより効果的であると考えられます。

 こうした方策を支える隠れた、しかし重要な点は、我々一人ひとりが今以上に温暖化対策に自ら参加していくことです。そのために、各地方行政は、人々の温暖化対策や経済的なインセンティブの仕組みの理解を助け、行動を喚起する大きな役割を担っていると考えられます。

 今後ますます地方行政のイニシアチブが高まり、地域特性に基づく温暖化対策が実施されることが期待されます。

*1:2015年パリで開かれた国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)において合意された、2020年以降の気候変動に向けた国際的な枠組み。
*2:国立社会保障・人口問題研究所による日本の地域別将来推計人口および世帯数将来推計データ (都道府県別) に基づく。
*3:経済産業省による平成27年長期エネルギー需給見通しの電源構成に基づく。
*4:データの制約上、2030年度の削減目標値を2030年と読み替え、この年に対応する各将来値を利用。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53904
http://www.asyura2.com/16/eg3/msg/154.html